JP4662320B2 - 変異型ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼb型サブユニットタンパク質 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、変異型ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質に関する。
【0002】
【従来の技術】
乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)は、NAD+を水素受容体として乳酸を脱水素してピルビン酸を生じる酵素であって、解糖系でピルビン酸から乳酸を生成することに働く酵素として、動物諸組織、微生物に広く存在する。
【0003】
特に動物のLDHにはA型(M型または骨格筋型)、B型(H型または心筋型)といった2種類のサブユニットが存在することが知られ、その酵素学的な性質もLDHアイソザイム間で異なっている。サブユニットは同種同士または異種間で四量体を形成し、陽極側への電気移動度の高いものからLDH1(B4)、LDH2(A1B3)、LDH3(A2B2)、LDH4(A3B1)、LDH5(A4)と呼ばれるアイソザイムが存在する。体内における各アイソザイムの分布は偏っており、心筋、赤血球および腎にはLDH−B4が、骨格筋および肝にはLDH−A4が多く含まれている。また、前立腺、結腸、甲状腺、肺の各組織にはLDH−A2B2が多い。さらに近年、新たにC型およびD型サブユニットの存在も確認されており、精巣および精子中からLDH−X(C4)が、絨毛癌(choriocarcinoma)とその転移巣からLDH−Z(D4)が見い出されている。
【0004】
LDHは特に臨床検査薬の分野において、1)生成ピルビン酸のUV測定法における共役酵素として、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)等の種々のアミノトランスフェラーゼの酵素活性を測定する場合や、2)尿素等の種々の基質をピルビン酸に変換し、生成ピルビン酸のUV測定法における共役酵素として、また、3)検体中の内因性ピルビン酸の消去にも利用されている。特に、1)のアミノトランスフェラーゼは肝臓、心臓、腎臓などに強い活性を示す酵素であり、各種疾患時に血清中に著しく増大するため、LDHを使用した生体試料(血清、血漿などの体液)中のアミノトランスフェラーゼ活性の測定は、臨床検査の一項目として広く行われている。
【0005】
臨床検査用試薬として使用するには、簡便性の観点から粉末状態のものよりも液体状態で安定なものが好ましい。アミノトランスフェラーゼ活性測定のための臨床検査用試薬としては大量に入手できるという観点から一般にブタ由来のLDH−B4が使用されてきたが、これは液体状態では長期間に渡って安定した状態で保存することが困難であるという欠点があった。
【0006】
近年、鳥類由来のLDH−B4が補酵素(NADH)の溶液安定性を考慮したpH領域、例えばpH約9−10の範囲においても、著しい耐熱溶液安定性を示すことがわかった。鳥類由来のLDH−B4の酵素的性質は、従来のブタLDH−B4とほとんどかわらず、トランスアミナーゼ(アミノトランスフェラーゼ)活性測定試薬として本酵素を使用した場合も、測定感度において特に問題はない。従って、鳥類由来のLDH−B4は、溶液安定性および酵素的性質からして、臨床検査用酵素として充分有用性があると期待される(「トランスアミナーゼ測定試薬」特開平8−289)および「液状ALT測定試薬に好適な耐熱型乳酸脱水素酵素」 臨床化学 第23巻補冊2号 1994年 141b)。
【0007】
しかしながら、天然のLDH−B4タンパク質を鳥類から調製する場合極少量しか得られないため、臨床検査用酵素として例えば、ニワトリ臓器より取得し実用化を図ることは数量面で困難である。また、天然源から調製されたLDH−B4タンパク質の場合、精製を充分に行っても混在するNADH分解酵素を完全に除けないことが知られている。これは、LDHの酵素反応はNADHを補酵素として利用するため問題となる。従って、鳥類由来のLDH−B遺伝子をクローニングし、遺伝子工学的手法によりLDH−B4タンパク質を大量かつ簡便に発現させることが重要である。
【0008】
この点、内田らの特開平9−262089号は、ニワトリ心臓由来乳酸デヒドロゲナーゼBサブユニットの遺伝子をクローニングし、ニワトリLDH−B4組換えタンパク質の発現に成功したことを開示している。得られた組換えニワトリLDH−B4タンパク質の熱安定性について、特開平9−262089号は天然のニワトリLDH−B4と同等であると記載している。
【0009】
しかしながら、本発明者らがより詳細に熱安定性を検討した結果、特開平9−262089号の組換えLDH−B4タンパク質はタンパク質濃度に依存して熱安定性が大きく変化することが見出された。具体的には、トランスアミナーゼ活性を測定するための構成成分として使用されるLDH量は通常1−10U/mL程度の範囲である。よって、組換えLDH−B4比活性(136U/mgタンパク質)より、熱安定性および溶液安定性はLDHタンパク質濃度として0.007−0.07mg/mLの範囲で測定すべきであると換算される。ところが、後述の参考例1に記載したように、特開平9−262089号の組換えLDH−B4タンパク質は、このような低濃度では熱に不安定であることがわかった。よって、当該組換えLDH−B4タンパク質は、熱安定性および溶液安定性を有するトランスアミナーゼ活性測定試薬を提供するには未だ充分でない可能性がある。
【0010】
よって、簡便で大量に遺伝子工学的手法によって得ることができ、かつ充分な熱安定性および溶液安定性を保持する乳酸デヒドロゲナーゼタンパク質の提供が希求される。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、耐熱性および溶液安定性を示し、NADH分解酵素を含まない、変異型のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質を提供することを目的とする。本発明のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列のアミノ酸番号10に相当する位置のアミノ酸残基がアラニンであり、そして、アミノ酸番号207に相当する位置のアミノ酸残基がアラニンであることを特徴とする。本発明のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質は、好ましくは配列番号1のアミノ酸配列を有する。
【0012】
本発明はまた、前記変異型のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質をコードする核酸を提供することを目的とする。本発明の核酸は、好ましくは配列番号2に記載の塩基配列を有する。
【0013】
本発明はさらに、前記変異型のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質を発現するためのベクター、前記ベクターを含む宿主細胞を提供することを目的とする。
【0014】
本発明はさらにまた、前記宿主細胞を培養して、ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質を製造する方法を提供することを目的とする。
本発明はさらに、前記変異型のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質を構成成分とするニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型タンパク質を含む、トランスアミナーゼ測定用試薬を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題解決のため鋭意研究を重ねた結果、特開平9−262089号の組換えLD−B4タンパク質に変異を導入し、その生化学的活性の熱安定性および溶液安定性(pH安定性)、ならびにNADH分解活性を検討することにより、低濃度でも熱安定性および溶液安定性(pH安定性)を保持する変異型のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットを見出し、本発明を想到した。
【0016】
以下、本発明を詳述する。
変異型ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質
本発明の変異型ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列のアミノ酸番号10に相当する位置のアミノ酸残基がアラニンであり、そして、アミノ酸番号207に相当する位置のアミノ酸残基がアラニンであることを特徴とする。そして、生学的的な特徴としては、補酵素NADHの存在下でピルビン酸を乳酸に変換する活性を有し、そしてゲル濾過クロマトグラフィーで4量体の状態で分子量が約150,000であり、特に以下の性質:
1)0.1mg/ml、pH7、65℃、30分間の熱処理で失活せず;そして
2)NADH分解酵素を実質的に含まない
を有することを特徴とする。上記1)および2)の性質は公知のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質にはない特有の性質である。
【0017】
本発明者らは先ずニワトリ心臓cDNAライブラリーの作製し、特開平9−262089号に記載のLD−B遺伝子をコードするcDNA配列を取得した。cDNAライブラリーの作製は慣用技術、例えばMolecular Cloning (Cold Spring Harbor Laboratory Press 1989)に詳述されている方法に従った。特開平9−262089号に記載の方法に従がい、作製したcDNAライブラリーをスクリーニングすることによりLD−B遺伝子をコードするcDNAクローンを取得した。得られたcDNAクローンの塩基配列を決定し、本明細書で後述する配列表の配列番号5に記載した。さらに、配列番号5の塩基配列より推定されるアミノ酸配列は配列番号4に記載した。これらは、特開平9−262089号に開示された塩基配列及びアミノ酸配列(各々、特開平9−262089号の配列番号3及び1)と同一であることが確認された。
【0018】
一方、ニワトリ心臓より精製された天然のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットのアミノ酸配列が Tsoi,S.C.M., Li,J.Y.,Mannen,H. and Li,S.S.L. Submitted (03−JUN−1998): GI “3342403” [GenBank]に開示されている(配列番号3)。
【0019】
特開平9−262089号の組換えニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットのアミノ酸配列(配列番号4)とTsoiらの天然ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットのアミノ酸配列(配列番号3)を比較したところ、2カ所のアミノ酸残基が相違した。具体的には、配列番号3および4において10番目のアミノ酸残基が前者(配列番号3)はスレオニン、後者(配列番号4)はアラニンであり、そして207番目のアミノ酸残基が前者ではアラニン、後者はバリンであった。
【0020】
上記特開平9−262089号の組換えニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットとTsoiらの天然ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットのアミノ酸配列に基づき、これら公知のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットに変異を施すことによって、本発明者らは熱安定性および溶液安定性(pH安定性)に優れ、かつNADH分解活性を有しない優れた生化学的性質を有する変異型ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットを得ることに成功し、本発明を想到した。具体的には、本発明の変異型ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットは、配列番号1(または配列番号3または4)のアミノ酸配列のアミノ酸番号10に相当する位置のアミノ酸残基がアラニンであり、そして、アミノ酸番号207に相当する位置のアミノ酸残基がアラニンであることを特徴とする。
【0021】
本発明の変異型ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットは、公知の上記特開平9−262089号の組換えニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットとTsoiらの天然ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットのいずれとも相違し、新規なタンパク質である。以下、本明細書中、簡便のため必要に応じ、本発明のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットを(10A、207A)LDH−B、上記特開平9−262089号の組換え型のものを(10A、207V)LDH−B、そして天然由来のものを(10T、207A)LDH−Bと略称する。
【0022】
本発明の変異型LDH−Bは好ましくは配列番号1に記載のアミノ酸配列1−333を有するが、これらに限定されない。天然のタンパク質の中にはそれを生産する生物種の品種の違いや、生態系の違いによる遺伝子の変異、あるいはよく似たアイソザイムの存在などに起因して1から複数個のアミノ酸変異を有する変異タンパク質が存在することは周知である。さらに、一般に生理活性を有するペプチドのアミノ酸配列が多少変更された場合、即ち、該アミノ酸配列の中の1又は複数のアミノ酸が置換され若しくは欠失し、または1又は複数のアミノ酸が付加された場合でも該ペプチドの生理活性が維持される場合があることは周知の事実である。
【0023】
よって、本発明の変異型LDH−Bタンパク質は、配列番号1のアミノ酸残基1−333において、10番目のアラニン残基および207番目のアラニン残基以外の部分において1またはそれ以上のアミノ酸残基の欠失、置換もしくは付加による変異を含むアミノ酸配列を有し、かつ、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有する(生物学的に活性な、酵素的に活性な)タンパク質も含む。本発明の変異型LDH−Bタンパク質が「乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有する」とは、B型同士またはA型等の異なる型のサブユニットと四量体を形成して、NAD+を水素受容体として乳酸を脱水素してピルビン酸を生じる活性を有することを意味する。
【0024】
本明細書で使用する用語「アミノ酸変異」とは、1以上のアミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加などを意味する。本発明の変異ニワトリLDH−B酵素は、好ましくは配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するが、その配列を有するタンパク質のみに限定されるわけではなく、本明細書中に記載した特性を有する限り全ての相同タンパク質を含むことが意図される。
【0025】
配列番号1に示された本発明のLDH−Bタンパク質のアミノ酸配列は、ニワトリLDHのA型サブユニットタンパク質のアミノ酸配列と73.3%の相同性を有する。また、ニワトリLDH−Bタンパク質のアミノ酸配列と、対応するヒト、ブタおよびマウスB型サブユニットタンパク質のアミノ酸配列との相同性は、それぞれ89.5%、88.9%および88.3%である。よって、限定されるわけではないが、本発明の変異ニワトリLDH−B酵素は、配列番号1のアミノ酸配列と、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、もっとも好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する。
【0026】
本明細書において、相同性のパーセントは、例えばAltschulら(Nucl.Acids.Res.25.,p.3389−3402,1997)に記載されているBLASTプログラムを用いて配列情報と比較し決定することが可能である。当該プログラムは、インターネット上でNational Center for Biotechnology Information(NCBI)、あるいはDNA Data Bank of Japan(DDBJ)のウェブサイトから利用することが可能である。BLASTプログラムによる相同性検索の各種条件(パラメーター)は同サイトに詳しく記載されており、一部の設定を適宜変更することが可能であるが、検索は通常デフォルト値を用いて行う。
【0027】
一般的に、同様の性質を有するアミノ酸同士の置換(例えば、ある疎水性アミノ酸から別の疎水性アミノ酸への置換、ある親水性アミノ酸から別の親水性アミノ酸への置換、ある酸性アミノ酸から別の酸性アミノ酸への置換、あるいはある塩基性アミノ酸から別の塩基性アミノ酸への置換)を導入した場合、得られる変異タンパク質は元のタンパク質と同様の性質を有することが多い。遺伝子組換え技術を使用して、このような所望の変異を有する組換えタンパク質を作製する手法は当業者に周知であり、このような変異タンパク質も本発明の範囲に含まれる。
【0028】
その他の例として、Cys残基が欠失するまたは他のアミノ酸で置き換えられる原因となる様に、Cys残基をコードする配列を変化させ、再生時の不適当な分子内ジスルフィド架橋の形成を防ぐことができる。置換されるアミノ酸は、トリプトファン、セリン、アスパラギン酸およびリジンからなる基より選択され、最も好ましくは、アミノ酸はトリプトファンである。
【0029】
同様に、生物活性への欠失または挿入による潜在的効果を考慮することにより、アミノ酸配列を欠失または付加することが可能である。例えば、酵母の発現系を用いると均一の炭水化物が減少した類似体が発現されるが、N−グリコシル化部位を修飾してグルコシル化を排除することができる。真核生物のポリペプチド内のグリコシル化部位は、アミノ酸のトリプレット、Asn−X−Y(式中,XはProを除く任意のアミノ酸であり、YはSerまたはThrである)を特徴とする。このトリプレットをコードするヌクレオチド配列の適当な修飾は、Asn側鎖の炭水化物残基の結合を防ぐ置換、付加または欠失を結果として生ずるであろう。あるいは、KEX2プロテアーゼ活性が存在する酵母系での発現を強化するために、二塩基性のアミノ酸残基をコードする配列を修飾することも可能である。
【0030】
変異型ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットの生化学的性質
ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットが、「乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有する」とは、B型同士またはA型等の異なる型のサブユニットと四量体を形成して、NAD+を水素受容体として乳酸を脱水素してピルビン酸を生じる活性を有することを意味する。即ち、ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼ四量体タンパク質は、以下の酵素反応を可逆的に促進する。
【0031】
【化1】
酵素反応: ピルビン酸+NADH⇔L−乳酸+NAD+
また、ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットは、ゲル濾過クロマトグラフィーで4量体の状態で分子量が約150,000である。本発明の変異型ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットは、特に以下の生化学性質:
1)0.1mg/ml、pH7、65℃、30分間の熱処理で失活せず;そして
2)NADH分解酵素を実質的に含まない
を有することを特徴とする。上記1)および2)の性質は公知のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質にはない特有の性質である。
【0032】
本発明のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットが耐熱性であり、熱処理で失活しない、とは、本発明のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットからなるLDH−B4(以下、単に「本発明のLDH−B4」という)が、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは93%以上のLDH活性の残存活性率を有することを意味する。本発明のLDH−B4はより低濃度、即ち、好ましくは0.01mg/mlより好ましくは0.001mg/mlの濃度でも、例えば、pH7、65℃、30分間の熱処理で好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは93%以上残存活性率を有する。
【0033】
LDH活性は例えば、100mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)−0.8mM ピリビン酸ナトリウム−0.3mM NADHを基質混合液として用い、測定温度25℃で1分間あたり1μmolのNAD+生成量を1単位とすることができる。NAD+生成量は、例えば、NADHの分子吸光係数(例えば、波長340nmで1cm光路幅のキュベットセルを用いた場合に、NAD+の1ミリモル濃度あたり6.30となる)を用いる。基質反応混合液に試料を添加し、その後1分間あたりの340nmにおける吸光度減少量を測定し、次式に従い試料中のLDH活性(U/ml)を換算することができる。
【0034】
【化2】
V: キュベット中の最終反応液量(ml)
v: 試料液量(ml)
6.30: NADH分子吸光係数(NAD+の1ミリモル濃度あたり)
上記分光光度計によるLDH活性測定方法については例えば、オリエンタル酵母工業株式会社製品カタログ(2000年版)の第66頁−第67頁に、NADH分子吸光係数の説明とともに詳述されている。例えば、限定されるわけではないが、配列番号1のアミノ酸配列を有する本発明のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットからなるLDH−B4は、後述する実施例3で0.003mg/ml、pH7、65℃、30分間の熱処理で約93%の残存活性率を示した(図1)。
【0035】
本発明のLDH−B4はまた、溶液pH安定性にも優れており、好ましくはpH5−9の範囲で安定である。限定されるわけではないが、好ましくは0.003mg/ml、pH9、55℃、30分間の熱処理でも失活しない。例えば、限定されるわけではないが、配列番号1のアミノ酸配列を有する本発明のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットからなるLDH−B4は、後述する実施例3でpH9.0の条件下、0.003mg/ml、55℃、30分間の熱処理で98%、65℃の熱処理で95%の残存活性率を示した(図1)。
【0036】
本発明のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットからなるLDH−B4はさらに、NADH分解酵素を実質的に含まない。NADH分解酵素を実質的に含まないとは、例えば、LDH−B4を45℃で2日間保存した後に、NADH残存率が好ましくは89%以上、より好ましくは92%以上保持することを意味する。
【0037】
本発明においてLDHタンパク質とともに添加混合したNADHの残存率は、例えばNADHの有する吸収スペクトルに基づき、340nmの吸光度を分光学的に測定して求めることができる。例えば、本明細書において後述する実施例3では、NADHをLDHタンパク質と混合して試薬R−1を調製した直後の初期吸光度に対する保存経過後の吸光後の割合として試算した。
【0038】
【化3】
NADH残存率=(保存経過後の吸光後)/(試薬調製直後)
さらに、限定されるわけではないが、本発明のLDH−B4は好ましくは、補酵素NADHに対する高い特異性、を有する。さらには、補酵素アナログに対する反応性については、補酵素アナログとの組合せにより測定方法ならびに測定試薬の特徴付けをし得ることが望ましい。例えば、NADHの補酵素アナログAPADHはNADHに比べて溶液安定性が高い。本発明のLDHを補酵素APADHともに利用して、例えば生体試料中のピルビン酸を基質あるいは生成物質とする酵素活性を測定するための液状試薬を構築することが可能である。その場合、LDHの有するAPADHに対する交差反応性が問題となる。例えば、本明細書中の実施例1において、配列番号1のアミノ酸配列を有する本発明のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットからなるLDH−B4は、NADHへの反応性100%とした時、APADHに対して10%程度の交差反応性を有した(実施例1)。
【0039】
なお、上述したように、本発明のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットは、アミノ酸配列が好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列のアミノ酸番号10に相当する位置のアミノ酸残基がアラニンであり、そして、アミノ酸番号207に相当する位置のアミノ酸残基がアラニンである。しかしながら、上記生化学的性質を有するニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットは本発明によって初めて得られたものである。よって、本発明の新規なニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質は、上記生化学的性質を有するものであればそのアミノ酸配列は特に限定されない。
【0040】
変異型ニワトリLDH−B型サブユニット(LDH−B)遺伝子
本発明のLDH−Bタンパク質は、例えば後述の実施例に記載するように、LDH−Bタンパク質遺伝子を用いて遺伝子工学的に発現させることができる。当業者は本明細書の記載および慣用された遺伝子工学技術を用いて、本発明のLDH−B遺伝子を容易に得ることが可能である。
【0041】
よって、本発明は変異型LDH−Bタンパク質をコードする核酸を提供する。本明細書において、「核酸」または「遺伝子」とは、一本鎖又は二本鎖のDNAまたはRNAを意味する。本発明のLDH−B遺伝子は特に限定されず、天然由来のDNA又はRNA、組換えDNAまたはRNA、化学合成DNAまたはRNAの何れでもよく、またゲノムDNAクローン、cDNAクローン、mRNA等、いずれの核酸でもよい。
【0042】
1つのアミノ酸をコードするコドンは複数存在するので、コードされるアミノ酸配列が同じであれば、どのような塩基配列の核酸も本発明の範囲に含まれる。従って、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードするいずれの核酸も本発明の範囲に含まれる。
【0043】
天然の遺伝子の中にはそれを生産する生物種の品種の違いや、生態系の違いに起因する少数の変異やよく似たアイソザイムの存在に起因する少数の変異が存在することは当業者に周知である。従って、本発明の変異型LDH−Bの遺伝子は、配列番号5に記載の塩基配列を有する野生型LDH−B遺伝子に由来するものに限定されるわけではなく、上述した本発明の変異型LDH−Bの生化学的性質を有するポリペプチドをコードする全ての遺伝子を包含する。
【0044】
本発明のLDH−B遺伝子の好ましい態様は、配列番号2に記載の塩基配列を有するものである。配列番号2の塩基配列を有する本発明のLDH−B遺伝子を有する発現プラスミドで形質転換された大腸菌形質転換細胞は、平成13年1月16日に寄託番号FERM BP−7431で、経済産業省産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所(〒305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番3号)に微生物の国際寄託に関するブタペスト条約に基づき国際寄託されている。
【0045】
本発明の変異型はまた、まず野生型のLDH−B遺伝子を得て、それに変異を施すことにより得ることも可能である。例えば配列番号5に記載の塩基配列を有する野生型のLDH−B遺伝子は、特開平9−262089に記載されているように、平成7年11月13日に通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(当時)に寄託番号FERM BP−5292で国際寄託されている酵母宿主細胞Saccharomyces cerevisiae(YRp1G−cLD−B)から得ることができる。また、必要に応じ特開平9−262089に記載されているように、ニワトリ心臓mRNA由来のcDNAライブラリーから、例えばプラークハイブリダイゼーション法を利用して得ることもできるし、あるいはまた本発明により決定されたDNAの塩基配列に基づいて、ニワトリ心臓mRNA由来のcDNAライブラリーを鋳型とするPCR法により、又はニワトリ心臓mRNAを出発物質とするRT−PCR法により容易に調製することもできる。このように調製したLDH−B cDNAを利用して後述する方法により変異体を調製することもできる。
【0046】
あるいはまた、本発明の変異型LDH−B遺伝子であって、配列番号2に記載された塩基配列を有するもの、さらに配列番号2以外の塩基配列を有するものも、本明細書中の配列番号1に記載された変異型LDH−Bタンパク質のアミノ酸配列およびそれをコードするDNA配列、またはそれらの一部に基づいて、例えば、ハイブリダイゼーションや核酸増幅反応等の遺伝子工学の基本的手法を用いて得ることが可能である。これらの遺伝子工学的手法を用いてさらに同様の生理活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を単離することも可能である。
【0047】
遺伝子のスクリーニングのために使用するハイブリダイゼーション条件は特に限定されないが、一般的にはストリンジェントな条件が好ましく、例えば、2×SSC、5×Denhardt’s、0.1%SDS、45℃ないし68℃などのハイブリダイゼーション条件を使用することが考えられる。この場合、ハイブリダイゼーションの温度としては、より好ましくは55℃ないし68℃(ホルムアミド無し)または45℃ないし55℃(50%ホルムアミド)を挙げることができる。ホルムアミド濃度、塩濃度及び温度などのハイブリダイゼーション条件を適宜設定することによりある一定の相同性以上の相同性を有する塩基配列を含むDNAをクローニングできることは当業者に周知であり、このようにしてクローニングされた相同遺伝子も本発明の変異LDH−Bを製造するために用いられ得る。
【0048】
核酸増幅反応は、例えば、複製連鎖反応(PCR)(サイキら、1985,Science 230,p.1350−1354)、ライゲース連鎖反応(LCR)(ウーら、1989,Genomics 4,p.560−569;バリンガーら、1990,Gene 89,p.117−122;バラニーら、1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88,p.1809−193)および転写に基づく増幅(コーら、1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,p.1173−1177)等の温度循環を必要とする反応、並びに鎖置換反応(SDA)(ウォーカーら、1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89,p.392−396;ウォーカーら、1992,Nuc.Acids.Res.20,p.1691−1696)、自己保持配列複製(3SR)(グアテリら、1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,p.1874−1878)およびQβレプリカーゼシステム(リザイルディら、1988,BioTechnology 6,p.1197−1202)等の恒温反応を含む。また、欧州特許第0525882号に記載されている標的核酸と変異配列の競合増幅による核酸配列に基づく増幅(Nucleic Acid Sequence Based Amplification:NASABA)反応等も利用可能である。好ましくはPCR法である。
【0049】
上記のようなハイブリダイゼーション、核酸増幅反応等を使用してクローニングされる相同遺伝子は、配列表の配列番号2に記載の塩基配列に対して少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の相同性を有する。
【0050】
ニワトリLDH−B遺伝子の塩基配列に基づいて、ニワトリLDH−B遺伝子を得るための核酸増幅反応に用いる増幅用オリゴヌクレオチドプライマーを作製できる。より詳細には、オリゴヌクレオチドは、例えば、配列番号2の塩基配列から以下の条件を満たすように2つの領域を選択し:
1)各領域の長さが15−30塩基であること;
2)各領域中のG+Cの割合が40−60%であること;および
3)各領域間の距離が約100−約1000塩基であること
上記領域と同じ塩基配列若しくは上記領域に相補的な塩基配列を有する一本鎖DNAを製造し、または、上記一本鎖DNAによってコードされるアミノ酸残基を変化させないように遺伝子暗号の縮重を考慮した一本鎖DNAの混合物を製造し、さらに必要であれば上記タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列に対する結合特異性を失わないように修飾した上記一本鎖DNAを製造することを含む方法により製造することが可能である。当該オリゴヌクレオチド用いて、例えば本発明の変異型LDH−B遺伝子を検出もしくは単離するためのハイブリダイゼーション、適当な2種をプライマー対として用いたPCR等の増幅反応、あるいは変異を導入する部分を含む適当な相補的なプライマー対を用いた部位特異的突然変異導入するための温度循環反応に用いることが可能である。
【0051】
本発明の変異LDH−B遺伝子は、上述のように得られた野生型のLDH−BをコードするDNA配列、またはそれらの一部を利用して、例えば、周知技術である部位特異的変異誘発(例えば、Nucleic Acid Research,Vol.10,No.20,p.6487−6500,1982)を施すことによって得ることもできる。また、市販の部位突然変異誘発用キット(例えば、Staragagen社のQuikChangeTM Site−Directed Mutagenisis Kit)を利用することもできる。なお、本明細書において「1または複数個のアミノ酸残基」とは、部位特異的変異誘発法により付加、欠失または置換できる程度の数のアミノ酸を意味する。
【0052】
部位特異的変異誘発法は、例えば、所望の変異である特定の不一致の他は、変異を受けるべき、例えばファージ等の一本鎖DNAに相補的な合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いて次のように行うことができる。即ち、プライマーとして上記合成オリゴヌクレオチドを用いて上記一本鎖DNAに相補的な鎖を合成させ、得られた二本鎖DNAで宿主細胞を形質転換する。形質転換された宿主細胞の培養物を寒天にプレートし、上記DNAを含有する単一細胞からプラークを形成せしめる。すると、理論的には50%の新コロニーが一本鎖として変異を有するDNAを含有し、残りの50%が元の配列を有する。上記所望の変異を有するDNAと完全に一致するものとはハイブリダイズするが、不一致のもの、即ち元の配列を有するものとはハイブリダイズしない温度において、得られたプラークをラジオアイソトープ等で標識された合成プローブとハイブリダイズさせる。次に該プローブとハイブリダイズするプローブを拾い、培養しDNAを回収する。
【0053】
尚、酵素などの生物活性ペプチドのアミノ酸配列にその活性を喪失せしめない1又は複数のアミノ酸の置換、欠失または挿入を施す方法としては、上記の部位特異的変異誘発の他にも、遺伝子を変異源で処理する方法及び遺伝子を選択的に開裂し、次に選択されたヌクレオチドを除去、付加または置換し、次いで連結する方法もある。尚、上記した本発明の核酸の両端、即ち翻訳開始暗号および翻訳停止暗号は、それぞれ任意の核酸断片と結合することができる。この核酸断片の塩基配列のサイズは重要ではなく、バクテリア等の有する核外遺伝子と連結するための適当な核酸断片であればよい。
【0054】
さらに、組換えタンパク質の発現量を高める、回収を容易にする等の目的ための変異を行うことは、当該技術分野において通常行われている改変であり、このようなこのも当然本発明の範囲に含まれる。
【0055】
組換え変異型ニワトリLDHのB型サブユニットポリペプチドの製造
さらに、本発明は変異型LDH−B をコードする核酸を含む発現ベクター、及びこれら発現ベクターを含有する宿主細胞を変異型LDH−Bポリペプチドの発現に適する条件下で培養して、その発現された変異型LDH−Bを回収することにより組換え変異型LDH−Bポリペプチドを製造する方法も提供する。
【0056】
本発明の組換え変異型LDH−B(以下、場合により「LDH−B」と略称する)ポリペプチドを製造するためには、使用する宿主細胞に応じて選ばれた発現ベクターに、哺乳動物、微生物、ウィルス、又は昆虫遺伝子等から誘導された、適当な転写又は翻訳調節ヌクレオチド配列に連結した変異型LDH−B DNA配列を挿入する。調節配列の例として、転写プロモーター、オペレーター、又はエンハンサー、mRNAリボソーム結合部位、及び転写及び翻訳の開始及び終結を制御する適切な配列が挙げられる。加えて、LDH−B遺伝子に本来存在しない適切なシグナルペプチドをコードする配列を発現ベクター内に組み込んでもよい。
【0057】
変異型LDH−Bポリペプチドの発現に適する宿主細胞には、原核細胞、酵母又は高等真核細胞が含まれる。細菌、真菌、酵母、及び哺乳動物細胞宿主で用いる適切なクローニング及び発現ベクターは、例えば、Pouwels ら, Cloning Vectors: A Laboratory Manual,Elsevier, New York, (1985) に記載されている。
【0058】
宿主細胞は、大腸菌、酵母または昆虫細胞が好ましく、具体的には、大腸菌(M15、JM109、BL21等)、酵母(INVSc1(サッカロマイセス属)、GS115、KM71(以上ピキア属)など)、昆虫細胞(BmN4、カイコ幼虫など)などが例示される。また、動物細胞としてはマウス由来、アフリカツメガエル由来、ラット由来、ハムスタ−由来、サル由来またはヒト由来の細胞若しくはそれらの細胞から樹立した培養細胞株などが例示される。特に好ましい宿主細胞は大腸菌、より好ましくは大腸菌JM109(JM109のコンピテントセルは宝酒造等より市販されている)である。
【0059】
好ましい宿主細胞は原核細胞である。原核生物には、グラム陰性又はグラム陽性菌、例えば、大腸菌又は枯草菌が含まれる。大腸菌のような原核細胞内では、cLDH−Bポリペプチドは、原核細胞内でも組換えポリペプチドの発現を容易にするためにN末端メチオニン残基を含んでもよい。このN末端Metは、公知の方法により発現後に組換えcLDH−Bポリペプチドから切り離すことができる。宿主細胞として細菌、特に大腸菌を用いる場合、一般に発現べクターは少なくとも、プロモーター/オペレーター領域、開始コドン、LDH−B酵素タンパク質をコードする遺伝子、終止コドン、ターミネーターおよび複製可能単位から構成される。
【0060】
原核宿主細胞内で用いる発現ベクターは、一般に1又は2以上の表現型選択可能マーカー遺伝子を含む。表現型選択可能マーカー遺伝子は、例えば、抗生物質耐性を付与するか又は独立栄養要求性を付与する遺伝子である。原核宿主細胞に適する発現ベクターの例には、pBR322(ATCC37017)の如き市販のプラスミドまたはそれらから誘導されるものが含まれる。pBR322は、アンピシリン及びテトラサイクリン耐性のための遺伝子を含有するので、形質転換細胞を同定するのが簡単である。適切なプロモーターおよびcLDH−B DNA配列が、このpBR322ベクター内に挿入される。他の市販のベクターには、例えば、pTRP(Uchida K.ら,1995 Clin.Chem.Acta. Vol.237(1−2),pp.43−58)、pKK223−3(スェーデン、ウプサラの Pharmacia Fine Chemicals)及びpGEM1(米国、ウィスコンシン州、マジソンの PromegaBiotec)が含まれる。
【0061】
原核宿主細胞用の発現ベクターに普通に用いられるプロモーター配列には、β−ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)、ラクトースプロモーター(Chang ら,Nature 275:615, 1978;及び Goeddelら, Nature 281:544, 1979)等が含まれる。特に有用な原核宿主細胞発現系は、ファージλPLプロモーター及びcI857ts不耐熱性レプレッサー配列を用いる。λPLプロモーターの誘導体を取り込んでいるアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから入手できるプラスミドベクターには、プラスミドpHUB2(大腸菌株JMB9(ATCC37092)内に存する)及びpPLc28(大腸菌RP1(ATCC53082)内に存する)が含まれる。
【0062】
好ましい宿主細胞の他の例は酵母細胞である。好ましくはサッカロミセス属(例えば、S.セレビシエ)を用いるが、ピキア (Pichia) 又はクルイベロミセス (Kluyveromyces) の如き他の酵母の属を用いてもよい。酵母ベクターは、2μ酵母プラスミドからの複製起点の配列、自律複製配列(ARS)、プロモーター領域、ポリアデニル化のための配列、転写終結のための配列、及び選択可能なマーカー遺伝子を含有することが多い。酵母ベクターに適するプロモーター配列には、とりわけ、メタロチオネイン、3−ホスホグリセレートキナーゼ(Hitzemanら, J. Biol. Chem. 255:2073, 1980)又は他の解糖酵素(Hessら, J. Adv. Enzyme Reg. 7:149, 1968;及び Hollandら, Biochem. 17:4900, 1978)、例えば、エノラーゼ、グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルベートデカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース−6−ホスフェートイソメラーゼ、3−ホスホグリセレートムターゼ、ピルベートキナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、及びグルコキナーゼが含まれる。酵母発現に用いるのに適する他のベクター及びプロモーターは、Hitzeman, EPA−73,657に更に記載されている。もう1つの代用物は、Russell ら(J. Biol. Chem.258:2674, 1982)及び Beierら(Nature 300:724, 1982)により記載されたグルコース被抑制性ADH2プロモーターである。大腸菌内での選択及び複製のためのpBR322からのDNA配列(Ampr遺伝子及び複製の起点)を上記の酵母ベクター内に挿入することにより、酵母及び大腸菌の両方で複製可能なシャトルベクターを構築することができる。
【0063】
酵母α因子リーダー配列を用いて、cLDH−Bポリペプチドの分泌を行わせることができる。このα因子リーダー配列は、プロモーター配列と構造遺伝子配列の間に挿入されることが多い。例えば、Kurjanら, Cell 30:933, 1982;Bitterら, Proc. Natl. Acad.Sci. USA 81:5330, 1984;米国特許第4,546,082号;及びEP324,274を参照のこと。酵母宿主からの組換えポリペプチドの分泌を促進するのに適する他のリーダー配列も知られている。リーダー配列は、1又は2以上の制限部位を含有するようにその3’末端の近くで修飾されていてもよい。これは、そのリーダー配列の構造遺伝子への連結を容易にするであろう。
【0064】
酵母の形質転換手順は公知である。かかる手順の1つは、Hinnenら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75:1929, 1978 に記載されている。Hinnenらの手順は、選択培地中でTrp+形質転換体を選択するものであって、その選択培地は、0.67%酵母窒素原基、0.5%カザミノ酸、2%グルコース、10μg/mlアデニン及び20μg/mlウラシルからなる。
【0065】
発現を誘発するために、ADH2プロモーター配列を含有するベクターにより形質転換された酵母宿主細胞を“リッチ”培地中で生育させてもよい。リッチ培地の例は、80μg/mlアデニン及び80μg/mlウラシルを補充した1%酵母エキス、2%ペプトン、及び1%グルコースからなる培地である。ADH2プロモーターの抑制解除は、グルコースが培地から消費され尽くした時に起こる。
【0066】
哺乳動物又は昆虫宿主細胞培養系を用いて、組換えcLDH−Bポリペプチドを発現することもできる。哺乳動物起源の株化細胞系も用いることができる。哺乳動物宿主細胞発現ベクターのための転写及び翻訳制御配列は、ウィルスゲノムから得ることができる。普通に用いられるプロモーター配列及びエンハンサー配列は、ポリオーマウィルス、アデノウィルス2等から誘導される。SV40ウィルスゲノム、例えば、SV40起点、初期及び後期プロモーター、エンハンサー、スプライス部位、及びポリアデニル化部位から誘導されるDNA配列を用いて、哺乳動物宿主細胞内での構造遺伝子配列の発現のための他の遺伝子要素を与えてもよい。哺乳動物宿主細胞内で用いるための発現ベクターは、例えば Okayama 及び Berg(Mol. Cell. Biol. 3:280,
1983)の方法で構築することができる。
【0067】
cLDH−Bタンパク質をコードするDNAを含む発現ベクターで形質転換した宿主細胞を、cLDH−Bタンパク質が発現する条件下で培養することによって組換えcLDH−Bタンパク質を産生できる。産生された組換えcLDH−Bサブユニットは、四量体を形成してcLDH−B4アイソザイムとなる。次いで、用いた発現系に依存して、組換えcLDH−Bタンパク質を培養培地又は細胞抽出液から回収する。cLDH−Bタンパク質を精製する操作は、用いた宿主細胞の型及びcLDH−Bタンパク質が培養培地中に分泌されるかどうかといった要因に応じて適宜決定してもよい。
【0068】
細菌宿主で産生した組換えcLDH−Bタンパク質は、通常宿主細胞内に存在するので、まず細胞を崩壊し、細胞沈殿物または上澄み液を遠心分離や濾過等で分離した後、濃縮、塩析、イオン交換、アフィニティ精製又はゲル濾過精製の適当な組み合わせにより単離される。最後に、最終精製工程のためにRP−HPLCを用いてもよい。微生物細胞宿主の破壊は、凍結−解凍の繰り返し、音波処理、機械的崩壊、又は細胞溶解剤の使用を含む適当な慣用的方法により行うことができる。
【0069】
形質転換酵母宿主を用いるときは、好ましくはcLDH−B4を分泌ポリペプチドとして発現させることができる。これにより精製が簡単になる。酵母宿主細胞発酵上清に分泌された組換えポリペプチドは、Urdal ら(J. Chromatog. 296:171, 1984)により開示された方法と類似の方法により精製することができる。 Urdalらは、組換えcLDH−B4の精製のための分取HPLCカラムでの2連続逆相HPLC工程を記載している。
【0070】
得られた組換え変異型LDH−B4タンパク質は、例えば臨床検査薬の分野において、1)生成ピルビン酸のUV測定法における共役酵素として、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)等の種々のアミノトランスフェラーゼの酵素活性を測定する場合や、2)尿素等の種々の基質をピルビン酸に変換し、生成ピルビン酸のUV測定法における共役酵素として、また、3)検体中の内因性ピルビン酸の消去等に使用することができる。特に、1)のLDHを使用したアミノトランスフェラーゼ活性の測定は、臨床検査の一つとして広く行われており、本発明により大量に得られた組換えcLDH−B4タンパク質を使用することが可能となった。
【0071】
本発明の組換えcLDH−B4を使用したトランスアミナーゼの酵素活性の測定およびALT活性の算出は、前述の特開平8−289、臨床検査提要 第31版」 1998年 金原出版株式会社 pp.643−649等に記載の原理に従った公知の方法によって行うことができる(例えば、実施例3に記載の方法)。
参考文献
1. 特開平8−289
2.「液状ALT測定試薬に好適な耐熱型乳酸脱水素酵素」 臨床化学 第23巻補冊2号 1994年 141b)
3. 特開平9−262089
4. Nucleic Acid Research,Vol.10,No.20,p.6487−6500,1982
5. 臨床検査提要 第31版」 1998年 金原出版株式会社 pp.643−649等
【0072】
【実施例】
参考例1 ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の熱安定性
特開平9−262089号の組換えLDH−B4タンパク質および天然のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質の熱安定性、特に溶液中、低濃度の状態での耐熱性について検討した。具体的には、トランスアミナーゼ活性を測定するための構成成分として使用されるLDH量は通常1−10U/mL程度の範囲である。よって、組換えLDH−B4比活性(136U/mgタンパク質)より、熱安定性(および溶液安定性)はLDHタンパク質濃度として0.007−0.07mg/mLの範囲で測定すべきであると換算される。
【0073】
よって、下記表に示した各濃度になるように、特開平9−262089号の組換えLDH−B4タンパク質(10A、207V)H−B、および天然のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質(10T、207A)を50mM リン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)に溶解した試料を調製した。試料調製直後と、30分間の熱処理後におけるLDH活性を測定し、残存活性率を調べた。LDH活性は、50mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)−0.8mM ピリビン酸ナトリウム−0.3mM NADHを基質混合液として用い、測定温度25℃で1分間あたり1μmolのNAD+生成量を1単位とした。
【0074】
【表1】
表1 65℃熱安定性(残存活性率)とLD−B4タンパク質濃度との関係
試料中のLD―B4 組換えLDH−B4 天然LDH−B4
タンパク質濃度 (10A、207V) (10T、207A)
1mg/mL 98% 90%
0.1 20% 90%
0.01 1% 90%
0.001 <1% 85%
表1に示したように、組換えLDH−B4(10A、207V)は1mg/mlでは耐熱性を示すが、0.1mg/ml以下では残存活性率が20%と低下し、0.001mg/mlでは1%以下と実質的にほぼ失活してしまった。
【0075】
実施例1 アミノ酸置換による変異酵素(10A、207A)の作製
a.V207A発現プラスミドの構築
本発明の変異酵素(10A、207A)は、前述した特開平9−262089号記載のニワトリLDH−B遺伝子(10A、207V)を基に作製した。具体的には、特開平9−262089号記載のニワトリLDH−B(10A、207V)は、207番目アミノ酸残基がバリンであるので、これをアラニンに変換するように、遺伝子に突然変異を施した。
【0076】
具体的には、特開平9−262089号のニワトリLDH−B遺伝子(10A、207V)をコードするcDNAクローン(pBluescript SK−CLDB8−E/B)を含む環状2本鎖プラスミドを鋳型とし、先ず、当該鋳型の変異を導入したい箇所(207V)に対応する前後10塩基程度からなる2重鎖のオリゴヌクレオチド対をDNA合成機により合成した。プライマーの具体的な配列は下記の通りである。
【0077】
【化4】
前記二本鎖プラスミドを鋳型、前記オリゴヌクレオチド対をプライマーとし、市販の部位突然変異誘発用キット(例えば、Staragagen社のQuikChangeTM Site−Directed Mutagenisis Kit)を用いて、DNAポリメラーゼ(Pfu Turbo(登録商標) DNApolymerase)を用い、アニーリング反応後、温度循環反応(temperature cycling)を行った。温度循環反応により鋳型プラスミドが複製され、オリゴヌクレオチドプライマーに含まれる変異を有するニックプラスミドが得られた。これを、メチル化されたDNAのみを切断する制限酵素酵素DpnIで処理することにより、変異の入っていない鋳型プラスミドのみが切断された。なお、制限酵素処理後、変異が入ったプラスミドを大腸菌に形質転換すると、大腸菌内でニックが修復され、完全な環状プラスミドとして得られる。変異プラスミドの具体的な調製手順はStaratagene社のキット使用説明書に従って行った。
【0078】
次いで、得られた上記変異を含む遺伝子を含むプラスミドを用いて、市販のJM109コンピテントセル(宝酒造製)を形質転換し、変異プラスミド(「pBluescript SK−V207A−E/B」と呼ぶ)を回収した。pBluescript SK− V207A −E/Bを制限酵素EcoRIとBamHIで消化し、V207AをコードするDNAを断片化した。DNA断片を抽出し、pTRP発現プラスミド(Uchida K.ら,1995 Clin.Chem.Acta. Vol.237(1−2),pp.43−58)のEcoRI―BamHI部位に連結挿入し、発現プラスミド(pTRP−V207A)を作製した。市販JM109コンピテントセルをpTRP−V207Aにて形質転換し、組換えV207Aタンパク質を発現する形質転換体(pTRP−V207A/JM109)を得た。pTRP−V207A/JM109は、Escherichia coli JM109/pTRP−cLDHとして、平成13年1月16日に寄託番号FERM BP−7431で、経済産業省産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所(〒305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番3号)に微生物の国際寄託に関するブタペスト条約に基づき国際寄託された。
【0079】
b.形質転換体の培養
大腸菌形質転換体(pTRP−V207A/JM109)を50μg/mLのアンピシリンを含むLB寒天培地プレート上でコロニー化し、白金耳にて単一コロニーを100mLのアンピシリンを含むLB培地が入ったフラスコにて37℃、終夜振盪培養した。得られた菌体懸濁液より、遠心分離にて菌体を集め、さらに超音波破砕処理を行い発現した組換えタンパク質を抽出した。
【0080】
本発明の(10A、207A)変異型タンパク質(本明細書中、以下、簡便のため「V207A)と呼称する)は、超音波破砕処理にて可溶性分画に回収された。培養液あたり5U/mLの活性発現量であった。LDH活性は、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)−0.8mM ピリビン酸ナトリウム−0.3mM NADHを基質混合液として用い、測定温度25℃で1分間あたり1μmolのNAD+生成量を1単位とした。
【0081】
c.V207Aタンパク質の精製
上記の超音波破砕処理した遠心分離上清を出発材料とし、DEAE−cellulofineゲルを用いたイオン交換クロマトグラフィー、フェニル−セファロースCL4Bを用いた疎水クロマトグラフィー、さらにUltrogel ACA44を用いたゲルろ過クロマトグラフィーを行うことにより、V207Aタンパク質を精製した。
【0082】
具体的には、先ずイオン交換クロマトグラフィーで素通り分画に回収されたV207Aを疎水クロマトグラフィーにて吸着溶出分画に分離精製した。硫安濃度のグラジエント溶出にて0.5−0Mの硫安分画にV207Aが回収できた。次いで、ゲルろ過クロマトグラフィーにより分子量150,000のところに位置するV207Aを回収した。
【0083】
大腸菌形質転換体(pTRP−V207A/JM109)より最終的に得られたV207Aタンパク質精製標品の理化学的性質を下記の表2にまとめた。
【0084】
【表2】
酵素反応: ピルビン酸+NADH⇔L−乳酸+NAD+
分子量: 150,000(ゲルろ過、4量体)
作用pH: pH5−8(25℃測定)
pH安定性: pH5−9(60℃、30分間の熱処理)
熱安定性: 65℃まで失活しない(pH7、30分間の熱処理)
補酵素特異性: NADHを100%とした時、NADHアナログであるAPADHとの反応性は10%程度
また、V207Aは比活性350U/mgを示し、特開平9−262089号記載のものに比べ2.5倍の高比活性型となった。
実施例2 V207Aタンパク質の熱安定性
実施例1で得られたV207A精製タンパク質を1U/mL(0.003mgタンパク質/mL)になるように50mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に溶解し、45℃、55℃、65℃、75℃の各温度にて30分間熱処理をおこなった。また、同様に50mMトリス塩酸緩衝液(pH9.0)にて溶解したV207Aについても同様に熱処理を行った。
【0085】
熱処理後のV207Aタンパク質(10A、207A)の残存活性率(%)をニワトリ心臓から精製した天然酵素タンパク質(オリエンタル酵母製)(10T、207A)および特開平9−262089号の組換えLD−B4タンパク質(10A、207V)を対照品として比較した。結果を図1に示す。
【0086】
図1より、V207Aは対照品2者と比べて優れた耐熱性を示した。例えば、0.003mg/ml、pH7、65℃、30分間の熱処理で93%の残存活性率を示した。また、pH9.0の条件下でも0.003mg/ml、55℃、30分間の熱処理で98%、65℃の熱処理で93%の残存活性率を示した。
実施例3 V207Aタンパク質を構成成分とする活性測定試薬を用いたヒトプール血清中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性測定
a.アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性測定試薬の調製
以下の液状試薬R−1及びR−2を調製し、以下のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性の測定に使用した。
【0087】
【表3】
R−1試薬(pH9.2)
10mM トリス
0.45mM NADH
3200U/L 組換えLDH(V207A)
181mM L−アラニン
1mM EDTA−2ナトリウム
0.1%アジ化ナトリウム
R−2試薬(pH7.2)
160mM リン酸カリウム緩衝液
47mM 2−オキソグルタル酸
1.2M L−アラニン
3mM EDTA−2ナトリウム
0.1% アジ化ナトリウム
b.ALTの活性測定
ALT活性測定方法およびALT活性の算出方法については、「臨床検査提要第31版」 1998年 金原出版株式会社 pp.643−649に記載の原理に従った。具体的には先ず、測定試料(ヒトプール血清)を15μL、R−1試薬を240μL、R−2試薬を120μLを混合し、以下の式で示される反応を開始した。
【0088】
【化5】
反応開始から1分後から5分後までの340nmにおける吸光後減少量を日立7150型自動分析機にてモニタリングし、1分間あたりの吸光度減少量を求めた。当該吸光度減少量を利用し、以下の式に従って、試料中のALT活性(U/L、37℃)を算出した。
【0089】
【化6】
A1/分: 試料を用いた場合の反応開始後の1分間あたりの340nmにおける吸光度減少量
A2/分: 対照(生理食塩水)を用いた盲験の場合の反応開始後の1分間あたりの340nmにおける吸光度減少量
6.3 × 103: NADHの分光吸光係数(NAD+の1モル濃度あたり)
試料液量、R1液量およびR2液量の単位はμLである。
結果を図2に示す。ALT測定における直線性を、原点を通る直線回帰より理論値の±5%範囲と設定すると、本実施例のaで調製した液状試薬の場合は、0−2,000U/L(37℃)と良好な結果となった。調製試薬を45℃で2日間虐待保存し、保存後の劣化度をALT直線性より求めた。その結果、45℃2日間虐待保存後でもALT直線性は初期性能を維持していた。
【0090】
また、液状試薬の構成成分として共存する補酵素NADHの保存安定性についてもその残存率を調べた。具体的にはNADHをLDHタンパク質と混合して試薬R−1を調製した直後の初期吸光度に対する保存経過後の吸光後の割合として試算した。
【0091】
【化7】
NADH残存率=(保存経過後の吸光後)/(試薬調製直後)
その結果、本発明のV207Aタンパク質は、天然酵素タンパク質(10T、207A)および特開平9−262089号の組換えLD−B4タンパク質(10A、207V)と比較して、高い成分安定性を示した。45℃で2日間虐待保存後の、LD活性およびNADH残存率の結果を図3にまとめた。
【0092】
【発明の効果】
本発明の変異型ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットは、耐熱性および溶液安定性に優れている。よって、本発明のLDHの産業的な量産化の達成により、より安定な組換え型乳酸デヒドロゲナーゼが供給が可能となった。特に臨床面において生体液中のトランスアミナーゼ活性を汎用的な測定を可能とした。
【0093】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の変異酵素(10A、207A)の熱安定性およびpH安定性を示す。
【図2】図2は、本発明の変異酵素(10A、207A)のALT測定における直線性能を示す。
【図3】図3は、本発明の変異酵素(10A、207A)の長時間高温保存後の残存活性およびNADH安定性に及ぼす影響を示す。
Claims (12)
- 配列番号1のアミノ酸配列を有するか、または、配列番号1のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し(ただし、配列番号1のアミノ酸配列のアミノ酸番号10に相当する位置のアミノ酸残基はアラニンであり、そして、アミノ酸番号207に相当する位置のアミノ酸残基はアラニンである)、かつ乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有する、ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質。
- 配列番号1のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質。
- 補酵素NADHの存在下でピルビン酸を乳酸に変換する活性を有し、そしてゲル濾過クロマトグラフィーで4量体の状態で分子量が約150,000であるニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質であって、以下の性質:
1)0.1mg/ml、pH7、65℃、30分間の熱処理で失活せず;そして
2)NADH分解酵素を実質的に含まない
を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質。 - さらに0.003mg/ml、pH9、55℃、30分間の熱処理でも失活しないという性質を有する、請求項3に記載のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質。
- 請求項1ないし4のいずれか1項に記載のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質をコードする核酸。
- 配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質をコードする、請求項5に記載の核酸。
- 配列番号2に記載の塩基配列を有する、請求項5または6に記載の核酸。
- 請求項5ないし7のいずれか1項に記載の核酸を含む、ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質を発現するためのベクター。
- pTRP−V207Aである、請求項8に記載のベクター。
- 請求項8または9のベクターによって形質転換された宿主細胞。
- 請求項8または9のベクターによって形質転換された宿主細胞を、前記ベクターによるニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質の発現に適した条件下で培養することを含む、ニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質の製造方法。
- 請求項1ないし4のいずれか1項に記載のニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型サブユニットタンパク質を構成成分とするニワトリ乳酸デヒドロゲナーゼB型タンパク質を含む、トランスアミナーゼ測定用試薬。
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