JP4604323B2 - ブレーキマスタシリンダ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両のブレーキ装置に使用されるマスタシリンダすなわちブレーキマスタシリンダに関する。
【0002】
【従来の技術】
後端にて開口するハウジングと、前端にて開口した内孔を有するとともにハウジングに嵌挿されたピストンと、ハウジングとピストンとの間に介装されたシールカップと、ハウジングとピストンとピストンシールカップとによって形成される圧力室と、ピストンの外径部と内孔とを連通するピストンポートと、ピストンの内孔に配設されたばねと、ばねが内孔内に配設される際の取付け長さを所定値に保つとともに内孔内に配設されたばね取付け高さセット機構とを備えたブレーキマスタシリンダが既に知られており、例えば特開平10−310047号公報に記載されている。
【0003】
上記公報に記載されたブレーキマスタシリンダにおいては、ばね保持スリーブとロッドとによってばね取付け高さセット機構が構成され、ブレーキマスタシリンダを傾斜させて車体に取り付けることによって、ピストンの内孔内のエア抜きが行われている。さらに、ピストンの内孔内をばね保持スリーブが移動することによるピストンの内孔内の容積変化によって、ピストンの内孔内のエア抜きが行われている。すなわち、ばね保持スリーブによって押し出されたブレーキ液中のエアが、圧力室およびブレーキ配管に向けて抜けていくものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の従来技術にかかるブレーキマスタシリンダの構成では、エア抜きにおいてばねが収縮した際、ばねがピストンの内孔の中心軸に対して偏って位置すると、ピストンの開口端面より前方に位置するばねの線材が、ピストンの開口端面に引っ掛かり、異音を発生する虞があった。
【0005】
また、エア抜きにおいてばねが収縮した際、ばねがピストンの内孔の中心軸に対して上方に偏って位置すると、ピストンポートより後方に位置するばねの隣合う線材とピストンの内孔表面との間に残留したエアは、たとえブレーキマスタシリンダを傾斜させて車体に取り付けたとしても、ピストンポートから圧力室に抜けることができない。そのため、圧力室内にエアが残留する可能性が高くなる。そして、圧力室内でのエアの残留は、エアの圧縮によるブレーキペダルストロークの増大や制動力不足につながる虞があった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景に為されたものであり、ばねの線材がピストンの開口端面に引っ掛かることがなく、ピストンの内孔内にエアが残留せずエア抜き性が高いブレーキマスタシリンダを提供することをその技術的課題とするものである。
【0007】
【課題を解決する手段】
上記技術的課題を解決するために、請求項1に記載のように、後端にて開口するハウジングと、前端にて開口した内孔を有するとともに前記ハウジングに嵌挿された少なくとも1個のピストンと、前記ハウジングと前記ピストンとの間に介装されたシールカップと、前記ピストンの外径部と前記内孔とを連通するピストンポートと、前記ピストンの内孔に配設されたばねとを備えたブレーキマスタリンダにおいて、前記ばねは、両端部の外径より大きい最大外径部を中央部に有するとともに、前記最大外径部は、前記内孔の開口端面と前記ピストンポートとの間に配置されていることを特徴とするブレーキマスタリンダを構成した。
【0008】
請求項1にかかる発明によれば、ばねがピストンの内孔の中心軸に対して偏って位置した場合でも、ばねの最大外径部がピストンの内孔表面に当接し、ピストンの開口端面より前方に位置して最大外径部より外径の小さい外径部分は、ピストンの開口端面に引っ掛かることがなく、異音の発生がない。
【0010】
また、ばねがピストンの内孔の中心軸に対して上方に偏って位置した場合でも、ピストンポートより後方に位置するばねの隣合う線材とピストンの内孔表面との間に存在するエアは、ピストンポートを介して排出され、ピストンの内孔内にエアが残留することがない。
【0011】
次に、請求項2に記載のように、前記ばねが前記内孔内に配設される際の取付け長さを所定値に保つとともに前記内孔内に配設されたばね取付け高さセット機構を備えることを特徴とするブレーキマスタリンダが好ましい。
【0012】
請求項2にかかる発明によれば、ばね取付け高さセット機構によって予め所定の取付け高さにセットされた状態でばねが内孔内に配設されるため、組付け工数が削減される。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を図面に基いて説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施例にかかるブレーキマスタシリンダのブレーキ非作動時の断面図であり、図2は、ブレーキ作動時の断面図である。
【0015】
図1に示したブレーキマスタシリンダは、ボディ11とキャップ12(カバーということもある)によって構成されるシリンダハウジング10と、シリンダハウジング10に組付けられたシールカップ101、ガイド21、スペーサ91、シールカップ102、スリーブ22、シールカップ103、スペーサ92、シールカップ104、第1ピストン31、第2ピストン32を主な構成部品とする。
【0016】
ボディ11は、鋳鉄、アルミニューム合金等の金属製であり、後方(図1中右側)に開口する内孔11aを有するとともに、コネクタ13を介してリザーバ(図示せず)に接続されるリザーバ接続ポートP1、P2と、ブレーキ配管を介して車輪ブレーキ(図示せず)に接続される送出ポートP7、P8を有していて、内孔11aの開口端部には、めねじ部11bが形成されている。
【0017】
また、ボディ11の内孔11aには、第2圧力室R2を液密的にシールするための環状のシールカップ104がスペーサ92とともに同軸的に嵌合している。
【0018】
スペーサ92は、環状に形成されていて、シールカップ104とスリーブ22との間に介装されており、内外周にて軸方向のブレーキ液の流通を許容するとともに、第2圧力室R2に圧力が発生したときにシールカップ92の一部がスリーブ22の連通溝22cに食い込むことを防止する。
【0019】
キャップ12は、鋳鉄、アルミニューム合金等の金属製であり、ボディ11のめねじ部11bに螺合するおねじ部12bを中間部外周に有するとともに、ボディ11の内孔11aに嵌合してスリーブ22の小径筒部22dを収容する筒部12cを有している。
【0020】
また、キャップ12は、Oリング112、113を介してボディ11に液密的に組付けられていて、ボディ11の内孔11aに同軸的に嵌合したシールカップ104、スペーサ92及びスリーブ22を筒部12cの端面にて抜け止めするとともに、キャップ12の内孔12dに同軸的に嵌合したシールカップ102、スペーサ91及びガイド21を内孔12dの右端段部にて抜け止めしている。
【0021】
スペーサ91は、環状に形成されていて、シールカップ102とガイド21との間に介装されており、内外周にて軸方向のブレーキ液の流通を許容するとともに、第1圧力室R1に圧力が発生したときにシールカップ102の一部がガイド21の連通溝21cに食い込むことを防止する。
【0022】
キャップ12の右端部内周には、環状のシールカップ101が組付けられ、キャップ12と第1ピストン31との間を気密且つ液密的にシールしている。
【0023】
キャップ12の右端部外周には、Oリング111が組付けられていて、キャップ12とブレーキブースタのハウジング(図示せず)との間を気密的にシールしている。
【0024】
キャップ12の左端部外周には、Oリング113が組付けられていて、ボディ11とキャップ12との間を液密的にシールしている。
【0025】
ボディ11の内孔11aの環状溝には、Oリング112が組付けられていて、ボディ11とキャップ12との間を液密的にシールしている。
【0026】
なお、キャップ12の右端外周には平面部が形成されていて、この部位を工具で挟持してキャップ12を回転させることにより、キャップ12がボディ11に対して着脱される。
【0027】
スリーブ22は、中間部外周に段部を有する円筒状の樹脂成形品であって、後方に小径筒部22dを有し、前方に大径筒部22eを有しており、小径筒部22dにてキャップ12の内孔12dに同軸的に嵌合され、大径筒部22eがボディ11の内孔段部とキャップ12の筒部12cの端面とによって挟持されている。
【0028】
スリーブ22の大径筒部22eの内周には、環状のシールカップ103が組付けられていて、スリーブ22と第2ピストン32との間を液密的にシールしている。また、スリーブ22の大径筒部22eの外周には、Oリング114が組付けられていて、スリーブ22とボディ11との間を液密的にシールしている。
【0029】
スリーブ22の大径筒部22eの左端部に設けられた連通溝22cは、大径筒部22eの左端部に傾斜して成形されていて、周方向に所定の間隔で複数個設けられており、ボディに形成された通路P4を介してリザーバ接続ポートP2に常に連通するとともに、スペーサ92と第2ピストン32との間の隙間を介して第2ピストン32に設けられたピストンポート32aに連通している。
【0030】
スリーブ22の大径筒部22eから小径筒部22dにかけて、軸方向に案内溝22aが設けられている。この案内溝22aは、第1スプリングリテーナ37の突出部37aが第2ピストンと一体的に前後方向移動する際の案内通路として機能する。
【0031】
ガイド21は、円筒状の樹脂成形品であり、キャップ12の内孔12dに嵌合している。ガイド21には、外周から両端面にまで延在するコ字状の連通溝21cが形成されている。連通溝21cの前方溝部21c1は、キャップ12に形成された環状溝12a、通路P5及び通路P3を介してリザーバ接続ポートP1に常に連通するとともに、スペーサ91と第1ピストン31との間の隙間を介して第1ピストン31に設けられたピストンポート31aに連通している。
【0032】
第1ピストン31は、キャップ12を通してシリンダハウジング10内に嵌挿されていて、スリーブ22とガイド21とによって前後方向へ摺動可能に支持されている。また、第1ピストン31は、第2ピストン32との間に介装された第1スプリングS1によって後方に付勢されている。
【0033】
第1スプリングS1は、両端部の小径部S1bの外径より大きい最大外径部S1aを中央部に有するとともに、最大外径部S1aは、ブレーキ非作動状態において、第1ピストン31の開口端面31cより内孔31bの内部側に配置されている。
【0034】
第1ロッド35は、後方端部にて第1リテーナ33を介して第1ピストン31に一体的に組付けられていて、第1ピストン31と一体的に前後方向へ移動する。第1リテーナ33は、第1スプリングS1のスプリングリテーナを兼ねていて、第1ロッド35の後方端部に嵌着固定されるとともに、第1ピストン31の内孔31bの底部に圧入固定されている。
【0035】
第1スプリングリテーナ37は、第1スプリングS1と第2ピストン32との間に介装されていて、後方端部にて第1ロッド35の頭部35aと係合し、第1ロッド35の頭部35aに対して後方に移動可能である。また、第1スプリングリテーナ37の前方(図1中左側)端部には、半径方向外側に向けて延在する突出部37aを有している。
【0036】
第2ピストン32は、第1ピストン31に対して同軸的に配置されていて、シリンダハウジング10内にてスリーブ22によって前後方向へ摺動可能に支持されている。また、第2ピストン32は、ボディ11との間に介装された第2スプリングS2によって後方に付勢されているとともに、第2ロッド36、第2リテーナ34及び第2スプリングリテーナ38によって後方への後退量(第2スプリングS2の取付長でもある)が規定されている。
【0037】
第2スプリングS2は、両端部の小径部S2bの外径より大きい最大外径部S2aを中央部に有するとともに、最大外径部S2aは、ブレーキ非作動状態において、第2ピストン32の開口端面32cより内孔32bの内部側に配置されている。
【0038】
第2ロッド36は、後方端部にて第2リテーナ34を介して第2ピストン32に一体的に組付けられていて、第2ピストン32と一体的に前後方向へ移動する。第2リテーナ34は、第2スプリングS2のスプリングリテーナを兼ねていて、第2ロッド36の後方端部に嵌着固定されるとともに、第2ピストン32の内孔32bの底部に圧入固定されている。
【0039】
第2スプリングリテーナ38は、第2スプリングS2とボディ11との間に介装されていて、後方端部にて第2ロッド36の頭部36aに所定の隙間で対向している。
【0040】
上記のように構成した実施例において、ブレーキ操作時の作用を説明する。
【0041】
ブレーキマスタシリンダが車両に取付けられ、シリンダハウジング10内にブレーキ液が充填された状態でブレーキペダル(図示せず)が踏まれると、第1ピストン31が前方(図1、図2中左側)に押込まれて移動し、第1ピストン31のピストンポート31aがシールカップ102によって閉塞され、第1圧力室R1とリザーバ接続ポートP1との連通が遮断される。その結果、第1圧力室R1内に圧力が発生する。
【0042】
また、このときに、第2ピストン32が前方(図1中左側)に押込まれて移動し、第2ピストン32のピストンポート32aがシールカップ104によって閉塞され、第2圧力室R2とリザーバ接続ポートP2との連通が遮断される。その結果、第2圧力室R2内に圧力が発生する。
【0043】
このため、第1圧力室R1から送出ポートP7に向けてブレーキ液が押し出されるとともに、第2圧力室R2から送出ポートP8に向けてブレーキ液が押し出されてブレーキ作用が得られる。
【0044】
上記のブレーキ操作時には、第1スプリングS1が第1ピストン31と第2ピストン32とによって圧縮されるが、第1スプリングS1は、最大外径部S1aが常に第1ピストン31の開口端面31cより内孔31bの内部側に位置することになる。したがって、第1スプリングS1の最大外径部S1aより前方部分は、その外径が常に内孔31bの内径より小さく、開口端面31cに第1スプリングS1の線材が当接することがないため、当接音が発生しない。
【0045】
また、第1スプリングS1が第1ピストン31と第2ピストン32とによって圧縮される際、第1スプリングS1は、ブレーキペダル踏込み量が比較的小さいブレーキ作動初期状態においては、最大外径部S1aが第1ピストン31の開口端面31cとピストンポート31aとの間に位置する。このため、たとえ第1スプリングS1が第1ピストン31内で上方(図1、図2中上方)に偏って位置したとしても、第1スプリングS1の外径と第1ピストン31の内孔31bとの間に残留したエアは、ピストンポート31aを介して第1ピストン31の外径側に抜けることができ、第1ピストン31の内孔31b内にエアが残留することがない。
【0046】
同様に、第2スプリングS2が第2ピストン32とボディ11とによって圧縮されるが、第2スプリングS2は、最大外径部S2aが常に第2ピストン32の開口端面32cより内孔32bの内部側に位置することになる。したがって、第2スプリングS2の最大外径部S2aより前方部分は、その外径が常に内孔32bの内径より小さく、開口端面32cに第2スプリングS2の線材が当接することがないため、当接音が発生しない。
【0047】
また、第2スプリングS2が第2ピストン32とボディ11とによって圧縮される際、第2スプリングS2は、ブレーキペダル踏込み量が比較的小さいブレーキ作動初期状態においては、最大外径部S2aが第2ピストン32の開口端面32cとピストンポート32aとの間に位置する。このため、たとえ第2スプリングS2が第2ピストン32内で上方に偏って位置したとしても、第2スプリングS2の外径と第2ピストン32の内孔32bとの間に残留したエアは、ピストンポート32aを介して第2ピストン32の外径側に抜けることができ、第2ピストン32の内孔32b内にエアが残留することがない。
【0048】
上記したように、本実施例のブレーキマスタシリンダにおいては、スプリングの線材とピストン開口端面との当接による当接音の発生がない。またスプリングの外径部とピストンの内孔との間にエアの残留がなく、エアの圧縮によるブレーキペダルストロークの増大や制動力不足の発生がない。
【0049】
ブレーキ操作の終了に伴いブレーキペダルが戻されると、第1ピストン31及び第2ピストン32は、第1スプリングS1及び第2スプリングS2の復元力によって後方へ押し戻され、第1ピストン31、第2ピストン32が後退限位置に復帰する。
【0050】
第1ピストン31、第2ピストン32が後退限位置に復帰すると、シールカップ102、104によるピストンポート31a、32aの閉塞がなくなり、第1圧力室R1、第2圧力室R2は、それぞれリザーバ接続ポートP1、P2を介してリザーバと連結されて大気圧となる。
【0051】
【発明の効果】
本発明によれば、ばねの線材がピストンの開口端面に引っ掛かることがなく、ピストンの内孔内にエアが残留せずエア抜き性が高いブレーキマスタシリンダを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例にかかるブレーキマスタシリンダのブレーキ非作動時の断面図である。
【図2】本発明の実施例にかかるブレーキマスタシリンダのブレーキ作動時の断面図である。
【符号の説明】
10 シリンダハウジング
31 第1ピストン(ピストン)
32 第2ピストン(ピストン)
31a、32a ピストンポート
31b、32b 内孔
31c、32c 開口端面
33 第1リテーナ(ばね取付け高さセット機構)
34 第2リテーナ(ばね取付け高さセット機構)
35 第1ロッド(ばね取付け高さセット機構)
36 第2ロッド(ばね取付け高さセット機構)
37 第1スプリングリテーナ(ばね取付け高さセット機構)
38 第1スプリングリテーナ(ばね取付け高さセット機構)
101 シールカップ
S1 第1スプリング(ばね)
S2 第2スプリング(ばね)

Claims (2)

  1. 後端にて開口するハウジングと、
    前端にて開口した内孔を有するとともに前記ハウジングに嵌挿された少なくとも1個のピストンと、
    前記ハウジングと前記ピストンとの間に介装されたシールカップと、
    前記ピストンの外径部と前記内孔とを連通するピストンポートと、
    前記ピストンの内孔に配設されたばねと
    を備えたブレーキマスタリンダにおいて、
    前記ばねは、
    両端部の外径より大きい最大外径部を中央部に有するとともに、前記最大外径部は、前記内孔の開口端面と前記ピストンポートとの間に配置されていることを特徴とするブレーキマスタリンダ。
  2. 請求項1において、
    前記ばねが前記内孔内に配設される際の取付け長さを所定値に保つとともに前記内孔内に配設されたばね取付け高さセット機構を備えることを特徴とするブレーキマスタリンダ。
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