以下、図面を参照して本発明の実施の形態(以下、「実施形態」という。)について詳細に説明する。
図1は、車両旋回装置200の全体構成図である。本図は車両を上方から見た図である。車両旋回装置200が搭載された車両10は、右前輪14FR、左前輪14FL、右後輪14RR、左後輪14RL(以下、必要に応じてこれらを総称して「車輪14」という)からなる4つの車輪14、および車体12により構成される。
車輪14の各々に対応して、車体12には右前輪用インホイールモータ20FR、左前輪用インホイールモータ20FL、右後輪用インホイールモータ20RR、左後輪用インホイールモータ20RL(以下、必要に応じてこれらを総称して「インホイールモータ20」という)が設けられる。
インホイールモータ20の各々は、ロータ、ステータ、および減速機構など(図示せず)を有している。ロータは車輪14と同軸に回転可能に設けられる。ステータはロータを囲うように環状に巻回されたコイルによって構成され、インホイールモータ20のカバーに固定される。減速機構は、ギア機構により構成され、ロータの回転を減速して車輪14に伝達する。これにより車輪14の各々はインホイールモータ20によって独立して駆動可能とされている。
インホイールモータ20の各々は、ハイブリッド電子制御ユニット42(以下、「HV−ECU42」という)に接続される。インホイールモータ20の各々は、バッテリ(図示せず)にも接続されており、HV−ECU42は、バッテリからインホイールモータ20の各々への電力の供給を制御することによって、車輪14の各々の駆動を制御する。HV−ECU42は統合電子制御ユニット100(以下、「電子制御ユニット」は「ECU」という)に接続されており、統合ECU100から入力された演算結果に応じてインホイールモータ20の各々へ供給する電力を決定する。
インホイールモータ20の各々には、車輪速センサ22が設けられている。本実施形態においては、車輪速センサ22には、スリットが設けられモータの作動とともに回転可能な円板と光学センサを含む回転センサであるエンコーダが採用されている。なお、ホールIC方式やピックアップコイル方式による回転センサが車輪速センサ22に採用されてもよいことは勿論である。車輪速センサ22の各々は統合ECU100に接続され、車輪速センサ22の検出結果は統合ECU100に入力される。
車輪14の各々は、車輪14の各々に対応して車体12に設けられたナックルアーム40に回転可能に支持されている。ナックルアーム40は上方においてアッパーアームのジョイント部と、下方においてロアアームのジョイント部と、略鉛直な軸を中心に回動可能に支持されている。このように、アッパーアームのジョイント部およびロアアームのジョイント部によって、仮想軸としてのキングピンが形成される。車輪14はこのように形成されたキングピンを中心に転舵される。
車輪14の各々に対応して、右前輪用転舵装置25FR、左前輪用転舵装置25FL、右後輪用転舵装置25RR、左後輪用転舵装置25RL(以下、必要に応じてこれらを総称して「転舵装置25」という)が車体12に設けられている。転舵装置25の各々には、右前輪用転舵モータ24FR、左前輪用転舵モータ24FL、右後輪用転舵モータ24RR、左後輪用転舵モータ24RL(以下、必要に応じてこれらを総称して「転舵モータ24」という)が設けられている。また転舵装置25の各々は、転舵モータ24の他に、ボールねじ機構27、およびタイロッド38を有している。
タイロッド38の車輪側端部は、ナックルアーム40に回動可能に連結されている。タイロッド38の他方の外周には、雄ねじ溝が形成されている。タイロッド38の雄ねじ溝が形成された部分を覆うように、筒状に形成されたナット(図示せず)が配置される。ナットの内周には雌ねじ溝が形成されている。タイロッド38の雄ねじ溝とナットの雌ねじ溝によって形成される転動路に複数の転動ボールが配置され、ボールねじ機構27が構成される。転舵モータ24はロータとステータを有しており、転舵モータ24のロータがナットと同軸に固定される。転舵モータ24が作動することによりロータおよびナットが回転すると、ボールねじ機構27により、転舵モータ24の回転運動がタイロッド38の軸方向運動に変換され、タイロッド38が軸方向に推進する。これにより、ナックルアーム40が回動され、車輪14がキングピンを中心に転舵される。
右前輪用転舵モータ24FRは右前輪用転舵ECU26FRに接続される。同様に左前輪用転舵モータ24FLは左前輪用転舵ECU26FLに、右後輪用転舵モータ24RRは右後輪用転舵ECU26RRに、左後輪用転舵モータ24RLは左後輪用転舵ECU26RLにそれぞれ接続される(以下、必要に応じ、右前輪用転舵ECU26FR、左前輪用転舵ECU26FL、右後輪用転舵ECU26RR、左後輪用転舵ECU26RLを総称して「転舵ECU26」という)。転舵モータ24の各々は、転舵ECU26から駆動信号が入力されることによって、駆動信号に応じた角度を回転する。転舵ECU26は、転舵モータ24へ入力する駆動信号を制御することによって、車輪14の各々の転舵角度を独立に制御する。転舵ECU26の各々は統合ECU100に接続されており、統合ECU100から入力された演算結果に応じて転舵モータ24に入力する駆動信号を決定する。
また、車輪14の各々に対応して、右前輪用ブレーキ16FR、左前輪用ブレーキ16FL、右後輪用ブレーキ16RR、左後輪用ブレーキ16RL(以下、必要に応じてこれらを総称して「ブレーキ16」という)が設けられている。本実施形態では、ブレーキ16にはディスクブレーキが採用されている。ブレーキ16の各々のキャリパ内に、右前輪用ホイールシリンダ18FR、左前輪用ホイールシリンダ18FL、右後輪用ホイールシリンダ18RR、左後輪用ホイールシリンダ18RL(以下、必要に応じてこれらを総称して「ホイールシリンダ18」という)が設けられている。ブレーキ16はディスクロータ、キャリパ、ブレーキパッドなど(図示せず)を有しており、ディスクロータは車輪14と共に回転可能に固定され、キャリパおよびブレーキパッドは車体12側に固定されている。ホイールシリンダ18の液圧が増圧されると、回転体としてのブレーキパッドに押圧体としてのブレーキパッドが押圧され、車輪14に制動力が与えられる。
ホイールシリンダ18の各々は、ブレーキ液圧発生装置50に連通している。ブレーキ液圧発生装置50に含まれる後述する増圧用バルブや減圧用バルブはECB−ECU44に接続されている。ECB−ECU44は、これらのバルブの開弁および閉弁を制御することにより、車輪14の各々を独立にホイールシリンダ18の液圧を制御する。ECB−ECU44は統合ECU100に接続されており、統合ECU100から入力された演算結果を利用してこれらのバルブの開弁および閉弁を制御する。
車両10の室内にはブレーキペダル28が設けられている。ブレーキペダル28はブレーキセンサ30に接続されており、ブレーキセンサ30は統合ECU100に接続されている。ユーザとしての運転者によりブレーキペダル28が操作されると、ブレーキセンサ30はブレーキセンサ30の操作量を検出し、検出結果を統合ECU100に入力する。
また、車両10の室内には、ステアリング32が設けられている。ステアリング32は回転可能なステアリングシャフトに固定されており、ステアリングシャフトには舵角センサ34が設けられている。舵角センサ34は統合ECU100に接続されている。運転者によりステアリング32が操舵されると、舵角センサ34はステアリング32の操舵角度を検出し、検出結果を統合ECU100に入力する。
また車両10の室内には、モード切替スイッチ36が設けられている。モード切替スイッチ36は、後述する4WSモードおよび方向転換モードの運転者による選択を受け付けるモード選択手段として機能する。モード切替スイッチ36は統合ECU100に接続されており、運転者により4WSモードおよび方向転換モードのいずれかが選択を受け付けると、その選択結果は統合ECU100に入力される。
図2は、各ECUの機能ブロック図である。前述した通り、本実施形態の車両旋回装置200には、統合ECU100、転舵ECU26、ECB−ECU44、HV−ECU42などが含まれる。
統合ECU100は、演算ユニット102、RAM104、ROM106などを有する。ROM106には、様々な演算を実行するためのプログラムや、後述するヨー角−旋回中心マップや操舵角度−制駆動力マップなどのマップを含むデータが格納されている。RAM104は、舵角センサ34、ブレーキセンサ30、車輪速センサ22の検出結果を含む様々なデータが一時的に格納され、また、ROM106に格納されたプログラムの実行のためのワークエリアとして利用される。演算ユニット102は、ROM106に格納されたプログラムやRAM104に格納されたデータなどを利用して、後述する4輪転舵角演算、4輪旋回半径演算、4輪駆動力分配演算、ヨーレート推定演算、ヨー角推定演算など、様々な演算を実行する。
統合ECU100は転舵ECU26に接続されており、算出された車輪14の各々の目標転舵角度を転舵ECU26に入力する。転舵ECU26は、入力された演算結果を利用して車輪14の各々の目標転舵角度を決定し、転舵モータ24の各々に駆動信号を入力して車輪14を目標転舵角度に転舵する。したがって、統合ECU100は、移動された旋回中心Pを中心に旋回するよう各々の車輪14の転舵角度を決定する転舵制御手段として機能し、転舵装置25は、移動された旋回中心Pを中心に旋回するよう各々の車輪14を独立に転舵する転舵手段として機能する。
ブレーキ液圧発生装置50には、右前輪増圧用バルブ52FR、左前輪増圧用バルブ52FL、右後輪増圧用バルブ52RR、左後輪増圧用バルブ52RL(以下、必要に応じてこれらを総称して「増圧用バルブ52」という)が設けられている。増圧用バルブ52は、リニアソレノイドバルブによって構成され、入力された電流のデューティーに応じて開弁または閉弁する。増圧用バルブ52が開弁されることにより、アキュムレータ(図示せず)からホイールシリンダ18へ作動液としてのブレーキオイルが供給され、ホイールシリンダ圧が増圧されることによって車輪14へ与えられる制動力が増加される。
また、ブレーキ液圧発生装置50には、右前輪減圧用バルブ54FR、左前輪減圧用バルブ54FL、右後輪減圧用バルブ54RR、左後輪減圧用バルブ54RL(以下、必要に応じてこれらを総称して「減圧用バルブ54」という)が設けられている。減圧用バルブ54は、リニアソレノイドバルブによって構成され、入力された電流のデューティーに応じて開弁または閉弁する。減圧用バルブ54が開弁されることにより、ホイールシリンダ18の作動液がリザーバへ逃がされ、ホイールシリンダ圧が減圧されることによって車輪14へ与えられる制動力が減少される。
統合ECU100はECB−ECU44に接続されており、算出されたホイールシリンダ18の各々の目標ホイールシリンダ圧をECB−ECU44に入力する。ECB−ECU44は、入力された演算結果を利用してホイールシリンダ18の各々の目標ホイールシリンダ圧を決定し、増圧用バルブ52の各々、および減圧用バルブ54の各々を駆動する駆動回路に制御電流を供給する。駆動回路の各々は、供給された制御電流に応じたデューティーで増圧用バルブ52また減圧用バルブ54に電流を供給する。これによって、ECB−ECU44は、各々のホイールシリンダ18の液圧を目標ホイールシリンダ圧に制御する。
統合ECU100はHV−ECU42に接続されており、算出された車輪14の各々の目標駆動トルクをHV−ECU42に入力する。HV−ECU42は、入力された演算結果を利用して車輪14の各々の目標駆動トルクを決定し、インホイールモータ20の各々に目標駆動トルクを発生させるための電流をバッテリからインホイールモータ20の各々に供給して目標駆動トルクを発生させる。したがって、統合ECU100は、移動された旋回中心Pを中心に旋回するよう各々の車輪14の駆動トルクを決定する駆動制御手段として機能し、インホイールモータ20は、決定された駆動トルクによって各々の車輪14を独立に駆動する駆動手段として機能する。
図3は、4WSモードが選択された場合の車輪14の各々の転舵角度や旋回中心などを示す図である。本図は車両10を上方から見た図である。車両10の最前部から車両10の左右方向に伸びる直線と、車両10の最後部から車両10の左右方向に伸びる直線と、右前輪14FRの転舵中心および右後輪14RRの転舵中心を通過する直線と、左前輪14FLの転舵中心および左後輪14RLの転舵中心を通過する直線とによって囲まれる領域を車両内部領域A0とする。
右前輪キングピン位置KFRと左前輪キングピン位置KFLとを結ぶ直線の中点を前輪キングピン中点M1とし、右後輪キングピン位置KRRと左後輪キングピン位置KRLとを結ぶ直線の中点を後輪キングピン中点M2とする。前輪キングピン中点M1と後輪キングピン中点M2とを結ぶ直線の中点を原点Oとする。原点Oから前輪キングピン中点M1に向かう方向、すなわち原点Oから車両前方をxの正方向とする。また原点Oから車両左方向をyの正方向とする。前輪のキングピン位置と後輪のキングピン位置との距離を示すホイールベースを2Lとする。
右前輪キングピン位置KFRのx座標を右前輪キングピンx座標xFR、y座標を右前輪キングピンy座標yFRとする。左前輪キングピン位置KFLのx座標を左前輪キングピンx座標xFL、y座標を左前輪キングピンy座標yFLとする。右後輪キングピン位置KRRのx座標を右後輪キングピンx座標xRR、y座標を右後輪キングピンy座標yRRとする。左後輪キングピン位置KRLのx座標を左後輪キングピンx座標xRL、y座標を左後輪キングピンy座標yRLとする。なお、旋回中心Pのx座標を旋回中心x座標xP、y座標を旋回中心y座標yPとする。
右前輪14FRの車輪速を右前輪速度VFR、左前輪14FLの車輪速を左前輪速度VFL、右後輪14RRの車輪速を右後輪速度VRR、左後輪14RLの車輪速を左後輪速度VRLとする。車輪速度は、車両が前進するときの回転方向に車輪14が回転した場合に正の値となるものとする。たとえば、右前輪14FRおよび右後輪14RRであれば、車両右側から見て右回転したときに右前輪速度VFRおよび右後輪速度VRRが正の値となる。また、左前輪14FLおよび左後輪14RLであれば、車両左側から見て左回転したときに左前輪速度VFLおよび左後輪速度VRLが正の値となる。
また右前輪14FRの転舵角度を右前輪転舵角度δFR、左前輪14FLの転舵角度を左前輪転舵角度δFL、右後輪14RRの転舵角度を右後輪転舵角度δRR、左後輪14RLの転舵角度を左後輪転舵角度δRLとする。車輪14の回転軸がy軸と平行となったときをゼロとして、車輪14の転舵角度がゼロの状態から左回転方向に車輪14が転舵されたときに、転舵角度が正の値となるものとする。なお、ステアリング32が運転者によって操舵された操舵角度を操舵角度δMAとする。
運転者によってモード切替スイッチ36が操作され、4WSモードが選択されると、モード切替スイッチ36への選択結果が統合ECU100に入力される。統合ECU100は、4WSモードが選択された場合、4WSモード用の旋回中心を演算するためのプログラムを実行する。4WSモードにおいては、統合ECU100は、右前輪14FRおよび左前輪14FLを同じ方向に転舵するよう、目標転舵角度を演算する。すなわち、統合ECU100は、右前輪転舵角度δFRと右後輪転舵角度δRRの正・負が同じになるように、目標転舵角度を演算する。同様に統合ECU100は、左前輪14FLおよび左後輪14RLを同じ方向に転舵するよう、目標転舵角度を演算する。すなわち、統合ECU100は、左前輪転舵角度δFLと左後輪転舵角度δRLの正・負が同じになるように目標転舵角度を演算する。
このため、4WSモードにおいては、統合ECU100は、旋回中心Pを車両内部領域A0の外に設定する。したがって、4WSモードは、車両内部領域A0の外に旋回中心が設定される第1モードとして機能する。実際には、4WSモードにおいて旋回中心Pが位置することができる領域としての4WSモード時旋回可能領域A1は、転舵し得る車輪14の転舵角度によって決定される。たとえば本図に示すように、車両が左に旋回するときの4WSモード時旋回可能領域A1は、左前輪14FLを転舵したときに左前輪14FLの回転軸の車両10外側への延長線が描く軌跡と、左後輪14RLを転舵したときに左後輪14RLの回転軸の車両10外側への延長線が描く軌跡が重なる領域となる。
統合ECU100は、車輪速センサ22により検出された車輪14の各々の車輪速と、舵角センサ34により検出されたステアリング32の操舵角度δMAを利用して、車両10を操舵するために適した旋回中心Pを演算する。このように、車両10を走行させるときに4WSモードを選択することにより、運転者は車両を良好に旋回させることが可能となる。
また、運転者がアクセルペダル(図示せず)を操作することにより、統合ECU100は、アクセルペダルの操作量と、舵角センサ34により検出されたステアリング32の操舵角度δMAなどを利用して、車輪14の各々に与えるべき目標駆動トルクを演算する。また、運転者がブレーキペダル28を操作することにより、統合ECU100は、ブレーキセンサ30により検出されたブレーキペダル28の操作量と、舵角センサ34により検出されたステアリング32の操舵角度δMAなどを利用して、車輪14の各々の目標ホイールシリンダ圧を演算する。このように、4WSモードでは、運転者はアクセルペダルを操作することにより車両の推進力を調節することができ、また、ブレーキペダル28を操作することにより車両の制動力を調整することができる。
図4は、方向転換モードが選択された場合の車輪14の各々の転舵角度や旋回中心などを示す図である。本図は車両10を上方から見た図である。なお、図3と同様の箇所については説明を省略する。
運転者によってモード切替スイッチ36が操作され、方向転換モードが選択されると、モード切替スイッチ36への選択結果が統合ECU100に入力される。統合ECU100は、方向転換モードが選択されると、方向転換モード用の旋回中心を演算するためのプログラムを実行する。
方向転換モードにおいては、統合ECU100は、右前輪14FRおよび左前輪14FLを異なる方向、すなわち、右前輪14FRおよび左前輪14FLを「ハ」の字に転舵するよう、目標転舵角度を演算する。具体的には、統合ECU100は、右前輪転舵角度δFRと右後輪転舵角度δRRの正・負が異なるように、目標転舵角度を演算することができる。同様に統合ECU100は、左前輪14FLおよび左後輪14RLを異なる方向すなわち、右前輪14FRおよび左前輪14FLを「ハ」の字に転舵するよう、目標転舵角度を演算する。具体的には、統合ECU100は、左前輪転舵角度δFLと左後輪転舵角度δRLの正・負が異なるように目標転舵角度を演算する。
このため、方向転換モードにおいては、統合ECU100は、右前輪キングピン位置KFRおよび右後輪キングピン位置KRRを通過する直線、および左前輪キングピン位置KFLおよび左後輪キングピン位置KRLを通過する直線の間の領域に旋回中心Pを設定する。これによって、左右の車輪14の間に旋回中心Pを設定することができるので、車輪14の各々の旋回半径を小さくすることができ、狭いスペースで車両10を旋回させることが可能となる。
さらに本実施形態においては、統合ECU100は、車両10の最前部から車両10の左右方向に伸びる直線と、車両10の最後部から車両10の左右方向に伸びる直線との間の領域に旋回中心Pを設定する。これによって、たとえば車両10の最後部から車両10の左右方向に伸びる直線上から車両10前方へ旋回中心Pを移動することなどが可能となり、車両10外側への車体の張り出しを抑制することが可能となる。これにより、方向転換モードにおいては、車両内部領域A0内において旋回中心Pが移動されることとなる。したがって、方向転換モードは、車両10の旋回中に車両内部領域A0内において旋回中心が移動される第2モードとして機能する。
実際には、方向転換モードにおいて旋回中心Pが位置することができる領域としての方向転換モード時旋回可能領域A2は、転舵し得る車輪14の転舵角度によって決定される。方向転換モード時旋回可能領域A2は、車輪14の各々を転舵したときに車輪14の各々の回転軸の車両10内側への延長線が描く軌跡が重なる領域となる。
本実施形態においては、右前輪14FRおよび左前輪14FLは、回転軸の車両10内側への延長線が後輪キングピン中点M2に向かう角度が最大転舵角度となっている。また、右後輪14RR、左後輪14RLは、回転軸の車両10内側の延長線が前輪キングピン中点M1に向かう角度が最大転舵角度となっている。このため、方向転換モード時旋回可能領域A2は、本図に示すように、後輪キングピン中点M2から右前輪キングピン位置KFRおよび左前輪キングピン位置KFLに向かう2直線と、前輪キングピン中点M1から右後輪キングピン位置KRRおよび左後輪キングピン位置KRLに向かう2直線によって囲まれる菱形となる。
なお、車輪14の各々の最大転舵角度を大きくすれば、この方向転換モード時旋回可能領域A2を更に大きくすることができる。この場合においても、統合ECU100は、車両10の最前部から車両10の左右方向に伸びる直線と、車両10の最後部から車両10の左右方向に伸びる直線との間の領域に旋回中心Pを設定する。また、車輪14の各々が360°転舵可能に構成することにより、車両内部領域A0すべてを方向転換モード時旋回可能領域A2とすることができる。このように、統合ECU100は、車両内部領域A0において、車両の旋回中に旋回中心を移動する旋回制御手段として機能する。車両の内部に旋回中心Pを設定することによって、車輪14の各々の旋回半径を小さくすることができ、狭いスペースで車両10を転舵することが可能となる。
運転者によってモード切替スイッチ36が操作され、方向転換モードが選択されると、後輪キングピン中点M2を初期の旋回中心Pとして設定し、設定した旋回中心Pを示す上方を転舵ECU26の各々に入力する。転舵ECU26の各々は、後輪キングピン中点M2を旋回中心Pとするために、車輪14の回転軸が後輪キングピン中点M2に向かうよう車輪14を転舵する。これによって、本図に示すように、右前輪14FRおよび左前輪14FLが、車両10後方に開いたハの字に転舵され、右後輪14RRおよび左後輪14RLは平行に転舵される。
本図の状態から車両10の先端を右側に旋回させる場合、本図の矢印で示されるように、左前輪14FLおよび左後輪14RLは前進する方向に駆動トルクが与えられ、右前輪14FRおよび右後輪14RRは後進する方向に駆動トルクが与えられる。これによって、車輪14の各々の横滑りを抑制しながら車両10を旋回中心Pを中心に旋回させることが可能となる。
統合ECU100は、車輪14の各々の車輪速や旋回半径などから、車両10の旋回角度を演算する。統合ECU100は、ROM106に格納されたヨー角−旋回中心マップを参照し、算出された車両10の旋回角度から旋回中心Pを決定する。運転者は旋回中心を移動するための操作を行う必要がないので、旋回中心を移動するために運転者の操作性が低減することを抑制することができる。
本実施形態では、車両10の旋回角度としてのヨー角が大きくなるにしたがって、旋回中心Pは、後輪キングピン中点M2からx軸上を車両10の前方に移動する。旋回中心Pが後輪キングピン中点M2から前方に移動するため、車両10外側への張り出し量を抑制しながら、車両10を旋回させるために必要とされるスペースを低減することができる。このため、たとえば車両の左右いずれかが壁などの障害物に近接する場合などにおいても、障害物との接触を回避しながら狭いスペースにおいて車両10を旋回させることが可能となる。また旋回中心Pがx軸上を移動するため、右前輪14FRと左前輪14FLとの駆動トルクのバランス、および右後輪14RRと左後輪14RLとの駆動トルクのバランスを維持することができ、いずれかの車輪14のインホイールモータ20に負担がかかることを抑制することができる。
旋回中心Pが車両10の前方に移動すると、右後輪14RRおよび左後輪14RLが車両10の前方に開いたハの字に転舵され、旋回中心Pが前方に移動するにしたがって、ハの字の開口が大きくなるように転舵される。右前輪14FRおよび左前輪14FLは、旋回中心Pが車両10の前方に移動するにしたがって、ハの字の開口が小さくなるように転舵される。
図5は、方向転換モードにおけるヨー角−旋回中心マップである。本図において、横軸はヨー角θを示し、縦軸は旋回中心x座標xPおよび旋回中心y座標yPを示す。
運転者によってモード切替スイッチ36が操作され、方向転換モードが選択されると、統合ECU100は、後輪キングピン中点M2を初期の旋回中心Pとして設定する。この時点のヨー角θをゼロとして、この位置から車両が旋回されると、統合ECU100は、yPが、yP=0を満たすように旋回中心Pを移動する。この結果、旋回中心Pはx軸上を移動する。
また、統合ECU100は、xPが、xP=−L*cos(θ)を満たすように旋回中心を移動する。これによって、車体の車両10外側への張り出し量を抑制することができるとともに、狭いスペースでの車両10の旋回が可能となる。また、車両10を180°旋回させることにより、旋回初期の車両10の位置よりも側方に車両を移動することができ、180°旋回後の車両の進行を円滑なものとすることができる。
図6は、車両旋回装置200の処理手順を示すフローチャートである。本フローチャートにおける処理は、運転者により車両10のイグニッションキーがオンにされ、統合ECU100などの電源がオンにされたときに開始する。
運転者は、モード切替スイッチ36を操作することにより方向転換モードを選択すると(S11)、選択されたモードを示す情報が統合ECU100に入力される。統合ECU100は、方向転換モードが運転者によって選択されると、初期旋回中心として後輪キングピン中点M2に旋回中心Pを設定する(S12)。後輪キングピン中点M2に旋回中心Pが設定されると、転舵ECU26は、車輪14の各々の回転軸が後輪キングピン中点M2に向かうように車輪14を転舵する(S13)。車輪14が転舵されると、統合ECU100は、ヨー角θをゼロに設定する(S14)。
また、統合ECU100は、アクセルペダルを無効にする(S15)。これによって、運転者がアクセルペダルを操作しても、車輪14には駆動トルクが与えられないようになる。以上によって、方向転換モードの初期状態となる。
方向転換モードが初期状態となった後、ステアリングが運転者によって操舵されると(S16)、図7に示すように、統合ECU100は、操舵角度−制駆動力マップを参照し、4輪駆動トルクTALLを決定する。また、統合ECU100は、図5に示すヨー角−旋回中心マップを参照し、旋回中心x座標xPおよび旋回中心y座標yP、および車輪14の各々のキングピン座標を利用して4輪旋回半径演算を実行し、右前輪旋回半径RFR、左前輪旋回半径RFL、右後輪旋回半径RRR、および左後輪旋回半径RRLを算出する。4輪旋回半径演算は以下の式によって実行される。
ここで、「**」とは、右前輪を示すFR、左前輪を示すFL、右後輪を示すRR、左後輪を示すRLが、車輪14の各々の旋回半径演算時に入力されることを示す。
統合ECU100は、図7に示すように、決定されたTALL、および算出された車輪14の各々の旋回半径を利用して、4輪駆動力分配演算を実行し、右前輪駆動トルクTFR、左前輪駆動トルクTFL、右後輪駆動トルクTRR、および左後輪駆動トルクTRLを算出する(S17)。4輪駆動力分配演算は、以下の式によって実行される。なお、「**」は前述と同様である。
このとき、右前輪14FRと左前輪14FL、および右後輪14RRと左後輪14RLは相互に逆方向に回転することから、4輪駆動力分配演算を実行し、右前輪駆動トルクTFR、左前輪駆動トルクTFL、右後輪駆動トルクTRR、および左後輪駆動トルクTRLは、以下の式によって実行される。
4輪駆動力分配演算が実行されると、統合ECU100は、算出された車輪14の各々の駆動トルクをHV−ECU42に入力する。HV−ECU42は、入力された駆動トルクを発生するよう、インホイールモータ20に電力を供給して、車輪14の各々に算出された駆動トルクを発生させる(S18)。
このように、方向転換モードにされた場合、統合ECU100は、ステアリング32の操舵角度δMAが大きいほど旋回させるための大きな力が車両に与えられるよう、車輪14の各々に与えるべき駆動トルクを決定することができる。これによって、ステアリング32の操舵角度δMAおよび車輪14の各々の旋回半径に応じた駆動トルクを車輪14の各々に発生させることができ、旋回中心Pを中心をした円滑な車両10の旋回を実現することができる。
統合ECU100は、図7に示すように、車輪速センサ22の検出結果と算出された車輪14の各々の旋回半径に基づいて、ヨーレート推定演算を実行し、ヨーレートγを算出する。ヨーレート推定演算は、以下の式によって実行される。
次に、統合ECU100は、算出されたヨーレートを利用して、ヨー角推定演算を実行しヨー角θを算出する。ヨー角推定演算は、以下の式によって実行される。
統合ECU100は、再びヨー角−旋回中心マップを参照し、算出したヨー角θに基づいて旋回中心Pを移動し、移動された旋回中心Pを利用して4輪旋回半径演算、および4輪駆動力分配演算を実行する。統合ECU100は、運転者によってステアリング32が操舵されている間、これらの演算を繰り返し実行することによって、移動する旋回中心Pに応じた車輪14の各々の駆動トルクを決定し、インホイールモータ20の各々は、移動する旋回中心Pに応じた駆動トルクで、車輪14の各々を駆動する。
また、統合ECU100は、図7に示すように、ヨー角−旋回中心マップを参照し、旋回中心x座標xPおよび旋回中心y座標yPを利用して、4輪転舵角演算を実行し、目標となる右前輪転舵角度δFR、左前輪転舵角度δFL、右後輪転舵角度δRR、および左後輪転舵角度δRLを算出する(S19)。4輪転舵角演算は、以下の式によって実行される。
統合ECU100は、算出した車輪14の各々の目標転舵角度を転舵ECU26の各々に入力する。転舵ECU26は、入力された目標転舵角度に車輪14を転舵するよう、転舵モータ24に駆動信号を入力して車輪14を転舵する(S20)。統合ECU100は、所定時間毎に4輪転舵角演算を実行し、移動した旋回中心Pに応じた角度に車輪14の各々を転舵する。これによって、旋回中心Pを中心をした円滑な車両10の旋回を実現することができる。
なお、運転者によって、操舵されたステアリング32をもどす方向に操舵された場合、統合ECU100は、操舵角度−制駆動力マップを参照し、もどされた操舵角度δMAに応じた制動力を決定する。統合ECU100は、決定された制動力をECB−ECU44に入力する。ECB−ECU44は、入力された制動力を発生させるため、増圧用バルブ52または減圧用バルブ54を作動させてホイールシリンダ圧を目標ホイールシリンダ圧とする。これによって、ステアリング32をもどす方向に操舵された場合においても、操舵角度δMAに応じた旋回速度で車両10を旋回することが可能となる。
また、方向転換モードにおいても、運転者は、ブレーキペダル28を操作することによって、ブレーキペダル28の操作量に応じた制動力を車輪14の各々に与えることができる。運転者によってブレーキセンサ30が操作されると、図7に示すスイッチを切り換え、ECB−ECU44を操舵角度−制駆動力マップから切り離して、ECB−ECU44とブレーキセンサ30とを接続する。これによって、ECB−ECU44にはブレーキセンサ30によって検出されたブレーキペダル28の操作量情報が入力される。ECB−ECU44は、入力されたブレーキペダル28の操作量情報などに基づいて、車輪14の各々に与える制動力を決定し、増圧用バルブ52または減圧用バルブ54を作動させてホイールシリンダ圧を目標ホイールシリンダ圧とする。これによって、運転者は、ブレーキペダル28を操作することによっても車両10に制動力を与えることができる。
運転者によって、操舵角度δMAをゼロにもどすステアリング32の操舵がされる、またはブレーキペダル28が操作されると(S21)、ECB−ECU44は、車輪14の各々のホイールシリンダ圧を増圧して車両を停止させる(S22)。運転者によって再びステアリング32が操舵されると、S16から繰り返し処理が実行される。
運転者が、所望の角度まで車両10を旋回させることができたと判断してモード切替スイッチ36を操作し、4WSモードなどの他モードが選択されると(S23)、統合ECU100は、方向転換モードを解除し、選択されたモードにおける処理を実行する(S24)。
図8は、方向転換モードが選択された場合における、車両10が旋回する軌跡を示す図である。本図に示されるように、方向転換モードが選択された場合、車両10を旋回させることによって、車両10外側への張り出し量を抑制しながら狭いスペースにおいて車両10の方向転換を実現することが可能となる。また、方向転換モードにおいて車両10の方向転換を実施することにより、車両10を、旋回前の車両外側に移動することができる。これによって、たとえば狭いスペースにおいて対向斜線側に方向転換したい場合や、狭い駐車場から車両10を出す場合において、車両10の方向転換の実施すると同時に、効果的に車両10を移動させることができる。
本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、各実施形態の各要素を適宜組み合わせたものも、本発明の実施形態として有効である。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を各実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。以下、そうした例をあげる。
統合ECU100は、方向転換モードが選択された場合に、車両10の後端部から車両10の左右方向に伸びる直線上旋回中心Pを設定し、ヨー角θが大きくなるにしたがって旋回中心Pを車両10の前方へ移動してもよい。これによって、車両10外側への車体の張り出し量を抑制することができるとともに、狭いスペースでの車両10の旋回が可能となる。
統合ECU100は、方向転換モードが選択された場合に、車両10の前部に旋回中心Pを設定し、ヨー角θが大きくなるにしたがって車両10後方へ旋回中心Pを移動してもよい。たとえば、統合ECU100は、方向転換モードが選択された場合に、右前輪キングピン位置KFRと左前輪キングピン位置KFLとを結ぶ直線上に旋回中心Pを設定し、ヨー角θが大きくなるにしたがって車両10後方へ旋回中心Pを移動してもよい。また、たとえば、方向転換モードが選択された場合に、車両10の前端部から車両10の左右方向に伸びる直線上旋回中心Pを設定し、ヨー角θが大きくなるにしたがって旋回中心Pを車両10の前方へ移動してもよい。これによって、車両10外側への車両10後部の張り出し量を抑制することができるとともに、狭いスペースでの車両10の旋回が可能となる。なお、この場合も、統合ECU100は、前輪キングピン中点M1と後輪キングピン中点M2を通過する車両中心線上において、旋回中心Pを移動してもよい。
また、統合ECU100は、車両内部領域A0のうちx軸上またはy軸上以外の領域において、旋回中に旋回中心Pを移動してもよい。これによっても、車両10外側への張り出し量を抑制することが可能となる。
4WSモード、方向転換モードの他に、たとえば2WSモードなどが設けられていてもよい。運転者は、モード切替スイッチ36を操作してこれらのモードのいずれかを選択することにより、統合ECU100は、選択されたモードにおける処理を実行してもよい。2WSモードが選択された場合、統合ECU100は、右後輪転舵角度δRRおよび左後輪転舵角度δRLをゼロに設定し、右前輪14FRおよび左前輪14FLのみで車両10を旋回させてもよい。
10 車両、 14 車輪、 18 ホイールシリンダ、 20 インホイールモータ、 22 車輪速センサ、 24 転舵モータ、 26 転舵ECU、 28 ブレーキペダル、 30 ブレーキセンサ、 32 ステアリング、 34 舵角センサ、 36 モード切替スイッチ、 38 タイロッド、 40 ナックルアーム、 42 HV−ECU、 44 ECB−ECU、 100 統合ECU、 200 車両旋回装置。