JP4651779B2 - ロービングプリプレグ及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、低圧での成形性に優れ、シェルフライフが長く、しかも機械的特性の良好なロービングプリプレグおよび該ロービングプリプレグの製造方法に関する。更に詳しくは、航空宇宙用途の圧力容器製造等に好適なロービングプリプレグおよび該ロービングプリプレグの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
炭素繊維等のロービングに未硬化の樹脂を含浸したプリプレグ、即ち、ロービングプリプレグは、フィラメントワインディング成形、プレス成形、プルトルージョン成形などに多く使用されている。
【0003】
このロービングプリプレグは、樹脂を熱溶融させて樹脂フィルムを製造した後、ロービングに圧着・含浸させるホットメルト法や熱溶融させた樹脂をロービングに直接含浸させる方法、あるいは、室温でロービングに樹脂を含浸する製造方法等によって製造される。例えば、
▲1▼ 特開平10−306139号公報では、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、潜在性アミン系硬化剤、ジメチルウレア型硬化促進剤の組合せによって、既知の製造技術であるホットメルト法で作製可能なロービングプリプレグが提案されている。
【0004】
▲2▼ 特開平9−136976号公報では、50℃における粘度が300,000〜10,000,000mPa・sの熱硬化性樹脂を熱溶融・吐出してロービングに含浸させるロービングプリプレグの製造方法が提案されている。
【0005】
▲3▼ 特開平3−221535号公報、特表平9−503021号公報では、
(A)マトリックス樹脂
(B)室温で反応する硬化剤
(C)室温で実質的に反応しない硬化剤
からなる樹脂を室温でフィラメント又は繊維に含浸させた後、室温で放置し、樹脂を増粘させるロービングプリプレグの製造技術が提案されている。
【0006】
▲4▼ 特開平3−193436号公報、特表平9−502939号公報では、
(A)マトリックス樹脂
(B)室温で反応する硬化剤
(C)室温で実質的に反応しない硬化剤
(D)界面活性剤
からなる樹脂を室温でフィラメント又は繊維に含浸させた後、室温で放置し、樹脂を増粘させるロービングプリプレグの製造技術が提案されている。
【0007】
また、力学的特性向上技術に関して、フィラメントワインディング法による複合材料の力学的特性向上に向けた樹脂組成面での提案も行われている。例えば、
▲5▼ 特開平8−156115号公報では、エポキシ樹脂、酸無水物、イミダゾール系触媒、カルボキシル基をもつ高分子量界面活性剤をベースレジンとし、炭素繊維を強化繊維とする複合材料が提案され、フィラメントワインディング法で高曲げ強度の複合材料が得られると報告されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
近年、大型構造物、航空機、宇宙関連構造部材等の分野を対象として、軽量で、機械的特性に優れ、且つ、耐熱性に優れた材料である高強度炭素繊維強化複合材料の適用が検討されている。ロービングプレプレグは、前記のフィラメントワインディング法等で用いられ、該方法は強化繊維が切断されない複合材料を製造することができ、最も優れた機械的特性を具現できる手段であるので、前記分野への適用が期待されている。
【0009】
しかしながら、これまで提案されている前記の手法は何れも大きな問題を抱えている。
即ち、前記▲2▼及び、既に本発明者等が提案した前記▲1▼から得られるロービングプリプレグは、通常のホットメルト法に好適なように樹脂粘度を設定しているため、それぞれの公報の実施例などに示される通り、オートクレーブ等を用いて加圧成形(通常、成形圧力は、0.5〜0.7MPa程度)する必要がある。しかし、オートクレーブ成形においてはフィルムを用いてロービングプリプレグの表面を覆い(バッキング作業)、内部を真空に引き、かつガスによる加圧でロービングプリプレグ層間を密着させることが必要となる。この作業には、真空漏れが無いような確実なシールを行うことが不可欠であり、高コストの要因となっている。また、大型構造物の成形には、大型のオートクレーブが必要であり、これも高コスト化の一因となっている。
【0010】
また、前記▲3▼、▲4▼、▲5▼では、マトリックス樹脂を室温でフィラメント、繊維、若しくはストランドに含浸させるので、成形物中の樹脂含有率の正確な調整が困難で機械的特性のばらつきが大きいという問題を抱えていた。
【0011】
また、前記▲3▼、▲4▼は、マトリックス樹脂を室温で反応させ、粘度を制御するという手法であり、一定条件の熱処理を行っていないため、品質が経過日数によってばらつくという欠点があった。
【0012】
そこで、本発明は、低圧での成形性に優れ、オートクレーブによる加圧成形を行わなくても充分な層間の密着状態を有し、シェルフライフが長く、しかも、機械的特性の良好なロービングプリプレグおよび低コストなFRP成形を可能とするロービングプリプレグの製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
これらの問題点を解決するために本発明者等は鋭意研究の結果、次の発明を完成した。 本発明のロービングプリプレグは、50℃における粘度が、1,000mPa・s以下になるようにマトリックス樹脂を調整した後、40℃〜60℃で25〜100時間加熱し、50℃における粘度を50,000〜200,000mPa・sに増粘させた後、強化繊維材にマトリックス樹脂を含浸させるホットメルト法により作製されたロービングプリプレグであって、該ロービングプリプレグを用いて成形温度110℃、成形圧力0.02MPaで成形した時の層間接着面積率が80%以上であることを特徴とするロービングプリプレグを実現した。
該マトリックス樹脂は、樹脂成分として下記[A]〜[D]を必須成分とし、[A]100重量部に対し[B]10〜20重量部、[C]2〜10重量部、[D]0.1〜1重量部含有するマトリックス樹脂であり、該マトリックス樹脂の40℃で3カ月加熱した後の50℃における粘度が、100,000〜400,000mPa・sであり、該マトリックス樹脂を100〜180℃で硬化させた樹脂硬化物の破断伸度が10%以上であることを特徴とする。
[A]:エポキシ樹脂
[B]:酸無水物
[C]:三塩化ホウ素アミン錯体
[D]:界面活性剤
【0014】
本発明のロービングプリプレグは、前記ロービングプリプレグに使用されるマトリックス樹脂の50℃における粘度が、1,000mPa・sより低く、且つ、40〜60℃で25〜100時間加熱した後の50℃における粘度が50,000〜200,000mPa・sであり、しかも、40℃で3ヶ月加熱した後の50℃における粘度が、100,000〜400,000mPa・sである。なお、粘度の測定のために40℃で3カ月加熱する理由は、3カ月経過後も樹脂に十分なタック性が残っていれば、使用可能性があるという判断を行うため基準とした。また、粘度を50℃にて測定する理由は、ホットメルト法でプリプレグを製造する工程の最後で一旦シート状に作製したプリプレグからロービングを分割するが、その工程のヒートローラの温度が50〜55℃であり、糸切れなどに影響を及ぼす重要な工程であるので、該工程と同等な温度でマトリックス樹脂の粘度を測定することにした。
【0015】
また、本発明のロービングプリプレグの製造方法は、50℃における粘度が、1,000mPa・s以下になるようにマトリックス樹脂を調整した後、40℃〜60℃で25〜100時間加熱し、50℃における粘度を50,000〜200,000mPa・sに増粘させた後、強化繊維材にマトリックス樹脂を含浸させることを特徴とする。該マトリックス樹脂は、該ロービングプリプレグを用いて成形温度110℃、成形圧力0.02MPaで成形した時の層間接着面積率が80%以上であり、該マトリックス樹脂を100〜180℃で硬化させた樹脂硬化物の破断伸度が10%以上であり、前記マトリックス樹脂が下記[A]〜[D]を必須成分とし、[A]100重量部に対し[B]10〜20重量部、[C]2〜10重量部、[D]0.1〜1重量部含有するマトリックス樹脂であることを特徴とする。
[A]:エポキシ樹脂
[B]:酸無水物
[C]:三塩化ホウ素アミン錯体
[D]:界面活性剤
【0016】
前記本発明のロービングプリプレグの製造法は、特開平3−221535号公報、特表平9−503021号公報、特開平3−193436号公報、特表平9−502939号公報で提案されているような以下の方法、即ち、室温でフィラメント又は繊維に樹脂を含浸させた後、室温で放置し、樹脂を増粘させるロービングプリプレグの製造方法、いわゆる、ケモレオロジー的粘度調整済みマトリックス樹脂を用いる技術思想とは発想を異にする製造方法であり、本発明は40〜60℃で25〜100時間の加熱処理することによって一定品質のロービングプリプレグを得ることに特徴がある。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明のロービングプリプレグには、炭素繊維、ボロン繊維、シリコーンカーバイト繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の強化繊維材が用いられるが、特に高強度、高弾性率の複合材料を得る目的のためには炭素繊維が最も好ましい。炭素繊維の中でも、取扱性及び得られる複合材料の機械特性の観点から、ポリアクリロニトリル系の高強度炭素繊維が好ましく、ストランド強度が6200MPa以上の高強度炭素繊維が特に好ましい。
【0018】
本発明のロービングプリプレグに用いられるマトリックス樹脂は、100〜180℃、好ましくは120〜150℃で硬化させた樹脂硬化物の破断伸度が10%以上、好ましくは15%以上であることがCFRPの強度を向上させるために望ましい。
【0019】
従来のプリプレグはオートクレーブを用いず外圧を負荷しない方法で成形した場合の層間の密着性が10〜30%と著しく低い。
層間の密着性は層間の接着面積率として表すことができる。層間接着面積率が高いほど層間剪断強度も向上し、層間接着面積率が低いと層間剪断強度は低下する。成形体本来の強度特性を得るためには層間接着面積率は80%以上である必要がある。FRP本来の強度特性を低圧条件での成形において発現するために、層間の密着性を高める必要がある。
【0020】
一方、圧力容器を製造する際に、ロービングプリプレグを用いフィラメントワインディング法で成形するには、ロービングプリプレグに張力を負荷しながら球形マンドレルに巻き付ける。この時ロービングプリプレグがマンドレル表面または下層のプリプレグに与える面圧は下式(1)で表される。
【0021】
P=σt/a 式(1)
式中、Pはロービングプリプレグがマンドレル表面または下層のプリプレグに与える面圧、σはロービングプリプレグに与えられる張力、tはロービングプリプレグの板厚、aは圧力容器の半径を表す。上記式(1)で得られる面圧が0.04MPa以下、好ましくは0.02MPa以下となるマンドレル形状においても充分な層間接着面積率、80%以上が得られることが必要である。
【0022】
また、構造用FRPに用いられるプリプレグのマトリックス樹脂はエポキシ系樹脂が一般的であるが、本発明ではこれらの樹脂系の最低の溶液粘度は70〜120℃で得られ、好ましくは100〜120℃で得られることが望まれる。この温度域で得られるマトリックス樹脂の流動性により層間接着面積率の最大値が決定される。
【0023】
本発明のロービングプリプレグの製造に用いられるマトリックス樹脂の好ましい具体的な樹脂成分の組合せは、エポキシ樹脂、酸無水物、三塩化ホウ素アミン錯体、界面活性剤の組合せである。
【0024】
前記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂が好ましく、多官能型エポキシ樹脂としては、4官能型エポキシ樹脂、3官能型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等が使用できる。
【0025】
前記酸無水物としては、ドデセニル無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物等の脂肪族酸無水物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の脂環式酸無水物、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物等の芳香族酸無水物等が使用できる。
【0026】
前記界面活性剤としては、パーフルオロアルキルアルコキシレート、フッ素化アルキルエステル等が使用できる。特に、フッ素化アルキルエステルに対して2重量%以下のトルエン等の溶剤を添加するとエポキシ樹脂に対する分散性が向上するので好ましい。
【0027】
前記酸無水物は室温付近でも反応させることが可能な低温活性がある硬化剤として働き、また、前記三塩化ホウ素アミン錯体は80℃以上の温度から硬化剤として働く潜在性硬化剤である。以上の成分をマトリックス樹脂として用いることにより、低温で酸無水物とエポキシ樹脂を反応させ、粘度を従来のホットメルト方ロービングプリプレグよりも若干低めに調整した後、ロービングプリプレグを作製し、フィラメントワインディングした後に、加熱し、三塩化ホウ素アミン錯体(潜在性硬化剤)と、残っているエポキシ樹脂を反応させることができる。
【0028】
これらのマトリックス樹脂成分の配合割合は、前記各特性がバランスよく発揮されるためには、[A]成分のエポキシ樹脂100重量部に対して、[B]成分の酸無水物は、10〜20重量部とするのが好ましい。
【0029】
〔B〕成分が10重量部未満では、マトリックス樹脂製造後の粘度を50℃で1,000mPa・s以下に調整した場合、 40〜60℃で25〜100時間加熱しても、50℃における粘度を50,000mPa・sまで増粘させることが困難となる。50℃における粘度を50,000mPa・sまで増粘できなかった場合、粘度が低すぎるため、樹脂フィルムの製造が困難となり、ホットメルト法によってプリプレグを製造することができない。
【0030】
〔B〕成分が20重量部を越えるとマトリックス樹脂製造後の粘度を50℃で1,000mPa・s以下に調整しても、 40〜60℃で25〜100時間加熱した後に50℃における粘度が200,000mPa・sの範囲を越えてしまう。50℃における粘度が200,000mPa・sを越えると、40℃で3カ月加熱した後に、粘度が高くなりすぎ、樹脂フィルムの製造が困難となり、ホットメルト法によりプリプレグを製造することができなくなるか、あるいは、ホットメルト法でプリプレグを製造できても、オートクレーブを用いずに低圧成形した場合、層間接着面積率が80%以下になり、層間剪断強度も低下する。
【0031】
[A]成分のエポキシ樹脂100重量部に対して、[C]成分の三塩化ホウ素アミン錯体は2〜10重量部とすることが好ましい。[C]成分が2重量部未満では、マトリックス樹脂硬化物の耐熱性が不十分となり、本発明の対象とする用途には不適性となる。[C]成分が10重量部を越えると、マトリックス樹脂の硬化発熱量が大きくなりすぎ、成形性が不良となる。マトリックス樹脂の硬化発熱量が大きくなりすぎると、硬化時に蓄熱によって反応が急激に進む場合があり、好ましくない。また、アルミニウムなどのライナーにフィラメントワインディングする場合には、マトリックス樹脂の硬化発熱量が大きすぎるとライナーとFRPの界面で剥離する場合があり、不適性である。
【0032】
[A]成分のエポキシ樹脂100重量部に対して、[D]成分の界面活性剤は0.1〜1重量部とすることが好ましい。〔D〕成分が0.1重量部未満では、低圧成形時の成形性が不十分であり、層間接着面積率が低くなる。〔D〕成分が1重量部を越えると繊維と樹脂の濡れが不十分となり、ロービングプリプレグ硬化物の機械的特性が低下する。
【0033】
本発明におけるマトリックス樹脂組成物の調製は、例えば、以下の方法により行なうことができる。即ち、各成分を混練装置に供給し、加熱混練する。この際の加熱温度は50〜80℃とする。本発明で使用するマトリックス樹脂組成物は、50℃における粘度が、1,000mPa・s以下になるように調整されているので、混練装置としては、通常のホットメルト法用樹脂の混練に用いられるロールミルを使用する必要がなく、ニーダ−で混練可能であり、生産性が高いという特徴を有する。
【0034】
調整したマトリックス樹脂組成物を40〜60℃で25〜100時間加熱し、50℃における粘度を50,000〜200,000mPa・sとした後、ホットメルト法にてロービングプリプレグとすることができる。
また、該ロービングプリプレグを用いて複合材料を成形する際の成形温度は、100〜180℃とするが、110℃程度でプレキュアした後、140〜160℃でキュアしても良い。
【0035】
本発明における各種の測定は、以下の方法に従う。
【0036】
層間接着面積率
1)直径1250mmのドラムワインド装置にロービングプリプレグを2mmピッチでワインドし、一方向繊維強化プリプレグ(以下、UDPPと略記)を作製する。
2)得られたUDPPから100mm×100mmのプリプレグを切り出し、0°方向に一層、90°方向に一層積層する。
3)プリプレグの上面と下面にテフロンを貼り合わせ、プレスで成形する。成形温度は110℃、成形時間は2時間、成形圧は0.02MPaとする。
4)成形後に0°層と90°層を剥がすと、接着されていない部分は黒色であるが、接着されている部分は白色に見える。プリプレグの全面積10,000mm2 に対する接着されている部分の面積(白色部分の面積)の百分率を層間接着面積率とする。
【0037】
樹脂硬化物の破断伸度(曲げ伸度)
プレス成形(成形温度150℃、成形時間3時間、成形圧0.02MPa)により、厚さ約2mmの樹脂板を作製し、この樹脂板を幅8mm、長さ57mmの試験片にカットする。ASTMD−790試験法に準拠し、3点曲げ試験を行い、樹脂硬化物の破断伸度(曲げ伸度)を測定する。
【0038】
ガラス転移温度
オーブンで樹脂を硬化し(成形温度150℃、成形時間3時間)、 TMA針入モードを用いて、昇温速度20℃/分で測定する。
【0039】
樹脂粘度
レオメーターを用いて、周波数1Hz、歪5deg、昇温速度2℃/分で測定する。
【0040】
【実施例】
本発明について、実施例を挙げて更に詳しく説明する。特に指定しない限り「%」、「部」は重量基準である。
【0041】
〔実施例1〜7及び比較例1〜7〕
[A]〜[D]成分を下記の表1及び表2に示す配合処方の組成比でニーダ−を用いて50℃で混合し、エポキシ樹脂組成物を得た。各エポキシ樹脂組成物の製造直後の50℃における樹脂粘度、40℃×100時間加熱後の50℃における樹脂粘度、40℃×3ヶ月加熱後の50℃における樹脂粘度を前記方法で測定した。また、各エポキシ樹脂組成物を40℃×100時間加熱した後、前記方法でガラス転移温度及び樹脂硬化物の破断伸度(曲げ伸度)を測定した。
【0042】
各エポキシ樹脂組成物を40℃×100時間加熱した後、フィルムコーターを用いて各エポキシ樹脂組成物から樹脂フィルムを作製した。樹脂フィルムの塗工量を28g/m2 とした。
【0043】
炭素繊維ベスファイトIM700−12K(登録商標、東邦レーヨン(株)製、ストランド強度6280MPa、ストランド弾性率294GPa、フィラメント数12,000本)の上下両面から樹脂フィルムを100℃、0.1MPaで圧着、含浸させ、シート状のプリプレグを得た。その後、シートを23℃まで一旦冷却した後、ヒートローラー上で50℃に加熱して、シート状のプリプレグをロービングプリプレグに分割し、ボビンに巻き取って樹脂含有率31〜33%のロービングプリプレグを得た。
【0044】
各ロービングプリプレグの層間接着面積率を前記方法で測定した。また、各ロービングプリプレグを150℃で3時間硬化し、各ロービングプリプレグ硬化物の引張強度(以下、 ロービング強度と略記する)を測定した。
これらの結果を下記の表1(実施例1〜7)、表2(比較例1〜7)に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
下記*1〜*9は、上記の表1、表2及び下記表3、表4に共通の注である。
*1 エピコート807: 商品名、油化シェルエポキシ(株)製のビスフェノールF型エポキシ樹脂
*2 エピコート604: 商品名、油化シェルエポキシ(株)製の4官能型エポキシ樹脂
*3 MHAC−P: 商品名、日立化成工業(株)製の無水メチルハイミック酸
*4 DY9577: 商品名、チバスペシャリティケミカルズ(株)製の三塩化ホウ素アミン錯体
*5 FC−430: 商品名、住友スリーエム(株)製のフッ素化アルキルエステル
*6 強度発現率:ロービング強度/ストランド強度×100(%)
*7 40℃で100時間加熱後も十分増粘せず、ホットメルト法でのプリプレグ製造不可
*8 40℃で100時間加熱後に樹脂がゲル化したので、 プリプレグ製造不可
*9 30℃で100時間加熱後に十分増粘せず、ホットメルト法でのプリプレグ製造不可。
【0048】
前記表1及び表2によれば、本発明の実施例は比較例に比べて以下の効果を有することが理解される。
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1及び比較例2を対比すると明らかなように[B]成分が10〜20重量部の場合、曲げ伸度、ガラス転移温度、ロービングプリプレグの層間接着面積率は、良好な値を示す。また、ロービング強度も高い値を示し、強度発現率が90%以上となる。更に、層間剪断強度も良好な値となる。
【0049】
これに対して、[B]成分が2重量部の場合、40℃で100時間加熱しても樹脂の粘度が十分増加せず、ホットメルト法でプリプレグを製造することが不可となる。[B]成分が25重量部の場合、樹脂粘度が過度に高くなり、プリプレグを製造することが不可となる。
【0050】
実施例1、実施例4、実施例5、比較例3及び比較例4を対比すると明らかなように[C]成分が2〜10重量部の場合、曲げ伸度、ガラス転移温度、ロービングプリプレグの接着面積率は、良好な値を示す。また、ロービング強度も高い値を示し、強度発現率が90%以上となる。更に、層間剪断強度も良好な値となる。
【0051】
[C]成分が1重量部の場合、ガラス転移温度が低くなり、耐熱性が不十分である。また、ロービングプリプレグの層間接着面積率が低く、ロービング強度も不十分となる。更に、層間剪断強度も低い値となる。[C]成分が15重量部の場合、曲げ伸度が低くなる。また、ロービングプリプレグの層間接着面積率が低く、ロービング強度も不十分となる。更に、層間剪断強度も低い値となる。
【0052】
実施例1、実施例6、実施例7、比較例5及び比較例6を対比すると明らかなように[D]成分が0.1〜1重量部の場合、曲げ伸度、ガラス転移温度、ロービングプリプレグの層間接着面積率は、良好な値を示す。また、ロービング強度も高い値を示し、強度発現率が90%以上となる。更に、層間剪断強度も良好な値となる。
【0053】
[D]成分が0.05重量部の場合、ロービングプリプレグの層間接着面積率が低くなる。また、マトリックス樹脂の繊維への含浸性が劣り、ロービング強度が不十分となる。[D]成分が3重量部の場合、ロービングプリプレグの層間接着面積率が若干低くなる。更に、マトリックス樹脂の繊維への接着性が劣り、ロービング強度が不十分となる。更に、層間剪断強度も低い値となる。
【0054】
また、実施例1〜7の各樹脂組成物を40℃で3ヶ月加熱しても50℃における樹脂粘度が400,000mPa以下となっており、ホットメルト法にてロービングプリプレグにすることができた。
【0055】
また、比較例4の曲げ伸度が10%未満の場合、強度発現率が90%未満となっている。比較例4は、強度発現率が90%以上である実施例1〜7と比較すると、圧力容器を製造した場合、同じ破壊荷重を得るためには、多量のロービングプリプレグが必要となり、重量が増加してしまい、圧力容器としての炭素質量当りの性能が低下するので、不適性である。
【0056】
実施例3と比較例7を比較すると明らかなように40℃で3カ月加熱後の粘度が400,000mPa・s以下の場合、ロービングプリプレグの層間接着面積率が良好であるが、粘度が400,000mPa・sを越えるとロービングプリプレグの層間接着面積率が低い値となり、不適性である。
【0057】
〔実施例8〕
[A]〜[D]成分を表3に示す配合処方の組成比でニーダ−を用いて50℃で混合し、エポキシ樹脂組成物を得た。該エポキシ樹脂組成物を40℃×100時間加熱した後、フィルムコーターを用いて樹脂フィルムを作製した。樹脂フィルムの塗工量を28g/m2 とした。
【0058】
前記実施例1〜7と同様にロービングプリプレグを作製し、12本のボビンに巻量1250mづつ巻き取った。12本の各ロービングプリプレグの樹脂含有率をそれぞれ3点、合計36点測定した。樹脂含有率の平均値、CV値(標準偏差/平均値×100%)、最大値、最小値、最大値と最小値の差を下記の表3に示す。
【0059】
〔比較例8〕
前記実施例8と同一の樹脂組成物をニーダ−を用いて50℃で混合し、エポキシ樹脂組成物を得た。回転ドラム付き含浸槽にこのエポキシ樹脂組成物を回転ドラムの約1/2が浸るように入れ、回転ドラムを回転させ、付設したドクターブレードで薄膜状の樹脂を得た。薄膜状樹脂の目付けは56g/m2 である。
【0060】
回転ドラム上の薄膜状樹脂に23℃で炭素繊維ベスファイトIM700−12K(登録商標、東邦レーヨン(株)製、ストランド強度6280MPa、ストランド弾性率294GPa、フィラメント数12,000本)を接触させた。炭素繊維と薄膜状樹脂が接触する部分は、接触させただけであり、加圧ローラーなどで加圧しなかった。
【0061】
次いで、回転ドラムを回転させ、連続的に薄膜状樹脂の炭素繊維への接触・含浸を行いながら、ロービングプリプレグをボビンに巻き取った。次いで、23℃で2週間放置して、樹脂粘度を増加させ、ロービングプリプレグを得た後、前記実施例8と同様に樹脂含有率を測定した。その結果を下記の表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
表3に示す実施例8と比較例8の対比から明らかなように、本発明のロービングプリプレグは、比較例8(特開平3−221535号公報、特表平9−503021号公報、特開平3−193436号公報、特表平9−502939号公報で提案されているような方法、即ち、室温でフィラメント又は繊維に樹脂含浸させた後、室温で放置し、樹脂を増粘させるロービングプリプレグの製造方法、いわゆる、ケモレオロジー的粘度調整済みマトリックス樹脂を用いる技術思想)と異なり、樹脂含有率のばらつきが少なく、品質が安定している。
【0064】
〔実施例9〕
[A]〜[D]成分を表4に示す配合処方の組成比でニーダ−を用いて50℃で混合し、エポキシ樹脂組成物を得た。該エポキシ樹脂組成物を60℃×25時間加熱した後、フィルムコーターを用いて樹脂フィルムを作製した。樹脂フィルムの塗工量を28g/m2 とした。
前記実施例1〜7と同様にロービングプリプレグを作製し、物性を測定した。
その結果を下記の表4に示す。
【0065】
〔比較例9〕
[A]〜[D]成分を前記実施例9と同じ配合処方の組成比でニーダ−を用いて50℃で混合し、エポキシ樹脂組成物を得た。該エポキシ樹脂組成物を70℃×25時間加熱した後、フィルムコーターを用いて樹脂フィルムを作製した。樹脂フィルムの塗工量を28g/m2 とした。
前記実施例1〜7と同様にロービングプリプレグを作製し、物性を測定した。
その結果を下記の表4に示す。
【0066】
〔比較例10〕
[A]〜[D]成分を前記実施例9と同じ配合処方の組成比でニーダ−を用いて50℃で混合し、エポキシ樹脂組成物を得た。該エポキシ樹脂組成物を30℃×100時間加熱したが、樹脂が4000mPa・sまでしか増粘せず、ホットメルト法にてロービングプリプレグにすることができなかった。その結果を下記の表4に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
前記表1に示す実施例1、表4に示す実施例9と比較例9、比較例10の対比から明らかなように、本発明のロービングプリプレグは、40〜60℃で25〜100時間加熱して粘度調整を行うと良好な層間接着面積率を示す。
【0069】
【発明の効果】
本発明のロービングプリプレグは、低圧での成形性に優れ、オートクレーブによる加圧成形を行わなくても充分な層間密着状態を有し、シェルフライフが長く、しかも、機械的特性が良好である。また、本発明のロービングプリプレグの製造方法によれば、品質の安定したロービングプリプレグを製造することができる。特に、航空宇宙用途の圧力容器製造等の用途に用いることができる。
Claims (5)
- 50℃における粘度が、1,000mPa・s以下になるようにマトリックス樹脂を調整した後、40℃〜60℃で25〜100時間加熱し、50℃における粘度を50,000〜200,000mPa・sに増粘させた後、強化繊維材にマトリックス樹脂を含浸させるホットメルト法により作製されたロービングプリプレグであって、該ロービングプリプレグを用いて成形温度110℃、成形圧力0.02MPaで成形した時の層間接着面積率が80%以上であり、
該マトリックス樹脂は、樹脂成分として下記[A]〜[D]を必須成分とし、[A]100重量部に対し[B]10〜20重量部、[C]2〜10重量部、[D]0.1〜1重量部含有するマトリックス樹脂であり、
該マトリックス樹脂の40℃で3カ月加熱した後の50℃における粘度が、100,000〜400,000mPa・sであり、該マトリックス樹脂を100〜180℃で硬化させた樹脂硬化物の破断伸度が10%以上であることを特徴とするロービングプリプレグ。
[A]:エポキシ樹脂
[B]:酸無水物
[C]:三塩化ホウ素アミン錯体
[D]:界面活性剤 - 前記強化繊維材が、炭素繊維である請求項1に記載のロービングプリプレグ。
- 50℃における粘度が、1,000mPa・s以下になるようにマトリックス樹脂を調整した後、40℃〜60℃で25〜100時間加熱し、50℃における粘度を50,000〜200,000mPa・sに増粘させた後、強化繊維材にマトリックス樹脂を含浸させるロービングプリプレグの製造方法であって、
該マトリックス樹脂は、該ロービングプリプレグを用いて成形温度110℃、成形圧力0.02MPaで成形した時の層間接着面積率が80%以上であり、
該マトリックス樹脂を100〜180℃で硬化させた樹脂硬化物の破断伸度が10%以上であり、
前記マトリックス樹脂が下記[A]〜[D]を必須成分とし、[A]100重量部に対し[B]10〜20重量部、[C]2〜10重量部、[D]0.1〜1重量部含有するマトリックス樹脂であることを特徴とするロービングプリプレグの製造方法。
[A]:エポキシ樹脂
[B]:酸無水物
[C]:三塩化ホウ素アミン錯体
[D]:界面活性剤 - 請求項3に記載の製造方法により製造されてなる、強化繊維材とマトリックス樹脂とからなるロービングプリプレグ。
- 前記強化繊維材が、炭素繊維である請求項4に記載のロービングプリプレグ。
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