本発明は、例えばIC(集積回路)等が装着される接触子を有する接続装置(例えばICソケットなど)に係わり、特に、前記接触子をアモルファス状態で形成してばね特性を向上させた接触子及び前記接触子を用いた接続装置に関する。
特許文献1に記載されている半導体検査装置は、半導体を外部の回路基板などに電気的に仮接続させるものである。半導体の背面側には格子状またはマトリックス状に配置された多数の球状接触子が設けられており、これに対向する絶縁基板上には多数の凹部が設けられ、この凹部内にスパイラル接触子が対向配置されている。
前記半導体の背面側を前記絶縁基板に向けて押圧すると、前記球状接触子の外表面に前記スパイラル接触子が螺旋状に巻き付くように接触するため、個々の球状接触子と個々のスパイラル接触子との間の電気的接続が確実に行われるようになっている。
特開2002−175859号公報
例えば上記特許文献1では、前記スパイラル接触子を、銅箔と、ニッケルメッキとを有して形成している。特許文献1には特に記載されていないが、前記半導体の球状接触子と、前記スパイラル接触子との接触を確実なものにすべく、前記スパイラル接触子に対し熱処理を施しながら、前記スパイラル接触子を立体成形すること等が行なわれる。
しかしながら、前記立体成形の際の熱処理によって、前記スパイラル接触子が結晶化し、降伏応力が低下するなど、ばね特性が劣化するために、弾性接点として適切に機能しなくなるといった問題があった。
特許文献1では、ニッケルメッキを、スパイラル接触子の一部に設けている。銅箔だけでなくニッケルメッキを施してスパイラル接触子を形成することで、前記スパイラル接触子が適切に弾性変形しやすくなると期待されるが、前記ニッケルは、熱処理等の原因により結晶化が急激に促進することで脆い性質になるため、スパイラル接触子が折れる等の破損が多発しやすくなっていた。
スパイラル接触子に対し特に立体成形のための熱処理を施さない場合であっても、前記スパイラル接触子をバーンイン試験装置等に用いた場合には、必然的に前記スパイラル接触子が加熱下に置かれるため、加熱の環境下における、スパイラル接触子のばね特性の向上が必要であった。
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、接触子をアモルファス状態で形成し、従来に比べてバネ特性の向上を可能とした接触子及び前記接触子を用いた接続装置を提供することを目的としている。
本発明は、弾性変形部を有する接触子において、前記弾性変形部は、アモルファスと、前記アモルファス中に散在する結晶とを有するアモルファス状態のNi−X(ただしXは、P、W、Bのうちいずれか1種以上)で形成されていることを特徴とするものである。
前記弾性変形部の少なくとも一部をアモルファス状態で形成することで、降伏応力等のばね特性を従来よりも向上させることができる。
本発明では、前記結晶は、Ni−Xで形成された金属間化合物結晶であることが好ましい。また、前記Ni−X中、アモルファスが60体積%以上占めていることが好ましい。また、前記結晶の粒径は、3nm〜15nmの範囲内であることが好ましい。
また本発明では、前記弾性変形部は、Ni−Xのみで形成されている形態であってもよいし、前記弾性変形部には、膜厚方向から切断した断面の一部に、前記Ni−Xからなる弾性領域が形成されている形態であってもよい。
本発明では、前記弾性変形部は、導電性部材と、補助弾性部材とを有し、前記導電性部材は前記補助弾性部材よりも比抵抗が低く、前記補助弾性部材は前記導電性部材よりも降伏点及び弾性係数が高く、前記補助弾性部材が、前記Ni−Xで形成されることが好ましい。このような構成とすることで、後述の実験結果にも示すようにへたり率を適切に低減できる等、ばね特性を向上させることができ、良好な導電性も確保することが出来る。
また本発明では、前記弾性変形部は全体がアモルファス状態で形成されている形態であってもよい。
前記元素XはPであることが好ましく、Pの組成比は、15原子%以上で30原子%以下であることが好ましい。これにより、Ni−Xを適切にアモルファス状態にでき、弾性変形部のばね特性を効果的に向上させることが出来る。
あるいは前記元素Xはwであることが好ましく、Wの組成比は、14.5原子%以上で36原子%以下であることが好ましく、より好ましくは20原子%以上である。これにより、Ni−Xを適切にアモルファス状態にでき、弾性変形部のばね特性を効果的に向上させることが出来る。
また、前記Ni−X層はメッキ形成されたものであることが好ましい。
また本発明では、前記アモルファス及び前記結晶以外に、1nm以下の超微細析出物が混在していてもよい。前記超微細析出物の析出は特にばね特性に悪影響を与えないため、前記超微細析出物の析出があってもかまわない。
本発明では、前記弾性変形部は、荷重が19.6mN以上、変位が0.1mm以上の降伏点を有することが好ましい。後述する実験では、前記数値の降伏点を有する弾性変形部の形成が可能であることがわかった。
また本発明では、前記弾性変形部は螺旋状に形成されていることが好ましい。電子部品の外部接続部等との接触を確実なものに出来る。
また本発明では、前記弾性変形部は、立体成形された状態で加熱されていることが好ましい。加熱することで前記弾性変形部は、所定の立体形状を適切に保つ。特に本発明では、前記弾性変形部を変形加工の際、加熱しても前記弾性変形部はアモルファス状態を適切に保っている。このため前記弾性変形部のばね特性は従来よりも適切に高く維持されている。
また本発明は、基台と、前記基台に設けられた接触子とを有し、電子部品の外部接続部が、前記接触子の弾性変形部に接触する接続装置において、
前記接触子の前記弾性変形部が上記のいずれかに記載された構成にて形成されていることを特徴とするものである。本発明では、前記接触子の弾性変形部の少なくとも一部がアモルファス状態で形成されており、従来に比べてばね特性を向上させることが出来る。
本発明は、弾性変形部を有する接触子において、前記弾性変形部の少なくとも一部が、アモルファス状態で形成されていることを特徴とするものである。前記弾性変形部の少なくとも一部をアモルファス状態で形成することで、降伏応力等のばね特性を従来よりも向上させることができる。
図1は電子部品の動作を確認するための試験に用いられる検査装置を示す斜視図、図2は図1の2−2線における断面図を示し、電子部品が装着された状態の断面図である。
図1に示すように、検査装置10は基台11と、この基台11の一方の縁部に設けられたひんじ部13を介して回動自在に支持された蓋体12とで構成されている。前記基台11および蓋体12は絶縁性の樹脂材料などで形成されており、前記基台11の中心部には図示Z2方向に凹となる装填領域11Aが形成されている。そして、前記装填領域11A内に半導体などの電子部品1が装着できるようになっている。また基台11の他方の縁部には、被ロック部14が形成されている。
図2に示すように、この検査装置10は、電子部品1の下面に多数の接続端子(例えば図2に示す球状の接続端子)1aがマトリックス状(格子状または碁盤の目状)に配置されたものを検査対象とするものである。
図2に示すように、前記基台11には所定の径寸法からなり、装填領域11Aの表面から基台11の裏面に貫通する複数の貫通孔(スルーホール)11aが、前記電子部品1の接続端子1aに対応して設けられている。
前記貫通孔11aの上面(装填領域11Aの表面)には、接触子が渦巻き状に形成された複数のスパイラル接触子20が設けられている。
図3は前記スパイラル接触子20の斜視図である。図3に示すように、前記スパイラル接触子20は基台11に、図示X方向及びY方向に所定間隔を空けて複数形成されている。
前記各スパイラル接触子20は、図3において例えば左上に図示されたスパイラル接触子20のように前記貫通孔11aの上方の開口端の縁部に固定された基部21を有し、スパイラル接触子20の巻き始端22が前記基部21側に設けられている。そして、この巻き始端22から渦巻き状に延び、巻き終端23が前記貫通孔11aのほぼ中心に位置するようになっている。前記スパイラル接触子20は、ちょうど前記貫通孔11aと高さ方向にて対向する位置にある渦巻き状の部分が、弾性変形部20aとして機能している。
前記貫通孔11aの内壁面には図示しない導通部が形成されており、導通部の上端と前記スパイラル接触子20の前記基部21とが導電性接着材などで接続されている。また貫通孔11aの下方の開口端は前記導通部に接続された接続端子18で塞がれている。
図2に示すように、前記基台11の下方には複数の配線パターンやその他の回路部品を有するプリント基板30が設けられており、前記基台11はこのプリント基板30上に固定されている。前記プリント基板30の表面には前記基台11の底面に設けられた接続端子18に対向する対向電極31が設けられており、前記各接続端子18が各対向電極31にそれぞれ接触することにより、電子部品1とプリント基板30とが検査装置10を介して電気的に接続される。
一方、検査装置10の蓋体12の内面の中央の位置には、電子部品1を図示下方に押し付ける凸形状の押圧部12aが前記装填領域11Aに対向して設けられている。また前記ひんじ部13と逆側となる位置にはロック部15が形成されている。
前記蓋体12の内面と押圧部12aとの間には前記押圧部12aを蓋体12の内面から遠ざかる方向に付勢するコイルスプリングなどからなる付勢部材が設けられている(図示せず)。従って、電子部品1を前記貫通孔11a内に装着して蓋体12を閉じてロックすると、電子部品1を装填領域11Aの表面に接近する方向(Z2方向)に弾性的に押し付けることが可能となっている。
前記基台11の装填領域11Aの大きさは、前記電子部品1の外形とほぼ同じ大きさであり、電子部品1を前記装填領域11Aに装着して蓋体12をロックすると、電子部品1側の各接続端子1aと検査装置10側の各スパイラル接触子20とが正確に対応して位置決めできるようになっている。
蓋体12のロック部15が基台11の被ロック部14にロックされると、電子部品1が前記押圧部12aによって図示下方に押し付けられるため、前記各接続端子1aが各スパイラル接触子20を貫通孔11aの内部方向(図示下方)に押し下げる。同時に、スパイラル接触子20の前記弾性変形部20aは、前記巻き終端23から巻き始端22方向(渦巻きの中心から外方向)に押し広げられるように変形し、前記接続端子1aの外表面を抱き込むように巻き付き、各接続端子1aと各スパイラル接触子20とが接続される。
前記スパイラル接触子20の弾性変形部20aを幅方向と平行な方向である線4から膜厚方向に切断し、その切断面を矢印方向から見たとき、その切断面は図4のようになっている。
図4Aでは、導電性部材40の上に補助弾性部材41が重ねて形成されている。前記導電性部材40は前記補助弾性部材41よりも比抵抗が低い材料で形成され、前記補助弾性部材41は前記導電性部材40よりも降伏点及び弾性係数が高い材料で形成されている。
図4Aのように、導電性部材40と補助弾性部材41とを重ねて形成することで、前記スパイラル接触子20の良好な導電性は導電性部材40で担保され、前記スパイラル接触子の良好なばね性は前記補助弾性部材41で担保される。
図4Aでは、補助弾性部材41の上に導電性部材40が重ねて形成されたものであってもよい。
また図4Aにおいて、前記導電性部材40及び補助弾性部材41の双方がメッキで形成されたものであってもよいし、導電性部材40が金属箔で形成されており、前記補助弾性部材41がメッキ形成されたものであってもよい。
図4Bでは、下から導電性部材40、補助弾性部材41及び被膜部材42の順に積層形成されたものである。ここで前記被膜部材42は、硬度や耐磨耗性を向上させるために設けられたものである。また前記被膜部材42は前記弾性部材41よりも低い比抵抗を有する材質で形成され、電子部品の接触子との接触抵抗を小さくする作用を有するものであることが好ましい。
図4Cでは、導電性部材40の上面、下面及び両側面が前記補助弾性部材41で完全に囲まれた構成になっている。このように補助弾性部材41によって前記導電性部材40の周囲を完全に囲む構成であると、スパイラル接触子20のばね性をより適切に向上させることができて好ましい。
図4Dは、図4Cの応用例であり、例えば前記導電性部材40の上面、下面及び両側面を完全に補助弾性部材41が囲っており、さらに前記補助弾性部材41の表面を前記被膜部材42が覆っている構成である。
前記導電性部材40は、CuあるいはCu合金で形成されている。また前記導電性部材40を形成する前記Cu合金には、例えば、Cu、Si、Niを有するコルソン合金が選択される。前記補助弾性部材41は、Ni−X(ただしXは、P、W、Bのうちいずれか1種以上)で形成されることが好ましい。前記導電性部材40をCuやCu合金(コルソン合金を除く)で形成すると、スパイラル接触子20を安価に形成でき、また良好な導電性を確保できる。ただしばね性はほとんど期待できないため、前記補助弾性部材41にはばね性に優れるNi−Xを選択して、前記弾性変形部20aのばね特性を適切に向上させることが必要である。すなわち例えば前記補助弾性部材41としてNiを選択した場合は、効果的なばね特性の向上を期待できず、へたり率等が大きくなってしまう。具体的には、例えばCu/Niという組み合わせは、Cu/Ni−Xに比べて良好なばね特性を期待できないのである。したがって本実施形態では、前記補助弾性部材41は、Ni−X(ただしXは、P、W、Bのうちいずれか1種以上)で形成されることが好ましい。また前記被膜部材42は、Au、Ag、Pd、Snから選択される。
前記補助弾性部材41は、上記したようにメッキ形成されたものである。メッキは電解メッキ法でも無電解メッキ法でもどちらであってもよい。例えば図4C,図4Dのように導電性部材40の周囲を覆うように前記補助弾性部材41を形成する場合は、前記補助弾性部材41を無電解メッキ法で形成する。
本実施形態における特徴的な部分は前記補助弾性部材41がアモルファス状態で形成されている点である。前記補助弾性部材41は上記したようにNi−X合金で形成される。Ni−X合金はNiに比べて結晶化温度が高く、前記Niが結晶化する温度であってもNi−X合金は結晶化せずアモルファス状態を保っている。前記補助弾性部材41は、例えばNiP合金でメッキ形成されたものであり、Pの組成比は15原子%以上であることが好ましい。Pの組成比を15原子%以上にすると、Pの組成比を15原子%よりも小さくした場合に比べて、Ni結晶の析出を適切に抑制できる。Ni結晶の析出により、前記補助弾性部材41が脆くなり降伏点等に代表されるばね特性の著しい低下を招くため好ましくない。なお前記Pの組成比は30原子%以下であることが好ましい。30原子%よりも大きいと脆い金属間化合物であるNiP、Ni5P2、Ni2P5等を生じるためである。なお元素XにWを選択した場合、Wの組成比は14.5原子%〜36原子%の範囲内であることが好ましい。より好ましくはWの組成比は20原子%以上である。これによりNiWをアモルファス状態で形成できる。また、元素XにBを選択した場合、Bの組成比は15原子%〜30原子%の範囲内であることが好ましい。これにより、NiBをアモルファス状態で形成できる。
前記補助弾性部材41は全体が完全なアモルファス(非晶質相)であることが最も好ましいが、例えば直径が1nm以下の超微細析出物(エンプリオ)が析出していてもよい。前記超微細析出物の組成は、例えばNiであってもよいし、あるいは元素X、Ni−Xであってもよい。なお、超微細析出物は数粒子程度の大きさでしかなく、結晶ではない。このため前記超微細析出物が析出していてもアモルファスとしての性質が適切に保たれている。また、本実施形態では一部に結晶が析出している状態を除外するものではない。例えば図5に示す物質状態では、アモルファス50が支配的となっているが、一部、前記エンプリオ51や結晶52が見られる。前記結晶52の直径(最大径)は、3nm〜15nm程度である。このとき、前記結晶52は、Niでなく、Ni−Xで形成された金属間化合物結晶であることが好ましい。例えば前記補助弾性部材41がNiP合金で形成されるとき、前記結晶52の組成はNi3Pである。Ni結晶は膜を非常に脆い材質に変えるが、前記金属間化合物結晶が析出してもNi結晶の析出に比べて、ばね特性の低下を抑制できる。図5に示すように前記金属間化合物結晶52が析出しても、その周囲は前記アモルファス50で覆われており、アモルファス50が支配的な状態となっている。前記アモルファス50は、前記補助弾性部材41中に60体積%〜100体積%占めていることが好ましい。すなわち本実施形態では、前記弾性補助部材41の全体がアモルファスで形成されている状態、アモルファスと超微細析出物とが混在する状態、アモルファス以外に結晶(金属間化合物結晶であることが好ましい)や超微細析出物を有するが膜中に前記アモルファスが60体積%以上占める状態を全て含んでいる。なおアモルファスは80体積%以上であることがより好ましく、90体積%以上であることがさらに好ましい。そして本願明細書ではこれらの状態を全てあわせて「アモルファス状態」と呼ぶ。上記3つの状態のうち、最も好ましいのは、全体がアモルファスとなっている状態、次に好ましいのは、前記アモルファスと超微細析出物とが混在する状態、である。
前記スパイラル接触子20の弾性変形部20aに前記補助弾性部材41を含み前記補助弾性部材41をアモルファス状態で形成することで、前記弾性変形部20aの降伏点を従来よりも向上させることが出来る。具体的には、荷重が19.6mN以上で変位が0.1mm以上となる降伏点を有することが出来る。また前記補助弾性部材41をアモルファス状態で形成することで耐クラック性(折れにくさ)を向上させることができ、さらに前記スパイラル接触子20を所定高さの立体形状に適切に形成できるとともに、前記接続装置10の繰返しの使用によっても、前記スパイラル接触子20のへたり率を従来よりも適切に減少させることが出来る。
前記スパイラル接触子20の弾性変形部20aは図3に示すように上方に向けて螺旋状に立体成形されたものである。前記立体成形は加熱下で行なわれる。従来、弾性変形部20の補助弾性部材41としてNiを使用したものでは立体成形時の加熱下において前記Niが結晶化することでバネ特性が劣化するといった問題があったが本実施形態では前記補助弾性部材41としてNi−X合金を用いることで、前記補助弾性部材41をアモルファス状態に維持でき上記した降伏点に代表されるばね特性を従来よりも向上させることが可能になる。
また、図4に示す断面中に占める前記補助弾性部材41の断面積比{(補助弾性部材41の断面積/全体の断面積)×100(%)}は、30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。これによりばね定数を向上させることができ、へたり率を適切に低減できる。
本実施形態では、前記弾性変形部20aは上方に向けて立体成形(略円錐形)されている。立体成形は加熱下で行われる。これにより、前記弾性変形部20aは繰り返しの使用等によっても所定の立体状態を保ち、前記接続端子1aとの接触を良好に出来る。また本実施形態では、このような弾性変形部20aの形成時の加熱処理、あるいはバーンイン試験等で行われる熱処理等によっても前記弾性変形部20aは適切にアモルファス状態を保つ。
前記導電性部材40は、前記補助弾性部材41のようにアモルファス状態でなくてもよく、すなわち結晶が支配的な状態となっていてもよい。むしろ前記導電性部材40は良好な導電性を確保するために結晶であることがよい。
前記スパイラル接触子20の製造方法について説明する。図6ないし図8は、前記基台11上に前記スパイラル接触子20を取付け、前記スパイラル接触子20の弾性変形部20aを上方に向けて立体成形するまでの前記スパイラル接触子20の製造方法を示す一工程図である。
図6に示すように前記基台11には貫通孔11aが形成されており、前記貫通孔11aの周囲には、スパッタ等により導電性材料からなる導通部60が形成されている。上記したように前記スパイラル接触子20は、基部21と前記基部21から延出形成された弾性変形部20aとを有して構成されている。前記スパイラル接触子20は、例えば銅箔からなる導電性部材40の周囲に無電解メッキによってNiP合金からなる補助弾性部材41が形成された構成である(図4(C))。前記弾性変形部20aは螺旋状に形成されている。前記スパイラル接触子20の基部21は多数のスパイラル接触子20がばらばらにならないように保持するためのポリイミド樹脂等の樹脂シート71に保持されている。前記樹脂シート71にも前記基台11と同様に前記弾性変形部20aと高さ方向にて対向する位置に貫通孔が形成されている。
前記樹脂シート71に保持された前記スパイラル接触子20を、前記基台11上に置き、このとき、ちょうど前記スパイラル接触子20の弾性変形部20aが前記基台11の貫通孔11aと高さ方向にて一致するように、前記弾性変形部20aと貫通孔11aとを位置合わせし、前記スパイラル接触子20の基部21を前記基台11の前記貫通孔11a上の周囲に前記導電性接着剤61を用いて貼り付ける。このとき前記基部21は前記導通部60と前記導電性接着剤61を介して導通した状態となる。
図6に示すように、スパイラル接触子20の下方から前記貫通孔11a内に突出調整部材70を介入させ、前記突出調整部材70を上方へ押し上げる。
図7に示すように前記突出調整部材70の押し上げによって前記スパイラル接触子20の弾性変形部20aは上方へ押し上げられる。このとき熱処理を施しながら前記突出調整部材70の押し上げを行い、所定時間が経過した後、前記突出調整部材70を取り除く(図8)。
上記のように前記弾性変形部20aに対する立体成形を、熱処理を施しながら行なうことで、前記突出調整部材70を取り除いても前記弾性変形部20aは上方に突出した状態で維持される。
図7に示すように前記スパイラル接触子20の基部21上面21aから、前記弾性変形部20aの最も高い位置にある頂点Aまでの高さ寸法がH1となるまで、前記突出調整部材70を上方へ押し上げ、加熱下で図7の状態をキープする。図8に示すように前記突出調整部材70を取り除くと、若干のスプリングバックによって、前記スパイラル接触子20の基部21の上面21aを基準としてみたときの前記弾性変形部20aの高さ寸法はH1からH2に若干低くなる。このため、前記スプリングバックを見越して前記突出調整部材70を上方へ押し上げた段階での前記弾性変形部20aの高さ寸法H1を、実際に必要な前記弾性変形部20aの高さ寸法H2よりも高く設定しておくことが必要である。
上記のように弾性変形部20aの立体成形工程は加熱下で行なわれるが、本実施形態では前記弾性変形部20aの補助弾性部材41をNi−X合金で形成したことで前記補助弾性部材41をNiで形成したときよりも結晶化温度が上がり、従来、前記立体成形のときの加熱温度であった200℃〜300℃程度の加熱下でも結晶化温度を下回り、前記補助弾性部材41は結晶化せずアモルファス状態を適切に保つ。
また本実施形態では、上記した加熱下での立体成形によっても前記補助弾性部材41をアモルファス状態に適切に保つことが出来るため、立体成形のときに、前記補助弾性部材41の塑性域での応力を前記弾性変形部20aにかけて、前記弾性変形部20aを立体変形させることが出来る。前記補助弾性部材41の塑性域で変形させることで、前記補助弾性部材41を固着転位化でき、それに必要なエネルギーは、前記補助弾性部材41の弾性域で変形させるときに可動転位から固着転位にするのに必要なエネルギーに比べて小さい。よって本実施形態では、加熱時間を短く出来る。従来では例えば1時間程度必要であった加熱時間を数分から数十分程度に短縮でき、このように加熱時間を従来より短くしても、へたり率の小さいスパイラル接触子20を製造することが出来る。従来のように、Niで補助弾性部材41を形成した場合、加熱下で前記Niが結晶化するため、塑性域での応力をかけて立体成形すると、ばね性の非常に悪い弾性変形部20aしか製造できず、よって、弾性域での応力をかけながら上記の立体成形をする必要があったが、かかる場合では可動転位から固着転位に要するエネルギーが非常に大きいために加熱時間を長く設定する必要があったのに対し、本実施形態では上記のように加熱時間を短く出来るから製造工程も容易化する。
また、上記のように仮に前記スパイラル接触子20の弾性変形部20aを立体成形せず平面的な形状(図6の状態)で前記スパイラル接触子20を使用する場合でも、例えばバーンイン試験装置等に図1に示す接続装置10を使用するときには、必然的に前記スパイラル接触子20が加熱下に置かれることになる。しかし本実施形態では、前記スパイラル接触子20の弾性変形部20aを構成する補助弾性部材41を適切にアモルファス状態に維持できるので、前記弾性変形部20aのばね特性を良好に維持でき、耐久性に優れた接続装置10を提供することが出来る。
前記スパイラル接触子20の弾性変形部20aは螺旋形状以外の形状であってもかまわない。ただし前記弾性変形部20aが螺旋形状であると、前記電子部品1の接続端子1aがどのような形状であっても、前記弾性変形部20aは、前記接続端子1aの周囲を囲むように変形しやすく、前記弾性変形部20aと前記接続端子1aとの接触面積が広がり前記接続端子1aとの接触性を確実なものにできるため好ましい。
本実施形態では、前記補助弾性部材41を、Ni−X(ただしXは、P、W、Bのうちいずれか1種以上)で形成することが好ましい。前記元素XをPで形成するとき、Pの組成比を15原子%以上で30原子%以下にすることが好ましい。また前記元素XをWで形成するとき、Wの組成比を14.5原子%以上で36原子%以下にすることが好ましく、20原子%以上にすることがより好ましい。また、元素XをBで形成するとき、Bの組成比を15原子%〜30原子%の範囲内で形成することが好ましい。
上記したように補助弾性部材41としてNiを用いる場合に比べて前記補助弾性部材41の結晶化温度を高くでき、立体成形の際の200℃〜300℃程度の加熱温度は、前記結晶化温度より低く、したがって前記補助弾性部材41を加熱して立体成形しても前記補助弾性部材41を適切にアモルファス状態に保つことが出来る。特に補助弾性部材41をNiWで形成した場合、700℃程度まで加熱温度を高くしても、加熱温度が結晶化温度を下回り、前記補助弾性部材41を適切にアモルファス状態に保つことが出来る。このように加熱温度の許容範囲を広げることが出来るので、立体成形処理を適切且つ簡単に行うことが可能である。
また立体成形の手法としては図6に示す突出調整部材70によって前記弾性変形部20aを上方に突き上げた状態で熱処理する手法によらず、例えば円錐状の土台上に渦巻き状の弾性変形部20aを形成し、前記土台を取り除いた後に上記した加熱処理、あるいは加熱処理を施した後、前記土台を除去する手法により、前記弾性変形部20aを立体成形してもよい。
また本実施形態では前記スパイラル接触子20の弾性変形部20aが図4に示した積層構造でなく、例えば前記弾性変形部20aは前記補助弾性部材41のみで構成されていてもよい。かかる場合、前記弾性変形部20aの全体がアモルファス状態であることが好ましい。
また前記補助弾性部材41の材質として挙げたNi−X合金は一例であり、他の材質であってもかまわない。
図9(比較例)及び図10(比較例)は、Pを12.5原子%含むNiP合金のTEM写真である。図9では、NiP合金をメッキ形成し特に加熱を行なわなかった状態でのTEM写真、図10は、前記NiP合金をメッキ形成した後、250℃で1時間加熱した後の前記NiP合金のTEM写真である。
図9に示すTEM写真から物質状態を分析したところNi3Pの金属間化合物結晶が大部分を占めており、また、前記金属間化合物結晶どうしの間にNiの微結晶が存在することも確認できた。
また図10に示すTEM写真から物質状態を分析したところ、Ni3Pの金属間化合物結晶が大部分を占めており、また、前記金属間化合物結晶どうしの間にNiの微結晶や単結晶が存在することも確認できた。
図11(実施例),図12(実施例)及び図13(実施例)は、Pを19原子%含むNiP合金のTEM写真である。図11では、NiP合金をメッキ形成し特に加熱を行なわなかった状態でのTEM写真、図12は、前記NiP合金をメッキ形成した後、250℃で36分加熱した後の前記NiP合金のTEM写真、図13は、前記NiP合金をメッキ形成した後、250℃で1時間加熱した後の前記NiP合金のTEM写真、である。
図11に示すTEM写真から物質状態を分析したところ、結晶は見られずアモルファスであることがわかった。
次に、図12に示すTEM写真から物質状態を分析したところ、図11の状態とあまり変化は見られなかったが、1nm以下の超微細析出物(エンプリオ)が存在することが確認できた。
次に、図13に示すTEM写真から物質状態を分析したところ、一部に金属間化合物の析出が見られた。前記金属間化合物はNi3Pであり、Niの結晶物は見られなかった。また図13に示すように、前記金属間化合物の周囲はアモルファスで囲まれており、アモルファス状態を維持していることがわかった。
図14(実施例)は、銅基板の上に、Pを15原子%含有したNiP合金を無電解メッキ法にてメッキ形成し、この複合部材を250℃で1時間熱処理を施した後の前記複合部材のTEM写真である。図14に示すように、銅基板は結晶化しているが、NiP合金の部分には結晶化したときに見られる塊状物は見られず前記NiP合金の部分は、アモルファスであることが確認できた。
図15は、複数のCu基板を用意し、各Cu基板上にそれぞれPの組成比が異なるNiPをメッキ形成し、Cu基板とNiP合金からなる複数の複合部材(a)〜(j)をそれぞれ250℃で1時間加熱したあとのX線回折図である。
図15に示すように、Pの組成比を7.9原子%〜14.7原子%まで変化させた複合部材(a)〜(d)には、Ni{111}面の結晶ピークが見られることが確認できた。一方、Pの組成比を16.1原子%とした場合でも、若干、Ni{111}面の結晶ピークが見られるものの、これは1nmの超微結晶析出物(エンプリオ)であると考えられ、結晶化はしていない。以上のように、図9ないし図15に示す実験結果から、NiP合金をアモルファス状態に維持するためにはPの濃度を15原子%以上にすればよいことがわかった。
次に、スパイラル接触子形状の銅箔の周囲に無電解メッキ法にてNiP合金をメッキ形成した。このときのPの組成比は19原子%であった。前記スパイラル接触子の螺旋状に形成された弾性変形部に応力をかけ、図7工程と同じように前記弾性変形部20aを突出調整部材70を用いて上方に変形させて加熱処理を行なった(立体成形)。加熱条件は温度が250℃で時間が1時間であった。
実験では、図16に示すように、前記スパイラル接触子の弾性変形部に加える応力を種々変化させ、弾性変形部の高さ寸法を変化させた。図16のグラフ上にある「突出調整部材の高さ」とは、図1に示すスパイラル接触子20の基部21の上面21aから前記突出調整部材70の先端までの高さH3を指す。前記高さ寸法H3が大きくなるほど前記弾性変形部にかかる応力が高くなる。図16のグラフ上にある「フォーミング後高さ」とは、図8工程図に示すように、前記突出調整部材70を取り除いた後、前記スパイラル接触子20の基部21の上面21aから前記弾性変形部20aの最も上方に突き出した頂点Aまでの高さH2を意味する。
前記フォーミング後(立体成形後)、さらに前記弾性変形部20aに対し、今度は、下方向(すなわち図8の状態から図6の状態に戻る方向)へ応力をかけながら、図6のようにスパイラル接触子20の弾性変形部20aの上面が基部21の上面21aと同一の高さになる(スパイラル接触子20が平面的な形状になるまで)図6の状態にまで戻し、その状態を48時間、150℃の加熱下(バーンイン;BI)で維持した。その後、前記弾性変形部20aにかかっていた応力を取り除くと、前記弾性変形部20aは上方に向けて再び変形する。そのときの、前記弾性変形部20aの高さ寸法を「BI後高さ」として図16のグラフ上に示した。「BI後高さ」も、前記「フォーミング高さ」と同様、前記スパイラル接触子20の基部21の上面21aから前記弾性変形部20aの最も上方に突き出した頂点Aまでの高さを意味する。
{(「フォーミング後高さ」−「BI後高さ」)/「フォーミング後高さ」}×100をへたり率(%)と定義すると、図17に示すように、弾性変形部20aの立体成形時にかけた応力が種々変化しても前記へたり率を30%以下に押えることが出来るとわかった。前記へたり率が大きくなるということは前記弾性変形部20aが徐々に塑性変形していることの証であるから出来る限り前記へたり率を低く押えたい。
ところで、図16に示すように、ほぼ1440MPaを境にして、1440MPaよりも高い応力をかけた場合、前記NiP合金は塑性域で立体成形されることになり、一方、1440MPaよりも低い応力をかけた場合、前記NiP合金は弾性域で立体成形されることになる。へたりについて考察してみるとへたりは可動転位を介して行なわれると考えられる。このためへたりの小さい弾性変形部20aを形成するには立体成形のときに、前記可動転位を少なくし固着転位化する加工を施すことが必要であると考えられる。
前記NiP合金を弾性域で立体成形したとき、可動転位から前記固着転位にするためには大きなエネルギーが必要である。このため1440MPa以下の応力をかけて前記弾性変形部20aを立体成形するには固着転位化するために加熱時間を長くしなければならない。一方、前記NiP合金を塑性域で立体成形したときは、前記弾性変形部20aに塑性変形を与えているため内在する可動転位を低いエネルギーで固着変位化できる。従って、前記NiP合金を塑性域で立体成形したときの加熱時間を、弾性域で立体成形したときよりも短い時間で、へたりの小さい弾性変形部20aを形成できる。
図16は、アモルファスのNiP合金を弾性変形部20aに使用したときの特性図であり、アモルファスのNiP合金を用いることで、加熱時間を従来より短縮させることが出来る。
次に、図16の実験で使用したスパイラル接触子と同じ構成のもの(すなわち銅箔の周囲にPが15原子%含まれたNiPを無電解メッキしたもの)を用い、前記スパイラル接触子の弾性変形部に対し、2500MPaの応力をかけながら、図18の実験では、図7,図8に示す立体成形を、200℃の加熱下で72時間行ない、図19の実験では、図7,図8に示す立体成形を250℃の加熱下で36分間行ない、図20の実験では、図7,図8に示す立体成形を250℃の加熱下で9分間行ない、その後、それぞれのスパイラル接触子の弾性変形部の「フォーミング後高さ」(立体成形後高さ)を測定し、さらに、図18〜図20の実験全てにおいて、弾性変形部20aを図6の状態に戻す応力をかけながら150℃の加熱下で24時間加熱し(バーンイン1)、前記応力を除去して再び図8のように変形した弾性変形部20aの高さ寸法を「BI後高さ1」として測定し、再び、弾性変形部20aを図6の状態に戻す応力をかけながら150℃の加熱下で48時間加熱し(バーンイン2)、前記応力を除去して再び図8のように変形した弾性変形部20aの高さ寸法を「BI後高さ2」として測定した。「フォーミング後高さ」「BI後高さ1」「BI後高さ2」は全て、前記スパイラル接触子20の基部21の上面21aから前記弾性変形部20aの最も上方に突き出した頂点Aまでの高さで測定された。
また、へたり率を、{(「フォーミング後高さ」−「BI後高さ1または、BI後高さ2」)/「フォーミング後高さ」}×100として求めた。その実験結果を図18〜図20に示す。
図18〜図20に示すように、全ての実験において、へたり率を30%以下に抑えることが出来た。しかも図20の実験では、立体成形時の加熱時間はたった9分であるのに、へたり率が30%以下であり、従来のように1時間程度行なっていた加熱時間を数分〜数十分に短縮しても、へたり率が30%以下となるスパイラル接触子を製造できることが確認できた。
次に、図21,図22に示す実験では、銅箔の周囲に無電解メッキ法でNiP合金を、比較例では、Pの組成比を12.5原子%とし、実施例ではPの組成比を19原子%として、メッキ形成したスパイラル接触子を形成し、比較例及び実施例とも、250℃で1時間の加熱下にて立体成形を行った後、前記スパイラル接触子の弾性変形部に対し荷重をかけ、前記スパイラル接触子が折れるまでの変位量を測定した。「変位量」とは、図8の状態(上記荷重がかかっていない状態)のときのスパイラル接触子の弾性変形部の頂点Aから、上記荷重を下方向へかけることで下降する前記弾性変形部の頂点A′までの下降量H4である(図8を参照)。
図21は比較例であり図22は実施例である。図21の実験に使用したNiP合金はPの組成比が12.5原子%であるため、加熱下における立体成形によって結晶化しており、一方、図22の実験に使用したNiP合金はPの組成比が15原子%であるため、加熱下における立体成形によってもアモルファス状態を維持している。図21の比較例では、だいたい250μmの変位量で前記スパイラル接触子の弾性変形部は折れたが、図22の実施例では、500μm以上変位しても前記スパイラル接触子の弾性変形部は折れないことがわかった。
図23は、銅箔の周囲に無電解メッキ法でNiP合金を、Pの組成比を12.5原子%としてメッキ形成したスパイラル接触子を多数、形成し、各スパイラル接触子を、250℃で1時間の加熱下で立体成形した後、各スパイラル接触子の弾性変形部の上方に試験用の突起部材を対向させ、前記突起部材を下降させて、前記弾性変形部に対し、1000MPaから1500MPaの範囲内の応力がかかるまで押し込み、その後、前記突起部材を元の位置まで上昇させ、このような前記突起部材の昇降を3000回行い、前記スパイラル接触子の弾性変形部が折れる割合(寿命試験)を前記突起部材の昇降回数が1000回のときと3000回のときの双方で調べた。図23に示すように、前記スパイラル接触子の弾性変形部にかかる応力が小さいと、前記スパイラル接触子の弾性変形部が折れる割合が小さくなるものの、1500MPa程度の応力を3000回かけると、80%近くのスパイラル接触子の弾性変形部が折れてしまうことがわかった。また前記突起部材の昇降の回数を1000回にしても、スパイラル接触子の弾性変形部の折れが生じており、弾性変形部が折れる割合を0%にすることはできず、結晶化したNiP合金を有する弾性変形部では耐久性に優れた前記スパイラル接触子を製造できないことがわかった。
一方、図16,図17に示す応力をかけて立体成形した実施例のスパイラル接触子、すなわち、銅箔の周囲に、アモルファス状態のNiP合金(Pは15原子%)を無電解メッキ法にてメッキ形成して成るスパイラル接触子では、図23の実験と同様の方法を用いて2000MPaの応力を4000回までかけても折れるスパイラル接触子は無かった。このことから、弾性変形部にアモルファスのNiP合金を用いると非常に耐久性が向上することがわかった。
次に図18の実験に使用した、Pの組成比が15原子%のNiP合金からなる補助弾性部材を有するスパイラル接触子(立体成形を、200℃の加熱下で72時間行なったもの、実施例1)、図19の実験に使用した、Pの組成比が15原子%のNiP合金からなる補助弾性部材を有するスパイラル接触子(立体成形を、250℃の加熱下で36分間行なったもの、実施例2)、Pの組成比が15原子%のNiP合金からなる補助弾性部材を有し、250℃で18分間の立体成形を行なって形成したスパイラル接触子(実施例3)、図20の実験に使用した、Pの組成比が15原子%のNiP合金からなる補助弾性部材を有するスパイラル接触子(立体成形を、250℃の加熱下で9分間行なったもの、実施例4)、のそれぞれを用いて各スパイラル接触子の降伏点を調べてみた。
実験では、立体成形された各スパイラル接触子の弾性変形部を下方向へ押圧し、降伏点に至ったときの荷重と、そのときの前記弾性変形部の頂点Aの下降量H4(変位量)を調べた(図8を参照)。その実験結果を以下の表1に示す。
降伏点における荷重と変位量は、各実施例のスパイラル接触子においてさほど大きな変化はないことがわかった。表1に示すように、各スパイラル接触子において荷重が2gf(19mN)以上、変位が0.1mm以上の降伏点を得られることがわかった。好ましくは、荷重が4gf(38mN)以上、変位が0.2mm以上の降伏点を得られることがわかった。
図24は、複数のCu基板を用意し、各Cu基板上にそれぞれWの組成比が異なるNiWをメッキ形成し、Cu基板とNiW合金からなる複数の複合部材(k)〜(p)をそれぞれ250℃で1時間加熱したあとのX線回折図である。
図24に示すように、Wの組成比を12.5原子%とすると、Ni{111}面の結晶ピークが見られることが確認できた。一方、Wの組成比を14.9原子%、19.7原子%とした場合でも、若干、Ni{111}面の結晶ピークが見られるが、後で説明するTEM写真によればアモルファスが支配的であった。Wの組成比が24.4原子%,27.7原子%,35.1原子%となると、Ni{111}面の結晶ピークは見られなかった。
図25は、Wを12.5原子%含むNiW合金を250℃で1時間加熱した後のTEM写真及び透過電子線回折像、図26は、Wを14.9原子%含むNiW合金を250℃で1時間加熱した後のTEM写真及び透過電子線回折像、図27は、Wを19.7原子%含むNiW合金を250℃で1時間加熱した後のTEM写真及び透過電子線回折像、図28は、Wを24.4原子%含むNiW合金を250℃で1時間加熱した後のTEM写真及び透過電子線回折像、である。透過電子線回折像は、NiW合金を膜厚と平行な方向から切断し、その切断面に対して垂直方向から電子線を入射させて得たものである。
図25のTEM写真に示すようにアモルファスの部分は見られず、同じ方向に向く格子縞がきれいに見えており、また透過電子線回折像には逆格子面の回折斑点が現れており、結晶化していることがわかった。また前記逆格子面に指数付けを行った結果、結晶はNi結晶が支配的であることがわかった。
次に図26に示すTEM写真には、5〜10nm程度の格子縞が現れていることがわかった。前記格子縞の方向はランダムな方向に向いており、これはアモルファスから結晶(あるいは超微結晶析出物)が析出しているためであると考えられる。また、透過電子線回折像には、アモルファスの存在を示すハローリングが現れており、よって図26のNiWはアモルファスが支配的になっていることがわかった。
次に図27に示すTEM写真には、4〜6nm程度の格子縞が現れていることがわかった。前記格子縞の方向はランダムな方向に向いており、これはアモルファスから結晶(あるいは超微結晶析出物)が析出しているためであると考えられる。また、透過電子線回折像には、アモルファスの存在を示すハローリングが現れている。ハローリングは図27のほうが図26よりも明確に現れている。よって図27のNiWは図26のNiWよりアモルファスが多くなっていることがわかった。
次に図28に示すTEM写真には、5nm以下の格子縞が所々に見えるが、図26,図27の場合に比べて格子縞の存在は小さくなり、また透過電子線回折像には、非常に明確なハローリングが現れていることから、図28のNiWは図26のNiWや図27のNiWよりアモルファスが多くなっていることがわかった。
以上、図24ないし図28の実験結果からNiWのWの組成比は、14.5原子%〜36原子%の範囲内にすることが好ましく、20原子%以上にすることがより好ましいことがわかった。さらに好ましくは24.4原子%以上である。これにより適切にNiWをアモルファス状態にすることが出来る。
次に、図29は、Cu基板上に19.7原子%のWを有するNiPをメッキ形成した複合部材を複数用意し、各複合部材に対して異なる温度にて加熱処理した後のX線回折図である。
また図30は、Cu基板上に27.7原子%のWを有するNiPをメッキ形成した複合部材を複数用意し、各複合部材に対して異なる温度にて加熱処理した後のX線回折図である。
図29に示すようにWを19.7原子%とした場合、熱処理温度を600℃程度にすると、Ni{111}面の結晶ピークが見られることが確認できた。また図30に示すようにWを27.7原子%とした場合、熱処理温度を700℃程度にすると、Ni{111}面の結晶ピークが見られることが確認できた。
このように、W組成比を大きくするほど熱処理温度を上昇させても結晶化を抑制できることがわかった。特にNiWの場合、W組成比によっては700℃程度まで熱処理温度を上昇させても結晶化を抑制できることから、熱処理温度の許容範囲を非常に広くでき、効果的にアモルファス状態を維持できることがわかった。
電子部品の動作を確認するための試験に用いられる検査装置を示す斜視図、
図1の2−2線における断面図を示し、電子部品が装着された状態の断面図、
本実施形態におけるスパイラル接触子の形状を示す拡大斜視図、
図4A、図4B、図4C、図4Dは、それぞれ本実施形態におけるスパイラル接触子を構成する各ターン毎の接触子片を幅方向と平行な方向から膜厚方向に切断したときの断面図、
本実施形態における補助弾性部材の物質状態を示す模式図、
基台11上に前記スパイラル接触子を取付け、前記スパイラル接触子の弾性変形部を上方に向けて立体成形するまでの前記スパイラル接触子の製造方法を示す一工程図(部分断面図)、
図6の次に行なわれる一工程図(部分断面図)、
図7の次に行なわれる一工程図(部分断面図)、
Pを12.5原子%含むNiP合金に対し、特に加熱を行なわなかった状態でのTEM写真、
Pを12.5原子%含むNiP合金に対し、250℃で1時間加熱した後の前記NiP合金のTEM写真、
Pを19原子%含むNiP合金に対し、特に加熱を行なわなかった状態でのTEM写真、
Pを19原子%含むNiP合金に対し、250℃で36分加熱した後の前記NiP合金のTEM写真、
Pを19原子%含むNiP合金に対し、250℃で1時間加熱した後の前記NiP合金のTEM写真、
銅基板の上に、Pを15原子%含有したNiP合金を無電解メッキ法にてメッキ形成し、この複合部材を250℃で1時間熱処理を施した後の前記複合部材のTEM写真、
複数のCu基板を用意し、各Cu基板上にそれぞれPの組成比が異なるNiPをメッキ形成し、Cu基板とNiP合金からなる複数の複合部材(a)〜(j)をそれぞれ250℃で1時間加熱したあとのX線回折図、
スパイラル接触子形状の銅箔の周囲に無電解メッキ法にてNiP合金(Pは19原子%をメッキ形成し、前記スパイラル接触子の弾性変形部に異なる応力をかけて、所定条件で立体成形した後、前記弾性変形部の高さ寸法(フォーミング後高さ)を測定し、さらに、その後、所定条件で加熱処理して、前記弾性変形部の高さ寸法(BI後高さ)を測定したときの、前記スパイラル接触子の弾性変形部に加えた応力と、フォーミング後高さ及びBI後高さとの関係を示すグラフ、
図16の実験結果に基づいてへたり率を求めたときの、前記スパイラル接触子の弾性変形部に加えた応力と前記へたり率との関係を示すグラフ、
図16の実験で使用したスパイラル接触子と同じ構成のスパイラル接触子を用いて、所定条件下で、立体成形をして前記弾性変形部の高さ寸法(フォーミング後高さ)を測定し、その後、所定条件下で、前記スパイラル接触子を加熱して前記弾性変形部の高さ寸法(BI後高さ1)を測定し、さらに、所定条件下で、前記スパイラル接触子を加熱して前記弾性変形部の高さ寸法(BI後高さ2)を測定したときの、前記フォーミング後高さ、BI後高さ1、BI後高さ2の値と、へたり率との関係を示すグラフ、
図16の実験で使用したスパイラル接触子と同じ構成のスパイラル接触子を用いて、所定条件下で、立体成形をして前記弾性変形部の高さ寸法(フォーミング後高さ)を測定し、その後、所定条件下で、前記スパイラル接触子を加熱して前記弾性変形部の高さ寸法(BI後高さ1)を測定し、さらに、所定条件下で、前記スパイラル接触子を加熱して前記弾性変形部の高さ寸法(BI後高さ2)を測定したときの、前記フォーミング後高さ、BI後高さ1、BI後高さ2の値と、へたり率との関係を示すグラフ、
図16の実験で使用したスパイラル接触子と同じ構成のスパイラル接触子を用いて、所定条件下で、立体成形をして前記弾性変形部の高さ寸法(フォーミング後高さ)を測定し、その後、所定条件下で、前記スパイラル接触子を加熱して前記弾性変形部の高さ寸法(BI後高さ1)を測定し、さらに、所定条件下で、前記スパイラル接触子を加熱して前記弾性変形部の高さ寸法(BI後高さ2)を測定したときの、前記フォーミング後高さ、BI後高さ1、BI後高さ2の値と、へたり率との関係を示すグラフ、
銅箔の周囲に無電解メッキ法でNiP合金を、Pの組成比を12.5原子%として、メッキ形成したスパイラル接触子を形成し、所定条件下で立体成形を行った後、前記スパイラル接触子の弾性変形部に対し荷重をかけ、前記スパイラル接触子が折れるまでの変位量を測定したときの、前記変位量と荷重との関係を示すグラフ、
銅箔の周囲に無電解メッキ法でNiP合金を、Pの組成比を19原子%として、メッキ形成したスパイラル接触子を形成し、所定条件下で立体成形を行った後、前記スパイラル接触子の弾性変形部に対し荷重をかけ、前記スパイラル接触子が折れるまでの変位量を測定したときの、前記変位量と荷重との関係を示すグラフ、
銅箔の周囲に無電解メッキ法でNiP合金を、Pの組成比を12.5原子%としてメッキ形成したスパイラル接触子を多数形成し、各スパイラル接触子を、所定条件下で立体成形した後、試験用の突起部材を前記スパイラル接触子の弾性変形部に対して所定の応力で押し込み、その後、前記突起部材を前記弾性変形部から離し、このような前記突起部材の昇降動作を3000回まで行なったときの、前記突起部材の押し込み時に前記弾性変形部にかかる応力と、前記スパイラル接触子の弾性変形部が折れる割合(寿命試験)との関係を、前記突起部材を1000回及び3000回昇降させた時の、それぞれにおいて求めたグラフ、
複数のCu基板を用意し、各Cu基板上にそれぞれWの組成比が異なるNiWをメッキ形成し、Cu基板とNiW合金からなる複数の複合部材(k)〜(p)をそれぞれ250℃で1時間加熱したあとのX線回折図、
Wを12.5原子%含むNiW合金を250℃で1時間加熱した後のTEM写真及び透過電子線回折像、
Wを14.9原子%含むNiW合金を250℃で1時間加熱した後のTEM写真及び透過電子線回折像、
Wを19.7原子%含むNiW合金を250℃で1時間加熱した後のTEM写真及び透過電子線回折像、
Wを24.4原子%含むNiW合金を250℃で1時間加熱した後のTEM写真及び透過電子線回折像、
Cu基板上に19.7原子%のWを有するNiPをメッキ形成した複合部材を複数用意し、各複合部材に対して異なる温度にて加熱処理した後のX線回折図、
Cu基板上に27.7原子%のWを有するNiPをメッキ形成した複合部材を複数用意し、各複合部材に対して異なる温度にて加熱処理した後のX線回折図、
符号の説明
1 電子部品
1a 球状接触子(接続端子)
10 接続装置
11 基台
20 スパイラル接触子
20a 弾性変形部
21 基部
40 導電性部材
41 補助弾性部材
42 被膜部材
50 アモルファス
51 超微細析出物(エンプリオ)
52 金属間化合物結晶
70 突出調整部材