JP3552286B2 - 被削性、冷間鍛造性および焼き入れ・焼き戻し後の疲労強度特性に優れた機械構造用鋼とその部材の製造方法 - Google Patents

被削性、冷間鍛造性および焼き入れ・焼き戻し後の疲労強度特性に優れた機械構造用鋼とその部材の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、被削性、冷間鍛造性および焼き入れ・焼き戻し後の疲労強度特性を同時に改善した、自動車等に使われる機械部品の素材として有用な機械構造用鋼とその部材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
産業機械や自動車等の機械部品に用いられる鋼材には、切削性、冷間鍛造性及び焼き入れ焼き戻し後の機械的特性特に耐疲労強度が要求される。
このうち被削性を改善する手段としては、鋼中にPb, S,Te, Bi, P等の快削性元素を単独または複合添加する方法が一般的である。特に、Pbは被削性を極めて改善する作用があることから多用される。しかし人体に有害な元素でもあるために、鋼材の製造工程において大がかりな排気設備を必要とするだけでなく、鋼材のリサイクルの上でも多大な問題がある。他方、鋼材の冷間鍛造性の改善のためには、これら元素は有害である。
このように快削性と冷間鍛造性は一般に相矛盾する性質であるが、機械構造用鋼はこれらの性質を兼ね備える必要がある。この問題を解決するために黒鉛鋼が提案されており、たとえば、特開昭51−57621号公報、特開昭49−103817 号公報、特開平03−140411 号公報、特開平03−146618 号公報に記載の提案がある。
【0003】
しかし、発明者らの検討によれば、これらの方法によるのでは、機械構造用鋼としての特性、特に耐疲労特性において十分ではない。
たとえば、特開昭51−57621号公報記載の方法によるのでは、黒鉛化促進元素としてSi,Al,Ti,及び希土類元素のみを使用しているため,黒鉛粒の微細化には限度があり、そのサイズは45〜70μmであり、そのため焼き入れ・焼き戻し処理時に黒鉛の溶解が迅速に進行せず、疲労強度に限度がある。また、特開昭49−103817 号公報記載の方法によるのでは、Crの含有及びNの含有量に付いて配慮されていないため、黒鉛化のため長時間を要するばかりか黒鉛粒サイズが38〜50μmであり、焼き入れ・焼き戻し後の疲労強度に限界がある。さらに、特開平03−140411号公報記載の方法によるのでは、黒鉛化にきわめて顕著な影響を及ぼす熱間圧延条件及び黒鉛化焼鈍条件等に付いて十分な配慮がなされていないために黒鉛化時間が長いばかりでなく、得られる黒鉛粒径は28〜35μmと大きく、焼き入れ・焼き戻し後の疲労強度が十分でない。また、特開平03−146618 号公報による方法による場合も黒鉛化のための焼鈍条件が不適切であるため黒鉛粒のサイズは21〜26μmであり、そのため焼き入れ焼き戻し後の疲労強度の向上の点で十分ではない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
即ちこれらの技術による時は、黒鉛粒の大きさが大きいため、機械構造用の部品として焼き入れ・焼き戻しをした状態での疲労強度は高々 430MPa、耐久比 1.2程度しか得られない。本発明の目的は、従来技術が抱えている上述した問題,特に黒鉛鋼が抱えてい問題を有利に解決しようとするものであって、冷間鍛造性を害することなく従来のPb添加快削鋼と同等以上の被削性を有し、かつ疲労強度特性にも優れた機械構造用炭素鋼とその部材の製造方法を提案することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明における要旨構成は以下の通りである
【0009】
(1) C:0.1〜1.5wt%、Si:0.5〜2.0wt%、Mn:0.1〜2.0wt%、B:0.0003〜0.0150wt%、Al:0.005〜0.1wt%、O≦0.0030wt%、P≦0.020wt%、S≦0.035wt%、N:0.0015〜0.0150wt%を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなる成分組成の鋼片を、BNおよびAlNの固溶温度以上の温度に加熱して熱間圧延を施し、次いで、300〜600℃の温度領域に加熱してその温度域に15分以上保持した後、引き続き、680〜740℃の温度領域に加熱して5時間以上保持することを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。
【0010】
(2) C:0.1〜1.5wt%、Si:0.5〜2.0wt%、Mn:0.1〜2.0wt%、B:0.0003〜0.0150wt%、Al:0.005〜0.1wt%、O≦0.0030wt%、P≦0.020wt%、S≦0.035wt%、N:0.0015〜0.0150wt%を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなる成分組成の鋼片を、BNおよびAlNの固溶温度以上の温度に加熱して熱間圧延を施し、次いで、800〜950℃の温度領域に加熱したのち空冷する焼ならし処理を行い、その後、680〜740℃の温度領域に加熱して5時間以上保持することを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。
【0011】
(3) C:0.1〜1.5wt%、Si:0.5〜2.0wt%、Mn:0.1〜2.0wt%、B:0.0003〜0.0150wt%、Al:0.005〜0.1wt%、O≦0.0030wt%、P≦0.020wt%、S≦0.035wt%、N:0.0015〜0.0150wt%を含み、かつREM:0.0005〜0.2wt%、Zr:0.005〜0.2wt%、Ti:0.005〜0.05wt%、V:0.05〜0.5wt%、Nb:0.005〜0.05wt%、Ni:0.10〜3.0wt%、Cu:0.1〜3.0wt%、Co:0.1〜3.0wt%およびMo:0.1〜1.0wt%のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなる成分組成の鋼片を、BNおよびAlNの固溶温度以上の温度に加熱して熱間圧延を施し、次いで、300〜600℃の温度領域に加熱してその温度域に15分以上保持した後、引き続き、680〜740℃の温度領域に加熱して5時間以上保持することを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。
【0012】
(4) C:0.1〜1.5wt%、Si:0.5〜2.0wt%、Mn:0.1〜2.0wt%、B:0.0003〜0.0150wt%、Al:0.005〜0.1wt%、O≦0.0030wt%、P≦0.020wt%、S≦0.035wt%、N:0.0015〜0.0150wt%を含み、かつREM:0.0005〜0.2wt%、Zr:0.005〜0.2wt%、Ti:0.005〜0.05wt%、V:0.05〜0.5wt%、Nb:0.005〜0.05wt%、Ni:0.10〜3.0wt%、Cu:0.1〜3.0wt%、Co:0.1〜3.0wt%およびMo:0.1〜1.0wt%のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなる成分組成の鋼片を、BNおよびAlNの固溶温度以上の温度に加熱して熱間圧延を施し、次いで、800〜950℃の温度領域に加熱したのち空冷する焼ならし処理を行い、その後、680〜740℃の温度領域に加熱して5時間以上保持することを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。
【0013】
(5) C:0.1〜1.5wt%、Si:0.5〜2.0wt%、Mn:0.1〜2.0wt%、B:0.0003〜0.0150wt%、Al:0.005〜0.1wt%、O≦0.0030wt%、P≦0.020wt%、S≦0.035wt%、N:0.0015〜0.0150wt%を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなる成分組成の鋼片を、BNおよびAlNの固溶温度以上の温度に加熱して熱間圧延を施し、次いで、800〜950℃の温度領域に加熱したのち空冷する焼ならし処理を行い、その後、300〜600℃の温度領域に加熱してその温度域に15分以上保持した後、引き続き、680〜740℃の温度領域に加熱して5時間以上保持することを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。
【0014】
(6) C:0.1〜1.5wt%、Si:0.5〜2.0wt%、Mn:0.1〜2.0wt%、B:0.0003〜0.0150wt%、Al:0.005〜0.1wt%、O≦0.0030wt%、P≦0.020wt%、S≦0.035wt%、N:0.0015〜0.0150wt%を含み、かつREM:0.0005〜0.2wt%、Zr:0.005〜0.2wt%、Ti:0.005〜0.05wt%、V:0.05〜0.5wt%、Nb:0.005〜0.05wt%、Ni:0.10〜3.0wt%、Cu:0.1〜3.0wt%、Co:0.1〜3.0wt%およびMo:0.1〜1.0wt%のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなる成分組成の鋼片を、BNおよびAlNの固溶温度以上の温度に加熱して熱間圧延を施し、次いで、800〜950℃の温度領域に加熱したのち空冷する焼ならし処理を行い、その後、300〜600℃の温度領域に加熱してその温度域に15分以上保持した後、引き続き、680〜740℃の温度領域に加熱して5時間以上保持することを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。
【0015】
(7) 上記(1) (6)の何れか1に記載の方法で処理したのち、さらに焼き入れ・焼き戻しを施してなる疲労強度が高くかつ耐久比(疲労強度/硬さ)の高い機械構造用部材の製造方法。
【0016】
【作用】
発明者らは、被削性および冷間鍛造性に及ぼす黒鉛粒のサイズの影響について検討した。その結果、黒鉛粒を微細化すれば、被削性および冷間鍛造性をともに向上させることができることが判った。
このことによって、上記の両特性が向上する機構については、明確ではないがおよそ以下のような理由によるものと考えられる。
まず、被削性に関しては、鋼中に黒鉛が存在すると切削時のせん断領域において大きな歪みが作用するために、黒鉛と母相界面からボイドが発生し、これが連結して切屑を生成させるわけであるが、同一C量の場合には黒鉛の体積率は一定であるから、黒鉛が微細なほどボイドの連結が容易に進行し、被削性が向上する。
一方、冷間鍛造性については、黒鉛粒径が微細になると、黒鉛−母相界面にボイドの発生する限界歪み量が増大することにより、冷間鍛造性を向上させるものと考えられる。
また、疲労強度特性に及ぼす黒鉛の影響については、以下のような結論を得るに至った。すなわち、疲労強度は、一般に、鋼材の硬さの向上とともに向上するが、一方で、鋼材中に含有される非金属介在物のサイズにも影響されることが知られている。まず、前者については、機械部品として必要とされる疲労強度を確保するために、2次加工において焼入れ焼もどし処理が行われるが、この場合、黒鉛粒の溶解挙動は、黒鉛のサイズに強く依存する。即ち、黒鉛粒が粗大だと、短時間の加熱では黒鉛が十分に固溶せず、焼入れ・焼き戻し後の硬さが低下するために疲労強度が低下する。また、黒鉛は非金属介在物の一種であるから、黒鉛が粗大なために未溶解の黒鉛が存在した場合には、この部分が疲労破壊の起点として作用し、全体の硬さから予測されるよりもさらに疲労強度を低下させる。この傾向は、高強度の場合ほど顕著である。
【0017】
以上のことから、黒鉛鋼の焼入れ焼もどし後の疲労強度を高めるためには、黒鉛の微細化が二重の意味で有効である。本発明者らによる検討では、この疲労強度に影響する臨界的な黒鉛のサイズは約20μm であり、これよりも大きい場合には、黒鉛の溶解は短時間では進行せず疲労強度を低下させる。
以上説明したように、機械構造用鋼の被削性, 冷間鍛造性および焼き入れ焼き戻し後の疲労強度特性を向上させるためには、黒鉛粒のサイズをより微細にすることが有利であることが判った。
なお、本発明の黒鉛鋼は機械加工後、焼き入れ焼き戻しを施して自動車用の機械構造部材として使用されるが、その際には疲労強度460MPa以上、耐久比1.44 以上となるのが好ましい。
【0018】
発明者らは、このような要請を具体的に実現するための製造方法について、さらに検討を加えた。以下に、その検討結果について述べる。
まず、本発明において、鋼の成分組成について説明する。
【0019】
C : 0.1〜1.5 wt%
Cは、黒鉛相を形成するために必須の成分である。0.1 wt%未満では被削性を確保する上で必要な黒鉛相を確保することが困難になるので、0.1 wt%以上の添加を必要とするが、1.5 wt%を超えて添加すると熱間圧延時の変形抵抗が上昇するとともに、変形能が低下し、熱間圧延材の割れ、きずの発生が増大するので、0.1 〜1.5 wt%の範囲に限定した。なお、好ましい含有量は0.2 〜0.8 wt%である。
【0020】
Si :0.5 〜2.0 wt%
Siは、溶製時の脱酸剤として必要であり、また鋼中の鉄炭化物 (セメンタイト) 中に固溶せず、このセメンタイトを不安定にして黒鉛化を促進させる元素としても有効であり、しかも、強度増加成分でもあることから積極的に添加する。その含有量が0.5 wt%未満ではこれらの効果に乏しく、黒鉛化に時間がかかる。一方、このSiを 2.0wt%を超えて添加しても黒鉛化促進の効果が飽和に達するだけでなく、液相の発生する温度領域が低下し、熱間圧延時の適正温度領域が狭まるので、0.5 〜2.0 wt%の範囲に限定した。なお、好ましい含有量は1.0 〜1.9 wt%である。
【0021】
Mn : 0.1〜2.0 wt%
Mnは、鋼の脱酸に有効であるばかりでなく、焼入れ性を高めて鋼の強度を確保する上で有用な元素であるので積極的に添加するが、一方でセメンタイト中に固溶して黒鉛化を阻害する。0.1 wt%未満の添加では、脱酸に効果がなく、かつ強度の向上に対する寄与も少ないので、少なくとも0.1 wt%以上の添加が必要である。しかし、2.0 wt%を超えて添加すると黒鉛化を阻害するので、0.1 〜2.0 wt%の範囲に限定した。なお、好ましい含有量は0.2 〜0.8 wt%である。
【0022】
B: 0.0003〜0.0150wt%
Bは、鋼中のNと結合してBNを形成し、これが黒鉛の核形成サイトとして作用することにより黒鉛化を促進するとともに、黒鉛粒を微細化する作用がある。また、鋼の焼入れ性を高めて焼入後の強度を確保する上でも有用な元素であるので、本発明においては重要な成分である。0.0003wt%未満の添加では、黒鉛化および焼入れ性向上への効果が小さく、0.0003wt%以上の添加を必須とするが、0.0150wt%を超えて添加するとBがセメンタイト中に固溶してセメンタイトを安定化することにより、逆に黒鉛化を阻害することになるので、0.0003〜0.0150wt%の範囲に限定した。なお、好ましい含有量は0.0005〜0.0035wt%である。
【0023】
Al : 0.005〜0.1 wt%
Alは、脱酸を助ける他、鋼中のNと反応してAlN を形造り、これが黒鉛の核形成サイトとして作用することにより、黒鉛化を促進するので積極的に添加するが、0.005 wt%未満の添加では、その作用が小さく、少なくとも0.005 wt%以上の添加を必要とする。一方、0.1 wt%を超えて添加すると鋳造工程においてAl系酸化物が多数生成する。この酸化物は、単独でも疲労破壊の起点となるばかりでなく、この酸化物を核として著しく粗大な黒鉛粒が形成される。また、Al系酸化物は硬質なため、切削時に工具を摩耗させることにより被削性を低下させる。このような理由により、Alの添加量としては0.005 〜0.1 wt%の範囲に限定した。なお、好ましい含有量は0.01〜0.05wt%である。
【0024】
O:0.0030wt%以下
Oは、酸化物系非金属介在物を形成し、冷間鍛造性、被削性および疲労強度をともに低下させるので極力低減すべきであるが、上限は0.0030wt%まで許容される。なお、好ましい含有量は0.0018wt%以下である。
【0025】
P:0.020 wt%以下
Pは、黒鉛化を阻害するとともに、フェライト層を脆化させることにより冷間鍛造性を劣化させる元素である。また、焼入れ焼もどし時に粒界に偏析し粒界強度を低下させることにより、疲労亀裂の伝搬に対する抵抗を低下させ、疲労強度を低下させる。したがって、極力低減すべきであるが、上限は0.020 wt%まで許容される。なお、好ましい含有量は0.010 wt%以下である。
【0026】
S:0.035 wt%以下
Sは、鋼中でMnS を形成し、これが冷間鍛造時の割れ発生の起点となり冷間鍛造性を劣化させる。また、MnS はそれ自身が疲労破壊の起点となることとともに、黒鉛の結晶化の核として作用することにより粗大な黒鉛を形成し、これが疲労強度を低下させる作用があるので極力低減すべきであるが、上限は0.035wt %まで許容される。なお、好ましい含有量は0.010 wt%以下である。
【0027】
N:0.0015〜0.0150wt%
Nは、Bと化合してBNを形成し、このBNが黒鉛結晶化の核となることにより、著しく黒鉛粒を細粒化するとともに黒鉛化を促進するので、本発明においては必須の元素である。
0.0015wt%未満の添加ではBNが十分に形成されず、一方、0.0150wt%を超えて添加すると連続鋳造時に鋳片の割れを促進するので、0.0015〜0.0150wt%の範囲に限定した。なお、好ましい含有量は0.0015〜0.0050wt%である。
【0028】
本発明においては、必要に応じさらに上記の主要成分に加えて下記;REM , Zr, Ti, V, Nb, Ni, Cu, CoおよびMoのうちから選ばれた1種または2種以上の成分を含有させることにより、上掲の各主要成分のもつ作用効果を助成することにあわせて、他の諸特性の付与、改善を図ることは有効である。以下に、これら添加成分についての組成限定の理由を述べる。
【0029】
REM : 0.0005〜0.2 wt%
REM の、とくにLa, Ceは、Sと結合し、(La, Ce)Sを形成し、これが黒鉛化の核となって黒鉛化を促進するとともに黒鉛粒を微細化する。しかし、その量が0.0005wt%未満では添加効果が乏しく、一方、0.2 wt%を超えて添加しても効果が飽和するので、0.0005〜0.2 wt%の範囲に限定した。なお、好ましい含有量は0.005 〜0.03wt%である。
【0030】
Zr : 0.005〜0.2 wt%、Ti : 0.005〜0.05wt%
ZrおよびTiは、ともに炭・窒化物を形成し、これらが黒鉛の結晶化の核として作用することにより、黒鉛粒を微細化するので、黒鉛粒をさらに微細化する必要のある場合に用いたときに好適である。また、炭・窒化物を形成することにより、焼入れ時にBを焼入れ性に有効に作用させることが可能である。このような作用効果を発揮させるためには、Zr, Tiともに0.005 wt%以上の添加が必要である。一方、Zr, Tiをそれぞれ0.2 wt%および0.05wt%を超えて添加すると、BNを形成するためのNが不足し、その結果、黒鉛粒が粗大化するとともに黒鉛化時間が極めて長くなるので、それぞれ0.005 〜0.2 wt%および0.005 〜0.05wt%の範囲に限定した。なお、それぞれ好ましい含有量は0.05〜0.2 wt%および0.01〜0.03wt%である。
【0031】
V : 0.05 〜0.5 wt%/Nb : 0.005〜0.05wt%
V,Nbはともに炭化物形成元素であるが、セメンタイト中にはほとんど固溶しないので、黒鉛化をさほど阻害しない。また、炭・窒化物を形成しこの析出強化作用により強度を上昇させる。ともに焼入れ性を向上させる元素でもあるので疲労強度を向上させる必要のある場合に用いて好適である。Vの場合には、0.05wt%未満の添加ではこれらの効果は小さく、一方、0.5 wt%を超えて添加しても効果が飽和するので、0.05〜0.5 wt%の範囲内の添加とした。他方、Nbの場合には0.005 wt%未満の添加では、上述の効果が小さく、0.05wt%を超えて添加しても効果が飽和するので、0.005 〜0.05wt%の範囲内の添加とした。なお、それぞれ好ましい含有量は0.05〜0.3 wt%および0.01〜0.04wt%である。
【0032】
Ni,Cu,Co:各0.1 〜3.0 wt%
これらの元素は、いずれも黒鉛化を促進する共通する作用を有する元素である。また、
ともに焼入れ性を向上させる作用も合わせもつので、黒鉛化を阻害せずに焼入れ性を向上させることができる。この添加量としては、0.1 wt%未満では、その添加効果が小さく、一方、3.0 wt%を超えて添加してもその効果は飽和するので、0.1 〜3.0 wt%の範囲に限定した。なお、好ましい含有量は0.5 〜2.5 wt%である。
【0033】
Mo : 0.1〜1.0 wt%
Moは、焼入れ性を高めると同時にMn, Crなどに比較するとセメンタイトへの分配が小さいという特徴がある。このために、黒鉛化を阻害することなく鋼材の焼入れ性を高めることができる。また、Moを添加した鋼材は、焼もどし軟化抵抗が大きいために、同じ焼もどし温度で硬さを向上させることができ、それ故に疲労強度を向上させる。また、焼入れ性が高いために熱間圧延ままの状態においては、微細な黒鉛を形成するベイナイト組織とすることが容易であり、この結果、焼入れ時の黒鉛の溶解を短時間に完了させることができる。このために、疲労強度特性を一層向上させる必要があるときに用いるが、0.1 wt%未満の添加ではその添加効果が小さく、一方 1.0wt%を超えて添加すると黒鉛化を阻害し、冷間鍛造性および被削性を低下させるので、0.1 〜1.0 wt%の範囲内に限定した。なお、好ましい含有量は0.1 〜0.3 wt%である。
【0034】
さて、黒鉛粒を微細化するためには、鋼中に黒鉛結晶化の核形成サイトとなる析出物を多数生成させることが必要である。かかる析出物としてBN, AlN, TiN, ZrN, Nb(C,N), V(C,N), (La, Ce)S 等が効果的である。中でも、BNは黒鉛の結晶化のためのサイトとして最も有効に作用し、AlN もまた黒鉛結晶化の核として有効に作用する。そして、このBNとAlN とを複合化した場合には、より一層その作用効果が高まる。
【0035】
しかしながら、AlおよびB添加鋼の黒鉛微細化への作用を充分に発揮させるには、単にAlおよびBを上述した成分範囲内において添加するだけでは不十分である。さらにある特定の熱延条件および焼鈍条件を組み合わせ、BNとAlN が共存するようにしなければならない。
すなわち、第一に、熱間圧延時の加熱時に、BN, AlN を完全に固溶させておくことが重要である。それは、鋼中の析出物が完全に固溶できない温度域では、これらが粗大化してその数が減少し、その結果、黒鉛化後の黒鉛粒径が粗大かつその個数も著しく減少するためである。これに対し、BNおよびAlN を完全固溶できる温度域まで昇温した後に熱間圧延を行うと、熱間圧延後の冷却過程でBNが、黒鉛化焼鈍時の昇温過程に於いてAlN が、微細に析出し、その結果、黒鉛粒径を微細にすることができるのである。
【0036】
なお、黒鉛微細化のためには、熱間圧延開始前の加熱工程において、BN, AlN を完全固溶させることに加えて、焼鈍条件、特に焼鈍時の加熱速度の制御を行うことが望ましい。
すなわち、熱間圧延前の加熱段階でBNおよびAlN を完全に固溶させると、これらは熱間圧延後の冷却過程において極めて迅速に析出する筈である。しかし、もともとAlの拡散速度は遅いので、AlN は冷却過程ではほとんど析出せず、固溶Alとして存在する。この状態から黒鉛化焼鈍をはじめると固溶Al(s) は固溶N(s)と結合して
Al(s) +N(s)→AlN
の反応が生じる。しかし、これと同時にAl(s) は、既に形成されていたBNとも反応し、
Al(s) + BN →AlN + B
の反応も生じる。低温域においては前者の反応が支配的であり、一方、後者の反応は比較的高温で反応が進行する。
従って熱間圧延鋼材を直ちに高温で焼鈍すると、後者の反応により生じたBがセメンタイト中に固溶し、セメンタイトを安定化するために黒鉛化の進行を遅くする。また、黒鉛結晶化の核としてより有効に作用するBNが減少するために、黒鉛の個数が減少し、粒径が粗大化する。
従って、かかる反応の進行を抑制し
Al(s) +N(s)→AlN
の反応を進行させることが有効である。
そこで、上記反応の優先的進行を図るためには、低温域での滞留時間を長くすることが有効であり、加熱速度をある限度以下に制御するか、または低温域で保持することが推奨される。
【0037】
以下、熱間圧延条件および黒鉛化のための焼鈍条件について詳細に述べる。
本発明において、熱間圧延時の鋼材加熱温度をBNおよびAlN の固溶温度以上とする。これは熱間圧延時の加熱温度がこの温度に満たないと黒鉛結晶化の核となるBNが鋼中に完全に固溶せずに粗大化し、熱間圧延後の黒鉛化焼鈍時に粗大な黒鉛粒を生成する。その結果、上述したように被削性、冷間鍛造性および疲労強度を低下させることになるからである。
これに対して、熱間圧延前の加熱時にBNおよびAlN を完全に固溶させると、これらは熱間圧延後の冷却過程でBNが、黒鉛化焼鈍の加熱時にAlN が微細に析出し、これらが黒鉛結晶化の核となることにより黒鉛粒が微細化し、疲労強度、被削性および冷間鍛造性を向上させる。
上述したように、BNおよびAlN の完全固溶を達成するための加熱温度は、下記の溶解度積の計算により算出することができる。すなわち、
log 〔Al〕・〔N〕=−7400/T+1.95
log 〔B〕・〔N〕=−13970 /T+5.24
ここで〔Al〕,〔N〕,〔B〕は、Al, NおよびBの添加量、Tは絶対温度である。
【0038】
なお、熱間圧延時の仕上圧延温度およびその後の冷却条件については、本発明においては特に規定しないが、仕上げ圧延温度は、γの再結晶温度以上であることが望ましい。これは、黒鉛結晶化の核となるBNはγ粒界に形成されるが、再結晶によりγ粒が細粒化された場合にはBNの分布がより微細均一化するためである。
また、冷却速度に関しては、この速度が極めて遅い場合には、析出したBNが粗大化することにより黒鉛が粗大化し被削性、冷間鍛造性および疲労特性を低下させるので、0.01℃/sを下回らない冷却速度であることが望ましい。
【0039】
次に、本発明において最も重要な役割りを担う焼鈍条件について述べる。
さて、本発明における鋼の熱処理方法の第1の手段は、昇温途中で保持工程の入る2段階にわたる焼鈍処理を行う方法である。
この焼鈍方法における第1段階は、300 〜600 ℃の温度領域に加熱して15分以上保持する処理である。この処理においては、
Al+BN→AlN +BよりもAl+N→AlN
の反応が優先的に生じるために、黒鉛結晶化の核として作用するBNを減少させることなく、同じように黒鉛化の核として作用するAlN を形成し得る。
ここで、下限を300 ℃としたのは、これより低い温度ではAl+N→AlN の反応速度が遅いために実用的ではないためである。一方、上限を600 ℃としたのは、この温度を上回る温度では、Al+BN→AlN +Bの反応が優勢となることによる。また、300 〜600 ℃の温度領域における保持時間を15分以上としたのは、この時間に満たない保持では、Al+N→AlN の反応が十分に行われず、その後の保持によりAl+BN→AlN +Bの反応が生じやすくなるためである。なお、好ましい温度範囲は400 〜550 ℃である。
【0040】
この方法における第2段階は、前段階の昇温保持に続いて、さらに680 〜740 ℃の温度領域に加熱昇温したのち5時間以上保持する処理である。この処理において、680 ℃未満の温度では、黒鉛化の反応が遅いために、黒鉛化を完了するために必要な時間が極めて長くなり、一方、740 ℃を超える温度では鋼中にγ相が多量に発生して黒鉛化が進行しなくなる。また、保持の時間を5時間以上としたのは、この時間に満たないと被削性、冷間鍛造性を満たすに足る黒鉛化が進行しないためである。なお、好ましい温度範囲は680 〜720 ℃である。
【0041】
本発明における熱処理の他の手段は、初めに 800〜950 ℃の温度領域に加熱した後空冷する焼ならし処理を施し、その後 680〜740 ℃の温度領域に加熱して5時間以上保持する焼鈍を行う方法である。
上記の焼ならし処理を行う理由は以下のとおりである。すなわち、熱間圧延ままの状態では、添加されたAlはほとんど鋼中に固溶しており、AlN はほとんど存在しない。この状態から比較的低温のγ域に昇温すると、固溶Alの一部がAlN として微細に析出する。しかも、比較的低温であるためにAlN の成長速度は極めて遅く、析出したAlN は微細なまま維持される。また、このような微細なAlNの存在により、γ粒も加熱保持中は微細に保たれる。
一方、BNは、熱間圧延ままの状態で微細に析出している。γ域への昇温により、その一部はγ相中へ固溶するが、未固溶のままBNとして存在するものもある。しかし、保持温度が比較的低温のため、保持中も未固溶のBNは成長が遅く、微細なまま維持される。また、固溶Bは保持後の冷却過程において再析出するが、BNはγ粒界に析出する性質を持っており、前述のように微細AlN の働きによりγ粒が微細に保たれており、再析出の際に微細で均一に分散することが可能となる。その結果、BNは、熱間圧延時に微細析出したものと焼ならし時に固溶・再析出したものからなり、その個数は著しく増加する。
上記の理由により、微細に存在するAlN およびBNをそれぞれ黒鉛化の核として利用することにより、より微細な黒鉛を形成することが可能となる。
そして、この処理の下限の温度を 800℃に限定したのは、これ未満の温度では、完全にγ化することができず、このため再析出するBNの分布が極めて不均一になり、最終的な黒鉛化組織における黒鉛粒の分布に粗密を生じるためである。また、上限温度を 950℃としたのは、これ以上の温度では析出したAlN および未固溶のBNの成長が極めて速くなるとともにγ粒も粗大になるため、微細なAlN およびBNが得られず、目的とする微細な黒鉛粒が得られなくなるためである。なお、焼きならし処理の好ましい温度範囲は820 〜900 ℃である。
【0042】
次に、本発明における熱処理方法の第3の手段は、初めに、焼ならし処理を施してから、次に 300〜600 ℃−15分以上の保持ならびに 680〜740 ℃−5時間以上の保持という2段階にわたる焼鈍処理を重ねる方法である。この処理では、それぞれの熱処理の相乗的な効果を得ることができる。
【0043】
【実施例】
以下、実施例に即して本発明を説明する。
表1に示す成分組成の鋼を、転炉−連続鋳造の工程により溶製し、450 ×500mm のブルームにした。表1において、鋼A〜Nは成分組成が本発明法に適合する鋼であり、鋼O〜Rは、B,P,AlおよびSiが本発明法の鋼素材の範囲外の比較例である。また、鋼S〜Uは、それぞれ、従来より機械構造用として用いられているJIS 規格のS30C相当鋼、S45C鋼の快削性向上元素であるS,CaおよびPbを添加した快削鋼、およびCr−Mo鋼であるSCM435の例である。なお、S30Cの鋼(S)は、冷間鍛造性に優れるために冷間鍛造鋼として、また、S45C−S−Ca−Pb快削鋼(T)は、被削性に優れるために高い被削性の要求される用途に、さらに、SCM435の鋼(U)は、焼入れ性に優れ、焼入れ焼もどし後の機械的性質および回転曲げ疲労強度に優れるために、高い疲労強度が要求される機械部品として用いられているものである。
【0044】
【表1】
Figure 0003552286
【0045】
これらの溶製されたブルームを分塊圧延により150mm 角のビレットとした後、線棒圧延により52mmφの棒鋼に圧延し、さらに、焼鈍炉により黒鉛化焼鈍処理を行った。
なお、熱間圧延に際しては、鋼の成分組成から計算されるBNおよびAlN の固溶温度を算出し、これを目安として圧延温度を設定した。また、黒鉛化焼鈍(焼なまし)は、鋼中のCがほぼ完全に黒鉛化するまで実施した。
熱間圧延時の加熱温度、焼ならし条件および焼鈍条件について、表2〜5にまとめて示す。ただし、100 時間以上焼鈍しても黒鉛化が十分進行しなかった材料については黒鉛化処理を中止した。表3〜5中の保持時間の欄の**の記号は、黒鉛化処理を中断したことを示している。
【0046】
【表2】
Figure 0003552286
【0047】
【表3】
Figure 0003552286
【0048】
【表4】
Figure 0003552286
【0049】
【表5】
Figure 0003552286
【0050】
次に表6〜表9は、上記の鋼A〜Uについて、表2〜5に示す条件の処理をしたものについて、黒鉛粒径、焼もどしままの硬さ、冷間鍛造性、被削性、焼入れ焼もどし後の機械的性質および焼入れ焼もどし後の回転曲げ疲労強度の測定結果を示したものである。
なお、黒鉛粒径は、焼鈍後の材料より光学顕微鏡用サンプルを作成し、画像解析装置により1000〜2000個以上の黒鉛粒の直径を測定し、その平均径を用いた。
焼なましままの硬さは、ビッカース硬度計を用いて測定した。
冷間鍛造性は、焼鈍後の素材より15mmφ×22.5mml の円柱状試験片を作製し、300tプレスを用いて圧縮試験を行い、試験時の荷重より変形抵抗を算出した。ここでは、圧縮率(高さ減少率)を60%に取ったときの変形抵抗として示した。また、試験片側面の割れ発生の有無を確認し、試験した試験片の半数に割れの発生する圧縮率を限定圧縮率として変形能の指標とした。
被削性試験は、高速度工具鋼SKH4を用い、切削速度80m/min 、無潤滑の条件により外周旋削を行い工具が切削不能となるまでの時間を工具寿命として評価した。
焼入れ焼もどし後の特性は、素材より15mmφ×85mml の試験を作製し、900 ℃×30min 加熱後、水溶性焼入れ液中の焼入れ、その後500 ℃×1h 保持後の水冷の焼もどし処理を施し、さらに8mmφの引張試験片を作製し、引張試験により測定した。
回転曲げ疲労試験は、上記と同様な焼入れ焼もどし処理を行った後、8mmφの試験片を作製し小野式回転曲げ疲労試験機を用い、常温に於いて3600rpm の速度で実施した。
これらの結果を表6〜表9にまとめて示す。
【0051】
【表6】
Figure 0003552286
【0052】
【表7】
Figure 0003552286
【0053】
【表8】
Figure 0003552286
【0054】
【表9】
Figure 0003552286
【0055】
なお、従来鋼は、黒鉛化することができなかったため、一般の加工工程に即して実施し、鋼S(S30C相当鋼)および鋼U(SCM435相当鋼)については、745 ℃×15h 保持後徐冷の球状化焼なまし処理を行った後に、各項目の試験を上記と同様の方法で実施した。また、S45C−S−Ca−Pb鋼については、被削性のみ圧延ままでその他の試験は745 ℃×15h 保持後徐冷した球状化焼なまし処理後実施した。表9中のNo.73 の硬さは圧延ままの硬さを示した。
【0056】
表2〜表5に示すように、鋼種ごとに若干異なるものの、本発明法に従って、BNおよびAlN 固溶温度以上に加熱した場合および焼鈍条件を満足する場合は、短時間で黒鉛化が終了した。
しかし、No.11 のように途中で保持工程を入れた場合でも保持温度が本発明の範囲を外れて低い場合には、黒鉛化に要する時間は本発明の範囲内の場合よりも長くかかった。
熱間圧延時の上記の加熱温度が本発明の範囲外にある場合( 例えばNo.19)では、加熱温度のみが本発明の範囲内で、焼鈍条件が本発明の範囲外である場合(No.18) に比較すると焼鈍時は短いが、本発明の範囲内である場合(No.17) に比較すると焼鈍時間は長くかかった。
成分組成が本発明適合例の範囲外である場合には、Bが本発明の範囲外にある鋼Oの場合では、鋼Cに比較して黒鉛化処理時間は約4倍以上も長くかかっている。また、Pが本発明の範囲外である鋼Pの場合についても、鋼Cに比較して焼鈍時間は約2倍以上も長くかかっている。また、Alが本発明の範囲外である鋼Qについては、圧延温度および焼鈍条件が、黒鉛化に要する時間への影響は小さい。また、Siが本発明の範囲外である鋼Rは、本発明の熱間圧延温度および焼鈍条件を採用しても黒鉛は生じなかった。
【0057】
表6〜表9中の黒鉛化組織の欄に示すように、黒鉛粒径(サイズ)は本発明適合例の場合は、いずれも17μm 未満であるのに対し、本発明の範囲外である場合には、黒鉛粒径は最大約35μm までに著しく粗大になっている。また、硬さおよび冷間鍛造時の変形抵抗には、黒鉛粒径の影響は認められないが、限界圧縮率および被削性(工具寿命)は黒鉛粒径が粗大になると低下している。また、成分組成が本発明の範囲外であり黒鉛粒が粗大な場合には、焼入れ焼もどし後の機械的性質はいずれも低下している。これは、黒鉛の溶解が遅く焼入れ性が低下する結果、YSおよびTSを低下させ、一方でELおよびRAを低下させることによる。
【0058】
本発明法と従来例と比較すると、冷間鍛造時の変形抵抗および限界圧縮率はS30C鋼よりも優れている。また、被削性についてもS45C−Pb−Ca−S快削鋼よりも優れている。また、疲労強度もSCM435に比較して本発明法の方が優れている。熱間圧延条件および焼鈍条件が本発明を満足せず、成分組成のみが本発明を満足する場合も、一部の条件では冷間鍛造性および被削性について、従来鋼と同等以上の特性が得られているのでこれらの特性のみが必要な場合には、熱間圧延および焼鈍条件は本発明の範囲内である必要はない。
一方、疲労強度は、本発明の発明を適用した場合には、硬さの約1.5 〜1.7 倍の疲労強度が得られており、硬さと相関関係が認められるが、本発明の範囲外およびS45C−Pb−Ca−S鋼の場合には、硬さに見合って疲労強度が上昇していない。これは、本発明の範囲外の場合には黒鉛粒が大きいために未固溶の黒鉛が、S45C−Pb−Ca−S快削鋼の場合には被削性を向上させる粗大な被金属介在物がそれぞれ存在し、これらが疲労破壊の起点として作用することに起因している。
本発明ではCaは添加しないが、疲労強度が要求されない場合には、Caの添加は黒鉛化の促進および被削性の改善に対して有効である。
【0059】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、黒鉛化を短時間で実現することができると共に、得られる黒鉛粒も微細化できる。従って、Pbを用いるまでもなく従来のPb快削鋼と同程度以上の被削性を有し、かつ冷間鍛造性および焼入れ焼もどし後の機械的性質ならびに疲労強度にも優れた鋼材を提供することが可能となり、機械部品の製造に資するところが大である。

Claims (7)

  1. C:0.1〜1.5wt%、Si:0.5〜2.0wt%、Mn:0.1〜2.0wt%、B:0.0003〜0.0150wt%、Al:0.005〜0.1wt%、O≦0.0030wt%、P≦0.020wt%、S≦0.035wt%、N:0.0015〜0.0150wt%を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなる成分組成の鋼片を、BNおよびAlNの固溶温度以上の温度に加熱して熱間圧延を施し、次いで、300〜600℃の温度領域に加熱してその温度域に15分以上保持した後、引き続き、680〜740℃の温度領域に加熱して5時間以上保持することを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。
  2. C:0.1〜1.5wt%、Si:0.5〜2.0wt%、Mn:0.1〜2.0wt%、B:0.0003〜0.0150wt%、Al:0.005〜0.1wt%、O≦0.0030wt%、P≦0.020wt%、S≦0.035wt%、N:0.0015〜0.0150wt%を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなる成分組成の鋼片を、BNおよびAlNの固溶温度以上の温度に加熱して熱間圧延を施し、次いで、800〜950℃の温度領域に加熱したのち空冷する焼ならし処理を行い、その後、680〜740℃の温度領域に加熱して5時間以上保持することを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。
  3. C:0.1〜1.5wt%、Si:0.5〜2.0wt%、Mn:0.1〜2.0wt%、B:0.0003〜0.0150wt%、Al:0.005〜0.1wt%、O≦0.0030wt%、P≦0.020wt%、S≦0.035wt%、N:0.0015〜0.0150wt%を含み、かつREM:0.0005〜0.2wt%、Zr:0.005〜0.2wt%、Ti:0.005〜0.05wt%、V:0.05〜0.5wt%、Nb:0.005〜0.05wt%、Ni:0.10〜3.0wt%、Cu:0.1〜3.0wt%、Co:0.1〜3.0wt%およびMo:0.1〜1.0wt%のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなる成分組成の鋼片を、BNおよびAlNの固溶温度以上の温度に加熱して熱間圧延を施し、次いで、300〜600℃の温度領域に加熱してその温度域に15分以上保持した後、引き続き、680〜740℃の温度領域に加熱して5時間以上保持することを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。
  4. C:0.1〜1.5wt%、Si:0.5〜2.0wt%、Mn:0.1〜2.0wt%、B:0.0003〜0.0150wt%、Al:0.005〜0.1wt%、O≦0.0030wt%、P≦0.020wt%、S≦0.035wt%、N:0.0015〜0.0150wt%を含み、かつREM:0.0005〜0.2wt%、Zr:0.005〜0.2wt%、Ti:0.005〜0.05wt%、V:0.05〜0.5wt%、Nb:0.005〜0.05wt%、Ni:0.10〜3.0wt%、Cu:0.1〜3.0wt%、Co:0.1〜3.0wt%およびMo:0.1〜1.0wt%のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなる成分組成の鋼片を、BNおよびAlNの固溶温度以上の温度に加熱して熱間圧延を施し、次いで、800〜950℃の温度領域に加熱したのち空冷する焼ならし処理を行い、その後、680〜740℃の温度領域に加熱して5時間以上保持することを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。
  5. C:0.1〜1.5wt%、Si:0.5〜2.0wt%、Mn:0.1〜2.0wt%、B:0.0003〜0.0150wt%、Al:0.005〜0.1wt%、O≦0.0030wt%、P≦0.020wt%、S≦0.035wt%、N:0.0015〜0.0150wt%を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなる成分組成の鋼片を、BNおよびAlNの固溶温度以上の温度に加熱して熱間圧延を施し、次いで、800〜950℃の温度領域に加熱したのち空冷する焼ならし処理を行い、その後、300〜600℃の温度領域に加熱してその温度域に15分以上保持した後、引き続き、680〜740℃の温度領域に加熱して5時間以上保持することを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。
  6. C:0.1〜1.5wt%、Si:0.5〜2.0wt%、Mn:0.1〜2.0wt%、B:0.0003〜0.0150wt%、Al:0.005〜0.1wt%、O≦0.0030wt%、P≦0.020wt%、S≦0.035wt%、N:0.0015〜0.0150wt%を含み、かつREM:0.0005〜0.2wt%、Zr:0.005〜0.2wt%、Ti:0.005〜0.05wt%、V:0.05〜0.5wt%、Nb:0.005〜0.05wt%、Ni:0.10〜3.0wt%、Cu:0.1〜3.0wt%、Co:0.1〜3.0wt%およびMo:0.1〜1.0wt%のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなる成分組成の鋼片を、BNおよびAlNの固溶温度以上の温度に加熱して熱間圧延を施し、次いで、800〜950℃の温度領域に加熱したのち空冷する焼ならし処理を行い、その後、300〜600℃の温度領域に加熱してその温度域に15分以上保持した後、引き続き、680〜740℃の温度領域に加熱して5時間以上保持することを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。
  7. 請求項1〜6の何れか1に記載の方法で処理したのち、さらに焼き入れ・焼き戻しを施してなる疲労強度が高くかつ耐久比(疲労強度/硬さ)の高い機械構造用部材の製造方法。
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