JP2002265208A - 炭素クラスターの製造用原料 - Google Patents

炭素クラスターの製造用原料

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 アーク放電法によりフラーレンやカーボンナ
ノチューブに代表される炭素クラスターを製造するため
には、例えば純度の高いグラファイトと、触媒としての
金属(例えばFe、Niなど)を用いる必要があるが、
フラーレンを工業的に大量に製造する場合、このような
純度の高い材料を用いることによる高コスト化が問題と
なっている。本発明は、高純度の原材料を用いた場合と
同様の良質の炭素クラスターを、低コストで製造するこ
とのできる炭素クラスター製造用原料の提供を課題とす
る。 【解決手段】 グラファイト棒11の中心部をくり貫い
て穴部12を設け、そこに金属触媒含有材料13を充填
し焼結して、陽極となる既黒鉛化炭素質成形体10を得
る。ここで金属触媒含有材料13として、磁気テープ廃
材、磁気テープ用磁性塗料廃材、Ni含有乾電池廃材等
を利用する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は炭素クラスターの製
造用原料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】C60フラーレンは、マイクロクラスター
と超微粒子の研究の発展過程において近年発見された物
質である。なお、一般的にマイクロクラスターとは数個
から千個程度までの原子あるいは分子の集合体のことで
あり、それ以上のサイズをもつ微粒子は超微粒子と呼ば
れている。フラーレンは、幾何学的、物理化学的に特異
な特徴を有しており、その特徴を利用して様々な応用、
とくに電子材料やナノテクノロジーへの応用が検討され
ている。そして近い将来、フラーレンは例えば電界放出
電子源、発光体、水素ガス吸蔵物質、ナノボンベとして
実用化されると考えられている。
【0003】このようにフラーレンは急速な需要の拡大
が見込まれ、そのためフラーレンを大量に安定して製造
できる手段が求められている。現在、フラーレンの製造
方法としては、加熱フローガス中レーザー蒸発法、抵抗
加熱法、高周波誘導加熱法、燃焼法、アーク放電法など
が挙げられる。これらの方法の概略を下記に示す。
【0004】(1)加熱フローガス中レーザー蒸発法 1200℃に加熱したアルゴンガス(もしくはヘリウム
ガス)の流れの中で、炭素のレーザー蒸発を行う方法で
ある。ガスの流れる石英管が電気炉の中におかれ、材料
となるグラファイトをその石英管の中央に設置する。ガ
スの流れの上流側からグラファイトにレーザー(Nd:
YAGレーザー)を照射し蒸発させると、電気炉の出口
付近の冷えた石英管の内壁にC60やC70などのフラーレ
ンを含むススが付着する。この方法ではフローガスを加
熱しないと、フラーレンはほとんど生成しないが、12
00℃に加熱するとその収率は飛躍的にあがる。C60
ラーレンが生成するしきい値温度はおよそ1000℃前
後である。
【0005】上記のような高温・高圧のレーザー蒸発法
は、下記で説明するアーク放電法と比較するとC60フラ
ーレンの生成効率が高い。しかし、レーザー蒸発法は装
置を大幅に大型化しないかぎり、グラム量の原料ススの
生成には時間がかかりすぎるという欠点がある。レーザ
ー蒸発法は、フラーレンや金属内包フラーレンの多量生
成を目指すよりも、これらの生成機構を探るのに適した
方法である。
【0006】(2)抵抗加熱法 100Torr(13300Pa)のヘリウムガスで満
たされた容器の中でグラファイト棒を通電加熱し、炭素
のススを作成するという方法である。得られた炭素のス
ス中にはC60フラーレンが多量に含まれている。この方
法によってはじめて巨視的な量のフラーレンが製造でき
た。この方法は、希ガス中で原料物質を蒸発して、その
超微粒子あるいはクラスターを得るガス(中)蒸発法と
原理的には同じである。グラファイト棒から蒸発した炭
素蒸気(主にCとC2)は希ガス分子との衝突により冷
却され過飽和状態となり、炭素クラスターを形成する。
これらが気相でさらに成長してススができる。得られる
黒いススは、粒径が10〜100nmの超微粒子が鎖状
につながった集合体であり、非常に軽く、浮遊しやすい
粉である。
【0007】(3)高周波誘導加熱法 抵抗加熱やアーク放電を使う代わりに、高周波誘導によ
り原料グラファイトに渦電流を流し、これを加熱・蒸発
する方法が高周波誘導加熱法である。高周波誘導コイル
(100kHz、15kW)を巻いた石英管の中央に原
料グラファイトを置きヘリウムガス約110Torr
(14630Pa)の中で蒸発させる。この方法によ
り、抵抗加熱やアーク放電と同様にC60、C70のほかに
高次フラーレンを含むススが得られる。
【0008】(4)燃焼法 ベンゼンと酸素の混合ガスの燃焼によってもフラーレン
が得られる。炭素/酸素混合比を制御し、アルゴンガス
によって希釈した混合ガスを燃焼させると、フラーレン
が得られる。この方法は炭素/酸素混合比を調節するこ
とによってC60よりもC70の割合の高いススを生成でき
る。
【0009】(5)アーク放電法 炭素の蒸発にアーク放電を利用し、炭素ススをさらに多
量に生成できる方法である。コンタクトアーク法とも呼
ばれる。2本のグラファイト電極を軽く接触させたり、
あるいは1〜2mm程度離した状態でアーク放電を起こ
す。電源としては、交流、直流どちらを用いてもススを
得ることができる。直流の場合、陽極側のグラファイト
が蒸発する。蒸発した炭素のおよそ半分は気相で凝縮
し、合成容器内壁にススとなって付着する。残りの炭素
蒸気は陰極先端に凝縮して炭素質の固い堆積物を形成す
る。この堆積物中に、多層ナノチューブやナノ多面体粒
子が成長する。
【0010】アーク放電法において、電源として直流を
用いて炭素を蒸発するには、陽極グラファイト棒(消耗
電極)の直径が5mmの場合には概ね50A以上、10
mmの場合には100A以上の電流を流す必要がある。
電極間にかかる電圧はいずれの場合も20〜25Vであ
る。抵抗加熱法でもアーク放電法でも、真空蒸発ではC
60は生成しない。炭素ススを加熱し、蒸発してくる成分
を質量分析すると、C 60ばかりでなくC70、C76
78、C84など高次フラーレンが含まれていることが分
かる。フラーレンサイズが大きくなるほど蒸発しにくく
なるので、ススの加熱温度を高くするほど高次フラーレ
ンの量はC60に比べ相対的に多くなる。昇華温度の違い
を利用して、C60の精製分離を行うことができる。抵抗
加熱法やアーク放電法は高温・高圧のレーザー法と比べ
て生成効率では劣るものの、短期間にグラム量の多量の
原料ススを簡単に生成することができる。このため現在
ではフラーレンの生成には主にアーク放電法が用いられ
ている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、アーク
放電法によりフラーレンやカーボンナノチューブに代表
される炭素クラスターを製造するためには、例えば純度
の高いグラファイトと、触媒としての金属(例えばF
e、Co、Niなど)を用いる必要があり、フラーレン
を工業的に大量に製造する場合、このような純度の高い
材料を用いることによる高コスト化が問題となる。した
がって本発明の目的は、高純度の原材料を用いた場合と
同様の良質の炭素クラスターを、低コストで製造するこ
とのできる炭素クラスター製造用原料を提供することに
ある。
【0012】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、金属
触媒と炭素原料を含む既黒鉛化炭素質成形体からなる炭
素クラスター製造用原料において、前記金属触媒とし
て、磁気テープ廃材および/または磁気テープ用磁性塗
料廃材をその一部または全部として用いることを特徴と
している。この構成によれば、高純度の原材料を用いた
場合と同様の良質の炭素クラスターを、低コストで製造
することのできる炭素クラスター製造用原料が提供され
る。
【0013】請求項2の発明は、前記金属触媒としてさ
らにNi含有乾電池廃材を用いることを特徴としてい
る。この構成によれば、良質の炭素クラスターを、より
高い収率で製造することのできる炭素クラスター製造用
原料が提供される。
【0014】また請求項3の発明は、前記既黒鉛化炭素
質成形体が、金属触媒を含む内層と、該内層を被包し炭
素原料のみからなる外層とを備え、前記内層は磁気テー
プ廃材および/または磁気テープ用磁性塗料廃材と炭素
微粉末とを少なくとも含む材料よりなる焼結体で構成さ
れることを特徴としている。この構成によれば、得られ
た炭素クラスター製造用原料を用いて炭素クラスターを
製造する場合、アーク放電させた時のアークの飛び散り
が少なく、高い収率で良質の炭素クラスターを製造する
ことができる。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明をさらに説明する。
本発明の炭素クラスター製造用原料は、金属触媒と炭素
原料を含む既黒鉛化炭素質成形体からなり、金属触媒と
して、磁気テープ廃材および/または磁気テープ用磁性
塗料廃材を用いることを特徴としている。例えば、市販
されている磁気テープには、純度の高いFeやCoが使
用されているので、これらの廃材は炭素クラスター製造
用の金属触媒として十分に利用可能である。また、磁気
テープ用磁性塗料にもFeが多量に含まれることから、
該塗料を乾燥し溶剤を回収した残さも炭素クラスター製
造用の金属触媒として十分に利用可能である。
【0016】さらに、Ni含有乾電池廃材の電極材料
(ニッケル−水素電池、ニッケル−カドミウム電池:N
i(OH)2−NiOOH)に含まれるNiも金属触媒
として利用可能である。ただし、Ni含有乾電池廃材は
磁気テープ廃材または磁気テープ用磁性塗料廃材と併用
することが好ましい。
【0017】なお金属触媒のすべてを前記廃材が構成し
ていてもよく、あるいは、金属触媒の一部を前記廃材が
構成していてもよい。また、既黒鉛化炭素質成形体にお
ける炭素原料としては例えばグラファイトが挙げられ
る。
【0018】次に図面を参照しながら本発明の炭素クラ
スター製造用原料および該原料を利用した炭素クラスタ
ーの製造について説明する。図1は、本発明の炭素クラ
スター製造用原料の製造方法の一例を説明するための図
である。例えばアーク放電法において、電源として直流
電源を用い、炭素原料としてグラファイトを用いた場
合、良質の単層ナノチューブ(SWNTs:Single-wal
l nanotube)を得るためには陽極のグラファイトに触媒
を加える必要がある。本発明の一実施態様によれば、図
1に示すように、グラファイト棒11の中心部をくり貫
いて穴部12を設け、そこに金属触媒含有材料13を充
填する。金属触媒含有材料13は、前記のように磁気テ
ープ廃材、磁気テープ用磁性塗料廃材、および必要に応
じてNi含有乾電池廃材から形成することができるが、
これらの材料とともに炭素微粉末(例えばグラファイト
微粉末)を添加することができる。グラファイト微粉末
を混合することにより炭素クラスターをより高い収率で
得ることができる。
【0019】続いて金属触媒含有材料13を焼結させる
ことにより、既黒鉛化炭素質成形体10を得る。このよ
うに、既黒鉛化炭素質成形体10は、金属触媒含有材料
13よりなる内層と、該内層を被包し炭素原料のみから
なる外層(グラファイト棒11)とを備え、前記内層が
磁気テープ廃材および/または磁気テープ用磁性塗料廃
材と炭素微粉末とを少なくとも含む材料よりなる焼結体
で構成されるのが好ましい。
【0020】図2は、本発明の原料を利用した炭素クラ
スター製造装置の一例を説明するための図である。炭素
クラスター製造装置20には、放電室21が設けられ、
放電室21はロータリーポンプ22により減圧可能にな
っている。放電室21内の減圧状態は、真空計23によ
って測定される。放電室21の陽極24側に、図1の既
黒鉛化炭素質成形体10が設置され、陰極25側にグラ
ファイト棒26が設置される。炭素クラスター製造時に
は、ヘリウムガス導入口27からヘリウムガスが放電室
21内に導入され、直流電源28により陽極24および
陰極25間に電圧が印加され、両者間に放電が生じる。
この放電により、既黒鉛化炭素質成形体10が蒸発し、
蒸発した炭素のおよそ半分が気相で凝縮し、放電室21
内壁にススとなって付着する。生じたススは、放電室2
1の下部に設けられたスス回収口29より回収される。
【0021】
【実施例】以下、本発明を実施例により説明するが、本
発明は下記例に限定されるものではない。
【0022】実施例1〜9および比較例1 図1で説明したような既黒鉛化炭素質成形体10を本発
明の炭素クラスターの製造用原料の一例として用いた。
カセットテープ(VHS(酸化鉄含有)、8mm(鉄含
有)、DVC(コバルト含有))を分解して取り出した
テープ、およびNi含有乾電池電極を、約50μm以下
のサイズになるように十分に破砕し、グラファイト微粉
末(99.9%、平均粒径φ20μm)を各種混合比で
混合し、金属触媒含有材料13を調製した。続いて、φ
6mm×80mmのサイズを有するグラファイト棒11
を用意し、その中心部をφ3.2mm×50mmのサイ
ズでくり貫き、穴部12を設け、そこに前記金属触媒含
有材料13を密に充填した。
【0023】次に、図2で説明した炭素クラスター製造
装置(アーク放電装置)を使用し、放電室21の陽極2
4側に前記金属触媒含有材料13を充填したグラファイ
ト棒11を設置し、陰極25側にφ10mm×100m
mのサイズのグラファイト棒26を設置した。続いて、
放電室21内をロータリーポンプ22で約270Paま
で脱気し、両電極間に100Aの直流電流を流して、陽
極24に充填した金属触媒含有材料13を抵抗加熱によ
って焼結させ、既黒鉛化炭素質成形体10とした。
【0024】次に、放電室21内にヘリウムガス導入口
27からヘリウムガスを約300Paまで導入し、直流
電流70Aでアーク放電を行った。なお、放電中は電極
間を5mmに保持するため、消耗する陽極24を陰極2
5方向に送り込んでいった。また放電後は放電室21内
壁上部(電極の位置より上方)と天板にススが付着する
が、天板ススのみをスス回収口29から回収、分析し
た。回収したススに対し、飛行時間型質量分析(Bruker
社製:MALDI-TOF-MS)および高速液体クロマトグラフィ
ー(HPLC)により分析し、フラーレンの確認および
生成したフラーレンの組成比の確認を行った。なおHP
LC条件は、カラム:BUCKY PREP、展開溶
液:トルエン100%、流量:1ml/分、カラム温
度:30℃の条件で行った。
【0025】下記表1は、既黒鉛化炭素質成形体におけ
る金属触媒含有材料の組成を示すものである。また表2
は、アーク放電後に得られた各種フラーレンの濃度の比
率を示すものである。なお表1における比較例1は、各
廃材を用いずに、金属触媒として高純度のFeおよびN
i単体を用いた例である。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】質量分析の結果から、全サンプルについて
フラーレン(C60、C70、C76)が検出され、本発明の
炭素クラスターの製造用原料からフラーレンが生成する
ことが分かった。また質量分析およびHPLC分析か
ら、本発明の炭素クラスター製造用原料からのフラーレ
ン回収率は、高純度材料を用いた比較例1の場合と比べ
て若干の低下しか見られなかった。また本発明の炭素ク
ラスター製造用原料から得たフラーレンをSEM、TE
Mにより分析したところ、CNTs(カーボンナノチュ
ーブ)が生成していることも確認できた。したがって、
本発明の原料を用いて炭素クラスターを工業的に大量生
産することは問題ないことが判った。
【0029】なお、上記では炭素クラスターとしてフラ
ーレンを例にとり説明したが、本発明の原料を用いて他
の炭素クラスターを製造できることは勿論である。例え
ば、フラーレン類にLa、Y、Scなどランタニドなど
の金属や金属化合物を内包あるいは付着させた金属入り
フラーレン類、あるいはカーボンナノチューブなどの炭
素クラスターを製造することができる。
【0030】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
高純度の原材料を用いた場合と同様の良質の炭素クラス
ターを、低コストで製造することのできる炭素クラスタ
ー製造用原料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の炭素クラスター製造用原料の形成方法
の一例を説明するための図である。
【図2】本発明の原料を利用した炭素クラスター製造装
置の一例を説明するための図である。
【符号の説明】
10…既黒鉛化炭素質成形体、11…グラファイト棒、
12…穴部、13…金属触媒含有材料、20…炭素クラ
スター製造装置、21…放電室、22…ロータリーポン
プ、23…真空計、24…陽極、25…陰極、26…グ
ラファイト棒、27…ヘリウムガス導入口、28…直流
電源、29…スス回収口
フロントページの続き (72)発明者 伊藤 啓之 東京都品川区北品川6丁目7番35号 ソニ ー株式会社内 (72)発明者 田中 泰光 東京都品川区北品川6丁目7番35号 ソニ ー株式会社内 Fターム(参考) 4G032 AA04 AA41 BA00 GA01 4G046 CA00 CC06

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 金属触媒と炭素原料を含む既黒鉛化炭素
    質成形体からなる炭素クラスター製造用原料において、 前記金属触媒として、磁気テープ廃材および/または磁
    気テープ用磁性塗料廃材をその一部または全部として用
    いることを特徴とする炭素クラスター製造用原料。
  2. 【請求項2】 前記金属触媒としてさらにNi含有乾電
    池廃材を用いることを特徴とする請求項1記載の炭素ク
    ラスター製造用原料。
  3. 【請求項3】 前記既黒鉛化炭素質成形体は、金属触媒
    を含む内層と、該内層を被包し炭素原料のみからなる外
    層とを備え、前記内層は磁気テープ廃材および/または
    磁気テープ用磁性塗料廃材と炭素微粉末とを少なくとも
    含む材料よりなる焼結体で構成されることを特徴とする
    請求項1記載の炭素クラスター製造用原料。
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