図1は、本発明の実施の一形態であるアーク溶接装置6を示すブロック図であり、図2は、アーク溶接装置6の一部を拡大して示す斜視図である。アーク溶接装置6は、溶接対象物5を構成する2つの被溶接部材74,75をアーク溶接する。被溶接部材74,75は、互いに対向する部分に開先面が形成され、2つの開先面によって形成される溝が開先76となる。
アーク溶接装置6は、開先倣い機能を有し、溶接トーチ41を開先76に沿って移動させる。具体的には、溶接トーチ41は、溶接方向70およびウィービング方向71に移動する。なお、溶接方向70は開先76に沿う方向であって、ウィービング方向71は溶接方向70に交差する方向である。溶接方向70およびウィービング方向71は、ともに溶接対象物5の板厚方向に直交する。
溶接トーチ41は、ウィービング方向71の両方向に周期的に交互に移動しながら、溶接方向70に移動する。言換えると、溶接トーチ41は、ウィービング方向71にジグザグに移動しながら、開先76に沿って移動する。また本実施の形態では、溶接トーチ41の電極61は、先端部62を下方に向けた状態で、被溶接部材74,75を溶接する。このとき電極61は、略鉛直方向に延びる。
アーク溶接装置6は、溶接トーチ41を含む溶接装置本体4と、溶接トーチ41を把持するロボット装置3と、溶接トーチ付近の画像である溶接画像を撮像するカメラ装置1と、予め定められる演算をしてロボット制御装置3および溶接装置本体4に目標値を与えるコンピュータ2とを含んで構成される。溶接装置本体4は、ロボット装置3と連動して動作し、溶接トーチ41から発生するアークを調整する。
ロボット装置3は、溶接トーチ41を移動させるトーチ移動手段となる。またカメラ装置1は、溶接画像を撮像する撮像手段となる。またコンピュータ2は、溶接映像を画像処理する画像処理手段と、ロボット装置3を制御する制御手段とを兼用する。コンピュータ2は、パーソナルコンピュータによって実現され、パソコン2と称する場合がある。
カメラ装置1は、時間経過とともに連続して溶接画像を撮像可能である。カメラ装置1は、溶接トーチ41に臨んで設けられる撮影ヘッド11と、画像信号を出力するカメラ制御装置(CCU、Camera control unit)12とを含む。撮影ヘッド11は、溶接トーチ41よりも溶接方向70上流側に配置されて、ロボット装置3に設置され、溶接方向70の下流側となる溶接トーチ41を撮像する。言換えると、撮像ヘッド11は、溶接トーチ41の電極先端部62に対して、溶接方向上流側のやや上方から溶接画像を撮像する。すなわち撮影ヘッド11は、所定の角度をもって溶接対象物5を斜めに写し込むように、ロボット装置3の手先部33に固定される。撮影ヘッド11は、結合電荷素子(CCD、
Charge Coupled Device)や対数変換型CMOS(Complementary-Metal Oxide
Semiconductor)素子等から成るイメージセンサによって実現される。
撮影ヘッド11は、溶接画像に応じた信号を生成し、生成した信号をカメラ制御装置12に与える。カメラ制御装置12は、撮影ヘッド11から与えられる溶接画像に関する情報を画像信号として処理し、処理した画像信号をパソコン2に与える。
パソコン2は、画像処理装置21と、演算処理装置22と、記憶装置23と、画像メモリ24とを含んで構成される。画像処理装置21は、カメラ制御装置12から与えられる画像信号を画像処理して、溶接画像に含まれるアークのうち高輝度の領域をアーク高輝度領域51として抽出する。また画像処理装置21は、アーク高輝度領域51に基づいて、溶接トーチの位置変化に対応する特徴情報を抽出する。
演算処理装置22は、画像処理装置21で抽出されたアーク高輝度領域51の特徴情報に基づいて、開先76に対する溶接トーチ41の位置を演算し、溶接トーチ41の運動に対して補正すべき量を算出する。記憶装置23は、アーク高輝度領域51と溶接トーチ位置との関係を予め格納するとともに、演算処理装置22が実行すべきプログラムを記憶する。画像メモリ24は、演算処理装置22によって形成される表示画像に対応する画像信号を格納する。なお、画像メモリ24は表示装置25と直結して、オペレータに必要とされる画像信号を表示装置25に与える。表示装置25は、画像メモリ24から画像信号が与えられると、画像信号に対応する画像を表示画面に表示する。
画像処理装置21および演算処理装置22は、CPU(Central Processing Unit)などの演算回路が、予め定める処理プログラムを実行することによって実現される。また記憶装置23および画像メモリ24は、RAM(Random Access Memory)を含んで実現される。なお、記憶装置23が、演算処理装置22の処理プログラムを記憶する場合には、ROM(Read Only Memory)を含んで実現される。
本実施の形態のロボット装置3は、多関節ロボットによって実現される。ロボット装置3は、ロボットアームの先端に手先部33が設けられる。手先部33は、少なくとも溶接方向70およびウィービング方向71に移動可能に形成され、溶接トーチ41を把持する。ロボットアーム32は、複数の関節とリンクによって構成される。ロボット装置3は、ロボットコントローラ31によって、各関節に内蔵されるサーボモータをそれぞれ個別に駆動する。これによって手先部33に把持した溶接トーチ41を、任意の位置および姿勢に移動させることができる。
ロボットコントローラ31は、演算処理装置22から溶接トーチ位置修正量を表わす修正情報が与えられる。これによってロボットコントローラ31は、手先部33の移動量を補正し、手先部33の姿勢を補正しながら移動させる。
溶接装置本体4は、少なくとも溶接電源装置42を含む。溶接電源装置42は、ロボットアーム32の動作に連動して、溶接トーチ41に適正な溶接電流を供給する。また溶接装置本体4は、溶接に用いられるガスを溶接トーチ41に供給するガス供給手段(図示せず)を含んでもよい。また溶接装置本体4は、溶着金属となる溶接ワイヤまたは電極を開先付近に供給する溶着金属供給手段(図示せず)を含んでもよい。このように溶接装置本体4は、アーク溶接に必要な機能を有する。
(第1適用例)
図3は、溶接中の溶接対象物5を拡大して示す斜視図である。本発明の実施の形態では、溶接対象物5は、2つの被溶接部材74,75が対向してV字開先76を形成する。また、溶接対象物5は、各被溶接部材74,75に形成される開先面77,78と、鉛直な仮想線79との成す角度であるベベル角度θ1,θ2がそれぞれ等しく形成される。また溶接トーチ41は、その電極61がほぼ鉛直に延び、電極61の先端部62が、電極61の基端部63に対して下向きに配置される。
本発明の第1適用例では、溶接すべき2つの被溶接部材74,75において、2つの開先面77,78の間のウィービング方向距離が十分大きい場合に好適に用いられる。上述する溶接対象物5のV字開先76を複数の溶接動作によって溶接する場合、たとえば2回目以降の溶接動作に好適に用いられる。なお、ウィービング方向71は、2つの被溶接部材74,75が並ぶ方向である。
この場合には、溶接中に撮像されるアークのうち、アーク高輝度領域51の輪郭形状が略楕円形となる。開先76のウィービング方向中央からいずれか一方の開先面に、電極61が移動するにつれて、アーク高輝度領域51における略楕円形の長軸80の傾きが変化する。この略楕円形の長軸80の変化は、再現性がよい。
複数の溶接動作が行われることによって、2つの開先面77,78の間の領域となる溶接領域は、下方側から何層もの溶接ビードが積層して略平面状のビード面81が形成される。溶接トーチ41は、ウィービング方向71に周期的に移動しながら、電極61の先端部62からアークを放出して溶接ワイヤと被溶接部材74,75とを溶融する。溶融した溶接ワイヤは、溶接領域に層状に堆積する。これによって2つの被溶接部材74,75が溶接される。なお、ウィービング機能を有するアーク溶接装置は、2つの開先面77,78から予め定められる設定距離だけ離れた2つの設定位置の間を往復動させるように設定される。たとえば設定位置は、電極61と各開先面77,78とが2mm程度離れた位置に設定される。
溶接領域をカメラ装置1で撮像すると、電極61の先端部62と溶融池83との間に、画像中で最も明るい領域であるアーク高輝度領域51が形成される。したがってカメラ装置1で取得した溶接画像から、所定のしきい値以上の輝度を有する領域を抽出することによって、アーク高輝度領域51を容易に抽出することができる。たとえばアーク近傍の輝度が飽和するような条件で撮像し、取り込んだ画像において、所定のしきい値以上の輝度を持つ領域の輪郭形状が、アーク高輝度領域の輪郭となる。撮像される溶接画像が8ビット(0〜255)濃淡画像であれば、輝度のしきい値は、たとえば240とする。
図4は、図3に示す場合について撮像される溶接領域を簡略化して示す図である。なお、図4では、ウィービング方向71を水平方向とした場合を示す図である。図4(a)は、2つの開先面77,78間におけるウィービング方向中央位置に電極61が存在するときの溶接画像である。また図4(b)は、2つの開先面77,78間におけるウィービング方向一方寄り(図4では右方向)に電極61が存在するときの溶接画像である。また図4(c)は、2つの開先面77,78間におけるウィービング方向一方端(図4ではさらに右方向)に電極61が存在するときの溶接画像である。
図4(a)では、アーク高輝度領域51の輪郭の長軸80は、水平方向71に略平行または平行に延びる。図4(b)では、アーク高輝度領域51の輪郭は、ウィービング方向一方の開先面78に制約されて水平方向一方側が狭まる。これによってアーク高輝度領域51は多少細った楕円形に形成される。この略楕円形の長軸80は、ウィービング方向一方に向かうにつれて上方に傾斜して延びる。図4(c)では、アーク高輝度領域51がさらに細った楕円形状に形成される。この略楕円形の長軸80は、ウィービング方向一方に向かうにつれて上方に傾斜して延び、図4(b)よりもさらに長軸80の傾斜が大きくなる。なお、長軸80の傾斜は、長軸80とウィービング方向71に平行に延びる仮想線84との成す角度である。
長軸80の傾斜角θ3は、溶接トーチ41が各開先面77,78間におけるウィービング方向中央位置から、開先面77,78に向かうにつれて、その絶対値が大きくなる。そして溶接トーチ41が各開先面77,78に最も近接するときに、長軸傾斜角θ3の絶対値が最大となる。このようなアーク高輝度領域51の形状変化は、再現性がよい。
図5は、溶接トーチ41の位置の時間変化と、長軸傾斜角θ3の時間変化とを示すグラフである。溶接トーチ41の位置は、開先76におけるウィービング方向71の中心から開先面78に溶接トーチ41が移動した距離を示す。図5には、溶接トーチ41の位置変化を破線92で示し、長軸傾斜角θ3の変化を実線93で示す。
溶接トーチ41がウィービング動作すると、長軸傾斜角θ3は、時間経過とともに周期的に変化する。長軸傾斜角θ3の周期および位相は、溶接トーチ41がウィービング方向71に変化する周期および位相とほぼ一致する。溶接トーチ41がウィービング方向71の一方の端点に到達したときに、長軸傾斜角θ3が極大94となる。また溶接トーチ41がウィービング方向71の他方の端点に到達したときに、長軸傾斜角θ3が極小95となる。
したがって随時撮像される溶接画像を画像処理し、溶接画像から長軸傾斜角θ3が極大94または極小95となる時刻を特定する。この特定した時刻が、溶接トーチ41がウィービング方向71の端点に到達した到達時刻となる。到達時刻における溶接画像を選出することによって、溶接トーチ41がウィービング方向71の端点に到達したときの溶接画像を選出することができる。また長軸傾斜角θ3の変化と、溶接トーチ41のウィービング方向71の位置変化とがほぼ対応するので、長軸傾斜角θ3の変化に基づいて、溶接トーチ41のウィービング方向71の位置を求めることができる。
長軸傾斜角θ3の変化は、溶接トーチ41の位置変化に対して、微小な位相の遅れL3が生じる。またこの遅れL3は、溶接期間中にわたってほぼ一定である。この遅れL3は、画像取込および画像処理の時間遅れなどによって生じ、長軸傾斜角θ3を出力するのに費やす時間遅れに起因する。したがって長軸傾斜角θ3が極大94,95となる時刻における溶接画像は、溶接トーチ41がウィービング方向71の端点に到達したときの正確な溶接画像である。また、位相の遅れL3は、微小であるので、制御上問題とならない場合が多い。また位相の遅れL3が溶接期間を通してほぼ一定であるので、位相の遅れL3分を考慮して到達時刻を推定してもよい。
図6は、画像処理装置21の画像読み取り手順を示すフローチャートである。まず、ステップa0で、画像処理装置21は、演算処理装置22から、アーク溶接指令が与えられたことを検出すると、ステップa1に進み、画像の読み取り手順を開始する。
ステップa1では、画像処理装置21は、ロボットコントローラ31から、実際にアーク溶接が開始されたことを示す信号が与えられると、ステップa2に進む。ステップa2では、カメラ制御装置12から与えられる画像信号を取り込み、ステップa3に進む。ステップa2では、取り込んだ画像信号を画像処理し、そのときの長軸傾斜角θ3と、アーク溶接を開始してから経過した時間tとを算出し、ステップa4に進む。
ステップa4では、算出した長軸傾斜角θ3とアーク溶接を開始してから経過した時間tとを出力する。画像処理装置21は、演算処理装置22を介して長軸傾斜角θ3とそのときの時間tとを記憶装置23に格納させ、ステップa5に進む。
ステップa5では、画像処理装置21は、アーク溶接が継続されているか否かを判断する。アーク溶接が継続されている場合には、ステップa1に戻り、再び画像を取り込む。またステップa5において、アーク溶接が終了している場合には、画像処理装置21は、画像取込動作を終了する。
図7は、画像取込と画像処理とを説明するためのブロック図である。画像処理装置21は、画像取込回路97と、2つ以上のバッファ回路98a,98bと、画像処理回路99とを含む。画像取込回路97は、カメラ制御装置12から与えられる溶接画像を取り込み、取り込んだ溶接画像を各バッファ回路98a,98bに選択的に与える。各バッファ回路98a,98bは、与えられる溶接画像を記憶する。画像処理回路99は、各バッファ回路98a,98bが記憶する溶接画像を選択的に取り出し、取り出した溶接画像について画像処理、具体的には長軸傾斜角θ3を求める。本実施の形態では、バッファ回路98a,98bが複数設けられることによって、カメラ装置1から与えられる溶接画像をコマ落ちすることなく処理することができる。
バッファ回路が1つしかない場合には、1つの溶接画像に費やすサイクルタイムは、画像取込に費やす時間と、画像処理に費やす時間とを加算した時間が必要となる。これに対して本実施の形態では、バッファ回路98a,98bが複数設けられる。まず画像取込回路97は、第1工程として、図7(1)に示すように、第1バッファ回路98aへ溶接画像を供給する。溶接画像の供給が完了すると、図7(2)に示す第2工程に進む。第2工程では、第2バッファ回路98bへ次の溶接画像の供給を開始する。このとき、画像処理回路99は、第1バッファ回路98aが記憶する溶接画像を取り出して画像処理する。
画像取込回路97による第2バッファ回路98bへ溶接画像の供給が完了するとともに、画像処理回路99による第1バッファ回路98aからの溶接画像の取出しが完了すると、図7(3)に示す第3工程に進む。第3工程では、画像取込回路97は、第1バッファ回路98aへさらに次の溶接画像の供給を開始する。このとき画像処理回路99は、第2バッファ回路98bが記憶する溶接画像を取り出して画像処理する。この後、第2工程と第3工程とを交互に繰り返す。このように画像取込回路97は、第1バッファ回路98aへの溶接画像の供給が終了した後、第2バッファ回路98bへの溶接画像の供給を即座に開始する。
したがって画像取込回路97は、第1バッファ回路98aの画像処理が完了するまで待機する必要がない。画像取込と画像処理とでは、計算機内の空き領域の競合が少なく、並列処理によって生じる遅延時間がほとんど生じない。このように複数のバッファ回路98a,98bを設けることによって、連続的に画像を撮像しても、画像処理の処理時間遅延に起因する画像のコマ落ちを防止することができる。これによってカメラ装置から与えられる溶接画像のフレーム周期が短い場合であっても、特徴情報を確実に抽出することができる。たとえば、ビデオ−テレビ間の規格であるNTSC方式に従うと、秒間30フレームの画像を送受信する。本実施に従えばこれをコマ落ちすることなく処理することが可能となる。
図8は、アーク高輝度領域51の長軸80の傾斜角度θ3を求める具体的な手順を示すフローチャートである。上述したステップa3において、長軸80の傾斜角度θ3を求める場合、ステップs51に進み、長軸80の傾斜角度θ3を求める手順を開始する。
ステップs51では、画像処理装置21は、所定の輝度を表わす輝度しきい値で、溶接画像を2値化して、アーク高輝度領域51の画像を抽出する。アーク高輝度領域51は溶融池83など他の領域と比較すると極めて高い輝度を有するので、輝度しきい値の設定も容易であり、高輝度領域の領域を容易に抽出することができる。このようにして、輝度しきい値以上となる領域を高輝度領域として抽出すると、ステップs52に進む。
ステップs52では、アーク高輝度領域51以外の高輝度領域を除去する。具体的には、ステップs51によって抽出された高輝度領域は、ノイズの影響で存在する高輝度領域も含まれる。したがってステップs51によって抽出された高輝度領域のうちから、所定の面積を表わす面積しきい値以上の高輝度領域を抽出する。このようにしてアーク高輝度領域51以外の高輝度領域を排除することで、アーク高輝度領域51を正確に抽出することができる。アーク高輝度領域51を抽出すると、ステップs53に進む。
ステップs53では、アーク高輝度領域51の輪郭形状について重心座標Gを算定する。重心座標G(Xg,Yg)は、アーク高輝度領域51を構成する各画素について、各画素に設定されるx軸の座標xiと、x軸に直交するy軸の座標yiとの平均値から求めることができる。ステップs53で重心座標Gを求めると、ステップs54に進む。
ステップs54では、アーク高輝度領域51の各画素の座標(xi,yi)を用いて、次式によってアーク高輝度領域51の図形の慣性モーメントが最小となる対称軸の角度θを算出する。
対称軸の角度θを求める式は、直線y=tanθ×(x−Xg)+Ygの周りのモーメントを表わす式について、dM/dθ=0となるような角度θを求めるもので、
θ=−0.5・atan[2・Σ{(xi−Xg)・(yi−Yg)}
/{Σ{(xi−Xg)2}−Σ{(yi−Yg)2}}]
で表わされる。
ただし、−90度≦θ≦+90度である。atanは、アークタンジェントを示す。またiは、アーク高輝度領域51に含まれる画素を個別に示す記号である。たとえば、xiは、アーク高輝度領域51に含まれるi番目の画素のX軸の座標を表わし、yiは、アーク高輝度領域51に含まれるi番目の画素のY軸の座標を表わす。Σは、直和集合を表わす算術記号である。アーク高輝度領域51に含まれる画素がj個ある場合、Σは、1番目からj番目までの画素について、Σ以降の項をそれぞれ演算した解の和を示す。このようにして求められる角度θはアーク高輝度領域51の図形の最も長い軸に沿う。重心Gを通り前記角度θに平行な直線を長軸80とし、重心Gを通り長軸80と直交する直線を短軸81とする。
なお、表示される画像においてx−y座標系は、x座標をウィービング方向一方(水平右方向)に取り、y座標を垂直下方向に取ったものである。また、角度θは正のx軸を基準にして反時計方向に測るものとする。このようにして求められる角度θは、長軸80の傾斜角度θ3を表わす。また長軸傾斜角θ3から、予め定める係数を乗算することによって、ウィービング方向中心位置からの溶接トーチ41の位置を求めることができる。このようにステップs54で長軸傾斜角θ3を算出すると、画像処理装置21は傾斜角度θ3の算出動作を終了する。
図9は、演算処理装置22の到達時刻特定動作を示すフローチャートである。まずステップb0で、カメラ装置1と、ロボット装置3と、溶接装置本体4とが準備されて、溶接可能な状態となると、ステップb1に進み、演算処理装置22は、ウィービング制御における設定工程を開始する。
ステップb1では、ウィービング周期、溶接開始位置などの溶接条件が作業者によって入力される。演算処理装置22は、作業者によって入力される各溶接条件を取得すると、ステップb2に進む。
ステップb2では、作業者によって与えられる溶接開始指令を取得する。そして溶接開始指令に基づいて、ロボット装置3に溶接開始指令を与え、ステップb3に進む。ステップb3では、演算処理装置22は、ロボットコントローラ31から、実際にアーク溶接が開始されたことを示す信号が与えられると、アーク溶接を開始した開始時刻t0を決定し、ステップb4に進む。
ステップb4では、ステップb1で与えられた溶接条件に基づいて、溶接トーチ41がウィービング方向71の端点に到達する時刻であろう推定到達時刻t1,tiを推定する。たとえば開先に関してウィービング方向71の中央からアーク溶接を開始する場合には、最初に端点に到達するであろう推定到達時刻t1は、次式によって表わされる。
t1=t0+T/4
ここで、t1は溶接トーチ41が最初に端点に到達するであろう推定到達時刻を示す。t0はアーク溶接を開始した時刻を示す。Tは、ウィービング周期を示す。また2回目以降に端点に到達するであろう推定到達時刻tiは、次式によって表わされる。
ti=ti−1+T/2
ここで、tiはi回目に端点に到達する推定到達時刻を示す。なお、iは自然数を示す。またti−1は、i−1回目に端点に到達した時刻である。このように端点に到達するであろう推定到達時刻t1,tiを算出すると、ステップb5に進む。なお、溶接開始直後のアーク現象が不安定な場合、1回目のウィービング端点時刻をスキップして、2回目のウィービング端点到達時刻から探索してもよい。
ステップb5では、ステップb4で算出した推定到達時刻t1,tiを含む到達時刻探索期間を決定する。到達時刻探索期間wは、次式によって表わされる。
ti−n・Tf<w<ti+n・Tf
ここで、wは到達時刻探索期間を示す。またnは、予め定められる2以上の自然数である。またTfは、カメラ装置1のフレーム周期を示し、たとえば、33msに設定される。nが小さすぎると、到達時刻を正確に検出することができず、nが大きすぎると、効率が悪い。たとえばnが3に設定されることによって到達時刻を好適に求めることができる。このようにして到達時刻探索期間wを算出すると、ステップb6に進む。
ステップb6では、ステップb6における時刻が到達時刻の探索を開始する開始時刻かどうかを判定し、到達時刻探索期間の開始時刻に到達すると、ステップb7に進む。ステップb7では、画像処理装置21から溶接画像における特徴量を取得する。具体的には、演算処理装置22は、画像処理装置21から長軸傾斜角θ3とそれに対応する時刻tとが与えられ、ステップb8に進む。
ステップb8では、ステップb8における時刻が到達時刻探索期間終了時刻に達したかどうかを判断する。時刻が探索期間終了時刻に達するまでステップb7を繰り返す。
ステップb9では、演算処理装置22は、ステップb7で取得した特徴量に基づいて、実際の到達時刻を抽出する。演算処理装置22は、随時与えられる長軸傾斜角θ3のうち極大値または極小値となる長軸傾斜角θ3を抽出し、抽出した長軸傾斜角θ3に対応する時刻と溶接画像とを選出する。長軸傾斜角θ3が極大または極小となる長軸傾斜角θ3に対応する時刻と溶接画像を抽出すると、ステップb10に進む。
ステップb10では、抽出した時刻を到達時刻として出力し、ステップb11に進む。ステップb11では、演算処理装置22は、アーク溶接が継続されているか否かを判断する。アーク溶接が継続されている場合には、ステップb4に戻り、再び推定到達時刻を算出する。またステップb11において、アーク溶接が終了している場合には、演算処理装置22は、ステップb12に進み、到達時刻の抽出動作を終了する。
以上のように、演算処理装置22が到達時刻を検出することによって、ロボット装置3から溶接トーチ41の移動量を取得することなく、また特別なセンサを用いることなく、到達時刻を取得することができる。これによって演算処理装置22は、到達時刻における溶接画像に基づいて、溶接条件を設定し直すことができる。また演算処理装置22は、ロボットコントローラ31を介して、変更した溶接条件を溶接装置本体4およびロボット装置3に与えることができる。すなわち到達時刻における溶接画像に基づいて、溶接装置本体4およびロボット装置3をフィードバック制御することができる。たとえば到達時刻における溶接画像に基づいて、溶接中の溶接電圧、溶接電流、溶接速度、ウィービング周期、ウィービング幅などを設定し直すことができる。
第1適用例では、到達時刻における溶接画像の長軸傾斜角θ3を評価することで、溶接トーチ41と開先面との間の距離である離間距離dRを検出し、この距離を予め定める適正離間距離となるように溶接トーチ41の移動量をフィードバック制御する。
図10は、長軸傾斜角度θ3と離間距離dRとの関係を示すグラフである。離間距離dRは、溶接トーチ41の電極61と開先面78との間のウィービング方向71の距離を示す。図10には、2つの開先面77,78のベベル角度θ1,θ2が、それぞれ30度の場合を示す。
長軸傾斜角θ3は、電極61が開先面78に近づくにつれて、すなわち離間距離dRが減少するにつれてほぼ単調に増加する。長軸傾斜角θ3と、離間距離dRとを、グラフの縦軸と横軸にとると、その関係を表すプロット線は、大略的に直線的な関係を有する。なお、溶接トーチ41がウィービング方向両端の端点に到達したときの適正な適正離間距離dRは、予め実験によって決定される。本実施の形態では、適正離間距離dRは、2mmに設定される。この場合、ウィービング端点での電極61と開先面78との離間距離dRが適正離間距離に保たれることによって、開先面付近での溶け込みを確保して、良質な溶接を行うことができる。
図10に従うと、離間距離dRが2mmとなる場合における、アーク高輝度領域51の長軸傾斜角θ3は、約30度となる。したがって溶接トーチ41がウィービング方向両端の端点に到達したときの長軸傾斜角θ3がほぼ30度である場合には、溶接トーチ41のウィービング方向71への移動が適正であると判断される。溶接トーチ41がウィービング方向両端の端点に到達したときの長軸傾斜角θ3が30度でない場合には、傾斜角θ3が30度に近づくように、溶接トーチ41の移動量を補正する必要がある。以下、ウィービング方向71の端点に溶接トーチ41が達したときの長軸傾斜角θ3を端点傾斜角θ4と称する。また、予め定められる適正離間距離dRとなる場合の長軸傾斜角θ3を適正傾斜角θ5と称する。
図11は、溶接トーチ41のウィービング右端位置補正量ΔRと、端点傾斜角θ4との関係を示すグラフである。ウィービング方向71における溶接トーチ41のウィービング右端位置補正量ΔRは、端点傾斜角θ4に基づいて、予め定められる関係に従って算出される。なお図11は、開先面77,78のベベル角度θ1,θ2が30度の場合のウィービング右端位置補正量ΔRを示す。補正量ΔRは、離間距離を縮小させる方向、すなわちウィービング幅を増大する方向を正の方向とする。
溶接トーチ41の補正量ΔRの範囲は、予め定める補正量範囲100内に設定される。なお、補正量ΔRが補正量範囲100を超えると、制御量が過剰となり、溶接トーチの制御が安定しない。また補正量ΔRは、端点傾斜角θ4が予め定める角度範囲101において、端点傾斜角度θ4と適正傾斜角θ5との偏差に比例した値に設定される。なお、角度範囲101を超えると、一定の補正量が与えられる。
端点傾斜角θ4が角度範囲101内であり、端点傾斜角θ4が適正傾斜角θ5よりも大きい場合には、負の位置補正量ΔRが与えられる。これによって溶接トーチ41は、ウィービング右端に到達したときの離間距離dRが大きくなるように補正される。端点傾斜角θ4が角度範囲101内であり、端点傾斜角θ4が適正傾斜角θ5よりも小さい場合には、正の補正量ΔRが与えられる。これによって溶接トーチ41は、離間距離dRが小さくなるように補正される。
ウィービング左端についても同様に取り扱うことができ、左右端点位置補正量ΔR,ΔLはそれぞれ次式で与えられる。
ただし、Δmaxは補正量上限であり、上記補正量範囲100幅の1/2である。また、Δθmaxは上記角度範囲101幅の1/2である。
本実施の形態では、上述した補正量ΔRの補正量範囲100は、−1mm以上でかつ1mm以下に設定される。また、上述した角度範囲101は、適正な傾斜角θ4に対して、±15度に設定される。すなわち適正な傾斜角θ5が30度に設定される場合、角度範囲101は、15度以上でかつ45度以下に設定される。また角度範囲101内では、右端傾斜角度θ4から適正傾斜角θ5を減算した偏差(θ4−θ5)に、予め定める比例係数−α、たとえば−1/15を乗算した値が補正量ΔRとなる。また補正量ΔRは、端点傾斜角θ4が45度を超えると−1mmとなり、端点傾斜角θ4が15未満であると1mmとなる。
図11に従えば、端点傾斜角θ4が37.5度であれば、補正量ΔRは、−0.5mmとなる。これによって、端点傾斜角θ4が37.4度であれば、ウィービング振幅が減少する方向に0.5mm調整する。このような調整を繰り返すことによって、溶接トーチのウィービング移動は、溶接対象物5にとって適正な位置および幅に収束する。
なお、ベベル角度θ1,θ2が異なれば適正離間距離dRも異なるので、図11に示す端点傾斜角θ4と補正量ΔRの関係が変化する。たとえば、ベベル角度θ1,θ2が45度の場合には、適正傾斜角度θ5は23度となる。
本実施の形態のアーク溶接装置6は、端点傾斜角θ4に基づいて、上述した関係を利用して、位置補正量ΔRの演算を行う。そしてアーク溶接装置6は、算出した補正量ΔRに基づいて、溶接トーチ41のウィービング移動を調整する。たとえばアーク溶接装置6は、図11のグラフに示す関係を、数式またはデータベースに表して使用する。
図12は、本実施の形態で実行される演算制御装置22の補正量算出動作を表わすフローチャートである。まずステップc0で、カメラ装置1と、ロボット装置3と、溶接装置本体4とが準備されて、各種溶接条件が入力されて、溶接可能な状態となるとステップc1に進む。たとえば溶接条件は、溶接開始点、溶接終了点、ウィービング中心位置およびウィービング幅などを含む。
ステップc1では、演算制御装置22は、溶接開始指令が与えられたことを判断すると、アーク溶接に必要な接合条件と、アーク溶接の開始指令をロボットコントローラ31に与える。これによってロボットコントローラ31は、演算処理装置22から与えられる情報に基づいて、ロボットアームを駆動し、ウィービング方向71および溶接方向70に溶接トーチ41を移動させる。またロボットコントローラ31は、溶接電源42に動作指令を与え、溶接トーチ41の電極61の先端からアークを発生させる。
このようにしてアーク溶接装置6は、アーク溶接を開始する。アーク溶接期間中にわたって、カメラ装置1は、溶接画像を撮像する。カメラ装置1は、撮像した溶接画像から特徴量を抽出し、抽出した特徴量を演算処理装置22に随時与える。
ステップc2では、演算処理装置22は、画像処理装置22から随時与えられる長軸傾斜角θ3に基づいて、ウィービング端点の到達時刻を算出し、ステップc3に進む。
ステップc3では、ウィービング端点の到達時刻における特徴量を取得する。本実施の形態では、ウィービング端点の到達時刻における長軸傾斜角θ3である端点傾斜角θ4を取得し、ステップc4に進む。
ステップc4では、ステップc3で取得した端点傾斜角θ4と予め定められる計算式とに基づいて、溶接トーチ41のウィービング端点位置補正量ΔR,ΔLを算出する。補正量ΔR,ΔLは、ウィービング右端位置補正量ΔRと、ウィービング左端位置補正量ΔLとのいずれかである。位置補正量ΔR,ΔLを取得した段階では、補正動作を実行せず、次にステップc5に進む。
ステップc5では、ステップc4で算出した移動補正量と、その半周期前に取得した移動補正量とを合成して、ウィービング中心位置補正量ΔCと、ウィービング振幅の2倍となるウィービング幅補正量ΔWを算出する。
ウィービング中心位置補正量ΔCは、以下の式で求められる。
ΔC=(ΔR−ΔL)/2
またウィービング幅補正量ΔWは、以下の式で求められる。
ΔW=ΔR+ΔL
またΔRは、最も最近に求められたウィービング右端位置補正量を示し、ΔLは、最も最近に求められたウィービング左端位置補正量を示す。ただし、ウィービング中心位置補正量は、ウィービング方向一方(図では、右方向)への補正を正とする。また各移動補正量ΔR,ΔLは、ともにウィービング振幅増大方向を正とする。
このようにウィービング中心位置補正量ΔCとウィービング幅補正量ΔWとを求めることは、ロボット装置に対する補正条件の与え方として、ウィービング短点を個別に補正するよりは一般的だからである。
このようにウィービング中心位置補正量ΔCとウィービング幅補正量ΔWとを算出すると、ステップc6に進む。ステップc6では、ステップc5で算出したウィービング中心位置補正量ΔCと、ウィービング幅補正量ΔWとをロボットコントローラ31に与え、補正動作を実行させる。ロボットコントローラ31は、与えられる補正量ΔC,ΔWに基づいて、溶接トーチ41の移動量を補正し、ステップc7に進む。
ステップc7では、演算処理装置22は、ロボットコントローラ31などから与えられる信号に基づいて、溶接が継続中か否かを検出し、溶接が継続中である場合は、ステップc2に戻り、補正量演算動作を継続する。またステップc7において、溶接動作が終了したことを判断すると、ステップc8に進む。ステップc8では、演算量算出動作を終了するとともに、ロボットコントローラ31に溶接終了指令を与えて、溶接動作を終了させる。
このようにアーク溶接装置6は、溶接トーチ41がウィービング方向71の両端の端点に達するたびに補正量を演算し、ウィービング中心位置補正量ΔCと、ウィービング幅補正量ΔWとを決定すると、即座に補正動作を実行する。したがって溶接トーチ41がウィービング方向71の端点に到達するたびに、補正動作を繰り返す。また溶接動作が終了するまで補正動作を継続することによって、良好なウィービング制御を確保することができる。
なお、本実施の形態では、ウィービング端点に達するたびに、端点位置補正量ΔR,ΔLを取得し、左右各補正量ΔR,ΔLを合成し、補正動作を実行する。したがってウィービング1周期中に2回の補正を行い、制御周期を短くして、制御品質を向上することができる。
なお、ステップc2において、溶接画像から長軸傾斜角θ3が抽出されることによって、溶接トーチ41の到達時刻における溶接画像を正確に抽出することができる。またステップc6について、ウィービング中心位置補正量ΔCと、ウィービング幅補正量ΔWを補正したが、ウィービング左右端点位置補正量ΔR,ΔLを直接補正してもよい。補正動作実行のタイミングは、ウィービングの任意のタイミングでよく、たとえば次のウィービング方向の端点から補正動作を実行してもよい。また、位置補正は適当な数のウィービングについて平均してから行うようにしてもよい。平均化により異常値の影響を排除して、極端な動きを抑えた制御を達成することができる。なお、到達時刻における溶接画像に基づいて、演算処理手段が、ウィービング以外の他の溶接条件を調整してもよい。
図13は、溶接トーチ41のウィービング方向の位置と、ウィービング中心位置の補正量の時間変化を示すグラフであり、図14は、アーク溶接装置6の開先倣い制御を説明するための溶接対象物5を示す平面図である。
アーク溶接装置6の溶接条件として、溶接速度16cm/min、ウィービング幅8.5mm、ウィービング周期1Hzとする。そしてウィービング左右端点位置補正量ΔR,ΔLを次式で与える。
ΔR=−α(θ4−θ5)
≡F(θ4)
ΔL=F(−θ4)
ここで、αは、比例係数であり0.033mm/度とする。またθ5は、適正傾斜角であり35度とする。またθ4は、端点傾斜角である。また、任意の端点での補正量ΔRの範囲100は、任意の端点での補正書ΔRの範囲は、−0.5mm以上0.5mm以下とする。溶接対象物5は、溶接長L1が230mmである。
本実施の形態では、溶接開始点90が開先幅方向の中心位置に設定され、溶接終了点91が溶接開始点90に対してウィービング方向71に意図的に23mmずらして教示した場合を用いて、開先倣い制御について説明する。溶接開始点90と溶接終了点91とをずらした場合であっても、ウィービング中心位置は、時間経過とともにほぼ一定の変化率を維持する。教示におけるずれを補正して変化し、最終的にウィービング方向71に22.0mmの補正が行われる。すなわちウィービング中心位置は、開先76に関してウィービング方向71の中央位置を進む。溶接トーチ41のウィービング幅は、図13に示すようにほぼ一定に保たれる。
このように本発明のアーク溶接装置6は、溶接時における溶接トーチ付近の溶接画像を撮像する撮像工程と、撮像工程によって撮像される溶接画像に含まれる情報のうち、溶接トーチ41の移動に伴って変化する特徴情報に基づいて、溶接トーチ41の到達時刻を特定する到達時刻特定工程と、到達時刻における溶接画像に基づいて、アーク溶接における溶接条件を調整する調整工程とを含む。
到達時刻特定工程は、図9に示すように溶接条件の調整に必要なカメラ装置から与えられる溶接画像に基づいて到達時刻を特定する。したがってリミットスイッチ、エンコーダなどの到達時刻特定のための専用センサを用いる必要がない。到達時刻特定のための専用のセンサを省略することによって、アーク溶接装置6の構成を簡略化することができ、アーク溶接装置6の製造コストを低減することができる。また溶接画像から到達時刻を検出することによって、到達時刻における溶接画像を正確に抽出することができる。
またロボット装置3から、溶接トーチ41の移動情報を取得可能なソフト的およびハード的機構を必要としない。したがって溶接トーチ41の位置情報の出力が困難なロボット装置3も用いることができる。すなわち、ロボット装置3に特別な工夫を施す必要がない。これによって汎用ロボットを用いて、アーク溶接装置6を実現することができる。ロボットを用いることによって、溶接トーチ41の移動に関して柔軟に対応することができる。たとえばストレートアーク溶接装置から、ウィービングアーク溶接装置への転用を容易に行うことができる。
また溶接トーチ41の移動量を、溶接画像のうちのアーク高輝度領域51に基づいて検出する。アーク高輝度領域51は、溶接画像のうちで最も明るい領域となる。したがってアーク高輝度領域51の輪郭を明確にするための特別な工夫を必要とすることがなく、溶接トーチ41の到達時刻を容易に検出することができる。これによって安価に構成することができるうえ、溶接対象物5の選択肢を広げて適用することができる。
また本形態では、演算期間についてのみ、溶接トーチ41がウィービング方向71の両端のうちいずれかに到達したか否かを検出する。したがって演算期間以外の残余の期間については、演算処理装置22による処理の一部を省略することができる。このように演算処理装置22の演算を一部省略することによって、溶接トーチ41の到達時刻を効率よく検出することができる。すなわち演算処理装置22を安価に構成することができる。このように本発明の第1適用例に従えば、簡便で安価な溶接装置を用いながら、より広範な対象について外乱や条件変化に対応して、開先倣い溶接が自動的に実施できる。
(第2適用例)
図15は、溶接中の溶接対象物5を拡大して示す斜視図である。図15は、2つの開先面77,78の開先幅方向の間の距離が十分でない場合を示す。本発明の第2適用例では、溶接すべき2つの被溶接部材74,75において、2つの開先面77,78の間のウィービング方向距離が十分でない場合に好適に用いられる。具体的には、溶接対象物5のV字開先76の初層の溶接動作に好適に用いられる。またはベベル角度θ1,θ2が小さい場合の溶接動作に好適に用いられる。
開先76が狭いときには、アークがウィービング方向71に十分広がらず、アーク高輝度領域51が塊状に写り、長軸80を簡単に判定して、その傾きθ3を正確に算出できるような略楕円形にならない。したがって、長軸傾斜角θ3に依存する計測では信頼性が劣る。そこで、本発明の発明者らは、観察を積み重ねて、このような場合には長短軸長比Pを利用すると信頼性の高い電極位置推定が行えることを見出した。なお、この他の制御手順などは第1適用例における制御手順と変わりがないので、説明を省略する。
図16は、図15に示す場合について、撮像される溶接領域を簡略化して示す図である。溶接トーチ41がウィービング移動に応じて、溶接画像から抽出したアーク高輝度領域51は、図16に示すような形状変化が現れる。図16(a)は、電極61が2つの開先面77,78間におけるウィービング方向一方(図16では左方向)に移動したときの溶接画像である。図16(b)は、電極61が2つの開先面77,78間におけるウィービング方向中央位置にあるときの溶接画像である。また図16(c)は、電極61が2つの開先面77,78間におけるウィービング方向他方(図16では右方向)に移動して、開先面78に近接したときの位置にあるときの溶接画像である。
図16(a)では、アーク高輝度領域51は、左側に広がらないので、左肩上がりの少し扁平な形状となる。図16(b)では、アーク高輝度領域51は、三角形に近い塊状になり長軸80の長さと短軸81の長さとはほぼ等しくなる。この状態は、アーク高輝度領域51が左肩上がりから右肩上がりへと形状が変わるのに伴い、長軸80と短軸81とが入れ替わるところである。図16(c)では、図16(a)におけるアーク高輝度領域51とほぼ対称の右肩上がりの扁平な形状を示す。このようなアーク高輝度領域51の形状変化は、再現性がよい。
図17は、長短軸長比Pの時間変化と、長軸傾斜角θ3の正負の時間変化とを示すグラフである。図17には、長短軸長比Pの時間変化を実線104で示し、長軸傾斜角θ3の時間変化を破線105で示す。長短軸長比Pは、短軸81の長さを長軸の長さ80で除算した値であり、時間経過とともに周期的に変化する。長短軸長比Pの変化する周期および位相は、溶接トーチ41のウィービング方向の周期および位相とほぼ一致する。具体的には、溶接トーチ41がウィービング方向71の各端点に到達したときに、長短軸長比Pが極小106となる。
したがって随時撮像される溶接画像を画像処理し、溶接画像から長短軸長比Pが極小となる時刻を特定する。この特定した時刻が、溶接トーチ41がウィービング方向の端点に到達した到達時刻となる。到達時刻における溶接画像を選出することによって、溶接トーチ41がウィービング方向71の端点に到達したときの溶接画像を選出することができる。また長短軸長比Pの角度変化と、溶接トーチ41のウィービング方向71の位置変化とがほぼ対応するので、長短軸長比Pの角度変化に基づいて、溶接トーチ41のウィービング方向71の位置を求めることができる。また長短軸長比Pが極小となるときの長軸傾斜角θ3の正負を判定することによって、ウィービング方向71の両端のうち、いずれかの端点に到達したかを判定することができる。具体的には、溶接トーチ41がウィービング方向71の一方の端点に到達したときに、長軸傾斜角θ3が正となった状態で、長短軸長比Pが極小107となる。また溶接トーチ41がウィービング方向71の他方の端点に到達したときに、長軸傾斜角θ3が負となった状態で、長短軸長比Pが極大106となる。
図18は、アーク高輝度領域51の長短軸長比Pを求める具体的な手順を示すフローチャートである。画像処理装置21は、上述したステップs51〜s53と同様の動作を行う。ステップs53の動作が完了すると、ステップs55に進む。ステップs55では、重心Gを通る短軸81の傾斜角度である短軸傾斜角σを算出する。短軸傾斜角σは、長軸傾斜角θに±90度を加算することによって求められる。短軸傾斜角σを算出すると、ステップs58に進む。
ステップs58では、長軸80を示す直線の方程式と、短軸81を示す方程式とを算出する。たとえば長軸に関する方程式は、
y=−(tanθ)×(x−Xg)+Yg
となる。
ここで、Xgは重心GのX座標であり、Ygは重心GのY座標である。またθは、長軸傾斜角を示す。なお、短軸81に関する方程式は、上式において、θを短軸傾斜角σに代えることによって求められる。
この式を利用して、アーク高輝度領51の輪郭と長軸80との交点およびアーク高輝度領域51の輪郭と短軸81との交点を求めて、それぞれ長軸80の長さと短軸81の長さとを算出する。長軸80の長さおよび短軸81の長さを算出すると、ステップs60に進む。
ステップs60は、ステップs59で求めた長軸80の長さと短軸81の長さとを用いて、長短軸長比Pを求める。長短軸長比Pは、短軸81の長さbを長軸80の長さaで除した値に設定される。長短軸長比Pを求めると、演算装置の動作を終了する。このようにして求められる長短軸長比Pは、電極61の位置に対して比較的安定した関数になっており、各被溶接部材74,75のベベル角度θ1,θ2がそれぞれ等しい下向きV開先においては開先面の中央を挟んで対称になる。
第2適用例では、演算処理装置22は、アーク高輝度領域51の長短軸長比Pを特徴量として抽出して、図9に示す動作を行う。すなわち演算処理装置22は、長短軸長比Pに基づいて、到達時刻を検出することができる。第2適用例も、第1適用例と同様にロボット装置3から溶接トーチの移動量を取得することなく、また特別なセンサを用いることなく、到達時刻を取得することができる。これによって演算処理装置22は、到達時刻における溶接画像に基づいて、溶接条件を設定し直すことができ、変更した溶接条件を、溶接装置本体4およびロボット装置3に与えることができる。すなわち到達時刻における溶接画像に基づいて、溶接装置本体4およびロボット装置3をフィードバック制御することができる。たとえば到達時刻における溶接画像に基づいて、溶接中の溶接電圧、溶接電流、溶接速度、ウィービング周期、ウィービング幅などを設定し直すことができる。
本実施の形態では,第2適用例でも、到達時刻における溶接画像から、溶接トーチと開先面との間の距離である離間距離dRを検出し、この距離を予め定める適正離間距離となるように溶接トーチの移動量をフィードバック制御する。
図19は、ウィービング溶接したときの電極位置と長短軸長比Pの関係をプロットしたものである。なお図19は、のベベル角度がいずれも30°と等しい下向きV開先を有して、ルートギャップが0mmの溶接対象物5の場合であり、横軸は開先中心から電極までの距離、縦軸は長短軸長比Pを表わす。
図19に示すように、長短軸長比Pは電極61が開先中心にあるときに最高値1となり、開先中心から電極61が離れるにつれて減少する。長短軸長比Pと開先中心からの電極61の位置とは、大略的に直線的な関係を有する。したがって目標とするウィービング端点位置を長短軸長比Pで指定し、実際のウィービング端点において求めた長短軸長比Pと差があるときに、ウィービング中央点や幅を補正して希望のウィービング幅に戻すことができる。
図20は、溶接トーチ41のウィービング右端位置補正量ΔRと、端点長短軸長比P1との関係を示すグラフである。なお、端点長短軸長比P1は、溶接トーチ41がウィービング方向71の端点に到達したときの長短軸長比Pを示す。ウィービング方向71における溶接トーチ41のウィービング右端位置補正量ΔRは、長短軸長比Pに基づいて、予め定められる関係に従って算出される。なお、図20は、ベベル角度θ1,θ2が30度の場合の位置補正量ΔRを示す。
たとえば、図20に示すようにウィービング幅を2mmとした場合で、目標とする電極位置における適正長短軸長比Ptが0.75、1回の補正量は±1.4mmを上限とする。補正量ΔRは上限値以内で長短軸長比Pの偏差に比例するように設定する。
図20には、実線110で、ウィービング方向一方の端点における長軸傾斜角θ3が正の場合の端点位置補正量を表わす。また一点鎖線111で、ウィービング右端における長軸傾斜軸θ3が負になったとき、すなわち電極がウィービング右端にあるにもかかわらず電極が開先中央よりウィービング方向他方に位置する場合の位置補正量を表わす。
ウィービング方向一方の端点における長軸傾斜角θ3が正の場合、端点長短軸長比P1が予め定める設定値、たとえば0.4以上である場合、端点長短軸長比P1から適正長短軸長比Ptを減算した偏差(P1−Pt)に、予め定める比例係数β1、たとえば4を乗算した値が補正量ΔRとなる。また端点長短軸長比P1が予め定める設定値、たとえば0.4未満である場合、補正量は−1.4mmとする。またウィービング右端における長軸傾斜角θ3が負の場合、端点長短軸長比P1が予め定める設定値、たとえば0.9未満である場合、端点長短軸長比P1から適正長短軸長比Ptを減算した偏差(P1−Pt)に、予め定める比例係数β2を乗算した値が補正量ΔRとなる。また端点長短軸長比P1が予め定める設定値、たとえば0.9未満である場合、補正量は1.4mmとする。
なお、図20には、ウィービング右端における補正量ΔRを示すが、ウィービング左端における補正量ΔLについても、図20に対応する同様の関係が存在する。このように図20に表した関係を用いて、適正な左右の端点位置補正量を求めることができる。
なお、ウィービング中央位置の補正量ΔCは、ウィービング右端位置補正量ΔRとウィービング左端位置補正量ΔLとの差の半分として与えられ、ウィービング幅の補正量ΔWは、右側補正量ΔRと左側補正量ΔLの和として与えられる。
このようにして第2適用例では、溶接画像から抽出する特徴情報を長短軸長比Pとすることによって、第1適用例と同様の効果を得ることができる。さらに第2適用例では、開先76の間の距離が狭い場合にも対応することができる。
(第3適用例)
ストレート溶接でもアーク高輝度領域51の形状はほぼ同じであるから、本発明の第3適用例として、溶接トーチ41の位置検出方法をストレート溶接に適用してもよい。溶接線から外れれば形状に歪みが生じこの歪みを評価することによってずれ量を推定することができ、したがって適正な補正量を決めることができる。溶接線からのずれ量を評価する指標として、第1適用例で用いた長軸傾斜角θ3を用いることもできるが、この指標は開先面77,78の中央付近では偏差に敏感でないので、第2適用例で用いた長短軸長比Pを利用することがより好ましい。
電極61が目標とする溶接線からずれたときの偏差の大きさに対して表れるアーク高輝度領域51の長短軸長比Pを実測に基づいて評価しておく。また、長短軸長比Pの偏差と補正量を比例するものとし、ある長短軸長比Ppになると電極61の狙い位置を所定の補正量eだけ調整するものと予め設定する。また、補正量の上限を適当に決める。
図21は、ストレート溶接における溶接トーチ41の位置補正量ΔCと、長短軸長比P1との関係を示すグラフである。図21では、狙い位置補正量の限界値を±1.4mmとし、長短軸長比Pが0.75のときに狙い位置を1mm補正するものとして作成したものである。図21には、実線112で、ウィービング方向中心位置における長軸傾斜角θ3が正の場合の端点位置補正量を表わす。また一点鎖線111で、ウィービング方向中心位置における長軸傾斜角θ3が負の場合の位置補正量を表わす。
長短軸長比Pは電極61が開先中央にあるときに最大値、たとえば1となり、開先面77,78に近づくにつれて小さくなる。また、電極61が開先中央の左右どちらの領域に位置するかによって長軸傾斜角θの符号が入れ替わるので、この符号を利用して図中の実線112または一点鎖線113で示す関係のいずれかを選択して適合する狙い位置補正量を得ることができる。なお、補正量は狙い位置をウィービング方向右側にずらす方向に正としている。
ストレート溶接における電極狙い位置の補正は、カメラ装置1が取得した溶接画像からアーク高輝度領域51の長短軸長比Pを抽出し、図21のグラフあるいはこれを数式化したものを用いて直接的に狙い位置補正値を算出して、位置修正動作を実行する。なお、ウィービングしないストレート溶接では電極位置を測定するタイミングとしてウィービング端点位置を用いることができないので、タイマなどを使用して適当な間隔で画像取得し画像処理して補正量を評価し補正動作を行う。
上記各適用例において、ウィービング条件の補正は、ウィービングの半周期ごとに行うことができるが、適当な間隔ごとに行ってもよい。なお、ベベル角度θ1,θ2が左右の開先により異なる場合は、ウィービング端点における電極位置とアーク高輝度領域51の長短軸長比Pなど特性値との関係が左右で異なるので、それぞれ実験などで事前に求めた状況に合致する関数を用いて、処理する必要がある。しかし、開先76ごとに関数が異なる場合も、本質的な処理方法に差異はない。また電極61が略鉛直に延びるとしたが、溶接対象物5の姿勢によっては、鉛直方向以外の方向に延びた状態でアーク溶接を行ってもよい。
上述した本発明の実施の形態は、発明の例示に過ぎず、発明の範囲内において構成を変更することができる。本実施の形態では、溶接画像に含まれる情報のうち、溶接トーチの位置を判断する特徴情報として、長軸傾斜角θ3または長短軸長比Pを用いたが他の情報を用いてもよい。また積層溶接において、特徴情報は、開先面間が狭い間は、第2適用例に示す長短軸長比Pを用い、開先面間が広くなると第1的用例に示す長軸傾斜角θ3を用いてもよい。これによって精度よく求めるとともに、演算にかかる負荷を低減することができる。また演算処理装置22は、ウィービング方向71の端点に到達したことを判断して、ウィービング幅などのトーチの移動量を調整したが、溶接電流、アーク電圧および溶接速度などの他の溶接情報をフィードバック制御してもよい。