JP4601303B2 - アルミナ・ジルコニア系セラミックス及びその製法 - Google Patents

アルミナ・ジルコニア系セラミックス及びその製法 Download PDF

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Description

本発明は、アルミナ・ジルコニア系セラミックスに関するものであって、特に種々の構造部材、切削工具、医療用器具、生体用材料に好適に使用されるアルミナ・ジルコニア系セラミックスおよびその製法に関する。
近年、アルミナ、ジルコニア系の酸化物セラミックスは、高強度、耐摩耗性及び耐食性が要求される構造部材として広く利用されている。特に、アルミナとジルコニアを一定の比率で含むアルミナ・ジルコニア系セラミックスは、結晶粒の微細化効果により、それぞれの単体セラミックスよりも高い強度が得られることが注目されている(非特許文献1参照)。
しかし、上記のアルミナ・ジルコニア系セラミックスは、切削工具として用いた場合、靭性不足が原因で切刃に欠損やチッピングが生じ易く、実用に供する事ができないという欠点がある。このため、形状異方性粒子を生成させることによる靭性改善等が行なわれている。例えば、SrO、CaO、或いはBaOとSiOとを焼成時に共存させることにより、高靭性アルミナ−ジルコニア複合材料が得られることが知られている(例えば、特許文献1参照)。即ち、BaO等を、アルミナ及びジルコニアの焼成時に共存させることにより、Al結晶が細長く成長し、Al粒子が細長成長結晶からなる組織を持つようになり、この細長成長Al結晶によって優れた靭性を具備するようになるのである。
特開平5−294718号公報 四方良一他、「粉体および粉末冶金」、(社)粉体粉末冶金協会、1991年4月10日、第38巻、第3号 p.57−61
ところが、形状異方性粒子の生成によって破壊靭性が向上する一方で、強度と硬度が低下することが知られている。破壊靭性をより高くする為には形状異方性粒子をより細長く成長させる必要があるが、粒子が大きくなるほど強度と硬度が低下してしまう。即ち、前記特許文献1に開示されているようなアルミナ・ジルコニア系セラミックスでは、アルミナの異方性成長により靭性改善効果が見られるものの、曲げ強度が例えば1050MPa以下となり、形状異方性粒子の生成によって強度が低下してしまう。
従って、本発明の目的は、粒成長を抑えながら、靭性が向上しており、高強度で且つ高靭性のアルミナ・ジルコニア系セラミックスを提供することにある。
本発明者らは、アルミナ主体のアルミナ・ジルコニア系セラミックスにおいて、所定量のBaOを配合して焼成を行い、形状異方性粒子の生成を抑えつつ、一部のZrO粒子にBaOを固溶させることにより、正方晶ZrOの準安定化を実現し、単斜晶への応力誘起相転移によって強度と破壊靭性とを向上できること、更に焼結助剤としてTiO、MgO及びSiOを所定量使用することにより、ZrOへのBaOの固溶が促進され、応力誘起相転移強化の効果が大きくできることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明によれば、Al粒子及びZrO粒子を含有するアルミナ・ジルコニア系セラミックスにおいて、
Al含量が65質量%以上であり、ZrO含量が4〜34質量%の範囲にあり、前記ZrO粒子の一部には、BaOが固溶しており、且つ、BaO含量が0.質量%の範囲にあるとともに、さらに、TiO 、MgO及びSiO を含有しており、SiO 含量が0.4質量%以上、TiO 含量が0.3質量%以上、MgO含量が0.2質量%以上であり、且つSiO 、TiO 及びMgOの合計含量が0.9〜4.5質量%の範囲にあることを特徴とするアルミナ・ジルコニア系セラミックスが提供される。
さらに、本発明によれば、
Alを酸化物換算で65質量%以上、Zrを酸化物換算で4〜34質量%及びBaを酸化物換算で0.5〜3質量%の量で含有し、さらにSiを酸化物換算で0.4質量%以上、Tiを酸化物換算で0.3質量%以上、Mgを酸化物換算で0.2質量%以上の量で含有し、且つSi、Ti及びMgの酸化物換算での合計含量が0.9〜4.5質量%の範囲にある原料粉末を用意し、
前記原料粉末を所定形状に成形し、
得られた成形体を、1300℃〜1500℃の温度範囲で焼成し、
更に前記焼成温度より30℃以上低い温度で熱間静水圧処理すること、
を特徴とするアルミナ・ジルコニア系セラミックスの製法が提供される。
本発明のアルミナ・ジルコニアセラミックスでは、特にZrO粒子の一部にBaOが固溶していることにより、BaOによる正方晶ZrOの安定化効果が発現し、応力誘起相転移の効果によって高強度化、高靭性化が達成されており、例えば1220MPa以上の曲げ強度、4MPa・m1/2以上の破壊靭性、及び1600以上のビッカース硬度を有している。
また、本発明の製法では、焼結助剤として機能するSiO、TiO及びMgOが一定の量割合で存在する条件下で焼成が行われる結果、BaOのZrOへの固溶が促進され、且つ形状異方性粒子の生成が有効に抑制され、且つ高緻密化、組織微細化が達成され、その結果、上述した高強度、高靭性、さらには高硬度のアルミナ・ジルコニア系セラミックスを得ることが可能となる。
(アルミナ・ジルコニアセラミックス)
本発明のセラミックスは、基本成分として、Al粒子及びZrO粒子を含有するものであるが、アルミナリッチの組成を有しており、Alを65質量%以上、好ましくは67〜90質量%、さらに好ましくは76〜84質量%の量で含有し、ZrOを4〜34質量%、好ましくは10〜34質量%、特に好ましくは11〜20質量%の量で含有している。即ち、Alを65質量%以上含有させることにより、高強度でかつ高硬度という効果を達成することが可能となり、ZrOの含有量が4質量%未満では強度が低下し、低靭性となり、一方、34質量%を超えるとヤング率低下により硬度が低下してしまう。
また、本発明のセラミックスは、BaO0.5〜3質量%、ましくは0.7〜1.5質量%の量で含有している。BaO含量が上記範囲よりも少量であると、ZrOの単斜晶系が多くなり、強度が低下する。またBaO含量が上記範囲よりも多いものは、焼成温度を高くしなければ得ることができず、このため、形状異方性粒子による緻密化阻害や、ジルコニア粒成長による強度あるいは硬度の低下がおきる。
さらに、本発明のセラミックスでは、上記のBaO成分の存在に関連して、ZrO粒子の一部にBaOが固溶していることが重要であり、これにより、破壊靭性を向上でき、同時に高強度化、高硬度化を実現できる。
通常ZrOは、Yなどの安定化剤を適量固溶させることで機械的特性を向上させることができる。しかし、アルミナ・ジルコニア系セラミックスでは、Yの配合量が多すぎると立方晶が多くなり相変態の破壊靭性への寄与が小さくなる。一方、Yの配合量が少なすぎると単斜晶ZrO2が多くなり、強度、靭性ともに低下する。このように、Yなどによって安定化されたZrO2粒子を存在させたのでは、破壊靭性、強度及び硬度を同時に向上させることができない。
またAl含量の多いアルミナ・ジルコニア系セラミックスでは、硬度は高いが、Al含量の増大によって強度と靭性が低下している。これを補う目的で、BaOを添加し、形状異方性粒子を生成させて靭性を向上させると、この場合には高温焼成を必要とし、この結果、粒成長や緻密化阻害等を生じてしまい、強度、硬度が大きく低下してしまい、やはり、破壊靭性、強度及び硬度を同時に向上させることができない。
しかるに、本発明では、BaOの固溶により正方晶ZrOの安定化が起こるが、BaOではZrOへの固溶量が少ない為、立方晶は生成し難くなる。この結果、応力誘起相転移効果が大きく、形状異方性粒子生成によらず破壊靭性を向上でき、従って、形状異方性粒子生成による強度や硬度の低下を回避することができ、破壊靭性、強度及び硬度を同時に向上させることができるわけである。
本発明のアルミナ・ジルコニアセラミックスでは、上述した各成分に加えて、SiO、TiO及びMgOを含有することが好ましい。即ち、これらの酸化物成分は、焼結助剤に由来するものであり、このような成分を含有していることにより、BaOのZrO粒子への固溶が促進され、さらにはAl及びZrOの結晶粒成長を抑制しながら、低い温度条件で焼結体を緻密化でき、微粒、高密度の組織形成により高強度化の実現に有利となる。
本発明において、SiOの含有量は、0.4質量%以上、好適には0.4〜1.5質量%の範囲にあるのがよく、TiOの含有量は、0.3質量%以上、好適には0.3〜0.7質量%の範囲にあるのがよく、さらにMgOの含有量は、0.2質量%以上、好ましくは0.2〜1.4質量%の範囲にあるのがよい。各酸化物成分の含有量が、上記範囲よりも少ないと、焼成時に液相が不足し、Alが緻密化しにくくなることがある。
また、上記のSiO、TiO及びMgOの含有量は、合計で0.9〜4.5質量%の範囲とすることが好ましい。即ち、焼結助剤に由来するこれら成分が、このような範囲で存在していると、BaOのZrOへの固溶が促進され、強度、靭性が向上すると共に、共晶点が1300℃以下になり、焼結時に液相が生成して焼結が大きく促進される。この為、より低い温度での焼成により、高い緻密性の焼結体が得られるとともに、異方粒成長を抑制し、微細な組織となり、強度や硬度の低下を回避するのに有利となる。
上記のような組成を有する本発明のアルミナ・ジルコニアセラミックスは、後述する実施例から明らかな通り、1220MPa以上の曲げ強度、4MPa・m1/2以上の破壊靭性、及び1600以上のビッカース硬度を有しており、種々の構造部材、切削工具、医療用器具などの用途に適している。
(アルミナ・ジルコニア系セラミックスの製法)
上述した本発明のアルミナ・ジルコニアセラミックスは、所定の組成の原料粉末を調製し、所定形状に成形し、焼成及び熱間静水圧処理することにより製造される。
用いる原料粉末は、前述した組成の焼結体が得られるように、各種の金属分を含んでおり、例えばAl源となるAl分、ZrO源となるZr分、及びBaO源となるBa分を含み、且つ焼結助剤としてのSi分、Ti分及びMg分を含有する。これら金属分は、一般的には酸化物の形で使用されるが、焼成により、前述した各種の酸化物を形成するものであれば酸化物に限定されるものではなく、金属単体、水酸化物、あるいは炭酸塩などの塩類の形で使用することもできる。即ち、原料粉末は、これらの金属分の粉末を混合することにより調製され、原料粉末中の各種金属分の含有割合は、Al、Zr、Ba、Si、Ti及びMg量が、酸化物換算で、前述した焼結体の組成に対応するように設定される。また、原料粉末の平均粒径は、一般に、1.0μm以下が好ましい。
原料粉末を用いての成形は、必要により、水や有機溶媒等の溶媒、有機バインダーなどを用いて原料粉末のスラリー乃至ペーストもしくはこれらを乾燥して得られる粉末を調製し、このようなスラリー乃至ペーストもしくは粉末を用いて行うことも可能である。また、成形手段としては、プレス成形、鋳込み、冷間静水圧成形、或いは冷間静水圧処理など、それ自体公知の手段を採用することができる。
上記成形体の焼成は、1300〜1500℃、特に1300乃至1490℃の温度範囲で行われ、これにより、AlやZrOの粒成長を抑制しながら緻密化することができる。例えば、BaOが存在する条件下で1500℃よりも高い温度で焼成を行うと、BaOとAlとが反応して異方粒成長し、焼結体の強度や硬度が低下してしまう。また、ZrOの粒成長によって単斜晶ZrO量が増加することによっても、強度や硬度の低下がもたらされる。また、1300℃よりも低温での焼成では、緻密化が困難となってしまう。
本発明においては、焼結助剤として、所定量のSiO、TiO及びMgOが使用されているため、BaOのZrOへの固溶が促進されると共に、共晶点が1300℃以下になり、焼結時に液相が生成して材料の焼結が大きく促進される。この為、上記のような比較的低温領域での焼成により、緻密性の高い焼結体を得ることができる。また、このような比較的低温領域で焼結することによって、異方粒成長が抑制され、微細な組織となり、強度や硬度を低下させず、靭性を高めることができるのである。
上記のような温度範囲での焼成時間は、例えばアルキメデス法による相対密度が95%以上となる程度でよく、通常、1乃至5時間程度である。
上記の焼成に引き続いて行われる熱間静水圧処理は、前記焼成温度より30℃以上低い温度、好ましくは50℃以上低い温度、更に好ましくは100℃以上低い温度で行われ、これによりアルミナ、ジルコニアが微粒で、アルミナの異方粒成長を抑えた緻密なアルミナ・ジルコニア系セラミックスを作製することができ、この焼結体は、既に述べたように、靭性が高く、しかも高強度、高硬度という特性を有している。
尚、上記の熱間静水圧処理は、短時間でアルミナやジルコニアを微粒化させるため、通常、その下限温度は、1200℃以上、特に1250℃以上とするのがよく、一般に、0.5乃至2時間程度行えばよい。
純度が99.95質量%で平均粒径0.22μmのAl粉末、純度が99.95質量%で平均粒径0.4μmのジルコニア粉末、平均粒径0.6μmのTiO粉末、平均粒径0.6μmのMg(OH)粉末、平均粒径0.5μmのSiO粉末、及び平均粒径0.3μmのBaCO粉末を、酸化物換算で、表1に示すような組成になるように秤量混合して、出発原料となる混合粉末を得た。(但し、試料No.12では、ジルコニア粉末としてYが固溶した安定化ジルコニア(表中YSZで示す)の粉末を用いた。)
この混合粉末を、1t/cmの圧力で金型成形し、さらに3t/cmの圧力で静水圧処理を加えて成形体を作製し、表2に示す温度にて、本焼成及び熱間静水圧処理(表中にHIPと表示)を行なった。尚、何れの場合も、本焼成は2時間、熱間静水圧処理は、1時間行った。
得られた各焼結体に対して、曲げ強度(JIS R 1601)、破壊靭性(JIS R
1607)、ビッカース硬度(JIS Z 2244)を測定し、表2に記載した。また、X線回折(XRD)によってBaOによる正方晶ZrOが安定化されていることの確認を行い、さらに、透過型電子顕微鏡におけるエネルギー分散組成分析装置(EDS)によりZrOへのBaOの固溶の確認を行った。
Figure 0004601303
Figure 0004601303
表2より、BaOを含み、他の焼結助剤を含まない材料(試料No.8)では、BaOを添加していない材料(試料No.12)よりも強度と破壊靭性が高かったが、曲げ強度はやや低い値を示した。しかし、BaOと焼結助剤SiO、TiO、MgOをそれぞれ特定量含み、更に、1,350〜1400℃で焼結した材料(試料No.1〜3,5〜7,9,14)は、曲げ強度1220〜1550MPa、破壊靭性4.2〜5.6MPa・m1/2、硬度1550〜1850Hvの特性を示し、試料No.8の材料よりも特性が向上していた。
試料No.4の材料では、焼成温度が高く、僅かに形状異方性粒子が生成する為、強度と硬度が多少低下したが試料No.8の材料よりも破壊靭性は高かった。また、Yが固溶した安定化ジルコニアを含む材料(試料No.12)では、立方晶ZrO含有量が増加し、BaOによる正方晶ZrO安定化の効果が小さくなるため、BaOとSiO、TiO、MgOを含有するにも関わらず強度と靭性が小さかった。
また、試料No.1と11の材料のX線回折(XRD)測定結果を比較することで、試料No.1の材料ではBaOの添加によって正方晶ZrOが安定化されていることを確認し、さらに材料の組成分析を行なうことで試料No.1では、ZrOにBaOが固溶していることを確認した。

Claims (3)

  1. Al粒子及びZrO粒子を含有するアルミナ・ジルコニア系セラミックスにおいて、Al含量が65質量%以上であり、ZrO含量が4〜34質量%の範囲にあり、前記ZrO粒子の一部には、BaOが固溶しており、且つ、BaO含量が0.質量%の範囲にあるとともに、さらに、TiO 、MgO及びSiO を含有しており、SiO 含量が0.4質量%以上、TiO 含量が0.3質量%以上、MgO含量が0.2質量%以上であり、且つSiO 、TiO 及びMgOの合計含量が0.9〜4.5質量%の範囲にあることを特徴とするアルミナ・ジルコニア系セラミックス。
  2. 曲げ強度が1220MPa以上であり、破壊靭性が4MPa・m1/2以上であり、且つビッカース硬度が1600以上である請求項1に記載のアルミナ・ジルコニア系セラミックス。
  3. Alを酸化物換算で65質量%以上、Zrを酸化物換算で4〜34質量%及びBaを酸化物換算で0.質量%の量で含有し、さらにSiを酸化物換算で0.質量%以上、Tiを酸化物換算で0.質量%以上、Mgを酸化物換算で0.質量%以上の量で含有し、且つSi、Ti及びMgの酸化物換算での合計含量が0.〜4.5質量%の範囲にある原料粉末を用意し、
    前記原料粉末を所定形状に成形し、
    得られた成形体を、1300℃〜1500℃の温度範囲で焼成し、
    更に前記焼成温度より30℃以上低い温度で熱間静水圧処理すること、
    を特徴とするアルミナ・ジルコニア系セラミックスの製法。
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