JP4657474B2 - 炭素クラスターの製造用原料 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は炭素クラスターの製造用原料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
C60フラーレンは、マイクロクラスターと超微粒子の研究の発展過程において近年発見された物質である。なお、一般的にマイクロクラスターとは数個から千個程度までの原子あるいは分子の集合体のことであり、それ以上のサイズをもつ微粒子は超微粒子と呼ばれている。
フラーレンは、幾何学的、物理化学的に特異な特徴を有しており、その特徴を利用して様々な応用、とくに電子材料やナノテクノロジーへの応用が検討されている。そして近い将来、フラーレンは例えば電界放出電子源、発光体、水素ガス吸蔵物質、ナノボンベとして実用化されると考えられている。
【0003】
このようにフラーレンは急速な需要の拡大が見込まれ、そのためフラーレンを大量に安定して製造できる手段が求められている。
現在、フラーレンの製造方法としては、加熱フローガス中レーザー蒸発法、抵抗加熱法、高周波誘導加熱法、燃焼法、アーク放電法などが挙げられる。これらの方法の概略を下記に示す。
【0004】
(1)加熱フローガス中レーザー蒸発法
1200℃に加熱したアルゴンガス(もしくはヘリウムガス)の流れの中で、炭素のレーザー蒸発を行う方法である。ガスの流れる石英管が電気炉の中におかれ、材料となるグラファイトをその石英管の中央に設置する。ガスの流れの上流側からグラファイトにレーザー(Nd:YAGレーザー)を照射し蒸発させると、電気炉の出口付近の冷えた石英管の内壁にC60やC70などのフラーレンを含むススが付着する。この方法ではフローガスを加熱しないと、フラーレンはほとんど生成しないが、1200℃に加熱するとその収率は飛躍的にあがる。C60フラーレンが生成するしきい値温度はおよそ1000℃前後である。
【0005】
上記のような高温・高圧のレーザー蒸発法は、下記で説明するアーク放電法と比較するとC60フラーレンの生成効率が高い。しかし、レーザー蒸発法は装置を大幅に大型化しないかぎり、グラム量の原料ススの生成には時間がかかりすぎるという欠点がある。レーザー蒸発法は、フラーレンや金属内包フラーレンの多量生成を目指すよりも、これらの生成機構を探るのに適した方法である。
【0006】
(2)抵抗加熱法
100Torr(13300Pa)のヘリウムガスで満たされた容器の中でグラファイト棒を通電加熱し、炭素のススを作成するという方法である。得られた炭素のスス中にはC60フラーレンが多量に含まれている。この方法によってはじめて巨視的な量のフラーレンが製造できた。この方法は、希ガス中で原料物質を蒸発して、その超微粒子あるいはクラスターを得るガス(中)蒸発法と原理的には同じである。グラファイト棒から蒸発した炭素蒸気(主にCとC2)は希ガス分子との衝突により冷却され過飽和状態となり、炭素クラスターを形成する。これらが気相でさらに成長してススができる。得られる黒いススは、粒径が10〜100nmの超微粒子が鎖状につながった集合体であり、非常に軽く、浮遊しやすい粉である。
【0007】
(3)高周波誘導加熱法
抵抗加熱やアーク放電を使う代わりに、高周波誘導により原料グラファイトに渦電流を流し、これを加熱・蒸発する方法が高周波誘導加熱法である。高周波誘導コイル(100kHz、15kW)を巻いた石英管の中央に原料グラファイトを置きヘリウムガス約110Torr(14630Pa)の中で蒸発させる。この方法により、抵抗加熱やアーク放電と同様にC60、C70のほかに高次フラーレンを含むススが得られる。
【0008】
(4)燃焼法
ベンゼンと酸素の混合ガスの燃焼によってもフラーレンが得られる。炭素/酸素混合比を制御し、アルゴンガスによって希釈した混合ガスを燃焼させると、フラーレンが得られる。この方法は炭素/酸素混合比を調節することによってC60よりもC70の割合の高いススを生成できる。
【0009】
(5)アーク放電法
炭素の蒸発にアーク放電を利用し、炭素ススをさらに多量に生成できる方法である。コンタクトアーク法とも呼ばれる。2本のグラファイト電極を軽く接触させたり、あるいは1〜2mm程度離した状態でアーク放電を起こす。電源としては、交流、直流どちらを用いてもススを得ることができる。直流の場合、陽極側のグラファイトが蒸発する。蒸発した炭素のおよそ半分は気相で凝縮し、合成容器内壁にススとなって付着する。残りの炭素蒸気は陰極先端に凝縮して炭素質の固い堆積物を形成する。この堆積物中に、多層ナノチューブやナノ多面体粒子が成長する。
【0010】
アーク放電法において、電源として直流を用いて炭素を蒸発するには、陽極グラファイト棒(消耗電極)の直径が5mmの場合には概ね50A以上、10mmの場合には100A以上の電流を流す必要がある。電極間にかかる電圧はいずれの場合も20〜25Vである。抵抗加熱法でもアーク放電法でも、真空蒸発ではC60は生成しない。炭素ススを加熱し、蒸発してくる成分を質量分析すると、C60ばかりでなくC70、C76、C78、C84など高次フラーレンが含まれていることが分かる。フラーレンサイズが大きくなるほど蒸発しにくくなるので、ススの加熱温度を高くするほど高次フラーレンの量はC60に比べ相対的に多くなる。昇華温度の違いを利用して、C60の精製分離を行うことができる。抵抗加熱法やアーク放電法は高温・高圧のレーザー法と比べて生成効率では劣るものの、短期間にグラム量の多量の原料ススを簡単に生成することができる。このため現在ではフラーレンの生成には主にアーク放電法が用いられている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、アーク放電法によりフラーレンやカーボンナノチューブに代表される炭素クラスターを製造するためには、例えば純度の高いグラファイトと、触媒としての金属(例えばFe、Co、Niなど)を用いる必要があり、フラーレンを工業的に大量に製造する場合、このような純度の高い材料を用いることによる高コスト化が問題となる。
したがって本発明の目的は、高純度の原材料を用いた場合と同様の良質の炭素クラスターを、低コストで製造することのできる炭素クラスター製造用原料を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、金属触媒と炭素原料を含む既黒鉛化炭素質成形体からなる炭素クラスター製造用原料において、前記金属触媒として、磁気テープ廃材および/または磁気テープ用磁性塗料廃材をその一部または全部として用いることを特徴としている。
この構成によれば、高純度の原材料を用いた場合と同様の良質の炭素クラスターを、低コストで製造することのできる炭素クラスター製造用原料が提供される。
【0013】
請求項2の発明は、前記金属触媒としてさらにNi含有乾電池廃材を用いることを特徴としている。
この構成によれば、良質の炭素クラスターを、より高い収率で製造することのできる炭素クラスター製造用原料が提供される。
【0014】
また請求項3の発明は、前記既黒鉛化炭素質成形体が、金属触媒を含む内層と、該内層を被包し炭素原料のみからなる外層とを備え、前記内層は磁気テープ廃材および/または磁気テープ用磁性塗料廃材と炭素微粉末とを少なくとも含む材料よりなる焼結体で構成されることを特徴としている。
この構成によれば、得られた炭素クラスター製造用原料を用いて炭素クラスターを製造する場合、アーク放電させた時のアークの飛び散りが少なく、高い収率で良質の炭素クラスターを製造することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに説明する。
本発明の炭素クラスター製造用原料は、金属触媒と炭素原料を含む既黒鉛化炭素質成形体からなり、金属触媒として、磁気テープ廃材および/または磁気テープ用磁性塗料廃材を用いることを特徴としている。例えば、市販されている磁気テープには、純度の高いFeやCoが使用されているので、これらの廃材は炭素クラスター製造用の金属触媒として十分に利用可能である。また、磁気テープ用磁性塗料にもFeが多量に含まれることから、該塗料を乾燥し溶剤を回収した残さも炭素クラスター製造用の金属触媒として十分に利用可能である。
【0016】
さらに、Ni含有乾電池廃材の電極材料(ニッケル−水素電池、ニッケル−カドミウム電池:Ni(OH)2−NiOOH)に含まれるNiも金属触媒として利用可能である。ただし、Ni含有乾電池廃材は磁気テープ廃材または磁気テープ用磁性塗料廃材と併用することが好ましい。
【0017】
なお金属触媒のすべてを前記廃材が構成していてもよく、あるいは、金属触媒の一部を前記廃材が構成していてもよい。
また、既黒鉛化炭素質成形体における炭素原料としては例えばグラファイトが挙げられる。
【0018】
次に図面を参照しながら本発明の炭素クラスター製造用原料および該原料を利用した炭素クラスターの製造について説明する。
図1は、本発明の炭素クラスター製造用原料の製造方法の一例を説明するための図である。例えばアーク放電法において、電源として直流電源を用い、炭素原料としてグラファイトを用いた場合、良質の単層ナノチューブ(SWNTs:Single-wall nanotube)を得るためには陽極のグラファイトに触媒を加える必要がある。本発明の一実施態様によれば、図1に示すように、グラファイト棒11の中心部をくり貫いて穴部12を設け、そこに金属触媒含有材料13を充填する。金属触媒含有材料13は、前記のように磁気テープ廃材、磁気テープ用磁性塗料廃材、および必要に応じてNi含有乾電池廃材から形成することができるが、これらの材料とともに炭素微粉末(例えばグラファイト微粉末)を添加することができる。グラファイト微粉末を混合することにより炭素クラスターをより高い収率で得ることができる。
【0019】
続いて金属触媒含有材料13を焼結させることにより、既黒鉛化炭素質成形体10を得る。このように、既黒鉛化炭素質成形体10は、金属触媒含有材料13よりなる内層と、該内層を被包し炭素原料のみからなる外層(グラファイト棒11)とを備え、前記内層が磁気テープ廃材および/または磁気テープ用磁性塗料廃材と炭素微粉末とを少なくとも含む材料よりなる焼結体で構成されるのが好ましい。
【0020】
図2は、本発明の原料を利用した炭素クラスター製造装置の一例を説明するための図である。
炭素クラスター製造装置20には、放電室21が設けられ、放電室21はロータリーポンプ22により減圧可能になっている。放電室21内の減圧状態は、真空計23によって測定される。放電室21の陽極24側に、図1の既黒鉛化炭素質成形体10が設置され、陰極25側にグラファイト棒26が設置される。炭素クラスター製造時には、ヘリウムガス導入口27からヘリウムガスが放電室21内に導入され、直流電源28により陽極24および陰極25間に電圧が印加され、両者間に放電が生じる。この放電により、既黒鉛化炭素質成形体10が蒸発し、蒸発した炭素のおよそ半分が気相で凝縮し、放電室21内壁にススとなって付着する。生じたススは、放電室21の下部に設けられたスス回収口29より回収される。
【0021】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は下記例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1〜9および比較例1
図1で説明したような既黒鉛化炭素質成形体10を本発明の炭素クラスターの製造用原料の一例として用いた。
カセットテープ(VHS(酸化鉄含有)、8mm(鉄含有)、DVC(コバルト含有))を分解して取り出したテープ、およびNi含有乾電池電極を、約50μm以下のサイズになるように十分に破砕し、グラファイト微粉末(99.9%、平均粒径φ20μm)を各種混合比で混合し、金属触媒含有材料13を調製した。続いて、φ6mm×80mmのサイズを有するグラファイト棒11を用意し、その中心部をφ3.2mm×50mmのサイズでくり貫き、穴部12を設け、そこに前記金属触媒含有材料13を密に充填した。
【0023】
次に、図2で説明した炭素クラスター製造装置(アーク放電装置)を使用し、放電室21の陽極24側に前記金属触媒含有材料13を充填したグラファイト棒11を設置し、陰極25側にφ10mm×100mmのサイズのグラファイト棒26を設置した。続いて、放電室21内をロータリーポンプ22で約270Paまで脱気し、両電極間に100Aの直流電流を流して、陽極24に充填した金属触媒含有材料13を抵抗加熱によって焼結させ、既黒鉛化炭素質成形体10とした。
【0024】
次に、放電室21内にヘリウムガス導入口27からヘリウムガスを約300Paまで導入し、直流電流70Aでアーク放電を行った。なお、放電中は電極間を5mmに保持するため、消耗する陽極24を陰極25方向に送り込んでいった。また放電後は放電室21内壁上部(電極の位置より上方)と天板にススが付着するが、天板ススのみをスス回収口29から回収、分析した。回収したススに対し、飛行時間型質量分析(Bruker社製:MALDI-TOF-MS)および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析し、フラーレンの確認および生成したフラーレンの組成比の確認を行った。なおHPLC条件は、カラム:BUCKY PREP、展開溶液:トルエン100%、流量:1ml/分、カラム温度:30℃の条件で行った。
【0025】
下記表1は、既黒鉛化炭素質成形体における金属触媒含有材料の組成を示すものである。また表2は、アーク放電後に得られた各種フラーレンの濃度の比率を示すものである。なお表1における比較例1は、各廃材を用いずに、金属触媒として高純度のFeおよびNi単体を用いた例である。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
質量分析の結果から、全サンプルについてフラーレン(C60、C70、C76)が検出され、本発明の炭素クラスターの製造用原料からフラーレンが生成することが分かった。また質量分析およびHPLC分析から、本発明の炭素クラスター製造用原料からのフラーレン回収率は、高純度材料を用いた比較例1の場合と比べて若干の低下しか見られなかった。また本発明の炭素クラスター製造用原料から得たフラーレンをSEM、TEMにより分析したところ、CNTs(カーボンナノチューブ)が生成していることも確認できた。したがって、本発明の原料を用いて炭素クラスターを工業的に大量生産することは問題ないことが判った。
【0029】
なお、上記では炭素クラスターとしてフラーレンを例にとり説明したが、本発明の原料を用いて他の炭素クラスターを製造できることは勿論である。例えば、フラーレン類にLa、Y、Scなどランタニドなどの金属や金属化合物を内包あるいは付着させた金属入りフラーレン類、あるいはカーボンナノチューブなどの炭素クラスターを製造することができる。
【0030】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、高純度の原材料を用いた場合と同様の良質の炭素クラスターを、低コストで製造することのできる炭素クラスター製造用原料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の炭素クラスター製造用原料の形成方法の一例を説明するための図である。
【図2】本発明の原料を利用した炭素クラスター製造装置の一例を説明するための図である。
【符号の説明】
10…既黒鉛化炭素質成形体、11…グラファイト棒、12…穴部、13…金属触媒含有材料、20…炭素クラスター製造装置、21…放電室、22…ロータリーポンプ、23…真空計、24…陽極、25…陰極、26…グラファイト棒、27…ヘリウムガス導入口、28…直流電源、29…スス回収口
Claims (3)
- 金属触媒と炭素原料を含む既黒鉛化炭素質成形体からなる炭素クラスター製造用原料において、
前記金属触媒として、磁気テープ廃材および/または磁気テープ用磁性塗料廃材をその一部または全部として用いることを特徴とする炭素クラスター製造用原料。 - 前記金属触媒としてさらにNi含有乾電池廃材を用いることを特徴とする請求項1記載の炭素クラスター製造用原料。
- 前記既黒鉛化炭素質成形体は、金属触媒を含む内層と、該内層を被包し炭素原料のみからなる外層とを備え、前記内層は磁気テープ廃材および/または磁気テープ用磁性塗料廃材と炭素微粉末とを少なくとも含む材料よりなる焼結体で構成されることを特徴とする請求項1記載の炭素クラスター製造用原料。
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