JP4628123B2 - 新規麹菌及びその用途 - Google Patents
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Description
アスペルギルス・ニドランス(A. nidulans)、アスペルギルス・ニガーでは、creA遺伝子の変異を行い、グルコース抑制が解除された変異株が得られている。
また、プロテアーゼ活性及びペプチダーゼ活性が上昇している麹菌とその育種法、及び該麹菌を用いる調味料の製造法がある(特許文献4)。更に、基本的代謝プロセスの調節に関与する遺伝子の変異により、目的とする各種酵素の発現の増強を図る方法がある(特許文献5、特許文献6)。
しかしながら、これらの方法では、広範な遺伝子の発現を制御する因子を常に活性化された状態にしてしまう、すなわち目的とする酵素以外の遺伝子の発現が活性化された状態にしてしまう、あるいは生育が顕著に影響を受けるなどの問題があった。
本発明における親株として用いられる麹菌とは、分類上、こうじカビ属に属していればいかなる菌株であってもよく、特に限定はされないが、焼酎、清酒、みりん等の酒類の製造に使用できる糖質分解酵素活性及び/又はタンパク質分解酵素活性を有するアスペルギルス属に属する麹菌である。アスペルギルス・カワチ、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・オリーゼなどの麹菌が挙げられる。特に好ましくは、アスペルギルス・カワチ等に代表される白麹菌である。更に、前記した麹菌株を親株として、人為的に改変された株あるいは天然に存在する変異株なども包含される。
グルコアミラーゼ活性、酸性プロテアーゼ活性及び酸性カルボキシペプチダーゼ活性の測定は、第四回改正国税庁所定分析法により行った。第四回改正国税庁所定分析法は、例えば、平成5年2月20日、財団法人日本醸造協会発行、注解編集委員会編、「第四回改正国税庁所定分析法注解」(第四回改正版)、第211頁〜の「固体こうじ」の項に記載の方法である。
α−アミラーゼ活性の測定は、α−アミラーゼ測定キット〔キッコーマン(株)製〕を用いて行い、第四回改正国税庁所定分析法の活性に換算した。
α−グルコシダーゼ活性の測定は、今井らの方法〔日本醸造協会誌、第92巻、第4号、第296〜302頁(1997年)〕により行い、37℃で1分間に1μmoleのp−ニトロフェノールを遊離する酵素力をα−グルコシダーゼ活性の1単位とした。
β−グルコシダーゼ活性の測定は、太田らの方法〔日本醸造協会誌、第86巻、第7号、第536〜539頁(1991年)〕により行った。
セルラーゼ活性は、CMC(カルボキシメチルセルロース)糖化力で代替することとし、1%CMC溶液(50mM酢酸緩衝液、pH4.0)1mlに酵素液0.3mlを加え、40℃で60分間反応させたときに生成するグルコース量を測定し、グルコース1mgを生成する力価をセルラーゼ活性の1単位とした。
本発明でいう「親株よりもアクリフラビンに感受性を示す」とは、親株が市販の焼酎用麹菌アスペルギルス・カワチの場合、例えば、0.030%、0.035%及び0.040%のアクリフラビンを含有する寒天培地を用いて、培養8日目から培養11日目までの生育の状態を観察し、変異株が親株よりも低いアクリフラビン濃度において、生育できないことをいう。アスペルギルス・カワチ以外の他の菌株の場合、培地に含有させるアクリフラビン濃度は、各菌株に応じて適宜その濃度範囲を決定すればよい。
(菌学的性質)
1.形態的性状
形態的性状において、711Cは、親株のアスペルギルス・カワチと相違はない。
2.生理的性質
(a)生育温度:15〜45℃
(b)最適生育温度:25〜40℃
(c)生育pH:2.0〜9.0
(d)最適生育pH:3.0〜9.0
(e)グルコアミラーゼ活性(麦麹及びイモ麹を製麹後、酵素活性を測定、以
下同じ)
親株であるアスペルギルス・カワチに比べて、グルコアミラーゼ活性は顕著に上昇していた(2〜3倍)。
(f)α−アミラーゼ活性(同上)
親株であるアスペルギルス・カワチに比べて、α−アミラーゼ活性は顕著に上昇していた(約2倍)。
(g)α−グルコシダーゼ活性(同上)
親株であるアスペルギルス・カワチに比べて、α−グルコシダーゼ活性は顕著に上昇していた(2〜5倍)。
(h)β−グルコシダーゼ活性(同上)
親株であるアスペルギルス・カワチに比べて、β−グルコシダーゼ活性は顕著に上昇していた(2〜8倍)。
(i)セルラーゼ活性(同上)
親株であるアスペルギルス・カワチに比べて、セルラーゼ活性は顕著に上昇していた(2〜5倍)。
(j)酸性プロテアーゼ活性(同上)
親株であるアスペルギルス・カワチに比べて、酸性プロテアーゼ活性は顕著に上昇していた(2〜3倍)。
(k)酸性カルボキシペプチダーゼ活性(同上)
親株であるアスペルギルス・カワチに比べて、酸性カルボキシペプチダーゼ活性は顕著に上昇していた(約2倍)。
(l)酸生成
酸度は麦麹で4〜6、イモ麹で6〜9を示し、親株であるアスペルギルス・カワチと比較しても遜色のない酸度を示し、焼酎等の酒類の製造に用いる醸造用麹菌としては十分なものであった。なお、酸度の測定は、第四回改正国税庁所定分析法により行った。
市販の焼酎用白麹菌アスペルギルス・カワチの胞子を用い、麹汁〔米麹:井水=1:4(重量)比率で混合し、55℃で18時間反応させた後、そのろ液を井水でブリックス度5.0にしたもの〕寒天培地に接種し、単一コロニーを生成させた。これを別の麹汁寒天培地に移植し、胞子を形成させ、この胞子の塊に0.025%Tween80を含む滅菌水溶液を加え、胞子をスプレッターで軽くかきとり、胞子懸濁液を得た。胞子懸濁液の菌数を1×106個/mlに調整し、この胞子懸濁液に20cmの距離から15WのUVランプを1分間照射した。このときの生存率は30〜50%であった。胞子懸濁液0.1mlを50mMアリルアルコールを含有する寒天培地に塗布し、30℃で6日間培養し、生育してくる菌株の中から、親株よりもアリルアルコール耐性を示す菌株を分離した。分離株について、麹汁寒天培地で胞子を形成させ、その胞子懸濁液を、炭素源として2%デンプン及び2%グルコースを含有する液体培地(500ml容斜ヒダ付三角フラスコに培地150ml)に植菌して、35℃、140rpmで培養した。20時間後、40時間後に培養液のグルコアミラーゼ活性を測定し、親株よりも有意に高いグルコアミラーゼ活性を示す菌株をスクリーニングした。本スクリーニング方法により、親株よりも糖質分解酵素活性及び/又はタンパク質分解酵素活性が上昇した麹菌の菌株が複数得られた。それらの菌株のうち、親株よりもアクリフラビンに対して感受性を示す、親株よりもグルコアミラーゼ活性が約2倍高い菌株である711Cは、グルコアミラーゼ活性のみならず他の糖質分解酵素活性及びタンパク質分解酵素活性の活性すべてにおいて親株よりも顕著に上昇していた。
(711Cの液体培養)
711Cと親株であるアスペルギルス・カワチについて、表1に示す3種類の炭素源の培地で、実施例1と同様の条件で液体培養を行い、20時間後、40時間後に培養液のグルコアミラーゼ活性を測定した。
すなわち、図1は、711Cと親株について、各種炭素源の培地でのグルコアミラーゼ活性(U/mg菌体)を比較した図である。
40時間後のグルコアミラーゼ活性を比較すると、グルコアミラーゼの生産を抑制するといわれている4%グルコース培地では親株はほとんどグルコアミラーゼが生産されなかったのに対し、711Cはグルコアミラーゼが生産され、明らかに親株との違いが認められた。また、グルコアミラーゼの生産を誘導する4%デンプン培地においても、711Cは親株に比べてグルコアミラーゼ活性は約2倍に上昇していた。
結果を図2に示す。
すなわち、図2は、711Cと親株について、液体培地での経時的なグルコアミラーゼ活性を比較した図であり、横軸は、それぞれ培養時間(時間)、縦軸はグルコアミラーゼ活性(U/mg菌体)を意味する。
両方の培地において、711Cは培養初期から親株に比べ、約2倍高いグルコアミラーゼ活性を示した。711Cにおけるグルコアミラーゼは、グルコースによる抑制が緩和されていた。
711Cと親株であるアスペルギルス・カワチについて、麦麹、イモ麹を製麹し、50時間後の固体培養における各種酵素活性、pH、酸度、アミノ酸度を測定した。結果を表2に示す。
これらの結果により、711Cは、液体培養、固体培養それぞれにおいて、糖質分解酵素活性及び/又はタンパク質分解酵素活性が親株よりも上昇し、また、親株と同様に、生育も良好で、醸造用麹菌での実用株として優れていることを示すものである。
711Cと市販の白麹菌7株について、40mM、50mM及び60mMのアリルアルコールを含有する寒天培地での生育を調べた。各菌株について、麹汁寒天培地で単一コロニーを生成させ、これを別の麹汁寒天培地に移植し、胞子を形成させた。各菌株について、0.025%Tween80溶液により胞子懸濁液を調製し、これを爪楊枝でアリルアルコールを含有する寒天培地にスポットし、30℃で4〜6日培養を行い、各菌株の生育を比較した。結果を表4に示す。
711Cで製麹した麦麹を用いて、表6に示す仕込配合で麦焼酎の小仕込試験を行った。親株であるアスペルギルス・カワチで製麹した麦麹を用いたものを対照とした。711Cと親株を比較するため、酵素剤は添加しなかった。一次仕込は30℃一定で6日間、二次仕込は25℃一定で15日間発酵させた。
すなわち、図3は、711Cと親株について、麦焼酎の小仕込試験における炭酸ガス減量の経過を示した図であり、横軸は、醪日数(日)、縦軸は炭酸ガス減量(g)を意味する。
711C麹を用いた醪は、対照に比べ、醪の溶解性が向上し、発酵経過(炭酸ガス減量の立上がり)が良好となった。
発酵終了醪の分析結果を表7に示す。
711Cで製麹したイモ麹を用いて、表8に示す仕込配合でイモ焼酎の小仕込試験を行った。親株であるアスペルギルス・カワチで製麹したイモ麹を用いたものを対照とした。711Cと親株を比較するため、酵素剤は添加しなかった。一次仕込は30℃一定で6日間、二次仕込は30℃一定で15日間発酵させた。
すなわち、図4は、711Cと親株について、イモ焼酎の小仕込試験における炭酸ガス減量の経過を示した図であり、横軸は、醪日数(日)、縦軸は炭酸ガス減量(g)を意味する。
711C麹を使用した醪は、対照に比べ、醪の溶解性が向上し、発酵経過(炭酸ガス減量の立上がり)が良好となった。特に一次醪での差は顕著であった。
発酵終了醪の分析結果を表9に示す。
Claims (3)
- 親株が、アスペルギルス・カワチに属する麹菌であって、親株よりもアリルアルコールに耐性を示し、かつ親株よりも糖質分解酵素活性及び/又はタンパク質分解酵素活性が上昇し、さらに親株よりもアクリフラビンに対して感受性を示す、アスペルギルス属に属する麹菌711C(FERM P−20275)。
- 請求項1に記載の麹菌を用いて製麹し、得られた麹を用いる酒類の製造方法。
- 酒類が、焼酎である請求項2に記載の酒類の製造方法。
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