JP4652124B2 - 水素生産能を有する微生物の培養方法および水素生産方法 - Google Patents
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Description
このような観点から、微生物による生物的水素生産は燃料電池用燃料供給方法のより好ましい方法として、注目されている。
ピルビン酸由来の蟻酸より直接水素を発生する経路は、FHLシステムとして、多くの微生物が有している。
[1] 蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有し、蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化されている微生物(ただし、蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステムの転写アクティベーターの発現に関して改変されている微生物を除く)を好気条件で培養した後、嫌気条件で培養することを特徴とする水素生産能を有する微生物の培養方法、
[2] 好気条件で培養後、嫌気条件で培養する微生物が、エシェリキア・コリの形質転換体であることを特徴とする前記[1]に記載の培養方法、
[3] 好気条件で培養後、嫌気条件で培養する微生物が、エシェリキア・コリW3110株(ATCC 27325)の形質転換体である前記[1]に記載の培養方法、
[4] 好気条件で培養後、嫌気条件で培養する微生物が、エシェリキア・コリ W3110 △hycA株(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター 受託番号FERM P−20508)である前記[1]に記載の培養方法、
[5] 請求項1〜4のいずれかの方法により得られた水素生産能を有する微生物を、還元状態にある水素発生用反応溶液中、有機性基質と接触させることを特徴とする水素の生産方法、および
[6] 有機性基質が蟻酸またはその塩である前記[5]に記載の生産方法、
である。
なお、本明細書および特許請求の範囲において記載した△hycAは、
さらに、本発明で使用する微生物から除外される「蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステムの転写アクティベーターの発現に関して改変されている微生物」とは、本出願人が平成16年12月8日に出願した特願2004−356084の明細書に記載されているFHLシステムの転写アクティベーターが高発現されている微生物(たとえば、fhlAが高発現している微生物)を意味する。
http://gib.genes.nig.ac.jp/
http://ecoli.aist-nara.ac.jp/GB5/search.jsp
より検索を行うことにより、見出すことができる。ここで得られるDNA配列より、FHLシステムの形成を抑制する遺伝子を有した配列を増幅することが可能である。あるいは、hycAと相同性の高い配列を、以下URLに記載のデータベース
http://www.ddbj.nig.ac.jp/search/blast-j.html
より検索し、この配列を用いてFHLシステムの形成を抑制する遺伝子を探索することができる。
上記のごとくして創製された、蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有し、FHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化されている微生物の例として、エシェリキア・コリ W3110 △hycA株があげられ、この菌株は独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託番号FERM P−20508(受託日:平成17年4月19日)として寄託されている。
なお、本発明で使用される微生物、すなわち好気条件で培養後、嫌気条件で培養される微生物は、FHLシステムの転写アクティベーターの発現に関して改変されていない微生物である。
本発明にかかる生物的水素製造方法は、3段階で構成されている。1段階目は、好気条件下にて前記微生物を培養する段階、この段階においては、水素生産能を有していない微生物が得られる。2段階目は、1段階目で得られた水素生産能を有していない微生物が、水素生産能を獲得する段階である。3段階目は、2段階目で得られた水素生産能を獲得した微生物を用いて、水素生産を行う段階である。
蟻酸脱水素酵素およびヒドロゲナーゼからなるFHLシステムの発現のためには、培地中に微量の金属成分を含ませるのが好ましい。必要な微量金属成分は微生物種により異なるが、鉄、モリブデン、セレン、ニッケル等が挙げられる。なお、これらの微量金属成分は酵母エキスなどの天然栄養源には相当程度含まれている。そのため、天然栄養源を用いる場合は、必ずしも微量金属成分の添加を必要とはしない。
水素を発生させる方法としては、有機性基質、例えば蟻酸類を連続的にあるいは間欠的に供給する(直接的供給方法)か、あるいは微生物内代謝経路において蟻酸類に変換される糖類の化合物を供給すること(間接的供給方法)で可能となる。直接的供給方法と間接的供給方法の併用も可能である。
また、従来の都市ガスを用いた水素発生装置の改質方法では、600℃以上の改質温度が必要となり、メタノールを用いた改質方法でも数百℃の改質温度が必要となるのに対して、本発明の反応容器の温度は常温で用いることが可能である。さらに、通常、従来の改質器の立ち上げ、終了時に時間がかかるものの、本発明の方法では水素の生産までの取り扱いが容易で時間を短縮でき、燃料電池システムとしても好ましい。
エシェリキア・コリ株(FHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化株)の作成
1)ゲノムDNAの抽出
エシェリキア・コリ W3110株(ATCC27325)を、表1記載のLB培地10mlで37℃一晩振盪培養行い、GenomicPrep Cells and Tissue DNA Isolation Kit(Amersham Bioscience社製)にてゲノムDNAの抽出を行った。
上記1)にて取得したゲノムDNAから、プライマー
CTCTGGATCCATTTTCATCTTCGGGCGTGC(配列番号1)、
CTCTGAGCTCAAAGGTCACATTTGACGGCG(配列番号2)
を用い、サーマルサイクラー GeneAmp PCR System 9700(ABI社製)を使用してhycA領域を増幅した。増幅したDNAおよびプラスミドpHSG398(宝酒造(株)製)をBamH、SacIで制限酵素処理後、DNA ligation Kit ver2.1(宝酒造(株)製)によりライゲーションを行い、ベクターhycA−pHSG398を得た。さらに、得られたベクターをAvaII、XmnIで制限酵素処理後、DNA Blunting Kit(宝酒造(株)製)により平滑末端処理を行い、その後、8bpのEcoRIリンカーGGAATTCCと共にライゲーションし、△hycA−pHSG398を得た。
CTCTGCATGCAACCCATCACATATACCTGC(配列番号3)、
CTCTGCATGCATCGATCCTCTAGAGTATCG(配列番号4)
を用いて、sacB領域を増幅したものおよびプラスミドpTH18ks1(Hashimoto−Gotoh,T et al. A set of temperature sensitive−replication/−segregation and temperature resistant plasmid vectors with different copy numbers and in an isogenic background(chloramphenicol,kanamycin, lacZ,repA,par,polA). Gene 241,185−191(2000))をBamHI、SphIで制限酵素処理後、ライゲーションにより、ベクターsacB−pTH18ks1を得た。
得られたベクターsacB−pTH18ks1のBamHI、SacIサイトに同様にBamHI、SacIで制限酵素処理を行い、△hycA−pHSG398の△hycA領域を挿入し、△hycA−sacB−pTHks1を得た。
上記の方法により得られたベクター△hycA−sacB−pTH18ks1をW3110株にエレクトロポレーション法により挿入した。表2の培地組成の培地にて43℃培養することで、相同領域での組み換えが起こり、ベクターが染色体上に挿入された組み換え株を得た。
上記の方法により得られたW3110株のFHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化株はシーケンサー Prism 3100 genetic analyzer(ABI社製)により、hycA領域の削除された株であることを確認出来た。
上記の如くして、本実施例により形質転換されたエシェリキア・コリ W3110 △hycA株と命名し、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている(受託番号:FERM P−20508)。
実施例1により得られたエシェリキア・コリ W3110 △hycA株(W3110株のFHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化株)による微生物を用いた水素生産方法
1)好気条件下での培養
実施例1により得られたエシェリキア・コリ W3110 △hycA株(W3110株のFHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化株)株を表1で示される組成の培養液に加え、好気条件下、37℃で一晩振盪培養を行った。
次に好気条件下、一晩振盪培養を行った培養液を遠心分離機にかけ(5000回転、15分)、上澄み液を除去し、水素生産機能を有する微生物を得るために下表4で示される組成の培養液にて37℃で12時間の培養を行った。このとき、微生物濃度を0.2%(湿潤状態微生物質量基準)に設定して、嫌気条件下での培養を開始した。なお、pHは6.0を保つように適時5M水酸化ナトリウムの添加を行った。
本微生物を遠心分離により分離後、下表5の組成で示される還元状態下の水素発生用反応溶液50ml(ミリリットル)に懸濁調製した(微生物濃度0.2%湿潤状態菌体質量基準)。
水素発生能力の測定方法としては、ギ酸ナトリウムを滴下した直後に、発生するガスを水上置換で集める方法により測定を行った。
今回、蟻酸ナトリウムの添加から30秒間に発生するガス量より、発生速度を求めた。なお、発生ガスをガスクロマトグラフィー(島津製作所製)により、発生ガス中には50%(vol%)の水素と残余のガスを含んでいた。
上記の方法により、水素発生初速度を測定することで、水素生産能力を獲得した微生物の評価を行った。
実施例1により得られたエシェリキア・コリ W3110 △hycA株(W3110株のFHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化株)による微生物を用いた水素生産方法
嫌気条件での培養時の微生物濃度を1.0%(湿潤状態微生物質量基準)に設定すること以外は、実施例2と同様の方法で行った。
実施例1により得られたエシェリキア・コリ W3110 △hycA株(W3110株のFHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化株)による微生物を用いた水素生産方法
嫌気条件での培養時の微生物濃度を10.0%(湿潤状態微生物質量基準)に設定すること以外は、実施例2と同様の方法で行った。
エシェリキア・コリ(野生株W3110株 ATCC 27325)による微生物を用いた水素生産方法
野生株W3110を用いること以外は、実施例2と同様の方法で、培養時の微生物濃度を0.2%で行った。
1.0%エシェリキア・コリ(野生株W3110株 ATCC 27325)による微生物を用いた水素生産方法
野生株W3110を用いること以外は、実施例3と同様の方法で、培養時の微生物濃度を1.0%で行った。
エシェリキア・コリ(野生株W3110株 ATCC 27325)による微生物を用いた水素生産方法
野生株W3110を用いること以外は、実施例4と同様の方法で、培養時の微生物濃度を10.0%で行った。
嫌気条件下での培養開始時の微生物濃度がいずれの場合でも、本発明のFHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化された株の水素発生初速度は、野生株W3110に比較して増加することが確認出来た。
また、嫌気条件下での培養開始時の微生物濃度が0.2%、1.0%、10%と増加するにつれて、高微生物濃度になるほど、水素発生初速度は、同濃度で培養を開始した野生株W3110に比較すると、水素発生初速度、すなわち水素生産能力の獲得は容易になることが大きく向上することが明らかである。
この結果より、本発明のFHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化された微生物を用いることで、嫌気条件下での水素生産能を獲得が、高微生物濃度での培養で効率的に得ることが明らかである。
本発明のFHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化された株と野生株W3110とを比較した場合、本発明のFHLシステムの生成を抑制する遺伝子が不活性化された株では、野生株W3110に比較して短時間で水素生産能を有することが明らかである。
エシェリキア・コリ株(FHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化されていない株)の作成
1)ゲノムDNAの抽出
エシェリキア・コリW3110株(ATCC 27325)を、表1記載のLB培地10mlで37℃一晩振盪培養行い、GenomicPrep Cells and Tissue DNA Isolation Kit (Amersham Bioscience社製)にてゲノムDNAの抽出を行った。
上記1)にて取得したゲノムDNAから、プライマー
CGGAATTCGTCATTACTGATGCTGGACAGC(配列番号5)
CGGGATCCACGATTGGGTAGGGAGTAACCA(配列番号6)
を用い、サーマルサイクラー GeneAmp PCR System 9700(ABI社製)を使用してFHLシステムを構成するタンパク質(蟻酸脱水素酵素)の遺伝子fdhFおよびその上流のプロモータ領域を増幅した。増幅したDNAおよびプラスミドpMW118(ニッポンジーン社製)をEcoRI、BamHIにて制限酵素処理後、DNA ligation Kit ver2.1(宝酒造(株)製)によりライゲーションを行い、ベクターfdhF−pMW118を得た。
上記2)で得られたベクターfdhF−pMW118をW3110株にエレクトロポレーション法により導入し、表6の培地にて目的とするfdhF高発現株のコロニーを取得した。
上記の方法により得られたW3110株のFHLシステムの転写アクティベーターfdhFの高発現株の評価はリアルタイムRT−PCR法により行った。リアルタイムRT−PCR法は以下に記す方法に従った。まず、fdhFの高発現株および野生株を表1記載の培地にグルコース20mM(さらにfdhF高発現株についてはアンピシリン50mg/L)を添加し、10時間嫌気培養した菌体から、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)にてトータルRNAを抽出した。トータルRNA、下記fdhFのプライマー、
Fwd : TGAAATCGCCACCCGTATG(配列番号7)
Rev : AGAAATCCGGGCACAGATGAC(配列番号8)
およびQuantiTect SYBR Green RT−PCR(QIAGEN社製)を用い、下表7の混合液を作成し、ABI Prism 7000 sequence detection system(ABI社製)によって、50℃30分で逆転写、95℃15分で熱変性を行った後、95℃15秒、57℃20秒、60℃1分の条件で40サイクルの熱サイクルでDNAを合成し、各サイクルでの蛍光強度を検出することにより、DNAの増幅曲線から算出されるCT値の差よりfdhFの発現差を調べた。その結果、fdhF高発現株は野生株に比べfdhFについて2倍以上の発現量があることが確かめられた。
エシェリキア・コリ(FHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化されていない株W3110/fdhF−pMW118株)による微生物を用いた水素生産方法
比較例4で得られたW3110/fdhF−pMW118株を用いること以外は、実施例3と同様の方法で、培養時の微生物濃度を1.0%で行った。
エシェリキア・コリ(FHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化されていない株W3110/fdhF−pMW118株)による微生物を用いた水素生産方法
比較例4で得られたW3110/fdhF−pMW118株を用いること以外は、実施例4と同様の方法で、培養時の微生物濃度を10.0%で行った。
嫌気条件下での培養開始時の微生物濃度がいずれの場合でも、本発明のFHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化された株の水素発生初速度は、FHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化されていない株であるFHLシステムの蟻酸脱水素酵素に関するfdhFの高発現株に比較して増加することが確認出来た。
また、嫌気条件下での培養開始時の微生物濃度が0.2%、1.0%、10%と増加するにつれて、高微生物濃度になるほど、水素発生初速度は、同濃度で培養を開始したFHLシステムの蟻酸脱水素酵素に関するfdhF高発現株に比較すると、水素発生初速度、すなわち水素生産能力の獲得は容易になることが大きく向上することが明らかである。
この結果より、本発明の蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化された微生物を用いることで、嫌気条件下での水素生産能を獲得が、高微生物濃度での培養で効率的に得ることが明らかである。
本発明のFHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化された株とFHLシステムの蟻酸脱水素酵素に関するfdhF高発現株とを比較した場合、本発明のFHLシステムの生成を抑制する遺伝子が不活性化された株では、FHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化されていない株であるFHLシステムの蟻酸脱水素酵素に関するfdhF高発現株に比較して短時間で水素生産能を有することが明らかである。
この結果より、本発明のFHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化された微生物を用いて、嫌気条件下で水素生産能力を獲得する培養方法が、水素生産能力を獲得するのに効率的に可能である培養方法であることが明らかである。
Claims (4)
- 蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有し、hycA遺伝子が不活性化されているエシェリキア・コリW3110株(ATCC 27325)(ただし、蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステムの転写アクティベーターであるfhlA遺伝子の発現に関して改変されている微生物を除く)を好気条件で培養した後、嫌気条件で培養することを特徴とする水素生産能を有する微生物の培養方法。
- 好気条件で培養後、嫌気条件で培養する微生物が、エシェリキア・コリ W3110 △hycA株(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター 受託番号FERM P−20508)である請求項1に記載の培養方法。
- 請求項1又は2の方法により得られた水素生産能を有する微生物を、還元状態にある水素発生用反応溶液中、有機性基質と接触させて水素を発生させることを特徴とする水素の生産方法。
- 有機性基質が蟻酸またはその塩である請求項3に記載の生産方法。
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