JP4679772B2 - 色素溶液の臭気抑制方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、食品工業等において着色剤として使用される天然物から抽出された色素(天然物由来色素)、とりわけ赤ダイコン色素等のアントシアニン系色素を含有する色素溶液の臭気抑制方法に関する。詳しくは、天然物由来の色素液を長期間保存した場合に遭遇する、保存中に於ける臭気の再発生、即ち戻り臭の発生を抑え、且つ色調劣化も抑えた、天然物由来色素を含有する色素溶液の臭気抑制方法に関する。
【0002】
【従来技術】
天然物由来色素やその溶液は安全性の高いものが多く、食品、化粧品等の着色に有用である。しかし往々にして、その原料由来の臭気を有するため、使用用途範囲が限定されることが多い。とりわけアブラナ科植物由来のアントシアニン系色素を含有する色素溶液は、主として硫黄化合物等による独特の原料由来の臭気が付帯している。これを人間が感知できない程度に除去しないと、食品や化粧品等での広い応用が困難とされており、この臭気の低減化が求められてきた。
【0003】
この様な要請から、これまで天然物由来色素を精製し夾雑物を極力除去することによって臭気を低減させる諸々の試みが行われてきている。例えばアントシアニン系色素液を吸着樹脂処理と限外ろ過膜処理で精製するアントシアニン系色素の製造方法(特開昭59−223756号公報)や、陰イオン交換樹脂で精製するアントシアニン系色素の精製方法(特開平4−154871号公報、特開平7−157679号公報)、微生物処理による天然色素の精製方法(特開2000−290525号公報)などが知られている。これらの精製方法による脱臭処理を行うことで、一応の脱臭はなされていた。
しかしこのような精製方法による場合、脱臭処理を行った直後における色素溶液の臭気を低減化することは可能となったが、この脱臭処理後の色素溶液の保存中に発生する臭気、いわゆる「戻り臭」までをも完全に抑制することは未だなし得なかった。
【0004】
一方、天然物由来色素を含有する色素溶液の保存性向上に関しても種々の提案がなされている。例えば特開昭61−282032号公報に記載されているような添加剤を添加することを特徴とする色素退色防止法、特開昭63−218767号公報、特開平6−234935号公報、特開平9―263707号公報に記載されているような添加剤を添加することを特徴とする色素安定化法、特開平8−224068号公報、特開昭61−282032号公報に記載されているような色素用退色防止剤等にみられるように色素自体の安定化に関する知見は多い。しかし、例えば特開昭61−282032号公報には、ルチン、ケルセチン、フィチンやその誘導体等を添加することで、色素自体の安定性向上、退色防止には効果があることが示されているが、色素溶液の戻り臭発生を長期間にわたって防止することについては何等記載されておらず、且つ本発明者らが、これらを添加しても戻り臭の発生を防止することはできなかった。
【0005】
【本発明が解決しようとする課題】
本発明は、天然物由来の色素溶液に付随する臭気を低減させ、特に精製処理後の色素溶液を長期間保存した場合に再発生する臭気、つまり戻り臭気の発生を抑制し、しかも色調の劣化をも防止する臭気抑制方法を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述したような脱臭処理を経た色素溶液であっても、その保存中において経時的に発生してくる戻り臭の抑制について鋭意検討し、色素溶液中の酸素と色素化合物、夾雑物との関係に着目した。その結果、色素溶液中の酸素濃度、特に長期保存中における空気との接触が戻り臭の発生に何等かの関与をしており、酸素濃度の制御が戻り臭の発生阻止に有効であることを知得した。その為には色素溶液中の酸素と反応して自身が酸素を消費する作用機構を有する溶存酸素吸収剤を、合成吸着剤等の吸着剤との接触による脱臭処理後の該色素溶液中に存在させて酸素濃度を制御すれば、戻り臭の発生を抑制し、しかも色調劣化も抑え得ることを見出した。そしてこの色素溶液を保存する際には、不活性ガスと接触させておくことで更にその効果が顕著となった。この事から、合成吸着剤等の吸着剤との接触による脱臭処理後の色素溶液を保存する場合、色素溶液を不活性ガスと接触させて保存すれば、色素溶液中の酸素濃度が抑制される結果、溶存酸素吸収剤を添加せずに戻り臭の発生を抑制出来ることも見出した。本発明はかかる知見に基づいて達成されたものである。
【0007】
即ち本発明の要旨は、天然物由来のアントシアニン系色素の抽出溶液を吸着剤との接触処理により脱臭処理し、該脱臭処理した抽出溶液に、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸及びこれらの塩又は誘導体;亜硫酸、ピロ亜硫酸、亜リン酸、ピロリン酸、ピロ亜リン酸、次亜リン酸、亜硝酸及びこれらの塩;並びに二酸化イオウからなる群より選ばれる1以上の溶存酸素吸収剤を添加することを特徴とする色素溶液の戻り臭気抑制方法に存する
【0008】
本発明の好適な態様として、アントシアニン系色素がアブラナ科植物、特に赤ダイコン由来の色素であること;溶存酸素吸収剤の色素溶液中における濃度は、0.00001〜10重量%であること;赤ダイコン由来の色素抽出液に添加する溶存酸素吸収剤がアスコルビン酸、イソアスコルビン酸、及びその塩からなる群より選ばれ、且つ、脱臭処理後の色素溶液中でのアスコルビン酸およびイソアスコルビン酸としての合計濃度が、単位色価あたりの濃度として0.1ppm以上、25ppm以下、好ましくは0.1ppm以上、10ppm以下となる様に添加することが挙げられる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いることができる天然物由来の色素を抽出して得られる抽出溶液は任意であり、例えばカロチノイド系イエローやアントシアニン系色素溶液などが挙げられる。本発明方法は、特に、主な臭気成分として含硫化合物類を含むアントシアニン系色素溶液に対して効果が著しい。アントシアニン系色素溶液を得る天然色素原料として、具体的には、例えばアブラナ科に属する赤ダイコン、赤カブ、赤キャベツ等が挙げられる。赤ダイコンとしては、アブラナ科ダイコン属(Raphanus sativus L.)に属する中国産赤大根(紅心赤大根など)や岩国赤等が、また赤カブとしてはアブラナ科アブラナ属(Brassica Rapa L.)に属する伊代緋カブ等を挙げることができる。更にアブラナ科に属するものとして、紫甘らんとも言われる赤キャベツも挙げられるほか、紫サツマイモ等も挙げられる。
【0010】
天然色素原料から色素の抽出は、公知の方法により行うことができる。例えば、アントシアニン系色素溶液は、上記植物を色素が抽出可能な大きさに裁断し、適量の水及びpH調整剤等を加え、室温にて浸漬し、所望により攪拌して該植物に含まれる色素成分を抽出し、抽出液を濾別することにより得られる。この場合、水溶液のpHを酸性側に保持して抽出することが望ましい。抽出に用いる液のpHは、通常4以下が好ましく、中でも約1〜約4の範囲がより好ましい。pHの調整に用いられる酸としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、酢酸などの有機酸あるいは塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸を挙げることができる。
抽出に用いる水の使用量は任意であるが、例えば赤ダイコンや赤カブからの抽出の際には、これらの重量の約1〜約10重量倍程度が取り扱い易く好ましい。また抽出の際に、水にアルコールを添加して用いてもよく、この際のアルコール濃度は任意であるが約1〜約50重量%程度が好ましい。かくして得られる色素溶液は、一般的に原料由来の独特の臭気を有する。
【0011】
次に、上記の如くして得られた色素溶液を脱臭処理に供する。脱臭処理方法に関しては水蒸気蒸留法、分子蒸留法、有機溶剤や超臨界流体による抽出法、膜ろ過法、吸着法など一般に知られる脱臭処理方法であれば何れでも適用可能であるが、中でも色素成分等を含む溶液を合成樹脂吸着剤を充填したカラムに通液する方法が好ましい。この方法の場合、特に合成樹脂吸着剤カラムに色素成分と臭気成分を含む色素抽出液を通液し、先ず該樹脂に臭気成分と色素成分の両方を吸着させ、先に破過して出て来る色素成分を含む通過液から回収を開始し、後から破過して出てくる臭気成分を含む通過液までの間の色素液を回収する方法が好ましい。
【0012】
用いる合成樹脂吸着剤としては、無極性の多孔質吸着樹脂であり、例えば、スチレン−ジビニルベンゼン架橋共重合体系樹脂又は(メタ)アクリル酸エステル架橋共重合体系樹脂等の網目状分子構造を持つ樹脂が好ましく、これらは市販品の中から適宜入手可能である。スチレン−ジビニルベンゼン架橋共重合体系樹脂においては、例えば、比表面積約300〜約700m2/g程度の樹脂が好ましく、これに該当する多孔性合成樹脂としてはダイヤイオンHP−20、ダイヤイオンHP−50等のHP樹脂(「ダイヤイオン」:登録商標、三菱化学社製)、ダイヤイオンSP−206、ダイヤイオンSP−825等のSP樹脂(三菱化学社製)、XAD−4(ローム アンド ハース社製)などが挙げられる。またメタクリル酸系エステル樹脂としては、例えばXAD−7およびXAD−8(ローム アンド ハース社製)などが挙げられる。
【0013】
臭気成分と色素成分を含む色素水溶液の樹脂吸着剤充填カラムへの通液に引き続いて、これらの成分を含まない水溶媒の通液を行っても良い。通液に用いる水溶媒は特に制限されないが、水溶媒のpHは通常色素の抽出液のpHと同程度であり、そのpHは7以下が好ましく、約1〜4の範囲がより好ましい。pHの調整に用いられる酸は前記した色素溶液のpH調整に用いられたものが用いられる。
液の通過速度は特に限定されないが、単位容積当たりの流量が多いと装置当たりの処理量が確保できても、脱臭が不十分になる場合があるので限界があり、他方速度を落とすほど臭気成分の吸着は良くなるが、逆に単位時間当たりの処理量が低下する。従って、通液速度は通常SV=0.1〜10、中でも0.5〜5が好ましい。
【0014】
色素成分の破過が始まるまでの通液量はベッドボリューム(BV)の4倍(4BV)程度であり、色素回収の開始は、通常1〜10BV、好ましくは2〜6BVの通液後から行なえばよい。
また、色素成分が樹脂に吸着している間は、通過液は透明であり、色素成分が破過し始めると赤色に変化するので、通過液の吸光度をチェックして回収開始点を決めるのが好ましい。回収の終点は、上記のとおり臭気成分の破過点をベッドボリュームで予め確認しておいて判断してもよいし、人間が臭いを嗅いでも十分に判断が可能であり、ヘッドスペースGC法を用いる気相部サンプルのスルフィド類の分析によっても判断できる。本脱臭処理により、ほとんど臭いのない色素溶液が得られる。
【0015】
本発明方法では、溶存酸素吸収剤を色素溶液に添加することにより色素溶液中の溶存酸素濃度を低く保ち、長期間無臭状態を維持することが可能となる。溶存酸素吸収剤の添加時期は上記脱臭処理後に添加し、引き続いて保存するのが好ましい。本発明における溶存酸素吸収剤とは、色素溶液中の酸素と反応して、それ自身が酸素を消費する作用機構を有するものを意味する。具体的にはアスコルビン酸、イソアスコルビン酸及びそれらの塩または誘導体;亜硫酸、ピロ亜硫酸、亜リン酸、ピロリン酸、ピロ亜リン酸、次亜リン酸、亜硝酸及びそれらの塩;二酸化イオウ等が挙げられる。アスコルビン酸、イソアスコルビン酸の誘導体としては、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸のエステル体が例示できる。又、これらの塩は、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩が好ましい。中でも、戻り臭抑制効果及び食品添加物としての使用が可能である点から、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸及びこれらの塩や、亜硫酸及びその塩が好ましい。
【0016】
本発明における溶存酸素吸収剤の臭気発生抑制機構は、従来から食品の日持ち向上に用いられる酸化防止剤、例えばポリフェノール類、具体的にはフラボノイド類であるケルセチン、カテキン、イソフラボン等や、フェニルプロパノイド類のコーヒー酸、クロロゲン酸、ロスマリン酸等による色素の退色防止とは作用機構が異なる。つまり、これら酸化防止剤による退色防止の機構は、主に光により励起された、色素溶液中の色素化合物と酸素との反応(酸化)を抑制するものであるのに対し、本発明における溶存酸素吸収剤による臭気発生の抑制機構は、この溶存酸素吸収剤自身が色素溶液中の酸素と反応し、それ自身が酸素を消費するので、全く異なる機構で作用するのである。
【0017】
溶存酸素吸収剤の添加量や方法は色素や用いる溶存酸素吸収剤種により適宜選択すればよい。一般的には、色素溶液中における濃度が0.00001〜10重量%になるように添加し、溶解すればよい。
その際、色素と溶存酸素吸収剤の組合せによっては、過剰量の溶存酸素吸収剤が存在することにより、色素の退色が促進される場合もあることに留意する必要がある。例えば、赤ダイコン色素溶液にアスコルビン酸、イソアスコルビン酸及びこれらの塩より選ばれる酸素吸収剤を添加する場合には、色素溶液中でのアスコルビン酸及びイソアスコルビン酸の合計濃度が単位色価あたりの濃度として、通常0.1ppm以上、25ppm以下、好ましくは0.1ppm以上、10ppm以下となるように添加することが望ましい。ここで、「単位色価あたりの濃度」とは、色素溶液の当該色素の極大吸収波長の光に対する吸光度(色価と称する)で、溶液中の酸素吸収剤濃度を割った値を意味する。具体的には、赤ダイコン色素溶液では、該色素溶液のpH3における極大吸収波長512nmの光における吸光度(色価)を測定し、溶液中のアスコルビン酸及びイソアスコルビン酸の合計濃度を色価で割った値である。
赤ダイコン色素の色価の測定方法としては、例えば約0.1gの赤ダイコン色素溶液を秤量し、これにpH3の緩衝液、例えばMcI1vaine緩衝液(0.2Mリン酸水素二ナトリウム−0.1Mクエン酸)を加えて全量を100mLとし、液層の長さ1cmで極大吸収波長512nmにおける吸光度を測定する。この測定値から当該赤ダイコン色素溶液の色価を次式により求める。
赤ダイコン色素溶液の色価
=(吸光度×100)/(赤ダイコン色素溶液試料の重量(g))
【0018】
この様にして得られた酸素吸収剤を含有する色素溶液を保存する際には、これを密封可能な容器に入れて密封して保存することが好ましい。中でも、この容器を遮光し、10℃以下の低温で保存することにより、長期間にわたって戻り臭の発生を抑制することができるので好ましく、この密封に際しては、密封後の容器内の圧力は気密性が保たれるならば陰圧でも陽圧でも構わないが、ヘッドスペースに不活性ガスを充填して密封することがより好ましい。この際、不活性ガスの充填方法は任意であるが、色素溶液の入った容器の気相部を上記ガスで満たし、そのまま密封する方法が最も簡単である。
不活性ガスとしては窒素、ヘリウム、アルゴンやそれらの混合ガス等が挙げられる。またこの際、不活性ガスに代えて、空気から脱酸素剤によって酸素をほぼ完全に除去したガスや、炭酸ガス等を用いてもよい。
【0019】
また本発明においては、色素溶液を吸着剤、好ましくは先述の様な多孔質合成樹脂吸着剤との接触による脱臭処理を経た後に、酸素含有ガスに長時間曝すことなく色素溶液を先述の不活性ガス等と接触させて密封保存することで、溶存酸素吸収剤を添加せずとも、溶存酸素吸収剤を添加した際と同様に戻り臭の抑制が可能である。密封方法や保存方法は、先述と同様に行うのが好ましい。
【0020】
本発明により得られる色素溶液はこのまま各種の用途に供試し得るが、通常は濃縮して流通、保存、使用される。濃縮は通常の方法で行われるが、例えば20〜90℃程度の温度で使用した溶媒を大気ないし減圧条件下に留去することにより、200〜2000の色価を有する該色素の濃縮液を得ることができる。
このようにして得られた色素溶液は、色調に優れ、また長期間にわたって臭気の再発生が無く、長期保存されたものでも食品、飲料や化粧品等の着色剤として広く利用できる。利用に際しては用途に応じこのまま、または乳化、粉末化した形態で使用可能である。乳化は通常、アラビアガム、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの乳化剤、多価アルコール等を添加して、ホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化する方法により行うことができる。さらに、粉末化は通常、乳糖、デキストリン、アラビアガムなどの賦形剤を添加し、真空乾燥、噴霧乾燥などの乾燥手段を用いて行うことができる。
【0021】
また、上記の如き形態で使用する場合、必要に応じ、色素の安定性を向上させる目的で、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などの有機酸あるいはクロロゲン酸、ルチン、茶フラボノイド、タンニン類などの抗酸化剤等を添加しても良い。このようにして得られた種々の形態の色素は、飲食物、嗜好品類、餌飼料類、保健・医薬品類、香粧品などの各種分野において広く利用可能である。例えば、飲食品分野では、ドロップ、キャンディー、チョコレート、アイスクリーム、シャーベット、ゼリー、清涼飲料、乳飲料、飴、畜肉加工食品、焼き肉のたれ、漬物などの天然着色料;嗜好品類への天然着色料;錠剤、液状経口薬、湿布薬などのごとき保健・医薬品類への天然着色料;あるいは、石鹸、洗剤、シャンプーの着色のごとき香粧品類への天然着色料などとして有用である。
上記した如き飲食品等に添加する場合の添加量は、得られる製品の種類、要求される消費者の嗜好等によって左右されるが、通常は製品に対して約0.005〜約10重量%の範囲、好ましくは約0.01〜約0.1重量%の範囲を例示することができる。
【0022】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。以下において、「%」は「重量%」を表す。
実施例1
赤ダイコン1Kgを適当な大きさに裁断し、抽出器にて、クエン酸1%の水溶液5リットルを仕込み、常温下8時間程で抽出し、3回繰り返した。該抽出液を分離回収して集液したものを加熱減圧濃縮器を用いて、水分を蒸発除去濃縮した。得られた濃縮液の一部分を平均孔径1.6μmのガラス繊維フィルターでろ過した後、赤ダイコン色素溶液の原液(赤ダイコン色素原液)として、以下のテストに供した。なお、該赤ダイコン色素原液のpH3における波長512nmの光に対する吸光度(色価)は610であった。
【0023】
上記赤ダイコン色素原液500mLを、合成吸着樹脂ダイヤイオンHP20(三菱化学社製)20cm3を充填したガラス製カラム(径12.5mmφ)に、SV=3の流速で通過させ、赤ダイコン色素溶液の脱臭処理液490mLを得た。該処理液の色価は490であった。該樹脂処理液40mLにアスコルビン酸を1%になるように溶解させた。このときの単位色価あたりのアスコルビン酸濃度は20ppmであった。得られた色素溶液をヘッドスペースGCにより、スルフィド類を分析すると同時に、官能試験により臭気の評価を行った。結果を表1に示す。さらに、この色素溶液を密閉容器に入れ、冷蔵庫(約4℃)で2ヶ月間保存し、その後ヘッドスペースGCにてスルフィド類を分析すると同時に、官能試験により臭気の評価を行った。結果を表1に示す。また、2ヶ月間保存した後でも色調の劣化は殆どなかった。
【0024】
実施例2
実施例1で得た赤ダイコン色素樹脂処理液40mLにアスコルビン酸を0.1%になるように溶解させた。このときの単位色価あたりのアスコルビン酸濃度は、2.0ppmであった。該色素液をへッドスペースGCにてスルフィド類を分析すると同時に、官能試験により臭気の評価を行った。結果を表1に示す。さらに、該色素溶液を密閉容器に入れ、冷蔵庫(約4℃)で2ヶ月間保存し、その後へッドスペースGCにてスルフィド類を分析すると同時に、官能試験により臭気の評価を行った。結果を表1に示す。また、2ヶ月保存した後でも、色調変化は殆どなかった。
【0025】
実施例3
実施例1で得た赤ダイコン色素の樹脂処理液40mLに亜硫酸ナトリウムを0.01%になるように溶解させた。該色素液をヘッドスペースGCにてスルフィド類を分析すると同時に、官能試験により臭気の評価を行った。結果を表1に示す。さらに、この色素溶液を密閉容器に入れ、冷蔵庫(約4℃)で2ヶ月間保存し、その後ヘッドスペースGCにてスルフィド類を分析すると同時に、官能試験により臭気の評価を行った。結果を表1に示す。また、2ヶ月間保存後、その色素溶液の色調の劣化は殆どなかった。
【0026】
実施例4
実施例1で得た赤ダイコン色素の樹脂処理液40mLを密閉できる容器に入れ、容器の気相部を窒素で置換し、容器を密閉した。該密閉容器をそのまま冷蔵庫(約4℃)で2ヶ月間保存し、その後容器の気相部をヘッドスペースGCにてスルフィド類を分析すると同時に、官能試験により臭気の評価を行った。結果を表1に示す。また、容器内の色素溶液の色調の劣化は殆どなかった。
【0027】
比較例1
実施例1で得た赤ダイコン色素の樹脂処理液40mLを取り、該色素液をヘッドスペースGCにてスルフィド類を分析すると同時に、官能試験により臭気の評価を行った。その結果を表1に示す。さらに、該処理液を密閉容器に入れてそのまま密封し、冷蔵庫(約4℃)で2ヶ月間保存した。その後容器内の脱臭処理液をヘッドスペースGCにてスルフィド類を分析すると同時に、官能試験により臭気の評価を行った。結果を表1に示す。また、保存後の容器内の処理液の色調の劣化は殆どなかった。
【0028】
【表1】
Figure 0004679772
【0029】
官能評価の説明
++++:異臭が極めて強い。
+++ :異臭がかなり強い。
++ :異臭がやや強い。
+ :異臭がわずかに感じられる。
− :異臭なし。
【0030】
実施例5
実施例1で調製されたアスコルビン酸添加後の色素溶液をさらに0.05mol/Lクエン酸−NaOH緩衝液(pH3)で1/1000に希釈した。この溶液の単位色価あたりのアスコルビン酸濃度は20ppmである。これを35℃で5日間保存して、保存後の512nmにおける吸光度を測定し残存率を求めた。その結果を表2に示す。尚、残存率(%)は、保存後の512nmにおける吸光度を保存前の512nmにおける吸光度で除することにより算出した。
【0031】
実施例6
実施例2で調製されたアスコルビン酸添加後の色素溶液をさらに0.05mol/Lクエン酸−NaOH緩衝液(pH3)で1/1000に希釈した。この溶液の単位色価あたりのアスコルビン酸濃度は2.0ppmである。これを35℃で5日間保存して、保存後の512nmにおける吸光度を測定し、残存率を求めた。その結果を表2に示す。
【0032】
【表2】
Figure 0004679772
表1の結果から明らかなように、原液の臭気は2ヶ月経過後もスルフィド相対値が変わらず、臭気を有しており、又、比較例1ではスルフィド相対値が4から45と上がり臭気が新たに発生してきたことがわかる。本発明によれば、戻り臭の発生を効果的に抑制できる。また、表2より、溶存酸素吸収剤の添加濃度を最適化することにより、色素溶液における退色を抑制することもできるので、長期保存後においても有効に諸用途に使用が可能となる。
【0033】
【発明の効果】
以上の通り、本発明の方法は、天然色素溶液の戻り臭発生を有効に抑制し、色素溶液を臭気の無い、良好な状態で長期間維持、保存することを可能とするので、工業的に極めて有用な方法である。

Claims (6)

  1. 天然物由来のアントシアニン系色素の抽出溶液を吸着剤との接触処理により脱臭処理し、該脱臭処理した抽出溶液に、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸及びこれらの塩又は誘導体;亜硫酸、ピロ亜硫酸、亜リン酸、ピロリン酸、ピロ亜リン酸、次亜リン酸、亜硝酸及びこれらの塩;並びに二酸化イオウからなる群より選ばれる1以上の溶存酸素吸収剤を添加することを特徴とする色素溶液の戻り臭気抑制方法。
  2. アントシアニン系色素がアブラナ科植物由来の色素であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 請求項2に記載のアブラナ科植物が赤ダイコンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
  4. 溶存酸素吸収剤の色素抽出溶液中における濃度は、0.00001〜10重量%であることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の方法。
  5. 溶存酸素吸収剤がアスコルビン酸、イソアスコルビン酸、及びその塩からなる群より選ばれる1以上のものであり、且つ、脱臭処理後の色素抽出溶液中でのアスコルビン酸およびイソアスコルビン酸としての合計濃度が、単位色価あたりの濃度として0.1ppm以上、25ppm以下となる様に添加することを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の方法。
  6. 脱臭処理後の色素抽出溶液中でのアスコルビン酸およびイソアスコルビン酸としての合計濃度が、単位色価あたりの濃度として0.1ppm以上、10ppm以下であることを特徴とする請求項に記載の方法。
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