JP4622974B2 - 導電性ペースト、積層セラミック電子部品及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、積層セラミック電子部品の内部電極を形成するために用いる導電性ペーストと、該ペーストを用いて製造される積層セラミック電子部品と、該電子部品の製造方法とに、関する。
近年、電子機器の軽薄短小化が進んできている。これに伴い、その電子機器に使用される積層セラミック電子部品においても、より一層の小型化・高容量化が進められている。
積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサを小型化・高容量化するために最も効果的な方法は、内部電極と誘電体層を双方ともに可能な限り薄くし(薄層化)、かつそれらを可能な限り多く積層する(多層化)ことである。
積層セラミックコンデンサは、チタン酸バリウムなどに代表されるセラミック粉末とバインダを主成分とするセラミックグリーンシートに、内部電極形成用の導電性ペーストを所定パターンで印刷して積層した後、同時焼成して一体焼結させ、最後に外部電極を形成して製造される。
内部電極形成用の導電性ペーストとしては、有機バインダを溶剤に溶解させた有機ビヒクル中に導電性粉末を分散させたものが用いられる。有機ビヒクル中の有機バインダとしては、たとえばエチルセルロースなどが使用され、有機ビヒクル中の溶剤としては、ターピネオールなどが使用されてきた。
しかしながら、ターピネオールを溶剤に使用した導電性ペーストをセラミックグリーンシート上に印刷すると、にじみ等の問題を発生することがあり、きちんとした所定膜厚の薄層化された電極パターンを形成することができなかった。
また、ターピネオールを溶剤に使用した導電性ペーストを、ブチラール樹脂を有機バインダとしたセラミックグリーンシートと組み合わせて使用した場合に、導電性ペースト中の溶剤がセラミックグリーンシート中の有機バインダを膨潤または溶解させる、いわゆる「シートアタック」現象が生じる。
こうしたシートアタック現象は、セラミックグリーンシートの厚みが比較的厚いうちは実用上問題とならない。しかしながら、セラミックグリーンシートの厚みが、たとえば5μm以下と薄い場合にシートアタック現象が生じると、導電性ペーストを印刷後にセラミックグリーンシートをPETフィルムなどのキャリアシートから剥離する際に、セラミックグリーンシートが剥がれにくくなる。セラミックグリーンシートが剥がれにくくなると、この影響を受けてセラミックグリーンシートにしわや穴、亀裂などが発生し、積層工程で正常な積層体が得られない。正常な積層体が得られないと、最終物たる積層セラミック電子部品に、ショート不良、耐電圧不良(IR劣化)や、誘電体層と内部電極層との間に層間剥離現象(デラミネーション)が発生し、歩留まりの低下を招いていた。
そこで近年、このシートアタック現象を改善するための方策がいくつか提案されている。たとえば、特許文献1,2では、内部電極を形成するための導電性ペースト用の溶剤として、ブチラールとの相溶性が比較的に低い溶剤を使用することが提案されている。具体的には、特許文献1ではジヒドロターピネオールを用いた導電性ペーストが、特許文献2ではジヒドロターピニルアセテートを用いた導電性ペーストがそれぞれ提案されている。
しかしながら、これらジヒドロターピネオールやジヒドロターピニルアセテートを溶剤に用いても、少なからずシートアタック現象が起こってしまい、結果として、セラミックグリーンシートの厚みバラツキが発生していた。そして、この厚みバラツキに起因して、ショート不良、耐電圧不良(IR劣化)が悪化し、さらには、デラミネーションが発生してしまうという問題があった。そのため、こうした従来の導電性ペーストでは、積層セラミックコンデンサの更なる小型化・高容量化に限界があった。
これに対して、セラミックグリーンシートの更なる薄層化を可能とし、これにより積層セラミックコンデンサの更なる小型化・高容量化に対応するために、シートアタックの防止効果の高い種々の溶剤が検討されている。しかしながら、シートアタックは有効に防止できても、たとえば、導電性ペーストを印刷法により印刷する際に使用される印刷用のスキージゴムを膨潤/変形させてしまい、結果として、印刷精度が低下してしまうという新たな問題が発生することがあった。
特開平9−17687号公報 特許2976268号公報
本発明の目的は、積層セラミック電子部品の内部電極を形成するために用いられ、セラミックグリーンシートの厚みを薄層化した場合においても、シートアタックを有効に防止することができ、しかも、印刷法により印刷する際に使用される印刷用のスキージゴムを膨潤させることがなく、高精度に印刷可能な導電性ペーストを提供することである。また、本発明は、このような導電性ペーストを用いて製造され、ショート不良率が低く、高い耐電圧を有し、しかも層間剥離現象(デラミネーション)が有効に防止された積層セラミック電子部品と、該電子部品の製造方法と、を提供することも目的とする。
本発明者等は、セラミックグリーンシートの更なる薄層化を図り、これにより積層セラミックコンデンサの更なる小型化・高容量化に対応するために、シートアタック防止効果の高い溶剤について、鋭意検討したところ、プロピレングリコールジアセテートが、導電性ペースト中にバインダとして含有される樹脂(たとえば、エチルセルロース樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂)を良好に溶解しつつ、室温においてはもちろんのこと、溶剤の乾燥温度(たとえば、40〜90℃)においても、シートアタック防止効果に優れていることを見出した。
しかし、その一方で、プロピレングリコールジアセテートは、印刷法により印刷する際に使用される印刷用のスキージゴムを膨潤/変形させてしまうという、いわゆる「スキージアタック」現象が生じることがあることも解った。これに対して、本発明者等は、更なる検討を重ねた結果、導電性ペースト中に含有させる溶剤として、プロピレングリコールジアセテートに加えて、炭素数5〜40の脂肪族炭化水素を組み合わせて用いることにより、上記特性を保ちながら、スキージゴムの膨潤/変形の問題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明によれば、積層セラミック電子部品の内部電極を形成するために用いる導電性ペーストであって、
導電性粉末と、有機ビヒクルとを含み、
前記有機ビヒクル中の有機バインダが、エチルセルロース樹脂、アルキド樹脂およびアクリル樹脂から選択される1種以上を主成分とし、
前記有機ビヒクル中の溶剤が、プロピレングリコールジアセテート(CHCOOCHCHCHCOOCCH)と、炭素数5〜40の脂肪族炭化水素と、を含み、
前記プロピレングリコールジアセテートと炭素数5〜40の脂肪族炭化水素との比が、重量比で、プロピレングリコールジアセテート:炭素数5〜40の脂肪族炭化水素=99:1〜70:30であることを特徴とする導電性ペーストが提供される。
好ましくは、前記有機ビヒクル中の溶剤は、前記導電性粉末100重量部に対して50〜200重量部含有されている。
好ましくは、前記導電性ペーストは、ブチラール樹脂を含む厚さ5μm以下のセラミックグリーンシートと組み合わせて使用される。
好ましくは、前記有機ビヒクル中の有機バインダが、前記導電性粉末100重量部に対して1〜10重量部含有される。
本発明の導電性ペーストにおいて、前記導電性粉末としては、セラミックグリーンシートと共に同時焼成する際の焼成温度や雰囲気に耐え得るものであればよい。例えば積層セラミック電子部品が積層セラミックコンデンサである場合、Ag、Pd、Ni等の単体あるいはこれらの混合物、合金の粉末を用いることができ、特にNiまたはNi合金を主成分とすることが好ましい。積層セラミック電子部品が多層セラミック基板である場合、Ag,Pd,Cu等の単体あるいはこれらの混合物、合金の粉末を用いることができる。
本発明に係る導電性ペーストには、必要に応じて可塑剤や分散剤等の添加剤を含有していてもよい。
また、本発明によれば、ブチラール樹脂を含む厚さ5μm以下のセラミックグリーンシートと、上記いずれかの導電性ペーストを用いて所定パターンで形成される電極層とを、交互に複数重ねたグリーンセラミック積層体を用いて製造され、
内部電極層と、厚さ3μm以下の誘電体層と、を有する積層セラミック電子部品が提供される。
さらに、本発明によれば、ブチラール樹脂を含む厚さ5μm以下のセラミックグリーンシートと、上記いずれかの導電性ペーストを用いて所定パターンで形成される電極層とを、交互に複数重ねたグリーンセラミック積層体を焼成する積層セラミック電子部品の製造方法が提供される。
本発明において、導電性ペーストの溶剤として組み合わせて用いられるプロピレングリコールジアセテートと炭素数5〜40の脂肪族炭化水素とは、セラミックグリーンシートに有機バインダとして含まれるブチラール樹脂を溶解または膨潤させない(非相溶)。このため、これらの溶剤を用いた導電性ペーストを使用することにより、シートアタックを有効に防止することができる。このため、セラミックグリーンシートの厚みを、たとえば5μm以下と薄層化した場合でも、導電性ペーストを印刷後にセラミックグリーンシートをPETフィルムなどのキャリアシートから剥離するに際して、セラミックグリーンシートの剥離性が向上し、セラミックグリーンシートにしわや穴、亀裂などが発生することを効果的に抑制できる。すなわち、セラミックグリーンシートを今まで以上に薄層化しても、シートアタック現象が発生することはない。その結果、厚みが5μm以下と極めて薄いセラミックグリーンシートを適用しても正常な積層体が得られ、最終物たる積層セラミック電子部品に、ショート不良、耐電圧不良(IR劣化)や、誘電体層と内部電極層との間に層間剥離現象(デラミネーション)を発生させるおそれが少なくなる。
さらに、導電性ペーストの溶剤として、プロピレングリコールジアセテートと炭素数5〜40の脂肪族炭化水素とを所定の割合で組み合わせて用いることにより、セラミックグリーンシートへのシートアタックを有効に防止しながら、印刷法により印刷する際に使用される印刷用のスキージゴムの膨潤/変形も防止できる。そのため、高精度な印刷が可能となり、結果として、厚みバラツキの発生を防止することができる。さらには、電極層の乾燥強度を向上させることもできる。
また、本発明の導電性ペーストの溶剤として組み合わせて用いられるプロピレングリコールジアセテートおよび炭素数5〜40の脂肪族炭化水素は、室温においてはもちろんのこと、溶剤の乾燥温度(たとえば、40〜90℃)においても、シートアタックを生じないという性質を有している。すなわち、本発明によれば、溶剤の乾燥時におけるシートアタックの発生を防止することもできる。特に、従来の溶剤(たとえば、ジヒドロターピネオールやジヒドロターピニルアセテート)を使用した場合においては、室温下においてはシートアタックがあまり発生しない場合でも、たとえば、40〜90℃と温度を高くした場合に、シートアタックが顕著に発生してしまうという問題があった。これに対して、本発明によれば、このような比較的に高い温度においても、シートアタックが発生しないため、溶剤の乾燥工程におけるシートアタックの発生を防止することができ、これにより、最終物たる積層セラミック電子部品の信頼性をより高くすることができる。さらには、溶剤の乾燥温度を比較的に高くすることができるため、製造効率の向上も図ることができる。
上記に加えて、溶剤として組み合わせて用いるプロピレングリコールジアセテートおよび炭素数5〜40の脂肪族炭化水素は、導電性ペーストの有機バインダとして一般的に用いられるエチルセルロース樹脂や、アルキド樹脂、アクリル樹脂を十分に溶解する(レオロジーが良好)。すなわち、これらの樹脂に対する溶解性が高い。
以上のことから、本発明の導電性ペーストは、最終物たる積層セラミック電子部品の小型化・高容量化に極めて有益である。
すなわち、本発明によれば、積層セラミック電子部品の内部電極を形成するために用いられ、シートアタックを生じず、かつ、印刷用のスキージゴムの膨潤/変形させることのない導電性ペーストと、この導電性ペーストを用いて製造され、ショート不良率が低く、高い耐電圧を有し、しかもデラミネーションが有効に防止された積層セラミック電子部品と、該積層セラミック電子部の製造方法と、を提供することができる。
本発明に係る積層セラミック電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、積層セラミックインダクタ、積層セラミックLC部品、多層セラミック基板等が例示される。
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図、
図2は本発明の一実施形態に係る導電性ペーストの印刷方法を説明するための図、
図3は印刷用のスキージゴムの膨潤状態を説明するための図、
図4(A)〜図4(C)、図5(A)〜図5(D)は本発明の実施例および比較例に係る導電性ペーストに含有される溶剤の室温におけるセラミックグリーンシートに対する相溶性を示す顕微鏡写真、
図6(A)〜図6(C)、図7(A)〜図7(C)は本発明の実施例および比較例に係る導電性ペーストに含有される溶剤の温度50℃の条件におけるセラミックグリーンシートに対する相溶性を示す写真、
図8(A)〜図8(D)は本発明の実施例および比較例に係る導電性ペーストに含有される溶剤に対するウレタン製スキージの膨潤試験の結果を示す写真である。
本実施形態では、積層セラミック電子部品として、積層セラミックコンデンサを例示して説明する。
積層セラミックコンデンサ
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素体10を有する。このコンデンサ素体10の両側端部には、素体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4,4が形成してある。内部電極層3は、各側端面がコンデンサ素体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4,4は、コンデンサ素体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
コンデンサ素体10の外形や寸法には特に制限はなく、用途に応じて適宜設定することができ、通常、外形はほぼ直方体形状とし、寸法は通常、縦(0.4〜5.6mm)×横(0.2〜5.0mm)×高さ(0.2〜1.9mm)程度とすることができる。
誘電体層2は、後述するセラミックグリーンシートを焼成して形成され、その材質は、特に限定されず、たとえばチタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムおよび/またはチタン酸バリウムなどの誘電体材料で構成される。誘電体層2の厚みは、本実施形態では、好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下に薄層化されている。
内部電極層3は、後述する所定パターンの導電性ペーストを焼成して形成される。内部電極層3の厚さは、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下に薄層化されている。
外部電極4の材質は、通常、銅や銅合金、ニッケルやニッケル合金などが用いられるが、銀や銀とパラジウムの合金なども使用することができる。外部電極4の厚みも特に限定されないが、通常10〜50μm程度である。
積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例を説明する。
誘電体ペーストの準備
(1)まず、焼成後に図1に示す誘電体層2を構成することになるセラミックグリーンシートを製造するために、誘電体ペーストを準備する。
本実施形態では、誘電体ペーストは、セラミック粉体(誘電体原料)と有機ビヒクルとを混練して得られる有機溶剤系ペーストで構成される。
セラミック粉体としては、複合酸化物や酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択され、混合して用いることができる。セラミック粉体は、通常、平均粒子径が0.4μm以下、好ましくは0.1〜3.0μm程度の粉体として用いられる。なお、きわめて薄いセラミックグリーンシートを形成するためには、セラミックグリーンシート厚みよりも細かい粉体を使用することが望ましい。
有機ビヒクルに用いられる有機バインダは、本実施形態ではポリビニルブチラールが用いられる。そのポリビニルブチラールの重合度は、好ましくは300〜2400、より好ましくは500〜2000である。また、樹脂のブチラール化度は、好ましくは50〜81.6%、より好ましくは63〜80%であり、その残留アセチル基量は、好ましくは6%未満、より好ましくは3%以下である。また、本実施形態では、有機バインダは、一部がアセトアルデヒドによりアセタール化されたものであってもよい。
有機ビヒクルに用いられる有機溶剤も、特に限定されるものではなく、ターピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエンなどが用いられる。
誘電体ペースト中の各成分の含有量は、特に限定されるものではなく、たとえば、約1〜約50重量%の溶剤を含むように、誘電体ペーストを調製することができる。
誘電体ペースト中には、必要に応じて、各種分散剤、可塑剤、誘電体、副成分化合物、ガラスフリット、絶縁体などから選択される添加物が含有されていてもよい。誘電体ペースト中に、これらの添加物を添加する場合には、総含有量を、約10重量%以下にすることが望ましい。
本実施形態では、有機ビヒクル中の有機バインダにポリビニルブチラールを用いるので、この場合の可塑剤の含有量は、バインダ100重量部に対して、約25〜約100重量部であることが好ましい。
セラミックグリーンシートの形成
(2)次に、この誘電体ペーストを用いて、ドクターブレード法などにより、キャリアシート上に、好ましくは0.5〜30μm、より好ましくは0.5〜10μm、さらに好ましくは0.5〜5μm程度の厚みで、セラミックグリーンシートを形成する。セラミックグリーンシートは、焼成後に図1に示す誘電体層2となる。
キャリアシートとしては、たとえばPETフィルムなどが用いられ、剥離性を改善するために、シリコーンなどがコーティングしてあるものが好ましい。キャリアシートの厚みは、特に限定されないが、好ましくは5〜100μmである。
セラミックグリーンシートは、キャリアシートに形成された後に乾燥される。セラミックグリーンシートの乾燥温度は、好ましくは50〜100℃であり、乾燥時間は、好ましくは1〜20分である。
乾燥後のセラミックグリーンシートの厚みは、乾燥前に比較して、5〜25%の厚みに収縮する。本実施形態では、乾燥後のセラミックグリーンシートの厚みが、5μm以下、好ましくは3μm以下、より好ましくは1.5μm以下となるように形成する。近年望まれている薄層化の要求に応えるためである。
導電性ペーストの準備
(3)次に、焼成後に図1に示す内部電極層3を構成することになる所定パターンの電極層(内部電極パターン)を製造するために、導電性ペーストを準備する。
本実施形態で用いる導電性ペーストは、導電性粉末と有機ビヒクルとを含有する。
導電性粉末としては、特に限定されないが、Cu、Niおよびこれらの合金から選ばれる少なくとも1種で構成してあることが好ましく、より好ましくはNiまたはNi合金、さらにはこれらの混合物で構成される。
NiまたはNi合金としては、Mn、Cr、Co、Al、Pt、Au、Ru、Rh、Re、IrおよびOsから選択される少なくとも1種の元素とNiとの合金が好ましい。また、合金中のNi含有量は、好ましくは95重量%以上である。なお、NiまたはNi合金中には、P、Fe、Mgなどの各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。
このような導電性粉末は、球状、リン片状等、その形状に特に制限はなく、また、これらの形状のものが混合したものであってもよい。導電性粉末の粒子径は、通常、球状の場合、平均粒子径が0.5μm以下、好ましくは0.01〜0.4μm程度のものを用いる。より一層確実に薄層化を実現するためである。
導電性粉末は、導電性ペースト中に、好ましくは30〜60重量%、より好ましくは40〜50重量%含まれる。
有機ビヒクルは、有機バインダと溶剤とを主成分として含有するものである。
有機バインダは、本実施形態ではエチルセルロース樹脂、アルキド樹脂またはアクリル樹脂を主成分とする。また、これらは組み合わせて用いても良い。有機バインダ中における、エチルセルロース樹脂、アルキド樹脂およびアクリル樹脂の含有量は、95重量%以上であることが好ましく、より好ましくは100重量%である。
有機バインダは、導電性ペースト中に、導電性粉末100重量部に対して、好ましくは1〜10重量部で含まれる。バインダ量が少なすぎると、印刷後の皮膜強度が低下する傾向にあり、多すぎると、焼成前の電極パターンの金属充填密度が低下し、焼成後に形成される内部電極の平滑性を維持することができない。
溶剤は、プロピレングリコールジアセテート(CHCOOCHCHCHCOOCCH)と、炭素数5〜40の脂肪族炭化水素と、を組み合わせたものを主成分とする。プロピレングリコールジアセテートと、炭素数5〜40の脂肪族炭化水素と、の比率は、これらの比を「プロピレングリコールジアセテート:炭素数5〜40の脂肪族炭化水素」と表した場合に、重量比で、99:1〜70:30であり、好ましくは95:5〜80:20である。プロピレングリコールジアセテートの比率が多すぎると、導電性ペーストを印刷する際に用いられる印刷用のスキージゴムが膨潤してしまい、印刷精度が低下してしまう。一方、炭素数5〜40の脂肪族炭化水素の比率が多すぎると、バインダ樹脂に対する溶解性が低下してしまい、得られる導電性ペーストが不安定なものとなり、その結果、印刷精度が低下してしまう。
なお、プロピレングリコールジアセテートと組み合わせて用いられる脂肪族炭化水素は、その炭素数が5〜40であり、好ましくは8〜17、より好ましくは11〜15である。本実施形態では、脂肪族炭化水素として、炭素数13のトリデカンが特に好ましく用いることができる。また、脂肪族炭化水素としては、直鎖ものだけでなく、分子中に分岐構造を有するものであっても良い。
溶剤中における、プロピレングリコールジアセテートと炭素数5〜40の脂肪族炭化水素との合計の含有量は、溶剤全体100重量%に対して、95重量%以上であることが好ましく、より好ましくは100重量%である。微量であるが、これらの溶剤と組み合わせて用いることが可能な溶剤としては、ターピネオール、ジヒドロターピネオールなどがある。
本実施形態において、溶剤として組み合わせて用いられるプロピレングリコールジアセテートと炭素数5〜40の脂肪族炭化水素とは、有機バインダとしてのエチルセルロース樹脂や、アルキド樹脂、アクリル樹脂を十分に溶解する。すなわち、これらの樹脂に対する溶解性が高く、得られる導電性ペーストを安定なものとすることができる。
溶剤は、導電性ペースト中に、導電性粉末100重量部に対して、好ましくは50〜200重量部、より好ましくは80〜100重量部で含まれる。溶剤量が少なすぎるとペースト粘度が高くなりすぎ、多すぎるとペースト粘度が低くなりすぎる不都合がある。
有機ビヒクル中の上記有機バインダ及び溶剤の合計含有量は、95重量%以上であることが好ましく、より好ましくは100重量%である。ごく微量ではあるが、有機バインダ及び溶剤とともに有機ビヒクル中に含有させることが可能なものとしては、可塑剤、レベリング剤などがある。
導電性ペースト中には、上記誘電体ペーストに含まれるセラミック粉体と同じセラミック粉体が共材として含まれていても良い。共材は、焼成過程において導電性粉末の焼結を抑制する作用を奏する。セラミック粉体(共材)は、導電性ペースト中に、導電性粉末100重量部に対して、好ましくは5〜30重量部で含まれる。共材量が少なすぎると、導電性粉末の焼結抑制効果が低下し、内部電極のライン性(連続性)が悪化し、見かけの誘電率が低下する。一方で、共材量が多すぎると、内部電極のライン性が悪化しやすくなり、見かけの誘電率も低下する傾向にある。
接着性の改善のために、導電性ペーストには、可塑剤が含まれてもよい。可塑剤としては、フタル酸ベンジルブチル(BBP)などのフタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などが例示される。本実施形態では、好ましくは、アジピン酸ジオクチル(DOA)、フタル酸ブチルブチレングリコール(BPBG)、フタル酸ジドデシル(DDP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ベンジルブチル(BBP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、セバシン酸ジブチルなどが用いられる。中でも、フタル酸ジオクチル(DOP)が特に好ましい。可塑剤は、有機ビヒクル中の有機バインダ100重量部に対して、好ましくは25〜150重量部、より好ましくは25〜100重量部で含有される。可塑剤の添加により、そのペーストを用いて形成される電極層の接着力は高まり、電極層とセラミックグリーンシートとの接着力が向上する。このような効果を得るためには、可塑剤の添加量は、25重量部以上が好ましい。ただし添加量が150重量部を越えると、そのペーストを用いて形成される電極層から過剰な可塑剤が滲み出すため好ましくない。
導電性ペーストは、上記各成分を、ボールミルなどで混練し、スラリー化することにより得ることができる。
電極層の形成
(4)次に、この導電性ペーストを用いて、キャリアシート上に形成されたセラミックグリーンシートの表面に、スクリーン印刷法により、焼成後に図1に示す内部電極層3となる所定パターンの電極層(内部電極パターン)を形成する。
本実施形態では、図2に示す印刷用のスキージゴム12、所定パターンのスクリーン14および導電性ペースト16を用いて、スクリーン印刷を行い、所定パターンの電極層を形成する。具体的には、まず、セラミックグリーンシート上に所定の印刷パターンを有するスクリーン14をセットし、次いで、このスクリーン14上に導電性ペースト16を載せる。そして、印刷用のスキージゴム12を図2に示す矢印の方向に移動させることにより、スクリーン14上に載せた導電性ペースト16を掻き取りつつ、グリーンシート上に所定パターンの電極ペースト膜を印刷する。なお、導電性ペースト16としては、上記にて調製した導電性ペーストを使用する。
印刷用のスキージゴム12を構成する材質としては特に限定されないが、ポリウレタンが好ましく用いられる。
本実施形態では、導電性ペーストを構成する溶剤として、プロピレングリコールジアセテートと炭素数5〜40の脂肪族炭化水素とを組み合わせて用いるため、導電性ペーストを、印刷法により印刷する際に使用される印刷用のスキージゴム12の膨潤を有効に防止することができる。特に、導電性ペーストを構成する溶剤として、印刷用のスキージゴム12を膨潤させるものを使用してしまうと、印刷開始時には、図3(A)に示すように、スクリーンとの接触部分が平坦になっていても、複数回の印刷を繰り返すと、膨潤により、図3(B)に示すように、スクリーンとの接触部分が丸みを帯びてしまい、その結果、印刷ムラ(厚みバラツキ)が発生してしまう。なお、図3(A)、図3(B)は、印刷用のスキージゴム12を、スキージゴム12の進行方向に向かって見た場合における模式図であり、具体的には、スクリーンとの接触部分付近を模式的に示した図である。ここにおいて、図3(A)は、膨潤していないスキージゴム12を示す模式図であり、図3(B)は、溶剤により膨潤した状態のスキージゴム12を示す模式図である。
これに対して、本実施形態では、導電性ペーストに含有される溶剤を上記のような構成とすることにより、このような問題を有効に解決するものである。
特に、本発明者等は、セラミックグリーンシートの更なる薄層化を可能とするために、シートアタックの発生しない溶剤について検討したところ、プロピレングリコールジアセテートが、有機バインダ(たとえば、エチルセルロース樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂)を良好に溶解し、かつ、室温においてはもちろんのこと、溶剤の乾燥温度(たとえば、40〜90℃)においても、シートアタックを有効に防止できることを見出した。しかし、その一方で、プロピレングリコールジアセテートは単独で用いると、印刷用のスキージゴム12を膨潤させてしまうことがあることも解った。すなわち、プロピレングリコールジアセテートを単独で用い、印刷を複数回行うと、図3(B)に示すように、スキージゴム12が、膨潤/変形してしまい、スクリーンとの接触部分が丸みを帯びてしまうことが解った。
これに対して、本発明者等は、溶剤として、プロピレングリコールジアセテートに、炭素数5〜40の脂肪族炭化水素を所定量加え、これらを組み合わせて用いることにより、有機バインダの溶解性およびシートアタック防止効果を良好に保ちながら、スキージゴム12の膨潤/変形の防止を可能とするものである。
電極ペースト膜は、セラミックグリーンシート上に形成された後、電極ペースト膜中に含有されている溶媒を除去するために、温度40〜90℃の条件にて乾燥され、これにより焼成前の電極層とされる。
本実施形態では、導電性ペーストを構成する溶剤として、プロピレングリコールジアセテートと炭素数5〜40の脂肪族炭化水素とを組み合わせた溶剤を使用するため、スクリーン印刷による、電極ペースト膜形成時におけるセラミックグリーンシートへのシートアタック(すなわち、室温におけるシートアタック)を防止できることに加え、電極ペースト膜乾燥時におけるシートアタック(すなわち、高温条件におけるシートアタック)についても、有効に防止することができる。そのため、セラミックグリーンシートの厚みを、5μm以下、好ましくは3μm以下、より好ましくは1.5μm以下とした場合でも、正常な積層体が得られ、最終物たる積層セラミックコンデンサ1に、ショート不良、耐電圧不良(IR劣化)や、誘電体層2と内部電極層3との間に層間剥離現象(デラミネーション)を発生させるおそれが少なくなる。
しかも、高温条件におけるシートアタックを防止できるため、溶剤の乾燥温度を比較的に高くすることができ、製造効率の向上も図ることもできる。
電極層の厚さは、2μm以下、好ましくは0.5〜1.5μmである。電極層の厚さが厚すぎると、積層数を減少せざるをえなくなり取得容量が少なくなり、高容量化しにくくなる。一方、厚みが薄すぎると均一に形成することが困難であり、電極途切れが発生しやすくなる。
電極層の厚さは、現状の技術では前記範囲の程度であるが、電極の途切れが生じない範囲で薄い方がより望ましい。
グリーンチップの作製、焼成など
(4)次に、以上のような、所定パターンの電極層が表面に形成されたセラミックグリーンシートを複数積層して、グリーンチップを作製し、脱バインダ工程、焼成工程、必要に応じて行われるアニール工程を経て形成された、焼結体で構成されるコンデンサ素体10に、外部電極用ペーストを印刷または転写して焼成し、外部電極4,4を形成して、積層セラミックコンデンサ1が製造される。
その他の実施形態
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る積層セラミック電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る積層セラミック電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、多層セラミック基板などにも適用できることは勿論である。
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
実施例1
まず、セラミックグリーンシートを形成するための誘電体ペーストを作製した。
誘電体ペーストの作製
BaTiO系セラミック粉末と、有機バインダとしてのポリビニルブチラール(PVB)と、溶媒としてのメタノールを準備した。次に、セラミック粉末100重量部に対して、10重量部の有機バインダと、150重量部の溶媒とをそれぞれ秤量し、ボールミルで混練し、スラリー化して誘電体ペーストを得た。
セラミックグリーンシートの作製
PETフィルム上に上記誘電体ペーストをドクターブレード法により、所定厚みで塗布し、乾燥することで、乾燥後の厚みが1.5μmのセラミックグリーンシートを形成した。
溶剤とセラミックグリーンシートとの相溶性試験(室温、滴下)
上記にて作製したセラミックグリーンシートをPETフィルムから剥離し、次いで、両面テープによりスライドガラス上に貼り付けた。次いで、スライドガラス上に貼り付けたセラミックグリーンシートに、表1に示す各溶剤を室温(25℃)条件下にて滴下して、その後、室温で溶剤を自然乾燥させ、乾燥後のセラミックグリーンシート表面を顕微鏡により観察することにより、室温における相溶性を評価した。なお、各溶剤の滴下は、まず、針金の先端を溶剤にディップさせ、次いで、ディップした溶剤をシート上に滴下することにより行った。
溶剤としては、以下の表1に示す各溶剤を使用し、各溶剤を滴下した後のセラミックグリーンシートの表面の顕微鏡写真を、それぞれ、表1に記載された各図に示した。なお、表1中、各溶剤の比率は重量比で示した(表2〜表4においても同様)。
図5(B)〜図5(D)より、セラミックグリーンシート上に、ターピネオール(図5(B))、ジヒドロターピネオール(図5(C))、ジヒドロターピニルアセテート(図5(D))を滴下した場合には、セラミックグリーンシートが膨潤してしまい、セラミックグリーンシート表面の広範囲に渡り、しわが発生する結果となった。
これに対して、図4(A)〜図4(C)より、溶剤としてプロピレングリコールジアセテートとトリデカンとを組み合わせて使用した場合には、セラミックグリーンシートの膨潤が発生しないことが確認できる。なお、図4(A)〜図4(C)、図5中における、PGDAはプロピレングリコールジアセテートを意味する(図6〜図8においても同様)。
溶剤とセラミックグリーンシートとの相溶性試験(50℃、浸漬)
上記にて作製したセラミックグリーンシートを、PETフィルム上に形成されたままの状態で、表2に示す各溶剤中に浸漬させ(各溶剤は、所定のサンプル瓶に予め入れておいた。)、次いで、浸漬させたシートを温度50℃とした恒温槽中に入れ、4時間放置した。その後、恒温槽中から、各シートサンプルの入ったサンプル瓶を取り出し、50℃、4時間放置後の各シートサンプルの状態を観察した。
溶剤としては、以下の表2に示す各溶剤を使用し、各溶剤に浸漬させた後のセラミックグリーンシートの写真を、それぞれ、表2に記載された各図に示した。
図7(B)、図7(C)より、セラミックグリーンシートを50℃の条件でターピネオール中(図7(B))およびジヒドロターピネオール(図7(C))中に浸漬させた場合には、セラミックグリーンシートが膨潤してしまい、PETフィルムから剥離する結果となった。
これに対して、図6(A)〜図6(C)より、溶剤としてプロピレングリコールジアセテートとトリデカンとを組み合わせて使用した場合には、50℃の条件でセラミックグリーンシートを浸漬させた場合でも、膨潤が全く発生しないことが確認できる。
以上の結果より、所定量のプロピレングリコールジアセテートと所定量のトリデカンとを組み合わせることにより構成される溶剤は、セラミックグリーンシートに使用される有機バインダとしてのブチラール樹脂に対する相溶性が極めて低く、特に、室温条件だけでなく、高温条件(本実施例では、50℃)においても、シートアタックを有効に防止できることが確認できる。
なお、図5(A)、図7(A)からも確認できるように、溶剤としてプロピレングリコールジアセテートのみを単独で使用した場合においても、セラミックグリーンシートの膨潤が発生しない結果となった。しかしながら、プロピレングリコールジアセテートのみを単独で使用した場合には、後に説明するスキージの膨潤試験において、スキージを膨潤させる結果となり、そのため、この場合には、印刷精度に劣る結果となる(たとえば、厚みバラツキが大きくなる)と考えられる。
実施例2
ウレタン製スキージの膨潤試験
ウレタン製スキージの膨潤試験は、ウレタン製スキージ表面に、表3に示す各溶剤を滴下し、60分間放置し、その後、ウレタン製スキージについてトルエンによる洗浄および乾燥を行い、乾燥後のウレタン製スキージ表面における溶剤の跡を観察することにより行った。
溶剤としては、以下の表3に示す各溶剤を使用し、膨潤試験後のウレタン製スキージの写真を、それぞれ、表3に記載された各図に示した。
図8(A)〜図8(C)より、溶剤としてプロピレングリコールジアセテートとトリデカンとを組み合わせて使用した場合には、ウレタン製スキージの膨潤が全く発生しないことが確認できる。一方で、図8(D)より、溶剤としてプロピレングリコールジアセテートのみを使用した場合には、ウレタン製スキージが膨潤する結果となった。
実施例3
導電性ペーストの作製
導電性ペーストを作製するための有機ビヒクルを、次の方法により調製した。
すなわち、まず、有機バインダとしてのエチルセルロースと、表4に示す各溶剤を準備した。次に、溶剤100重量部に対して10重量部のエチルセルロースを溶解させて、有機ビヒクルを調製した。
次いで、導電性粉末としての平均粒径が0.2μmのNi粒子を準備し、この導電性粉末100重量部に対して、上記にて準備した有機ビヒクルを30〜70重量部添加して、ボールミルで混練することにより、スラリー化して導電性ペーストを得た。
試験用試料の作製
PETフィルム上に実施例1で作製した誘電体ペーストをドクターブレード法によって、所定厚みで塗布し、乾燥することで、厚みが1μmのセラミックグリーンシートを形成した。
次に、得られたセラミックグリーンシートの上に、上記にて作製した導電性ペーストのうち、本発明の実施例である、プロピレングリコールジアセテートとトリデカンとを組み合わせて使用した導電性ペースト(表4の試料番号1)を用いて、スクリーン印刷法によって所定パターンで形成し、厚さ約1.0μmの電極パターンを持つセラミックグリーンシート(試験用試料)を得た。
試験用試料の評価
得られた試験用試料を用い、「シートアタックの有無」と、「セラミックグリーンシートからのPETフィルムの剥離性」を評価した。
「シートアタックの有無」は、セラミックグリーンシートの電極パターン側とは反対面(PETフィルムに接する面)より目視により観察し、変形度合いと色合いによりセラミックグリーンシートの溶解度合いを確認することにより行った。その結果、セラミックグリーンシートの溶解を観察できなかった。
「セラミックグリーンシートからのPETフィルムの剥離性」については、試験用試料からPETフィルムを剥がす際の剥離強度を測定することにより行った。剥離強度の測定は、9cm×20cmのPET付セラミックグリーンシートの端(剥離のきっかけを作るのりしろ部分)にロードセルを粘着テープでつけて、上に移動させながら荷重(負荷)を計るようにして行った。その結果、剥離強度が5.0gf以下と適正な値を示した。これにより、セラミックグリーンシートに対する必要な保持力を維持できるとともに、剥離作業の効率性が期待できる。
積層セラミックチップコンデンサ試料の作製
次いで、実施例1で作製した誘電体ペーストと、上記にて作製した導電性ペーストを用い、以下のようにして、図1に示す積層セラミックチップコンデンサ1を製造した。
まず、PETフィルム上に誘電体ペーストをドクターブレード法によって、所定厚みで塗布し、乾燥することで、乾燥後の厚みが1μmのセラミックグリーンシートを形成した。本実施例では、このセラミックグリーンシートを第1グリーンシートとし、これを複数枚、準備した。
次に、得られた第1グリーンシートの上に、導電性ペーストをスクリーン印刷法によって所定パターンで形成し、厚さ約1μmの電極パターンを持つセラミックグリーンシートを得た。本実施例では、このセラミックグリーンシートを第2グリーンシートとし、これを複数枚、準備した。
次に、第1グリーンシートを厚さが150μmになるまで積層してセラミックグリーンシート群を形成した。このセラミックグリーンシート群の上に、第2グリーンシートを250枚積層した。そして、この上にさらに、前記同様の複数の第1グリーンシートからなるセラミックグリーンシート群を積層、形成し、温度70℃及び圧力1.5トン/cmの条件で加熱・加圧してグリーンセラミック積層体を得た。
次に、得られた積層体を所定サイズに切断した後、脱バインダ処理、焼成及びアニールを行い、焼結体を得た。
次に、得られた焼結体の端面をサンドブラストにて研磨した後、In−Ga合金を塗布して、試験用電極を形成し、積層セラミックチップコンデンサ試料を得た。
コンデンサ試料のサイズは、縦1.6mm×横0.8mm×高さ0.8mmであり、一対の内部電極層間に挟まれる誘電体層2の厚みは約1μm、内部電極層3の厚みは1μmであった。
コンデンサ試料の評価
得られたコンデンサ試料のショート不良特性、耐電圧特性(IR特性)及びデラミネーションの有無を評価した。
ショート不良特性については、テスターで1.5V印加、1MΩ以下品を不良と判断し、不良率が5%未満を良好とした。
耐電圧特性(IR特性)については、定格電圧(6.3V)の12倍の直流電圧を3秒印加し、抵抗が10Ω未満のコンデンサ試料を故障と判断し、平均故障率が1.9%未満を良好とした。
デラミネーションの有無については、焼上げ素地を研磨して積層状態を目視にて不具合を観察した。
結果を表4に示す。
表4に示すように、溶剤として、プロピレングリコールジアセテートとトリデカンとを組み合わせて使用した導電性ペーストを用いて作製されたコンデンサ試料(試料番号1)は、ターピネオールやジヒドロターピネオールを含む導電性ペーストを用いて作製されたコンデンサ試料と比較して、ショート不良、故障率、デラミネーションのいずれを見ても飛躍的に向上していることが確認できる。ジヒドロターピニルアセテートを含む導電性ペーストを用いて作製されたコンデンサ試料と比較した場合についても、上記性能の向上が認められる。すなわち、本発明の実施例試料については、比較例試料と比較して、信頼性の向上が確認できた。
図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。 図2は本発明の一実施形態に係る導電性ペーストの印刷方法を説明するための図である。 図3は印刷用のスキージゴムの膨潤状態を説明するための図である。 図4(A)〜図4(C)は本発明の実施例に係る導電性ペーストに含有される溶剤の室温におけるセラミックグリーンシートに対する相溶性を示す顕微鏡写真である。 図5(A)〜図5(D)は比較例に係る導電性ペーストに含有される溶剤の室温におけるセラミックグリーンシートに対する相溶性を示す顕微鏡写真である。 図6(A)〜図6(C)は本発明の実施例に係る導電性ペーストに含有される溶剤の温度50℃の条件におけるセラミックグリーンシートに対する相溶性を示す写真である。 図7(A)〜図7(C)は比較例に係る導電性ペーストに含有される溶剤の温度50℃の条件におけるセラミックグリーンシートに対する相溶性を示す写真である。 図8(A)〜図8(D)は本発明の実施例および比較例に係る導電性ペーストに含有される溶剤に対するウレタン製スキージの膨潤試験の結果を示す写真である。
符号の説明
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素体
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極
12… スキージゴム
14… スクリーン
16… 導電性ペースト

Claims (7)

  1. 積層セラミック電子部品の内部電極を形成するために用いる導電性ペーストであって、
    導電性粉末と、有機ビヒクルとを含み、
    前記有機ビヒクル中の有機バインダが、エチルセルロース樹脂、アルキド樹脂およびアクリル樹脂から選択される1種以上を主成分とし、
    前記有機ビヒクル中の溶剤が、プロピレングリコールジアセテートと、炭素数5〜40の脂肪族炭化水素と、を含み、
    前記プロピレングリコールジアセテートと炭素数5〜40の脂肪族炭化水素との比が、重量比で、プロピレングリコールジアセテート:炭素数5〜40の脂肪族炭化水素=95:5〜80:20であることを特徴とする導電性ペースト。
  2. 前記有機ビヒクル中の溶剤が、前記導電性粉末100重量部に対して50〜200重量部含有されている請求項1に記載の導電性ペースト。
  3. 前記導電性ペーストは、ブチラール樹脂を含む厚さ5μm以下のセラミックグリーンシートと組み合わせて使用される請求項1または2に記載の導電性ペースト。
  4. 前記有機ビヒクル中の有機バインダが、前記導電性粉末100重量部に対して1〜10重量部含有されている請求項1〜3のいずれかに記載の導電性ペースト。
  5. 前記導電性粉末が、NiまたはNi合金を主成分とする請求項1〜4のいずれかに記載の導電性ペースト。
  6. ブチラール樹脂を含む厚さ5μm以下のセラミックグリーンシートと、請求項1〜5のいずれかに記載の導電性ペーストを用いて所定パターンで形成される電極層とを、交互に複数重ねたグリーンセラミック積層体を用いて製造され、
    内部電極層と、厚さ3μm以下の誘電体層と、を有する積層セラミック電子部品。
  7. ブチラール樹脂を含む厚さ5μm以下のセラミックグリーンシートと、請求項1〜5のいずれかに記載の導電性ペーストを用いて所定パターンで形成される電極層とを、交互に複数重ねたグリーンセラミック積層体を焼成する積層セラミック電子部品の製造方法。
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