この発明は、光ディスク原盤の製造方法に関する。詳しくは、無機レジスト層を備える光ディスク原盤の製造方法に関する。
今日、情報記録媒体として用いられる光ディスクにはその用途に応じて、MD(Mini Disc)、MO(Magneto Optical)、DVD(Digital Versatile Disc)、Blu−ray Disc(登録商標)など様々なフォーマットが提案されている。いずれのフォーマットで使用される光ディスク基板も、一般的には樹脂材料の射出成形により作製される。
以下、図14を参照しながら、光ディスク原盤の作製から光ディスク基板の作製までの従来の工程の概略について説明する。まず、図14(a)示すように、円盤状のガラス基板101を作製する。次に、図14(b)に示すように、ガラス基板101を回転させながら、このガラス基板101上にレジスト102を塗布する。
次に、図14(c)に示すように、ガラス基板101を回転させながら、このガラス基板101上に塗布されたレジスト102を所定の波長のレーザ光103により露光する。これにより、所望とする光ディスクのランドおよびグルーブなどに応じた潜像パターンがガラス基板101上に形成される。次に、図14(d)に示すように、ガラス基板101を回転させながら、ガラス基板101上に現像液104を滴下して現像処理をする。これにより、所望とする光ディスクのランドおよびグルーブなどに応じた凹凸パターンがガラス基板101上に形成される。以上により、目的とする光ディスク原盤が得られる。
次に、図14(e)に示すように、メッキ処理により光ディスク原盤111上にニッケルなどの金属を析出させてメッキ層105を形成する。次に、図14(f)に示すように、このメッキ層105を光ディスク原盤111から剥離した後、図14(g)に示すように、トリミングを施して所定のサイズにすることにより、光ディスクスタンパ106が得られる。そして、図14(h)に示すように、この光ディスクスタンパ106を射出成形装置の金型107に装着し、金型107を閉じてキャビティを形成し、このキャビティ内に矢印aに示す方向からポリカーボネート(PC)などの溶融樹脂を注入後、硬化させて金型107を開く。これにより、光ディスクスタンパ106の凹凸が転写させた光ディスク基板108が得られる。
ところで、従来、ガラス基板上に塗布されるレジストとしては、ノボラック樹脂系のポジ型フォトレジストが用いられている。このレジストにより形成可能な最短ピット長は、使用する露光用光源であるレーザの波長λと、レーザから出射された光束をレジストに収束させるための対物レンズの開口数NA(Numerical Aperture)とを用いて以下の式により決定される。
P=K×λ/NA
この式中で、比例定数Kは、使用するレーザとフォトレジストとの組み合わせで決まる数値であり、およそ0.5〜0.8程度である。
したがって、光ディスクの高記録密度化に対応してより微細なパターンを形成するためには、(1)光源の短波長化と、(2)対物レンズの高NA化とが必要になる。そこで、(1)光源の短波長化については、紫外線レーザまたは電子ビーム露光などの光源を使用することが検討されているが、このような光源を露光装置に用いると、露光装置が従来のものに比べて複雑化し、安定性も低下してしまうという問題がある。また、(2)対物レンズの高NA化については、NAはその定義上1以下であるため、その限界値に近い0.9前後の高NAを有する対物レンズが一般的に用いられているが、0.9前後のNAを有する対物レンズと、可視レーザとを備えた系では、高記録密度に対応することは困難である。例えば、レーザ光の波長を413nm(DVD用スタンパの露光で使用されるレーザ波長)、Kを0.5、NAを0.9とすると、最短ピット長(スポット径)は370nm程度であり、高記録密度化にはこの系では対応できない。
そこで、ノボラック樹脂系の有機レジストに代えて、遷移金属の不完全酸化物からなる無機レジストを用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この無機レジストでは、405nm程度の可視レーザ光による露光によっても、熱記録の特性によりスポット径より小さいパターンの露光が可能であるため、Blu−ray Discあるいはそれ以上の高記録密度化に対応した光ディスクのマスタリング技術に有用な技術として注目されている。
従来より遷移金属酸化物については種々の研究がなされており、例えば、遷移金属酸化物の還元処理としては以下のものが知られている。非特許文献1〜3では、遷移金属酸化物の薄膜に線状にイオンビームを照射し、アルカリ現像してネガ形状を作製し、800℃で水素還元したときの線幅がイオン加速電圧との関係として示されている。これは遷移金属酸化物薄膜の製膜方法の違い、および薄膜へのイオンビーム照射量を、現像後の線幅との相関として求めて、これを膜の感度として規定し、さらに還元処理して前後の線幅変化を測定したものである。
また、特許文献2には、ポリバナジン酸化合物を還元して三酸化バナジウムを得る方法や、還元処理で生じる被膜について記載されている。ここで、被膜成分である三酸化バナジウムおよび四酸化バナジウムは、目的物である三酸化バナジウムを効率的に得るための障害になるものとして考えられている。このように金属酸化物を還元処理した場合、金属酸化物の表面は酸素含有比率が低下した金属酸化物被膜、または金属被膜で覆われる。この被膜によって還元が金属酸化物の内部にまで及ぶことが妨げられるため、金属酸化物を完全に還元して金属にする際には、金属酸化物を粒径制御した粉末に加工したり、充分に薄い膜に加工したりして、還元処理を行う方法が取られている。
特開2003−315988号公報
特開2004−168560号公報
Japanese Journal of Applied Physics, Vol.28, No.10, page.2090-2094, 1989
Japanese Journal of Applied Physics, Vol.29, No.10, page.2299-2302, 1990
Japanese Journal of Applied Physics, Vol.30, No.11B, page.3246-3249, 1991
ところで、フォトリソグラフィにおいて、無機レジストは有機レジストと較べて高い熱安定性を有し、また、著しく高いγ特性が容易に得られることが知られている。たとえば、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリグリシジルメタクリレート・クロロスチレン共重合体(GMC)、ポリ(ブテン−1−スルホン)(PBS)、フェニルホルムアルデヒドノボラックなどの有機レジストは、紫外線を用いた場合では勿論のこと、細く収束させた電子線やイオンビームなどを用いた場合ですら現像後は、通常、3以下のγ特性しか得られない。なお、γ=1/(logδ1−logδ0)(δ0:レジストを感光させるのに必要な最小露光量、δ1:レジストを完全に感光させるのに必要な露光量)である。これは、有機レジストでは分子量が大きいため露光部と未露光部の境界が不明瞭になるためである。これに対し、カルコゲナイドや金属酸化物などで作られる無機レジストでは、4を超えるγ特性、ときには8を超えるようなγ特性を得ることができる。このため、無機レジストでは有機レジストに較べて急峻なテーパ角が得られるようになる。
上述したように、光ディスク原盤は、ガラスやシリコンウエハに塗布したフォトレジストにレーザ照射して潜像を形成し、現像、メッキ処理を経て剥離し、トリミングを行うことで得られる。有機レジストは感光性レジストとして製品化され、有機レジストを用いた光ディスク原盤の生産技術は一連のプロセスとして確立されている。スタンパ用途として後発の無機レジストは、しばしば有機レジストで得られる形状特性に、敢えて形状を合わせ込まねばならないことがある。この場合、無機レジストで得られる急峻なテーパ角を有機レジストのそれに合わせ込むことが必要になる。すなわち、無機レジストで得られる急峻なテーパを低減させることが必要となる。
一方、無機レジストは有機レジストに較べて格段に硬度が高く、メッキ処理による光ディスク原盤の複製は、有機レジストでは1回だけしかできないのに対し、無機レジストでは光ディスク原盤を複数回にわたって複製することができる。しかしながら、メッキ処理と剥離を繰り返すうち、光ディスク原盤の表面に荒れが発生し、評価される信号特性にも劣化が生じてくる。
上述したように、従来、無機レジストの材料である金属酸化物について種々の研究がなされているが、上述の問題点に関しては検討されていない。例えば、上述の非特許文献1〜3では、線幅が還元により減少することが記載されているが、線幅が還元で単純に減少すると考えており、光ディスク原盤の凹凸パターンの形状や還元被膜の影響についてはもちろんのこと、凹凸パターンの形状制御に関する具体的な応用についても何ら記載されてはいない。また、上述の特許文献2では、還元処理で生じる被膜について記載されているが、光ディスク原盤を複製した場合に生じる表面の荒れに関しては何ら記載されてはいない。
したがって、この発明の第1の目的は、原盤を繰り返し複製した場合にも表面における荒れの発生を抑制できる光ディスク原盤の製造方法を提供することにある。
また、この発明の第2の目的は、金属酸化物で得られる急峻なテーパ角を低減できる光ディスク原盤の製造方法を提供することにある。
上述の課題を解決するために、この発明は、
金属酸化物層を基板の表面に形成する工程と、
金属酸化物層に凹凸パターンを形成する工程と、
還元性気体を含有する雰囲気中において、凹凸パターンが形成された金属酸化物層を熱処理し、ランドのテーパ角と、ランドの上面および傾斜面の境界部の形状を調整して、光ディスク原盤を得る工程と
を備える光ディスク原盤の製造方法である。
この発明では、金属酸化物層の表面における金属酸化物の酸化数は、該金属酸化物層の内部における金属酸化物の酸化数に比べて小さいので、金属酸化物層の表面は、金属の状態であるか、またはその内部に比して金属により近い状態になっている。したがって、光ディスク原盤または原盤の耐久性を向上できる。
この発明では、凸形状と基材とが密着する部分とは還元性気体に暴露されないのに対して、凸形状の表面は還元性気体に暴露されるので、凸形状と基材とが密着する部分と凸形状の表面とで体積収縮率に差が生じる。したがって、凸形状のテーパ角を低減させることができる。
また、この発明では、凹凸形状が設けられた光ディスク原盤を還元処理することで、光ディスク原盤の表面に金属性の被膜を形成し、表面の特性を改良することができる。
この発明において、基材上に設けられた金属酸化物層に目的とする形状を形成する方法としては、金属酸化物層に始めから形状を付与する方法、基材上に一様な金属酸化物層を形成し、エッチングや現像により形状を付与する方法、形状に合わせて金属酸化物層を変質させ、溶媒などに対する溶解度差をつけることにより形状を付与する方法などを用いることができる。
金属酸化物層に始めから形状を付与する方法としては、まず、目的とする形状に打ち抜いたマスクを基材の上に乗せ、金属酸化物層を形成した後、マスクを外す方法がある。複数のマスクを用意し、それぞれ異なった膜厚で金属酸化物層を形成してもよい。同様な方法で、マスクの変わりにレジストを使用することもでき、これは微細な形状を製造する際に特に有効である。すなわち、ポジまたはネガの有機レジスト膜を基材に形成したのち、目的とする形状にポジまたはネガの露光がなされるよう製造したマスクを通し、紫外線や電子線などの活性エネルギー線を照射した後、現像して形状・文字情報の部分の基材を露出させる。次に、この上から、金属酸化物層を形成し、最後に、レジストを溶解または剥離して金属酸化物層に目的とするパターンを得る。
エッチングによって形状を得る手段としては、基材上に金属酸化物層を形成した後、目的とする形状が遮蔽される構造のマスクを乗せ、露出した部分の一部または全部をエッチングで除去し、マスクを外すことで形状を形成するものである。エッチングはプラズマ・エッチングやイオン・エッチングなどのドライ・エッチング、金属酸化物層の種類に応じて化学的に溶解させるウエット・エッチング、サンド・ブラストなどを使って表層から削り取る方法などがある。ウエット・エッチングの例を挙げると、例えば金属酸化物として酸化ケイ素を用いた場合には、フッ化水素酸、またはフッ化水素酸と無機酸の混合液で処理することにより、マスクから露出した部分の一部または全部を除去することができる。
現像によって形状を得る手段としては、基材上に金属酸化物層を形成した後、目的とする形状が遮蔽される構造のマスクを乗せ、露出した部分の一部または全部を現像で除去し、マスクを外すことで形状を形成するものである。例えば金属酸化物として三酸化タングステンを用いた場合には、現像液としてアンモニア水や水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液を用いることにより、マスクから露出した部分を溶解することができる。また、金属酸化物として炭酸カルシウムを用いた場合には、塩酸や硫酸などの酸性水溶液で処理することにより、マスクから露出した部分を溶解することができる。
ここで、現像によって目的とする形状を得るためのマスクは、例えば金属や樹脂などの形状に打ち抜いた板やフィルムの他、粘着テープを切り抜いたものを使う方法もある。これらのマスクは、形成した無機材料の被膜の上に密着させ、現像液の浸入を防ぐようにして利用する。現像液の浸入を防ぐ目的を達するものであれば、ロウ、グリス、ワセリン、ペトロラタム、ペースト状樹脂などを、目的とする形状・文字情報などの形状に塗布または印刷する方法を使うこともできる。また、レジストを使用することもでき、これは微細な形状・文字情報などを形成する際に特に有効である。これはポジまたはネガの有機レジストを無機材料の被膜の上に形成した後、目的とする形状が無機材料の被膜の上に残るよう、ポジまたはネガの露光がなされるマスクを通して紫外線や電子線などの活性エネルギー線で露光し、現像して形成するものである。
形状に合わせて金属酸化物層を変質させ、溶媒などに対する溶解度差をつける方法としては、金属酸化物を無機レジストとして基材上に製膜し、活性エネルギー線を照射した後、現像などのプロセスを経る方法がある。これらは活性エネルギー線の照射によって、照射部位の結晶・アモルファス間の相転移、または酸化反応などを起こさせ、現像液に対する溶解性を変化させることによって選択比を得るものである。活性エネルギー線の種類としては、レーザ光、イオンビーム、電子線、X線、紫外線、水素プラズマなどが挙げられる。
この発明で用いられる金属酸化物は、基材上に目的とする形状を製造するプロセスに応じて任意の素材を用いることができる。具体例を挙げると、一酸化チタン(TiO)、二酸化チタン(TiO2)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、三酸化タングステン(WO3)、二酸化タングステン(WO2)、一酸化タングステン(WO)、二酸化モリブデン(MoO2)、三酸化モリブデン(MoO3)、一酸化モリブデン(MoO)、五酸化バナジウム(V2O5)、四酸化バナジウム(V2O4)、三酸化バナジウム(V2O3)、酸化ビスマス(Bi2O3)、酸化セリウム(CeO2)、酸化銅(CuO)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化スチビウム(Sb2O3)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化マグネシウム(MgF2)、一酸化ケイ素(SiO)、酸化ガドリニウム(Gd2O3)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ニッケル(NiO)、酸化サマリウム(Sm2O3)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化スズ(SnO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化アンチモン(Sb2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、硫酸バリウム(BaSO4)、硫酸カルシウム(CaSO4)、炭酸カルシウム(CaCO3)、ケイ酸カルシウム(CaSi2O5)、炭酸マグネシウム(MgCO3)、炭酸リチウム(Li2CO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸コバルト(CoCO3)、炭酸ストロンチウム(SrCO3)、炭酸ニッケル(Ni2CO3)、炭酸ビスマス((BiO)2CO3)、りん酸アルミニウム(AlPO4)、りん酸水素バリウム(BaHPO4)、りん酸リチウム(Li3PO4)、クエン酸亜鉛(Zn3(C6H5O7)2)、ほう酸亜鉛(2ZnO・3B2O3)、ほう酸バリウム(BaB4O7)、酸化ウラン(U3O8)などを例として挙げることができる。これらの金属酸化物は単独で用いることも、2種類以上を混合して用いることもできる。
これらの中で、レーザ光、電子線、イオンビーム、水素プラズマ、紫外線、可視光線、赤外線などの活性エネルギー線によって、現像液に対する溶解度差(選択比)を生じる無機レジストとしては、金属酸化物のうち金属元素としてタングステン(W)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、タンタル(Ta)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、チタン(Ti)、ルテニウム(Ru)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、タリウム(Tl)、ホウ素(B)、ゲルマニウム(Ge)、ニオブ(Nb)、ケイ素(Si)、ウラン(U)、テルル(Te)、ビスマス(Bi)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)を含むものなどが知られている。これらの内でも金属元素として、好ましくはタングステン(W)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、タンタル(Ta)、鉄(Fe)、さらに好ましくは、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)を含む金属酸化物が無機レジストとして好適に用いられる。これらの金属は、単独の酸化物として用いることも、2種類以上の金属からなる酸化物として用いることもできる。
なお、金属元素に対する酸素の組成比は化学量論的なものである必要はなく、その金属元素が取り得る最大酸化数までの範囲内で、任意の値をとることができる。たとえばタングステンの場合、WOxは0<x≦3の任意のxの値を取ることができる。
現像液として用いる溶液は金属酸化物の薄膜を溶解するものであれば、どのようなものでも使用することができる。酸の例を挙げると、塩酸、硝酸、酢酸のような液体の酸を適宜、水で希釈した溶液のほか、リン酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸のような固体の酸を水に溶かした溶液も利用することができる。アルカリの例を挙げると、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、アンモニア水溶液、トリエタノールアミン水溶液、ジエタノールアミン水溶液などのほか、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニウム塩のような固体のアルカリを水に溶かしたものも利用することができる。現像液は現像速度の調整や現像残渣の効率的な除去などの目的で、適宜、水溶液に有機溶剤を混ぜて用いたり、浸透剤や界面活性剤などを添加したりすることができる。現像液の温度は特に制限されるものではないが、薄膜の溶解速度を調整するために適宜、温度を調整するなどの方法を採用することができる。
単位体積あたりの金属酸化物に含まれる酸素量が多いほど、還元による体積収縮率も大きくなるため、形状を制御できる範囲も広がる。たとえば、二酸化タングステン(WO2)からなる形状よりも、三酸化タングステン(WO3)からなる形状の方が、テーパ角を制御できる範囲が大きい。
この発明では還元で生じた金属性の被膜を、最終形態を還元条件によらず、ほぼ同一の形状に収束させるための手段として積極的に利用する。この発明の形状制御は、基材上に形成した金属酸化物の形状を還元処理するとき、金属酸化物と基材が密着する部分は還元の影響をほとんど受けないのに対し、金属酸化物の形状で還元性気体に曝露している部分が体積収縮することを利用し、テーパ角を減少させたり形状のエッジ角を広げて丸みを持たせたりするものである。形状表面の金属性やテーパ角は、サンプルを還元する処理温度、還元気体の濃度、処理時間によって制御される。目的とするサンプル処理状態、および還元する金属酸化物の種類に応じて、これらの組み合わせを適宜、調整して用いる。この中で還元に対する寄与が最も大きいのは処理温度で、高温ほど還元力が強くなる。処理温度は特に規定されるものではないが、一般的な金属酸化物の還元は、通常、250〜900℃で行われ、高温ほど還元で生じる金属性の被膜によって表面が被覆されるまでの時間が短くなる。設定温度については、金属酸化物を形成した基材の耐熱温度に依存する部分が大きく、たとえばガラス基材は高温で変形することがあり、シリコンウエハは高温処理を経たものは応力に対して割れを生じやすくなることがある。これらは光ディスクの原盤作成のように精密加工が必要な場合には致命的になることもあるため、還元性気体の濃度や処理温度は、高温で短時間の処理を行うよりも低温で長時間の処理を行う方法を採用するなど適宜、調整する。温度の昇降速度についても、急速な昇降を加えることで基材の歪みやクラックを生じる可能性がある場合は、充分な時間をかけて温度制御を行う必要があるが、通常は10分間あたり5〜100℃程度で制御する。この発明の方法は、金属酸化物を還元処理して得られる形状が、これらの処理方法や経路に大きく影響されないことに特長がある。
還元性気体としては、硫化水素、一酸化炭素、二酸化硫黄、水素、ホルムアルデヒドなどを用いることができる。これらは単独、または2種類以上を混合して用いることができる。また、これらの還元性気体は、非酸化性の気体と混合することで濃度を調整して用いることができる。非酸化性の気体としては、ヘリウム、アルゴン、窒素などを好適に用いることができる。また、金属酸化物を還元する際、最初から純粋な還元性気体を流しても、還元性気体と非酸化性気体の混合比率を温度や時間に対応して変えながら流してもよい。金属酸化物を還元するときに発生する水は速やかに除去されることが望ましい。これらの水分は、還元炉の中を通す還元性気体または混合気体と一緒に系外に排出され、気体の流速を高めることで排出を効率化することができる。経済的な観点から、還元性気体と非酸化性気体の混合気体に占める還元性気体の含有量を減らし、流速を大きく取るなどの方法を使うことができる。混合気体に占める還元性気体の比率は任意で、流速は通常、1分間当たり0.1〜10リットル程度で行う。
あるサンプルにおける還元の相対的な進行度合いは、還元処理前と処理途中または処理後の表面抵抗を測定・比較することで判断することができる。すなわち、還元は形状の表面から内部に向かって進行し、表面部分において高い金属性を示すようになる。このため、形状または形状と同じ条件で還元操作に付した金属酸化物の表面抵抗を測定することで、還元の度合いを知ることができる。
サンプルを還元処理することで、金属酸化物からなる形状に金属性の被膜が形成されてくる。これが形状の過剰な還元を防止する効果をもたらす。また、柔軟性を持った金属性の被膜が形成されることにより、高温での還元処理を行った場合でも形状が崩れることを防止することができる。
金属酸化物層を形成する基材の種類は、金属酸化物層を還元処理する温度に耐えるものであれば、どのようなものを用いることもできる。フィルム材としてはポリイミド、テフロン(登録商標)、液晶ポリマー、シリコン樹脂、板材としてはガラス、シリコンウエハ、金属板、セラミックスなどを用いることができる。
基材表面は金属酸化物層の形成を容易にしたり、金属酸化物層の剥離を防止したりする目的で、適宜、表面処理を行うことができる。表面処理の方法としては、加熱・焼成、紫外線などの活性エネルギー線照射、UV/オゾン処理、逆スパッタ、プラズマ・エッチング処理のほか、過酸化水素水、過マンガン酸アルカリ金属塩や重クロム酸アルカリ金属塩の水溶液、濃硫酸、濃硝酸などによる酸化処理、サンド・ブラストなどによる粗面化処理、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、シリル化剤などによる官能基修飾などの方法を挙げることができる。
金属酸化物層の形成方法としては、乾式法としては化学蒸着法(CVD)の他、真空蒸着法、プラズマ援用蒸着法、スパッタなどの物理蒸着法(PVD)、湿式法としてはバーコート、スピンコート、スクリーン印刷などの塗布法、LB法、化学析出法、陽極酸化法、電解析出法などを用いることができる。
この発明の金属酸化物層は特に膜厚の範囲を規定するものではないが、還元処理によって形状パターン表面に金属性の薄膜が形成され、これが保護膜となって過剰な還元の進行を防止する性質を有するため、形状パターン側面のテーパ角を顕著に制御するためには、典型的には膜厚200nm以下、好ましくは膜厚100nm以下である。
以上説明したように、この発明によれば、還元処理によって原盤の凹凸形状の表面に金属性の薄膜が形成されるので、原盤の耐久性を向上できる。したがって、原盤の複製を繰り返した場合にも表面における荒れの発生を抑制できる。
以下、この発明を光ディスク原盤に適用した場合について説明する。図1〜2は、この発明の一実施形態による光ディスク原盤の製造方法を説明するための模式図である。図3は、この発明の一実施形態による光ディスクスタンパの製造方法を説明するための模式図である。図4は、この発明の一実施形態による光ディスクの製造方法を説明するための模式図である。
(光ディスク原盤の製造方法)
まず、図1Aに示すように、例えばシリコンなどからなる平滑な基板1を作製する。そして、図1Bに示すように、例えばスパッタリング法により中間層2を基板1上に製膜する。中間層2を構成する材料としては、例えば、硫化亜鉛と二酸化シリコンとの混合体(ZnS−SiO2混合体)、五酸化タンタル(Ta2O5)、酸化チタン(TiO2)、アモルファスシリコン(a−Si)、二酸化ケイ素(SiO2)、窒化シリコン(SiN)を挙げることができ、良好な露光感度の点からすると、ZnS−SiO2混合体、五酸化タンタル(Ta2O5)、二酸化チタン(TiO2)が好ましい。下地層2をZnS−SiO2混合体により構成する場合には、硫化亜鉛(ZnS)の含有量は例えば70mol%以上100mol%以下の範囲から選ばれ、二酸化ケイ素(SiO2)の含有量は例えば0mol%以上30mol%以下の範囲から選ばれる。
次に、図1Cに示すように、例えばスパッタリング法により無機レジスト層3を中間層2上に製膜する。この無機レジスト層3は、例えば、遷移金属酸化物などの金属酸化物からなる。遷移金属としては、例えば、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニオブ(Nb)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、亜鉛(Zr)、ルテニウム(Ru)、銀(Ag)などを用いることができる。この中でも、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニオブ(Nb)を用いることが好ましく、可視光または紫外線により大きな化学変化を得られる点からすると、モリブデン(Mo)、タングステン(W)を用いることが好ましい。また、これらの遷移金属を1種のみならず、2種以上用いることも可能である。
金属酸化物を無機レジスト材料として用いる場合には、無機レジスト層3の酸素含有量は、53原子%以上74原子%以下であることが好ましい。酸素含有量をこの範囲にすることで、良好な表面性を得ることができる。
基板1上に形成される無機レジスト層3の厚さは任意に設定可能であるが、所望のピットまたはグルーブの深さが得られるよう設定する必要がある。例えば、Blu−ray Discの場合には無機レジスト層3の厚さが15nm以上80nm以下の範囲であることが好ましく、DVD−RW(Digital Versatile Disc-ReWritable)の場合には20nm以上90nm以下の範囲であることが好ましい。
次に、図2Aに示すように、基板1を回転させると共に、露光ビーム3bを無機レジスト層3に照射して、無機レジスト層3を全面に渡って露光する。これにより、所望とする光ディスクのランドおよびグルーブなどに応じた潜像3aが、無機レジスト層3の全面に渡って形成される。
次に、基板1を回転させながら、無機レジスト層3上に現像液を滴下して、図2Bに示すように、無機レジスト層3を現像処理する。これにより、無機レジスト層3に螺旋状または同心円状に微細な凹凸パターンが形成される。以下では、無機レジスト層3に形成された凸部をランド、凹部をグルーブと称する。ここで、無機レジスト層3をポジ型のレジスト材料により形成した場合には、レーザ光で露光した露光部は、未露光部に比較して現像液に対する溶解速度が増すので、レーザ光の露光に応じたパターンが無機レジスト層3に形成される。現像液としては、例えばテトラメチルアンモニウム水酸化溶液などのアルカリ現像液を用いることができる。
次に、図2Cに示すように、還元性気体を含有する雰囲気中において無機レジスト層3を熱処理し、無機レジスト層3の表面を還元する。これによりランドのテーパ角(傾斜角)が減少するとともに、ランドの上面と傾斜面との境界部がより丸くなる。この際、処理時間・処理温度・還元気体濃度より、ランドのテーパ角と、ランドの上面および傾斜面の境界部の形状とを調整することができる。以上により、目的とする光ディスク原盤を得ることができる。
(光ディスクスタンパの製造方法)
次に、図3Aに示すように、現像後の光ディスク原盤の凹凸パターン上に、例えば無電界メッキ法によりニッケル被膜などの導電化膜4aを形成する。その後、導電化膜4aが形成された光ディスク原盤を電鋳装置に取り付け、電気メッキ法により導電化膜4a上に例えば300±5[μm]程度の厚さになるようにメッキを施すことで、図3Bに示すように、凹凸パターンを有するメッキ層4を形成する。メッキ層4を構成する材料としては、例えば、ニッケルなどの金属を用いることができる。
次に、図3Cに示すように、例えばカッターなどにより光ディスク原盤からメッキ層4を剥離する。その後、このメッキ層4に対してトリミングを施して所定のサイズにした後、例えばアセトンなどを用いてメッキ層4の信号形成面に付着した無機レジストを洗浄する。以上により、目的とする光ディスクスタンパを得ることができる。
(光ディスクの製造方法)
次に、図4Aに示すように、例えば射出成形法により、光ディスクスタンパ5の凹凸パターンをポリカーボネート(PC)などの樹脂材料に転写して、光ディスク基板11を作製する。具体的には例えば、成型金型に光ディスクスタンパを配置し、金型を閉じてキャビティを形成し、このキャビティ内にポリカーボネートなどの溶融樹脂材料を注入し、硬化後に金型を開く。これにより、所望のピットおよびグルーブパターンが転写された光ディスク基板11が作製される。
次に、図4Bに示すように、情報信号部12を光ディスク基板11上に形成する。情報信号部12は、情報信号を記録可能および/または再生可能に構成され、その構成は、例えば、所望とする光ディスクが再生専用型、追記型および書換可能型のうちのいずれであるかに応じて適宜選択される。
所望とする光ディスクが再生専用型である場合には、情報信号部12は、例えば反射膜からなり、この反射膜の材料としては、例えば、金属元素、半金属元素、これらの化合物または混合物が挙げられ、より具体的には例えば、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、鉛(Pd)、コバルト(Co)、ケイ素(Si)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ゲルマニウム(Ge)などの単体、またはこれらの単体を主成分とする合金が挙げられる。そして、実用性の面を考慮すると、これらのうちのアルミニウム(Al)系、銀(Ag)系、金(Au)系、ケイ素(Si)系またはゲルマニウム(Ge)系の材料を用いることが好ましい。また、所望とする光ディスクが追記型である場合には、情報信号部12は、例えば、反射膜、有機色素膜を光ディスク基板11上に順次積層してなる積層膜である。所望とする光ディスクが書換可能型である場合には、情報信号部12は、例えば、反射膜、下層誘電体層、相変化記録膜、上層誘電体層を光ディスク基板11上に順次積層してなる積層膜である。
次に、円環形状の光透過性シートを、このシートの一主面に予め均一に塗布された感圧性粘着剤(PSA:Pressure Sensitive Adhesive)により、光ディスク基板11上の情報信号部12が形成された側に貼り合わせる。これにより、例えば厚さ100μmを有する光透過層13が情報信号部12上に形成される。以上により、目的とする光ディスクを得ることができる。
上述したように、この発明の一実施形態によれば、基板1上に金属酸化物からなる無機レジスト層3を形成し、露光・現像処理により微細な螺旋形状または同心円形状の凹凸パターンを無機レジスト層3に形成した後、さらに還元処理することで、凸形状を有するランドのテーパ角を低減することができる。また、テーパ角の減少に加えて、ランドのエッジ角を広げて丸みを帯びさせることができる。これによって、すでに信号評価と光ディスク製造方法が確立されている、有機レジストを用いる光ディスク原盤と同様の溝形状を、無機レジストを用いる光ディスク原盤においても作製することができるようになる。
また、還元処理を施していない光ディスク原盤では、無機レジストは有機レジストに較べて機械的強度が高いため、1つのメッキ原盤を使ってメッキ操作を繰り返すことにより、複数枚のスタンパを複製することができるが、複製を繰り返すうちに表面が荒れるため信号が劣化してしまうのに対して、還元処理を施した光ディスク原盤では、レジスト・パターンの表面に金属性の被膜が形成されているため、複製による表面荒れを低下させ、信号の劣化を防ぐことができる。
さらに、微細な凹凸パターンの表面に金属性の被膜を形成することで、還元の際の熱処理において凹凸パターンが崩れることを抑えることができる。特に、形状が細い線形の場合は収縮による断線を引き起こす場合があるが、昇温条件を制御して金属性被膜を徐々に形成させることにより、断線を防止することもできる。また、微細な凹凸パターンに弾性を付与することもできる。
さらにまた、微細な凹凸パターンの表面に金属性の被膜を形成することで、金属性の被膜が還元防止膜となり、微細な凹凸パターンが過剰に還元されることを抑えることができる。
以下、実施例によりこの発明を具体的に説明するが、この発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
以下の実施例では、光ディスク原盤に対する微細な凹凸パターンを形成するための手段として、無機レジスト層へのレーザ光照射による熱反応と、それに続くアルカリ現像とを用いた。また、無機レジスト層に照射されたレーザ光の熱が効率的に蓄積されるように、基板としてのシリコンウエハと無機レジスト層との間に中間層を設けた。
<実施例1〜5>
実施例1〜5は、還元処理の工程において、H2濃度90[%]、処理時間1[hr]に保持し、処理温度を変化させたものである。
まず、8インチのシリコンウエハを用意し、このシリコンウエハ上にスパッタリング法により、膜厚15nmを有する中間層を製膜した。以下に、中間層の製膜条件について示す。
ターゲット材料:硫化亜鉛(ZnS)/二酸化ケイ素(SiO2)=80/20(mol%比率)
製膜ガス:アルゴン(Ar)・30[SCCM]
製膜開始ガス圧力:5.0×10-4[Pa]
製膜電力:RF100[W]
次に、スパッタリング法により無機レジスト層を製膜した。成膜後の膜厚は23nmとした。以下に、無機レジスト層の製膜条件について示す。
ターゲット材料:タングステン(W)/モリブデン(Mo)/酸素(O)=32/8/60(mol%比率)
製膜ガス:アルゴン(Ar)・26[SCCM]
製膜開始ガス圧力:5.0×10-4[Pa]
製膜電力:DC135[W]
次に、上述のようにして得られた光ディスク原盤に対して、以下の条件で露光および現像を行い、DCグルーブパターンを作製した。
光源:半導体レーザ(波長405[nm])
対物レンズ:NA=0.9
光ディスク原盤送り速度:0.32[μm/revolution]
スピンドル:CLV(Constant Liner Velocity)方式4.9[m/sec]
現像液:2.38%テトラメチルアンモニウム・ハイドロオキサイド水溶液
次に、上述のようにして得られた光ディスク原盤をダイヤモンド・カッターで切断し、各実施例それぞれの還元処理条件で還元した。まず、サンプルをステンレス・バットに乗せ、還元炉に入れた。炉内を0.05気圧まで減圧した後、窒素(N2)を充填した。炉内に窒素(N2)を流量10[SLM]で流しながら、昇温速度10[℃/min]で200℃まで昇温した。ここで窒素(N2)を遮断し、窒素(N2)/水素(H2)の混合気体を炉内に流しながら、各実施例それぞれの処理温度(還元温度)まで昇温した。なお、実施例1〜5の処理温度はそれぞれ、400[℃]、500[℃]、600[℃]、700[℃]、800[℃]とした。また、窒素(N2)/水素(H2)の混合気体の流量比は0.25/2.25[SLM/SLM]とした。この状態で1時間、定温を保ったのち、降温速度−10[℃/min]で200℃まで制御冷却した。ここで窒素(N2)/水素(H2)の混合気体を遮断し、窒素(N2)を流量10[SLM]で炉内に流しながら、降温速度−10[℃/min]で室温付近まで冷却した。その後、光ディスク原盤を取り出し、表面抵抗測定装置により光ディスク原盤の表面抵抗を測定した。また、光ディスク原盤の表面をAFM(Atomic Force Microscope)で観察し、観察したAFM像に基づきテーパ角およびテーパ角変化率を求めた。なお、テーパ角変化率は以下の式により求めた。
テーパ角変化率(%)={(還元処理前のテーパ角−還元処理後のテーパ角)/還元処理前のテーパ角}×100
但し、テーパ角は、基板であるシリコンウエハの製膜面を基準とした角度である。
<比較例1>
無機レジスト層の厚さを23nmとし、還元処理を省略する以外は実施例1〜5とすべて同様にして光ディスク原盤を得た。
<比較例2>
窒素のみを還元炉内に流して熱処理を行う以外は実施例1〜5とすべて同様にして光ディスク原盤を得た。
表1に、実施例1〜5、比較例1〜2のテーパ角およびその変化率、ならびに表面抵抗を示す。なお、表1中、比較例2の還元処理後の膜厚、テーパ角、テーパ角の変化率が空欄となっているのは、図9に示すように、パターン形状が熱分解して崩れ、測定不能となったためである。
図5に、実施例1〜5における処理温度と表面抵抗との関係を示す。図6に、実施例1〜5における処理温度とテーパ角との関係を示す。図7に、AFMによる実施例5の断面プロファイルを示す。図8に、AFMによる比較例1の断面プロファイルを示す。図9に、AFMによる比較例2の断面プロファイルを示す。なお、図7〜8中における直線lは、ランドのテーパ角(傾斜角)を示すものである。
表1および図5から、処理時間と水素濃度とを一定にした場合には、処理温度を高くするほど表面抵抗値が減少し、700[℃]程度で一定の表面抵抗値に収束することが分かる。すなわち、還元温度を高くするほど表面の還元が進行し、光ディスク原盤の信号面に金属性被膜が形成されていることが分かる。また、表1および図6から、処理時間と水素濃度とを一定にした場合には、処理温度を高くするほどランドのテーパ角が減少し、25[°]程度のテーパ角に収束すると考えられる。すなわち、ランドの形状が一定の形状に収束すると考えられる。以上により、処理時間と水素濃度を一定にした場合には、処理温度によってテーパ角と表面特性を制御でき、また、還元の進行度合いは表面抵抗で評価できることが分かる。
また、図7〜9から、水素を還元炉に導入せずに還元処理を行った場合には、ランドの形状に崩れが発生してしまうのに対して(図9参照)、水素を還元炉に導入しながら還元処理を行った場合には、ランドの形状に崩れが発生しない(図7参照)。すなわち、還元性気体として水素を還元炉に導入しながら還元処理を行うことが好ましいことが分かる。
<実施例6〜10>
実施例6〜10は、還元処理の工程において、処理温度500[℃]、処理時間1[hr]に保持し、水素濃度を変化させたものである。
各実施例の処理温度を500[℃]、処理時間を1時間とし、窒素(N2)/水素(H2)の混合気体の混合比をそれぞれ2.25/0.25[SLM/SLM]、2.00/0.50[SLM/SLM]、1.50/1.00[SLM/SLM]、0.50/2.00[SLM/SLM]、0.00/2.50[SLM/SLM]として還元処理を行う以外は実施例1〜5とすべて同様にして光ディスク原盤を得た。そして、実施例1〜5とすべて同様にしてテーパ角およびその変化率、ならびに表面抵抗を求めた。
表2に、実施例6〜10のテーパ角およびその変化率、ならびに表面抵抗を示す。
図10に、実施例6〜10における水素濃度と表面抵抗との関係を示す。図11に、実施例6〜10における水素濃度とテーパ角との関係を示す。表2および図10から、処理温度と処理時間とを一定にした場合には、水素濃度が高くなるほど表面抵抗が徐々に低下し、100[Ω/□]程度に収束することが分かる。また、表2および図11から、処理温度と処理時間とを一定にした場合には、水素濃度が高くなるほどテーパ角が徐々に低下し、32[°]程度に収束することが分かる。以上により、処理温度と処理時間とが一定である場合には、窒素(N2)/水素(H2)の混合比でテーパ角と表面抵抗値とを微制御できることが分かる。
<実施例11〜13>
実施例11〜13は、処理温度800[℃]、処理時間1[hr]に保持し、水素濃度を変化させたものである。
各実施例の処理温度を800[℃]、処理時間1時間とし、窒素(N2)/水素(H2)の混合気体をそれぞれ2.00/0.50[SLM/SLM]、1.25/1.25[SLM/SLM]、0.50/2.00[SLM/SLM]]として還元処理を行う以外はすべて実施例1〜5と同様にして光ディスク原盤を得た。そして、実施例1〜5とすべて同様にしてテーパ角およびその変化率、ならびに表面抵抗を求めた。
表3に、実施例11〜13のテーパ角およびその変化率、ならびに表面抵抗を示す。
図12に、実施例11〜13における水素濃度と表面抵抗との関係を示す。図13に、実施例11〜13における水素濃度とテーパ角との関係を示す。表3および図12から、処理温度を800[℃]とした場合には、窒素(N2)/水素(H2)の混合比によらず、ほぼ同じ表面抵抗値が得られることが分かる。表3および図13から、処理温度を800[℃]とした場合には、窒素(N2)/水素(H2)の混合比によらず、ほぼ同じテーパ角が得られることが分かる。以上により、表面に生成した金属性の被膜が金属酸化物の過剰な還元を阻害し、ランドの形状が一定の形状に収束するとともに、ランドの表面が一定の表面特性に収束することが分かる。
<実施例14>
まず、8インチのシリコンウエハを用意し、このシリコンウエハ上にスパッタリング法により、膜厚100nmを有する中間層を製膜した。以下に、中間層の製膜条件について示す。
ターゲット材料:シリコン(Si)=100(mol%)
製膜ガス:アルゴン26[SCCM]
製膜開始ガス圧力:5.0×10-4[Pa]
製膜電力:DC135[W]
以上、この発明の実施形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施形態および実施例において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよい。
また、上述の実施形態および実施例では、この発明を光ディスク原盤およびその製造方法に対して適用した場合について説明したが、この発明は光ディスク原盤およびその製造方法に限定さるものではなく、微細な凹凸パターンを有する種々のデバイス、例えば太陽電池における光反射防止構造、燃料電池における燃料流路などや、それらの製造方法に対して適用可能である。
この発明の一実施形態による光ディスク原盤の製造方法を説明するための模式図である。
この発明の一実施形態による光ディスク原盤の製造方法を説明するための模式図である。
この発明の一実施形態による光ディスクスタンパの製造方法を説明するための模式図である。
この発明の一実施形態による光ディスクの製造方法を説明するための模式図である。
実施例1〜5における処理温度と表面抵抗との関係を示す。
実施例1〜5における処理温度とテーパ角との関係を示す。
AFMによる実施例5の断面プロファイルを示す。
AFMによる比較例1の断面プロファイルを示す。
AFMによる比較例2の断面プロファイルを示す。
実施例6〜10における水素濃度と表面抵抗との関係を示す。
実施例6〜10における水素濃度とテーパ角との関係を示す。
実施例11〜13における水素濃度と表面抵抗との関係を示す。
実施例11〜13のける水素濃度とテーパ角との関係を示す。
光ディスク原盤作製から光ディスク基板作製までの従来の工程の概略を説明するための模式図である。
符号の説明
1 シリコン基板
2 中間層
3 無機レジスト層
4 メッキ層
5 光ディスクスタンパ
11 光ディスク基板
12 情報信号部
13 光透過層
101 ガラス基板
102 レジスト
103 レーザ光
104 現像液
105 メッキ層
106 光ディスクスタンパ
107 金型
108 光ディスク基板
111 光ディスク原盤