以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施の形態に係るの変速機は、油圧により自動的に変速歯車列の切換え及びクラッチ操作を行う自動変速機であって、エンジンのクランク軸と変速機構の入力側とを断続する2つのクラッチを備え、一方のクラッチが接続されている間に、他方の切断されているクラッチに連結された動力伝達経路上で歯車列の切換えを行い、この状態で両クラッチの掛けかえを行うといった制御を行うようになっている。このように、切断されているクラッチの側で予め変速歯車列の切換えが行われているため、2つのクラッチの断接状態を切り換えるだけで変速を行うことが可能となる。
この変速機1は、図1に示すように、エンジンのクランク軸2側から順に、エンジンの回転変動を吸収するダンパ3と、クラッチ機構4と、変速機構5とを有する。そして、クラッチ機構4と変速機構5との間には油圧ポンプ6が備えられ、さらに変速機構5の反エンジン側(以下、「後方」という)にはパーキングギヤ7が配設されて、これらが変速機ケース8に収容されている。
上記クラッチ機構4は、いずれも入力側がダンパ3に接続された第1クラッチ4aと第2クラッチ4bとを有し、第1クラッチ4aは変速機構5における中空の第1入力軸11に接続されており、第2クラッチ4bは、第1入力軸11内に挿通された軸状の第2入力軸12に接続されている。
また、上記変速機構5は、上記第1、第2入力軸11,12と、これらの入力軸11,12と同一軸線上でその後方に配置された出力軸20と、これらの軸11,12,20と所定の軸間距離をもって平行に配置された軸状の第1カウンタ軸21と、該カウンタ軸21の外側に嵌挿された中空の第2カウンタ軸22とを有する。
そして、第1入力軸11と第1カウンタ軸21とを連結する第1動力中継ギヤ列31と、第2入力軸12と第2カウンタ軸22とを連結する第2動力中継ギヤ列32とを有すると共に、出力軸20と第2カウンタ軸22との間には、両軸20,22を選択的に連結する後退速ギヤ列47、3速ギヤ列43、1速ギヤ列41が前方から順に配置され、また、出力軸20と第1カウンタ軸21との間には、両軸20,21を選択的に連結する4速ギヤ列44、2速ギヤ列42、6速ギヤ列46がエンジン側(以下、「前方」という)から順に並べて配置されている。
また、第2入力軸12と出力軸20との間には、スリーブ51aを軸方向に移動させることにより、第2入力軸12と出力軸20とを直結した状態と、後退速ギヤ列47と出力軸20とを連結した状態とを切り換える5−R速用同期装置51が配置され、3速ギヤ列43と1速ギヤ列41との間には、スリーブ52aを移動させることにより、3速ギヤ列43と出力軸20とを連結した状態と、1速ギヤ列41と出力軸20とを連結した状態とを切り換える3−1速用同期装置52が配置され、4速ギヤ列44と2速ギヤ列42との間には、スリーブ53aを移動させることにより、4速ギヤ列44と出力軸20とを連結した状態と、2速ギヤ列42と出力軸20とを連結した状態とを切り換える4−2速用同期装置53が配置され、6速ギヤ列46の後方には、スリーブ54aを前方に移動させることにより、6速ギヤ列と出力軸20とを連結した状態に切り換える6速用同期装置54が配置されている。
このような構成において、クラッチ機構4の第1クラッチ4aが解放され、第2クラッチ4bが締結されているときは、クランク軸2から入力された駆動力は、ダンパ3、第2クラッチ4b、第2入力軸12、第2動力中継ギヤ列32を介して第2カウンタ軸22に伝達される。
そして、この状態において、3−1速用同期装置52のスリーブ52aが後方へ移動されて1速ギヤ列41と出力軸20とが連結されている場合は、第2カウンタ軸22から該1速ギヤ列41を介して出力軸20に駆動力が伝達されることになって1速が達成され、また、上記3−1速用同期装置52のスリーブ52aが前方へ移動されて3速ギヤ列43と出力軸20とが連結されている場合は、第2カウンタ軸22から該3速ギヤ列43を介して出力軸20に駆動力が伝達されることになって3速が達成される。さらに、5−R速用同期装置51のスリーブ51aが後方へ移動されて第2入力軸12と出力軸20とが直結されている場合は、第2入力軸12の駆動力が出力軸20に直接伝達されることになって5速が達成され、また、該5−R速用同期装置51のスリーブ51aが前方へ移動されて後退速用ギヤ列47と出力軸20とが連結されている場合は、第2カウンタ軸22から該後退速ギヤ列47を介して出力軸20に駆動力が伝達されることになって後退速が達成される。
一方、クラッチ機構4の第1クラッチ4aが締結され、第2クラッチ4bが解放されているときは、クランク軸2から入力された駆動力は、ダンパ3、第1クラッチ4a、第1入力軸11、第1動力中継ギヤ列31を介して第1カウンタ軸21に伝達される。
そして、この状態において、4−2速用同期装置53のスリーブ53aが後方へ移動されて2速ギヤ列42と出力軸20とが連結されている場合は、第1カウンタ軸21から該2速ギヤ列42を介して出力軸20に駆動力が伝達されることになって2速が達成され、また、該4−2速用同期装置53のスリーブ53aが前方へ移動されて4速ギヤ列44と出力軸20とが連結されている場合は、第1カウンタ軸21から該4速ギヤ列44を介して出力軸20に駆動力が伝達されることになって4速が達成される。さらに、6速用同期装置54によって6速ギヤ列46と出力軸20とが連結されている場合は、第1カウンタ軸21から該6速ギヤ列46を介して出力軸20に駆動力が伝達されることになって6速が達成される。
このように、第2クラッチ4b、第2入力軸12、第2カウンタ軸22を経由する動力伝達経路により1速、3速、5速、及び後退速が実現され、第1クラッチ4a、第1入力軸11、第1カウンタ軸21を経由する動力伝達経路により2速、4速、及び6速が実現される。従って、1速から6速又はその逆方向に順に変速するときは、予め歯車列を切り換えておくことにより、動力伝達経路の切換え、つまり第1、第2クラッチ4a,4bの掛けかえだけで変速が行われることになる。
一方、図2に示すように、クラッチ機構4と変速機構5の間には、変速機ケース8に取り付けられたポンプハウジング60と、該ポンプハウジング60の前方に複数のボルト62…62で締結されたポンプカバー61とが配置され、これらによって油圧ポンプ6が収容されるポンプ収容部が構成されている。そして、上記ポンプハウジング60及びポンプカバー61には、第1、第2入力軸11,12が貫通されていると共に、該ポンプハウジング60の前面におけるポンプカバー61の外周側にはコントロールバルブユニット63がボルト64で締結されている。
また、上記ポンプカバー61の前方に延びるスリーブ部61aには、第1、第2クラッチ4a,4bが支持されており、前述のように、第1クラッチ4aは、上記コントロールバルブユニット63から供給される油圧によりピストン70aが操作されて締結されることによりクランク軸2からの駆動力を第1入力軸11に伝達し、また、第2クラッチ4bは、上記コントロールバルブユニット63から供給される油圧によりピストン70bが操作されて締結されることによりクランク軸2からの駆動力を第2入力軸12に伝達するようになっている。
ところで、図2、3に示すように、上記ポンプハウジング60には、4つのサーボ機構100A〜100Dが備えられている。そして、図4に3−1速用同期装置52を例にとって示すように、3−1速用サーボ機構100Bにより軸方向に移動されるシフトロッド200にはシフトフォーク201が連結され、シフトフォーク201の爪部は3−1速用同期装置52のスリーブ52aに係合されている。
次に、上記サーボ機構100A〜100Dについて詳述する。なお、サーボ機構100A,100B,100Dは、同様の構成であるため、3−1速用サーボ機構100Bを例にとって説明する。
図5に示すように、ポンプハウジング60に収容された3−1速用サーボ機構100Bは、シフトロッド200に連結された第1ピストン101と、該第1ピストン101の後方において、該第1ピストン101とは独立して摺動可能にシフトロッド200上に配置された第2ピストン102と、第1ピストン101の前方に同じく第1ピストン101とは独立して摺動可能に配置された第3ピストン103とを有し、これらのピストン101〜103がシリンダ110内に収容されている。
上記第2ピストン102の前面には、端面が第1ピストン101の後端面に対向するボス部102aが突設され、また、上記第3ピストン103の後面には、端面が第1ピストン101の前端面に対向するボス部103aが突設されている。
そして、これらのピストン101〜103により、シリンダ110の内部には、第1ピストン101と第2ピストン102との間に形成される第1油圧室111と、第1ピストン101と第3ピストン103との間に形成される第2油圧室112と、第2ピストン102とシリンダ110の後端部とで形成される第3油圧室113と、第3ピストン103とシリンダ110の前端部との間に形成される第4油圧室114とが設けられている。
さらに、シリンダ110には、第1油圧室111に連通して油圧を供給するための第1油圧通路121、第2油圧室112に連通して油圧を供給するための第2油圧通路122、第3油圧室113に連通して油圧を供給するための第3油圧通路123、第4油圧室114に連通して油圧を供給するための第4油圧通路124が設けられている。各油圧通路121〜124は、ポンプハウジング60に設けられた図示しない油路を介してコントロールバルブユニット63に接続されている。
また、第2、第3ピストン102,103は、第1ピストン101より大径とされ、受圧面積が大きくなるように設定されている。つまり、第2ピストン102の第3油圧室113側の受圧面積S2は、第1ピストン101の第2油圧室112側の受圧面積S1よりも大きくなるように設定されていると共に、第3ピストン103の第4油圧室114側の受圧面積S3は、第1ピストン101の第1油圧室側の受圧面積S1′よりも大きくなるように設定されている。なお、第2ピストン102は、シフトロッド200が挿通されているのでその分受圧面積は小さくなるが、第2ピストン102はその分を差し引いても、受圧面積S2が第1ピストン101の第2油圧室102側の受圧面積S1よりも大きくなるように設定されている。
また、シリンダ110は、各ピストン101〜103の径に応じて、第1ピストン101が摺動する中央部分の内径が第2、第3ピストン102,103が摺動する両端部分の内径よりも小さくなるように設定されている。
以上のような3−1速用サーボ機構100Bの構成によって、図6(a)に示すように、第2油圧室112に油圧が供給されたときは、第1ピストン101ないしシフトロッド200が後方に移動し、シフトフォーク202を介して3−1速用同期装置52のスリーブ52aが後方に操作され、1速ギヤ列41により入、出力軸間が連結されることになる。
また、図6(b)に示すように、第1油圧室111に油圧が供給されたときは、第1ピストン101ないしシフトロッド200が前方に移動し、シフトフォーク202を介して3−1速用同期装置52のスリーブ52aが前方に操作され、3速ギヤ列43により入、出力軸間が連結されることになる。
一方、3−1速用サーボ機構100Bの第3、第4油圧室113,114に同時に油圧が供給されたときは、第2ピストン102は前方に移動し、第3ピストン103は後方に移動することになる。この結果、第1ピストン101は第2ピストン102又は第3ピストン103に押されて中立位置に移動される。
このとき、図7に示すように、何らかの異常により例えば第2油圧室112にも同様の油圧が供給されている場合は、第1ピストン101は後方に移動しようとするのに対して、第2ピストン102は前方に移動するので、第2ピストン102のボス部102aの端面が第1ピストン101の後端面に当接する。そして、前述のように、第2ピストン102の第3油圧室113側の受圧面積S2は第1ピストン101の第2油圧室112側の受圧面積S1よりも大きく設定されているので、第1ピストン101が後方へ移動しようとする力よりも第2ピストン102が前方へ移動する力が大きくなり、結果的に第1ピストン101を中立位置に保持し或いは中立位置に押し戻すことになる。
また、図示しないが、第1油圧室101に誤って油圧が供給されている場合も同様に、第1ピストン101は前方に移動しようとするのに対して、第3ピストン103は後方に移動するので、第3ピストン103のボス部103aの端面が第1ピストン101の前端面に当接する。そして、第3ピストン103の第4油圧室114側の受圧面積S3は第1ピストン101の第1油圧室111側の受圧面積S1′よりも大きく設定されているので、第1ピストン101が前方へ移動しようとする力よりも第3ピストン103が後方へ移動する力が大きくなり、結果的に第1ピストン101を中立位置に保持し或いは中立位置に押し戻すことになる。
なお、これらの動作は、何らかの異常で第1、第2油圧室111,112に供給された油圧が抜けない状態から第3、第4油圧室113,114に油圧が供給された場合、或いは既に第3、第4油圧室113,114に油圧が供給されているときに何らかの異常により第1又は第2油圧室112,113に油圧が供給された場合のいずれにおいても同様である。
ところで、6速用サーボ機構100Cは、3−1速用サーボ機構100Bの構成から第2ピストン102、第1油圧室111、第1油圧通路121を省いた構成とされている。
一方、この変速機1には、上記第1、第2クラッチ4a,4b及びサーボ機構100A〜100Dへの油圧の供給を制御する油圧制御回路300が備えられている。この油圧制御回路300は、図8に示すように、ライン圧制御部300aと、クラッチ制御部300bと、変速制御部300cとで構成されている。
これらのうち、ライン圧制御部300aは、図1、2に示すオイルポンプ6から吐出された作動油の圧力を所定の油圧を調圧してライン圧を生成するレギュレータバルブ301と、該バルブ301を制御するライン圧調圧用リニアソレノイドバルブ(以下、「ライン圧調圧用リニアSV」という)302とを有し、生成したライン圧をメインライン303に出力するようになっている。
また、クラッチ制御部300bは、上記メインライン303から分岐されて第1クラッチ4aに通じる第1クラッチライン304上に配置されて、該第1クラッチ4aに供給される油圧を制御する第1クラッチ制御バルブ305と、該第1クラッチ制御バルブ305の作動を制御する第1リニアソレノイドバルブ(以下、「第1リニアSV」という)306と、同じくメインライン303から分岐されて第2クラッチ4bに通じる第2クラッチライン307上に配置されて、該第2クラッチ4bに供給される油圧を制御する第2クラッチ制御バルブ308と、該第2クラッチ制御バルブ308の作動を制御する第2リニアソレノイドバルブ(以下、「第2リニアSV」という)309とを有する。
ここで、上記第1、第2クラッチライン304,307における第1、第2クラッチ制御バルブ305,308の下流側には、第1、第2アキュムレータ310,311が備えられている。
一方、変速制御部300cは、上記メインライン303から分岐されたライン312上に配置されて、手動操作によりメインライン303をフォワードライン313とリバースライン314とに選択的に連通させるマニュアルバルブ315と、該マニュアルバルブ315を介して各サーボ機構100A〜100Bの各油圧室に供給される油圧を制御する操作力制御バルブ316と、該操作力制御バルブ316の作動を制御する操作力制御用リニアソレノイドバルブ(以下、「操作力制御用リニアSV」という)317とを有する。
そして、リバースライン314側には、5−R速用サーボ機構100Aの第2油圧室112に対する油圧の給排を切り換える後退速用バルブ318が備えられていると共に、フォワードライン313側には、5−R速用サーボ機構100Aの第1油圧室111に対する油圧の給排を切り換える5速用バルブ319と、3−1速用サーボ機構100Bの第2油圧室112に対する油圧の給排を切り換える1速用バルブ320と、3−1速用サーボ機構100Bの第1油圧室111に対する油圧の給排を切り換える3速用バルブ321と、6速用サーボ機構100Cの第2油圧室112に対する油圧の給排を切り換える6速用バルブ322と、4−2速用サーボ機構100Dの第2油圧室112に対する油圧の給排を切り換える2速用バルブ323と、4−2速用サーボ機構100Dの第1油圧室111に対する油圧の給排を切り換える4速用バルブ324とが備えられている。
さらに、この変速制御部300cには、上記1速用バルブ320又は3速用バルブ321への油圧の供給を切り換える3−1速用切換バルブ325と、この3−1速用切換バルブ325の作動を制御する第1オンオフソレノイドバルブ(以下、「第1オンオフSV」という)326と、上記3−1速用切換バルブ325又は上記5速用バルブ319への油圧の供給を切り換える5−3−1速用切換バルブ327と、この5−3−1速用切換バルブ327の作動を制御する第2オンオフソレノイドバルブ(以下、「第2オンオフSV」という)328と、上記4速用バルブ323と2速用バルブ324への油圧の供給を切り換える4−2速用切換バルブ329と、この4−2速用切換バルブ329の作動を制御する第3オンオフソレノイドバルブ(以下、「第3オンオフSV」という)330と、上記4−2速用切換バルブ329又は上記6速用バルブ322への油圧の供給を切り換える6−4−2速用切換バルブ331と、この6−4−2速用切換バルブ331の作動を制御する第4オンオフソレノイドバルブ(以下、「第4オンオフSV」という)332とが備えられている。
なお、この油圧制御回路300には、ライン圧を上記各ソレノイドバルブ302,306,309,317,326,328,330,332に供給する油圧に調圧するソレノイド調圧バルブ333が備えられている。
そして、各ソレノイドバルブ302,306,309,317,326,328,330,332は、図示しないコントローラからの電気信号により制御され、対応するバルブの動作を制御するようになっている。
これらのソレノイドバルブのうち、クラッチ制御バルブ305,308用の第1、第2リニアSV306,309、及び変速用の第1〜第4オンオフSV326,328,330,332は、1〜6速及び後退速で、表1に示すようにON−OFF制御される。ここで、第1、第2リニアSV306,309は、第1、第2クラッチ4a,4bに供給する油圧の圧力を調整するものであるが、調圧値が0の場合(クラッチを締結しない場合)をOFFとし、0でない場合(クラッチを締結する場合)をONとして説明する。また、各オンオフSV326,328,330,332は、OFFのときに図示のポジションをとるものとする。
この表に従い、各変速段における油圧制御回路の状態を説明すると、1〜6速の前進変速段ではマニュアルバルブ315が前進側に操作されて、ライン圧がフォワードライン313に供給されている状態にある。
そして、まず1速では、第2リニアSV309がONとされて第2クラッチ4bが締結状態とされると共に、油圧はフォワードライン313を介して5−3−1速用切換バルブ327に供給される。第2オンオフSV328はOFFとされているので、5−3−1速用切換バルブ327からライン400を介して3−1速用切換バルブ325に油圧が供給されることになる。一方、第1オンオフSV326がONとされているので、3−1速用切換バルブ325から1速用バルブ320にライン401を介して油圧が供給される。このライン401は分岐し、一方のライン402の油圧が1速用バルブ320の移動制御用として供給され、これによって他方のライン403がドレン状態にあったライン404に連通し、3−1速用サーボ機構100Bの第2油圧室112に油圧が供給される。その結果、該サーボ機構100Bの第1ピストン101が図中右側へ移動し、1速が達成される。
2速では、第1リニアSV306がONとされて第1クラッチ4aが締結状態とされると共に、油圧はフォワードライン313を介して6−4−2速用切換バルブ331に供給される。第4オンオフSV332はONとされているので、6−4−2速用切換バルブ331からライン405を介して4−2速用切換バルブ329に油圧が供給されることになる。一方、第3オンオフSV330はONとされているので、4−2速用切換バルブ329から2速用バルブ323にライン406を介して油圧が供給される。このライン406は分岐し、一方のライン407の油圧が2速用バルブ323の移動制御用として供給され、これによって他方のライン408がドレン状態にあったライン409に連通し、4−2速用サーボ機構100Dの第2油圧室112に油圧が供給される。その結果、該サーボ機構100Dの第1ピストン101が図中右側へ移動し、2速が達成される。
3速では、第2リニアSV309がONとされて第2クラッチ4bが締結状態とされると共に、油圧はフォワードライン313を介して5−3−1速用切換バルブ327に供給される。第2オンオフSV328はOFFとされているので、5−3−1速用切換バルブ327からライン400を介して3−1速用切換バルブ325に油圧が供給されることになる。そして、第1オンオフSV326がONとされているので、3−1速用切換バルブ325からライン410を介して、3速用バルブ312に油圧が供給される。このライン410は分岐し、一方のライン411の油圧が3速用バルブ312の移動制御用として供給され、これによって他方のライン412がドレン状態にあったライン413に連通し、3−1速用サーボ機構100Bの第1油圧室111に油圧が供給される。その結果、該サーボ機構100Bの第1ピストン101が図中左側へ移動し、3速が達成される。
また、4速では、第1リニアSV306がONとされて第1クラッチ4aが締結状態とされると共に、油圧はフォワードライン313を介して6−4−2速用切換バルブ331に供給される。第4オンオフSV332はONとされているので、6−4−2速用切換バルブ331からライン405を介して4−2速用切換バルブ329に油圧が供給されることになる。一方、第3オンオフSV330がOFFとされているので、4−2速用切換バルブ329から4速用バルブ324にライン414を介して油圧が供給される。このライン414は分岐し、一方のライン415の油圧が4速用バルブ324の移動制御用として供給され、これによって他方のライン416がドレン状態にあったライン417に連通し、4−2速用サーボ機構100Dの第1油圧室111に油圧が供給される。その結果、該サーボ機構100Dの第1ピストン101が図中左側に移動し、4速が達成される。
また、5速では、第2リニアSV309がONとされて第2クラッチ4bが締結状態とされると共に、油圧はフォワードライン313を介して5−3−1速用切換バルブ327に供給される。第2オンオフSV328はONとされているので、5−3−1速用切換バルブ327からライン418を介して5速用バルブ319に油圧が供給されることになる。このライン418は分岐し、一方のライン419の油圧が5速用バルブ319の移動制御用として供給され、これによって他方のライン420がドレン状態にあったライン421に連通し、5−R速用サーボ機構100Aの第1油圧室111に油圧が供給される。その結果、該サーボ機構100Aの第1ピストン101が図中左側に移動し、5速が達成される。
一方、6速では、第1リニアSV306がONとされて第1クラッチ4aが締結状態とされると共に、油圧はフォワードライン313を介して6−4−2速用切換バルブ331に供給される。第4オンオフSV332はOFFとされているので、6−4−2速用切換バルブ331からライン422を介して6速用バルブ322に油圧が供給されることになる。このライン422は分岐し、一方のライン423の油圧が6速用バルブ322の移動制御用として供給され、これによって他方のライン424がドレン状態にあったライン425に連通し、6速用サーボ機構100Cの第2油圧室112に油圧が供給される。その結果、該サーボ機構100Cの第1ピストン101が図中右側へ移動し、6速が達成される。
そして、後退速では、第2リニアSV309がONとされて第2クラッチ4bが締結状態とされると共に、マニュアルバルブ315が後退側に操作され、操作力制御バルブ316から供給された油圧はリバースライン314を介して後退速用バルブ318に供給された状態にある。このライン314は分岐し、一方のライン426の油圧が後退速用バルブ318の移動制御用として供給され、これによって他方のライン427がドレン状態にあったライン428に連通し、5−R速用サーボ機構100Aの第2油圧室112に油圧が供給される。その結果、該サーボ機構100Aの第1ピストン101が図中右側へ移動し、後退速が達成される。
ところで、以上の構成に加えて、油圧制御回路300の変速制御部300cには各フェールセーフラインが設けられている。
すなわち、リバースライン314から分岐して第1シャトルボール切換バルブ500に接続された第1フェールセーフライン501、ライン418から分岐して上記第1シャトルボール切換バルブ500に接続された第2フェールセーフライン502、ライン401から分岐して第2シャトルボール切換バルブ503に接続された第3フェールセーフライン504、ライン410から分岐して第2シャトルボール切換バルブ503に接続された第4フェールセーフライン505、ライン406から分岐して第3シャトルボール切換バルブ506に接続された第5フェールセーフライン507、ライン414から分岐して第3シャトルボール切換バルブ506に接続された第6フェールセーフライン508が設けられている。
さらに、第1シャトルボール切換バルブ500から3−1速用サーボ機構100Bの第3、第4油圧室113,114に接続された第7フェールセーフライン509、第2シャトルボール切換バルブ503から5−R速用サーボ機構100Aの第3、第4油圧室113,114に接続された第8フェールセーフライン510、第3シャトルボール切換バルブ506から第6速用サーボ機構100Cの第3、第4油圧室113,114に接続された第9フェールセーフライン511がそれぞれ設けられており、また、ライン422から分岐して4−2速用サーボ機構100Dの第3、第4油圧室113,114に接続された第10フェールセーフライン512が設けられている。
そして、これらのフェールセールラインにより以下の作用が得られる。
まず、1速では、前述の1速段達成用の油圧に加えて、ライン401から第3フェールセーフライン504を介して、第2シャトルボール切換バルブ503に油圧が供給され、ここから第8フェールセーフライン510を介して5−R速用サーボ機構100Aの第3、第4油圧室113,114に油圧が供給される。その結果、5−R速用サーボ機構100Aの第2、第3ピストン102,103をそれぞれ対向方向に移動させ、第1ピストン101を中立位置に移動させる。これによって、第2クラッチ4bに接続される同一の動力伝達経路に配置されている1速ギヤ列41と5速直結又は後退速ギヤ列47とによる同時連結を回避するフェールセーフ機能を備えることができる。
さらに、1速用バルブ320は、ライン401からの油圧により移動した後、ライン403とライン404とが連通して、3−1速用サーボ機構100Bの第1油圧室111に供給するように構成したので、1速用バルブ320の移動の間、1速ギヤ列41による連結を遅らせ、上記フェールセーフ機能により5−Rサーボ機構100Aの第1ピストン101が確実に中立位置に移動した後に、1速ギヤ列41による連結を実現するので、確実に同時連結が回避される。
しかも、1速用バルブ320は、3速用バルブ321と同一のスプリングを対向方向から共有するので、1速に制御されるときには、ライン402からの油圧により1速用バルブ320が移動し、これに伴ってスプリングを介して隣接配置された3速用バルブ321をライン413の油圧がドレンされる側に移動させるので、何らかの異常によりライン401とライン410とに同時に油圧が供給されることがあっても、3−1速用サーボ機構100Bの第1油圧室111と第2油圧室112との両方に油圧が供給されることが回避される。なお、このようなバルブの構造により得られる作用は、以下に説明する2〜6速及び後退速においても同様である。
2速では、前述の2速段達成用の油圧に加えて、ライン406から第5フェールセーフライン507を介して第3シャトルボール切換バルブ506に油圧が供給され、ここから第9フェールセーフライン511を介して6速用サーボ機構100Cの第3、第4油圧室113,114に油圧が供給される。その結果、6速用サーボ機構100Cの第3ピストン103を第1ピストン101側に移動させ、第1ピストン101を中立位置に移動させる。これによって、第1クラッチ4aに接続される同一の動力伝達経路に配置されている2速ギヤ列42と6速ギヤ列46とによる同時連結が回避される。
3速では、前述の3速段達成用の油圧に加えて、ライン410から第4フェールセーフライン505を介して第2シャトルボール切換バルブ503に油圧が供給され、ここから第8フェールセーフライン510を介して、5−R速用サーボ機構100Aの第3、第4油圧室113,114に油圧が供給される。その結果、5−R速用サーボ機構100Aの第2、第3ピストン102,103をそれぞれ対向方向に移動させ、第1ピストン101を中立位置に移動させる。これによって、第2クラッチ4bに接続される同一の動力伝達経路に配置されている3速ギヤ列43と5速直結又は後退速ギヤ列47とによる同時連結が回避される。
4速では、前述の4速段達成用の油圧に加えて、ライン414から第6フェールセーフライン508を介して第3シャトルボール切換バルブ506に油圧が供給され、ここから第9フェールセーフライン511を介して6速用サーボ機構100Cの第3、第4油圧室113,114に油圧が供給される。その結果、6速用サーボ機構100Cにおいて第1ピストン101を中立位置に移動させる。これによって、第1クラッチ4aに接続される同一の動力伝達経路に配置されている4速ギヤ列44と6速ギヤ列46とによる同時連結が回避される。
5速では、前述の5速段達成用の油圧に加えて、ライン418から第2フェールセーフライン502を介して第1シャトルボール切換バルブ503に油圧が供給され、ここから第7フェールセーフライン509を介して3−1速用サーボ機構100Bの第3、第4油圧室113,114に油圧が供給される。その結果、3−1速用サーボ機構100Bの第2、第3ピストン102,103をそれぞれ対向方向に移動させ、第1ピストン101を中立位置に移動させる。これによって、第2クラッチ4bに接続される同一の動力伝達経路で実現する直結状態と3速ギヤ列43又は1速ギヤ列41とによる同時連結が回避される。
6速では、前述の6速段達成用の油圧に加えて、ライン422から第10フェールセーフライン512を介して4−2速用サーボ機構100Dの第3、第4油圧室113,114に油圧が供給される。その結果、4−2速用サーボ機構100Dの第2、第3ピストン102,103をそれぞれ対向方向に移動させ、第1ピストン101を中立位置に移動させる。これによって、第1クラッチ101による同一の動力伝達経路に配置されている6速ギヤ列46と4速ギヤ列44又は2速ギヤ列42との同時連結が回避される。
後退速では、前述の後退速段達成用の油圧に加えて、リバースライン314から第1フェールセーフライン501を介して第1シャトルボール切換バルブ500に油圧が供給され、ここから第7フェールセーフライン509を介して3−1速用サーボ機構100Bの第3、第4油圧室113,114に油圧が供給される。その結果、3−1速用サーボ機構100Bの第2、第3ピストン102,103をそれぞれ対向方向に移動させ、第1ピストン101を中立位置に移動させる。これによって、第2クラッチ4bによる同一の動力伝達経路に配置されている後退速ギヤ列47と3速ギヤ列43又は1速ギヤ列41とによる同時連結が回避される。
なお、本実施の形態に係るツインクラッチ式の変速機1では、第1クラッチ4aに接続される動力伝達経路における2速、4速、及び6速ギヤ列42,44,46のいずれかと、第2クラッチ4bに接続される動力伝達経路における1速、3速、5速、及び後退速ギヤ列41,43,45のいずれかとは、同時連結が生じても故障の原因とはならず、上記回路構成のように、同一動力伝達経路に設けられたギヤ列に対するフェールセーフ機能を持たせれば足りることになる。
以上のように、現在の変速段において所定の一対の歯車列の一方が動力伝達状態とされているときは、該変速段に係るサーボ機構の第1又は第2油圧室111,112に油圧が供給され、シフトロッド200を介してシフトフォーク201ないし同期機構が当該歯車列を動力伝達状態とする方向に操作された状態にある。この状態から上記所定の一対の歯車列以外の特定の歯車列の動力伝達状態に切り換える変速の際に、新たな変速段に係るサーボ機構に供給する油圧が現在の変速段に係るサーボ機構の第3、第4油圧室113,114に供給されることになる。その結果、第1ピストン101は第2又は第3ピストン102,103による押圧力を受け、中立位置に戻されることになる。
一方、変速の際に、何らかの異常により現在の変速段に係るサーボ機構の第1又は第2油圧室101,102から油圧が排出されなかった場合、或いは他のサーボ機構に係る変速段の実現中にこのサーボ機構の第1又は第2油圧室111,112に油圧が供給された場合、当該サーボ機構においては、第1又は第2油圧室111,112と、第3、第4油圧室113,114とに油圧が供給された状態となる。このとき、サーボ機構の第2、第3ピストン102,103が第1ピストン101より大径とされているので、第1ピストン101は、両側の第2、第3ピストン102,103から大きな押圧力が作用し、該第1ピストン101は中立位置に押し戻され、或いは中立位置に保持されることになる。その結果、所定の一対の歯車列は、いずれも動力非伝達状態となり、所定の一対の歯車列の一方と特定の歯車列とによる同時連結が回避される。このように、本発明によれば、制御内容を複雑化することなく、サーボ機構及び油路の構成の一部変更によりフェールセーフ機能を備えることができる。
一方、エンジンのクランク軸2と変速機構5の入力軸との間を断続する単一のクラッチが備えられ、かつ所定の一対の歯車列及び特定の歯車列が、上記クラッチの出力側から変速機の出力軸に至る動力伝達経路上に設けられた変速機の構造において、前述のフェールセーフ機能により、上記歯車列による同時連結が回避される。
また、エンジンのクランク軸2と変速機構5の第1、第2入力軸11,12との間を断続する第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bが備えられたいわゆるツインクラッチ式の変速機1において、所定の一対の歯車列及び特定の歯車列が、第1クラッチ4a又は第2クラッチ4bの少なくとも一方のクラッチの出力側から変速機構5の出力軸20に至る同一の動力伝達経路上に設けられている場合に、前述のフェールセール機能により、上記歯車列による同時連結が回避される。
そして、ツインクラッチ式の変速機において、第1クラッチ4aの出力側から変速機構5の出力軸20に至る動力伝達経路と第2クラッチ4bの出力側から変速機構5の出力軸20に至る動力伝達経路とには、偶数変速段用の歯車列42,44,46と奇数変速段用の歯車列41,43又は5速直結とがそれぞれ集約されて配置された構成とされている場合に、前述のフェールセーフ機能により、上記歯車列による同時連結が回避される。