JP5920246B2 - 温間プレス成形方法 - Google Patents
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Description
そのため、プレス成形性の改善及びスプリングバックを防止した形状凍結性向上を狙いとして、鋼板を所定の温度に加熱した後にプレス成形する、特許文献1などに記載される温間プレス成形方法が適用されている。温間プレス成形方法は冷間プレス成形方法よりも高い温度で鋼板を成形することによって、鋼板の変形抵抗を低下させて変形性能を向上させプレス割れなどの不具合を防止するとともに、形状凍結性を向上させる技術である。
また、温間・熱間プレス成形方法の他の例としては、例えば特許文献2、特許文献3及び4に開示されたものがあり、これらはプレス成形性を確保しつつ、プレスと同時にプレス成形品の一部分を急冷させて焼入をすることで強度を高めるというものである。
薄鋼板が適用される自動車用骨格部品などでは、部品の形状が複雑であるため、温間プレス成形後のプレス成形品に温度分布(温度差)が生じている場合には、複雑な応力状態が生じ、プレス成形後の空冷中にプレス成形品の形状が歪んでしまい、所望の寸法のプレス成形品が得られないという問題がしばしば発生していた。
しかしながら、上記のいずれの特許文献にもこのような温度分布に起因するプレス成形品の歪み改善を図る手段を講じたものはない。
図11は、一般的な鋼板の深絞り成形を行うプレス成形装置1の立断面を図示したものである。このプレス成形装置1は、図12(a)に示すようなハット断面を有する部品(ハット断面部品2)をプレス成形するものである。図11(a)はプレス成形開始前を説明する図であり、図11(b)は、プレス下死点を説明する図である。
このプレス成形装置1は、図11に示すように、凹部を有する上金型3(ダイス)と、前記凹部に挿入可能となっている凸部を有する下金型5(パンチ)と、前記凸部の両側に配置され、上金型3の肩部7とで被加工材料となる鋼板9を挟圧するしわ押え11と、しわ押え11に挟圧力を与えるクッションピン13とを備えている。
このプレス成形装置1を用いたプレス成形方法は、図11(a)に示すように、鋼板9を所定の温度に加熱したものを両方のしわ押え11に亘るように載置し、図11(b)に示すように、上金型3の肩部7としわ押え11とで鋼板9を挟圧しつつ、上金型3を下降させてハット断面部品2を成形するというものである。
図11(b)に示すように、上金型3の肩部7としわ押え11とで挟圧されている部分(図11(b)中の四角枠で囲んだ部分)は、ハット断面部品2においてフランジ部15となる部分である(図12参照)。
図13は、ハット断面部品2のフランジ部15とそれ以外の部分の平均温度差(℃)と、ハット断面部品2の成形直後に金型から外した時点と空冷後との形状の歪み量(mm)の関係を示したグラフである。図13において横軸は、フランジ部15の平均温度とフランジ部以外の部分の平均温度との差であり、差が大きいほど、ハット断面部品2のフランジと内部との温度差が大きいことを示す。また、縦軸は成形直後に金型から外した時点と空冷後との形状の歪み量を示す。なお、平均温度は、成形直後に金型から外した時点で、ほぼ同一の幅方向位置であって、フランジの長手方向に複数箇所、フランジ以外の部分の長手方向に複数箇所を放射温度計で測定して値を平均化した。
ここで形状の歪み量について、図14に基づいて説明する。図14において、太い実線はプレス下死点の形状を図示したものであり、細い実線は成形直後に金型から外した形状、点線は空冷後の形状を図示したものである。形状の歪み量は、ハット断面部品2の成形直後に金型から外した時点の形状と空冷後の形状とにおけるフランジ部15の高さの変化量として定義した(図14参照)。
ハット断面部品2のフランジと内部とに温度差があると、冷却される過程において、ハット断面部品2の各部位によって熱収縮量が異なる。すなわち、温度が高い部位は比較的大きく熱膨張しているため冷却過程で大きく収縮するが、逆に温度が低い部位はあまり熱膨張していないため冷却過程における収縮は比較的小さい。
このように熱収縮量が異なることは、冷却過程において部品全体が均一に収縮しないことを意味しており、特にハット断面部品2等のように形状が複雑である場合、形状による剛性の大小も影響して複雑な応力状態となり、その結果、ハット形状に歪みが発生してしまう。
上記のような形状の歪みは、温度差が大きいほど熱収縮量の差が大きくなるためより顕著になる。
従って、図13に示すように、温度差が大きくなるにしたがって形状の歪み量が大きくなると考えられる。
また、そのためにフランジ部15を成形する金型の部位を、鋼板9の成形開始時温度と300℃差以内になるように加熱しておくと形状の歪み量低減について高い効果が得られることを確認した。
本発明はかかる知見に基づくものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
プレス成形時に前記鋼板と接触する前記プレス成形金型における部位のうちの特定部位(金型特定部位)を加熱して前記鋼板をプレス成形するプレス成形工程を備えてなり、
前記金型特定部位は、400〜700℃の範囲で均一加熱した前記鋼板を室温のプレス成形金型でプレス成形したときの前記鋼板の温度分布を求め、前記温度分布に基づいて、前記鋼板の温度低下が予め定めた温度差以上となる前記鋼板の部位(鋼板特定部位)と接触する金型特定部位であることを特徴とするものである。
C:0.015〜0.16%、 Si:0.2%以下、
Mn:1.8%以下、 P:0.035%以下、
S:0.01%以下、 Al:0.1%以下、
N:0.01%以下、 Ti:0.13〜0.25%
を、下記(1)式を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、金属組織が面積率で95%以上のフェライト相からなり、かつフェライトの平均結晶粒径が1μm以上で、該フェライト結晶粒中に、平均粒子径が10nm以下の炭化物を分散析出させた組織を有することを特徴とするものである。
記
2.00≧(C/12)/(Ti/48+V/51+W/184+Mo/96+Nb/93+Zr/91+Hf/179)≧1.05…(1)
ここで、C、Ti、V、Mo、W、Nb、Zr、Hf:各元素の含有量(質量%)
またこの前提として、前記金型特定部位は、400〜700℃の範囲で均一加熱した前記鋼板を室温のプレス成形金型でプレス成形したときの前記鋼板の温度分布を求め、前記温度分布に基づいて、前記鋼板の温度低下が予め定めた温度差以上である前記鋼板の部位(鋼板特定部位)と接触する部位とした。
以上の手段を講じることにより、プレス成形後のプレス成形品の温度分布を所定の範囲以内とすることができる。これにより、プレス成形品がプレス成形後に室温まで冷却される過程において、熱収縮量の違いによるスプリングバックやねじれなどによる形状の歪みを防止することができ、寸法精度が良好な自動車用骨格部品を製造することができる。
その結果、従来は、寸法精度不良が原因で適用できなかった高強度鋼板を自動車用骨格部品に適用することができるようになり、車体の軽量化などの環境問題改善に大きく寄与することができる。
本発明の一実施の形態にかかる温間プレス成形方法は、鋼板9を400〜700℃の範囲で均一加熱してプレス成形金型を用いてプレス成形を行う温間プレス成形方法であって、図1に示すようなプレス成形装置21を用いて、プレス成形時に鋼板9と接触するプレス成形金型における部位のうちの特定部位(以下、これを「金型特定部位」という)を、加熱手段を用いて加熱して鋼板9をハット断面部品2にプレス成形するプレス成形工程を備えてなるものである。
金型特定部位の特定方法について図2を用いて説明する。図2は図11に示したプレス成形装置1と同一のプレス成形装置である。なお、図2において、図11と同一のものには同一の符号を付してある。
プレス成形装置1は、図2に示すように、凹部を有する上金型3(ダイス)と、前記凹部に挿入可能となっている凸部を有する下金型5(パンチ)と、前記凸部の両側に配置され、上金型3の肩部7とで被加工材料となる鋼板9を挟圧するしわ押え11と、しわ押え11に挟圧力を与えるクッションピン13とを備えている。図2(a)はプレス成形開始前を説明する図であり、図2(b)はプレス下死点を説明する図である。
鋼板9の部位によって金型と接触する時間が異なるため、鋼板9の温度は不均一な分布となる。なお、温度分布の求め方は、測定による方法でもよいし、あるいは数値解析による方法でもよい。測定による場合は、サーモビューワー等の放射温度計等を用いるとよい。
なお、鋼板特定部位は、前記鋼板9の温度分布における温度低下の最も少ない部位を基準として、当該部位との温度差が100℃以上ある部位としてもよい。
本実施の形態にかかるプレス成形装置21は、図2に示すプレス成形装置1の上金型3の肩部7及びしわ押え11(金型特定部位)に、加熱手段としてカートリッジヒーター23を埋め込んだものである。なお、加熱手段を有する点以外の構成は図2に示したものと同一であるため、図1においては同一の符号を付しており、また、これらの詳細な説明についても省略する。
上記のプレス成形方法は絞り成形であったが、フォーム成形にも本発明は適用できる。本発明にかかる実施の形態2の説明をする前に、まず一般的なフォーム成形について、図3に基づいて説明する。図3は、一般的なフォーム成形を行うプレス成形装置31の立断面図である。図3(a)はプレス成形開始前を説明する図であり、図3(b)はプレス下死点を説明する図である。
実験は、板厚1.6mm、引張強度980MPa級の鋼板9を用いて、温度700℃に鋼板9を加熱した後、絞り成形とフォーム成形を行った。図4は、プレス成形前後の鋼板9とハット断面部品2との平均温度の差を比較したものである。図4を見ると、絞り成形の場合は約170℃低下していたが、フォーム成形の場合は約35℃程度の低下であった。これは、フォーム成形の場合、プレス成形によって比較的温度低下しないことを意味している。これは、フォーム成形の場合、絞り成形の場合(図2参照)と異なり、図3に示すように、しわ押えが不要であることから鋼板9と接触する金型の面積が少なく、接触による熱移動が小さいためであると考えられる。従って、フォーム成形の場合、金型特定部位を加熱する際に必要な熱量は、絞り成形の場合と比較して少なくて済む。
次に、この求めた温度分布に基づいて、鋼板9の鋼板特定部位を特定する。本実施の形態において鋼板特定部位は、フランジ部15と縦壁部とをつなぐ部位、縦壁部、及びパンチ底部と縦壁部とをつなぐ部位が該当した。
そこで、本発明実施の形態において、金型特定部位として、下金型の凸部の凸R部37と上金型の凹部の内側の肩R部39を特定した。
次に、上記のプレス成形装置21によって温間プレス成形するのに好適で温間プレス成形性に優れた高強度熱延鋼板について説明する。
なお、ここでいう「温間プレス成形性に優れた」とは、400℃以上700℃以下の温間プレス成形温度域において厳しい加工条件にも対応可能な極めて良好な延性を有し、温間プレス成形の前後で機械的特性の変化が小さい場合をいうものとする。
本発明の温間プレス成形用高強度熱延鋼板は、室温における降伏比が0.85以上かつ引張強さTS1が440MPa以上で、400〜700℃の温間プレス成形温度域における降伏応力(温間降伏応力)YS2が、室温における降伏応力(降伏強さ)YS1の80%以下、全伸びEl2が、室温における全伸びEl1の1.1倍以上である引張特性を有する。
このような引張特性を有する高強度熱延鋼板は、本発明者らの検討によれば、400〜700℃の温間プレス成形温度域において変形抵抗が低下するとともに延性が上昇し、温間プレス成形温度域での優れた加工性(温間プレス成形性)を示し、温間プレス成形温度域において、鋼板を複雑な形状の部材に成形することが可能となる。上記した引張特性を具備しない鋼板は、温間プレス成形温度域において、スプリングバックの影響が顕著となり所望の形状凍結性が得られなかったり、割れが生じたりする等の不具合が生じるため、鋼板を複雑な形状の部材に成形することが難しい。
上記したような引張特性を鋼板に付与するために、本発明では、鋼板組成を、質量%で、C:0.015〜0.16%、Si:0.2%以下、Mn:1.8%以下、P:0.035%以下、S:0.01%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下、Ti:0.13〜0.25%を、次(1)式
2.00≧(C/12)/(Ti/48+V/51+W/184+Mo/96+Nb/93+Zr/91+Hf/179)≧1.05…(1)
(ここで、C、Ti、V、Mo、W、Nb、Zr、Hf:各元素の含有量(質量%))
を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成に限定した。
C:0.015〜0.16%
Cは、Ti、或いは更にV、Mo、W、Nb、Zr、Hfと結合して炭化物を形成し、マトリックス中に微細分散して、鋼板を高強度化する、本発明では重要な元素である。引張強さTS:440MPa以上の高強度を達成するためには、Cは、少なくとも0.015%以上含有する必要がある。一方、0.16%を超えて多量に含有すると、延性、靱性が著しく低下し、良好な衝撃吸収能(例えば引張強さTS×全伸びElで表される)を確保できなくなる。このため、Cは0.015〜0.16%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.04〜0.14%である。
Siは、固溶強化元素である。固溶強化は、高温域での強度低下を抑制るため、温間プレス成形温度域での加工性(温間プレス成形性)向上を阻害する。このため、本発明ではできるだけ低減することが好ましいが、0.2%までは許容できる。このようなことから、Siは0.2%以下に限定した。なお、好ましくは0.06%以下である。なお、Siは不純物レベルまで低減してもよい。
Mnは、Siと同様、固溶強化元素であり、高温域での強度低下を抑制して、温間プレス成形温度域での加工性(温間プレス成形性)向上を阻害する。このため、本発明ではできるだけ低減することが好ましいが、1.8%までは許容できる。このようなことから、Mnは1.8%以下に限定した。なお、好ましくは1.1%以下である。また、Mn含有量が極端に少なくなると、オーステナイト(γ)→フェライト(α)変態点が過度に上昇して、炭化物が粗大化することが懸念されるため、Mnは0.5%以上とすることがより好ましい。
Pは、固溶強化能が非常に高く、高温域での強度低下を抑制し、温間プレス成形温度域での加工性向上を阻害する元素である。さらに、Pは,粒界に偏析するため、温間プレス成形時ならびに温間プレス成形後の延性を低下させる。このようなことから、Pは極力低減することが好ましいが、0.035%までは許容できる。このため、Pは0.035%以下に限定した。なお、好ましくは0.02%以下である。
Sは、鋼中では介在物として存在する元素であり、Tiと結合して強度を低下させたり、Mnと結合して硫化物を形成し、常温や温間での鋼板の延性を低下させる。このため、Sは極力低減することが好ましいが、0.01%までは許容できる。このため、Sは0.01%以下に限定した。なお、好ましくは0.004%以下である。
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を得るためには0.02%以上含有することが望ましい。一方、0.1%を超えて含有すると、酸化物系介在物が増加し、温間での延性低下が著しくなる。このため、Alは0.1%以下に限定した。なお、好ましくは0.07%以下である。
Nは、製鋼の段階でTiやNb等と結合し、粗大な窒化物を形成するため、多量の含有は、鋼板強度が著しく低下させる。このようなことから、Nは極力低減することが好ましいが、0.01%までは許容でき、Nは0.01%以下に限定した。なお、好ましくは0.007%以下である。
Tiは、Cと結合して炭化物を形成し、鋼板の強化に寄与する元素である。室温での引張強さ440MPa以上を確保するためには、0.13%以上の含有を必要とする。一方、0.25%を超える含有は、鋼素材の加熱に際し、粗大なTiCが残存して、ミクロボイドを生成する。このため、Tiは0.25%以下に限定した。なお、好ましくは0.22%以下である。また、より好ましくは0.15%以上である。
2.00≧(C/12)/(Ti/48+V/51+W/184+Mo/96+Nb/93+Zr/91+Hf/179)≧1.05…(1)
(ここで、C、Ti、V、Mo、W、Nb、Zr、Hf:各元素の含有量(質量%))
なお、(1)式に記載された元素が含有されない場合には、(1)式の中央値における当該元素の含有量を零として、(1)式の適否を計算するものとする。
また、Nb、ZrおよびHfは、それぞれ0.1%を超えて含有すると、スラブ再加熱時に、粗大な炭化物が溶解しきれず残存する。このため、温間プレス成形中にミクロボイドが生成しやすくなる。このようなことから、Nb、ZrおよびHfはそれぞれ0.1%以下に限定することが好ましい。
Bは、γ→α変態の核生成を阻害して、変態点を低下させる作用を有し、炭化物の微細化に寄与する元素であり、必要に応じて選択して含有できる。このような効果を得るには、0.0002%以上の含有することが望ましい。一方、0.003%を超えて含有しても、効果が飽和し経済的に不利となる。そのため、Bは0.003%以下に限定することが好ましい。より好ましくは0.002%以下である。
Mg、Ca、Y、REMはいずれも、介在物を微細化する作用を有し、温間プレス成形中での介在物と母材近傍での応力集中を抑制して、延性を向上させる効果を有し、必要に応じて選択して含有できる。なお、REMは、Rare Earth Metalの略でランタノイド系の元素を指す。
Ni、Crはいずれも、高強度化に寄与する元素であり必要に応じて選択して含有できる。
Niは、オーステナイト安定化元素であり、高温でのフェライトの生成を抑制し、鋼板の高強度化に寄与する。また、Crは、焼入性向上元素であり、Niと同様高温でのフェライトの生成を抑制し、鋼板の高強度化に寄与する。このような効果を得るには、Ni、Crはそれぞれ0.01%以上含有することが望ましい。一方、Ni:0.5%、Cr:0.5%を超える、過度の含有は、マルテンサイト相やベイナイト相等の低温変態相の発生を誘起する。マルテンサイト相やベイナイト相といった低温変態相は加熱中に回復が生じるため、温間プレス成形後に強度が低下する。このため、Ni、Crはそれぞれ0.5%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.3%以下である。
これら元素は、合計で2.0%以下であれば、素材強度や温間プレス成形性に影響をおよぼさない範囲で、許容できる。
さらに、上記したような引張特性を鋼板に付与するために、本発明では、上記した組成に加えて、鋼板の金属組織を、マトリックスがフェライト相単相で、かつフェライトの平均結晶粒径が1μm以上で、該フェライト結晶粒中に、平均粒子径が10nm以下の炭化物を分散析出させた組織に限定する。
本発明では、鋼板の金属組織は、フェライト単相とする。ここでいう「フェライト単相」は、フェライト相100%の場合に加えて、面積率で95%以上、好ましくは95%超の、実質的に単相である場合まで含むものとする。
金属組織をフェライト単相にすることにより、優れた延性を保持でき、さらに熱による材質変化を抑制できる。硬質相であるベイナイト相やマルテンサイト相が混在すると、加熱により硬質相内に導入される転位が回復し軟化するため、温間プレス成形後に鋼板強度を維持できなくなる。このため、パーライト、ベイナイト相、マルテンサイト相を含まない方がよいが、このような硬質相、さらには残留オーステナイト相は、組織全体に対する面積率で5%未満であれば、許容できる。
上記した組成の組織を有する鋼板では、加熱されることに伴い、延性が増加し、温間プレス成形温度域における全伸びEl2を室温における全伸びEl1の1.1倍以上を確保できる。
また、上記した組成を有する鋼板では、温間プレス成形温度域において成形加工を施すと、転位の回復を伴いながら成形加工されるため、温間プレス成形中の延性低下は殆ど生じない。そして、温間プレス成形後に室温まで冷却しても組織変化が生じないことから、鋼板の金属組織は実質的にフェライト単相のままに維持され、優れた延性を示すことになる。温間プレス成形時および温間プレス成形後の鋼板がマルテンサイト相、ベイナイト相等の硬質相を含むと、所望の延性(全伸び)を得ることが困難となる。
フェライトの平均結晶粒径が1μm未満であると、温間プレス成形時に結晶粒が成長し易くなり、温間プレス成形後の鋼板の材質が、温間プレス成形前と大きく相違したものとなり、材質安定性が低下する。しかも、フェライトの平均結晶粒径が15μmを超えて過剰に大きくなると、細粒化強化量の低下により、所望の鋼板強度を確保することが難しくなる。このため、フェライトの平均結晶粒径は15μm以下とすることが好ましい。なお、より好ましくは1〜12μmの範囲である。
しかし、実質的にフェライト相のみの組織では、所望の鋼板特性(降伏比:0.85以上、引張強さ:440MPa以上)を確保することは困難である。そこで、本発明では、フェライト結晶粒中に、平均粒子径が10nm以下の微細な炭化物を析出させて、鋼板の高強度化を図る。ここで、炭化物の平均粒子径が10nmを超えると、鋼板に所望の鋼板特性を得ることができない。なお、好ましくは7nm以下である。
本実施例においては、板厚1.6mm、引張強度980MPa級の鋼板9を用いて、温度700℃にて鋼板9を加熱した後、図6(a)に示すような、上方からみて湾曲した形状のハット断面部品43を、図6(b)に示す下金型45(パンチ)を用いてプレス成形(深絞り成形)する実験を行った。鋼板9は、電気炉を用いて在炉時間を300秒に設定し、鋼板9全体が均一な温度分布になるように加熱した。加熱された鋼板9を炉から取り出し、10秒の搬送時間の後にプレス機内に送給して成形を実施した。プレス成形機は一般的なメカニカルプレス機を使用しプレス速度は15spm(strokes per minute)とした。
温度分布を確認すると、図6に示すハット断面部品43の中で、パンチ底部47とフランジ部49との温度差が大きく生じていることがわかった。そこでフランジ部49を鋼板特定部位とし、金型特定部位をしわ押えと上金型の肩部とした。
このときのフランジ部49の平均温度とそれ以外の部分の平均温度の差を図7に示す。図7のグラフから分かる通り、金型特定部位の加熱温度が高いほど平均温度の差が小さくなる。これは、ハット断面部品43内の温度分布を均一にするために、金型特定部位の加熱の効果があることを意味している。なお、金型特定部位を加熱しない場合は図7において金型特定部位の温度を20℃として示した。
すると、図8に示す通り、ハット断面部品の中央部の断面(図中の破線)に対して端部の断面(図中の実線)にねじれが発生した。ねじれ具合の比較のために、加熱温度毎のねじれ角度を測定してグラフ化したものを図9に示す。なお、このねじれ角度は、プレス成形直後に金型から外した時点を基準として、空冷後におけるねじれ角度を測定した値である。図9において、横軸は金型特定部位の加熱温度を示し、縦軸は、中央部の断面に対する端部の断面のねじれ角度を表す。図9を見ると、加熱温度が高いほど、ねじれ角度は小さくなっており、加熱温度600℃ではねじれ角度が約0.2°以内と良好な寸法精度が得られた。
そこで、金型特定部位の加熱温度毎に形状の歪み量を測定した。その結果を表1に示す。表1に示す通り、加熱なしの金型の場合は形状の歪み量が4.2mmであったのに対し、金型特定部位を100℃〔Δ600℃〕に加熱した金型で2.1mm、400℃〔Δ300℃〕に加熱した金型で0.2mmと著しく低減しており、フランジ部49の形状の歪み量を低減する効果があることも確認した。
また、上記実施例ではプレス成形機の種類はメカニカルプレス機としたが、本発明はプレス成形機の種類によらず同じ効果を発揮するものである。
表2に示す化学組成を有する溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法で鋳造しスラブ(鋼素材)とした。これらスラブ(鋼素材)を、表3に示す加熱温度に加熱し均熱保持して、粗圧延したのち、表3に示す熱延条件で、仕上圧延し、冷却し、コイル状に巻取り、熱延鋼板(板厚1.6mm)とした。なお、鋼板No.1、No.9、No.11、No.13は、連続溶融亜鉛めっきラインにて700℃に加熱後、液温:460℃の溶融亜鉛めっき浴に浸漬して、表面に溶融亜鉛めっき層を形成したのち、該めっき層に530℃で合金化処理を施し、合金化溶融亜鉛めっき層を形成した。なお、めっき付着量は、45g/m2とした。
(1)組織観察
得られた熱延鋼板から組織観察用試験片を採取し、圧延方向に平行な断面(L断面)を研磨し、腐食(腐食液:5%ナイタール液)して走査型電子顕微鏡(倍率:400倍)を用いて、板厚中心部を観察し、各10視野撮像した。得られた組織写真について、画像解析を行い、組織の同定、および各相の組織分率、各相の平均結晶粒径の測定を行った。
得られた鋼板の板厚中央部から透過型電子顕微鏡観察用試験片を採取し、機械研磨、化学研磨により、観察用薄膜とした。得られた薄膜について、透過型電子顕微鏡(倍率:120000倍)を用いて、析出物(炭化物)の観察を行った。100個以上の炭化物について、粒子径を測定し、それらの算術平均値を、各鋼板の炭化物平均粒径とした。なお、測定に当たっては、1μmより大きな粗大なセメンタイトや窒化物は除外した。
得られた熱延鋼板から、JIS Z 2201(1998)に準拠して、圧延方向と垂直方向が引張方向となるようにJIS 13 B号引張試験片を採取し、JIS G 0567(1998)に準拠して引張試験を行い、室温(22±5℃)における引張特性(降伏応力YS1、引張強さTS1、全伸びEl1)、および400〜800℃の温度域の各加熱温度における高温引張特性(降伏応力YS2、引張強さTS2、全伸びEl2)を測定した。なお、引張試験はいずれも、クロスヘッドスピード:10mm/minで行った。また、高温での引張特性を測定する試験では、電気炉を用いて試験片を加熱し、試験片温度が試験温度の±3℃以内に安定して得られるようになったのち、15min保持し、引張試験を行った。
(4)温間成形温度域における穴拡げ試験
穴拡げ試験は、日本鉄鋼連盟規格(T1001-1996)に準拠して行った。
得られた熱延鋼板から、穴拡げ試験片(大きさ:100W×100L mm)を採取し、試験片の中央に、クリアランスを12%として、直径10mmの穴を打抜加工で導入した。
穴拡げ率(%)=(試験後穴径-試験前穴径(=10mm))/(試験前穴径)×100で算出される穴拡げ率が80%になるまで、試験片の穴を押し拡げた。
穴拡げ試験後、各試験片について、穴縁端面の亀裂貫通の有無を確認した。また、試験後、試験片の一部を切り出し、断面の板厚中央部についてビッカース硬さ試験を行い、硬さを測定した。なお、測定点は5点とした。また、ビッカース硬さ試験の試験荷重は1kgf(9.8N)とした。
得られた結果を表4、表5に示す。
このように、本発明に係る高強度熱延鋼板は、温間プレス成形性に優れ、温間プレス成形に好適であり、それ故に、実施の形態1、2のプレス成形方法及び装置による成形を行うことで、実施の形態1,2のプレス成形方法及び装置における熱収縮量の違いによるスプリングバック防止効果との相乗効果によって、寸法精度に優れた温間プレス成形を実現できる。
2 ハット断面部品
3 上金型
5 下金型
7 肩部
9 鋼板
11 しわ押え
13 クッションピン
15 フランジ部
21 プレス成形装置
23 カートリッジヒーター
31 プレス成形装置
33 上金型
35 下金型
37 凸R部
39 肩R部
41 プレス成形装置
43 ハット断面部品
45 下金型
47 パンチ底部
49 フランジ部
50 断熱材
Claims (13)
- 鋼板を400〜700℃の範囲で均一加熱してプレス成形金型を用いてプレス成形を行う温間プレス成形方法であって、
プレス成形時に前記鋼板と接触する前記プレス成形金型における部位のうちの特定部位(金型特定部位)を加熱して前記鋼板をプレス成形するプレス成形工程を備えてなり、
前記金型特定部位は、400〜700℃の範囲で均一加熱した前記鋼板を室温のプレス成形金型でプレス成形したときの前記鋼板の温度分布を求め、前記温度分布に基づいて、前記鋼板の温度低下が予め定めた温度差以上となる前記鋼板の部位(鋼板特定部位)と接触する金型特定部位であり、
該鋼板特定部位は、前記温度分布における温度低下の最も少ない鋼板部位を基準として、当該部位との温度差が100℃以上ある部位であることを特徴とする温間プレス成形方法。 - 前記金型特定部位の加熱は、前記鋼板の均一加熱温度と前記金型特定部位との温度差を所定値以内とするように行うことを特徴とする請求項1記載の温間プレス成形方法。
- 前記鋼板の均一加熱温度と前記金型特定部位の温度差を300℃以内に設定することを特徴とする請求項2記載の温間プレス成形方法。
- 前記温度分布は、測定又は数値解析によって得ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の温間プレス成形方法。
- 前記鋼板は、室温における引張強さTSが440MPa以上で、降伏比が0.85以上である引張特性を有する高強度熱延鋼板であって、該高強度熱延鋼板を、400〜700℃の温間プレス成形温度域の温度に加熱し該温間プレス成形温度域の温度で引張試験を行った際の、降伏応力YS2が、室温における降伏応力YS1の80%以下で、かつ全伸びEl2が、室温における全伸びEl1の1.1倍以上であり、さらに、前記温間プレス成形温度域の温度で15%以下の歪を付与する温間加工を施し室温まで冷却したのち、室温で引張試験を行った際の、降伏応力YS3が、室温における降伏応力YS1の80%以上で、かつ全伸びEl3が、室温における全伸びEl1の80%以上であり、温間プレス成形性に優れることを特徴とする請求項1乃至4に記載の温間プレス成形方法。
- 前記鋼板が、質量%で、
C:0.015〜0.16%、 Si:0.2%以下、
Mn:1.8%以下、 P:0.035%以下、
S:0.01%以下、 Al:0.1%以下、
N:0.01%以下、 Ti:0.13〜0.25%
を、下記(1)式を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、金属組織が面積率で95%以上のフェライト相からなり、かつフェライトの平均結晶粒径が1μm以上で、該フェライト結晶粒中に、平均粒子径が10nm以下の炭化物を分散析出させた組織を有することを特徴とする請求項5に記載の温間プレス成形方法。
記
2.00≧(C/12)/(Ti/48+V/51+W/184+Mo/96+Nb/93+Zr/91+Hf/179)≧1.05…(1)
ここで、C、Ti、V、Mo、W、Nb、Zr、Hf:各元素の含有量(質量%) - 前記鋼板が、前記組成に加えてさらに、質量%で、V:1.0%以下、Mo:0.5%以下、W:1.0%以下、Nb:0.1%以下、Zr:0.1%以下、Hf:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項6に記載の温間プレス成形方法。
- 前記鋼板が、前記組成に加えてさらに、質量%で、B:0.003%以下を含有することを特徴とする請求項6または7に記載の温間プレス成形方法。
- 前記鋼板が、前記組成に加えてさらに、質量%で、Mg:0.2%以下、Ca:0.2%以下、Y:0.2%以下、REM:0.2%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の温間プレス成形方法
- 前記鋼板が、前記組成に加えてさらに、質量%で、Sb:0.1%以下、Cu:0.5%以下、Sn:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の温間プレス成形方法。
- 前記鋼板が、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ni:0.5%以下、Cr:0.5%以下を含むことを特徴とする請求項6〜10のいずれか一項に記載の温間プレス成形方法。
- 前記鋼板が、前記組成に加えてさらに、質量%で、O、Se、Te、Po、As、Bi、Ge、Pb、Ga、In、Tl、Zn、Cd、Hg、Ag、Au、Pd、Pt、Co、Rh、Ir、Ru、Os、Tc、Re、Ta、Be、Srのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で2.0%以下含有することを特徴とする請求項6〜11のいずれか一項に記載の温間プレス成形方法。
- 前記鋼板が、表面にめっき層を具えることを特徴とする請求項6〜12のいずれか一項に記載の温間プレス成形方法。
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