JP2010248051A - アルミナ−ジルコニア複合焼結体 - Google Patents

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Abstract

【課題】高強度かつ高い破壊靱性を示すと共に、結晶相の安定化を同時に満足でき、例えば人工関節の生体部材として用いた場合に、長期間にわたり安定性を発揮するアルミナ−ジルコニア複合焼結体を提供する。
【解決手段】α−アルミナ、Si含有α−アルミナ、ストロンチウムアルミネート、正方晶ジルコニア、および単斜晶ジルコニアを含むことを特徴とするアルミナ−ジルコニア複合焼結体。
【選択図】なし

Description

本発明はアルミナ−ジルコニア複合焼結体に関するものであり、特には、人工関節を構成する生体部材として、長期間にわたり安定的に用いることのできるアルミナ−ジルコニア複合焼結体に関するものである。
セラミックス材料は、生体不活性材料であり、かつ強度が高く摩耗が小さいことから、例えばアルミナやジルコニアが、人工股関節、人工膝関節、人工肘関節等の人工関節の摺動部材として用いられている。また近年では、アルミナ−ジルコニア複合セラミックスが、強度と破壊靱性を高める観点から好ましいとして着目されている。
特に破壊靱性を高める観点から、アルミナ−ジルコニア複合セラミックスにおけるジルコニアの割合を高くすることが一般的である。ところで安定化剤を添加しないジルコニアを単体で焼成すると、冷却過程において、そのほとんどが正方晶から単斜晶へと相変態する。この相変態の際には約4体積%程度の体積膨張が生じる。よって、上記複合セラミックス中のジルコニアの割合を高くすると、焼成したときに上記体積膨張による応力や微小亀裂が生じて、材料の機械的特性が低下したり、焼成後に材料そのものが崩壊する場合がある。上記亀裂の伸展を妨げるため、焼結体の粒径を大きくすることが考えられるが、ジルコニアの粒径が大きすぎる場合にも正方晶から単斜晶への相変態が生じやすくなるため好ましくない。
そこで、上記ジルコニアの焼成による相変態を抑制すべく、YやMgOに代表される安定化剤を添加し、焼成後もジルコニアを正方晶として安定化させることが行われている。
一方で、上記安定化剤の添加量を少量に抑えて、ジルコニアが正方晶から単斜晶へ相変態する際に生じる体積膨張を周囲の粒子が抑制することで、材料の機械的特性が向上する「変態強化機構」(応力誘起変態機構ともいう)を利用することも行われている。
この様な技術を用いたものとして例えば特許文献1が挙げられる。この特許文献1には、大きく分けて、α−アルミナを主成分とする第1相と正方晶ジルコニアとからなる複合焼結体が示されている。上記第1相は、α−アルミナを主成分とし、Crが固溶したアルミナ、AlとSrの化合物であるストロンチウムアルミネートで構成されている。よって上記複合焼結体は、上記第1相の3つの結晶相と正方晶ジルコニアの合計4つの結晶相から構成されている。この特許文献1では、上述の通り、破壊靱性を高めるため、複合焼結体に占めるジルコニアの比率を高め、かつ安定化剤を添加することで、ジルコニアを正方晶ジルコニアに安定化させている。また、応力誘起変態効果を得るため、上記安定化剤の添加量が、焼成時に単斜晶へと相変態しない程度にまで低く抑えられている。
しかし、上記安定化剤を含むアルミナ−ジルコニア複合焼結体を用い、生体内で経験する環境を加速的に評価する試験(例えば121℃の飽和水蒸気中で長時間保持する加速劣化試験)を行うと、焼成時にはほとんど存在していない単斜晶ジルコニアが、時間の経過と共に増加することがこれまでに分かっている。上記複合焼結体は、生体内にて例えば人工関節の摺動部で用いられるが、生体内で使用時に、この複合焼結体に相変態が生じると、それに伴う体積膨張により焼結体表面から脱粒などが起こり、それを起点として更に相変態と脱粒が繰り返し生じることが考えられるため、生体内での長期安定性を担保することが難しいと思われる。よって、優れた機械的特性と結晶相の安定化を同時に満足することのできるアルミナ−ジルコニア複合焼結体の実現が求められている。
この様な観点から検討した技術として、例えば特許文献2には、セラミックスからなる生体部材であって、該セラミックス中に、Alを65質量%以上、ZrOを4〜34質量%、及びSrOを0.1〜4質量%含有するとともに、前記ZrOの粒子の一部にSrが溶解している点に特徴を有する生体部材が示されている。また、特許文献3にも、Alを65質量%以上、ZrOを4〜34質量%、SrOを0.1〜4質量%含有し、かつ前記ZrOの粒子の一部にSrが固溶している点に特徴を有する生体部材が示されている。
これらの技術では、Yを安定化剤として用いた場合、水が存在する環境下で相変態が起こり易く、強度や表面粗さが悪化する場合があることに着目し、安定化剤を用いずに上記複数の結晶相からなるセラミックスを形成して、高強度、高靱性、および高硬度を図っている。
米国特許第6452957号公報 特開2006−95018号公報 特開2006−122634号公報
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、高強度かつ高い破壊靱性を示すと共に、結晶相の安定化を同時に満足でき、例えば人工関節を構成する生体部材として用いた場合に、長期間にわたって安定性を発揮するアルミナ−ジルコニア複合焼結体を実現することにある。
上記課題を解決し得た本発明のアルミナ−ジルコニア複合焼結体は、α−アルミナ、Si含有α−アルミナ、ストロンチウムアルミネート、正方晶ジルコニア、および単斜晶ジルコニアを含むところに特徴を有している。
前記単斜晶ジルコニアの含有量は0.2体積%以上であることが好ましい。
前記ストロンチウムアルミネートは、アルカリ土類金属および遷移金属元素よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてもよい。
前記α−アルミナおよびSi含有α−アルミナからなるアルミナ相の平均結晶粒径は0.5μm以下、かつ前記正方晶ジルコニア、および単斜晶ジルコニアからなるジルコニア相の平均結晶粒径は0.25μm以下であることが好ましい。
本発明は、上記アルミナ−ジルコニア複合焼結体からなる生体部材や、該生体部材が人工関節の摺動部に用いられた人工関節も含む。
本発明のアルミナ−ジルコニア複合焼結体は、高強度かつ高い破壊靱性を示すと共に、生体環境下において結晶相が長期間安定しているため、例えば人工関節等の摺動部に用いられる、長期間にわたり安定的に用いることのできる生体部材、および該生体部材を用いた人工関節等を提供することができる。
図1は、実施例において、曲げ強度と加速劣化試験前→後の単斜晶ジルコニアの増加率を対比したグラフである。
本発明者は、高強度かつ高い破壊靱性を示すと共に、生体環境下において結晶相が長期間安定し、例えば人工関節などの生体部材として用いた場合に、長期間にわたり安定的に用いることのできるアルミナ−ジルコニア複合焼結体を実現すべく鋭意研究を行った。
その結果、アルミナ−ジルコニア複合焼結体を、α−アルミナ、Si含有α−アルミナ(Siがα−アルミナ中に固溶しているものと思われる)、ストロンチウムアルミネート、正方晶ジルコニア、および単斜晶ジルコニア(これらを併せて5相ということがある)を含む結晶相からなるものとすればよいことを見出した。
上記5相を含む結晶相とすることによって、形成された単斜晶ジルコニアが、その後長期にわたって安定し、単斜晶ジルコニアが増加することによる体積膨張を十分に抑制できる。具体的には、生体内で経験する環境を加速的に評価する、121℃の飽和水蒸気中で150時間保持する加速劣化試験後も単斜晶ジルコニアが増加せず、121℃の飽和水蒸気中で150時間保持する加速劣化試験前後の、後記する式(1)で求められる単斜晶ジルコニアの増加率が30%以下(特には15%以下)と十分に抑制されている。
また、上記ストロンチウムアルミネート(板状晶のストロンチウムアルミネート)が破壊靱性の向上に寄与していると思われる。
更に、焼成により正方晶ジルコニアが単斜晶ジルコニアへ相変態する際に生じる体積膨張を、周囲の粒子が抑制することによって、材料の機械的特性が向上する「変態強化機構」を利用して破壊靱性を高めることもできる。
上記5相は、後述する実施例に示す方法で各結晶相の存在を確認したものである。
本発明のアルミナ−ジルコニア複合焼結体に占める前記単斜晶ジルコニアの含有量(単斜晶ジルコニア量)は、0.2体積%以上であることが好ましい。単斜晶ジルコニア量が0.2体積%を下回ると、応力誘起変態機構による高強度かつ高い破壊靱性を確保できないか、または加速劣化試験後に単結晶ジルコニアが増加しやすくなる、といった不具合が生じるため好ましくない。より好ましくは0.5体積%以上である。一方、単斜晶ジルコニア量の上限は、2体積%とすることが好ましい。2体積%を超えると、強度や破壊靱性に悪影響が出てくると考えられるからである。より好ましくは1.5体積%以下である。
また、後述する焼結助剤を添加して本発明のアルミナ−ジルコニア複合焼結体を得る場合、前記ストロンチウムアルミネートは、焼結助剤成分であるアルカリ土類金属(例えばMg等)および遷移金属元素(例えばTi等)よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含みうる。
本発明は、上記5相の各含有量まで規定するものではないが、α−アルミナおよびSi含有α−アルミナが合計で70体積%以上と主成分をなし、次いでジルコニア相(正方晶ジルコニアおよび単斜晶ジルコニア)を多く含むものである。この様にジルコニア相の割合を低減することで、単斜晶ジルコニアへの相変態を生じ難くすることができる。ジルコニア相に占める単斜晶ジルコニアの割合(mol%)は、推奨される方法で製造すると、おおよそ5mol%以上30mol%以下の範囲内となる。
また本発明のアルミナ−ジルコニア複合焼結体は、上記5相を含んでいればよく、その他、製造工程で不可避的に混入する不可避不純物として、例えばHfO等を含みうる。また、焼結体を製造するにあたり、添加剤として、上記焼結助剤や、成形助剤等を含みうる。
上記焼結助剤としては、TiOやMgO、SiO、CaO等が挙げられる。この焼結助剤を用いることで、共晶点が1300℃以下になり、焼結時に液相が生成して材料の焼結が大きく促進される。このため、約1300〜1500℃と比較的低温で焼結した場合にも緻密性の高い焼結体を得ることができる。
また本発明は、安定化剤(例えばY)を積極的に含むものではない。これにより、ジルコニア相中には少量の単斜晶ジルコニアが存在することになり、安定化剤を添加した正方晶ジルコニアのみからなる場合よりも、正方晶が単斜晶へと相変態しようとする不安定な状態を有し、応力誘起変態効果を利用して機械的特性を向上させることができる。但し、この様な本発明の効果を阻害しない範囲として、上記安定化剤を、ジルコニア相に対するモル分率(mol%)で1.5mol%未満(0mol%を含む)含みうる場合も本発明に包含される。
〔アルミナ相、ジルコニア相の平均結晶粒径について〕
本発明のアルミナ−ジルコニア複合焼結体として、α−アルミナおよびSi含有α−アルミナからなるアルミナ相の平均結晶粒径が0.5μm以下であり、かつ正方晶ジルコニア、および単斜晶ジルコニアからなるジルコニア相の平均結晶粒径が0.25μm以下であるものが好ましい。
これらアルミナ相やジルコニア相の結晶粒径が小さいほど、強度が高まるため好ましい。また、アルミナ相:70体積%以上を主成分とし、次いでジルコニア相を多く含むような焼結体の場合には、結晶粒径が小さいほどジルコニア相がアルミナ相に取り囲まれるようになり、単斜晶ジルコニアへの相変態が生じ難くなる。上記アルミナ相の結晶粒径は、より好ましくは0.35μm以下である。
本発明は、上記アルミナ−ジルコニア複合焼結体の製造方法まで限定するものではなく、アルミナ−ジルコニア複合焼結体を構成する元素:Al、Zr及びSrの主原料として、例えばアルミナ粉末、ジルコニア粉末、含ストロンチウム化合物粉末を、複合焼結体において、例えばアルミナ相(α−アルミナおよびSi含有α−アルミナ)が70体積%以上、ジルコニア相(正方晶ジルコニアおよび単斜晶ジルコニア)が7〜10体積%、およびストロンチウムアルミネートが1〜7体積%となるように秤量・混合し、更に、例えば焼結助剤等を添加して比表面積が12〜14m/gとなるように粉砕・混合する。この様にして得られた粉末を、所定形状に成形(例えば金型成形)した後、例えば1300℃〜1500℃の温度範囲で焼成し、前記焼成温度より30℃低い温度で熱間静水圧処理(熱間静水圧焼成)することが挙げられる。
本発明のアルミナ−ジルコニア複合焼結体は、人工関節、人工骨、人工歯根等を構成する生体部材として用いることができる。特に、例えば、人工股関節、人工膝関節、人工肘関節等の人工関節を構成する生体部材(特には摺動部材)として用いれば、本発明の効果が存分に発揮される。具体的には、例えば摺動面を構成する2つの摺動部材(ヘッド(骨頭ボール)、カップ)のうち、いずれか一方を本発明のアルミナ−ジルコニア複合焼結体からなる生体部材としたり、両方を本発明のアルミナ−ジルコニア複合焼結体からなる生体部材としてもよい。
上記人工関節用生体部材を得るにあたっては、例えば上記焼結体に対し、研削、研磨等の加工を施して得ることが製造方法の一例として挙げられる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
平均粒径0.4μmの市販のAl粉末、平均粒径0.6μmの市販のZrO粉末、および平均粒径1μmの市販のSr化合物粉末を、表1に示す焼結体の組成になるように秤量して混合した。表1のNo.1〜6については、焼結助剤として、平均粒径0.5μmの市販のTiO粉末、平均粒径3.0μmの市販のMgO粉末、および平均粒径1.2μmの市販のSiO粉末を更に添加して、比表面積が12〜14m/gとなるように粉砕・混合した。
また、表1のNo.4〜6では、市販のZrO粉末に換えて、Yを3mol%添加されてなる市販の安定化剤含有ZrO粉末を用い、表1のNo.10〜12では、市販のZrO粉末に換えて、Yを2mol%添加されてなる市販の安定化剤含有ZrO粉末を用いた。
次いでこの混合粉末を、98MPaで金型成形し、さらに294MPaで静水圧処理を加えて成形体を作製し、表1に示す焼成温度で大気焼成し、次いで熱間静水圧焼成を行って焼結体を得た。
そして、得られた焼結体の結晶相の成分・組織の確認、各結晶相の体積率、アルミナ相とジルコニア相の平均結晶粒径を測定した。また、加速劣化試験を行って、加速劣化試験前→後の単斜晶ジルコニア量の増加率を求めた。更に一部の焼結体については、強度特性(曲げ強度、破壊靱性)も評価した。各測定・評価は下記の様にして行った。
(1)焼結体の結晶相の成分・組織の確認
(1−1)α−アルミナ、ストロンチウムアルミネート、正方晶ジルコニア、単斜晶ジルコニアの確認
試料の焼結体をX線回折法で測定し、得られたチャートから、まずα−アルミナ、ストロンチウムアルミネート、正方晶ジルコニア、単斜晶ジルコニアの存在を確認した。
(1−2)正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニアの相対的存在割合の測定
X線回折チャートのピーク強度から、正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニアの相対的存在割合(mol%)を、GarvieとNicholsonの方法を用いて算出した。また、(正方晶ジルコニア+単斜晶ジルコニア)を100とした場合の単斜晶ジルコニアの割合(mol%)を求めた。
(1−3)Si含有α−アルミナの確認
試料の焼結体を鏡面研磨および粒界エッチングし、多結晶体を構成する結晶粒の境界が明確な試料を作製した。この試料を用いて、SEM付属のEPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)分析装置により、EPMA面分析を行った。この分析で、アルミニウム(Al)およびケイ素(Si)の両方を含む結晶相(Si含有α−アルミナ)が存在するかどうかを確認した。
(2)焼結体の結晶相の体積率測定
以下の手順に沿って測定した。
(2−1)焼結体を鏡面研磨および粒界エッチングし、結晶粒の境界が明確な試料を作製した。この試料を用いてSEM観察を行い、結晶粒の境界が明確な画像を撮影した。以下の解析のために、少なくとも100個以上の結晶粒が識別できる画像を用いた。
(2−2)得られた画像を観察し、下記(a)〜(c)に示す通り、個々の結晶粒の形態および明暗の違いに基づいて、結晶粒ごとに結晶相の種類を識別した。
(a)等方的(円に近い形)で暗い色調の結晶を、α−アルミナとみなす。
(b)長軸と短軸が存在する暗い色調の異方性結晶を、ストロンチウムアルミネートとみなす。
(c)等方的で明るい色調の結晶を、正方晶ジルコニアおよび/または単斜晶ジルコニアとみなす。
(2−3)上記識別した結晶相ごとに画像に着色する等の操作をして、各々の結晶相の面積率を画像処理によって求めた。
(2−4)各結晶相の体積率(vol%)を以下のように算出した。
・α−アルミナ:100%から以下の他の結晶相の体積率を減じた値とした(Si含有α−アルミナの存在が確認された焼結体については、この値に、該Si含有α−アルミナ分(数%以下)も含まれる)。
・ストロンチウムアルミネート:上記(2−3)の方法で求めた面積率をそのまま体積率とした。
・正方晶ジルコニア:上記(2−3)の方法で求めた正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニアの合計の面積率に、上記(1−2)の方法で求めた正方晶ジルコニアの相対的存在割合を用いて算出した正方晶ジルコニアの面積率を、正方晶ジルコニアの体積率とした。
・単斜晶ジルコニア:上記(2−3)の方法で求めた正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニアの合計の面積率に、上記(1−2)の方法で求めた単斜晶ジルコニアの相対的存在割合を用いて算出した単斜晶ジルコニアの面積率を、単斜晶ジルコニアの体積率とした。尚、測定誤差を考慮して、単斜晶ジルコニアの割合が0.2体積%未満のものを単斜晶ジルコニアが存在しないとみなした。
(3)焼結体におけるアルミナ相、ジルコニア相の平均結晶粒径の測定方法
上記「(2)焼結体の結晶相の体積率測定」の(2−1)、(2−2)で用いたSEM画像から、アルミナ相(α−アルミナおよびSi含有α−アルミナ)の面積を結晶粒の数で除して、円相当径を画像処理によって算出し、アルミナ相の平均結晶粒径を求めた。また、ジルコニア相(正方晶ジルコニアおよび単斜晶ジルコニア)の面積を結晶粒の数で除して、円相当径を画像処理によって算出し、ジルコニア相の平均結晶粒径を求めた。
(4)加速劣化試験
焼結体(試料)を121℃の飽和水蒸気中で150時間保持する加速劣化試験を行った。そして試験後の単斜晶ジルコニアの割合の求め、下記式(1)を用いて加速劣化試験前→後の単斜晶ジルコニア量の増加率を求めた。
加速劣化試験前後の単斜晶ジルコニア量の増加率(%)
=[試験後の単斜晶ジルコニアの割合(mol%)/試験前の単斜晶ジルコニアの割合(mol%)−1]×100…(1)
そして、上記増加率が30%以下である場合を、加速劣化試験による相変態がほとんど生じていないと評価した。
これらの結果を表1に示す。
(5)強度特性(曲げ強度、破壊靱性)の評価
また、No.1〜6、8、11については、曲げ強度と破壊靱性値も測定した。詳細には、焼結体を用いて、JIS−R1601に規定の方法(4点曲げ方式)で室温における曲げ強さ(曲げ強度)、およびJIS−R1607に規定のSEPB法による破壊靱性値を測定した。その結果を表2に示す。
Figure 2010248051
Figure 2010248051
表1、表2より次の様に考察できる。
試料No.1〜3は、本発明の規定を満たす焼結体であるため、曲げ強度、破壊靱性といった強度特性に優れ、かつ、加速劣化試験を行っても単結晶ジルコニアの増加率が小さく、人体内においても安定して長期間使用できることがわかる。
これに対し、試料No.4〜6は、単斜晶ジルコニアがほとんど存在していない。そのため、応力誘起変態機構を利用できず、曲げ強度および破壊靱性が上記試料No.1〜3よりも低く、また、加速劣化試験後に単斜晶ジルコニア量が増加していることがわかる。
試料No.7〜9は、Si含有α−アルミナが存在しておらず、試料No.8では、強度の低いものとなっている。このことから、試料No.7、9も強度が低くなっているものと思われる。
試料No.10〜12は、単斜晶ジルコニアが少なく、かつSi含有α−アルミナも存在しない例である。この場合、表2のNo.11に示される様に曲げ強度が低く、かつ加速劣化試験後の単斜晶ジルコニア量が増加していることがわかる。
これらの結果を用いて、曲げ強度と、加速劣化試験前→後の単斜晶ジルコニアの増加率を対比したグラフを図1に示す。
この図1から、No.1〜3は、曲げ強度が十分に高く、かつ加速劣化試験前→後のジルコニア相中の単斜晶ジルコニアの増加が抑えられ、結晶相が安定していることがわかる。
これに対し、No.4〜6は、曲げ強度がやや劣り、No.4では、上記単斜晶ジルコニアの増加率がNo.1〜3よりも高い。No.5、6では、上記単斜晶ジルコニアの増加率がNo.1〜3よりも著しく高くなっていることがわかる。
一方、No.8は、上記単斜晶ジルコニアの増加は抑えられているが、曲げ強度がかなり低いものとなっている。またNo.11は、No.8よりは曲げ強度が高いが、上記単斜晶ジルコニアの増加率が著しく高くなっている。
尚、ストロンチウムアルミネートが存在しない4相系の場合にも、強度(曲げ強度)と破壊靱性値の高い焼結体とはならないことを確認している。

Claims (6)

  1. α−アルミナ、Si含有α−アルミナ、ストロンチウムアルミネート、正方晶ジルコニア、および単斜晶ジルコニアを含むことを特徴とするアルミナ−ジルコニア複合焼結体。
  2. 前記単斜晶ジルコニアの含有量が0.2体積%以上である請求項1に記載のアルミナ−ジルコニア複合焼結体。
  3. 前記ストロンチウムアルミネートは、アルカリ土類金属および遷移金属元素よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいる請求項1または2に記載のアルミナ−ジルコニア複合焼結体。
  4. 前記α−アルミナおよびSi含有α−アルミナからなるアルミナ相の平均結晶粒径が0.5μm以下、かつ前記正方晶ジルコニア、および単斜晶ジルコニアからなるジルコニア相の平均結晶粒径が0.25μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載のアルミナ−ジルコニア複合焼結体。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のアルミナ−ジルコニア複合焼結体からなる生体部材。
  6. 請求項5の生体部材が人工関節の摺動部に用いられた人工関節。
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