ところで、上記のように、血管径の拡張量或いは拡張率などが用いられる従来の内皮機能評価方法では、駆血解放後に測定された血管の最大径が用いられており、その血管の最大径は単に血管の拡張度合いを示すものであって平滑筋の弛緩状態だけを観察するものではないため、必ずしも評価精度が得られなかった。すなわち、従来では、血管拡張因子であるNOの影響を受ける血管平滑筋の弛緩状態に専ら着目したものが存在せず、その血管平滑筋の弛緩状態を直接把握できる血管平滑筋弛緩状態評価装置が望まれる。
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、高い内皮機能評価精度が得られる血管平滑筋の弛緩状態評価装置を提供することにある。
本発明者は、上記の目的を達成するために種々研究を重ねた結果、一拍の期間内の収縮期における血圧減少に伴う血管径の減少過程を、血圧値を示す対数軸と血管径を示す血管径軸との二次元座標に表すと、表された曲線が傾きが中間部分で変化する折れ線で近似できることを見出した。また、このような現象を解析するうち、血管壁の弾性は、主として、平滑筋の収縮力、コラーゲンの収縮力、エラスチンの収縮力の合計で発生するが、ある程度収縮すると平滑筋による収縮力の影響が無くなり、その後は専らコラーゲンおよびエラスチンの収縮力で収縮することから、その平滑筋による収縮力が作用する境界が上記折れ線の傾きが変化する折れ点として表れるので、その折れ点に対応する血管断面形状値、およびその折れ点よりも血管断面形状値が大きい側の平滑筋作用部の傾きが専ら平滑筋の弛緩状態を直接把握できるパラメータである点を見出した。本発明はこのような知見に基づいて為されたものである。
上記目的を達成するための請求項1に係る血管平滑筋の弛緩状態評価装置の要旨とするところは、生体の血管の平滑筋弛緩状態を評価するための血管平滑筋弛緩状態評価装置であって、(a) 前記生体の血管の断面形状を逐次測定する断面形状測定手段と、(b) 前記生体の血圧を逐次測定する連続血圧測定手段と、(c) 血管の断面形状を表す軸と血圧を表す軸との二次元平面において、前記断面形状測定手段により測定された血管の断面形状と前記連続血圧測定手段により測定された血圧とに基づいて1拍内の少なくとも拡張期の変化を示す拡張期曲線を生成する曲線生成手段と、(d) その曲線生成手段により生成された拡張期曲線に対応する血圧の対数値と断面形状値との間の関係である折れ線を算出し、その折れ線の傾きが変化する折れ点に対応する断面形状値、および該折れ線のうちの傾きが変化する折れ点を境として断面形状値が大きい側に位置する平滑筋作用部の傾きの少なくとも一方を、平滑筋弛緩評価値として算出する平滑筋弛緩評価値算出手段と、(e) その平滑筋弛緩評価値算出手段により算出された平滑筋弛緩評価値を表示する表示手段とを、含むことにある。
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、(f) 前記生体の血管の上流部位を駆血する駆血装置をさらに含み、(g) 前記平滑筋弛緩評価値算出手段は、該駆血装置による駆血前において算出された前記折れ線の傾きが変化する折れ点に対応する断面形状値に対して、該駆血装置による駆血後において算出された前記折れ線の傾きが変化する折れ点に対応する断面形状値の変化値を算出し、該変化値を平滑筋弛緩評価値として決定するものであることを特徴とする。
また、請求項3に係る発明の要旨とするところは、(h) 前記平滑筋弛緩評価値算出手段は、前記増加率を前記駆血装置による駆血後における前記血管内の血流速度または該血管内皮に付与されるずり応力で正規化した値を平滑筋弛緩評価値として決定するものであることを特徴とする。
また、前記目的を達成するための請求項4 に係る血管平滑筋の弛緩状態評価装置の要旨とするところは、生体の血管の平滑筋弛緩状態を評価するための血管平滑筋弛緩状態評価装置であって、(a) 前記生体の血管の断面形状を逐次測定する断面形状測定手段と、(b) 前記生体の血圧を逐次測定する連続血圧測定手段と、(c) 血管の断面形状を表す軸と血圧を表す軸との二次元平面において、前記断面形状測定手段により測定された血管の断面形状と前記連続血圧測定手段により測定された血圧とに基づいて1拍内の少なくとも拡張期の変化を示す拡張期曲線を生成する曲線生成手段と、(d) その曲線生成手段により生成された拡張期曲線に対応する血圧の対数値と断面形状値との間の関係である折れ線を算出し、その折れ線のうちの傾きが変化する折れ点を境として断面形状値が大きい側に位置する平滑筋作用部の傾きを算出し、該傾きに基づいて平滑筋弛緩評価値を算出する平滑筋弛緩評価値算出手段と、(e) その平滑筋弛緩評価値算出手段により算出された平滑筋弛緩評価値を表示する表示手段とを、含むことにある。
また、請求項5に係る発明の要旨とするところは、(f) 前記生体の血管を駆血する駆血装置をさらに含み、(g) 前記平滑筋弛緩評価値算出手段は、該駆血装置による駆血前において算出された前記折れ線のうちの平滑筋作用部の傾きに対して、該駆血装置による駆血後において算出された前記折れ線のうちの平滑筋作用部の傾きの変化値を算出し、該変化値を平滑筋弛緩評価値として決定するものであることを特徴とする。
また、請求項6に係る発明の要旨とするところは、(h) 前記平滑筋弛緩評価値算出手段は、前記減少率を前記駆血装置による駆血後における前記血管内の血流速度または該血管内皮に付与されるずり応力で正規化した値を平滑筋弛緩評価値として決定するものであることを特徴とする。
また、請求項7に係る発明の要旨とするところは、前記平滑筋弛緩評価値算出手段は、前記折れ線のうちの傾きが変化する折れ点を境として断面形状値が小さい側に位置する平滑筋非作用部の傾きを算出し、該平滑筋非作用部の傾きと前記平滑筋作用部の傾きとの差分を平滑筋弛緩状態評価値として算出するものである。
また、前記目的を達成するための請求項8に係る発明の要旨とするところは、生体の血管の平滑筋弛緩状態を評価するための血管平滑筋弛緩状態評価装置であって、(a) 前記生体の血管の上流部位を駆血する駆血装置と、(b) 前記生体の血管の断面形状を逐次測定する断面形状測定手段と、(c) 前記生体の血圧を逐次測定する連続血圧測定手段と、(d) 前記生体の血管の血流量を逐次測定する血流量測定手段と、(e) 血管の断面形状を表す軸と血圧を表す軸との二次元平面において、前記断面形状測定手段により測定された血管の断面形状と前記連続血圧測定手段により測定された血圧とに基づいて1拍内の少なくとも拡張期の変化を示す拡張期曲線を生成する曲線生成手段と、(e) その曲線生成手段により生成された拡張期曲線に対応する血圧の対数値と断面形状値との間の関係である折れ線を算出し、その折れ線の傾きが変化する折れ点に対応する断面形状値を算出する作用点算出手段と、(f) 前記断面形状測定手段により逐次測定される断面形状と前記血流量測定手段により逐次測定される血流量とに基づいて、前記血管の内皮に加えられるずり応力を逐次算出するずり応力算出手段と、(g) 最大ずり応力を表す軸と前記折れ点に対応する断面形状値を表す軸との二次元平面において、駆血後の最大ずり応力および前記折れ点に対応する断面形状値を示す点を表示する表示手段とを、含むことにある。
また、請求項9に係る発明の要旨とするところは、請求項8に係る発明において、前記表示手段は、前記二次元平面において、前記駆血装置による駆血前に求められたずり応力および前記折れ点に対応する断面形状値を示す点と、駆血後に求められた最大ずり応力および前記折れ点に対応する断面形状値を示す点とをそれぞれ表示するものである。
また、請求項10に係る発明の要旨とするところは、請求項9に係る発明において、前記表示手段は、前記二次元平面において、前記駆血装置による駆血前に求められたずり応力および前記折れ点に対応する断面形状値を示す点と、駆血後に求められた最大ずり応力および前記折れ点に対応する断面形状値を示す点とを結ぶ直線を表示するものである。
また、請求項11に係る発明の要旨とするところは、請求項10に係る発明において、前記二次元平面において、前記駆血装置による駆血前に求められたずり応力および前記折れ点に対応する断面形状値を示す点と、駆血後に求められた最大ずり応力および前記折れ点に対応する断面形状値を示す点とを結ぶ直線の傾きを算出する傾き算出手段を含み、前記表示手段は、該傾き算出手段により算出された直線の傾きを表示するものである。
また、請求項12に係る発明の要旨とするところは、(a) 前記断面形状測定手段は、前記生体の表皮上において前記血管を横断する方向に複数の超音波素子が一列に配置された超音波素子アレイから検出されるエコー信号に基づいてその血管の断面形状を測定するものであり、(b) 前記連続血圧測定手段は、前記生体の表皮上において前記血管に押圧される圧脈波センサから検出される圧脈波信号に基づいて前記血管内の血圧を連続的に測定するものであり、(c) 前記血流量測定手段は、前記生体の表皮上において超音波放射方向が前記血管に対して鋭角を成すように装着されるドップラ用超音波素子により検出されるドップラ反射波に基づいて前記血管内の血流速度を測定するものであり、(d) 超音波素子アレイ、前記圧脈波センサ、前記ドップラ用超音波素子は、1つのセンサ本体に設けられたものであることを特徴とする。
前記請求項1に係る発明によれば、平滑筋弛緩評価値算出手段により、曲線生成手段により生成された拡張期曲線に対応する血圧の対数値と断面形状値との間の関係である折れ線を算出し、その折れ線の傾きが変化する折れ点に対応する断面形状値(作用点)が、平滑筋弛緩評価値として算出されるとともに、表示手段によってその平滑筋弛緩評価値が表示されるので、血管の平滑筋弛緩状態が直接的に示され、高い内皮機能評価精度が得られる。
また、請求項2に係る発明によれば、前記平滑筋弛緩評価値算出手段は、該駆血装置による駆血前において算出された前記折れ線の傾きが変化する折れ点に対応する断面形状値に対して、該駆血装置による駆血後において算出された前記折れ線の傾きが変化する折れ点に対応する断面形状値の変化値( たとえば、増加量或いは増加率、減少量或いは減少率) を算出し、該変化値を平滑筋弛緩評価値として決定するものであることから、血管の大小などの個人差による影響が解消され、平滑筋弛緩評価値としての汎用性が高められる。
また、請求項3に係る発明によれば、前記平滑筋弛緩評価値算出手段は、前記増加率を前記駆血装置による駆血後における前記血管内の血流速度または該血管内皮に付与されるずり応力で正規化した値を平滑筋弛緩評価値として決定するものであることから、血管拡張反応の原因量である駆血後における前記血管内の血流速度または該血管内皮に付与されるずり応力のばらつきの影響が解消され、平滑筋弛緩評価値としての汎用性が高められる。
また、請求項4に係る発明によれば、平滑筋弛緩評価値算出手段により、曲線生成手段により生成された拡張期曲線に対応する血圧の対数値と断面形状値との間の関係である折れ線を算出し、その折れ線のうちの傾きが変化する折れ点を境として断面形状値が大きい側に位置する平滑筋作用部の傾きが、平滑筋弛緩評価値として算出されるとともに、表示手段によってその平滑筋弛緩評価値が表示されるので、血管の平滑筋弛緩状態が直接的に示され、高い内皮機能評価精度が得られる。
また、請求項5に係る発明によれば、前記平滑筋弛緩評価値算出手段は、該駆血装置による駆血前において算出された前記折れ線のうちの平滑筋作用部の傾きに対して、該駆血装置による駆血後において算出された前記折れ線のうちの平滑筋作用部の傾きの変化値( たとえば、増加量或いは増加率、減少量或いは減少率) を算出し、該変化値を平滑筋弛緩評価値として決定するものであることから、血管の弾性などの個人差による影響が解消され、平滑筋弛緩評価値としての汎用性が高められる。
また、請求項6に係る発明によれば、前記平滑筋弛緩評価値算出手段は、前記減少率を前記駆血装置による駆血後における前記血管内の血流速度または該血管内皮に付与されるずり応力で正規化した値を平滑筋弛緩評価値として決定するものであることから、血管拡張反応の原因量である駆血後における前記血管内の血流速度または該血管内皮に付与されるずり応力のばらつきの影響が解消され、平滑筋弛緩評価値としての汎用性が高められる。
また、請求項7に係る発明によれば、、前記平滑筋弛緩評価値算出手段は、前記折れ線のうちの傾きが変化する折れ点を境として断面形状値が小さい側に位置する平滑筋非作用部の傾きを算出し、該平滑筋非作用部の傾きと前記平滑筋作用部の傾きとの差分を平滑筋弛緩状態評価値として算出するものであることから、そのように得られた差分は血管壁のエラスチンやコラーゲンによる弾性係数が除去されるので、平滑筋の弛緩状態が一層正確に評価される。
また、前記目的を達成するための請求項8に係る発明によれば、作用点算出手段により、曲線生成手段により生成された拡張期曲線に対応する血圧の対数値と断面形状値との間の関係である折れ線が算出され、その折れ線の傾きが変化する折れ点に対応する断面形状値が作用点としてを算出されるとともに、ずり応力算出手段により、前記断面形状測定手段により逐次測定される断面形状と前記血流量測定手段により逐次測定される血流量とに基づいて、前記血管の内皮に加えられるずり応力が逐次算出され、表示手段により、最大ずり応力を表す軸と前記折れ点に対応する断面形状値を表す軸との二次元平面において、駆血後の最大ずり応力および前記折れ点に対応する断面形状値を示す点が表示されるので、血管の平滑筋弛緩状態が直接的に示され、最大ずり応力のばらつきに拘わらず、高い内皮機能評価精度が得られる。
また、請求項9に係る発明によれば、前記表示手段は、前記二次元平面において、前記駆血装置による駆血前に求められたずり応力および前記折れ点に対応する断面形状値を示す点と、駆血後に求められた最大ずり応力および前記折れ点に対応する断面形状値を示す点とをそれぞれ表示するものであるので、ずり応力と折れ点に対応する断面形状値とに関して駆血前後の変化が把握でき、一層高い内皮機能評価精度が得られる。
また、請求項10に係る発明によれば、前記表示手段は、前記二次元平面において、前記駆血装置による駆血前に求められたずり応力および前記折れ点に対応する断面形状値を示す点と、駆血後に求められた最大ずり応力および前記折れ点に対応する断面形状値を示す点とを結ぶ直線を表示するものであるので、ずり応力と折れ点に対応する断面形状値とに関して駆血前後の変化を直線の傾きで知ることができ、一層高い内皮機能評価精度が得られる。
また、請求項11に係る発明によれば、前記二次元平面において、前記駆血装置による駆血前に求められたずり応力および前記折れ点に対応する断面形状値を示す点と、駆血後に求められた最大ずり応力および前記折れ点に対応する断面形状値を示す点とを結ぶ直線の傾きを算出する傾き算出手段を含み、前記表示手段は、該傾き算出手段により算出された直線の傾きを表示するものであるので、ずり応力と折れ点に対応する断面形状値とに関して駆血前後の変化を直線の傾きを定量的に知ることができ、一層高い内皮機能評価精度が得られる。
また、請求項12に係る発明によれば、前記断面形状測定手段の測定に用いられる超音波素子アレイ、前記連続血圧測定手段の測定に用いられる圧脈波センサ、前記血流量測定手段の測定に用いられるドップラ用超音波素子は、1つのセンサ本体に設けられたものであるので、超音波素子アレイ、圧脈波センサ、およびドップラ用超音波素子を生体に対して装着する作業が容易となる。
以下、本発明の好適な実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、本発明の一実施例の血管平滑筋弛緩状態評価装置10に備えられた超音波圧脈波プローブ12の生体14に対する装着状態を示している。この超音波圧脈波プローブ12は、図2或いは図3に示すように、装着バンド16によって生体の一部たとえば上腕部において上腕動脈18の真上に位置するように装着される。この上腕動脈18は、上腕二頭筋の下端部下側から表皮20に向かって接近する形状を有している。
上記超音波プローブ12は、その表皮20と接触する接触面22を有し、アクリル樹脂等の合成樹脂、セラミックス、金属などの超音波透過性材料から構成されたセンサ本体24と、そのセンサ本体24内に所定の間隔Lを隔てて互いに平行となるように埋設され且つ上記上腕動脈18と交差する長手方向の第1アレイ26および第2アレイ28と、その第2アレイ28から下流側に位置するように配設され且つ上記上腕動脈18と交差する長手方向の第3アレイ30とを備えている。第1アレイ26および第2アレイ28は、上記一方向すなわち上記長手方向に配列された複数個の超音波素子26n および28n (nは整数)をそれぞれ備えている。上記第3アレイ30も、上記の第1アレイ26および第2アレイ28と平行な一方向すなわち上記長手方向に配列された複数個の超音波素子30n を備えている。上記超音波素子26n および28n は、測定対象となる上腕動脈18の径よりも十分に小さい間隔たとえば0.2乃至0.5mm程度となるように配置されている。超音波素子30n もそれと同等であるかそれよりも大きい間隔で配置されている。
上記第1アレイ26の超音波素子26n および第2アレイ28の超音波素子28n は、圧電素子などから構成されることによって超音波の発信子および受信子として機能するものであり、真下に向かって超音波を発信するように接触面22に対して垂直に設けられている。上記第3アレイ30の超音波素子30n も、圧電素子などから構成されることによって超音波の発信子および受信子として機能するものであり、上流部位の上腕動脈18に向かって超音波を発信するように接触面22に対して超音波放射面が斜めにたとえば45度程度傾斜して設けられている。上記第1アレイ26の超音波素子26n および第2アレイ28の超音波素子28n は、X−Z平面として設定される接触面22内に略位置するように配置され、第1アレイ26の超音波素子26n のうちの端部に位置する素子261 が上記X−Y−Z三次元直交座標の原点として設定されている。
第1アレイ26の複数個の超音波素子26n および第2アレイ28の複数個の超音波素子28n は、それぞれ、上記接触面22に対して垂直方向に超音波を放射し、その超音波の伝播過程に存在する界面にからの反射波をエコー信号として受信するので、図2に示すように、第1アレイ26および第2アレイ28の直下には、互いに平行であって上記上腕動脈18がそれぞれ貫通させられる測定断面Aおよび測定断面Bが形成されるようになっている。それらの測定断面Aおよび測定断面Bは前記X−Y−Z三次元直交座標のX−Y平面に平行な面となり、それら測定断面Aおよび測定断面Bの面内の位置は座標値により表される。
図3に示すように、上記血管平滑筋弛緩状態評価装置10は、第1アレイ26、第2アレイ28、第3アレイ30を駆動制御するための超音波駆動制御回路32と、アナログ信号およびデジタル信号の一方から他方へ変換するためのA/D変換器34と、電子制御装置36と、数字および画像を表示するための表示器38とを備えている。上記電子制御装置36はCPU40、ROM42、RAM44、図示しない記憶装置やインターフェース等から成る所謂マイクロコンピュータから構成されており、CPU40はRAM44の一時記憶機能を利用しつつ予めROM42に記憶されたプログラムにしたがって入力信号を処理して、血管形状、血流速度、および血流量を算出し、演算結果を表示器38に表示させ、或いは他の機器へ出力する。このため、上記電子制御装置36等は、血管形状測定装置、血流速度測定装置、および血流量測定装置として機能している。
また、図3の血管平滑筋弛緩状態評価装置10において、超音波測定プローブ12のセンサ本体24にはその接触面22に開口する収容孔46が形成されており、圧脈波センサ48がその収容穴46内に嵌め入れられた状態で、接触面22から突き出し可能にセンサ本体24内に収容されている。圧脈波センサ48によって開口が閉じられた収容穴46内の空間50には、圧脈波センサ48を生体の上腕動脈18に向かって押圧するための押圧手段52が設けられている。図3には、この押圧手段52として機能するスプリングが示されているが、それに代えて或いはそれに加えて、電子制御装置36によって駆動される図示しない圧力制御弁によって制御される空気圧或いは液圧が押圧手段として設けられてもよい。
図4に示すように、上記圧脈波センサ48の押圧面54には、複数個の圧力検出素子56が上腕動脈18を横断する方向に一列に配置されている。通常、この圧脈波センサ48は、上腕動脈18の管壁の一部が平坦となる程度の押圧力で上腕動脈18に向かって突き出され、そのときに複数個の圧力検出素子56のうちの検出信号のゲインが最も高い圧力検出素子が測定のために選択される。
図3に戻って、上記圧脈波センサ48は、上腕動脈18内で脈動する血圧すなわち圧脈波を検出し、検出された信号はA/D変換器58を介して前記電子制御装置36へ供給される。一方、本実施例の血管平滑筋弛緩状態評価装置10には、生体14の上腕部であって超音波測定プローブ12の装着位置よりも上流側に巻回されるカフ(膨張袋)60、ポンプ62から圧送される空気を元圧としてそのカフ60の圧力を制御する圧力制御弁64、およびそのカフ60の圧力を検出する圧力センサ66が備えられている。この圧力センサ66によって検出された圧力信号は、カフ60に発生する圧力振動であるカフ脈波信号を構成する周波数成分の信号を通過させるバンドパスフィルタ68とカフ60のカフ圧(静圧)をしめす周波数成分の信号を通過させるローパスフィルタ70とを並列に通過させられることにより、上記カフ脈波を示すカフ脈波信号および上記カフ圧を示すカフ圧信号に変換され、A/D変換器72を介して前記電子制御装置36へ供給される。上記電子制御装置36は、カフ60を用いた血圧測定を実行してカフ血圧を得るとともに、そのカフ血圧値と圧脈波センサ48によって検出された圧脈波の値とを対応させた較正線を決定し、その較正線を用いて瞬時値が血圧値に較正された圧脈波すなわち脈動する血圧値を逐次出力する。このため、上記電子制御装置36等は血圧測定装置としても機能し、上記カフ60、ポンプ62、および圧力制御弁64などが圧迫装置として機能している。
図5は、上記電子制御装置36の演算制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、連続血圧測定手段74は、生体14の上腕動脈18の血圧値Pを連続的に測定する。断面形状測定手段76は、生体14の上腕動脈18の断面形状たとえば外径Dを連続的に測定する。後述の図15は、その連続的に変化する血圧値Pおよび血管径Dを示している。血流量測定手段78は、生体14の上腕動脈18の血流量Qを連続的に測定する。図6は、上記連続血圧測定手段80を詳しく説明する図であり、図8は上記断面形状測定手段82および血流量測定手段84を詳しく説明する図である。
図6において、カフ血圧測定手段80は、カフ60を用いた血圧測定を順次実行して、カフ60の圧力を最高血圧よりも高く設定された止血圧まで上昇させた後に除去にその圧力を下降させ、その過程で得られたカフ脈波の振幅の変化に基づいて最高血圧値Pksや最低血圧値Pkdをオシロメトリック法に従って決定する。較正線決定手段82は、カフ血圧測定手段86によるカフ60を用いた血圧測定で得られたカフ血圧値Pk (最高血圧値Pksおよび最低血圧値Pkd)と圧脈波センサ48の複数個の圧力検出素子56のうちの検出信号のゲインが最も高い圧力検出素子によって検出された圧脈波Pw の値とを対応させた較正線Kを決定する。その較正線Kは図7に例示されるものである。その圧脈波センサ48は、押圧力制御手段86によって最適押圧力たとえば上腕動脈18の管壁の一部が平坦となる押圧値で押圧された状態が維持されている。血圧波形出力手段84は、圧脈波センサ48によって検出された圧脈波Pw の値を較正線Kを用いて較正することにより瞬時値が血圧値に較正された圧脈波すなわち脈動する連続的な血圧値Pを逐次出力する。
図8において、第1管壁位置演算手段88および第2管壁位置演算手段90は、第1アレイ26の直下の測定断面Aおよび第2アレイ28の直下の測定断面Bにおける上腕動脈18の断面形状を、各超音波素子26n および各超音波素子28n がそれぞれ受信したエコー信号に基づいて算出する。図9は、第1アレイ26の各超音波素子26n 毎に示す送信信号Sn と上腕動脈18の管壁からのエコー信号En の波形を示すタイムチャートであり、その送信信号Sn とエコー信号En との時間差が第1アレイ26からの深さ寸法に対応している。このため、上記第1管壁位置演算手段48は、上記送信信号Sn とエコー信号En との間の時間差と、生体内の音速とに基づいて各超音波素子26n に対応する管壁の深さ位置をそれぞれ算出する。第2管壁位置演算手段90も同様にして、測定断面Bにおける各超音波素子28n に対応する管壁の深さ位置をそれぞれ逐次算出する。
次いで、測定断面形状算出手段92は、上記測定断面AおよびBにおいて、上記各超音波素子26n および28n に対応する管壁の深さ位置から、図10に示すようにX−Y座標内の点で特定し、さらに、それらの各点から曲線補完を用いてそれら各点を結ぶ閉曲線Kを算出して上腕動脈18の内腔の形状とし、その閉曲線Kの長径軸寸法2b、短軸径寸法2a、平均的な外径D[=(2b+2a)/2]をそれぞれ逐次算出する。図10は測定断面Aにおける座標を示している。
中心軸算出手段94は、測定断面形状算出手段92により測定断面AおよびBにおいて求められた閉曲線Kから、その各測定断面AおよびBにおける閉曲線Kの中心点CA (X0A,Y0A,ZA )およびCB (X0B,Y0B,ZB )をそれぞれ算出する。そして、それら各測定断面AおよびBにおける閉曲線Kの中心点CA (X0A,Y0A,ZA )およびCB (X0B,Y0B,ZB )を結ぶ直線を、上腕動脈18の中心軸CLとして逐次決定する。図11は接触面22に平行な面(水平面)内の中心軸CLを示し、図12は接触面22に垂直な面(垂直面)内の中心軸CLを示している。たとえば、上記中心点CA は、閉曲線Kに近似する楕円の式(1) を利用した次式(1) から、最小自乗法を用いて未知数であるX0 およびY0 を算出する。
(( Xi −X0 )/a)2+(( Yi −Y0 )/b)2=1 ・・・(1)
交差角算出手段96は、図11に示す接触面22に平行な面内において、測定断面A或いはBについて、中心軸算出手段94により算出された上腕動脈18の中心軸CLに基づいて中心点CA を通ってその中心軸CLと直交する上腕動脈18の直交断面A’或いは中心点CB を通ってその中心軸CLと直交する上腕動脈18の直交断面B’を決定し、その直交断面A’或いはB’と測定断面A或いはBとの交差角度β(度)を逐次算出する。同様に、図12に示す接触面22に垂直な面内において、測定断面A或いはBについて、中心軸算出手段94により算出された上腕動脈18の中心軸CLに基づいて中心点CA を通ってその中心軸CLと直交する上腕動脈18の直交断面A’或いは中心点CB を通ってその中心軸CLと直交する上腕動脈18の直交断面B’を決定し、その直交断面A’或いはB’と測定断面A或いはBとの交差角度γ(度)を逐次算出する。
形状補正手段98は、上記交差角度算出手段96により算出された交差角度βおよびγに基づいて、測定断面形状算出手段92により算出された形状を直交断面A’およびB’における形状となるように補正する。すなわち、上腕動脈18の直交断面A’およびB’における長軸径2b’および短軸径2a’となるように、補正式(2) 、(3) により測定断面形状算出手段92により算出された長軸径2bおよび短軸径2a、外径D[=(2b’+2a’)/2]をそれぞれ逐次補正する。
a’=a/cos β ・・・(2)
b’=b/cos γ ・・・(3)
但し、cos β=( X0 A−X0 B)/L
cos γ=( X0 A−X0 B)/L
直交断面積算出手段100は、直交断面A’およびB’における上腕動脈18の内腔面積SA ’およびSB ’を、上記形状補正手段98によって補正された長軸径2b’および短軸径2a’に基づいて逐次算出する。たとえば、直交断面A’およびB’における値に補正された長軸径2b’および短軸径2a’から特定される楕円の式(4) を用いて積分することにより、直交断面A’およびB’における面積SA ’およびSB ’が算出される。本実施例では、上記測定断面形状算出手段92、中心軸算出手段94、交差角算出手段96、形状補正手段98、および直交断面積算出手段100が、前記断面形状測定手段76に対応している。
(( Xi ’−X0 )/a’)2+(( Yi ’−Y0 )/b’)2=1 ・・・(4)
アクティブ素子選択手段104は、第3アレイ30の複数の超音波素子30n のうち上腕動脈18に最も近い素子或いは超音波放射方向線が上腕動脈18の中心軸CLと最も近いアクティブ素子を、中心軸算出手段54により求められた上腕動脈18の中心軸CLの位置に基づいて選択する。
血流速度算出手段106は、予め記憶された式(5) から、上記アクティブ素子から放射された超音波が血流によるドップラ効果によって位相変化或いは周波数変化させられたドップラ反射波の周波数fdに基づいて1拍毎に発生する最大血流速度Umax を算出する。式(5) において、fcは放射される超音波の波数、cは生体中の音速である。式(5) において、θ2 は図13に示す接触面22に垂直な面内のアクティブ素子からの超音波放射方向線USLと中心軸CLとの角度、θ1 は図14に示す接触面22に垂直な面内のアクティブ素子からの超音波放射方向線USLと中心軸CLとの角度、θ3 は図14に示す接触面22に垂直な面内の受波素子の受波方向線RSLと中心軸CLとの角度である。アクティブ素子が受波素子を兼ねる場合にはθ3 =0となる。それらの角度θ1 、θ2 、θ3 は、既知のアクティブ素子の幾何的位置と前記中心軸算出手段94により算出された中心軸CLとに基づいて予め算出されるとともに、上記式(5) は、それらの角度θ1 、θ2 、θ3 による補正が加味されているので、本実施例の血流速度算出手段106は、式(5) を用いることにより超音波放射方向線USLと中心軸CLとの間の相対角度θ1 、θ2 、θ3 に起因する最大血流速度Umax のずれを補正した最大血流速度Umax を一挙に算出しているので、超音波放射方向線USLと中心軸CLとの間の相対角度θ1 、θ2 、θ3 を算出する相対角度算出手段108、およびその相対角度θ1 、θ2 、θ3 に起因する最大血流速度Umax のずれを補正する血流補正手段110を兼ねているが、血流速度算出手段106は最大血流速度Umax を基本的に算出し、相対角度算出手段68は既知のアクティブ素子の幾何的位置と前記中心軸算出手段94により算出された中心軸CLとに基づいて超音波放射方向線USLと中心軸CLとの間の相対角度θ1 、θ2 、θ3 を算出し、血流補正手段110はその相対角度θ1 、θ2 、θ3 に起因する最大血流速度Umax のずれを補正するように役割を分担するように構成されてもよい。
fd=−(fc/c)(cos θ1cosθ2 +cos θ3cosθ2 ) ・・・(5)
血流量算出手段112は、前記直交断面積算出手段100により求められた直交断面B’における上腕動脈18のSB ’と、上記血流速度算出手段66において求められた補正後の最大血流速度Umax とに基づいて、直交断面B’における血流量QB (=SB ’×Umax /2)を逐次算出する。そして、出力手段114は、上記のようにして求められた、補正後の長軸径2b’および短軸径2a’、補正後の血流速度U、血流量QB をそれぞれ数字、グラフにて表示器38に画像表示或いは印字表示させるとともに、図示しない記憶装置に記憶させる。本実施例では、上記血流速度算出手段106、相対角度算出手段108、血流補正手段110、および血流量算出手段112が、前記血流量測定手段78に対応している。
図5に戻って、曲線生成手段120は、たとえば図16に示すように、血管の断面形状である血管径Dを表す軸AD と血圧Pを表す軸AP との直交二次元平面において、断面形状測定手段76により測定された上腕動脈(血管)18の断面形状値である血管径Dと前記連続血圧測定手段74により測定された血圧Pとに基づいて1拍内の少なくとも拡張期の変化を示す拡張期曲線LDCを含む閉曲線であるリサージュ曲線REを生成する。図16において示される拡張期曲線LDCは、平滑処理されているため、実際の拡張期曲線とは僅かにずれている。
ずり応力算出手段122は、予め記憶された算出式(6) から、断面形状測定手段76により逐次測定される断面形状である血管径Dと前記血流量測定手段78により逐次測定される血流量Qとに基づいて、上腕動脈(血管)18の内皮細胞層に加えられるずり応力(シェアストレス)τW を逐次算出するとともに、駆血解放後の最大ずり応力τWmaxを決定する。この最大ずり応力τWmaxは、駆血後の最大値を判定して求められてもよいし、駆血後の所定時間後の値を求めてもよい。また、上記ずり応力算出手段122は、たとえば図21の駆血解放時点t0 からt2 までの所定期間内における平均値である平均ずり応力τWmean 、累積値である累積ずり応力ΣτW を算出する。なお、式(6) において、μは血液の粘性であり、dは上腕動脈18の内腔半径である。内腔半径dはたとえば(a+b)/2から求められる。
τW =4μQ/πd3 ・・・(6)
平滑筋弛緩評価値算出手段124は、作用点算出手段126、傾き算出手段128、変化値算出手段130、および正規化手段132を備え、上腕動脈(血管)18の平滑筋の作用が開始される作用点に対応する断面形状値Dt 、その平滑筋の収縮作用の強さに対応する傾きβS 、およびを算出し、平滑筋弛緩評価値として出力する。
ここで、一心拍期間内における血管径Dと血圧Pとの関係は、図16に示されるように、血管の粘性ηの影響によってヒステリシスすなわち閉曲線であるリサージュ曲線REを描く。収縮期曲線LSCは、式(7) により表され、管壁の変化が大きくために粘性ηの影響が大きい。式(7) の右辺第1項のP弾性(D)は血管壁の弾性収縮力の関数であり、血管径Dが大きくなる(伸びる)ほど高くなる。このため、粘性の影響を除去して弾性の影響のみを評価するために拡張期曲線LDCが用いられる。拡張期の開始はたとえば血圧波形PのダイクロノッチNの発生或いはダイクロティックウエーブの開始点を判定することにより決定され、拡張期の終了はたとえば血圧波形Pの極小点を判定することにより決定される。
P=P弾性(D)+ηdD/dt ・・・(7)
上記拡張期曲線LDCは、図17に示すように、血管壁に含まれるエラスチンの弾性収縮力の関数として決まる圧力Pエラスチン(D)と、血管壁に含まれるコラーゲンの弾性収縮力の関数としれ決まる圧力Pコラーゲン(D)と、平滑筋の弾性収縮力の関数として決まる圧力Pヘイカツキン(D)との重なり(加算)による圧力値であり、式(8) により表される。図17に示すように、エラスチンの弾性収縮力およびコラーゲンの弾性収縮力は収縮期の全域にわたって作用するが、平滑筋の弾性収縮力は途中から作用することにより、拡張期曲線LDCは血管径Dの増加に伴って加速度的に増加する。したがって、血管平滑筋の弛緩状態(弾性収縮力)を評価するには、図18に示すように、圧力Pエラスチン(D)と圧力Pコラーゲン(D)とを上記拡張期曲線LDCから差し引いた圧力Pヘイカツキン(D)を抽出すればよいことになる。
P=Pエラスチン(D)+Pコラーゲン(D)+Pヘイカツキン(D) (8)
上記拡張期曲線LDCは、図19に示すように、血圧Pの対数値lnPを示す血圧対数軸AP と断面形状値である血管径Dを示す血管径軸AD と片対数の二次元座標において、近似的に直線により表され、単純な計算で血管平滑筋の弛緩状態を抽出することができるようになる。すなわち、拡張期曲線LDCは上記片対数二次元座標において、図19の実線に示すように、傾きβA の直線と傾きβB の直線とから成る折れ線によって表され、その折れ線の折れ点PB が傾きβA と傾きβB との間の変化点を判定することにより求められる。次いで、折れ点PB に対応する血管径Dt が定量的に求められる。この折れ点PB に対応する血管径Dt は、平滑筋の弾性収縮力の作用が開始される点すなわち作用点であり、平滑筋の弾性収縮力のみにより影響される点であるからその平滑筋の弛緩状態評価値として用いられる。図19には、折れ点PB1、PB2、PB3とそれに対応する血管径Dt1、Dt2、Dt3とが示されており、血管径Dt1は平滑筋の弱い弛緩(強い弾性収縮)状態を、Dt3は平滑筋の強い弛緩(弱い弾性収縮)状態を、Dt2はそれらの中間的弛緩状態をそれぞれ示している。
また、上記図19の実線に示される折れ線のうち折れ点PB よりも血管径Dが小さい側である傾きβA (=ΔD/ΔlnP)の直線は平滑筋の弾性収縮力作用の影響を受けない平滑筋非作用部LAであり、たとえば式(9) に示す関係が成り立つ。また、上記折れ線のうち折れ点PB よりも血管径Dが大きい側である傾きβB (=ΔD/ΔlnP)の直線は平滑筋の弾性収縮力作用の影響を受けた平滑筋作用部LBであり、たとえば式(10)に示す関係が成り立つ。平滑筋非作用部LAの傾きβA は、エラスチンおよびコラーゲンの弾性収縮力で決定される弾性係数の逆数に対応する定数であり、エラスチンおよびコラーゲンの弾性収縮力と平滑筋の収縮力で決定される弾性係数の逆数に対応する定数である平滑筋作用部LBの傾きβB よりも大きい値である。その平滑筋作用部LBの傾きβB (=ΔD/ΔlnP)は、平滑筋の弱い弛緩(強い弾性収縮)状態の傾きをβB1とし、中間的弛緩状態の傾きをβB2とし、強い弛緩(弱い弾性収縮)状態の傾きをβB3とすると、図19に示されるように、βB1からβB3へ向かって順次大きい値となる。すなわち、βB1<βB2<βB3となる。これらの傾きβB1、βB2、βB3は、平滑筋の弾性収縮力の大きさすなわち弛緩状態が直接的に示される値であるからその平滑筋弛緩状態評価値として用いられる。また、傾きβA のばらつきの影響を除去して平滑筋の影響のみを一層正確に評価するために、上記平滑筋非作用部LAの傾きβA と上記平滑筋作用部LBの傾きβB との差分の傾きγ(=βA −βB )が算出されて平滑筋弛緩状態評価値として用いられる。
D=αA +βA ・lnP ・・・(9)
D=αB +βB ・lnP ・・・(10)
但し、Pは拡張期圧、αA およびαB は定数である。
前記作用点算出手段126は、前記曲線生成手段120により生成された拡張期曲線LDCを、図19に示す片対数二次元座標において直線で表される、式(9) で示される平滑筋非作用部LAと式(10)で示される平滑筋作用部LBとから成る折れ線を、その式(9) および(10)の定数および係数を求めることにより生成し、その折れ線の折れ点PB を傾きβA から傾きβB へ急変する変化点を判定することにより求め、その折れ点PB に対応する血管径Dt を算出する。前記傾き算出手段128は、上式(9) の右辺第2項の係数βA と上式(10)の右辺第2項の係数βB の定数を算出することにより、平滑筋作用部LBの傾きβB を求めるとともに、平滑筋非作用部LAの傾きβA と上記平滑筋作用部LBの傾きβB との差分である傾きγ(=βA −βB )を算出する。
駆血制御手段136は、前記連続血圧測定手段74による血圧Pの測定、前記断面形状測定手段76による血管径Dの測定、前記血流量測定手段78による血流量Qの測定の測定開始から所定時間後に、前記生体14の上腕部であって超音波測定プローブ12の上流側位置をカフ60を用いて圧迫し、その部位の上腕動脈18をたとえば5分程度の所定時間止血或いは駆血後、その上腕動脈18の止血状態を解放して血流を再開させる。この血流再開後の期間においても、前記連続血圧測定手段74による血圧Pの測定、前記断面形状測定手段76による血管径Dの測定、前記血流量測定手段78による血流量Qの測定をそれぞれ再開させるようにする。上記駆血後において測定された血圧P、血管径D、血流量Qは、たとえば図20に示されるような時間的な変化を示す。この変化は、血管拡張反応に由来するものであり、血流再開により急激に血流量Qが増加することにより上腕動脈18の内皮細胞層に負荷されるずり応力(シェアストレス)τW も急激に増加し、その内皮細胞からずり応力τW を一定としようとして産生されるNOによって平滑筋の弛緩が発生して血管が拡張されるのである。図21は、この駆血後における、平滑化された血流量Q(実線)、最高血圧時の血管径D(1点鎖線)、それらから求められたずり応力(シェアストレス)τW (2点鎖線)の変化を示している。図21において、駆血解放後の所定時間経過した時点t1 付近において血流量Qおよびずり応力(シェアストレス)τW が最大値となり、その後の駆血解放後の時間経過60秒程度以上経過した時点t2 付近において血管径Dが最大となる。従来では、このときの血管径Dを測定して最大血管径変化率を求めていた。なお、図21の破線は血管径Dの基線すなわち駆血されないときの値を示している。
前記変化値算出手段130は、前記作用点算出手段126により算出された、折れ点PB に対応する血管径( 作用点) Dt に関し、平滑筋弛緩状態評価値として用いるために、駆血前に求められた値Dt0と駆血後に求められた値Dt1との変化値たとえば変化量ΔDt (=Dt0−Dt1)および変化率RDt[=(Dt0−Dt1)/Dt0]を算出する。また、変化値算出手段130は、平滑筋弛緩状態評価値として用いるために、前記傾き算出手段132により算出された傾きβB に関し、駆血前に求められた値βB 0 と駆血後に求められた値βB 1 との変化値たとえば変化量ΔβB (=βB 0 −βB 1 )および変化率RB [=(βB 0 −βB 1 )/βB 0 ]を算出し、差分の傾きγに関し、駆血前に求められた値γ0 と駆血後に求められた値γ1 との変化値たとえば変化量Δγ(=γ0 −γ1 )および変化率Rr [=(γ0 −γ1 )/γ0 ]を算出する。
正規化手段132は、動脈血管壁の内皮細胞に負荷されるずり応力のばらつきの影響を低減した平滑筋弛緩状態評価値を得るために、前記作用点算出手段126により算出された折れ点PB に対応する血管径Dt 、前記傾き算出手段128により算出された平滑筋作用部LBの傾きβB について、正規化処理を施す。たとえば、図21の駆血解放時点t0 からt2 までの所定期間内における平均値である平均ずり応力τWmean 、累積値である累積ずり応力ΣτW を算出し、その平均ずり応力τWmean 或いは累積ずり応力ΣτW で除算して平滑筋弛緩状態評価値(Dt /τWmean 、Dt /ΣτW 、βB /τWmean 、βB /ΣτW )を得る。式(6) に示されるように、ずり応力τW と血流量Qとは一対一の関係にあるから、上記平均ずり応力τWmean 或いは累積ずり応力ΣτW に代えて、平均流量Qmean或いは累積流量ΣQが用いられてもよい。この場合に得られる平滑筋弛緩状態評価値は、Dt /Qmean、Dt /ΣQ、βB /Qmean、βB /ΣQとなる。なお、正規化の他の手法として、予め実験的に求めた関係から、上記平均ずり応力τWmean 、累積ずり応力ΣτW 、平均流量Qmean或いは累積流量ΣQが予め設定された値であるときの値に換算することにより、折れ点PB に対応する血管径Dt や平滑筋作用部LBの傾きβB を正規化してもよい。
表示手段134は、上記のようにして求められた平滑筋弛緩状態評価値を、表示器38の画面に表示させ、生体14の動脈の平滑筋弛緩状態の評価や確認を可能とする。正規化前および後の折れ点PB に対応する血管径Dt および平滑筋作用部LBの傾きβB 、折れ点PB に対応する血管径Dt の変化量ΔDt および変化率RDt、平滑筋作用部LBの傾きβB の変化量ΔβB 変化率RB 、差分の傾きγの変化量Δγおよび変化率Rr などの複数の平滑筋弛緩状態評価値の一部或いは全部が表示される。図22は表示器38の画面における表示の一例を示している。
また、上記表示手段134は、駆血後の最大ずり応力τWmaxを表す軸Aτと前記折れ点PB に対応する断面形状値である血管径Dt を表す軸ADtとの直交二次元座標平面において、ずり応力算出手段136により算出された実際の最大ずり応力τWmaxと前記作用点算出手段124により算出された実際の折れ点PB に対応する血管径Dt とを示す点Tを、上記表示器38の画面の左下部分に表示させる。この直交二次元座標平面には、表示器38の画面による判定を容易化するために、平滑筋弛緩状態が不十分であり内皮機能障害と思われる領域の境界線すなわち最大ずり応力τWmax毎の判定値を結ぶ判定線Hが破線にて表示されている。図23は、上記表示器38の画面に表示される直交二次元座標を拡大して示している。生体14が健康であれば、駆血後の最大ずり応力τWmaxと折れ点PB に対応する血管径Dt とを示す点Tは、複数の健常者の測定点であって判定基準値を示す判定線Hの上側に位置する実線に沿って表示される。しかし、生体14が動脈硬化症であれば、その点Tは判定線Hよりも下側に表示される。
また、上記表示手段134は、図24に示すように、上記の直交二次元座標において、駆血前のずり応力τW 0 と折れ点PB に対応する血管径Dt0とを示す
点T0 と、駆血後の最大ずり応力τWmax1 と折れ点PB に対応する血管径Dt1とを示す点T1 とを結ぶ直線L12と、その直線L12の傾きδとを表示させる。この直線L12の傾きδも動脈硬化に関連する平滑筋の弛緩状態と密接に関連しているので、平滑筋弛緩評価値として用いられる。この直線L12の傾きδ[ =( Dt1- Dt0)/( τWmax1-τW 0)] は、たとえば前記変化値算出手段130によって算出される。
図25は、前記電子制御装置36の制御作動の要部を説明するフローチャートである。図25のステップ(以下、ステップを省略する)S1では、測定開始操作が行われたか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合は待機させられるが、肯定される場合は、前記連続血圧測定手段74、断面形状測定手段76に対応するS2において、血圧P、面積SA や血管径D等の断面形状、血流速度Uの連続的な測定が実行される。次いで、前記血流量測定手段78に対応するS3では、上記面積SA および最大血流速度Umax に基づいて血流量Q(=SB ×Umax /2)が算出される。また、前記ずり応力算出手段122に対応するS4では、予め記憶された算出式(6) から、上記血管径Dと上記血流量Qとに基づいて、上腕動脈(血管)18の内皮細胞層に加えられるずり応力(シェアストレス)τW が算出される。次いで、前記曲線生成手段120に対応するS5では、たとえば図16に示す、血管の断面形状である血管径Dを表す軸AD と血圧Pを表す軸AP との直交二次元平面において、一拍内において逐次測定された上腕動脈(血管)18の断面形状値である血管径Dと血圧Pとに基づいて1拍内の少なくとも拡張期の変化を示す拡張期曲線LDCを含む閉曲線であるリサージュ曲線REが生成される。続くS6では、上記拡張期曲線LDCを図19の片対数二次元座標に変換し且つ直線近似することにより、傾きβA の直線である平滑筋非作用部LAと傾きβB の直線である平滑筋作用部LBとから成る折れ線が生成される。次に、前記作用点算出手段126および傾き算出手段128に対応するS7において、式(9) で示される平滑筋非作用部LAと式(10)で示される平滑筋作用部LBとから成る折れ線がその式(9) および(10)の定数および係数を求めることにより生成され、その折れ線の折れ点PB が傾きβA から傾きβB へ急変する変化点を判定することにより求められ、その折れ点PB に対応する血管径Dt が算出される。また、上式(9) の右辺第2項の係数βA と上式(10)の右辺第2項の係数βB の定数が算出されることにより、平滑筋作用部LBの傾きβB を求めるとともに、平滑筋非作用部LAの傾きβA と上記平滑筋作用部LBの傾きβB との差分である傾きγ(=βA −βB )が算出される。
そして、S8では、駆血後の所定期間たとえば数分程度の期間における測定が完了したか否かが判断される。当初はそのS8の判断が否定されるので、前記駆血制御手段136に対応するS9において5分程度の駆血が実行された後、S2以下が繰り返し実行される。しかし、上記S8の判断が肯定されると、前記変換値算出手段130に対応するS10において、折れ点PB に対応する血管径( 作用点) Dt に関し、駆血前に求められた値Dt0と駆血後に求められた値Dt1との変化値たとえば変化量ΔDt (=Dt0−Dt1)および変化率RDt[=(Dt0−Dt1)/Dt0]が算出される。また、傾きβB に関し、駆血前に求められた値βB 0 と駆血後に求められた値βB 1 との変化値たとえば変化量ΔβB (=βB 0 −βB 1 )および変化率RB [=(βB 0 −βB 1 )/βB 0 ]が算出され、差分の傾きγに関し、駆血前に求められた値γ0 と駆血後に求められた値γ1 との変化値たとえば変化量Δγ(=γ0 −γ1 )および変化率Rr [=(γ0 −γ1 )/γ0 ]が算出される。次いで、前記正規化手段132に対応するS11では、折れ点PB に対応する血管径Dt 、平滑筋作用部LBの傾きβB について、正規化処理が実行される。たとえば、図21の駆血解放時点t0 からt2 までの所定期間内における平均値である平均ずり応力τWmean 、或いは累積値である累積ずり応力ΣτW で除算して平滑筋弛緩状態評価値(Dt /τWmean 、Dt /ΣτW 、βB /τWmean 、βB /ΣτW )が算出される。
前記表示手段134に対応するS12では、上記のようにして求められた、正規化前および後の折れ点PB に対応する血管径Dt および平滑筋作用部LBの傾きβB 、折れ点PB に対応する血管径Dt の変化量ΔDt および変化率RDt、平滑筋作用部LBの傾きβB の変化量ΔβB 変化率RB 、差分の傾きγの変化量Δγおよび変化率Rr などの複数の平滑筋弛緩状態評価値の一部或いは全部が、たとえば図22および図23或いは図24に示すように表示器38の画面に表示され、生体14の動脈の平滑筋弛緩状態の評価や確認を可能とされる。また、駆血後の最大ずり応力τWmaxを表す軸Aτと前記折れ点PB に対応する断面形状値である血管径Dt を表す軸ADtとの直交二次元座標平面において、実際の最大ずり応力τWmaxと実際の折れ点PB に対応する血管径Dt とを示す点Tが表示される。或いは、駆血前のずり応力τW 0 と折れ点PB に対応する血管径Dt0とを示す点T0 と駆血後の最大ずり応力τWmax1 と折れ点PB に対応する血管径Dt1とを示す点T1 とを結ぶ直線L12と、その直線L12の傾きδとが表示される。
図26は、上記図25に示す電子制御装置36の制御作動によって得られる効果を従来と対比して説明する図である。図26には、所定の生体において、拡張期間或いはDecay time内における血管系- 血圧特性の近似線である3種類の折れ線と、それら折れ線の折れ点PB1、PB2、PB3およびそれに対応する血管径Dt1、Dt2、Dt3とが示されている。本実施例においては、折れ点PB に対応する血管径Dt の変化で評価されることから、従来の血管径Dの変化に比較して正確な評価が行われる。たとえば、折れ点PB に対応する血管径Dt がDt1からDt2へ、Dt2からDt3へ、或いはDt1からDt3へ変化したa、b 、或いはc に示す場合、従来ではa、b 、或いはc の矢印の両端部に示す○印に示すように血管径Dが変化する。この対比から明らかなように、折れ点PB に対応する血管径Dt に基づいた平滑筋弛緩評価値を用いる場合には、高い平滑筋弛緩評価精度、すなわち高い内皮機能評価精度が得られる。
上述のように、本実施例によれば、平滑筋弛緩評価値算出手段124により、曲線生成手段120により生成された拡張期曲線LDCに対応する血圧Pの対数値lnPと断面形状値である血管径Dとの間の関係である折れ線を算出し、その折れ線の傾きが変化する折れ点PB に対応する断面形状値である血管径Dt が、平滑筋弛緩評価値として算出されるとともに、表示手段134によってその平滑筋弛緩評価値が表示されるので、上腕動脈18の平滑筋弛緩状態が直接的に示され、高い内皮機能評価精度が得られる。
また、本実施例によれば、平滑筋弛緩評価値算出手段124は、駆血装置として機能するカフ60等による駆血前において算出された折れ線の傾きが変化する折れ点PB に対応する断面形状値である血管径Dt0に対して、駆血後において算出されたその折れ点PB に対応する断面形状値である血管径Dt1の変化値(たとえば変化量ΔDt (=Dt0−Dt1)および変化率RDt[=(Dt0−Dt1)/Dt0])を算出し、その増加値を平滑筋弛緩評価値として決定するものであることから、血管の大小などの個人差による影響が解消され、平滑筋弛緩評価値としての汎用性が高められる。
また、本実施例によれば、平滑筋弛緩評価値算出手段124は、増加値(たとえば変化量ΔDt および変化率RDt)率を駆血後における上腕動脈18内の血流速度Uまたは血管内皮に付与されるずり応力τW で正規化した値を平滑筋弛緩評価値として決定するものであることから、血管拡張反応の原因量である駆血後における上腕動脈18内の血流速度Uまたはその血管内皮に付与されるずり応力τW のばらつきの影響が解消され、平滑筋弛緩評価値としての汎用性が高められる。
また、本実施例によれば、平滑筋弛緩評価値算出手段124により、曲線生成手段130により生成された拡張期曲線LDCに対応する血圧Pの対数値lnPと断面形状値である血管径Dとの間の関係である折れ線が算出され、その折れ線のうちの傾きが変化する折れ点PB を境として断面形状値が大きい側に位置する平滑筋作用部LBの傾きβB が、平滑筋弛緩評価値として算出されるとともに、表示手段134によってその平滑筋弛緩評価値が表示されるので、上腕動脈18の平滑筋弛緩状態が直接的に示され、高い内皮機能評価精度が得られる。
また、本実施例によれば、平滑筋弛緩評価値算出手段124は、駆血装置として機能するカフ60等による駆血前において算出された折れ線のうちの平滑筋作用部LBの傾きβB 0 に対して、駆血後において算出された折れ線のうちの平滑筋作用部LBの傾きβB 1 の変化値(たとえば変化量ΔβB (=βB 0 −βB 1 )および変化率RB [=(βB 0 −βB 1 )/βB 0 ])を算出し、その変化値を平滑筋弛緩評価値として決定するものであることから、血管の弾性などの個人差による影響が解消され、平滑筋弛緩評価値としての汎用性が高められる。また、差分の傾きγに関し、駆血前に求められた値γ0 と駆血後に求められた値γ1 との変化値(たとえば変化量Δγ(=γ0 −γ1 )および変化率Rr [=(γ0 −γ1 )/γ0 ])を算出し、その変化値を平滑筋弛緩評価値として決定するものであることから、血管の弾性などの個人差による影響が解消され、平滑筋弛緩評価値としての汎用性が高められる。
また、本実施例によれば、平滑筋弛緩評価値算出手段124は、上記変化値()を駆血後における上腕動脈18内の血流速度Uまたはその上腕動脈18の内皮に付与されるずり応力τW で正規化した値を平滑筋弛緩評価値として決定するものであることから、血管拡張反応の原因量である駆血後における上腕動脈18内の血流速度Uまたはその上腕動脈18の内皮に付与されるずり応力τW のばらつきの影響が解消され、平滑筋弛緩評価値としての汎用性が高められる。
また、本実施例によれば、平滑筋弛緩評価値算出手段124は、前記折れ線のうちの傾きが変化する折れ点PB を境として断面形状値が小さい側に位置する平滑筋非作用部LAの傾きβA を算出し、該平滑筋非作用部の傾きと前記平滑筋作用部LBの傾きβB との差分の傾きγ(=βA −βB )を平滑筋弛緩状態評価値として算出するものであることから、そのように得られた差分の傾きγは上腕動脈18の血管壁のエラスチンやコラーゲンによる弾性係数が除去されるので、平滑筋の弛緩状態が一層正確に評価される。
また、本実施例によれば、作用点算出手段126により、曲線生成手段120により生成された拡張期曲線LDCに対応する血圧Pの対数値lnPと断面形状値である血管径Dとの間の関係である折れ線が算出され、その折れ線の傾きが変化する折れ点PB に対応する断面形状値である血管径Dt が作用点としてを算出されるとともに、ずり応力算出手段122により、逐次測定される断面形状である血管径Dと逐次測定される血流量Qとに基づいて、上腕動脈18の内皮に加えられるずり応力τW が逐次算出され、表示手段134により、最大ずり応力τWmax
を表す軸Aτと折れ点PB に対応する血管径Dt を表す軸ADtとの二次元平面
において、駆血後の最大ずり応力τWmaxおよび折れ点PB に対応する血管径Dt を示す点Tが表示されるので、上腕動脈18の平滑筋弛緩状態が直接的に示され、最大ずり応力τWmaxのばらつきに拘わらず、高い内皮機能評価精度が得られる。
また、本実施例によれば、断面形状測定手段76の測定に用いられる第1超音波素子アレイ26、第2超音波素子アレイ28、連続血圧測定手段74の測定に用いられる圧脈波センサ48、血流量測定手段78の測定に用いられるドップラ用超音波素子30は、1つのセンサ本体24に設けられたものであるので、第1超音波素子アレイ26、第2超音波素子アレイ28、圧脈波センサ48、およびドップラ用超音波素子30を生体14に対して装着する作業が容易となる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用され得る。
たとえば、前述の実施例の図25では、S3乃至S7はS8S10との間に設けられてもよい。
また、前述の実施例において表示される複数の平滑筋弛緩状態評価値、たとえば、正規化前および後の折れ点PB に対応する血管径Dt および平滑筋作用部LBの傾きβB 、折れ点PB に対応する血管径Dt の変化量ΔDt および変化率RDt、平滑筋作用部LBの傾きβB の変化量ΔβB 変化率RB 、差分の傾きγの変化量Δγおよび変化率Rr などについて、正常か否かに用いる判定値が共に表示されてもよいし、その判定値を用いて判定する判定手段を設け、その判定結果を表示させるようにしてもよい。
また、前述の実施例では、第1超音波素子アレイ26、第2超音波素子アレイ28、圧脈波センサ48、およびドップラ用超音波素子30が1つのセンサ本体24内に設けられていたが、たとえば圧脈波センサ48が独立の他のハウジング内に設けられてそのセンサ本体24の近傍に装着されてもよい。
また、上記第1超音波素子アレイ26および第2超音波素子アレイ28により検出される管壁脈動の時間差と相互間距離とに基づいて血流速度Uが算出されてもよい。この場合には、ドップラ用超音波素子30が不要となる。
また、前記ドップラ用超音波素子30は、振動子と受信子とが共通の1個の振動子であってもよいし、一対の発信子と受信子とから構成されていてもよい。また、このドップラ用超音波素子は、前記血管の方向に対して交差する方向に配列された複数個の振動子アレイから構成されてもよい。
また、第1超音波素子アレイ26、第2超音波素子アレイ28を構成する複数の超音波素子は、振動子と受信子とが共通の振動子から構成されたものであってもよいし、一対の発信子と受信子とからそれぞれ構成されていてもよい。
また、図8において、中心軸算出手段94、交差角算出手段96、形状補正手段98、相対角度算出手段108、血流量補正手段110は、必ずしも設けられていなくてもよい。
また、前述の実施例では、断面形状値として内腔の外径Dが用いられていたが、血管壁の外側の外径、外周、外周断面等が用いられても差し支えない。
また、前述の実施例において、血流量算出手段72により直交断面B’における上腕動脈18の平均の血流量QB (=SB ’×Umax /2)が算出されていたが、血流速度算出手段66によって算出される血流速度Uが平均速度である場合には、上記血流量QB は式(QB =SB ’×U)に基づいて算出される。また、血流量算出手段72により、最大血流量QBmax(=SB ’×Umax )が求められてもよい。
なお、上述したのは、あくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。