JP4609107B2 - 高強度部材の製造方法 - Google Patents
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[1]mass%で、C:0.020〜0.20%、Si:1.5%以下、Mn:0.50〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.5%、N:0.005%以下を含み、かつ、Ti、Nb、Vの一種又は二種以上を合計で0.10〜1.0%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、さらに前記Ti、NbおよびVの合計含有量の60%以上を固溶状態と規定した薄鋼板を用いて、該薄鋼板を、温間成形前の保持温度T1(℃):400℃〜A1変態点まで加熱し、前記温間成形前の保持温度T1(℃)と温間成形前の保持時間t1(分)の関数Z1が下記式(1)を満たすように保持した後、成形温度:400℃〜A1変態点で所定形状に温間成形し、次いで、温間成形後の保持温度T2(℃):500℃〜A1変態点で、前記温間成形後の保持温度T2(℃)、温間成形後の保持時間t2(分)および前記Z1の関数Z2が下記式(2)を満たすように保持することを特徴とする高強度部材の製造方法。
25.5≦Z2=ln{t2+exp(Z1-0.039T2)}+0.039T2≦29.5・・・式(2)
[2]前記[1]において、温間成形前の前記薄鋼板が、さらに、mass%で、Mo:0.01〜1.0%、Cr:0.01〜1.0%の一種または二種を含有することを特徴とする高強度部材の製造方法。
[3]前記[1]または[2]において、温間成形前の前記薄鋼板が、マルテンサイト相を体積率で20%以下(0%含む)、フェライト、パーライト、残留オーステナイトを合計体積率で20%以下(0%含む)、残部はベイナイトとする組織からなることを特徴とする高強度部材の製造方法。
C:0.020〜0.20%
Cは鋼板の強度増加や温間成形中の炭化物生成の観点から、本発明において最も重要な元素の一つであり、本発明では温間成形後に目的とする強度を確保するために0.020%以上の含有を必要とする。一方、0.20%を越える含有は、鋼板へのTi、Nb、Vを含む炭窒化物の固溶化を困難にし、さらには溶接性を著しく劣化させる。以上より、Cは0.020%以上0.20%以下、好ましくは、0.040以上0.15%以下とする。
Si:1.5%以下
Siは鋼の延性を顕著に低下させることなく、鋼板を高強度化させることができる有用な強化元素であり、鋼板の強度レベルに応じて含有してもよく、このような効果を得るには0.01%以上含有するのが好ましい。しかしながら、特に、高い表面美麗性や耐食性を要求される自動車用鋼板の場合、1.5%を越えるSiの含有は、表面性状、化成処理性等に悪影響を与えるうえ、これらの悪影響を抑制するために鋼板表面の酸洗処理を長時間にわたり行わなければならない等、大きなコストアップを招く。以上より、Siは1.5%以下とする。より優れた表面美麗性、耐食性が求められる用途では好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.25%以下である。
Mn:0.50〜3.0%以下
Mnは、オーステナイトを安定化し、フェライト変態を遅延させる元素であり、熱間圧延または焼鈍後の冷却時にフェライト変態と同時に起こるTi,Nb等の炭化物の析出を安定して抑制する。このような効果を得るためには0.50%以上の含有が必要である。一方、3.0%を越えるMnの含有は上記した効果が飽和するだけでなく、温間成形時の強度が増大する。以上より、Mnは0.50%以上3.0%以下、好ましくは1.0%以上2.5%以下とする。
P:0.10%以下
Pは鋼を強化する作用があり、鋼板の強度レベルに応じて含有してもよく、このような効果を得るには0.005%以上含有するのが好ましい。一方、P含有量が0.10%を超えると、溶接性が劣化する。以上より、Pは0.10%以下である。また、より優れた溶接性が要求される場合には、Pは0.05%以下が好ましい。
S:0.01%以下
Sは、鋼板中では介在物として存在し、溶接性の劣化をもたらすだけでなく、Sを含む粗大介在物は自動車衝突時に鋼板の破壊の起点となり、衝突の衝撃を十分に吸収することなく鋼板が破断する恐れがある。そのため、自動車用構造部材としてはできるだけ低減するのが好ましく、0.01%以下であればこれらの悪影響が無視できることから、本発明ではSは0.01%以下とする。また、より優れた溶接性や衝撃吸収特性を要求される場合には、Sは0.005%以下が好ましい。
Al:0.01〜0.5%
Alは鋼の脱酸元素として添加され、鋼の清浄度を向上させるのに有用な元素であり、鋼の組織微細化のためにも添加が望ましい元素である。また適性範囲のAlを添加したアルミキルド鋼のほうが、Alを添加しない従来のリムド鋼に比して、機械的性質が優れている。以上の理由により、下限は0.01%とする。また、Siと同様に強度-延性バランスを向上させる効果も有するが、一方で、Al含有量が多くなると表面性状の悪化につながるため上限は0.5%とする。以上より、Alは0.01%以上0.5%以下とする。
N:0.005%以下
NはTi、Nb、VとTiN、NbN、VNを形成し、鋼板中の固溶Ti、Nb、Vを減少させるため、本発明においてはできるだけ少ないほうが好ましい。よって、Nは0.005%以下、好ましくは0.003%以下とする。
Ti、Nb、Vの一種又は二種以上を合計で0.10〜1.0%
Ti、NbおよびVは、本発明においてもっとも重要な元素の一つであり、温間成形中に極微細炭化物として析出することにより成形後の部材の強度を高める。Ti、Nb、Vの合計含有量が0.10%未満では、いかなる方法で製造したとしても、温間成形後に所望の強度上昇を得ることができない。一方、1.0%を超えて含有しても温間成形時の強度上昇効果が飽和し、逆に加工性の劣化をもたらす。以上より、Ti、Nb、Vの合計含有量を0.10%以上1.0%以下とする。より好ましくは、0.15%以上0.90%以下である。
Ti、Nb、Vの合計含有量の60%以上が固溶状態
さらに、本発明では、鋼板中にTi、Nb、Vの合計含有量の60%以上を固溶させることとする。このようにTi、Nb、Vを鋼板中に析出させず、積極的に固溶させることにより、温間成形時に所望の強度上昇を得ることができる。Ti、Nb、Vの固溶量が合計含有量の60%未満では、含有量に見合う強度上昇を得ることができない。よって、Ti、Nb、Vの固溶量は合計含有量の60%以上とする。より好ましくは70%以上である。なお、VはTi、Nbに比べ強化能が低いため、Vを単独で含有する場合には含有量の90%以上が固溶した状態であることが好ましい。なお、本発明において、固溶Ti、Nb、V量は、10%AA系電解法(参照:高山ら:鉄と鋼, 82(1996),147.)により抽出した残さの化学分析により得られた析出Ti、Nb、V量を、鋼中Ti、Nb、V量から差し引いて求めるものとする。
Mo:0.01〜1.0%、Cr:0.01〜1.0%の一種または二種
Mo、Crはそれぞれ単独で含有しても、温間成形時に含有量に見合う強度上昇を得ることができないが、Ti、Nb、Vと複合で含有することにより、温間成形時の強度上昇量を増加させる効果を有し、このような効果はMo、Crそれぞれを0.01%以上含有したときに顕著となる。これは、Mo、CrはTi、Nb、Vに比べ炭化物形成能が弱いため、単独では含有量にみあう十分な強度上昇を得ることができないが、Ti、Nb、Vと複合で含有することで、Ti、Nb、Vを含む炭化物に複合して析出し、温間成形時の強度上昇量を増加させると考えられる。一方で、Mo、Crをそれぞれ1.0%を超えて含有すると、コストアップや温間成形時の加工性の劣化をもたらす。以上より、含有する場合、Moは0.01%以上1.0%以下、Crは0.01%以上1.0%以下とする。
マルテンサイト体積率:20%以下(ただし、0%の場合も含む)
マルテンサイトが多量に生成すると鋼板強度が高くなりすぎるほか、マルテンサイト相は温間成形時に軟化するため、Ti、NbおよびVの炭化物析出による強度上昇効果を相殺してしまう。よって、マルテンサイト相の体積率は20%以下が好ましい。より好ましくは15%以下である。なお、上記主旨により、本発明においては、マルテンサイト体積率が0%の場合においても本発明の効果を奏するため、マルテンサイト体積率が0%の場合も含むものとする。
残部:ベイナイトを主体
マルテンサイトを除いた残部組織はベイナイトを主体とする組織とするのが好ましい。ただし、若干量(体積率で20%以下)のフェライト、パーライト、残留オーステナイト等の組織が混在していても構わない。また、本発明でいうベイナイトとは、ラス状フェライトの界面に沿って板状のセメンタイトが析出した所謂上部ベイナイト、およびラス状フェライト内にセメンタイトが微細分散した所謂下部ベイナイトを含むものとする。
温間成形前の保持温度および温間成形温度:400℃〜A1変態点
温間成形前の保持温度及び温間成形温度は400℃以上A1点以下とする。400℃未満では、温間成形時の強度低下は少なく、形状凍結性の向上などの十分な効果が得られない。一方、A1点越えでは、スケールの生成が多量になるだけでなく、温間成形温度に昇温後、極めて短時間で炭化物が析出してしまうため、温間成形する前に炭化物が析出してしまい、温間での成形性が低下してしまうほか、炭化物の粗大化も著しくなり、温間成形後に強度上昇を得るどころか、逆に軟化してしまう。以上より、温間成形前の保持温度および温間成形温度は400℃以上A1変態点以下とする。より好ましくは、450℃以上A1変態点以下である。なお、温間成形前の保持温度と温間成形温度とは必ずしも一致する必要は無く、どちらも400℃以上A1変態点以下の温度範囲内であればよい。
温間成形前の保持条件:Z1=lnt1+0.039T1<25.5
温間成形前の保持温度、保持時間と温間成形時の強度、合金炭化物の析出量の関係を調査した。その結果、温間成形前の保持温度T1(℃)と温間成形前の保持時間t1(分)の関数Z1を25.5未満とすることで、合金炭化物の析出によって温間強度が上昇する前に温間成形することができることが明らかとなった。図1は、温間成形前の保持温度T1(℃)と温間成形前の保持時間t1(分)を種々変化させたときの合金炭化物の析出率(%):{(析出量−昇温前の析出量)/(昇温前の固溶量)×100}を示した図である。図1より、Z1<25.5の範囲では析出率が10%未満となっており、温間成形前の保持をこの範囲にすることで、低い温間強度で温間成形することができることが分かる。一方、Z1≧25.5の範囲では析出率が10%以上となっており、温間成形時の強度が高くなることが分かる。より好ましくは25.4未満である。なお、Z1の下限については特に限定されず、温間成形時の鋼板温度が400℃〜A1変態点の範囲内であれば、昇温後直ちに温間成形しても構わない。
温間成形後の保持温度:500℃〜A1変態点
温間成形後に、500℃〜A1変態点の温度で所定時間保持することにより、温間で成形することによる成形荷重低下、寸法精度向上に加えて、合金炭化物の析出による強度上昇を得ることができる。温間成形後の保持温度が500℃未満では十分な強度上昇を得るための保持時間が長時間となるため製造コストの面で不利である。一方、A1点を越える温度で保持すると、スケールの生成が多量になるだけでなく、合金炭化物の粗大化が著しくなり、温間成形後に強度上昇を得るどころか、逆に軟化してしまう。以上より、温間成形後の保持温度は500℃以上A1変態点以下とする。より好ましくは550℃以上700℃以下である。ただし、A1変態点が700℃未満のときは好適範囲の上限はA1変態点とする。
温間成形後の保持条件:25.5≦Z2=ln{t2+exp(Z1-0.039T2)}+0.039T2≦29.5
合金炭化物の析出による強度上昇量と温間成形後の保持温度、保持時間、および温間成形前の保持条件(Z1)の関係を,前述の図1と同様の方法で調査した。その結果、温間成形後の保持温度T2(℃)、温間成形後の保持時間t2(分)、温間成形前の保持条件Z1の関数Z2を25.5以上29.5以下とすることで、十分な強度上昇が得られることが明らかとなった。Z2が25.5未満では、合金炭化物の析出が不十分であり、十分な強度上昇を得ることができない。一方、Z2が29.5超えでは、炭化物の粗大化が顕著となり、十分な強度上昇が得られない。より好ましくは、25.6≦Z2=ln{t2+exp(Z1-0.039T2)}+0.039T2≦29.0である。
固溶Ti、Nb、V量測定
固溶Ti、Nb、V量は、10%AA系電解法(参照:(*)高山ら:鉄と鋼, 82(1996),147. )により抽出した残さの化学分析により得られた析出Ti、Nb、V量を、鋼中Ti、Nb、V量から差し引いて求め、鋼中Ti、Nb、V量に対する固溶Ti、Nb、V量の比:S(=固溶(Ti+Nb+V)/鋼中(Ti+Nb+V)×100)で評価した。得られた結果を表1に併せて示す。
組織観察
鋼板の圧延方向に直交する断面(C断面)について、光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡を用いて微視組織を撮像し、組織の種類の同定を行い、画像解析装置を用いてマルテンサイト相の体積率を求めた。得られた結果を表1に併せて示す。
引張試験
鋼板の長軸を圧延方向に直交する方向としたJIS5号引張試験片を採取し、機械研削により板厚1.2mmにそろえた試験片を、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を行い、引張強さ(室温TS)を求めた。また,表2に示す温間成形条件で破断するまで上記と同様の引張試験を行い、温間引張強さ(温間TS)を求めた。さらに、表2に示す条件で2%の引張変形を行った後、表2に示す温間成形後の保持条件で温間保持を行い、室温まで冷却した試料に対しても上記と同様の引張試験を行い、温間成形後室温引張強さ(温間成形後室温TS)を求め、さらに、これらの温間TS、温間成形後室温TSから温間TS/温間成形後室温TSであるP値を求めた。得られた結果を表2に示す。なお、実部材の成形では、部材形状および変形部位によって変形量、変形モード(一軸、二軸等)が多様であるが、温間変形量、変形モードと温間成形後の室温強度の関係を調査した結果、極めて深い絞り加工以外は一軸引張試験で得られる値とよく対応することが明らかとなっている。
Claims (3)
- mass%で、C:0.020〜0.20%、Si:1.5%以下、Mn:0.50〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.5%、N:0.005%以下を含み、かつ、Ti、Nb、Vの一種又は二種以上を合計で0.10〜1.0%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、さらに前記Ti、NbおよびVの合計含有量の60%以上を固溶状態と規定した薄鋼板を用いて、該薄鋼板を、温間成形前の保持温度T1(℃):400℃〜A1変態点まで加熱し、前記温間成形前の保持温度T1(℃)と温間成形前の保持時間t1(分)の関数Z1が下記式(1)を満たすように保持した後、成形温度:400℃〜A1変態点で所定形状に温間成形し、次いで、温間成形後の保持温度T2(℃):500℃〜A1変態点で、前記温間成形後の保持温度T2(℃)、温間成形後の保持時間t2(分)および前記Z1の関数Z2が下記式(2)を満たすように保持することを特徴とする高強度部材の製造方法。
Z1=lnt1+0.039T1<25.5・・・式(1)
25.5≦Z2=ln{t2+exp(Z1-0.039T2)}+0.039T2≦29.5・・・式(2) - 温間成形前の前記薄鋼板が、さらに、mass%で、Mo:0.01〜1.0%、Cr:0.01〜1.0%の一種または二種を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度部材の製造方法。
- 温間成形前の前記薄鋼板が、マルテンサイト相を体積率で20%以下(0%含む)、フェライト、パーライト、残留オーステナイトを合計体積率で20%以下(0%含む)、残部はベイナイトとする組織からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高強度部材の製造方法。
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