JP4623400B2 - 軟磁性合金薄帯ならびにそれを用いた磁心及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁心材料に好適な単ロール法により製造される表面性状に優れた軟磁性合金薄帯、この合金薄帯を使用した高性能な磁心、これを用いた装置および表面性状に優れた軟磁性合金薄帯の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
単ロール法により製造されるアモルフアス合金、ナノ結晶合金などの軟磁性合金薄帯は軟磁気特性に優れているために、各種トランス、チョークコイル、可飽和リアクトル、センサーや磁気シールドシートなどの各種磁性部品に使用されている。単ロール法は双ロール法などの方法に比べ量産性に優れるために、現在アモルフアス軟磁性合金薄帯などの製造方法の主流となっている。図1に単ロール装置の概略図の一例を示す。母合金をセラミックスや石英製のノズル中で溶解し、圧力pで加圧し合金溶湯をノズル下部のスリットから高速に回転している冷却ロール上に噴出し、超急冷することにより合金薄帯を製造する。
この単ロール法はアモルフアス軟磁性合金薄帯の製造方法に用いられているが、ナノ結晶合金用のアモルフアス合金薄帯を製造する工程にも使用されている。
【0003】
ナノ結晶軟磁性合金は優れた軟磁気特性を示すため、コモンモードチョークコイル、高周波トランス、パルストランス等の磁心に使用されている。代表的材料としては特公平4−4393号公報や特開平1−242755号公報に記載のFe−Cu−(Nb,Ti,Zr,Hf,Mo,W,Ta)−Si−B系合金やFe−Cu−(Nb,Ti,Zr,Hf,Mo,W,Ta)−B系合金等が知られている。これらのナノ結晶合金は、液相や気相から急冷しアモルフアス合金とした後、これを熱処理により微結晶化することにより製造される。液相から急冷する方法としては単ロール法、双ロール法、遠心急冷法、回転液中紡糸法、アトマイズ法やキヤビテーション法等が知られている。また、気相から急冷する方法としては、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーテイング法等が知られている。ナノ結晶軟磁性合金はこれらの方法により作製したアモルフアス合金を微結晶化したもので結晶粒径は軟磁気特性が良好な合金では50nm以下であり、アモルフアス合金にみられるような熱的不安定性がほとんどなく、Fe系アモルフアス合金と同程度の高い飽和磁束密度と低磁歪で優れた軟磁気特性を示すことが知られている。更にナノ結晶軟磁性合金は経時変化が小さく、温度特性にも優れていることが知られている。ナノ結晶軟磁性合金用のアモルフアス合金を製造する方法としては前述のように種々の製造方法が存在するが、ナノ結晶軟磁性合金用に使用されるアモルフアス合金薄帯も量産性の観点から現在はほとんど単ロール法により製造が行われている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、単ロール法により作製される軟磁性合金薄帯は、薄帯製造中にロールと接触し凝固する側に空気巻き込みにより形成されると考えられているエアポケットが形成することが知られている。図2にロールと接触し擬固する側に形成するエアポケットの形状の概略図を示す。このエアポケットは、一般的には薄帯長手方向に伸びた形状をしておりロールと直接接触し凝固した部分よりも窪んでいる。このため、この合金薄帯を磁心に使用する場合には占積率の低下の原因になるため、エアポケットの数をできる限り減少させることが重要である。しかし、多量に広幅の薄帯を製造する量産においてはエアポケットの数を減少させ、エアポケットの面積率を減少させただけでは、小規模の装置で製造した場合に得られるような本来得られるはずの優れた磁気特性が得られないことが分った。サイズの大きいエアポケットの形成を防ぎ、エアポケットのサイズを小さくしなければ、薄帯を製造中にロール温度が上昇するとサイズの大きいエアポケット部が結晶化し磁気特性が劣下する問題があることが分った。更に、これに加えてエアポケットのくぼみの深さと相関がある面粗さRaも小さくしないと磁気特性が劣下する問題があることが分った。
【0005】
この影響は、特にナノ結晶軟磁性材料の母材となる広幅のFe−(Cu,Au)−M−Si−B系やFe−(Cu,Au)−M−B系アモルフアス合金薄帯を多量に製造する場合に顕著となり、高性能のナノ結晶磁心を量産する上で問題が生ずることが分った。また、アモルフアス状態で磁心に使用する場合であっても、特に低周波の磁気特性がエアポケット部の結晶化により劣下する問題がある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記問題点を解決するために本発明者らは鋭意検討の結果、単ロール法により製造される厚さ50μm以下の軟磁性合金薄帯であって、ロールと接触した面に形成されるエアポケットの幅が35μm以下、エアポケットの長さが150μm以下、ロールと接触した面の中心線平均粗さRaが0.5μm以下である軟磁性合金薄帯が軟磁気特性において良好であることを知見したものであって、ロール接触面のエアポケットと面粗さを同時に抑制したことに特徴がある。この薄帯は合金溶湯をスリットを有するノズルから回転する金属製の冷却ロール上に噴出し、合金溶湯出湯中の冷却ロールとノズル先端との間隔を20μm以上200μm以下、合金溶湯を出湯中の出湯圧力を270gf/cm2以上、冷却ロールの周速が22m/s以上に制御することによって、上記したロールと接触した面に形成されるエアポケットの幅が35μm以下、エアポケットの長さが150μm以下、ロールと接触した面の中心線平均粗さRaが0.5μm以下とした軟磁性合金薄帯を多量に製造できることを見出し、またこの薄帯を使用すれば優れた軟磁気特性を示す磁心及びこれを用いた装置を実現できることを確認し本発明を想到した。
尚、エアポケットは多数形成しており、サイズにもかなり分布があるが、ここで定義するエアポケットの幅はロール接触面の0.4mm×0.5mmの範囲内において多数形成しているエアポケットの中で最も幅が大きいエアポケットの幅W、エアポケットの長さはロール接触面の0.4mm×0.5mmの範囲内において多数形成しているエアポケットの中で最も長さが長いエアポケットの長さLと定義する。WおよびLは図2の模式図に示したように定義される。
またロールと接触した面の中心線平均粗さRaは、前記軟磁性合金薄帯の幅方向において、JIS B 0601にて規定されるカットオフ値λcを0.8mmとし、測定長をカットオフ値の少なくとも5倍として求めた値である。
【0007】
特に、Feを60原子%以上91原子%以下、Bを2原子%以上25原子%以下、Mで表されNb,Ti,Zr,Hf,Mo,Ta,W,Vから選ばれた少なくとも1種の元素を必須元素として含む軟磁性合金薄帯はナノ結晶合金磁心用として優れた特性を示し、本発明の効果が顕著に現れる。
更に、組成式:Fe100−x−a−y−zAxMaSiyBz(原子%)で表され、式中AはCu,Auから選ばれた少なくとも一種の元素、MはNb,Ti,Zr,Hf,Mo,Ta,W,Vからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、x,y,zおよびaはそれぞれ0.1≦x≦3、2≦a≦10、0≦y≦20、2≦z≦25を満足する組成である軟磁性合金薄帯が、高い透磁率を実現でき本発明の効果がより顕著となる。
【0008】
AはCu,Auから選ばれた少なくとも一種の元素であり、熱処理後に形成する結晶粒を微細化する効果および透磁率を向上させる効果がある。A量xが0.1原子%未満もしくは3原子%を越えると熱処理を行った磁心において透磁率の著しい減少が起こり好ましくない。特に好ましいxの範囲は0.4〜2原子%であり、この範囲で特に軟磁気特性に優れたものが実現できる。MおよびBはアモルフアス形成を促進し、熱処理しナノ結晶軟磁性合金とした後に形成する結晶粒を微細化する効果を有する元素である。M量aは1.5〜10原子%の範囲にある場合にナノ結晶軟磁性合金とした後に特に高透磁率を示し好ましい。Si量yは20原子%以下が好ましくこの範囲で高い透磁率が得られる。B量zが2原子%未満もしくは25原子%を越えると、製造性の低下や軟磁気特性の劣下があり好ましくない。より好ましいB量zの範囲は4〜15原子%である。この範囲で高い透磁率が得られる。特に好ましいB量zの範囲は6〜10原子%の範囲である。この範囲で特に高い透磁率が得られる。
【0009】
Feの一部をCo,Niから選ばれた少なくとも1種の元素で置換しても良く、磁歪や飽和磁束密度の調整あるいは耐食性の改善に効果がある。
Bの一部をAl,Ga,Ge,P,C,Be,Nから選ばれた少なくとも1種の元素で置換しても良く、磁歪調整、高周波磁気特性の改善などに効果がある。
Mの一部をMn,Cr,Ag,Zn,Sn,In,As,Sb,Sc,Y,白金族元素,Ca,Na,Ba,Sr,Li,希土類元素から選ばれた少なくとも1種の元素で置換しても良く、耐食性の改善、薄帯の表面性状の改善、磁気特性の調整等に効果がある。
本発明において、原料や溶解中に混入するO,S等の不可避不純物を含んでも良い。なお、本発明の軟磁性合金薄帯はアモルフアス状態の薄帯だけでなく、熱処理により結晶を形成したいわゆるナノ結晶合金になったものも含む。
【0010】
前記軟磁性合金薄帯を巻き回し、あるいは積層し磁心形状とし、これを熱処理し、組織の少なくとも一部に平均粒径50nm以下の結晶粒を存在させた軟磁性合金薄帯から構成された磁心は透磁率が高いあるいは低損失の高性能な磁心を実現可能であり、磁心の小型化が可能である。また、本発明は軟磁性合金薄帯を使用中すれば磁界中熱処理を行った場合は高角形比あるいは低角形比のB−H曲線を示す磁心が容易に製造可能となる。
磁心を構成する合金薄帯に形成する結晶は、Fe系の合金薄帯の場合は主にbccFe相であり、Si,B,Ge等を固溶している場合もある。また、DO3相などの規則相を一部に含むあるいは完全に規則化している場合もある。前記結晶相以外の残部は主にアモルフアス相であるが、実質的に結晶相だけからなる合金薄帯からなる磁心も本発明に含まれる。また、bcc相以外にfcc構造のCuやAuを主成分とする結晶粒が存在する合金薄帯からなる磁心も本発明に含まれる。また、強磁性化合物相は含まない方が望ましいが、比較的低い透磁率が要求されるチョークコイルなどの用途では熱処理後の磁心において一部にFe2Bなどの化合物相を含んでも良い。
【0011】
合金薄帯あるいは磁心の熱処理は通常アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス中で行なうが大気中等酸素を含む雰囲気で行っても良い。また、必要に応じて熱処理期間の少なくとも一部の期間、合金がほぼ飽和する程度以上の強さの磁界を印加して磁界中熱処理を行い誘導磁気異方性を付与しても良い。合金磁心の形状にも依存するが一般には高角形比とするために薄帯の長手方向(巻磁心の場合は磁心の磁路方向)に磁界を印加する場合は8A/m以上、低角形比とするために薄帯の幅方向(巻磁心の場合は磁心の高さ方向)に印加する場合は80kA/m以上の磁界を印加する場合が多い。熱処理は露点が−30℃以下の不活性ガス雰囲気中で行なうことが望ましく、特に露点が−60℃以下の不活性ガス雰囲気中で熱処理を行なうと透磁率もより高くなり、高透磁率が必要とされる用途に対してはより好ましい結果が得られる。熱処理の際の最高到達温度は結晶化温度以上であり、通常450℃から650℃の範囲である。一定温度に保持する熱処理パターンで熱処理を行う場合は、一定温度での保持時間は通常は量産性の観点から24時間以下であり、好ましくは4時間以下である。熱処理の際の平均昇温速度は好ましくは0.1℃/minから200℃/min、より好ましくは1℃/minから40℃/min、平均冷却速度は好ましくは0.1℃/minから3000℃/min、より好ましくは1℃/minから1000℃/minであり、この範囲で特に優れた軟磁気特性が得られる。
【0012】
また、熱処理は1段ではなく多段の熱処理や複数回の熱処理を行なうこともできる。更には合金薄帯に直流、交流あるいはパルス電流を流して合金を発熱させ熱処理することもできる。また、合金薄帯に張力や圧力を印加しながら熱処理し異方性を付与することにより磁気特性を改良することも可能である。
本発明の軟磁性合金薄帯およびそれを用いた磁心は必要に応じてSiO2、MgO、Al2O3等の粉末あるいは膜で合金薄帯表面を覆ったり、化成処理により表面に絶縁層を形成したり、アノード酸化処理により表面に酸化物層を形成し層間絶縁を行っても良い。層間絶縁処理は特に高周波における渦電流の影響を低減し、透磁率や磁心損失を更に改善する効果がある。
【0013】
また、盗難防止センサー、識別センサーなどの磁気センサーなどにも使用可能である。更に、本発明の磁心は必要に応じて樹脂含浸を行ったり、磁心の周囲のコーティングを行なったり、樹脂含浸後切断してギャップを形成し、インバータ用トランスやチョークコイル用のカットコアを作製することもできる。
前記磁心を使用したトランス、チョークコイル、可飽和リアクトル、センサーなどの磁性部品を少なくとも一部に使用した電源、インバータ、漏電ブレーカ、パソコン、通信機器、などの装置は装置の小型化、効率の向上あるいは低ノイズ化などが可能となる。
【0014】
前記軟磁性合金薄帯は、1150℃〜1450℃程度に加熱した合金溶湯をスリットを有するノズルから回転する金属製の冷却ロール上に噴出し、軟磁性合金薄帯を製造するいわゆる単ロール法により製造される。通常のアモルフアス合金薄帯では、1100℃から1450℃程度に合金溶湯を加熱し出湯するが、ナノ結晶軟磁性材料用のアモルフアス合金を作製する場合は1250℃から1400℃程度に合金溶湯を加熱し出湯するのが望ましい。出湯用のノズルのスリットは製造する薄帯の幅×0.3〜0.8mm程度の形状が好ましい。ノズル材質は石英、シリコンナイトライド、BN等のセラミックスが用いられる。ロールは量産では水冷され、CuおよびCu−Be、Cu−Zr、Cu−CrなどのCu合金が主に使用される。
この単ロール法において、合金溶湯出湯中の冷却ロールとノズル先端との間隔(ギャップ)が20μm以上200μm以下、出湯圧力を270gf/cm2以上、冷却ロールの周速を22m/s以上とすることにより、製造される薄帯のロールと接触した面に形成されるエアポケットの幅を35μm以下、エアポケットの長さを150μm以下、ロールと接触した面の中心線平均粗さRaを0.5μm以下とすることが可能であり、この薄帯で磁心を作製した場合優れた磁気特性を示す磁心が製造可能であることを見出した。特に好ましい出湯圧力は350gf/cm2以上450gf/cm2以下、特に好ましい冷却ロールの周速は22m/s以上、40m/s以下であり、この範囲で特に高い透磁率が得られやすい。必要に応じて製造はHe、Arなどの不活性ガス中で行っても良い。また、製造中にノズル付近にHeガス、COガスやCO2ガスを流し製造するとより面が改善され好ましい結果が得られる。
【0015】
特に、軟磁性合金薄帯が組成式:Fe100−x−a−y−zAxMaSiyBz(原子%)で表され、式中AはCu,Auから選ばれた少なくとも一種の元素、MはNb,Ti,Zr,Hf,Mo,Ta,W,Vからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、x,y,zおよびaはそれぞれ0.1≦x≦3、2≦a≦10、0≦y≦20、2≦z≦25を満足する組成である場合に本発明の軟磁性合金薄帯の製造方法の効果が顕著となる。
Feの一部をCo,Niから選ばれた少なくとも1種の元素で置換する、Bの一部をAl,Ga,Ge,P,C,Be,Nから選ばれた少なくとも1種の元素で置換する、Mの一部をMn,Cr,Ag,Zn,Sn,In,As,Sb,Sc,Y,白金族元素,Ca,Na,Ba,Sr,Li,希土類元素から選ばれた少なくとも1種の元素で置換しても本発明の製造方法の効果は有効である。
【0016】
幅が10mm以上の軟磁性合金薄帯を単ロール法により製造する場合に本発明の製造方法は有効である。10mm幅以上の薄帯を多量に製造した場合、本発明の製造条件をはずれるとエアポケット部が大きくなり薄帯製造中に結晶が形成するため影響が顕著に現れ、軟磁気特性が著しく劣下し好ましくない。特に、本発明の製造方法は、ナノ結晶合金に使用されるアモルフアス合金薄帯を製造する場合に効果が顕著である。
【0017】
【発明の実施の形態】
【実施例】
以下本発明を実施例にしたがって説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
原子%でSi15.6%、B6.8%、Nb2.9%、Cu0.9%、残部実質的にFeからなる合金溶湯を図1と同様な単ロール装置を用いセラミックス製のノズルのスリットから外径800mmのCu−Be合金製の冷却ロール上に出湯し、幅15mmのアモルフアス合金薄帯50kgを作製した。溶湯の出湯温度は1300℃、ノズルのスリットは15mm×0.6mm、ノズル先端と冷却ロール間のギャップは80μmとし、出湯圧力およびロール周速を変えて、幅15mmのアモルフアス合金薄帯を作製した。
次にこのアモルフアス合金薄帯の冷却ロールと接触して凝固した面(以下ロール接触面と呼ぶ)側の組織をレーザ顕微鏡で観察し、ロール面に形成したエアポケットのサイズを求めた。エアポケットは薄帯長手方向に伸びた形で凹部を形成しており、視野内に存在するもっとも大きいエアポケットの幅Wと長さLを測定した。更にロール面側のX線回折および面粗さ計により中心線平均粗さRaの測定を行った。
次に得られた薄帯をロール接触面側を外側にし、外径25mm内径20mmに巻き回し巻磁心を作製し、図3に示す熱処理パターンで磁界中熱処理を行った。磁界は巻磁心の高さ方向に印加した。この場合、角形比は磁界中熱処理しない場合に比べ低くなる。熱処理後の磁心を構成している軟磁性合金薄帯は、透過電子顕微鏡による組織観察の結果、組織の70%程度が粒径12nm程度の微細な結晶粒からなることが確認された。
【0018】
次にこの巻磁心をフェノール樹脂製のコアケースに入れ巻線を施し、直流B−Hループと50Hzにおける比初透磁率μiacを測定した。
図4に作製した前記軟磁性合金薄帯のロール接触面側の最大のエアポケットの幅W、最大のエアポケットの長さL、中心線平均粗さRa、熱処理後の前記磁心の角形比Br/Bsおよび50Hzにおける比初透磁率μiacのロール周速依存性を示す。出湯圧力は350gf/cm2一定とした。ロール周速を変えた場合、最大のエアポケットの幅Wは35μm以下であり、特に大きくなることはない。エアポケットの長さLはロール周速が22m/s以上の範囲において150μm以下であるが、22m/s未満になると急激に大きくなり150μmを超える。ロールと接触した面の中心線平均粗さRaはロール周速が22m/s以上では0.5μm以下となるが、22m/s未満では急激に大きくなる。ロール接触面のエアポケットの長さが小さくRaの小さいロール周速が22m/s以上において角形比Br/Bsが20%以下、50Hzにおける比初透磁率μiacが100000以上の優れた特性が得られる。これに対して、ロール周速が22m/s未満ではL、Raが大きくかつ、これを用い製造した磁心の角形比Br/Bsが低下しにくく、比初透磁率μiacも低下することが分る。
【0019】
図5に作製した軟磁性合金薄帯のロール接触面側の最大のエアポケットの幅W、最大のエアポケットの長さL、中心線平均粗さRa、熱処理後の前記磁心の角形比Br/Bsおよび50Hzにおける比初透磁率μiacの出湯圧力依存性を示す。ロール周速は30m/s一定とした。出湯圧力を270gf/cm2以上の範囲においてロールと接触した面に形成されるエアポケットの幅が35μm以下、ロールと接触した面の中心線平均粗さRaが0.5μm以下となり、角形比Br/Bsが20%以下、50Hzにおける比初透磁率μiacが100000以上の優れた特性が得られる。これに対して、出湯圧力が270gf/cm2未満ではW、Raが大きくかつ磁心の磁気特性も角形比Br/Bsが低下しにくく、比初透磁率μiacも低下することが分る。
以上から、出湯圧力を270gf/cm2以上、冷却ロールの周速を22m/s以上とすることにより、ロールと接触した面に形成されるエアポケットの幅が35μm以下、エアポケットの長さが150μm以下、ロールと接触した面の中心線平均粗さRaが0.5μm以下の軟磁性合金薄帯を実現でき、これを用いた磁心が優れた磁気特性を実現できることが分った。特に、出湯圧力が350gf/cm2以上450gf/cm2以下、冷却ロールの周速が22m/s以上、40m/s以下の範囲において角形比Br/Bsが低く、特に高い透磁率が得られ好ましいことが分る。
【0020】
図6に作製した熱処理前の軟磁性合金薄帯のロール接触面側の組織の例を示す。出湯圧力400gf/cm2、ロール周速32m/s本発明の製造条件で作製した軟磁性合金薄帯は、エアポケットの幅および長さが小さくエアポケットのサイズが小さいことが分る。これに対して本発明の製造条件をはずれている出湯圧力280gf/cm2、ロール周速20m/sの条件で製造した合金薄帯では長い形状のサイズの大きいエアポケットが多数存在していることが分る。
図7に図6で示した軟磁性合金薄帯のロール接触面側のX線回折パターンを示す。本発明の製造条件で作製した本発明軟磁性合金薄帯はハローパターンのみであり結晶ピークが認められないのに対して、本発明外の製造方法で製造した軟磁性合金薄帯はハローパターン以外にbccFe−Si相の(200)ピークが認められ結晶が一部存在していることが分る。透過電子顕微鏡による断面観察の結果、結晶はロール面側のエアポケット部に存在しており、熱処理後に形成する結晶よりも粒径が大きいことが確認された。このことから、本発明外の軟磁性合金薄帯からなる磁心の磁気特性が劣っている理由の一つは、エアポケット部のサイズが小さい場合に比べて、エアポケット部のサイズがある大きさより大きくなると薄帯製造の際に冷却ロールと直接接触していないこの部分の冷却がより悪くなり、薄帯を製造する際に表面結晶化が起こりやすくなるためであると考えられる。
【0021】
(実施例2)
表1に示す種々の組成の幅25mmのアモルフアス合金薄帯を図1に示す単ロール法により本発明の製造方法と本発明以外の製造方法により作製した。一方は本発明の製造方法の出湯圧力450gf/cm2、冷却ロールの周速32m/sで製造した場合、もう一方は本発明外の製造方法である出湯圧力350gf/cm2、冷却ロールの周速20m/sで作製した。作製した軟磁性合金薄帯のロール接触面側の最大のエアポケットの幅W、エアポケットの長さL、中心線平均粗さRaを測定した。次に、この合金薄帯を外径50mm、内径45mmに巻き回してトロイダル磁心を作製し、結晶化温度以上の温度に昇温し図8に示すパターンで熱処理を行った。その際、低角形比の特性が要求される用途に適する特性とするために図8に示す期間磁心の高さ方向に400kA/mの直流磁界を印加した。熱処理後の磁心材の少なくとも一部には粒径50nm以下の微細な結晶粒が形成していた。次にこの磁心の直流B−Hループと50Hzにおける比初透磁率μiacを測定した。表1に作製した軟磁性合金薄帯のロール接触面側の最大のエアポケットの幅W、エアポケットの長さL、中心線平均粗さRa、角形比Br/Bsおよび50Hzにおける比初透磁率μiacを示す。
【0022】
【表1】
【0023】
本発明製造方法で製造した合金薄帯はロール接触面側のエアポケットの長さやRaが小さく、この薄帯から構成した本発明磁心は角形比Br/Bsが小さく、比初透磁率μiacも高く優れている。これに対して、本発明外の製造方法で製造した合金薄帯はロール接触面側のエアポケットサイズやRaが大きく、この薄帯から作製した磁心は角形比Br/Bsが十分小さくならず、比初透磁率μiacも低い傾向があり、本発明磁心の方が低角形比で高い透磁率が得られ優れていることが確認された。
【0024】
(実施例3)
表2に示す種々の組成のアモルフアス合金薄帯を図1に示す単ロール法により本発明の製造方法と本発明外の製造方法により作製した。一方は本発明の製造方法の出湯圧力450gf/cm2、冷却ロールの周速32m/sで製造した場合、もう一方は本発明外の製造方法である出湯圧力250gf/cm2、冷却ロールの周速35m/sで作製した。作製した軟磁性合金薄帯のロール接触面側の最大のエアポケットの幅W、エアポケットの長さL、中心線平均粗さRaを測定した。次に、この合金薄帯を外径50mm、内径45mmに巻き回してトロイダル磁心を作製し、結晶化温度以上の温度に昇温し図9に示すパターンで熱処理を行った。その際、高角形比の特性が要求される可飽和リアクトルなどの用途に適する特性とするために図9に示す期間磁心の磁路方向に最大値が400A/mの50Hzの交流磁界を印加した。熱処理後の磁心材の少なくとも一部には粒径50nm以下の微細な結晶粒が形成していた。次にこの磁心の直流B−Hループと周波数100kHz、磁束密度の波高値0.2Tにおける単位体積当たりの磁心損失Pcvを測定した。表2に作製した軟磁性合金薄帯のロール接触面側の最大のエアポケットの幅W、エアポケットの長さL、中心線平均粗さRa、角形比Br/Bsおよび周波数100kHz,磁束密度の波高値0.2Tにおける単位体積当たりの磁心損失Pcvを示す。
【0025】
【表2】
【0026】
本発明製造方法で製造した合金薄帯はロール接触面側のエアポケットの幅やRaが小さく、この薄帯から構成した本発明磁心は角形比Br/Bsが高く優れている。これに対して、本発明外の製造方法で製造した合金薄帯はロール接触面側のエアポケットサイズやRaが大きく、この薄帯から作製した磁心は角形比Br/Bsが十分高くならず、本発明磁心の方が高角形比が得られ、磁気スイッチ、可飽和リアクトル用磁心として優れていることが確認された。
【0030】
(実施例5)
表4に示す種々の組成の幅15mm、厚さ約18μmのアモルファス合金薄帯を図1に示す単ロール法により本発明の製造方法と本発明以外の製造方法により作製した。一方は本発明の製造方法の出湯圧力450gf/cm2、冷却ロールの周速33m/sで製造し、もう一方は本発明外の製造方法である出湯圧力450gf/cm2、冷却ロールの周速20m/sで作製した。作製した軟磁性合金薄帯の冷却ロールと接触しない方(自由面側)の合金薄帯の表面粗さRz及び合金薄帯の重量より求めた平均板厚Tを測定しRf=Rz/Tなるパラメータの値を求めた。一方、冷却ロールと接触した面(ロール接触面側)に形成されるエアポケットの幅W、長さL、及びロールと接触した面の中心線平均粗さRaを測定した。また、製造時にロール面側のエアポケット部に形成する結晶の有無を調べるためにロール面側のX線回折を行った。その結果、表4に示すように本発明の製造方法で作製した本発明合金薄帯はハロ−パターンのみで結晶ピークが認められなかったが、本発明以外の製造方法で作製した合金薄帯は一部にbccFe-Si相と考えられる結晶ピークが観察された。
【0031】
次に、この合金薄帯を外径25mm、内径20mmに巻き回し、巻磁心を作製した。次にこの巻磁心を結晶化温度以上に昇温し図8に示すパターンで熱処理を行った。その際、磁心の高さ方向に400kA/mの直流磁界を印加した。次に熱処理後の試料の50Hzにおける比初透磁率μiacを測定した。熱処理後の合金薄帯は、透過電子顕微鏡による観察の結果、組織の50%以上が粒径50nm以下の微細な結晶粒からなることが確認された。表に作製した軟磁性合金薄帯の凹部の面積占有率、自由面側のRf=Rz/T、冷却ロール接触面側のエアポケットの幅W、長さL、中心線平均粗さRa、ロール面側のX線回折による結晶ピークの有無、熱処理後のμiacを示す。
【0032】
【表4】
【0033】
自由面側のRfの値については本発明範囲内のものと範囲外のものと大差は見られないが、ロール接触面側のエアポケットの幅W、長さL及び中心線平均粗さRaが本発明範囲内の合金薄帯であれば製造直後の薄帯ロール面側のX線回折パターンに結晶ピークが認められない。これに対して、本発明の範囲を外れると結晶ピークが認められ、μiacも低下することが分る。以上のことより薄帯の凹部の面積占有率やRfが小さくても本発明範囲を外れるとμiacが低下し好ましくないことが分かる。エアポケットの幅W、長さLおよびRaが本発明範囲を外れると、アモルファス合金薄帯製造の際、エアポケット部に粗大な結晶が形成しやすくなり、μiacの低下を招くものと考えられる。
【0034】
(実施例6)
原子%でCu1.1%、Nb2.3%、Mo0.7%、Si15.7%、B7.1%、残部実質的にFeからなる幅25mm厚さ18μmの本発明アモルフアス合金薄帯を単ロール法により作製した。製造の際の出湯圧力は400gf/cm2、ロール周速は32m/sとした。製造した本発明軟磁性合金薄帯を幅10mmにスリット後巻き回し、トロイダル磁心とし図3と同様な熱処理を行いナノ結晶粒からなる本発明磁心を作製し、図11に示す本発明の漏電警報器を構成した。比較のために、同組成のアモルフアス合金薄帯を出湯圧力250gf/cm2、ロール周速20m/sで製造し、同様な工程で本発明外の磁心を作製した。表5に本発明軟磁性合金薄帯および比較した軟磁性合金薄帯のロール接触面側の最大のエアポケットの幅W、エアポケットの長さL、中心線平均粗さRaを示す。
【0035】
【表5】
【0036】
本発明軟磁性合金薄帯はエアポケットの長さL、中心線平均粗さRaが小さい。構成した漏電警報器で漏電電流に対する試験を行ったところ本発明漏電警報器の方が比較した漏電警報器よりも30%小さい電流でも動作させることができ、高感度であることが確認された。
【0037】
(実施例7)
原子%でCu0.8%、Nb2.8%、W0.2%、Si13.5%、B8%、残部実質的にFeからなる幅30mm、厚さ17μmの本発明アモルフアス合金薄帯を単ロール法により作製した。製造の際の出湯圧力は400gf/cm2、ロール周速は32m/sとした。製造した本発明軟磁性合金薄帯を幅25mmにスリット後巻き回し、トロイダル磁心とし図3と同様な熱処理を行いナノ結晶粒からなる本発明磁心を作製し、図12に示す構成のインバータ回路のトランスとしてに実装した。比較のために、同組成のアモルフアス合金薄帯を出湯圧力200gf/cm2、ロール周速30m/sで製造し、同様な工程で本発明外の磁心を作製した。インバータトランスを作製し、図12に示す回路に実装した。表6に本発明軟磁性合金薄帯および比較した軟磁性合金薄帯のロール接触面側の最大のエアポケットの幅W、エアポケットの長さL、中心線平均粗さRaおよびトランス体積比を示す。
【0038】
【表6】
【0039】
トランスの体積比は比較したトランスの体積を1とした。本発明トランスは体積を15%小さくでき優れていることが確認できた。
【0040】
(実施例8)
原子%でCu1.1%、Nb2.5%、Mo1.5%、Si15.4%、B6.7%、残部実質的にFeからなる幅25mmの本発明アモルフアス合金薄帯を単ロール法により作製した。製造の際の出湯圧力は400gf/cm2、ロール周速は33m/sとした。製造した本発明軟磁性合金薄帯を幅5mmにスリット後巻き回し、トロイダル磁心とし図9と同様な熱処理を行いナノ結晶粒からなる本発明磁心を作製し、100kHzスイッチング電源の出力電圧の制御に用いる可飽和リアクトルに使用した。比較のために、同組成のアモルフアス合金薄帯を出湯圧力260gf/cm2、ロール周速20m/sで製造し、同様な工程で本発明外の可飽和リアクトルを作製し、制御用の可飽和リアクトルを使用したスイッチング電源を作製した。表7に本発明軟磁性合金薄帯および比較した軟磁性合金薄帯のロール接触面側の最大のエアポケットの幅W、エアポケットの長さL、中心線平均粗さRa、出力電流が5Aの時の出力電圧を示す。なお、この電源の可飽和リアクトルを使用している側の定格出力電圧は12V、最大出力電流は5Aである。
【0041】
【表7】
【0042】
本発明軟磁性合金薄帯はエアポケットの長さL、中心線平均粗さRaが小さい。また、本発明磁心を使用した制御用の可飽和リアクトルでは、制御電圧が低下しにくく制御範囲が広く優れており、高出力電流まで電圧が一定な高性能な電源が実現できることが分った。
【0043】
【発明の効果】
本発明によれば、磁心材料に好適な単ロール法により製造される表面性状に優れた軟磁性合金薄帯、およびこの合金薄帯を使用した高性能な磁心、装置および表面性状に優れた軟磁性合金薄帯の製造方法を提供できるためその効果は著しいものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る軟磁性合金薄帯を製造する単ロール装置の概略を示した図である。
【図2】ロール接触面側に形成するエアポケットの形状の概略図である。
【図3】本発明に係る熱処理パターンを示した図である。
【図4】本発明に係わる軟磁性合金薄帯のロール接触面側の最大のエアポケットの幅W、最大のエアポケットの長さL、中心線平均粗さRa、熱処理後の前記磁心の角形比Br/Bsおよび50Hzにおける比初透磁率μiacのロール周速依存性を示した図である。
【図5】本発明に係わる軟磁性合金薄帯のロール接触面側の最大のエアポケットの幅W、最大のエアポケットの長さL、中心線平均粗さRa、熱処理後の前記磁心の角形比Br/Bsおよび50Hzにおける比初透磁率μiacの出湯圧力依存性を示した図である。
【図6】本発明に係わる熱処理前の軟磁性合金薄帯のロール接触面側の組織の例を示した図である。
【図7】本発明に係わる軟磁性合金薄帯のロール接触面側のX線回折パターンの例を示した図である。
【図8】本発明に係る他の熱処理パターンを示した図である。
【図9】本発明に係る他の熱処理パターンを示した図である。
【図10】本発明に係る他の熱処理パターンを示した図である。
【図11】本発明に係る漏電プレーカの回路構成の一例を示した図である。
【図12】本発明に係るインバータ回路の一例を示した図である。
Claims (6)
- 単ロール法により製造される組成式:Fe100−x−a−y−zAxMaSiyBz(原子%)で表され、式中AはCu,Auから選ばれた少なくとも一種の元素、MはNb,Ti,Zr,Hf,Mo,Ta,W,Vからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、x,y,zおよびaはそれぞれ0.1≦x≦3、2≦a≦10、0≦y≦20、2≦z≦25を満足する組成で、組織の少なくとも一部に平均粒径50nm以下の結晶粒が存在する軟磁性合金薄帯であって、軟磁性合金薄帯の幅が15mm以上で、ロールと接触した面に形成されるエアポケットの幅が35μm以下、エアポケットの長さが150μm以下、ロールと接触した面の中心線平均粗さRaが0.5μm以下であることを特徴とする軟磁性合金薄帯。
- Feの一部をCo,Niから選ばれた少なくとも1種の元素で置換したことを特徴とする請求項1に記載の軟磁性合金薄帯。
- Bの一部をAl,Ga,Ge,P,C,Be,Nから選ばれた少なくとも1種の元素で置換したことを特徴とする請求項1または2に記載の軟磁性合金薄帯。
- Mの一部をMn,Cr,Ag,Zn,Sn,In,As,Sb,Sc,Y,白金族元素,Ca,Na,Ba,Sr,Li,希土類元素から選ばれた少なくとも1種の元素で置換したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の軟磁性合金薄帯。
- 請求項1乃至4のいずれかに記載の軟磁性合金薄帯を巻き回す、あるいは積層することにより構成されていることを特徴とする磁心。
- 請求項5に記載の磁心から構成された磁性部品を少なくとも一部に使用したことを特徴とする装置。
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