JP5929846B2 - 温間プレス成形方法およびこの成形方法で用いる成形金型 - Google Patents
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Description
また、本発明は、上記の温間プレス成形方法により製造した自動車骨格部品に関するものである。
しかしながら、高強度鋼板は、一般にプレス成形性に劣り、また金型離型後の弾性回復による形状変化(スプリングバック)が大きく、寸法精度不良が発生しやすいため、プレス成形を適用できる部品が限られているのが現状である。
この熱間プレス成形は、冷間プレス成形よりも高い温度で成形することによって、プレス成形する際の鋼板の変形抵抗を低下させ、換言すれば変形能力を向上させて、形状凍結性の向上を、プレス割れの防止と共に達成しようとする技術である。
その結果、特に高強度鋼板が適用される自動車骨格部品などでは、熱間プレス成形後の空冷中にパネル形状が変化し、十分満足のいく寸法精度のパネルが得られないという問題が生じていた。
しかしながら、特に金型肩部などの接触面圧の大きい部分に微細な突起を設けた場合には、突起がへたりやすく、このため、長期間の使用には耐えることができないという問題があった。さらに、かような突起の形成には、電解加工や化学エッチング等が用いられるが、これらの加工法は機械加工と比較して非常に煩雑であり、金型の製造コストが増大するという問題もあった。
また、本発明は、上記の温間プレス成形方法により製造した自動車骨格部品を提供することを目的とする。
それと同時に、スプリングバックによる形状変化量を抑制できる条件を見出すべく、種々の成形方法・成形条件について、鋭意検討を重ねた。
(1)鋼板をいわゆる温間成形温度域に加熱し、
(2)ついでポンチおよびダイ、時にはさらにしわ押さえを有するプレス機を用いて成形する際に、ポンチ金型やダイ金型、しわ押さえと鋼板との接触部に、鋼板の温度低下を抑制するための溝を設ける、
ことが、所期した目的の達成に関し、極めて有用であるとの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
1.引張強さが440MPa以上である鋼板を、フランジ部をそなえるプレス成形品に成形するに当たり、
該鋼板を400〜700℃の温度域に加熱したのち、ポンチおよびダイをそなえ、必要に応じてしわ押さえを有するプレス機を用いて成形するものとし、その際、ポンチ金型、ダイ金型およびしわ押さえの少なくとも1つについて、該鋼板との接触部に該鋼板の温度低下を抑制するための溝を設けた金型またはしわ押さえを用い、
また、前記ダイ金型、前記ポンチ金型および前記しわ押さえの前記鋼板との接触部に設けた前記溝の面積率が、それぞれ20〜50%であることを特徴とする温間プレス成形方法。
C:0.015〜0.16%、
Si:0.2%以下、
Mn:1.8%以下、
P:0.035%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.1%以下、
N:0.01%以下および
Ti:0.13〜0.25%
を下記(1)式の関係を満足する範囲で含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有すると共に、
組織全体に占めるフェライト相の割合が面積率で95%以上で、かつフェライトの平均結晶粒径が1μm以上で、該フェライト結晶粒中に、平均粒子径が10nm以下の炭化物を分散析出させた組織を有する、
ことを特徴とする前記1〜5のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
記
2.00≧([%C]/12)/([%Ti]/48)≧1.05 …(1)
ここで、[%M]はM元素の含有量(質量%)
V:1.0%以下、
Mo:0.5%以下、
W:1.0%以下、
Nb:0.1%以下、
Zr:0.1%以下および
Hf:0.1%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、かつ下記(1)’式の関係を満足することを特徴とする前記6に記載の温間プレス成形方法。
記
2.00≧([%C]/12)/([%Ti]/48+[%V]/51+[%W]/184+[%Mo]/96+[%Nb]/93+[%Zr]/91+[%Hf]/179)≧1.05 …(1)’
ここで、[%M]はM元素の含有量(質量%)
ずれかに記載の温間プレス成形方法。
また、本発明によれば、プレス成形を温間で行うことから、成形前後に焼入れや相変態を伴うことがなく、素材である鋼板の機械的特性をそのまま活かすことができるので、所望特性のプレス成形品を安定して得ることができる。
まず、本発明において、プレス成形前における鋼板の加熱温度を400〜700℃の範囲とした理由について説明する。
鋼板を400℃以上に加熱することにより、強度は低下し、かつ延性は増加する。このため、鋼板がプレス成形中に金型に沿って変形しやすくなって、プレス割れを防止でき、さらにはしわの発生も抑制することができる。しかしながら、鋼板の加熱温度が700℃を超えると、材料強度が低くなりすぎ、割れや破断の危険がある。また、加熱温度を700℃以下とすることにより、成形前後に焼入れや相変態が生じず、強度や延性といった引張特性のバラツキを抑制することができる。従って、鋼板の加熱温度は400〜700℃の範囲とする。特に、鋼板の加熱温度を400℃以上650℃未満とする場合には、鋼板表面の酸化や割れの発生も抑制でき、しかもプレス荷重の過大な増加も生じないため、一層有利である。
なお、図1中、符号1はダイ、2はポンチ、3はしわ押さえ、4は加熱した鋼板(ブランク)、5は成形後のプレス成形品(パネル)、6はフランジ部、7は側壁部である。
なお、ここでいう「平均温度差」との記載は、プレス成形直後における平均温度差を意味し、これ以降、特に断らない限りこの意味で用いている。ここで、「プレス成形直後」とは、プレス成形したパネルを金型から外した空冷開始時点に相当する。また、「形状変化量」とは、温間プレス成形直後にパネルを金型から外した時点の形状と、当該パネルを空冷した後の形状との差(変化量)を意味するものとする。
その結果、ブランクを狭圧するダイ金型およびしわ押さえのブランクとの接触部に溝を設けることにより、これらの接触面積を減少させ、これによって、ブランクから金型およびしわ押さえへの熱伝達を抑えることで、上記した平均温度差を抑制し、パネルの形状変化を抑制できることに想到した。
このような溝を適宜形成して、上記の平均温度差を150℃以内、好ましくは100℃以内に抑制するのである。
このため、成形後のパネル内全体において温度の均一化を図り、形状変化をより効果的に抑制するとの観点から、ポンチ金型におけるブランクとの接触部にも溝を設けることが好ましい。
なお、金型の側面には溝を設けなくてもよく、接触部という場合には、この側面は除く部分(ダイ金型:肩部およびしわ押さえ部、ポンチ金型:肩部および成形面)を指すものとする。
なお、上記した溝の面積率は、部位ごとに、溝を設けた領域の面積に対する溝の合計面積の割合として定義する。例えば、ダイ金型のブランクとの接触部における溝の面積率は、[ダイ金型のブランクとの接触部における溝の合計面積]/[ダイ金型のブランクとの接触面積]×100(%)により求めることができる。
図4中、符号11がポンチ金型の肩部、12がダイ金型の肩部である。
さらに、各溝の幅は、パネルの長さL(図2(b)参照)に対して、それぞれ(L×0.5)/12〜(L×0.5)/10mmの範囲とすることが好ましい。
ここで、製造するプレス成形品の長さLは50mm以上とする。ただし、ルーフレールパネル(図7参照)のような曲がりハット形状のパネルにおける長さLは、そのパネルの湾曲した周の長さ(周方向長さ)を指すものとする。
このフォーム成形の場合、しわ押さえを用いないので、ポンチ金型およびダイ金型との接触によるブランクの温度低下が、成形後のパネル内の不均一な温度分布の主要因となる。
このため、ポンチ金型およびダイ金型におけるブランクとの接触部、中でも特に接触面圧の大きい肩部に溝を設けることが極めて有効となる。
さらに、成形条件および鋼板の特性によっては、プレス成形後に、プレス成形前の鋼板の引張強さをほとんどそのまま保持した(プレス成形前の鋼板の引張強さの95〜105%の引張強さを有する)プレス成形品を得ることができる。
従って、プレス成形品の必要特性に応じて、それに対応する特性の鋼板をブランクとして用いれば、所望特性のプレス成形品を安定して得ることができるのである。
Cは、TiやV、Mo、W、Nb、Zr、Hfと結合して炭化物を形成し、マトリックス中に微細分散して鋼板を高強度化する重要な元素である。ここに、440MPa以上の引張強さを達成するには、C量を0.015%以上とすることが好ましい。一方、C量が0.16%を超えると、延性、靱性が著しく低下し、良好な衝撃吸収能(例えば、引張強さTS×全伸びElで表される)を確保できなくなる。このため、Cは0.015〜0.16%の範囲とすることが好ましい。より好ましくは0.03〜0.16%、さらに好ましくは0.04〜0.14%の範囲である。
Siは、固溶強化元素であり、高温域での強度低下を抑制するため、温間成形温度域での加工性(温間成形性)を阻害する。このため、本発明ではできるだけ低減することが好ましいが、0.2%までは許容できる。このようなことから、Siは0.2%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.06%以下である。なお、Siは不純物レベルまで低減してもよい。
Mnは、Siと同様、固溶強化元素であり、高温域での強度低下を抑制するため、温間成形温度域での加工性(温間成形性)を阻害する。このため、本発明ではできるだけ低減することが好ましいが、1.8%までは許容できる。このようなことから、Mnは1.8%以下とすることが好ましい。より好ましくは1.3%以下、さらに好ましくは1.1%以下である。なお、Mn含有量が極端に少なくなると、オーステナイト(γ)→フェライト(α)変態温度が過度に上昇して、炭化物が粗大化することが懸念されるため、Mnは0.5%以上とすることが好ましい。
Pは、固溶強化能が非常に高く、高温域での強度低下を抑制するため、温間成形温度域での加工性(温間成形性)を阻害する元素である。さらに、Pは,粒界に偏析するため、温間成形時ならびに温間成形後の延性を低下させる。このようなことから、Pは極力低減することが好ましいが、0.035%までは許容できる。このため、Pは0.035%以下とすることが好ましい。なお、より好ましくは0.03%以下、さらに好ましくは0.02%以下である。
Sは、鋼中では介在物として存在する元素であり、Tiと結合して強度を低下させたり、Mnと結合して硫化物を形成し、常温や温間での鋼板の延性を低下させる。このため、Sは極力低減することが好ましいが、0.01%までは許容できる。このため、Sは0.01%以下とすることが好ましい。なお、より好ましくは0.005%以下、さらに好ましくは0.004%以下である。
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を得るためには0.02%以上含有させることが望ましい。しかしながら、0.1%を超えてAlが含有されると、酸化物系介在物が増加し、温間での延性低下が著しくなる。このため、Alは0.1%以下とすることが好ましい。なお、より好ましくは0.07%以下である。
Nは、製鋼の段階でTiやNb等と結合し、粗大な窒化物を形成する。このため、Nを多量に含有すると、鋼板強度が著しく低下する。このようなことから、Nは極力低減することが好ましいが、0.01%までは許容できる。従って、Nは0.01%以下とすることが好ましい。なお、より好ましくは0.007%以下である。
Tiは、Cと結合して炭化物を形成し、鋼板の強化に寄与する元素である。本発明で対象とする鋼板の室温での引張強さ:440MPa以上を確保するためには、0.13%以上のTiを含有させることが好ましい。一方、0.25%を超えるTiを含有させると、鋼素材の加熱に際し、粗大なTiCが残存して、ミクロボイドが生成する。このため、Ti量は0.25%以下とすることが好ましい。なお、より好ましくは0.14〜0.22%、さらに好ましくは0.15〜0.22%の範囲である。
2.00≧([%C]/12)/([%Ti]/48)≧1.05 …(1)
ここで、[%M]はM元素の含有量(質量%)
また、([%C]/12)/([%Ti]/48)の値が、1.05未満では、粒界強度が低下するだけでなく、加熱に対して炭化物の熱安定性が低下する。このため、炭化物が粗大化しやすくなり、所望の高強度化が達成できなくなる。一方、([%C]/12)/([%Ti]/48)の値が2.00を超えると、セメンタイトが過度に析出する。このため、温間成形中にミクロボイド生成が生成して、温間成形中の割れの原因となる。なお、より好ましい([%C]/12)/([%Ti]/48)の範囲は、1.05以上1.85以下である。
V、Mo、W、Nb、ZrおよびHfは、Tiと同様、炭化物を形成して鋼板の強化に寄与する元素である。そのため、鋼板の更なる高強度化が要求される場合において、Tiに加えて、V、Mo、W、Nb、ZrおよびHfのうちから選択して、1種または2種以上含有させることができる。このような効果を得るためには、Vは0.01%以上、Moは0.01%以上、Wは0.01%以上、Nbは0.01%以上、Zrは0.01%以上、Hfは0.01%以上をそれぞれ含有させることが好ましい。
一方、Vが1.0%を超えると、炭化物が粗大化しやすくなり、特に温間成形温度域で炭化物が粗大化するため、室温まで冷却した後の炭化物の平均粒子径を10nm以下に調整することが困難となる。そのため、Vは1.0%以下とすることが好ましい。なお、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.2%以下である。
また、MoおよびWが、それぞれ0.5%、1.0%を超えると、γ→α変態が極度に遅延する。このため、鋼板組織にベイナイト相やマルテンサイト相が混在し、後述するフェライト単相を得ることが困難となる。このようなことから、MoおよびWはそれぞれ0.5%以下、1.0%以下にすることが好ましい。
さらに、Nb、ZrおよびHfは、それぞれ0.1%を超えて含有すると、スラブ再加熱時に、粗大な炭化物が溶解しきれず残存する。このため、温間成形中にミクロボイドが生成しやすくなる。このようなことから、Nb、ZrおよびHfはそれぞれ0.1%以下にすることが好ましい。
なお、上記した各元素を含有させる場合には、上記式(1)に代えて、次式(1)’の範囲を満足させる必要がある。この理由は、(1)について説明したところと同じである。
2.00≧([%C]/12)/([%Ti]/48+[%V]/51+[%W]/184+[%Mo]/96+[%Nb]/93+[%Zr]/91+[%Hf]/179)≧1.05 …(1)’
ここで、[%M]はM元素の含有量(質量%)
Bは、γ→α変態の核生成を阻害して、γ→α変態点を低下させる作用を有し、この作用により、炭化物の微細化に寄与する元素である。このような効果を得るには、0.0002%以上のBを含有させることが望ましい。しかしながら、0.003%を超えるBを含有しても、効果が飽和し経済的に不利となる。そのため、Bは0.003%以下にすることが好ましい。より好ましくは0.002%以下である。
Mg、Ca、YおよびREMはいずれも、介在物を微細化する作用を有し、この作用により、温間成形中の介在物と母材近傍での応力集中を抑制して、延性を向上させる効果を有する。このため、これらの元素を必要に応じて含有させることができる。なお、REMは、Rare Earth Metalの略でランタノイド系の元素を指す。
しかしながら、Mg、Ca、YおよびREMがそれぞれ0.2%を超えて過度に含有されると、鋳造性(溶鋼を鋳型に入れて凝固させる際の溶鋼流れが良好な特性)が低下し、かえって延性の低下を招く。このため、Mg:0.2%以下、Ca:0.2%以下、Y:0.2%以下、REM:0.2%以下にすることが好ましい。なお、より好ましくは、Mgは0.001〜0.1%、Caは0.001〜0.1%、Yは0.001〜0.1%、REMは0.001〜0.1%の範囲である。
また、これら元素の合計量は0.2%以下となるように調整することが望ましく、より好ましくは0.1%以下である。
Sb、CuおよびSnは、鋼板表面付近に濃化し、温間成形中の鋼板表面の窒化による鋼板の軟化を抑制する効果があり、必要に応じて1種または2種以上を含有させることができる。なお、Cuは耐食性を向上させる効果もある。このような効果を得るためには、Sb、CuおよびSnをそれぞれ0.005%以上含有させることが望ましい。しかしながら、Sbは0.1%、Cuは0.5%、Snは0.1%をそれぞれ超えて過度に含有されると、鋼板の表面性状が悪化する。このため、Sb:0.1%以下、Cu:0.5%以下、Sn:0.1%以下にすることが好ましい。
NiおよびCrはいずれも、高強度化に寄与する元素であり、これらのうちから選んだ1種または2種を必要に応じて含有させることができる。ここに、Niは、オーステナイト安定化元素であり、高温でのフェライトの生成を抑制し、鋼板の高強度化に寄与する。また、Crは、焼入性向上元素であり、Niと同様高温でのフェライトの生成を抑制し、鋼板の高強度化に寄与する。
このような効果を得るには、NiおよびCrはそれぞれ0.01%以上含有させることが好ましい。しかしながら、NiおよびCrがそれぞれ0.5%をそれぞれ超えて過度に含有されると、マルテンサイト相やベイナイト相等の低温変態相の発生が誘起される。マルテンサイト相やベイナイト相といった低温変態相は、加熱中に回復が生じるため、温間成形後に強度を低下させる。このため、NiおよびCrはそれぞれ0.5%以下にすることが好ましい。なお、より好ましくは0.3%以下である。
これらの元素は、合計で2.0%以下であれば、鋼板の強度や温間成形性に影響を及ぼさないので許容できる。より好ましくは1.0%以下である。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
組織全体に占めるフェライト相の割合:面積率で95%以上
本発明では、鋼板の金属組織は、フェライト単相とする。ここでいう「フェライト単相」とは、フェライト相が面積率で100%の場合だけでなく、95%以上の、実質的にフェライト単相である場合も含むものとする。
金属組織をフェライト単相にすることにより、優れた延性を保持でき、さらには熱による材質変化も抑制できる。硬質相であるベイナイト相やマルテンサイト相が混在すると、加熱により硬質相内に導入される転位が回復し軟化するため、温間成形後に鋼板強度を維持できなくなる。このため、パーライト、ベイナイト相、マルテンサイト相を含まない方がよいが、このような硬質相、さらには残留オーステナイト相は、組織全体に対する面積率で5%以下であれば、許容できる。
また、この鋼板に対して温間成形温度域において成形加工を施すと、転位の回復を伴いながら成形加工されるため、温間成形中の延性低下はほとんど生じない。そして、温間成形後に室温まで冷却しても組織変化が生じないことから、鋼板の金属組織は実質的にフェライト単相のままに維持され、優れた延性を示すことになる。
フェライトの平均結晶粒径が1μm未満であると、温間成形時に結晶粒が成長しやすいため、温間成形後のプレス成形品の材質が、温間成形前と大きく相違したものとなり、材質安定性が低下する。従って、フェライトの平均結晶粒径は、1μm以上とすることが好ましい。
一方、フェライトの平均結晶粒径が15μmを超えて過剰に大きくなると、組織の細粒化による強化が得られず、所望の鋼板強度を確保することが難しくなる。このため、フェライトの平均結晶粒径は15μm以下とすることが好ましい。より好ましくは12μm以下である。
上記したフェライト単相の組織では、十分に高い引張強さや降伏比の鋼板とすることは困難である。この点、フェライト結晶粒中に、平均粒子径が10nm以下の微細な炭化物を析出させてやれば、鋼板の高強度化を図ることができる。ここで、炭化物の平均粒子径が10nmを超えると、上記した高い引張強さや降伏比を得ることが困難となる。なお、より好ましい炭化物の平均粒子径は7nm以下である。
本発明の温間プレス成形方法に用いて好適な鋼板は、鋼素材を加熱後、粗圧延と仕上圧延からなる熱間圧延を施し、圧延後、コイル状に巻取り、熱延鋼板とする。
なお、鋼素材の製造方法は、とくに限定する必要はないが、上記した組成を有する溶鋼を、転炉や電気炉等の公知の溶製方法で溶製し、あるいはさらに真空脱ガス炉にて二次精錬を行ったのち、連続鋳造法等の公知の鋳造方法で、スラブ等の鋼素材に鋳造することが好ましい。なお、生産性や品質上の観点から、連続鋳造法で行うことが好ましい。
鋼素材の加熱温度:1100〜1350℃
鋼素材の加熱温度が1100℃未満では、粗大な炭化物が溶解しないため、最終的に得られる鋼板中に分散析出する微細な炭化物量が減少し、所望の高強度を確保することが難しくなる。一方、鋼素材の加熱温度が1350℃を超えると、酸化が著しくなって、熱間圧延時に酸化スケールを噛み込み、鋼板の表面性状を悪化させ、これによって鋼板の温間成形性が低下する。このため、鋼素材の加熱温度は1100〜1350℃の範囲にすることが好ましい。なお、より好ましくは1150〜1300℃の範囲である。
仕上圧延終了温度が840℃未満では、フェライト粒が伸展された組織となるうえ、個々のフェライト粒径が大きく異なる混粒組織となり、鋼板強度が著しく低下する。また、仕上圧延終了温度が840℃未満では、圧延中に鋼板内に蓄積される歪エネルギーが過剰となり、フェライトの平均結晶粒径が1μm以上となる組織を得ることが困難となる。このため、仕上圧延終了温度は840℃以上とすることが好ましい。なお、より好ましくは860℃以上である。
上記の熱間圧延終了後、得られた熱延鋼板を強制冷却する。この熱間圧延終了後から強制冷却開始までの時間が3秒を超えると、炭化物の歪誘起析出が多量に発生し、所望の微細な炭化物の析出を確保することが困難となる。このため、熱間圧延終了後から強制冷却開始までの時間は3秒以内とすることが好ましい。なお、より好ましくは2秒以内である。
冷却開始から冷却停止までの平均冷却速度が30℃/秒未満では、高温に維持される時間が長く、歪誘起析出による炭化物の粗大化が進行し易くなる。このため、上記した熱間圧延後の強制冷却を、平均冷却速度:30℃/秒以上として、所定の温度まで急冷することが好ましい。より好ましくは50℃/秒以上である。
なお、冷却停止温度は、冷却停止から巻き取りまでの間の鋼板の温度低下を考慮して、巻取温度が狙いの温度範囲となるように設定する。すなわち、冷却停止後、鋼板は空冷により温度低下するので、通常は巻取温度+5〜10℃程度の温度に冷却停止温度を設定する。
巻取温度が500℃未満では、鋼板中に析出する炭化物が不足し、所望の鋼板強度を確保することが困難となる。一方、巻取温度が700℃を超えると、析出した炭化物が粗大化するため、所望の鋼板強度を確保することが困難となる。このため、巻取温度は500〜700℃の範囲とすることが好ましい。なお、より好ましくは550〜680℃の範囲である。
ここに、その好適な鋼板の機械的特性は、次の通りである。
(a)室温における引張強さ:780MPa以上であり、かつ室温における降伏比:0.85以上
(b)温間成形温度域である400〜700℃での降伏応力YS2:室温における降伏応力YS1の80%以下
(c)温間成形温度域である400〜700℃での全伸びEl2:室温における全伸びEl1の1.1倍以上
以下、これらの各特性について説明する。
本発明の温間プレス成形方法は、室温における引張強さが440MPa以上の鋼板を対象とするが、前記の好適な製造方法によれば、TS1が780MPa以上であり、かつ室温における降伏比が0.85以上の鋼板を得ることができる。
ここに、TS1とは、室温における引張強さを意味し、また室温とは、(22±5)℃を意味する。
温間成形温度域である400〜700℃での降伏応力YS2が、室温における降伏応力YS1の80%超では、温間成形時の鋼板変形抵抗が十分に低減しないため、温間成形時の負荷荷重(プレス荷重)を大きくする必要が生じ、金型寿命が短くなる。加えて、大きな負荷荷重(プレス荷重)を付与するために、加工機(プレス機)本体も必然的に大きくならざるを得ない。加工機(プレス機)本体が大きくなると、温間成形温度に加熱した鋼板を加工機まで搬送するのに長時間を要し、ブランクの温度の低下を招き、所望の温度で温間成形することが難しくなる。さらに、形状凍結性も十分に改善されないため、温間成形を利用する効果が小さくなる。
従って、温間成形温度域である400〜700℃での降伏応力YS2は、室温における降伏応力YS1の80%以下とすることが好ましい。より好ましくは70%以下である。
温間成形温度域である400〜700℃での全伸びEl2が、室温における全伸びEl1の1.1倍以上であると、温間成形時における加工性が十分に改善されるので、割れ等の欠陥が生じることなく、鋼板を複雑な形状の部材に成形しやすくなる。
従って、温間成形温度域である400〜700℃での全伸びEl2は、室温における全伸びEl1の1.1倍以上とすることが好ましい。より好ましくは1.2倍以上である。
室温におけるプレス成形品の降伏応力YS3および全伸びEl3が、それぞれプレス成形前の鋼板の室温における降伏応力YS1および全伸びEl1の80%未満であると、温間成形後の部材の強度および全伸びが不足する。このような鋼板を使用して、温間プレス成形によって所望形状の自動車部材とすると、自動車衝突時の衝撃吸収性能が不足するので、自動車部材としての信頼性が損なわれる。
このことから、室温におけるプレス成形品の降伏応力YS3および全伸びEl3は、それぞれプレス成形前の鋼板の室温における降伏応力YS1および全伸びEl1の80%以上とすることが好ましい。より好ましくは90%以上である。
板厚1.6mm、引張強度980MPa級の鋼板を、700℃に加熱した後、表1に示すような種々の金型およびしわ押さえを用いたドロー成形により、図7に示す自動車骨格部品の一つであるルーフレールパネルに成形した。また、一部については、しわ押さえを用いないフォーム成形により、同様のパネルに成形した。なお、成形したパネルの長さLは、いずれも450mmである。また、図8に、ここで用いた金型およびしわ押さえに設けた溝の形状の一例を示す。
なお、ここでは、形状変化量aが1.00mm以内であれば寸法精度が良好であり、形状凍結性に優れると言える。より好ましくは0.50mm以内である。
また、ポンチ金型、ダイ金型およびしわ押さえのいずれにも溝を設けなかった従来例No.13では、形状変化量aが4.00mmと十分な寸法精度は得られなかった。
表2に示す成分組成を有する溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法で鋳造しスラブ(鋼素材)とした。これらスラブ(鋼素材)を、表3に示す加熱温度に加熱し、均熱保持して、粗圧延したのち、表3に示す熱間圧延条件で、仕上圧延し、冷却し、コイル状に巻取り、熱延鋼板(板厚:1.6mm)とした。なお、鋼板a,i,k,mは、連続溶融亜鉛めっきラインにて700℃に加熱後、液温:460℃の溶融亜鉛めっき浴に浸漬して、表面に溶融亜鉛めっき層を形成したのち、該めっき層に530℃で合金化処理を施し、合金化溶融亜鉛めっき層を形成した。なお、めっき付着量は、45g/m2とした。
(1)組織観察
得られた熱延鋼板から組織観察用試験片を採取し、圧延方向に平行な断面(L断面)を研磨し、腐食(腐食液:5%ナイタール液)して、走査型電子顕微鏡(倍率:400倍)を用いて、板厚中心部を観察し、各10視野撮像した。得られた組織写真について、画像解析を行い、組織の同定、および各相の組織分率、各相の平均結晶粒径の測定を行った。
また、得られた熱延鋼板の板厚中央部から透過型電子顕微鏡観察用試験片を採取し、機械研磨および化学研磨により、観察用薄膜とした。得られた薄膜について、透過型電子顕微鏡(倍率:120000倍)を用いて、析出物(炭化物)の観察を行った。100個以上の炭化物について、粒子径を測定し、それらの算術平均値を、各鋼板における炭化物の平均粒子径とした。なお、測定に当たっては、1μmより大きな粗大なセメンタイトや窒化物は除外した。
得られた熱延鋼板から、JIS Z 2201(1998)に準拠して、圧延方向と垂直方向が引張方向となるようにJIS 13 B号引張試験片を採取した。この採取した試験片を用いて、JIS G 0567(1998)に準拠して引張試験を行い、室温(22±5℃)における機械的特性(降伏応力YS1、引張強さTS1、全伸びEl1)、および表4に示す各温度における高温での機械的特性(降伏応力YS2、引張強さTS2、全伸びEl2)を測定した。なお、引張試験はいずれも、クロスヘッドスピード:10mm/minで行った。また、高温での機械的特性を測定する試験では、電気炉を用いて試験片を加熱し、試験片温度が試験温度の±3℃以内に安定して得られるようになったのち、15min保持し、引張試験を行った。
これら(1)〜(3)の試験結果を表3および表4に示す。
・ポンチ金型
溝を形成する領域:肩部
溝の面積率:30%
溝の本数:45本
溝の幅:3.0mm
・ダイ金型
溝を形成する領域:肩部、しわ押さえ部
溝の面積率:30%
溝の本数:45本
溝の幅:3.0mm
・しわ押さえ(フォーム成形の場合には使用せず)
溝の面積率:30%
溝の本数:45本
溝の幅:3.0mm
・共通
溝の深さ:0.50mm
溝の形状:成形方向に30°傾斜
ここで、成形したパネルの長さLは、いずれも450mmである。なお、表5に示した以外の条件は、実施例1の場合と同様である。
得られた結果を表5に併記する。
また、成分組成および組織が好適な鋼板を使用した発明例No.1〜6,13〜20,24,25はいずれも、780MPa以上という高強度鋼板を用いているにもかかわらず、成形後のプレス成形品において良好な寸法精度が得られ、しかもプレス成形前の鋼板の引張強さTS1に対するプレス成形品の引張強さTS3の割合(TS3/TS1×100)が、従来の熱間プレス成形では、110%を大幅に超えて、プレス後のパネルの引張強度が極端に大きくなり、その後の加工に支障をきたしていたのに比べて、本発明では99〜104%となる等、その機械的特性も極めて良好であった。
2 ポンチ
3 しわ押さえ
4 加熱した鋼板(ブランク)
5 プレス成形品(パネル)
6 フランジ部
7 側壁部
8 基準となるパネル(プレス成形直後に金型から外した時点のパネル)
9 空冷後のパネル
10 成形下死点でのパネル
11 ポンチ金型の肩部
12 ダイ金型の肩部
13 溝
Claims (14)
- 引張強さが440MPa以上である鋼板を、フランジ部をそなえるプレス成形品に成形するに当たり、
該鋼板を400〜700℃の温度域に加熱したのち、ポンチおよびダイをそなえ、必要に応じてしわ押さえを有するプレス機を用いて成形するものとし、その際、ポンチ金型、ダイ金型およびしわ押さえの少なくとも1つについて、該鋼板との接触部に該鋼板の温度低下を抑制するための溝を設けた金型またはしわ押さえを用い、
また、前記ダイ金型、前記ポンチ金型および前記しわ押さえの前記鋼板との接触部に設けた前記溝の面積率が、それぞれ20〜50%であることを特徴とする温間プレス成形方法。 - 前記溝を前記ポンチ金型および/または前記ダイ金型の肩部に設け、さらにこれらの溝の面積率がそれぞれ20〜50%であることを特徴とする請求項1に記載の温間プレス成形方法。
- 前記溝の深さが0.5mm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の温間プレス成形方法。
- 前記溝を成形方向に対して傾斜させたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
- 前記プレス成形品の引張強さが、プレス成形前の鋼板の引張強さの80%以上110%以下となることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
- 前記鋼板が、質量%で、
C:0.015〜0.16%、
Si:0.2%以下、
Mn:1.8%以下、
P:0.035%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.1%以下、
N:0.01%以下および
Ti:0.13〜0.25%
を下記(1)式の関係を満足する範囲で含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有すると共に、
組織全体に占めるフェライト相の割合が面積率で95%以上で、かつフェライトの平均結晶粒径が1μm以上で、該フェライト結晶粒中に、平均粒子径が10nm以下の炭化物を分散析出させた組織を有する、
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
記
2.00≧([%C]/12)/([%Ti]/48)≧1.05 …(1)
ここで、[%M]はM元素の含有量(質量%) - 前記鋼板が、さらに質量%で、
V:1.0%以下、
Mo:0.5%以下、
W:1.0%以下、
Nb:0.1%以下、
Zr:0.1%以下および
Hf:0.1%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、かつ下記(1)’式の関係を満足することを特徴とする請求項6に記載の温間プレス成形方法。
記
2.00≧([%C]/12)/([%Ti]/48+[%V]/51+[%W]/184+[%Mo]/96+[%Nb]/93+[%Zr]/91+[%Hf]/179)≧1.05 …(1)’
ここで、[%M]はM元素の含有量(質量%) - 前記鋼板が、さらに質量%で、B:0.003%以下を含有することを特徴とする請求項6または7に記載の温間プレス成形方法。
- 前記鋼板が、さらに質量%で、Mg:0.2%以下、Ca:0.2%以下、Y:0.2%以下およびREM:0.2%以下から選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
- 前記鋼板が、さらに質量%で、Sb:0.1%以下、Cu:0.5%以下およびSn:0.1%以下から選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
- 前記鋼板が、さらに質量%で、Ni:0.5%以下およびCr:0.5%以下から選んだ1種または2種を含有することを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
- 前記鋼板が、さらに質量%で、O,Se,Te,Po,As,Bi,Ge,Pb,Ga,In,Tl,Zn,Cd,Hg,Ag,Au,Pd,Pt,Co,Rh,Ir,Ru,Os,Tc,Re,Ta,BeおよびSrのうちから選んだ1種または2種以上を合計で2.0%以下含有することを特徴とする請求項6〜11のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
- 前記鋼板が、その表面にめっき層をそなえることを特徴とする請求項1〜12のいずれ
かに記載の温間プレス成形方法。 - 請求項1〜4のいずれかに記載の温間プレス成形方法で使用される成形金型。
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