JP4639340B2 - 生体有機体の生産方法および培養容器 - Google Patents
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Description
本国際出願は2005年3月30日に出願された日本国特許出願第2005−099509号および2005年8月25日に出願された日本国特許出願第2005−244946号に基づく優先権を主張しており、これら出願の全内容は本明細書中に参照として援用されている。
ティッシュエンジニアリング分野における課題の一つとして、目的とする組織や器官に分化(組織化)する機能を維持した状態で細胞(特にES細胞その他の幹細胞)や細胞塊(部分的に組織化した集塊物を包含する。以下同じ。)を立体的に培養(3次元培養)する方法と該方法に使用される培養容器の確立が挙げられる。一般的な2次元培養方法、例えば平坦なペトリディッシュ上で細胞や組織を培養する方法では、培養物が重力を受けて薄いシートのような形状になり易く、3次元環境である生体内で正常に機能させたい組織の培養には適さない。
また、ES細胞(胚性幹細胞)その他の幹細胞の分化(組織化)のメカニズムを解明するうえで幹細胞や細胞塊の培養方法(3次元培養方法)と培養用機器の確立は重要である。特に動物細胞の多くは接着性細胞であるため、従来の方法では浮遊状態で長期間培養することは困難であった。
Drop:HD法)が挙げられる。かかるHD法では、培養液が半球状になることによって該培養液中で細胞を接触・凝集させて3次元的細胞塊を形成することができる。しかし、HD法で形成可能な半球状培養液は少量に限られる。また、HD法では慎重な操作が要求され、培養成功率は熟練者でも60%程度に過ぎない。
HD法よりも操作が容易な方法として、適当な表面処理を施して細胞接着性を低下させたU底形状の容器(典型的にはU底マルチウェルプレート)を用いる方法が挙げられる。例えば日本国特許出願公開公報第2004−254622号には、この方法の改良技術の一つとして、ES細胞の培養に適するように工夫されたU底形状の培養容器が記載されている。しかし、このようなU底形状の容器を用いて培養した場合、細胞塊が形成され難く、培養期間も長くなりがち(即ち培養細胞の生育速度が遅い)である。
本明細書において「生体有機体」とは、生体を構成する有機体であって、培養可能なものを指す総称である。ヒトその他の動物、植物、微生物から採取された種々の細胞(幹細胞、体細胞、生殖細胞等)、組織(培養中に生じる細胞塊や分化した組織体を含む)はここでいう生体有機体に包含される。
従って、本発明は他の側面として、液滴をほぼ球形状に保ち得る撥水性の表面を有する基材上にほぼ球形状の液滴を形成し、且つ、該液滴の真下部分にガスが供給可能な状態として該液滴中で少なくとも一種の幹細胞を培養すること、および、その液滴中で該幹細胞を分化させること、を包含する幹細胞由来の分化した生体有機体である細胞若しくは組織の生産方法を提供する。好ましい一態様では、幹細胞由来の分化した細胞若しくは組織は軟骨細胞又は軟骨組織である。
ここで開示される培養容器は、基材表面が上記撥水性(超撥水性)を備える結果、所望する組成の培養液(例えば生理食塩水のような各種の緩衝液を包含する。)を滴下することにより、ほぼ球形状の液滴を基材上に形成・配置することができる。ほぼ球形状の液滴は生体有機体である細胞若しくは組織の培養に好適な3次元環境を提供する。このため、従来のHD法のように煩雑な操作を行うことなく、簡便に、所望するサイズのほぼ球形状(好ましくは真球形状)の液滴を形成し、その液滴中で所望する生体有機体である細胞若しくは組織の3次元培養を容易に行うことができる。このような容器を用いることによって、ここで開示されるいずれかの生体有機体生産方法を好適に実施することができる。
このような構成によって、基材上に配置されたほぼ球形状の液滴の真下にガス(典型的には空気)を供給する(存在させる)ことができる。従って、従来のU底型マルチウェルプレートを使用した培養とは異なり、所定の位置に配置した液滴の下面(底)からも積極的に液滴(培地)のガス交換を図ることができる。このため、この態様の培養容器によると、ガス交換に優れる環境におかれた液滴中で生体有機体である細胞若しくは組織の増殖又は成長速度を早めることができる。従って、所望する生体有機体(例えば幹細胞由来の細胞塊や組織化片)の生産効率を向上させることができる。
かかるいくつかの突起部で支えた状態(即ち液滴の真下部分が基材から浮いた状態)で液滴を基材上に配置することによって、液滴と容器(基材)との接触面積をより減少させることができる。このため、ガス交換に優れ、生産効率のよい液滴内培養を行うことができる。
このような撥水性表面を有するメッシュ部上にほぼ球形状の液滴を配置することによって、液滴と容器(基材)との接触面積をより減少させることができる。このため、ガス交換に優れ、生産効率のよい液滴培養を行うことができる。
上述のとおり、ここで開示される方法は、幹細胞の分化を誘導するのに好適な培養方法(3次元培養方法)であり得るため、好適な生体有機体として種々の幹細胞が挙げられる。ヒト由来又は他の哺乳動物(マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、その他家畜動物)由来の胚性幹細胞(ES細胞)、EG幹細胞、体性幹細胞、例えば間葉系幹細胞、造血幹細胞、肝幹細胞、神経幹細胞、骨髄幹細胞、角膜上皮幹細胞、等が好適である。また、幹細胞以外の細胞も本発明の方法によって所望する性状のまま培養・生産することができる。例えば、間葉系幹細胞から分化される骨格形成細胞(軟骨細胞、骨芽細胞)、筋管細胞、脂肪細胞が好適例として挙げられる。
また、被検体から直接採取した或いは適当な幹細胞から分化させた種々の組織(又は細胞塊)を本発明の方法によって好適に培養・生産することができる。例えば、軟骨組織、骨組織、筋組織、歯周組織、角膜組織、血管組織、或いは何れかの組織になり得る細胞塊が好適例として挙げられる。
かかる容器を製造するために用いられる基材(容器本体)としては、細胞を培養するために用いられている従来公知の種々の基材を特に制限なく採用することができる。例えば、基材を構成する材質としては、ガラス、シリコン、セラミックス、金属、及び高分子材料が挙げられる。一般的なシリカガラス製の基材を好適に用いることができる。また、セラミックス、例えば、シリカ、アルミナ又はアパタイト製の基材が好適材料として挙げられる。また、金属、例えば、金、銀、又は銅製の基材が好適材料として挙げられる。また、高分子材料、例えば、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリイミド、フッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、及びこれらの誘導体製の基材が好適材料として挙げられる。また、これら高分子材料(合成樹脂)製の基材の他、絹フィブロインフィルム製基材を用いてもよい。このような適当な材質から成る基材(容器本体)の少なくとも一部(典型的には液滴を載置する基材上面となり得る部位の全部又は一部)に撥水性表面が形成される。
図1は、上記測定において蒸留水の静的接触角(液滴直径約2mm)が150°以上である撥水性表面に種々の容量の水を滴下したときの液滴の状態(球形状)を示した写真である。図(写真)から明らかなように、10〜30μLの液滴は、かかる撥水性表面においてほぼ真球形状の形態である。さらに、このようなレベル(上記静的接触角150°以上)の撥水性表面では、例えば100〜200μLといった比較的大容量の液滴であってもほぼ球形状に保つことができる。即ち、図1に示す各容量の液滴はいずれも本明細書における「ほぼ球形状の液滴」に包含される典型例である。
撥水層は、疎水性部分(典型的には疎水性基)を有する従来公知の種々の高分子化合物から形成することができる。例えば、基材に結合可能な官能基と、置換された又は置換されていないアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等(Cの数は1以上、好ましくはCの数が5以上、例えば10〜30のような比較的長い炭素鎖)を有する高分子物質が好適に用いられる。
このようなアルキル(或いはアルケニル又はアルキニル)鎖を有する化合物は、基材表面に結合させた際にそれら鎖間のファンデルワールス力によって容易に高密度及び高配向の単分子層(即ち自己組織化単分子層;self-assembled monolayer)を形成することができる。また、疎水性部分であるアルキル基等(例えば、Cの数が1〜30)の存在により、高い撥水性を発揮し得る。
典型的には、先ず、基材の表面に対して、化学処理、プラズマ処理、紫外光照射処理等の活性化処理を施して目的の化合物を基材表面に化学的に結合させるための種々の反応性基(表面官能基)を基材表面に導入する。例えば、基材がシリコン等である場合、好ましくは例えば大気中又は減圧条件下で真空紫外光を照射して基材表面を親水化(具体的にはシラノール基即ち水酸基を導入)する。また、酸素を含む雰囲気中で照射処理した場合には、当該紫外光照射により雰囲気酸素から発生したオゾンによって基材表面に残存する有機含有物を除去することができる。次いで、活性化された基材を有機化合物の気相中において処理し、有機化合物を基材上において成長させ、撥水層を形成することができる。
撥水層として、有機化合物が所定方向に配向する単分子層を形成することが好ましい。単分子層とすることにより、層の厚さを一定とし、かつ均一な撥水性能を付与することができる。撥水層が単分子層よりも成長した場合には、所望により、過剰に吸着した分子を除去して単分子層に形成することができる。この単分子層形成手段としては、特に限定されず、使用した物質に応じて酸処理、アルカリ処理、水洗処理等を適宜組み合わせて行うことができる。
撥水性表面が形成される部分の好ましい一つの形態では、液滴の真下部分に空気その他のガスが供給(即ち存在)可能な空間が形成される。例えば、後述するような、通気孔を基材の一部(液滴配置部)に設けた形態が好ましく、或いは、球形状液滴を支える支持台に相当する突起部を適当な間隔で基材上面に設けた形態が好ましく、或いは、紐状基材で構成されるメッシュ状(メッシュを構成する細孔の大きさは均一でも不均一でもよい)の形態も好ましい。例えば、好適な一実施形態として、図3及び図4に示すような形態の培養容器1が挙げられる。この培養容器1は、ポリスチレン等の合成樹脂製である矩形プレート状基材2を容器本体とする。図示しないが、液滴配置部(即ち基材2の上面)を覆う蓋を備えてもよい。
図3及び図4に示すように、この基材2の上面には、矩形格子状に配列する複数の突起部(障壁部)4が形成されている。図3に示すように、突起部4の頂部は半球状に丸く形成されている。この基材2の上面ならびに突起部(障壁部)4の表面は、後述するような処理によって撥水性(好ましくは水接触角が130°以上、特に好ましくは150°以上の超撥水性)が付与されている。図示されるように、隣接する4つの突起部(障壁部)4に囲まれた基材上面部分(図3に符号7で示す点線部分参照)の中央部分には、それぞれ、矩形プレート状基材2の上面側から下面側へ貫通する通気孔6が形成されている。
即ち、図4に示すように、比較的少ない容量の培養液をかかる液滴配置部7に供給した場合、基材表面の撥水性によって培養液はほぼ球形状の液滴D2を形成し、非固着状態で当該部分に球形状を保ったまま保持される。このとき、液滴D2の直径が隣接する2つの突起部4間の隙間よりも大きければ、液滴配置部7周囲の突起部が障壁部となって当該液滴配置部7から液滴(培養液)が流出するのを防止することができる。液滴D2が接触する可能性のある周囲の基材2表面が全て撥水性であることによって、液滴D2の球形状が変化せずに維持されるからである。
なお、通気孔6の開口径は、所望するサイズの液滴の形状が保たれ且つ液滴の真下を含む下面側から良好なガス交換が行われる限り特に限定はないが、通気孔の平均直径は概ね0.1mm〜2mm程度であることが好ましく、0.2mm〜1mm程度であることが特に好ましい。
具体的には、図3において点線で示す液滴配置部7の外周を構成する相互に隣接する4つの突起部4の半球状頂部が支持ポイントとなるように、培養液を供給する。このとき、培養液供給量を適当に調整することによって、当該4つの突起部4から成る四角形(図3の符号7で示す点線参照)の対角線上に並ぶ2つの突起部4の間の距離よりも大きい直径の液滴D1を形成することができる。
而して、かかるサイズの液滴D1は、当該4つの突起部4に囲まれた部分(上記液滴配置部7)に入り込むことはできず且つ液滴D1が接触する可能性のある周囲の基材2表面(即ち突起部4の表面)は全て撥水性であることから、結果として、ほぼ球形状を保ったまま図3に示すように、相互に隣接する4つの突起部4の半球状頂部の上で保持される。
従って、本実施形態に係る培養容器1を用いることによって、効率よく目的の生体有機体を培養・生産することができる。
特に限定するものではないが、上記のような突起部の配列間隔(即ち隣接する2つの突起部間の距離)は、突起部上に概ね50μL以上、好ましくは100μL以上の液滴が配置されるように決定することが生体有機体の生産効率向上の観点から好ましい。例えば、隣接する2つの突起部間の距離は0.1mm〜2mm程度が好ましく、0.2mm〜1mmであることがより好ましい。
即ち、図5に示す培養容器10では、矩形プレート状基材12の上面に斜め(菱形)格子状に複数の突起部(障壁部)14が形成されている。図示されるように、隣接する3つの突起部(障壁部)14に囲まれた基材上面部分(図5に符号17で示す点線部分参照)の中央部分に通気孔16が形成されている。この形態の培養容器10では、隣接する3つの突起部(障壁部)14に囲まれた通気孔6を含む部分が、液滴配置部17を構成する。従って、図3及び図4に示す上述の実施形態と同様、比較的少ない容量の培養液をかかる液滴配置部17に供給した場合には、基材表面の撥水性によって培養液はほぼ球形状の液滴(図示せず)を形成し、非固着状態で当該部分に球形状を保ったまま保持される。このとき、液滴の直径が隣接する2つの突起部14間の隙間よりも大きければ、液滴配置部17周囲の突起部14が障壁部となって当該液滴配置部17から液滴(培養液)が流出するのを防止することができる。
例えば、図6に示すような、典型的には金属製又は樹脂製のメッシュ形状の基材22から成る培養容器20であってもよい。メッシュ状基材22の表面が本発明の実施に好ましい撥水性を有することによって、メッシュ上に所望するサイズのほぼ球形状の液滴を形成することができる。また、メッシュ状基材22の空隙(細孔)部分に液滴の下部(真下部分)が配置されることによって、液滴の真下を含む下面側からの良好なガス交換を実現することができる。特に限定はないが、メッシュ状基材22の空隙(細孔)部分の開口径(即ちメッシュサイズ)は、上記実施形態の通気孔の平均直径と同様、概ね0.1mm〜2mm程度であることが好ましく、0.2mm〜1mm程度であることが特に好ましい。
例えば、図7の(A)(B)に示すように、液滴を配置するメッシュ部34と、該メッシュ部34の裏面側周縁部に配置された支持台32とから成る基材31を備える培養容器30も本発明によって提供される好適な形態の培養容器である。このような形態であると、メッシュ部34の機械的強度を向上させ得るとともに、メッシュ部34裏面側(支持台32配置側)からメッシュ部34表面(上面)に配置された液滴の下面へのガス供給が良好に行われる。
また、図示していないが、メッシュ表面は図示されるようなフラットであるものに限られない。例えば、エンボス(凹凸)加工を施したものでもよい。メッシュ表面に凹凸があると当該凹部に液滴を配列することができるため、液滴の位置決めや所定位置での保持が容易となる。
一般的なプラズマCVD法によって、市販の組織培養用ペトリディッシュ(直径3.5cm、ポリスチレン(PS)製)の表面に撥水層(撥水膜)を形成した。なお、撥水層形成用原料としてトリメチルメトキシシラン(TMMOS)を使用した。また、プラズマ励起ガスとしてアルゴン(Ar)を用いた。即ち、容量結合型高周波プラズマ装置のチャンバー内に上記PS製ディッシュを配置した。そして、TMMOSのガス圧:50Pa、Arのガス圧:30Pa(合計80Pa)となるようにこれらをチャンバー内に導入するとともに、マイクロ波出力:300Wで5分間、マイクロ波プラズマを印加した。このときのペトリディッシュのPS表面の温度は50℃以下であった。
以上の処理により、PS製ペトリディッシュの周壁に囲まれた内面には、表面に疎水性基であるメチル基を有する撥水層が形成された。図9に示すように、この撥水性表面に滴下した水滴はほぼ真球形状であった。常法により接触角を測定したところ、150°又はそれ以上の水接触角であることが確認された。次に撥水性表面を有するペトリディッシュに紫外線を30分間照射し、滅菌処理を行った。
その結果、図10に示すように、液滴中に間葉系幹細胞から成る細胞塊(クラスター)が形成されていた。トリパンブルー染色の結果から、この細胞塊を構成する細胞の生存を確認した。なお、約2.5×105個の間葉系幹細胞を含むMSCGM培地250μL(即ち細胞濃度が2倍)の液滴を同様に培養した場合も同様の大きさの細胞塊が形成されていた。
実施例1で作製したものと同様のペトリディッシュの撥水性表面上でヒト間葉系幹細胞を振とう培養した。即ち、約2.5×105個の間葉系幹細胞を含む軟骨細胞分化用調整培地(間葉系幹細胞用培地:三光純薬株式会社製品)500μLを上記滅菌処理済みペトリディッシュの撥水性表面に滴下し、ほぼ球形状の液滴とした。このディッシュを市販の振とう培養器に載せ、60〜70回/分の往復振とうを行いつつ5%CO2雰囲気中、37℃で5日間培養した。
その結果、図11に示すように、液滴中に間葉系幹細胞から分化した軟骨細胞から成る細胞塊(クラスター)が形成されていた。トリパンブルー染色の結果から、この細胞塊を構成する細胞の生存を確認した(図12)。
実施例1で作製したものと同様のペトリディッシュの撥水性表面上でヒト間葉系幹細胞を静置培養した。即ち、約2.5×105個の間葉系幹細胞を含む軟骨細胞分化用調整培地(間葉系幹細胞用培地:三光純薬株式会社製品)250μLを上記滅菌処理済みペトリディッシュの撥水性表面に滴下し、ほぼ球形状の液滴とした。このディッシュを5%CO2雰囲気中、37℃で10日間培養した。
その結果、図13に示すように、液滴中に間葉系幹細胞から分化し、細胞塊から更に成長した軟骨形成体(軟骨組織)が確認された。最大で約1.5mmの軟骨形成体が確認された。
上記撥水層(撥水膜)を形成する処理を行うことなく市販のペトリディッシュをそのまま使用して、実施例1と同様の条件でヒト間葉系幹細胞の培養を行った。
その結果、図14に示すように、間葉系幹細胞はペトリディッシュの表面に付着してしまい、培地中に上記各実施例でみられるような細胞塊は存在しなかった。
実施例1で作製したものと同様のペトリディッシュの撥水性表面上でマウスES細胞を静置培養した。即ち、約1×103〜104個のマウスES細胞を含む市販のES細胞用培地(大日本製薬株式会社製品)500μLを上記滅菌処理済みペトリディッシュの撥水性表面に滴下し、ほぼ球形状の液滴とした。このディッシュを5%CO2雰囲気中、37℃で培養した。その結果、図15〜18に示すように、培養1日目で凝集したES細胞の凝集が認められた(図15)。培養2日目及び3日目には直径が100〜150μmの細胞塊(クラスター)を形成した(図16、図17)。そして、培養7日目には細胞塊の直径は約500μmまで成長した(図18)。
培養容器の基材として、市販のポリスチレン製96マルチウェルプレート(U底96穴マイクロタイタープレート)を用意した。このマルチウェルプレートの裏面(下面)側には、96穴のU底に対応した半球状頂部の突起部が正方格子状に規則的に配列している(図3、図19参照)。この凹凸のある裏面(以下「凹凸面」と略称する。)側に、一般的なプラズマCVD法によって撥水層(撥水膜)を形成した。なお、撥水層形成用原料としてトリメチルメトキシシラン(TMMOS)を使用した。また、プラズマ励起ガスとしてアルゴン(Ar)を用いた。
即ち、容量結合型高周波プラズマ装置のチャンバー内に上記マルチウェルプレートを配置した。そして、TMMOSのガス圧:50Pa、Arのガス圧:30Pa(合計80Pa)となるようにこれらをチャンバー内に導入するとともに、マイクロ波出力:300Wで5分間、マイクロ波プラズマを印加した。このときのマルチウェルプレートの凹凸面の温度は50℃以下であった。
以上の処理により、PS製マルチウェルプレートの凹凸面には、表面に疎水性基であるメチル基を有する撥水層が形成された。図19に示すように、この撥水性表面に滴下した水滴(確認容易のためにクリスタルバイオレット等の色素を含む)はほぼ真球形状であった。常法により接触角を測定したところ、150°又はそれ以上の水接触角であることが確認された。図19から明らかなように、比較的大きな直径の液滴は、隣接する4つの突起部で支持された状態で当該突起部上に配置されていた。次に撥水性表面を有する本実施例の培養容器に紫外線を30分間照射し、滅菌処理を行った。
培養容器の基材として、市販の茶こしを用意した。図20に示すように、この茶こしは、金属製メッシュ部(網目(間隙)の平均サイズ:約1.5mm)と該メッシュ部の周縁部を保持するセラミック製の環状フレームとを備える。
この金属製メッシュ部に、実施例5と同様の手法によって、撥水層(撥水膜)を形成した。図20に示すように、この撥水性表面に滴下した水滴(色素を含む)はほぼ真球形状であった。常法により接触角を測定したところ、150°又はそれ以上の水接触角であることが確認された。
上記のようにして得られた実施例5の培養容器を用いてマウスES細胞を以下のようにして培養した。
即ち、約105個のES細胞を含む市販のES細胞用培地(大日本製薬株式会社製品)150μLを上記実施例5の培養容器の突起部上に液滴として配置した。このプレートを5%CO2雰囲気中、37℃で3日間培養した。比較対照として、実施例5で用いた市販のポリスチレン製96マルチウェルプレートのU底ウェル内に約103個のES細胞を含む上記ES細胞用培地150μLを注入し、同様の条件で培養した。その結果、図21に示すように、実施例5の培養容器で3日間培養した液滴中には、ES細胞が凝集した直径200μm以上の大きな細胞塊(クラスター)が形成されていた。トリパンブルー染色の結果から、この細胞塊を構成する細胞の生存を確認した。他方、図22に示すように、比較対照としてU底ウェルで培養した培養液中には、直径100μm以下の小さい細胞塊しか認められなかった。以上の結果から、本発明の培養容器を用いることによって、ES細胞等の生体有機体を効率よく生産し得ることが確認された。
培養容器の基材として、実施例5で使用したものと同じポリスチレン製96マルチウェルプレート(U底96穴マイクロタイタープレート)を用意した。このマルチウェルプレートの裏面(即ち凹凸面)側に、一般的なプラズマCVD法によって撥水層(撥水膜)を形成した。
即ち、容量結合型高周波プラズマ装置のチャンバー内に上記マルチウェルプレートを配置した。本実施例では、撥水層形成用原料としてTMMOSを使用し、プラズマ励起ガスとしてArを用いた。本実施例ではチャンバー内におけるTMMOSのガス圧を全圧(TMMOS+Ar)の30%に設定した。なお、全圧は、60Pa、65Pa又は75Paに設定した。
このようなガス圧(TMMOSとArのモル分率)となるように、混合ガスをチャンバー内に導入するとともに、マイクロ波出力:300Wで5分間、マイクロ波プラズマを印加した。このときのマルチウェルプレートの凹凸面の温度は50℃以下であった。かかる処理によってPS製マルチウェルプレートの凹凸面には、表面に疎水性基であるメチル基を有する撥水層が形成された。撥水性表面の水接触角は150°以上であった。このプレート(培養容器)に紫外線を30分間照射し、滅菌処理を行った。
上記のようにして得られた実施例8の培養容器を用いてマウスES細胞を以下のようにして培養した。
即ち、約4×103個のES細胞を含む市販のES細胞用培地(大日本製薬株式会社製品)20μLを、実施例8で得た培養容器の凹凸面にある隣接する4つの突起部(障壁部)に囲まれた空間(即ち図4中のD2で示す液滴の位置)に配置した。1プレートあたり6〜10個の液滴を配置した。配置された各液滴はほぼ真球形状を保っており、その液滴の直径は隣接する2つの突起部(障壁部)間の隙間幅よりも大きいため、その位置に安定して保持された。このプレートを5%CO2雰囲気中、37℃で3日間培養した。
図23に示すように、上記ガス圧条件(チャンバー内の全圧が60Pa、65Pa又は75Pa)のプラズマCVD法によって撥水性表面を作製したプレートを用いた液滴培養では、いずれも培養時間の経過とともに液滴中のES細胞が順調に増殖し、凝集した直径100μm以上(好適には直径200μm以上)の大きな細胞塊(クラスター)が形成されていた。トリパンブルー染色の結果から、この細胞塊を構成する細胞の生存を確認した。培養3日後、このような細胞塊を予めゼラチンコートしておいたディッシュに移し、適当な培地で分化培養を行ったところ、いずれも胚様体(EB)に成長し、拍動が観察された。
培養容器の基材として、実施例5で使用したものと同じポリスチレン製96マルチウェルプレート(U底96穴マイクロタイタープレート)を用意した。このマルチウェルプレートの裏面(即ち凹凸面)側に、一般的なプラズマCVD法によって撥水層(撥水膜)を形成した。本実施例では、撥水膜の形成に及ぼすガス圧の影響を調べた。
即ち、チャンバー内におけるTMMOSのガス圧を全圧(TMMOS+Ar)の30%に設定するとともに全圧を(1)95Pa、(2)75Pa、(3)65Paに設定した場合、並びに(4)全圧を75Paと設定し且つArを全圧の30%(従ってTMMOSのガス圧は70%)とした場合について、上記と同様のプラズマCVD法を行い、プレートの裏面(即ち凹凸面)側に撥水層(撥水膜)を形成した。撥水膜形成後、市販の装置を使用して撥水膜の厚さ及び表面粗さ(中心線平均粗さRa及び自乗平均平方根粗さRrms)を計測した。結果を表1に示す。本実施例の結果(表1)から明らかなように、本発明では、表面粗さ(例えばRa)が50nm以上(例えば50〜70nm)であり厚さが200nm以上(例えば200〜300nm)であるような、生体有機体の液滴内培養に適する撥水膜(即ち超撥水性表面)を提供することができる。
Claims (14)
- 所定成分の培養液から成る液滴中で細胞若しくは組織を生産する方法であって、
撥水性表面を有する基材上に非固着状態でほぼ球形状の液滴を配置すること、および
前記液滴中で細胞若しくは組織を培養すること、
を包含し、
ここで前記液滴中での培養は、該液滴の真下部分にガスが供給可能な状態として行うことを特徴とする、細胞若しくは組織の生産方法。 - 前記撥水性表面は、前記基材の表面に形成された疎水性部分を有する化合物から成る撥水層によって構成されている、請求項1に記載の方法。
- 前記液滴の容積は少なくとも200μLである、請求項2に記載の方法。
- 前記液滴中で培養する細胞若しくは組織は、少なくとも一種の幹細胞及び/又は該幹細胞から分化した細胞若しくは組織である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- 前記液滴中で少なくとも一種の幹細胞を培養し、該液滴中で該幹細胞を分化させる、請求項4に記載の方法。
- 前記幹細胞由来の分化した細胞若しくは組織は、軟骨細胞又は軟骨組織である、請求項5に記載の方法。
- 前記液滴を前記撥水性表面上に静置した状態で細胞若しくは組織を培養する、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
- 前記液滴を前記撥水性表面上で連続的又は断続的に移動させつつ細胞若しくは組織を培養する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
- 細胞若しくは組織を所定成分の培養液から成る液滴中で生産するために用いられる培養用容器であって、
非固着状態でほぼ球形状の液滴を配置可能な撥水性表面により構成された液滴配置部と、
前記液滴が前記液滴配置部の外に流出するのを防ぐために該液滴配置部の周囲に設けられた撥水性表面を備えた周壁又は障壁部と、
前記液滴配置部に配置された液滴の真下にガスが供給可能に形成された基材と、
を備え、
前記基材における少なくとも前記液滴と接触可能な表面は、液滴をほぼ球形状に保ち得る撥水性を有することを特徴とする、容器。 - 前記液滴配置部に配置された液滴の真下にガスを供給可能な通気孔が形成されている、請求項9に記載の容器。
- 前記基材には、所定の間隔で配列し且つ前記撥水性表面を有する複数の突起部が形成されており、
前記液滴の真下部分が前記基材から浮いた状態で、前記複数の突起部上に該液滴が配置されるように構成されている、請求項9に記載の容器。 - 前記突起部上に配置され得る液滴の容積は少なくとも100μLである、請求項11に記載の培養容器。
- 前記基材は、液滴をほぼ球形状に保ち得る撥水性の表面を有するメッシュ部を備えており、
そのメッシュ部に前記液滴を配置した際には該液滴の真下部分が該メッシュ部の空隙部分に配置されるように構成されている、請求項9又は10に記載の容器。 - 前記撥水性表面は、疎水性部分を有する化合物から成る撥水層によって構成されている、請求項9〜13のいずれかに記載の容器。
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