JP4827547B2 - 水素生成能力に関する遺伝子が改良された微生物、その微生物の培養法及び水素生成方法 - Google Patents
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非特許文献1には、乳酸経路を破壊したことによる水素生成速度の向上、および水素収率の向上に関する記載がなされている。該文献には、グルコースからの水素生成に関する記述はなされているものの、水素生成能力の誘導発現、遺伝子の改変による水素生成速度及び収率の向上に関する記述は一切ない。
本発明の目的は、従来の技術では解決できなかった、水素生成能力の誘導発現培養時に優れた水素生成能力を獲得しうる新規な遺伝子組み換え技術による創製微生物、該微生物に水素生成能力を誘導する方法、及び水素生成能力を獲得した該微生物と有機性基質として蟻酸化合物を用いる生物的水素生成方法を提供するものである。そのようにして得られる水素生成能力を有する微生物を使用して生成された水素は燃料電池用の燃料源として使用することができる。
(1)蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有し、蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステムの転写アクティベーター遺伝子が高発現され、さらに蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステムの形成抑制遺伝子が不活性化されていることにより、蟻酸から水素を生成させる機能が向上し、かつ乳酸生成経路が不活性化されていることを特徴とする微生物、
(2)さらに、コハク酸生成経路が不活性化されていることを特徴とする(1)に記載の微生物、
(3)乳酸生成経路の不活性化が、乳酸脱水素酵素遺伝子の不活性化により行われていることを特徴とする(1)に記載の微生物、
(4)コハク酸生成経路の不活性化が、フマル酸還元酵素遺伝子の一部を不活性化することにより行われていることを特徴とする(2)記載の微生物、
(5)(1)〜(4)に記載の微生物が、通性嫌気性細菌であることを特徴とする微生物、
(6)(5)に記載の通性嫌気性細菌が、エシェリキア・コリの形質転換体であることを特徴とする微生物、
(7)エシェリキア・コリ(Escherichia coli) SR13 ΔldhA ΔfrdBC株(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター 受託番号FERM P−20774)、
(8)エシェリキア・コリ(Escherichia coli) SR13 ΔldhA株(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター 受託番号FERM P−20773)、
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の微生物を、好気条件下にて培養した後、さらに、嫌気条件で培養することを特徴とする水素生成能力を有する微生物の培養方法、及び
(10)(1)〜(8)のいずれかに記載の微生物を、好気条件下にて培養した後、さらに、嫌気条件で培養し、次いで蟻酸化合物を供給下、前記の培養した微生物を水素発生用溶液中で培養することを特徴とする水素の生成方法に関する。
「蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステムの形成抑制」とは、ピルビン酸由来の蟻酸から水素を生成する経路である蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステム(FHLシステム)の形成が阻害または抑制されることをいう。なお阻害または抑制には、一部阻害または抑制をも含む。
「不活性化」とは、目的遺伝子の発現が阻害または抑制されることをいう。該不活性化には、例えば、目的遺伝子が破壊等により欠失または欠損し、目的遺伝子の発現が認められない場合も含む。なお阻害または抑制には、一部阻害または抑制をも含む。
fhlA遺伝子を宿主である嫌気性微生物に導入する方法としては、例えばfhlA遺伝子(DNA)もしくは該DNAの上流にネイティブプロモータあるいはT7、lac、tac又はtrc等の外来プロモータ等を有したDNAを、プラスミド又はコスミド等のベクターに挿入し、このベクターを宿主である微生物へ導入する方法等が挙げられる。前記ベクターは、必要によりリボソーム結合部位、開始コドン、終始コドン又はターミネーター等を含んでいてもよい。また、その他の方法としては、トランスポゾンにfhlA遺伝子を挿入し、前記トランスポゾンを宿主の染色体上へ挿入する方法等が挙げられる。上記DNAとしては、該DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFHLシステムの転写アクティベーター活性を有するタンパク質をコードするDNAが含まれる。ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとは、例えば前記DNAをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるDNAを意味する。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、約0.7〜1.0Mの塩化ナトリウム存在下、約65℃でハイブリダイゼーションを行った後、約0.1〜2倍の濃度のSSC溶液を用い、約65℃の条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAを挙げることができる。
より検索を行うことにより、見出すことができる。ここで得られるDNA配列より、fhlA遺伝子、hycA遺伝子、ldhA遺伝子、frdABCD遺伝子を有した配列を増幅することが可能である。あるいは、fhlA、hycA、ldhA、frdABCDと相同性の高い配列を、以下URLに記載のデータベース
より検索し、この配列を用いて該当遺伝子を探索することができる。
このようにして、蟻酸化合物から水素を生成する機能が向上し、乳酸生成経路が不活性化、さらにはコハク酸生成経路に関与する遺伝子が不活性化されている微生物の創製が可能となる。
本発明による水素生成方法は、微生物の嫌気培養増殖とともに水素生成を行う方法と微生物培養段階と嫌気条件下の水素生成段階とを分ける方法が挙げられるが、水素の生産性の観点から微生物培養段階と水素生成段階とを分ける方法が好ましい。
好気条件下で微生物を培養する段階においては、微生物は高濃度まで短時間で培養することができる。培養するための手段としては公知の方法が用いられる。培養は好気条件で、例えば、振盪培養、ジャーファーメンター(Jar Fermenter)培養もしくはタンク培養等の液体培養、又は固体培養等が挙げられる。培養温度は、微生物が生育可能な範囲で適宜変更できるが、通常約15〜40℃、好ましくは約30〜40℃である。培地のpH値は約6〜8の範囲が好ましい。培養時間は、培養条件によって異なるが通常約0.5〜5日が好ましい。
水素生成能力を有していない微生物の水素生成能力を有する微生物への変換(水素生成能力の誘導発現)は、好ましくは嫌気条件下で培養することにより行われる。嫌気条件下での培養は、培地中の各種構成成分の拡散を促進するために撹拌培養が好ましい。嫌気条件下での攪拌培養開始時の微生物濃度は、約0.01〜80質量%(湿潤状態菌体質量基準)が好ましい。この際、微生物が水素生成能力を獲得するために、嫌気条件下での攪拌培養中に微生物が分裂増殖することが好ましいが、分裂増殖することは必ずしも必要ではなく、分裂増殖しない場合においても、FHLシステムの機能の発現が誘導されれば良い。上記方法によって微生物に、例えば、400ml以上/h/g wet cell、好ましくは420ml以上/h/g wet cellの水素生成機能が付与される。
誘導発現培養の微生物濃度に関しては、高濃度の微生物を嫌気条件下にて培養することが、より効果的に水素生成能力を付与することができるために好ましい。微生物の濃度としては、好ましくは約1〜50%(W/V)が用いられる。特に微生物あたりの水素生成能力を高めるためには、約1〜30%(W/V)の範囲で、嫌気条件下で培養を行うことがさらに好ましい。
上記誘導発現する時に使用される上記炭素源に基づく炭素の流れが、本発明の微生物では乳酸およびコハク酸に関する代謝経路の組換えにより、ピルビン酸から蟻酸への経路に集約されることになり、乳酸およびコハク酸に関する代謝経路が改変されていない微生物に比べて、本発明の微生物は、誘導発現培養時に蟻酸からの水素生成に関するFHLシステムの機能がより高度に発揮できる状態を獲得できると考えられる。
上述の水素生成能力を誘導発現するための培養終了後、培地中にある水素生成能力が誘導発現された微生物をそのまま用いることもできるし、一度微生物を分離した後に、還元状態(嫌気条件下)にある水素発生溶液に分離した微生物を加えて使用することもできる。いずれの場合であっても、培地又は水素生成溶液に蟻酸化合物を供給することにより、微生物に水素を生成させることができる。水素生成反応は一定のpH値で行うことにより安定して実施できるので、反応液には緩衝作用をもつ成分を添加することが好ましい。用いる緩衝剤としては、好ましくはリン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液などの酸緩衝液や、MES、PIPES、ACES、HEPES、HEPPS、MOPS、TAPS、CAPSなどのGoodの緩衝試薬などが挙げられる。反応のpH値により緩衝試薬の濃度、緩衝試薬の種類は適宜調整することが可能である。
蟻酸化合物は、ホルミルオキシ碁(化学構造式HCOO−)を有する物質である。具体的には、例えば、蟻酸、蟻酸ナトリウム、蟻酸カリウム、蟻酸カルシウム、蟻酸マンガン、蟻酸ニッケル、蟻酸セシウム、蟻酸バリウム、蟻酸アンモニウム等が挙げられる。それらの中でも、水に対する溶解度の面から蟻酸、蟻酸ナトリウム、蟻酸カリウム、蟻酸カルシウム、および蟻酸アンモニウムが好ましく、さらに、コストの面から蟻酸、蟻酸ナトリウムおよび蟻酸アンモニウムが好ましい。
水素の生成反応の反応温度は、一般的な常温微生物が宿主である場合、好ましくは約20〜45℃、さらに好ましくは約30〜40℃の範囲である。
微生物、蟻酸化合物及び消泡剤は、自体公知の方法に従って、水素生成溶液に供給することができる。
本発明の水素生成方法においては、主に水素と二酸化炭素からなるガスが生成され、基本的には一酸化炭素は生成されない。一般的に固体高分子型燃料電池の燃料として用いる場合には、一酸化炭素を除去するシステム(CO変成器、CO除去器等)を用いて、COは10ppm以下に維持する必要がある。本発明の創製微生物を用いた水素生成方法ではCOを除去する改質器の設置が不要となり、装置を簡易化できる。また燃料電池の寿命の面からも、本発明に係る水素生成方法により製造されるガスを用いることが好ましい。
本発明の水素生成方法を用いた燃料電池システムは、COが発生しないため、燃料電池の劣化に対しても問題が少ないこと、水素の供給方法としても、高温の必要な改質器のシステムを必要としないこと、蟻酸化合物の供給と同時に水素生成可能であることなど、多くの点で優れている。
[参考例1] エシェリキア・コリW3110株のFHLシステム転写アクティベーター遺伝子fhlA高発現かつFHLシステム生成に関する抑制遺伝子hycA破壊(不活性化)株の作成
1)ゲノムDNAの抽出
エシェリキア・コリW3110株(ATCC 27325)を、表1記載のLB培地10 mlで37℃一晩振盪培養行い、GenomicPrep Cells and Tissue DNA Isolation Kit (Amersham Bioscience社製)にてゲノムDNAの抽出を行った。
上記1)にて取得したゲノムDNAから、プライマー
CTCTGGATCCATTTCATCTTCGGGCGTGC (配列番号1)
CTCTGAGCTCAAAGGTCACATTTGACGGCG (配列番号2)
を用い、サーマルサイクラー GeneAmp PCR System 9700(ABI社製)を使用してhycA領域を増幅した。増幅したDNAおよびプラスミドpHSG398(宝酒造(株)製)をBamHI、及びSacIで制限酵素処理後、DNA ligation Kit ver 2.1(宝酒造(株)製)によりライゲーションを行い、ベクター hycA−pHSG398を得た。さらに、得られたベクターをAvaII、及びXmnIで制限酵素処理後、DNA Blunting Kit(宝酒造(株)製)により平滑末端処理を行い、その後、8bpのEcoRIリンカーGGAATTCCと共にライゲーションし、△hycA−pHSG398を得た。
CTCTGCATGCAACCCATCACATATACCTGC (配列番号3)
CTCTGCATGCATCGATCCTCTAGAGTATCG (配列番号4)
を用いて、sacB領域を増幅したものおよびプラスミドpTH18ks1(Hashimoto−Gotoh, T. et al. A set of temperature sensitive−replication/−segregation and temperature resistant plasmid vectors with different copy numbers and in an isogenic background (chloramphenicol, kanamycin, lacZ, repA, par, polA). Gene 241, 185−191 (2000))をBamHI、及びSphIで制限酵素処理後、ライゲーションにより、ベクターsacB−pTH18ks1を得た。
得られたベクターsacB−pTH18ks1のBamHIサイトとSacIサイトの間に△hycA−pHSG398の△hycA領域を挿入し、△hycA−sacB−pTH18ks1を得た。
上記の方法により得られたベクター△hycA−sacB−pTH18ks1をW3110株にエレクトロポレーション法により導入した。下表2記載の培地にて43℃培養することで、相同組み換えが起こり、ベクターが染色体上に挿入された組み換え株を得た。
上記の方法により得られたW3110株のFHLシステム生成に関する抑制遺伝子hycAの破壊株はシーケンサーPrism 3100 genetic analyzer(ABI社製)により、hycA領域の削除された株であることを確認した。
上記1)にて取得したゲノムDNAから、プライマー
GGGGTACCTAAAATTCTAAATCTCCTATATGTTAG (配列番号5)
CGGGATCCTGCGTCATCTCATCGATGACAA (配列番号6)
を用い、サーマルサイクラー GeneAmp PCR System 9700(ABI社製)を使用してfhlAおよびその上流のプロモータ領域を増幅した。増幅したDNAおよびプラスミドpMW118(ニッポンジーン社製)をKpnI、及びBamHIにて制限酵素処理後、DNA ligation Kit ver 2.1(宝酒造(株)製)によりライゲーションを行い、ベクター fhlA−pMW118を得た。
上記2)で得られたベクター fhlA−pMW118をhycA破壊株にエレクトロポレーション法により導入し、表1の培地にて目的とするhycA破壊かつfhlA高発現株のコロニーを取得した。
上記の方法により得られたFHLシステム生成に関する抑制酵素遺伝子hycA破壊かつFHLシステムの転写アクティベーターfhlA高発現株のfhlAの高発現の評価はリアルタイムRT−PCR法により行った。リアルタイムRT−PCR法は以下に記す方法に従った。まず、fhlAの高発現株および野生株を表1記載の培地にグルコース20 mM(さらにfhlA高発現株についてはアンピシリン50 mg/L)を添加し、10時間嫌気培養した菌体から、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)にてトータルRNAを抽出した。トータルRNA、下記fhlAのプライマー、
Fwd : AGATCGTTTCTGTCGTCACCG (配列番号7)
Rev : CCGGCATAACAACTCATAGTCG (配列番号8)
およびQuantiTect SYBR Green RT−PCR(QIAGEN社製)を用い、表4の混合液を作成し、ABI Prism 7000 sequence
detection system(ABI社製)によって、50℃ 30分で逆転写、95℃ 15分で熱変性を行った後、95℃ 15秒、57℃ 20秒、60℃ 1分の条件で40サイクルの熱サイクルでDNAを合成し、各サイクルでの蛍光強度を検出することにより、DNAの増幅曲線から算出されるCT値の差よりfhlAの発現差を調べた。その結果、hycA破壊かつfhlA高発現の株は、野生株に比べfhlAについて5倍以上の発現量があることが確かめられた。
1)ゲノムDNAの抽出
エシェリキア・コリW3110株(ATCC 27325)を、表1で示される組成のLB培地10mLにて、好気条件下、37℃で一晩振盪培養を行い、GenomicPrep Cells and Tissue DNA Isolation Kit(Amersham Bioscience社製)にてゲノムDNAの抽出を行った。
上記1)にて取得したゲノムDNAから、下記プライマー:
CCTGTTTCGCTTCACCGGTCAG (配列番号9)
TCTTTGGTTCTGTCCAGTACCG (配列番号10)
を用い、サーマルサイクラー GeneAmp PCR System 9700(ABI社製)を使用してldhA領域を増幅した。増幅したDNA及びプラスミドpTrc99A(Amersham Bioscience社製)をBamHI、及びPstIで制限酵素処理後、DNA ligation Kit ver 2.1(宝酒造(株)社製)によりライゲーションを行い、ベクター ldhA−pTrc99Aを得た。このベクターを鋳型とし、下記プライマー:
GGACTAGTCTGGCGTTCGATCCGTATCC (配列番号11)
GCTCTAGACCAAAACCTTTCAGAATGCGCA (配列番号12)
を用い、ldhAの一部欠落した箇所を増幅した。
これとは別に、プラスミドpHSG398(宝酒造(株)社製)を鋳型とし、下記プライマー:
GCTCTAGAACGGAAGATCACTTCGCAGAAT (配列番号13)
GGACTAGTTTAAGGGCACCAATAACTGCCT (配列番号14)
を用い、クロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)領域を増幅した。
増幅した2つのDNA断片(ldhAの一部欠落したDNA、およびクロラムフェニコール耐性遺伝子領域)をそれぞれ、SpeI、XbaIで制限酵素処理後、両DNA断片をDNA ligation Kit ver 2.1(宝酒造(株)社製)によりライゲーションを行い、ldhAの欠落した箇所にクロラムフェニコール耐性遺伝子が挿入されたベクター ΔldhA(CmR)−pTrc99Aを得た。
ベクターsacB−pTH18ks1のBamHIサイトとPstIサイトの間にΔldhA(CmR)領域のDNAを挿入し、ΔldhA(CmR)−sacB−pTH18ks1を得た。
このベクターの構造図を図1に示す。
上記の方法により得られたベクターΔldhA(CmR)−sacB−pTH18ks1をエシェリキア・コリ SR13株にエレクトロポレーション法により導入した。下表5記載の培地にて43℃にて培養することで、相同組み換えが起こり、ベクターがエシェリキア・コリ SR13株の染色体上に挿入された組み換え株を得た。
上記の如くして、本実施例により形質転換された株はエシェリキア・コリ(Escherichia coli) SR13 ΔldhAと命名し、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている(受託番号:FERM P−20773 受託日 平成18年1月27日)。
上記の方法により得られたエシェリキア・コリ SR13株のldhAを不活性化した株はシーケンサー Prism 3100 genetic analyzer(ABI社製)により、ldhA領域にクロラムフェニコール耐性遺伝子が挿入され、ldhAが不活性化された状態であることを確認した。
1)フマル酸還元酵素遺伝子frdABCD破壊株作製用ベクターの作成
W3110のゲノムDNAから、下記プライマー:
GCGAGCTCGTGCAAACCTTTCAAGCCGA (配列番号15)
CGGGATCCGACACCAATCAGCGTGACAA (配列番号16)
を用い、サーマルサイクラーGeneAmp PCR System 9700(ABI社製)を使用してfrdABCD領域を増幅した。増幅したDNAおよびプラスミドpHSG398(宝酒造(株)製)をBamHI、及びSacIで制限酵素処理後、DNA ligation Kit ver 2.1(宝酒造(株)製)によりライゲーションを行い、ベクター frdABCD-pHSG398を得た。さらに、得られたベクターを鋳型に、プライマー
CCGCTCGAGCTGAACCCAGAGTTCATCGG (配列番号17)
CCGCTCGAGAACGTACGCTTTCGCCAGTT (配列番号18)
を用いてインバースPCR後、XhoIで処理し、pUC4K(Amersham Bioscience社製)を鋳型にプライマー
CCGCTCGAGGAAGATGCGTGATCTGATCCT (配列番号19)
CCGCTCGAGGCCACGTTGTGTCTCAAAATC (配列番号20)
を用いて増幅したカナマイシンカセットを挿入し、ΔfrdBC−pHSG398を得た。
上記1)の方法により得られたベクターΔfrdBC−sacB−pTH18ks1を実施例1で得られたfhlA高発現・hycA破壊・ldhA破壊株にエレクトロポレーション法により導入した。表5記載の培地にて43℃培養することで、相同組み換えが起こり、ベクターが染色体上に挿入された組み換え株を得た。
さらに、上記で得られた株から表7で示す培地にて30℃で培養することにより、SR13株の乳酸脱水素酵素遺伝子ldhAおよびフマル酸還元酵素遺伝子frdBCの破壊株を得た。
上記の方法により得られたフマル酸還元酵素遺伝子frdBCの破壊株はシーケンサーPrism 3100 genetic analyzer(ABI社製)により、frdBCの不活性化された株であることを確認した。
上記の如くして、本実施例により形質転換された株はエシェリキア・コリ(Escherichia coli) SR13 ΔldhA ΔfrdBCと命名し、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている(受託番号:FERM P−20774 受託日 平成18年1月27日)。
1)好気条件下での培養
実施例1により得られたエシェリキア・コリ株(fhlA遺伝子高発現かつhycA遺伝子破壊かつ乳酸脱水素酵素遺伝子破壊株)を下表8で示される組成の培養液 10mLに加え、好気条件下、37℃で一晩振盪培養を行った。
一晩振盪培養した培養液5mLを、表8記載の培地500mLへ植菌し、1L容ジャーファーメンター(ABLE−BIOT社製)にて好気培養を行った。この際、pH=6.5(5N NaOHにて調整)、37℃、通気速度=1L/min.で12時間培養を行った。これにより約25g(湿重量)の菌体が得られた。
好気条件下で培養を行った培養液を遠心分離機にかけ(6500回転、20分)、上澄み液を除去し、水素生成能力を有する微生物を得るために、表8で示される組成の培養液200mLにて嫌気条件下37℃で8時間の培養を行った。
このとき、微生物濃度を10%(湿潤状態微生物質量基準)に設定して懸濁し、嫌気条件下での培養を開始した。嫌気条件下での培養は窒素95%、水素5%雰囲気の嫌気チャンバーシステム(Coy社製)内で行った。なお、pHは6.0を保つように適時5M水酸化ナトリウムの添加を行った。
嫌気培養を12時間行った後、培養液の遠心分離を行い、菌体を回収した。
得られた菌体を、下記表9に記載の組成で示される水素生成用溶液50mLに菌体密度が0.2%(湿潤状態菌体質量基準)になるように懸濁した。
水素生成能力の測定方法としては、蟻酸ナトリウムを滴下した直後に、生成するガスを水上置換法により集める方法により測定を行った。
今回、蟻酸ナトリウムの添加から5分間に発生するガス量より、水素生成初速度を求めた。なお、生成ガスをガスクロマトグラフィー(島津製作所社製)により分析したところ、生成ガス中には50容積%の水素と残余のガス(炭酸ガス)を含んでいた。
実施例2で得られた株 エシェリキア・コリ(Escherichia coli) SR13 ΔldhA ΔfrdBCを用いる以外は、実施例3と同様の方法で、好気条件下での培養、嫌気条件下での培養を行い、水素生成初速度の測定を行った。
野生株のエシェリキア・コリ W3110株(ATCC 27325)を用いる以外は、実施例3と同様の方法で、好気条件下での培養、嫌気条件下での培養を行い、水素生成初速度の測定を行った。
エシェリキア・コリ SR13株を用いる以外は、実施例3と同様の方法で、好気条件下での培養、嫌気条件下での培養を行い、水素生成初速度の測定を行った。
Claims (5)
- 蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有し、蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステムの転写アクティベーター遺伝子が高発現され、さらに蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステムの形成抑制遺伝子が不活性化されていることにより、蟻酸から水素を生成させる機能が向上し、かつ乳酸脱水素酵素遺伝子が不活性化され、さらに、フマル酸還元酵素遺伝子の一部が不活性化されていることを特徴とするエシェリキア・コリ。
- エシェリキア・コリ W3110(ATCC27325)株を用いて作製されたものである請求項1に記載のエシェリキア・コリ。
- エシェリキア・コリ(Escherichia coli) SR13 ΔldhA ΔfrdBC株(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター 受託番号FERM P−20774)。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のエシェリキア・コリを、好気条件下にて培養した後、さらに、嫌気条件で培養して水素生成能力を誘導発現することを特徴とする水素生成能力の誘導発現方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のエシェリキア・コリを、好気条件下にて培養した後、さらに、嫌気条件で培養して水素生成能力を誘導発現し、次いで蟻酸化合物の供給下、前記の培養したエシェリキア・コリを水素発生用溶液中で培養することを特徴とする水素の生成方法。
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