以下、本発明の第1の実施の形態及び第2の実施の形態を図面を参照して説明する。第1の実施の形態では、マシニングセンタ1において、軸方向選択スイッチ16でオーバライドをかける(工具2の移動速度を変更する)軸及び軸方向を選択し、量選択スイッチ17でオーバライド量を設定することができる。そして、軸方向選択スイッチ16で選択された軸及び軸方向に工具2が移動する場合にのみ、量選択スイッチ17で選択されている量のオーバライドをかけて工具を移動させることができる。また、第2の実施の形態では、1つの座標を指定することができ、その座標に近づく場合にのみオーバライドをかけることができる。
まず、図1及び図2を参照して、数値制御装置である縦型のマシニングセンタ1について説明する。図1は、マシニングセンタ1の斜視図であり、図2は、マシニングセンタ1の電気的構成を示すブロック図であり、これらは、第1の実施の形態及び第2の実施の形態に共通するものである。
本実施形態のマシニングセンタ1は、テーブル40に固定される冶具3に保持されるワーク4(図5参照)と工具2とを相対移動させて、ワーク4に所望の機械加工(例えば、「中ぐり」、「フライス削り」、「穴空け」、「切削」等)を施すための工作機械である。なお、図1の右側をマシニングセンタ1の前側とし、左側をマシニングセンタ1の後側とする。さらに、マシニングセンタ1におけるX軸方向とは、マシニングセンタ1の左右方向を指し、Y軸方向とは、マシニングセンタ1の前後方向を指し、Z軸方向とは、マシニングセンタ1の上下方向を指すものとする。
はじめに、マシニングセンタ1の概略構成について説明する。マシニングセンタ1は、図1に示すように、機械本体43の土台となる鉄製の基台42と、該基台42の上部に設けられ、ワーク4を加工する機械本体43とから構成されている。そして、図示しないが、基台42の上部には、機械本体43を囲繞して保護するとともに、機械本体43から切粉が外部に飛散するのを防止する略直方体状のボックス型のスプラッシュカバーが固定されるようになっている。
まず、基台42について説明する。基台42は、マシニングセンタ1のY軸方向に延設され、その下部の四隅には脚部42aが各々設けられている。そして、これら4本の脚部42aが、工場などの床面に設置されることにより、マシニングセンタ1が所定場所に設置される。さらに、基台42上部の後方側には、略直方体状のコラム座部44が設けられている。なお、この基台42の芯部は、軽量化、高強度化及び低コスト化のため、いわゆる肉抜き成形(リブによる骨組構造)されている。
次に、機械本体43について説明する。機械本体43は、基台42のコラム座部44の上面に載置して固定され、垂直上方に延設された略角柱状のコラム45と、該コラム45の前面に沿って昇降可能に設けられた主軸ヘッド47と、該主軸ヘッド47の下部前側から鉛直下方に突出する主軸49と、前記主軸ヘッド47の右側に設けられ、主軸49の先端に装着された工具ホルダを、他の工具を保持する工具ホルダに交換する工具交換装置(ATC)48と、基台42の上部に設けられ、ワーク4を着脱可能に保持するテーブル40と、コラム45の背面側に設けられ、電源装置、制御装置等の各装置を内蔵する後部装置部19とを主体に構成されている。
まず、主軸ヘッド47は、主軸49が備えるスピンドル(図示外)を回転駆動させるための主軸モータ34を上部に備え、該主軸モータ34の出力軸は、カップリング(図示外)を介してスピンドルに連結されている。さらに、主軸ヘッド47は、コラム45の前面側に設けられたガイドレール(図示外)にリニアガイド(図示外)を介して昇降自在にガイドされている。そして、昇降自在にガイドされる主軸ヘッド47は、モータ駆動されるボールねじ(図示外)とナットとの結合により昇降駆動されるようになっている。
一方、基台42の上部中央には、ワーク4が保持され冶具3が固定されるテーブル40がX軸−Y軸方向に移動可能に配置されている。このテーブル40の移動機構は次の通りである。まず、テーブル40の下側には、略直方体状の支持台12が設けられている。そして、その支持台12の上部には、X軸方向に沿って延設された一対のX軸送りガイド(図示外)が設けられ、そのX軸送りガイド上にテーブル40が移動可能に支持されている。さらに、支持台12は、基台42の長手方向に沿って延設された一対のY軸送りガイド上に移動可能に支持されている。このような状態で、テーブル40は、基台42上に設けられたX軸モータ31(図2参照)により、X軸送りガイドに沿ってX軸方向に移動し、同じく基台42上に設けられたY軸モータ32(図2参照)により、Y軸送りガイドに沿ってY軸方向に移動するようになっている。
図2に示すように、マシニングセンタ1には、マシニングセンタ1の制御を行うCPU10が設けられている。このCPU10は、マシニングセンタ1全体の制御の中心となるプロセッサであり、バス20を介して、ROM11,入力インターフェース12,出力インターフェース13,RAM14に接続されている。そして、ROM11には、マシニングセンタ1の制御を行う制御プログラムが記憶されており、CPU10はROM11から制御プログラムを読み出し、この制御プログラムがRAM14に記憶された加工プログラムを読み出してワークの加工を実行する。RAM14には一時的な計算データ、表示データなども格納される。
そして、入力インターフェース12には、キーボード15、軸方向選択スイッチ16、量選択スイッチ17が接続されている。キーボード15は、マシニングセンタ1に種々の情報を入力することができる。軸方向選択スイッチ16及び量選択スイッチ17は、本発明の要部であり、軸方向選択スイッチ16は第1の実施の形態においてのみ使用される。量選択スイッチ17は、オーバライド量を指定するためのダイヤルスイッチであり(図3参照)、軸方向選択スイッチ16は、量選択スイッチ17において選択されているオーバライド量を適用させる軸を選択するためのダイヤルスイッチである(図3参照)。また、出力インターフェース13には、テーブル40をX軸方向へ移動させるためのX軸モータ31を駆動する駆動回路21、テーブル40をY軸方向へ移動させるためのY軸モータ32を駆動する駆動回路22、工具をZ軸方向へ移動させるためのZ軸モータ33を駆動するための駆動回路23、工具の主軸を回転させる主軸モータ34を駆動する駆動回路24、表示装置35の制御を行う制御回路25を接続している。なお、CPU10,ROM11,入力インターフェース12,出力インターフェース13,RAM14,駆動回路21,22,23,24,制御回路25等は、後部装置部19内の基板上に設けられている。
なお、第1の実施の形態のマシニングセンタ1では表示装置35及び制御回路25は備えられていなくともよい。また、第2の実施の形態では、軸方向選択スイッチ16は設けられておらず、表示装置35に図7に示すオーバライド設定画面351が表示される。
次に、図3乃至図6を参照して、第1の実施の形態について説明する。図3は、軸方向選択スイッチ16及び量選択スイッチ17の一例の正面図であり、図4は、ワークを加工するための加工プログラムであり、図5は、図4に示す加工プログラムによる工具2の軌跡を示す図であり、図6は、加工プログラムを読み込み、工具2を動作させる制御プログラムのフローチャートである。
図3に示すように、軸方向選択スイッチ16と量選択スイッチ17とは上下に並べて設けられている。軸方向選択スイッチ16はロータリスイッチであり、「−Z」、「全軸」、「−X」、「−Y」、「−X/−Y」の5つの目盛が設けられており、各目盛項目を択一的に選択することができる。ここで選択するのは、オーバライドをかける軸とその方向(ワーク4に対する工具2の移動方向)である。「−Z」ではZ軸のマイナス方向、「全軸」ではX,Y,Z軸全てのプラス方向及びマイナス方向、「−X」ではX軸のマイナス方向、「−Y」ではY軸のマイナス方向、「−X/−Y」ではX軸及びY軸のマイナス方向である。
また、量選択スイッチ17には、0%から200%までの目盛が設けられており、加工プログラムに設定されている工具2の移動速度(以下、「設定速度」という)に対して、どのくらい早くしたり、遅くしたりするかを連続的に可変設定することができる。100%が選択されている場合には、設定速度のままの速度とされ、100%より大きい場合には設定速度よりも速い速度とされ、100%未満の場合には設定速度よりも遅い速度とされる。200%では設定速度の倍の速度とされ、50%では設定速度の半分の速度とされる。
なお、本実施の形態では、図1に示すように、工具2の下方に冶具3が設けられており、Z軸は、冶具3から工具2へ向かう方向(上方向)がプラス方向、工具2から冶具3へ向かう方向(下方向)がマイナス方向とされる(図1,5参照)。また、X軸及びY軸は互いに直交する直線であり、かつ、両軸ともZ軸に直交しており、X軸では右方向がプラス方向、Y軸では手前方向がプラス方向とされる。
ここで、加工プログラムについて図4を用いて説明し、図4に示す加工プログラムによる工具2及びテーブル40の動作について、図5のイメージ図を用いて説明する。図4に示すように、加工プログラムでは、1行を1ブロックとして工具2及びテーブル40の1移動を定義している。各行の先頭に「N」と3桁の数字で表されているブロック番号が記載されている。図4に示す例では、「N101」〜「N107」までの7ブロックが表示されている。そして、工具2を移動させる座標位置が記され、行の末尾に移動速度が記されている。
例えば、「X10」はX座標の原点から10mmの位置を示しており、「Z70」はZ座標の原点から70mmの位置を示している。図4に示す例には記載されていないが、「Y30」はY座標の原点から30mmの位置を示している。なお、本実施の形態のマシニングセンタ1では、X軸方向及びY軸方向への移動は、テーブル40が移動することにより、冶具3及びワーク4が移動することとなる。すなわち、原点から「X10」へ工具2を移動させるためには、テーブル40をX軸のマイナス方向へ10mm移動させることとなり、「Y30」へ工具2を移動させるためには、テーブル40をY軸のマイナス方向へ30mm移動させることとなる。
そして、「F」と4桁の数字で工具2の移動速度が示されている。「F」は速度を示すことを表すアルファベットであり、数値は1分で進む距離(mm)を表している。「F1000」は、分速1000mmを示している。
したがって、図4に示す加工プログラムは、まず、X座標10、Z座標70の位置へ1000mm/分で工具2及びテーブル40を移動させ(N101)、次に、Z座標50の位置へ1000mm/分で工具2を移動させ(N102)、次に、Z座標70の位置へ1000mm/分で工具2を移動させ(N103)、次に、X座標20の位置へ1000mm/分でテーブル40を移動させ(N104)、次に、X座標30、Z座標50の位置へ1000mm/分で工具2及びテーブル40を移動させ(N105)、次に、Z座標70の位置へ1000mm/分で工具2を移動させ(N106)、次に、Z座標100の位置へ1000mm/分で工具2を移動させる(N107)。
図5では、X軸及びZ軸に平行な面(Y座標の位置は工具2の開始位置と同じ)での冶具3に固定されたワーク4及び工具2の断面図が表示されている。図5では、図5における左右方向がX軸と平行な方向、上下方向がZ軸と平行な方向、紙面に垂直な方向がY軸方向となっている。そして、図5に示す矢印は、テーブル40に対する工具2の先端部分の移動軌跡である。なお、工具2の先端部(矢印Aの始点)が「X0、Z100」の位置であるとする。そして、矢印AがN101ブロックによる移動軌跡、矢印BがN102ブロックによる移動軌跡、矢印CがN103ブロックによる移動軌跡、矢印DがN104ブロックによる移動軌跡、矢印EがN105ブロックによる移動軌跡、矢印FがN106ブロックによる移動軌跡、矢印GがN107ブロックによる移動軌跡を表している。
例えば、軸方向選択スイッチ16において「−Z」が選択され、量選択スイッチ17において50%が選択されている場合には、Z軸においてワーク4(冶具3)に近づく方向(本実施の形態では、値が小さくなる方向)に工具2が移動する際に、速度が加工プログラムに記載の速度の半分となる。図4に示す加工プログラムでは、図5における矢印A(N101)、矢印B(N102)、矢印E(N105)の3つの移動が500mm/分の速度となり、より遅く移動されることとなる。
次に、図6のフローチャートを参照して、マシニングセンタ1のCPU10において実施される制御プログラムによる加工プログラムの実施処理について説明する。キーボード15から加工開始を指示する操作が行われると(S1)、加工プログラムが1ブロック読み込まれる(S2)。図4に示す例では「N101 X10 Z70 F1000」が読み込まれる。そして、読み込まれた加工プログラムのブロックの解析が行われる(S3)。具体的には、現在の工具2の位置、移動先の座標、移動速度が読み込まれ、X軸、Y軸、Z軸方向への移動距離が算出され、速度がRAM14に記憶される。「N101 X10 Z70 F1000」では、開始位置が「X0 Z100」であり、X軸プラス方向に10mm、Z軸マイナス方向に30mm移動させ、速度は1000mm/分という情報がセットされる。
そして、移動量時分割処理が行われる(S4)。モータによる工具2の移動は通常数ms単位の移動に分割されて制御される。この分割単位時間は装置により異なるが、本実施の形態では6msを分割の単位とする。そこで、1分割単位時間あたりどの軸の方向にどれだけ移動させればよいかを算出する。また、移動済みの量や移動残量も算出される。これらの情報はRAM14に記憶される。
そこで、工具2の移動速度が1000mm/分である場合には、1分割単位時間(6ms)で0.1mm移動することとなる。「N101 X10 Z70 F1000」では、X軸方向及びZ軸方向の2方向に移動しなければならない。そこで、1分割単位時間ごとに、X軸方向及びZ軸方向に移動する。矢印Aで示した軌跡である直線を線分Pとする。そして、矢印A(線分P)の始点からX軸に平行な直線を引き、矢印Aの終点からZ軸に平行な直線を引くとこの2直線は交わる。そこで、矢印Aの始点から交点までの線分を線分Q、矢印Aの終点から交点までの線分を線分Rとする。線分P,Q,Rは線分Qと線分Rのなす角を直角とする直角三角形を成す。線分PはX軸プラス方向に10mm、Z軸マイナス方向に30mm移動させる軌跡なので、線分Qは10mm、線分Rは30mmとなり、線分Pの長さは、10√10mmとなる。よって、P:Q:R=√10:1:3である。したがって、1分割単位時間で線分A上を0.1mm移動させるためには、X軸(線分Q)プラス方向にqmm移動させ、Z軸(線分R)マイナス方向にrmm移動させるとすると、√10:1:3=0.1:q:rとなる。よって、X軸(線分Q)プラス方向にq=√10/100(約0.0316)mm移動させ、Z軸(線分R)マイナス方向にr=3√10/100(約0.0949)mm移動させればよいことが分かる。
そして、移動量時分割処理が行われると(S4)、当該移動が、軸方向選択スイッチ16で選択されているオーバライド選択軸及び移動方向が含まれているか否かの判断が行われる(S5)。例えば、軸方向選択スイッチ16で「−Z」が選択されているとすると、「N101 X10 Z70」では、X軸プラス方向に√10/100mm、Z軸マイナス方向に3√10/100mm移動させるので、軸方向選択スイッチ16で選択されているオーバライド選択軸及び移動方向が含まれていることになる(S5:YES)。
そこで、量選択スイッチ17で指定されているオーバライド量が読み込まれ、S3の加工プログラムの解析で設定された速度にオーバライド量がかけられて補正される(S7)。例えば、量選択スイッチ17で50%が指定されているとすると、「N101 X10 Z70 F1000」では、RAM14に記憶されている速度は「F500」とされるので、1単位時間当たりの移動距離は50%となり、X軸プラス方向に√10/50mm、Z軸マイナス方向に3√10/50mm移動させることとなる。
そして、RAM14に記憶されている速度、移動軸、移動方向、移動量に基づいて工具2又はテーブル40を移動させながら動作させるための指示が駆動回路21,22,23,24へ出力される(S8)。具体的には、モータの単位であるパルスへ変換され、さらに電流値へ変換されて、モータが作動することとなる。「N101 X10 Z70 F1000」では、X軸マイナス方向に√10/100mmテーブル40を移動させるためにX軸モータ31を駆動させながら、主軸モータ34を駆動させる指示が、駆動回路21及び駆動回路24へ出力され、その後、Z軸マイナス方向に3√10/100mm工具2を移動させるためにZ軸モータ33を駆動させながら、主軸モータ34を駆動させる指示が駆動回路23及び駆動回路24へ出力される。
そして、当該ブロックの移動が最後まで終了したか否かの判断が行われる(S9)。最後まで終了していなければ(S9:NO)、S4へ戻り、次の1分割単位時間の処理が行われる(S4〜S9)。そして、繰り返しS4〜S9の処理が行われて、当該ブロックの全ての移動が終了したら(S9:YES)、当該加工プログラムの全てのブロックの処理が終了したか否かの判断が行われる(S10)。そして、まだ全てのブロックの処理が終了していなければ(S10:NO)、S2へ戻り、次のブロックが加工プログラムから読み込まれる(S2)。そして、S2〜S10の処理が繰り返し実行され、全てのブロックの処理が終了したら、プログラムの終了と判断されて(S10:YES)、処理は終了する。
なお、N103,N104,N106,N107ブロックのように、X軸方向にのみ移動する場合、Z軸のプラス方向へ移動する場合には、S5にて軸方向選択スイッチ16で選択されているオーバライド選択軸及び移動方向が含まれていないと判断され(S5:NO)、オーバライドはかけられず、設定速度のままテーブル40の移動が行われる。
以上のようにして、軸方向選択スイッチ16及び指定されている軸及び方向に工具2が移動する場合にのみ、量選択スイッチ17で指定されている量のオーバライドをかけて移動速度を変更することができる。したがって、加工プログラムの動作確認の試運転を行い、目視により加工動作の確認を行う際に、工具2がワーク4に近づき、慎重に確認を行う必要がある移動のみ速度を遅くし、その他の移動については設定速度で移動して遅くならないので、全ての工程の移動を遅くするのに比べて確認者の負担を軽減することができる。特に、ドリル、タップ(ねじ切り)加工の多い機械に有効である。また、確認者が試運転時に加工プログラムのブロックごとに速度設定をしたり、移動を止めたりする必要がないので、手間もかからず、全体的な処理時間も短くなり、確認者の負担を軽減することができる。
次に、図7乃至図10を参照して、第2の実施の形態について説明する。図7は、表示装置35に表示されるオーバライド設定画面351のイメージ図であり、図8は、ワークを加工するための加工プログラムであり、図9は、図8に示す加工プログラムによる工具2の軌跡を示す図であり、図10は、加工プログラムを読み込み、工具2を動作させる制御プログラムのフローチャートである。
図7に示すように、オーバライド設定画面351では、中心座標のX軸の値、Y軸の値、Z軸の値を入力することができる。図7に示す例では、X軸で「30.000」、Y軸で「50.000」、Z軸は未設定となっている。したがって、X=30mm、Y=50mmの直線に向かって近づく場合に量選択スイッチ17で指定されている割合でオーバライドがかけられる。
次に、図8に示す加工プログラムによる工具2及びテーブル40の動作について、図9のイメージ図を用いて説明する。図8に示すように、加工プログラムでは、図4に示した加工プログラムと同様に、1行を1ブロックとして工具2及びテーブル40の1移動を定義しており、「N」と3桁の数字で表されているブロック番号が記載され、工具2を移動させる座標位置が記され、「F」と4桁の数字で工具2の移動速度が示されている。
図8に示す例では、まず、Y座標0mmの位置へテーブル40を500mm/分で移動させ(N501)、次に、X座標30mmの位置へテーブル40を500mm/分で移動させ(N502)、次に、Y座標100mmの位置へ500mm/分でテーブル40を移動させ(N503)、次に、X座標60mmの位置へ500mm/分でテーブル40を移動させ(N504)、次に、Y座標0mmの位置へ500mm/分でテーブル40を移動させる(N505)。
図9では、X軸及びY軸に平行な面での冶具3に固定されたワーク4及び工具2の平面図が表示されている。図9では、図9における左右方向がX軸と平行な方向、上下方向がY軸と平行な方向、紙面に垂直な方向がY軸方向となっている。そして、図9に示す矢印は工具2の先端部分のテーブル40に対する移動軌跡であり、矢印H−2の終端部がX0、Y0の位置であるとする。そして、矢印H−1及び矢印H−2がN501ブロックによる移動軌跡、矢印IがN502ブロックによる移動軌跡、矢印J−1,J−2がN603ブロックによる移動軌跡、矢印KがN604ブロックによる移動軌跡、矢印L−1,L−2がN507ブロックによる移動軌跡を現している。そして、点50は、図7のオーバライド設定画面351で設定された中心座標の示す位置(X=30、Y=50)である。
例えば、量選択スイッチ17において60%が選択されている場合には、中心座標(点50)へ近づく移動である、矢印H−1,I,J−1,L−1の移動のみ設定速度の60%(300mm/分割単位時間)で移動することとなる。
次に、図10のフローチャートを参照して、第2の実施の形態におけるマシニングセンタ1のCPU10において実施される制御プログラムによる加工プログラムの実施処理について説明する。尚、S11〜S14、S17〜S20については、それぞれ第1の実施の形態のS1〜S4、S7〜S10と同様である。
まず、キーボード15から加工開始を指示する操作が行われると(S11)、加工プログラムが1ブロック読み込まれる(S12)。図8に示す例では「N501 Y0 F500」が読み込まれる。そして、読み込まれた加工プログラムのブロックの解析が行われる(S13)。「N501 Y0 F500」では、開始位置が「X0 Y100」であり、Y軸マイナス方向に100mm移動させ、速度は500mm/分という情報がセットされる。
そして、移動量時分割処理が行われ、1分割単位時間(6ms)あたりの各軸の移動距離、移動済みの量、移動残量等が算出される(S14)。「N501 Y0 F500」では、500mm/分なので1分割単位時間(6ms)でY軸のマイナス方向に0.05mm移動させることとなる。
そして、移動量時分割処理が行われると(S14)、中心座標が設定されている軸を含む移動であるか否かの判断が行われる(S15)。そして、含む移動である場合には(S15:YES)、中心座標に近づく移動であるか否かの判断が行われる(S16)。「N501 Y0 F500」では、Y軸方向の移動が行われ、X軸の移動は行われないので、Y軸について中心座標が設定されているか否かの判断が行われる。Y軸については「50」と設定されているので(S15:YES)、中心座標(X=30、Y=50)に近づくかの判断が行われる(S16)。この場合、開始位置がY100、終了位置がY0、中心座標Y50なので、Y100からY50へ移動するまで(矢印H−1)は近づくと判断され(S16:YES)、Y50からY0へ移動するまで(矢印H−2)は近づかないと判断される(S16:NO)。
そして、中心座標が設定されている軸の移動があり、かつ、中心座標に近づいている場合には(S15:YES,S16:YES)、量選択スイッチ17で指定されているオーバライド量が読み込まれ、S13の加工プログラムの解析で設定された速度にオーバライド量がかけられて補正される(S17)。例えば、量選択スイッチ17で60%が指定されているとすると、「N501 Y0 F500」では、RAM14に記憶されている速度は「F300」とされるので、1単位時間当たりの移動距離も60%となり、Y軸マイナス方向に0.03mm移動させることとなる。
そして、RAM14に記憶されている速度、移動軸、移動方向、移動量に基づいて工具2又はテーブル40を移動させながら動作させるための指示が駆動回路21,22,23,24へ出力され(S18)、当該ブロックの移動が最後まで終了したか否かの判断が行われる(S19)。最後まで終了していなければ(S19:NO)、S14へ戻り、次の1分割単位時間の処理が行われる(S14〜S19)。そして、繰り返しS14〜S19の処理が行われて、当該ブロックの全ての移動が終了したら(S19:YES)、当該加工プログラムの全てのブロックの処理が終了したか否かの判断が行われる(S20)。そして、まだ全てのブロックの処理が終了していなければ(S20:NO)、S12へ戻り、次のブロックが加工プログラムから読み込まれる(S12)。そして、S12〜S20の処理が繰り返し実行され、全てのブロックの処理が終了したら、プログラムの終了と判断されて(S20:YES)、処理は終了する。
なお、矢印H−2,J−2,K,L−2のように、中心座標から遠ざかる場合や(S15:YES,S16:YES)、図8に示す加工プログラムの例にはないが、Z軸方向のみに移動する場合には(S15:NO)、オーバライドはかけられず、設定速度のままの移動が行われる。
以上のようにして、オーバライド設定画面351で指定されている中心座標に近づく方向に工具2又はテーブル40が移動する場合にのみ、量選択スイッチ17指定されている量のオーバライドをかけて移動速度を変更することができる。したがって、加工プログラムの動作確認の試運転を行い、目視により加工動作の確認を行う際に、工具2が中心座標に近づき、慎重に確認を行う必要がある移動のみ速度を遅くし、その他の移動については設定速度で移動して遅くならないので、全ての移動を遅くするのに比べて確認者の負担を軽減することができる。また、確認者が試運転時に加工プログラムのブロックごとに速度設定をしたり、移動を止めたりする必要がないので、手間もかからず、全体的な処理時間も短くなり、確認者の負担を軽減することができる。
尚、X軸モータ31、駆動回路21、Y軸モータ32、駆動回路22、Z軸モータ33、駆動回路23が「移動手段」に該当する。図6に示すS5の処理をするCPU10が「移動判断手段」に相当し、図6に示すS7の処理をするCPU10「オーバライド制御手段」に相当する。
尚、本発明の数値制御装置は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。数値制御装置としては、図2に示した縦型のマシニングセンタ1に限らないことは言うまでもなく、横型のマシニングセンタ等種々のマシニングセンタであってもよい。また、上記実施の形態のマシニングセンタ1は、工具2はZ軸方向のみに移動し、XY軸方向にはテーブル40が移動するものであるが、工具2がXYZ軸方向に移動するようなマシニングセンタであってもよいことはいうまでもない。
例えば、マシニングセンタ1への入力はキーボード15によるものに限らない。上記実施の形態では、キーボード15から加工開始を指示する操作が行われているが、加工開始ボタンを設けて入力インターフェース12に接続し、加工開始ボタンの選択により加工開始の指示を受けるようにしてもよい。この場合には、第1の実施の形態ではキーボード15は備えられていなくともよい。また、表示装置35をタッチパネルとして表示装置35において入力を受け付けるようにしてもよい。
また、上記では、軸方向選択スイッチ16を用いる第1の実施の形態と、中心座標を設定する第2の実施の形態とを説明したが、両方を備えた数値制御装置であってもよい。また、軸ごと又は軸及び軸方向ごとにオーバライド量を設定するようにし、設定されている軸又は軸及び軸方向を含む移動である場合に、それぞれに設定されているオーバライド量をかけてもよい。