JP4672479B2 - インクジェット記録用水系インク - Google Patents

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Description

本発明は、インクジェット記録用水分散体及びこれを含有するインクジェット記録用水系インクに関する。
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて文字や画像を得る記録方式である。この方式によれば、使用する装置が低騒音で操作性がよいという利点を有するのみならず、カラー化が容易であり、かつ記録部材として普通紙を使用することができるという利点があるため、近年広く用いられている。
インクジェットプリンタに使用されるインクには、耐水性や耐候性の観点から、近年、着色剤として顔料又は疎水性染料を用いるインク(以下、「顔料系インク」という)が主に使用されている。
ポリマーを用いた顔料系インクを、サーマル方式のインクジェット印刷に用いる場合、ピエゾ方式の場合に比べ、より高いレベルの吐出安定性、保存安定性、及び熱安定性が必要とされる。
顔料系インクの保存安定性を向上させる手段としては、ポリマーによる顔料の分散性を高めることが有効と考えられる。そのため、ポリマーの構成成分としてマクロマーや長鎖アルキル基を有するグラフトポリマーが使用されている。
マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有する、スチレン単独重合マクロマー又はスチレンと他のモノマーとの共重合マクロマー、シリコーンマクロマー、アルキル(メタ)アクリレートマクロマー等が知られている。(例えば、特許文献1〜7参照)
しかしながら、従来の水系インクは、サーマル方式のインクジェット印刷に用いる場合、その熱安定性は十分に満足できるものではなかった。インクの熱安定性が低下すると、プリンターのノズルでの詰まりの原因となり、吐出安定性の低下の原因ともなる。
顔料系インクの熱安定性を向上させる手段としては、グラフトポリマーの分子量を高くしたり、該ポリマー中のマクロマーの共重合量を増加させる方法が考えられる。しかし、そうすると水分散体の粘度が増加し、ひいては水系インクの粘度が増加することになり、水系インクの吐出安定性が低下して、印字のかすれ等の問題が生ずる。
特開平6−100810号公報 特開2001−247796号公報 特開2002−338783号公報 特開2004−255870号公報 国際公開第00/39226号パンフレット 特表2002−526259号公報 特表2003−517063号公報
本発明は、インクジェット記録用水系インクに、優れた吐出安定性、保存安定性、熱安定性及び高い耐水性を付与しうる、インクジェット記録用水分散体、並びに該水分散体を含有してなるインクジェット記録用水系インクを提供することを課題とする。
本発明者らは、ポリマーの側鎖に芳香族環を含有し、主鎖と側鎖のLogP値が好ましい特定の範囲にある水不溶性グラフトポリマーを使用することで、従来の水不溶性ポリマーを用いた場合に比べて、吐出安定性、保存安定性及び熱安定性を向上させうることを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)着色剤を含有する水不溶性グラフトポリマー粒子の水分散体であって、該水不溶性グラフトポリマーが、ビニル系モノマーに由来する構成単位を有する主鎖(A)と、炭素数6〜30のアルキル(メタ)アクリレートと炭素数6〜30の芳香族環を有するビニルモノマーとを共重合したポリマーの片末端に、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有するマクロマー(aa)に由来する側鎖(B)とを有するものであり、該主鎖(A)と該側鎖(B)のLogP値が共に正であり、[(側鎖のLogP値)−(主鎖のLogP値)]の値が1.7〜12である、インクジェット記録用水分散体、
(2)着色剤を含有する水不溶性グラフトポリマー粒子の水分散体であって、該水不溶性グラフトポリマーが、塩生成基含有モノマー(b)に由来する構成単位と疎水性モノマー(c)に由来する構成単位とを有する主鎖(A-1)と、炭素数6〜30のアルキル(メタ)アクリレートと炭素数6〜30の芳香族環を有するビニルモノマーとを共重合したポリマーの片末端に、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有するマクロマー(aa)に由来する側鎖(B-1)とを有するものである、インクジェット記録用水分散体、及び
(3)前記(1)又は(2)に記載の水分散体を含有するインクジェット記録用水系インク、を提供する。
本発明のインクジェット記録用水分散体を用いることにより、吐出安定性、保存安定性、熱安定性に優れ、更に、高い耐水性を有するインクジェット記録用水系インクが得られる。
水不溶性グラフトポリマー
本発明で用いられる水不溶性グラフトポリマーにおける「グラフトポリマー」とは、ビニル系モノマーに由来する構成単位を有する主鎖(A)、好ましくはビニル系モノマーに由来する構成単位として、塩生成基含有モノマー(b)に由来する構成単位と疎水性モノマー(c)に由来する構成単位を有する主鎖(A-1)に対して、芳香族環を含有し片末端に重合性官能基を有するマクロマー(a)に由来する側鎖(B)、好ましくは炭素数6〜30のアルキル(メタ)アクリレートと炭素数6〜30の芳香族環を有するビニルモノマーとを共重合したポリマーの片末端に、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有するマクロマー(aa)に由来する側鎖(B-1)が、その重合性官能基により、共重合したポリマーを意味する。
本明細書で用いられる水不溶性グラフトポリマーの側鎖は、ビニル系モノマーに由来する構成単位から得られるものである。
本発明で用いられる「LogP値」とは、モノマーの1−オクタノール/水の分配係数の対数値を意味し、KowWin(Syracuse Research Corporation,USA)のSRC's LOGKOW / KOWWIN Programにより、フラグメントアプローチで計算された数値を用いる(The KowWin Program methodology is described in the following journal article: Meylan, W.M. and P.H. Howard. 1995. Atom/fragment contribution method for estimating octanol-water partition coefficients. J. Pharm. Sci. 84: 83-92.)。フラグメントアプローチは化合物の化学構造に基づいており、原子の数及び化学結合のタイプを考慮している。LogP値は、一般にポリマー等の化合物の親疎水性の相対的評価に用いられる数値である。
グラフトポリマーの主鎖及び側鎖のLogP値は、次のように計算される。
主鎖のLogP値の計算方法
1.主鎖のポリマー鎖を構成する各構成単位が由来する各モノマーのLogP値を前記SRC's LOGKOW / KOWWIN Programにより求める。なお、連鎖移動剤、開始剤由来のポリマー構成は除外する。
2.各モノマーのLogP値に、主鎖中のそのモノマー由来の構成単位のモル分率(M)を乗じて、各モノマーの(LogP×M)を求める。
3.上記2で得られた、各モノマーの(LogP×M)を全て合計することで、主鎖のLogP値を算出する。
側鎖のLogP値の計算方法
主鎖の計算方法1〜3と同じようにして、各側鎖のLogP値を算出する。
但し、側鎖が2種以上ある場合は、
1.各側鎖のLogP値に、全側鎖中のその側鎖のモル分率(M)を乗じて、(LogP×M)を求める。
2.各側鎖の(LogP×M)を全て合計することで側鎖のLogP値を算出する。
側鎖の計算には、ビニル系モノマーに由来する構成単位から得られるものに限り、芳香族環を含有し、片末端に重合性官能基を有するマクロマー(a)に由来する側鎖以外も含める。
なお、塩生成基含有モノマー(b)は、中和する前の該モノマーのLogP値に基づいて計算を行う。また、マクロマーの片末端にある重合性官能基(例えば、メタクリロイルオキシ基等)は、主鎖のLogP値の計算の対象外である。
例えば、メチルメタクリレート/メタクリル酸/スチレンマクロマーが60重量部/20重量部/20重量部の比で合成されたグラフトポリマーの場合、主鎖はメチルメタクリレート−メタクリル酸の共重合体であり、側鎖はスチレンマクロマーである。側鎖のLogP値は、スチレン(LogP=2.89)の単独重合体のため2.89であり、主鎖のLogP値は、メチルメタクリレート(LogP=1.28)(Mw:100)とメタクリル酸(LogP=0.99)(Mw:86)の各モノマーのLogP値に、各モル%を乗じた値の合計値であり、1.20[=1.28×60/100/(60/100+20/86)+0.99×20/86/(60/100+20/86)]となる。従って、このグラフトポリマーの[(側鎖のLogP値)−(主鎖のLogP値)]の値は、1.7となる。
側鎖が2種類以上ある例として、メチルメタクリレート/メタクリル酸/スチレンマクロマー/2−エチルヘキシルメタクリレートマクロマーが60重量部/20重量部/10重量部/10重量部の比で合成されたグラフトポリマーの場合、主鎖はメチルメタクリレート−メタクリル酸の共重合体であり、側鎖はスチレンマクロマー、2−エチルヘキシルメタクリレートマクロマーである。第1の側鎖はスチレン(LogP=2.89)の単独重合体、第2の側鎖が2−エチルヘキシルメタクリレート(LogP=4.64)の単独重合体となり、第1の側鎖の数平均分子量が2700、第2の側鎖の数平均分子量が1700の場合、側鎖のLogP値は、各側鎖のLogP値に、各モル%を乗じた値の合計値のため3.96[=2.89×10/2700/(10/2700+10/1700)+4.64×10/1700/(10/2700+10/1700)]となる。
主鎖のLogP値は、メチルメタクリレートとメタクリル酸の各モノマーのLogP値に、各モル%を乗じた値の合計値であり、1.20となる。従って、このグラフトポリマーの[(側鎖のLogP値)−(主鎖のLogP値)]の値は、2.8となる。
本発明で用いられるこの水不溶性グラフトポリマーは、着色剤に対し好適な吸着性を有する。
本発明で用いられる水不溶性グラフトポリマーの「水不溶性」とは、水100gに対する溶解量(25℃)が、水系インクの低粘度化の観点から10g以下が好ましく、5g以下が更に好ましく、1g以下であることが特に好ましい。塩生成基を有する場合は、当該塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で、100%中和させた後の水不溶性ビニルポリマーの溶解量である。
本発明のインクジェット記録用水分散体(以下、単に「水分散体」という)は、着色剤を含有する水不溶性グラフトポリマー粒子が水中に分散してなるものである。
ここで着色剤を含有する水不溶性グラフトポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも着色剤と水不溶性ポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、水不溶性グラフトポリマーに着色剤が内包された粒子形態、水不溶性グラフトポリマーに着色剤が均一に分散した粒子形態、水不溶性グラフトポリマーに着色剤の一部が包含されてはいるが、粒子表面に着色剤が露出された粒子形態等が挙げられる。
本発明で用いられる水不溶性グラフトポリマーの第一の態様は、ビニル系モノマーに由来する構成単位を有する主鎖(A)と、芳香族環を含有し、片末端に重合性官能基を有するマクロマー(a)に由来する側鎖(B)を有するものであり、主鎖(A)と側鎖(B)のLogP値が共に正であり、[(側鎖のLogP値)−(主鎖のLogP値)]の値が1.7〜12である。
側鎖に芳香族環を含有するということは、着色剤である顔料が芳香族環を有することが多く、それらの芳香族環同士の相互作用を強めることができると考えられ、その結果として、インクに対する吸着力が増し、保存安定性及び熱安定性をより向上する効果を発現する。
主鎖と側鎖のLogP値が共に正であるということは、ポリマー全体の疎水性を高めることになる。それゆえ、本発明の水分散体を用いて製造された水系インクは、保存安定性及び熱安定性が高いという効果を有する。
側鎖のLogP値が、主鎖のLogP値より大きいということは、表面が疎水性である顔料と側鎖がより高い親和性を有することになると考えられ、その結果として、顔料表面に対するポリマーの吸着力が向上し、熱安定性、保存安定性が向上するという効果を発現する。
[(側鎖のLogP値)−(主鎖のLogP値)]の値は1.7〜12であり、好ましくは1.9〜10であり、更に好ましくは2.0〜8である。[(側鎖のLogP値)−(主鎖のLogP値)]の値が前記範囲にあると、水不溶性グラフトポリマーが水系インク中で安定した分散剤としての効果をより一層発揮する。側鎖のLogP値は、側鎖(B)以外の側鎖を含めて、前述するように、計算によって求めることができる。
側鎖(B)のLogP値は、顔料系インクに対する親和性を高め、印字濃度、保存安定性、熱安定性を向上させるために、好ましくは3.5〜12であり、更に好ましくは4.0〜9である。
本発明に用いられる水不溶性グラフトポリマーの第二の態様として、着色剤を含有する水不溶性グラフトポリマー粒子の水分散体であって、該水不溶性グラフトポリマーが、塩生成基含有モノマー(b)に由来する構成単位と疎水性モノマー(c)に由来する構成単位とを有する主鎖(A-1)と、炭素数6〜30のアルキル(メタ)アクリレートと炭素数6〜30の芳香族環を有するビニルモノマーとを共重合したポリマーの片末端に、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有するマクロマー(aa)に由来する側鎖(B-1)とを有するものが挙げられる。
該水不溶性グラフトポリマーは、マクロマー(a)又はマクロマー(aa)、塩生成基含有モノマー(b)、及び疎水性モノマー(c)を含有するモノマー混合物(以下、「モノマー混合物」という)を共重合して得られるものが好ましい。
前記(a)又は(aa)、(b)及び(c)成分の含有量は、後記のとおり、(a)又は(aa)10〜50重量%、(b)5〜40重量%、及び(c)10〜50重量%とすることが好ましい。
以下、第一の態様と第二の態様に共通するモノマーについて記載する。
マクロマー(a)
マクロマー(a)は、顔料が充分にポリマー粒子に含有されるために用いられる。マクロマー(a)としては、炭素数6〜30のアルキル(メタ)アクリレート(a−1)と、炭素数が6〜30の芳香族環を有するビニルモノマー(a−2)を共重合したポリマーの片末端に、重合性官能基としてアクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有するマクロマー(aa)が好ましい。
(a−1)のアルキル(メタ)アクリレートは、エステル部分が炭素数6〜30、好ましくは炭素数8〜18の鎖状、分岐状又は環状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートである。アルキル(メタ)アクリレート(a−1)としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類、具体的には、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(a−1)アルキル(メタ)アクリレートの含有量は、顔料が充分にポリマー粒子に含有されるようにする観点から、マクロマー(a)中、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上である。
なお、本明細書において「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」とは、「イソ」又は「ターシャリー」で表される枝分かれ構造が存在している場合と存在しない場合(ノルマル)の両者を示すものである。また、「(メタ)アクリ」とは、「アクリ」又は「メタクリ」を意味する。
(a−2)の芳香族環を有するビニルモノマーは、炭素数6〜30、好ましくは炭素数6〜22の芳香環を有するビニルモノマーである。ビニルモノマー(a−2)としては、例えば、スチレン、α―メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、4−ビニルビフェニル、1,1−ジフェニルエチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−アクリロイロキシエチルフタル酸等が挙げられる。
これらのアルキル(メタ)アクリレート(a−1)及びビニルモノマー(a−2)は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
マクロマー(a)の特に好適な例としては、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレートから選ばれるアルキル(メタ)アクリレートと、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレートから選ばれる芳香族環を有するビニルモノマーを共重合したポリマーの片末端に、重合性官能基としてアクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有するマクロマーが挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレート(a−1)及び芳香族環を有するビニルモノマー(a−2)の重量比((a−1)/(a−2))は、印字濃度、保存安定性、熱安定性を向上させると共に、側鎖(B)のLogP値を3.5〜12とするために、好ましくは40/60〜95/5、更に好ましくは50/50〜95/5、特に好ましくは60/40〜90/10である。
マクロマー(a)の調製方法としては、例えば、特公昭43−11224号公報、同43−16147号公報、及び特開昭60−133007号公報に記載の方法を挙げることができる。
保存安定性を高めるために共重合比を高めつつ、粘度を低く抑えるという観点から、本発明に用いられるマクロマー(a)の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜8,000、更に好ましくは3,000〜6,000であり、数平均分子量は、好ましくは1,000〜5,000、更に好ましくは2,000〜4,000である。この範囲内であると、保存安定性に優れるとともに、水分散体の粘度を低く抑えることができる。
本発明に用いられるマクロマー(a)の重量平均分子量及び数平均分子量は、標準物質としてポリスチレンを用い、溶媒として50mmol/Lの酢酸を含有するテトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定したときの値である。
水不溶性グラフトポリマーの製造に使用されるモノマー混合物中のマクロマー(a)の含有量、即ち、本発明に用いられる水不溶性グラフトポリマー中のマクロマー(a)に由来する構成成分としての含有量は、顔料が充分にポリマーに含有されるようにする観点から、好ましくは10〜50重量%、より好ましくは12〜45重量%、特に好ましくは15〜40重量%である。
塩生成基含有モノマー(b)
塩生成基含有モノマー(b)は、ポリマー粒子の水分散体の保存安定性を高める観点から用いられ、例えば、カチオン性モノマー、アニオン性モノマー等が挙げられる。塩生成基としては、アミノ基、アンモニウム基等のカチオン性基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等のアニオン性基が挙げられる。塩生成基含有モノマーの例として、具体的には、特開平9−286939号公報第5頁第7欄第24行〜第8欄第29行に記載されているもの等が挙げられる。
カチオン性モノマーの代表例としては、不飽和第3級アミン含有モノマー、不飽和アンモニウム塩含有モノマー等が挙げられる。カチオン性モノマーの中では、N−(N’,N’−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミドが好ましい。
アニオン性モノマーの代表例としては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。アニオン性モノマーの中では、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等の不飽和カルボン酸モノマーが好ましい。
これらの塩生成基含有モノマー(b)は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
水不溶性グラフトポリマーの製造に使用されるモノマー混合物中の塩生成基含有モノマー(b)の含有量(未中和量としての含有量。以下、塩生成基含有モノマーについて未中和量として計算する。)、即ち、本発明に用いられる水不溶性グラフトポリマー中の塩生成基含有モノマー(b)に由来する構成成分としての含有量は、該ポリマー粒子の水分散体の保存安定性を高める観点から、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは8〜35重量%、更に好ましくは10〜30重量%である。
疎水性モノマー(c)
疎水性モノマー(c)は、ポリマー粒子の水分散体の保存安定性を高める観点から用いられ、アルキル(メタ)アクリレート、芳香環含有モノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、エステル部分が炭素数1〜30、好ましくは4〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
芳香環含有モノマーとしては、マクロマー(a)の項で記載した、炭素数が6〜30、好ましくは炭素数が6〜22の芳香環を有するビニルモノマーが挙げられる。
これらの疎水性モノマー(c)は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
水不溶性グラフトポリマーの製造に使用されるモノマー混合物中の疎水性モノマー(c)の含有量、即ち、本発明に用いられる水不溶性グラフトポリマー中の疎水性モノマー(c)に由来する構成成分としての含有量は、該ポリマー粒子の水分散体の保存安定性を高める観点から、好ましくは10〜50重量%、より好ましくは15〜48重量%、更に好ましくは20〜45重量%である。
本発明で用いられる水不溶性グラフトポリマーの主鎖の疎水性を高め、保存安定性及び熱安定性を向上させると共に、主鎖(A)のLogP値を正にするためには、塩生成基含有モノマー(b)と疎水性モノマー(c)の重量比((c)/(b))が、30/70〜80/20であることが好ましく、50/50〜75/25であることが更に好ましく、60/40〜75/25であることが特に好ましい。
本発明で用いられる水不溶性グラフトポリマーの側鎖が顔料と高い親和性を有し、分散剤としての効果を向上させると共に、[(側鎖のLogP値)−(主鎖のLogP値)]の値を1.7〜12にするためには、マクロマー(a)と塩生成基含有モノマー(b)と疎水性モノマー(c)との合計重量中、マクロマー(a)の含有量[[(a)/((a)+(b)+(c))]×100]が、好ましくは15〜70重量%、より好ましくは17〜60重量%、更に好ましくは20〜50重量%である。
その他のモノマー
なお、水不溶性グラフトポリマーの製造に使用されるモノマー混合物には、その他のモノマーがさらに含まれていてもよい。
必要により用いられるその他のモノマーとしては、ノニオン性モノマー(d)、(メタ)アクリルアミド系モノマーが挙げられる。
ノニオン性モノマー(d)としては、一般式(I)で表される化合物を用いるのがよい。
CH2=C(R1)C(O)O(Y1O)p−R2 (I)
(式中、Y1は、炭素数2〜3の分岐していてもよいアルキレン基であり、pは平均付加モル数で、1〜30の数を示し、R1は、水素原子又はメチル基であり、R2は、水素原子又は分岐していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基もしくはアラルキル基を表す。)
このとき、Y1、R1、R2のうち少なくとも一つが異なる組合せを、任意に選択して用いることができる。p個のY1は、同一でも異なっていてもよく、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基が好ましく、これらは、ブロック結合、ランダム結合のいずれであってもよい。pは平均付加モル数を意味し、2〜30が好ましい。R2は、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基(例えば、メチル基、2−エチルヘキシル基等)であることが好ましい。
一般式(I)で表される化合物の具体例としては、ポリエチレングリコール(1〜30:式(I)中のpの値を示す。以下、同じ)モノメタクリレート、ポリプロピレングリコール(1〜30)モノメタクリレート、ポリテトラメチレングリコール(1〜30)モノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコール(1〜30)モノメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(1〜30)モノメタクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。
水不溶性グラフトポリマーの製造に使用されるモノマー混合物中のノニオン性モノマー(d)の含有量、即ち、本発明に用いられる水不溶性グラフトポリマー中のノニオン性モノマー(d)に由来する構成成分としての含有量は、該ポリマー粒子の水分散体の保存安定性を高める観点から、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは7〜35重量%、更に好ましくは10〜30重量%である。
(メタ)アクリルアミド系モノマーとしては、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-t-オクチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
水不溶性グラフトポリマーの製造
本発明で用いられる水不溶性グラフトポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により、上記のモノマー混合物を重合させることによって製造することができる。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒としては、極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒として水混和性有機溶媒を用いる場合、水混和性有機溶媒と水とを混合して用いることもできる。
極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン又はこれらのうちの1種以上と水との混合溶媒が好ましい。
重合の際には、ラジカル重合開始剤を用いることができる。好ましいラジカル重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスブチレート、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物が挙げられる。また、ラジカル重合開始剤として、t−ブチルペルオキシオクトエート、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物を使用することもできる。
原料であるモノマー混合物に対するラジカル重合開始剤の量は、該モノマー混合物1モルに対し、好ましくは0.001〜5モル、より好ましくは0.01〜2モルである。
重合の際には、さらに重合連鎖移動剤を添加してもよい。重合連鎖移動剤の具体例としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、メルカプトエタノール等のメルカプタン類;チウラムジスルフィド類;炭化水素類;不飽和環状炭化水素化合物;不飽和ヘテロ環状化合物等が挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
モノマー混合物の重合条件は、使用するラジカル重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるので、一概に決定することはできない。通常、重合温度は30〜100℃、好ましくは50〜80℃であり、重合時間は1〜20時間である。また、重合雰囲気は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法によって、生成した水不溶性グラフトポリマーを単離することができる。また、得られた水不溶性グラフトポリマーは、再沈澱を繰り返したり、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
本発明で用いられる水不溶性グラフトポリマーの重量平均分子量は、水系インクの吐出性の向上、プリンタヘッドの焦げ付きの防止、及び水分散体の保存安定性の向上の観点から、好ましくは5,000〜300,000、より好ましくは5,000〜200,000、特に好ましくは10,000〜150,000である。
水不溶性グラフトポリマーの重量平均分子量は、標準物質としてポリスチレン、溶媒として、60mmol/Lのリン酸と50mmol/Lのリチウムブロマイドを溶解したジメチルホルムアミドを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定したときの値である。
着色剤
着色剤は、耐水性の観点から、顔料及び疎水性染料が好ましい。中でも、近年要求が強い高耐候性を発現させるためには、顔料であることが好ましい。顔料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。また、所望により、それらと体質顔料とを併用することもできる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。これらの中では、特に黒色水系インクでは、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アンソラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、C.I.ピグメント・グリーン等の各品番製品が挙げられる。
体質顔料としては、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
疎水性染料は、ポリマー粒子中に含有させることができるものであればよく、その種類には特に制限がない。疎水性染料としては、油溶性染料、分散染料等が挙げられ、これらの中では油溶性染料が好ましい。
油溶性染料としては、例えば、C.I.ソルベント・ブラック、C.I.ソルベント・イエロー、C.I.ソルベント・レッド、C.I.ソルベント・バイオレット、C.I.ソルベント・ブルー、C.I.ソルベント・グリーン、C.I.ソルベント・オレンジ等の各品番製品が挙げられ、オリエント化学株式会社、BASF社等から市販されている。
分散染料としては、例えば、C.I.ディスパーズ・イエロー、C.I.ディスパーズ・オレンジ、C.I.ディスパーズ・レッド、C.I.ディスパーズ・バイオレット、C.I.ディスパーズ・ブルー、C.I.ディスパーズ・グリーン等の各品番製品が挙げられる。これらの中では、イエローとしてC.I.ソルベント・イエロー29及び30、シアンとしてC.I.ソルベント・ブルー70、マゼンタとしてC.I.ソルベント・レッド18及び49、ブラックとしてC.I.ソルベント・ブラック3及び7、及びニグロシン系の黒色染料が好ましい。
上記の着色剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
本発明において用いられる着色剤の量は、水系インクの印字濃度の向上、及び水不溶性グラフトポリマー粒子中への着色剤の含有させやすさの観点から、ポリマーの樹脂固形分100重量部に対して、好ましくは20〜400重量部、より好ましくは50〜300重量部である。
本発明の水分散体及び水系インク中における着色剤の含有率は、印字濃度及び吐出安定性を高める点から、1〜20重量%が好ましく、2〜10重量%がさらに好ましい。
水分散体の製造方法
本発明の水分散体の製造方法に特に制限はない。例えば、水不溶性グラフトポリマーを有機溶媒に溶解し、得られた溶液に顔料を添加し、予備混練し、次いで中和剤及び水を添加して混練し、分散処理を施すことによって水中油型の分散体を調製し、得られた混練物から有機溶媒及び中和剤を除去することによって得ることができる。
混錬、分散処理を行う際には、例えば、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、高速撹拌型分散機等を用いることができる。これらの中では、無機不純物の混入量を少なくすることができる観点から、高圧ホモジナイザーが好ましい。
本発明の水分散体の製造において、水不溶性グラフトポリマーを溶解するのに使用される有機溶媒は、101kPaでの沸点が130℃未満である有機溶媒を意味し、具体的には、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒及びエーテル系溶媒が好ましい。
アルコール系溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、第3級ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。これらの溶媒の中では、イソプロパノール、アセトン及びメチルエチルケトンが好ましい。また、所望により、前記有機溶媒と高沸点親水性有機溶媒とを併用してもよい。
高沸点親水性有機溶媒とは、101kPaでの沸点が130℃以上のものを意味し、その例としては、フェノキシエタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
中和剤としては、水不溶性グラフトポリマー中の塩生成基の種類に応じて、酸又は塩基を使用することができる。中和剤としては、揮発性中和剤及び不揮発性中和剤が挙げられる。
揮発性中和剤としては、塩酸、酢酸、プロピオン酸等の酸、及びアンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等の塩基が挙げられる。
不揮発性中和剤としては、リン酸、硫酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グリセリン酸等の酸、及び水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基が挙げられる。
揮発性中和剤と不揮発性中和剤のモル比(揮発性中和剤:不揮発性中和剤)は、着色剤の分散性、及び水分散体の保存安定性の向上の観点から、好ましくは1:99〜50:50、より好ましくは10:90〜40:60である。
本発明で用いられる水不溶性グラフトポリマーの塩生成基の中和度は、10〜200%であることが好ましく、さらには20〜150%、特には50〜150%であることが好ましい。
ここで中和度は、塩生成基がアニオン性基である場合は、下記式によって求めることができる。
{[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーの酸価 (KOHmg/g)×ポリマーの重量(g)/(56×1000)]}×100
塩生成基がカチオン性基である場合は、下記式によって求めることができる。
{[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーのアミン価 (HCLmg/g)×ポリマーの重量(g)/(36.5×1000)]}×100
酸価やアミン価は、ポリマーの構成単位から、計算で算出することができる。又は、適当な溶剤(例えばメチルエチルケトン)にポリマーを溶解して、滴定する方法でも求めることができる。
得られる水分散体及び水系インクにおける、着色剤を含有する水不溶性グラフトポリマー粒子の平均粒径は、プリンターのノズルの目詰まり防止及び該ポリマー粒子の分散安定性の観点から、好ましくは0.01〜0.5μm、より好ましくは0.03〜0.3μm、特に好ましくは0.05〜0.2μmである。なお、平均粒径は、大塚電子株式会社のレーザー粒子解析システムELS−8000(キュムラント解析)で測定することができる。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力する。着色剤を含有する水不溶性グラフトポリマー粒子の測定濃度は、通常5×10-3重量%程度で行う。
また、本発明の水分散体及び水系インクにおける、水の含有量は、好ましくは30〜90重量%、より好ましくは40〜80重量%である。なお、水の種類には特に限定はなく、蒸留水、イオン交換水等の任意の水を用いることができる。
本発明の水分散体、及び水系インクにおける、水分散体の量は、良好な印字濃度、インクの吐出安定性、及び水分散体の保存安定性を確保する観点から、水系インク中の着色剤を含有する水不溶性グラフトポリマー粒子の含有量(固形分)が好ましくは1〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%となるように調整することが望ましい。
このようにして得られる本発明のインクジェット記録用水分散体は、そのまま水系インクとして用いてもよいが、インクジェット記録用水系インクに通常用いられる湿潤剤、分散剤、消泡剤、浸透剤、粘度調整剤、防黴剤、防錆剤、キレート剤等を添加、混合してもよい。
湿潤剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリセリンモノn−ブチルエーテル等の多価アルコール及びそのエーテル、アセテート類、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン等の含窒素化合物等が挙げられる。水系インク中における湿潤剤の量は、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは0.1〜30重量%である。
分散剤としては、界面活性剤等のアニオン系、ノニオン系、カチオン系、両性系の分散剤を用いることができる。水系インク中の分散剤の含有量としては、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは1〜20重量%である。
消泡剤としては、以下の式(II)で表される化合物が挙げられる。
Figure 0004672479
(式中、R3、R4、R5及びR6はそれぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよいフェニル基、R7及びR8はそれぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基又はエポキシ基、x及びyはそれぞれ独立して、0〜1000、好ましくは10〜100の整数を表す。)
この化合物は、水系インクを調製する際における泡の発生の抑制及び水系インクの表面張力の調整の観点から好ましい。
水系インクにおける消泡剤の含有量は、泡の発生の抑制及び水系インクの吐出安定性の向上の観点から、好ましくは0.001〜2.0重量%、より好ましくは0.005〜0.5重量%である。
その他、水系インクにおける防黴剤、キレート剤等は、公知の任意のものが使用される。
かくして本発明の水系インクが得られる。本発明の水系インクは、前記構成を有することから、吐出安定性、保存安定性、熱安定性及び耐水性に非常に優れている。
本発明の水系インクを適用するインクジェットの方式は限定されないが、特にサーマル方式に好適である。
以下の製造例、実施例及び比較例において、特記しない限り、数値は重量部を示し、%は重量%を示す。
製造例1
片末端に重合性官能基を有するラウリルメタクリレート/ベンジルメタクリレート共重合マクロマーの製造
共重合体の合成方法
反応容器内に、メチルエチルケトン25重量部、並びに表1の「初期仕込モノマー」欄に示すモノマー及び重合連鎖移動剤を所定量(重量部)入れて混合し、窒素ガス置換を充分に行い、混合溶液を得た。
一方、滴下ロート(a)に、表1の「滴下モノマー」欄に示すモノマー及び重合連鎖移動剤を所定量(重量部)仕込み、メチルエチルケトン100重量部及び4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)2重量部を入れて混合し、充分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
さらに、滴下ロート(b)にメチルエチルケトン125重量部、メルカプトプロピオン酸2重量部、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)2重量部を入れて混合し、充分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート(a)中の混合溶液を4時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から滴下ロート(b)中の混合溶液を2時間かけて徐々に滴下した。更に80℃で1時間熟成させ、ラウリルメタクリレート/ベンジルメタクリレート共重合体溶液を得た。
重合性官能基の導入反応
空気導入管を設けた反応容器内に、表1の「二重結合基導入反応溶液」欄に示す、上記ラウリルメタクリレート/ベンジルメタクリレート共重合体溶液、グリシジルメタクリレート、溶媒、触媒、重合禁止剤を所定量(重量部)入れて混合し、反応容器内に空気導入管より空気を導入して、攪拌しながら90℃まで昇温し、10時間反応させて、マクロマーA(重合性官能基:メタクリロイルオキシ基)を得た。
得られたマクロマー溶液の一部を取り、酸価を測定して重合性官能基の導入率を求めた。この重合性官能基の導入率は、所望の水不溶性グラフトポリマーを得るためには95%以上の導入率を達成していることが好ましい。
また、得られたマクロマー溶液の一部を、減圧下、105℃で2時間乾燥させ、溶媒を除去することによって単離し、標準物質としてポリスチレン、溶媒として50mmol/Lの酢酸を含有するテトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより分子量を測定した。また、側鎖のLogP値を前記の方法に従って計算した。なお、ベンジルメタクリレートのLogP値は2.98、ラウリルメタクリレートのLogP値は6.68である。それらの結果を表1に示す。
得られたマクロマーAは、表2の製造例4に示す水不溶性グラフトポリマーの製造に使用した。
製造例2
片末端に重合性官能基を有する2−エチルへキシルメタクリレート/ベンジルメタクリレート共重合マクロマーの製造
表1の「初期仕込モノマー」欄及び「滴下モノマー」欄に示す配合に従い、製造例1の方法に準じて、マクロマーB(重合性官能基:メタクリロイルオキシ基)を調製し、その物性を測定した。なお、2−エチルヘキシルメタクリレートのLogP値は4.64である。結果を表1に示す。
得られたマクロマーBは、表2の製造例5に示す水不溶性グラフトポリマーの製造に使用した。
製造例3
片末端に重合性官能基を有するステアリルメタクリレート/ベンジルメタクリレート共重合マクロマーの製造
表1の「初期仕込モノマー」欄及び「滴下モノマー」欄に示す配合に従い、製造例1の方法に準じて、マクロマーC(重合性官能基:メタクリロイルオキシ基)を調製し、その物性を測定した。なお、ステアリルメタクリレートのLogP値は9.62である。結果を表1に示す。
得られたマクロマーCを、表2の製造例6に示す水不溶性グラフトポリマーの製造に使用した。
比較製造例1
表1の「初期仕込モノマー」欄及び「滴下モノマー」欄に示す配合に従い、製造例1の方法に準じて、マクロマーD(重合性官能基:メタクリロイルオキシ基)を調製し、その物性を測定した。結果を表1に示す。
得られたマクロマーDを、表2の比較製造例3に示す水不溶性グラフトポリマーの製造に使用した。
比較製造例2
表1の「初期仕込モノマー」欄及び「滴下モノマー」欄に示す配合に従い、製造例1の方法に準じて、マクロマーE(重合性官能基:メタクリロイルオキシ基)を調製し、その物性を測定した。結果を表1に示す。
得られたマクロマーEを、表2の比較製造例4に示す水不溶性グラフトポリマーの製造に使用した。
Figure 0004672479
製造例4
水不溶性ビニルポリマーの製造
反応容器内に、メチルエチルケトン10重量部、並びに表2の「初期仕込モノマー」欄に示すモノマー及び重合連鎖移動剤を所定量(重量部)入れて混合し、窒素ガス置換を充分に行い、混合溶液を得た。
一方、滴下ロートに、表2の「滴下モノマー」欄に示すモノマー及び重合連鎖移動剤を所定量(重量部)仕込み、メチルエチルケトン70重量部及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)2.7重量部を入れて混合し、充分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら70℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から75℃で30分経過後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)3.6重量部をメチルエチルケトン110重量部に溶解した溶液を3時間かけて徐々に滴下した。更に80℃で1時間熟成させ、ポリマー溶液を得た。
得られたポリマー溶液の一部を、減圧下、105 ℃で2時間乾燥させ、溶媒を除去することによって単離し、標準物質としてポリスチレン、溶媒として、60mmol/Lのリン酸と50mmol/Lのリチウムブロマイドを溶解したジメチルホルムアミドを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、重量平均分子量を測定した。その結果を表2に併せて示す。
なお、スチレンのLogP値は2.89、メタクリル酸のLogP値は0.99、ポリオキシプロピレンモノメタクリレートのLogP値は2.67、2−エチルヘキシルメタクリレートのLogP値は4.64、2−エチルヘキシルアクリレートのLogP値は4.09である。
ノニオン性モノマーのLogP値の計算は、以下の方法を用いる。
例えば、表2に記載されるポリオキシプロピレンモノメタクリレート(末端はヒドロキシ基)の場合、メタクリロイルオキシ基を有しており、プロピレンオキサイドが12モル付加しており、末端が水素原子であることから、メタクリル酸を基本構造に、プロピレンオキサイドを12モル有していることになる。前記のKowWin(Syracuse Research Corporation,USA)のSRC's LOGKOW / KOWWIN Programにより、プロピレンオキサイドのLogP値は0.14であり、メタクリル酸のLogP値は0.99であることから、ポリオキシプロピレンモノメタクリレートのLogP値は、2.67(=0.99+0.14×12)と計算される。
同様に、表2に記載されるオクチルポリエチレングリコールポリプロピレングリコールメタクリレート(末端は2−エチルヘキシル基)は、2−エチルヘキシルメタクリレートを基本構造に、エチレンオキサイド8モル、プロピレンオキサイド6モル付加していることになる。SRC's LOGKOW / KOWWIN Programによれば、エチレンオキサイドのLogP値が−0.27、2−エチルヘキシルメタクリレートのLogP値が4.64であることから、オクチルポリエチレングリコールポリプロピレングリコールメタクリレートのLogP値は3.32(=4.64−0.27×8+0.14×6)と計算される。
製造例5、6、及び比較製造例3、4
表2の「初期仕込モノマー」欄及び「滴下モノマー」欄に示す配合に従い、製造例4の方法に準じて、ポリマー溶液を調製した。
Figure 0004672479
実施例1〜3及び比較例1、2
製造例4〜6及び比較製造例3、4でそれぞれ得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー8重量部を、メチルエチルケトン28重量部に溶かし、その中に中和剤(5N水酸化ナトリウム水溶液と25%アンモニア水溶液)を表3に示す所定量で加えて塩生成基を中和し、更にジメチルキナクリドン系顔料(C.I.ピグメント・レッド122 、大日精化工業株式会社)32重量部を加え、3本ロールで1時間混練した。
得られた混練物に、イオン交換水270重量部を加え、攪拌した後、減圧下60℃でメチルエチルケトン、アンモニアを除去し、更に一部の水を除去することにより、固形分濃度が20重量%の顔料含有水不溶性ポリマーの水分散体を得た。
得られた顔料含有水不溶性ポリマーの水分散体28重量部(固形分5.6重量部)、ジエチレングリコール16重量部、サーフィノール465(ノニオン性活性剤、日信化学工業株式会社製)1.6重量部、及びイオン交換水34.4重量部を混合し、得られた混合液を0.5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士写真フイルム株式会社)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社)で濾過し、粗大粒子を除去し、水系インクを得た。
次に得られた水系インクの物性を下記方法に基づいて評価した。その結果を表3に示す。
(1)保存安定性
東機産業株式会社、RE80L型粘度計(ローター1)を用い、20℃で100r/minのインク粘度(以下、「保存前の粘度」という)を測定した。また、インクを70℃の恒温槽に1ヶ月保存後、同様の方法にてインク粘度(以下、「保存後の粘度」という)を測定した。
保存安定性の指標として、保存安定度(%)を次式に従って求めた。値が小さい程、保存安定性に優れる。
〔保存安定度〕(%)=(〔保存後の粘度〕/〔保存前の粘度〕)×100
(2)吐出安定性
ヒューレット・パッカード社製のバブルジェット(登録商標)プリンター(型番:HP5551)(サーマル方式)を用いて、Xerox社製、4024(商品番号)の用紙に高画質モードで10枚ベタ印字し、印字後の印字品質を目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
◎:かすれなし
○:殆どかすれなし
△:少しかすれあり
×:かすれあり
(3)熱安定性
大塚電子株式会社、レーザー粒子解析システムELS−8000を用い、インクに含まれている着色剤を含有するポリマー粒子の平均粒径(以下、「保存前の粒径」という)を測定した。また、インクを90℃の恒温槽に2日間保存後、同様の方法にて平均粒径(以下、「保存後の粒径」という)を測定した。
熱安定性の指標として、熱安定性(%)を次式に従って求めた。値が小さい程、熱安定性に優れる。
熱安定性(%)=(〔保存後の粒径〕/〔保存前の粒径〕)×100
(4)耐水性
前記プリンターを用い、Xerox社製、4024(商品番号)の用紙にベタ印字し、25℃で1時間乾燥させた。乾燥後の特定の印字箇所の印字濃度を測定後、静水中に垂直に20秒間浸漬し、そのまま垂直に引き上げた。25℃で24時間自然乾燥させた後、浸漬前と同じ箇所の印字濃度を測定し、浸漬前の印字濃度に対する浸漬後の印字濃度の残存率を下式に従って求め、以下の評価基準に基づいて耐水性を評価した。なお、印字濃度はマクベス濃度計(マクベス社製、品番:RD914) で測定した。
残存率(%)=(〔浸漬後の印字濃度〕/〔浸漬前の印字濃度〕)×100
〔評価基準〕
◎:残存率95%以上
○:残存率80%以上95%未満
△:残存率60%以上80%未満
×:残存率60%未満
Figure 0004672479
表3の結果から、実施例1〜3で得られた水系インクは、比較例1、2のものに比べ、吐出安定性、保存安定性、熱安定性に優れ、更に、高い耐水性を有することがわかる。

Claims (9)

  1. 着色剤を含有する水不溶性グラフトポリマー粒子の水分散体であって、該水不溶性グラフトポリマーが、ビニル系モノマーに由来する構成単位を有する主鎖(A)と、炭素数6〜30のアルキル(メタ)アクリレートと炭素数6〜30の芳香族環を有するビニルモノマーとを共重合したポリマーの片末端に、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有するマクロマー(aa)に由来する側鎖(B)とを有するものであり、該主鎖(A)と該側鎖(B)のLogP値が共に正であり、[(側鎖のLogP値)−(主鎖のLogP値)]の値が1.7〜12である、インクジェット記録用水分散体。
  2. 側鎖(B)のLogP値が3.5〜12である、請求項1に記載のインクジェット記録用水分散体。
  3. 主鎖(A)のビニル系モノマーに由来する構成単位が、塩生成基含有モノマー(b)に由来する構成単位と疎水性モノマー(c)に由来する構成単位とを有するものである、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用水分散体。
  4. 着色剤を含有する水不溶性グラフトポリマー粒子の水分散体であって、該水不溶性グラフトポリマーが、塩生成基含有モノマー(b)に由来する構成単位と疎水性モノマー(c)に由来する構成単位とを有する主鎖(A-1)と、炭素数6〜30のアルキル(メタ)アクリレートと炭素数6〜30の芳香族環を有するビニルモノマーとを共重合したポリマーの片末端に、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有するマクロマー(aa)に由来する側鎖(B-1)とを有するものである、インクジェット記録用水分散体。
  5. 水不溶性グラフトポリマーがマクロマー(aa)を10〜50重量%、塩生成基含有モノマー(b)5〜40重量%、及び疎水性モノマー(c)10〜50重量%を含有するモノマー混合物を重合させてなる、請求項3又は4に記載のインクジェット記録用水分散体。
  6. 塩生成基含有モノマー(b)と疎水性モノマー(c)の重量比((c)/(b))が、30/70〜80/20である、請求項3〜5のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体。
  7. 不溶性グラフトポリマーの重量平均分子量が、5,000〜300,000である、請求項1〜のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体。
  8. 着色剤が顔料である、請求項1〜のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体。
  9. 請求項1〜のいずれかに記載の水分散体を含有する、インクジェット記録用水系インク。
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