JP4693301B2 - マイコバクテリウムバッカエ由来ギ酸脱水素酵素の変異体、およびその用途 - Google Patents

マイコバクテリウムバッカエ由来ギ酸脱水素酵素の変異体、およびその用途 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)由来ギ酸脱水素酵素の変異体、該変異体をコードするDNA、およびこれらを利用した酸化型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)から還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、光学活性(S)-4-ハロ-3-ヒドロキシ酪酸エステルの製造方法として、パン酵母など微生物を用いた不斉還元法(特開昭61−146191、特開平6−209782等)が知られていた。しかし、菌体内に複数の還元酵素を有するため、生成物の光学純度が低い、収率が悪いなど工業的な利用は困難であった。光学活性(S)-4-ハロ-3-ヒドロキシ酪酸エステルは、医薬品などの中間体に利用される化合物で、光学的に純粋な対掌体をいかにして入手(合成または分割)するかは、産業上重要な課題となっていた。
【0003】
また、4-ハロアセト酢酸エステルから(S)-4-ハロ-3-ヒドロキシ酪酸エステルを生成する酵素としてクライベロマイセス・アエスチュアリ(Kluyveromyces aestuarii)由来のカルボニル還元酵素(特開2000-236883)が知られており、この酵素による(S)-4-ハロ-3-ヒドロキシ酪酸エステルの合成方法が報告された。しかし、この酵素を用いて光学活性アルコールを製造するためには、補酵素として化学量論量の還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)を必要とする。この補酵素は極めて高価であるため、単純に補酵素を必要量使用する方法は、工業的規模で実施する場合に経済的に不利であり、経済的に有利なプロセスを構築するためには、補酵素酸化型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)をNADHに還元する反応によって、補酵素を繰り返し利用することが重要となる。
【0004】
これまでのところ、補酵素NAD+をNADHに還元するために、ギ酸脱水素酵素を使用した例(Methods in Enzymology 136,9-21, 1987)や、グルコース脱水素酵素(特開2000-236883)を使用した例が報告されている。しかしながら、グルコース脱水素酵素はグルコースからグルコン酸への変換を行うために、目的とする光学活性アルコールと等量のグルコン酸が生成するという問題があった。
【0005】
一方、ギ酸脱水素酵素はギ酸から炭酸への変換であり、生成した炭酸は二酸化炭素として系内から効率的に除去されるために、経済的にも有利なプロセスとなりうる。しかし、ギ酸脱水素酵素を使用することの欠点は、酵素自身の安定性が高くないために、失活が起こりやすいことであった。この失活は、種々のファクター、pH値、温度、機械的負荷、基質溶液のイオン強度およびイオン種、重金属、酸素によるチオール基の酸化などによって影響を及ぼされることが知られている(特開平 11−225784)。このため、以下に挙げた突然変異により安定性をあげる方法が知られている。
【0006】
ティシュコフ(Tishkov)らは、シュードモナス(Pseudomonas)sp.101 からのギ酸脱水素酵素を部位特異的変異により、256位のシステインをセリンやメチオニンに置換し、水銀に対する安定性を増大させたが、熱安定性が減少することを示した(Biochem. Biophys. Res. Commun. 192, 4480−4485, 1993)。同じく131位、160位、168位、184位、228位のセリンをアラニンやバリン、ロイシンに置換し、熱安定性を増大させた変異体に関しても報告している(FEBS Letters 445, 183-188, 1999)。
【0007】
また、スルザルクジク(Slusarczyk)らは、キャンディダ ボイジニイからのギ酸脱水素酵素を部位特異的変異により、23位のシステインをセリンに、262位のシステインをバリン、アラニンに置換することにより、銅に対する安定性、弱アルカリ領域での安定性を増大させたが、熱安定性が減少することを示した(Eur. J. Biochem. 267, 1280-1289, 2000)。
【0008】
このような研究努力にも関わらず、上記の酵素を利用して補酵素NADHを再生しながらケトンなどの酸化型基質からアルコールなどの還元型生成物を製造する過程において、ギ酸脱水素酵素の活性が低下し、収率が低くなるという問題が存在していた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、補酵素NADHを再生しながら酸化型基質から還元型生成物を製造する過程においても活性の低下しないギ酸脱水素酵素を提供することにある。さらに、本発明は、このような酵素を利用して効率的に酸化型基質から還元型生成物を製造することをも目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、まず、上記還元型生成物の製造過程におけるギ酸脱水素酵素の活性の低下の原因の究明を行った。その結果、原料であるケトンに代表される有機溶媒の存在によってギ酸脱水素酵素の失活が速やかに起こるためであることを見出した。そこで本発明者らは、有機溶媒に耐性を示す、もしくは有機溶媒によって活性が増大するようなギ酸脱水素酵素の変異体の探索を試みた。ギ酸脱水素酵素の変異体を種々構築し、探索した結果、マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素(配列番号:2)の146位のシステイン残基を改変することによって、有機溶媒非存在下と比較して有機溶媒存在下により活性が増大する性質を示すギ酸脱水素酵素の変異体を構築することに成功した。
【0011】
また、256位のシステイン残基を改変することによっても、有機溶媒に対して耐性を示すギ酸脱水素酵素の変異体を得ることができることを見出した。
【0012】
さらに本発明者らは、これら酵素変異体をコードするDNA、およびケトンからアルコールへの還元反応を司るカルボニル還元酵素をコードするDNAを有する発現ベクターを構築し、ギ酸脱水素酵素とカルボニル還元酵素の両方を大腸菌において同時に発現させることに成功した。これら発現させた酵素を用いることにより、補酵素NADHを再生しながら酸化型基質、例えばケトンから該基質の還元型生成物、例えばアルコールの効率的な製造が可能となった。
【0013】
本発明者らは上記の如く、有機溶媒存在下により活性が増大し、有機溶媒に耐性を示すギ酸脱水酵素変異体を構築し、さらに該酵素およびカルボニル還元酵素を同時に発現させることにより、効率的に酸化型基質から該基質の還元型生成物を製造する方法を見出し、本発明を完成させた。
【0014】
即ち本発明は、以下の蛋白質、並びに該蛋白質を利用して効率的に酸化型基質から還元型生成物を製造する方法に関する。
〔1〕 配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、少なくとも146位および/または256位のシステイン残基が、システイン以外のアミノ酸へ置換された変異を含む蛋白質であって、有機溶媒存在下で高いギ酸脱水素酵素活性を有する蛋白質。
〔2〕 146位の置換アミノ酸がセリンまたはバリンである〔1〕に記載の蛋白質。
〔3〕 256位の置換アミノ酸が、セリン、アラニン、またはバリンのいずれかのアミノ酸である〔1〕に記載の蛋白質。
〔4〕 配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、少なくとも146位および256位のシステイン残基が、システイン以外のアミノ酸へ置換された変異を含む〔1〕に記載の蛋白質。
〔5〕 146位の置換アミノ酸がセリンまたはバリンであり、256位の置換アミノ酸がセリン、アラニン、またはバリンのいずれかのアミノ酸である〔4〕に記載の蛋白質。
〔6〕 配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、更に6位のシステイン残基がシステイン以外のアミノ酸へ置換された変異を含む、〔1〕に記載の蛋白質。
〔7〕 6位の置換アミノ酸が、セリン、アラニン、またはバリンのいずれかのアミノ酸である、〔6〕に記載の蛋白質。
〔8〕配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、下記(1)〜(13)からなる群から選択されたいずれかの変異を有するアミノ酸配列からなる蛋白質。
(1)6位、146位、および256位のシステイン残基が共にセリンに置換されたアミノ酸配列、
(2)6位のシステイン残基がアラニンに、256位のシステイン残基がセリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(3)6位のシステイン残基がバリンに、256位のシステイン残基がセリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(4)6位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がアラニンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(5)6位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(6)146位のシステイン残基がセリンに置換されたアミノ酸配列、
(7)256位のシステイン残基がセリンに置換されたアミノ酸配列、
(8)146位および256位のシステイン残基が共にセリンに置換されたアミノ酸配列、
(9)256位のシステイン残基がバリンに置換されたアミノ酸配列、
(10)146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(11)6位のシステイン残基がアラニンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(12)6位のシステイン残基がアラニンに、146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(13)6位および146位のシステイン残基がアラニンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
〔9〕 〔1〕または〔8〕に記載の蛋白質をコードするDNA。
〔10〕 〔9〕に記載のDNAが挿入されたベクター。
〔11〕 更に還元酵素をコードするDNAが挿入された〔10〕に記載のベクター。
〔12〕 還元酵素がクライベロマイセス アエスチュアリ(Kluyberomyces aestuarii)に由来するカルボニル還元酵素である〔11〕に記載のベクター。
〔13〕 〔10〕に記載のベクターを保持する形質転換体。
〔14〕 宿主細胞が微生物である〔13〕に記載の形質転換体。
〔15〕 〔13〕に記載の形質転換体を培養する工程を含む、〔1〕または〔8〕に記載の蛋白質を製造する方法。
〔16〕 〔11〕に記載のベクターを保持する形質転換体を培養する工程を含む、〔1〕または〔8〕に記載の蛋白質、および還元酵素を製造する方法。
〔17〕 還元酵素が、クライベロマイセス アエスチュアリ由来カルボニル還元酵素である〔16〕に記載の方法。
〔18〕 下記の(a)から(c)のいずれかを酸化型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドに接触させる工程を含む、酸化型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドから還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを製造する方法。
(a)〔1〕または〔8〕に記載の蛋白質、
(b)〔10〕に記載の形質転換体、および
(c)(b)に記載の形質転換体の処理物
〔19〕 次の工程を含む酸化型基質から該基質の還元型生成物を製造する方法。
(1)〔18〕に記載の方法によって還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを製造する工程、および
(2)工程(1)の還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、酸化型基質、および還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの存在下で前記酸化型基質から還元型生成物を生成し得る還元酵素とを接触させ、生成する還元型生成物を回収する工程
〔20〕 酸化型基質がケトンであり、該基質の還元型生成物がアルコールである〔19〕に記載の方法。
〔21〕 ケトンが4−ハロアセト酢酸エステルであり、アルコールが(S)−4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルである〔20〕に記載の方法。
〔22〕 還元酵素がクライベロマイセス アエスチュアリ由来カルボニル還元酵素である〔19〕に記載の方法。
〔23〕 還元酵素が、〔16〕に記載の方法によって製造されたものである〔19〕に記載の方法。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明は、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)由来のギ酸脱水素酵素の変異体を提供する。
【0016】
本発明の該変異体の一つの好ましい態様は、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)由来のギ酸脱水素酵素(配列番号:2)において、少なくとも146位のシステイン残基がシステイン以外のアミノ酸へ置換された変異を含む変異体(以下、「146変異体」と称する)である。146位の置換アミノ酸は、好ましくはセリンまたはバリンである。146変異体は、146位のシステイン残基がシステイン以外のアミノ酸へ置換されたものであれば、146位以外のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入などの変異を有していてもよい。このような変異は、人為的に導入することもできるし、自然界において生じることもある。本発明の変異体には、これら双方の変異体が含まれる。146変異体における変異するアミノ酸数は、通常、50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内)である。
【0017】
本発明の蛋白質において、146位、あるいは256以外の位置にアミノ酸の欠失、付加、あるいは挿入などの変異を伴うときには、N末端からカウントしたシステイン残基の位置が変動する場合がある。このような場合には、変動後のアミノ酸配列における、配列番号:2において、少なくとも146位および/または256位に相同な位置にあるシステインを他のアミノ酸配列に置換して、本発明による蛋白質とする。すなわち本発明の蛋白質には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、146位および/または256位に相同な位置のアミノ酸を、システイン以外のアミノ酸に置換した蛋白質であって、有機溶媒存在下で高いギ酸脱水素酵素活性を有する蛋白質が含まれる。
相同な位置は、システインの周辺のアミノ酸配列を配列番号:2におけるシステイン周辺のアミノ酸配列と整列させることによって明らかにすることができる。このような操作は、アミノ酸配列のアライメントと呼ばれる。アライメントのためのアルゴリズムとして、たとえばBLASTを示すことができる。当業者は、異なる長さのアミノ酸配列の間で、アライメントにより相同なアミノ酸の位置を明らかにすることができる。
【0018】
146変異体は、好ましくは、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)由来のギ酸脱水素酵素(配列番号:2)と比較して、有機溶媒存在下において高いギ酸脱水素酵素活性を示す変異体である。
本発明において、「ギ酸脱水素酵素活性が高い」とは、有機溶媒存在下において、有機溶媒が存在しない場合の酵素活性に比較して、少なくとも70%以上、たとえば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の酵素活性を有することを言う。天然のギ酸脱水素酵素は、有機溶媒の存在下ではわずかな酵素活性しか認めることができない。
また本発明において有機溶媒に対して耐性を有するとは、一定の期間にわたって当該酵素が有機溶媒の存在下に置かれた後に、なお高い酵素活性を維持していることを言う。たとえば本発明の蛋白質は、20μMの4-クロロアセト酢酸エチルの存在下で25℃20分間保存後に、なお90%以上の酵素活性を維持している。天然のギ酸脱水素酵素は、このような条件下では大部分の酵素活性を失ってしまう(8%以下)。
更に本発明に基づく好ましい変異体は、有機溶媒の存在下で酵素活性が活性化される。本発明において酵素の活性化とは、有機溶媒存在下における酵素活性が、不存在下における活性の100%以上、好ましくは105%以上、例えば100〜250%の活性を示すことを言う。また有機溶媒の存在下とは、水性溶媒に対して有機溶媒が1μM以上、たとえば5〜500μM、具体的には5〜50μM、より具体的には10〜30μMの有機溶媒が存在することを言う。
【0019】
有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル等の酢酸エステル類、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル等のアセト酢酸エステル類、4−クロロアセト酢酸エチル、4−クロロアセト酢酸メチル等の4−ハロ−3−オキソ酪酸エステル類等を挙げることができるが、これらの有機溶媒に限定されない。
【0020】
146変異体は、少なくとも一つの有機溶媒において高いギ酸脱水素酵素活性を示すものである。ギ酸脱水素酵素活性は、当業者によって一般的に行われる方法によって測定することができる。例えば、以下の方法を例示することができる。リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0、100mM)、NAD+ 2.5mM、ギ酸ナトリウム 100mM および酵素を含む反応液中 25℃で反応させ、NADHの増加にともなう 340nmの吸光度の増加を測定する。1U は、1分間に1μmolのNADHの増加を触媒する酵素量とする。また、タンパク質の定量は、バイオラッド製タンパク質アッセイキットを用いた色素結合法により行う。基質としてギ酸ナトリウムの代わりに、有機溶媒、特に4−クロロアセト酢酸エチルを用いた場合には、この条件では340nmにおける吸光度の変化は観察されない。
【0021】
本発明の変異体の他の好ましい態様は、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)由来のギ酸脱水素酵素(配列番号:2)において、256位のシステイン残基がシステイン以外のアミノ酸へ置換された変異を少なくとも含む変異体(以下、「256変異体」と称する)である。256位の置換アミノ酸は、好ましくは、セリン、アラニン、またはバリンである。256変異体は、256位のシステイン残基がシステイン以外のアミノ酸へ置換されたものであれば、256位以外のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入などの変異を有していてもよい。このような変異は、人為的に導入することもできるが、自然界において生じることもある。本発明の変異体には、これら双方の変異体が含まれる。256変異体における変異するアミノ酸数は、通常、50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内)である。
256変異体は、好ましくは、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)由来のギ酸脱水素酵素(配列番号:2)と比較して、有機溶媒に対し高い耐性を示す。有機溶媒としては、例えば、4−クロロアセト酢酸エチルエステル、4−ブロモアセト酢酸エチルエステル、4−ヨード酢酸エチルエステル、4−クロロアセト酢酸メチル、4−クロロアセト酢酸プロピル等の4−ハロ−3−オキソ酪酸エステル類、クロロアセトフェノン、ブロモアセトフェノン等のハロアセトフェノン、また3−クロロ−1−フェニル−2−プロパノン、3−ブロモ−1−フェニル−2−プロパノン等の、3−ハロ−1−フェニル−2−プロパノン誘導体等を挙げることができるが、これらの有機溶媒に限定されない。256変異体は、少なくとも一つの有機溶媒において高い耐性を示すものである。ギ酸脱水素酵素の有機溶媒耐性、例えば4−クロロアセト酢酸エチル耐性は、次のようにして測定することができる。
【0022】
リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0、100mM)、4−クロロアセト酢酸エチル 20mM、ギ酸脱水素酵素を含む反応液中 25℃、20分保持後、NAD+ を 2.5mM、ギ酸ナトリウムを 100mMになるように加え、反応液中 25℃で反応させ、NADHの増加にともなう 340nmの吸光度の増加を測定する。対照実験としては、リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0、100mM)、ギ酸脱水素酵素を含む反応液中 25℃、20分保持後、NAD+を 2.5mM、ギ酸ナトリウムを100mM、4−クロロアセト酢酸エチルを20mMになるように加え、反応液中 25℃で反応させ、NADHの増加にともなう340nmの吸光度の増加を測定する。
【0023】
本発明の変異体のさらなる好ましい態様は、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)由来のギ酸脱水素酵素(配列番号:2)において、上記146位および256位の両システイン残基が共にシステイン以外のアミノ酸へ置換された変異を少なくとも含むような変異体(以下、「146−256変異体」と称する)である。146位の置換アミノ酸は、好ましくは、セリンまたはバリンであり、256位の置換アミノ酸は、好ましくは、セリン、アラニン、またはバリンである。146位および256位の両システイン残基が共にシステイン以外のアミノ酸へ置換されたものであれば、146位および256位以外のアミノ酸の変異については特に制限されない。
146−256変異体は、好ましくは、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)由来のギ酸脱水素酵素(配列番号:2)と比較して、有機溶媒存在下において高いギ酸脱水酵素活性を示し、かつ、有機溶媒に対して高い耐性を示す。
【0024】
本発明の変異体の他の態様は、上述のマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の146位および/または256位の変異に加えて、6位のシステイン残基がシステイン以外のアミノ酸に置換した変異を含むギ酸脱水酵素の変異体である。6位の置換アミノ酸は、好ましくは、セリン、アラニン、またはバリンである。該変異体は、好ましくは、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)由来のギ酸脱水素酵素(配列番号:2)と比較して、有機溶媒存在下における高いギ酸脱水酵素活性および/または有機溶媒に対する高い耐性を示す。
【0025】
本発明の好ましい変異体の具体例を以下に示す。
(a)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において、146位のシステイン残基がセリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(b)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において、256位のシステイン残基がセリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(c)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において、256位のシステイン残基がバリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(d)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がセリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(e)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がアラニンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(f)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(g)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において6位のシステイン残基がセリンに、146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がセリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(h)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において6位のシステイン残基がアラニンに、256位のシステイン残基がセリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(i)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において6位のシステイン残基がバリンに、256位のシステイン残基がセリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(j)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において6位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がアラニンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(k)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において6位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(l)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において6位のシステイン残基がアラニンに、146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(m)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において6位のシステイン残基がアラニンに、256位のシステイン残基がバリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(n)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において6位のシステイン残基がアラニンに、146位のシステイン残基がアラニンに、256位のシステイン残基がバリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
【0026】
上記(a)から(n)の変異体のうち、(a)で示した変異体は、有機溶媒存在下において高いギ酸脱水酵素活性を示す。(b)、(c)、(h)、(i)、(j)、(k)および(m)で示した変異体は、有機溶媒に対して高い耐性を示す。(d)、(f)、(g)、(l)および(n)で示した変異体は、有機溶媒存在下において高いギ酸脱水素酵素活性を示し、かつ有機溶媒に対して高い耐性を示す。
【0027】
本発明の上記変異体は、例えば、マイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水酵素のアミノ酸配列を改変することにより得ることができる。これらのタンパク質は、当業者によって一般的に行われる方法、例えば部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T. et al. (1995) Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Methods Enzymol. 100, 468-500)等を用いて作製することができる。具体的には後述の実施例で示される方法によって取得することができる。本願出願人は図2に示すpSFR415を有する大腸菌(JM109(pSFR415))、およびpSFR426を有する大腸菌(JM109(pSFR426))を寄託している。該プラスミドに挿入されたDNAは、本発明の変異体の作製において好適に利用することができる。
【0028】
なお、マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素における256位システイン残基周辺は、他のギ酸脱水素酵素においても保存された領域であり、256位システインは、例えばアスペルギルス ニデュランス(現エメリセラ ニデュランス)由来では224位システインに、ハンセヌラ ポリモルファ(現ピキア アングスタ)由来(SWISS:P33677)では228位システインに、ニューロスポラ クラッサ由来(SWISS:NEUFDHA)では228位システインに、シュードモナスsp. 101由来(SWISS:P33160)では255位システインに相当する。
また、同じくマイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素における146位システイン残基周辺は、他のギ酸脱水素酵素においても保存された領域であり、例えばシュードモナス(Pseudomonas)sp. 101由来(SWISS:P33160)では145位システインに相当する。(Appl. Microbiol. Biotechnol. 44, 479-483, 1995)。これら既知酵素においても部位特異的変異による改変によって、有機溶媒耐性を向上させる、および/または有機溶媒による活性化効果が期待できる。
【0029】
また本発明は、ギ酸脱水素酵素の変異体をコードするDNAに関する。本発明のギ酸脱水素酵素の変異体をコードするDNAは、例えば配列番号:1に記載されたマイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素をコードするDNAに、当業者によって一般的に行われる部位特異的変異導入法を用いて塩基置換を導入することによって得ることができる。
【0030】
本発明は、このようにして得られた本発明のギ酸脱水素酵素の変異体をコードするDNAを、公知の発現ベクターに挿入することによって作製されるギ酸脱水素酵素変異体発現ベクターを提供する。該発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養することにより、本発明のギ酸脱水素酵素の変異体を、組換え体タンパク質として得ることができる。
【0031】
さらに本発明は、本発明のギ酸脱水酵素の変異体をコードするDNA、および還元酵素をコードするDNAを、公知の発現ベクターに挿入することによって作製されるギ酸脱水酵素変異体および還元酵素の発現ベクターを提供する。該発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養することにより、本発明のギ酸脱水酵素変異体および還元酵素を、組換えタンパク質として得ることができる。該還元酵素としては、好ましくはカルボニル還元酵素である。具体的には、例えば下記の微生物由来のカルボニル還元酵素を挙げることができる。
・コリネバクテリウム(Corynebacterium)sp. ST-10 (Appl. Environ. Microbiol. 63, 3783-3788, 1997)
・キャンディダ パラプシロシス(Candida parapsilosis)IFO 1396(特開平 07-231785)
・アルカリゲネス ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)N9A(J. Bacteriol. 170, 5248-5256, 1988)
・コマモナス テリゲナ(Comamonas terrigena)(Biochim. Biophys. Acta 661, 74-86, 1981)
・ゲオトリカム キャンディダム(Geotrichum candidum)IFO 4597(特公平 01-27715)
・ハンセヌラ オフナエンシス(Hansenula ofunaensis)AKU 4328(J. Biosci. Bioeng. 88, 148-152 ,1999)
・ノカルディア エリスロポリス(Nocardia erythropolis)ATCC 4277(Appl. Environ. Microbiol. 61, 3729-3722, 1995)
・ノカルディア ファスカ(Nocardia fusca)
・ピキア(Pichia)sp. NRRL-Y-11328(J. Appl. Biochem. 3, 218-232 , 1981)
・シュードモナス(Pseudomonas)sp. PED (ATCC 49794)(US 5385833)
・ロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)DSM 743(J. Biotechnol. 33, 283-292, 1994)
・ロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)(Recl. Trav. Chim. Pays-Bas 115,239-243, 1996)
・ロドシュードモナス スフェロイデス(Rhodopseudomonas sphaeroides)(Tetrahedron Asym. 4, 1259-1269, 1993)
・スルフォロバス ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)MT-4(Biotechnol. Lett. 13, 31-34, 1991)
・ピキア フィンランディカ (Pichia finlandica) DSM 70280 (WO 01/61014)
【0032】
本発明においてギ酸脱水素酵素の変異体、および/または還元酵素を発現させるために、形質転換の対象となる微生物は、ギ酸脱水素酵素の変異体をコードするDNA、および/または還元酵素をコードするDNAを含む組み換えベクターにより形質転換され、ギ酸脱水素酵素の変異体、および/または還元酵素を発現することができる生物であれば特に制限されない。このような形質転換体および該形質転換体を培養する工程を含む本発明のギ酸脱水酵素変異体、および/または還元酵素を製造する方法も本発明に包含される。形質転換体の宿主生物として利用可能な微生物は、例えば以下のような微生物を示すことができる。
【0033】
・エシェリヒア(Escherichia)属、バチルス(Bacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、セラチア(Serratia)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリイウム(Corynebacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属等の宿主ベクター系の開発されている細菌
・ロドコッカス(Rhodococcus)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属等の宿主ベクター系の開発されている放線菌
・サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クライベロマイセス(Kluyveromyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、ヤロウイア(Yarrowia)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属等の宿主ベクター系の開発されている酵母
・ノイロスポラ(Neurospora)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、セファロスポリウム(Cephalosporium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属等の宿主ベクター系の開発されているカビ
【0034】
形質転換体の作製のための手順および宿主に適合した組み換えベクターの構築は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて行うことができる(例えば、Sambrookら、モレキュラー・クローニング、Cold Spring Harbor Laboratories)。微生物菌体内などにおいて、本発明のギ酸脱水素酵素の変異体遺伝子、および/または還元酵素遺伝子を発現させるためには、まず微生物中で安定に存在するプラスミドベクターまたはファージベクターへ本発明のDNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる。そのためには、転写・翻訳を制御するユニットにあたるプロモーターを本発明のDNA鎖の5'-側上流に、より好ましくはターミネーターを3'-側下流に、それぞれ組み込めばよい。このプロモーター、ターミネーターとしては、宿主として利用する微生物中において機能することが知られているプロモーター、ターミネーターを用いる。これら各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネータ−等に関しては、例えば「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」、特に酵母に関しては、Adv. Biochem. Eng. 43, 75-102 (1990)、Yeast 8, 423-488 (1992)、等に詳細に記載されている。
【0035】
エシェリヒア属、特に大腸菌エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)においては、プラスミドベクターとして、例えばpBR、pUC系プラスミドを利用でき、lac(β−ガラクトシダーゼ)、trp(トリプトファンオペロン)、tac、trc (lac、trpの融合)、λファージ PL、PR等に由来するプロモーター等が利用できる。また、ターミネーターとしては、trpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来のターミネーター等を用いることができる。
【0036】
バチルス属においては、ベクターとしてpUB110系プラスミド、pC194系プラスミド等が利用可能であり、染色体にインテグレートさせることも可能である。また、プロモーターまたはターミネーターとしてapr(アルカリプロテアーゼ)、 npr(中性プロテアーゼ)、またはamy(α−アミラーゼ)等が利用できる。
【0037】
シュードモナス属においては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)等の宿主ベクター系が開発されている。トルエン化合物の分解に関与するプラスミドTOLプラスミドを基本にした広宿主域ベクター(RSF1010等に由来する自律的複製に必要な遺伝子を含む)pKT240等が利用可能である。プロモーターまたはターミネーターとしては、リパーゼ(特開平5-284973)遺伝子等が利用できる。
【0038】
ブレビバクテリウム属、特にブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)においては、pAJ43(Gene 39, 281 (1985))等のプラスミドベクターが利用可能である。プロモーターまたはターミネーターとしては、大腸菌で使用されているプロモーター、ターミネーターがそのまま利用可能である。
【0039】
コリネバクテリウム属、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)においては、pCS11(特開昭57-183799)、pCB101(Mol. Gen. Genet. 196, 175 (1984)等のプラスミドベクターが利用可能である。
【0040】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属においては、pHV1301(FEMS Microbiol. Lett. 26, 239 (1985)、pGK1(Appl. Environ. Microbiol. 50, 94 (1985))等がプラスミドベクターとして利用可能である。
【0041】
ラクトバチルス(Lactobacillus)属においては、ストレプトコッカス属用に開発されたpAMβ1(J. Bacteriol. 137, 614 (1979))等が利用可能であり、プロモーターとして大腸菌で利用されているものが利用可能である。
【0042】
ロドコッカス(Rhodococcus)属においては、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)から単離されたプラスミドベクター等が利用可能である (J. Gen. Microbiol. 138,1003 (1992) )。
【0043】
ストレプトマイセス(Streptomyces)属においては、HopwoodらのGenetic Manipulation of Streptomyces: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratories (1985)に記載の方法に従って、プラスミドを構築することができる。特に、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)においては、pIJ486 (Mol. Gen. Genet. 203, 468-478, 1986)、pKC1064(Gene 103,97-99 (1991) )、pUWL-KS (Gene 165,149-150 (1995) )等が使用できる。また、ストレプトマイセス・バージニア(Streptomyces virginiae)においても、同様のプラスミドを使用することができる(Actinomycetol. 11, 46-53 (1997) )。
【0044】
サッカロマイセス(Saccharomyces)属、特にサッカロマイセス・セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae) においては、YRp系、YEp系、YCp系、YIp系プラスミド等が利用可能であり、染色体内に多コピー存在するリボソームDNAとの相同組み換えを利用したインテグレーションベクター(EP 537456など)は、多コピーで遺伝子を導入でき、かつ安定に遺伝子を保持できるため極めて有用である。また、ADH(アルコール脱水素酵素)、GAPDH(グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素)、PHO(酸性フォスファターゼ)、GAL(β−ガラクトシダーゼ)、PGK(ホスホグリセレートキナーゼ)、ENO(エノラーゼ)等のプロモーターおよびターミネーターが利用可能である。
【0045】
クライベロマイセス属、特にクライベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)においては、サッカロマイセス・セレビジアエ由来2μm系プラスミド、pKD1系プラスミド(J. Bacteriol. 145, 382-390 (1981))、キラー活性に関与するpGKl1由来プラスミド、クライベロマイセス属における自律増殖遺伝子KARS系プラスミド、リボソームDNA等との相同組み換えにより染色体中にインテグレート可能なベクタープラスミド(EP 537456など)などが利用可能である。また、ADH、PGK等に由来するプロモーター、ターミネーターが利用可能である。
【0046】
シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属においては、シゾサッカロマイセス・ポンベ由来のARS (自律複製に関与する遺伝子)、およびサッカロマイセス・セレビジアエ由来の栄養要求性を相補する選択マーカーを含むプラスミドベクター等が利用可能である(Mol. Cell. Biol. 6, 80 (1986))。また、シゾサッカロマイセス・ポンベ由来のADHプロモーターなどが利用できる(EMBO J. 6, 729 (1987))。特に、pAUR224は、宝酒造から市販されており容易に利用できる。
【0047】
チゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces)においては、チゴサッカロマイセス・ロウキシ (Zygosaccharomyces rouxii)由来の pSB3(Nucleic Acids Res. 13, 4267 (1985))などに由来するプラスミドベクター等が利用可能であり、サッカロマイセス・セレビジアエ由来 PHO5 プロモーター、およびチゴサッカロマイセス・ロウキシ由来 GAP-Zr(グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素)のプロモーター(Agri. Biol. Chem. 54, 2521 (1990))等が利用可能である。
【0048】
ピキア(Pichia)属においては、ピキア・アンガスタ(Pichia angusta、旧名:ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha))において宿主ベクター系が開発されている。ベクターとしては、ピキア・アンガスタ由来自律複製に関与する遺伝子(HARS1、HARS2)も利用可能であるが、比較的不安定であるため、染色体への多コピーインテグレーションが有効である(Yeast 7, 431-443 (1991))。また、メタノールなどで誘導されるAOX(アルコールオキシダーゼ)、FDH(ギ酸脱水素酵素)のプロモーター等が利用可能である。また、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などにピキア由来自律複製に関与する遺伝子 (PARS1、PARS2)等を利用した宿主ベクター系が開発されており(Mol. Cell. Biol. 5, 3376 (1985))、高濃度培養とメタノールで誘導可能なAOXなど強いプロモーターが利用できる(Nucleic Acids Res. 15, 3859 (1987))。
【0049】
キャンディダ(Candida)属においては、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・ウチルス (Candida utilis) 等において宿主ベクター系が開発されている。キャンディダ・マルトーサにおいてはキャンディダ・マルトーサ由来ARSがクローニングされ(Agri. Biol. Chem. 51, 51, 1587 (1987))、これを利用したベクターが開発されている。また、キャンディダ・ウチルスにおいては、染色体インテグレートタイプのベクターの強力なプロモーターが開発されている(特開平08-173170)。
【0050】
アスペルギルス(Aspergillus)属においては、アスペルギルス・ニガー (Aspergillus niger) 、アスペルギルス・オリジー (Aspergillus oryzae) 等がカビの中で最もよく研究されており、プラスミド、および染色体へのインテグレーションの利用が可能であり、菌体外プロテアーゼやアミラーゼ由来のプロモーターが利用可能である(Trends in Biotechnology 7, 283-287 (1989))。
【0051】
トリコデルマ(Trichoderma)属においては、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)を利用したホストベクター系が開発され、菌体外セルラーゼ遺伝子由来プロモーター等が利用できる(Biotechnology 7, 596-603 (1989))。
【0052】
また、微生物以外でも、植物、動物において様々な宿主・ベクター系が開発されており、特に蚕を用いた昆虫(Nature 315, 592-594 (1985))、菜種、トウモロコシ、またはジャガイモ等の植物中に大量に異種タンパク質を発現させる系が開発されており好適に利用できる。
【0053】
本発明において使用するギ酸脱水素酵素変異体の生産能を有する微生物は、ギ酸脱水素酵素の変異体生産能を有するマイコバクテリウム バッカエの突然変異株、変種、および遺伝子操作技術の利用により作成された本発明の酵素生産能を獲得した形質転換体を含む。
【0054】
また本発明は、本発明のギ酸脱水素酵素の変異体、本発明の形質転換体、または該形質転換体の処理物を用いた補酵素NAD+(酸化型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)からNADH(還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を生産する方法を提供する。補酵素NADHは、各種カルボニル還元酵素、アルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素、ヒドロキシ酸脱水素酵素、アミノ酸脱水素酵素の還元型の補酵素として有用であり、これらの酵素がその還元能を発揮するためには必須の補酵素である。
【0055】
さらに本発明は、NADH依存性の還元酵素によって酸化型基質から該基質の還元型生成物の製造を行う際に生じるNAD+を、本発明のギ酸脱水素酵素の変異体を用いてギ酸から炭酸への変換反応によりNADHへと再生させ、効率的に該還元型生成物を製造する方法を提供する。このNADH依存性還元酵素とは、NADHを補酵素として還元反応を行う酵素を指し、例えばアルコール脱水素酵素のように、還元反応、酸化反応ともに触媒しうる酵素であってもよい。また、上記方法において本発明のギ酸脱水酵素変異体の替わりに、本発明の形質転換体または該形質転換体の処理物を利用することも可能である。
【0056】
上記NADH依存性還元酵素、その酸化型基質、該基質の還元型生成物としては、例えば、以下の組み合わせを挙げることができるが、これらに制限されない。
・カルボニル基を基質としてアルコールを生成する酵素(E.C. 1.1.1.−)によるケトンからアルコールの生産
・カルボン酸を基質としてアルデヒドを生成する酵素(E.C. 1.2.1.−)によるカルボン酸からのアルデヒドの生産
・炭素炭素二重結合を還元し炭素炭素一重結合を生成する酵素(E.C. 1.3.1.−)による炭素炭素二重結合体から炭素炭素一重結合体の生産
・カルボニル基を基質として還元的アミノ化によりアミノ基を生成する酵素(E.C. 1.4.1.−)によるケト酸からアミノ酸の生産
・炭素炭素二重結合に酸素を付加することによりジオールを生成する酵素(E.C. 1.14.12.−)によるアルケンからジオールの生産
【0057】
ここで、E.C. 1.1.1.- に分類される酵素としては、例えばアルコール脱水素酵素、D-ヒドロキシイソカプロン酸脱水素酵素、L-ヒドロキシイソカプロン酸脱水素酵素、D-マンデル酸脱水素酵素、L-マンデル酸脱水素酵素、D-乳酸脱水素酵素、およびL-乳酸脱水素酵素等が挙げられる。E.C.1.2.1.- に分類される酵素としては、例えばアルデヒド脱水素酵素等が挙げられる。E.C.1.3.1.- に分類される酵素としては、例えばエノイル-CoA 還元酵素およびフマル酸還元酵素等が挙げられる。E.C.1.4.1.- に分類される酵素としては、例えばフェニルアラニン脱水素酵素、グルタミン酸脱水素酵素、ロイシン脱水素酵素、およびアラニン脱水素酵素等が挙げられる。E.C.1.14.2.- に分類される酵素としては、例えばベンゼンジオキシゲナーゼ等が挙げられる。
【0058】
これら酵素を作用させる場合の基質としては、その酵素が作用しうる化合物であれば特に制限はなく、基質分子内に、ハロゲン、硫黄、および/またはリン等を有しているもの、水酸基、アミノ基等を有しているもの、炭素鎖が分枝状であるもの、炭素鎖が不飽和であるもの、複素環を含む芳香環を有しているものを例示することができる。
【0059】
本発明のギ酸脱水素酵素の変異体は、有機溶媒に耐性を持つ、および/または有機溶媒により活性化されるため、例えばケトンおよびアルコールの存在下であっても活性を長く、および/または高く保持することができ、工業的なアルコール製造において有利である。また、カルボニル還元酵素はNADHを補酵素とし、ケトンからアルコールを生成するものであれば、特に限定されない。酵素分子、その処理物、酵素分子を含む培養物、または酵素を生成する微生物等の形質転換体を反応溶液と接触させることにより、目的とする酵素反応を行わせることができる。なお、酵素と反応溶液の接触形態はこれらの具体例に限定されるものではない。反応溶液は、基質および酵素反応に必要な補酵素のNADHを、酵素活性の発現に適した溶媒に溶解させたものである。本発明におけるギ酸脱水素酵素の変異体を含む微生物の処理物、またはカルボニル還元酵素を含む微生物の処理物には、具体的には界面活性剤やトルエン等の有機溶媒処理によって細胞膜の透過性を変化させた微生物、ガラスビーズや酵素処理によって菌体を破砕した無細胞抽出液、および該抽出液を部分精製したもの等が含まれる。
【0060】
本発明によるアルコールの製造の原料となるケトンとしては、使用されるカルボニル還元酵素が還元しうるケトンであれば特に制限はない。カルボニル還元酵素として、クライベロマイセス アエスチュアリのカルボニル還元酵素を用いた場合には、4-ハロアセト酢酸エステルが好適に用いられる。この4-ハロアセト酢酸エステルの還元反応により、 (S)-4-ハロ-3-ヒドロキシ酪酸エステルが生成される。4-ハロアセト酢酸エステルのハロゲンとしては、例えば臭素、塩素、ヨウ素等が挙げられ、特に塩素が好適に用いられる。エステルとしては、例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル、ベンジルエステル等の直鎖、分岐鎖、芳香族置換を含むアルコールのエステルが挙げられるが、エチルエステルが最も好適に用いられる。4-ハロアセト酢酸エステルの誘導体としては、例えば、2位の直鎖もしくは分岐鎖を含むアルキル鎖、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲンを含む誘導体を挙げることができる。
【0061】
本発明の酵素を用いた反応は、水中もしくは水に溶解しにくい有機溶媒、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、シクロヘキサン、1-オクタノール、n-ヘキサン、n-オクタン等の有機溶媒中、もしくは水性媒体との2相系により行うことができる。また、緩衝液等の水系にメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、アセトンなどの水溶性溶媒を加えた混合溶媒系においても行うことが可能である。また、逆ミセル系での反応も行うことができ、界面活性剤としては、例えばエーロゾルOT(Aerosol OT)を用いたイソオクタン/水逆ミセル系等を挙げることができる。
【0062】
本発明の反応は、例えば、固定化酵素、膜リアクター等を利用して行うことも可能である。本発明の酵素、その処理物、酵素分子を含む培養物、あるいは酵素を生成する微生物等の形質転換体を固定化する場合には、含硫多糖、例えばκ-カラギーナンやアルギン酸カルシウム、寒天ゲル法、ポリアクリルアミドゲル法等の公知の方法により固定化することができる。
【0063】
また、本発明の反応は、本発明の酵素が反応できる条件であれば良く、反応温度 4−60℃、好ましくは10−37℃、pH3−11、好ましくはpH5−8、基質濃度0.01−90%、好ましくは0.1−30%で行うことができる。菌体またはその処理物を反応に利用する場合には、反応系に必要に応じて補酵素NAD+もしくはNADHを0.001mM−100mM、好ましくは、0.01−10mM添加することができる。また、基質は反応開始時に一括して添加することも可能であるが、反応液中の基質濃度が高くなり過ぎないように連続的、もしくは間欠的に添加することが望ましい。
【0064】
本発明のケトンの還元により生成するアルコールの精製は、菌体、タンパク質の遠心分離、膜処理等による分離、溶媒抽出、蒸留、晶析等を適当に組み合わせることにより行うことができる。例えば、4-ハロ-3-ヒドロキシ酪酸エステルでは、微生物菌体を含む反応液を遠心分離し、微生物菌体を除いた後、限外ろ過によりタンパク質を除去し、そのろ液に酢酸エチル、トルエン等の溶媒を添加して4-ハロ-3-ヒドロキシ酪酸エステルを溶媒層に抽出する。これを相分離後、減圧濃縮することにより純度の高い4-ハロ-3-ヒドロキシ酪酸エステルを精製することができる。
【0065】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1] マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素のサブクローニング
文献(Appl. Microbiol. Biotechnol. 44, 479-483(1995))記載のプラスミド pMcFDH(E-P)よりギ酸脱水素酵素のサブクローニングを行った。文献記載の構造遺伝子5'-末、3'-末配列をもとに、ギ酸脱水素酵素のオープンリーディングフレーム部分のみをクローニングするために、プライマー MCF-ATG2 (5'- CTTTCTAGAGGAATTCAACCATGGCAAAAGTTCTGTGTGTTC -3'/配列番号:3)、MCF-TAA3 (5'- CAGTCTAGATTAGACCGCTTTTTTGAATTTGGCG -3'/配列番号:4)を合成した。プラスミド(pMcFDH(E-P))を鋳型として、PCR(95℃, 45秒、50℃, 1分、75℃, 7分)を30サイクル行い、特異的な増幅DNAを得た。得られたDNA断片をNcoIとXbaIの2種類の制限酵素で二重消化した。プラスミドベクター pSE420D(特開2000-189170)をNcoIとXbaIで二重消化し、該酵素で二重消化した PCR 増幅 DNA 断片を T4 DNA リガーゼで連結し、pSE-MCF15 を得た。プラスミドマップを 図1(図:pSE-MCF15)に示す。挿入 DNA 断片の塩基配列の解析を行った結果、そのコードするタンパク質は文献記載のDNA配列と一致した。得られたギ酸脱水素酵素の塩基配列をMcFDH-ORF(配列番号:1) に、該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をMcFDH-ORF-p(配列番号:2) に示す。
【0066】
[実施例2] マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素とクライベロマイセス アエスチュアリ由来のカルボニル還元酵素との共発現ベクターpSFR415の構築
クライベロマイセス アエスチュアリ由来のカルボニル還元酵素のオープンリーディングフレームのみをPCRクローニングするために、プライマーKAR-BSG5-3 (5'- TAATCTAGAGGAATTCAATAATGGATCCAACAATGACGTTTC -3'/配列番号:5)、KAR-BSG3 (5'- TAGAAGCTTAAGCTATTAAACGCAAGTGTACCCAC -3'/配列番号:6)を合成した。pSE-KAR1(特開2000-236883)を鋳型として、PCR(95℃, 30秒、50℃, 1分、75℃, 5分)を30サイクル行い、特異的な増幅DNAを得た。得られたDNA断片を XbaI、HindIIIの2つの制限酵素で二重消化した。実施例1で構築したマイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素を含むプラスミド pSE-MCF15 をXbaI、HindIIIの2つの制限酵素で消化し、同酵素で消化したPCR増幅断片をT4 DNA リガーゼで連結し、ギ酸脱水素酵素とカルボニル還元酵素を同時に発現可能なプラスミドpSFR415 を得た。プラスミド pSFR415のマップを図2に示す。本プラスミドを有する大腸菌(JM109(pSFR415))は、平成12年11月10日付けで次のように寄託した。
【0067】
寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
(旧名称:通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所)
あて名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番つくばセンター中央第6
(郵便番号305-8566)
寄託日 平成12年11月10日
受託番号 生命研菌寄第18116号(FERM P−18116)
【0068】
[実施例3] マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素へのPCRによる変異導入
実施例2で構築したマイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素とクライベロマイセス アエスチュアリ由来のカルボニル還元酵素の共発現ベクターpSFR415をもとにして、マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の6位のCysをSerへ変えるためのプライマーとしてMCF-ATG3 (5'- CTTTCTAGAGGAATTCAACCATGGCAAAAGTTCTGTCTGTTC -3'/配列番号:7)を、256位のCysをSerへ変えるためのプライマーとして McFDH-7mut01 (5'- GTATCCGGTTTGCGACGTCGTGACGCTGAACTCCCCGCTGCACCCCGAA -3'/配列番号:8)、McFDH-7mut02 (5'- TTCGGGGTGCAGCGGGGAGTTCAGCGTCACGACGTCGCAAACCGGATAC -3'/配列番号:9)を合成した。以後、6位のCysをSerに置き換えることをC6Sと表記する。これに従えば、256位のCysをSerに変えた場合は、C256Sと表記される。
【0069】
プラスミドpSFR415 を鋳型として、プライマー MCF-ATG3、McFDH-7mut02 のセットおよびプライマー MCFDH-7mut01、MCF-TAA3のセットにより1st PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 30秒、25サイクル)を行った。続いて、1st PCRにより増幅されたDNA断片を希釈、混合し、プライマー MCF-ATG3(配列番号:7)、MCF-TAA3(配列番号:4)を加え、2nd PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 30秒、25サイクル)を行った。得られたPCR増幅断片をNcoI、XbaI の2つの制限酵素で二重消化した。pSFR415を NcoI、XbaI の2つの制限酵素で二重消化し、同酵素で消化したPCR増幅断片をT4 DNA リガーゼで連結し、C6S、C256Sの変異の導入されたギ酸脱水素酵素とカルボニル還元酵素を同時に発現可能なプラスミドpSFR411 を得た。得られたプラスミドの塩基配列の解析を行い、変異が導入されていることを確認した。
【0070】
[実施例4] C6S、C146SおよびC256S変異マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の構築
実施例3で得られたプラスミド pSFR411をもとにして、マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の146位のCysをSerへ変えるためのプライマーとして、McFDH-12F (5'- CGGAAGTCACCTACTCAAACTCGATCAGCGTCG -3'/配列番号:10)、McFDH-12R (5'- CGACGCTGATCGAGTTTGAGTAGGTGACTTCCG -3'/配列番号:11)を合成した。
【0071】
プラスミドpSFR411を鋳型として、プライマーMCF-ATG3(配列番号:7)、McFDH-12R(配列番号:11)のセットおよびプライマーMcFDH-12F(配列番号:10)、MCF-TAA3(配列番号:4)のセットにより1st PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 30秒、25サイクル)を行った。続いて、1st PCRにより増幅されたDNA断片を希釈、混合し、プライマー MCF-ATG3(配列番号:7)、MCF-TAA3(配列番号:4)を加え、2nd PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 30秒、25サイクル)を行った。得られたPCR増幅断片をNcoI、XbaI の2つの制限酵素で二重消化した。pSFR411を NcoI、XbaI の2つの制限酵素で二重消化し、同酵素で消化したPCR増幅断片をT4 DNA リガーゼで連結し、C6S、C146S、C256Sの変異の導入されたギ酸脱水素酵素とカルボニル還元酵素を同時に発現可能なプラスミドpSFR412 を得た。得られたプラスミドの塩基配列の解析を行い、変異が導入されていることを確認した。
【0072】
[実施例5] C6S、C249SおよびC256S変異マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の構築
実施例3で得られたプラスミド pSFR411をもとにして、マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の249位のCysをSerへ変えるためのプライマーとして、McFDH-13F (5'- GACATGTATCCGGTTTCTGACGTCGTGACGCTG -3'/配列番号:12)、McFDH-13R (5'- CAGCGTCACGACGTCAGAAACCGGATACATGTC -3'/配列番号:13)を合成した。
【0073】
プラスミドpSFR411を鋳型として、プライマーMCF-ATG3(配列番号:7)、McFDH-13R(配列番号:13)のセットおよびプライマーMcFDH-13F(配列番号:12)、MCF-TAA3(配列番号:4)のセットにより1st PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 30秒、25サイクル)を行った。続いて、1st PCRにより増幅されたDNA断片を希釈、混合し、プライマー MCF-ATG3(配列番号:7)、MCF-TAA3(配列番号:4)を加え、2nd PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 30秒、25サイクル)を行った。得られたPCR増幅断片をNcoI、XbaI の2つの制限酵素で二重消化した。pSFR411をNcoI、XbaI の2つの制限酵素で二重消化し、同酵素で消化したPCR増幅断片をT4 DNAリガーゼで連結し、C6S、C249S、C256Sの変異の導入されたギ酸脱水素酵素とカルボニル還元酵素を同時に発現可能なプラスミドpSFR413 を得た。得られたプラスミドの塩基配列の解析を行い、変異が導入されていることを確認した。
【0074】
[実施例6] C6S、C256SおよびC355S変異マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の構築
得られたプラスミド pSFR411をもとにして、マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の355位のCysをSerへ変えるためのプライマーとして、McFDH-14F (5'- CGAGATCCTGGAGTCATTCTTCGAAGGCCGTCCGA -3'/配列番号:14)、McFDH-14R (5'- TCGGACGGCCTTCGAAGAATGACTCCAGGATCTCG -3'/配列番号:15)を合成した。
【0075】
プラスミドpSFR411を鋳型として、プライマーMCF-ATG3(配列番号:7)、McFDH-14R(配列番号:15)のセットおよびプライマーMcFDH-14F(配列番号:14)、MCF-TAA3(配列番号:4)のセットにより1st PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 30秒、25サイクル)を行った。続いて、1st PCRにより増幅されたDNA断片を希釈、混合し、プライマー MCF-ATG3(配列番号:7)、MCF-TAA3(配列番号:4)を加え、2nd PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 30秒、25サイクル)を行った。得られたPCR増幅断片をNcoI、XbaI の2つの制限酵素で二重消化した。pSFR411を NcoI、XbaI の2つの制限酵素で二重消化し、同酵素で消化したPCR増幅断片をT4 DNA リガーゼで連結し、C6S、C256S、C355Sの変異の導入されたギ酸脱水素酵素とカルボニル還元酵素を同時に発現可能なプラスミドpSFR414 を得た。得られたプラスミドの塩基配列の解析を行い、変異が導入されていることを確認した。
【0076】
[実施例7] C6AおよびC256S変異マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の構築
実施例3で得られたプラスミドpSFR411をもとにして、マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の6位をAlaへ変えるためのプライマーとして、MCF-416F (5'- ATGGCAAAAGTTTTAGCTGTTCTTTACGAT -3'/配列番号:16)、MCF-416R (5'- ATCGTAAAGAACAGCTAAAACTTTTGCCAT -3'/配列番号:17)を、対プライマーとして、170F 5'- GGCAAATATTCTGAAATGAGC -3'/配列番号:18)、MCF-777R (5'- TCACGACGTCGCAAACCGGA -3'/配列番号:19)を合成した。
【0077】
プラスミドpSFR411を鋳型として、プライマー170F(配列番号:18)、MCF-416R(配列番号:17)のセットおよびプライマーMCF-416F(配列番号:16)、MCF-777R(配列番号:19)のセットにより1st PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 30秒、25サイクル)を行った。続いて、1st PCRにより増幅されたDNA断片を希釈、混合し、プライマー 170F(配列番号:18)、MCF-777R(配列番号:19)を加え、2nd PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 30秒、25サイクル)を行った。
得られたPCR増幅断片をNheI、BglIIの2つの制限酵素で二重消化した。pSFR411をNheI、BglIIの2つの制限酵素で二重消化し、同酵素で消化したPCR増幅断片をT4 DNA リガーゼで連結し、C6A、C256Sの変異の導入されたギ酸脱水素酵素とカルボニル還元酵素を同時に発現可能なプラスミドpSFR416を得た。得られたプラスミドの塩基配列の解析を行い、変異が導入されていることを確認した。
【0078】
[実施例8] C6VおよびC256S変異マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の構築
実施例3で得られたプラスミドpSFR411をもとにして、マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の6位をValへ変えるためのプライマーとして、MCF-417F (5'- ATGGCAAAAGTTTTAGTAGTTCTTTACGAT -3'/配列番号:20)、MCF-417R (5'- ATCGTAAAGAACTACTAAAACTTTTGCCAT -3'/配列番号:21)を合成した。
【0079】
プラスミドpSFR411を鋳型として、プライマー170F(配列番号:18)、MCF-417R(配列番号:21)のセットおよびプライマーMCF-417F(配列番号:20)、MCF-777R(配列番号:19)のセットにより1st PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 30秒、25サイクル)を行った。続いて、1st PCRにより増幅されたDNA断片を希釈、混合し、プライマー 170F(配列番号:18)、MCF-777R(配列番号:19)を加え、2nd PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 30秒、25サイクル)を行った。
得られたPCR増幅断片をNheI、BglIIの2つの制限酵素で二重消化した。pSFR411をNheI、BglIIの2つの制限酵素で二重消化し、同酵素で消化したPCR増幅断片をT4 DNA リガーゼで連結し、C6V、C256Sの変異の導入されたギ酸脱水素酵素とカルボニル還元酵素を同時に発現可能なプラスミドpSFR417を得た。得られたプラスミドの塩基配列の解析を行い、変異が導入されていることを確認した。
【0080】
[実施例9] C6SおよびC256A変異マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の構築
実施例3で得られたプラスミドpSFR411をもとにして、マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の256位をAlaへ変えるためのプライマーとして、MCF-418F (5'- GTGACGCTGAACGCTCCGCTGCACCCC -3'/配列番号:22)、MCF-418R (5'- GGGGTGCAGCGGAGCGTTCAGCGTCAC -3'/配列番号:23)を合成した。
【0081】
プラスミドpSFR411を鋳型として、プライマーMCF-ATG3(配列番号:7)、MCF-418R(配列番号:23)のセットおよびプライマーMCF-418F(配列番号:22)、MCF-TAA3(配列番号:4)のセットにより1st PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 30秒、25サイクル)を行った。続いて、1st PCRにより増幅されたDNA断片を希釈、混合し、プライマー MCF-ATG3(配列番号:7)、MCF-TAA3(配列番号:4)を加え、2nd PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 30秒、25サイクル)を行った。
得られたPCR増幅断片をBglII、XbaI の2つの制限酵素で二重消化した。pSFR411をBglII、XbaIの2つの制限酵素で二重消化し、同酵素で消化したPCR増幅断片をT4 DNAリガーゼで連結し、C6S、C256Aの変異の導入されたギ酸脱水素酵素とカルボニル還元酵素を同時に発現可能なプラスミドpSFR418を得た。得られたプラスミドの塩基配列の解析を行い、変異が導入されていることを確認した。
【0082】
[実施例10] C6SおよびC256V変異マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の構築
実施例3で得られたプラスミドpSFR411をもとにして、マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の256位をValへ変えるためのプライマーとして、MCF-419F (5'- GTGACGCTGAACGTTCCGCTGCACCCC -3'/配列番号:24)、MCF-419R (5'- GGGGTGCAGCGGAACGTTCAGCGTCAC -3'/配列番号:25)を合成した。
【0083】
プラスミドpSFR411を鋳型として、プライマーMCF-ATG3(配列番号:7)、MCF-418R(配列番号:23)のセットおよびプライマーMCF-418F(配列番号:22)、MCF-TAA3(配列番号:4)のセットにより1st PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 30秒、25サイクル)を行った。続いて、1st PCRにより増幅されたDNA断片を希釈、混合し、プライマー MCF-ATG3(配列番号:7)、MCF-TAA3(配列番号:4)を加え、2nd PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 30秒、25サイクル)を行った。得られたPCR増幅断片をBglII、XbaIの2つの制限酵素で二重消化した。pSFR411をBglII、XbaIの2つの制限酵素で二重消化し、同酵素で消化したPCR増幅断片をT4 DNA リガーゼで連結し、C6S、C256Vの変異の導入されたギ酸脱水素酵素とカルボニル還元酵素を同時に発現可能なプラスミドpSFR419 を得た。得られたプラスミドの塩基配列の解析を行い、変異が導入されていることを確認した。
【0084】
[実施例11] C146S変異マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の構築
実施例2で構築したpSFR415をBglII、BsrBRIの2つの制限酵素で消化し、エタノール沈殿後、アガロース電気泳動を行い、約6kbp のバンドを切り出し、Sephaglas BandPrep(Amersham Pharmacia Biotech製)により精製、回収した。実施例4で構築した pSFR412をBglII、BsrBRIの2つの制限酵素で消化し、エタノール沈殿後、アガロース電気泳動を行い、約0.4kbp のバンドを切り出し、Sephaglas BandPrep(Amersham Pharmacia Biotech製)により精製、回収した。両DNA断片を等molずつ混合し、T4 DNAリガーゼで連結し、C146S変異の導入されたギ酸脱水素酵素とカルボニル還元酵素を同時に発現可能なプラスミドpSFR420 を得た。得られたプラスミドの塩基配列の解析を行い、変異が導入されていることを確認した。
【0085】
[実施例12] C256S変異マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の構築
実施例2で構築したpSFR415をMluI、BsrBRIの2つの制限酵素で消化し、エタノール沈殿後、アガロース電気泳動を行い、約1.5kbpのバンドを切り出し、Sephaglas BandPrep(Amersham Pharmacia Biotech製)により精製、回収した。実施例4で構築した pSFR412をMluI、BsrBRIの2つの制限酵素で消化し、エタノール沈殿後、アガロース電気泳動を行い、約4.8kbp のバンドを切り出し、Sephaglas BandPrep(Amersham Pharmacia Biotech製)により精製、回収した。両DNA断片を等molずつ混合し、T4 DNAリガーゼで連結し、C256S変異の導入されたギ酸脱水素酵素とカルボニル還元酵素を同時に発現可能なプラスミドpSFR421を得た。得られたプラスミドの塩基配列の解析を行い、変異が導入されていることを確認した。
【0086】
[実施例13] C146SおよびC256S変異マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の構築
実施例2で構築した pSFR415をMluI、BglIIの2つの制限酵素で消化し、エタノール沈殿後、アガロース電気泳動を行い、約1.3kbpのバンドを切り出し、Sephaglas BandPrep(Amersham Pharmacia Biotech製)により精製、回収した。実施例4で構築したpSFR412をMluI、BglIIの2つの制限酵素で消化し、エタノール沈殿後、アガロース電気泳動を行い、約5.1kbpのバンドを切り出し、Sephaglas BandPrep(Amersham Pharmacia Biotech製)により精製、回収した。両DNA断片を等molずつ混合し、T4 DNAリガーゼで連結し、C146S、C256S変異の導入されたギ酸脱水素酵素とカルボニル還元酵素を同時に発現可能なプラスミドpSFR422を得た。得られたプラスミドの塩基配列の解析を行い、変異が導入されていることを確認した。
【0087】
[実施例14] C256V変異マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の構築
実施例2で構築したpSFR415をMluI、BglIIの2つの制限酵素で消化し、エタノール沈殿後、アガロース電気泳動を行い、約1.3kbp のバンドを切り出し、Sephaglas BandPrep(Amersham Pharmacia Biotech製)により精製、回収した。実施例10で構築した pSFR419をMluI、BglIIの2つの制限酵素で消化し、エタノール沈殿後、アガロース電気泳動を行い、約5.1kbp のバンドを切り出し、Sephaglas BandPrep(Amersham Pharmacia Biotech製)により精製、回収した。両DNA断片を等molずつ混合し、T4 DNA リガーゼで連結し、C256V変異の導入されたギ酸脱水素酵素とカルボニル還元酵素を同時に発現可能なプラスミドpSFR423を得た。得られたプラスミドの塩基配列の解析を行い、変異が導入されていることを確認した。
【0088】
[実施例15] C146SおよびC256V変異マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の構築
実施例2で構築したpSFR415をMluI、BglIIの2つの制限酵素で消化し、エタノール沈殿後、アガロース電気泳動を行い、約1.3kbp のバンドを切り出し、Sephaglas BandPrep(Amersham Pharmacia Biotech製)により精製、回収した。実施例4で構築したpSFR412をBglII、BsrBRIの2つの制限酵素で消化し、エタノール沈殿後、アガロース電気泳動を行い、約0.4kbp のバンドを切り出し、Sephaglas BandPrep(Amersham Pharmacia Biotech製)により精製、回収した。実施例10で構築した pSFR419をMluI、BsrBRIの2つの制限酵素で消化し、エタノール沈殿後、アガロース電気泳動を行い、約4.7kbp のバンドを切り出し、Sephaglas BandPrep(Amersham Pharmacia Biotech製)により精製、回収した。両DNA断片を等molずつ混合し、T4 DNAリガーゼで連結し、C146S、C256V変異の導入されたギ酸脱水素酵素とカルボニル還元酵素を同時に発現可能なプラスミドpSFR424 を得た。得られたプラスミドの塩基配列の解析を行い、変異が導入されていることを確認した。
【0089】
[実施例16] C6AおよびC256V変異マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の構築
実施例7で構築したpSFR416をMluI、BglIIの2つの制限酵素で消化し、エタノール沈殿後、アガロース電気泳動を行い、約1.3kbp のバンドを切り出し、Sephaglas BandPrep(Amersham Pharmacia Biotech製)により精製、回収した。実施例10で構築したpSFR419をMluI、BglIIの2つの制限酵素で消化し、エタノール沈殿後、アガロース電気泳動を行い、約5.1kbp のバンドを切り出し、Sephaglas BandPrep(Amersham Pharmacia Biotech製)により精製、回収した。両DNA断片を等molずつ混合し、T4 DNAリガーゼで連結し、C6A、C256V変異の導入されたギ酸脱水素酵素とカルボニル還元酵素を同時に発現可能なプラスミドpSFR425 を得た。得られたプラスミドの塩基配列の解析を行い、変異が導入されていることを確認した。
【0090】
[実施例17] C6A、C146SおよびC256V変異マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の構築
実施例7で構築した pSFR416をMluI、BglIIの2つの制限酵素で消化し、エタノール沈殿後、アガロース電気泳動を行い、約1.3kbp のバンドを切り出し、Sephaglas BandPrep(Amersham Pharmacia Biotech製)により精製、回収した。次いで、実施例4で構築したpSFR412をBglII、BsrBRIの2つの制限酵素で消化し、エタノール沈殿後、アガロース電気泳動を行い、約0.4kbpのバンドを切り出し、Sephaglas BandPrep(Amersham Pharmacia Biotech製)により精製、回収した。さらに実施例10で構築した pSFR419をMluI、BsrBRIの2つの制限酵素で消化し、エタノール沈殿後、アガロース電気泳動を行い、約4.7kbpのバンドを切り出し、Sephaglas BandPrep(Amersham Pharmacia Biotech製)により精製、回収した。両DNA断片を等molずつ混合し、T4 DNAリガーゼで連結し、C6A、C146S、C256V変異の導入されたギ酸脱水素酵素とカルボニル還元酵素を同時に発現可能なプラスミドpSFR426を得た。得られたプラスミドの塩基配列の解析を行い、変異が導入されていることを確認した。本プラスミドを有する大腸菌(JM109(pSFR426))は、平成12年11月10日付けで次のように寄託した。
【0091】
寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
(旧名称:通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所)
あて名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番つくばセンター中央第6
(郵便番号305-8566)
寄託日 平成12年11月10日
受託番号 生命研菌寄第18117号(FERM P−18117)
【0092】
[実施例18] C6A、C146A、C256V変異マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の構築
実施例15で得られたプラスミド pSFR426をもとにして、マイコバクテリウムバッカエ由来ギ酸脱水素酵素の146位をAlaへ変えるためのプライマーとして、MCF-427F(配列番号:26)、MCF-427R(配列番号:27)を合成した。
【0093】
MCF-427F(配列番号:26)
GAAGTCACCTACGCTAACTCGATCAGC
MCF-427R(配列番号:27)
GCTGATCGAGTTAGCGTAGGTGACTTC
【0094】
プラスミドpSFR426を鋳型として、プライマーMCF-ATG3(配列番号:7)、MCF-427R(配列番号:27)のセットおよびプライマーMCF-427F(配列番号:26)、MCF-TAA3(配列番号:4)のセットにより1st PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 60秒、25サイクル)を行った。続いて、1st PCRにより増幅されたDNA断片を希釈、混合し、プライマー MCF-ATG3(配列番号:7)、MCF-TAA3(配列番号:4)を加え、2nd PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 60秒、25サイクル)を行った。
得られたPCR増幅断片をBglII、XbaI の2つの制限酵素で二重消化した。
pSFR426を BglII、XbaI の2つの制限酵素で二重消化し、同酵素で消化したPCR増幅断片をT4 DNA リガーゼで連結し、C6A、C146A、C256Vの変異の導入されたギ酸脱水素酵素とカルボニル還元酵素を同時に発現可能なプラスミドpSFR427 を得た。得られたプラスミドの塩基配列の解析を行い、変異が導入されていることを確認した。
【0095】
[実施例19] マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素とクライベロマイセス アエスチュアリ由来のカルボニル還元酵素の大腸菌における同時発現
実施例2から18で構築したマイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素とクライベロマイセス アエスチュアリ由来のカルボニル還元酵素を共発現するプラスミドにより、大腸菌W3110株を形質転換した。それぞれの組換え大腸菌を液体培地(1% バクトトリプトン、0.5% バクト-酵母エキス、1.0% 塩化ナトリウム、以下LB培地)に植菌し、30℃で終夜培養した後、イソプロピルチオ-β-ガラクトピラノシド(以下、IPTG)を添加し、さらに培養した。菌体を遠心分離により集菌後、0.02% 2-メルカプトエタノール、10mM エチレンジアミンテトラ四酢酸二ナトリウムを含む 100mM リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)に懸濁し、密閉式超音波破砕装置UCD-200TM(コスモバイオ製)を用いて3分間処理することで、菌体を破砕した。菌体破砕液を遠心分離し、その上清を菌体抽出液として回収、ギ酸脱水素酵素活性、4−クロロアセト酢酸エチル還元活性を測定した。タンパク質量の測定は、Bio-Rad Protein Assay Kit(Bio-Rad 製)を用いて測定した。標準タンパク質としては、Bovine Plasma Albuminを用いた。各組換え大腸菌から得た粗酵素液の酵素活性を表1に示した。
【0096】
【表1】
Figure 0004693301
【0097】
クライベロマイセス アエスチュアリ由来カルボニル還元酵素の活性を ECAA-Rとして、ギ酸脱水素酵素活性をFDHとして、表記してある。
【0098】
[実施例20] マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の4−クロロアセト酢酸エチル耐性の測定
ギ酸脱水素酵素の4−クロロアセト酢酸エチル耐性の測定を、実施例19で得られた各組換え菌のギ酸脱水素酵素10mU、20μmol 4−クロロアセト酢酸エチル、100mM リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)およびタンパク質量が100μgになるようにBovine albumin(Fraction V、Sigma製)を含む溶液中で25℃、20分保持後、2.5μmol NAD+、100μmol ギ酸ナトリウムを加え、340nmの吸光度の変化量を測定することで行った。対照実験としては、4-クロロアセト酢酸エチルを含まない条件で、25℃、20分保持後、20μmol 4-クロロアセト酢酸エチル、2.5μmol NAD+、100μmolギ酸ナトリウムを加え、340nmの吸光度の変化量を測定することで行った。
【0099】
各組換え大腸菌から得た酵素液のギ酸脱水素酵素活性を表2に示した。20分処理後の残存活性をratioに示してある。256位のCysをSer、Ala、Valに変えることによって、4−クロロアセト酢酸エチル耐性が付与された。
【0100】
【表2】
Figure 0004693301
【0101】
[実施例21] マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の酢酸エチルによる活性化の測定
ギ酸脱水素酵素の酢酸エチルによる活性化の測定を酢酸エチルを5%含む条件で、実施例19で得られたギ酸脱水素酵素の活性を測定した。
各組換え大腸菌から得た酵素液の酢酸エチル存在下での酵素活性を表3に示した。146位のCysをSer、Alaに変えることによって、酢酸エチルによる活性化効果が付与された。
【0102】
【表3】
Figure 0004693301
【0103】
[実施例22] 組換え大腸菌による(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エチルの合成
実施例2から18で構築したマイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素とクライベロマイセス アエスチュアリ由来のカルボニル還元酵素を共発現するプラスミドにより形質転換された大腸菌W3110株を液体LB培地に植菌し、30℃で終夜培養した後、培地(2% バクトトリプトン、1% バクト-酵母エキス、1.0% 塩化ナトリウム、pH 7.2)に植菌し、30℃で終夜培養後、IPTGを添加し、さらに培養した。得られた大腸菌を集菌し、これを用いて4−クロロアセト酢酸エチル還元反応を行った。
【0104】
培養液20mLより調製した各大腸菌、500mMリン酸カリウム緩衝液(pH 6.3)、3% 4-クロロアセト酢酸エチル、365mMギ酸ナトリウムを含む20mLの反応液を、攪拌下20℃で終夜反応させた。生成した4-クロロ-3-ヒドロキシ酪酸エチルは、液相 サーモン3000 5%、担体 クロモソルブ W(60-80mesh)AW-DMCS(Thermon 3000 5% chromosorb W60-80(AW-DMCS)、信和工株式会社)を3.2mm x 2.1mガラスカラムに充填し、カラム温度150℃で、水素炎イオン化検出器(FID)を利用したガスクロマトグラフィーにより定量した。各組換え大腸菌による(S)-4-クロロ-3-ヒドロキシ酪酸エチルの生成量を表4に示した。6位のCysをSer、Ala、Val、146位のCysをSer、Ala、256位のCysをSer、Ala、Valに変えることで、変換効率が高くなった。
【0105】
【表4】
Figure 0004693301
【0106】
【発明の効果】
本発明により、有機溶媒に耐性のある、および/または有機溶媒によって活性化されるギ酸脱水素酵素の変異体が提供された。本発明の酵素を利用することにより、効率的に酸化型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドから還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを製造することが可能となった。さらに、カルボニル還元酵素によるケトンからアルコールの生産において、本発明の酵素を用いて効果的に補酵素β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを酸化型から還元型に再生することによって、収率よくアルコールを生産することが可能となった。
【0107】
【配列表】
Figure 0004693301
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【図面の簡単な説明】
【図1】プラスミドpSE-MCF15の構造を示す図である。
【図2】プラスミドpSFR415の構造を示す図である。

Claims (20)

  1. 配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、256位のシステイン残基がセリン、アラニン、またはバリンへ置換された変異を含む蛋白質であって、有機溶媒存在下で高いギ酸脱水素酵素活性を有する蛋白質(ただし、Pseudomonas sp.由来のギ酸脱水素酵素において255位のシステイン残基がセリンに置換された変異蛋白質を除く)
  2. 配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、146位のシステイン残基がセリンまたはアラニンへ置換された変異を含む蛋白質であって、有機溶媒存在下で高いギ酸脱水素酵素活性を有する蛋白質
  3. 配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、146位および256位のシステイン残基が、それぞれセリンまたはアラニン、およびセリン、アラニン、またはバリンへ置換された変異を含む蛋白質であって、有機溶媒存在下で高いギ酸脱水素酵素活性を有する蛋白質
  4. 配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、更に6位のシステイン残基がセリン、アラニン、またはバリンへ置換された変異を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蛋白質。
  5. 配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、下記(1)〜(13)からなる群から選択されたいずれかの変異のみを有するアミノ酸配列からなる蛋白質。
    (1) 6位、146位、および256位のシステイン残基が共にセリンに置換されたアミノ酸配列、
    (2) 6位のシステイン残基がアラニンに、256位のシステイン残基がセリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
    (3) 6位のシステイン残基がバリンに、256位のシステイン残基がセリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
    (4) 6位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がアラニンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
    (5) 6位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
    (6) 146位のシステイン残基がセリンに置換されたアミノ酸配列、
    (7) 256位のシステイン残基がセリンに置換されたアミノ酸配列、
    (8) 146位および256位のシステイン残基が共にセリンに置換されたアミノ酸配列、
    (9) 256位のシステイン残基がバリンに置換されたアミノ酸配列、
    (10) 146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
    (11) 6位のシステイン残基がアラニンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
    (12) 6位のシステイン残基がアラニンに、146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
    (13) 6位および146位のシステイン残基がアラニンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の蛋白質をコードするDNA。
  7. 請求項6に記載のDNAが挿入されたベクター。
  8. 更に還元酵素をコードするDNAが挿入された請求項7に記載のベクター。
  9. 還元酵素がクライベロマイセス アエスチュアリ(Kluyberomyces aestuarii)に由来するカルボニル還元酵素である請求項8に記載のベクター。
  10. 請求項7に記載のベクターを保持する形質転換体。
  11. 宿主細胞が微生物である請求項10に記載の形質転換体。
  12. 請求項10に記載の形質転換体を培養する工程を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の蛋白質を製造する方法。
  13. 請求項8に記載のベクターを保持する形質転換体を培養する工程を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の蛋白質、および還元酵素を製造する方法。
  14. 還元酵素が、クライベロマイセス アエスチュアリ由来カルボニル還元酵素である請求項13に記載の方法。
  15. 下記の(A)から(C)のいずれかを酸化型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドに接触させる工程を含む、酸化型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドから還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを製造する方法。
    (A) 請求項1〜5のいずれか一項に記載の蛋白質、
    (B) 請求項10に記載の形質転換体、および
    (C) (B)に記載の形質転換体の処理物
  16. 次の工程を含む酸化型基質から該基質の還元型生成物を製造する方法。
    (1) 請求項15に記載の方法によって還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを製造する工程、および
    (2) 工程(1)の還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、酸化型基質、および還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの存在下で前記酸化型基質から還元型生成物を生成し得る還元酵素とを接触させ、生成する還元型生成物を回収する工程
  17. 酸化型基質がケトンであり、該基質の還元型生成物がアルコールである請求項16に記載の方法。
  18. ケトンが4-ハロアセト酢酸エステルであり、アルコールが(S)-4-ハロ-3-ヒドロキシ酪酸エステルである請求項17に記載の方法。
  19. 還元酵素がクライベロマイセス アエスチュアリ由来カルボニル還元酵素である請求項16に記載の方法。
  20. 還元酵素が、請求項13に記載の方法によって製造されたものである請求項16に記載の方法。
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