JP4655432B2 - 塗装皮膜の密着性と耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼板表面に直接もしくは部材に加工した後、塗装皮膜を形成して用いられる塗装皮膜の密着性と耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車車体用材料としては、軟鋼板や高強度鋼板、あるいはこれらの鋼板に亜鉛めっきなどの表面処理を施しためっき鋼板が用いられている。これらの鋼板は、耐食性に優れることが必要であり、特に最近のように自動車が長寿命化している場合、この耐食性に対してもより一層の向上が求められている。
こうした要請に応えるため、最近では、鋼板表面に樹脂塗料を電着塗装し、さらに必要に応じて、上塗り塗装を施して用いられているが、いずれも工程が複雑化するなどの問題点がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
こうした問題点の解決策の一つとして開発されたものに、耐食性に優れたステンレス鋼板を用いることが考えられる。しかし、ステンレス鋼板は、塗装皮膜処理せずに用いると、光沢が強すぎることなどの外観上の問題が生じる。一方、ステンレス鋼板は、無塗装で用いてもなお耐食性を有するが、高価な合金成分を添加する必要があり、素材のコストアップや加工性の劣化を招く原因になっていた。
【0004】
これに対して、ステンレス鋼板を、耐食性が特に必要な部位や構造上塗装皮膜処理が困難な部位にのみ、部分的に用いることも考えられる。しかし、自動車のホワイトボディなどは、最終形状に組立後、一体で塗装皮膜処理されるため、ステンレス鋼板を用いた部位も他の部分と同時に塗装皮膜処理が施されることになる。しかし、この塗装皮膜処理では、ステンレス鋼板に安定して塗装皮膜を密着させることは難しく、塗装皮膜剥離を生じ、かえって隙間部での腐食が促進されるなどの問題があった。
【0005】
上記のような、塗装皮膜処理をすることによって、逆に耐食性が劣化するという現象は、ステンレス鋼板の表面に生成した薄い緻密なクロム酸化物層が関係し、この酸化皮膜の存在により逆に塗装皮膜密着性が劣って塗装皮膜が剥離し、塗装皮膜との隙間にたまった水などにより腐食が促進されるためと考えられている。このように、従来のステンレス鋼板は、塗装皮膜密着性が低い(塗装皮膜が剥離しやすい)という本質的問題点を有している。
【0006】
本発明の目的は、鋼板の表面に形成された塗装皮膜の密着性に優れ、かつ、塗装皮膜処理後の耐食性に優れたステンレス鋼板およびその製造方法を提案することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、従来技術が抱えている上述した問題点を解決するために、種々の組成、工程条件のステンレス鋼板を作製し、これらに樹脂塗装皮膜処理を施し、腐食試験を行った。その結果、特定の成分組成のフェライト系ステンレス鋼板を、大径ロールを用いるタンデム式冷間圧延機で冷間圧延し、焼鈍酸洗するいわゆる機能品の製造プロセスで製造した鋼板において、上記の塗装皮膜の密着性が高くかつ塗装皮膜処理後の耐食性の優れた鋼板が得られることを見出した。そしてこれら良好な塗装皮膜の密着性を示す鋼板は、最表層に特定の結晶方位が集積した鋼板であることを知見して本発明に想到した。
【0008】
すなわち、本発明は、
C:0.1mass%以下、
Si:1.0mass%以下、 Mn:1.5mass%以下、
P:0.06mass%以下、 S:0.03mass%以下、
Cr:6〜20mass%、 Ni:2.0mass%以下、
Mo:3mass%以下、 Al:1mass%以下、
N:0.04mass%以下、
Nb:0.01〜0.8mass%及び/またはTi:0.01〜1mass%
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、かつ鋼板表面には、板面法線方向と結晶粒の<111>方向とのなす角が15°以下である結晶粒の割合が面積率で30%以上有することを特徴とする塗装皮膜の密着性と耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼板である。
本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、その表面に厚さ2μm以上の樹脂塗装皮膜が形成されていることが好ましい。
さらに、本発明においては、前記樹脂塗装皮膜はカチオン電着塗装皮膜であることが好ましい。
【0009】
C:0.1mass%以下、Si:1.0mass%以下、Mn:1.5mass%以下、P:0.06mass%以下、S:0.03mass%以下、Cr:6〜20mass%、Ni:2.0mass%以下、Mo:3mass%以下、Al:1mass%以下、N:0.04mass%以下、Nb:0.01〜0.8mass%及び/またはTi:0.01〜1mass%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍し、必要に応じて酸洗し、冷間圧延し、必要に応じて連続焼鈍酸洗してフェライト系ステンレス鋼板を製造する方法において、前記冷間圧延を、ロール径が200mmφ以上のタンデム式冷間圧延機を用いて行うことにより、鋼板表面に、板面法線方向と結晶粒の<111>方向とのなす角が15°以下である結晶粒(以下、「<111>結晶粒」と略記する)とを面積率で30%以上生成させることを特徴とする塗装皮膜の密着性と耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法である。
【0010】
なお、本発明では、板面法線方向と結晶粒の<111>方向のなす角は、電子線後方散乱で測定した値を用いる。この理由は、従来のX線法では、表面から最大100μm深さまでの情報を検出するのに対し、電子線後方散乱では、表面性状に直接的に関係する表面に露出した結晶粒の情報のみを効果的に検出できるからである。電子線後方散乱による場合には、1000結晶粒程度の個数を測定すれば統計的に安定した測定値が得られる。
なお、結晶粒の面積率とは、上記の全測定結晶粒個数を100%としたときの、<111>結晶粒の個数の比率を意味する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明に係る鋼板を開発するために行った実験について説明する。
(実験1)
種々のCr量を有し、鋼板表面における<111>結晶粒の面積率を種々に変化させたフェライト系ステンレス鋼板を用意し、これらの鋼板に、カチオン電着塗装により10μmの塗装皮膜処理を施し、塗装皮膜の密着性を評価した。
なお、塗装皮膜の密着性は、塗装皮膜処理後のサンプルを、50℃の純温水中に10日間浸漬した後、塗装皮膜にカッターナイフで、2mm間隔で碁盤目状に地鉄に達する傷を入れ、その部分をテープ剥離した時の塗装皮膜の剥離面積率を測定し、その結果、塗装皮膜の剥離面積率が5%以上を不良、5%未満を良として評価した。
評価の結果を図1に示した。Cr量が20mass%以下、表面の<111>結晶粒の割合が30%以上の場合に限り、優れた密着性が得られていることが明らかである。
【0012】
(実験2)
種々のCr量を有し、かつ表面の<111>結晶粒の割合が30%を超えるステンレス鋼板を、70mm×60mmに剪断し、塗装皮膜厚みを種々の変えて塗装皮膜処理をしたのち、
・35℃−5mass%NaCl塩水噴霧 :0.5時間
・60℃乾燥 :1時間
・40℃湿潤(相対湿度≧95%)雰囲気:1時間
を1サイクルとする腐食試験を30サイクル行い、鋼板表面に生じた最大侵食深さを測定した。
その結果を図2に示したが、Cr量が6%以上であり、かつ、塗装皮膜厚みが2μm以上の場合には、鋼板最大侵食深さは0.01mm以下で、良好な耐食性であった。
【0013】
次に、本発明のフェライト系ステンレス鋼板における成分組成の限定理由について説明する。
C:0.1mass%以下
Cは、結晶粒界を強化し、耐二次加工脆性を向上させる元素である。しかし、多量に含有し、炭化物となって結晶粒界に析出するようになると、耐二次加工脆性、結晶粒界耐食性に悪影響を及ぼす。特に、0.1mass%を超えると、その悪影響が顕著となるので、0.1mass%以下に限定する。好ましくは、0.01mass%以下である。
【0014】
Si:1.0mass%以下
Siは、耐酸化性、耐食性を改善するために有効な元素である。しかし、1.0mass%を超えると、鋼板の靭性を劣化させ、溶接部の靭性をも劣化させることから、1.0mass%を上限とする。好ましくは、0.05mass%以下である。
【0015】
Mn:1.5mass%以下
Mnは、耐酸化性を改善するため、少量の存在はむしろ有効である。しかし、過剰に添加すると、鋼板の靭性を劣化させ、溶接部の靭性をも劣化させることから、1.5mass%以下に限定する。好ましくは、0.3mass%以下である。
【0016】
P:0.06mass%以下
Pは、結晶粒界に偏析しやすく、加工性および結晶粒界耐食性に悪影響を及ぼすので、この影響が顕著とならない0.06mass%を上限とする。好ましくは、0.03mass%以下である。
【0017】
S:0.03mass%以下
Sは、含有量が低い方が、耐食性を向上させる。よって、S含有量は0.03mass%以下とする。好ましくは、0.02mass%以下である。
【0018】
Ni:2.0mass%以下
Niは、耐食性を向上させるため、2.0mass%以下の範囲で添加しても良い。しかし、2.0mass%を超えて多量に添加すると、鋼板が硬質化し、また、オーステナイト相の生成により、応力腐食割れの懸念が生ずる。以上の観点から2.0mass%を上限とする。好ましくは、0.5mass%以下である。
【0019】
Cr:6〜20mass%
Crは、耐食性の向上に必須な元素であり、大気中で酸化して発錆しない程度の耐食性を得るためには、通常12mass%以上が必要とされている。しかしながら、上記(実験2)の結果から明らかなように、塗装皮膜を適正に形成した場合には、6mass%存在すれば良好な耐食性が得られることが判ったので、6mass%を下限とする。一方、Crは、鋼板表面に緻密な酸化皮膜層を形成し、塗装皮膜密着性を劣化させる元素でもある。特に、上記(実験1)の結果が示すように、20mass%を超えて含有すると、塗装皮膜の密着性を改善する結晶粒の<111>方向の結晶粒の割合を30mass%以上に増大させても塗装皮膜処理後の剥離が顕著になるので、これを上限とする。従って、Crは6〜20mass%の範囲とするが、好ましくは、12〜18mass%である。
【0020】
Mo:3mass%以下
Moは、耐食性の向上に有効な元素であるが、3mass%を超えて含有すると、熱処理時に析出物を生じて加工性の劣化を招くため、3mass%を上限とする。好ましくは、2.0mass%以下である。
【0021】
Al:1mass%以下
Alは、製鋼工程における脱酸剤として必要であるが、過度の添加は介在物の生成により、外観および耐食性を劣化させるため1mass%以下に限定する。好ましくは、0.2mass%以下である。
【0022】
Nb:0.01〜0.8mass%、Ti:0.01〜1mass%
Nb,Tiは、固溶C,Nを化合物として固定することにより、<111>結晶粒の量を増加する効果があり、単独、もしくは複合で添加することが必要である。それぞれ0.01mass%以下では有効な効果が得られないため、これを下限とする。しかし、Nbは、0.8mass%を越えて添加すると靭性の劣化が顕著となり、また、Tiは、1mass%を越えて添加すると外観および靭性の劣化を招くため、それぞれ上記の値に上限を定める。好ましくは、Nbは0.5mass%以下、Tiは0.25mass%以下である。
【0023】
N:0.04mass%以下
Nは、結晶粒界を強化し靭性を向上させるが、窒化物となって結晶粒界に析出すると、耐食性に悪影響を及ぼす元素である。その影響は0.04mass%を超えると顕著となるので、0.04mass%以下に限定する。好ましくは、0.01mass%以下である。
【0024】
本発明では、上記の必須とする元素の他に、結晶粒界の靭性改善の観点から、必要に応じて、Co,Bを少量添加することを妨げない。さらに、少量のV,Zr,Ca,Ta,W,Cu,Snを添加しても、本発明の上記効果に影響はなく、必要に応じて添加することが可能である。
【0025】
次いで、本発明に係るステンレス鋼板の特性について説明する。
本発明のステンレス鋼板においては、上述したように、板面における結晶粒のうち上記の定義に係る<111>結晶粒の面積率を30%以上とすると、塗装皮膜密着性が高く、塗装皮膜処理後の耐食性に優れるステンレス鋼板を得ることができる。しかし、<111>結晶粒の面積率が30%を下回ると、塗装皮膜の安定した密着が得られなくなるため、30%を下限とする。
【0026】
次に、ステンレス鋼板の表面に施される塗装皮膜について説明する。
従来の表面処理鋼板では、安定した耐食性を得るための塗装皮膜の厚みは、20μm程度、少なくとも10μm以上が必要であった。これに対し、本発明に係るステンレス鋼板の場合、最低2μmの塗装皮膜の厚みがあれば、安定した耐食性が得られる。これを下回ると、発錆および減肉が顕著になり好ましくない。 なお、本発明のステンレス鋼板は、通常よりも薄い塗装皮膜の厚みで充分な耐食性が得られることを利用して、例えば、ホワイトボディのうち、構造的に塗装皮膜の厚みが他の部分より薄くなる部位に使用することも可能である。
また、本発明のステンレス鋼板は、2μm以上の厚みに樹脂塗装皮膜処理を施してもよい。
【0027】
本発明に用いる樹脂塗装皮膜処理には、スプレー塗装、粉体塗装などの公知の塗装法が適用可能であるが、とりわけカチオン電着塗装が好適に適合する。
また、本発明フェライト系ステンレス鋼板は、部材に加工した後、前記部材に2μm以上の厚みに樹脂塗装皮膜処理を施してもよい。
【0028】
次に、本発明に係るステンレス鋼板を製造する方法について説明する。
製鋼工程は、転炉あるいは電気炉等で、上記した必須成分および必要に応じて添加される成分を含む鋼を溶製し、その後VODで2次精錬を行う。溶製した溶鋼は、公知の鋳造方法によって鋼素材(スラブ)とすることができるが、生産性および品質の観点からは、連続鋳造法を採用するのが好ましい。連続鋳造により得られたスラブは、1000〜1250℃に加熱され、熱間圧延により所望の板厚の熱延板とされる。この熱延板は、必要に応じて、900〜1100℃の連続焼鈍による熱延板焼鈍を施してもよい。その後、熱延板は、酸洗後、所望の板厚に冷間圧延した後、必要に応じて焼鈍酸洗して製品とされる。
【0029】
上記工程で、冷間圧延は、大径ロールを用いたタンデム式冷間圧延機を用いる。この理由は、大径ロールを用いたタンデム式冷間圧延機にて圧延することにより、<111>結晶粒の比率を30%以上確保するための制御が可能になるからである。冷間圧延の際のロール径は、少なくとも200mmφ以上、好ましくは300mmφ以上とするのがよい。タンデム式圧延機を用いる理由は、リバース式圧延機に比べ、鋼板表面での剪断変形が低減されて、r値を高めることができるからである。なお、冷間圧延工程は、工程生産上の都合により必要に応じて、中間焼鈍を含む二回以上の冷延を行ってもかまわない。
【0030】
また冷延後の焼鈍酸洗は、急速加熱後、800〜1100℃の短時間の連続焼鈍後、短時間酸洗を採用するのが好ましい。なぜならば、この条件において、上記の<111>結晶粒が多く得られる傾向があるからである。連続焼鈍の加熱速度は、2.0℃/秒以上、均熱保持時間は150秒以下、また酸洗は600秒以下とすることが好ましい。なお、用途によっては、焼鈍後に軽度の圧延を加えて形状、機械的性質の調整を行っても構わない。
【0031】
上記の方法で製造したステンレス鋼板は、樹脂塗装皮膜処理を施したのち使用に供することができるが、ホワイトボディ等の各種部材やパイプ等の部材に加工した後、樹脂塗装皮膜処理を施してもよい。上述したように、樹脂塗装皮膜処理には、スプレー塗装、粉体塗装などの公知の塗装法が適用可能であり、とりわけカチオン電着塗装が好適である。なお、塗装皮膜処理条件については特に制限はなく、常法に従えばよい。
【0032】
【実施例】
<発明例1>
C:0.004mass%,Si:0.10mass%,Mn:0.18mass%,P:0.04mass%,S:0.01mass%,Cr:8.5mass%,Ni:0.2mass%,Mo:1.2mass%,Cu:0.3mass%,V:0.06mass%,Al:0.04mass%,Nb:0.002mass%,Ti:0.3mass%,N:0.01mass%を含み、残部実質的にFeからなるスラブを、1120℃に加熱後、熱延仕上温度780℃で熱延し、板厚4.0mmの熱延板とした。その後、980℃×60秒の熱延板焼鈍をした後、ロール径250mmφのタンデム式冷間圧延機で厚さ0.85mmの冷延板とした。さらに、920℃×20秒の仕上焼鈍を行った後、酸洗により脱スケールし、厚さ0.8mmの供試ステンレス鋼板とした。このステンレス鋼板表面の<111>結晶粒の面積比率は42%であった。また、このステンレス鋼板を脱脂後、日本ペイント社製サーフダインSD2500MZL溶液で化成処理し、さらに同社製の塗装液V−20を用いてカチオン電着塗装を行い、膜厚8μmの樹脂皮膜を形成した。塗装皮膜処理後の樹脂皮膜について、先述した方法でテープ剥離試験の行った結果、塗膜剥離もなく良好な密着性を示した。さらに、
・35℃−5mass%NaCl塩水噴霧 :0.5時間
・60℃乾燥 :1時間
・40℃湿潤(相対湿度≧95%)雰囲気:1時間
を1サイクルとする腐食試験を、30サイクル繰返した後、ステンレス鋼板に生じた最大浸食深さを測定した。結果は0.01mm以下で、良好であった。
【0033】
<比較例1>
実施例1と同じ熱延板素材に、980℃×60秒の熱延板焼鈍を施したのち、リバース式の小径クラスター式圧延機で、厚さ0.85mmの冷延板とした。さらに、900℃×100秒の仕上焼鈍後、酸洗を行い脱スケールし、厚さ0.8mmの冷延焼鈍酸洗板とし、供試ステンレス鋼板とした。このステンレス鋼板表面の<111>結晶粒の面積比率は25%であった。また、この鋼板を脱脂後、日本ペイント社製サーフダインSD2500MZL溶液で化成処理し、さらに同社製の塗装液V−20を用いてカチオン電着塗装を行い膜厚8μmの樹脂皮膜を被成した。塗装皮膜処理後の樹脂皮膜について、発明例1と同じテープ剥離試験を行ったところ、まだら模様に剥離し、剥離面積率も10%となり、不良と評価された。さらにこの鋼板に、発明例1と同じ条件の腐食試験を行ったところ、30サイクル経過後のステンレス鋼板の最大浸食深さは0.24mmとなり、塗装皮膜が剥離した隙間を中心に発錆が顕著であった。
【0034】
<発明例2>
C:0.021mass%,Si:0.4mass%,Mn:0.25mass%,P:0.03mass%,S:0.02mass%,Cr:12.9mass%,Ni:0.3mass%,Mo:0.02mass%,Al:0.03mass%,Nb:0.3mass%,Ti:0.2mass%,N:0.01mass%を含み、残部実質的にFeからなるスラブを、1160℃に加熱後、粗圧延と7スタンドの仕上圧延からなる熱間圧延を仕上温度780℃で行い、板厚3.5mmの熱延板とした。その後、980℃×40秒の熱延板焼鈍をした後、ロール径250mmφの4スタンドタンデム式冷間圧延機で、厚さ0.85mmの冷延板とした。その後、920℃×20秒の仕上焼鈍と、軽酸洗で脱スケールを行い、厚さ0.8mmの焼鈍酸洗板とした。このステンレス鋼板の<111>結晶粒の面積率は35%であった。さらに、この板をパイプに加工したのち、エポキシ樹脂を吹きつけて塗装皮膜処理を施したところ良好な密着性が得られた。また、発明例1と同じ、腐食試験を行い、侵食深さを測定した結果、最大浸食深さは0.01mm以下と良好であった。
【0035】
【発明の効果】
以上説明したように、本願発明によれば、Cr含有量を6〜20mass%、鋼板表面に占める<111>方向の結晶粒の面積率を30%以上とすることにより、塗装皮膜の密着性が高くかつ塗装皮膜処理後の耐食性に極めて優れるフェライト系ステンレス鋼板を得ることができる。また、本発明に係るステンレス鋼板は、鋼板およびその鋼板を加工した部材に樹脂塗装皮膜処理を行うことにより、塗装皮膜の密着性が高くかつ塗装皮膜処理後の耐食性に極めて優れるフェライト系ステンレス鋼板を得ることができる。さらに、本発明に係るステンレス鋼板は、塗装皮膜の密着性に優れるため、最低2μm程度の塗装皮膜の厚みがあれば十分安定した耐食性が得られる。従って、塗装皮膜の厚みが、構造的に他の部分より薄くなる部位に使用することできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 鋼中Cr量と表面の<111>結晶粒の面積率が塗装皮膜の剥離性に及ぼす影響を示した図である。
【図2】 鋼中Cr量と塗装皮膜の厚みが耐食性に及ぼす影響を示した図である。
Claims (4)
- C:0.1mass%以下、Si:1.0mass%以下、Mn:1.5mass%以下、P:0.06mass%以下、S:0.03mass%以下、Cr:6〜20mass%、Ni:2.0mass%以下、Mo:3mass%以下、Al:1mass%以下、N:0.04mass%以下、Nb:0.01〜0.8mass%及び/またはTi:0.01〜1mass%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、かつ鋼板表面には、板面法線方向と結晶粒の<111>方向とのなす角が15°以下である結晶粒の割合が面積率で30%以上有することを特徴とする塗装皮膜の密着性と耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
- 前記鋼板は、その表面に厚さ2μm以上の樹脂塗装皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
- 前記樹脂塗装皮膜がカチオン電着塗装皮膜であることを特徴とする請求項2または3に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
- C:0.1mass%以下、Si:1.0mass%以下、Mn:1.5mass%以下、P:0.06mass%以下、S:0.03mass%以下、Cr:6〜20mass%、Ni:2.0mass%以下、Mo:3mass%以下、Al:1mass%以下、N:0.04mass%以下、Nb:0.01〜0.8mass%及び/またはTi:0.01〜1mass%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、熱間圧延し、冷間圧延して、フェライト系ステンレス鋼板を製造する方法において、前記冷間圧延を、ロール径が200mmφ以上のタンデム式冷間圧延機を用いて行うことにより、鋼板表面に、板面法線方向と結晶粒の<111>方向とのなす角が15°以下である結晶粒を面積率で30%以上生成させることを特徴とする塗装皮膜の密着性と耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
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