JP4684906B2 - タイトジャンクション形成促進剤 - Google Patents

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本発明は、生体の防御や組織の機能維持に関する技術分野の発明であり、特に細胞接着や、クローディン、オクルディンの発現を亢進する、化学式(1)で表される化合物のナトリウム塩及びカリウム塩を有効成分とするタイトジャンクション形成促進剤に関する。
Figure 0004684906
生体には様々な上皮細胞が存在し、その機能は複雑である。その上皮細胞同士が集合した上皮組織の重要な役割の一つは細胞間を通る物質の制御である。これは、水や特定のイオン、タンパク質等の必要な小分子は通すものの、外来物質を体内に取り込む吸収過程で、有害物質を無制限に取り込まないような障壁としての機能を有している。
このような障壁は主として細胞間の接着により形成されるが、その接着の1つがタイトジャンクション(以下「TJ」と略記する)である。TJは、隣接する細胞同士を結合させるだけでなく、消化管の粘膜上皮や血管内皮の細胞間を、シールする結合装置である。
TJを構成しているのは、細胞膜タンパク質クローディンやオクルディンである。これらのタンパク質はTJストランドの骨格を構成し、足場タンパク質によってF−アクチンと連結されており、TJ機能を制御すると考えられている。
クローディンやオクルディンの発現が何らかの原因で減少した場合、TJの構造的な破壊が起こり、有害物質に対する抵抗力は低下する。これは、細菌による感染症や敗血症および多臓器不全等の原因となる。また、消化管では食物アレルゲン、病原性微生物および環境ホルモン等の体内への侵入を許し、健康を著しく害する恐れがある。
近年、このような観点からTJ機能を高めるような素材を探索する試みがなされている。例えば、ガングリオシドがTJの形成を促進し、アレルゲンの侵入を防ぐこと(特許文献1)、消化管ホルモンを有効成分とする消化管粘膜機能維持剤(特許文献2)、核酸ならびにその分解物を有効成分とするTJ形成促進剤(特許文献3)、アレルゲンの吸収抑制活性を有するペプチドやアミノ酸(特許文献4)等が開示されている。
特開平8−109133 特開平8−268908 特開平9−30978 特開2002−257814
しかしながら、製剤中の安定性や経済性等の点から未だ満足できるものは至っておらず、副作用のない素材の開発が望まれていた。
このような事情により、本発明者らは鋭意研究検討した結果、化学式(1)で表される化合物のナトリウム塩及びカリウム塩が安定で、優れたTJ形成促進効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の化学式(1)は、天然由来のものを利用することができるほか、トコフェロールから常法により合成でき、下記の文献も参考にできる。
特公昭61−20583 特公平3−32558
また、本発明においては化学式(1)で表される化合物のナトリウム塩及びカリウム塩が用いられる。
本発明のTJ形成促進剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品または食品のいずれにも用いることができ、その剤型としては、例えば、散剤、丸剤、錠剤、注射剤、座剤、乳剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤(チンキ剤、流エキス剤、酒精剤、懸濁剤、リモナーデ剤等を含む)、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、口紅、軟膏、パップ剤、ペースト剤、プラスター剤、エッセンス、錠菓、飲料等が挙げられる。また、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常の化粧品、医薬部外品、医薬品等に用いられる各種成分、例えば油性成分、乳化剤、保湿剤、増粘剤、薬効成分、防腐剤、顔料、粉体、pH調整剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、香料等を適宜配合することができる。
油性成分としては、例えば流動パラフィン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、ホホバ油、ミツロウ、カルナウバロウ、ラノリン、オリーブ油、ヤシ油、高級アルコール、脂肪酸、高級アルコールと脂肪酸のエステル、シリコーン油等が挙げられる。乳化剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の非イオン界面活性剤、ステアロイル乳酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤、大豆リン脂質等の両性界面活性剤、塩化アルキルトリメチルアンモニウム等のカチオン界面活性剤が挙げられる。保湿剤としては、例えばグリセリン、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどが挙げられる。増粘剤としては、例えばカルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、ベントナイト等の粘土鉱物等が挙げられる。薬効成分としては、例えば各種ビタミンおよびその誘導体、アラントイン、グリチルリチン酸およびその誘導体、各種動植物抽出物等が挙げられる。
本発明のTJ形成促進剤中に配合される化合物の量は、剤型や期待する効果の程度により異なるが、通常0.001重量%以上、好ましくは0.1〜50重量%程度配合するのがよい。0.001重量%未満では十分な効果は望みにくい場合があり、50重量%を超えて配合した場合、効果の増強は認められにくく不経済である。
本発明の新規な薬効成分は、TJ形成促進効果を有し、腸管粘膜における食物アレルゲンの侵入や重層上皮における細菌や微生物の侵入に対する抑制効果を示し、これらが原因で起こる各種疾患の予防、抑制、症状の改善に有用である。
次に本発明による効果を具体的な実施例を挙げ説明する。これらの実施例は効果を具体的に説明するもので、発明の範囲を限定するものではない。実施例中の配合量は重量%である。
本発明の薬効成分は、処方例として下記の製剤化を行うことができる。
処方例−1 飲料
処方 配合量(%)
1.dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウム 2.0
2.クエン酸 0.7
3.果糖ブドウ糖液糖 60.0
4.香料 適量
5.精製水にて全量を100とする。
[製法]5に1〜4を加え、攪拌溶解してろ過し、加熱殺菌後、50mLガラス瓶に充填する。
処方例−2 飲料
処方 配合量(%)
1.d−α−トコフェリルリン酸ナトリウム 1.0
2.クエン酸 0.7
3.ショ糖 60.0
4.香料 適量
5.精製水にて全量を100とする。
[製法]5に1〜4を加え、攪拌溶解してろ過し、加熱殺菌後、50mLガラス瓶に充填する。
処方例−3 顆粒剤
処方 配合量(%)
1.dl−α−トコフェリルリン酸ジナトリウム 3.0
2.還元麦芽糖水あめ 38.0
3.微結晶セルロース 59.0
[製法]成分1〜3に70%エタノールを適量加えて練和し、押出し造粒した後、乾燥して顆粒剤を得る。
処方例−4 錠剤
処方 配合量(%)
1.d−α−トコフェリルリン酸カリウム 4.0
2.乾燥コーンスターチ 25.0
3.還元麦芽糖水あめ 20.0
4.粉糖 48.0
5.ショ糖脂肪酸エステル 3.0
[製法]成分1〜4に70%エタノールを適量加えて練和し、押出し造粒した後、乾燥して顆粒を得る。顆粒に成分5を加えて打錠し、1錠0.52gの錠剤を得る。
処方例−5 錠菓
処方 配合量(%)
1.dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウム 0.9
2.乾燥コーンスターチ 51.1
3.エリスリトール 39.0
4.クエン酸 5.0
5.ショ糖脂肪酸エステル 3.0
6.香料 1.0
[製法]成分1〜4に水を適量加えて練和し、押出し造粒した後、乾燥して顆粒を得る。顆粒に成分5及び6を加えて打錠し、1個1.0gの錠菓を得る。
処方例−6 カプセル剤
処方 配合量(%)
1.dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウム 15.0
2.セルロース 85.0
[製法]成分1および2を混合し、2号硬カプセルに250mg充填してカプセル剤を得る。
処方例−7 クリーム 配合量(%)
処方
1.dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウム 2.0
2.スクワラン 5.5
3.オリーブ油 3.0
4.ステアリン酸 2.0
5.ミツロウ 2.0
6.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.)3.0
8.ベヘニルアルコール 1.5
9.モノステアリン酸グリセリン 2.5
10.香料 0.1
11.1,3−ブチレングリコール 8.5
12.パラオキシ安息香酸エチル 0.05
13.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
14.精製水にて全量を100とする
[製法]成分2〜9を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1および11〜14を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分10を加え、さらに30℃まで冷却して製品とする。
処方例−8 化粧水 配合量(%)
処方
1.d−α−トコフェリルリン酸ナトリウム 0.1
2.1,3−ブチレングリコール 8.0
3.グリセリン 2.0
4.キサンタンガム 0.02
5.クエン酸 0.01
6.クエン酸ナトリウム 0.1
7.エタノール 5.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする
[製法]成分1〜6および11と、成分7〜10をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合し濾過して製品とする。
処方例−9 乳液 配合量(%)
処方
1.dl−α−トコフェリルリン酸ジナトリウム 0.5
2.スクワラン 5.0
3.オリーブ油 5.0
4.ホホバ油 5.0
5.セタノール 1.5
6.モノステアリン酸グリセリン 2.0
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.)3.0
8.ポリオキシエチレンソルビタン
モノオレエート(20E.O.) 2.0
9.香料 0.1
10.プロピレングリコール 1.0
11.グリセリン 2.0
12.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
13.精製水にて全量を100とする
[製法]成分2〜8を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1および10〜13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分9を加え、さらに30℃まで冷却して製品とする。
処方例−10 ゲル剤 配合量(%)
処方
1.d−α−トコフェリルリン酸カリウム 0.1
2.エタノール 5.0
3.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
4.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.1
5.香料 適量
6.1,3−ブチレングリコール 5.0
7.グリセリン 5.0
8.キサンタンガム 0.1
9.カルボキシビニルポリマー 0.2
10.水酸化カリウム 0.2
11.精製水にて全量を100とする
[製法]成分2〜5と、成分1および6〜11をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合して製品とする。
処方例−11 軟膏 配合量(%)
処方
1.dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウム 1.0
2.ポリオキシエチレンセチルエーテル(30E.O.)2.0
3.モノステアリン酸グリセリン 10.0
4.流動パラフィン 5.0
5.セタノール 6.0
6.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
7.プロピレングリコール 10.0
8.精製水にて全量を100とする
[製法]成分2〜5を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1および6〜8を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化し、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
処方例−12 パック 配合量(%)
処方
1.dl−α−トコフェリルリン酸カリウム 0.1
2.ポリビニルアルコール 12.0
3.エタノール 5.0
4.1,3−ブチレングリコール 8.0
5.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
6.パラオキシエチレン硬化ヒマシ油(20E.O.) 0.5
7.クエン酸 0.1
8.クエン酸ナトリウム 0.3
9.香料 適量
10.精製水にて全量を100とする
[製法]成分1〜10を均一に溶解し製品とする。
処方例−13 ファンデーション 配合量(%)
処方
1.d−α−トコフェリルリン酸ジナトリウム 1.0
2.ステアリン酸 2.4
3.ポリオキシエチレンソルビタン
モノステアレート(20E.O.) 1.0
4.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.)2.0
5.セタノール 1.0
6.液状ラノリン 2.0
7.流動パラフィン 3.0
8.ミリスチン酸イソプロピル 6.5
9.パラオキシ安息香酸ブチル 0.1
10.カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.1
11.ベントナイト 0.5
12.プロピレングリコール 4.0
13.トリエタノールアミン 1.1
14.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
15.二酸化チタン 8.0
16.タルク 4.0
17.ベンガラ 1.0
18.黄酸化鉄 2.0
19.香料 適量
20.精製水にて全量を100とする
[製法]成分2〜9を加熱溶解し、80℃に保ち油相とする。成分20に成分10をよく膨潤させ、続いて、成分1および11〜14を加えて均一に混合する。これに粉砕機で粉砕混合した成分15〜18を加え、冷却し、45℃で成分19を加え、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
処方例−14 浴用剤 配合量(%)
処方
1.dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウム 1.0
2.炭酸水素ナトリウム 50.0
3.黄色202号 適量
4.香料 適量
5.無水硫酸ナトリウムにて全量を100とする
[製法]成分1〜5を均一に混合し製品とする。
次に、本発明の効果を詳細に説明するため、実験例を挙げる。
実験例1 TJ形成促進試験
ヒト消化管上皮細胞Caco−2に試料を10μMとなるように添加し、10日間培養した。TJ形成の確認はCaco−2細胞の経上皮電気抵抗値をMillicell−ERS(ミリポア)で測定した。その結果、表1に示すように、化学式(1)で表される化合物のナトリウム塩及びカリウム塩はTJ形成を促進した。
Figure 0004684906
実験例2 クローディンおよびオクルディンmRNAの発現解析
コンフルエントな状態の正常ヒト角化細胞に、試料を10μMとなるように添加し、24時間後に総RNAの抽出を行った。総RNAを基にRT−PCR法によりクローディンおよびオクルディンmRNA発現量の測定を行った。RT−PCR法はTaKaRa RNA PCR Kit(AMV)Ver.2.1を用いた。また、内部標準としてはGAPDHを用いた。その他の操作は定められた方法に従い、PCR反応液をアガロースゲル電気泳動に供し、クローディン、オクルディン、GAPDHのmRNA発現をバンドとして確認した。これらのバンドをポラロイドカメラにて撮影してデンシトメーターを用いて定量化し、クローディンおよびオクルディンmRNAの発現量を内部標準であるGAPDH mRNA発現量に対する割合として求め、対照を1とした場合の発現比で表した。その結果、表2に示すように、化学式(1)で表される化合物のナトリウム塩及びカリウム塩はクローディンおよびオクルディンmRNAの発現を亢進した。
Figure 0004684906
実験例3 紫外線照射に対するクローディンおよびオクルディンの防御効果
コンフルエントな状態の正常ヒト角化細胞に、試料を10μMとなるように添加し、24時間後にUVBを30mJ/cm照射した。照射3時間後に総RNAを抽出し、総RNAを基にRT−PCR法によりクローディンおよびオクルディンmRNA発現量の測定を行った。RT−PCR法はTaKaRa RNA PCR Kit(AMV)Ver.2.1を用いた。また、内部標準としてはGAPDHを用いた。その他の操作は定められた方法に従い、PCR反応液をアガロースゲル電気泳動に供し、クローディン、オクルディン、GAPDHのmRNA発現をバンドとして確認した。これらのバンドをポラロイドカメラにて撮影してデンシトメーターを用いて定量化し、クローディンおよびオクルディンmRNAの発現量を内部標準であるGAPDH mRNA発現量に対する割合として求め、対照を1とした場合の発現比で表した。その結果、表3に示すように、化学式(1)で表される化合物のナトリウム塩及びカリウム塩は、紫外線によるクローディンおよびオクルディンmRNAの発現低下を抑制し、防御効果を示した。
Figure 0004684906
本発明の化学式(1)で表される化合物のナトリウム塩及びカリウム塩は、消化管粘膜や上皮組織においてアレルゲン、細菌、微生物の侵入を防止する効果に優れたタイトジャンクション形成促進剤を提供できる。


Claims (1)

  1. 化学式(1)で表される化合物のナトリウム塩及びカリウム塩を配合することを特徴とするタイトジャンクション形成促進剤。

    Figure 0004684906
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