JP4660937B2 - ポリエステル繊維の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はポリエステル繊維の製造方法に関する。詳しくは力学特性が良好なポリエステル繊維の生産性に優れる製造方法、さらに詳しくは高速生産に適し、省スペース、省エネルギーであり、かつ力学特性、特に強度に優れるポリエステル繊維の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレンテレフタレートをはじめとするポリエステル繊維は強度、弾性率、寸法安定性においてバランスよく優れた特性をもち、かつ比較的安価に製造できるため、衣料用途のみならず、産業用途にも広く使用されている。
【0003】
ポリエステル繊維が産業用途に用いられる場合、一般に最も重要視される特性は力学的特性、例えばその強度が大きいことであり、ポリエステル繊維の産業用としての用途が広がるにつれ、さらなる高強度化への要望が高まってきている。また一方ではポリエステル繊維の「比較的安価に製造できる」という力学的特性から見たコストパフォーマンスの良さも重要視されており、他素材との競争力を高めるため生産性の向上、昨今の繊維製造事情を考えると高速化、省スペース、省エネルギー化が強く望まれている。
【0004】
高強度ポリエステル繊維の代表的な製造法は「繊維便覧」p.107(繊維学会編、丸善(1994))にあり、高[η]すなわち高IVポリエチレンテレフタレートで低配向原糸を得て、高倍率延伸、高温セットを施すという手法が長らく採用されている。このため、工業的には一般に低紡糸速度で溶融紡糸したポリエステル未延伸糸に、加熱ローラを用いて多段延伸を施す製法が行われている。
【0005】
しかしこの手法では、生産性向上のため延伸速度を高速化した場合、繊維の加熱ローラーへの接触時間を維持するためローラー上への多周巻き付けあるいはローラー大径化が必要となり、ローラーのためのスペースが広く必要となる問題があることに加え、ローラー表面速度が上昇することによりローラー加熱効率が悪化するという問題がある。
【0006】
このような問題を解消するためには延伸段数を減少させ、使用するローラーの個数を減少させれば良いのだが、加熱ローラーを用いると、1段で高倍率延伸を行うと単糸切れ、毛羽が発生するため、多段延伸と同程度の延伸倍率を1段で得ることは困難である。このため延伸倍率を低くせざるを得ず、得られる繊維の強度は低下してしまうという問題がある。
【0007】
これを防ぐため、加熱ローラー温度を高めることも考えられるが、この場合はローラー上で未延伸糸が融着してしまい、延伸倍率を高めることは出来ないばかりか、得られる繊維の品質も悪化してしまう。
【0008】
また一般にIVを高めると得られる繊維の強度は向上するため、高IVポリエステルを用いることでこの問題を解消することも考えられる。しかし高IVポリエステルの場合、加熱ローラーを用いて1段で高倍率延伸を施すと単糸切れや毛羽発生の傾向はより顕著になり、1段では延伸倍率を高めることができず、むしろ強度が低下してしまう。
【0009】
このように従来の手法では高強度ポリエステル繊維の生産性を向上するため延伸速度を高速化すると延伸スペースを広く必要とし、加えて加熱効率の悪化からエネルギー負荷が大きく増加するという問題を抱えており、さらに延伸段数を減少せしめるため加熱ローラーの温度を高めたり、未延伸糸IVを高めても、1段では延伸倍率を大きくすることができず、強度が低下する問題もあった。これは延伸する際の加熱手法が十分考慮されていないためである。
【0010】
ところで、延伸を行う際の加熱源としてレーザ光を用いる技術が特開昭48-45612号公報等により知られている。この中で特開昭60-94619号および61-75811号公報にはレーザ光により多段延伸して得た高配向非晶繊維を熱処理により結晶化せしめることにより超高強力糸が得られる技術が開示されており、注目される。
【0011】
しかし該公報記載の手法は、ある特定条件の下でレーザを用いて多段延伸を行うというものであり、スペースを広く必要とするうえに、複数のレーザー照射装置が必要となり、省スペース、省エネルギーは達成されていない。さらに該公報には延伸速度の規定はないものの、実施例での延伸速度は最高でも約300m/minであり生産性が低い。さらに該公報に記載されている未延伸糸のIVは高いものでも0.80であり、これを越える高IV領域でのレーザ延伸の特徴については何ら言及されていない。
【0012】
また成形加工シンポジア'99,p.185(1999)およびFiber Preprints,Japan,Vol.55,No.1,p.30(2000)、Fiber Preprints,Japan,Vol.55,No.3,p.38(2000)等にはレーザを用いた1段延伸によるポリエステル繊維の高強度化技術が示されている。しかしこの手法でも延伸速度は最高でも約100m/minと遅く、生産性が低いという問題がある。
【0013】
この様に、高強度ポリエステル繊維を得るためにレーザ光を用いる従来技術では繊維の高強度化は達成できているようであるが、ポリエステル繊維が有するコストパフォーマンスの良さを発揮するために重要視される延伸速度高速化による生産性の向上は犠牲にされているという課題があった。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、力学特性、特に強度に優れるポリエステル繊維を生産性に優れかつ省スペース、省エネルギーで製造する方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、レーザ加熱延伸による高強度ポリエステル繊維の生産性向上について鋭意検討を重ねてきた。その中で、未延伸糸のIVと配向・結晶化度および延伸速度がある一定条件を満たすことによって従来技術の欠点を解消できることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0016】
すなわち、本発明は固有粘度IVが0.85以上、密度が1.345g/cm以下、複屈折率△nが0.040以下であるポリエステル未延伸糸にレーザ出力50〜160Wでレーザ光を照射し、延伸速度400m/min以上で実質的に1段で延伸を施すことを特徴とするポリエステル繊維の製造方法を提供するものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明でいうポリエステルとは、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体であり、好ましくはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートであり、より好ましくはポリエチレンテレフタレートである。
【0018】
また本発明で用いるポリエステルは、発明の主旨を損ねない範囲で他の成分が共重合されていても良い。さらに、本発明のポリエステルは艶消剤、難燃剤、滑剤等の添加剤を少量含有しても良い。共重合成分としては、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸等の芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらの誘導体、またプロピレングリコール、ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSのような芳香族、脂肪族、脂環族のジオール化合物を挙げることができる。
【0019】
本発明での延伸における要件はIVが0.85以上、密度1.345g/cm以下、複屈折率△n0.040以下であるポリエステル未延伸糸にレーザ出力50〜160Wでレーザ光を照射し、延伸速度400m/min以上で実質的に1段で延伸を施すことである。このような延伸条件を採用することで強度1.0GPa以上である高強度ポリエステル繊維を高速、省スペース、省エネルギーで製造することができるのである。本発明者らはレーザ延伸技術について検討を行い本発明に至った。以下、詳細に説明する。
【0020】
高強度繊維を得るために必要なことは高IVポリエステルを高倍率かつ均一に延伸することで分子鎖を引き伸ばし、その後、引き伸ばされた分子鎖を緩和させず結晶化させることである。高倍率かつ均一な延伸を実現するためには高IV未延伸糸を十分可塑化する必要があり、このため十分な加熱が要求される。また均一な延伸を施すためには1段で急激な延伸を加えることは好ましくないと考えられる。このため従来のローラー加熱延伸で高速延伸を行うには、広大なスペースで高温多段延伸を行う必要があった。
【0021】
そこでレーザ光による加熱が重要となる。レーザ光を用い延伸を行う特徴は、均一性などもあるが最大の特徴は大過剰のエネルギーを瞬間的に糸条に与えることができる点にある。省スペース化の理想的な形は1段延伸であるため、本発明者らは十分なレーザ光を照射することで高IV未延伸糸を1段で高倍率かつ均一に延伸できると考えた。しかしながら単にレーザ光を用い延伸するだけでは1段で高倍率延伸を達成できず、繊維の溶断等の問題が発生した。この現象について延伸速度との関係を中心に検討を進めた結果、1段で高倍率延伸を行う際の未延伸糸IVと延伸速度の関係が重要であることを見出した。
【0022】
すなわち0.85以上という高IVの未延伸糸を用い、延伸速度を400m/min以上とすることで高い延伸張力による分子鎖の十分な引き延ばしを実現し、かつ繊維の過度の加熱による溶断を防ぎ、さらに高張力下での安定した延伸をも同時に達成し得たのである。加えて延伸速度を400m/min以上と高速化することは生産性の向上に大きく貢献することから、本発明は1段延伸による省エネルギー、省スペース化と高速化による生産性向上を同時に達成し得るのである。
【0023】
加えて、本発明者らは上述した条件下でレーザ出力50〜160Wでレーザ光を用い延伸することで十分に結晶化した繊維が得られることも見出した。これはレーザ光が大過剰のエネルギーを瞬間的に糸条に与えることができるため、レーザ照射領域中で分子鎖を引き伸ばした後、引き続いて連続的に加熱され、結晶化も起こるためと推測する。したがってレーザを照射し、1段で高倍率延伸を行うことで実用的な高強度繊維が得られるのである。
【0024】
本発明の方法を用いることで、同一原糸を用いても一般的な加熱延伸を施した繊維に比べ強度が高くなるが、その理由については以下のように考える。
【0025】
従来の一般的な加熱手法は高温物に繊維を接触させて加熱するものであり、繊維内部への加熱は主に熱伝導、単糸間での加熱は主に熱伝達であるため均一加熱が難しい。加えて、特に未延伸糸のIVが増加すると分子鎖1本あたりの絡み合い点の数が増加するせいか、温度上昇に伴い結晶化類似の凝集構造が形成されやすくなり、高倍率延伸がより困難となる。非接触式の加熱手段も種々考案されているが、全て繊維表面を加熱させる方式であるため、上記した問題点は解決できない。
【0026】
一方レーザは単一波長で構成されており、照射物に対し適当な透過率を持つ波長のレーザを用いることで繊維断面内を均一かつ瞬間的に加熱することができる。このためIVが高い未延伸糸を用いても、凝集構造が発達する前に延伸を施すことができ、高倍率延伸が達成されると考えられる。
【0027】
加えてレーザ加熱は非接触で行うことができるため、加熱し可塑化した状態で繊維に傷を付けることもなく、さらに1段延伸であるため糸条へのローラー等の接触が極限的に減少でき、糸条へのダメージを小さくできる。これらの理由により繊維の強度が向上すると考えられる。
【0028】
本発明に用いるポリエステル未延伸糸は加熱時の溶断や高延伸張力下での糸切れに対する耐性を高めるためIVを0.85以上、好ましくは0.90以上とする。このような高IVの未延伸糸を用いることでレーザを用いても安定した延伸を行うことができ、かつ1段延伸でも強度1.0GPa以上の高強度繊維が得られる。
【0029】
本発明に用いるポリエステル未延伸糸は密度1.345g/cm3以下、複屈折率△n0.040以下である。レーザによる加熱をもってしても結晶化したポリエステル繊維の高倍率延伸は困難であるため、配向結晶化が小さいことが望ましく、配向結晶化の指標である△n、密度は小さい方が好ましい。
【0030】
本発明に用いるレーザ光は単一波長で構成される光線であり、好ましくは炭酸ガスレーザである。レーザ光の照射方法は任意であり、平行光でもレンズを用い集光して照射しても良いし、片面照射でも多方向から照射しても良い。照射効率を高めるため反射を利用した多面照射を行うことが好ましい。なおレーザ出力は照射効率に加え糸条の走行速度、表面形態、添加物の影響などがあり一概に規定できないが、糸条に大過剰のエネルギーを付与するため、糸条が溶断しない程度に高めることが好ましい。したがってレーザ照射により糸条に与えられるエネルギーの範囲は以下の範囲が好ましい。
【0031】
【数1】
Figure 0004660937
本発明における延伸倍率は実質的に1段である。ここで言う実質的とは、工程安定化のために付与する延伸前後での若干のストレッチを延伸倍率には含まないことを意味する。レーザを照射しつつ多段延伸を行うことも可能ではあるが、結晶化した糸のさらなる延伸は困難であり、高倍率延伸が達成できないことに加え、ローラー数が増加するとスペース、エネルギーの負荷が増え、糸条への損傷も懸念されることから好ましくない。
【0032】
本発明における延伸速度は400m/min以上である。なお本発明で言う延伸速度とは延伸後最初に通過するローラーの速度である。延伸速度が400m/min以上の高速延伸とすることで、高IVかつ低配向の未延伸糸でも1段で高倍率延伸が達成できる。このため直接紡糸延伸は好適な実施形態である。直接紡糸延伸の場合、原糸の配向結晶化を抑えるため引取速度は2500m/min以下とし、一旦引き取った後にローラー間でレーザ光を照射し延伸する方が延伸倍率を制御する上で好ましい。なお本発明における直接紡糸延伸での未延伸糸の物性はレーザ照射を行う直前のローラーを通過した糸をアスピレーター等で吸引し、採取した糸の物性を言う。
【0033】
本発明の延伸手法を用いることで、レーザ延伸のみで実用的な高強度繊維が得られるが、さらに低収縮、高弾性率、高強度といった特性を向上させるためにレーザ延伸後に熱処理帯を設けても良い。この場合、レーザ延伸により高度に分子鎖は配向、結晶化しているため、熱処理温度は180℃以上とすることが好ましい。
【0034】
以下実施例により、本発明を具体的かつより詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。なお、実施例中の物性値は以下の方法によって測定した。
【0035】
【実施例】
A.IV
オルソクロロフェノール、25℃で測定した。
【0036】
B.強度・伸度
オリエンテック社製テンシロン引張試験機を用い、未延伸糸は初期試料長50mm、引張速度400mm/min、延伸糸は初期試料長200mm、引張速度200mm/minで測定し求めた。
【0037】
C.密度
臭化ナトリウム水溶液による密度勾配管法で測定した。
【0038】
D.複屈折率(△n)
OLYMPUS社製BH−2偏光顕微鏡コンペンセーターを用い、通常の干渉縞法によって、レターデーションと繊維径より求めた。
【0039】
参考例1
IV1.47のポリエチレンテレフタレートを2軸エクストルーダーを用い紡糸温度295℃で孔径0.36mmφ、孔数48の紡糸口金より吐出量35g/minで吐出し、500m/minの紡糸速度で引き取ってポリエステル未延伸糸を得た。
【0040】
参考例2
IV0.98のポリエチレンテレフタレートを用い、吐出量を90g/min、紡糸速度を2000m/minとする以外は参考例1と同様の方法で紡糸を行いポリエステル未延伸糸を得た。
【0041】
参考例3
IV1.18のポリエチレンテレフタレートを用い、紡糸口金の口径を0.40mmφ、吐出量を95g/min、紡糸速度を2500m/minとする以外は参考例1と同様の方法で紡糸を行いポリエステル未延伸糸を得た。
【0042】
参考例4
IV1.15のポリエチレンテレフタレートを用い、紡糸口金の口径を0.40mmφ、吐出量を100g/min、紡糸速度を4000m/minとする以外は参考例1と同様の方法で紡糸を行いポリエステル未延伸糸を得た。
【0043】
参考例5
IV0.64のポリエチレンテレフタレートを用い、紡糸口金の口径を0.24mmφ、吐出量を100g/min、紡糸速度を2000m/minとする以外は参考例1と同様の方法で紡糸を行いポリエステル未延伸糸を得た。
【0044】
参考例1〜5で得られた未延伸糸の物性を表1に示す。
【0045】
【表1】
Figure 0004660937
実施例1
参考例1で得た未延伸糸を第1ローラー98m/min、第2ローラー500m/min(延伸倍率5.1)とし、第1と第2ローラーの間で出力60Wの炭酸ガスレーザを照射し延伸を行った。なお各ローラーは特に加熱していない。
【0046】
延伸中に糸切れは発生せず、安定した延伸が可能であった。得られた延伸糸物性を表2に示す。
【0047】
表2から高IVの未延伸糸を高速でレーザ延伸することにより1段延伸で1.0GPaを越える十分な強度を持つ延伸糸が得られることが分かる。
【0048】
【表2】
Figure 0004660937
比較例1
レーザを照射せず第1ローラーを90℃、第2ローラーを180℃と加熱すること以外は実施例1と同様の方法で延伸を試みたが、断糸が頻発したため第1ローラーを104m/min(延伸倍率4.8)として延伸を行った。得られた延伸糸物性を表2に示す。
【0049】
表2から通常の加熱延伸では高IVの未延伸糸を十分に延伸することができず、レーザ延伸に比べ延伸倍率が低く、得られる繊維の強度が低下することが分かる。
【0050】
実施例2
参考例2で得た未延伸糸を用い、第1ローラー速度を345m/min、第2ローラー速度を1000m/min(延伸倍率2.9)、レーザー照射出力を80Wとすること以外は実施例1と同様の方法で延伸を行った。
【0051】
延伸中に糸切れは発生せず、安定した延伸が可能であった。得られた延伸糸物性を表2に示す。
【0052】
表2から未延伸糸のIVが0.85であれば高速でレーザ延伸することにより1段延伸で十分な強度を持つ延伸糸が得られることが分かる。
【0053】
実施例3
参考例3で得た未延伸糸を用い、第1ローラー速度を167m/min、第2ローラー速度を400m/min(延伸倍率2.4)とし、レーザ出力を50Wとすること以外は実施例1と同様の方法で延伸を行った。
【0054】
延伸中にローラーへの単糸巻き付きが1度発生したが、概ね安定した延伸が可能であった。得られた延伸糸物性を表2に示す。
【0055】
表2から未延伸糸密度が1.344g/cm3以下、△nが40×10-3以下ならば延伸速度400m/minでの安定したレーザ1段延伸が可能であり、十分な強度を持つ延伸糸が得られることが分かる。
【0056】
比較例2
参考例4で得た未延伸糸を用い、第1ローラー速度を385m/min(延伸倍率1.3)とし、レーザ出力を50Wとすること以外は実施例1と同様の方法で延伸を行った。
【0057】
延伸中にローラーへの単糸巻き付きが2〜3度発生し、延伸挙動はやや不安定であった。得られた延伸糸物性を表2に示す。
【0058】
表2から未延伸糸密度が1.371g/cm3、△nが75×10-3では延伸速度500m/minでの安定したレーザ1段延伸は困難であり、得られる延伸糸強度も不十分であることが分かる。
【0059】
比較例3
参考例5で得た未延伸糸を用い、第1ローラー速度を152m/min(延伸倍率3.3)とし、レーザ出力を40Wとすること以外は実施例1と同様の方法で延伸を行った。
【0060】
延伸開始時に溶断が発生し、延伸挙動はやや不安定であった。得られた延伸糸物性を表2に示す。
【0061】
表2から未延伸糸IVが0.63では延伸速度500m/minでの安定したレーザ1段延伸は困難であり、得られる延伸糸強度も不十分であることが分かる。
【0062】
実施例4〜6
第2ローラーを180℃(実施例4)、230℃(実施例5)、220℃(実施例6)に加熱すること以外は、それぞれ実施例1〜3と同様の方法で延伸を行った。
【0063】
延伸中に糸切れは発生せず、安定した延伸が可能であった。得られた延伸糸物性を表3に示す。
【0064】
表3からレーザ延伸後に180℃以上で再加熱処理を施すことで、強度がさらに向上することが分かる。
【0065】
【表3】
Figure 0004660937
実施例7
IV1.47のポリエチレンテレフタレートを2軸エクストルーダーを用い紡糸温度295℃で孔径0.36mmφ、孔数48の紡糸口金より吐出量35g/minで吐出し、非加熱の第1ローラーにて500m/minの紡糸速度で引き取り、第1と第2ローラーの間で出力100Wの炭酸ガスレーザを照射し、非加熱の第2ローラーを2500m/min(延伸倍率5.0)として直接紡糸延伸を行った。
【0066】
直接紡糸延伸中に糸切れは発生せず、安定した製糸が可能であった。得られた延伸糸物性を表4に示す。
【0067】
表4から未延伸糸IV、△n、密度が特定条件を満たす場合に、レーザを用いることで直接紡糸延伸のような高速紡糸でも非加熱の1段延伸で1.0GPaを越える、十分な強度を持つ延伸糸が得られることが分かる。
【0068】
【表4】
Figure 0004660937
比較例4
第1ローラーを温度95℃、第2ローラーを温度180℃に加熱し、レーザを照射しないこと以外は実施例7と同様の方法で直接紡糸延伸を試みたが、ローラー間で糸切れが頻発するため、第2ローラー速度を2250m/min(延伸倍率4.5)として直接紡糸延伸を行った。得られた延伸糸物性を表4に示す。
【0069】
表4から加熱ローラーによる直接紡糸延伸ではレーザ加熱に比べ1段での延伸倍率が低く、十分な強度が得られないことが分かる。
【0070】
実施例8
IV0.98のポリエチレンテレフタレートを2軸エクストルーダーを用い紡糸温度295℃で孔径0.36mmφ、孔数48の紡糸口金より吐出量90g/minで吐出し、非加熱の第1ローラーにて2000m/minの紡糸速度で引き取り、第1と第2ローラーの間で出力160Wの炭酸ガスレーザを照射し、温度を180℃とした第2ローラーを5500m/min(延伸倍率2.75)として直接紡糸延伸を行った。
【0071】
直接紡糸延伸中に糸切れは発生せず、安定した製糸が可能であった。得られた延伸糸物性を表4に示す。
【0072】
表4から未延伸糸IVが0.85であれば、レーザを用いることで直接紡糸延伸のような高速紡糸でも非加熱の1段延伸で十分な強度を持つ延伸糸が得られることが分かる。
【0073】
実施例9
IV1.18のポリエチレンテレフタレートを2軸エクストルーダーを用い紡糸温度295℃で孔径0.40mmφ、孔数48の紡糸口金より吐出量95g/minで吐出し、非加熱の第1ローラーにて2500m/minの紡糸速度で引き取り、第1と第2ローラーの間で出力160Wの炭酸ガスレーザを照射し、温度を220℃とした第2ローラーを5625m/min(延伸倍率2.25)として直接紡糸延伸を行った。
【0074】
直接紡糸延伸中に糸切れは発生せず、安定した製糸が可能であった。得られた延伸糸物性を表4に示す。
【0075】
表4から未延伸糸密度が1.344g/cm3以下、△nが40×10-3以下ならばレーザを用いることで直接紡糸延伸のような高速紡糸でも非加熱の1段延伸で十分な強度を持つ延伸糸が得られることが分かる。
【0076】
【発明の効果】
力学特性、特に強度に優れるポリエステル繊維を高速かつ省スペース、省エネルギーで製造できる。

Claims (3)

  1. 固有粘度IVが0.85以上、密度が1.345g/cm以下、複屈折率△nが0.040以下であるポリエステル未延伸糸にレーザ出力50〜160Wでレーザ光を照射し、延伸速度400m/min以上で実質的に1段で延伸を施すことを特徴とするポリエステル繊維の製造方法。
  2. レーザ光が炭酸ガスレーザであることを特徴とする請求項1記載のポリエステル繊維の製造方法。
  3. ポリエステル未延伸糸を2500m/min以下の速度で引き取り、直接紡糸延伸を行い、巻き取ることを特徴とする請求項1または2記載のポリエステル繊維の製造方法。
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