JP4655016B2 - 車輪用転がり軸受装置 - Google Patents

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本発明は、主として自動車に用いられる車輪用転がり軸受装置に関するものである。
従来、駆動輪を支持する車輪用転がり軸受装置として、エンジンに接続された駆動軸を、車輪が取り付けられる内軸の中心孔に結合し、駆動軸と内軸とを一体的に回転させるようにしたものが知られている。こうした車両用軸受装置にあっては、特許文献1に示されるように、内軸の外周に転がり軸受の内輪がインナー側(車輪が取り付けられる側の反対側)から取り付けられるように構成されている。駆動軸は、インナー側に大径部を有し、アウター側(車輪が取り付けられる側)に小径部を有するように構成され、その小径部が内軸の中心孔に挿入されている。そして、内軸の中心孔の内周面に形成されたスプラインと、駆動軸の小径部の外周面に形成されたスプラインとをスプライン係合させることにより、内軸と駆動軸との回転方向の結合が行われている。また、内輪のインナー側の側面を大径部のアウター側の側面に当接させ、駆動軸の小径部のアウター側先端に設けられたねじ部にナットを螺合することで、駆動軸を内軸に対してアウター側に押圧し、内軸と駆動軸との軸方向の結合が行われている。このようにして駆動軸と内軸等とを結合することにより、転がり軸受の内輪に適切な予圧を付与するとともに、駆動軸、内軸、及び内輪を一体的に回転させるようにしている。
ところで、こうした車輪用転がり軸受装置では、車両が急発進や急旋回するような状況において、駆動軸に大きなねじりトルクが加わることがある。駆動軸に大きなねじりトルクが加わると、上記スプラインと上記当接面との間における駆動軸と内軸等とのねじれ剛性の差により、当接面において円周方向に微小な相対運動が発生しようとする。このとき、当接面において発生するねじりトルクが、ナットの押圧による面圧に起因した摩擦抵抗を上回るまでは当接面での相対運動は発生せず、ねじりトルクが摩擦抵抗を上回ったときに急に相対運動が生じてエネルギが解放されるというスティックスリップ現象が発生する。こうしたスティックスリップ現象が発生する場合、当接面における急激な相対運動によって異音が発生してしまう。
そこで、特許文献1に示されるように、当接面に低摩擦部材を介在するようにした車輪用転がり軸受装置が提案されている。この車輪用転がり軸受装置は、低摩擦部材によって当接面を滑りやすく構成し、これによりスティックスリップ現象の発生を抑えて、異音の発生を抑えようとしている。
登録実用新案第2532672号公報
ところで、特許文献1に示されるような車輪用転がり軸受装置では、当接面を滑りやすく構成しているため、駆動軸と内軸等との結合状態における剛性の低下や、駆動軸等の疲労強度の低下を招くおそれがある。さらに、当接面の滑りにより駆動軸等の摩耗が進行すると、駆動軸と内軸等との結合強度や、内輪に付与している予圧を低下させてしまうおそれがある。
また、上記のようなスティックスリップ現象による異音は、ナットの押圧による面圧が高いほど、相対運動により開放されるエネルギが大きくなり、その音圧レベルが大きくなる。このため、面圧の大きさを考慮せずに、特許文献1に示されるように摩擦係数のみに着目するだけでは異音の音圧レベルを効果的に低減できない場合がある。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、当接面のスティックスリップ現象により発生する異音の音圧レベルを好適に低減することができる車輪用転がり軸受装置を提供することにある。
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、インナー側に大径部を有し、アウター側に小径部を有する駆動軸と、前記小径部の外周にスプラインを介して取り付けられる内軸と、前記小径部のアウター側に取り付けられるナットと、内軸の外周にインナー側から取り付けられる転がり軸受の内輪とを備え、内輪のインナー側の側面を前記大径部のアウター側の側面に当接させ、前記ナットをインナー側に螺合して駆動軸を内輪に対してアウター側に押圧することで、駆動軸、内軸、及び内輪を結合するようにした車輪用転がり軸受装置において、前記内輪の内周面におけるインナー側の端部には、前記内輪のインナー側の側面に対して接線接続されない曲面状のR面が形成され、当該R面の外周側にはインナー側へ延びるように内壁面が形成され、当該内壁面と前記内輪のインナー側の側面との間に、当該インナー側の側面に対して接線接続される曲面部が形成され、前記内輪のインナー側の側面は、前記大径部のアウター側の側面と面接触することをその要旨としている。
駆動軸の内軸への結合時に、小径部のアウター側に取り付けられるナットをインナー側へ螺号して、内輪のインナー側の側面を駆動軸の大径部のアウター側の側面に当接させる場合、一般的に各側面の当接面に付与される面圧は均一とならずに、面圧分布が当接面の内周側の端部において極大値をとる状態、いわゆるエッジロードが発生し易くなる。例えば、駆動軸の小径部のアウター側先端に形成されたねじ部にナットを螺合することで、駆動軸を内軸に対してアウター側に押圧するような場合においては、駆動軸の小径部がアウター側に引っ張られることになるため、当接面の内径側の面圧が相対的に増加し、エッジロードが発生し易くなる。
また、内輪は、側面及び内周面が研削により加工され、その後に側面と内周面とのコーナーRが旋削により加工されるといった手順で製作されるため、コーナーR加工時のばらつきに起因して側面の内周端の位置が変動することを防止するような対応がとられている。この対応としては、内輪の側面の内周縁に円錐面等で形成される小さな内壁面を設けて内周端の位置出しを行い、その後に内壁面を残した状態でコーナーRの加工を行うという手法が採用されている。このような手法で内輪が製作されると、側面と内壁面との角部、すなわち内輪の側面の内周端にエッジ形状が残されるため、上述のエッジロードがより顕著に発生することになる。
エッジロードが発生すると、面圧の大きくなる箇所が存在することになるため、その箇所における摩擦抵抗が増加して当接面の摩擦抵抗が全体的に大きくなる。このため、スティックスリップ現象により当接面に蓄積されるエネルギが大きくなり、そのエネルギの開放により発生する異音も大きくなる。
この点、同構成によれば、内輪の内壁面とインナー側の側面との間に、該側面に対して接線接続される曲面部が形成されるため、内輪の側面の内周端がエッジ形状となることを防止することができる。このため、エッジロードの発生を緩和することができ、面圧の部分的な上昇に起因してスティックスリップ現象の発生時に大きな異音が発生してしまうことを抑えることができる。従って、車両が急発進や急旋回するような状況において発生する異音の音圧レベルを低減することができる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車輪用転がり軸受装置において、前記曲面部は、前記インナー側の側面と前記内壁面との間のR面取りにより形成されることをその要旨としている。
同構成によれば、内輪の角部に形成される曲面部は、インナー側の側面と内壁面との間のR面取りにより形成されるため、内輪の側面の内周端がエッジ形状となることを防止することができ、エッジロードの発生を緩和してスティックスリップ現象により発生する異音の音圧レベルを好適に低減することができる。
本発明によれば、内輪の内壁面とインナー側の側面との間に、該側面に対して接線接続される曲面部が形成されるため、内輪の側面の内周側端部がエッジ形状となることを防止することができる。このため、エッジロードの発生を抑制することができ、当接面のスティックスリップ現象により発生する異音の音圧レベルを低減することができる。
以下、図1〜4を参照して、本発明に係る車輪用転がり軸受装置を具体化した一実施形態について説明する。図1は車輪用転がり軸受装置1の縦断面図である。車輪用転がり軸受装置1は、駆動軸10と、内軸20と、転がり軸受30とを備えている。
駆動軸10は、図示しない等速ジョイント及び差動装置を介してエンジンに接続されており、エンジンの出力回転が伝達される。駆動軸10は、等速ジョイントと接続されるインナー側に大径部11を有し、内軸20と結合されるアウター側に小径部12を有する。駆動軸10の小径部12の外周には、軸方向中途部にスプライン部13が形成されるとともに、アウター側先端にねじ部14が形成されている。
内軸20は、軸部21と、軸部21のアウター側端部に径方向外方に延びるように形成された円環状のフランジ部22とを有している。フランジ部22には、図示しない車輪のホイールがボルト23により締結されている。また、軸部21の中心には、駆動軸10が挿入される中心孔24が形成されている。中心孔24の内周には、駆動軸10のスプライン部13と対向する位置にスプライン部25が形成されている。
転がり軸受30は、複列のアンギュラ玉軸受であり、軸部21の軸方向中央部の外周面に取り付けられる。転がり軸受30は、内輪31と、外輪32と、複列の転動体としてインナー側及びアウター側に配列された玉33,34と、アウター側及びインナー側に配置されたシール部材35とを有する。内輪31は、内軸20の軸部21の外周にインナー側から取り付けられ、その内周面36が軸部21の外周面26と嵌合するとともに、アウター側の側面37が軸部21の段差部側面27と当接している。内輪31の外周には、インナー側の玉33の軌道面である第1軌道31aが形成されている。また、軸部21のフランジ部22側の外周には、アウター側の玉34の軌道面である第2軌道21aが形成されている。
一方、外輪32は、第1軌道31aに対向する第1外輪軌道32aと、第2軌道21aに対向する第2外輪軌道32bとを有する。また、外輪32の外周面には、径方向外側に延びるフランジ部38が設けられている。このフランジ部38は図示しない車体の懸架装置に取り付けられる。そして、インナー側の玉33が、第1軌道31aと第1外輪軌道32aとの間に配置され、アウター側の玉34が、第2軌道21aと第2外輪軌道32bとの間に配置されている。シール部材35は、外輪32の両側部と内輪31及び軸部21との間に介在し、車両の走行に伴い、泥水、砂利、小石等の異物が、外輪32と内輪31及び軸部21との隙間から転がり軸受30の内部に侵入することを防止している。
このように構成される車輪用転がり軸受装置1において、駆動軸10と内軸20とは以下のように結合される。駆動軸10の小径部12を内軸20の中心孔24に挿入することで、小径部12のスプライン部13と中心孔24のスプライン部25とをスプライン係合させ、駆動軸10と内軸20との回転方向の結合が行われる。また、内輪31のインナー側の側面39を駆動軸10の大径部11のアウター側の側面16に当接させ、駆動軸10のねじ部14にナット15を螺合することで駆動軸10を内軸20に対してアウター側に押圧し、駆動軸10と内軸20と内輪31との軸方向の結合が行われる。このようにして駆動軸10と内軸20等とを結合することにより、転がり軸受30の内輪31に適切な予圧を付与するとともに、駆動軸10、内軸20、及び内輪31が一体的に回転するように構成している。
ここで、駆動軸10の大径部11の側面16と、内輪31の側面39との当接面について説明する。側面16及び側面39は、軸心Oと垂直方向に形成されている。側面16と側面39とが当接する場合、各側面16,39の当接面における面圧は均一とならずに、面圧分布が当接面の端部において極大値をとる状態、いわゆるエッジロードが発生し易くなる。上述のように、駆動軸10の小径部12には、ナット15の螺合によってアウター側に引張り力が作用するため、図2の面圧分布に示すように、当接面の内径側の面圧が相対的に増加し、エッジロードが発生し易くなる。エッジロードが発生すると、面圧の大きくなる箇所が存在することになるため、その箇所における摩擦抵抗が増加して当接面の摩擦抵抗が全体的に大きくなる。このため、車両が急発進や急旋回するような状況において当接面に大きなねじりトルクが加わった場合に、スティックスリップ現象により当接面に蓄積されるエネルギが大きくなり、そのエネルギの開放により発生する異音も大きくなる。
そこで、本実施形態では、こうしたエッジロードの発生を緩和するために、内輪31を以下のように構成している。図3は図1のA部の拡大断面図である。同図に示すように、内輪31の内周面36と側面39との間に形成されたR面40は、側面39と接線接続するようには形成されておらず、側面39の内周縁には円錐状の内壁面41が形成されている。
内輪31は、側面39及び内周面36が研削により加工され、その後にR面40が旋削により加工されるといった手順で製作されるため、R面40の加工時のばらつきに起因して側面39の内周端39aの位置が変動することを防止する必要がある。内壁面41は、こうした内周端39aの位置ばらつきを防止するために設けられている。すなわち、内壁面41によって内周端39aの位置出しを行い、その後に内壁面41を残した状態でR面40の加工を行うようにしている。
そして、側面39と内壁面41との角部には、R面取りが施されている。このように、R面取りにより曲面部42が形成されると、曲面部42は側面39に対して接線接続されることになるため、側面39の内周端39aがエッジ形状となることを防止することができる。このため、側面39と内壁面41との角部にR面取りが施されない場合と比べて、エッジロードの発生を緩和することができる。図4に、角部にR面取りを施した場合と、R面取りを施さない場合との、当接面の面圧分布を示す。図中の実線XはR面取りを施した場合の面圧分布であり、破線YはR面取りを施さない場合の面圧分布である。同図に示すように、R面取りによって当接面の内径側への面圧の集中が緩和され、内径側で発生していた面圧のピーク値が低下する。
このようにして、当接面におけるエッジロードの発生を緩和し、当接面の摩擦抵抗を低減させることができるため、スティックスリップ現象により発生する異音を小さくすることができる。
上記実施形態の車輪用転がり軸受装置1によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、内輪31の側面39と内壁面41との角部には、R面取りが施されているため、側面39の内周端39aがエッジ形状となることを防止することができる。このため、ナット15の螺合により駆動軸10と内軸20等とが結合されたときに、当接面におけるエッジロードの発生を緩和することができる。従って、当接面の面圧の部分的な上昇を抑えることで、側面16と側面39とのスティックスリップ現象で開放されるエネルギを小さくすることができ、そのときに発生する異音の音圧レベルを低減することができる。これにより、車両が急発進や急旋回するような状況において発生する異音の音圧レベルを低減することができる。
(2)上記実施形態では、内輪31の側面39と内壁面41との角部にR面取りを施すといった内輪31の加工のみによって、エッジロードの発生を緩和してスティックスリップ現象により発生する異音の音圧レベルを低減している。このため、内軸20及び転がり軸受30をユニット化して出荷し、客先で駆動軸10を組付けるような場合に、出荷時の対応のみで異音の音圧レベルを低減することができる。従って、客先での対応が不要となり、客先に与える負担を軽減することができる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、内輪31の側面39と内壁面41との角部に、R面取りを施すことにより曲面部42を形成しているが、曲面部42が側面39に対して接線接続され、側面39の内周端39aがエッジ形状とならなければ、曲面部42は他の形態で形成されていてもよい。図5は他の形態における曲面部43の断面図を示したものである。曲面部43はR面で形成されており、一端43aが側面39に対して接線接続し、他端43bが内壁面41に対して接線接続しないような形態で形成される。このように構成しても、当接面におけるエッジロードの発生を緩和することができ、スティックスリップ現象により発生する異音を小さくすることができる。また、曲面部42,43はR面以外の曲面により形成されていてもよい。
・上記実施形態では、軸部21のフランジ部22側の外周に、アウター側の玉34の軌道面である第2軌道21aを形成しているが、内輪31のアウター側に個別の内輪部材を設けるように構成し、この内輪に第2軌道21aを形成するようにしてもよい。
・上記実施形態では、転がり軸受30として複列の玉軸受を用いているが、複列の円錐ころ軸受を用いてもよい。
実施形態に係る車輪用転がり軸受装置の縦断面図。 比較例における当接面の面圧分布を示すグラフ。 図1のA部の拡大断面図。 当接面の面圧分布を示すグラフ。 本発明の他の例における内輪の曲面部の断面図。
符号の説明
1…車輪用転がり軸受装置、10…駆動軸、11…大径部、12…小径部、15…ナット、20…内軸、21…軸部、30…転がり軸受、31…内輪、32…外輪、41…内壁面、42…曲面部。

Claims (2)

  1. インナー側に大径部を有し、アウター側に小径部を有する駆動軸と、
    前記小径部の外周にスプラインを介して取り付けられる内軸と、
    前記小径部のアウター側に取り付けられるナットと、
    内軸の外周にインナー側から取り付けられる転がり軸受の内輪とを備え、
    内輪のインナー側の側面を前記大径部のアウター側の側面に当接させ、前記ナットをインナー側に螺合して駆動軸を内輪に対してアウター側に押圧することで、駆動軸、内軸、及び内輪を結合するようにした車輪用転がり軸受装置において、
    前記内輪の内周面におけるインナー側の端部には、前記内輪のインナー側の側面に対して接線接続されない曲面状のR面が形成され、当該R面の外周側にはインナー側へ延びるように内壁面が形成され、当該内壁面と前記内輪のインナー側の側面との間に、当該インナー側の側面に対して接線接続される曲面部が形成され、前記内輪のインナー側の側面は、前記大径部のアウター側の側面と面接触する
    ことを特徴とする車輪用転がり軸受装置。
  2. 請求項1に記載の車輪用転がり軸受装置において、
    前記曲面部は、前記インナー側の側面と前記内壁面との間のR面取りにより形成される
    ことを特徴とする車輪用転がり軸受装置。
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