JP4678783B2 - 軟磁性厚膜及びそれを用いたインダクタ - Google Patents

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本発明は、高圧のガス噴流によって基板上にセラミック粉末や金属粉末を衝突させて得られる厚膜、特に軟磁性金属粉末によって得られる軟磁性厚膜と、それを用いたインダクタに関するものである。
携帯電話やノート型パーソナルコンピュータを代表とする携帯情報端末に典型的に見られるように、電気・電子機器の小型化、薄型化への要求は増加する一方であり、これらに用いられる部品も小型化、薄型化が顕著である。これらの部品の中で、インダクタも例外ではなく、様々な構造や製造方法が開発され、実用化されている。
例えば、特許文献1には、フェライトを主体とする磁性粉末と高分子材料の溶液からなるスラリーを用いてグリーンシートを成膜し、その表面にスクリーン印刷などによる印刷パターンを形成した後、所要枚数を積層し、該積層シートを切断焼成することによって得られる、積層型インダクタが開示されている。
また、特許文献2には、フェライト基板の表面にスパッタリングを用いて導体パターンを形成することにより、薄膜型のインダクタを得る技術が開示されている。さらに、特許文献3には、フォトリソグラフィー技術と電気メッキ技術の組み合わせにより、基板表面にコイルを形成した後、基板の周辺に磁芯を配置した構造の薄型インダクタが開示されている。
しかしながら、前記電気・電子機器においては、例えば携帯電話にデジタルカメラ機能や、TV放送などの映像音声出力機能が付与されているように、小型化の他に多機能化が求められ、周波数特性向上、大電流化、電力効率向上などが必要となっている。
これに対応するには、薄型でありながら、インダクタを構成するコイルの導体の断面積や磁性体の体積を一定以上に確保する必要がある。このような観点から前記特許文献に開示されている技術に着目すると、特許文献1や特許文献2に開示されているインダクタにおいては、導体の断面積や磁性体の体積を増加することは、潜在的な技術的困難性の顕在化や、製造コスト増加に直結するという問題がある。
また、特許文献3に開示されているインダクタの製造方法は、前記の課題に相当の程度で対応できるものの、元来半導体の製造工程の一要素として開発されたものであり、多大の設備投資を要し、製造コストの抑制が困難であるという問題がある。
一方で、前記とはまったく異なる方法により、各種のセラミックや金属の厚膜を得る方法として、エアロゾルデポジション法(Aerosol Deposition Method:以下、AD法と記す)が注目されている。この方法は、厚膜を構成する原料の粉末を、高圧のガス噴流により基板に衝突させることにより、粉末粒子を破砕ないしは塑性変形させ、一体化するというものである。
従って、AD法の磁性材料への適用により、磁性厚膜とそれを応用したインダクタを、比較的容易に得ることができる。例えば特許文献4には、AD法を用いて、磁性金属とフェライトからなる磁性厚膜を得る方法が開示されている。
しかしながら、AD法を磁性金属の厚膜形成に応用して、磁性金属の特性に起因する磁束密度増加が実現できても、磁性金属が発現し得る特性を具現化するには、なお課題がある。つまり、非晶質磁性金属を用いることで、磁気特性を向上することが可能であることが知られているが、降伏応力に代表される機械的強度が、非晶質金属では、結晶質金属に比較して極めて大きいため、現時点で実現可能な最高の衝突速度を用いても、成膜が不可能である。
特開2005−317924号公報 特開平09−270332号公報 特開2005−244102号公報 特開2003−297628号公報
従って、本発明の課題は、従来の技術では困難な、大電流、高周波数帯域で使用可能な軟磁性材料の厚膜を、簡便な工程により低コストで得る方法を提供し、併せて該軟磁性厚膜を応用した小型、薄型のインダクタを提供することにある。
本発明は、AD法によって非晶質軟磁性厚膜を得る方法を検討する過程で、非晶質金属と比較して、降伏応力が一定比率以下の金属材料の併用が有用であることが見出された結果なされたものである。
即ち、本発明は、結晶質軟磁性金属粉末と、前記結晶質軟磁性金属粉末の2倍以上の降伏応力を有する非晶質軟磁性金属粉末との混合粉末を、エアロゾルデポジション法を用いて成膜した軟磁性厚膜であって、前記非晶質軟磁性金属粉末の間の空隙が、塑性変形した前記結晶質軟磁性金属粉末で充填されたことを特徴とする軟磁性厚膜である。
また、本発明は、前記非晶質軟磁性金属粉末と前記結晶質軟磁性金属粉末のうち、少なくとも前記非晶質軟磁性金属粉末の粒子表面に、絶縁層が形成されてなることを特徴とする、前記の軟磁性厚膜である。
また、本発明は、前記軟磁性厚膜の間にコイルを形成してなることを特徴とするインダクタである。
本発明においては、非晶質軟磁性金属粉末に、当該粉末よりも降伏応力が小さい結晶質軟磁性金属粉末を混合して、AD法の成膜に用いるので、非晶質軟磁性金属粉末のみを用いた場合では得られない軟磁性厚膜が得られる。一般にAD法においては、粉末粒子の基板への衝突に際して粉末粒子間の衝突も起こり、粉末粒子の破砕ないしは塑性変形によって、粉末粒子間の接触面積が増加することで、厚膜内部の空隙が減少し、延いては厚膜が高密度化する。
通常、非晶質金属は降伏応力が結晶質金属より大きく、現在使用されているAD装置により金属粉末粒子に付与されるエネルギーでは、まったく塑性変形しないが、混合して用いる結晶質金属の方は塑性変形が生じる。このため、両方の粉末を同時にガス噴流により基板に衝突させると、塑性変形していない非晶質軟磁性金属粉末の周囲を、塑性変形した結晶質軟磁性金属粉末が被覆するような状態が実現され、軟磁性厚膜の成膜が可能となる。
また、得られる軟磁性厚膜は、公知のスクリーン印刷やメッキ法により、表面に導体パターンを形成できる。従って、渦巻形状などの平面コイルを軟磁性厚膜表面に形成した後、当該平面コイルを覆うように、再度AD法により軟磁性厚膜を成膜することで、従来製法では得られない、小型薄型でかつ大電流に対応可能なインダクタを提供することができる。
また、従来の圧粉磁芯においては、粉末粒子間の絶縁を確保することが、高周波数領域での特性向上のために有用であるが、本発明においては、成膜に用いる粉末粒子表面に予め絶縁層を形成しておくことができる。この絶縁層は非晶質軟磁性金属粉末及び結晶質軟磁性金属粉末の両方の形成しても良いが、結晶質軟磁性金属粉末の方は、成膜過程における塑性変形により、粉末粒子表面が損傷を受ける可能性が高いので、非晶質軟磁性金属粉末の方のみに形成しておいても良い。
なお、前記のように本発明の軟磁性厚膜においては、結晶質軟磁性金属粉末が非晶質軟磁性金属粉末粒子表面を覆い、いわば結合材として機能するので、用いる粉末の粒径は、前者の方が小さい方が望ましい。
次に、図を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明に係る軟磁性厚膜の断面を拡大して模式的に示した図である。図1において、1は、非晶質軟磁性金属粉末の粒子、2は、結晶質軟磁性金属粉末の粒子を示す。ここでは、両者の粉末をガスアトマイズ法で作製した場合を示しているが、非晶質軟磁性金属粉末の粒子1はガスアトマイズで作製した金属粉末粒子に一般的に見られるように球形であり、成膜後もその形状を維持している。これに対し、結晶質軟磁性金属粉末の粒子2の方は、塑性変形して、非晶質軟磁性金属粉末の粒子1の間の空隙を充填した状態となっている。
また、図2は、本発明に係るインダクタの構造を模式的に示した図である。図2において、3a、3bは、軟磁性厚膜、4は、平面コイルである。ここでは、軟磁性厚膜3aの表面に、渦巻形状の平面コイル4を形成し、平面コイル4を覆うように軟磁性厚膜3bをAD法で形成した例を示したが、平面コイル4は、ミアンダ型などの形状でも使用可能であることは勿論である。
また、図3は、本発明の軟磁性厚膜を得るためのAD法装置の概略を示す図である。図3において、5は、搬送ガス容器、6は、搬送ガス流量制御装置、7は、エアロゾル発生装置、8は、ノズル、9は、成膜チャンバー、10は、基板取付けフレーム、11は、基板、12は、真空配管、13は、真空ポンプである。
本装置の動作の概略を説明すると、搬送ガスを、搬送ガス容器5から搬送ガス流量制御装置6を経由して、予め原料粉末を装入しておいたエアロゾル発生装置7に導入し、真空ポンプ13と真空配管12により減圧状態にした成膜チャンバー9の内部で、ノズル8から基板11にエアロゾルを吹き付けるというものである。基板取付けフレーム10は縦横方向に可動であり、基板11の所要範囲にエアロゾルを吹き付けることができる。
次に、具体的な実施例を挙げ、本発明について、更に詳しく説明する。第一の実施例として、非晶質軟磁性金属粉末として、平均粒径が18μmのFe−Si−B−Cr系非晶質金属粉末を、結晶質軟磁性金属粉末として、平均粒径が4μmのカルボニル鉄粉末を用いた例を、図1ないし図3に基づいて説明する。
まず、シリコーン樹脂を用いて、Fe−Si−B−Cr系非晶質金属粉末の粒子表面にシリカを主成分とする絶縁層を形成した。ここでは、原料粉末とシリコーン樹脂の重量比を100:3として粒子表面の被覆処理を行った。この粉末とカルボニル鉄粉末を重量比で8:2となるように両者を秤量、混合してエアロゾル発生装置7に装入した。搬送ガスには窒素を用い、ガス流量を5.5リットル/分とした。
成膜チャンバー9の内部は、180Paに減圧し、ノズル8の開口部はスリット形状で、寸法は、0.4mm×8mmである。基板11にはステンレスを用い、ノズル8の開口部との距離を15mmとして、基板取付けフレーム10を作動させ、基板11の表面の10mm×3mmの範囲に成膜を行った。このような条件で、60分間エアロゾルの吹きつけを行ったところ、平均厚さが380μmの軟磁性厚膜を得た。つまり成膜速度は、約6.3μm/分であった。
引き続き、得られた軟磁性厚膜の表面に、直径が0.1mmの銅線を用い、図2に示したように、渦巻形状の平面コイル4を形成した。ここでは、コイルの巻数を7.5ターンとし、外径を2.4mmとした。次に、平面コイル4を覆うように、再び前記と同じ条件で、成膜を行った後、平面コイル4の周囲を切断して、3mm×3mm×0.8mmの寸法のインダクタを得た。このインダクタについて特性を評価したところ、1MHzにおけるインダクタンスが、0.66μHであった。
実施例1に用いたFe−Si−B−Cr系非晶質金属粉末の降伏応力は、4.1GPaで、カルボニル鉄の降伏応力は、294MPaであり、前者は後者の約14倍である。このように降伏応力に大きな差があれば、非晶質軟磁性金属粉末を含む軟磁性厚膜が得られることが明らかになったので、2種の原料粉末の、降伏応力の比率と成膜の可否について検証した例について説明する。
ここでは、実施例1に用いた非晶質軟磁性金属粉末を用い、結晶質軟磁性金属粉末として、降伏応力が、1.04GPa、1.03GPa、1.70GPa、2.28GPaのFe−Si−Cu系結晶質金属粉末を用いた。また比較に供するために降伏応力が3.80GPaのFe−Si−B−Cu系非晶質金属粉末も用いた。つまり前記の各粉末に対するFe−Si−B−Cu系非晶質金属粉末の降伏応力の比率は、それぞれ、3.94、3.15、2.41、1.80、1.08である。
次に、Fe−Si−B−Cu系非晶質金属粉末と4種のFe−Si−Cu系結晶質金属粉末、またはFe−Si−B−Cu系非晶質金属粉末を重量比で8:2となるように、秤量、混合した。なお、ここではFe−Si−B−Cu系非晶質金属粉末には絶縁層の形成を行わなかった。
これら5種の混合粉末について、実施例1と同様にして成膜を行い、それぞれの成膜速度を求めた。図4は、得られた成膜速度を、原料粉末の降伏応力の比率についてプロットした図である。この図によれば、降伏応力の比率が2以下の領域で成膜速度が急激に低下することが明らかである。
つまり、一定以下の降伏応力を示す結晶質軟磁性金属粉末を混合することで、単独ではAD法による成膜が不可能であった、非晶質軟磁性金属粉末についても、厚膜を得ることができることが分かる。また、特に具体例を示さなかったが、例えば3枚の軟磁性厚膜の間に、2個の平面コイルを配置することにより、4端子のコモンモードチョークコイルを構成することも可能である。
以上に説明したように、本発明によれば、高い磁気特性を有する非晶質軟磁性金属を用いた軟磁性厚膜と、それを用いたインダクタが得られ、インダクタの小型薄型化と同時に特性向上も可能となり、工業上有益である。
なお、本発明は、前記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれる。即ち、当業者であればなし得るであろう各種変形、修正が本発明に含まれることは勿論である。
本発明に係る軟磁性厚膜の断面を拡大して模式的に示す図。 本発明に係るインダクタの構造を模式的に示す図。 本発明の軟磁性厚膜を得るためのAD法装置の概略を示す図。 成膜速度を、原料粉末の降伏応力の比率についてプロットした図。
符号の説明
1 非晶質軟磁性金属粉末の粒子
2 結晶質軟磁性金属粉末の粒子
3a、3b 軟磁性厚膜
4 平面コイル
5 搬送ガス容器
6 搬送ガス流量制御装置
7 エアロゾル発生装置
8 ノズル
9 成膜チャンバー
10 基板取付けフレーム
11 基板
12 真空配管
13 真空ポンプ

Claims (3)

  1. 結晶質軟磁性金属粉末と、前記結晶質軟磁性金属粉末の2倍以上の降伏応力を有する非晶質軟磁性金属粉末との混合粉末を、エアロゾルデポジション法を用いて成膜した軟磁性厚膜であって、前記非晶質軟磁性金属粉末の間の空隙が、塑性変形した前記結晶質軟磁性金属粉末で充填されたことを特徴とする軟磁性厚膜。
  2. 前記非晶質軟磁性金属粉末と前記結晶質軟磁性合金粉末のうち、少なくとも前記非晶質軟磁性金属粉末の粒子表面に、絶縁層が形成されてなることを特徴とする、請求項1に記載の軟磁性厚膜。
  3. 請求項1または2に記載の軟磁性厚膜の間にコイルを形成してなることを特徴とするインダクタ。
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