JP4615098B2 - ピッチコントロール方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、パルプ及び紙の製造工程における製造装置に対するピッチ障害を抑制・防止するためのピッチコントロール方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
パルプ及び紙の製造工程におけるピッチは、木材、パルプあるいは紙から遊離した天然樹脂やガム状物質、さらには、パルプ及び製紙工程で使用される添加薬品等の有機物などを主体とした非水溶性の粘着性物質である。これらピッチは、製紙工程のスラリー中ではコロイド状となって分散しているが、大きなせん断力、急激なpH変化、硫酸バンドの添加等により、そのコロイド状態が破壊されて凝集・巨大化すると考えられている。凝集・巨大化すると、その粘着性により、ファンポンプ、流送配管、チェスト、ワイヤー、フェルト、ロール等の製造装置類へ付着するだけでなく、この付着物が剥離してパルプや紙に再付着することにより、紙の汚点・欠点による品質の低下、断紙の原因となるなど、生産性・作業性の低下の障害を引き起こしている。
【0003】
近年、紙の多様化によって使用される薬品類が増加し、さらに工程で循環再使用される水の比率が高くなるにつれてピッチ障害は増加し、複雑化してきている。
【0004】
従来、ピッチ障害に対して多くの方法が提案、実施されてきた。例えば、ピッチ原因物質を減少させる方法として、木材やチップのシーズニング、パルプの洗浄強化や白水の清浄化の向上が提案された。しかし、シーズニングは6ヶ月〜1年間という期間でその効果が発揮されるため、広い敷地を必要とすること、さらに生産量の増加により原材やチップの確保及び保管が難しくなり、実用上限界がある。パルプの洗浄強化や白水の清浄化強化は、水のクローズド化が進んでいる状況下では大きな改善は困難であり、期待できない。
【0005】
界面活性剤やアニオン性ポリマーを添加し、ピッチ粒子を分散して凝集・集塊化を防止する方法(特公昭59−28676号公報、特開昭60−246888号公報、特公昭63−23320号公報)は短期間では効果が認められるが、今日、白水のクローズド化が促進しているため、徐々に白水中のピッチ量が増加して急激なピッチ障害を起こすことが多く、満足した効果を得るには至っていない。
【0006】
タルクやクレイ等の多孔性無機物を添加し、ピッチの粘着性を失わせて紙に抄き込む方法(特開昭60−94687号公報、特公昭61−48975号公報)は、紙への定着率が低いため、白水の汚濁、スラッジの堆積、ワイヤーの摩耗・損傷の要因となっている。
【0007】
ピッチを分解する微生物や酵素を添加する方法(特公平4−29794号公報、特開平9−119085号公報)は木材由来の天然樹脂ピッチには効果が認められるが、添加薬品等に由来する合成樹脂ピッチなどに対して有効なものはない。
【0008】
パークロルエタン、トリクロルエタン、灯油等のピッチ可溶性有機溶剤を添加してピッチを溶解・分散する方法は、溶剤使用に伴う作業環境の悪化から好ましくない。
【0009】
カチオン性ポリマーを使用し、アニオン電荷を有するピッチと結合させて紙へ抄き込む方法(特開昭57−149591号公報、特公平4−8556号公報、特公平7−113200号公報)やピッチの粘着性を失わせる方法(特開平2−182995号公報、特開平4−300383号公報、特許第2840047号公報、特許第2955388号公報)等が提案されたが、十分な効果を得るには至っていない。
【0010】
また、特公平2−14479号公報には、非イオン性ポリマーのケン化度70〜80モル%のポリビニルアルコールをピッチ分散剤として用いる方法、特表平11−503497号公報には、ケン化度50〜100モル%のポリビニルアルコールと高分子量ゼラチンを併用してピッチの堆積を抑制する方法が提案されているが、いずれもピッチ障害防止効果が十分ではない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、パルプ及び紙の製造工程において工程水中に分散したピッチ粒子やコロイド状ピッチの製造装置への付着および該付着物の剥離による紙の汚点・欠点による製品品質の低下、断紙や製造装置の汚れの洗浄などによる生産性の低下等を防止するために、工程水中でのピッチ粒子やコロイド状ピッチの製造装置への付着性を低下させ、凝集を防止するピッチコントロール方法を提供することを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、パルプ及び紙の製造工程における製造装置へのピッチコントロールに関して鋭意検討を行った結果、ビニルエステルと重合性ビニル基を含むアミン化合物単量体を含む共重合体から誘導されたカチオン化ポリビニルアルコール共重合体が優れたピッチコントロール作用を示すとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、請求項1の発明は、パルプ及び紙の製造工程において、ビニルエステルと下記一般式(I)、(II)、(III)で表される重合性アミン化合物単量体を1種以上含んでいる共重合体の該ビニルエステル単位部をケン化してビニルアルコール単位部とし、そして該アミン化合物単位部が1級ないし3級アミン単位部である場合は、これを、4級アンモニウム塩化して得られた水溶性カチオン化ポリビニルアルコール共重合体からなるピッチコントロール剤を溶液の形態としてピッチが付着する製造装置及びその一部に噴霧することを特徴とするピッチコントロール方法であり、
【化2】
ここで、R1、R2、R3:それぞれ独立に水素、メチル基、エチル基
R4:炭素数1〜20のアルキレン基
A :−N(R5)(R6)、−N+(R7)(R8)(R9)・X1 −
R5、R6、R7、R8、R9:それぞれ独立に水素、
炭素数1〜3のアルキル基
X1 −:Cl−、Br−、I−、−SO4 2−、−CH3COO−、
−OSO3 −CH3 、−OSO3 −C6H4CH3
【0014】
R10−N(R1 1)(R1 2)又はR10−N+(R1 1)(R1 2)(R1 3)・X2 −(II)
ここで、R10:炭素数2〜20のアルケニル基
R11:水素、炭素数1〜20のアルキル基及び/又は炭素数2〜20のアルケニル基
R12、R13:それぞれ独立に水素、炭素数1〜3のアルキル基
X2 −:Cl−、Br−、I−、−SO4 2−、CH3COO−−OSO3 −CH3、−OSO3 −C6H4CH3
【0015】
R14−O−R1 5−B (III)
ここで、R14:炭素数2〜20のアルケニル基
R15:水酸基を含んでいてもよい炭素数1〜20のアルキレン基
B:−N(R16)(R17)、−N+(R18)(R19)(R20)・X3 −
R16、R17、R18、R19、R20:それぞれ独立に水素、炭素数1〜3のアルキル基
X3 −:Cl−、Br−、I−、−SO4 2−、−CH3COO−、−OSO3 −CH3、−OSO3 −C6H4CH3
【0017】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の水溶性カチオン化ポリビニルアルコール共重合体は、ビニルエステルと上記一般式(I)、(II)、(III)表示の重合性アミン化合物単量体を1種以上含んでなる共重合体の該ビニルエステル単位部をケン化してビニルアルコール単位部とし、そして該アミン化合物単位部が1級ないし3級アミン単位部である場合は、これを、4級アンモニウム塩化して得られた水溶性カチオン化ポリビニルアルコール共重合体であり、更に詳しくは、本発明の水溶性カチオン化ポリビニルアルコール共重合体は、構成単位として該ビニルエステル単位のケン化により得られるビニルアルコール、上記一般式(I)、(II)、(III)表示の重合性アミン化合物単量体の4級アンモニウム塩を含む水溶性のカチオン化ポリビニルアルコール共重合体(以下、「本発明のPVA」と記す)である。
【0019】
本発明のPVAの構成単位となるビニルエステルは、炭素数が1〜5の低級カルボン酸のビニルエステルであり、好ましくはギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどであり、入手し易さや経済性から酢酸ビニルがより好ましい。
【0020】
本発明のPVAの構成単位となる一般式(I)のアミン化合物は、重合性を持つα、β−不飽和カルボン酸アミド基を含む1級アミン類、2級アミン類、3級アミン類及び4級アンモニウム塩類である。
【0021】
一般式(I)のR1、R2、R3は、それぞれ独立に水素、メチル基、エチル基であり、好ましくはR1、R2の何れかが水素とメチル基、R3が水素あるいはメチル基である。R1、R2、R3が、それぞれ独立に炭素数3以上のアルキル基は、重合性が低く、工業的に入手も困難であるため好ましくはない。
【0022】
R4は、炭素数1〜20のアルキレン基であり、好ましくは炭素数1〜6のアルキレン基である。R5、R6、R7、R8、R9は、それぞれ独立に水素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基である。X1 −は、4級アンモニウム塩を形成するアニオン性基であり、塩化物イオン、臭化物イオン、沃化物イオン、硫酸イオン、酢酸イオン、メチル硫酸イオン及びトシルスルホン酸イオンがあり、好ましくは塩化物イオン、臭化物イオンである。
【0023】
具体的には、1級アミン類では2−アクリルアミドエチルアミン、3−メタクリルアミドプロピルアミン、3−クロトン酸アミド−3,3−ジメチルプロピルアミン等があり、2級アミン類ではN−メチル−2−アクリルアミドエチルアミン、N−エチル−3−メタクリルアミドプロピルアミン、N−プロピル−3−クロトン酸アミド−3,3−ジメチルプロピルアミンなどがあり、3級アミン類ではN、N−ジメチル−2−アクリルアミドエチルアミン、N、N−ジエチル−3―メタクリルアミドプロピルアミン、N、N−ジプロピル−3−クロトン酸アミド−3,3−ジメチルプロピルアミン、4級アンモニウム塩類ではトリメチル−2−(1−アクリルアミドエチル)アンモニウムクロライド、トリメチル−3−(1−アクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、トリエチル−3−(1−メタクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、トリメチル−3−(1−クロトン酸アミドプロピル)アンモニウムブロマイド、トリメチル−3−(1−アクリルアミド−3,3−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、トリメチル−3−(1−アクリルアミド−1,1−ジメチルブチル)アンモニウムメチル硫酸等がある。
【0024】
本発明のPVAの構成単位となる一般式(II)のアミン化合物単量体は、重合性ビニル基を含むアルケニル基を持つ1級アミン類、2級アミン類、3級アミン類及び4級アンモニウム塩類である。
【0025】
一般式(II)のR10は、炭素数2〜20のアルケニル基であり、好ましくは炭素数2〜20の末端にビニル基、アリル基を持つアルケニル基であり、より好ましくは炭素数2〜6の末端にビニル基、アリル基を持つアルケニル基である。
【0026】
R11は、水素、炭素数1〜20のアルキル基及び/又は炭素数2〜20のアルケニル基であり、好ましくは水素、炭素数3〜12のアルキル基及び/又は末端にビニル基、アリル基を持つアルケニル基であり、より好ましくは炭素数2〜6の末端にビニル基、アリル基を持つアルケニル基である。
【0027】
R12、R13は、それぞれ独立に水素、炭素数1〜3のアルキル基であり、X2 −は4級アンモニウム塩を形成するアニオン性基であり、塩化物イオン、臭化物イオン、沃化物イオン、硫酸イオン、酢酸イオン、メチル硫酸酸イオン及びトシルスルホン酸イオンであり、好ましくは塩化物イオン、臭化物イオンである。
【0028】
具体的には、1級アミン類ではアリルアミン、イソペンテニルアミン、5−へキセニルアミン、11−ドデセニルアミンなどがあり、2級アミン類ではジアリルアミン、N−プロピルアリルアミン、N―メチル−5−へキセニルアミン、N−エチル−11−ドデニルアミンなどがあり、3級アミン類ではN−メチルジアリルアミン、N、N−ジメチルアリルアミン、N、N−ジエチル−5−へキセニルアミン、N、N−ジメチル−11−ドデニルアミンなどがあり、4級アンモニウム塩類では9−デセントリメチルアンモニウムクロライド、トリエチルペンテニルアンモニウムブロマイド、アリルトリメチルアンモニウムメチル硫酸、アリルジメチルオクチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジエチルアンモニウムブロマイドなどがある。
【0029】
本発明のPVAの構成単位となる一般式(III)のアミン化合物は、重合性ビニル基を持つアルケニルアルキルエーテル基を含む1級アミン類、2級アミン類、3級アミン類及び4級アンモニウム塩類である。
【0030】
一般式(III)のR14は、炭素数2〜20のアルケニル基であり、好ましくは炭素数2〜20の末端にビニル基、アリル基を持つアルケニル基であり、より好ましくは炭素数2〜12の末端にビニル基、アリル基を持つアルケニル基である。
【0031】
R15は、炭素数1〜20の水酸基を含んでいてもよいアルキレン基であり、好ましくは炭素数2〜12の水酸基を含んでいてもよいアルキレン基、より好ましくは炭素数2〜6の水酸基を含んでいてもよいアルキレン基である。
【0032】
R16、R17、R18、R19、R20は、それぞれ独立に水素、炭素数1〜3のアルキル基であり、X3 −は4級アンモニウム塩を形成するアニオン性基であり、塩化物イオン、臭化物イオン、沃化物イオン、硫酸イオン、酢酸イオン、メチル硫酸酸イオン及びトシルスルホン酸イオンであり、好ましくは塩化物イオン、臭化物イオンである。
【0033】
具体的には、1級アミン類ではビニルオキシエチルアミン、ビニルオキシドデシルアミン、アリルオキシプロピルアミン、2−メチルアリルオキシへキシルアミン、ビニルオキシ−(2−ヒドロキシ)ブチルアミン、2級アミン類ではN−ビニルオキシエチルメチルアミン、N−ビニルオキシドデシルエチルアミン、N―アリルオキシプロピルプロピルアミン、N−(2−メチル)アリルオキシへキシルエチルアミン、N−ビニルオキシ−(2−ヒドロキシ)ブチルエチルアミン、3級アミン類ではN−ビニルオキシジエチルアミン、N−ビニルオキシドデシルジエチルアミン、N−アリルオキシプロピルエチルメチルアミン、N−(2−メチル)アリルオキシエチルへキシルアミン、N−ビニルオキシ−(2−ヒドロキシ)ブチルジエチルアミン、4級アンモニウム塩類ではトリエチルビニルオキシエチルアンモニウムクロライド、トリメチルビニルオキシドデシルアンモニウムブロマイド、トリエチルアリルオキシプロピルアンモニウム硫酸メチル、トリエチルビニルオキシ−(2−ヒドロキシ)ブチルアンモニウムクロライド、2−メチルアリルオキシへキシルトリプロピルアンモニウムp−トルエンスルホン酸塩などがある。
【0034】
本発明のPVAは、ビニルエステルと一般式(I)、(II)、(III)の重合性アミン化合物単量体の1種以上とをラジカル重合反応させることによって共重合体を得、さらにこの共重合体中に含まれる一般式(I)由来のアミドをケン化することなく、該ビニルエステル単位部のみをケン化して、アミン化合物とポリビニルアルコールの共重合体を得、さらに該アミン化合物が1級アミン〜3級アミンであれば、4級アンモニウム塩化して得られた水溶性のカチオン化ポリビニルアルコール共重合体である。
【0035】
ビニルエステルと一般式(I)、(II)、(III)のアミン化合物単量体を含む共重合体の重合法は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の方法が実施されるが、一般的には溶液重合が好ましい。具体的な溶液重合法は、特公昭57−34842号公報、特公昭62−13963号公報等に開示された公知技術に準じて合成して得ることができる。例えば、使用するビニルエステルと一般式(I)、(II)、(III)のアミン化合物の1種以上を低級アルコール、例えばメタノールに溶解し、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルあるいは過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル等のラジカル開始剤を添加して、通常、50℃〜60℃に加熱してラジカル反応を開始させ、反応温度、反応時間等を調整してビニルエステルとアミン化合物単量体を含む共重合体(1))を得ることができる。得られた共重合体(1)のメタノール液中に残存した未反応のビニルエステルを蒸留等によって除去した後、通常、1モル/L水酸化ナトリウムのメタノール溶液を該共重合体(1)に対して約1〜10モル%量(水酸化ナトリウムとして)加えて、室温〜約40℃に加温してケン化を行うと、ゲル状物あるいは沈澱物が生じ、これをメタノールで洗浄し、分離、乾燥してケン化された共重合体(2)が得られる。尚、メタノール以外の高沸点溶媒を使用し、約70〜100℃以上の温度でケン化することは、一般式(I)のアミン化合物中のアミド結合が分解されるため、好ましくない。一般式(I)、(II)、(III)のアミン化合物が4級アンモニウム塩である場合は、共重合体(2)が本発明のPVAである。
【0036】
一方、該アミン化合物が1級アミン〜3級アミン化合物である場合は、前記共重合体(1)をメタノール溶液とし、これに4級化剤、例えば、塩化メチレン、ジメチル硫酸、p−トルエンスルホン酸メチル等を加え、4級アンモニウム塩として、ケン化を行うことで本発明のPVAが得られる。又は、ケン化された共重合体(2)を水溶液と、これに塩化メチレンを吹き込んで4級アンモニウム塩と化することによって本発明のPVAが得られる。
【0037】
ビニルエステルと一般式(I)、(II)、(III)のアミン化合物を含む共重合体中の酢酸ビニル単位部のケン化度は、得られたポリビニルアルコールが水溶性であれば、特に限定されるものではなく、通常、ケン化度は約70%以上であり、好ましくはケン化度80%以上、より好ましくは85%以上である。ビニルエステルと一般式(I)、(II)、(III)のアミン化合物合計の構成比率は、一般式(I)、(II)、(III)のアミン化合物合計が0.5モル%〜30モル%であり、好ましくは1モル%〜20モル%、より好ましくは3モル%〜15モル%である。一般式(I)、(II)、(III)のアミン化合物合計が0.5モル%未満では、本発明のPVAの効果が十分ではなく、30モル%を越えると一般式(I)、(II)、(III)のアミン化合物を配合する割に効果の向上が少なく、好ましくない。
【0038】
本発明のPVAの重合度は、300〜4,000、好ましくは、500〜3,000である。重合度が300未満では、本発明の目的とするピッチの付着防止作用が不十分で好ましくない。重合度が4,000を越えると、本発明のPVA使用時の粘性が高く、作業上、好ましくない。
【0039】
本発明のPVAを水や適当な水溶性有機溶剤に溶かして、ピッチコントロール剤としての用途に供する。
【0040】
本発明のピッチコントロール方法は、本発明のPVAからなるピッチコントロール剤をパルプまたは紙を製造する工程においてピッチ障害が発生しているもしくはピッチが付着しやすい製造装置類、例えば、ワイヤー、ロール、フェルト等の洗浄シャワーラインに圧入してシャワー水とともに噴霧する方法により達成される。
【0041】
本発明のピッチコントロール剤の添加量は、パルプの種類及び紙の種類、工程の条件、ピッチの発生状況によって変わるため、特に限定されるものではないが、製造装置類に噴霧する場合は、通常、目安として本発明のPVAとして、噴霧水に対して0.1〜2,000mg/L程度、好ましくは2〜500mg/L程度である。
【0042】
また、本発明のピッチコントロール剤の効果を損なわない範囲において、他の工程添加剤、例えば、消泡剤、スケールコントロール剤、スライムコントロール剤及び他のピッチコントロール剤等を配合・併用することに何ら制限を加えるものではない。
【0043】
本発明のPVAの作用は、本発明のPVAに含まれる4級アンモニウム塩に由来するカチオン基が、アニオン電荷を有する白水中のピッチ粒子を吸着し、さらに本発明のPVAに含まれる多数を占める非イオン性のビニルアルコール部により、カチオン電荷で吸着したピッチ粒子が保護コロイド様に水中で安定に分散されることにより、ピッチの吸着性が低下し、ピッチ付着が抑制・防止できるものと考えられる。
【0044】
【実施例】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
(水溶性カチオン性PVA−1の調製)
撹拌機、還流冷却器、分液ロート、温度計及び窒素導入管を備えた反応容器に、酢酸ビニル1000重量部、トリメチル−3−(1−アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド2重量部及びメタノール280重量部を投入した後、系内を窒素ガス雰囲気下とした。容器内を撹拌しながら60℃に加熱後、アゾビスイソブチロニトリル1.5重量部をメタノール20重量部と共に添加した。以後、この温度でトリメチル−3−(1−アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライドの50重量%のメタノール溶液40重量部を2時間かけて滴下しながら重合を行った。滴下終了後、さらに30分間重合反応を続行した。反応終了後、重合反応液中にメタノール蒸気を吹き込んで未反応の酢酸ビニルモノマーを減圧下で除去し、共重合体のメタノール溶液を得た。この溶液230重量部に酢酸メチルを50重量部、メタノールを50重量部加えて混合均一化した後、35℃で撹拌しながら、1モル/L水酸化ナトリウムのメタノール溶液8.5重量部を添加して十分に混合後、静置して共重合体のゲルを得た。本ゲルを砕き、メタノールで洗浄した後、加熱乾燥して白色の重合体粉末を得た。得られた重合体はNMR分析の結果、トリメチル−3−(1−アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド単位が1.2モル%含有することが判った。また、JIS K 6726に準じて、酢酸ビニル単位のケン化度及び平均重合度を測定した結果、ケン化度は88.0モル%で、平均重合度は1,500であった。
【0046】
上記の水溶性カチオン性PVA−1の合成例と同様にして、水溶性カチオン性PVA−2〜PVA−6の重合体を得た。これら本発明の水溶性カチオン性PVAを表1に示した。また、ピッチ付着防止効果の評価に用いたピッチコントロール剤を表2に示した。
【0047】
(その他のPVA)
PVA−7:部分ケン化ポリビニルアルコール
(重合度1,700、ケン化度80.0モル%)
「ゴーセノール KH−17」(商品名、日本合成化学工業(株)製)
PVA−8:部分ケン化ポリビニルアルコール
(重合度2,500、ケン化度85.5〜87.0モル%)
「Airvo l540」(商品名、Air Products Inc.製)
【0048】
(その他)
ゼラチン:アルカリ処理ゼラチン(分子量約100,000)
「ニッピゼラチンST1」(商品名、(株)ニッピ製)
AP−1:無水マレイン酸/ジイソブチレン共重合体(分子量5,000)のナトリウム塩
「ポリスターOM」(商品名、日本油脂(株)製:25重量固形分%)
CP−1:ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(分子量120,000)
「PAS−H−10L」(商品名、日東紡績(株)製:28重量固形分%)
タルク:「ミストロンベーパー」(商品名、日本ミストロン(株)製)
【0049】
(ピッチコントロール剤の調製)
試験で使用したピッチコントロール剤は、表1及び上記の原料を使い、表2に示した配合で調製したものを使用した。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
[ピッチ付着防止効果の評価]
(試験1)
新聞古紙を配合して中質紙を抄造しているマシンでは、ワイヤーパートのワイヤー、フォイル及びプレスパートのフェルト、ロールにピッチが付着して問題となっていた。
【0053】
抄紙機のワイヤー及びフォイルに付着したピッチをかき取り、乾燥させた後、クロロホルム:エタノール=2:1混合溶媒に分散させ、20%濃度のピッチ試料とした。200mlビーカーにマシン白水100mlと本発明のピッチコントロール剤を有効成分として50mg入れ、これをミキサー(特殊機化工業(株)製、TKオートホモミキサーM型)にて8000rpmで撹拌しながら、調製したピッチ試料500mgを添加し、さらに1分間撹拌した。ビーカー及びミキサーに付着した付着物をクロロホルムにて洗浄・抽出し、付着量を求めた。その結果を表3に示した。
【0054】
(試験2)
雑誌古紙を原料としてトイレットペーパーを抄造しているマシンでは、雑誌古紙中の接着剤に由来する粘着性のピッチがプレスパートのフェルトやロールに付着して問題となっていた。
【0055】
ピッチで汚れたフェルトを切り取り、クロロホルムで12時間ソックスレー抽出してピッチを抽出した。抽出したピッチをクロロホルム:エタノール=2:1混合溶媒に溶解させ、10%濃度のピッチ溶液を調製した。この液500mgをステンレス板(厚さ0.5mm、縦25mm、横50mm)の片面に均一に塗布し、乾燥させた後、これをピッチ試料とした。本発明のピッチコントロール剤を有効成分としてマシン白水200mlに10mg及び30mg溶解し、これを300mlのビーカーに入れ、ピッチを塗布したステンレス板を液中に浸漬させ、水温35℃で15分間撹拌した。その後、ピッチを塗布したステンレス板を取り出し、そのピッチ表面のタック性をASTM D−2979に従って、(TESTING MACHINE Inc.製「ポリケンプローブタックテスター」(商品名))にて測定した。その結果を表3に示した。尚、表中、○:タック値=0(粘着性がない)、△:タック値=0.5N/cm2未満(粘着性がわずかにある)、×:タック値=0.5N/cm2以上(粘着性がある)を示す。
【0056】
【表3】
【0057】
表3の結果から、本発明のピッチコントロール剤によって、ピッチの付着が効果的に抑制されることが判る。
【0058】
【発明の効果】
本発明のピッチコントロール方法により、ワイヤー、フェルト、ロール等の製造装置類へのピッチの付着抑制及び付着物の粘着性低減・消失により、紙の汚点・欠点が減少して製品品質が向上するとともに、断紙も減少して生産性・作業性が向上するなど、ピッチ障害が改善され、紙パルプ工業に益するところが大である。
Claims (1)
- パルプ及び紙の製造工程において、ビニルエステルと下記一般式(I)、(II)、(III)で表される重合性アミン化合物単量体の1種以上を含んでいる共重合体の該ビニルエステル単位部をケン化してビニルアルコール単位部とし、そして該アミン化合物単位部が1級ないし3級アミン単位部である場合は、これを4級アンモニウム塩化して得られた水溶性カチオン化ポリビニルアルコール共重合体からなるピッチコントロール剤を溶液の形態としてピッチが付着する製造装置及びその一部に噴霧することを特徴とするピッチコントロール方法。
R4:炭素数1〜20のアルキレン基
A :−N(R5)(R6)、−N+(R7)(R8)(R9)・X1 −
R5、R6、R7、R8、R9:それぞれ独立に水素、
炭素数1〜3のアルキル基
X1 −:Cl−、Br−、I−、−SO4 2−、−CH3COO−、
−OSO3 −CH3、−OSO3 −C6H4CH3
R10−N(R11)(R12)又はR10−N+(R11)(R12)(R13)・X2 − (II)
ここで、R10:炭素数2〜20のアルケニル基
R11:水素、炭素数1〜20のアルキル基及び/又は炭素数2〜
20のアルケニル基
R12、R13:それぞれ独立に水素、炭素数1〜3のアルキル基
X2 −:Cl−、Br−、I−、−SO4 2−、CH3COO−
−OSO3 −CH3、−OSO3 −C6H4CH3
R14−O−R15−B (III)
ここで、R14:炭素数2〜20のアルケニル基
R15:水酸基を含んでいてもよい炭素数1〜20のアルキレン基
B:−N(R16)(R17)、−N+(R18)(R19)(R20)・X3 −
R16、R17、R18、R19、R20:それぞれ独立に水素、
炭素数1〜3のアルキル基
X3 −:Cl−、Br−、I−、−SO4 2−、−CH3COO−、
−OSO3 −CH3、−OSO3 −C6H4CH3
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