以下、本発明の第1の実施例について図面を用いて説明する。第1の実施例では、プラズマ処理する試料が不揮発性材料である場合におけるエッチング処理を例にして、処理中における反応生成物の真空容器内壁への堆積を抑制する方法について説明する。
図1は、本実施例にかかるプラズマ処理装置の断面図を示す。真空容器2はその上部を閉塞する絶縁材料(例えば、石英、セラミック等の非導電性材料)製のベルジャ12を備え真空処理室を形成する。真空容器の内部には、被処理物である試料13を載置するための載置台5を備え、該処理室内にはプラズマ6を生成して試料を処理する。また、前記載置台5は載置台を含む資料保持部9上に形成される。
ベルジャ12の外周にはコイル状の上アンテナ1a及び下アンテナ1bを配置する。また、ベルジャ12の外側には、プラズマ6と静電容量的に結合する円盤状のファラデーシールド8を設ける。前記アンテナ1a及び1b及びファラデーシールド8は、後述するように整合器(マッチングボックス)3を介して高周波電源(第1の高周波電源)10に直列に接続する。また、ファラデーシールド8とアース間に並列にインピーダンスの大きさが可変可能な直列共振回路(可変コンデンサVC3及びリアクトルL2)を接続してある。
真空容器2内にはガス供給管4aを介して処理ガスを供給する。また、真空容器2内のガスは排気装置7によって所定の圧力に減圧排気される。ガス供給管4aより真空容器2内に処理ガスを供給し、この状態で前記処理ガスを前記アンテナ1a及び1bにより発生する電界の作用によってプラズマ化する。載置電極5には基板バイアス電源(第2の高周波電源)11を接続する。これにより、プラズマ6中に存在するイオンを試料13上に引き込むことができる。
なお、高周波電源10としては例えば、13.56MHz、27.12MHz、40.68MHZ等のHF帯の高周波電力、あるいは更に周波数が高いVHF帯等の高周波電源を用い、高周波電力を誘導結合アンテナ1a、1b及びファラデーシールド8に供給することにより、真空容器2内にプラズマ生成用の電界を得ることができる。このとき、整合器(マッチングボックス)3を用いて、誘導結合アンテナ1a,1bのインピーダンスを高周波電源10の出力インピーダンスに一致させることにより電力の反射を抑えることができる。整合器(マッチングボックス)3としては、例えば図に示すように可変容量コンデンサVc1、Vc2を逆L字型に接続したものを使用する。
ファラデーシールドは、図2に示すように、たて縞状のスリット14を有する導体製であり、セラミック製の真空真空容器(ベルジャ12)に重なる形で配置されている。ファラデーシールド8に印加する電圧は前記可変コンデンサ(図1に示すVC3)により調節可能である。ファラデーシールド8に印加する電圧(シールド電圧)ウエハ毎の処理レシピに対応して、あるいはクリーニング処理のレシピに対応して任意の値に設定できるようにしておくとよい。
なお、ファラデーシールドによる真空容器内壁クリーニングの原理は、ファラーデーシールドに印加した高周波電圧により、真空容器内部(ベルジャ内壁)にバイアス電圧を発生させ、これによりプラズマ中のイオンを真空容器壁に引き込み、引き込まれたイオンにより真空容器壁を衝撃し、物理的・化学的スパッタを生じさせて、真空容器壁への反応生成物の付着を防ぐものである。
ファラデーシールドによる壁内壁クリーニングには最適なファラデーシールド電圧(Faraday Shield Voltage;FSV)がある。この最適なFSVには、高周波電源周波数、真空容器壁材料、プラズマの密度、プラズマの組成、真空容器全体の構成および被処理物の材料、処理速度、処理面積が影響する。したがって、このFSVの最適値は、プロセスごとに変える必要がある。
図3はFSVを最適化する方法を説明する図であり、FSVと真空容器壁材料(例えば壁材料がアルミナである場合はアルミナを構成するアルミニウムあるいは酸素)の発光強度(光量)の関係を示したものである。図に示すように、あるFSV(図3ではb点)を境に、FSVが高くなると壁材料の発光が強くなる。これはb点以下のFSVでは壁に堆積物(デポ)が堆積している状態を示し、b点以上のFSVではデポがスパッタされて堆積しないだけでなく、壁材料自体もスパッタされていることを示している。
FSV最適値はb点の電圧であるが、プロセスによってはa点を最適値とする場合もある。例えば、真空壁材料のスパッタによって壁材料が気相中に放出されることにより被処理物の処理反応や気相中の反応が想定したものとずれて、所望のプロセスが実行できない場合などが該当する。すなわち、FSVをa点に設定することにより、真空容器内壁にはわずかであるがデポの堆積を認め、これにより壁材料をまったくスパッタしないようにする。これにより壁材料の放出によるプロセス障害を防ぐことが可能になる。しかしながら、真空容器内壁にデポが十分堆積しないうちに、真空容器内壁をクリーニング専用のプロセス(ここではFSVはb点より高く設定する)を用いてクリーニングすることが必要となる。
上記とは逆にc点を最適値とするプロセスもある。例えば、真空容器内壁に少しでも反応生成物が堆積すると、異物を発生したり、プラズマを生成するための高周波電力が堆積物に吸収されてプラズマの特性が変化して目的のプロセスを安定して実行できない場合がある。この場合には、FSVを前述のようにc点に設定しする。すなわち内壁は多少削れても良いが、反応生成物は全く堆積しない条件に設定することもできる。この場合は、真空容器の消耗が大きくなるという欠点が発生するが、内壁のクリーニング回数は削減できる。
なお、内壁の削れも、反応生成物の堆積も望ましくない場合はFSVをb点に設定することになる。このとき、FSVの設定電圧の再現性をよくすることが重要である。これは、異なる装置で同じプロセスを行うときや、同じ装置でも連続して同一プロセスを行うときの経時変化を抑える必要があるからである。このためには、FSVのフィードバック制御が重要になる。
図4は、FSVのフィードバック制御を説明する図である。図に示すように、プラズマ生成用の高周波電源10の出力がインピーダンス整合器(VC1,VC2)及びアンテナ1a,1bを介してファラデーシールド8に印加されるようになっている。FSVをコンデンサC2、C3で分割して小信号とし、フィルタ15を通して高調波や他の周波数成分を除いた上で検波器16で検波してDC電圧に変換し増幅器17で増幅する。このようにしてFSVに比例したDC電圧信号を得る。この信号を比較器18により本体装置制御部20のレシピ出力で設定されたプリセット値や設定値との比較し、モータ制御機19を介してモータを制御してFSVを電圧を決めるための可変コンデンサVC3を回転させる。これにより、FSVを本体装置制御部20で設定した値に制御することができ、例えば異なる装置や同一装置で連続して同じプロセスを処理する場合においてもFSVの値を一定に制御することができる。また、装置間格差や経時変化を抑えることができる。
ファラデーシールドは、誘電体真空容器の壁(ベルジャ)を通してプラズマと容量結合する。この結果、FSVは、ファラデーシールドとプラズマの間の静電容量と壁にできるイオンシースによる静電容量によって分割され、分割された後の電圧がイオンシースにかかる。これによりイオンを加速し、真空容器内壁をイオンスパッタさせることになる。例えば、アルミナ製の真空容器の壁の厚さが10mmの場合、FSVが500Vであると、イオンシースに印加される電圧は約60Vになる。
低いFSVでイオンシースに印加される電圧を高くすることは有用である。高いFSVを発生させることは、異常放電が生じやすくなるなどの理由で取扱いがより困難となるからである。低いFSVでイオンシースに印加される電圧を高くするには、イオンシースの静電容量は用いるプロセスのプラズマ特性で一意的に決まってしまうため、ファラデーシールドとプラズマの間の静電容量をできるだけ小さくすることが有効である。これを実現するためには、誘電体真空容器の材料の誘電率が高いこと、誘電体真空容器の壁の厚さをできるだけ薄くすることである。これに適する材料としては、強度が強くかつ誘電率が高い材料として代表的なアルミナを採用することができる。
アルミナのように誘電率が高い材料で壁厚さの薄い真空容器を作製した場合、問題になるのがファラデーシールドと真空容器の壁(ベルジャ)間の隙間である。アルミナの誘電率は約8であるので、10mmの壁厚さの場合、厚さを大気の場合に換算すると、10/8=1.25mmになる。ここで仮に、ファラデーシールドと真空容器の隙間が0ないし1mmある場合を考えると、ファラデーシールドとプラズマの間隔は、大気換算で、1.25ないし2.25mmと倍半分近く変化することになる。このことは、先ほどの条件の場合、イオンシースにかかる電圧が約33Vから60Vにまで変化することを意味する。
このように、イオンシースにかかる電圧が大きく変化すると、真空容器の内壁
のある部分には堆積物(デポ)が付着し、他の部分には堆積物が付着しないということになり、FSVを印加することによるデポ付着抑制効果は減少することになる。これを防ぐには、ファラデーシールドと真空容器との隙間を一定にするか、望ましくはファラデーシールドを薄膜で製作し、真空容器に密着させることが必要となる。
金属板を加工してファラデーシールドを製作することは簡単であるが、真空容器の壁(ベルジャ)との隙間を0.5mm以下になるように製作することは現実的ではない。しかしながら、ファラデーシールドの下に導電性の弾性体、例えば導電性スポンジを貼付して、このスポンジによってファラデーシールドと真空容器の壁との隙間を埋めることができる。
図5はベルジャに対するファラデーシールドの取り付け例を示す図である。図5(a)は、ファラデーシールド14とベルジャ12との間に隙間がある例であり、隙間のある部分の真空容器内面には堆積物が堆積し易くなる。一方、隙間の無い裾付近は堆積物が堆積しない状態になる。図5(b)は、前記隙間を弾性導電体12a、例えば導電性スポンジで埋めた例を示す図である。これにより、ファラデーシールド14はベルジャ12に密着したのと同様の効果を得ることができる。なお、導電性スポンジは伸縮性が大きいため大小の隙間を柔軟に埋めることができる。
図6は、防着板の取り付け構造を説明する図であり、図6(a)はベルジャ12の裾とその下にあるガスリングに形成したガス吹き出し口23を示している。この構成においてプラズマ処理を継続すると図のA、及びBで示す部分に堆積物が堆積する。ベルジャの内側で図のBよりも上の部分には、FSVによるイオンスパッタの効果により、堆積物を堆積させないことができる。ここで問題になるのは、前記A及びBで示す部分である。Aの部分は、ガス噴出し口23の周辺であり、ここに堆積物が付着すると、この堆積物はガス流れの効果により剥れやすくなり、剥がれた堆積物は被処理物であるウエハの上に異物となって乗り、プロセスの障害となる。また、Bの部分は、ベルジャ12の内壁であるが、ファラデーシールド14がベルジャ内壁から遠くなる。このためFSVによるイオンシース電圧が低下してイオンスパッタによる堆積物付着抑制効果が十分働かない部分である。
図6(b)は、防着板22によりガス吹き出し口23を覆う構造を説明する図である。前記Aの部分はガス吹き出し口付近であり、この部分への堆積物付着は極力低減する必要がある。ガス吹き出し口23への堆積物付着を減らすには、ガス吹き出し口23から防着板22の穴を通して見えるプラズマ6領域を減らすこと、すなわちプラズマに対する見込み角を小さくすること、及びガス吹き出し口23がウエハを直接見ないこと、すなわち、ガスの吹き出し口23の中心軸は、前記見込み角外に前記試料が含まれるように前記試料上方のプラズマ生成空間方向に設定することが必要である。
図6(c)は、防着板とガス噴出し口との関係の詳細例を示す図である。この例では、見込み角を略30度まで小さくし、また、ガス噴出し口から直接ウエハが見えないようにしたものである。
このとき、防着板22とガス噴出し口23の間には、隙間を空けておくことが有効である。隙間の大きさは、0.5mm以上であることが望ましい。この隙間により幾つかの利点が発生する。まず、防着板に形成したガスを通す穴が同じ大きさでも、隙間を開けることによりプラズマへの見込み角を小さくでき、ガス噴出し口23に付着する堆積物の量を減らすことができる。また、ガス噴出し口23からガスを真空容器内に吹き出すとき、大きな圧力低下が発生し、粘性流から中間流へと移行し最終的に分子流になる。ここで、ガス吹き出し口23周辺ではガスの圧力はまだ比較的高く中間流の状態であり、ここに堆積物が付着するとガスの流れから力を受けて堆積物が剥れやすくなる。隙間を空けることにより、防着板22付近でのガス流れは分子流となり、ガス流れは防着板に付着した堆積物を剥がす力が少なくなり、堆積物の剥れを減少させることができる。さらに、後述するように、防着板22の温度を効率的に上げて、防着板22に付着する堆積物の量を減らすことができる。
図7は、防着板の熱計算の例を示す図である。プロセス処理の結果からFeやPtなどの材料は、250℃以上の部材に対しては付着しにくいという知見が得られている。そこで、前記防着板の温度が250℃以上になるように防着板を設計をした。熱設計では、プラズマからの入熱、防着板支持部からの熱逃げ、防着板全体からの輻射熱逃げの3者のヒートバランスを計算した。この熱計算の結果を図7に示す。
防着板がSUS(ステンレス)の場合、プラズマへの高周波(RF)入力が500W程度において平衡温度が250℃を超えていることがわかる。防着板がAl(表面アルマイト加工)の場合、RF入力が1000W以上において、防着板平衡温度が250℃以上となる。以下、計算に当たっての各部の構造上の特徴について記す。
プラズマ入熱は、プラズマがリアクタ内で等方拡散するので、プラズマへのRF入力×防着板面積/プラズマ接触全面積で計算される。今回設計した防着板仕様では、プラズマへのRF入力=1200Wとすると、防着板への入熱は260Wとなる。
防着板からの熱輻射逃げは、材料にSUSを用い、表面を鏡面仕上げにしておくことで、表面輻射率を0.2程度にすることができるので、低く抑えることができる。防着板にAl(表面アルマイト処理)を用いる場合は、アルマイト表面輻射率が0.6程度となるので熱輻射逃げは多めになる。
図8は、防着板の支持構造を説明する図である。防着板は、その支持部からの伝熱が少なくなるよう全周を3点で支持し、ガスリング本体との接触部面積を図8のようにほぼ点接触とすることで伝熱面積を抑えた。具体例としては、接触部径方向長さを3ミリ、接触部周方向長さ1ミリとする。接触熱抵抗を3000[W/(m2・K)]程度の過大な値に見積もっても、接触面積×接触熱伝達率×(防着板内面温度−ガスリング温度)で計算される防着板支持部からの伝熱は、10W程度にしかならない。
実際に防着板を試作し、表面温度を実測した。用いた防着板の材質はAl(表面アルマイト)である。RF入力1200Wにおいて、表面温度は約250℃であり、ほぼ設計値どおりの値となっていることを確認した。
前述のように、防着板は、高温に維持しても堆積物の付着を完全に無くすことはできない。このため、防着板に付着した堆積物を安定に付着させておくことが重要となる。このため、防着板の表面には機械的に堆積物の付着性をよくするため、多少の凹凸を持つことが望ましい。発明者らの実験に寄れば、表面粗さとして、10μm以上であることが望ましいことがわかっている。
しかし、堆積物の付着が始まるとき、付着した堆積物は薄膜の状態から徐々にその膜厚が厚くなる。例えば、防着板に設けた10μmの凹凸は、同じ程度の膜厚の堆積物に対するアンカー効果を有する。しかし付着した堆積物の膜厚が厚くなるとアンカー効果は薄れてゆく。従って、堆積物の付着量が少ない初期状態から、堆積物量がある程度増えた状態までアンカー効果を有効に働かせるには、2種類の凹凸、例えば、10μmの凹凸と100μmの凹凸を同時に表面につけることが望ましい。このような凹凸を形成する加工法としては、例えば100μmの凹凸形成にローレット加工を、10μmの凹凸形成にブラスト加工を用いることができる。
以上述べたように、防着板の温度を上げるには防着板表面を鏡面加工し、また、堆積物を安定して付着させるためには表面に凹凸形成をすることが望ましい。従って、現実的には、防着板の堆積物の付着する面(プラズマに向かっている面)に凹凸を形成し、堆積物の付着しない面(例えば、防着板とガス噴出し口との隙間に向かっている面)を鏡面加工することができる。また、防着板から放射される熱を反射するために、ガスリングのガス噴出し口のある面で堆積物が付着しない部分の面は、鏡面加工することが望ましい。
防着板の大きさは、ガス吹き出し口を覆うための最小の大きさとすることが望ましい。これは、防着板には堆積物が多少なりとも堆積することが避けられないためであり、堆積物の付着量を少なくするため温度を高くする関係上、防着板には熱履歴が発生し、堆積物と防着板材質の熱による膨張・収縮量の差異によって、堆積物が剥れやすいからである。
また、防着板は電気伝導性のある材料で製作し、接地することが望ましい。これは、プラズマを生成するための高周波に対する接地面積を多くしたほうが放電が安定するためである。また、堆積物が帯電した場合、クーロン力による堆積物同士の反発力で、堆積物が剥れやすくなるため、堆積物の帯電をできるだけ防ぐ目的ももっている。
以上のような構造設計及び熱設計を行い、表面粗さを10μm及び100μmとした防着板を製作して、プラチナPtを500枚連続してエッチングして性能を調べた。その結果、ガス吹き出し口への堆積物の付着量は、ほとんど見られなかった。また、防着板に付着した堆積物は安定しており、堆積物の剥れは発生しなかった。
図9は、図6のBの部分(ベルジャ12の内壁のファラデーシールドがベルジャ内壁から遠くなる部分。従ってFSVによるイオンシース電圧が低下してイオンスパッタによる堆積物付着抑制効果が十分働かない部分)に付着する堆積物対策について説明する図である。
図6のBの部分は、ベルジャ12内壁とファラデーシールド14との距離が長いため、FSVによるイオンスパッタが効き難い領域である。そこで、防着板22を延長し、この部分を覆うことにより堆積物付着量を低減させるとともに、堆積物の安定化を図ることができる。この構造を示したのが、図9(a)である。これを用いて、堆積物付着に試験をしたところ、図9(a)のC点を中心にベルジャ内壁の幅15mmほどの領域に堆積物が付着することがわかった。
図9(b)は図9(a)の変形例である。図に示すように、ベルジャ12は、その内面をガスリング4内面にほぼ連続するように形成し、このベルジャ12をガスリング4上に配置して真空処理室を形成する。
この構成によれば、防着板をベルジャ内面及びガスリング内面に連続して形成することがでる。これにより前記FSVによるイオンスパッタが効き難い領域を防着板で有効に保護することができる。
図10は、防着板近傍における堆積物の付着を説明する図である。まず、点線で示したのが、プラズマの等密度線である。C点に着目すると、C点は防着板とベルジャからなるコーナー部に相当し、この部分はプラズマの密度は周辺と比べてわずかに低くなる。
これは、防着板の厚みのために、プラズマがC点に回り込みにくくなっていることが原因である。このため、C点では、ベルジャ内壁単位面積あたりのイオンのスパッタ数が少ないため、堆積物が取れにくいことが考えられる。さらにもうひとつの原因が考えられる。つまり、防着板は電気伝導性があるためで防着板に生成されるイオンシースにはFSVは効かず、イオンシースにはプラズマ特性によって決まる15ないし20V程度のDC電圧がかかる。これに対してFSVが効く領域では、ベルジャ内壁に形成されるイオンシースには、プラズマ特性で決まるDC電圧にさらに例えば60V程度の高周波電圧がかかり、これが効果的にイオンを加速してベルジャ内壁をスパッタする。つまり、C点付近は、防着板に生成される低電圧のイオンシースから、ベルジャ内壁に形成される高電圧のイオンシースへの遷移領域に相当し、C点付近では防着板付近より離れるに従って、イオンシースの電圧が高くなり徐々にイオンスパッタが効いていく領域になる。
以上述べた二つの原因により、図10に示したようにC点付近にはFSVによる弱スパッタ領域が形成されると考えられる。この領域では、FSVによるスパッタより堆積物の付着のほうが優勢であるため、堆積物が付着すると考えられる。
図11,12,13は、それぞれ防着板の構造例を示す図である。図11に示すように、弱スパッタ領域が形成される原因のひとつであるプラズマ密度低下の原因を取り除くため、ナイフエッジ状の防着板を製作し、試験を行った。その結果、図11に示すように、弱スパッタ領域が縮小し、堆積物付着領域が縮小することが確かめられた。そこで、さらにもうひとつの原因を取り除くために、図12に示すように、防着板の上部22aを絶縁体(この場合はアルミナ)に変更したところ、図12に示すように、強スパッタ領域と堆積物領域を一致させることができ、堆積物の付着がほとんど無くなった。アルミナの表面はローレット加工が不可能なため、ブラスト処理により、表面に凹凸を加工した。また絶縁体の材料としては、石英や窒化アルミも用いることができる。
さらに徹底して堆積物付着を防ぐには、図13に示すように、強スパッタ領域が堆積物付着領域よりわずかでも広ければよいことになる。そこで、防着板とベルジャの間にプラズマが侵入できるように、防着板とベルジャ間に隙間を設けた。プラズマが進入できるには、隙間の間隔がイオンシースより十分大きい必要があり、隙間の間隔は5mm以上必要である。またあまり大きすぎると、堆積物が拡散により回りこむため、効果が薄れる。堆積物が拡散で回り込まないための隙間の最大値は、堆積物の材質・ガス種とその圧力によって決まるため、処理プロセスにより異なるが、試験の結果おおよその目安は15mmである。図13に示す構造の防着板を製作して試験を行った結果、ベルジャへの堆積物付着は完全に抑制することができた。この構造の場合、防着板上部は、絶縁性材料である必要は無く、電気伝導体で構成しても性能は変わらない。
載置台5のカバーであるサセプタ上部も、堆積物が付着するとウエハ上に発生する異物の原因となる。そこで、サセプタにも高周波バイアスを印加し、物理的・化学的イオンスパッタを起こして、堆積物を付着させないように検討した。
図14は、載置台を含む試料保持部9の構造を示す図である。図に示すように、接地ベース36及び絶縁ベース35のうえに、基板バイアス電源11を接続した載置台を搭載している。載置台の材質は、アルミニウムもしくはチタン合金が一般的に用いられる。載置台の上部で被処理物(試料13)を搭載する部分には、誘電体膜が形成されて、被処理物を静電吸着できるようになっている。誘電体膜は、図中では溶射膜としているが、エポキシ、ポリイミド、シリコーンゴムなどの高分子系材料で形成する場合もある。また、溶射などで形成されるセラミックス系材料としては、アルミナ・窒化アルミニウム・PBN(Pyrolytic Boron Nitride:熱分解窒化珪素)がある。また、図14では、高周波電力が載置台5の側面方向からプラズマに抜けるのを防ぐために、接地ベース36と絶縁カバー37を用いてシールドする構造を示している。また、サセプタは、石英やアルミナを材料とするのが一般的であり、載置台の試料が搭載される面以外の電極部を覆いプラズマによって損傷するのを防ぐ。
図15は、サセプタ表面を含む基板バイアス回路(等価回路)示す図である。基板バイアス電源11は、インピーダンス整合器(MB)32内で、静電吸着電源から供給された静電吸着用の直流電圧と混合した後、載置台に供給する。ここで、基板バイアス電源11の高周波は、載置台5からサセプタ34を通り抜けて、サセプタ上部表面にも供給される。このときサセプタ34は、サセプタ材料を誘電体としたコンデンサを形成している。図15では、このようにして形成されるコンデンサをコンデンサC(33)として表している。
発明者らは、まず、図14に示すようにサセプタ厚さを5mmとしたときの、堆積物の付着を試験的に調べた。その結果、サセプタ上面には、多量の堆積物が付着することがわかった。
そこで、サセプタ34の厚みとサセプタ表面に発生するバイアス電圧の関係を理論的に検討した。その結果を図16に示す。ベルジャ内壁に発生する電圧が約60V以上になると、堆積物付着が抑制できることがわかっている。また、発明者らの試験では、試験時のバイアス電圧(ピークトゥピーク)Vppを約400ないし500Vの範囲に設定することが多かったことから、このバイアス電圧Vppの範囲でサセプタ表面に60V以上の電圧を発生させることができるようにサセプタ厚さとして、4mmを選択した。
図17,18は、薄肉(例えば4mm厚)のサセプタに対する堆積物の付着状況を説明する図である。図17に示すように、サセプタ上面全体を厚さ4mmにして、堆積物の付着状況を実験した。その結果、図の矢印で示している範囲(デポ付着制限領域)で堆積物の付着が無いことを確認した。これにより、載置台と直接接触している部分では、堆積物付着を抑制できることがわかった。しかし、図17の構成では、サセプタ上面の外周部に堆積物が付着するため、これが被処理物への異物となって処理を妨害することが懸念される。そこで、載置台の側面に形成されている絶縁カバー37を除き、サセプタ上面及びサセプタ側面の上部全体に渡って、載置台とサセプタが接触するようにした。この構成を図18に示す。図18に示す構造を用いて前記と同様に堆積物の付着状況を実験的に調べた。この結果、載置台と接触しているサセプタ上面及びサセプタ側面上部で堆積物の付着が無くなった。しかしながら、サセプタの着脱を繰り返すと、同一条件においても、堆積物を十分取りきれない場合があることがわかった。また、この堆積物が十分取りきれないときは、堆積物が偏りを持った分布で堆積し、特にサセプタの側面に堆積物が残りやすいことが判った。
堆積物が偏りを持った分布で堆積し、この堆積物を十分取りきれない理由を以下のように推定した。すなわち、サセプタの材料はアルミナであり、その厚さは4mm、誘電率は約8であるから、空気層に換算すると約0.5mmに相当する。ここで、サセプタと載置台の間に隙間が、例えば0.1mmあるとすると、図15のコンデンサCを形成する誘電体の厚さは、サセプタ分0.5mmと隙間分0ないし0.1mmの合計あり、0.5ないし0.6mm(20%)変動する。この変動がサセプタ表面に発生する高周波電圧に偏りを発生させ、これにより堆積物の取れ方に偏りが発生する。しかしながら、サセプタと載置台を、その隙間0.1mm以下の精度で密着するように製作することは困難であり、現実的ではない。
これを解決するために、図19に示すように、サセプタ34下面に金属膜を溶射し金属溶射膜39を形成した。溶射金属としては、タングステンを用いたが、これはアルミナに対して接着性が良いことが知られているからである。金属膜は、電気伝導性がありサセプタへの接着性がよければタングステンである必要は無く、金・銀・アルミニウム・銅なども可能である。また、金属膜の製造法も、溶射である必要は無く、めっき・スパッタ・蒸着・印刷・塗布・薄膜接着など薄膜を形成できる方法ならばいずれでも良い。この構造を採用することにより、金属膜と載置台5が1箇所接触していれば、金属膜全体に載置台と同じ電圧が発生するので、サセプタと載置台の隙間の問題は回避できる。
図19の装置構成を用いて、堆積物の付着状況を実験で調べた結果、矢印で示す堆積物付着制限領域内で堆積物の付着を再現性よくなくすることができた。この方法の利点は、金属膜と載置台が一点でも接触していれば、載置台5と同じ電圧が金属膜全体に発生し、サセプタ34の表面に均一な高周波電圧を発生できることである。従って、図20に示すように、絶縁カバー37など他の構造物がある状態であっても、金属溶射膜の溶射範囲を広げることにより、任意の範囲のサセプタ表面に均一な高周波電圧を発生できる。なお、図20の構成において、矢印で示す堆積物付着制限領域において、再現性よく堆積物付着をなくすることができることを実験的に確認した。
以上の結果より、金属溶射などの金属膜を用いることにより、サセプタ表面に、均一に高周波電圧を発生させ、堆積物付着の抑制を均一にできることがわかった。この技術を用いると、構造上サセプタの厚さを厚くしなければならない場合でも、金属膜をサセプタの中に埋め込むことによって、同様の効果を得ることができる。この構造を示したのが、図21、22である。
これらの図に示すように、サセプタ34表面より所定の深さの位置(図の場合略4mm)に、金属溶射膜39を埋め込み、金属溶射膜39より載置台5にコンタクトを出して電気的な導通を確保し、金属溶射膜39に載置台5と同じ高周波電圧を発生させる。
試料13を載置する載置台には、これまで図示してきたような、金属の載置台の上に溶射などによって静電吸着膜を形成する種類のほかに、窒化アルミニウムやアルミナなどのセラミックス誘電体製の載置台の中に、金属電極を埋め込み、この金属電極より静電吸着をしたり高周波バイアスをかけたりする種類のものがある。このような種類の載置台の場合でも、サセプタへの金属膜形成によって、全く同じ機能を持ったサセプタを製作することが可能である。
この例を、図23、24に示す。図23は、サセプタ34の裏面に金属膜を形成した場合である。載置台5は窒化アルミからできており、この中にタングステンでできた静電吸着・高周波バイアス印加用電極40が埋め込まれている。この電極より、金属溶射膜39に向かって、導通パターン(鍔部導電パターン41,42,43)を埋め込み、これにより電極40と金属溶射膜39との導通をとる。これにより、サセプタ裏面の金属溶射膜39にタングステン電極と同じ高周波電圧を発生させることができる。当然のことながら、この構造によるサセプタ表面への堆積物付着制御能力は、これまで述べてきた場合と全く同じにできる。
図24は、サセプタ34内部に金属溶射膜39を埋め込んだ例であり、図23で述べた導通パターン(鍔部導電用パターン41,42,43)を延長して、コンタクトにより載置台5埋め込んだ電極40とサセプタ34に埋んだ金属溶射膜39接続すれば機能的には図23の場合と全く同じことができるようになる。
図23、24に示した載置電極5の場合、電極5内に埋め込まれた静電吸着・高周波バイアス印加用電極40より高周波を金属溶射膜39に供給するパターンを載置電極5内部に作る必要がなるが、その一例を示したのが図25である。
図25では、タングステン製の静電吸着・高周波バイアス印加用電極40と平行な関係にある鍔部導電用パターン41は、タングステン電極と同じくタングステン薄膜を載置電極の中に埋め込む。これらの埋め込まれたタングステン薄膜同士は、載置電極を成型後、必要な部分に穴をあけ、貫通端子をロウ付けする方法で接続できる。
これまで述べてきたサセプタに対するバイアス印加法では、載置台の高周波電圧がある値のとき(ここでは400V)、サセプタ上面の堆積物付着がちょうど抑制される。しかし、載置台の電圧が高くなると、サセプタ上面の高周波電圧が高くなりすぎ、サセプタが削れて部品寿命が短くなるという欠点がある。この欠点は、図26に示すように、外部からサセプタ表面に印加される高周波バイアス電圧を調節する手段を導入することで解決できる。図26では、サセプタの金属膜の電圧を、外部に取り付けた可変コンデンサVCで調整する回路を示している。これを実際の構造として示したのが、図27である。
サセプタに接する部分の載置台表面には、溶射などにより、セラミックス被覆
50を形成してサセプタ金属溶射膜51と載置台5が直接接触しないようにする。このセラミックス被覆50は、図26に示すコンデンサC’を形成し、載置台5に印加される高周波電圧の一部をサセプタ金属溶射膜51に伝送する働きを持たせる。その上で、外付けの別の可変コンデンサVCにより、載置台5に印加される高周波電圧をサセプタ金属溶射膜51に伝送する。この二つのコンデンサによって伝送された高周波電圧は位相が同じなので、単純に加算され、その電圧によりサセプタ表面に発生する高周波電圧が決まる。例えば、サセプタ厚みが4mm、サセプタ金属溶射膜の表面積を400cm2、セラミックス皮膜がアルミナで300μm、可変コンデンサVCの最大容量が8000pFであったとすると、載置台のバイアス高周波電圧が400Vのときには、可変コンデンサVCの容量を可変させるとサセプタ表面電圧を約30ないし100Vの範囲で可変できる。このように、サセプタ厚み、セラミックス被覆、金属溶射膜表面積と可変コンデンサVCを適当に選ぶことにより、サセプタ表面に発生する高周波電圧を制御できる。また、このときのサセプタ金属溶射膜は、図示していないが、可変コンデンサVCと接続できるなら、サセプタ内部に組み込むことも可能である。
サセプタに印加するバイアスを可変するには、載置台に高周波を供給する高周波電源11とは別の高周波電源を用いることでも可能である。これを図28に示す。ここでは、載置台にバイアスを供給する基板バイアス電源11とは別に、サセプタ金属膜に高周波を供給するサセプタバイアス電源11aを用いる。この場合の電極構造を図29に示す。ここで重要なのは、サセプタ金属溶射膜51に印加する高周波電圧が載置台5の高周波電圧により影響されないように、載置台5とサセプタ金属溶射膜51の間に、絶縁及び接地シールド(接地ベース36)を組み込む必要があることである。これにより、サセプタバイアス電源11aが必要という欠点があるものの、サセプタに印加するバイアスは、試料13に印加する高周波電圧とは全く独立に制御することが可能になる。また、このときのサセプタ金属溶射膜51は、図示していないが、サセプタバイアス電源11aと接続できるなら、サセプタ内部に組み込むことも可能である。
図30は、サセプタバイアス電圧を最適化する方法を説明する図である。前述のFSVと同様、サセプタバイアス電圧にも最適値がある。この電圧には、バイアス電源の周波数、サセプタ材料や厚さ、プラズマの密度、プラズマの組成、真空容器全体の構成および試料の材料、処理速度、処理面積が影響を与える。
したがって、サセプタバイアス電圧の最適値は、プロセスごとに変える必要がある。図3の場合と同様、サセプタバイアス電圧がある値(図30のb点)を境に、サセプタバイアス電圧が高くなるとサセプタ材料の発光が強くなる。b点以下のサセプタバイアス電圧ではサセプタに堆積物が堆積している状態であり、b点以上のサセプタバイアス電圧では堆積物がスパッタされて堆積しないだけでなく、サセプタ材料自体もスパッタされていることを示してる。
サセプタバイアス電圧最適電圧は、b点の電圧であるが、プロセスによっては、a点にする場合もある。これは、サセプタ材料のスパッタにより、サセプタ材料が気相中に放出され、試料の処理反応や気相中の反応が想定したものとずれることにより、望ましいプロセスが実行できない場合などに相当する。すなわち、サセプタバイアス電圧をa点に設定することにより、サセプタにはわずかであるが堆積物の堆積を認め、サセプタ材料をまったくスパッタしないようにする。これにより、サセプタ材料の放出によるプロセス障害を防ぐことである。その代わり、サセプタの堆積物が十分堆積しないうちに、サセプタをクリーニング専用のプロセス(ここではサセプタバイアス電圧はb点より高く設定する)で、クリーニングする必要がある。
逆に、サセプタに少しでも堆積物が付着すると、異物が発生したり等の理由で、目的のプロセスを安定して実行できない場合がある。この場合には、サセプタバイアス電圧最適点をc点に設定し、サセプタは多少削れても良いが、堆積物をまったく付着しない条件に設定することもできる。この場合は、サセプタの消耗が大きくなるという欠点が発生するが、サセプタのクリーニングが少なくてよいという利点が発生する。
サセプタの削れも、堆積物付着も望ましく内場合、サセプタバイアス電圧はb点に設定することになる。このとき、サセプタバイアス電圧の設定電圧の再現性をよくすることが重要である。これは、異なる装置で同じプロセスを行うときや、同じ装置でも連続して同一プロセスを行うときの経時変化を抑える必要があるからである。このためには、サセプタバイアス電圧のフィードバック制御が重要になる。
図31、32は、それぞれ図26・28に対応したフィードバック制御回路付のサセプタバイアス印加回路である。両回路とも、サセプタ金属溶射膜の電圧を、減衰器及びフィルタ52を介して検波し、直流電圧に変換する。これにより、この直流電圧信号は、サセプタバイアス電圧に比例した信号となる。この信号を本体装置制御部57のレシピなどで設定されたプリセット値や設定値との比較により、図31の場合はサセプタバイアス電圧を決める可変コンデンサVCを回転させるモータを制御する。また、図32の場合は、サセプタバイアス電源11aの出力を制御する。この方法を用いることにより、本体装置で設定した値にサセプタバイアス電圧を制御することができ、異なる装置や、同一装置で連続して同じプロセスを処理する場合に、サセプタバイアス電圧の値を一定に制御でき、装置間格差や経時変化を抑えることができる。
以上は、堆積物を堆積あるいは付着させないように制御する領域、すなわちベルジャ12、ガス吹き出し口23、サセプタ34についてその方法と構造について説明した。試料13から出てくる反応性生物や気相で合成される物質が、蒸気圧の高い揮発性の成分である限り、これらの物質は排気装置によって放電部や被処理物周辺より排気され、電極下部や排気ダクトなどに多少は堆積するものの、その多くは排気されてしまう。
しかし、堆積性の強い、つまり、蒸気圧が低く、固体への付着係数が1に近い(固体に接触した場合、ほとんど捕捉される)物質が、試料の反応生成物として、あるいは気相中で合成されるなら、これらの物質は試料周辺のベルジャ、サセプタあるいはガス吹き出し口などを含めた真空容器壁に堆積し、ほとんど排気されることは無い。
このような状況において、真空容器内のどの部位にも堆積物を付着させないように制御すると、これらの堆積性の強い物質は堆積場所を失う。このため、堆積性の強い物質の気相中の密度が高くなり、堆積しようとする原動力が増すことになり、結果としてベルジャやサセプタ上に強制的に堆積してしまう。
すなわち、ベルジャやサセプタなどに堆積物を付着させないように制御するということは、堆積物をどこか多量に堆積させる場所を用意しておくことにより、その効果を発する。そして、堆積できる堆積物の量を増やすこと、あるいは気相から速やかに堆積させることにより、ベルジャやサセプタにおける堆積物の堆積量制御能力は増加させることができる。
つまり、堆積性の強い反応生成物が発生する被処理物の周辺、あるいはプラズマ領域の周辺に、気相から速やかに、かつ大量に堆積物を堆積させる領域(堆積物トラップ領域)を設けることが必要になる。前記防着板は、ガス吹き出し口への堆積物付着を抑制するカバーとして働いているが、これ自体には堆積物が堆積することを前提とするので、これもトラップの一種である。
図33は、真空容器の内部で、堆積物トラップを含めた領域に分割してを示している。まず、ベルジャ領域とウエハ(試料)/サセプタ領域は、堆積物を付着させないように制御する領域である。その他のプラズマに接する領域は全て堆積物トラップ領域であり、堆積物トラップ領域(1)は、防着板とガスリング下部を含めた領域で、ウエハから直接覗くことができる(見込むことができる)領域である。これらのベルジャ領域、ウエハ/サセプタ領域と堆積物トラップ領域(1)は、ウエハから直接覗くことができる(見込むことができる)領域の全てであり、プラズマを発生させる領域であるとともに、ウエハから、あるいはプラズマ気相中で形成される堆積性の強い物質が最も付着しやすい領域である。これらの領域内に制御されていない状態で堆積物が堆積すると、ウエハへの異物の原因となったり、プラズマの経時変化が生じる。従って、これらのウエハから直接覗くことができる領域では、堆積物付着はできるだけ完全に制御されなければならない。
本発明では、防着板に図12、図13に示す構造を用いた場合、これらのウエハから覗くことのできる領域の100%が、堆積物を制御した状態になる。また、図6、図9、図11の構造を用いたとしても、これらのウエハから覗くことのできる領域の表面積の90%以上を堆積物を制御した状態にする必要がある。
また、前述したように堆積物トラップ領域が十分機能を果たすことで、ベルジャ領域やウエハ/サセプタ領域の堆積物抑制機能を高めることができることから、ベルジャ領域やサセプタ領域の表面積はできるだけ小さく、また、堆積物トラップ領域(1)の表面積はできるだけ大きくすることが望ましい。堆積性の強い反応性生物がウエハから発生する場合、ウエハの表面積をSWとすると、堆積物トラップ領域(1)の表面積S1がS1<0.5SWとなると、ベルジャ領域やウエハ/サセプタ領域での堆積物抑制機能が低下することが発明者らによる実験でわかった。従って、反応性生物を速やかに堆積物トラップに堆積させるには、S1>=0.5S1の関係が必要であり、望むらくはS1>=S1であると良い。
堆積物トラップ領域(2)は、リングカバーと呼んでおり、堆積物トラップ領域(1)の下部にある。この領域はウエハから直接望むことはできないが、その上部には拡散により堆積性の強い物質が輸送されて大量の堆積物が付着する。堆積物トラップ領域(3)は電極の側面のカバーであり、ここもウエハから直接望むことはできないが、堆積物トラップ領域(2)と同様、その上部には多量の堆積物が付着する。これらの堆積物トラップ領域(2)(3)は、ウエハから直接望めない領域なので、これらに付着した堆積物がウエハの異物になったり、プラズマの経時変化の原因になる可能性は小さいが、装置を大気開放したときの清掃作業を効率よく行う上で、これらの堆積物トラップは重要である。つまり、反応性生物は堆積性が強いため、その90%以上を堆積物トラップ領域(1)(2)(3)付着させて回収することができる。したがって、これらの堆積物トラップ領域(1)(2)(3)をスワップキット化(交換可能化)し、大気解放後洗浄済の部品と全交換することで、効率よく真空容器内部を清掃することが可能になる。このためには、堆積物トラップは軽量であること及び取り外し/取り付けが容易であることの二つの条件が必要になる。軽量であるためには、堆積物トラップの素材が、例えば、アルミニウムなどの軽量な部材であることが重要である。
真空容器は大気解放後、堆積物トラップ(1)から(2)、(3)を順番に外し、最低限必要な洗浄作業を行う。最低限必要な洗浄場所は、例えば、ウエハ搬送用の開口部周辺などである。その後、逆順に洗浄済の堆積物トラップのスワップキットを取り付け、直ちに真空引きに入ることができる。これにより、洗浄作業を最低限の時間で行うことができる。このような手順で洗浄作業をすることは、洗浄時間を短縮するだけでなく、真空引きに要する時間も短縮できる。なぜならば、最低限必要な時間だけ大気開放することで、真空ない部品に吸着される大気中の水分を最低限にできる上に、最低限必要なだけの洗浄用溶媒(純水やアルコールなど)を使用することで、真空容器内に残留する溶媒量を最低限にできるからである。取り外した堆積物トラップ(1)(2)(3)は、洗浄した後に次回の大気開放/洗浄作業用のスワップキットとして再利用する。堆積物トラップとしてスワップキット化するべき領域は図33に示す領域に限る必要は無い。プロセスや扱う材料によって異なるが、堆積物が付着する全領域を堆積物トラップにすると効率的である。例えば、電極カバーの上半分以上の領域にしか堆積物が付着し内場合は、電極カバーの上半分をスワップキット化する。逆に、排気ダクトにまで堆積物が付着する条件では、排気ダクト内壁も堆積物トラップ領域とし、スワップキット化すると効率的になる。