JP4617422B2 - 液晶分子配向制御部材及びその制御方法 - Google Patents

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Description

本発明は、レーザ光のみを用いた液晶分子配向制御部材及びその制御方法であり、光記録媒体、表示素子、電子回路等に応用される。
従来ディスプレイ等の表示素子で用いられる液晶部材は、ポリイミド等の配向膜に対してラビング処理を施すことによりその液晶分子の初期の配向を制御している。このラビング処理は綿、レーヨン、ナイロン、フェルト等を用いて配向膜を物理的に擦るため、静電気や塵が発生し、それらを取り除くために洗浄工程等の工夫が必要であった。
また、液晶分子の配向制御の駆動方法としては電場を用いるのが一般的であるが、液晶分子を挟持する基板に電極を固着、接着することが必要である。ただし、表示媒体やディスプレイとして用いる場合には少なくとも一方の基板は透明でなくてはならず、一般的に電極としてITOが用いられているものの、ITOは抵抗値が大きく、大きな駆動電圧が必要である。また当然、液晶分子の配向方向は電極の配置によって一元的に決まってしまう。更に液晶分子の種類によってはその配向を維持する際に電圧を印加し続ける必要がある。
その他の液晶分子の配向制御方法として、基板上の配向膜に光照射を行う方法がある(特許文献1:特開平11−326638号公報、特許文献2:特開2000−226448号公報、特許文献3:特開2000−226415号公報等参照)。これらの方法は、直線偏光した紫外光などを照射し、それに対する配向膜を構成する高分子の吸収の異方性を利用して液晶の配向制御を行っている。しかしながら、これらの方法も、配向力が弱い、配向膜に光反応性の高分子を必要とする、光照射後に加熱などの処理工程を必要とする、繰り返し配向方向を変えることが出来ない、などの問題があった。
一方、本発明者らは、特許文献4:特開2001−264763号公報において、液晶材料に、液晶分子の赤外光吸収帯に相当する波長を有する赤外光を照射することで、液晶分子の配向を制御する方法を提案している。この方法は、液晶分子自体を赤外光を用いて振動励起して特異的に加熱することにより、局所的に熱的非平衡状態が作り出せることを利用して、液晶分子凝集系を制御して再配向させるものである。
特開平11−326638号公報 特開2000−226448号公報 特開2000−226415号公報 特開2001−264763号公報
本発明の目的は、光照射等の初期工程を必要とせず、且つ電圧を印加することなくレーザ光のみを用いて液晶分子を繰り返し任意の方向への配向制御、特に可逆的な配向制御可能な配向制御部材及びその制御方法を提供することにある。
上記の課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、下記の部材構成及び制御方法により解決できることを見出した。即ち本発明は、
項1: 一対の基板の間に液晶層が挟持されて構成される液晶分子配向制御部材において、前記一対の基板のそれぞれに接する液晶分子の配向方向が互いに異なっており、且つ少なくとも一方の基板が赤外光透過であることを特徴とする前記液晶分子配向制御部材。
項2: 前記液晶分子配向制御部材において、一方の基板に接する液晶分子が水平配向であり、もう一方の基板に接する液晶分子が垂直配向であることを特徴とする請求項1に記載の液晶分子配向制御部材。
項3: 前記液晶分子配向制御部材において、配向制御時に液晶材料がスメクチック液晶分子であることを特徴とする項1もしくは2に記載の液晶分子配向制御部材。
項4: 項1乃至3のいずれかに記載の液晶分子配向制御部材に対して、赤外光透過基板側から赤外レーザを掃引しながら照射することにより液晶分子を準安定な配向状態に固定し、又、前記の掃引速度よりも遅い速度で掃引することにより液晶分子を安定な配向方向に固定することを特徴とする液晶分子配向制御方法。
項5: 照射する赤外レーザが直線偏光された赤外レーザであり、前記液晶分子が赤外レーザ光の偏光方向と直交する向きに配向することを特徴とする項4に記載の液晶分子配向制御方法。
項6: 照射する赤外レーザの波長が、液晶分子の分子振動バンドに相当する波長であることを特徴とする項4もしくは5に記載の液晶分子配向制御方法。
である。
本発明によれば、光照射等の初期工程を必要とせず、且つ電圧を印加することなく、レーザ光のみを用いて液晶分子を繰り返し任意の方向に配向制御する配向制御部材及びその制御方法を提供できた。これにより、液晶分子の配向状態の差を利用した記録媒体、表示材料、電子回路等を得ることが可能になった。
本発明の原理を以下に説明する。
一対の基板間に挟持された液晶層において、それぞれの基板に接する液晶分子をその配向方向が異なるようにすれば、どちらの配向方向においても安定な配向状態を取り得る。ただし、通常これら2つの配向状態は、どちらか一方がより安定な状態となり、もう一方の配向状態は準安定的な状態として存在するため、初期の配向状態はより安定な配向状態が支配的となる。そこで、少なくとも片側の基板が赤外光透過であるものを選び、その基板側から液晶分子の振動バンドに相当する波長の赤外光を照射し液晶分子に運動エネルギーを与えることで、安定的な配向状態から準安定的な配向状態へと配向変化させることが可能となる。特にレーザ光の照射をパルス照射もしくは素早く掃引すれば、液晶分子は運動エネルギー注入後急冷されることになり、上記の準安定的な配向状態を保持することができる。一方、レーザ光をゆっくり掃引すると、液晶分子は運動エネルギー注入後徐冷されることになり、元の安定な配向状態へ戻る。つまり、レーザ光の照射方法によって、安定的な配向状態と準安定的な配向状態を可逆的に制御することが可能となる。
また、照射するレーザ光が直線偏光を有する際、液晶分子はレーザ光の偏光面と直交した向きに配向する。この原理を利用し、レーザ光の偏光方向を制御することにより基板に水平な方向で液晶分子を任意の方向に配向させることが可能となる。
本発明によれば、配向膜にラビング処理、光照射等の初期工程を必要とせず、且つ電圧を印加することなくレーザ光のみを用いて液晶分子を繰り返し任意の方向に配向制御する配向制御部材及びその制御方法を提供することが可能となる。この配向状態は長時間維持され、メモリ効果を有する。
本発明においては、一対の基板の間に液晶層が挟持されて構成される液晶保持部材において、それぞれの基板に接する液晶分子をその配向方向が互いに異なっており、且つどちらか一方の基板が赤外光透過である前記液晶保持部材を用い、それに前記赤外光透過の基板側から液晶分子の分子振動バンドに相当する波長の直線偏光された赤外光を照射し、その掃引速度により液晶分子の配向を繰り返し任意の方向に制御することが可能になる。
次に、本発明の液晶配向制御部材の構成について説明する。図1は、本発明の液晶配向制御部材の一例を示す概略断面図である。液晶層13は、一対の基板11及び15で挟持されており、赤外光16の照射側の基板15は、赤外光透過な基板で構成されている。基板11と基板15のそれぞれ接している液晶分子の配向方向は互いに異なるように、両基板間に液晶層が挟持されており、例えば、基板11に接する液晶分子が水平配向であれば、基板15に接する液晶分子は垂直配向である。両基板間には液晶層を装入するため、一定のギャップを設けており、従来公知のスペーサー14を介在させておくのが好ましい。
本発明に用いる赤外光透過な基板の種類は、ハロゲン化アルカリとして臭化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ヨウ化セシウム、弗化バリウム、弗化カルシウムなどが挙げられる。
もう一方の基板としては、赤外光透過な基板に接する液晶分子とそれが接する液晶分子の配向方向が異なるような基板であればよく、特に限定されるものではないが、通常、従来公知のガラス基板が用いられる。又、赤外光透過な基板を用いて、その表面を配向処理して液晶分子の配向方向を異ならしめるようにしてもよい。
本発明においては、基板の液晶層側の面を、図1に示すように高分子膜12で処理しても良い。高分子膜を構成する高分子の種類としてはポリイミド、ポリアミド、ポリペプチド、ポリスチレン、マレイミド、ポリビニルアルコール、シアノアクリレートなどが挙げられる。このような高分子膜は、どちらの基板に設けてもよく、又、従来公知の方法によりラビング処理されていてもよい。
また、側鎖にシクロペンタン環、シクロヘキサン環、ベンゼン環、ナフタレン環、フラン環、オキソラン環、ジオキソラン環、チオフェン環、ピロール環、ピラン環、オキサン環、ジオキサン環、ピリジン環、ピペリジン環、ピリミジン環、ピラジン環等を含む高分子なども挙げられる。また、硫黄化合物分子を含む高分子なども挙げられる。
本発明に用いる液晶材料としては、特に限定されないが、スメクチック液晶分子が好ましい。特に下記に示される強誘電性液晶分子がより好ましい。
ここでR1は、同一または異なる炭素数7〜12のアルキル基、R2は、不斉炭素原子を含んだ同一または異なる炭素数5〜8のアルキル基である。
本発明においては、上記配向制御部材に前記赤外光透過の基板側から、赤外光、特に直線偏光された赤外レーザを照射し、掃引する。
これらの赤外レーザは、2.5〜25μmの範囲内にある波長(波数では400〜4000cm-1)を有するのが好ましく、2.5〜12.5μmの範囲内にある波長(波数では800〜4000cm-1)を有するのがより好ましい。これらの範囲内から、液晶分子の分子振動バンドに相当する波長を選択すれば良い。
この赤外レーザの掃引速度を変えることにより液晶分子の配向制御を行うことができる。掃引速度は、例えば、液晶分子を水平方向に配向させたい場合は0.050〜0.36mm/s、好ましくは0.055〜0.29mm/s、より好ましくは0.060〜0.25mm/sであり、垂直若しくはハイブリッドに配向させたい場合は0.0050〜0.045mm/s、好ましくは0.0070〜0.042mm/s、より好ましくは0.010〜0.040mm/sである。
本発明において、赤外光を照射する際の温度としては、特に限定されないが、液晶材料が中間相を示す温度範囲が好ましい。
本発明の配向制御部材の応用例として、光記録媒体、液晶表示素子、電子回路、分子スイッチなどが挙げられる。
本発明の配向制御部材を用いると、作成及び書き換えが容易な液晶表示素子の作成が可能になる。例えば図6に示すように、図1の液晶配向制御部材21を、互いに偏光方向の異なる偏光フィルム22,23で挟持し、これにレーザ光24を照射して液晶分子の配向を制御する。これに一方の基板から透過光25を入射し、液晶分子の配向状態の違いから生じる光の透過の差を利用し、表示素子を作成すればよい。
また、本発明の配向制御部材を用いると、記録情報の書き換えが容易な光記録媒体の作成も可能になる。図6に示すような部材を用意し、記録の書きこみ及び消去にレーザ光24を用い、液晶分子の配向を制御し、これによる透過光25の変化を光学的手段等で読み出せばよい。
更に、本発明の配向制御部材を用いると、作成及び変更が容易な電子回路の作成も可能である。導電性を有する液晶材料を本発明の配向制御部材に装入し、レーザ光で配向を制御し、導電性に異方性を持たせることで電子回路の作成が可能になる。回路の消去、書き換えもレーザ光で可能である。また、レーザ光による分子スイッチも作成可能である。
以下、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の範囲に限定されるものではない。
実施例1
図1のように、赤外光透過基板15として弗化バリウム基板と、これと対を為す基板11として、ポリイミドからなる高分子膜12(膜厚20nm)を形成したガラス基板を、直径2μmのシリカスペーサー14を介し貼り合わせる。これに前記(化1)で表される液晶分子として、下記式で表される強誘電性液晶(4−ウンデシルオキシ−[4−(4−(s)−メチルヘキシルオキシ)フェニル]ベンゾエート)
を注入して液晶層13とし、液晶分子の配向が異なるように2枚の基板で挟持された液晶分子配向制御部材を用意した。この液晶は、52.9℃〜71℃の範囲でSC *相(カイラルスメクチックC相)、71℃〜72.6℃の範囲でSA(スメクチックA相)となる。この液晶の場合、スメクチック相である52.9℃〜72.6℃の範囲の温度に設定することが好ましい。そこで、この液晶分子配向制御部材を温度71℃に設定し、この液晶分子の分子振動バンドに相当する波長11.75μm(波数850.8cm-1)の直線偏光された赤外レーザ(出力2mW,照射面積0.022mm2)16を、弗化バリウム基板を通して照射し(図2は直線偏光された赤外レーザを照射した時の偏光顕微鏡写真であり、白く見える部分がレーザ照射部で、他の部分と配向方向が異なっていることが分かる。)、0.12mm/sで掃引したところ、液晶分子を水平配向させることが出来た(図3では、図2の照射部位から紙面左方向に掃引している。)。続いて、この配向部分を0.039mm/sで再び掃引したところ、液晶分子を垂直配向させることが出来た(図4)。この配向制御が何度も繰り返せることも確認した。同様に、他の分子振動バンドに相当する波長6.215μm(波数1609cm-1)、波長8.525μm(波数1173cm-1)、波長5.791μm(波数1727cm-1)、波長7.806μm(波数1281cm-1)、波長8.039μm(波数1244cm-1)でも液晶分子を配向させることが出来た。また、水平配向(図3中の明るい部分)は少なくとも10分以上維持された。
他の実施例
実施例1の掃引速度だけを変えて実験した。0.065,0.096,0.21,0.22,0.24mm/sの各速度で赤外レーザを掃引して、いずれも液晶分子を水平配向させることができた。次に、このように水平配向しているサンプルに、0.014,0.022,0.023,0.034,0.039,0.040mm/sの各速度で掃引して、いずれも垂直配向にさせることができた。
比較例1
2枚の弗化バリウム基板を、直径2μmのシリカスペーサーを介し貼り合わせる。これに実施例1で使用した強誘電性液晶を注入し、液晶分子の配向が同じになる2枚の基板で挟持された液晶分子配向制御部材を用意した。これに実施例1と同様の方法で直線偏光された赤外レーザを照射し、実施例1と同様の速度で掃引したが、液晶分子を配向させることは出来なかった(図5)。
本発明の液晶配向制御部材およびその制御方法の一例を示す概略断面図である。 強誘電性液晶を注入した図1の液晶配向制御部材に直線偏光された赤外レーザを照射した時の偏光顕微鏡写真である。 図2の状態から、赤外レーザを0.12mm/sの速度で掃引させた後の偏光顕微鏡写真である。 図3の状態から、赤外レーザを0.039mm/sの速度で再び掃引した後の偏光顕微鏡写真である。 2枚の弗化バリウム基板間に強誘電性液晶を注入した液晶配向制御部材に直線偏光された赤外レーザを照射し、掃引した後の偏光顕微鏡写真である。 本発明の液晶配向制御部材を用いた表示素子及び光記録媒体の概念図である。
符号の説明
11、15 基板
12 高分子膜
13 液晶層
14 スペーサー
16 赤外レーザ
21 配向制御部材
22、23 偏光フィルム
24 レーザ光
25 透過光

Claims (9)

  1. 一対の基板間に液晶層が挟持されて構成される液晶分子配向制御部材において、前記一対の基板のそれぞれに接する液晶分子の配向方向が互いに異なることで、前記液晶層は前記一対の基板間で支配的な配向状態を安定な配向状態とする液晶相を有し、かつ少なくとも一方の基板が2.5〜25μmの波長の赤外光透過な基板であり、該赤外光透過な基板側から液晶分子の分子振動バンドに相当する波長の赤外レーザを照射することにより液晶分子を準安定な配向状態に配向制御可能であることを特徴とする前記液晶分子配向制御部材。
  2. 前記波長の赤外光透過な基板が、ハロゲン化アルカリである請求項1に記載の液晶分子配向制御部材。
  3. ハロゲン化アルカリは、臭化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ヨウ化セシウム、弗化バリウム、弗化カルシウムから選択される1種である請求項2に記載の液晶分子配向制御部材。
  4. 前記液晶分子配向制御部材において、一方の基板に接する液晶分子が水平配向であり、もう一方の基板に接する液晶分子が垂直配向であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の液晶分子配向制御部材。
  5. 前記液晶分子配向制御部材において、配向制御時に液晶分子がスメクチック液晶分子であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の液晶分子配向制御部材。
  6. 請求項1乃至のいずれかに記載の液晶分子配向制御部材において、2枚の基板間で支配的な配向状態を安定な配向状態とする液晶相に対して、前記赤外光透過する基板側から液晶分子の分子振動バンドに相当する波長の赤外レーザを掃引しながら照射することにより液晶分子を準安定な配向状態に再配向させ、その配向状態を液晶相の冷却により保持することを特徴とする液晶分子配向制御方法。
  7. 前記準安定な配向状態に保持された領域に前記の掃引速度よりも遅い速度で前記赤外レーザを掃引することにより液晶分子を安定な配向状態に回復することを特徴とする請求項6に記載の液晶分子配向制御方法。
  8. 照射する赤外レーザが直線偏光された赤外レーザであることを特徴とする請求項6または7に記載の液晶分子配向制御方法。
  9. 請求項1乃至5のいずれかに記載の液晶分子配向制御部材において、基板に対して垂直配向された液晶相に対して、前記赤外光を透過する基板側から液晶分子の分子振動バンドに相当する波長であって、直線偏光された赤外レーザを照射することにより、液晶分子を前記レーザ光の偏光面と直交した水平方向に再配向させることを特徴とする液晶分子の配向制御方法
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