JP4677126B2 - ポリコハク酸イミドの製造方法 - Google Patents

ポリコハク酸イミドの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸性触媒を用いてアスパラギン酸の重合を行うポリコハク酸イミドの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリコハク酸イミドは、ポリアスパラギン酸等のポリアミノ酸誘導体の製造において、好適な前駆体又は中間体である。ポリコハク酸イミド、ポリアスパラギン酸等のポリアミノ酸誘導体は、(生)分解性を有することが知られており、環境に適合するポリマーとして極めて有用である。また、ポリコハク酸イミドの誘導体である架橋ポリアスパラギン酸塩は、生分解性と共に吸水性を有する極めて有用なポリマーである。
【0003】
アスパラギン酸を酸性触媒の存在下で反応させることにより、ポリコハク酸イミドを製造する技術としては、例えば、以下の従来技術(1)〜(3)が知られている。
【0004】
(1)米国特許5,142,062号
ここには、第1段階として、アスパラギン酸とリン酸類の混合物を、温度100〜250℃、圧力1bar未満の真空系で反応させ、重量平均分子量1万〜10万のポリコハク酸イミドを含有する固体反応混合物を製造し、第2段階として、第1段階で得た固体反応混合物を0.001〜2mmの粒子サイズに粉砕し、さらに第1段階の温度・圧力範囲から選択した条件下で重縮合を行うことによって、重量平均分子量10万〜20万を有するポリコハク酸イミドを製造する技術が開示されている。
【0005】
さらに、その実施例1では、アスパラギン酸50g(0.38mol)と85%リン酸25g(リン酸0.22mol)を混合し[(リン酸/アスパラギン酸)モル比=0.58]、真空系において200℃下、4時間、重合を行い、ポリコハク酸イミドとリン酸からなる粗生成物を製造している。この粗生成物の一部について、リン酸を洗浄後、分子量が評価されており、その重量平均分子量(Mw)は8.6万である。実施例2では、実施例1の粗生成物について、さらに、粒子サイズが0.001〜2.0mmとなるように粉砕後、再度、真空系(1mbar)において200℃、4時間、重合操作を行い、重量平均分子量(Mw)12.4万を有するポリコハク酸イミドを得ている。
【0006】
また、この実施例1及び実施例3では、その反応物は、反応の進行に伴い、流動体から固体へと性状が変化していくことが開示されている。この技術では、粉砕操作を行うことで、高い重量平均分子量を有するポリコハク酸イミドを製造できるという特徴がある。しかし、通常、反応物の固化を伴う反応に対応して、工業的に製造を実施しようとする場合には、特殊な反応装置が要求され、装置設計が困難である。特に、反応物の性状が、反応の進行に伴い、流動体から固体へと連続的に変化していくことに対応して、連続式の反応装置を設計するのは困難である。
【0007】
(2)米国特許第5,457,176号(特開平7−216084号公報)
ここには、アミノ酸と酸性触媒の混合物を加熱し、アミノ酸ポリマーを製造する方法が開示されている。特に第2欄第15〜16行には、最大重量平均分子量6万以下を有するアミノ酸ポリマーを製造することが、この技術の目的の1つであることが明らかにされている。
【0008】
さらに、その実施例3には、アスパラギン酸800g(6.01モル)、85%オルトリン酸200g(リン酸1.73モル)を混合して得た湿潤粘着性白色粉末の反応混合物を、ステンレス鋼パン上にて層状として加熱した例が開示されている。また、この実施例3において、湿潤粘着性粉末の反応混合物は、240℃、1時間の加熱によって、外側が硬く、中心部が粘着性である、固体の塊へ変化したことが開示されている。固体の塊については、乳鉢と乳棒を用いて粉砕後、さらに240℃、6時間、加熱を行い、Mw1.55万を有するポリコハク酸イミドが得られている。
【0009】
しかし、粘着性を有する状態から固体の塊状物へと変化していく過程に対応して、工業的に製造を実施するには、特殊な反応装置が必要になり、装置設計が極めて困難である。特に、リン酸存在下、かつ、高温下において特殊な機構を有する反応装置を設計するのは困難である。なお、実施例に開示されたポリコハク酸イミドの重量平均分子量の最大値は2.4万であり、分子量6万以下のアミノ酸ポリマーを製造するという目的と一致している。
【0010】
(3)米国特許第5,688,903号(特開平8−231710号公報)
ここには、重合触媒としてのリン酸、五酸化リン又はポリリン酸の存在下で、アミノ酸を塊状熱重縮合し、次いで随意に加水分解することによる、アミノ酸の重縮合物又はそのポリペプチド加水分解物の製造方法が開示されている。この技術は、アミノ酸1分子当たりに、0.005〜0.25モルの触媒が均一に分散された微粉状の原料を製造し、重縮合操作を実施することを特徴とする。
【0011】
また、その実施例には、真空系及び常圧系での反応例が開示されており、アスパラギン酸とリン酸を均一に混合した原料を、微粉砕機によって粉砕して微粉状原料とし、反応が実施されている。すなわち、リン酸、五酸化リン又はポリリン酸の使用量を前記範囲とし、微粉状原料を用いて反応を行うことにより、重合過程での泡沫相形成、重合後の凝集塊生成等の問題を解決している。
【0012】
しかし、この実施例において、ポリコハク酸イミドをジメチルホルムアミド溶液として評価した粘度指数値をMwに換算すると、例4はMw約1.9万、例8はMw約2.8万であり、得られたポリコハク酸イミドはMw3万未満の低分子量に限られており、高分子量のポリコハク酸イミドを製造する方法としては十分でない。一方、リン酸量を、前記範囲を超える使用量とした例10(比較例)では、Mw約7.6万のポリコハク酸イミドが生成している。即ち、例10(比較例)の方が、粘性相の形成、反応物の凝固は生じるものの、前記の例4、例9よりも高いMwを有するポリコハク酸イミドが得られることが明らかにされている。
【0013】
上述の従来技術(1)及び(2)のように、反応物の固化を生じ、粉砕操作を要する重合操作は、連続かつ大量の製造を実施しようとする場合には装置設計が困難である。特に、リン酸存在下かつ高温下において、特殊な機構を有する反応装置を設計するのは困難である。一方、従来技術(3)では、リン酸量を所定の範囲に設定した微粉状反応原料を使用することにより、粘性相の形成、反応物の凝固塊生成は防止できるものの、生成するポリコハク酸イミドの重量平均分子量は低い。
【0014】
即ち、従来の技術においては、高い重量平均分子量を有するポリコハク酸イミドの製造と、粘性相生成、泡沫形成及び反応物の凝固塊生成の防止は、両立することができなかった。
【0015】
一方、本発明者らは、特開2000−239381号公報に記載のように、高い重量平均分子量を有するポリコハク酸イミドの製造と、粘性相生成、泡沫形成及び反応物の凝固塊生成の防止とを両立する製造方法について開示した。この技術により得られるポリコハク酸イミドからは、良好な吸水性を有する誘導体が製造できるという点でも非常に有用な技術であるが、工業的見地からは改善の余地がある。即ちこの技術では、工業的見地からすると、特に反応温度が低い場合において、反応に伴って生成する水を系外へ十分除去し、反応を短時間で行う点に改善の余地が有るのである。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した従来技術の課題を解決する為になされたものであり、特に本発明者らが開示した上述の技術を更に改善する為になされたものである。すなわち、本発明の目的は、高分子量ポリコハク酸イミドを効率良く製造できる方法を提供することにある。さらに本発明の目的は、従来の技術による製造の過程で生じていた、極めて高度の粘性相の生成、過度の泡沫形成、及び、反応物の凝固塊生成等の問題を生じることなく、より簡便な装置により、高分子量ポリコハク酸イミドを、連続かつ大量に製造できる方法を提供することである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定の混合物を液相重合することにより、重量平均分子量3万以上を有する高分子量のポリコハク酸イミドを効率良く製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち本発明は、アスパラギン酸と、酸性触媒と、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン及びフェノールからなる群より選択される一種以上の脱水用溶剤とを含んでなる、該アスパラギン酸の少なくとも一部が該酸性触媒に溶解した状態の混合物を、液相重合して、重量平均分子量Mw1のポリコハク酸イミドを得、該液相重合後、さらに30〜350℃で固相重合し、最終的に得られるポリコハク酸イミドが、下記数式(2)で示される重量平均分子量Mw2を有し、かつ、重量平均分子量Mw1と重量平均分子量Mw2の関係が下記数式(3)で示されるものであることを特徴とするポリコハク酸イミドの製造方法である。
3.0×10 4 ≦ Mw2 ≦ 1.0×10 6 (2)
Mw1 < Mw2 (3)
【0019】
さらに本発明は、上記方法において、工程1(液体状反応混合物製造工程)として、液相重合によりポリコハク酸イミドを含有する液体状反応混合物を製造する工程と、工程2(単離工程)として、工程1(液体状反応混合物製造工程)で得たポリコハク酸イミドを含有する液体状反応混合物から、酸性触媒及び脱水用溶剤の少なくとも一部を分離し、固体状のポリコハク酸イミドを単離する工程とを含むポリコハク酸イミドの製造方法である。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0021】
[1]アスパラギン酸
本発明で使用するアスパラギン酸は、L体、D体、DL体の何れであってもよい。
【0022】
[2]酸性触媒
本発明で使用する酸性触媒は、特に限定されないが、アスパラギン酸の少なくとも一部を溶解する機能を有する酸性触媒が用いられる。また、好ましくは、ポリコハク酸イミド、及び/又は、ポリアスパラギン酸(塩)の少なくとも一部を溶解する機能を有する酸性触媒が用いられる。
【0023】
このような酸性触媒としては、例えば、リン酸素酸、硫黄酸素酸等を含む触媒が挙げられる。リン酸素酸類の具体例としては、オルトリン酸(分子量98.00)、ピロリン酸、ポリリン酸、五酸化リンなどが挙げられる。硫黄酸素酸の具体例としては、硫酸、亜硫酸、有機スルホン酸(メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、トルエンスルホン酸等)などが挙げられる。硫黄酸素酸は、塩基(アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン等)で、部分的に中和された状態で使用しても構わない。本発明においては、上述した各種の酸性触媒のうちの少なくとも一種を使用することが好ましい。
【0024】
酸性触媒は、溶媒(例えば、水、アルコール、ケトン等の極性溶媒)で希釈された状態であってもよい。例えば、リン酸を使用する場合は、85質量%のリン酸と15質量%の水からなる混合物を使用してもよい。
【0025】
本発明では、好ましくは10質量%以上、より好ましくは50質量%、特に好ましくは70質量%以上、最も好ましくは85質量%以上の酸性触媒濃度を有する混合物を重合に使用する。酸性触媒濃度が低すぎると、一般に、重合操作の過程で除去しなければならない溶媒の量が多くなり、エネルギーを余計に使用することになる。
【0026】
[3]脱水用溶剤
本発明で使用する脱水用溶剤は、系内の水(例えば、重合により生成する水等)を系外に除去する機能を奏するものである。これにより、例えば、反応時間の短縮、生成物の高分子量化等の顕著な効果が得られる。
【0027】
脱水用溶剤は、水と2成分系又は多成分系の共沸組成を有、特に、系内の反応に対して不活性である特定の脱水用溶媒である
【0028】
反応物(例えば、アスパラギン酸、酸性触媒、ポリコハク酸イミド、水等)に対する脱水用溶剤の溶解性は特に限定されない。ただし、脱水用溶剤の再使用の観点からは、系外に除去された共沸混合物を冷却して得られる液相が、主として脱水用溶剤からなる油相と、主として水からなる水相とに分離する溶媒を選択することが好ましい。
【0029】
脱水用溶剤としては、具体的には、トルエン、(混合)キシレン、エチルベンゼン、クメン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン又はフェノールを用いる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
以上の各溶剤、系外に除去した後の水と脱水用溶剤との分離性の点から、特に好ましい。
【0032】
脱水用溶剤は、通常、再生処理を経て、再使用することが好ましい。再生処理は、一般に、脱水用溶剤中に含有される水分及び/又は不純物(例えば、反応副生成物等)の濃度を低減するために実施される。具体的には、通常、蒸留操作、抽出操作、吸着操作、吸収操作、冷却操作及び加熱操作から選択される少なくとも一つ以上の操作を実施し、水分及び/又は不純物の濃度を低減することが好ましい。ここで、吸着操作においては、ゼオライト類や親水性架橋樹脂類(例えば、イオン交換樹脂等)等を吸着剤として用いることもできる。
【0033】
脱水用溶剤中の水分濃度が高いと、通常、得られるポリコハク酸イミドの重量平均分子量が低くなることがある。逆に、水分濃度が0%の場合には、ポリマーには影響が無いが、一般に、脱水用溶剤の再生処理に関係するコストが過大とならないように考慮する必要が有る。
【0034】
また、不純物濃度が高いと、場合により、ポリコハク酸イミドの着色、変性等が生じることが有る。逆に、不純物濃度が0%の場合には、ポリマーには影響が無いが、一般に、脱水用溶剤の再生処理に関係するコストが過大とならないように考慮する必要が有る。
【0035】
より具体的な態様として、例えば、系外に除去された蒸気を冷却して得られる液相が、主として脱水用溶剤からなる油相と、主として水からなる水相とに分離している場合には、油相側のみを直接再使用することもできる。また再使用前に、前記の操作(例えば、吸着操作等)から選択される少なくとも1つ以上を実施してから再使用することもできる。
【0036】
[4]ポリコハク酸イミド
本発明の方法により得られるポリコハク酸イミドの構造は、線状構造であっても、分岐状構造を有するものであってもよい。また、得られるポリコハク酸イミドは、下記数式(1)で示される重量平均分子量Mw1を有するものであることが好ましい。
【0037】
3.0×104 ≦ Mw1 ≦ 5.0×105 (1)。
【0038】
[5]不活性ガス
本発明では、少なくとも1つ以上の工程に不活性ガスを使用することが好ましい。不活性ガスの組成は、特に限定されないが、反応に悪影響を与えないガスが好ましい。具体的には、例えば、窒素、二酸化炭素、アルゴン等が好ましい。また、1種のガスを用いても、複数種類のガスを混合して用いてもかまわない。
【0039】
不活性ガスは、通常、再生処理を経て、再使用することが好ましい。再生処理は、一般に、不活性ガス中に含有される、水分及び/又は不純物(反応副生成物等)の濃度を低減するために実施される。具体的には、通常、吸着操作、吸収操作、冷却操作、加熱操作、集塵操作等から選択される少なくとも一つ以上の操作を実施し、水分及び/又は不純物の濃度を低減することが好ましい。ここで、吸着操作においては、ゼオライト類や、親水性架橋樹脂類(例えば、イオン交換樹脂等)等、を吸着剤に用いることができる。
【0040】
不活性ガスを用いる際、不活性ガス中の水分濃度が高いと、通常、得られるポリコハク酸イミドの重量平均分子量が低くなることがある。逆に、水分濃度が0%の場合には、ポリマーには影響が無いが、一般に、不活性ガスの再生処理に関係するコストが過大とならないように考慮する必要が有る。
【0041】
また、不純物濃度が高いと、場合により、ポリコハク酸イミドの着色、変性等が生じることが有る。逆に、不純物濃度が0%の場合には、ポリマーには影響が無いが、一般に、不活性ガスの再生処理に関係するコストが過大とならないように考慮する必要が有る。
【0042】
[6]液体状反応混合物製造工程
液体状反応混合物製造工程は、連続式、及び/又は、回分式の操作にて実施することができる。
【0043】
液体状反応混合物製造工程は、アスパラギン酸と、アスパラギン酸の少なくとも一部を溶解する機能を有する酸性触媒、並びに、脱水用溶剤を含んでなる、アスパラギン酸の少なくとも一部が酸性触媒に溶解した混合物を、液相重合を行って、高分子量ポリコハク酸イミドと、酸性触媒、並びに、脱水用溶剤を含有する液体状反応混合物を製造するものであれば、特に限定されない。ここで「液体状」とは、溶液状態、分散状態、ペースト状態、ゲル状態等を包含する。
【0044】
1)酸性触媒の使用量
本工程において、酸性触媒は、触媒としての機能を示すものであればよい。また、酸性触媒は、反応物に対する溶媒の機能をも有することが好ましい。
【0045】
酸性触媒の使用量は、原料のアスパラギン酸1モル当たり、通常は0.5〜100モルである。酸性触媒をこの範囲内の量で使用することにより、液体状の反応混合物を製造できる。また、この使用量が0.5モル以上であれば、重合過程でポリコハク酸イミドの分子量が増大していっても、反応物の粘性はそれほど増大せず、発泡が生じて重合操作が困難となるというような問題が生じ難い。逆に、酸性触媒の使用量が少な過ぎ、発泡が生じたまま反応を進めると、反応物が発泡した状態のまま塊状で固化し、場合によっては反応装置に固着し、操作を継続することが極めて困難になることがある。また、この使用量が100モル以下であれば、酸性触媒の分離が生じ難く、再使用に必要なエネルギーも小さくなり、経済的に有利である。
【0046】
本発明では、酸性触媒を、原料のアスパラギン酸1モル当たり、望ましくは1.0モル以上、好ましくは1.5モル以上、より好ましくは2.0モル以上、特に好ましくは2.3モル以上、最も好ましくは2.5モル以上で使用する。また、原料のアスパラギン酸1モル当たり、望ましくは50モル以下、好ましくは10モル以下、より好ましくは8モル以下、特に好ましくは5モル以下、最も好ましくは4モル以下で使用する。
【0047】
2)脱水用溶剤の使用量
本発明では、脱水用溶剤を用いて、系内の水(例えば、重合により生成する水等)を、効率良く系外に除去することにより、例えば、反応時間の短縮、生成物の高分子量化等)の顕著な効果を得ることができる。
【0048】
脱水用溶剤の使用量は特に限定されない。所望の温度及び/又は圧力条件が設定でき、目的とする分子量のポリコハク酸イミドが得られる使用量とすれば良い。具体的には、脱水用溶剤は、系外に除去すべき水1質量部当り、好ましくは0.001〜100質量部、より好ましくは0.05〜50質量部、特に好ましくは0.1〜10質量部、最も好ましくは0.5〜5質量部使用する。ここで「系外に除去すべき水」とは、反応で生成する水のみに限定されるものではない。また、脱水用溶剤は、具体的には、原料のアスパラギン酸1質量部当り、好ましくは0.001〜30質量部、より好ましくは0.01〜20質量部、特に好ましくは0.03〜10質量部、最も好ましくは0.1〜5質量部使用する。脱水用溶剤の使用量が適度に多くすれば、十分な脱水効果が得られる。また、適度に少なくすれば、重合操作の過程で蒸発させる溶媒の量が抑えられ、エネルギー効率が向上する。
【0049】
3)液体状反応混合物製造工程の操作
本工程における原料(アスパラギン酸、酸性触媒、脱水用溶剤、等)の混合操作は、通常、直接混合することで実施するが、場合によっては、さらに追加した溶媒(水、アルコール、ケトン等の極性溶剤)に、アスパラギン酸、酸性触媒、並びに、脱水用溶剤のうち少なくとも一部を、溶解又は分散させて実施してもよい。ただし、水及び脱水用溶剤以外の溶媒は、副反応防止の観点から、反応開始前に十分に系内から除去されることが好ましく、反応開始前に水及び脱水用溶剤以外の溶媒濃度が実質的に0質量%となるまで系内から除去されることがより好ましい。また、酸性触媒との混合後には、アスパラギン酸の縮合により水が生成する場合がある。この生成する水を利用して、各原料を混合する操作をより効率的に実施することもできる。
【0050】
本工程の操作を行う温度は、望ましくは5〜400℃、好ましくは80〜350℃、より好ましくは110〜250℃、特に好ましくは140〜220℃、最も好ましくは160℃〜190℃である。
【0051】
主として、アスパラギン酸、酸性触媒、並びに、脱水用溶剤からなる原料混合物は、酸性触媒量や加熱温度等の反応条件により、液状、スラリー状、ペースト状等の種々の性状を示し、その後、さらに加熱することにより液体状へと変化する。温度が低すぎると、通常、前記数式(1)の範囲の重量平均分子量を有するポリコハク酸イミドを含有した液体状反応混合物を製造するために要する反応時間が長くなり、大型の反応装置が必要となるため装置設計が困難である。逆に温度が高すぎると、通常、酸性触媒とアスパラギン酸が十分に混合される前に、不均一な状態で重合が開始し、一部に、不均一な反応物が形成される虞がある。
【0052】
本工程の圧力は、必要に応じて適宜選択すればよい。加熱操作を行う温度下で、効率よく系内の水分を低減できる圧力とすることが好ましい。具体的には、好ましくは0.000001〜50MPa、より好ましくは0.00001〜1MPa、特に好ましくは0.0001〜0.2MPaである。圧力が適度に高ければ、液体状反応混合物を製造する過程で、安定した操作が可能になる。また、圧力が適度に低ければ、高耐圧性の反応器が必ずしも必要でないので、大量の製造を行う場合の装置設計も容易になる。
【0053】
本工程に要する時間は、特に限定されないが、好ましくは1分〜50時間、より好ましくは10分〜30時間、特に好ましくは30分〜10時間、最も好ましくは1〜5時間である。また、加熱操作時間を適度な時間とすることで、顕著な着色や変性が生じていない液体状反応混合物が得られる。
【0054】
本工程の操作は、系内の酸素濃度が低減された条件下、又は、酸素濃度が実質的に0%である条件下で実施することが好ましく、先に述べた不活性ガス中で実施することが好ましい。
【0055】
脱水用溶剤は、本工程の全過程において用いても構わない。また、本工程を多段階に分けて実施する場合、脱水用溶剤を使用する段階は特に限定されない。具体的には、例えば、脱水用溶剤を初期段階には使用せず、途中段階から使用を開始しても構わない。
【0056】
4)製造装置
液体状反応混合物の製造は、連続式操作、回分式操作の何れで実施してもよい。液体状反応混合物を製造するための装置は、特に限定されず、先に述べた原料の混合操作及び加熱操作が実施できる装置であればよい。また、原料の混合処理と加熱処理を、2つ以上の装置に分割して行ってもよい。具体的には、例えば、攪拌槽、遊星運動攪拌装置付反応機、1軸又は2軸混練機等、任意の装置を用いることができる。液体状反応混合物の性状(例えば、粘性等)に応じて、均一な混合状態が得られる反応装置を選択すればよい。
【0057】
液体状反応混合物製造工程での加熱操作は、反応物を、間接及び/又は直接、加熱媒体と接触させて行うことができる。
【0058】
また、本発明の液体状反応混合物の製造に用いられる装置として、『改訂六版化学工学便覧』(編者:社団法人 化学工学会、発行所:丸善株式会社、1999年)の『7 攪拌』(421〜454頁)、『6 伝熱・蒸発』(343〜420頁)に記載されている装置も用いることができる。
【0059】
5)重量平均分子量
液体状反応混合物製造工程では、重量平均分子量(Mw1)が、好ましくは前記数式(1)で示される分子量を有するポリコハク酸イミドを含有した液体状反応混合物を製造する。重量平均分子量が低すぎると、後工程における操作が困難になること場合がある。具体的には、単離工程において、固体状ポリコハク酸イミドが得られない場合がある。逆に、重量平均分子量が高すぎると、通常、液体状反応混合物を製造する装置での非常に長い滞留時間が要求され、副反応を生じる虞がある。
【0060】
本工程では、液体状反応混合物中の高分子量ポリコハク酸イミドの重量平均分子量が、好ましくは下記数式(4)、より好ましくは下記数式(5)、特に好ましくは数式(6)となるように操作を行なう。
【0061】
6.0×104 ≦ Mw1 ≦ 5.0×105 (4)
8.0×104 ≦ Mw1 ≦ 5.0×105 (5)
1.0×105 ≦ Mw1 ≦ 5.0×105 (6)。
【0062】
また、Mw1の上限値と下限値について別々に述べるならば、Mw1の下限値は、特に限定されるものではないが、一般的には3.0×104以上、好ましくは、4.0×104以上、より好ましくは6.0×104以上、特に好ましくは8.0×104以上、最も好ましくは1.0×105以上、とすることで、品質、及び/又は、性能の良好な誘導体(例えば、吸水性ポリマー、ポリアスパラギン酸塩、等)を製造することができる。一方、Mw1の上限値は、特に限定されるものではないが、好ましくは、5.0×105以下、より好ましくは、4.0×105以下、さらに好ましくは、3.0×105以下、特に好ましくは、2.5×105以下、最も好ましくは、2.0×105以下、とすることで、長い反応時間を要することなく、液体状反応混合物の製造を実施することができる。
【0063】
[7]単離工程
単離工程は、前記の液体状反応混合物製造工程で製造された液体状反応混合物から、固体状の高分子量ポリコハク酸イミドを製造するものであれば、特に限定されない。また、単離工程は、連続式、及び/又は、回分式の操作にて実施することができる。
【0064】
本発明では、液体状反応混合物は、好ましくは酸性触媒が溶媒として機能し、高分子量ポリコハク酸イミドを含有して液体状となったものである。単離工程では、液体状反応混合物から、酸性触媒及び脱水用溶剤の少なくとも一部を分離し、固体状の高分子量ポリコハク酸イミドを単離する。
【0065】
ここで、液体状反応混合物から、酸性触媒と脱水用溶剤を分離する順序は特に限定されない。液体状反応混合物から、酸性触媒と脱水用溶剤を、同時に分離しても構わない。
【0066】
単離工程後、更なる重合操作を実施しない場合には、固体状の高分子量ポリコハク酸イミド中に含有される酸性触媒の濃度は、低い方が好ましく、実質的に0質量%であることがより好ましい。酸性触媒の濃度が適度に低ければ、通常、ポリコハク酸イミドの保存安定性が向上する。酸性触媒を分離する場合は、負荷が過大とならないように配慮する必要がある。単離工程後の固体状ポリコハク酸イミド中に含有される酸性触媒の濃度は、望ましくは60質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下、最も好ましくは0.1質量%以下である。ここで酸性触媒濃度は、ポリコハク酸イミド質量と酸性触媒質量の合計質量を基準とした値である。
【0067】
一方、単離工程後、さらに固相重合操作を実施する場合、単離工程後の固体状ポリコハク酸イミド中に含有される酸性触媒の濃度は、好ましくは9〜53質量%、より好ましくは23〜50質量%、特に好ましくは33〜48質量%である。適度な酸性触媒濃度とすることで、さらに高い分子量を有するポリコハク酸イミドを、安定した固相重合により製造できる。
【0068】
単離工程後、固体状の高分子量ポリコハク酸イミド中に含有される脱水用溶剤の濃度は、低い方が好ましく、実質的に0質量%であることがより好ましい。脱水用溶剤の濃度が適度に低ければ、ポリコハク酸イミドの溶剤臭の問題が生じ難くなる。脱水用溶剤を分離するための負荷が過大とならないように配慮する必要がある。単離工程後の固体状ポリコハク酸イミド中に含有される脱水用溶剤の濃度は、望ましくは50質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下、最も好ましくは0.1質量%以下である。ここで脱水用溶剤の濃度は、ポリコハク酸イミド質量と脱水用溶剤質量の合計質量を基準とした値である。固相重合を実施する場合には、固相重合の過程でも脱水用溶剤の少なくとも一部を分離しても構わない。
【0069】
単離工程は、例えば、抽出操作、希釈操作、蒸留操作、晶析操作、固液分離操作、乾燥操作、粉砕操作、造粒操作及び分級操作からなる群より選択される1種以上の操作を含んでなる工程である。単離工程の好ましい態様として、次の各工程が挙げられる。[1]工程2−1(スラリー製造工程)、及び、工程2−2(固液分離工程)を含んで成る工程、[2]工程2−1(スラリー製造工程)、工程2−2(固液分離工程)、及び、工程2−3(乾燥工程)を含んで成る工程、[3]工程2−1(脱水用溶剤分離工程)、工程2−2(スラリー製造工程)及び工程2−3(固液分離工程)を含んで成る工程、[4]工程2−1(脱水用溶剤分離工程)、工程2−2(スラリー製造工程)、工程2−3(固液分離工程)、及び、工程2−4(乾燥工程)を含んで成る工程、[5]工程2−1(混合溶液製造工程)、工程2−2(スラリー製造工程)、及び、工程2−3(固液分離工程)を含んで成る工程、[6]工程2−1(混合溶液製造工程)、工程2−2(スラリー製造工程)、工程2−3(固液分離工程)、及び、工程2−4(乾燥工程)を含んで成る工程、[7]工程2−1(脱水用溶剤分離工程)、工程2−2(混合溶液製造工程)、工程2−3(スラリー製造工程)、及び、工程2−4(固液分離工程)を含んで成る工程、[8]工程2−1(脱水用溶剤分離工程)、工程2−2(混合溶液製造工程)、工程2−3(スラリー製造工程)、工程2−4(固液分離工程)、及び、工程2−5(乾燥工程)を含んで成る工程。
【0070】
各工程は、連続式、及び/又は、回分式の操作にて実施することができる。ここで、『固体状』とは、固体状態、粒子が独立の形状を有する状態、ゴム状固体(弾性体)状態等を包含する。
【0071】
以下、単離工程として実施される各工程の詳細を説明する。
【0072】
1)脱水用溶剤分離工程
脱水用溶剤分離工程は、高分子量ポリコハク酸イミドを含有する液体状反応混合物から、脱水用溶剤の少なくとも一部を分離し、脱水用溶剤含有量の低減された、又は、脱水用溶剤を含有しない液体状反応混合物を製造する操作であれば特に限定されない。本工程は、連続式、及び/又は、回分式の操作で実施することができる。
【0073】
本工程では、高分子量ポリコハク酸イミドを含有する液体状反応混合物から、脱水用溶剤の少なくとも一部を分離する操作として、加熱操作を実施することが好ましい。
【0074】
加熱操作を実施する温度は、好ましくは10〜300℃、より好ましくは50〜250℃、特に好ましくは80〜200℃、最も好ましくは100℃〜180℃である。温度が高すぎると、通常、ポリコハク酸イミドの分子量が低下する場合がある。温度が低すぎると、通常、脱水用溶剤の分離を十分に行えない場合がある。
【0075】
本工程の圧力は、適宜選択される。加熱操作を行う温度下で、効率よく系内の脱水用溶剤を分離できる圧力とする。圧力は、好ましくは0.000001〜5MPa、より好ましくは0.00001〜1MPa、特に好ましくは0.0001〜0.2MPaである。
【0076】
多段階で操作を行う場合には、各段階における温度及び/又は圧力を、前記の範囲内で異なる値に設定してもよい。
【0077】
高分子量ポリコハク酸イミドを含有する液体状反応混合物を加熱する際に、先に述べた不活性ガスを用いても構わない。不活性ガスは、液体状反応混合物及び/又は酸性触媒の過度の同伴や発泡が生じない使用量であれば特に限定されない。
【0078】
本工程を実施する時間は、一般的には1秒〜12時間、好ましくは10秒〜5時間、より好ましくは30秒〜2時間、特に好ましくは1分〜30分である。加熱時間が長すぎると、通常、ポリコハク酸イミドの変性が生じる場合がある。一方、加熱時間が短すぎると、本工程による、脱水用溶剤の分離が十分に実施できない虞がある。
【0079】
2)混合溶液製造工程
混合溶液製造工程では、高分子量ポリコハク酸イミドを含有する液体状反応混合物に、高分子量ポリコハク酸イミド、及び/又は、酸性触媒の少なくとも一部を溶解する機能を有する希釈溶媒を加えて、液体状反応混合物が希釈された、混合溶液を製造する。本工程は、連続式、及び/又は、回分式の操作で実施することができる。
【0080】
本工程の希釈溶媒は、高分子量ポリコハク酸イミド及び酸性触媒の少なくとも一部溶解する機能を有するものであれば、特に限定されない。本発明では、希釈溶媒として、非プロトン性極性溶媒、酸性触媒、有機溶剤及び水からなる群より選択された少なくとも1種以上が好ましく用いられる。非プロトン性極性溶媒として、具体的には、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等が挙げられる。
【0081】
希釈溶媒に用いられる有機溶剤の具体例としては、炭素原子数1〜20のアルコール類、炭素原子数3〜20のケトン類、炭素原子数3〜20のエーテル類、炭素原子数3〜20の酢酸エステル類が挙げられる。さらに具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、イソアミルアルコール、4−メチル−2−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、1−オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン等のケトン類;ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシル等の酢酸エステル類;等が挙げられる。これらのうち、好ましい有機溶剤は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、イソアミルアルコール、1−ヘキサノール、1−オクタノール、アセトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルエーテル、酢酸ブチルであり、より好ましい有機溶剤は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、アセトン、ジイソプロピルエーテルであり、特に好ましい有機溶剤は、メタノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、i−ブチルアルコール、アセトン、ジイソプロピルエーテルであり、最も好ましい有機溶剤は、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトンである。
【0082】
本工程では、希釈溶媒の使用量は、液体状反応混合物1質量部当り、0〜100質量部が好ましい。希釈溶媒が多すぎると、通常、希釈溶媒、及び/又は、酸性触媒を回収する際の負荷(例えば、蒸留に要するエネルギー、等)が過大となる。希釈溶媒の使用量は、液体状反応混合物1質量部当り、望ましくは50質量部以下、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、特に好ましくは1質量部以下、最も好ましくは0.5質量部以下である。
【0083】
混合溶液製造工程の温度は、5〜300℃であることが好ましい。この温度が5℃未満であると、混合溶液の製造に長時間を要する場合がある。一方、300℃を超えると、希釈溶媒、及び/又は、ポリコハク酸イミドの一部が変性し、分子量が低下し、場合によっては着色し、ポリマーの品質低下を招く。この温度は、10〜200℃が好ましく、15〜150℃がより好ましく、20〜100℃が特に好ましい。
【0084】
本工程の圧力は、特に限定されない。好ましくは、使用する希釈溶媒の物性で決定される。操作を行う温度が、希釈溶媒の臨界温度より低い場合は、少なくとも一部に液相が存在する圧力とする。例えば、窒素、二酸化炭素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で操作を行う場合は、そのガスにより、操作を行なう温度下での希釈溶媒の飽和蒸気圧以上に加圧するとよい。操作を行う温度が、希釈溶媒の臨界温度より高い場合は、高分子量ポリコハク酸イミド及び/又は酸性触媒の少なくとも一部が希釈溶媒に溶解する圧力とする。
【0085】
本工程に要する時間は、特に限定されない。十分に均一な混合溶液が得られればよい。混合溶液製造工程に要する時間は、一般的には1秒〜20時間、好ましくは1分〜5時間、より好ましくは5分〜1時間である。ここで、混合溶液製造工程に要する時間は、液体状反応混合物と希釈溶媒が接触を開始した時点を基準とした時間とする。本工程の操作に長時間を要すると、大型の装置が必要になり、装置設計が困難である。一方、本工程の操作の時間が短すぎると、十分に均一な混合溶液が得られない虞がある。
【0086】
3)スラリー製造工程
スラリー製造工程では、液体状反応混合物に含有される酸性触媒の少なくとも一部を、抽出溶媒を用いて分離することにより、酸性触媒量の低減された固体状の高分子量ポリコハク酸イミドを製造する。ここで、脱水用溶剤及び/又は希釈溶媒が存在する場合には、酸性触媒とともに分離されても構わない。本工程の操作は、連続式、及び/又は、回分式で実施することができる。
【0087】
本工程では、ポリコハク酸イミドを実質的に溶解せず、かつ、酸性触媒を少なくとも一部溶解する機能を有する抽出溶媒を使用する。抽出溶媒としては、例えば、有機溶剤、有機溶剤と水及び/又は酸性触媒との混合物、水、水及び酸性触媒との混合物のうち少なくとも一つを使用することができる。抽出溶媒は、主に、酸性触媒に対する抽出能力、抽出を行う際の温度及び圧力条件、抽出溶媒自体の安定性を考慮して選択すればよい。
【0088】
抽出溶媒の抽出能力の目安としては、比誘電率εr値が挙げられる。本工程では、25℃での比誘電率が、好ましくは2以上、より好ましくは10以上、特に好ましくは15以上、最も好ましくは19以上である抽出溶媒を使用するとよい。
【0089】
抽出溶媒に用いられる有機溶剤の具体例としては、炭素原子数1〜20のアルコール類、炭素原子数3〜20のケトン類、炭素原子数3〜20のエーテル類、炭素原子数3〜20の酢酸エステル類が挙げられる。さらに具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、イソアミルアルコール、4−メチル−2−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、1−オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン等のケトン類;ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシル等の酢酸エステル類;等が挙げられる。これらのうち、好ましい有機溶剤は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、イソアミルアルコール、1−ヘキサノール、1−オクタノール、アセトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルエーテル、酢酸ブチルであり、より好ましい有機溶剤は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、アセトン、ジイソプロピルエーテルであり、特に好ましい有機溶剤は、メタノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、i−ブチルアルコール、アセトン、ジイソプロピルエーテルであり、最も好ましい有機溶剤は、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトンである。
【0090】
抽出溶媒として、水と共沸混合物を形成する有機溶剤を使用する場合は、その共沸組成の水を含有した混合物を用いてもよい。また、抽出を行う温度及び圧力条件下で飽和溶解度分の水を含有する有機溶剤混合物を用いることもでき、逆に、抽出を行う温度及び圧力条件下で飽和溶解度分の有機溶剤を含有する水混合物を用いることもできる。さらに、水と完全に混合する有機溶剤の場合には、任意の割合で水と有機溶剤を混合して用いることもできる。
【0091】
また抽出溶媒中には、酸性触媒、脱水用溶剤、希釈溶媒のうち少なくとも1種が含有されていてもよい。
【0092】
抽出溶媒中に酸性触媒が含有される場合、その含有量は、固体状の高分子量ポリコハク酸イミド中の酸性触媒量が前記範囲に調整できるよう、抽出溶媒の抽出能力をあまり低下させない量にすればよい。具体的には、抽出溶媒中の酸性触媒量は、一般的には90質量%以下、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下、特に好ましくは20質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。抽出溶媒中の酸性触媒濃度が実質的に0質量%の場合には問題ないが、抽出溶媒中の酸性触媒濃度が高すぎる場合には、本工程で、前記の酸性触媒質量濃度の範囲に設定することが困難となる。
【0093】
また、抽出溶媒中に希釈溶媒が含まれる場合には、希釈溶媒量は、一般的には90質量%以下、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、特に好ましくは20質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。抽出溶媒中の希釈溶媒濃度が0質量%の場合には問題ないが、抽出溶媒中の希釈溶媒濃度が高すぎる場合には、本工程で、前記の酸性触媒質量濃度の範囲に設定することが困難となる場合がある。
【0094】
また、抽出溶媒中に脱水用溶剤が含有される場合には、脱水用溶剤量は、一般的には90質量%以下、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、特に好ましくは20質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。抽出溶媒中の脱水用溶剤濃度が実質的に0質量%の場合には問題ないが、抽出溶媒中の脱水用溶剤濃度が高すぎると、本工程で、前記の酸性触媒質量濃度の範囲に設定することが困難となる場合がある。
【0095】
液体状反応混合物は、酸性触媒の分離を行なうことで、不連続に相が変化し、固体状の高分子量ポリコハク酸イミドが得られる。また、混合溶液は、酸性触媒、及び、希釈溶媒の分離を行なうことで、不連続に相が変化し、固体状の高分子量ポリコハク酸イミドが得られる。
【0096】
スラリー製造工程で用いる装置としては、例えば、撹拌槽、固定床型抽出器、移動床型抽出器、ロトセル抽出機、等が挙げられる。また、本発明のスラリー製造工程に用いられる装置及び方法としては、『改訂六版 化学工学便覧』(編者:社団法人 化学工学会、発行所:丸善株式会社、1999年)の『12 抽出・液液反応』(637〜688頁)、『7 攪拌』(421〜454頁)、『6伝熱・蒸発』(343〜420頁)に記載されている装置及び方法を包含する。
【0097】
スラリー製造工程の具体的な操作方法は、例えば、前記の抽出溶媒を攪拌槽に仕込み、攪拌下、液体状反応混合物、及び/又は、混合溶液を導入する方法が挙げられる。また、液体状反応混合物、及び/又は、混合溶液を攪拌槽に仕込み、攪拌下、抽出溶媒を導入する方法が挙げられる。
【0098】
スラリー製造工程で行われる抽出操作は、1段あるいは多段抽出で好ましく実施される。多段抽出では抽出溶媒を向流式あるいは並流式で使用するが、抽出溶媒の使用量が抑えられる点で、特に向流式が好ましい。多段抽出操作においては酸性触媒、希釈溶媒、脱水用溶剤のうち少なくとも1種を含有する抽出溶媒を、少なくとも1部の段において使用してもよい。
【0099】
抽出溶媒の使用量は、固体状の高分子量ポリコハク酸イミド中の酸性触媒濃度が、固相重合実施の有無に応じた、前記範囲に設定されるよう調整すれば良い。具体的には、抽出溶媒の使用量は、酸性触媒1質量部当り、好ましくは0.1〜1000質量部、より好ましくは0.3〜100質量部、特に好ましくは0.5〜50質量部、最も好ましくは1〜10質量部である。抽出溶媒を過剰に用いると、抽出液中の酸性触媒濃度及び/又は希釈溶媒の濃度が低くなるので、抽出後、酸性触媒及び/又は希釈溶媒と抽出溶媒を分離する際の効率が悪くなる。一方、抽出溶媒が少な過ぎると、高分子量ポリコハク酸イミドに残存する酸性触媒及び/又は希釈溶媒の濃度が増大し、固体状とならない場合がある。抽出溶媒の使用量をより少なくし、効率良く抽出操作を行うには、多段向流型の抽出操作が好ましい。
【0100】
また、多段抽出を行う場合には、各段の間で、固体状の高分子量ポリコハク酸イミドと、抽出液とを可能な限り分離した後、次の段の操作を行うことが好ましい。具体的には、固体状の高分子量ポリコハク酸イミド100質量部当たりに含有される抽出液が、一般的には50質量部以下、好ましくは30質量部以下、より好ましくは10質量部以下、特に好ましくは5質量部以下、最も好ましくは1質量部以下となるまで分離を行う。
【0101】
抽出液と固体状の高分子量ポリコハク酸イミドとの分離は、具体的には、濾過機、遠心分離機、沈降分離装置、浮上分離装置あるいはそれらを組み合わせた工程により実施できる。なお、固体状の高分子量ポリコハク酸イミドと抽出液を分離した後、さらに、同じ種類あるいは異なる種類の抽出溶媒を用いて、固体状の高分子量ポリコハク酸イミドに含まれる抽出液の置換洗浄を行ってもよい。置換洗浄操作1回当たりに用いる抽出溶媒量は、固体状の高分子量ポリコハク酸イミド1質量部当たり、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.05〜5質量部、特に好ましくは0.1〜2質量部である。
【0102】
本工程の温度は、5〜300℃が好ましい。この温度が5℃未満であると、通常、固体状の高分子量ポリコハク酸イミド中の酸性触媒及び/又は希釈溶媒の残存濃度が高くなる。一方、300℃を超えると、通常、ポリコハク酸イミドの一部が変性し、分子量が低下し、場合によっては着色し、ポリマーの品質低下を招く。この温度は、10〜200℃が好ましく、15〜150℃がより好ましく、20〜100℃が特に好ましい。
【0103】
本工程の圧力は、特に限定されない。好ましくは、使用する抽出溶媒の物性で決定される。抽出操作を行う温度が、抽出溶媒の臨界温度より低い場合は、少なくとも一部に液相が存在する圧力とする。例えば、窒素、二酸化炭素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で抽出を行う場合は、そのガスにより、抽出温度での抽出溶媒の飽和蒸気圧以上に加圧するとよい。抽出操作を行う温度が、抽出溶媒の臨界温度より高い場合は、酸性触媒の少なくとも一部が抽出溶媒に溶解する圧力とする。
【0104】
多段抽出を行う場合には、各段における温度及び/又は圧力を、前記の範囲内で異なる値に設定してもよい。
【0105】
スラリー化工程での抽出時間は、一般的には0.5秒〜12時間、好ましくは5秒〜5時間、より好ましくは30秒〜3時間、特に好ましくは1分〜2時間、最も好ましくは10分〜60分である。ここで、抽出時間とは、抽出を行う温度下で、ポリマーと抽出溶媒及び/又は抽出液が接触している時間とする。抽出に長時間を要すると、大型の装置が必要になり、装置設計が困難である。一方、抽出時間が短すぎると、本工程による、酸性触媒の分離が十分に実施できない虞がある。
【0106】
4)固液分離工程
この固液分離工程における分離操作としては、先に述べた多段抽出の各段の間で行う分離操作と同様な方法が挙げられる。すなわち、具体的には、濾過機、遠心分離機、沈降分離装置、浮上分離装置あるいはそれらを組み合わせた工程により分離操作を実施できる。本工程は、連続式、及び/又は、回分式の操作にて実施することができる。
【0107】
5)乾燥工程
固液分離工程で得られた固体状の高分子量ポリコハク酸イミドについては、さらに乾燥操作を行っても構わない。乾燥工程では、固体状の高分子量ポリコハク酸イミドに含有される抽出溶媒、希釈溶媒、脱水用溶剤の少なくとも一部を分離することにより、それら溶媒を含有しない、又は、含有量の低減された固体状の高分子量ポリコハク酸イミドを製造することができる。
【0108】
乾燥操作は、真空系、常圧系、加圧系のうち少なくとも1つ以上の圧力条件下において実施することができる。
【0109】
具体的には、例えば、熱風移送型乾燥器、材料攪拌型乾燥器(流動層乾燥機等)、材料搬送及び静置型乾燥器、円筒乾燥器、赤外線乾燥器、マイクロ波乾燥器、過熱蒸気乾燥器からなる群より選択される少なくとも一つの装置を用いて、連続式又は回分式の乾燥操作を行うことができる。
【0110】
また、本発明の乾燥工程に用いられる装置及び方法としては、『改訂六版 化学工学便覧』(編者:社団法人 化学工学会、発行所:丸善株式会社、1999年)の『14 調湿・水冷却・乾燥』(735〜788頁)、『7 攪拌』(421〜454頁)、『6 伝熱・蒸発』(343〜420頁)に記載されている装置及び方法を包含する。
【0111】
乾燥操作は、ポリコハク酸イミドの着色や変性を防止するため、通常、系内の酸素濃度が低減された条件下、又は、酸素濃度が実質的に0%である条件下で実施することが好ましく、前記の不活性ガス中で実施することが好ましい。
【0112】
乾燥操作を行う際の、固体状の高分子量ポリコハク酸イミドの温度は、5〜300℃となるように操作を行なうことが好ましい。温度が5℃未満であると、固体状の高分子量ポリコハク酸イミドの乾燥に長時間を要する。一方、400℃を超えると、抽出溶媒を含有していることによって、固体状の高分子量ポリコハク酸イミドの一部が変性し、分子量が低下し、場合によっては着色し、ポリマーの品質低下を招く虞がある。この温度は、10〜200℃が好ましく、20〜150℃がより好ましく、30〜120℃が特に好ましい。
【0113】
乾燥操作を実施する時間は、特に限定されず、目的とする溶媒含量が得られる条件であればよい。乾燥操作を実施する時間は、好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下、特に好ましくは5時間以下、最も好ましくは2時間以下である。適度な乾燥時間とすることで、ポリコハク酸イミドに変性が生じることを防止でき、溶媒含量の低減された固体状の高分子量ポリコハク酸イミドを得ることができる。
【0114】
6)固体状の高分子量ポリコハク酸イミドの重量平均分子量
本発明では、前記の数式(2)で示される範囲の重量平均分子量Mw1を有する固体状の高分子量ポリコハク酸イミドを製造する。単離工程を経て得られる、固体状の高分子量ポリコハク酸イミドの重量平均分子量Mw1’は、液体状反応混合物の重量平均分子量から、大幅な低下が生じないように実施されることが好ましい。
【0115】
本発明では、ポリコハク酸イミドの重量平均分子量Mw1'が、好ましくは下記数式(7)、より好ましくは下記数式(8)、特に好ましくは数式(9)となるように操作を行なう。
【0116】
6.0×104 ≦ Mw1' ≦ 5.0×105 (7)
8.0×104 ≦ Mw1' ≦ 5.0×105 (8)
1.0×105 ≦ Mw1' ≦ 5.0×105 (9)。
【0117】
Mw1'の下限値と上限値について別々に述べると、Mw1'の下限値は、特に限定されるものではないが、望ましくは3.0×104以上、好ましくは4.0×104以上、より好ましくは6.0×104以上、特に好ましくは8.0×104以上、最も好ましくは1.0×105以上とすることで、品質、及び/又は、性能の良好な誘導体(例えば、吸水性ポリマー、ポリアスパラギン酸塩、等)を製造することができる。一方、Mw1'の上限値は、特に限定されるものではないが、望ましくは5.0×105以下、好ましくは4.0×105以下、より好ましくは3.0×105以下、特に好ましくは2.5×105以下、最も好ましくは2.0×105以下とすることで、長い反応時間を要することなく、ポリコハク酸イミドの製造を実施することができる。
【0118】
7)粒子サイズ
粒子サイズを把握する方法としては、例えば、標準ふるいを用いた方法がある。標準ふるいを、例えば、機械式振とう機とともに使用し、乾式又は湿式でふるい分けを行い、粒径分布の測定や最大粒子直径の規定を行なうことができる。
【0119】
微粉状反応混合物の粒子サイズを把握する他の方法としては、レーザー回折・散乱法による測定方法がある。この方法では、通常、微粉状反応混合物中に含有される成分に対しての貧溶媒中で、微粉状反応混合物を分散させ、レーザー回折・散乱法により粒径分布を測定することができる。具体的な装置としては、例えば、リーズ&ノースラップ社製・粒度分析測定装置(モデル;9320−X100)が挙げられる。この装置では、粒子体積Vi、粒子径diを用い、下記数式(10)で定義される、体積平均直径を測定することができる。
体積平均直径 = Σ(Vi×di) / Σ(Vi) (10)。
【0120】
また、粒子が球形であると仮定し、下記数式(11)で定義される、個数平均直径を測定することもできる。
個数平均直径 = ( Σ(Vi)/di2 )/( Σ(Vi)/di3 ) (11)。
【0121】
前記の方法に従って実施される単離工程では、液体状反応混合物から、最大粒子直径が、一般的には10mm以下、好ましくは3mm以下、より好ましくは1mm以下、特に好ましくは700μm以下、最も好ましくは400μm以下を有する粒子が得られる。
【0122】
[8]固相重合工程
固相重合工程では、例えば、単離工程で単離された前記所定範囲の酸性触媒濃度を有する固体状の高分子量ポリコハク酸イミドを、30〜350℃において固相重合を行って、超高分子量ポリコハク酸イミドを製造するものであれば、特に限定されない。本工程は、連続式、及び/又は、回分式の操作にて実施することができる。最終的に得られるポリコハク酸イミドが、下記数式(2)で示される重量平均分子量Mw2を有し、かつ、重量平均分子量Mw1と重量平均分子量Mw2の関係が下記数式(3)で示されるものである。
【0123】
3.0×104 ≦ Mw2 ≦ 1.0×106 (2)
Mw1 < Mw2 (3)。
【0124】
本発明では、前記固体状の高分子量ポリコハク酸イミドが抽出溶媒、希釈溶媒、脱水用溶剤等を含有した状態である場合には、前記の乾燥操作も兼ねて固相重合工程を実施しても構わない。
【0125】
本発明では、「前記所定範囲の重量平均分子量及び酸性触媒濃度に設定された固体状の高分子量ポリコハク酸イミド」(以下、固体状ポリマーとする)を固相重合することで、固相重合の間に、溶融による液状化、融着による塊状固化等を生じることなく、通常、外観上(例えば、粒子サイズ等)、固体状の高分子量ポリコハク酸イミドとほとんど変化のないまま、固体状の超高分子量ポリコハク酸イミドを製造することができる。
【0126】
1)固相重合工程の操作
固相重合工程では、固体状ポリマーを加熱し、固体状を維持したままで重合を行う。
【0127】
固相重合操作は、生成物の着色や変性を防止するため、通常、系内の酸素濃度が低減された条件下、又は、酸素濃度が実質的に0%である条件下で実施することが好ましく、前記の不活性ガス中で実施することが好ましい。
【0128】
固相重合操作は、反応系に、不活性ガスを連続的に供給して実施することが好ましい。不活性ガスは、固体状ポリマーと、向流式あるいは並流式で接触させて使用する。不活性ガスを加熱用媒体として用い、直接、反応物と接触させて加熱を行うこともできる。
【0129】
固相重合を行う温度は、一般的には30〜350℃、望ましくは120〜350℃、好ましくは140〜320℃、より好ましくは160〜300℃、特に好ましくは170〜280℃、最も好ましくは180〜260℃とする。温度が低すぎると、通常、得られるポリコハク酸イミドは十分に分子量が増加していない場合がある。逆に、温度が高すぎると、通常、ポリマーが着色、あるいは変性し、場合によっては分解する。
【0130】
固相重合は、前記不活性ガス中において実施することが好ましい。本発明において、圧力は、真空系、常圧系、加圧系の何れでも構わない。圧力は、好ましくは0.000001〜50MPa、より好ましくは0.00001〜10MPa、特に好ましくは0.0001〜5MPaとする。圧力が高すぎると、高耐圧の反応器が必要となる。一方、圧力が低すぎると、高真空に対応する装置の設計が困難になる。
【0131】
反応時間は、温度・圧力等の反応条件や、装置条件等によって変わるが、一般に、高温下ほど短い反応時間となる。反応時間は、好ましくは1秒〜40時間、より好ましくは1分〜10時間、特に好ましくは10分〜8時間、最も好ましくは30分〜5時間とする。反応時間が短すぎると、通常、ポリコハク酸イミドは十分に分子量が増加していない場合がある。逆に、反応時間が長すぎると、通常、ポリコハク酸イミドの着色や変性が経時的に顕著となる。
【0132】
1−1)真空系の固相重合操作
真空系で固相重合を行う場合、反応系の圧力は、実質的に固相重合反応が進行し、目的とする重量平均分子量を有するポリコハク酸イミドが得られれば、特に制限されない。
【0133】
真空系の固相重合では、反応系の圧力は、重合時間や、固相重合により到達する重量平均分子量(Mw)等を考慮して設定される。より具体的には、圧力は、前記の圧力範囲内において、0.1MPa未満の圧力が選択される。
【0134】
1−2)常圧系の固相重合操作
常圧系の固相重合操作とは、具体的には、前記の圧力範囲から選択される、0.1MPa近傍(より具体的には、0.01〜1.0MPa)の圧力下で実施する操作である。
【0135】
常圧系の固相重合操作は、不活性ガスを流通させて実施することが好ましい。不活性ガスの使用量は、単位時間、固体状ポリマーの質量当たりの流量[Nl/{(時間)・(g−固体状ポリマー)}]として、一般的には0.0001〜100、好ましくは0.001〜60、より好ましくは0.01〜40、特に好ましくは0.05〜30、最も好ましくは0.5〜20とする。ここで、[Nl]は、標準状態におけるガスの体積[l](リットル)とする。流量が小さすぎると、通常、得られるポリコハク酸イミドは十分に分子量が増加していない場合がある。逆に、流量が大きすぎると、通常、固体状ポリマーを取り扱う操作が困難になる。
【0136】
一方で、反応装置内での不活性ガスの線速[cm/sec]は、一般的には0.01〜1000、好ましくは0.05〜500、より好ましくは0.1〜100、特に好ましくは0.3〜60、最も好ましくは0.5〜30とする。線速が小さすぎると、通常、得られるポリコハク酸イミドは十分に分子量が増加していない場合がある。逆に、線速が大きすぎると、通常、固体状ポリマーを取り扱う操作が困難になる。
【0137】
1−3)加圧系の固相重合操作
加圧系で固相重合を行う場合、反応系の圧力は、実質的に固相重合反応が進行し、目的とする重量平均分子量を有するポリコハク酸イミドが得られれば、特に制限されない。加圧系の固相重合では、反応系の圧力は、重合に要する時間や、重縮合により生成した水を除去する効率等を考慮して決定する。より具体的には、前記の圧力範囲から選択される、0.1MPaより高い圧力とする。
【0138】
2)粒子サイズ
固相重合工程の実施前、及び/又は、固相重合工程の途中段階で、必要に応じ、固体状ポリマーに対して、粉砕、分級のうち少なくとも1つの機能を有する装置を用いて、微粉状反応混合物を製造し、固相重合を実施しても構わない。
【0139】
微粉状反応混合物の製造は、製造される超高分子量ポリコハク酸イミドの重量平均分子量の増大に寄与することがある。また、微粉状反応混合物の製造は、特に、常圧系、及び、加圧系の固相重合により製造される超高分子量ポリコハク酸イミドの重量平均分子量の増大に寄与することがある。
【0140】
本発明では、必要に応じ、前記の体積平均直径が、好ましくは1〜500μm、より好ましくは5〜300μm、特に好ましくは10〜200μm、最も好ましくは30〜100μmの範囲内である微粉状反応物を製造してもよい。また、もう一つの条件として、必要に応じ、前記の個数平均直径が、好ましくは0.01〜500μm、より好ましくは0.1〜200μm、特に好ましくは0.5〜100μm、最も好ましくは1〜50μmの範囲内である微粉状反応物を製造してもよい。体積平均直径及び/又は個数平均直径が、小さすぎる場合には、通常、微粉体を取り扱う操作が困難になる。逆に、体積平均直径及び/又は個数平均直径が、大きすぎる場合には、通常、固相重合工程後に得られるポリコハク酸イミドは十分に分子量が増加していない場合がある。
【0141】
本発明では、必要に応じ、前記範囲の体積平均直径及び/又は個数平均直径を有する微粉状反応混合物を製造するために、粉砕操作及び/又は分級操作を実施してもよい。粉砕は、乾式及び/又は湿式の粉砕装置を用いて、連続式あるいは回分式操作で行うことができる。分級は、乾式及び/又は湿式の分級装置を用いて、連続式あるいは回分式操作で行うことができる。また、粉砕機構と分級機構を併せ持った装置を用いてもよい。なお、微粉状反応物の体積平均直径及び/又は個数平均直径が、前記範囲より小さい場合には、自足造粒系及び/又は強制造粒系の造粒操作を行って、前記範囲内となるように調整しても構わない。
【0142】
3)反応装置
固相重合工程は、連続式又は回分式操作で実施することができる。固相重合工程は、固相重合を実施する反応条件(温度・圧力条件等)により、適切な反応装置を選択することができる。
【0143】
具体的には、例えば、熱風移送型乾燥器、材料攪拌型乾燥器(流動層乾燥機等)、材料搬送及び静置型乾燥器、円筒乾燥器、赤外線乾燥器、マイクロ波乾燥器、過熱蒸気乾燥器からなる群より選択される、少なくとも一つの装置を用いて、連続式又は回分式の乾燥操作を行うことができる。また、本発明の固相重合工程に用いられる装置及び方法としては、『改訂六版 化学工学便覧』(編者:社団法人 化学工学会、発行所:丸善株式会社、1999年)の『14 調湿・水冷却・乾燥』(735〜788頁)、『7 攪拌』(421〜454頁)、『6 伝熱・蒸発』(343〜420頁)に記載されている装置及び方法を包含する。
【0144】
固相重合工程は、流動層反応器、移動層反応器、固定層反応器、撹拌乾燥機型反応機等から選択される少なくとも一つの装置を用いて、連続式あるいは回分式操作で実施することもできる。また、固体状ポリマーを、直接、及び/又は、間接的に加熱用媒体と接触させて実施することができる。
【0145】
4)重量平均分子量
固相重合工程では、重量平均分子量(Mw2)が、前記数式(2)及び数式(3)で示される分子量を有するポリコハク酸イミドを製造する。固相重合工程の前記諸条件を適宜選択することで、高い重量平均分子量を有する超高分子量ポリコハク酸イミドが得られる。
【0146】
本発明では、固相重合後のポリコハク酸イミドの重量平均分子量Mw2が、好ましくは下記数式(12)、より好ましくは下記数式(13)、特に好ましくは下記数式(14)の範囲となるように操作を行なう。
【0147】
6.0×104 ≦ Mw2 ≦ 1.0×106 (12)
8.0×104 ≦ Mw2 ≦ 1.0×106 (13)
1.0×105 ≦ Mw2 ≦ 1.0×106 (14)。
【0148】
Mw2の下限値と上限値について別々に述べると、Mw2の下限値は、特に限定されるものではないが、一般的には4.0×104以上、好ましくは6.0×104以上、より好ましくは8.0×104以上、特に好ましくは1.0×105以上、最も好ましくは1.2×105以上とすることで、品質、及び/又は、性能の良好な誘導体(例えば、吸水性ポリマー、ポリアスパラギン酸塩等)を製造することができる。一方、Mw2の上限値は、特に限定されるものではないが、一般的には1.0×106以下、好ましくは7.0×105以下、より好ましくは5.0×105以下、特に好ましくは3.0×105以下、最も好ましくは2.5×105以下とすることで、固相重合工程に長い反応時間を要することなく、超高分子量ポリコハク酸イミドの製造を実施することができる。
【0149】
[9]後処理工程
1)固体状ポリコハク酸イミドの精製操作
単離工程後、又は、固相重合工程後、ポリコハク酸イミド中に含有される酸性触媒、及び/又は、溶媒類(脱水用溶剤、希釈溶媒、抽出溶媒等)は、ポリコハク酸イミドに対しての貧溶媒である前記抽出溶媒を用い、10〜300℃において、さらに洗浄操作を実施し、高純度のポリコハク酸イミドを製造してもよい。酸性触媒、及び/又は、溶媒類(脱水用溶剤、希釈溶媒、抽出溶媒等)を含有した洗浄液は、必要に応じ精製操作を行った後、又は、精製操作を経ることなく、スラリー製造工程での抽出溶媒として使用することもできる。
【0150】
また、各工程(液体状反応混合物製造工程、単離工程、固相重合工程)の後、ポリコハク酸イミド中に含有される酸性触媒及び/又は溶媒類(脱水用溶剤、希釈溶媒、抽出溶媒等)は、ポリコハク酸イミドに対しての良溶媒(例えば、前記の非プロトン性極性溶媒[ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド等]、等)に一旦溶解後、ポリコハク酸イミドに対しての貧溶媒(例えば、前記抽出溶媒[メタノール、イソプロパノール、アセトン、水等]、等)で再沈し、濾過を行い、さらに必要があれば貧溶媒でリンスを行って、洗浄、除去してもよい。
【0151】
また、単離工程後、ポリコハク酸イミドの分子中のイミド環の少なくとも一部を加水分解反応することで、ポリアスパラギン酸(塩)を製造することもできる。加水分解操作は、ポリコハク酸イミドから酸性触媒を除去後に行ってもよく、また、酸性触媒を含有したままの状態で行って、酸性触媒の中和も兼ねて実施してもよい。また、ポリコハク酸イミドに対し、架橋反応、及び、加水分解反応を含む操作を実施することで架橋ポリアスパラギン酸(塩)を製造することもできる。ここで「酸(塩)」とは、酸及び/又はその塩を意味する。
【0152】
ポリコハク酸イミド中に含有される酸性触媒量は、通常、元素分析、蛍光X線分析等の手段で評価することができる。精製操作は、ポリコハク酸イミド中に含有される酸性触媒濃度が、好ましくは、5質量%以下、より好ましくは、1質量%以下、さらに好ましくは、0.5質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以下、最も好ましくは、0.1質量%以下、まで低減されるように実施することが好ましい。具体的には、精製操作を繰り返し実施することにより、あるいは、洗浄操作に用いる溶媒量を増加させて精製操作を行っても構わない。
【0153】
2)酸性触媒、及び/又は、抽出溶媒の回収、リサイクル
単離工程や、前記のポリコハク酸イミドの精製操作からは、酸性触媒及び/又は溶媒類(脱水用溶剤、希釈溶媒、抽出溶媒等)を含有する溶液(抽出液や洗浄液)が回収される。本発明では、必要に応じ、酸性触媒を含有する溶液から、溶媒類を分離し、再度、酸性触媒、及び/又は、溶媒類をポリコハク酸イミドの製造に使用しても構わない。
【0154】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0155】
1)リン酸濃度
リン酸の質量濃度は、リン(P)元素の、元素分析値を基に、オルトリン酸として評価した。
【0156】
2)分子量
反応混合物(液体状反応混合物、固体状のポリコハク酸イミド)に酸性触媒が含有される場合には、25℃まで冷却した後、メタノール中で1時間攪拌し、その後濾過を行ってポリマーを回収し、さらにガラス製カラムに充填し、メタノール(30℃)を連続的に流通させ、酸性触媒を分離した。次いで、濾過により固体状のポリマーを回収し、真空乾燥を行った。ポリマー中のリン酸分が100ppm未満であることを確認後、秤量し、分子量測定用DMF(臭化リチウム0.01mol/リットル含有)に溶解し、GPC分析を行って分子量を評価した。
【0157】
3)粒子サイズ
固体状ポリコハク酸イミド、及び、固体状高分子量ポリマー混合物の体積平均直径は、リーズ&ノースラップ社製・粒度分析測定装置(モデル;9320−X100)を用いて測定した。
【0158】
4)生成物の分析
各実施例で得たポリマーは、1H−NMR、13C−NMRより、ポリコハク酸イミドであることを確認した。
【0159】
5)吸水量
実施例中の吸水量は、蒸留水及び生理食塩水を対象とし、ティーバッグ法にて測定した。具体的には、乾燥した吸水性ポリマー(粒子径100〜500μmの乾式分級品)0.02gを、不織布製のティーバッグ(80mm×50mm)に入れ、過剰の対応する溶液中(生理食塩水又は蒸留水)に浸して、吸水性ポリマーを40分膨潤させ、その後ティーバッグを引き上げて10秒間水切りを行い、さらに24枚重ねのティッシュペーパー上で10秒間水切りを行い、膨潤した樹脂を含むティーバッグの質量を測定した。その質量から、同様な操作をティーバッグのみで行った場合のブランク質量と乾燥時の吸水性樹脂の質量を減じた値を、さらに吸水性樹脂の質量で除した値、即ち、吸水性樹脂の単位質量当たり吸水質量(g/g−吸水性樹脂)を評価した。なお、生理食塩水としては、0.9質量%塩化ナトリウム水溶液を用いた。
【0160】
[実施例1:ポリコハク酸イミドの製造]
撹拌装置を備えたフラスコに、85質量%リン酸96.1g(リン酸0.834mol)、L−アスパラギン酸30.0g(0.225mol)を順次仕込み、窒素雰囲気の常圧下、100℃で30分間攪拌して混合操作を行い、透明な均一溶液を得た。一旦冷却後、脱水用溶剤としてのキシレン8.0gを仕込んだ。ここで、リン酸、アスパラギン酸の二成分系でのリン酸濃度は73.1質量%、〔リン酸/アスパラギン酸〕モル比は3.70である。
【0161】
次いで、圧力を500〜30mmHg(667〜40hPa)で調整しながら、170℃まで30分を要して昇温した。170℃まで昇温後、30mmHg(40hPa)下、4時間、攪拌下に加熱した。加熱の間、反応物は過度の発泡状態や、高度の粘性相等を生じることなく、溶液状で反応が進行した。また加熱の間、フラスコからの留出蒸気は冷却され、生じた液相のうちキシレン相のみが、脱水剤(モレキュラーシーブ)を充填したカラムを経て、連続的に再使用できた。
【0162】
4時間後、キシレンの再使用を停止し、系内に窒素を導入しつつ、キシレンを回収した。加熱終了後、やや粘性を有した透明な均一溶液として、液体状反応混合物を得た。この液体状反応混合物から、メタノールを用いて、含有される高分子量ポリコハク酸イミドの単離を行い、重量平均分子量11.0万を有するポリコハク酸イミド21.7gを得た(収率99%)。
【0163】
[実施例2:ポリコハク酸イミドの製造]
撹拌装置を備えたフラスコに、85質量%リン酸65.8g(リン酸0.571mol)、L−アスパラギン酸20.0g(0.150mol)を順次仕込み、窒素雰囲気の常圧下、100℃で30分間攪拌して混合操作を行い、透明な均一溶液を得た。一旦冷却後、脱水用溶剤としてのキシレン5.0gを仕込んだ。ここで、リン酸、アスパラギン酸の二成分系でのリン酸濃度は73.7質量%、〔リン酸/アスパラギン酸〕モル比は3.80である。
【0164】
次いで、圧力を500〜20mmHg(667〜27hPa)で調整しながら、120℃まで20分を要して昇温した。120℃まで昇温後、20mmHg(27hPa)下、25時間、攪拌下に加熱した。加熱の間、反応物は過度の発泡状態や、高度の粘性相等を生じることなく、溶液状で反応が進行した。また加熱の間、フラスコからの留出蒸気は冷却され、生じた液相のうちキシレン相のみが、脱水剤(モレキュラーシーブ)を充填したカラムを経て連続的に再使用できた。
【0165】
25時間後、キシレンの再使用を停止し、系内に窒素を導入しつつ、キシレンを回収した。加熱終了後、やや粘性を有する透明な均一溶液として、液体状反応混合物を得た。この液体状反応混合物をメタノール240gに滴下し、含有される高分子量ポリコハク酸イミドの単離を行った。単離した粉状のポリマーを乾燥し、重量平均分子量3.5万、リン酸濃度37.0質量%を有する高分子量ポリコハク酸イミド23.1gを得た。
【0166】
次いで、このポリコハク酸イミドのうち15.0gを攪拌乾燥器に仕込み、圧力10torr(13hPa)の窒素雰囲気下で230℃に加熱し、固相重合操作を実施した。3時間加熱後、回収されたポリマーは、仕込時と同様の粉状のままであった。メタノールを用いて、含有されるポリマーの単離を行い、重量平均分子量19.7万を有するポリコハク酸イミド9.4gを得た(収率99.4%)。
【0167】
[比較例1:ポリコハク酸イミドの製造]
撹拌装置を備えたフラスコに、50質量%リン酸40.5g(リン酸0.207mol)、L−アスパラギン酸50.0g(0.376mol)を順次仕込み、窒素雰囲気の常圧下、130℃で30分間攪拌して混合操作を行い、ペースト状の反応物を得た。ここで、リン酸、アスパラギン酸の二成分系でのリン酸濃度は28.8質量%、〔リン酸/アスパラギン酸〕モル比は0.55である。
【0168】
次いで、圧力を500〜100mmHg(667〜133hPa)で調整しながら、180℃まで20分を要して昇温した。180℃まで昇温後、反応物の発泡状態を圧力で調節しながら、100〜20mmHg(133〜27hPa)下、攪拌下に加熱したところ、反応物は固体状へと変化した。それ以上の攪拌はできなくなったため、反応を中止した。固体状となった反応物を粉砕することによって回収し、含有されるポリコハク酸イミドの単離を行い、重量平均分子量2.7万を有するポリコハク酸イミド36.1gを得た(収率99%)。
【0169】
[比較例2:ポリコハク酸イミドの製造]
撹拌装置を備えたフラスコに、85質量%リン酸65.8g(リン酸0.571mol)、L−アスパラギン酸20.0g(0.150mol)を順次仕込み、窒素雰囲気の常圧下、100℃で30分間攪拌して混合操作を行い、透明な均一溶液を得た。ここで、リン酸、アスパラギン酸の二成分系でのリン酸濃度は73.7質量%、〔リン酸/アスパラギン酸〕モル比は3.80である。
【0170】
次いで、圧力を500〜10mmHg(667〜13hPa)で調整しながら、120℃まで20分を要して昇温した。120℃まで昇温後、10mmHg(13hPa)下、30時間、攪拌下に加熱した。加熱の間、反応物は過度の発泡状態や高度の粘性相等を生じることなく、溶液状で反応が進行した。加熱終了後、透明な均一溶液として、液体状反応混合物を得た。この液体状反応混合物から、メタノールを用いて、含有されるポリコハク酸イミドの単離を行い、重量平均分子量1.8万を有するポリコハク酸イミド14.1gを得た(収率97%)。
【0171】
[実施例3:架橋ポリアスパラギン酸塩の製造]
撹拌装置を備えたフラスコに、DMF11.3gと、実施例1で得たポリコハク酸イミド(重量平均分子量11.0万)3.0g(0.031モル)とを装入し、均一なポリマー溶液を得た。窒素気流下に、架橋剤溶液2.2g[水酸化ナトリウム0.22g(0.0056モル)と蒸留水1.13gからなる混合溶液で、L−リジン1塩酸塩0.85g(0.0046モル)を中和した液]を、25℃下、30秒かけてポリマー溶液に導入した。架橋剤溶液添加から5分後に、反応マスは架橋物特有のゲル状になり、撹拌を停止した。この架橋物を25℃下で1日間静置した。
【0172】
次いで、蒸留水80gとメタノール100gからなる混合液を粉砕機に装入し、撹拌下に上記架橋物を裁断した。その後、25〜30℃下で水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度:25質量%)をpH10〜12に維持されるように添加し、架橋物を加水分解したところ、粘性のあるゲル状物となった。加水分解後、7%塩酸溶液で、pH7まで中和し、ゲル状物をメタノール中に導入し、固化させた。次いで、濾過を行って固体を回収し、乾燥して、架橋ポリアスパラギン酸塩4.6gを得た(収率99%)。
【0173】
この架橋ポリアスパラギン酸塩(吸水性ポリマー)の蒸留水に対する吸水量は650[g/g−ポリマー](40分後)、生理食塩水に対する吸水量は60[g/g−ポリマー](40分後)であった。
【0174】
[実施例4:架橋ポリアスパラギン酸塩の製造]
実施例2で得たポリコハク酸イミド(重量平均分子量19.7万)3.0g(0.031モル)を用い、架橋剤溶液に用いる水酸化ナトリウム量を0.21g(0.0053モル)としたこと以外は、実施例3と同様の操作を繰り返し、架橋ポリアスパラギン酸塩4.6gを得た(収率99%)。この架橋ポリアスパラギン酸塩(吸水性ポリマー)の蒸留水に対する吸水量は790[g/g−ポリマー](40分後)、生理食塩水に対する吸水量は70[g/g−ポリマー](40分後)であった。
【0175】
[比較例3:架橋ポリアスパラギン酸塩の製造]
比較例1で得たポリコハク酸イミド(重量平均分子量2.7万)3.0g(0.031モル)を用いたこと以外は、実施例3と同様の操作を繰り返した。しかし、架橋剤溶液添加から1日間を経過しても、反応マスは架橋物特有のゲル状にはならなかった。次いで、実施例3と同様に加水分解操作を行ったが、吸水性ポリマーは得られず、水溶性ポリマーが生成した。
【0176】
[実施例1〜4と比較例1〜3の考察]
比較例1では、脱水用溶剤を用いず、かつ少ないリン酸使用量下でのポリコハク酸イミドの製造を試みたが、途中で反応物の固化が生じ、反応操作の継続は困難だった。比較例2では、脱水用溶剤を用いずに製造を試みたが、高分子量のポリコハク酸イミドは得られなかった。比較例3では、比較例1で得た重量平均分子量2.7万を有するポリコハク酸イミドを用いて、架橋ポリアスパラギン酸塩(吸水性ポリマー)の製造を試みたが、分子量が小さいため吸水性ポリマーは得られなかった。
【0177】
対照的に、実施例1及び2では、高い分子量を有するポリコハク酸イミドを、効率良く、高収率で製造することができた。さらに、実施例3及び4では、実施例1及び2で得た高い分子量を有するポリコハク酸イミドを用いて、架橋ポリアスパラギン酸塩(吸水性ポリマー)の製造を試みた結果、良好な吸水性を有する吸水性ポリマーを、高収率で得ることができた。
【0178】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、高分子量ポリコハク酸イミドを効率良く製造できる方法を提供でき、さらに従来の技術による製造の過程で生じていた、極めて高度の粘性相の生成、過度の泡沫形成、及び、反応物の凝固塊生成等の問題を生じることなく、より簡便な装置により、高分子量ポリコハク酸イミドを、連続かつ大量に製造できる方法を提供できる。

Claims (10)

  1. アスパラギン酸と、酸性触媒と、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン及びフェノールからなる群より選択される一種以上の脱水用溶剤とを含んでなる、該アスパラギン酸の少なくとも一部が該酸性触媒に溶解した状態の混合物を、液相重合して、重量平均分子量Mw1のポリコハク酸イミドを得、
    該液相重合後、さらに30〜350℃で固相重合し、
    最終的に得られるポリコハク酸イミドが、下記数式(2)で示される重量平均分子量Mw2を有し、かつ、重量平均分子量Mw1と重量平均分子量Mw2の関係が下記数式(3)で示されるものであることを特徴とするポリコハク酸イミドの製造方法。
    3.0×10 4 ≦ Mw2 ≦ 1.0×10 6 (2)
    Mw1 < Mw2 (3)
  2. 酸性触媒の使用量が、アスパラギン酸1モル当たり、0.5〜100モルである請求項1記載のポリコハク酸イミドの製造方法。
  3. 液相重合により得られたポリコハク酸イミドが、下記数式(1)で示される重量平均分子量Mw1を有する請求項1又は2記載のポリコハク酸イミドの製造方法。
    3.0×104 ≦ Mw1 ≦ 5.0×105 (1)
  4. 混合物を80〜350℃に加熱することにより液相重合を行う請求項1〜の何れか一項記載のポリコハク酸イミドの製造方法。
  5. 酸性触媒が、リン酸素酸を含むものである請求項1〜の何れか一項記載のポリコハク酸イミドの製造方法。
  6. リン酸素酸が、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸及び五酸化リンからなる群より選択された少なくとも一種である請求項記載のポリコハク酸イミドの製造方法。
  7. 工程1(液体状反応混合物製造工程)として、液相重合によりポリコハク酸イミドを含有する液体状反応混合物を製造する工程と、工程2(単離工程)として、工程1(液体状反応混合物製造工程)で得たポリコハク酸イミドを含有する液体状反応混合物から、酸性触媒及び脱水用溶剤の少なくとも一部を分離し、固体状のポリコハク酸イミドを単離する工程とを含む請求項1〜6の何れか一項記載のポリコハク酸イミドの製造方法。
  8. 工程2(単離工程)が、抽出操作、希釈操作、蒸留操作、晶析操作、固液分離操作、乾燥操作、粉砕操作、造粒操作及び分級操作からなる群より選択される1種以上の操作を含んでなる工程である請求項記載のポリコハク酸イミドの製造方法。
  9. 請求項1〜8の何れか一項記載の製造方法により得られたポリコハク酸イミドの分子中のイミド環の少なくとも一部を加水分解反応することを特徴とするポリアスパラギン酸(塩)の製造方法。
  10. 請求項1〜8の何れか一項記載の製造方法により得られたポリコハク酸イミドに対し、架橋反応、及び、加水分解反応を含む操作を実施することを特徴とする架橋ポリアスパラギン酸(塩)の製造方法。
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