JP5549582B2 - 薄鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、薄鋼板とした後、この薄鋼板を素材として自動車の超高強度構造部材とするに際し、Ac3変態点以上のような高温域に昇温後、焼入れ、ついで焼戻しを施されるような用途に用いられる、いわゆる焼入れ焼戻し処理用鋼板として好適な鋼板に関するものであり、焼入れ焼戻し処理を施した後の強度−延性バランスを良好とすることができ、かつ溶接熱影響部の軟化を小さくすることができる薄鋼板に関するものである。
なお、ここで薄鋼板とは、熱延鋼板、冷延鋼板といった、板厚:0.5〜4.0mm程度の鋼板を意味する。
また、ここで焼入れ焼戻し処理とは、特に加熱することなく室温近傍で成形したのち、Ac3変態点以上のような高温域に加熱して焼入れ、ついで焼戻しを行うような、加工後焼入れ焼戻し処理を施す場合の他、鋼板をAc3変態点以上に加熱してオーステナイト域温度で加工を施したのち、該オーステナイト域温度から焼入れ、ついで焼戻しを施すような、いわゆる熱間成形における焼入れ焼戻し処理をも含むものである。
近年、地球環境の保全という観点から、自動車の燃費改善が要求され、また車両衝突時に乗員を保護する観点から、自動車車体の安全性向上も要求されている。このため、自動車車体の軽量化および強化の双方を図るための検討が積極的に進められている。
自動車車体の軽量化と強化を同時に達成するには、部品素材を高強度化することが効果的であると言われており、最近では引張強さ(TS)が 980 MPa以上の高張力薄鋼板が、ドアインパクトビームやセンターピラー、バンパー等の自動車構造部品に積極的に使用されている。すなわち、高張力薄鋼板を適用して、使用する鋼板の薄肉化を図り、これにより自動車車体の軽量化と強化を同時に達成するものである。
高張力薄鋼板を加工、成形した自動車用部材には、自動車衝突時にその部材が破壊することなく、変形することで、衝突時の衝撃エネルギーを吸収することが要求される。この点、強度−延性バランスが低い部材や溶接時の熱影響部の軟化が顕著な部材では、衝突時の破断に伴い衝撃吸収エネルギー量が著しく低下する。
このため、これを防止するために、高い強度−延性バランスと共に、溶接時における熱影響部の軟化抑制が求められている。
しかしながら、強度−延性バランスについては、薄鋼板を素材とする自動車の車体用構造部品の多くがプレス加工により成形されることから、引張り強さ:980MPa以上の高張力薄鋼板では、母材の延性が低いため必然的にプレス加工後の延性が低くなる。すなわち、鋼板を高強度化すると、伸びが低下してプレス成形性が劣化し、プレス成形後の部材の強度−延性バランスも低くなるという問題があった。
また、引張強さ:980MPa以上の高張力薄鋼板では、スプリングバックを回避し難く、成形後の寸法精度の劣化も問題となっていた。
これらの問題を解決する代表的な方法として、母材強度:440〜590 MPa級程度の鋼板を、プレス成形後、Ac3変態点以上の温度に加熱したのち、急冷することにより、980MPa以上の鋼板強度を得る方法が挙げられる。
例えば、特許文献1には、質量%で、C:0.05〜0.20%、Mn:0.3〜2.5%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Al:0.06%以下、Ti:0.015%以下、N:0.010%以下、B:0.0005〜0.0040%を含み、残部Feおよび不可避的不純物よりなる焼入部の靭性に優れた高周波焼入用鋼板が提案されている。この鋼板では、Ti,N,B量および旧オーステナイト粒径を制御することで高周波加熱のような短時間加熱でもBによる焼入れ効果を発揮させ、かつ高速変形時に割れが発生せず高い衝撃吸収エネルギーが得られるが、焼入れ後のミクロ組織が冷却速度の制御により得られたマルテンサイトやベイナイトを主体とするため、十分な強度−延性バランスを得難いという問題が生じ、さらにレーザー等による溶接時に熱影響部が軟化し、衝撃吸収エネルギーの低下や疲労特性の低下を招くという問題があった。
また、特許文献2には、質量%で、C:0.10〜0.37%、Si:1.0%以下、Mn:2.5%以下、P:0.10%以下、S:0.03%以下、sol.Al:0.01〜0.10%、N:0.0005〜0.0050%、Ti:0.005〜0.05%以下、B:0.0003〜0.0050%を含有し、B−(10.8/14)N*≧0.0005%を満足し、鋼中析出物であるTiNの平均粒径が0.06〜0.30μm であり、かつ焼入れ後の旧オーステナイト粒径が2〜25μm であることを特徴とする焼入れ後の衝撃特性に優れる薄鋼板が提案されている。この鋼板では、Ti,N,B量、TiNの粒径および旧オーステナイト粒径を制御することにより、優れたシャルピー衝撃吸収エネルギーを得ているが、この場合も、焼入れ後に高強度化を図るためマルテンサイトを主体とするミクロ組織とした場合、上記と同様に、優れた強度−延性バランスが得られないだけでなく、溶接時に熱影響部が軟化するという問題があった。
一方、上記した問題、すなわちプレス成形後の強度−延性バランスの低下やスプリングバックの発生を効果的に回避する方法として、冷間成形に替えて熱間成形(ホットプレス)を利用する方法が注目を浴びている。
この方法は、鋼板をAc3変態点以上の高温に加熱した状態で成形するため、成形性に関しては全く問題がなく、成形後の冷却速度の制御によりマルテンサイトを主体とする低温変態相とすることで、980MPaを超える高強度を得ることができる。
例えば、特許文献3には、質量%で、C:0.18〜0.25%、Si:0.15〜0.35%、Mn:1.15〜1.40%、Cr:0.15〜0.25%、Ti:0.01〜0.03%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる薄鋼板を熱間成形することからなる車輌用衝突補強材の製造技術が提案されている。この技術では、主として熱間成形条件を制御することで、引張強さ:1500 MPa程度が得られ、スプリングバックの回避にも成功しているが、特に優れた衝撃吸収特性を要求される自動車用部材に適用した場合には、溶接熱影響部の軟化に起因した破断により衝撃吸収エネルギーの低下を招くという問題があった。
また、非特許文献1には、質量%で、C:0.22%、Mn:1.2 % 、Cr:0.15%、B:0.002 %を含む薄鋼板を熱間成形する技術が開示されている。この技術では、母材強度:590MPa級の鋼板を、 Ac3変態点以上の温度に加熱後、プレス成形と同時に急冷することにより、引張り強さ:1530 MPa、強度−延性バランス:12000MPa・%程度を得ているが(引張試験片サイズ:JIS 5号、板厚:1.4 mm時)、この場合も母材と熱影響部の最大ビッカース硬度差ΔHvが150 程度と大きいところに問題を残していた。
特開2000−248338号公報 特開2002−309345号公報 特開2002−102980号公報
「末広ら;新日鉄技報 第378号 P.15〜20(2003)」
従来、焼入れ法により製造された自動車用構造部材において、引張強さ:980MPa以上とするためには、ミクロ組織の主相をマルテンサイトとする必要があるため、上記したように自動車構造部材として必要な強度−延性バランスと溶接熱影響部の軟化抵抗性(以下、耐溶接熱影響部軟化特性という)を同時に得ることは困難とされてきた。
また、ホットプレスにより成形された自動車用構造部材についても、引張強さ:980MPa以上とするためには、ミクロ組織の主相はマルテンサイトとする必要があり、上記したように自動車構造部材として必要な強度−延性バランスと耐溶接熱影響部軟化特性を同時に得ることは困難とされてきた。
この理由は、主相をマルテンサイトとした場合には高延性が得にくく、また焼戻しにより延性を向上させようとしてもFe3C等の粗大化により強度は低下するものの延性はそれほど向上しないためである。また、マルテンサイト主体のミクロ組織では、レーザー溶接等を行った場合、熱影響部で著しい軟化が生じ、大幅な溶接部の強度低下や疲労特性の劣化を招く不利もある。
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、焼入れ焼戻し後においても引張強さが980MPa以上で、強度−延性バランスに優れ、かつ溶接熱影響部の軟化を小さくできる焼入れ焼戻し処理に適した薄鋼板を、提案することを目的とする。
さて、発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねたところ、鋼中にVを含む炭化物を微細に析出させることにより、具体的には、粒径が80nm以下の析出物について求めたVを含む炭化物の平均粒径を30nm以下とすることにより、所期した目的が有利に達成されることの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
(1)質量%で
C:0.10〜0.25%、
Si:1.5 %以下、
Mn:1.0 〜3.0 %、
P:0.10%以下、
S:0.005 %以下、
Al:0.01〜0.5 %、
N:0.010%以下、
V:0.20〜1.0%および
B:0.0050%以下
を含み、かつ(10Mn+V)/C≧50を満足し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成からなり、粒径が80nm以下の析出物について求めたVを含む炭化物の平均粒径が30nm以下であることを特徴とする焼入れ焼戻し用薄鋼板。
(2)質量%で
C:0.10〜0.25%、
Si:1.5%以下、
Mn:1.0〜3.0%、
P:0.10%以下、
S:0.005%以下、
Al:0.01〜0.5%、
N:0.010%以下、
V:0.20〜1.0%および
B:0.0050%以下
を含み、かつ(10Mn+V)/C≧50を満足し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成からなり、フェライト相の体積率が60%以上で、粒径が80nm以下の析出物について求めたVを含む炭化物の平均粒径が30nm以下であることを特徴とする焼入れ焼戻し用薄鋼板。
(3)上記(1)または(2)において、鋼板がさらに、質量%で
Nb:0.1%以下および
Ti:0.1%以下
のうちから選んだ1種または2種を含有する組成からなることを特徴とする焼入れ焼戻し用薄鋼板。
(4)上記(1),(2)または(3)において、鋼板がさらに、質量%で
Cr:0.005 〜1.0 %および
Mo:0.005 〜1.0 %
のうちから選んだ1種または2種を、(2Cr+Mo)/2V≦2.0 を満足する範囲で含有することを特徴とする焼入れ焼戻し用薄鋼板。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかにおいて、鋼板がさらに、質量%で
Cu:0.5〜5.0%
を含有することを特徴とする焼入れ焼戻し用薄鋼板。
(6)上記(5)において、鋼板がさらに、質量%で
Ni:0.1〜2.0%
を含有することを特徴とする焼入れ焼戻し用薄鋼板。
本発明によれば、焼入れ用鋼板の高性能化には従来あまり積極的に利用されることがなかったVを活用することにより、焼入れ焼戻し後に強度−延性バランスに優れ、かつ溶接熱影響部の軟化が小さい、引張強さ:980MPa以上の焼入れ焼戻し処理に適した薄鋼板を得ることができる。
TS×Elに及ぼすC,Mn,V量の影響を、(10Mn+V)/Cの関係で示した図である。 溶接熱影響部軟化特性(ΔHv)に及ぼすC,Mn,V量の影響を、(10Mn+V)/Cの関係で示した図である。 TS×Elに及ぼすCr,Mo量の影響を、(2Cr+Mo)/2Vの関係で示した図である。 成形加工後の試験部材の形状・寸法を示した図である。
以下、本発明を由来するに至った実験結果について説明する。
なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
Si:0.01%、P:0.009%、S:0.002%、Al:0.03%およびN:0.0025%を基本組成とし、これにC,Mn,Vをそれぞれ、C:0.11〜0.25%、Mn:1.00〜1.55%、V:0.15〜0.82%の範囲で種々に変化させて含有させ、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になるシートバーを、1250℃に加熱・均熱後、仕上圧延終了温度が900 ℃となるように3パスの圧延を行って板厚:4.0 mmの熱延板とした。仕上圧延終了後、コイル巻取り処理に相当する550℃,1hの保温処理を施した。ついで、圧下率:75%の冷間圧延を施して板厚:1.0mmの冷延板としたのち、Ac1変態点からAc3変態点の間の750℃で60s保持後、500℃までの平均冷却速度が20℃/sとなるように冷却し、酸洗した。なお、Ac1変態点以上での保持時間は90sであり、Ac1変態点から500℃までの平均冷却速度は20℃/sであった。
ついで、上記のようにして得られた薄鋼板を、Ac3変態点以上の 950℃で60s保持後、氷水中に焼入れし、600 ℃で10min の焼戻し処理を行った。
なお、ここで、Ac1変態点は670〜700℃、またAc3変態点は770〜840℃であった。
かくして得られた焼入れ焼戻し後の薄鋼板の引張特性(降伏強さYS、引張強さTS、伸びEl)を求めた。なお、引張特性は、長軸を圧延方向に直交する方向とする、JIS5号引張試験片を用い、JIS Z 2241の規定に準拠した引張試験により求めた。
また、得られた焼入れ焼戻し後の薄鋼板の耐溶接熱影響部軟化特性についても調査した。なお、耐溶接熱影響部軟化特性の評価は、CO2レーザー溶接により、レーザー出力:3kW、溶接速度:4m/min、レーザー焦点位置:薄鋼板表面、シールドガス:Arの条件で溶接し、溶接の影響を受けない母材部および溶接溶融部から熱影響部にかけての板厚断面における板厚の1/4位置でのビッカース硬度を荷重:200gの条件で、0.1mm間隔で測定し、母材部の平均ビッカース硬度と熱影響部の最大ビッカース硬度との差ΔHvを求めることにより行った。
かくして得られた引張特性および耐溶接熱影響部軟化特性と成分組成特に焼入れ焼戻し時の軟化抵抗や炭化物の析出を通じて引張特性などに影響すると考えられるC,Mn,V量との関係について検討したところ、これらの特性は(10Mn+V)/Cをパラメータとすることにより、的確に評価できることが判明した。
なお、(10Mn+V)/Cは、上記検討にて得た回帰式であり、該式中のMn,V,Cは各々の元素の含有量(質量%)である。
また、上記の特性が(10Mn+V)/Cをパラメータとすることにより的確に評価できる理由の詳細は不明であるが、焼戻し処理時の軟化抵抗や、焼戻し処理時に生じるFeやVを含む炭化物のサイズを通じて引張特性に影響を及ぼすと考えられるC, MnおよびVの相互作用への寄与が、各元素ごとに異なるためと考えられる。
図1に、TS×Elに及ぼすC,Mn,V量の影響について調べた結果を、(10Mn+V)/Cの関係で示す。
また、図2には、耐溶接熱影響部軟化特性(ΔHv)に及ぼすC,Mn,V量の影響について調べた結果を、(10Mn+V)/Cの関係で示す。
図1、図2から、TS×ElおよびΔHvは、(10Mn+V)/50=50近傍で大きく変化し、(10Mn+V)/C≧50とすれば、TS×El:12000MPa・%以上の優れた強度−延性バランスが得られるだけでなく、ΔHv:50以下という優れた耐溶接熱影響部軟化特性が得られることが分かる。
さらに、焼入れ焼戻し処理に用いた薄鋼板の析出物についても調査したところ、良好な引張特性および耐溶接熱影響部軟化特性が得られた鋼板はいずれも、粒径が80nm以下の析出物について求めたVを含む炭化物の平均粒径が30nm以下であることが判明した。
ここで、調査をすべき析出物の大きさを80nm以下に限定したのは、粒径が80nmを超える粗大な析出物は、スラブ加熱時に溶け残った析出物であり、後工程の条件でサイズが大きく変化する80nm以下の析出物と異なり、特性に大きく影響しないためである。
なお、Vを含む炭化物とは、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)でのエネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDX)により、VとCの双方を検出した析出物と定義する。
また、このVを含む炭化物の平均粒径は、透過型電子顕微鏡による観察結果を基に画像処理することにより求めることができる。すなわち、画像処理により各析出物の面積を求め、円相当直径に換算し、80nm以下のものについて平均粒径を求めればよい。
上記したように、鋼成分中、とくにC,Mn,V量を(10Mn+V)/C≧50の範囲に調整すると共に、粒径が80nm以下の析出物について求めたVを含む炭化物の平均粒径を30nm以下に制御することによって、焼入れ焼戻し後に優れた強度−延性バランスおよび耐溶接熱影響部軟化特性が得られるメカニズムの詳細については、まだ明確に解明されたわけではないが、次のように考えられる。
従来の焼入れ用鋼板では、マルテンサイトを主体とする組織としているため、強度−延性バランスが低く、また溶接時に熱影響部においてマルテンサイトが焼戻されるため、顕著に軟化する。さらに、強度−延性バランスや溶接性を改善するために焼戻し処理を行ったとしても、粒界近傍での粗大な炭化物の析出等により強度−延性バランスは大きく低下し、また耐溶接熱影響部軟化特性も改善されない。
この点、本発明では、焼入れ焼戻し処理用薄鋼板中のVを含む炭化物の平均粒径を30nm以下とすることにより、焼入れ後の固溶Vを確保可能とし、さらに(10Mn+V)/C≧50とすることにより、焼戻し処理時に容易にFeやVを含む炭化物を微細均一に分散させて、強度−延性バランスおよび溶接性の向上を図ることができる。
まず、強度−延性バランスの向上については、
(1) 焼入れ後の組織が高転位密度のマルテンサイト主体であることに伴う炭化物生成サイトの増加により、焼戻し処理により生じるFeやVを含む炭化物の微細均一化、
(2) 固溶V,MnによるC拡散速度の低下に伴う、焼戻し処理により生じるFeやVを含む炭化物の微細均一化、
(3) Mn,VとCの相互作用による焼戻し軟化抵抗の増大によるTS低下抑制とElの確保などによるものと考えられ、特にVを含む炭化物の粒径を制御し、上記効果が顕著である(10Mn+V)/C≧50の成分範囲とすることで、上記(2), (3)で述べた事項が有効に作用するものと考えられる。
また、耐溶接熱影響部軟化特性の向上については、特にVの作用が顕著と思われ、本発明範囲でのVの含有により溶接時の熱影響部近傍でのマルテンサイトの軟化抑制が図れる。これは、上記(1)〜(3)と同様の理由で、溶接時の熱影響部近傍でのFeやVを含む炭化物の微細均一化、FeやVを含む炭化物の粗大化抑制により、マルテンサイトを主体とするTS:980MPa超級の熱影響部の軟化抑制効果が顕著になるためと考えられる。
次に、本発明において、鋼板の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。
C:0.10〜0.25%
Cは、鋼板の強度増加や炭化物生成の観点から重要な元素であり、本発明では焼入れ焼戻し後に目的とする強度と所望の炭化物量を確保するために、0.10%以上のCを含有させるものとした。一方、0.25%を超えるCの含有は、溶接性を著しく劣化させる。このため、C量は、0.10〜0.25%の範囲に限定した。なお、より好ましくは0.10〜0.20%の範囲である。
Si:1.5 %以下
Siは、鋼の延性を顕著に低下させることなく、鋼板を高強度化させることができる有用元素である。しかしながら、特に、高い表面美麗性や耐食性を要求される自動車用鋼板の場合、1.5 %を超えてSiを含有させると、表面性状や化成処理性等に悪影響を与える上、これらの悪影響を排除するために必要な鋼板表面の酸洗処理の長時間化等により、大きなコストアップが避けられない。従って、Siは1.5 %以下に制限した。なお、より優れた表面美麗性および耐食性が求められる用途では0.5 %以下とするのが好ましい。さらに、一層優れた表面美麗性および耐食性を得るためには0.25%以下とすることが好ましい。
従来、Siの増加により、強度−延性バランスを向上させる技術が開示されているが、本発明では、上述したように優れた表面美麗性、耐食性を求めるためにSi量を0.01%程度の少量としても炭化物の微細均一化により良好な強度−延性バランスを得ることができる。
Mn:1.0 〜3.0 %以下
Mnは、焼入れ性を向上させる元素であり、さらに上述したように強度−延性バランスの向上や焼戻し軟化の抑制に大きく寄与する。焼入れ、焼戻し後にこのような高性能薄鋼板を得るには、焼入れ後に安定してマルテンサイトを主体とするミクロ組織を得ることが重要である。また、熱間成形−焼戻し後に高性能薄鋼板を得るためにも、熱間成形後に安定してマルテンサイトを主体とするミクロ組織を得ることが重要である。加工後に焼入れ焼戻しを行う鋼板の場合、高周波焼入れ等を用いての加工後焼入れ・焼戻しを主用途としているため、焼入れ後の冷却速度がそれほど高速ではない場合もあり、薄鋼板の鋼組成を制御して焼入れ性を確保することが重要である。この点は、高温域で加工する熱間成形用薄鋼板の場合も同様であって、高温域で加工したのち焼入れを行う場合には冷却速度がそれほど高速ではない場合もあり、鋼組成を制御して焼入れ性を確保することが重要である。また、Mnは、Sによる熱間割れを防止する上でも有効な元素である。
上記の効果は、Mn量が1.0 %以上の範囲で認められるが、3.0 %を超えて含有させると上記の効果が飽和し、また焼入前の母材強度が顕著に増大し母材の成形性が劣化するだけでなく、熱間成形時の強度が増大する。
このため、Mnは、 1.0〜3.0 %の範囲に限定した。なお、より優れた成形性が要求される場合には 1.0〜1.8 %とすることが望ましい。
P:0.10%以下
Pは、鋼を強化する作用があり、所望の強度に応じて必要量を含有させることができ、0.005%以上含有していることが好ましいが、P量が0.10%を超えると溶接性が劣化する。このため、P量は0.10%以下に限定した。なお、より優れた溶接性が要求される場合には、P量は0.05%以下とすることが好ましい。
S:0.005 %以下
Sは、鋼板中では介在物として存在し、溶接性の劣化を招くだけでなく、Sを含む粗大介在物は自動車衝突時に鋼板の破壊の起点となり、衝突の衝撃を十分に吸収することなく鋼板が破断するおそれがあるため、Sの混入はできるだけ低減するのが好ましい。S量が0.005 %以下であればこれらの悪影響が無視できることから、本発明ではS量は0.005%を上限として許容するものとした。なお、より優れた溶接性や衝撃吸収特性を要求される場合には、S量は0.003%以下とすることが好ましい。
Al:0.01〜0.5 %
Alは、鋼の脱酸元素として添加され、鋼の清浄度を向上させるのに有用な元素であり、鋼の組織微細化のためにも添加が望ましい元素である。また、適正範囲のAlを添加したアルミキルド鋼の方が、Alを添加しない従来のリムド鋼に比べて、機械的性質が優れている。さらに、Siと同様、強度−延性バランスを向上させる効果も有する。このため、Al量の下限は0.01%とした。一方、Al量が多くなると表面性状の悪化につながるため上限は0.5 %とした。
N:0.010 %以下
Nは、固溶強化で鋼板の強度を増加させる元素であり、0.001 %以上含有させることが好ましい。しかしながら、焼入れ性向上を目的としてBを添加する場合、NはBと結合して焼入れ性の向上に有効な鋼中のフリーB量を減少させるため、この点では少ない方が好ましく、N量が0.010%を超えると焼入れ性が劣化するため上限を0.010%とした。特に優れた焼入れ性が要求される場合、例えば焼入れ時の冷却速度が遅い場合等には、0.008 %以下とするのがさらに好適である。
V:0.20〜1.0 %
Vは、本発明において最も重要な元素であり、焼戻し時に極微細炭化物として析出することにより、焼入れ焼戻し処理において強度を低下させることなく延性を回復することができる。
焼戻し時に析出し、析出強化に寄与する元素としては、Ti,Nb,V,Mo,Cr等が知られているが、Ti,Nb等の炭化物は容易に溶解せず、焼戻し時に十分な析出強化量を得るためには1100℃を超える高温に加熱する必要があり、成形後に焼入れ焼戻しを行う場合には勿論、熱間成形において焼入れ焼戻し処理を行う場合にも、表面性状の劣化を招くだけでなく、コストアップにもつながるため不適切である。また、Mo,Cr等の炭化物はVの炭化物よりも溶解し易いが、焼戻し時に十分な析出強化量を得るためには数%を超えて含有させる必要があり、コストアップにつながる。このような理由から、成形、焼入れ後の焼戻し時あるいは熱間成形の際の焼戻し時に微細炭化物を析出させて強度を得ることを目的とする本発明の場合、比較的低温・短時間で溶解可能で、かつ多量に添加する必要なく、焼戻し時に著しい強度上昇を示すVが最も適している。また、Vを含む極微細炭化物により析出強化された組織は、溶接時に熱影響部の軟化が極めて小さい他、Vは焼入れ性を向上する効果も有する。
このような効果は、0.20%以上で顕著となるが、1.0 %を超える過剰な添加はコストアップや成形時の加工性の劣化をもたらす。従って、V量は0.20〜1.0 %の範囲に限定した
さらに、本発明で目的とする強度−延性バランス、溶接熱影響部の軟化抵抗を得るためには、上記した好適成分組成の範囲に調整した上で、特にC,Mn,V量について(10Mn+V)/C≧50の条件を満足させることが肝要である。
すなわち、鋼組成中、特にC,Mn,V量を(10Mn+V)/C≧50の範囲に調整することにより、前掲図1および2に示したように、優れた強度−延性バランスおよび耐溶接熱影響部軟化特性を得ることができる。
この理由の詳細については不明であるが、(10×Mn+V)/Cを50以上とすることによって、FeやVを含む炭化物を微細均一に分散させることが可能となるためと考えられる。
以上、基本成分について説明したが、本発明ではその他にも、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Nb:0.1 %以下
Nbは、NbNを形成してオーステナイトの粗大化を抑制する効果があり、必要に応じて添加することができる。このような粗大化抑制効果は0.005%以上で顕著となるが、0.1%を超える添加は過剰なNbCの析出をも促し、固溶Cを減少させるため、焼戻し時にVを含む炭化物の体積率が減少する。従って、Nbは0.1 %以下で含有させるものとした。なお、より優れた成形性を有する焼入れ焼戻し処理用薄鋼板を得るには、Nbは0.05%以下で含有させることが好ましい。なお、上記の効果を得るため、Nbは0.005 %以上含有させることが好ましい。
Ti:0.1% 以下
Tiは、TiNを形成してオーステナイトの粗大化を抑制する効果を有する。また、Nと優先的に結合することにより、焼入れ性向上のためにBを添加する場合には、BのNとの結合を抑制する効果がある。このような効果は0.005 %以上で顕著となるが、0.1 %を超える添加は過剰なTiCの析出をも促し、固溶Cを減少させるため、焼戻し時にVを含む炭化物の体積率が減少する。従って、Tiは0.1%以下で含有させるものとした。
なお、より優れた成形性を有する焼入れ焼戻し処理用薄鋼板を得るには、Tiは0.05%以下で含有させることが好ましい。また、上記効果を得るためには、Tiは0.005 %以上含有させることが好ましい。さらに、焼入れ性向上のためにBを添加する場合には、Nの含有量に応じてTiを添加することが好ましい。
B:0.0050%以下
Bは、焼入れ性を著しく高め、焼入れ後あるいは熱間成形後に安定的にマルテンサイトを生成する効果があり、焼戻し時の炭化物の微細均一化を図る上で重要な元素である。焼入れ時あるいは熱間成形後にマルテンサイトを主体とする組織を得るのに十分な速度で冷却できる場合には、Bの添加は不要であるが、冷却速度が十分に大きくない場合には添加することが好ましい。このような効果を発揮させるには、Bを0.0003%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.0005%以上である。しかしながら、含有量が0.0050%を超えると、上記効果が飽和し、むしろ熱間圧延抵抗の増大、加工性の低下を招くため、B量の上限は0.0050%とした。
Cr:0.005〜1.0%、Mo:0.005〜1.0%のうちから選んだ1種または2種
(2Cr+Mo)/2V≦2.0
Cr,Moは、焼入れ性を向上させ、焼入れ後あるいは熱間成形後に安定してマルテンサイトを主体とする組織を形成する効果を有する。これらの元素は、単独で添加しても焼戻し時に添加量に見合う強度上昇を得ることができないが、Vと複合して添加することにより、焼戻し後の強度−延性バランスをさらに向上させ得ることが明らかとなった。また、このような効果は、Cr,Moをそれぞれ0.005 %以上添加したときに顕著になり、さらに(2Cr+Mo)/2V≦2.0 の範囲で含有させることが極めて有効であることが明らかとなった。
焼戻し後のTS×ElとVの析出に関係すると考えられるCr,Mo,V含有量との関係を検討したところ、(2Cr+Mo)/2Vをパラメータとすることにより、これらの関係が的確に評価できることが判明した。なお、(2Cr+Mo)/2Vは、実験を行い検討して得た回帰式であり、該式中のCr,Mo,Vは各々の元素の含有量(質量%)である。
図3に、(2Cr+Mo)/2Vと焼戻し後のTS×Elとの関係を示す。
同図から明らかなように、焼戻し後のTS×Elは(2Cr+Mo)/2V=2.0 近傍で大きく変化し、Crおよび/またはMoを(2Cr+Mo)/2V≦2.0 を満足する範囲で含有させることによって優れた強度−延性バランスが得られることが分かる。
この理由については明らかでないが、(2Cr+Mo)/2Vが2.0 を超えると焼戻し時に析出するVを含む炭化物の組成がMo,Crリッチになり、その結果、析出物が粗大化し易くなり、強度−延性バランスおよび溶接熱影響部の軟化抵抗が劣化するものと考えられる。
なお、Cr,Moは、それぞれ1.0 %を超える過剰な添加はコストアップや熱間成形時の加工性の劣化を招く。それ故、Cr,Moの好適範囲はそれぞれ0.005〜1.0%とした。
Cu:0.5〜5.0%
Cuは、焼入れ後の焼戻し中に、単独で析出し、強度上昇に寄与するほか、FeやVを含む極微細炭化物の生成を促進し、かつFeやVを含む極微細炭化物を一層均一微細にして、添加量に対する強化能を上昇させる効果を有しており、特にVと複合して添加することにより、強度−延性バランスおよび耐溶接熱影響部軟化特性をさらに向上させることができる。
このような効果が得られる理由は、必ずしも明確ではないが、FeやVを含む炭化物に先んじて極微細Cuが析出することにより、この極微細CuがFeやVを含む微細炭化物の核生成サイトとして作用することによるものと考えられる。
上記の効果は、Cu量が0.5%以上の範囲で認められるが、5.0%を超えて含有させると上記の効果が飽和するだけでなく、鋼板強度が顕著に増大して成形性の劣化を招く。
このため、Cuは、0.5〜5.0%の範囲に限定した。なお、上記の効果はCu量が1.0%以上で特に顕著となるため、1.0%以上添加することが好ましい。また、より優れた成形性が要求される場合には4.0%以下とすることが望ましい。
Ni:0.1〜2.0 %
Niは、Cu添加時に鋼板表面に発生する表面欠陥の防止に有効であり、Cuを添加する場合に必要に応じて含有させることができる。その場合に、Ni含有量はCu含有量に依存し、およそCu含有量の半分程度、すなわちCu含有量の30〜80%程度とすることが好ましい。しかしながら、Ni含有量が2.0%を超えると効果は飽和し、含有量の増大に見合う効果が期待できなくなって経済的に不利となるだけでなく、鋼板強度が顕著に増大して成形性の劣化を招く。このため、Ni量は0.1〜2.0%の範囲に限定した。
なお、本発明では、上記した成分以外については、特に限定していないが、Ca,Zr,REM 等を通常の鋼組成の範囲内であれば含有させても何ら問題はない。
上記した成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、例えばSb,Sn,Zn,Co等が挙げられ、これらの含有量の許容範囲については、Sb:0.01%以下、Sn:0.1 %以下、Zn:0.01%以下、Co:0.1 %以下の範囲である。
次に、本発明の鋼板のミクロ組織について説明する。
粒径が80nm以下の析出物について求めたVを含む炭化物の平均粒径が30nm以下
本発明では、従来、焼入れ焼戻し処理に用いる鋼板の高性能化には積極的に利用されることがなかったVを活用することにより、焼入れ焼戻し後のミクロ組織を焼戻しマルテンサイト主体とする組織とし、焼戻し後にVを含む微細な炭化物を析出させることにより、強度−延性バランスおよび溶接熱影響部の軟化抵抗に優れた引張強さ980MPa以上の自動車用部材が得られる。本発明のように焼入れ、焼戻し処理を行う場合、成形後あるいは成形中にAc3変態点以上の温度に鋼板を加熱するが、その加熱工程に要するコストアップや加熱時の鋼板表面の酸化等を抑制するには、加熱温度・保持時間をできるだけ低温・短時間にすることが好ましく、そのためには、焼入れ焼戻し処理に用いる薄鋼板のVを含む炭化物を微細にして、できるだけ低温・短時間で溶解することが必要である。
本発明では、上記Vによる薄鋼板の高性能化効果を最大限に活用するために、焼入れ焼戻し処理に用いる薄鋼板のVを含む炭化物の粒径を30nm以下にする必要がある。これは、焼入れ処理の際の加熱時に低温短時間でVを含む炭化物を溶解し、焼戻し時に
(1) Vを含む微細炭化物を必要量析出させる、
(2) Vによる焼戻し軟化抵抗を確保する等の効果を発揮させるに十分な量の固溶V量を容易に確保する
ためである。
なお、より低温・短時間で溶解する必要がある場合には、Vを含む炭化物の平均粒径を20nm以下とすることが好ましい。ただし、極度に微細なVを含む炭化物の量を増大させると、焼入れ焼戻し処理用薄鋼板の強度が急激に上昇し成形性の劣化を招くため注意が必要である。
ここで、Vを含む炭化物の平均粒径は、透過型電子顕微鏡を用いて倍率10万倍で10視野以上観察し、EDX (エネルギー分散型X線分光法)による元素分析でVとCが検出される析出物について画像解析装置を用いて各析出物の面積を求め、円相当直径に換算し、スラブ加熱時に溶け残ったものや、TiN等の粗大な析出物にVが固溶したものと考えられる、直径が80nmを超えるものを除外し、80nm以下の析出物について平均したものを、平均粒径とした。
なお、本発明では、焼入れ前の高温処理時にVを含む炭化物を溶解させ、焼戻し時に極微細炭化物として析出させるものであるため、焼入れ前の鋼板についてはVを含む炭化物がまったく析出していないものであってもよく、このような場合も含まれるのは勿論である。
また、熱間成形する場合は、特に問題にはならないが、加熱せずに加工し、焼入れ焼戻し処理をする加工後焼入れ焼戻し用薄鋼板については、フェライト相を60%以上とすることが好ましい。
フェライト相の体積率が60%以上
加工後焼入れ焼戻し用薄鋼板の場合、組織全体に対する体積率で、60%以上のフェライト相を有していることが好ましい。というのは、フェライト相が、組織全体に対する体積率で60%未満では、プレス成形後に焼入れを行う場合のような、高度な加工性が要求される自動車用薄鋼板としてプレス加工時に必要な高い延性を確保することが困難となるからである。また、より一層良好な延性が必要とされる用途では、フェライト相は組織全体に対する体積率で70%以上とするのが好ましい。ここで、フェライト相とは、ポリゴナルフェライト、ベイニティックフェライト、アシキュラーフェライト等のフェライトを含むものとする。
なお、上記したフェライト相以外は特に限定されるものではなく、ベイナイト相、マルテンサイト相、パーライト相、残留オーステナイト相等とすればよい。
次に、本発明の好適製造条件について説明する。
前記の好適成分組成範囲に調整した鋼スラブを素材とし、該素材に熱間圧延を施して、所定板厚の熱延鋼板とする。使用する鋼スラブは、成分のマクロ偏析を防止すべく連続鋳造法で製造することが好ましいが、造塊法、薄スラブ鋳造法によっても製造可能である。また、スラブを製造したのち、一旦室温まで冷却し、その後再度加熱する従来法に加え、冷却しないで、温片のままで加熱炉に挿入する、あるいはわずかの保熱を行った後に直ちに圧延に供する直送圧延・直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
熱延条件については、以下のように規定される。
スラブ加熱温度:1000℃以上
加熱温度が1000℃未満では、圧延荷重が増大し、熱間圧延時のトラブル発生の危険が増大する。また、1000℃未満では未固溶の粗大なVを含む炭化物が多く存在し、熱間成形の際の加熱時に十分に溶解することができず、熱間成形後の焼戻し時に、析出による十分な強度上昇が得られない場合がある。
従って、スラブ加熱温度は1000℃以上とするが、加熱温度があまりに高くなると酸化重量の増加に伴うスケールロスの増大につながるので、スラブ加熱温度は1300℃以下とすることが望ましい。
また、スラブ加熱温度を低くし、かつ熱間圧延時のトラブルを防止するといった観点からは、シートバーを加熱する、いわゆるシートバーヒーターを活用することが有効であることは言うまでもない。
仕上げ圧延出側温度:800 ℃以上
上記したスラブ加熱温度に加熱した後、粗圧延によりシートバーとし、ついで仕上げ圧延を施す。仕上げ圧延出側温度(以下、仕上げ圧延温度ともいう)を800 ℃以上とすることで、均一な熱延母板組織を得ることができ、用途上、問題なく使用することができる。しかしながら、仕上げ圧延温度が800 ℃を下回ると、鋼板の組織が不均一になり、成形時に種々の不具合を発生する危険性が増大する。また、これより低い圧延温度の場合に加工組織の残留を回避すべく高い巻取り温度を採用しても、この場合は粗大粒の発生に伴う同様の不具合を生じる。
従って、仕上げ圧延温度は800 ℃以上とした。なお、上限は特に規制されないが、過度に高い温度で圧延した場合はスケール疵などの原因となるので、1000℃以下程度とするのが好適である。
上記の仕上げ圧延後、次式(1)で示される温度Ta(℃)以下まで冷却して、巻取る必要がある。
Ta(℃)=〔5500/{6.7+log([%V]×[%C])}〕− 400 ・・・(1)
ここで、[%C],[%V]はそれぞれ各元素の含有量(質量%)
仕上げ圧延終了後の巻取り温度の制御は、本発明で目標とするVを含む炭化物の平均粒径を30nm以下に制御する上で極めて重要である。
発明者らは、Vを含む炭化物の粒径は、該炭化物の析出速度や成長速度に影響を及ぼすと考えられるC,Vの含有量に依存すると考え、炭化物粒径に及ぼすC,Vの含有量と巻取り温度の影響について調査した。
その結果、〔5500/{6.7+log([%V]×[%C])}〕− 400(℃)以下まで冷却して巻取ることにより、Vを含む炭化物の平均粒径を30nm以下に制御できることが明らかとなった。
Vを含む炭化物の平均粒径が30nm以下となる巻取り温度が、C,Vの含有量に依存する理由については明らかではないが、C,Vの含有量によってVを含む炭化物の析出速度および成長速度が極大となる温度域が異なるためと、発明者らは考えている。
巻取り温度が〔5500/{6.7+log([%V]×[%C])}〕− 400(℃)を超えると、析出炭化物が粗大化し、熱延板が平均粒径30nm以下の炭化物が析出した組織を有する熱延板とならず、焼入れ後の焼戻し時に、析出による十分な強度上昇が得られない場合がある。このため、巻取り温度は〔5500/{6.7+log([%V]×[%C])}〕− 400(℃)以下に規定した。
巻取り温度の下限は、材質上は厳しく限定はされないが、450 ℃を下回ると低温変態相であるマルテンサイト相やベイナイト相の分率が増加するので、フェライト相の体積率を60%以上とするためには、巻取り温度は450 ℃以上とすることが好ましい。また、さらに高い成形性が要求される場合には、仕上げ圧延と巻取りとの間の冷却において、薄鋼板としての成形性の向上に有利なフェライト相をより多く生成させるため、温度保持域あるいは徐冷域を設けることが好ましい。
なお、仕上げ圧延後、巻取るまでの冷却速度は、放冷以上の速さであればよく、特に制限はされないが、Vを含む炭化物の微細化の観点からは10℃/s以上とすることが好ましい。より好ましくは20℃/s以上である。
また、本発明の焼入れ焼戻し処理用薄鋼板として好適な熱延鋼板の製造における熱間圧延では、熱間圧延時に圧延荷重を低減するために仕上げ圧延の一部または全部を潤滑圧延としてもよい。潤滑圧延を行うことは、鋼板形状の均一化、材質の均一化の観点からも有効である。この潤滑圧延の際の摩耗係数は0.25〜0.10の範囲とすることが好ましい。また、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上圧延する連続圧延プロセスとすることが好ましい。連続圧延プロセスを適用することは、熱間圧延の操業安定性の観点からも望ましい。
さらに、熱間圧延後、形状矯正、表面粗度等の調整のために、10%以下の調質圧延を施してもよい。
また、本発明の焼入れ焼戻し処理用薄鋼板として好適な熱延鋼板は、成形の前に、表面処理を行うこともできる。表面処理としては、亜鉛めっき(合金系を含む)、すずめっき、ほうろう等がある。さらに、焼鈍または亜鉛めっき後、特殊な処理を施して、化成処理性、溶接性、プレス成形性および耐食性等の改善を行ってもよい。
以上、焼入れ焼戻し処理用薄鋼板を熱延鋼板として製造する場合について説明したが、冷延鋼板として製造する場合には、さらに以下の処理が必要となる。
熱間圧延後、冷延圧延に先立ち、常法に準じて酸洗を行うが、極めて薄いスケールの状態であれば、酸洗を省略して直接冷間圧延に供することも可能である。
冷間圧延は、所望の寸法形状の冷延板とすることができればよいので、その条件は特に限定されないが、表面の平坦度や組織の均一性の観点から20%以上の圧下率とすることが好ましい。
ついで、冷延板に焼鈍を行い冷延焼鈍板とする。この焼鈍は、連続焼鈍ラインか連続溶融亜鉛めっきラインのいずれかにおいて行うことが好ましい。
焼鈍条件については以下のように規定される。
焼鈍温度:Ac1変態点以上、(Ac3変態点+200)℃以下
Ac1変態点以上、(Ac3変態点+200)℃以下での保持時間:10〜300s
焼鈍中の最高到達温度である焼鈍温度がAc1変態点未満では、冷間圧延の残留応力が十分に除去できず、熱間成形や室温での加工の際に変形するおそれが大きく、安定した成形が困難になる可能性がある。一方、(Ac3変態点+200)℃ を超えるとオーステナイト粒径が粗大になり、強度−延性バランスの低下を招く。従って、焼鈍温度はAc1変態点以上、(Ac3変態点+200)℃以下とした。
また、 Ac1変態点以上、(Ac3変態点+200)℃以下の温度域はVを含む炭化物が析出する温度域であり、長時間の保持はVを含む炭化物の粗大化を招くため、保持時間は300s以下とする必要がある。より好ましくは120s以下である。一方、保持時間が10s未満では十分に均一な組織が得難いという問題がある。
なお、ここで保持時間とは、上記温度域での滞留時間を意味する。また、Ac1変態点やAc3変態点は熱膨張率を測定することによって、求めることができる。
焼鈍後の冷却:上記温度域での保持後 500℃までの平均冷却速度:10℃/s以上
焼鈍後の冷却は、上記の Ac1変態点〜(Ac3変態点+200)℃の温度域における保持の後、少なくとも500 ℃までの間を平均冷却速度:10℃/s以上の速度で冷却する必要がある。平均冷却速度が10℃/s未満では、生産性が低下するだけでなく、冷却中にVを含む炭化物が析出・粗大化し、冷延焼鈍板が平均粒径:30nm以下のVを含む炭化物が析出した組織を有するものにならず、焼入れ焼戻し時や熱間成形後の焼戻し時に、析出による十分な強度上昇が得られない場合がある。このため、上記温度域での保持後 500℃までの平均冷却速度、すなわち上記温度域の下限温度であるAc1変態点から500℃までの平均冷却速度は 10℃/s以上とする。より好ましくは15℃/s以上である。
また、室温で加工後に焼入れ焼戻し処理を行う場合のように、室温での加工性が要求される場合は、以下の焼鈍条件とすることが好ましい。
焼鈍温度:Ac1変態点以上、(Ac3変態点+200)℃以下
Ac1変態点以上、(Ac3変態点+200)℃以下での保持時間:10〜300s
上述したように、焼鈍温度がAc1変態点未満では、冷間圧延の残留応力が十分に除去できず、安定した成形が困難になる可能性がある。一方、(Ac3変態点+200)℃ を超えるとオーステナイト粒径が粗大となり、冷延薄鋼板の成形性や自動車用部材の強度−延性バランスが低下する。
また、前述したように、この温度域はVを含む炭化物が析出する温度域であり、長時間の保持はVを含む炭化物の粗大化を招くため、保持時間は 300s以下とする必要がある。より好ましくは 120s以下である。一方、保持時間が10s未満では十分に均一な組織が得難いという問題がある。
焼鈍後の冷却:上記温度域での保持後 500℃まで平均冷却速度:10〜50℃/s
焼鈍後の冷却は、上記の Ac1変態点〜(Ac3変態点+200)℃の温度域における保持の後、少なくとも 500℃までの間を平均冷却速度:10〜50℃/sで冷却する必要がある。平均冷却速度が10℃/s未満では、生産性が低下するだけでなく、冷却中にVを含む炭化物が析出・粗大化し、冷延焼鈍板が平均粒径:30nm以下のVを含む炭化物が析出した組織を有するものとならず、成形、焼入れ・焼戻し後に、析出による十分な強度上昇が得られない場合がある。このため、上記温度域での保持後 500℃までの平均冷却速度は10℃/s以上とする。より好ましくは15℃/s以上である。一方、平均冷却速度の上限については、あまりに速すぎると、フェライト相の体積率を60%以上とすることが困難となり、室温近傍での成形性が低下する傾向にあるため、成形性確保の観点から50℃/sとした。
なお、上記冷却後は特に限定されるものではないが、500℃から350℃までの温度域は低温変態相(マルテンサイトやベイナイト)の強度に大きく影響するので、室温での加工性を向上させる上では、500℃から350℃までの間の滞留時間を30s以上として冷却することが好ましい。滞留時間が30s未満では、低温変態相が硬質化し易く室温での加工が困難となる場合がある。一方、滞留時間の上限は生産性の観点から600s程度とすることが好ましい。
なお、上記の焼鈍後に、形状矯正、表面粗度等の調整のために、10%以下の調質圧延を施してもよい。
かくして、焼入れ焼戻し処理用の熱間薄鋼板および冷間薄鋼板を得ることができる。
これらの鋼板は、その後に焼入れ焼戻し処理を施して、超高強度部材とする。
ここに、焼入れ焼戻し処理は、特に限定されるわけではないが、室温近傍で加工後、加熱して焼入れするに際しては、焼入れ温度:Ac3〜(Ac3+200)℃、保持時間:1〜600s、焼入れ温度から300 ℃までの平均冷却速度:20℃/s以上、また焼戻しに際しては、焼戻し温度:400 ℃〜Ac1変態点、保持時間:10〜3600s程度とすることが望ましい。一方、熱間成形に際しては、成形温度:Ac3〜(Ac3+200)℃、保持時間:10〜600s、熱間成形温度から300 ℃までの平均冷却速度:20℃/s以上、また焼戻しに際しては、焼戻し温度:400℃〜Ac1変態点、保持時間:10〜3600s程度とすることが好ましい。
実施例1
この例は、本発明の薄鋼板を製造し、室温で成形後、焼入れ焼戻し処理を行った場合の例である。
表1に示す成分組成になる溶鋼を、転炉で溶製し、連続鋳造法で鋼スラブとした。なお、Ac1変態点、Ac3変態点については、熱膨張の測定により求めた。
ついで、これら鋼スラブを、表2に示す条件で板厚:4.0 mmの熱延板とし、酸洗後、伸び率:1.0 %の調質圧延を施した。
かくして得られた熱延板から試験片を採取し、組織観察を行った。また、引張試験を実施して、引張特性について調べた。得られた結果を表2に併記する。
さらに、得られた鋼板から、圧延方向を長手方向として300mm×220mm の試片を採取し、図4に示す形状に加工して試験部材を作成し、たて壁部から圧延方向を引張方向とするJIS 5 号試験片を採取して、焼入れ焼戻し後の引張特性を調査すると共に、フランジ部について、下記のような CO2レーザー溶接を行い、耐溶接熱影響部軟化特性について調査した。ここで、焼入れ焼戻し条件としては、焼入れ温度:900 ℃、保持時間:60s、冷却速度(焼入れ速度):50℃/s、焼戻し温度:600℃、焼戻し時間:600sとした。得られた結果を表3に示す。
なお、試験方法の詳細は次のとおりである。
(1) 組織観察
得られた鋼板から試験片を採取し、圧延方向に直交する断面(C断面)について、光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡を用いて微視組織を撮像し、画像解析装置を用いてフェライト相やマルテンサイト相等、組織の種類の同定を行い、それらの組織分率(面積率)を求め体積率とした。
なお、Vを含む炭化物の平均粒径は、透過型電子顕微鏡を用いて倍率20万倍で10視野以上観察し、EDX (エネルギー分散型X線分光法)による元素分析でVとCが検出される析出物について画像解析装置を用いて各析出物の面積を求め、円相当直径に換算し、直径が80nm以下の析出物について平均粒径を求めた。
(2) 引張試験
得られた鋼板から長軸を圧延方向に直交する方向としたJIS5号引張試験片(板厚:4.0mm)を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を行い、引張特性(降伏応力(YS)、引張強さ(TS)、伸び(El)、降伏比(YR))を求めた。
(3) 耐溶接熱影響部軟化特性
耐溶接熱影響部軟化特性は、CO2レーザー溶接により、レーザー出力:3kW 、溶接速度:4m/min 、レーザー焦点位置:薄鋼板表面、シールドガス:Arの条件で溶接し、溶接の影響を受けない母材部および溶接溶融部から熱影響部にかけての板厚断面における板厚の1/4位置でのビッカース硬度を荷重:200gの条件で、0.1mm間隔で測定し、母材部の平均ビッカース硬度と熱影響部の最大ビッカース硬度との差ΔHvで評価した。
Figure 0005549582
Figure 0005549582
Figure 0005549582
表2に示したとおり、本発明に従い得られた熱延薄鋼板はいずれも、Vを含む炭化物の平均粒径が30nm以下であった。
また、表3から明らかなように、本発明の熱延薄鋼板を、成形後、実際に焼入れ焼戻し処理を施した場合には、TS×Elが12000MPa・%以上という優れた強度−延性バランスと共に、ΔHvが50以下という優れた耐溶接熱影響部軟化特性が得られている。
これに対し、本発明の適正範囲を外れた比較例では、強度−延性バランス(TS×El)が12000MPa・%未満、あるいはΔHvが50を超える値となっていた。
なお、フェライト相の体積率が60%未満となった鋼板No.10は、焼入れ焼戻し後の部材特性は良好であったが、熱延薄鋼板としてのTS×Elが低く、焼入れ焼戻し処理前の成形性に問題があった。
実施例2
実施例1で得た熱延板を、酸洗後、圧下率:75%で冷間圧延を施して板厚:1.0 mmの冷延板とした。ついで、この冷延板に対し、連続焼鈍ラインにて表4に示す条件で焼鈍を施したのち、さらに伸び率:1.0 %の調質圧延を施した。
かくして得られた冷延焼鈍板から試験片を採取し、組織観察を行った。また、引張試験を実施して、引張特性について調べた。得られた結果を表4に併記する。
さらに、実施例1と同様に試験部材を作成し、実施例1と同じ条件で焼入れ焼戻しを行った後の引張特性および耐溶接熱影響部軟化特性についても調査した。得られた結果を表5に示す。
Figure 0005549582
Figure 0005549582
表4に示したとおり、本発明に従い得られた冷延薄鋼板はいずれも、Vを含む炭化物の平均粒径が30nm以下であった。
また、表5から明らかなように、この冷延薄鋼板を、成形後、実際に焼入れ焼戻し処理を施した場合には、TS×Elが12000MPa・%以上という優れた強度−延性バランスと共に、ΔHvが50以下という優れた耐溶接熱影響部軟化特性を得ることができた。
これに対し、本発明の適正範囲を外れた比較例では、強度−延性バランス(TS×El)が12000MPa・%未満、あるいはΔHvが50を超える値となっていた。
なお、フェライト相の体積率が60%未満となった鋼板No.12 は、冷延薄鋼板としてのTS×Elが低く、焼入れ処理前の成形性に問題があった。
実施例3
この例は、本発明の薄鋼板を製造し、得られた薄鋼板を熱間成形した例に関するものである。
表1に示す成分組成になる溶鋼を、転炉で溶製し、連続鋳造法で鋼スラブとした。ついで、これら鋼スラブを、表6に示す条件で板厚:4.0 mmの熱延板とし、酸洗後、伸び率:1.0 %の調質圧延を施した。
かくして得られた熱延板から試験片を採取し、組織観察を行った。また、引張試験を実施して、引張特性について調べた。得られた結果を表6に併記する。
さらに、得られた鋼板から、圧延方向を長手方向として300mm×220mmの試片を採取し、図4に示す形状に、下記の条件で熱間成形後、焼入れ焼戻しを行う熱間成形処理を行い、試験部材を作成した。作成した試験部材のたて壁部からJIS 5 号試験片を採取して、熱間成形後の引張特性を調査すると共に、フランジ部について前述した実施例1,2と同様にCO2レーザー溶接を行い、耐溶接熱影響部軟化特性について調査した。得られた結果を表7に示す。
熱間成形条件 成形温度:900℃
保持時間:60s
平均冷却速度:50℃/s
焼戻し温度:600℃
焼戻し時間:600s
Figure 0005549582
Figure 0005549582
表6に示したとおり、本発明に従い得られた熱間成形用の熱延薄鋼板はいずれも、Vを含む炭化物の平均粒径は30nm以下であった。
また、表7から明らかなように、この熱間成形用熱延薄鋼板を、実際に熱間成形後、焼戻し処理を施した場合には、TS×Elが12000MPa・%以上という優れた強度−延性バランスおよびΔHvが50以下という優れた耐溶接熱影響部軟化特性を得ることができた。
これに対し、本発明の適正範囲を外れた比較例はいずれも、強度−延性バランス(TS×El)が12000MPa・%未満であった。
実施例4
実施例3で得た熱延板を、酸洗後、圧下率:75%で冷間圧延を施して板厚:1.0 mmの冷延板とした。ついで、この冷延板に対し、連続焼鈍ラインにて表8に示す条件で焼鈍を施したのち、さらに伸び率:1.0 %の調質圧延を施した。
かくして得られた冷延焼鈍板から試験片を採取し、組織観察を行った。また、引張試験を実施して、引張特性について調べた。得られた結果を表8に併記する。
さらに、実施例3と同様に、熱間加工、ついで焼戻しを行った後の引張特性および耐溶接熱影響部軟化特性についても調査した。得られた結果を表9に示す。
Figure 0005549582
Figure 0005549582
表8に示したとおり、本発明に従い得られた熱間成形用の冷延薄鋼板はいずれも、Vを含む炭化物の平均粒径は30nm以下であった。
また、表9から明らかなように、この熱間成形用冷延薄鋼板を、実際に熱間成形後、焼戻し処理を施した場合には、TS×Elが12000MPa・%以上という優れた強度−延性バランスおよびΔHvが50以下という優れた耐溶接熱影響部軟化特性を得ることができた。
これに対し、本発明の適正範囲を外れた比較例はいずれも、強度−延性バランス(TS×El)が12000MPa・%未満であった。
本発明は、主として自動車の超高強度車体構造部品等の使途に好適な焼入れ焼戻し処理用の薄鋼板であり、かかる鋼板を用いた自動車用部材を製造するに当たり、成分組成、熱延条件および冷延焼鈍条件を適正化することによって、最終の製品段階での微視組織を制御することにより、焼戻しマルテンサイト相を主相としVを含む炭化物を適正に生成させることが可能となる結果、優れた強度−延性バランスと共に、優れた耐溶接熱影響部軟化特性を得ることができる。

Claims (6)

  1. 質量%で
    C:0.10〜0.25%、
    Si:1.5%以下、
    Mn:1.0〜3.0%、
    P:0.10%以下、
    S:0.005%以下、
    Al:0.01〜0.5%、
    N:0.010%以下、
    V:0.20〜1.0%および
    B:0.0050%以下
    を含み、かつ(10Mn+V)/C≧50を満足し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成からなり、粒径が80nm以下の析出物について求めたVを含む炭化物の平均粒径が30nm以下であることを特徴とする焼入れ焼戻し用薄鋼板。
  2. 質量%で
    C:0.10〜0.25%、
    Si:1.5%以下、
    Mn:1.0〜3.0%、
    P:0.10%以下、
    S:0.005%以下、
    Al:0.01〜0.5%、
    N:0.010%以下、
    V:0.20〜1.0%および
    B:0.0050%以下
    を含み、かつ(10Mn+V)/C≧50を満足し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成からなり、フェライト相の体積率が60%以上で、粒径が80nm以下の析出物について求めたVを含む炭化物の平均粒径が30nm以下であることを特徴とする焼入れ焼戻し用薄鋼板。
  3. 請求項1または2において、鋼板がさらに、質量%で
    Nb:0.1%以下および
    Ti:0.1%以下
    のうちから選んだ1種または2種を含有する組成からなることを特徴とする焼入れ焼戻し用薄鋼板。
  4. 請求項1,2または3において、鋼板がさらに、質量%で
    Cr:0.005 〜1.0 %および
    Mo:0.005 〜1.0 %
    のうちから選んだ1種または2種を、(2Cr+Mo)/2V≦2.0 を満足する範囲で含有することを特徴とする焼入れ焼戻し用薄鋼板。
  5. 請求項1〜4のいずれかにおいて、鋼板がさらに、質量%で
    Cu:0.5〜5.0%
    を含有することを特徴とする焼入れ焼戻し用薄鋼板。
  6. 請求項5において、鋼板がさらに、質量%で
    Ni:0.1〜2.0%
    を含有することを特徴とする焼入れ焼戻し用薄鋼板。
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