まず、本発明の液晶表示装置が有する各構成要素の基本的な機能を説明する。
本発明の液晶表示装置において、垂直配向型の液晶層を挟持するように配置された一対の基板のうちの一方の基板は、それぞれの絵素領域内に、それぞれが電圧印加状態において放射状傾斜配向状態(軸対称配向とも言う。)をとる複数の液晶ドメインを形成するように配向規制力を発現する第1配向規制構造を有し、且つ、他方の基板は、複数の液晶ドメインの少なくとも1つの液晶ドメインに対応する領域に、液晶分子を少なくとも電圧印加状態において放射状傾斜配向させる配向規制力を発現する第2配向規制構造を有している。従って、少なくとも電圧印加状態において、第1配向規制構造と第2配向規制構造とによる配向規制力が液晶分子に作用するので、第1配向規制構造のみを有する構成よりも、液晶層に形成される液晶ドメインの放射状傾斜配向が安定する。
本発明の液晶表示装置が有する好適な第1配向規制構造は、絵素領域の液晶層に電圧を印加する一対の電極の内の一方の電極構造によって構成されている。一方の電極は、複数の単位中実部を有し、一対の電極間に電圧が印加されたときに、複数の単位中実部の周辺に斜め電界を生成することによって、複数の単位中実部に対応する領域に、複数の液晶ドメインを形成する。すなわち、一対の電極間に電圧を印加したときに、一方の電極の周辺に斜め電界を生成し、放射状傾斜配向をとる複数の液晶ドメインを形成するように、一方の電極の外形が規定されている。
なお、電極の内で導電膜が存在する部分を中実部と称し、中実部の内で1つの液晶ドメインを形成する電界を発生する部分を「単位中実部」と称する。中実部は、典型的には、連続した導電膜から形成されている。
複数の単位中実部のそれぞれの形状は、回転対称性を有する構成とすることが好ましい。単位中実部の形状が回転対称性を有すると、形成される液晶ドメインの放射状傾斜配向も回転対称性を有する配向、すなわち軸対称配向となり、視野角特性が向上する。
本発明の液晶表示装置が有する他の好適な第1配向規制構造は、絵素領域の液晶層に電圧を印加する一対の電極の内の一方が少なくとも1つの開口部(電極の内で導電膜が存在しない部分)と中実部(電極の内で開口部以外の部分、導電膜が存在する部分)とを有する電極構造である。中実部は典型的には、上記の単位中実部を含む。一方の電極に開口部を設けることによって、1つの絵素領域により、2次元的に配列された単位中実部(例えば4つ)を形成することができるので、電極に開口部を形成することなく、電極の外形を所定の形状に規定することによって単位中実部(例えば2つ)を形成するよりも、多くの液晶ドメインを形成することが可能になる。
なお、後述するように、放射状傾斜配向をとる液晶ドメインを電極の開口部に対応する領域にも形成するように、開口部を形成することができるが、必ずしもこのようにする必要はない。中実部(単位中実部)に対応して放射状傾斜配向をとる液晶ドメインが形成されれば、開口部に対応して形成される液晶ドメインが放射状傾斜配向をとらなくとも、絵素領域内の液晶分子の配向の連続性は得られるので、中実部に対応して形成される液晶ドメインの放射状傾斜配向は安定する。特に、開口部の面積が小さい場合には、表示に対する寄与も少ないので、開口部に対応する領域に放射状傾斜配向をとる液晶ドメインが形成されなくても、表示品位の低下は問題にならない。
液晶層は電圧無印加状態において垂直配向状態をとり、且つ、電圧印加状態においては、電極の開口部のエッジ部に生成される斜め電界によって、放射状傾斜配向状態をとる複数の液晶ドメインを形成する。垂直配向型液晶層は、電圧無印加状態で基板面に対して液晶分子が実質的に垂直に配向する液晶層であり、典型的には、負の誘電異方性を有する液晶材料からなり、その両側に設けられた垂直配向膜によって配向規制されている。
上記一対の電極に電圧を印加すると垂直配向型液晶に斜め電界が生成され、この斜め電界によって形成される液晶ドメインは、電極の開口部および中実部に対応する領域に形成される。これらの液晶ドメインの配向状態が電圧に応じて変化することによって表示を行う。それぞれの液晶ドメインは放射状傾斜配向(軸対称配向)をとるので、表示品位の視角依存性が小さく、広視角特性を有する。
さらに、開口部に形成される液晶ドメインおよび中実部に形成される液晶ドメインは、開口部のエッジ部に生成される斜め電界によって形成されるので、これらは互いに隣接して交互に形成され、且つ、隣接する液晶ドメイン間の液晶分子の配向は本質的に連続である。従って、開口部に形成される液晶ドメインと中実部に形成される液晶ドメインとの間にはディスクリネーションラインは生成されず、それによる表示品位の低下もなく、液晶分子の配向の安定性も高い。
上記の電極構造を採用すると、電極の中実部に対応する領域だけでなく、開口部に対応する領域にも、液晶分子が放射状傾斜配向をとるので、上述した従来の液晶表示装置に比べ、液晶分子の配向の連続性が高く、安定した配向状態が実現され、ざらつきのない均一な表示が得られる。特に、良好な応答特性(速い応答速度)を実現するために、液晶分子の配向を制御するための斜め電界を多くの液晶分子に作用させる必要があり、そのためには、開口部(エッジ部)を多く形成する必要がある。本発明の液晶表示装置においては開口部に対応して、安定な放射状傾斜配向を有する液晶ドメインが形成されるので、応答特性を改善するために開口部を多く形成しても、それに伴う表示品位の低下(ざらつきの発生)を抑制することができる。
複数の開口部の少なくとも一部の開口部が、実質的に、等しい形状で等しい大きさを有し、回転対称性を有するように配置された少なくとも1つの単位格子を形成する構成とすることによって、単位格子を単位として、複数の液晶ドメインを高い対称性で配置することができるので、表示品位の視角依存性を向上することができる。さらに、絵素領域の全体を単位格子に分割することによって、絵素領域の全体に亘って、液晶層の配向を安定化することができる。例えば、それぞれの開口部の中心が、正方格子を形成するように、開口部を配列する。なお、1つの絵素領域が、例えば補助容量配線のように不透明な構成要素のよって分割される場合には、表示に寄与する領域毎に単位格子を配置すればよい。
複数の開口部の少なくとも一部の開口部(典型的には単位格子を形成する開口部)のそれぞれの形状を回転対称性を有する形状とすることによって、開口部に形成される液晶ドメインの放射状傾斜配向の安定性を高めることができる。例えば、それぞれの開口部の形状(基板法線方向から見たときの形状)を円形や正多角形(例えば正方形)とする。なお、絵素の形状(縦横比)等に応じて、回転対称性を有しない形状(例えば楕円)等の形状としてもよい。また、開口部に実質的に包囲される中実部の領域(「単位中実部」)の形状が回転対称性を有することによって、中実部に形成される液晶ドメインの放射状傾斜配向の安定性を高めることができる。例えば、開口部を正方格子状に配置する場合、開口部の形状を略星形や十字形などとし、中実部の形状を略円形や略正方形等の形状としてもよい。勿論、開口部および開口部によって実質的に包囲される中実部の形状をともに略正方形としてもよい。
電極の開口部に形成される液晶ドメインの放射状傾斜配向を安定化させるためには、開口部に形成される液晶ドメインは略円形であることが好ましい。逆にいうと、開口部に形成される液晶ドメインが略円形となるように、開口部の形状を設計すればよい。
勿論、電極の中実部に形成される液晶ドメインの放射状傾斜配向を安定化させるためには、開口部によって実質的に包囲される中実部の領域は略円形であることが好ましい。連続した導電膜から形成される中実部に形成される或る1つの液晶ドメインは、複数の開口部によって実質的に包囲される中実部の領域(単位中実部)に対応して形成される。従って、この中実部の領域(単位中実部)の形状が略円形となるように、開口部の形状およびその配置を決めればよい。
上述したいずれの場合においても、絵素領域のそれぞれにおいて、電極に形成される開口部の面積の合計が、中実部の面積より小さいことが好ましい。中実部の面積が大きいほど、電極によって生成される電界の影響を直接的に受ける液晶層の面積(基板法線方向から見たときの平面内に規定される)が大きくなるので、液晶層の電圧に対する光学特性(例えば透過率)が向上する。
開口部が略円形となる構成を採用するか、単位中実部が略円形となる構成を採用するかは、どちらの構成において、中実部の面積を大きくできるかによって決めることが好ましい。いずれの構成が好ましいかは、絵素のピッチに依存して適宜選択される。典型的には、ピッチが約25μmを超える場合、中実部が略円形となるように、開口部を形成することが好ましく、約25μm以下の場合には開口部を略円形とすることが好ましい。
上述した一対の電極のうちの一方に開口部を設けた電極構造では、開口部に対応する領域の液晶層に十分な電圧が印加されず、十分なリタデーション変化が得られないために、光の利用効率が低下するという問題が発生することがある。そこで、開口部を設けた電極の液晶層とは反対側に誘電体層を設け、この誘電体層を介して電極の開口部の少なくとも一部に対向するさらなる電極を設ける(2層構造電極)ことによって、開口部に対応する液晶層に十分な電圧を印加することができ、光の利用効率や応答特性を向上することができる。
上記の電極構造(すなわち第1配向規制構造)を一方の基板に設けただけでは、液晶層に応力が印加されて放射状傾斜配向が乱れると、乱れた配向状態が電界効果によって維持され、残像現象として視認されることがあるが、本願発明の液晶表示装置は、第1配向規制構造に加え、他方の基板に第2配向規制構造を有しており、少なくとも電圧印加状態においては、第1配向規制構造と第2配向規制構造とによる配向規制力が液晶ドメイン内の液晶分子に作用するので、第1配向規制構造のみを有する構成よりも、液晶ドメインの放射状傾斜配向が安定化され、応力による表示品位の低下が抑制される。
第2配向規制構造を、第1配向規制構造によって形成される放射状傾斜配向をとる液晶ドメインの中央付近に対応する領域に設けることによって、放射状傾斜配向の中心軸の位置を固定することができるので、放射状傾斜配向の応力に対する耐性が効果的に向上する。
第2配向規制構造による配向規制方向は、第1配向規制構造による放射状傾斜配向の方向と整合するように設定すると、配向の連続性および安定性が増し、表示品位および応答特性が向上する。
第2配向規制構造は、少なくとも電圧印加状態において配向規制力を発揮すれば配向を安定化する効果が得られるが、電圧無印加状態においても配向規制力を発揮する構成を採用すると、印加電圧の大きさに関わらず配向を安定化できる利点が得られる。但し、電圧無印加状態において液晶分子が基板面に対して実質的に垂直に配向する垂直配向型の液晶層を用いるので、電圧無印加状態においても配向規制力を発現する第2配向規制構造を用いると、表示品位の低下を伴うことになる。しかし、後述するように、第2配向規制構造の配向規制力は比較的弱くても効果を奏するので、絵素の大きさに比べて小さな構造でも十分に配向を安定化することが可能であり、電圧無印加時の表示品位の低下が実質的に問題にならないこともある。液晶表示装置の用途(例えば、外部から印加される応力の大き
さ)や電極の構成(第1配向規制構造による配向規制力の強さ)によっては、比較的強い配向規制力を発現する第2配向規制構造を設ける場合がある。このような場合には、第2配向規制構造による表示品位の低下を抑制するために、遮光層を設けてもよい。
また、第2配向規制構造による配向規制力は、第1配向規制構造によって形成される放射状傾斜配向をとる液晶ドメイン内の液晶分子にだけ及べば、液晶ドメインの放射状傾斜配向を安定化することができる。特に、第2配向規制構造を液晶ドメインの中央付近に対応する領域に設けると、放射状傾斜配向の中心軸の位置を固定する効果も得られる。第2配向規制構造は、第1配向規制構造による配向規制力よりも弱い配向規制力を発現するだけでよいので、種々の構造を用いて実現することができる。
第1配向規制構造として、上述した開口部を有する電極構造を採用すると、液晶ドメインは、開口部および中実部の両方に形成される。形成される液晶ドメインのそれぞれに対応して第2配向規制構造を設けることによって、全ての液晶ドメインの放射状傾斜配向を安定化することができるが、中実部に対応して形成される液晶ドメインに対してのみ第2配向規制構造を設けても、実用上十分な安定性(耐応力性)を得ることができる。
特に、電極の中実部に形成される放射状傾斜配向と整合するような配向規制力を発現する第2配向規制構造は、電極の開口部に形成される放射状傾斜配向と整合するような配向規制力を発現する第2配向規制構造よりも簡単なプロセスで形成することができるので、生産効率の観点から好ましい。また、このとき、第2配向規制構造を全ての中実部に対応して設けることが好ましいが、電極構造(開口部の数や配置)によっては、一部の中実部に対して設けるだけで、実用的な配向安定性が得られる場合もある。これは、本発明の液晶表示装置の液晶層に形成される放射状傾斜配向は本質的に連続しているからである。
また、応力に対する耐性を向上するために、液晶層の液晶分子に対して、上述の斜め電界による配向規制方向と同じ方向の配向規制力を有する側面を備えた凸部を電極の開口部の内側に設けてもよい。この凸部の基板の面内方向の断面形状は、開口部の形状と同じであり、上述した開口部の形状と同様に、回転対称性を有することが好ましい。ただし、凸部の側面の配向規制力によって配向が規制される液晶分子は電圧に対して応答し難い(電圧によるリタデーションの変化が小さい)ので、表示のコントラスト比を低下させる要因となる。従って、凸部の大きさ、高さや数は、表示品位を低下させないように設定することが好ましい。
本発明による液晶表示装置の第1配向規制構造として機能する電極構造のうち、上述した開口部を有する電極は、例えば、絵素領域毎にTFTなどのスイッチング素子を備えるアクティブマトリクス型液晶表示装置におけるスイッチング素子に接続された絵素電極であり、他方の電極は、複数の絵素電極に対向する少なくとも1つの対向電極である。このように、液晶層を介して互いに対向するように設けられる一対の電極の内の一方にだけ、開口部を設けるだけで、安定した放射状傾斜配向を実現することができる。すなわち、公知の製造方法において、導電膜を絵素電極の形状にパターニングする際に、所望の形状の開口部が所望の配置で形成されるように、フォトマスクを修正するだけで、第1配向規制構造を有する液晶表示装置を製造することができる。勿論、対向電極に複数の開口部を形
成してもよい。また、上述した2層構造電極も公知の方法で製造することができる。
また、本発明による液晶表示装置の第2配向規制構造は、例えば、対向基板の液晶層側に突き出た凸部であり、または、対向基板の液晶層側に設けられた水平配向性の表面を含む構成としてもよい。あるいは、第2配向規制構造は、対向電極に設けた開口部であってもよい。これらも公知の方法で製造することができる。
また、本発明による液晶表示装置は、垂直配向型の液晶層を挟持するように配置された一対の基板のうちの一方の基板が、それぞれの絵素領域内に複数の単位中実部と複数の開口部とを有する電極を有し、且つ、他方の基板が、複数の単位中実部および複数の開口部のうち、少なくとも1つの単位中実部に対応する領域に配向規制構造を有する構成を有してもよい。
上述した一方の基板が有する電極は、この電極と他方の基板が有する電極との間に電圧が印加されたときに、複数の単位中実部の周辺に斜め電界を形成することによって、複数の単位中実部に対応する領域に、それぞれが放射状傾斜配向状態をとる複数の液晶ドメインを形成する。勿論、この電極は、放射状傾斜配向状態をとる液晶ドメインを電極の開口部に対応する領域にも形成するように構成されていてもよい。上記の電極構造は、既に説明した第1配向規制構造と同様に機能する。上記の電極構造の好ましい構成については、第1配向規制構造の説明において述べた構成とほぼ同様である。例えば、複数の単位中実部のそれぞれの形状は、回転対称性を有することが好ましく、複数の単位中実部は絵素領域内で回転対称性を有するように配置されることが好ましい。
一方の基板に上記の構造の電極を有し、他方の基板に配向規制構造を有する液晶表示装置においては、少なくとも電圧印加状態においては、上記電極構造と配向規制構造とによる配向規制力が液晶ドメイン内の液晶分子に作用するので、液晶ドメインの放射状傾斜配向が安定化され、応力による表示品位の低下が抑制される。
上記配向規制構造は、既に説明した第2配向規制構造とほぼ同様に機能する。上記配向規制構造の好ましい構成については、第2配向規制構造の説明において述べた構成とほぼ同様である。例えば、配向規制構造を、上記電極の単位中実部や開口部に形成される放射状傾斜配向をとる液晶ドメインの中央付近に対応する領域に設けることによって、放射状傾斜配向の中心軸の位置を固定することができるので、放射状傾斜配向の応力に対する耐性が効果的に向上する。配向規制構造は、例えば、他方の基板の液晶層側に突き出た凸部であってもよいし、または、他方の基板の液晶層側に設けられた水平配向層を含む構成としてもよい。あるいは、配向規制構造は、他方の基板が有する電極に設けた開口部であってもよい。
以下、図面を参照しながら、本発明による実施形態の液晶表示装置を説明する。
(第1配向規制構造)
まず、本発明の液晶表示装置の好適な第1配向規制構造である電極構造とその作用とを説明する。
本発明による液晶表示装置は、優れた表示特性を有するので、アクティブマトリクス型液晶表示装置に好適に利用される。以下では、薄膜トランジスタ(TFT)を用いたアクティブマトリクス型液晶表示装置について、本発明の実施形態を説明する。本発明はこれに限られず、MIMを用いたアクティブマトリクス型液晶表示装置や単純マトリクス型液晶表示装置に適用することができる。また、以下では、透過型液晶表示装置を例に本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれに限られず、反射型液晶表示装置や、さらに、後述する透過反射両用型液晶表示装置に適用することができる。
なお、本願明細書においては、表示の最小単位である「絵素」に対応する液晶表示装置の領域を「絵素領域」と呼ぶ。カラー液晶表示装置においては、R,G,Bの「絵素」が1つの「画素」に対応する。絵素領域は、アクティブマトリクス型液晶表示装置においては、絵素電極と絵素電極と対向する対向電極とが絵素領域を規定する。また、単純マトリクス型液晶表示装置においては、ストライプ状に設けられる列電極と列電極と直交するように設けられる行電極とが互いに交差するそれぞれの領域が絵素領域を規定する。なお、ブラックマトリクスが設けられる構成においては、厳密には、表示すべき状態に応じて電圧が印加される領域のうち、ブラックマトリクスの開口部に対応する領域が絵素領域に対応することになる。
図1(a)および(b)を参照しながら、本発明による第1配向規制構造を備える液晶表示装置100の1つの絵素領域の構造を説明する。以下では、説明の簡単さのためにカラーフィルタやブラックマトリクスを省略する。また、以下の図面においては、液晶表示装置100の構成要素と実質的に同じ機能を有する構成要素を同じ参照符号で示し、その説明を省略する。図1(a)は基板法線方向から見た上面図であり、図1(b)は図1(a)中の1B−1B’線に沿った断面図に相当する。図1(b)は、液晶層に電圧を印加していない状態を示している。
液晶表示装置100は、アクティブマトリクス基板(以下「TFT基板」と呼ぶ。)100aと、対向基板(「カラーフィルタ基板」とも呼ぶ)100bと、TFT基板100aと対向基板100bとの間に設けられた液晶層30とを有している。液晶層30の液晶分子30aは、負の誘電率異方性を有し、TFT基板100aおよび対向基板100bの液晶層30側の表面に設けられた垂直配向層(不図示)によって、液晶層30に電圧が印加されていないとき、図1(b)に示したように、垂直配向膜の表面に対して垂直に配向する。このとき、液晶層30は垂直配向状態にあるという。但し、垂直配向状態にある液晶層30の液晶分子30aは、垂直配向膜の種類や液晶材料の種類によって、垂直配向膜の表面(基板の表面)の法線から若干傾斜することがある。一般に、垂直配向膜の表面に対して、液晶分子軸(「軸方位」とも言う。)が約85°以上の角度で配向した状態が垂直配向状態と呼ばれる。
液晶表示装置100のTFT基板100aは、透明基板(例えばガラス基板)11とその表面に形成された絵素電極14とを有している。対向基板100bは、透明基板(例えばガラス基板)21とその表面に形成された対向電極22とを有している。液晶層30を介して互いに対向するように配置された絵素電極14と対向電極22とに印加される電圧に応じて、絵素領域ごとの液晶層30の配向状態が変化する。液晶層30の配向状態の変化に伴い、液晶層30を透過する光の偏光状態や量が変化する現象を利用して表示が行われる。
液晶表示装置100が有する絵素電極14は、複数の開口部14aと中実部14bとを有している。開口部14aは、導電膜(例えばITO膜)から形成される絵素電極14の内の導電膜が除去された部分を指し、中実部14bは導電膜が存在する部分(開口部14a以外の部分)を指す。開口部14aは1つの絵素電極ごとに複数形成されているが、中実部14bは、基本的には連続した単一の導電膜から形成されている。
複数の開口部14aは、その中心が正方格子を形成するように配置されており、1つの単位格子を形成する4つの格子点上に中心が位置する4つの開口部14aによって実質的に囲まれる中実部(「単位中実部」と称する。)16b’は、略円形の形状を有している。それぞれの開口部14aは、4つの4分の1円弧状の辺(エッジ)を有し、且つ、その中心に4回回転軸を有する略星形である。なお、絵素領域の全体に亘って配向を安定させるために、絵素電極14の端部まで単位格子を形成することが好ましい。従って、図示したように、絵素電極14の端部は、開口部14aの約2分の1(辺に対応する領域)および開口部14aの約4分の1(角に対応する領域)に相当する形状にパターニングされていることが好ましい。なお、図1(a)中に実線で示した正方形(正方格子の集合)は、単一の導電層から形成された従来の絵素電極に対応する領域(外形)を示している。
絵素領域の中央部に位置する開口部14aは実質的に同じ形状で同じ大きさを有している。開口部14aによって形成される単位格子内に位置する単位中実部14b’は略円形であり、実質的に同じ形状で同じ大きさを有している。互いに隣接する単位中実部14b’は互いに接続されており、実質的に単一の導電膜として機能する中実部14bを構成している。
上述したような構成を有する絵素電極14と対向電極22との間に電圧を印加すると、開口部14aのエッジ部に生成される斜め電界によって、それぞれが放射状傾斜配向を有する複数の液晶ドメインが形成される。液晶ドメインは、それぞれの開口部14aに対応する領域と、単位格子内の中実部14b’に対応する領域とに、それぞれ1つずつ形成される。
ここでは、1つの絵素領域に複数の開口部14aを有する構成を例示したが、1つの開口部を設けるだけで、1つの絵素領域に複数の液晶ドメインを形成することもできる。例えば、図1(a)に示した破線で分割された4つの単位で構成される正方形の領域に注目し、これを1つの絵素電極と見なすと、この絵素電極は、1つの開口部14aとその周辺に配置されている4つの単位中実部14b’で構成されているが、電圧印加時には、放射状傾斜配向をとる5つの液晶ドメインを形成する。
さらに、開口部14aを形成しなくても、1つの絵素領域に複数の液晶ドメインを形成することもできる。例えば、互いに隣接する2つの単位に注目し、これを1つの絵素電極と考えると、この絵素電極は、2つの単位中実部14b’で構成され、開口部14aを有しないが、電圧印加時には、放射状傾斜配向をとる2つの液晶ドメインを形成する。このように、絵素電極が、少なくとも、電圧印加時に放射状傾斜配向をとる複数の液晶ドメインを形成するような単位中実部を有していれば(言い換えると、そのような外形を有していれば)、絵素領域内の液晶分子の配向の連続性は得られるので、単位中実部14b’に対応して形成される液晶ドメインの放射状傾斜配向は安定する。
また、ここでは、正方形の絵素電極14を例示しているが、絵素電極の14の形状はこれに限られない。絵素電極14の一般的な形状は、矩形(正方形と長方形を含む)に近似されるので、開口部14aを正方格子状に規則正しく配列することができる。絵素電極14が矩形以外の形状を有していても、絵素領域内の全ての領域に液晶ドメインが形成されるように、規則正しく(例えば例示したように正方格子状に)開口部14aを配置すれば、本発明の効果を得ることができる。
上述した斜め電界によって液晶ドメインが形成されるメカニズムを図2(a)および(b)を参照しながら説明する。図2(a)および(b)は、それぞれ図1(b)に示した液晶層30に電圧を印加した状態を示しており、図2(a)は、液晶層30に印加された電圧に応じて、液晶分子30aの配向が変化し始めた状態(ON初期状態)を模式的に示しており、図2(b)は、印加された電圧に応じて変化した液晶分子30aの配向が定常状態に達した状態を模式的に示している。図2(a)および(b)中の曲線EQは等電位線EQを示す。
絵素電極14と対向電極22とが同電位のとき(液晶層30に電圧が印加されていない状態)には、図1(a)に示したように、絵素領域内の液晶分子30aは、両基板11および21の表面に対して垂直に配向している。
液晶層30に電圧を印加すると、図2(a)に示した等電位線EQ(電気力線と直交する)EQで表される電位勾配が形成される。この等電位線EQは、絵素電極14の中実部14bと対向電極22との間に位置する液晶層30内では、中実部14bおよび対向電極22の表面に対して平行であり、絵素電極14の開口部14aに対応する領域で落ち込み、開口部14aのエッジ部(開口部14aの境界(外延)を含む開口部14aの内側周辺)EG上の液晶層30内には、傾斜した等電位線EQで表される斜め電界が形成される。
負の誘電異方性を有する液晶分子30aには、液晶分子30aの軸方位を等電位線EQに対して平行(電気力線に対して垂直)に配向させようとするトルクが作用する。従って、エッジ部EG上の液晶分子30aは、図2(a)中に矢印で示したように、図中の右側エッジ部EGでは時計回り方向に、図中の左側エッジ部EGでは反時計回り方向に、それぞれ傾斜(回転)し、等電位線EQに平行に配向する。
ここで、図3を参照しながら、液晶分子30aの配向の変化を詳細に説明する。
液晶層30に電界が生成されると、負の誘電率異方性を有する液晶分子30aには、その軸方位を等電位線EQに対して平行に配向させようとするトルクが作用する。図3(a)に示したように、液晶分子30aの軸方位に対して垂直な等電位線EQで表される電界が発生すると、液晶分子30aには時計回りまたは反時計回り方向に傾斜させるトルクが等しい確率で作用する。従って、互いに対向する平行平板型配置の電極間にある液晶層30内には、時計回り方向のトルクを受ける液晶分子30aと、反時計回りに方向のトルクを受ける液晶分子30aとが混在する。その結果、液晶層30に印加された電圧に応じた配向状態への変化がスムーズに起こらないことがある。
図2(a)に示したように、本発明による液晶表示装置100の開口部14aのエッジ部EGにおいて、液晶分子30aの軸方位に対して傾斜した等電位線EQで表される電界(斜め電界)が発生すると、図3(b)に示したように、液晶分子30aは、等電位線EQと平行になるための傾斜量が少ない方向(図示の例では反時計回り)に傾斜する。また、液晶分子30aの軸方位に対して垂直方向の等電位線EQで表される電界が発生する領域に位置する液晶分子30aは、図3(c)に示したように、傾斜した等電位線EQ上に位置する液晶分子30aと配向が連続となるように(整合するように)、傾斜した等電位線EQ上に位置する液晶分子30aと同じ方向に傾斜する。図3(d)に示したように、等電位線EQが連続した凹凸形状を形成する電界が印加されると、それぞれの傾斜した等電位線EQ上に位置する液晶分子30aによって規制される配向方向と整合するように、平坦な等電位線EQ上に位置する液晶分子30aが配向する。なお、「等電位線EQ上に位置する」とは、「等電位線EQで表される電界内に位置する」ことを意味する。
上述したように、傾斜した等電位線EQ上に位置する液晶分子30aから始まる配向の変化が進み、定常状態に達すると、図2(b)に模式的に示した配向状態となる。開口部14aの中央付近に位置する液晶分子30aは、開口部14aの互いに対向する両側のエッジ部EGの液晶分子30aの配向の影響をほぼ同等に受けるので、等電位線EQに対して垂直な配向状態を保ち、開口部14aの中央から離れた領域の液晶分子30aは、それぞれ近い方のエッジ部EGの液晶分子30aの配向の影響を受けて傾斜し、開口部14aの中心SAに関して対称な傾斜配向を形成する。この配向状態は、液晶表示装置100の表示面に垂直な方向(基板11および21の表面に垂直な方向)からみると、液晶分子30aの軸方位が開口部14aの中心に関して放射状に配向した状態にある(不図示)。そこで、本願明細書においては、このような配向状態を「放射状傾斜配向」と呼ぶことにする。また、1つの中心に関して放射状傾斜配向をとる液晶層の領域を液晶ドメインと称する。
開口部14aによって実質的に包囲された単位中実部14b’に対応する領域においても、液晶分子30aが放射状傾斜配向をとる液晶ドメインが形成される。単位中実部14b’に対応する領域の液晶分子30aは、開口部14aのエッジ部EGの液晶分子30aの配向の影響を受け、単位中実部14b’の中心SA(開口部14aが形成する単位格子の中心に対応)に関して対称な放射状傾斜配向をとる。
単位中実部14b’に形成される液晶ドメインにおける放射状傾斜配向と開口部14aに形成される放射状傾斜配向は連続しており、いずれも開口部14aのエッジ部EGの液晶分子30aの配向と整合するように配向している。開口部14aに形成された液晶ドメイン内の液晶分子30aは、上側(基板100b側)が開いたコーン状に配向し、単位中実部14b’に形成された液晶ドメイン内の液晶分子30aは下側(基板100a側)が開いたコーン状に配向する。このように、開口部14aに形成される液晶ドメインおよび単位中実部14b’に形成される液晶ドメインに形成される放射状傾斜配向は、互いに連続であるので、これらの境界にディスクリネーションライン(配向欠陥)が形成されることがなく、それによって、ディスクリネーションラインの発生による表示品位の低下は起
こらない。
液晶表示装置の表示品位の視角依存性を全方位において改善するためには、それぞれの絵素領域内において、全ての方位角方向のそれぞれに沿って配向する液晶分子の存在確率が回転対称性を有することが好ましく、軸対称性を有することがさらに好ましい。すなわち、絵素領域の全体に亘って形成される液晶ドメインが回転対称性、さらには軸対称性を有するように配置されていることが好ましい。但し、絵素領域の全体に亘って回転対称性を有する必要は必ずしも無く、回転対称性(または軸対称性)を有するように配列された液晶ドメイン(例えば、正方格子状に配列された複数の液晶ドメイン)の集合体として絵素領域の液晶層が形成されればよい。従って、絵素領域に形成される複数の開口部14aの配置も絵素領域の全体に亘って回転対称性を有する必要は必ずしも無く、回転対称性(
または軸対称性)を有するように配列された開口部(例えば正方格子状に配列された複数の開口部)の集合体として表せれればよい。勿論、複数の開口部14aに実質的に包囲される単位中実部14b’の配置も同様である。また、それぞれの液晶ドメインの形状も回転対称性さらには軸対称性を有することが好ましいので、それぞれの開口部14aおよびおよび単位中実部14b’の形状も回転対称性さらには軸対称性を有することが好ましい。
なお、開口部14aの中央付近の液晶層30には十分な電圧が印加されず、開口部14aの中央付近の液晶層30が表示に寄与しない場合がある。すなわち、開口部14aの中央付近の液晶層30の放射状傾斜配向が多少乱れても(例えば、中心軸が開口部14aの中心からずれても)、表示品位が低下しないことがある。従って、少なくとも単位中実部14b’に対応して形成される液晶ドメインが回転対称性、さらには軸対称性を有するように配置されていればよい。
図2(a)および(b)を参照しながら説明したように、本発明による液晶表示装置100の絵素電極14は複数の開口部14aを有しており、絵素領域内の液晶層30内に、傾斜した領域を有する等電位線EQで表される電界を形成する。電圧無印加時に垂直配向状態にある液晶層30内の負の誘電異方性を有する液晶分子30aは、傾斜した等電位線EQ上に位置する液晶分子30aの配向変化をトリガーとして配向方向を変化し、安定な放射状傾斜配向を有する液晶ドメインが開口部14aおよび中実部14bに形成される。液晶層に印加される電圧に応じて、この液晶ドメインの液晶分子の配向が変化することによって、表示が行われる。
液晶表示装置100が有する絵素電極14が有する開口部14aの形状(基板法線方向から見た形状)およびその配置について説明する。
液晶表示装置の表示特性は、液晶分子の配向状態(光学的異方性)に起因して、方位角依存性を示す。表示特性の方位角依存性を低減するためには、液晶分子が全ての方位角に対して同等の確率で配向していることが好ましい。また、それぞれの絵素領域内の液晶分子が全ての方位角に対して同等の確率で配向していることがさらに好ましい。従って、開口部14aは、それぞれの絵素領域内の液晶分子30aがすべての方位角に対して同等の確率で配向するように、液晶ドメインを形成するような形状を有していることが好ましい。具体的には、開口部14aの形状は、それぞれの中心(法線方向)を対称軸とする回転対称性(好ましくは2回回転軸以上の対称性)を有することが好ましく、また、複数の開口部14aが回転対称性を有するように配置されていることが好ましい。また、これらの開口部によって実質的に包囲される単位中実部14b’の形状も回転対称性を有することが好ましく、単位中実部14bも回転対称性を有するように配置されることが好ましい。
但し、開口部14aや単位中実部14bが絵素領域全体に亘って回転対称性を有するように配置される必要は必ずしも無く、図1(a)に示したように、例えば正方格子(4回回転軸を有する対称性)を最小単位とし、それらの組合せによって絵素領域が構成されれば、絵素領域全体に亘って液晶分子がすべての方位角に対して実質的に同等の確率で配向させることができる。
図1(a)に示した、回転対称性を有する略星形の開口部14aおよび略円形の単位中実部14bが正方格子状に配列された場合の液晶分子30aの配向状態を図4(a)〜図4(c)を参照しながら説明する。
図4(a)〜(c)は、それぞれ、基板法線方向から見た液晶分子30aの配向状態を模式的に示している。図4(b)および(c)など、基板法線方向から見た液晶分子30aの配向状態を示す図において、楕円状に描かれた液晶分子30aの先が黒く示されている端は、その端が他端よりも、開口部14aを有する絵素電極14が設けらている基板側に近いように、液晶分子30aが傾斜していることを示している。以下の図面においても同様である。ここでは、図1(a)に示した絵素領域の内の1つの単位格子(4つの開口部14aによって形成される)について説明する。図4(a)〜図4(c)中の対角線に沿った断面は、図1(b)、図2(a)および(b)にそれぞれ対応し、これらの図を合わせて参照しながら説明する。
絵素電極14および対向電極22が同電位のとき、すなわち液晶層30に電圧が印加されていない状態においては、TFT基板100aおよび対向基板100bの液晶層30側表面に設けられた垂直配向層(不図示)によって配向方向が規制されている液晶分子30aは、図4(a)に示したように、垂直配向状態を取る。
液晶層30に電界を印加し、図2(a)に示した等電位線EQで表される電界が発生すると、負の誘電率異方性を有する液晶分子30aには、軸方位が等電位線EQに平行になるようなトルクが発生する。図3(a)および(b)を参照しながら説明したように、液晶分子30aの分子軸に対して垂直な等電位線EQで表される電場下の液晶分子30aは、液晶分子30aが傾斜(回転)する方向が一義的に定まっていないため(図3(a))、配向の変化(傾斜または回転)が容易に起こらないのに対し、液晶分子30aの分子軸に対して傾斜した等電位線EQ下に置かれた液晶分子30aは、傾斜(回転)方向が一義的に決まるので、配向の変化が容易に起こる。従って、図4(b)に示したように、等電位線EQに対して液晶分子30aの分子軸が傾いている開口部14aのエッジ部から液晶分
子30aが傾斜し始める。そして、図3(c)を参照しながら説明したように、開口部14aのエッジ部の傾斜した液晶分子30aの配向と整合性をとるように周囲の液晶分子30aも傾斜し、図4(c)に示したような状態で液晶分子30aの軸方位は安定する(放射状傾斜配向)。
このように、開口部14aが回転対称性を有する形状であると、絵素領域内の液晶分子30aは、電圧印加時に、開口部14aのエッジ部から開口部14aの中心に向かって液晶分子30aが傾斜するので、エッジ部からの液晶分子30aの配向規制力が釣り合う開口部14aの中心付近の液晶分子30aは基板面に対して垂直に配向した状態を維持し、その回りの液晶分子30aが開口部14aの中心付近の液晶分子30aを中心に放射状に液晶分子30aが連続的に傾斜した状態が得られる。
また、正方格子状に配列された4つの略星形の開口部14aに包囲された略円形の単位中実部14b’に対応する領域の液晶分子30aも、開口部14aのエッジ部に生成される斜め電界で傾斜した液晶分子30aの配向と整合するように傾斜する。エッジ部からの液晶分子30aの配向規制力が釣り合う単位中実部14b’の中心付近の液晶分子30aは基板面に対して垂直に配向した状態を維持し、その回りの液晶分子30aが単位中実部14b’の中心付近の液晶分子30aを中心に放射状に液晶分子30aが連続的に傾斜した状態が得られる。
このように、絵素領域全体に亘って、液晶分子30aが放射状傾斜配向をとる液晶ドメインが正方格子状に配列されると、それぞれの軸方位の液晶分子30aの存在確率が回転対称性を有することになり、あらゆる視角方向に対して、ざらつきのない高品位の表示を実現することができる。放射状傾斜配向を有する液晶ドメインの視角依存性を低減するためには、液晶ドメインが高い回転対称性(2回回転軸以上が好ましく、4回回転軸以上がさらに好ましい。)を有することが好ましい。また、絵素領域全体の視角依存性を低減するためには、絵素領域に形成される複数の液晶ドメインが、高い回転対称性(2回回転軸以上が好ましく、4回回転軸以上がさらに好ましい。)を有する単位(例えば単位格子)の組合せで表される配列(例えば正方格子)を構成することが好ましい。
なお、液晶分子30aの放射状傾斜配向は、図5(a)に示したような単純な放射状傾斜配向よりも、図5(b)および(c)に示したような、左回りまたは右回りの渦巻き状の放射状傾斜配向の方が安定である。この渦巻き状配向は、通常のツイスト配向のように液晶層30の厚さ方向に沿って液晶分子30aの配向方向が螺旋状に変化するのではなく、液晶分子30aの配向方向は微小領域でみると、液晶層30の厚さ方向に沿ってほとんど変化していない。すなわち、液晶層30の厚さ方向のどこの位置の断面(層面に平行な面内での断面)においても、図5(b)または(c)と同じ配向状態にあり、液晶層30の厚さ方向に沿ったツイスト変形をほとんど生じていない。但し、液晶ドメインの全体でみると、ある程度のツイスト変形が発生している。
負の誘電異方性を有するネマチック液晶材料にカイラル剤を添加した材料を用いると、電圧印加時に、液晶分子30aは、開口部14aおよび単位中実部14b’を中心に、図5(b)および(c)に示した、左回りまたは右回りの渦巻き状放射状傾斜配向をとる。右回りか左回りかは用いるカイラル剤の種類によって決まる。従って、電圧印加時に開口部14a内の液晶層30を渦巻き状放射状傾斜配向させることによって、放射状傾斜している液晶分子30aの、基板面に垂直に立っている液晶分子30aの周りを巻いている方向を全ての液晶ドメイン内で一定にすることができるので、ざらつきの無い均一な表示が可能になる。さらに、基板面に垂直に立っている液晶分子30aの周りを巻いている方向が定まっているので、液晶層30に電圧を印加した際の応答速度も向上する。
カイラル剤を添加すると、更に、通常のツイスト配向のように、液晶層30の厚さ方向に沿って液晶分子30aの配向が螺旋状に変化するようになる。液晶層30の厚さ方向に沿って液晶分子30aの配向が螺旋状に変化しない配向状態では、偏光板の偏光軸に対して垂直方向または平行方向に配向している液晶分子30aは、入射光に対して位相差を与えないため、この様な配向状態の領域を通過する入射光は透過率に寄与しない。これに対し、液晶層30の厚さ方向に沿って液晶分子30aの配向が螺旋状に変化する配向状態においては、偏光板の偏光軸に垂直方向または平行方向に配向している液晶分子30aも、入射光に対して位相差を与えるとともに、光の旋光性を利用することもできる。従って、この様な配向状態の領域を通過する入射光も透過率に寄与するので、明るい表示が可能な
液晶表示装置を得ることができる。
図1(a)では、開口部14aが略星形を有し、単位中実部14b’が略円形を有し、これらが正方格子状に配列された例を示したが、開口部14aおよび単位中実部14b’の形状ならびにこれらの配置は、上記の例に限られない。
図6(a)および(b)に、異なる形状の開口部14aおよび単位中実部14b’を有する絵素電極14Aおよび14Bの上面図をそれぞれ示す。
図6(a)および(b)にそれぞれ示した絵素電極14Aおよび14Bの開口部14aおよび単位中実部14b’は、図1(a)に示した絵素電極の開口部14aおよび単位中実部14b’が若干ひずんだ形を有している。絵素電極14Aおよび14Bの開口部14aおよび単位中実部14b’は、2回回転軸を有し(4回回転軸は有しない)、長方形の単位格子を形成するように規則的に配列されている。開口部14aは、いずれも歪んだ星形を有し、単位中実部14b’は、いずれも略楕円形(歪んだ円形)を有している。絵素電極14Aおよび14Bを用いても、表示品位が高い、視角特性に優れた液晶表示装置を得ることができる。
さらに、図7(a)および(b)にそれぞれ示すような絵素電極14Cおよび14Dを用いることもできる。
絵素電極14Cおよび14Dは、単位中実部14b’が略正方形となるように、略十字の開口部14aが正方格子状に配置されている。勿論、これらを歪ませて、長方形の単位格子を形成するように配置してもよい。このように、略矩形(矩形は正方形と長方形を含むとする。)の単位中実部14b’を規則正しく配列しても、表示品位が高い、視角特性に優れた液晶表示装置を得ることができる。
但し、開口部14aおよび/または単位中実部14b’の形状は、矩形よりも円形または楕円形の方が放射状傾斜配向を安定化できるので好ましい。これは、開口部14aの辺が連続的に(滑らかに)変化するので、液晶分子30aの配向方向も連続的に(滑らかに)変化するためと考えられる。
上述した液晶分子30aの配向方向の連続性の観点から、図8(a)および(b)に示す絵素電極14Eおよび14Fも考えられる。図8(a)に示した絵素電極14Eは、図1(a)に示した絵素電極14の変形例で、4つの円弧だけからなる開口部14aを有している。また、図8(b)に示した絵素電極14Fは、図7(b)に示した絵素電極14Dの変形例で、開口部14aの単位中実部14b’側が円弧で形成されている。絵素電極14Eおよび14Fが有する開口部14aならびに単位中実部14b’は、いずれも4回回転軸を有しており、且つ、正方格子状(4回回転軸を有する)に配列されているが、図6(a)および(b)に示したように、開口部14aの単位中実部14b’の形状を歪ませて2回回転軸を有する形状とし、長方形の格子(2回回転軸を有する)を形成するよう
に配置してもよい。
また、応答速度の観点から、図9(a)および(b)にそれぞれ示すような絵素電極14Gおよび14Hを用いてもよい。図9(a)に示した絵素電極14Gは、図7(a)に示した略正方形状の単位中実部14b’を有する絵素電極14Cの変形例であり、絵素電極14Gの単位中実部14b’の形状は、角部が鋭角化された歪んだ正方形状である。また、図9(b)に示した絵素電極14Hの単位中実部14b’の形状は、8つの辺(エッジ)を有し、且つ、その中心に4回回転軸を有する略星形であり、4つの角部のそれぞれが鋭角化されている。なお、角部を鋭角化するとは、90°未満の角または曲線で角部を構成することをいう。
開口部14aのエッジ部に生成される斜め電界によって液晶分子30aの配向が制御される液晶表示装置においては、液晶層30に電圧が印加されると、まず、エッジ部上の液晶分子30aから傾斜し、その後、周辺の領域の液晶分子30aが傾斜し、放射状傾斜配向となる。そのため、液晶層に電圧が印加されたときに絵素電極上の液晶分子が一斉に傾斜するような表示モードの液晶表示装置と比べると、応答速度が遅いことがある。
図9(a)および(b)に示したように、単位中実部14b’が、角部が鋭角化された形状を有していると、斜め電界を生成するエッジ部がより多く形成されるので、より多くの液晶分子30aに斜め電界を作用させることができる。従って、電界に応答して最初に傾斜し始める液晶分子30aの数がより多くなり、絵素領域全域にわたって放射状傾斜配向が形成されるのに要する時間が短くなるので、液晶層30に電圧を印加した際の応答速度が向上する。
例えば、単位中実部14b’の一辺の長さが約40μmである液晶表示装置においては、単位中実部14b’の形状が図9(a)に示した歪んだ正方形状で、図10(a)に示すように角部を構成する辺のなす角θaが90°未満である場合には、単位中実部14b’の形状が図8(b)に示した略正方形状で、図10(b)に示すように角部を構成する辺のなす角θaが90°である場合よりも、液晶層30に電圧を印加した際の応答速度を約60%短くすることができる。勿論、単位中実部14b’の形状を図9(b)に示したような略星形としても同様に応答速度を短くすることができる。
また、単位中実部14b’の形状を角部が鋭角化された形状とすると、単位中実部14b’の形状が略円形や略矩形である場合に比べて、特定の方位角方向に沿って配向する液晶分子30aの存在確率を高く(あるいは低く)することができる。すなわち、全ての方位角方向のそれぞれに沿って配向する液晶分子30aの存在確率により高い指向性をもたせることができる。そのため、偏光板を備え、直線偏光を液晶層30に入射させるモードの液晶表示装置において、単位中実部14b’の角部を鋭角化すると、偏光板の偏光軸に対して垂直方向または平行方向に配向している液晶分子30a、すなわち、入射光に対して位相差を与えない液晶分子30aの存在確率をより低くすることができる。従って、光の透過率を向上させ、より明るい表示を実現することができる。
略正方形状の単位中実部14b’を有する図8(b)に示した絵素電極14Fを備えた液晶表示装置、および、略星形の単位中実部14b’を有する図9(b)に示した絵素電極14Hを備えた液晶表示装置において、偏光板の偏光軸の角度を変化させたときの透過率を図11(a)に示す。図11(a)中の実線51は、図8(b)に示した絵素電極14Fを備えた液晶表示装置の電圧印加時の透過率を示し、破線52は、図9(b)に示した絵素電極14Hを備えた液晶表示装置の電圧印加時の透過率を示している。なお、図11(a)においては、図11(b)に示すように、観察者側の偏光板の偏光軸(実線矢印61で示されている)が表示面上下方向(紙面上下方向に対応)に沿っており、背面側の偏光軸(破線矢印62で示されている)が表示面左右方向(紙面左右方向に対応)に沿っているときの角度をゼロとし、この状態から偏光軸を反時計回りに回転させたときの角度を正、時計回りに回転させたときの角度を負としている。
図11(a)に示したように、単位中実部14b’の角部が鋭角化された絵素電極14Hを備えた液晶表示装置の透過率(破線52)の最大値は、略正方形状の単位中実部14’を有する絵素電極14Fを備えた液晶表示装置の透過率(実線51)の最大値よりも大きい。このように、単位中実部14b’の角部が鋭角化されていると、透過率を向上させることができ、より明るい表示を行うことができる。
なお、上述したように単位中実部14b’の角部を鋭角化すると、応答速度を向上させたり、透過率を向上させたりすることができるものの、放射状傾斜配向の安定が悪くなることがある。例えば単位中実部14b’の形状が略円形である場合と比較すると、角部が鋭角化されている場合には、開口部14aの辺は、単位中実部14b’の形状が略円形である場合ほど滑らかには変化しないので、液晶分子30aの配向方向の変化の連続性が悪い。そのため、放射状傾斜配向の安定性が悪くなることがあるが、後述する第2配向規制構造を組み合わせると、実用上十分な配向安定性を得ることができる。
図6、図7、図8および図9においては、1つの絵素領域に複数の開口部14aを有する構成を例示したが、図1を参照しながら説明したように、1つの開口部を設けるだけで、1つの絵素領域に複数の液晶ドメインを形成することもできるし、さらに、開口部14aを形成しなくても、1つの絵素領域に複数の液晶ドメインを形成することもできる。また、絵素電極の開口部14aに対応する領域にも放射状傾斜配向をとる液晶ドメインを形成する必要は必ずしもなく、中実部14b(単位中実部14b’)に対応して放射状傾斜配向をとる液晶ドメインが形成されれば、開口部14aに対応して形成される液晶ドメインが放射状傾斜配向をとらなくとも、絵素領域内の液晶分子の配向の連続性は得られるので、中実部14bに対応して形成される液晶ドメインの放射状傾斜配向は安定する。特に、図7(a)および(b)に示したように、開口部14aの面積が小さい場合には、表示に対する寄与も少ないので、開口部に対応する領域に放射状傾斜配向をとる液晶ドメインが形成されなくても、表示品位の低下は問題にならない。
上述の例では、略星形や略十字形の開口部14aを形成し、単位中実部14b’の形状を略円形、略楕円形、略正方形(矩形)および角の取れた略矩形とした構成を説明した。これに対して、開口部14aと単位中実部14b’との関係をネガ−ポジ反転させてもよい。例えば、図1(a)に示した絵素電極14の開口部14aと単位中実部14bとをネガ−ポジ反転したパターンを有する絵素電極14Iを図12に示す。このように、ネガ−ポジ反転したパターンを有する絵素電極14Iも図1に示した絵素電極14と実質的に同様の機能を有する。なお、図13(a)および(b)にそれぞれ示す絵素電極14Jおよび14Kのように、開口部14aおよび単位中実部14b’がともに略正方形の場合には、ネガ−ポジ反転しても、もとのパターンと同じパターンとなるものもある。
図12に示したパターンのように、図1(a)に示したパターンをネガ−ポジ反転させた場合にも、絵素電極14のエッジ部に、回転対称性を有する単位中実部14b'が形成されるように、開口部14aの一部(約2分の1または約4分の1)を形成することが好ましい。このようなパターンとすることによって、絵素領域のエッジ部においても、絵素領域の中央部と同様に、斜め電界による効果が得られ、絵素領域の全体に亘って安定した放射状傾斜配向を実現することができる。
次に、図1(a)の絵素電極14と、絵素電極14の開口部14aと単位中実部14b’のパターンをネガ−ポジ反転させたパターンを有する図12に示した絵素電極14Iを例に、ネガ−ポジパターンのいずれを採用すべきかを説明する。
ネガ−ポジいずれのパターンを採用しても、開口部14aの辺の長さはどちらのパターンも同じである。従って、斜め電界を生成するという機能においては、これらのパターンによる差はない。しかしながら、単位中実部14b’の面積比率(絵素電極14の全面積に対する比率)は、両者の間で異なり得る。すなわち、液晶層の液晶分子に作用する電界を生成する中実部16(実際に導電膜が存在する部分)の面積が異なり得る。
開口部14aに形成される液晶ドメインに印加される電圧は、中実部14bに形成される液晶ドメインに印加される電圧はよりも低くなるので、例えば、ノーマリブラックモードの表示を行うと、開口部14aに形成された液晶ドメインは暗くなる。すなわち、開口部14aの面積比率が高くなると表示輝度が低下する傾向になる。従って、中実部14bの面積比率が高い方が好ましい。
図1(a)のパターンと図12のパターンとのいずれにおいて中実部14bの面積比率が高くなるかは、単位格子のピッチ(大きさ)に依存する。
図14(a)は、図1(a)に示したパターンの単位格子を示し、図14(b)は、図9に示したパターンの単位格子(但し、開口部14aを中心とする。)を示してる。なお、図14(b)においては、図12における単位中実部14b’の相互に接続する役割を果たしている部分(円形部から四方に枝部)を省略している。正方単位格子の一辺の長さ(ピッチ)をpとし、開口部14aまたは単位中実部14b’と単位格子との間隙の長さ(片側のスペース)をsとする。
ピッチpおよび片側スペースsの値が異なる種々の絵素電極14を形成し、放射状傾斜配向の安定性などを検討した。その結果、まず、図14(a)に示したパターン(以下、「ポジ型パターン」と称する。)を有する絵素電極14を用いて、放射状傾斜配向を得るために必要な斜め電界を生成するためには、片側スペースsが約2.75μm以上必要であることを見出した。一方、図14(b)に示したパターン(以下、「ネガ型パターン」と称する。)を有する絵素電極14について、放射状傾斜配向を得るための斜め電界を生成するために、片側スペースsが約2.25μm以上必要であることを見出した。片側スペースsをそれぞれこの下限値として、ピッチpの値を変化させたときの中実部14bの面積比率を検討した。結果を表1および図14(c)に示す。
表1および図14(c)から分かるように、ピッチpが約25μm以上のときにはポジ型(図14(a))パターンの方が中実部14bの面積比率が高くなり、約25μmよりも短くなるとネガ型(図14(b))の方が中実部14bの面積比率が大きくなる。従って、表示輝度および配向の安定性の観点から、ピッチpが約25μmを境にして、採用すべきパターンが変わる。例えば、幅75μmの絵素電極14の幅方向に、3個以下の単位格子を設ける場合には、図14(a)に示したポジ型パターンが好ましく、4個以上の単位格子を設ける場合には、図14(b)に示したネガ型パターンが好ましい。例示したパターン以外の場合においても、中実部14bの面積比率が大きくなるように、ポジ型またはネガ型の何れかを選択すればよい。
単位格子の数は、以下のようにして求められる。絵素電極14の幅(横または縦)に対して、1つまたは2以上の整数個の単位格子が配置されるように、単位格子のサイズを計算し、それぞれの単位格子サイズについて中実部面積比率を計算し、中実部面積比率が最大となる単位格子サイズを選ぶ。但し、ポジ型パターンの場合には単位中実部14b’の直径が15μm未満、ネガ型パターンの場合には開口部14aの直径が15μm未満になると、斜め電界による配向規制力が低下し、安定した放射状傾斜配向が得られ難くなる。なお、これら直径の下限値は、液晶層30の厚さが約3μmの場合であり、液晶層30の厚さがこれよりも薄いと、単位中実部14b’および開口部14aの直径は、上記の下限値よりもさらに小さくとも安定な放射状傾斜配向が得られ、液晶層30の厚さがこれより
も厚い場合に安定な放射状傾斜配向を得るために必要な、単位中実部14b’および開口部14aの直径の下限値は、上記の下限値よりも大きくなる。
なお、後述するように、開口部14aの内側に凸部を形成することによって、放射状傾斜配向の安定性を高めることができる。上述の条件は、いずれも、凸部を形成していない場合についてである。
上述した液晶表示装置100の構成は、絵素電極14が開口部14aを有する電極であること以外は、公知の垂直配向型液晶表示装置と同じ構成を採用することができ、公知の製造方法で製造することができる。
なお、典型的には、負の誘電異方性を有する液晶分子を垂直配向させるために、絵素電極14および対向電極22の液晶層30側表面には垂直配向層(不図示)が形成されている。
液晶材料としては、負の誘電異方性を有するネマチック液晶材料が用いられる。また、負の誘電異方性を有するネマチック液晶材料に2色性色素添加することによって、ゲスト−ホストモードの液晶表示装置を得ることもできる。ゲスト−ホストモードの液晶表示装置は、偏光板を必要としない。
図15(a)および(b)を参照しながら、本発明による第1配向規制構造を備える他の液晶表示装置200の1つの絵素領域の構造を説明する。また、以下の図面においては、液晶表示装置100の構成要素と実質的に同じ機能を有する構成要素を同じ参照符号で示し、その説明を省略する。図15(a)は基板法線方向から見た上面図であり、図15(b)は図15(a)中の15B−15B’線に沿った断面図に相当する。図15(b)は、液晶層に電圧を印加していない状態を示している。
図15(a)および(b)に示したように、液晶表示装置200は、TFT基板200aが、絵素電極14の開口部14aの内側に凸部40を有する点において、図1(a)および(b)に示した液晶表示装置100と異なっている。凸部40の表面には、垂直配向膜(不図示)が設けられている。
凸部40の基板11の面内方向の断面形状は、図15(a)に示したように、開口部14aの形状と同じであり、ここでは略星形である。但し、隣接する凸部40は互いに繋がっており、単位中実部14b’を略円形に完全に包囲するように形成されている。この凸部40の基板11に垂直な面内方向の断面形状は、図15(b)に示したように台形である。すなわち、基板面に平行な頂面40tと基板面に対してテーパ角θ(<90°)で傾斜した側面40sとを有している。凸部40を覆うように垂直配向膜(不図示)が形成されているので、凸部40の側面40sは、液晶層30の液晶分子30aに対して、斜め電界による配向規制方向と同じ方向の配向規制力を有することになり、放射状傾斜配向を安定化させるように作用する。
この凸部40の作用を図16(a)〜(d)、および図17(a)および(b)を参照しながら説明する。
まず、図16(a)〜(d)を参照しながら、液晶分子30aの配向と垂直配向性を有する表面の形状との関係を説明する。
図16(a)に示したように、水平な表面上の液晶分子30aは、垂直配向性を有する表面(典型的には、垂直配向膜の表面)の配向規制力によって、表面に対して垂直に配向する。このように垂直配向状態にある液晶分子30aに液晶分子30aの軸方位に対して垂直な等電位線EQで表される電界が印加されると、液晶分子30aには時計回りまたは反時計回り方向に傾斜させるトルクが等しい確率で作用する。従って、互いに対向する平行平板型配置の電極間にある液晶層30内には、時計回り方向のトルクを受ける液晶分子30aと、反時計回りに方向のトルクを受ける液晶分子30aとが混在する。その結果、液晶層30に印加された電圧に応じた配向状態への変化がスムーズに起こらないことがある。
図16(b)に示したように、傾斜した表面に対して垂直に配向している液晶分子30aに対して、水平な等電位線EQで表される電界が印加されると、液晶分子30aは、等電位線EQと平行になるための傾斜量が少ない方向(図示の例では時計回り)に傾斜する。また、水平な表面に対して垂直に配向している液晶分子30aは、図16(c)に示したように、傾斜した表面に対して垂直に配向している液晶分子30aと配向が連続となるように(整合するように)、傾斜した表面上に位置する液晶分子30aと同じ方向(時計回り)に傾斜する。
図16(d)に示したように、断面が台形の連続した凹凸状の表面に対しては、それぞれの傾斜した表面上の液晶分子30aによって規制される配向方向と整合するように、頂面および底面上の液晶分子30aが配向する。
液晶表示装置200は、このような表面の形状(凸部)による配向規制力の方向と、斜め電界による配向規制方向とを一致させることによって、放射状傾斜配向を安定化させる。
図17(a)および(b)は、それぞれ図15(b)に示した液晶層30に電圧を印加した状態を示しており、図17(a)は、液晶層30に印加された電圧に応じて、液晶分子30aの配向が変化し始めた状態(ON初期状態)を模式的に示しており、図17(b)は、印加された電圧に応じて変化した液晶分子30aの配向が定常状態に達した状態を模式的に示している。図17(a)および(b)中の曲線EQは等電位線EQを示す。
絵素電極14と対向電極22とが同電位のとき(液晶層30に電圧が印加されていない状態)には、図15(b)に示したように、絵素領域内の液晶分子30aは、両基板11および21の表面に対して垂直に配向している。このとき、凸部40の側面40sの垂直配向膜(不図示)に接する液晶分子30aは、側面40sに対して垂直に配向し、側面40sの近傍の液晶分子30aは、周辺の液晶分子30aとの相互作用(弾性体として性質)によって、図示したように、傾斜した配向をとる。
液晶層30に電圧を印加すると、図17(a)に示した等電位線EQで表される電位勾配が形成される。この等電位線EQは、絵素電極14の中実部14bと対向電極22との間に位置する液晶層30内では、中実部14bおよび対向電極22の表面に対して平行であり、絵素電極14の開口部14aに対応する領域で落ち込み、開口部14aのエッジ部(開口部14aの境界(外延)を含む開口部14aの内側周辺)EG上の液晶層30内には、傾斜した等電位線EQで表される斜め電界が形成される。
この斜め電界によって、上述したように、エッジ部EG上の液晶分子30aは、図17(a)中に矢印で示したように、図中の右側エッジ部EGでは時計回り方向に、図中の左側エッジ部EGでは反時計回り方向に、それぞれ傾斜(回転)し、等電位線EQに平行に配向する。この斜め電界による配向規制方向は、それぞれのエッジ部EGに位置する側面40sによる配向規制方向と同じである。
上述したように、傾斜した等電位線EQ上に位置する液晶分子30aから始まる配向の変化が進み、定常状態に達すると、図17(b)に模式的に示した配向状態となる。開口部14aの中央付近、すなわち、凸部40の頂面40tの中央付近に位置する液晶分子30aは、開口部14aの互いに対向する両側のエッジ部EGの液晶分子30aの配向の影響をほぼ同等に受けるので、等電位線EQに対して垂直な配向状態を保ち、開口部14a(凸部40の頂面40t)の中央から離れた領域の液晶分子30aは、それぞれ近い方のエッジ部EGの液晶分子30aの配向の影響を受けて傾斜し、開口部14a(凸部40の頂面40t)の中心SAに関して対称な傾斜配向を形成する。また、開口部14aおよび凸部40によって実質的に包囲された単位中実部14b’に対応する領域においても、単位中実部14b’の中心SAに関して対称な傾斜配向を形成する。
このように、液晶表示装置200においても、液晶表示装置100と同様に、放射状傾斜配向を有する液晶ドメインが開口部14aおよび単位中実部14b’に対応して形成される。凸部40は単位中実部14b’を略円形に完全に包囲するように形成されているので、液晶ドメインは凸部40で包囲された略円形の領域に対応して形成される。さらに、開口部14aの内側に設けられた凸部40の側面は、開口部14aのエッジ部EG付近の液晶分子30aを、斜め電界による配向方向と同じ方向に傾斜させるように作用するので、放射状傾斜配向を安定化させる。
斜め電界の配向規制力は、当然のことながら、電圧印加時にしか作用せず、その強さは電界の強さ(印加電圧の大きさ)に依存する。したがって、電界強度が弱い(すなわち、印加電圧が低い)と、斜め電界による配向規制力は弱く、液晶パネルに応力が加わると、液晶材料の流動によって放射状傾斜配向が崩れることがある。一旦、放射状傾斜配向が崩れると、十分に強い配向規制力を発揮する斜め電界を生成するだけの電圧が印加されないと、放射状傾斜配向は復元されない。これに対し、凸部40の側面40sによる配向規制力は、印加電圧に関係なく作用し、配向膜のアンカリング効果として知られているように、非常に強い。従って、液晶材料の流動が生じて、一旦放射状傾斜配向が崩れても、凸部40の側面40sの近傍の液晶分子30aは放射状傾斜配向のときと同じ配向方向を維持している。従って、液晶材料の流動が止まりさえすれば、放射状傾斜配向が容易に復元される。
この様に、液晶表示装置200は、液晶表示装置100が有する特徴に加え、応力に対して強いという特徴を有している。従って、液晶表示装置200は、応力が印加されやすい、携帯して使用される機会の多いPCやPDAに好適に用いられる。
なお、凸部40を透明性の高い誘電体を用いて形成すると、開口部14aに対応して形成される液晶ドメインの表示への寄与率が向上するという利点が得られる。一方、凸部40を不透明な誘電体を用いて形成すると、凸部40の側面340sによって傾斜配向している液晶分子30aのリタデーションに起因する光漏れを防止できるという利点が得られる。いずれを採用するかは、液晶表示装置の用途などに応じて決めればよい。いずれの場合にも、感光性樹脂を用いると、開口部14aに対応してパターニングする工程を簡略化できる利点がある。
上述したように、液晶表示装置200は、絵素電極14の開口部14aの内側に凸部40を有し、凸部40の側面40sは、液晶層30の液晶分子30aに対して、斜め電界による配向規制方向と同じ方向の配向規制力を有する。側面40sが斜め電界による配向規制方向と同じ方向の配向規制力を有するための好ましい条件を図18(a)〜(c)を参照しながら説明する。
図18(a)〜(c)は、それぞれ液晶表示装置200A、200Bおよび200Cの断面図を模式的に示し、図17(a)に対応する。液晶表示装置200A、200Bおよび200Cは、いずれも開口部40の内側に凸部を有するが、1つの構造体としての凸部40全体と開口部40との配置関係が液晶表示装置200と異なっている。
上述した液晶表示装置200においては、図17(a)に示したように、構造体としての凸部40の全体が開口部40aの内側に形成されており、且つ、凸部40の底面は開口部40aよりも小さい。図18(a)に示した液晶表示装置200Aにおいては、凸部40Aの底面は開口部14aと一致しており、図18(b)に示した液晶表示装置200Bにおいては、凸部40Bは開口部14aよりも大きい底面を有し、開口部14aの周辺の中実部(導電膜)14bを覆うように形成されている。これらの凸部40、40Aおよび40Bのいずれの側面40s上にも中実部14bが形成されていない。その結果、それぞれの図に示したように、等電位線EQは、中実部14b上ではほぼ平坦で、そのまま開口部14aで落ち込む。従って、液晶表示装置200Aおよび200Bの凸部40Aおよび40Bの側面40sは、上述した液晶表示装置200の凸部40と同様に、斜め電界による配向規制力と同じ方向の配向規制力を発揮し、放射状傾斜配向を安定化する。
これに対し、図18(c)に示した液晶表示装置200Cの凸部40Cの底面は開口部14aよりも大きく、開口部14aの周辺の中実部14bは凸部40Cの側面40s上に形成されている。この側面40s上に形成された中実部14bの影響で、等電位線EQに山が形成される。等電位線EQの山は、開口部14aで落ち込む等電位線EQと反対の傾きを有しており、これは、液晶分子30aを放射状傾斜配向させる斜め電界とは逆向きの斜め電界を生成していることを示している。従って、側面40sが斜め電界による配向規制方向と同じ方向の配向規制力を有するためには、側面40s上に中実部(導電膜)14bが形成されていないことが好ましい。
次に、図19を参照しながら、図15(a)に示した凸部40の19A−19A’線に沿った断面構造を説明する。
上述したように、図15(a)に示した凸部40は、単位中実部14b’を略円形に完全に包囲するように形成されているので、隣接する単位中実部14b’の相互に接続する役割を果たしている部分(円形部から四方に枝部)は、図19に示したように、凸部40上に形成される。従って、絵素電極14の中実部14bを形成する導電膜を堆積する工程において、凸部40上で断線が生じたり、あるいは、製造プロセスの後工程で剥離が生じる危険性が高い。
そこで、図20(a)および(b)に示す液晶表示装置200Dのように、開口部14a内に、それぞれ独立した凸部40Dが完全に含まれるように形成すると、中実部14bを形成する導電膜は、基板11の平坦な表面に形成されるので断線や剥離が起こる危険性が無くなる。なお、凸部40Dは、単位中実部14b’を略円形に完全に包囲するようには形成されていないが、単位中実部14b’に対応した略円形の液晶ドメインが形成され、先の例と同様に、その放射状傾斜配向は安定化される。
開口部14a内に凸部40を形成することによって、放射状傾斜配向を安定化させる効果は、例示したパターンの開口部14aに限られず、先に説明した全てのパターンの開口部14aに対して同様に適用でき、同様の効果を得ることができる。なお、凸部40による応力に対する配向安定化効果を十分に発揮させるためには、凸部40のパターン(基板法線方向から見たときにパターン)は、できるだけ広い領域の液晶層30を包囲する形状であることが好ましい。従って、例えば、円形の開口部14aを有するネガ型パターンよりも、円形の単位中実部14b’を有するポジ型パターンの方が、凸部40による配向安定化効果が大きい。
後述する第2配向規制構造を設けずに、凸部40によって、液晶パネルに応力が印加されても応力による残像が視認されない程度に十分な配向規制力を得るためには、凸部40の高さは、液晶層30の厚さが約3μmの場合、約0.5μm〜約2μmの範囲にあることが好ましい。一般に、凸部40の高さは、液晶層30の厚さの約1/6〜約2/3の範囲内にあることが好ましい。しかしながら、凸部40の側面の配向規制力によって配向が規制される液晶分子は電圧に対して応答し難い(電圧によるリタデーションの変化が小さい)ので、表示のコントラスト比を低下させる要因となる。従って、凸部40の大きさ、高さや数は、表示品位を低下させないように設定することが好ましい。
上述した一対の電極のうちの一方に開口部を設けた電極構造では、開口部に対応する領域の液晶層に十分な電圧が印加されず、十分なリタデーション変化が得られないために、光の利用効率が低下するという問題が発生することがある。そこで、開口部を設けた電極(上層電極)の液晶層とは反対側に誘電体層を設け、この誘電体層を介して電極の開口部の少なくとも一部に対向するさらなる電極(下層電極)を設ける(2層構造電極)ことによって、開口部に対応する液晶層に十分な電圧を印加することができ、光の利用効率や応答特性を向上することができる。
図21に、下層電極12と、上層電極14と、これらの間に設けられた誘電体層13とを有する絵素電極(2層構造電極)15を備える液晶表示装置300の一絵素領域の断面構造を模式的に示す。絵素電極15の上層電極14は、上述した絵素電極14と実質的に等価で、上述した種々の形状、配置の開口部および中実部を有する。以下では、2層構造を有する絵素電極15の機能を説明する。
液晶表示装置300の絵素電極15は、複数の開口部14a(14a1および14a2を含む)を有する。図21(a)は、電圧が印加されていない液晶層30内の液晶分子30aの配向状態(OFF状態)を模式的に示している。図21(b)は、液晶層30に印加された電圧に応じて、液晶分子30aの配向が変化し始めた状態(ON初期状態)を模式的に示している。図21(c)は、印加された電圧に応じて変化した液晶分子30aの配向が定常状態に達した状態を模式的に示している。なお、図21では、開口部14a1および14a2に誘電体層13を介して対向するように設けられた下層電極12は、開口部14a1および14a2のそれぞれと重なり、且つ、開口部14a1および14a2との間の領域(上層電極14が存在する領域)にも存在するように形成された例を示したが、下層電極12の配置はこれに限られず、開口部14a1および14a2のそれぞれに対して、下層電極12の面積=開口部14aの面積、または、下層電極12の面積<開口部14aの面積としてもよい。すなわち、下層電極12は、誘電体層13を介して開口部14aの少なくとも一部と対向するように設けられていればよい。但し、下層電極12が開口部14a内に形成された構成においては、基板11の法線方向から見た平面内に、下層電極12および上層電極14のいずれもが存在しない領域(隙間領域)が存在し、この隙間領域に対向する領域の液晶層30に十分な電圧が印加されないことがあるので、液晶層30の配向を安定化するように、この隙間領域の幅を十分に狭くすることが好ましく、典型的には、約4μmを越えないことが好ましい。また、誘電体層13を介して上層電極14の導電層が存在する領域と対向する位置に形成された下層電極12は、液晶層30に印加される電界に実質的に影響しないので、特にパターニングする必要はないが、パターニングしてもよい。
図21(a)に示したように、絵素電極15と対向電極22が同電位のとき(液晶層30に電圧が印加されていない状態)には、絵素領域内の液晶分子30aは、両基板11および21の表面に対して垂直に配向している。ここでは、簡単のために、絵素電極15の上層電極14と下層電極12の電位は互いに等しいとする。
液晶層30に電圧を印加すると、図21(b)に示した等電位線EQで表される電位勾配が形成される。絵素電極15の上層電極14と対向電極22との間に位置する液晶層30内には、上層電極14および対向電極22の表面に対して平行な等電位線EQで表される、均一な電位勾配が形成される。上層電極14の開口部14a1および14a2の上に位置する液晶層30には、下層電極12と対向電極22との電位差に応じた電位勾配が形成される。このとき、液晶層30内に形成される電位勾配が、誘電体層13による電圧降下の影響を受けるので、液晶層30内に形成される等電位線EQは、開口部14a1および14a2に対応する領域で落ち込む(等電位線EQに複数の「谷」が形成される)。誘電体層13を介して開口部14a1および14a2に対向する領域に下層電極12が形成されているので、開口部14a1および14a2のそれぞれの中央付近上に位置する液晶層30内にも、上層電極14および対向電極22の面に対して平行な等電位線EQで表される電位勾配が形成される(等電位線EQの「谷の底」)。開口部14a1および14a2のエッジ部(開口部の境界(外延)を含む開口部の内側周辺)EG上の液晶層30内には、傾斜した等電位線EQで表される斜め電界が形成される。
図21(b)と図2(a)との比較から明らかなように、液晶表示装置300は下層電極12を有するので、開口部14aに対応する領域に形成される液晶ドメインの液晶分子にも十分な大きさの電界を作用させることができる。
負の誘電異方性を有する液晶分子30aには、液晶分子30aの軸方位を等電位線EQに対して平行に配向させようとするトルクが作用する。従って、エッジ部EG上の液晶分子30aは、図21(b)中に矢印で示したように、図中の右側エッジ部EGでは時計回り方向に、図中の左側エッジ部EGでは反時計回り方向に、それぞれ傾斜(回転)し、等電位線EQに平行に配向する。
図21(b)に示したように、液晶表示装置300の開口部14a1および14a2のエッジ部EGにおいて、液晶分子30aの軸方位に対して傾斜した等電位線EQで表される電界(斜め電界)が発生すると、図3(b)に示したように、液晶分子30aは、等電位線EQと平行になるための傾斜量が少ない方向(図示の例では反時計回り)に傾斜する。また、液晶分子30aの軸方位に対して垂直方向の等電位線EQで表される電界が発生する領域に位置する液晶分子30aは、図3(c)に示したように、傾斜した等電位線EQ上に位置する液晶分子30aと配向が連続となるように(整合するように)、傾斜した等電位線EQ上に位置する液晶分子30aと同じ方向に傾斜する。
上述したように、傾斜した等電位線EQ上に位置する液晶分子30aから始まる配向の変化が進み、定常状態に達すると、図21(c)に模式的に示したように、開口部14a1および14a2のそれぞれの中心SAに関して対称な傾斜配向(放射状傾斜配向)を形成する。また、隣接する2つの開口部14a1および14a2との間に位置する上層電極14の領域上の液晶分子30aも、開口部14a1および14a2のエッジ部の液晶分子30aと配向が連続となるように(整合するように)、傾斜配向する。開口部14a1および14a2のエッジの中央に位置する部分上の液晶分子30aは、それぞれのエッジ部の液晶分子30aの影響を同程度に受けるので、開口部14a1および14a2の中央部に位置する液晶分子30aと同様に、垂直配向状態を維持する。その結果、隣接する2つ
の開口部14a1と14a2との間に上層電極14上の液晶層も放射状傾斜配向状態となる。但し、開口部14a1および14a2内の液晶層の放射状傾斜配向と開口部14a1と14a2との間の液晶層の放射状傾斜方向とでは、液晶分子の傾斜方向が異なる。図21(c)に示した、それぞれの放射状傾斜配向している領域の中央に位置する液晶分子30a付近の配向に注目すると、開口部14a1およb14a2内では、対向電極に向かって広がるコーンを形成するように液晶分子30aが傾斜しているのに対し、開口部間では、上層電極14に向かって広がるコーンを形成するように液晶分子30が傾斜している。なお、いずれの放射状傾斜配向もエッジ部の液晶分子30aの傾斜配向と整合するように形成されているので、2つの放射状傾斜配向は互いに連続している。
上述したように、液晶層30に電圧を印加すると、上層電極14に設けた複数の開口部14a1および14a2それぞれのエッジ部EG上の液晶分子30aから傾斜し始め、その後周辺領域の液晶分子30aがエッジ部EG上の液晶分子30aの傾斜配向と整合するように傾斜することによって、放射状傾斜配向が形成される。従って、1つの絵素領域内に形成する開口部14aの数が多いほど、電界に応答して最初に傾斜し始める液晶分子30aの数が多くなるので、絵素領域全体に亘って放射状傾斜配向が形成されるのに要する時間が短くなる。すなわち、絵素領域毎に絵素電極15に形成する開口部14aの数を増やすことによって、液晶表示装置の応答速度を改善することができる。また、絵素電極15を上層電極14と下層電極12とを有する2層構造電極とすることによって、開口部14aに対応する領域の液晶分子にも十分な電界を作用させることができるので、液晶表示装置の応答特性が向上する。
絵素電極15の上層電極14と下層電極12との間に設けられた誘電体層13が、上層電極14の開口部14a内に穴(孔)または凹部を有する構成としてもよい。すなわち、2層構造の絵素電極15は、上層電極14の開口部14a内に位置する誘電体層13の全部が除去された(穴が形成された)構造または一部が除去された(凹部が形成された)構造を有してもよい。
まず、図22を参照しながら、誘電体層13に穴が形成された絵素電極14を備える液晶表示装置400の構造と動作を説明する。以下では、簡単さのために、上層電極14に形成された1つの開口部14aに対して説明する。
液晶表示装置400は、絵素電極15の上層電極14が開口部14aを有するとともに、下層電極12と上層電極14との間に設けられている誘電体層13が、上層電極14が有する開口部14aに対応して形成された開口部13aを有している開口部13a内に下層電極12が露出されている。誘電体層13の開口部13の側壁は、一般にテーパ状に形成されている。液晶表示装置400は、誘電体層13が開口部13aを有していることを除いて、液晶表示装置300と実質的に同じ構造を有しており、2層構造の絵素電極15は、実質的に液晶表示装置300の絵素電極15と同じように作用し、電圧印加時に液晶層30に放射状傾斜配向状態をとる液晶ドメインを形成する。
液晶表示装置400の動作を図22(a)〜(c)を参照しながら説明する。図22(a)〜(c)は、実施形態1の液晶表示装置100についての図1(a)〜(c)にそれぞれ対応する。
図22(a)に示したように、電圧無印加時(OFF状態)には、絵素領域内の液晶分子30aは、両基板11および21の表面に対して垂直に配向している。ここでは、簡単さのために、開口部13aの側壁による配向規制力は無視して説明する。
液晶層30に電圧を印加すると、図22(b)に示した等電位線EQで表される電位勾配が形成される。等電位線EQが上層電極14の開口部14aに対応する領域でが落ち込んでいる(「谷」が形成されている。)ことから分かるように、液晶表示装置400の液晶層30にも図21(b)に示した電位勾配と同様に、傾斜電界が形成されている。しかしながら、絵素電極15の誘電体層13が、上層電極14の開口部14aに対応する領域に開口部13aを有するので、開口部14a内(開口部13a内)に対応する領域の液晶層30に印加される電圧は、下層電極12と対向電極22との電位差そのものであり、誘電体層13による電圧降下(容量分割)が発生しない。すなわち、上層電極14と対向電極22との間に図示した7本の等電位線EQは、液晶層30全体に亘って7本であり(図
21(b)では、5本の等電位線EQのうちの1本が誘電体層13中に侵入しているのに対し)、絵素領域全体に亘って一定の電圧が印加される。
このように、誘電体層13に開口部13aを形成することによって、開口部13aに対応する液晶層30にも、その他の領域に対応する液晶層30と同じ電圧を印加することできる。しかしながら、電圧が印加される液晶層30の厚さが絵素領域内の場所によって異なるので、電圧印加時のリタデーションの変化が場所によって異なり、その程度が著しく大きいと、表示品位が低下するという問題が発生する。
図22に示した構成においては、上層電極(開口部14a以外の中実部)14上の液晶層30の厚さd1と、開口部14a(および穴13a)内に位置する下層電極12上の液晶層30の厚さd2とは、誘電体層13の厚さ分だけ異なる。厚さd1の液晶層30と厚さd2の液晶層30とを同じ電圧範囲で駆動すると、液晶層30の配向変化に伴うリタデーションの変化量は、それぞれの液晶層30の厚さの影響を受けて互いに異なる。印加電圧と液晶層30のリタデーション量との関係が場所によって著しく異なると、表示品位を重視した設計においては透過率が犠牲になり、透過率を重視すると白表示の色温度がシフトし表示品位が犠牲になるという問題が発生する。したがって、液晶表示装置400を透過型液晶表示装置として用いる場合には、誘電体層13の厚さは薄い方が良い。
次に、絵素電極の誘電体層が凹部を有する液晶表示装置500の一絵素領域の断面構造を図23に示す。
液晶表示装置500の絵素電極15を構成する誘電体層13は、上層電極14の開口部14aに対応する凹部13bを有している。その他の構造は、図22に示した液晶表示装置400と実質的に同じ構造を有している。
液晶表示装置500においては、絵素電極15が有する上層電極14の開口部14a内に位置する誘電体層13は完全に除去されていないので、開口部14a内に位置する液晶層30の厚さd3は、液晶表示装置400における開口部14a内に位置する液晶層30の厚さd2よりも、凹部13b内の誘電体層13の厚さ分だけ薄い。また、開口部14a内に位置する液晶層30に印加される電圧は、凹部13b内の誘電体層13による電圧降下(容量分割)を受けるので、上層電極(開口部14aを除く領域)14上の液晶層30に印加される電圧よりも低くなる。したがって、凹部13b内の誘電体層13の厚さを調整することによって、液晶層30の厚さの違いに起因するリタデーション量の違いと、液晶層30に印加される電圧の場所による違い(開口部14a内の液晶層に印加される電圧
の低下量)との関係を制御し、印加電圧とリタデーションとの関係が絵素領域内の場所に依存しないようにすることができる。より厳密には、液晶層の複屈折率、液晶層の厚さ、誘電体層の誘電率および誘電体層の厚さ、誘電体層の凹部の厚さ(凹部の深さ)を調整することによって、印加電圧とリタデーションとの関係を絵素領域内の場所で均一にすることができ、高品位な表示が可能となる。特に、表面が平坦な誘電体層を有する透過型表示装置と比較し、上層電極14の開口部14aに対応する領域の液晶層30に印加される電圧の低下による透過率の減少(光の利用効率の低下)が抑制される利点がある。
上述の説明は、絵素電極15を構成する上層電極14と下層電極12とに同じ電圧を供給した場合について説明したが、下層電極12と上層電極14とに異なる電圧を印加する構成とすれば、表示むらの無い表示が可能な液晶表示装置の構成のバリエーションを増やすことができる。例えば、上層電極14の開口部14a内に誘電体層13を有する構成においては、上層電極14に印加する電圧よりも、誘電体層13による電圧降下分だけ高い電圧を下層電極12に印加することによって、液晶層30に印加される電圧が絵素領域内の場所によって異なることを防止することができる。
2層構造の絵素電極15を有する液晶表示装置は、透過型や反射型だけでなく、透過反射両用型の液晶表示装置(例えば、特開平11−101992号公報参照)を構成することができる。
透過反射両用型液晶表示装置(以下、「両用型液晶表示装置」と略す)は、絵素領域内に、透過モードで表示を行う透過領域Tと、反射モードで表示を行う反射領域Rとを有する液晶表示装置を指す(図21(a)参照)。透過領域Tおよび反射領域Rは、典型的には、透明電極および反射電極によって規定される。反射電極に代えて、反射層と透明電極との組み合わせた構造によって、反射領域を規定することもできる。
この両用型液晶表示装置は、反射モードと透過モードとを切り替えて表示すること、または同時に両方の表示モードで表示することもできる。したがって、例えば、周囲光が明るい環境下では反射モードの表示を、暗い環境では透過モードの表示を実現することができる。また、両方のモードの表示を同時に行うと、透過モードの液晶表示装置を周囲光が明るい環境下(蛍光灯の光や太陽光が直接特定の角度で表示面に入射する状態)で使用したときに見られるコントラスト比の低下を抑制することができる。このように、透過型液晶表示装置の欠点を補うことができる。なお、透過領域Tと反射領域Rとの面積の比率は、液晶表示装置の用途に応じて適宜設定され得る。また、専ら透過型として用いる液晶表示装置においては、反射モードでの表示ができない程度にまで反射領域の面積比率を小さくしても、上述した透過型液晶表示装置の欠点を補うことができる。
図21(a)に示したように、例えば、液晶表示装置300の上層電極14を反射電極とし、下層電極12を透明電極とすることによって、両用型液晶表示装置を得ることができる。両用型液晶表示装置は、この例に限られず、上述した液晶表示装置において、上層電極14および下層電極12の内のいずれか一方を透明導電層とし、他方を反射導電層とすることによって得られる。但し、反射モードと透過モードの表示の電圧−透過率特性を互いに整合させるためには、反射領域Rの液晶層30の厚さ(例えば図22(a)のd1)が、透過領域Tの液晶層30の厚さ(例えば図22(b)のd2)の約半分となるように構成することが好ましい。勿論、液晶層の厚さを調整する代わりに、上層電極14に印加する電圧と、下層電極12に印加する電圧とを調整してもよい。
(第2配向規制構造)
次に、第2配向規制構造の具体的な構造と作用を説明する。これまでの説明にそって、第1配向規制構造がTFT基板に設けられ、第2配向規制構造が対向基板に設けられている場合について説明する。本発明による液晶表示装置は、液晶分子を基板面に対して垂直配向させるための構成(例えば一対の基板の液晶層側に設けられた垂直配向膜)に加え、上述したような液晶分子を放射状傾斜配向させるための第1配向規制構造と、後述するように第1配向規制構造と協同的に液晶分子を放射状傾斜配向させる(放射状傾斜配向状態を安定化させる)ための第2配向規制構造とを有している。
図24(a)〜(e)に、第2配向規制構造28を有する対向基板600bを模式的に示す。上述の液晶表示装置と実質的に同じ構成要素には共通の参照符号を付して、その説明をここでは省略する。
図24(a)〜(e)に示した第2配向規制構造28は、液晶層30の液晶分子30aを放射状傾斜配向させるように作用する。但し、図24(a)〜(d)に示した配向規制構造28と図24(e)に示した配向規制構造28とでは、液晶分子30aを傾斜させる方向が異なっている。
図24(a)〜(d)に示した第2配向規制構造28による液晶分子の傾斜方向は、第1配向規制構造によって絵素電極14の単位中実部14b’(例えば図1参照)に対応する領域に形成される液晶ドメインの放射状傾斜配向の配向方向と整合する。これに対し、図24(e)に示した第2配向規制構造28による液晶分子の傾斜方向は、第1配向規制構造によって絵素電極14の開口部14a(例えば図1参照)に対応する領域に形成される液晶ドメインの放射状傾斜配向の配向方向と整合する。
図24(a)に示した第2配向規制構造28は、対向電極22の開口部22aと、開口部22aに対向する絵素電極(または上層電極:ここでは不図示、例えば図1(a)参照)14の中実部14bによって構成されている。なお、対向基板600bの液晶層30側の表面には垂直配向膜(不図示)が設けられている。
この第2配向規制構造28は、上述の第1配向規制構造と同様に、電圧印加時にのみ配向規制力を発現する。第2配向規制構造28は、第1配向規制構造によって形成される放射状傾斜配向をとる液晶ドメイン内の液晶分子に対して配向規制力を作用すればよいので、開口部22aの大きさは、絵素電極14に設けられる開口部14aよりも小さく、また、開口部14aによって包囲される単位中実部14b’(例えば図1(a)参照)よりも小さい。例えば、開口部14aや単位中実部14b’の面積の半分以下で十分な効果を得ることができる。対向電極22の開口部22aを絵素電極14の単位中実部14b’の中央部に対向する位置に設けることによって、液晶分子の配向の連続性が高くなり、且つ、放射状傾斜配向の中心軸の位置を固定することができる。
このように、第2配向規制構造として、電圧印加時にのみ配向規制力を発現する構造を採用すると、電圧無印加状態において液晶層30のほとんど全ての液晶分子30aが垂直配向状態をとるので、ノーマリブラックモードを採用した場合に、黒表示状態において光漏れがほとんど発生せず、良好なコントラスト比の表示を実現できる。
但し、電圧無印加状態に配向規制力が発生しないので放射状傾斜配向が形成されず、また、印加電圧が低いときには配向規制力が小さいので、あまり大きな応力が液晶パネルに印加されると、残像が視認されることがある。
図24(b)〜(d)に示した第2配向規制構造28は、電圧の印加無印加に関わらず、配向規制力を発現するので、全ての表示階調において安定した放射状傾斜配向が得られ、応力に対する耐性にも優れている。
まず、図24(b)に示した第2配向規制構造28は、対向電極22上に液晶層30側に突き出た凸部22bを有する。凸部22bを形成する材料に特に制限はないが、樹脂などの誘電体材料を用いて容易に形成することができる。なお、対向基板600bの液晶層30側の表面には垂直配向膜(不図示)が設けられている。凸部22bは、その表面(垂直配向性を有する)の形状効果によって、液晶分子30aを放射状に傾斜配向させる。また、熱によって変形する樹脂材料を用いると、パターニングの後の熱処理によって、図24(b)に示したような、なだらかな丘上の断面形状を有する凸部22bを容易に形成できるので好ましい。図示したように、頂点を有するなだらかな断面形状(例えば球の一部)を有する凸部22bや円錐状の形状を有する凸部は、放射状傾斜配向の中心位置を固定する効果に優れている。
図24(c)に示した第2配向規制構造28は、対向電極22の下(基板21側)に形成された誘電体層23に設けられた開口部(凹部でもよい)23a内の液晶層30側の水平配向性表面によって構成されている。ここでは、対向基板600bの液晶層30側に形成される垂直配向膜24を、開口部23a内にだけ形成しないことで、開口部23a内の表面を水平配向性表面としている。これに代えて、図24(d)に示したように、開口部23a内にだけ、水平配向膜25を形成してもよい。
図24(d)に示した水平配向膜は、例えば、一旦対向基板600bの全面に垂直配向膜24を形成し、開口部23a内に存在する垂直配向膜24に選択的に紫外線を照射するなどして、垂直配向性を低下させることよって形成してもよい。第2配向規制構造28を構成するために必要な水平配向性は、TN型液晶表示装置に用いられている配向膜のようにプレチルト角が小さい必要はなく、例えば、プレチルト角が45°以下であればよい。
図24(c)および(d)に示したように、開口部23a内の水平配向性表面上では、液晶分子30aが基板面に対して水平に配向しようとするので、周囲の垂直配向膜24上の垂直配向している液晶分子30aの配向と連続性を保つような配向が形成され、図示したような放射状傾斜配向が得られる。
対向電極22の表面に凹部(誘電体層23の開口部によって形成される)を設けずに、対向電極22の平坦な表面上に、水平配向性表面(電極の表面または水平配向膜など)を選択的に設けるだけでも放射状傾斜配向が得られるが、凹部の形状効果によって、放射状傾斜配向をさらに安定化することができる。
対向基板600bの液晶層30側の表面に凹部を形成するために、例えば、誘電体層23として、カラーフィル層やカラーフィルタ層のオーバーコート層を用いると、プロセスが増加することが無いので好ましい。また、図24(c)および(d)に示した構造は、図24(a)に示した構造のように、凸部22bを介して液晶層30に電圧が印加される領域が存在しないので、光の利用効率の低下が少ない。
図24(e)に示した第2配向規制構造28は、図24(d)に示した第2配向規制構造28と同様に、誘電体層23の開口部23aを用いて、対向基600bの液晶層30側に凹部を形成し、その凹部の底部にのみ、水平配向膜26を形成している。水平配向膜26を形成する代わりに、図24(c)に示したように、対向電極22の表面を露出させてもよい。
上述した、第1配向規制構造および第2配向規制構造を備える液晶表示装置600を図25(a)および(b)に示す。図25(a)は上面図であり、図25(b)は、図25(a)中の25B−25B’線に沿った断面図に相当する。
液晶表示装置600は、第1配向規制構造を構成する開口部14aを有する絵素電極14を有するTFT基板100aと、第2配向規制構造28を有する対向基板600bとを有している。なお、第1配向規制構造は、ここで例示する構成に限られず、前述した種々の構成を適宜用いることができる。また、第2配向規制構造28として、電圧無印加時にも配向規制力を発現するもの(図24(b)〜(d)および図24(e))を例示するが、図24(b)〜(d)に示した第1配向規制構造に代えて、図24(a)に示したものを用いることもできる。
液晶表示装置600の対向基板600bに設けられている第2配向規制構造28のうち、絵素電極14の中実部14bに対向する領域の中央付近に設けられている第2配向規制構造28は、図24(b)〜(d)に示したもののいずれかであり、絵素電極14の開口部14aに対向する領域の中央付近に設けられている第2配向規制構造28は、図24(e)に示したものである。
このように配置することによって、液晶層30に電圧を印加した状態、すなわち、絵素電極14と対向電極22との間に電圧を印加した状態において、第1配向規制構造によって形成される放射状傾斜配向の方向と、第2配向規制構造28によって形成される放射状傾斜配向の方向が整合し、放射状傾斜配向が安定化する。この様子を図26(a)〜(c)に模式的に示している。図26(a)は電圧無印加時を示し、図26(b)は電圧印加後に配向が変化し始めた状態(ON初期状態)を示し、図26(c)は電圧印加中の定常状態を模式的に示している。
第2配向規制構造(図24(b)〜(d))による配向規制力は、図26(a)に示したように、電圧無印加状態においても、近傍の液晶分子30aに作用し、放射状傾斜配向を形成する。
電圧を印加し始めると、図26(b)に示したような等電位線EQで示される電界が発生し(第1配向規制構造による)、開口部14aおよび中実部14bに対応する領域に液晶分子30aが放射状傾斜配向した液晶ドメインが形成され、図26(c)に示したような定常状態に達する。このとき、それぞれの液晶ドメイン内の液晶分子30aの傾斜方向は、対応する領域に設けられた第2配向規制構造28の配向規制力による液晶分子30aの傾斜方向と一致する。
定常状態にある液晶表示装置600に応力が印加されると、液晶層30の放射状傾斜配向は一旦崩れるが、応力が取り除かれると、第1配向規制構造および第2配向規制構造による配向規制力が液晶分子30aに作用しているので、放射状傾斜配向状態に復帰する。従って、応力による残像の発生が抑制される。第2配向規制構造28による配向規制力が強すぎると、電圧無印加時にも放射状傾斜配向によるリタデーションが発生し、表示のコントラスト比を低下するおそれがあるが、第2配向規制構造28による配向規制力は、第1配向規制構造によって形成される放射状傾斜配向の安定化および中心軸位置を固定する効果を有せばいいので、強い配向規制力は必要なく、表示品位を低下させるほどのリタデーションを発生させない程度の配向規制力で十分である。
例えば、図24(b)に示した凸部22bを採用する場合、直径が約30μm〜約35μmの単位中実部14b’に対して、それぞれ直径が約15μmで高さ(厚さ)が約1μmの凸部22を形成すれば、十分な配向規制力が得られ、且つ、リタデーションによるコントラスト比の低下も実用上問題の無いレベルに抑えられる。
図27(a)および(b)に、第1配向規制構造および第2配向規制構造を備える他の液晶表示装置700を示す。
液晶表示装置700は、TFT基板100aの絵素電極14の開口部14aに対向する領域には第2配向規制構造を有していない。開口部14aに対向する領域に形成されるべき図24(e)に示した第2配向規制構造28を形成することはプロセス上の困難さを伴うので、生産性の観点からは、図24(a)〜(d)に示した第2配向規制構造28のいずれかだけを用いることが好ましい。特に、図24(b)に示した第2配向規制構造28は簡便なプロセスで製造できるので好ましい。
液晶表示装置700のように、開口部14aに対応する領域に第2配向規制構造を設けなくとも、図28(a)〜(c)に模式的に示したように、液晶表示装置600と同様の放射状傾斜配向が得られ、その耐応力性も実用上問題が無い。
図29(a)、(b)および(c)に、第1配向規制構造および第2配向規制構造を備える液晶表示装置の一例を示す。図29(a)、(b)および(c)は、第1配向規制構造および第2配向規制構造を備える液晶表示装置800を模式的に示す断面図である。図29(a)は電圧無印加時を示し、図29(b)は電圧印加後に配向が変化し始めた状態(ON初期状態)を示し、図29(c)は電圧印加中の定常状態を模式的に示している。
液晶表示装置800は、絵素電極14の開口部14aの内側に、図17に示した凸部40を備えている。また、絵素電極14の中実部14bに対向する領域の中央付近に設けられている第2配向規制構造28として、図24(b)に示した凸部22bを備えている。
液晶表示装置800においては、凸部40の側面40sによる配向規制力と、凸部22bの表面による配向規制力とによって、放射状傾斜配向が安定化される。上述した凸部40および凸部22bの形状効果による配向規制力は、印加電圧に関係なく放射状傾斜配向状態を安定させるので、液晶表示装置800は、良好な耐応力性を備えている。
なお、第2配向規制構造28として、図24(b)に示したような、対向電極22上に液晶層30側に突き出た凸部22bを採用する場合には、凸部22bによって液晶層30の厚さが規定される構成としてもよい。すなわち、凸部22bがセルギャップ(液晶層30の厚さ)を制御するスペーサとしても機能する構成としてもよい。
図30(a)および(b)に、スペーサとしても機能する凸部22bを備えた液晶表示装置900を示す。図30(a)は、基板法線方向から見た上面図であり、図30(b)は図30(a)中の30B−30B’線に沿った断面図に相当する。
図30(a)および(b)に示すように、液晶表示装置900は、第2配向規制構造28として絵素電極14の中実部14b’に対向する領域の中央付近に設けられた凸部22bによって、液晶層30の厚さが規定されている。従って、このような構成を採用すると、液晶層30の厚さを規定するスペーサを別途に設ける必要がなく、製造プロセスを簡略化することができる利点がある。
ここでは、凸部22bは、図30(b)に示すように円錐台状であり、基板21の基板面に対して90°未満のテーパ角θで傾斜した側面22b1を有している。このように、側面22b1が基板面に対して90°未満の角度で傾斜していると、凸部22bの側面22b1は、液晶層30の液晶分子30aに対して、斜め電界による配向規制方向と同じ方向の配向規制力を有することになり、放射状傾斜配向を安定させるように作用する。
スペーサとしても機能する凸部22bを備えた液晶表示装置900においても、図31(a)〜(c)に模式的に示すように、液晶表示装置600および700と同様の放射状傾斜配向が得られる。
なお、図30(b)においては、基板面に対して90°未満の角度で傾斜した側面22b1を有する凸部22bを示したが、基板面に対して90°以上の角度で傾斜した側面22b1を有する凸部22bであってもよい。放射状傾斜配向を安定化させる観点からは、側面22b1の傾斜角度が90°を大きく超えないことが好ましく、90°未満であることがさらに好ましい。傾斜角度が90°を超える場合であっても、90°に近ければ(90°を大きく超えなければ)、凸部22bの傾斜側面22b1近傍の液晶分子31は、基板面に対してほぼ水平な方向に傾斜しているので、若干の捩れを発生させるだけで、エッジ部の液晶分子31の傾斜方向と整合をとりながら放射状傾斜配向する。ただし、図32に示すように、凸部22bの側面22b1が90°を大きく超えて傾斜していると、凸部22bの側面22b1は、液晶層30の液晶分子30aに対して、斜め電界による配向規制方向と逆方向の配向規制力を有することになるので、放射状傾斜配向が不安定となることがある。
また、スペーサとしても機能する凸部22bとしては、図30(a)および(b)に示した円錐台状のものに限定されない。例えば、図33に示すように、基板面に垂直な面内方向の断面形状が楕円の一部であるような(すなわち楕球の一部のような形状を有する)凸部22bを用いてもよい。図33に示した凸部22bにおいては、側面22b1の基板面に対する傾斜角(テーパ角)が液晶層30の厚さ方向に沿って変化するが、液晶層30の厚さ方向のどこの位置においても側面22b1の傾斜角は90°未満であるため、このような凸部22bも放射状傾斜配向を安定させる凸部として好適に用いることができる。
なお、上述したように上下の基板(TFT基板および対向基板)に接し、液晶層30の厚さを規定するスペーサとしても機能する凸部22bは、液晶表示装置の製造プロセスにおいて、上下のいずれの基板に形成されてもよい。いずれの基板に形成されていても、上下の基板が貼り合わされると、凸部22bは両方の基板に接し、スペーサとして機能するとともに、第2配向規制構造としても機能する。
(偏光板、位相差板の配置)
負の誘電率異方性を有する液晶分子が電圧無印加時に垂直配向する液晶層を備える、いわゆる垂直配向型液晶表示装置は、種々の表示モードで表示を行うことができる。例えば、液晶層の複屈折率を電界によって制御することによって表示する複屈折モードの他に、旋光モードや旋光モードと複屈折モードとを組み合わせて表示モードに適用される。上述した全ての液晶表示装置の一対の基板(例えば、TFT基板と対向基板)の外側(液晶層30と反対側)に一対の偏光板を設けることによって、複屈折モードの液晶表示装置を得ることができる。また、必要に応じて、位相差補償素子(典型的には位相差板)を設けてもよい。更に、略円偏光を用いても明るい液晶表示装置を得ることができる。