JP4626129B2 - 表面処理剤及びそれで被覆した基材並びにそれらの製造方法及び品質検査方法 - Google Patents

表面処理剤及びそれで被覆した基材並びにそれらの製造方法及び品質検査方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、表面処理剤及びそれで被覆した基材並びにそれらの製造方法及び品質検査方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属、プラスチックなどの樹脂、ガラス、木材などの素材を用いて加工される各種製品の表面は、防錆、防汚、撥水、撥油などのために表面処理剤が塗布されて被覆されている。
また、野球場,催し場などのドームやサッカースタジアム,テント倉庫,体育館,商業施設などの膜構造物や、軒出テント,トラック幌,養生シートなどに使用される基材や、防雨服,カバン,椅子などに使用される防水布、ベルトコンベア,タイミングベルトなど機械用の繊維補強樹脂の基材には、透光性や防汚性を確保するために、ほぼ透明または無色透明な表面処理剤で被覆されている。なお本明細書で基材とは、上記各種の製品自体又はこれらの製品に用いられる材料を含む概念であり、材料(素材)の表面に表面処理剤を被覆した状態又は被覆する前の状態のものを含む概念として用いている。
従来にあっては、基材の表面に、防汚や耐久性の向上や接合など目的に応じた表面膜が形成されており、この表面膜としては、基材となる膜や繊維の彩色や透光性能を損なわないように、また、防汚性などを確保するために、ほぼ透明または無色透明な表面膜を使用していた。この表面膜は、例えば、特許文献1に開示されているように、フッ素系化合物をプラズマ重合を行って重合膜として形成されたり、或いは表面処理剤を製造工程において塗布することにより形成されていた。
【0003】
【特許文献1】
特開平09−226064公報(第2頁)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1のように塩化ビニル樹脂シートの基材にプラズマ重合にて透明な表面膜を形成したり、あるいは、基材に表面処理剤を塗布し乾燥や焼結して表面膜を形成する場合、これらの表面膜にピンホールが生じたり、表面処理剤の塗り漏れや斑点が生じたりすることがあり、このような表面膜の基材への定着具合を検査機械や目視等の方法で検査することは、表面処理剤がほぼ透明または無色透明であることと、被膜基材の面積が大きいために時間が掛かり、なかなか困難であるという課題がある。
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、自ら発色し、所定時間経過後に自ら退色する表面処理剤及びそれで被覆した基材並びにそれらの製造方法及び品質検査方法を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明の表面処理剤は、フッ素樹脂と、酸化チタンからなる光触媒と、加熱乾燥又は焼結することによって発色する発色剤とを含んだ表面処理剤であって、発色剤は、発色した色が紫外線照射により退色し、ほぼ透明または無色透明に変化するように構成したものである。上記構成において、好ましくは、発色剤は有機系分散剤及び/又は界面活性剤からなる
上記構成によれば、樹脂と光触媒とを含む表面処理剤中に、加熱乾燥又は焼結することによって発色をする発色剤を含ませておけば、基材の表面にこの基材の表面色と異なる色の表面処理剤を被覆することにより、基材と異なる色に発色させることができる。そして、表面処理剤の発色は、表面処理剤に含まれる光触媒への太陽光などの紫外線照射による分解作用で、所定時間経過後にほぼ透明または無色透明に退色させることができる。従って、基材は表面処理剤の光触媒作用によって防汚効果が得られると共に、最終的に、紫外線照射による発色の分解作用で基材の表面色、即ち、基材の地色又は基材に付与した彩色が表れる。
【0007】
また、本発明は、FEPからなるフッ素樹脂と酸化チタンからなる光触媒と発色剤とを含む表面処理剤が、表面に塗布された基材であって、PTFEからなるフッ素樹脂をガラス繊維からなる織物に被覆してなり、発色剤は、表面処理剤の加熱乾燥又は焼結によって発色するものであり、加熱乾燥又は焼結によって発色した色は紫外線照射により退色し、ほぼ透明または無色透明に変化するよう構成したものである。
上記構成によれば、基材表面に被覆した表面処理剤が、被覆後には基材と異なる色に発色しているが、太陽光などの紫外線を照射することにより、所定時間経過後に退色させることができるので、退色後は基材の地色又は基材を装飾している色彩など、基材の表面色を表すことができる。このように、表面処理剤は、退色してほぼ透明または無色透明になるので、基材の彩色の美観を損なうことなく使用することができる。また、表面処理剤には光触媒が含まれているので、防汚性が付与される。
【0008】
上記構成において発色剤は、好ましくは有機系分散剤及び/又は界面活性剤からなる。このガラス繊維からなる織物の表面形状は平坦、平坦でない凹凸面、メッシュ状のいずれでもよい表面処理剤で被覆した基材の表面は、好ましくは、疎水性または親水性となる。
上記構成によれば、表面処理剤がフッ素樹脂と光触媒として酸化チタンを含むので、光触媒による防汚性に優れ、疎水性または親水性の表面を有する基材が容易に得られる。また、繊維からなる織物に樹脂を被覆している基材の表面に、本発明の表面処理剤を被覆することができる。
【0009】
また、本発明の表面処理剤で被覆した基材の製造方法は、ガラス繊維からなる織物にPTFEからなるフッ素樹脂を被覆して基材とし、FEPからなるフッ素樹脂と酸化チタンからなる光触媒と発色剤とを含む表面処理剤を上記基材に塗布し、表面処理剤を加熱乾燥または焼結することによって上記発色剤を発色させ、紫外線照射により所定時間経過後に表面処理剤の発色による色を退色させ、ほぼ透明または無色透明にすることを特徴とする。
このガラス繊維からなる織物の表面形状は平坦、平坦でない凹凸面、メッシュ状のいずれでもよい発色剤して有機系分散剤及び/又は界面活性剤を用いてもよい。また、表面処理剤で被覆した基材の表面は疎水性または親水性である。
【0010】
上記の製造方法によれば、基材表面に被覆した表面処理剤は、表面処理剤を加熱乾燥又は焼結することによって、紫外線が当たらない状態では基材と異なる色に発色しているが、太陽光などの紫外線を照射することにより、所定時間経過後に退色させることができるので、退色後は基材の地色又は基材を装飾している色彩など、基材の表面色を表すことができる。このように、表面処理剤は、退色してほぼ透明または無色透明になるので、基材の彩色の美観を損なうことなく使用することができる。また、表面処理剤には光触媒が含まているので、防汚性が付与される。
【0011】
さらに、本発明の表面処理剤で被覆した基材の品質検査方法は、上記した表面処理剤で被覆した基材の何れかを使用し、表面処理剤中の上記発色剤を、上記表面処理剤を加熱乾燥又は焼結することによって基材の色と異なる色に発色させ、紫外線照射によりこの色が退色するまでの所定時間内に、上記表面処理剤で被覆した基材の品質試験を行うことを特徴とするものである。
上記品質試験は、好ましくは、前記表面処理剤の発色と前記基材の表面色との差を検出する方法により、目視又はセンサを用いて行う。
【0012】
上記構成によれば、基材に被覆する表面処理剤を加熱乾燥又は焼結することによって基材の表面色とは異なる色に発色させ、所定時間後には退色させることができるので、この所定時間内においては、基材の表面色と表面処理剤の発色との違いを容易に判別できる。したがって、基材への表面処理剤の被覆漏れなどの欠陥を、目視などで容易に検査することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態を図面により詳細に説明する。
本発明のフッ素樹脂を含む表面処理剤とこれを被覆した基材、並びにその製造方法について図1〜図3を参照して説明する。
図1及び図2は、本発明の表面処理剤で被覆した基材の構造とその製造方法を示す断面図である。図1に示すように、本発明の表面処理剤で被覆した基材1は、この基材1を構成する素材2の所定個所が、本発明の表面処理剤5で被覆されている。図1の場合には、一例として、素材2の両表面に表面処理剤5が被覆された構造を示しているが、使用目的などに応じて、素材2の片面又は表面の所定の領域だけに表面処理剤5を被覆するようにしても勿論構わない。
素材2としては、金属、プラスティックなどの樹脂、各種材料からなる織物、木材など種々の材料が適用され、その形状も任意でよい。例えば、テント材などの膜構造物に用いるシートや繊維補強樹脂基材の場合の素材2としては、図示するように、芯材となるガラス繊維,ポリエステル繊維,ナイロン繊維,綿,麻,などの繊維からなる織物3に、フッ素樹脂やPVC(ポリ塩化ビニル),PU(ポリウレタン),クロロスルフォン化ポリエチレンゴム,クロロプレンゴムなどのゴムなどから選択された樹脂4を被覆した布状,ベルト状などの材料を使用できる。
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリビニリデンフルオライド(PVDF),テトラフルオロエチレン−へキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素樹脂モノマーの重合体を用いることができる。
ここで、膜構造物に用いるシートの場合にも、素材2の表面形状は、平坦、平坦でない凹凸面、メッシュ状のいずれでも適用できる。
【0014】
次に、本発明の表面処理剤で被覆した基材の製造方法を図2を参照して説明する。
図2は、本発明の表面処理剤で被覆した基材を製造する場合の工程を順次示すフロー図である。図1のPTFE,PVDF,FEPなどのフッ素樹脂を所定の厚さに被覆したガラス繊維3からなる素材2にバーコート法を用いて表面処理剤を塗布する(図2(A)参照)。
表面処理剤5は、一例として、PVC,PU,フッ素樹脂、クロロスルフォン化ポリエチレンゴムなどのゴムなどから選択された樹脂と、光触媒と、発色剤とを含む分散剤からなる溶液で構成されている。
表面処理剤の塗布方法はバーコート法以外に、エアースプレーコート法,グラビアコート法,含浸法,スポンジ塗り法,静電スプレー法,ディッピングコート法,刷毛塗り法,フローコート法,ロールコート法などが、好適に使用することができる。
【0015】
次に、図2(B)に示すように、表面処理剤の塗膜の均一性を良くするために、素材に塗布した表面処理剤を乾燥させる。この乾燥工程の処理温度は、後述する焼結工程の処理温度よりも低い100℃以下で、所定の時間行えばよい。例えば、フッ素樹脂を用いた場合には、その種類にもよるが、数分から10分程度でよい。
この乾燥工程は、表面処理剤の組成に応じて、室温放置による自然乾燥や、風または熱源を用いた強制乾燥法で行うことができる。強制乾燥法においては、抵抗加熱などの電気炉、赤外線や遠赤外加熱などの熱源と送風機を組み合わせた装置で行うことができる。
【0016】
次に、図2(C)に示すように焼結工程を施して、表面処理剤5を素材2との密着をよくするために、被膜として形成する。この焼結工程の処理温度は、素材2表面に被覆した樹脂4の融点に応じて設定すればよい。ここで、樹脂4がフッ素樹脂の場合には、焼成温度として、フッ素樹脂の融点よりも高くすることにより、フッ素樹脂が溶融し、フッ素樹脂粉末及び光触媒粉末の各粉末間の隙間がなくなる。
この焼結工程は、例えばフッ素樹脂4がPTFEの場合には、その融点よりもおおよそ50℃高い350℃〜380℃程度の温度で10分間程度行えばよい。なお、焼結温度はフッ素樹脂の融点よりも50℃以上の高温にすると、フッ素樹脂の分解温度に達し、フッ素樹脂の分解とそれに伴う素材の損傷を招くので好ましくない。
【0017】
焼結後、冷却工程により室温に冷却される。この時には、素材2は表面処理剤5の被膜で覆われ、発色状態となっている。
ここで、冷却工程は表面処理剤4により形成される被膜を曇り(ヘイズ)がなく緻密で強靭な膜とするために、フッ素樹脂4を非結晶化させるために急冷することが好ましい。冷却工程は、焼結の後で表面処理剤5を被覆した素材2を、電気炉から取り出して室温である雰囲気において自然冷却で行うことができる。
なお、上記の製造工程は、フッ素樹脂を被覆したガラス繊維3からなる素材2にバーコート法を用いて表面処理剤を塗布する段階から説明したが、ガラス繊維3からなる素材2にフッ素樹脂を被覆する工程と、表面処理剤を塗布する工程を連続的に行ってもよい。
【0018】
図3は、本発明の表面処理剤で被覆した基材を製造した後の表面側の構造を示す模式的な拡大断面図である。
光触媒7,8は、直径が例えば1nm〜100nmのアナターゼ型TiO2 (二酸化チタン)などの光触媒微粒子であり、それぞれ、フッ素樹脂6内にある光触媒微粒子7と、フッ素樹脂の表面6aに露出した光触媒微粒子8とを示している。光触媒効果を高めるためには、フッ素樹脂6の表面6aに露出した光触媒8の面積を大きくするために、光触媒7,8の粒子径は、適度に小さいことが望ましい。
【0019】
ここで、光触媒7,8は光半導体とも呼ばれる材料である。光触媒7,8はアナターゼ型TiO2 (禁制帯幅3.2eV、波長388nm)のほかには、ルチル型TiO2 (禁制帯幅3.0eV、波長414nm)、三酸化チタン(TiO3 )などが使用できる。これらのチタン酸化物を総称して、酸化チタンと呼ぶ。
【0020】
また、表面処理剤を発色させる発色剤9は、基板に塗布しようとする色に応じて決めることができ、アゾ色素、キノン−イミン色素、キサンテン色素、フェニルメタン色素、キサンテン色素、チアゾール色素、シアニン系色素、オキソノール系色素、メロシアニン系色素、スチリル系色素、中性色素、クロロフィルやベータカロチンなどの天然色素などの色素を用いることができる。
また、発色剤9としては、表面処理剤5の主成分となる分散剤に含まれる有機系分散剤や界面活性剤などが、乾燥や焼結工程により発色する作用を利用してもよい。この場合には、表面処理剤5の樹脂と光触媒以外の分散剤成分が発色剤9を兼ねることになる。このように、本明細書で発色剤とは、色素と、表面処理剤に含まれる樹脂及び光触媒以外の分散剤などに使用される材料を含む概念として用いている。また、発色による色又は色彩とは有彩色に限らず、白又は黒の無彩色を含む。
なお後述するように、塗りムラなどの検査においては、発色剤9は、素材2の地色或いは基材に装飾した色彩と異なる色を呈するものが好ましい。
【0021】
また、上記表面処理剤5中に含まれる光触媒の配合量は任意であるが、用途、性能、塗布方法により溶液の粘度を適宜調製すればよい。素材2への熱接合性能が要求される場合の光触媒の配合量は、表面処理剤5中の固形濃度成分量として、30〜50重量%とすればよい。
上記表面処理剤5中に含まれる光触媒の配合量により、表面処理剤を被覆した基材の表面を疎水性または親水性とすることができる。
また、上記フッ素樹脂を含む表面処理剤に、導電性や光触媒効果の増強効果をさらに付与するためには、金属材料や光触媒機能補助物質を添加すればよい。金属材料としては、Ag,Al,Au,Cu,Fe,In,Ir,Ni,Os,Pd,Pt,Rh,Ru,Zu,Sb,Sn,Zu等が使用できる。
【0022】
本発明の表面処理剤で被覆した基材は、以上のように製造されるが、次に表面処理剤で被覆した基材の表面の発色と退色について説明する。
表面処理剤を塗布しこれを乾燥又は焼結して製造した、表面処理剤で被覆した基材1の表面は、太陽光に晒すこと無く或いは蛍光灯などの光に長時間あてるようにしなければ、即ち、紫外線を照射しない状態では、発色剤9を添加した表面処理剤5は当該発色剤の色に発色した状態が保たれている。
しかし、表面処理剤で被覆した基材1を、日光などの紫外線を含む光に晒すなどにより紫外線を照射すると、紫外線が直接、発色剤9を分解し発色している色彩を退色させる。さらに、紫外線が表面処理剤に含まれている光触媒7,8に照射されることにより、光触媒の有する酸化及び還元反応により発色剤9を分解し退色させる。この際、光触媒が酸化チタンの場合には、紫外線の波長は、おおよそ、400nm以下であればよい。
これにより、所定の時間の光照射の後には、表面処理剤の色を、透明またはほぼ透明とすることができる。紫外線は、太陽光のほか、蛍光灯から発せられる紫外線などでも有効である。
【0023】
このように、本発明の表面処理剤で被覆した基材の製造方法によれば、基材に被覆する表面処理剤に発色剤を添加することで、容易に、低コストで表面処理剤を発色した状態で製造することができる。これにより、本発明の表面処理剤で被覆した基材の表面処理剤は、製造直後には所定の色に発色し、その後の光照射により退色させて透明またはほぼ透明とすることができる。したがって、低コストにて、発色した表面処理剤で被覆した基材を製造することができる。
【0024】
次に、本発明の表面処理剤で被覆した基材の検査方法を説明する。
図4は、本発明の表面処理剤で被覆した基材の製造後の表面を示す模式図である。上記の表面処理剤で被覆した基材を製造した後の表面処理剤5Aの発色状態を模式的に横縞で示し、製造工程での塗り漏れなどによる欠陥部分11を白丸(○)で示している。
製造後の表面処理剤5Aは発色状態であるので、この発色と製造前の下地である素材2や基材の上にある樹脂4との表面色の色彩が異なる色彩に着色されていることにより、一目で塗り漏れなどの欠陥部分11が分かる。このように、基材の表面色とその表面を被覆する表面処理剤の発色による色彩との違いにより、欠陥部分11を目視検査やセンサなどにより容易に判別し、本発明の表面処理剤5Aで被覆した基材の品質検査を行うことができる。品質検査後は、表面処理剤の発色を紫外線を照射して積極的に退色させるか、或いは太陽光や室内の蛍光灯などに晒して自然退色させることにより、基材の地色又は装飾色が表れることになる。
【0025】
このセンサは例えば、CCDやMOS構造のカラーイメージセンサなどを使用できる。表面処理剤5Aで被覆した基材の表面全体をCCDカラーイメージセンサで測定することにより、塗り漏れなどによる欠陥部分11を自動的に検出することができる。このとき、欠陥部分11を消去可能なインキなどで印(マーク)をつけることもできる。そして、品質検査は、表面処理剤5Aが発色して退色するまでの所定時間内に行えばよい。
【0026】
このように、素材2に塗布する表面処理剤の発色は、所定の時間中は持続するので、表面処理剤5Aの塗布状態の品質検査が容易に実施できる。さらに、この発色は、屋外光や紫外線を所定の時間照射した後に、退色してほぼ透明または無色透明になるので、検査後には、基材の彩色の美観を損なうことなく使用することができる。
【0027】
次に、本発明の表面処理剤を被覆した基材の製造方法及びその品質検査方法の実施例について説明する。
(実施例1)
基材1は、ガラス繊維の両面がフッ素樹脂(PTFE)で被膜された膜構造材(FGT600:中興化成工業製)を使用した。表面処理剤5は、主成分がフッ素樹脂(FEP)で、光触媒を含む組成の、以下に示す分散剤を使用した。
粒径が1nm〜100nmのアナターゼ型TiO2 粉末(石原産業製ST01)の水系分散剤(固形分28重量%)を50g、精製水100g、FEPからなる水系分散剤(固形分58重量%)を36.2g、シリコン系界面活性剤を1.7g(全体の1重量%)などからなる材料を用意して、これらの材料を混合、攪拌し、表面処理剤5となる分散剤(FEPと酸化チタン粉末の重量比率は60:40である。)を調製した。この分散剤は、白濁溶液であった。
【0028】
上記膜構造材(FGT600:中興化成工業製)の表面のフッ素樹脂膜をエチレンアルコールを適量染み込ませたキムタオル(クレシア社製)で拭き、常温で自然乾燥させた後に、溶液をバーコート法により片面全面に塗布した。この溶液の塗布膜は、常温で自然乾燥させた後で60℃で5分間乾燥し、自然冷却させた後で、さらに約380℃で10分間加熱焼成してから自然冷却した。
溶液中のFEPの分散媒体を構成する材料の中に含まれている光触媒材料と、表面処理剤5の分散性を保ちつつ、塗工後の乾燥工程または焼結工程の熱により表面処理剤5を発色させた。この発色は褐色であり、膜構造材(FGT600:中興化成工業製)の表面のフッ素樹脂の乳白色と容易に目視にて区別できた。
なお、表面処理剤5は、塗布前においては白濁溶液である。したがって、この褐色の発色は、表面処理剤の乾燥工程または焼結工程中に、表面処理剤である分散剤中に含まれている光触媒の水系分散剤やFEP水系分散剤に含まれている有機物などの発色剤により発色しているものと推測される。
【0029】
(実施例2)
実施例1と同様に膜構造材(FGT600:中興化成工業製)の表面に溶液をバーコート法により片面全面に意図的に塗りむらが生じるように塗布した以外は、実施例1と同様に表面処理剤5を被覆した基材1を製造した。
製造した直後の表面処理剤5Aの発色は褐色であり、意図的に形成した塗りむらのある個所の表面のフッ素樹脂の乳白色とは、容易に目視にて区別できた。
【0030】
次に、上記実施例の発色と退色について説明する。
上記実施例1の被覆材を製造し直ちに、発色した表面処理剤の退色性の試験を行った。試料(各紫外線の照射時間毎に3個ずつ)の片面へ紫外線源としてブラックライトランプ(FL15BLB:三共電気社製)を用いて、所定の時間紫外線照射を行った。このときの紫外線強度は、日中の屋外の紫外線の強度よりも若干強い1.1mW/cm2 であった。なお、日中の屋外の紫外線の強度は、1mW/cm2 以下である。
図5は実施例1の試料面に紫外線を所定の時間照射したときの色変化を示す表面写真であり、それぞれ、(A)製造直後、(B)24時間(1日)後、(C)72時間(3日)後、(D)168時間(1週間)後、(E)は336時間(2週間)後、(F)504時間(3週間)後、(G)1176時間(7週間)後の表面を示している。
各試料の表面の模様は、素材2のガラス繊維によるものである。試料の製造直後と紫外線照射後1週間の発色は、それぞれ、茶色(図5(A)参照)とクリーム色(図5(D)参照)であり、その後は、徐々に退色し、7週間経過後では、ほぼ透明になった(図5(G)参照)。
このように、紫外線照射強度が1.1mW/cm2 においては、1週間(168時間)程度は、十分に発色が確認できた(図5(D)参照)。
【0031】
図6は、図5の試料面の反射率と透過率と色差を示す表である。測定方法は、JIS規格のZ8701とZ8730とZ8730である。測定は、磁気分光光度計(日立U−3410型)を使用して可視光領域(380nm〜780nm)で行った。
試料面の反射率は、試料製造直後は約26%、紫外線照射後1週間は約71%となり、紫外線照射後7週間後には、約77%まで徐々に向上して退色が進むことが分かる。色差は、紫外線照射後1週間は約36であり、紫外線照射後7週間後には、約40まで徐々に向上して退色が進むことが分かる。
図5(A)〜(C)で示したように、紫外線照射強度が1.1mW/cm2 においては、3日(72時間)程度は、十分に発色が確認できた。
この退色性の試験は、連続照射で行ったので、通常の屋外の光への露出による退色においては、1日の日照時間を考慮すれば、上記の3日経過後の発色状態は6日〜9日、即ち、約1週間程度の屋外光露出に相当することになる。
【0032】
(比較例1)
実施例1において発色の基になっていると推定される有機物を除いた以外は、実施例1と同様の表面処理剤5を調整して、膜構造材(FGT600:中興化成工業製)の表面に被覆した。
この場合には、膜構造材(FGT600:中興化成工業製)の表面のPTFEは乳白色であり、製造した直後の表面処理剤のFEPはほぼ透明であるために、その塗工品質の確認は、塗工工程における目視検査では困難であり、殆ど不可能であった。
【0033】
本発明は、上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲に含まれることはいうまでもない。例えば、上記実施の形態で説明した発色剤は、所望の発色が得られるように適宜に選択できることは勿論である。
【0034】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の表面処理剤は、発色剤を添加することにより所望の色に発色させることができ、必要により、発色している表面処理剤に紫外線を照射することにより、所定時間経過後にほぼ透明または無色透明に退色させることができる。
また、本発明の表面処理剤で被覆した基材は、表面処理剤が被覆された直後には基材の表面色と異なる色に発色しており、紫外線照射により所定時間経過後には、ほぼ透明または無色透明に退色させることができるので、必要に応じて基材の地色又は装飾した色彩の表面色を呈させることができる。このように表面処理剤は退色してほぼ透明または無色透明になるので、基材の彩色の美観を損なうことなく使用することができる。さらに、表面処理剤の発色を基材の表面色と異ならせることにより、表面処理剤の塗り斑などのない基材を容易に提供できる。また、表面処理剤には光触媒が含まれれているので、防汚性が付与される。
【0035】
さらに、本発明の表面処理剤で被覆した基材の製造方法によれば、製造後に基材表面を発色させ、かつ、所定時間の経過後に表面処理剤の色素が分解して、ほぼ透明または無色透明にできる製造方法を提供できる。
また、本発明の表面処理剤で被覆した基材は、製造直後に表面処理剤そのものが発色しているので、表面処理剤の塗布状態の品質検査を容易に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の表面処理剤で被覆した基材の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の表面処理剤で被覆した基材を製造する場合の工程を順次示すフロー図である。
【図3】本発明の表面処理剤で被覆した基材の製造した後の表面側の構造を示す拡大断面図である。
【図4】本発明の表面処理剤で被覆した基材の製造直後の表面を示す模式図である。
【図5】実施例1の試料面に所定の時間紫外線照射したときの色変化を示す表面写真であり、それぞれ、(A)製造直後、(B)24時間(1日)後、(C)72時間(3日)後、(D)168時間(1週間)後、(E)は336時間(2週間)後、(F)504時間(3週間)後、(G)1176時間(7週間)後の表面を示している。
【図6】図5の各試料面の反射率と透過率と色差を示す表である。
【符号の説明】
1 表面処理剤で被覆した基材
2 素材
3 織物
4 樹脂
5 表面処理剤
5A 製造した直後の表面処理剤
6 フッ素樹脂
7 フッ素樹脂内の光触媒
8 フッ素樹脂の表面に露出した光触媒
9 発色剤
11 欠陥部分

Claims (13)

  1. フッ素樹脂と、酸化チタンからなる光触媒と、加熱乾燥又は焼結することによって発色する発色剤と、を含んだ表面処理剤であって、
    上記発色剤は、発色した色が紫外線照射により退色してほぼ透明または無色透明に変化することを特徴とする、表面処理剤。
  2. 前記発色剤は有機系分散剤及び/又は界面活性剤からなることを特徴とする、請求項1に記載の表面処理剤。
  3. FEPからなるフッ素樹脂と酸化チタンからなる光触媒と発色剤とを含む表面処理剤が、表面に塗布された基材を備え、
    上記基材は、PTFEからなるフッ素樹脂をガラス繊維からなる織物に被覆してなり、
    上記発色剤は、上記表面処理剤の加熱乾燥又は焼結によって発色するものであり、上記加熱乾燥又は焼結によって発色した色は紫外線照射により退色し、ほぼ透明または無色透明に変化することを特徴とする、表面処理剤で被覆した基材。
  4. 前記発色剤は有機系分散剤及び/又は界面活性剤からなることを特徴とする、請求項3に記載の表面処理剤で被覆した基材。
  5. 前記ガラス繊維からなる織物の表面形状が平坦、平坦でない凹凸面、メッシュ状のいずれかであることを特徴とする、請求項3に記載の表面処理剤で被覆した基材。
  6. 前記表面処理剤で被覆した基材の表面が、疎水性または親水性となることを特徴とする、請求項3〜の何れかに記載の表面処理剤で被覆した基材。
  7. ガラス繊維からなる織物にPTFEからなるフッ素樹脂を被覆して基材とし、
    FEPからなるフッ素樹脂と、酸化チタンからなる光触媒と、発色剤と、を含む表面処理剤を上記基材に塗布し、
    上記表面処理剤を加熱乾燥または焼結することによって上記発色剤を発色させ、
    紫外線照射により所定時間経過後に上記表面処理剤の発色による色を退色させ、ほぼ透明または無色透明にすることを特徴とする、表面処理剤で被覆した基材の製造方法。
  8. 前記ガラス繊維からなる織物の表面形状を平坦、平坦でない凹凸面、メッシュ状のいずれかとすることを特徴とする、請求項に記載の表面処理剤で被覆した基材の製造方法。
  9. 前記発色剤として有機系分散剤及び/又は界面活性剤を用いることを特徴とする、請求項に記載の表面処理剤で被覆した基材の製造方法。
  10. 前記表面処理剤で被覆した基材の表面を、疎水性または親水性とすることを特徴とする、請求項に記載の表面処理剤を被覆した基材の製造方法。
  11. 請求項3〜の何れかに記載の表面処理剤で被覆した基材の品質検査方法において、
    上記表面処理剤中の上記発色剤を、加熱乾燥又は焼結することによって上記基材の色と異なる色に発色させ、紫外線照射によりこの色が退色するまでの所定時間内に、上記表面処理剤で被覆した基材の品質試験を行うことを特徴とする、表面処理剤で被覆した基材の品質検査方法。
  12. 前記品質試験を、前記表面処理剤の発色による色と前記基材の表面色との差を検出することで行うことを特徴とする、請求項11に記載の表面処理剤で被覆した基材の品質検査方法。
  13. 前記検出方法を、センサまたは目視により行うことを特徴とする、請求項12に記載の表面処理剤で被覆した基材の品検査方法。
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