近年、携帯電話機等の移動体通信機器等に使用されるフィルタ装置は、移動体通信機器等の薄型化や小型化の要求に伴い、誘電体同軸型共振器を用いたフィルタから分布定数回路を共振器に用いた積層ストリップラインフィルタへと進展してきている。
この積層ストリップラインフィルタは、通過周波数帯域の低周波側および高周波側の減衰帯域にそれぞれ減衰極を備えて尖鋭な帯域通過特性を有しており、無線通信機などにおいて、所望周波数帯域の信号のみを選択的に通過させるとともに、通過帯域の低周波側および高周波側に近接した信号帯域における不所望信号の混入を防止して、良質の通信を行ない得るようにするためのバンドパスフィルタとして利用されている。
このような従来の積層ストリップラインフィルタとして、例えば、特許文献1に示されたものがある。特許文献1に示された従来の積層ストリップラインフィルタを、それぞれ図11に回路構成図、図12に透視平面図、図13に断面図で示す。なお、図13(a)および(b)は、それぞれ図12に示すa−a’線およびb−b’線における断面図である。
図11に示すように、従来の積層ストリップラインフィルタは、先端短絡線路121〜125と先端開放線路131〜135とで構成されている。そして、先端短絡線路121と先端開放線路131とが並列に接続されることにより、並列共振回路B1が形成されている。また、先端短絡線路122と先端開放線路132とが並列に接続されて、並列共振回路B2が形成されている。また、先端短絡線路123と先端開放線路133とが並列に接続されて、並列共振回路B3が形成されている。また、先端短絡線路124と先端開放線路134とが並列に接続されて、並列共振回路B4が形成されている。また、先端短絡線路125と先端開放線路135とが並列に接続されて、並列共振回路B5が形成されている。
そして、並列共振回路B2の一方の端子は、並列共振回路B1を介して接地されるとともに入出力端子の一方が接続され、並列共振回路B2の他方の端子は、並列共振回路B3を介して接地されるとともに並列共振回路B4の一方の端子が接続され、並列共振回路B4の他方の端子は、並列共振回路B5を介して接地されるとともに入出力端子の他方が接続されてバンドパスフィルタを構成している。
この構成において、一般に、バンドパスフィルタの通過帯域を狭帯域化するためには、接地された並列共振回路B1,B3,B5を形成する先端短絡線路121,123,125の特性インピーダンスZL1b,ZL3b,ZL5bと先端開放線路121,123,125の特性インピーダンスZC1b,ZC3b,ZC5bとを小さくするか、もしくは、入出力端子間に直列に接続された並列共振回路B2,B4を形成する先端短絡線路122,124の特性インピーダンスZL2b,ZL4bと先端開放線路132,134の特性インピーダンスZC2b,ZC4bとを小さくする必要がある。
しかし、狭帯域な通過帯域の近傍の減衰極を、通過周波数帯域においてより通過帯域の近傍に移動させるためには、接地された並列共振回路B1,B3,B5の特性インピーダンスを大きくするか、または入出力端子間に直列に接続された並列共振回路B2,B4の特性インピーダンスを小さくする必要があることから、接地された並列共振回路B1,B3,B5の特性インピーダンスは狭帯域化と相反する傾向にある。
そこで、必要な通過帯域を確保した上でその通過帯域の近傍に減衰極を有する狭帯域化を実現するには、接地された並列共振線路の特性インピーダンスも入出力端子間に直列に接続された並列共振線路の特性インピーダンスも共に小さくし、それらの大きさをそのフィルタ回路の入出力インピーダンスよりも十分小さくすることで対応して、通過帯域の近傍に急峻な減衰極を有する狭帯域なフィルタを実現していた。
特開平10−276005号公報
しかしながら、近年の情報伝送容量の増加に伴い、無線通信機器は従来の周波数帯域では足りなくなり、高周波化と広帯域化とで利用帯域幅を拡張して情報伝送容量を確保するようになってきている。そこで、通過帯域が広く、そして通過帯域の近傍に減衰極を有するフィルタが求められるようになってきている。
このような状況において、従来の積層ストリップラインフィルタでは、通過帯域を広帯域化し、かつ通過帯域の近傍に減衰極を得ようとすると、接地された並列共振線路の特性インピーダンスを大きくする必要がある。そして、接地された並列共振線路の特性インピーダンスを大きくするには、図13に示す誘電体層131,133の厚みを厚くする必要がある。そのため、フィルタの小型化や薄型化が困難であるという問題点があった。
本発明は、上記問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、通過帯域の低周波側の近傍に第1の減衰極を、高周波側の近傍に第2の減衰極を有する周波数帯域特性を持つ、積層ストリップラインフィルタで構成されたフィルタ装置において、フィルタの通過帯域の広帯域化による線路の特性インピーダンスの増加を低減し、結果として厚みの増加を低減させ、小型化や薄型化が容易なフィルタ装置を提供することにある。
本発明のフィルタ装置は、対向するように配置された第1および第2の接地電極と、これら第1および第2の接地電極間に順次積層された第1乃至第5の誘電体層と、これら第1乃至第5の誘電体層の各層間に順次形成され、前記第1および第2の接地電極に電気的に接続された短絡端と開放端とを有する第1乃至第4の導体パターンとを備え、前記第1の接地電極および前記第1の導体パターンにより第1の並列共振回路が形成され、前記第1乃至第4の導体パターンの前記誘電体層を挟んで対向する各導体パターンの組によりそれぞれ第2乃至第4の並列共振回路が形成され、前記第2の接地電極および前記第4の導体パターンにより第5の並列共振回路が形成されており、前記第2の導体パターンの短絡端以外の外周に沿って、前記第2の誘電体層を貫通し、一端部が前記第1の導体パターンに接続された貫通導体が形成され、前記第3の導体パターンの短絡端以外の外周に沿って、前記第4の誘電体層を貫通し、一端部が前記第4の導体パターンに接続された貫通導体が形成されていることを特徴とするものである。
また、本発明のフィルタ装置は、上記構成において、前記第2の誘電体層と前記第3の誘電体層との層間に、前記第2の誘電体層を貫通する貫通導体の他端部に接続され、前記貫通導体に沿った形状の第5の導体パターンが形成され、前記第3の誘電体層と前記第4の誘電体層との層間に、前記第4の誘電体層を貫通する貫通導体の他端部に接続され、前記貫通導体に沿った形状の第6の導体パターンが形成され、前記第5の導体パターンと前記第6の導体パターンとが前記第3の誘電体層を挟んで対向していることを特徴とするものである。
また、本発明のフィルタ装置は、上記各構成において、第1乃至第4の導体パターンの短絡端から開放端までの長さが、通過帯域の中心周波数の波長の1/2以下であることを特徴とするものである。
また、本発明のフィルタ装置は、上記各構成において、前記第1および第4の導体パターンは、前記第2および第3の導体パターンより幅が広く、かつ前記第2および第3の導体パターンの全面と平面視で重なるように配置されていることを特徴とするものである。
本発明のフィルタ装置によれば、第1の接地電極および第1の導体パターンにより第1の並列共振回路が形成され、第1乃至第4の導体パターンの誘電体層を挟んで対向する各導体パターンの組によりそれぞれ第2乃至第4の並列共振回路が形成され、第2の接地電極および第4の導体パターンにより第5の並列共振回路が形成されていることから、広帯域化による線路の特性インピーダンスの増加を低減でき、特性インピーダンスの増加による誘電体層の厚みの増加を低減できるので、小型化が容易なフィルタ装置を提供することができるとともに、さらに、第2の導体パターンの短絡端以外の外周に沿って、第2の誘電体層を貫通し、一端部が第1の導体パターンに接続された貫通導体が形成され、第3の導体パターンの短絡端以外の外周に沿って、第4の誘電体層を貫通し、一端部が第4の導体パターンに接続された貫通導体が形成されていることから、貫通導体により第1の接地電極と第2の導体パターンとの間および第2の接地電極と第3の導体パターンとの間の電磁気的結合を妨げることで浮遊容量の発生をなくすことができるので、浮遊容量による第2乃至第4の共振回路の特性の低下が抑えられた、広い通過帯域を有するとともに通過帯域の近傍で急峻な減衰特性を有する、小型化や薄型化が可能である高性能なフィルタ装置を提供することができる。
また、本発明のフィルタ装置によれば、第2の誘電体層と第3の誘電体層との層間に、第2の誘電体層を貫通する貫通導体の他端部に接続され、貫通導体に沿った形状の第5の導体パターンが形成され、第3の誘電体層と第4の誘電体層との層間に、第4の誘電体層を貫通する貫通導体の他端部に接続され、貫通導体に沿った形状の第6の導体パターンが形成され、第5の導体パターンと第6の導体パターンとが第3の誘電体層を挟んで対向していることから、第1の並列共振回路と第5の並列共振回路との間がコンデンサならびにインダクタにより接続された構造となるので、伝送される信号の位相を変化させることができる。したがって、通過帯域より低周波側の周波数ならびに高周波側の周波数において位相を急激に変化させることができることから、通過帯域より低周波側および高周波側における通過帯域により近い位置に減衰極を設けることができるので、より急峻な減衰特性を有する高性能なフィルタ装置を提供することができる。
また、本発明のフィルタ装置によれば、第1乃至第4の導体パターンの短絡端から開放端までの長さが、通過帯域の中心周波数の波長の1/2以下であるときには、導体パターンを構成する先端短絡線路および先端開放線路が、共振を起こしやすい長さである、通過帯域の中心周波数の波長の1/4以下の長さとなるので、容易に並列共振回路として動作する、小型化がより容易なフィルタ装置を提供することができる。
また、本発明のフィルタ装置によれば、第1および第4の導体パターンが、第2および第3の導体パターンより幅が広く、かつ第2および第3の導体パターンの全面と平面視で重なるように配置されているときには、平面視で第1および第2の接地電極と第2および第3の導体パターンとが重なる部分には、その間に第1および第4の導体パターンが確実に位置することとなるので、第1および第2の接地電極と第2および第3の導体パターンとの間に発生し特性劣化の原因となる浮遊容量をより低減でき、より高性能なフィルタ装置を提供することができる。
本発明のフィルタ装置について以下に詳細に説明する。図1および図5〜図8はそれぞれ本発明のフィルタの実施の形態の一例を示す透視斜視図、図2は図1に示した本発明のフィルタ装置における各層を平面視した(積層方向から見た)一例を示す平面図、図3は本発明のフィルタ装置の実施の形態の一例のフィルタ装置における導体パターンの重なりを平面視した透視平面図、図4および図9は本発明のフィルタ装置の実施の形態の一例の回路構成図である。
図1〜図3および図5〜図8において、11は第1の接地電極、21は第1の接地電極の下に配置された第1の誘電体層、22は第1の誘電体層21の下に積層された第2の誘電体層、23は第2の誘電体層22の下に積層された第3の誘電体層、24は第3の誘電体層23の下に積層された第4の誘電体層、25は第4の誘電体層24の下に積層された第5の誘電体層、12は第5の誘電体層の下に配置された第2の接地電極である。31は第1および第2の誘電体層21,22の層間に配置された第1の導体パターン、32は第2および第3の誘電体層22,23の層間に配置された第2の導体パターン、33は第3および第4の誘電体層23,24の層間に配置された第3の導体パターン、34は第4および第5の誘電体層24,25の層間に配置された第4の導体パターン、35は第2および第3の誘電体層22,23の層間に配置された第5の導体パターン、35は第3および第4の誘電体層23,24の層間に配置された第6の導体パターンである。41は、第2の導体パターン32の外周に沿って、第2の誘電体層22を貫通し、一端部が第1の導体パターン31に接続された貫通導体と、第3の導体パターン33の外周に沿って、第4の誘電体層24を貫通し、一端部が第4の導体パターン34に接続された貫通導体とである。
そして、図2に示すように、第1乃至第4の導体パターン31〜34は、第1乃至第4の先端短絡電極31b〜34bと第1乃至第4の先端開放電極31a〜34aとが接続されて形成されており、第1乃至第4の先端短絡電極31b〜34b側の一端が接続導体(図示せず)により第1および第2の接地電極11および12に接続された短絡端と、第1乃至第4の先端開放電極31a〜34a側の他方端が開放された開放端とを有するものとなっている。
また、第1の接地電極1および第1の導体パターン31により第1の図4に示す並列共振回路A1が形成され、第1の導体パターン31および第2の導体パターン32により第2の並列共振回路A2が、第2の導体パターン32および第3の導体パターン33により第3の並列共振回路A3が、第3の導体パターン33および第4の導体パターン34により第4の並列共振回路A4が形成され、第2の接地電極2および第4の導体パターン34により第5の並列共振回路A5が形成される。
詳細には、第1の接地電極11および第1の先端短絡電極31aにより、図4に示す第1の先端短絡線路101が構成され、第2の接地電極12および第5の先端短絡電極34aにより第5の先端短絡線路105が構成される。そして、第1の先端短絡電極31aおよび第2の先端短絡電極32aにより第2の先端短絡線路102が構成され、第2の先端短絡電極32aおよび第3の先端短絡電極33aにより第3の先端短絡線路103が構成され、第3の先端短絡電極33aおよび第4の先端短絡電極34aにより第4の先端短絡線路104が構成される。
また、同様に第1の接地電極11および第1の先端開放電極31bにより、図4に示す第1の先端開放線路111が構成され、第2の接地電極12および第5の先端開放電極34bにより第5の先端開放線路115が構成される。そして、第1の先端開放電極31bおよび第2の先端開放電極32bにより第2の先端開放線路112が構成され、第2の先端開放電極32bおよび第3の先端開放電極33bにより第3の先端開放線路113が構成され、第3の先端開放電極33bおよび第4の先端開放電極34bにより第4の先端開放線路114が構成される。
そして、先端短絡線路101と先端開放線路111とが並列に接続されることにより、図4に示す並列共振回路A1が形成される。また、先端短絡線路102と先端開放線路112とが並列に接続されることにより、並列共振回路A2が形成される。また、先端短絡線路103と先端開放線路113とが並列に接続されることにより、並列共振回路A3が形成される。また、先端短絡線路104と先端開放線路114とが並列に接続されることにより、並列共振回路A4が形成される。また、先端短絡線路105と先端開放線路115とが並列に接続されることにより、並列共振回路A5が形成される。
本発明のフィルタ装置は、このような第1〜第5の並列共振回路A1〜A5で構成されることにより、従来の構成と比較して広帯域化によるパターンの特性インピーダンスの増加を低減でき、結果として厚みの増加を低減し、小型化や薄型化が容易なフィルタおよびフィルタ装置となる。さらに貫通導体41が第2の導体パターン32の外周に沿って、第2の誘電体層22を貫通し、一端部が第1の導体パターン31に接続され、第3の導体パターン33の外周に沿って、第4の誘電体層24を貫通し、一端部が第4の導体パターン34に接続されることから、貫通導体41により第1の接地電極11と第2の導体パターン32との間および第2の接地電極と第3の導体パターン33との間の電磁界的結合を妨げることで浮遊容量の発生をなくすことができるので、浮遊容量による第2乃至第4の共振回路の特性の低下が抑えられた、広い通過帯域を有するとともに通過帯域の近傍に急峻な減衰特性を有する高性能なバンドパスフィルタとしてのフィルタ装置となる。
また、本発明のフィルタ装置は、上記構成において図7および図8に示すように、第2の誘電体層22と第3の誘電体層23との層間に、第2の誘電体層22を貫通する貫通導体41の他端部に接続され、貫通導体41に沿った形状の第5の導体パターン35が形成され、第3の誘電体層23と第4の誘電体層24との層間に、第4の誘電体層24を貫通する貫通導体41の他端部に接続され、貫通導体41に沿った形状の第6の導体パターン36が形成され、第5の導体パターン35と第6の導体パターン36とが第3の誘電体層23を挟んで対向していることが好ましい。このことにより、図9に示す回路構成図のように、第1の並列共振回路A1と第5の並列共振回路A5との間にコンデンサCならびにインダクタLにより接続された構造となるので、伝送される信号の位相を変化させることができる。したがって、通過帯域より低周波側の周波数ならびに高周波側の周波数において、位相を急激に変化させることができるため、通過帯域の低周波側のより近傍に第1の減衰極を、高周波側のより近傍に第2の減衰極を設けることができ、より急峻な減衰特性を有する高性能なフィルタ装置を提供することができる。
また、上記構成において、第1乃至第4の導体パターン31〜34の短絡端から開放端までの長さが、このフィルタ装置による通過帯域の中心周波数の波長の1/2以下であることが好ましい。このことにより、第1乃至第4の導体パターン31〜34が、通過帯域の中心周波数の波長の1/4の以下の長さの先端短絡線路101〜105と先端開放線路111〜115とになることから、容易に並列共振回路として動作するので、容易に小型のフィルタ装置を提供することができる。
また、図3に示すように、第1および第4の導体パターン31,34は、第2および第3の導体パターン32,33より幅が広く、かつ第2および第3の導体パターン32,33の全面と平面視で重なるように配置されることが好ましい。このことにより、平面視で第1および第2の接地電極11,12と第2および第3の導体パターン32,33とが重なる部分には、その間に第1および第4の導体パターン31,34が確実に位置することとなるので、さらに第2および第3の導体パターン32,33と第1および第2の接地電極1,2との間に発生する特性劣化の原因となる浮遊容量を低減でき、高性能なフィルタ装置を提供することができる。
本発明のフィルタ装置に用いる第1乃至第5の誘電体層21〜25としては、例えば、アルミナ,ムライト,窒化アルミニウムおよびガラスセラミックス等のセラミック材料、あるいは四ふっ化エチレン樹脂(ポリテトラフルオロエチレン;PTFE),四ふっ化エチレン−エチレン共重合樹脂(テトラフルオロエチレン−エチレン共重合樹脂;ETFE),四ふっ化エチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂(テトラフルオロエチレン−パーフルテロアルキルビニルエーテル共重合樹脂;PFA)等のフッ素樹脂やガラスエポキシ樹脂,ポリイミド等の有機樹脂材料が用いられる。これらの材料による第1〜第5の誘電体層21〜25の形状や寸法(厚みや幅,長さ)は、使用される周波数や用途等に応じて設定される。セラミック材料の場合は、より高周波の信号を伝送することが可能な、Au,Ag,Cu等の低抵抗金属からなる導体材料と同時焼成が可能なガラスセラミックスが好ましい。
本発明のフィルタ装置における第1および第2の接地電極11,12および第1乃至第6の導体パターン31〜36は、第1乃至第5の誘電体層21〜25がセラミック材料からなる場合は、W,Mo,Mo−Mn,Au,Ag,Cu等の金属を主成分とするメタライズ層により形成される。また、第1乃至第5の誘電体層21〜25が樹脂系材料からなる場合は、厚膜印刷法,各種の薄膜形成方法,めっき法あるいは箔転写法等により形成した金属層や、このような金属層上にめっき層を形成したもの、例えばCu層,Cr−Cu合金層,Cr−Cu合金層上にNiめっき層およびAuめっき層を被着させたもの,Ta2N層上にNi−Cr合金層およびAuめっき層を被着させたもの,Ti層上にPt層およびAuめっき層を被着させたもの,Ni−Cr合金層上にPt層およびAuめっき層を被着させたもの等が挙げられる。その厚みや幅は、伝送される高周波信号の周波数や用途等に応じて設定される。
第1乃至第5の誘電体層21〜25ならびに第1および第2の接地電極11,12および第1乃至第6の導体パターン31〜36の形成は、従来周知の方法を用いればよい。例えば第1乃至第5の誘電体層21〜25がガラスセラミックスから成る場合であれば、まずそれら誘電体層21〜25となるガラスセラミックスのグリーンシートを準備し、グリーンシート上にスクリーン印刷法によりCu等の導体ペーストを所定形状で印刷塗布して第1および第2の接地電極11,12および第1乃至第6の導体パターン31〜36を形成する。次に、第1および第2の接地電極11,12および第1乃至第6の導体パターン31〜36が形成されたグリーンシートを重ねて圧着するなどして積層体を作製し、この積層体を850〜1000℃で焼成することにより形成する。その後、外表面に露出している導体層上には、NiめっきおよびAuめっき等のめっき皮膜を形成する。第1乃至第5の誘電体層21〜25が有機樹脂材料から成る場合であれば、例えば有機樹脂シート上に第2の接地電極11,12および第1乃至第6の導体パターン31〜36の形状に加工したCu箔を転写し、Cu箔が転写された有機樹脂シートを積層して接着剤で接着することにより形成する。
第1および第2の接地電極11,12と第1乃至第4の導体パターン31〜34の短絡端(第1乃至第5の先端短絡電極31b〜34b)とを接続する接続導体は、第1乃至第5の誘電体層21〜25内に形成された貫通導体または第1乃至第5の誘電体層21〜25の側面に形成された側面導体の形態で形成することにより、積層されたそれら誘電体層21〜25の内部に形成するフィルタ装置の設計自由度が向上するとともに、より小型で高性能なフィルタ装置とすることができる。
このような接続導体となる貫通導体や側面導体は、第1乃至第5の誘電体層21〜25がガラスセラミックスから成る場合には、貫通導体は、前述の製造方法において第1および第2の接地電極11,12および第1乃至第6の導体パターン31〜36を形成する前に、グリーンシートに金型加工やレーザー加工によりあらかじめ形成しておいた貫通孔内に同様の導体ペーストを印刷法等により充填することで形成することができ、側面導体は、第1乃至第4の導体パターン31〜34の短絡端を側面に露出させた積層体を形成した後、同様の導体ペーストを積層体の側面に印刷することにより形成することができる。第1乃至第5の誘電体層21〜25が樹脂系材料から成る場合も同様に、グリーンシートに代えて有機樹脂シートを用い、導体ペーストの印刷やめっきにより貫通孔内に貫通導体を形成したり、薄膜法等により側面導体を形成したりすればよい。第1乃至第4の導体パターン31〜34の短絡端を積層体の側面に露出させるには、第1乃至第4の導体パターン31〜34の短絡端がグリーンシート(あるいは有機樹脂シート)の端部に位置するように形成したり、第1乃至第4の導体パターン31〜34を形成したグリーンシート(有機樹脂シート)を積層した後に、第1乃至第4の導体パターン31〜34の短絡端が側面に露出するように積層体を切断したりすればよい。
貫通導体41は、第2および第3の導体パターン32,33の短絡端以外の外周に沿って、それぞれ第2および第4の誘電体層22,24を貫通して形成され、それぞれの一端部はそれぞれ第1および第4の導体パターン31,34に接続されている。貫通導体41を連続した一つのものとして形成すると、グリーンシート(あるいは有機樹脂シート)に貫通導体41を形成するための貫通孔を金型加工やレーザー加工により形成した場合に、貫通孔を形成したグリーンシート(有機樹脂シート)が変形し易くなるので、図1,図7に示すように、複数に分割された形状の貫通導体41とすればよい。その分割数や分割した貫通導体41の配置については特に制限されるものではない。貫通導体41が分割された形状の場合は、図5,図8に示すように通常の配線基板に用いられるような円筒形状の貫通導体41を多数個配列してもよく、この場合には汎用の貫通導体用の金型や打抜きピンを用いることができ、また接続導体用の貫通孔を形成する方法を用いて同時に形成することもできる。この場合は図6に示すように、第2および第3の導体パターン32,33の周りに二重以上に配列し、側面から見てできるだけ貫通導体41を隙間なく配置すると、第1の接地電極11と第2の導体パターン32との間および第2の接地電極と第3の導体パターン33との間の浮遊容量となる結合をそれらの間に位置する貫通導体41により確実に妨げることが可能となり、浮遊容量の発生をなくすことができる点で好ましいものとなる。
貫通導体41の形成は、前述した接続導体となる貫通導体の形成方法と同様の方法で行なえばよい。また、貫通導体41が図1や図7に示すような、あるいは分割されていない比較的大きなものである場合は特に、貫通孔を形成する際に、グリーンシート(あるいは有機樹脂シート)と同じ厚さの導電性シートをグリーンシート(有機樹脂シート)上に重ねてグリーンシート(有機樹脂シート)と共に打ち抜くとともに、グリーンシート(有機樹脂シート)が打ち抜かれて形成された貫通孔に打抜いた導電性シートを嵌め込む方法を用いるとよい。導電性シートは、誘電体層21〜25がセラミック材料から成る場合は、第1乃至第6の導体パターン31〜36等と同じ金属の粉末を用いてバインダーを加えてグリーンシートと同様にして作製すればよく、誘電体層21〜25が樹脂系材料から成る場合は、銅箔等の金属箔を用いてもよい。
具体的には、次世代の通信規格であるUWB(Ultra Wide Band)規格に用いられる通過帯域の中心周波数が4GHzのバンドパスフィルタとしてのフィルタ装置は、図1に示すような形態であれば、例えば第1乃至第5の誘電体層21〜25として比誘電率が9.4のガラスセラミックスを用い、第1および第2の接地電極11,12、第1乃至第6の導体パターンおよび貫通導体41にAgメタライズを用いることにより得られる。このとき、第1の誘電体層の厚みを300μm、第2の誘電体層の厚みを50μm、第3の誘電体層の厚みを300μm、第4の誘電体層の厚みを50μm、第5の誘電体層の厚みを250μmとし、第1および第2の接地電極11,12の寸法を3.5mm×5.5mmとし、第1および第4の導体パターン31,34を寸法が0.8mm×3.4mmの先端短絡電極31b,34bと3.0mm×1.7mmの先端開放電極31a,34aとにより短絡端から開放端までの長さが5.1mmとなるように構成し、第2および第3の導体パターン32,33を寸法が0.4mm×3.6mmの先端短絡電極32b,33bと1.1mm×1.2mmの先端開放電極32a,33aとにより短絡端から開放端までの長さが4.8mmとなるように構成し、そして、第2および第3の導体パターン32,33の外周に沿って0.1mm離間させて、それぞれ第2および第4の誘電体層22,24を貫通する0.1mm幅の貫通導体41を配置する。比誘電率が9.4のガラスセラミックスは、例えば、ガラス成分としてPbO,B2O3,SiO2,Al2O3,ZnOおよびアルカリ土類金属酸化物を主成分とする結晶化ガラスが50質量%とフィラー成分としてアルミナが50質量%とからなるものを用いればよい。
このような例の本発明のフィルタ装置のフィルタ特性は、図10の線図に一点鎖線の特性曲線で示すようなものとなる。また、このような例の本発明のフィルタ装置によるフィルタ特性に対して、貫通導体41を有さない従来のフィルタ装置において得られるフィルタ特性は、図10に破線の特性曲線で示すようなものとなる。
このような本発明のフィルタ装置の例において、図7に示すようなさらに第5の導体パターン35および第6の導体パターンを有するフィルタ装置とするには、例えば、同様にAgメタライズを用いて、第2導体パターン32の外周に沿って0.1mm離間させて幅0.2mmの第5の導体パターン35を配置し、第3の導体パターン33の外周に沿って0.1mm離間させて幅0.2mmの第6の導体パターン36を配置することによって得られる。このような前述の本発明のフィルタ装置の例に、さらに第5の導体パターン35および第6の導体パターン36を加えたフィルタ装置において得られるフィルタ特性は、図10に実線の特性曲線で示すようなものとなる。
また、図11〜図13に示す従来の構造のフィルタ装置で、誘電体層および導体パターンを前述の本発明のフィルタ装置の例と同様のガラスセラミックスおよびAgメタライズを用いて得られるフィルタ装置におけるフィルタ特性を図14に図10と同様の線図で示す。
なお、図10および図14に示す線図において、縦軸は挿入損失(単位:dB)を、横軸は周波数(単位:GHz)を示す。
図10および図14に示すフィルタ特性から、本発明のフィルタ装置のフィルタ特性(図10に一点鎖線の特性曲線で示す。)は、従来のフィルタ装置のフィルタ特性(図14に実線の特性曲線で示す。)と比較すると極めて広い通過帯域を有しており、また、同様の回路構成でも貫通導体41を有さないフィルタ装置のフィルタ特性(図10に破線の特性曲線で示す。)と比較すると、より広い通過帯域を有するとともに急峻な減衰特性を有し、さらに第5および第6の導体パターン35,36を設けた本発明のフィルタ装置のフィルタ特性(図10に実線の特性曲線で示す。)は、通過帯域より低周波側および高周波側の減衰極がより通過帯域に近い位置となり、より急峻な減衰特性を有するようになることがわかる。