JP4682312B2 - TGF−β遺伝子発現抑制剤 - Google Patents

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Description

本発明はトランスフォーミング増殖因子TGF−β遺伝子発現抑制剤、TGF−β関連疾患の治療薬、及び新規なピロールイミダゾールポリアミドに関する。より詳細には特定の構造を有するピロールイミダゾールポリアミドを含んでなるTGF−β遺伝子発現抑制剤に関する。
本態性高血圧症は脳卒中、虚血性心疾患及び腎硬化症等の重篤な合併症を引き起こすが、これらの合併症は、基本的には血管平滑筋細胞(VSMC)の過剰増殖による血管障害と関連しており、高血圧症の治療の対象となっている。また、狭心症、心筋梗塞の治療のために行われる経皮的冠動脈形成術(PTCA)後の約4割に冠動脈の再狭窄が起こるが、今のところこれに対する有効な薬物療法がなく、循環器領域で大きな問題となっている。病理組織的には、高血圧症性血管疾患のような動脈増殖性疾患、血管形成術後の新生内膜形成及びアテローム性動脈硬化には、TGF−βが関連していることが知られている。かかる病態における細胞増殖は種々の作用機構によって抑制することができると考えられるが、そのうちの1つが、トランスフォーミング増殖因子(TGF)発現を抑制することである。
TGFは当初、Molony肉腫ウイルス(MSV)によりトランスフォームされたマウス3T3細胞が正常細胞を悪性に変える因子として見出され、主としてTGF−αとTGF−βに大別される。TGF−βは、前駆体として合成された390〜412個のアミノ酸からなる分子量約40,000のタンパク質のC末端側の112個のアミノ酸からなる部分が、ジスルフィド結合を介して二量体(25kDa)を構成して活性を持ったものである。
TGF−βは、細胞の成長と発生を調節する蛋白質の一つのファミリーを構成し(非特許文献1)、血管、血小板、肝臓、腎臓、心筋、肺、膵臓、皮膚、胎盤、骨髄などの種々の組織で産生され、細胞の増殖、細胞外マトリックスの形成、免疫能の調節作用をもつ。
TGF−βは殆んどの細胞に対して増殖抑制に働くが、線維芽細胞、血管平滑筋細胞(VSMC)などの間葉系細胞に対しては二相性増殖作用をもつ。つまりこれらの細胞では通常状態では増殖抑制に働くが、炎症、機械的ストレスなどが加わると増殖刺激に働く。これらのことから、TGF−βはVSMC増殖と細胞外マトリクス形成を促進することにより血管傷害後の新生内膜形成に関与している。TGF−βはまた、動脈硬化症の病巣の形成にも関与している。このような情報に基づいて、TGF−βの効果を調節することに向けられた局所血管療法が上記の血管増殖性疾患の軽減に有効と考えられる。
また、TGF−βは経皮的腎動脈形成術後の腎動脈の再狭窄にも関与していると考えられている。これらの事実から、本発明のTGF−β特異的発現抑制薬は、上記の各種血管増殖・狭搾性疾患に対する治療薬として有効である。
また、肝臓の繊維化の過程で、肝星細胞は細胞外マトリックス産生において重要な役割を果たしている(非特許文献2)。星細胞の活性化はTGF−β1により行われ、更に活性化星細胞により、障害肝では炎症細胞からのTGF−β1の分泌が引き起こされる。同時に活性化星細胞のTGF−β1受容体発現が亢進し、TGF−β1によるオートクライン機序により細胞外マトリックス蛋白を増加させる(非特許文献3)。これらの事実から、本発明のTGF−β1特異的発現抑制薬は、上記の各種肝疾患に対する治療薬としても有効であると合理的に考えることができる。
また、IgA腎症、巣状糸球体硬化症、半月体形成性腎炎、巣状硬化型ループス腎炎、びまん性増殖性ループス腎炎、糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症等の腎疾患のモデル動物、又は糸球体腎炎や糖尿病性腎症患者の腎生検組織でTGF−βの発現が細胞外基質と並行して増加している(非特許文献4、非特許文献5)また同時にBorderらは、抗TGF−βをThy−1腎炎ラットに投与すると、腎糸球体の細胞外基質の蓄積を抑制することを報告した(非特許文献5)。これらの事実から、本発明のTGF−β1特異的発現抑制薬は、上記の各種腎疾患に対する治療薬としても有効であると合理的に考えることができる。
また、動物の心筋梗塞モデルにおいては、瘢痕形成期の梗塞巣で、TGF−βの発現が持続的に亢進し、心筋繊維化の促進に関与している(非特許文献6)。これらの事実から、本発明のTGF−β1特異的発現抑制薬は、心筋梗塞後の心筋繊維化に対する治療薬としても有効であると合理的に考えることができる。
また、肺繊維症モデル動物に抗TGF−β抗体やTGF−β可溶性レセプターを投与することにより肺繊維症が改善する(非特許文献7)。これらの事実から、本発明のTGF−β1特異的発現抑制薬は、肺繊維症に対する治療薬としても有効であると合理的に考えることができる。
また、ヒト慢性膵炎におけるTGF−β1の高発現については多数報告されているが、再発性急性膵炎のモデル動物に組換えTGF−βを投与すると、膵の炎症部分の繊維化やフィブロネクチンmRNAの高発現を引き起こし、逆に膵炎のモデル作成時にTGF−β1の中和抗体を投与すると、細胞外マトリックスの産生及びI・III型コラーゲンやフィブロネクチンのmRNA発現が抑制されることが明らかにされている(非特許文献8)。これらの事実から、本発明のTGF−β1特異的発現抑制薬は、慢性膵炎における繊維化に対する治療薬としても有効であると合理的に考えることができる。
また、強皮症の原因としTGF−βが提唱され、森らは皮膚繊維化モデルマウスにおいて、TGF−βが皮膚繊維化を誘導することを報告した(非特許文献9)。これらの事実から、本発明のTGF−β1特異的発現抑制薬は、各種皮膚繊維化疾患に対する治療薬としても有効であると合理的に考えることができる。
また、骨髄繊維症の患者の巨核球ではTGF−β mRNAの発現が亢進しており(非特許文献10)、血小板内TGF−β濃度は高値(非特許文献11)で、患者の血漿中TGF−β濃度は有意に高い(非特許文献12)と報告されている。Rameshwarらによると骨髄繊維症の患者の単球は粘着によってNF−kが活性化してIL−1産生を誘導し、IL−1はTGF−β産生を亢進させて骨髄の繊維化を惹起している(非特許文献13)。これらの事実から、本発明のTGF−β1特異的発現抑制薬は、骨髄繊維症に対する治療薬としても有効であると合理的に考えることができる。
また、男性型前頭部脱毛患者の培養細胞系において、男性ホルモンが皮膚乳頭細胞からTGF−β1が誘導され、このTGF−β1が表皮細胞増殖を抑制させることが報告されている(非特許文献14)。これらの事実から、本発明のTGF−β1特異的発現抑制薬は、男性型前頭部脱毛に対する治療薬としても有効であると合理的に考えることができる。
逆遺伝学による遺伝子機能の不活性化の手法は、ある特定の遺伝子の機能を解析するために用いられるものであるが、一方でウイルス感染、癌、及び遺伝子の異常発現に基づくその他の疾病の治療にも大きな可能性を開いている。すなわち、遺伝子機能の不活性化を、相同的組換えによりDNAレベルで、又はアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドやリボザイムによりRNAレベルで実施することができることが知られている。しかし、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドやリボザイムの手法は、ターゲットとする配列に制約があり、組織、細胞への移行が悪く、リボヌクレアーゼにより分解されやすいという課題があった。
一方、アンチセンス試薬やリボザイムのような(デオキシ)リボヌクレオチド試薬とは異なり、ピロールイミダゾールポリアミド(以下、Py−Imポリアミドとも言う)類が、DNAの塩基配列を特異的に認識し、特定遺伝子の発現を細胞外からコントロールすることができることが報告されている。
ピロールイミダゾールポリアミドは一群の合成小分子であり、芳香族環であるN−メチルピロール単位(以下Pyとも言う)及びN−メチルイミダゾール単位(以下Imとも言う)から構成されている(非特許文献15−17)。Py及びImは連続してカップリングし折りたたむことによりγ−アミノ酪酸の存在下でU字型のコンフォメーションを採ることができる。本発明に係るピロールイミダゾールポリアミドにおいて、N−メチルピロール単位(Py)、N−メチルイミダゾール単位(Im)及びγ−アミノ酪酸単位(γリンカーとも言う)は互いにアミド結合(−C(=O)−NH−)で連結されており、その一般構造及び製造方法は公知である(特許文献1〜3)。
合成ポリアミドは二重らせんDNAの副溝(マイナーグルーブ)中の特定の塩基対に高い親和性と特異性を以って結合することができる。塩基対の特異的認識はPyとImとの1対1の対形成に依存している。即ち、DNAの副溝内でのU字型コンフォメーションにおいて、Py/Im対はC−G塩基対を標的とし、Im/PyはG−C塩基対を標的とし、そしてPy/PyはA−T塩基対及びT−A塩基対の両方を標的とする(非特許文献16−17)。最近の研究によればA−T縮合はPy/Py対の一つのピロール環を3−ヒドロキシピロール(Hp)で置換した結果としてHp/Pyが優先的にT/A対に結合することによって克服することができることがわかっている(非特許文献18)。
一般的には転写の開始が遺伝子制御の重要なポイントであると考えられている。転写の開始には遺伝子プロモータ領域において特異的な認識配列に結合する転写因子をいくつか必要とする。副溝中のポリアミドは、もし転写因子が遺伝子発現において重要であれば、転写因子の結合を遮断して遺伝子の調節に干渉する可能性がある。この仮説はインビトロ及びインビボの実験で証明されている。ジンクフィンガーの認識部位(TFIIIAの結合部位)の内部に結合した8員環Py−Imポリアミドは5SRNA遺伝子の転写を阻害した(非特許文献19)。ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−1)プロモータ中の転写因子配列に隣接する塩基対に結合するポリアミド類は、ヒト細胞におけるHIV−1複製を阻害する。これらの配列にはTATAボックス、リンパ系エンハンサー因子LEF−1配列、及びETS−1配列が包含される(非特許文献20)。これとは対照的に、ポリアミドはまた、リプレッサー因子を遮断することによって、又は生来の転写因子を置換することによって、遺伝子発現を活性化する(非特許文献21−23)。ヒトサイトメガロウイルス(CMV)UL122仲介初期タンパク質2(IE86)は、プロモータにRNAポリメラーゼIIを補充することを遮断し、その関連遺伝子の転写を抑制する(非特許文献21)。合成ポリアミドはIE86の抑制を遮断しその対応遺伝子の発現を開放することができる(非特許文献22)。Mappらにより設計されたポリアミドは人工転写因子として作用し、遺伝子転写反応を仲介する(非特許文献23)。
特許第3045706号 特開2001−136974 WO 03/000683 A1 Piek et al.、FASEB J,13,2105−2124(1999) Bataller R et al,Gastroenterology 118,1149,2000 渡辺久剛ら、現代医療、第35巻(第2号)、2003年 Yamamoto T etal:Kidney Int 49:461,1996 Border WA etal:Kidney Int 51:1388,1997 Ono et al:Circulation 98:149,1998 Giri SN al:Thorax 1993 槙野 直彦他:現代医療Vol.35,No.2,2003 Mori et al:JCell Physiol 181:153,1999 Reilly J etal:Clin Haematol:11751−767,1998 Martyre M Cet al:Br J Haematol 77:80−86,991 Rameshwar Pet al:Am J Haematol 59:133−142,1998 Rameshwar etal:J Immunol 165:2271−2277,2000 Shigeki et al:FASEB J 16:1967−1969,2002 Trauger etal:Nature.1996;382:559−61. White etal:Chem Biol.1997;4:569−78. Dervan:BioorgMed Chem.2001;9:2215−35. White atal:Nature.1998;391:468−71. Gottesfeld etal:Nature.1997;387:202−5. Dickinson etal:Proc Natl Acad Sci USA.1998;95:12890−5 Lee etal:Proc Natl Acad Sci USA.1996;93:2570−5. Dickinson etal:Biochemistry.1999;38:10801−7. Mapp etal:Proc Natl Acad Sci USA.2000;97:3930−5.
先に述べた、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドやリボザイムの手法は、ターゲットとする配列に制約があり、組織、細胞への移行が悪く、リボヌクレアーゼにより分解されやすいという課題があった。これまでに、hTGF−βの遺伝子塩基配列に結合するピロール−イミダゾールポリアミドを用いたTGF−β遺伝子発現抑制剤又はTGF−β関連疾患の治療薬についての報告はない。
本発明者らは、ヒトTGF−βのプロモータの特定の領域に特異的に結合してヒトTGF−β遺伝子の発現を阻害することができるピロールイミダゾールポリアミドの開発とその薬理効果について鋭意研究した。そこで、本発明者らは、ヒトトランスフォーミング成長因子−β1(hTGF−β1)遺伝子の発現を阻害することができ、且つ治療薬として役立ち得る化合物を得るべく、hTGF−β1プロモータの様々な断片を標的とするポリアミド類のうち、脂肪特異性配列2(FSE2)に隣接するhTGF−β1プロモータの−557〜−536塩基対に結合する化合物が、hTGF−β1プロモータの活性を有意に阻害し、培養ヒト血管平滑筋細胞(VSMC)においてhTGF−β1遺伝子の発現をダウンレギュレートすることを見出し、本発明をなすに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)N−メチルピロール単位(以下Pyとも言う)、N−メチルイミダゾール単位(以下Imとも言う)及びγ−アミノ酪酸単位を含むピロールイミダゾールポリアミドであって、ヒトトランスフォーミング成長因子β1(以下hTGF−β1とも言う)プロモーターの以下に示す塩基配列−557〜−536(配列番号1)
TAAAGGAGAGCAATTCTTACAG
の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域(以下標的領域と言う)の副溝内において、前記γ−アミノ酪酸単位の部位で折りたたまれてU字型のコンフォメーションをとることができ、C−G塩基対に対してはPy/Im対が、G−C塩基対に対してはIm/Py対が、A−T塩基対及びT−A塩基対に対してはいずれもPy/Py対がそれぞれ対応する、上記ピロールイミダゾールポリアミドを含んでなるTGF−β遺伝子発現抑制剤。
(2)更にβ−アラニン単位を含む上記(1)記載のTGF−β遺伝子発現抑制剤。
(3)前記標的領域がhTGF−β1プロモーターの以下に示す塩基配列−548〜−537(配列番号2)
GCAATTCTTACA
の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域である上記1又は2記載のTGF−β遺伝子発現抑制剤。
(4)前記標的領域がhTGF−β1プロモーターの以下に示す塩基配列−544〜−538(配列番号3)
TTCTTAC
の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域である上記3記載のTGF−β遺伝子発現抑制剤。
(5)前記ピロールイミダゾールポリアミドが下式で表される上記1記載のTGF−β遺伝子発現抑制剤。
Figure 0004682312
(6)前記ピロールイミダゾールポリアミドの末端のカルボキシル基がアミドを形成している上記5記載のTGF−β遺伝子発現抑制剤。
(7)前記アミドがN,N−ジメチルアミノプロピルアミンとのアミドである上記6記載のTGF−β遺伝子発現抑制剤。
(8)前記ピロールイミダゾールポリアミドがFITC(フルオレセインイソチオシアネート)と共役体を形成している上記5〜7のいずれか一項記載のTGF−β遺伝子発現抑制剤。
(9)下式で表されるピロールイミダゾールポリアミド。
Figure 0004682312
本発明によれば、遺伝子発現を特異的に抑制することができるので化学療法剤のような副作用がなく、また化合物であるのでリボヌクレアーゼにより分解されるという欠点もない、TGF−β遺伝子発現抑制剤を得ることができる。
本発明に係るピロールイミダゾールポリアミドにおいて、N−メチルピロール単位(以下Pyとも言う)、N−メチルイミダゾール単位(以下Imとも言う)及びγ−アミノ酪酸単位(γリンカーとも言う)は互いにアミド結合(−C(=O)−NH−)で連結されており、その一般構造及び製造方法は公知である(例えば、特許文献1〜3参照)。
例えば、ピロールイミダゾールポリアミドはFmoc(9−フルオレニルメトキシカルボニル)を用いた固相法(固相Fmoc法)による自動合成法によって簡便に製造することができる(特許文献3)。固相Fmoc法によれば、ピロールイミダゾールポリアミドの末端をカルボン酸残基として固体担体から切り出すことができるので、種々の官能基を分子末端に導入してピロールイミダゾールポリアミドの誘導体を作成することもできる。例えば、デュオカルマイシン、ピロロベンゾジアゼピン、ブレオマイシン、エンジイン化合物、ナイトロジェンマスタード、これらの誘導体等、DNAに対してアルキル化能を有する化合物を必要に応じて導入することもできる。固相Fmoc法は市販のタンパク(ペプチド)合成機を用いる自動合成法であるため、天然に存在するタンパク質や非天然タンパク質とピロールイミダゾールポリアミドとの共役体(コンジュゲート)を合成することもできる。また、Fmoc法はt−BOC法に比べて反応条件が緩和であるため、タンパク質以外の有機化合物(酸性条件下で不安定な官能基を有する化合物をも含む)の導入も可能である。例えば、ピロールイミダゾールポリアミドとDNAやRNA(又はそれらの誘導体)との共役体を自動的に合成することも可能である。
上記公知のFmoc法等によれば、末端にカルボキシル基を有するピロールイミダゾールポリアミドを合成することができる。その具体例としては、例えば、末端にβ−アラニン残基(β−アミノプロピオン酸残基)やγ−アミノ酪酸残基を有するピロールイミダゾールポリアミド等が挙げられる。末端にβ−アラニン残基又はγ−アミノ酪酸残基を有するピロールイミダゾールポリアミドは、例えば、それぞれFmocでアミノ基を保護した、アミノピロールカルボン酸、アミノイミダゾールカルボン酸、β−アラニン又はγ−アミノ酪酸を担持した固相担体を用い、ペプチド合成機を使用して固相Fmoc法により合成することができる。
アミノピロールカルボン酸の具体例としては、例えば、4−アミノ−2−ピロールカルボン酸、4−アミノ−1−メチル−2−ピロールカルボン酸、4−アミノ−1−エチル−2−ピロールカルボン酸、4−アミノ−1−プロピル−2−ピロールカルボン酸、4−アミノ−1−ブチル−2−ピロールカルボン酸等が挙げられる。アミノイミダゾールカルボン酸の具体例としては、例えば、4−アミノ−2−イミダゾールカルボン酸、4−アミノ−1−メチル−2−イミダゾールカルボン酸、4−アミノ−1−エチル−2−イミダゾールカルボン酸、4−アミノ−1−プロピル−2−イミダゾールカルボン酸、4−アミノ−1−ブチル−2−イミダゾールカルボン酸等が挙げられる。
固相Fmoc法によれば、例えば、ピロールイミダゾールポリアミドとFITC(フルオレセインイソチオシアネート)との共役体を合成することもできる。FITCは従来から抗体の蛍光標識試薬として知られているので、得られる共役体は、当該ピロールイミダゾールポリアミドが特定のDNA配列を認識することを証明するために用いることができる。
本発明のTGF−β遺伝子発現抑制剤は、N−メチルピロール単位(Py)、N−メチルイミダゾール単位(Im)及びγ−アミノ酪酸単位を含むピロールイミダゾールポリアミドであって、hTGF−β1プロモーターの以下に示す塩基配列−557〜−536(配列番号1)
TAAAGGAGAGCAATTCTTACAG
の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域(以下標的領域と言う)の副溝内において、前記γ−アミノ酪酸単位の部位で折りたたまれてU字型のコンフォメーションをとることができ、C−G塩基対に対してはPy/Im対が、G−C塩基対に対してはIm/Py対が、A−T塩基対及びT−A塩基対に対してはいずれもPy/Py対がそれぞれ対応する、上記ピロールイミダゾールポリアミドを含む。
通常DNAのらせんの骨格は2種類の溝をつくり、広くて深い溝を主溝(メジャーグルーブ)、狭くて浅い溝を副溝(マイナーグルーブ)と呼んでいる。ここで上記ピロールイミダゾールポリアミドは、特定の塩基対がつくる副溝(マイナーグルーブ)に高い親和性と特異性を以って非共役結合的に結合することができる。この時の結合は、副溝のC−G塩基対に対してはピロールイミダゾールポリアミドのPy/Im対が、G−C塩基対に対してはIm/Py対が、A−T塩基対及びT−A塩基対に対してはいずれもPy/Py対がそれぞれ対応している。そして、ピロールイミダゾールポリアミド分子中のγ−アミノ酪酸単位の部位で分子が折りたたまれてU字型のコンフォメーションをとる。
副溝の塩基対とピロールイミダゾールポリアミドのPyとImの対が上述のように対応していないと、副溝とピロールイミダゾールポリアミドとの結合が不十分となる。このように、副溝の塩基対とPy−Im対が上述のように対応していないピロールイミダゾールポリアミドを本願ではミスマッチ又はミスマッチポリアミドと呼ぶ。
Py−Imポリアミドはインビトロ研究では一般的な又は組織特異的な転写因子の有効な阻害剤又は活性化剤である(非特許文献19〜23)。特異的なポリアミドでショウジョウバエ(Drosophila)を発育させると、特に毒性もなく機能的表現型を獲得したり喪失したりするが、これはポリアミドが特異的に遺伝子発現を制御した結果である(Janssen et al:Mol Cell.2000;6:1013−24;Janssen at al:Mol Cell.2000;6:999−1011.)。本発明者らはhTGF−β1プロモータの特定の断片を標的とするPy−Imポリアミド類を合成した。まさに図4に示すように、FITCで標識したPy−Imポリアミドは自発的に細胞膜を透過し、直接培地に添加すると培養hVSMCの核内に高濃度で蓄積した。これらのポリアミドは核内に48時間以上特に消失することもなく安定に滞留した。先に記載されたアンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイム(Hu WY,Fukuda N,Nakayama M,Kishioka H,Kanmatsuse K.Inhibition of vascular smooth muscle cell proliferation by DNA−RNA chimeric hammerhead ribozyme targeting to rat platelet−derived growth factor A−chain mRNA.J Hypertens.2001;19:203−12;Teng J,Fukuda N,Hu WY,Nakayama M,Kishioka H,Kanmatsuse K.DNA−RNA chimeric hammerhead ribozyme to transforming growth factor−betal mRNA inhibits the exaggerated growth of vascular smooth muscle cells from spontaneously hypertensive rats.Cardiovasc Res.2000;48:138−47)と比較して、ポリアミドは選りすぐれた透過性(低濃度、トランスフェクション媒体不要)とより高い安定性を培養hVSMCにおいて示した。ポリアミドの高い透過性と安定性は遺伝子治療法のための真核細胞の核への理想的な薬剤アプローチを提供するものである。
最近までPy−Imポリアミドの開発はプロモータ配列における転写因子−DNA複合体の構造的特性に基づいていた。TATAボックス含有プロモータ中の配列を標的とする効率的な方法は、TATAボックスに隣接する塩基対に結合するよう設計することであろう。TATAボックスはほとんどのタンパク質コード遺伝子において転写開始部位の上流25〜35塩基対に位置している。転写介在因子D(TAFIID)はTATAボックスに特異的に結合するTATAボックス結合タンパク質(TBP)を含んでおり、コアプロモータにおける他の転写関与因子を採用してプレ開始コンプレックス(PIC)を形成する。PICは遺伝子転写を開始してアクチベータ又はサプレッサと相互作用して遺伝子発現を調節する。TBPも二重らせんDNAの副溝(マイナーグルーブ)に結合するので(Lee et al:Cell.1991 Dec 20;67(6):1241−50;Starr et al:Cell.1991;67:1231−40;Courey et al:Cell.1988;55:887−98.)、合成ポリアミドはTATA結合タンパク質の結合部位を競合的に占有し、遺伝子転写に干渉する。様々なプロモータで設計したポリアミドの成功例のうちで、TATAボックスを標的とするものが常に機能することが知られている(非特許文献20、21)。
TATAボックスもイニシエーター領域(Inr)も含んでいない種類のプロモータもある(Javahery et al:Mol Cell Biol.1994;14:116−27;Lo et al:Gene.1996 Dec 5;182(1−2):13−22;Romeo et al:Gene.1997;189:289−95.)。高度に発現し特化された遺伝子のプロモータはTATAボックスを有している傾向にあるが、ハウスキーピング遺伝子のプロモータにはそれが欠如している傾向がある。TATAのないプロモータは、低レベルで発現される遺伝子や、増殖の間に厳密なダウンレギュレーションを要求する遺伝子にとっては必要かもしれないが、そのメカニズムはなお今後の研究を要する。hTGF−β1プロモータはこの種類に属する。これは転写開始部位の上流の様々な領域にいくつもの陽性及び陰性の配列を含んでいる(Kim et al:J Biol Chem.1989;264:402−8.)。転写開始部位の近傍にはいくつかのSP−1配列と二つのAP−1配列が存在する。様々なウイルス性及び細胞性プロモータがSP−1タンパク質によって活性化されるので、プロモータがSP−1により刺激されるためには単一のSP−1配列で十分のようである(Kadonaga et al:Cell.1987;51:1079−90;Courey et al:Cell.1988;55:887−98.)。AP−1配列はJunホモダイマー又はFos/Junヘテロダイマー複合体のいずれかからなるAP−1転写因子に応答する。AP−1配列を介してTPA、v−src遺伝子産物及びhTGF−β1自身のようないくつかの物質がhTGF−β1遺伝子の発現を刺激する(Kim et al:J Biol Chem.1989;264:7041−5;Kim et al:J Biol Chem.1989;264:19373−8.Kim et al:Mol Cell Biol.1990;10:1492−7;Birchenall−Roberts et al:Mol Cell Biol.1990;10:4978−83.)。
SP−1及び/又はAP−1配列がhTGF−β1遺伝子発現の活性化を仲介すると仮定されている。重要なポリアミドは応答性の転写因子の結合を遮断するために、異なるAP−1及びSP−1配列に隣接する塩基対を標的とするように設計されている。しかし、これらのポリアミドがhTGF−β1プロモータの活性を阻害することができるか、又は活性化することができるかを示すに十分なデータはない。これらの結果は、設計したポリアミドがDNA等の副溝(マイナーグルーブ)中で占有する位置が不適切だったためかもしれない。本発明者らは標的配列をhTGF−β1プロモータの上流にまで拡張した。一つのポリアミドはhTGF−β1プロモータ−544〜−538塩基対を標的としており、これはインビトロでプロモータの活性を阻害し(図5〜7)、培養hVSMCではhTGF−β1 mRNAとタンパク質を阻害する(図7、8)ことが示されている。hTGF−β1プロモータの−544〜−538塩基対はちょうど脂肪特異性配列(FSE2)に隣接している(図1)。前脂肪細胞(プレアジポサイト)においてFSE2は脂肪細胞P2(aP2)遺伝子の発現に対して抑制的機能を示し、前脂肪細胞は脂肪細胞よりも多くのFES2配列結合タンパク質を含んでいる(Kadonaga et al:Cell.1987;51:1079−90;Courey et al:Cell.1988;55:887−98.)。TATAボックスを含むコアプロモータからは転写を抑制する転写リプレッサーは見つかってはいるが、TATAのないプロモータからは見つかっていない(Aso et al:EMBO J.1994;13:435−45;Mack et al:Nature.1993;363:281−3;Merino et al:Nature.1993;365:227−32.)。これらの転写リプレッサーはTBP−TATA相互作用に干渉し、次いで遺伝子の転写を阻害すると考えられた。これらのリプレッサーのデータを組合せると、脂肪細胞におけるFSE−2配列の抑制機能はTATAボックスによって仲介されると仮定される。hTGF−β1プロモータはTATAボックスを含んでいないので、hTGF−β1におけるFSE2配列の機能はaP2遺伝子におけるそれとは異なっていると考えられる。ほとんどの哺乳類遺伝子の発現はプロモータとエンハンサー配列に結合した莫大な数のタンパク質の作用の組合せに依存している傾向が高いので、今回の結果を説明する最も簡単なモデルは、本発明のピロールイミダゾールポリアミドがFSE2配列の領域で転写因子−DNA相互作用を遮断し、hTGF−β1プロモータ活性に対して阻害効果を示すということである。
プロモータ領域における転写因子の調節以外に、他の因子も遺伝子発現に影響を与えている可能性もある。これらの因子はクロマチンパッキング、ポリアデニレーション、スプライシング、mRNA安定性、翻訳開始等を包含するものである(Berger et al:Mol Cell.2001;5:263−8;McKeown Annu Rev Cell Biol.1992;8:133−55;Decker et al:Trends Biochem Sci.1994;19:336−40;Kozak Annu Rev Cell Biol.1992;8:197−225.)。合成ポリアミドはヌクレオソームの位置関係から標的部位に接近することができ、特異的配列を標的とすることによりクロマチンの縮合・脱縮合構造に影響を与えている可能性がある(Gottesfeld et al:J Mol Biol.2002;321:249−63;Gottesfeld et al:J Mol Biol.2001;309:615−29.)。ピロールイミダゾールポリアミドがヘテロクロマチン褐色サテライトを開き、GAFの結合を可能とし、その結果drosophila melanogasterにおける表現型の変化を引き起こしているということが証明されている。ピロールイミダゾールポリアミドは容易に合成し、興味のある配列を標的とするように設計することができるので、ゲノムの機能研究や最終的にはhTGF−β1遺伝子阻害や活性化のような遺伝子治療に有用である。
本発明に係るPy−Imポリアミドは転写開始領域からは遠位の上流において設計することができ、これがhTGF−β1遺伝子の発現に対する阻害効果を示す。
I.材料及び方法
(1)hTGF−β1プロモータに対応するPy−Imポリアミドの設計
本実験に用いた化合物とそのミスマッチ化合物(以下、単にミスマッチともいう)の形成スキームを図1に示す。Py−Imポリアミドは脂肪特異性配列2(FSE2)に隣接するhTGF−β1プロモータの−544〜−538塩基対に結合するように設計した。
(2)Fmoc法を用いたPy−Imポリアミドのマシンアシスト(機械補助)自動合成
ピロールイミダゾールポリアミドのマシンアシスト自動合成を、連続フローペプチド合成機Pioneer(商標)(アプライドバイオシステムズ)を用いて0.1mmolスケール(200mgのFmoc−β−アラニン−CLEAR酸レジン、0.50meq/g、Peptide Institute,Inc.)で実施した。自動固相合成はDMF洗浄、Fmoc基の20%ピペリジン/DMFによる除去、メタノール洗浄、HATU及びDIEA(それぞれ4当量)の存在下でのモノマーとの60分間のカップリング、メタノール洗浄、必要に応じて無水酢酸/ピリジンによる保護、及び最終的なDMF洗浄からなっている。Py−Imポリアミドは一般に中程度の収率(10−30%)で得られた。
FITCカップリング:4倍過剰のフルオレセイン(0.40mmol)及びDIEA(HATUなし)をDMFに溶解したものをカラムを通して60分間フラッシュした。
一般的手順:Fmoc−β−アラニン−Wang樹脂のFmoc基を除去した後、樹脂をメタノールで連続的に洗浄した。カップリング工程をFmocアミノ酸で実施し、次いでメタノールでの洗浄を行った。これらの工程を全配列が導入されるまで何度も繰返した。カップリング工程を終えた後、必要に応じてN末端アミノ基を保護するか又はFITCでカップリングし、DMFで洗浄し、反応容器を取りはずした。
カルボン酸としての分解:合成ポリアミドを冷エチルエーテル沈澱により分解工程(91%TFA−3%/TIS−3%DMS−3%水の混合物5ml/樹脂0.1mmol)の後に単離した。
アミンとしての分解:合成ポリアミドを冷エチルエーテル沈澱により分解工程(N,N−ジメチルアミノプロピルアミン5ml/樹脂0.1mmol、50℃、一晩)の後に単離した。
精製:最終精製は、10ml/minの流速の分析用RP−HPLCで、緩衝液A(0.1%AcOH/水)中B(アセトニトリル)の直線勾配を用いて、350nmのUV検出により行った。
以下、化合物4a及び4bにおいて、IはN−メチルイミダゾール残基、PはN−メチルピロール残基、βはβ−アラニン残基、γはγ−アミノ酪酸残基、DpはN,N−ジメチルアミノプロピルアミン、Acはアシル基を表す。
a)FITC−β−IPP−β−IPP−γ−PPP−β−PP−βDp(化合物4a)
勾配:緩衝液B 15%〜45%(30分間)、流速10ml/min。収率7mg(3%)。
b)Ac−IPP−β−IPP−γ−PPP−β−PP−βCOOH(化合物4b)
勾配:緩衝液B 25%〜35%(30分間、60℃)、流速10ml/min。収率29mg(17%)。
Py−Imポリアミド(化合物4b)の構造は図2Aに、そのTIC(total ion chromatogram)チャートとエレクトロスプレーイオン化質量分析スペクトルを図2Bに示す。なお、ミスマッチとしては、上記化合物4bのアシル基に隣接するIをPで置き換えたAc−PPP−β−IPP−γ−PPP−β−COOHの構造を有するポリアミドを用いた。
(3)hVSMC細胞培養
hVSMCはClonetics(Walkersville,MD)から得た。hVSMCを10%仔ウシ血清(Gibco Life Technologies,Gaithersburg,MD)、100U/mlペニシリン、及び100mg/mlストレプトマイシンを含むDulbecco変性Eagle培地(DMEM)にて培養した。細胞をCa2+フリー及びMg2+フリーのリン酸緩衝食塩水(PBS)中0.05%トリプシン(Gibco)でのトリプシン処理により継代し、75−cm組織培養フラスコで培養した。培地は4〜5日毎に交換し、5〜10継代の間の細胞について実験を行った。
(4)培養hVSMCにおけるFITC−標識ポリアミド類のインキュベーション
継代hVSMCを10/cmの密度で24時間、24ウェルのフラスコで培養した。FITC標識ポリアミドを10−9Mの濃度で培地に直接添加し、蛍光顕微鏡で1時間ごとに観察した。
(5)ゲルシフトアッセイ
オリゴヌクレオチドを合成し、アニーリングして、hTGF−β1プロモータの−548〜−537塩基対に対応する12種の二本鎖オリゴヌクレオチドとした(図1A)。二本鎖DNAを[γ−32P]−ATPを用いたT4ポリヌクレオチドキナーゼで標識し、37℃で15分間、結合緩衝液(40mM Tris,pH7.9,250mM NaCl,25mM EDTA,25mM DTT,100mM KCl)中でポリアミド又はミスマッチポリアミドとともにインキュベートした。得られた複合体を20%ポリアクリルアミドゲルにより電気泳動し、オートラジオグラフィーで可視化した。
(6)hTGF−β1プロモータの制御下でのルシフェラーゼ遺伝子発現系の構築
プラスミドphTBG 101(非特許文献10)由来の2.2kb hTGF−β1プロモータを分離し、pGL3基本プラスミドに挿入し(Promega,Madison,WI)、ルシフェラーゼリポーター遺伝子のコード領域の上流に置いた。正確な構築プラスミドは制限酵素スペクトル分析及び配列決定により同定された。
(7)インビトロ転写反応
インビトロ転写反応はHeLa核抽出物を用いてインビトロ転写系で行った(Promega,Madison,WI)。25μLの反応液は、100ngのDNA鋳型、8UのHeLa核抽出物、3種類の非標識三リン酸(UTP、CTP、GTP)の各々400μM、25μM γ−32P−ATP(5ci/mmol、NEM Life Science Products)、及び20mMのヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)を含む転写緩衝液(pH7.9)、100mMのKCl、4.0mM MgCl、20%グリセロール、0.2mM EDTA、0.6mM フェニルメチルスルホニルフルオリドからなるものであった。転写鋳型DNAはSphI(New England BioLabs,Baverly,MA)で切断した。転写反応液を30℃で60分間インキュベートした後、175μMのHeLa抽出物停止溶液(0.3M Tris−HCl、pH7.0、0.3M 酢酸ナトリウム、0.5%SDS、2.0mM EDTA、3μg/ml tRNA)を添加することによって反応を停止し、次いでフェノールクロロホルム−イソアミルアルコール抽出及びエタノール沈澱を行った。試料を98%ホルムアルデヒド・ローディング色素中に再懸濁させ、90℃で10分間加熱してから6%、7M尿素・ポリアクリルアミドゲルで泳動した。ゲルを乾燥し、オートラジオグラフィーで可視化した。
(8)一時的トランスフェクションとルシフェラーゼアッセイ
hVSMC細胞を10%CSの存在下で24ウェル皿に10−5/cmの密度で培養した。24時間後、hTGF−β1プロモータにより駆動されるレポーター遺伝子を、滅菌培地に1μgのDNAの存在下リポフェクチン試薬(GibcoBRL)を用いて、製造者の指示する方法にしたがってトランスフェクトした。細胞をDNAリポソーム複合体とともに6時間インキュベートし、次いで培地を1mlの新鮮な完全培地で置き換えた。トランスフェクションの24時間後、細胞をポリアミド又はミスマッチポリアミドの存在下又は非存在下で、0.5%CSを含む培地で24時間インキュベートした。この処理の終わりに、培地を取り除き、細胞を剥がして150μlのPassive Lysis緩衝液中に入れた。簡単に遠心分離を施した後、細胞抽出物でデュアル−ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイ系(Promega,Madison,WI)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。100μlのルシフェラーゼ基質を20μlの抽出物に添加した。混合後、反応物をルミノメーター(Turner Designs−Bioblock,Illkirch,France)に置き、室温で10秒間に発生する発光を測定した。
(9)RNA抽出及び成長因子mRNAのための逆転写反応、ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)アッセイ
培養細胞をPBSで洗浄し、800μLのRNAzolB(Biotex Laboratories,Inc.,Houston,TX)に溶解し、80μLのクロロホルムと混合し、遠心分離を施し、無色の上部水相を等体積のイソプロパノールと混合してRNAを沈澱させた。RNAペレットを500μLの75%エタノールで二回洗浄し、乾燥後、10μlのTE緩衝液に溶かした。65℃で15分間変性させた後、RNA試料を室温で45分間、0.5mlのDNアーゼ緩衝液(20mM Tris−HCl pH 8.3,50mM KCl,2.5mM MgCl)中、0.5U DNアーゼ(Gibco)で処理した。DNアーゼは0.5mL 0.5M EDTAを添加し、98℃で10分間加熱することによって不活化した。
等量のRNAのアリコート(1μg/20μL)を、10mM Tris−HCl(pH8.3)、5mM MgCl、50mM KCl、1mM デオキシNTP類、及び2.5μMランダムヘキサマー中、2.5U/20μLトリ骨髄芽腫ウイルス逆転写酵素(Takara Biochemicals,Osaka,Japan)を用いて一本鎖cDNA中に逆転写させた。2μLの希釈cDNA生成物を10mM Tris−HCl(pH8.3)、50mM KCl、4mM MgCl、0.025U/μL Taq DNAポリメラーゼ(Takara Biochemicals,Osaka,Japan)及び上流センスプライマー及び下流アンチセンスプライマーの各々0.2μMとともに混合し合計25μLとした。センスプライマー(5’−ATCAGAGCTCCGAGAAGCGGTACC−3’)(配列番号4)及びアンチセンスプライマー(5’−GTCCACTTGCAGTGTTATCCTG−3’)(配列番号5)をhTGF−β1 mRNAのPCR増幅に使用した。ヒト18SリボゾームRNAについてセンスプライマー(5’−TCAAGAACGAAAGTCGGACG−3’)(配列番号6)及びアンチセンスプライマー(5’−GGACATCTAAGGGCATCACA−3’)(配列番号7)を内部対照として使用した。PCRを自動熱制御器(Perkin Elmer,Foster,CA)で行った。PCR条件は94℃2分の初期変性、次いで30サイクルの変性94℃1分、アニーリング58℃1分、伸張72℃1分を行い、最後に72℃10分の伸張反応を行うものであった。18SrRNAについてのプライマーによるPCRを内部対照として各反応中に含ませた。ゲノムDNAがPCRによって増幅しないことを確認するために、逆転写酵素なしプライマーセットありの対照RT−PCR実験を行った。反応のいずれにおいても生成物は増幅しなかった。mRNAの半定量的分析のために、PCR反応の動力学をモニターした。PCR産物がゲル上で検出可能になったサイクル数を種々の試料間で比較した。連続した10倍希釈のcDNA(100、10及び1ng)を増幅した。PCR産物はcDNAの量を増加していくとより早いサイクルの段階で検出可能となった。標的mRNAの各々に対応するPCR産物の量は20〜35サイクルで直線的に増加した。5μMのPCR産物を1.5%アガロースゲル上の電気泳動により分離した。バンド強度をNIHソフトウェアを用いてコンピュータ分析により測定した。
(10)細胞の調製とウェスタンブロット分析
被験VSMC及び対照VSMCを6ウェルプレートで24時間インキュベートし、PBSで2回洗浄し、300μLの溶解緩衝液(50mM Tris−HCl(pH8.0)、150mMのNaCl、1mM EDTA、1mM フェニルメチルスルホニルフルオリド、1μg/mL アプロチニン、1% Triton X−100)で氷上30分間インキュベートした。細胞を1.5mLチューブ中に剥ぎ取り、遠心分離し、上澄み液を集め、タンパク質含量をBIO−RADタンパク質アッセイキット(Bio−Rad Lab,Hercules,CA)を用いたブラッドフォードタンパク質アッセイにより決定した。上澄み液は20μgの全タンパク質を含んでいた。これをローディング緩衝液中100℃で3分間変性し、10%ポリアクリルアミドゲルで泳動し、ニトロセルロース膜に転写した。膜をhTGF−β1に特異的なマウスモノクローナル抗体(1:500)(R&D systems、Minneapolis、MN)とともに室温で1時間インキュベートし、次いで抗マウスHRP共役第二抗体とともに1:2000で室温で1時間インキュベートした後、十分に洗浄した。膜を電気化学発光基質(Amersham Life Service,Buckinghamshire,UK)とともにインキュベートし、X線フィルムに暴露した。
(11)統計解析
結果は平均値±SEMで表現した。平均値間の差の有意性はスチューデントt検定により評価した。0.05未満のp値を有意であるとした。
II.結果
(1)合成ポリアミドの二本鎖オリゴヌクレオチドへの結合
まず、合成Py−Imポリアミド(化合物4a及び4b)がその対応塩基対に結合するかどうかをチェックした。いずれのポリアミドも対応する12塩基対二本鎖オリゴヌクレオチドに結合することができたが(図3、レーン2〜4)、ミスマッチポリアミドはこれらのオリゴヌクレオチドには結合しなかった(図3、レーン1)。
(2)合成ポリアミドの細胞膜の透過と核内への取り込み
合成化合物が核内に入り生存細胞中で安定な状態にあることを示すためにPy−ImポリアミドをFITCで標識した。FITC標識ポリアミドを培地中10−9Mの濃度で2時間インキュベートしたところ、このFITCを培養hVSMCの核内で高密度で検出することができた。(図4)。核内におけるFITC標識ポリアミドのこの高蓄積はゲノム内の非特異的結合によるものであり、細胞質中のこの化合物の濃度ははるかに低いものであった。
(3)合成ポリアミドによるhTGF−β1プロモータ活性の阻害
インビトロ転写系はHeLa核抽出物とhTGF−β1プロモータの存在下でDNA暗号を転写する。合成ポリアミド(Pol)はhTGF−β1プロモータの−544〜−538塩基対に結合するので、転写を減少させる。一方、ミスマッチポリアミド(Mis)は転写分子の形成に有意な効果を示さなかった(図5)。
プラスミドトランスフェクション実験において、ルシフェラーゼをコードするレポーター遺伝子はhTGF−β1プロモータにより駆動され、培養hVSMC中で発現された。12−O−テトラデカノイルフォルボール−13−アセチルトランスフェラーゼ(TPA)はルシフェラーゼタンパク質の発現を刺激した。10−9Mのポリアミドのインキュベーションによりルシフェラーゼの発現を有意にダウンレギュレートすることができたが、ミスマッチポリアミドはルシフェラーゼ遺伝子の発現には効果はなかった(図6)。
(4)合成ポリアミドによるhVSMC中でのhTGF−β1mRNAの阻害
インビボにおけるhTGF−β1遺伝子の発現に対するポリアミドの効果を観察するために、培養hVSMCを10−9Mポリアミドとともに24時間インキュベートした。hTGF−β1mRNAをRT−PCR法を用いて分析した。TPAを陽性対照として用いた。50ng/mL TPAはhTGF−β1mRNAの発現を有意に刺激した。本発明のポリアミド(pol)はTPAにより誘導されたhTGF−β1mRNAの発現を有意に阻害したが、ミスマッチポリアミド(Mis)は阻害しなかった(図7)。
(5)hVSMCにおけるhTGF−β1タンパク質の発現に対する合成ポリアミドの効果
本発明者らはhVSMCにおけるhTGF−β1タンパク質の発現に対する合成ポリアミド(pol)の効果をチェックした。10−9Mの合成ポリアミドは24時間のインキュベーション後にhTGF−β1タンパク質の発現を阻害したが、ミスマッチポリアミド(Mis)は阻害しなかった(図8)。
本発明のTGF−β遺伝子発現抑制剤はTGF−βの産生が関与する疾病の治療薬として利用可能である。
本発明で用いられる合成Py−Imポリアミドの構造を示す。 合成Py−Imポリアミド(化合物4b)の構造を示す。 合成Py−Imポリアミド(化合物4b)のTICチャートとエレクトロスプレーイオン化質量分析スペクトルを示す。 合成Py−Imポリアミドの対応二重鎖オリゴヌクレオチドへの結合によるポリアミド−オリゴヌクレオチド複合体の形成を示す。hTGF−β1プロモータの−548〜−537塩基対(図1)に対応する二重鎖DNAは[γ−32P]−ATPを用いてT4ポリヌクレオチドにより標識され、ミスマッチポリアミド(レーン0)又は漸増量のポリアミド(レーン1〜3がそれぞれ1nM、2nM、4nM)と共に、結合緩衝液中37℃で15分間インキュベートした。得られた複合体を20%ポリアクリルアミドゲルにより電気泳動にかけ、オートラジオグラフィーにより可視化した。 10−9Mの濃度で2時間インキュベーションした後、FITC標識ポリアミドが培養hVSMC細胞の核内に留まっていることを示す。FITC標識ポリアミドは培養hVSMC細胞の核内に48時間よりも長い時間留まっていることができる。FITC標識ポリアミドを10−9Mの濃度で培地に直接添加し、蛍光顕微鏡下で観察した。 ポリアミドがインビトロ転写反応においてルシフェラーゼ遺伝子転写を阻害することを示す。1μgのプラスミドを、8UHeLa核抽出物、3種類の非標識三リン酸(UTP、CTP、GTP)の各々の400mM、25μM α−32P−ATPと共に、転写緩衝液中、30℃で60分間インキュベートした。175μlのHeLa抽出停止溶液を添加することにより反応を停止し、次いでフェノールクロロホルム−イソアミルアルコール抽出とエタノール沈澱を行った。試料を98%ホルムアルデヒドローディング色素中に再懸濁し、6%、7M尿素−ポリアクリルアミドゲルに載せる前に90℃で10分間加熱した。ゲルを乾燥し、オートラジオグラフィーで可視化した。 ポリアミドがプラスミド実験においてルシフェラーゼ遺伝子(pGL/TGF)の発現を阻害することを示す。TPAはhTGF−β1プロモータの活性を促進し、ポリアミド(pol)はプロモータの活性を低下させたが、ミスマッチポリアミド(Mis)は低下させなかった。hTGF−β1プロモータにより制御された1μgのルシフェラーゼ遺伝子を無菌培地中リポフェクチン試薬を用いて6時間でトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、細胞を、0.5%CSを含有する培地中でポリアミド又はミスマッチポリアミドの存在(非存在)下で24時間インキュベートし、ルシフェラーゼ活性をデュアル−ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイ系を用いてこれらの細胞抽出液で測定した。100μLのルシフェラーゼ基質を20μLの抽出液に加えた。混合後、反応液をルミノメータ(Turner Designs−Bioblock,Illkirch,France)中に置き、室温で10秒間に発生する光を測定した。PMAを陽性コントロールとして用いた。コントロールとの比較p<0.05。 ポリアミドがhVSMC中でhTGFβ1mRNAの発現を阻害することを示す。10−9Mのポリアミドを培養hVSMCの培地に添加し、24時間インキュベーションした。50ng/mLのTPAでの処理を陽性コントロールに用いた。全RNAを細胞から抽出し、一本鎖cDNAに逆転写し、材料と方法の部で先述したhTGFβ1と18SrRNAのプライマーで増幅した。(A)5μlのPCR産物を1.5%アガロースゲル上で電気泳動により分離した。(B)TPAはhTGFβ1mRNAの発現を刺激した。hTGFβ1mRNAの18SrRNAに対する比はポリアミド処理群(pol)では有意に減少したが、ミスマッチポリアミド(mis)はhTGFβ1の発現に影響を与えなかった。 培養hVSMCにおけるhTGFβ1タンパク質へのポリアミドの効果を示す。10−9Mのポリアミドを培養hVSMCの培地に添加し、24時間インキュベーションした。(A)hTGFβ1タンパク質の発現をウェスタンブロット解析により検討した。(B)ポリアミド(pol)はhTGFβ1タンパク質を培養hVSMCにおいて有意に阻害したが、ミスマッチ(mis)は阻害しなかった。
配列番号4 センスプライマー
配列番号5 アンチセンスプライマー
配列番号6 センスプライマー
配列番号7 アンチセンスプライマー

Claims (5)

  1. 式で表されるピロールイミダゾールポリアミドを含んでなるTGF−β遺伝子発現抑制剤。
    Figure 0004682312
  2. 前記ピロールイミダゾールポリアミドの末端のカルボキシル基がアミドを形成している請求項記載のTGF−β遺伝子発現抑制剤。
  3. 前記アミドがN,N−ジメチルアミノプロピルアミンとのアミドである請求項記載のTGF−β遺伝子発現抑制剤。
  4. 前記ピロールイミダゾールポリアミドがFITC(フルオレセインイソチオシアネート)と共役体を形成している請求項のいずれか一項記載のTGF−β遺伝子発現抑制剤。
  5. 下式で表されるピロールイミダゾールポリアミド。
    Figure 0004682312
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