JP4629816B2 - 耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルトおよびその製造方法 - Google Patents
耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルトおよびその製造方法 Download PDFInfo
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、耐遅れ破壊性に優れたボルトとその製造方法に関し、特に、熱間加工後の状態で優れた冷間加工性を有し、更に1000〜1500N/mm2レベルの引張強度と2000N/mm2レベル以上の耐遅れ破壊性を示す高強度ボルトとその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般の高強度ボルトでは、引張強度が1000N/mm2レベルを超えると遅れ破壊を起こし易くなる。そこでこうした強度レベルを超える高強度ボルト用鋼としては優れた耐食性を有し、比較的高温で焼戻しを行なうことのできる中炭素鋼(たとえばSCM435、SCM440、SCr440など)が用いられてきた。
【0003】
ところがこれらの鋼材は、C及び合金元素を多量に含んでいるため焼入れ性が高く、圧延後の引張強度が高くなり過ぎるため、そのままではボルトに加工することが難しかった。
【0004】
そのため先ず圧延材を焼きなまし処理し、その後中間伸線、球状化焼なまし処理および仕上げ伸線工程を経た後、冷間鍛造でボルト形状に加工し、最終的に所定の強度になるように、焼入れ・焼戻しされるという極めて煩雑な工程を必要としていた。従って上記の様な中炭素低合金鋼で製造されるボルトは、材料費に加えて線材加工に要する費用が加算され、トータル的にみると通常の炭素鋼を用いたボルトに比べてかなり高価格になるという問題があった。
【0005】
そこで圧延材の引張強度を低くするために、Cおよび合金成分の含有量を減らし、その代わりにボロン添加を行なった鋼材が種々開発されているが、これらの鋼材から製造されるボルトは、焼戻し温度の低下により遅れ破壊性や靭性が低くなるという問題があった。しかもこれらの鋼材は、焼入れ時の焼割れを防ぐために、焼入媒体として油を用いているので、焼戻し温度を十分高く設定することができず、遅れ破壊性の改善が依然問題となっていた。
【0006】
こうした問題を解決するために、従来より種々のボルト用鋼が提案されている。たとえば特開平4−263047には、鋼材の組成成分範囲を特定することによって、耐遅れ破壊性、引張強度を改善したボルト用鋼が開示されている。また特開平5−255738には、特定の成分範囲を満たす鋼材の仕上げ温度、冷却速度を調節して熱処理を行うことによって、耐遅れ破壊性を改善した機械構造用鋼が開示されている。しかしながらこれらのボルト用鋼は1100N/mm2レベル以上の引張強度を有するものの、十分な耐遅れ破壊特性を有していない。
【0007】
一方、特開平8−060245には、特定の成分範囲を満たす鋼材を、仕上げ圧延温度が900℃以上になる様に圧延した後、500℃までを2℃/sec以下の冷却速度で冷却することによって冷間加工性と耐遅れ破壊特性を改善した高強度ボルト用鋼が開示されている。しかしながらこのボルト用鋼は1100N/mm2レベルの引張強さを有し、冷間加工性はある程度改善しているものの、十分な耐遅れ破壊特性を有していない。
【0008】
これら従来技術のボルト用鋼から製造されるボルトは、引張強度はある程度改善されてはいるものの、遅れ破壊が発生する危険性がなくなったとはいえず、またこれらの鋼材は冷間加工性が不十分であり、ボルトとしての適用範囲は限られていた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、圧延線材としての引張強さを抑えつつボルトとしては高レベルの引張強度を有し、しかも耐遅れ破壊性の高められたボルトとその製法を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明に係る高強度ボルトは、ボルトの製造に際し、
C:0.15〜0.30%、
Si:0.2%以下(0%を含む)、
Mn:0.30〜1.5%、
P:0.020%以下(0%を含む)、
S:0.020%以下(0%を含む)、
Cr:0.30〜1.50%、
Al:0.07%以下(0%を含まない)、
N:0.020%以下(0%を含む)、
の要件を満たし、あるいは更に他の成分としてMo:1.00%以下(0%を含まない)、B:0.003%以下(0%を含まない)、また更にTi、Nb、Vの1種以上:総量で0.50%以下(0%を含まない)を含有すると共に、下記式[1]で示される炭素当量(Ceq)が75以下である鋼材を、熱間圧延もしくは熱間鍛造を行なった後、必要に応じワイヤー加工した後、ボルト状に成形し、更にその後の調質焼入れに際して水または水溶性焼入れ媒体を用いて焼入れを行い、その後焼戻しを行うことに要旨を有している。
Ceq={C+(1/7)・Si+(1/5)・Mn+(1/9)・Cr+(1/2)・Mo}×100…[1]
更に本発明の製法は、上記化学成分を満たす鋼材の熱間圧延もしくは熱間鍛造を行う際に、該鋼材を仕上げ圧延温度が750℃以上となる様に熱間圧延または熱間鍛造した後、600℃までを1.0℃/sec以下の速度で冷却してから室温まで放冷し、あるいはその後更に680〜740℃に再加熱してから簡易焼なましした後、ボルト条に成形し、更にその後調質焼入れすることが好ましい。本発明の製法によって製造されたボルトは2000N/mm2レベル以上の優れた耐遅れ破壊特性を有している。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、前記した解決課題の下で、圧延線材としての引張強さを抑えつつボルトとしては高レベルの引張強さを有し、しかも耐遅れ破壊性を改善することの出来る化学成分および製造条件について種々の検討した結果、ボルト用鋼として、熱間鍛造後の状態で優れた加工性を有し、且つボルト状に加工すると1200N/mm2レベルの引張強度と2000N/mm2レベル以上の耐遅れ破壊強度を達成できる高強度ボルト用鋼をすでに提案している(特願平10−042457)。
【0012】
本発明者らは更に研究を重ね、2000N/mm2レベル以上の耐遅れ破壊性を有するボルトの製造条件について種々の検討を行った結果、上記の様に化学成分を適正に調整した鋼材を用いて製造したボルトは、調質の焼入れに際して、水または水溶性焼入れ媒体を用いても焼割れが発生することなく、耐遅れ破壊性が改善できることを突き止め本発明に至った。
【0013】
以下、本発明で鋼材の化学成分を定めた理由を明確にする。
【0014】
C:0.15〜0.30%
Cは、鋼の焼入れ性を高めると共に高強度を確保するのに必須の元素であり、これらの効果を有効に発揮させるには少なくとも0.15%以上、好ましくは0.20%以上、より好ましくは0.23%以上含有させるのが良い。しかしながら添加量が多すぎると鋼材の靭性が劣化し、遅れ破壊性を低下させるだけでなく、冷間加工性を悪化させ、軟化焼鈍工程の簡略化または省略化が達成できなくなるばかりかでなく水または水溶性焼入れ媒体使用時の焼き割れの原因となるので、0.30%以下に抑えなければならず、好ましくは0.28%以下、より好ましくは0.26%以下に抑えるのがよい。
【0015】
Si:0.2%以下(0%を含む)
Siは脱酸性元素として有効に作用するが、その含有率が高くなるにつれて冷間加工性が低下すると共に、焼入れ等の熱処理時における粒界酸化を助長して耐遅れ破壊性を劣化させるので、Si含有量は0.2%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下に抑えるのがよい。
【0016】
Mn:0.30〜1.5%
Mnは焼入れ性向上元素であり、適量のMnを含有させると高強度の確保が容易になる。こうした効果を有効に発揮させるには少なくとも0.30%以上、好ましくは0.40%以上、より好ましくは0.50%以上含有させるのがよい。しかし多過ぎると、圧延後の冷却時の組織変態が促進されて冷間加工性が悪化し、軟化焼鈍工程の簡略化もしくは省略化が達成できなくなる。更に粒界強度を低下させ、遅れ破壊性の低下をもたらすため、Mn含有量は1.5%以下、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.85%以下、より更に好ましくは0.75%以下に抑えるのがよい。
【0017】
P:0.020%以下(0%を含む)
Pは粒界偏析を起こして耐遅れ破壊特性を劣化させるので、0.020%以下に抑えなければならず、好ましくは0.015%以下、より好ましくは0.005%以下に抑えるのがよい。
【0018】
S:0.020%以下(0%を含む)
鋼中でMnSを生成し、応力が負荷されたときに応力集中個所となって遅れ破壊を増進する原因になるので、0.020%以下、好ましくは0.010%以下、より好ましくは0.005%以下に抑えるのがよい。
【0019】
Cr:0.30〜1.50%
Crは、冷間加工時の変形能をそれほど低下させることなく、焼入れ性を高めて強度向上に寄与し、更には耐食性の向上により耐遅れ破壊性を高める作用も有しており、これらの作用を有効に発揮させるには、少なくとも0.30%以上、好ましくは0.70%以上、より好ましくは0.85%以上含有させるのがよい。しかし多過ぎると、炭化物を安定化させて冷間加工性に悪影響を及ぼす様になるので、1.50%以下、好ましくは1.10%以下、より好ましくは1.00%以下に抑えるのがよい。
【0020】
Al:0.07%以下(0%を含まない)
Alは鋼中のNを捕捉してAlNを形成し、結晶粒を微細化することにより耐遅れ破壊性の向上に寄与する。こうした効果を得るには好ましくは0.02%以上、より好ましくは0.025%以上含有させるのがよい。しかし多過ぎると、酸化物系介在物の生成によって耐遅れ破壊性を劣化させるので、0.07%以下、好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.035%以下に抑えるのがよい。
【0021】
N:0.020%以下(0%を含む)
Nは、AlやTiと結合してAlNやTiNを生成し、結晶粒を微細化して耐遅れ破壊性の向上に寄与するが、多過ぎるとAlやTiで捕捉しきれなくなり、固溶N量の増大によって耐遅れ破壊性を劣化させる。従って、固溶Nによる障害を生じることなくAlNやTiNの生成による上記効果を有効に発揮させるには、Nを、0.020%以下、好ましくは0.010%以下、より好ましくは0.007%以下に抑えるのがよい。
【0022】
本発明に係るボルト用鋼の必須構成元素は上記の通りであり、残部は実質的にFeであるが、必要によっては、以下に示す如くMo、B、Ti、Nb、Vを適量含有させて性能向上を図ることも有効である。
【0023】
Mo:1.00%以下(0%を含まない)
Moは、焼入れ性と粒界強化作用により耐遅れ破壊性を向上させる有用な元素であり、その効果は好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.10%以上含有させることによって有効に発揮される。しかし含有量が多過ぎると微細な炭化物が析出して冷間加工性を阻害すると共に、水または水溶性焼入れ媒体使用時の焼き割れの原因になるので含有量は、1.00%以下、好ましくは0.80%以下、より好ましくは0.60%以下に抑えるのがよい。
【0024】
B:0.003%以下(0%を含まない)
Bは、鋼の焼入れ性を高め高強度化を増進するうえで有効な元素であり、こうした効果は極く微量の添加で発揮されるが、該添加効果を実用規模で有為に発揮させるには好ましくは0.0005%以上、より好ましくは0.0010%以上含有させることが望ましい。しかしB含有量が多過ぎると靱性に顕著な悪影響が現れてくるので、0.003%以下、より好ましくは0.0020%以下に抑えるのがよい。
【0025】
Ti,Nb、Vの総量:0.50%以下(0%を含まない)
これらの元素は、鋼中のNやCと結合して炭・窒化物を形成し、耐遅れ破壊性の向上に寄与する。また、生成する窒化物や炭化物は結晶粒の微細化効果も有しており、これも耐遅れ破壊性の向上に寄与する。こうした効果を有効に発揮させるには好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上含有させるのが望ましいが、これら元素の含有量が多くなりすぎると、炭・窒化物量が多くなり過ぎて遅れ破壊性を却って阻害するばかりでなく、靱性にも悪影響が表われてくるので、それら元素の総和で0.50%以下、好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.1%以下に抑えるのがよい。
【0026】
本発明に係るボルト用鋼の構成元素は上記の範囲を満足する成分組成を主成分とし、残部が実質的に鉄であるが、「実質的に」とは、本発明の作用効果を阻害しない範囲で他の成分があっても許容されるという意味である。
【0027】
これら構成元素の含有率に加えて、圧延材および簡易焼なまし材として優れた冷間加工性を確保するには、前記式[1]で示されるC当量(Ceq)を75以下に抑えることが重要となる。
【0028】
即ち、Ceq値が高くなるにつれて圧延材の強度は高くなり、冷間加工性が悪くなるが、この値が75を超えると、圧延後の冷却速度を遅くして簡易焼なまし処理を行なったとしても圧延後の強度が十分に下がらなくなる。従って、圧延材としての強度を低めに抑えて優れた冷間加工性を確保するには、Ceq値が75以下、好ましくは70以下、より好ましくは65以下となる様に上記各元素の含有量を調整することが必要となる。なおCeq値が60以下に調整した鋼材は、圧延ままの状態でも特に優れた加工性を示す。
【0029】
本発明のボルトは上記化学成分を満足する鋼材から製造されるが、この鋼材を用いて更に優れた冷間加工性を備えた高強度ボルトを得るには、上記鋼材を用いて熱間圧延もしくは熱間鍛造を行なう際に、仕上げ圧延温度が750℃以上となる様に制御し、該仕上げ圧延温度から600℃までを1.0℃/sec以下の速度で冷却を行なうことが推奨される。
【0030】
ここで仕上げ温度を750℃以上に定めたのは、これ未満の温度になると、加工抵抗が高くなり、適切な形状に圧延または鍛造することが困難になるからである。圧延もしくは鍛造をより円滑に遂行するうえでより好ましい仕上げ圧延温度は800℃以上である。
【0031】
また仕上げ圧延温度から600℃までを1.0℃/sec以下の冷却速度と定めたのは、仕上げ圧延鋼材の金属組織をフェライト・パーライト混合組織として冷間加工性を高めるためであり、該冷却速度が1.0℃/secを超えると部分的にベイナイトやマルテンサイト組織が出現し、冷間加工性が悪くなるからである。優れた冷間加工性を得るための好ましい冷却速度は0.5℃/sec以下、より好ましくは0.4℃/sec以下、最も好ましくは0.2℃/sec以下である。
【0032】
なお冷却速度の調整は、バッチ方式の場合は炉冷により徐冷を行なえばよいが、冷却時間の延長により生産性が大幅に低下してくるので、熱間圧延または熱間圧造から仕上げ圧延を連続化し、仕上げ圧延後の冷却ゾーンを長くして徐冷する方法を採用することが推奨される。
【0033】
600℃から室温までの冷却速度は特に制限されないので、通常の放冷を行なえばよい。
【0034】
使用する鋼材の前記Ceq値が60以下である場合は、該放冷ままの状態で優れた冷間圧造性を示すが、Ceq値が60超75以下の範囲の鋼材を使用した場合は、放冷ままではやや冷間加工性が悪くなる傾向があるので、この場合は放冷の後680〜740℃まで再加熱して簡易焼なまし処理を行なうのがよく、それにより冷間圧造性の優れたボルト用鋼を得ることができる。なお通常の軟化処理では、740℃以上の温度で長時間保持した後、徐冷にも長時間を必要とするが、本発明で採用される簡易焼なましは上記の様に比較的低い温度に短時間加熱するだけであるので、熱処理としては極めて簡単に行なうことができる。
【0035】
更に上記化学成分を満足する鋼材を、熱間圧延もしくは熱間鍛造を行った後、ボルト状に成形し、その後の調質に際して、水または水溶性焼入れ媒体を使用しても焼割れが発生することなく、焼入れ時の硬さが高くなり、焼戻し温度を高く設定できるので、遅れ破壊性を2000N/mm2レベル以上に向上させることができる。従って該調質焼入れを行なう際に、水または水溶性焼入れ媒体を用いて焼入れを行なうことが必要である。
【0036】
尚、熱間圧延もしくは熱間鍛造を行った後、ボルト状に成形する前に軟化処理や伸線加工を施して強度、線径を調整する工程を必要に応じ行ってもよく、また転造、切削などのねじ加工は、調質前あるは調質後のボルトに施してもよい。
【0037】
水焼入れ方法として例えば、静水焼入れや攪拌水焼入れ等公知の水焼入れ方法を用いることができる。また水溶性焼入れ媒体として例えば、5〜10%のポリマー水溶液(PAG,PEG,PVP、PAR等)、10%以下の食塩水等の公知の水溶性焼入れ媒体を用いることができる。
【0038】
かくして得られる本発明のボルト用鋼は、冷間加工時の変形抵抗が低く、優れた加工性を有し、ボルト状に加工した後は、例えば840〜950℃の温度に加熱した後、水または水溶性焼入れ媒体を用いて焼入れし、その後好ましくは350℃以上、より好ましくは400℃以上、550℃以下の温度で焼もどし処理を施すことによって、1200N/mm2 レベル以上の高い引張強度を有し、且つ2000N/mm2レベル以上の耐遅れ破壊特性を有する高強度ボルトの製造が可能となる。
【0039】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
下記表1に示す化学成分(質量%)の供試鋼を使用し、表2に示す条件で直径11mmまで熱間圧延した後、一部の供試材については簡易焼なましを行ない(表2加工工程欄で「2」と記す)、更に直径10.4mm(伸線率:約10.6%)まで伸線を行ない、得られた各伸線材について冷間加工性(変形抵抗)を調べた。このとき冷間加工性は、端面拘束圧縮試験法を採用し、圧下率70%のときの変形抵抗によって評価した。結果を表2に示す。
【0041】
また得られた各伸線材を図1に示す寸法・形状のフランジボルトに加工し、引張強度が1200〜1500N/mm2になる様に焼入れ・焼戻し処理をした。この際、ボルトを860℃×30分間加熱後、水焼入れを行い、ボルト頭部の割れ発生の有無を判断した。結果を表3に示す。
【0042】
また更に各伸線材を図2に示す寸法・形状の遅れ破壊性試験片に加工し、引張強度が1200〜1500N/mm2 になる様に焼入れ・焼もどし処理して遅れ破壊特性を調べた。焼入れの際、水焼入れで割れが発生したボルトには油を用いた。遅れ破壊特性は、各試験片を30分間、酸水溶液(15%HCl)に浸漬後、水洗・乾燥して大気中で荷重を負荷する方法を採用し、100時間後の遅れ破壊強度によって評価した。結果を表3に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
表1〜3から次のことが分かった。供試鋼No.1〜18を用いた供試材No.A〜Tは、供試鋼材組織と仕上げ温度、冷却速度などの条件が全て本発明の規定要件を満たす実施例であり、鋼材の化学成分が炭素当量を含めて全て規定要件を満たし、且つ仕上げ圧延温度、およびその後600℃までの冷却速度も好適要件を満たしているため、変形抵抗が低くて優れた加工性を有している。またこれらの供試材を用いた試験材No.a〜tのボルトは水焼入れ・焼もどし後の引張強度や耐遅れ破壊特性も優れており、しかも焼入れ媒体に水を用いても全く焼割れが発生しなかった。
【0047】
これらに対し供試材No.U〜AI及び試験材No.u〜aiは、鋼材の化学成分あるいは焼入れ媒体、またあるいは熱間圧延後の冷却条件が規定要件を外れているため、冷間加工性、焼入れ・焼もどし後の機械的特性等が不十分であった。また供試鋼No.9を用いた供試材U、Vは鋼材の成分は適切であるが、熱間圧延後の冷却速度が本発明の範囲外であるため、冷間加工時の変形抵抗が大きく、冷間加工性に欠ける。
【0048】
試験材 u、v:鋼材の化学成分は適切であるが、油を焼入れ媒体として使用しているため、十分な焼戻し温度が得られず、耐遅れ破壊性が劣る。
【0049】
試験材 w:C量含有率が不足するため、水焼入れを行っても十分な焼戻し温度が得られず、焼もどし後の耐遅れ破壊性が劣る。
【0050】
試験材 x:鋼材のC含有率が高すぎるため、冷間加工時の変形抵抗が大きく、加工性に欠ける。また焼入れ媒体に水を用いると焼割れが発生した。油を焼入れ媒体としても十分な耐遅れ破壊性が得られなかった。
【0051】
試験材 y:焼入れ媒体に水を用いても焼割れは発生しなかったが、鋼材のMn含有率が本発明の範囲外であるこの供試材では、水焼入れを行っても十分な耐遅れ破壊性が得られなかった。
【0052】
試験材 z:鋼材のMn含有率が高すぎるため、冷間加工時の変形抵抗が高い。また焼入れ媒体に水を用いると焼割れが発生した。油を焼入れ媒体とした場合、十分な耐遅れ破壊性が得られなかった。
【0053】
試験材 aa、ab、ac:焼入れ媒体に水を用いても焼割れは発生しないが、P、CrまたはSの含有率が本発明の範囲外であるこれらの鋼材から製造したボルトでは、十分な耐遅れ破壊性が得られなかった。
【0054】
試験材 ad、ae:焼入れ媒体に水を用いても焼割れは発生しなかったが、これらの鋼材のAlまたはNの含有率が本発明の範囲外であり、耐遅れ破壊性に劣る。
【0055】
試験材 af:水を焼入れ媒体としても焼割れは発生していないが、鋼材のTi、Nb、Vの含有率の総量が本発明の範囲外であり、変形抵抗が大きく、加工性に欠ける。また十分な耐遅れ破壊性がえられなかった。
【0056】
試験材 ag、ah、ai:ag〜aiの鋼材はC含有量が本発明の範囲を上回り、またC当量も本発明範囲を逸脱しており、変形抵抗が大きく、加工性にかける。また焼入れ媒体に水を用いると焼き割れが発生した。油焼入れでは十分な耐遅れ破壊性が得られなかった。
【0057】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、上述した鋼材をボルト状に成形した後の焼入れ・焼戻しに際して水または水溶性焼入れ媒体を用いることによって1200N/mm2レベル以上の引張強度を有し、しかも2000N/mm2レベル以上の耐遅れ破壊性を有する高強度ボルトを確実に提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で採用したフランジボルトの寸法・形状を示す説明図である。
【図2】実施例で採用した遅れ破壊試験片の寸法・形状を示す説明図である。
Claims (8)
- ボルトの製造に際し、
C:0.15〜0.28%(質量%を意味する、以下同じ)、
Si:0.2%以下(0%を含む)、
Mn:0.30〜1.5%、
P:0.020%以下(0%を含む)、
S:0.020%以下(0%を含む)、
Cr:0.30〜1.50%、
Al:0.07%以下(0%を含まない)、
N:0.020%以下(0%を含む)
の要件を満たすと共に、下記式で示される炭素当量(Ceq)が75以下であり、残部が鉄及び不可避不純物からなる鋼材を、熱間圧延もしくは熱間鍛造を行なった後、ボルト状に成形し、更にその後の調質の焼入れに際して、水または水溶性焼入媒体を用いて焼入れを行ない、その後焼戻しを行なうことを特徴とする耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルトの製造方法。
Ceq={C+(1/7)・Si+(1/5)・Mn+(1/9)・Cr+(1/2)・Mo}×100 - C:0.15〜0.30%、
Si:0.2%以下(0%を含む)、
Mn:0.30〜1.5%、
P:0.020%以下(0%を含む)、
S:0.020%以下(0%を含む)、
Cr:0.30〜1.50%、
Al:0.07%以下(0%を含まない)、
N:0.020%以下(0%を含む)
の要件を満たすと共に、下記式で示される炭素当量(Ceq)が75以下であり、残部が鉄及び不可避不純物からなる鋼材を、熱間圧延もしくは熱間鍛造を行なった後、ボルト状に成形し、更にその後の調質の焼入れに際して、水または水溶性焼入媒体を用いて焼入れを行ない、その後焼戻しを行なうことを特徴とする耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルトの製造方法。
Ceq={C+(1/7)・Si+(1/5)・Mn+(1/9)・Cr+(1/2)・Mo}×100
但し、C:0.30%、Si:0.01%、Mn:0.29%、P:0.007%、S:0.004%、Ni:0.03%、Cr:1.96%、Mo:0.21%、Al:0.045%、Nb:0.045%、N:0.0045%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を除く。 - 上記鋼材が、更に他の成分として、Mo:1.00%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1または2に記載の高強度ボルトの製造方法。
- 上記鋼材が、更に他の成分としてB:0.003%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の高強度ボルトの製造方法。
- 上記鋼材が、更に他の成分として、Ti、Nb、Vの1種以上:総量で0.50%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の高強度ボルトの製造方法。
- 上記熱間圧延もしくは熱間鍛造を行なう際に、該鋼材を仕上げ温度が750℃以上となる様に熱間圧延または熱間鍛造した後、600℃までを1.0℃/sec以下の速度で冷却し、引き続いて室温まで放冷した後、ボルト状に成形し、更にその後調質焼入れする請求項1〜5のいずれかに記載の高強度ボルトの製造方法。
- 上記熱間圧延もしくは熱間鍛造を行なう際に、該鋼材を仕上げ温度が750℃以上となる様に熱間圧延または熱間鍛造した後、600℃までを1.0℃/sec以下の速度で冷却し、引き続いて室温まで放冷し、その後680〜740℃に再加熱してから簡易焼なましした後、ボルト状に成形し、更にその後調質焼入れする請求項1〜5のいずれかに記載の高強度ボルトの製造方法。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法によって製造された耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルト。
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---|---|---|---|
JP23438899A JP4629816B2 (ja) | 1999-08-20 | 1999-08-20 | 耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルトおよびその製造方法 |
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