JP5813369B2 - アルコール発酵性酵母及びこれを用いたエタノール製造方法 - Google Patents
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Description
セルラーゼはグルコースによる生成物阻害を受けるため、グルコースが2%以上になると、セルロースからグルコースに糖化する反応が進まなくなる。
そこで、次式(1)に示すような、同時糖化発酵(併行複発酵)技術が存在する。この同時糖化発酵技術は、セルロースからグルコースに転換する糖化工程と、酵母によりグルコースからエタノールに転換する発酵工程とを同時に行う技術である。
→ グルコース(nC6H12O6)
→ エタノール(2nC2H5OH)+二酸化炭素(2nCO2) ・・・式(1)
そのため、より高い温度条件下であっても、高い効率でエタノール発酵できる酵母が求められている。
なお、従来の耐熱性を有する酵母として、特許文献1に記載された耐熱性エタノール生産酵母が知られている。
本発明の一実施の形態に係るアルコール発酵性酵母は、耐熱性を有するピキア(Pichia)属の酵母である。本実施の形態に係るアルコール発酵性酵母を使用することにより、例えばセルロースを含んだ木質系のバイオマス原料からエタノールを製造できる。
また、「耐エタノール性」とは、原料の初期エタノール濃度が0.0〜5.0%v/vの範囲内のいずれの濃度であっても、70%以上の収率でエタノール発酵することが可能な酵母の性質をいう。
また、「フルフラール耐性」とは、原料のフルフラール濃度が0.0〜0.2%v/vの範囲内のいずれの濃度であっても、25%以上の収率でエタノール発酵することが可能な酵母の性質をいう。
また、「耐塩性」とは、原料の食塩濃度が0.0〜4.0%w/vの範囲内のいずれの濃度であっても、60%以上の収率でエタノール発酵することが可能な酵母の性質をいう。
なお、前述の耐熱性、フルフラール耐性、耐エタノール性、又は耐塩性を有さないアルコール発酵性酵母を「一般酵母」という場合がある。
以下、本発明を実施例により説明する。
佐賀県にある嬉野温泉の源泉付近の土壌をサンプルとして採取した。サンプルをYPD寒天培地(酵母抽出物1%、ペプトン2%、グルコース2%含有)に塗沫し、30℃にて約2日間培養した。
培養シャーレにコロニー形成した各種酵母を、各々ピックアップしてYPD培地(酵母抽出物2%、ペプトン2%、グルコース10%含有、pH6.5〜7.0)にて純粋培養した。
純粋培養した各酵母の中から、耐熱性を有する酵母をスクリーニングした。
具体的には、培養温度を30℃、35℃、40℃、43℃、45℃とした糖液を原料として、それぞれエタノール発酵を行った。その結果、各培養温度について、エタノール発酵性の優れた株を耐熱性株とした。そして、これら耐熱性株の中でも特に耐熱性が高い株を寄託した(受託番号 NITE P−1055)。以下、本明細書中において、この寄託した株を「P−1055株」と呼ぶ。
P−1055株からDNAを抽出し、D2LSUrDNA領域をPCRにより増幅した。得られたPCR産物について、ダイレクトシーケンスにより塩基配列を決定した(図1参照)。この塩基配列に基づいて、データベース上で既知の微生物のD2LSUrDNA配列とのブラスト(BLAST)検索を行い、近縁種と推定される微生物を特定した。その結果、表1に示すように、P−1055株はピキア(Pichia)属クドリアブゼビ(Kudriavzevii)種の酵母であることが明らかとなった。
P−1055株は、以下の菌学的性質を有する。
1.細胞形状 :球状
2.コロニー形状 :白色(光沢無)、皺状
3.増殖形式 :多極出芽
4.最適生育温度 :30℃
5.最適生育pH :4.0
6.凝集性 :なし
7.資化性 :表2参照
発酵温度30℃、43℃、45℃にて、24時間バッチ発酵試験をそれぞれ実施し、P−1055株を用いてエタノールが生成されるか否かについて調べた。試験条件は以下の通りである。
<試験条件>
1.振とう数:120rpm(振幅10mm)
2.発酵時間:24時間
3.原料:YPD培地
各図から明らかなように、各発酵温度において時間が経過するに伴って、糖(グルコース)が消費されると共にエタノールが生成された。特に、発酵温度が43℃及び45℃であっても、エタノールが生成されたことから、P−1055株は、高温下でのエタノール発酵能力を有している。
発酵温度30℃、35℃、40℃、43℃、45℃にて、24時間バッチ発酵試験をそれぞれ実施し、エタノール発酵の温度依存性について調べた。試験条件は以下の通りである。
<試験条件>
1.振とう数:120rpm(振幅10mm)
2.発酵時間:24時間
3.原料:YPD培地
P−1055株、一般酵母A(P−1055株とは異なるピキア属の酵母)及び一般酵母B(サッカロマイセス・セルビジエ)は、共に発酵温度40〜45℃の温度範囲で、エタノール発酵収率が低下する。
しかし、P−1055株は、一般酵母A(P−1055株とは異なるピキア属の酵母)及び一般酵母B(サッカロマイセス・セルビジエ)よりもエタノール発酵収率の低下率が抑えられている。
一般に、エタノール濃度が高くなると、エタノール発酵収率が低下する。そこで、P−1055株について、エタノール濃度とエタノール発酵収率との関係について調べた。
発酵前のエタノール濃度(初期エタノール濃度)を変更して、それぞれ24時間バッチ発酵試験を実施した。試験条件は以下の通りである。
<試験条件>
1.振とう数:120rpm(振幅10mm)
2.発酵時間:24時間
3.原料:YPD培地
4.発酵温度:30℃
P−1055株については、初期エタノールの濃度が高くなっても、一般酵母B(サッカロマイセス・セルビジエ)よりもエタノール発酵収率の低下率が抑えられている。詳細には、P−1055株は、原料の初期エタノール濃度が0.0〜5.0%v/vの範囲内のいずれの濃度であっても、70%以上の収率でエタノール発酵することが可能であり、耐エタノール性を有している。
フルフラールは、糖の過分解物質であり、セルロースを熱処理した際に発生する。フルフラールは、発酵阻害物質である。そこで、P−1055株について、フルフラール濃度とエタノール発酵収率との関係について調べた。
フルフラール濃度を変更して、それぞれ24時間バッチ発酵試験を実施した。試験条件は以下の通りである。
<試験条件>
1.振とう数:120rpm(振幅10mm)
2.発酵時間:24時間
3.原料:YPD培地
4.発酵温度:30℃
P−1055株については、フルフラール濃度が高くなっても、一般酵母B(サッカロマイセス・セルビジエ)よりもエタノール発酵収率の低下率が抑えられている。詳細には、P−1055株は、原料のフルフラール濃度が0.0〜0.2%v/vの範囲内のいずれの濃度であっても、25%以上の収率でエタノール発酵することが可能であり、フルフラール耐性を有している。
原料のpHを変更して、それぞれ24時間バッチ発酵試験を実施し、pHに対する依存性について、一般酵母B(サッカロマイセス・セルビジエ)と比較した。試験条件は以下の通りである。
<試験条件>
1.振とう数:120rpm(振幅10mm)
2.発酵時間:24時間
3.原料:YPD培地
4.発酵温度:30℃
P−1055株については、初期pHが3〜9の範囲で、一般酵母Bよりもエタノール発酵収率が高い。従って、P−1055株は、一般酵母BよりもpHに対する依存性が低い。
原料の食塩濃度を変更して、それぞれ24時間バッチ発酵試験を実施し、耐塩性について調べた。試験条件は以下の通りである。
<試験条件>
1.振とう数:120rpm(振幅10mm)
2.発酵時間:24時間
3.原料:YPD培地
4.発酵温度:30℃
P−1055株については、原料の食塩濃度が0.0〜4.0%w/vの範囲内のいずれの濃度であっても、エタノール濃度が38g/L以上、エタノール発酵収率が60%以上である。従って、P−1055株は、耐塩性を有している。
P−1055株の耐塩性について、一般酵母A(P−1055株とは異なるピキア属の酵母)及び一般酵母B(サッカロマイセス・セルビジエ)との比較を行った。
原料の食塩濃度を4.0%w/vとし、24時間バッチ発酵試験を実施した。試験条件は以下の通りである。
<試験条件>
1.振とう数:120rpm(振幅10mm)
2.発酵時間:24時間
3.原料:YPD培地
4.発酵温度:30℃
本試験においては、P−1055株は、一般酵母A、Bよりもエタノール濃度及びエタノール発酵収率がともに高かった。
従って、P−1055株により、例えば海水や、高い塩分を含む生ごみを使用してエタノール発酵できる。
発酵温度40℃及び43℃にて、繰り返し回分によるエタノール発酵を行った。試験条件は、以下の通りである。
<試験条件>
1.発酵温度:40℃、43℃
2.攪拌速度:120rpm
3.発酵時間:24時間
4.原料:YPD培地
各図から明らかなように、各発酵温度にて、複数回エタノール発酵を行うことができた。また、各発酵温度について、エタノール発酵収率は80%以上であった。
従って、P−1055株は、発酵温度40〜43℃の範囲内のいずれの温度においても、80%以上の収率でエタノール発酵することが可能であり、耐熱性を有している。
このように、P−1055株は耐熱性を有していることから、P−1055株を使用して、同時糖化発酵によりエタノールを生成できる。
Claims (3)
- 受諾番号 NITE P−1055で寄託されたピキア・クドリアブゼビ(Pichia Kudriavzevii)であるアルコール発酵性酵母。
- 請求項1記載のアルコール発酵性酵母を使用し、セルロースを原料とするエタノール製造方法。
- 請求項2記載のエタノール製造方法において、同時糖化発酵によりエタノールを生成するエタノール製造方法。
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