以下、本発明の色素増感型太陽電池用電極基板、色素増感型太陽電池用電極基板の製造方法、及び色素増感型太陽電池それぞれの形態について、図面を適宜参照しつつ、順次説明する。
<色素増感型太陽電池用電極基板及びその製造方法(第1形態)>
図1は、本発明の色素増感型太陽電池用電極基板の基本的な断面構造の一例を示す概略図である。図示の色素増感型太陽電池用電極基板20(以下、「電極基板20」と称する。)は、複数のセルが電気的に並列に接続された色素増感型太陽電池を得るために用いることができるものである。
この電極基板20では、透明基材1の片面に1つの透明電極3が形成されており、透明電極3上には複数の濡れ性変化層5が並列に形成されている。各濡れ性変化層5の表面は部分的に1箇所、相対的に濡れ性が高められており、相対的に濡れ性が高められた領域それぞれの上に多孔質半導体電極7が形成されている。結果として、個々の濡れ性変化層5上に1つずつ多孔質半導体電極7が形成されている。各多孔質半導体電極7は多数の半導体微粒子を用いて形成されたものであり、多孔質半導体電極7を形成している半導体微粒子7aの表面には色素9が担持されている。また、1つの多孔質半導体電極7に1つずつ対応するようにして、複数のリード線11が透明電極3上に形成されており、各リード線11の外表面には保護層13が設けられている。なお、図1においては、便宜上、各半導体微粒子7aに担持されている色素9を1つの層として描いている。以下、電極基板20及びその製造方法について詳述する。
(1)透明基材
透明基材1は、紫外域から赤外域に亘る波長域中の所望の波長域の光を平均値で概ね85%以上透過させ、かつ、所望の耐光性及び耐候性を有するものであることが好ましく、無機材料又は有機材料を用いて、また必要に応じて各種の添加剤を併用して、種々の方法により形成することができる。上記「所望の波長域」は、多孔質半導体電極7及び色素9それぞれの吸収波長域を考慮して適宜選定可能である。
具体的には、石英ガラス板、パイレックス(登録商標)ガラス板、合成石英板等の可撓性のない透明なリジット材を透明基材1として用いることも可能であるが、電極基板20の可撓性を高めるという観点からは、透明ガラスシート又は透明樹脂フィルムを用いる方が好ましく、特に透明樹脂フィルムを用いることが好ましい。
上記の透明樹脂フィルムとしては、例えば、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体フィルム、ポリエーテルサルフォン(PES)フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルム、ポリエーテルイミド(PEI)フィルム、ポリイミド(PI)フィルム、ポリエステルナフタレート(PEN)フィルム、ポリカーボネート(PC)フィルム、環状ポリオレフィンフィルム等を用いることができる。電極基板20の製造コストを抑えるという観点からは、エンジニアリングプラスチックのような比較的高価な樹脂材料によって形成された透明樹脂フィルムを用いるよりも、比較的安価な樹脂材料によって形成された透明樹脂フィルムを用いた方が好ましい。透明基材1として透明樹脂フィルムを用いる場合、その膜厚は、電極基板20を用いて作製される色素増感型太陽電池の用途等に応じて、概ね15〜500μmの範囲内で適宜選定可能である。
なお、多孔質半導体電極7を形成する際には透明基材1も昇温するので、透明基材1の材料及び厚さを選定するにあたっては、その耐熱性をも考慮することが好ましい。
(2)透明電極
透明電極3は、色素増感型太陽電池に所望の波長域の光が照射されたときに、その上に形成されている各多孔質半導体電極7からキャリア(電子)受け取るもの、又は、その上に形成されている各多孔質半導体電極7にキャリア(正孔)を伝えるものであり、種々の導電性材料を用いて形成することが可能である。
光透過性及び導電性を考慮すると、透明電極3は、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)等によって形成することが好ましく、特にフッ素ドープ酸化スズ又はITOによって形成することが好ましい。透明電極3の膜厚は概ね0.1nm〜500nmの範囲内で適宜選定可能であり、そのシート抵抗は概ね15Ω/□以下のできるだけ低い値であることが好ましい。
電極基板20を製造するにあたっては、まず、片面に透明電極3が形成された透明基材1を用意する準備工程を行う。このような透明基材1は、自ら作製してもよいし、他で製造されたものを購入してもよい。
透明基材1の片面に自ら透明電極3を形成する場合には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(PVD法)等によって透明電極3を形成することができる。製造コストを抑えるという観点からは、イオンプレーティング法又はスパッタリング法により透明電極3を形成することが好ましい。
(3)濡れ性変化層
濡れ性変化層5は、後述する半導体電極形成用塗布液を用いて多孔質半導体電極7を形成する際に、この多孔質半導体電極7の形成位置を制御するためのものである。この濡れ性変化層5は、光照射によって表面の濡れ性を相対的に高めることが可能で、かつ、多孔質半導体電極7から透明電極3へのキャリア(電子)の移動又は透明電極3から多孔質半導体電極7へのキャリア(正孔)の移動を許容する材料によって形成される。
濡れ性変化層5によって多孔質半導体電極7の形成位置をできるだけ正確に制御するうえから、この濡れ性変化層5は、表面の濡れ性を変化させていない状態(所定波長域の光を照射していない状態を意味する。以下、「初期状態」という。)下での表面張力40mN/mの液体との接触角が10°以上であり、かつ、光照射によって表面張力40mN/mの液体との接触角が9°以下となるまで表面の濡れ性を高め得るものが好ましい。より好ましい濡れ性変化層5は、初期状態下での表面張力30mN/mの液体との接触角が10°以上で、光照射によって表面張力50mN/mの液体との接触角が10°以下となるまで表面の濡れ性を高め得るものであり、更に好ましい濡れ性変化層5は、初期状態下での表面張力20mN/mの液体との接触角が10°以上で、光照射によって表面張力60mN/mの液体との接触角が10°以下となるまで表面の濡れ性を高め得るものである。
なお、ここでいう液体との接触角は、種々の表面張力を有する液体(純正化学株式会社製のぬれ指数標準液)との接触角を接触角測定器(協和界面科学(株)製CA−Z型)を用いて測定(マイクロシリンジから液滴を滴下して30秒後)し、その結果から、もしくはその結果をグラフにして得たものである。
濡れ性変化層5の表面に相対的に濡れ性の高い領域(以下、「親水性領域」という。)と相対的に濡れ性の低い領域(以下、「撥水性領域」という。)とが分布していると、この濡れ性変化層5の上に半導体電極形成用塗布液を塗工したときに、実質的に、親水性領域上にのみ塗膜を形成することができる。撥水性領域上に塗工された半導体電極形成用塗布液は、濡れ性変化層5との付着性が低いので、容易に除去することができる。また、親水性領域上に塗膜された半導体電極形成用塗布液が疎水性領域上へ流動することが抑制される。
このような濡れ性変化層5の材料は、光照射によって表面の濡れ性を相対的に高めることができる層を形成し得る材料であれば特に限定されるものではない。濡れ性変化層5の材料の具体例としては、例えば、(i)ゾルゲル反応等によりクロロシランやアルコキシシラン等を加水分解、重縮合して得られるオルガノポリシロキサン、(ii)撥水牲や撥油性に優れた反応性シリコーンを架橋したオルガノポリシロキサン、(iii) フルオロアルキルシラン等を用いた撥水性を示す自己組織化膜、等を挙げることができる。
上記の(i)の材料としては、一般式YnSiX(4−n)(式中、Yはアルキル基、フルオロアルキル基、ビニル基、アミノ基、フェニル基、又はエポキシ基を示し、Xはアルコキシル基、アセチル基、又はハロゲン原子を示す。nは0〜3までの整数である。)で示されるケイ素化合物の1種又は2種以上の加水分解縮合物もしくは共加水分解縮合物であるオルガノポリシロキサンが好ましい。なお、上記の一般式中のYで示される基の炭素数は1〜20の範囲内であることが好ましく、また、Xで示されるアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基であることが好ましい。また、特にフルオロアルキル基を含有するポリシロキサンが好ましく用いることができ、一般にフッ素系シランカップリング剤として知られたものを使用することができる。
電極基板20を製造するにあたっては、前述した準備工程に引き続いて、濡れ性変化層5の元となる濡れ性変化層(以下、「前駆層」という。)を、透明電極3の表面の少なくとも一部を覆うようにして、かつ、この前駆層の表面の少なくとも一部が多孔質半導体電極7の平面視上の形成領域となるようにして形成する濡れ性変化層形成工程を行う。また、この濡れ性変化層形成工程に引き続いて、前駆層の表面のうちで多孔質半導体電極7の平面視上の形成領域に相当する領域を選択的に露光して、この領域の濡れ性を相対的に高める選択露光工程を行う。この選択露光工程を行うことにより、前記の前駆層を濡れ性変化層5とすることができる。
上記の前駆層は、例えば、上述した濡れ性変化層5の材料を溶剤中に分散して塗布液(以下、「濡れ性変化層形成用塗布液」という。)を調製し、透明電極3まで形成された透明基材1上に前記の濡れ性変化層形成用塗布液を塗布して塗膜を形成した後にこの塗膜を乾燥させることによって、形成することができる。濡れ性変化層形成用塗布液には、必要に応じて、所望の添加剤を含有させることができる。前駆層の厚みは、前述した親水性領域をできるだけ短時間で形成するという観点から、概ね0.001μm〜1μmの範囲内であることが好ましく、特に、概ね0.005〜0.1μmの範囲内であることが好ましい。
前駆層の表面を選択的に露光するにあたっては、光触媒含有層を有するフォトマスクを用い、かつ、このフォトマスクを、前記の光触媒含有層が前駆層の表面側に位置するように配置することが好ましい。
上記のフォトマスクは、少なくとも光触媒含有層とマスクパターンとを有するものであればどのような形態でもよい。通常は、マスクパターンを覆うようにして薄膜状の光触媒含有層が形成されたものである。必要に応じて、光触媒含有層を所望形状にパターニングしてもよい。光触媒含有層を除いたフォトマスクの構成は、例えば、ガラス板等の透明基材の片面に金属クロム等でマスクパターンを形成した構成とすることができる。また、印刷用途では、製版用フィルム等の所定箇所に光触媒含有層を形成したものを上記のフォトマスクとして用いることもできる。
光触媒含有層は、例えば、光触媒を結着剤中に分散させて形成することができる。光触媒が光励起されたときに結着剤が分解されないように、前記の結着剤としては、光触媒の光酸化作用に対して十分な抵抗性を有する材料を用いることが好ましい。
上記の光触媒としては、光半導体として知られている酸化チタン(TiO2 )、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2 )、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3 )、酵化タングステン(WO3 )、酸化ビスマス(Bi2O3)、酸化鉄(Fe2O3)のような金属酸化物からなるものが挙げられ、特に酸化チタンが好ましい。酸化チタンは、バンドギャッブエネルギーが高く、化学的に安定であり、毒性もなく、入手も容易である。アナターゼ型及びルチル型のいずれの酸化チタンも使用することができるが、アナターゼ型酸化チタンの方が好ましい。光触媒としてアナターゼ型酸化チタンを用いる場合、その粒径が小さいものの方が光触媒反応が効率的に起こるので、粒子径の小さいものを用いることが好ましい。具体的には、平均粒子径が50nm以下のものが好ましく、20nm以下のものが更に好ましい。このようなアナターゼ型酸化チタンの具体例としては、例えば、塩酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(石原産業社製のSTS−02、平均結晶子径7nm)、硝酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(日産化学社製のTA−15、平均結晶子径12nm)を挙げることができる。
上述の結着剤としては、結着剤の主骨格が上記の光触媒の光励起により分解されないような高い結合エネルギーを有するものが好ましく、例えば、オルガノポリシロキサンなどを挙げることができる。
結着剤層としてオルガノアルコキシシランからなるものを用いる場合には、その少なくとも10〜30質量%が2官能性シリコーン前駆体(例えばジアルコキシジメチルシラン)から構成されるものを用いることがより好ましい。オルガノアルコキシシランをゾルゲル法等に使用する場合には、3官能性シリコーン前駆体であるトリアルコキシメチルシラン等を主成分としたものを用いることによって、架橋密度を向上させることができる。
また、無定形シリカ前駆体を結着剤として用いることもできる。この無定形シリカ前駆体としては、一般式SiX4 (式中、Xはハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基、又はアセチル基を表す。)で表されるケイ素化合物、このケイ素化合物の加水分解物であるシラノール、又は、平均分子量3000以下のポリシロキサンが好ましい。具体例としては、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラメトキシシラン等が挙げられる。無定形シリカ前駆体を結着剤として用いて光触媒含有層を形成する際には、例えば、無定形シリカの前駆体と光触媒の粒子とを非水性溶媒中に均一に分散させて塗布液を調製し、この塗布液を基材上に塗布して塗膜を形成する。この後、空気中の水分によって塗膜中で加水分解反応が進行してシラノールが形成されるので、その後に常温で脱水縮重合させる。これにより、光触媒含有層を形成することができる。シラノールの脱水縮重合を100℃以上で行えば、シラノールの重合度が増し、膜表面の強度を向上させることができる。無定形シリカ前駆体は、他の結着剤と同様に、単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
オルガノシロキサン及び無定形シリ力の少なくとも一方と光触媒とを含む光触媒含有層においては、光触媒の量を概ね5質量%〜60質量%の範囲内とすることが好ましく、概ね20質量%〜40質量%とすることがより好ましい。
結着剤を含有した光触媒含有層は、光触媒及び結着剤を溶剤中に分散、溶解して塗布液(以下、「光触媒コーティング剤」という。)を調製し、この光触媒コーティング剤によって形成した塗膜を乾燥させることによって形成することができる。光触媒コーティング剤に用いる溶剤としては、例えばエタノール、イソプロパノール等のアルコール系有機溶剤を挙げることができる。また、必要に応じて、チタン系、アルミニウム系、ジルコニウム系、クロム系のカップリング剤を併用することができる。光触媒コーティング剤は、スプレーコート、ディップコート、ロールコート、ビードコートなどの方法によりフォトマスクに塗布することができる。また結着剤として紫外線硬化型の成分を含有している場合には、塗膜に紫外線を照射して硬化処理を行うことにより、基材上に光触媒含有層を形成することができる。
光触媒含有層は、結着剤を使用せずに、光触媒単独(例えば酸化チタン単独)で形成することも可能である。例えば、基材上に無定形酸化チタンを形成し、次いで焼成により結晶性酸化チタンに相変化させることにより、酸化チタン単独で光触媒含有層を形成することができる。
上記の無定形酸化チタンは、例えば、(i)四塩化チタン、硫酸チタン等のチタンの無機塩を加水分解、脱水縮合させることにより、又は、(ii)テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラメトキシチタン等の有機チタン化合物を酸存在下において加水分解、脱水縮合することにより、得ることができる。この無定形酸化チタンを400℃〜500℃程度で焼成するとアナターゼ型酸化チタンに変成させることができ、600℃〜700℃程度で焼成するとルチル型酸化チタンに変成させることができる。
また、スパッタリング法、CVD法、真空蒸着法等の真空製膜法によっても、光触媒のみからなる光触媒含有層を形成することができる。真空製膜法により光触媒含有層を形成することにより、光触媒のみを含有する均一な光触媒含有層を得ることが可能である。このような光触媒含有層を有するフォトマスクを使用して濡れ性変化層の元となる前駆層の表面を選択的に露光することにより、前駆層の表面の所望領域の濡れ性を均一に高めることが容易になる。また、光触媒含有層が光触媒のみからなることから、結着剤を含有した光触媒含有層に比べて、前記の前駆層表面の所望領域の濡れ性を効率的に高めることが容易になる。
光触媒含有層を有するフォトマスクを用いての前駆層表面の選択的な露光は、光触媒を光励起させることができる光源を用いて行う。例えばアナターゼ型酸化チタンの励起波長は380nm以下にあるので、光触媒含有層に含まれる光触媒がアナターゼ型酸化チタンの場合には、紫外線を放射する光源を用いて前駆層表面の選択的な露光を行うことが必要である。紫外線を発する光源の具体例としては、例えば水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ、エキシマレーザー、YAGレーザー等が挙げられる。
ここで、前駆層の表面の濡れ性が露光によって相対的に高くなる理由を、前駆層がフッ素系シリコーンによって形成されている場合を例にとり、簡単に説明しておく。この場合、露光前の前駆層表面はCF3 基で覆われているので、その濡れ性は低い。すなわち、この段階の前駆層表面は、全体に亘って、撥水性領域となっている。光触媒含有層を有するフォトマスクを用いて前駆層の表面を選択的に露光すると、光触媒の作用によって露光光の照射領域中に水酸基(OH基)が生成され、この水酸基が前駆層表面のCF3 基に代わって結合して、前駆層表面のうちで露光されて領域のみが親水性領域に変化するものと考えられる。なお、光触媒の作用機構は必ずしも明確なものではないが、光の照射によって生成したキャリアが近傍の化合物と直接反応して、あるいは、酸素、水の存在下で生じた活性酸素種によって、有機物の化学構造に変化を及ぼすものと考えられている。
光触媒含有層を有するフォトマスクを介して露光を行うことにより、光触媒含有層を有していないフォトマスクを介して露光を行った場合に比べて前駆層の表面の濡れ性変化反応が大幅に促進されるので、短時間の露光で濡れ性変化反応を終了させることが可能となる。比較的短時間のうちに、前駆層を濡れ性変化層5とすることができる。
なお、濡れ性変化層5の平面視上の大きさは、多孔質半導体電極7の平面視上の大きさと同じにすることもできるし、図1に示したように、多孔質半導体電極7の平面視上の大きさよりも大きくすることもできる。いずれの場合でも、濡れ性変化層5の元となる前駆層の平面視上の大きさは、目的とする濡れ性変化層5の平面視上の大きさと同等又はそれ以上にする。前駆層の平面視上の大きさを目的とする濡れ性変化層5よりも大きくした場合には、例えば、後述する多孔質半導体電極形成工程まで行った後に、多孔質半導体電極27の平面視上の形成領域の外側に位置する濡れ性変化層(濡れ性変化層のうち選択露光工程で露光されなかった部分)を除去する非露光部除去工程を行うことが好ましい。
濡れ性変化層の不要部分の除去方法は、濡れ性変化層の材料に応じて適宜選択可能である。例えば、濡れ性変化層の材料がシリコーンである場合には、アルカリ性の現像液等を用いて不要部分を選択的にエッチング除去する。濡れ性変化層の不要部分を除去することにより、所望形状の濡れ性変化層5が得られる。
(4)多孔質半導体電極
多孔質半導体電極7は、光励起された色素9からキャリア(電子)を受け取るためのもの、又は、光励起された色素9にキャリア(正孔)を伝えるためのものである。この多孔質半導体電極7は、単一成分の層とすることもできるし、混合物の層とすることもできる。更には、複数の多孔質半導体膜の積層物とすることもできる。多孔質半導体電極7の導電型は、通常、N型である。
多孔質半導体電極7の材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウムスズ、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化セシウム、酸化ビスマス、酸化マンガン、酸化イットリウム、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ランタン等の金属酸化物半導体の微粒子を用いることができる。これらの金属酸化物半導体微粒子は、多孔質半導体電極を形成するのに適しており、色素増感型太陽電池のエネルギー変換効率の向上、コストの削減を図ることができるため好ましい。電極基板20を用いた色素増感型太陽電池の耐久性や、電極基板20を製造する際の安全性及び経済性等を考慮すると、多孔質半導体電極7の材料としては酸化チタン微粒子が好ましく、特に、アナターゼ型の酸化チタン微粒子が好ましい。なお、本発明でいう「半導体微粒子」は、微粒子形状の半導体を含む他に、不定形の微小半導体や微粉末状の半導体をも含むものとする。
色素増感型太陽電池の光電変換効率を高めるという観点からは、多孔質半導体電極7を、量子サイズ効果が発現するメソスコピックな多孔質にすることが好ましい。図1においては、多孔質半導体電極7を多数の半導体微粒子7aによって形成された多孔質体として描いている。
電極基板20を製造するにあたっては、前述した選択露光工程に引き続いて、濡れ性変化層5の表面のうち選択露光工程で選択的に露光された領域上に、多数の半導体微粒子を含有した半導体電極形成用塗布液による塗膜を形成し、この塗膜を乾燥させて多孔質半導体電極7を得る多孔質半導体電極形成工程を行う。
多孔質半導体電極7は、例えばゾルゲル法によって形成することも可能であるが、ゾルゲル法によって形成する場合には比較的高温での焼結処理が必要となるので、透明基材1の耐熱性が低い場合には不向きである。上記の半導体電極形成用塗布液を用いれば、透明基材1の耐熱性が比較的低くても、多孔質半導体電極7を形成することが可能である。
必要に応じて、半導体電極形成用塗布液には、多孔質半導体電極7において光散乱中心(図示せず。)として機能する微粒子を含有させることができる。多孔質半導体電極7にこの微粒子を組み込むことにより、色素9の光励起に寄与する光量を増大させることができ、結果として、色素増感型太陽電池の光電変換効率を向上させることができる。光散乱中心として機能する微粒子の具体例としては、例えば粒子径が概ね50〜200nmの酸化チタン微粒子を挙げることができる。
上述した半導体電極形成用塗布液は、例えば、(i)所定の溶媒中で半導体微粒子を結晶化微粒子として析出させてゾル液とする方法、又は(ii)半導体微粒子をボールミル、サンドミル、ロールミル等で適当な分散媒と混合し、混練機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー等の公知の分散機により分散媒中に分散させて分散液とする方法、によって調製することができる。上記(ii)の方法によって半導体電極形成用塗布液を調製するにあたって、使用する半導体微粒子が凝集していた場合には、分散液を得るまでの工程の適当な時期、例えば分散媒と混合する前や、分散媒と混合する過程で、あるいは分散媒と混合した後に、凝集している半導体微粒子をほぐすことが好ましい。上記(i)のゾル液と上記(ii)の分散液とを混合して半導体電極形成用塗布液を調製することもできる。
透明基材1の耐熱性が比較的低い場合、半導体電極形成用塗布液での分散媒としては、例えば、(a)クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系分散媒、(b)テトラヒドロフラン等のエーテル系分散媒、(c)トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系分散媒、(d)アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系分散媒、(e)酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系分散媒、(f)イソプロピルアルコール(IPA)、エチルアルコール、メチルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系分散媒、(g)その他(N−メチル−2−ピロリドン、及び純水等)、を用いることが好ましい。半導体電極形成用塗布液に後述の結着剤を含有させる場合には、この結着剤を溶解させることが可能な分散媒を用いる。
多孔質半導体電極7と濡れ性変化層5との密着性や、多孔質半導体電極7自体の機械的強度を向上させるために、半導体電極形成用塗布液には、高分子材料からなる結着剤を溶解させることができる。例えば、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂や、ポリエチレングリコールのような多価アルコール類を結着剤として使用することができる。半導体電極形成用塗布液での結着剤の含有量は極力少ない方が好ましい。具体的には、半導体電極形成用塗布液に含まれる全固形分に対する結着剤の割合を0.5質量%以下とすることが好ましく、0.2質量%以下とすることが更に好ましい。
その他にも、半導体電極形成用塗布液には、塗工適性を向上させるために各種の添加剤を含有させることができる。この添加剤としては、例えば、界面活性剤、粘度調整剤、分散助剤、pH調整剤等を用いることができる。例えば、pH調整剤としては、硝酸、塩酸、酢酸、ジメチルホルムアミド、アンモニア等を用いることができる。
塗膜の形成位置をできるだけ正確に制御すると共に、1回の塗工で所望膜厚の多孔質半導体電極7を形成するという観点から、半導体電極形成用塗布液の粘度は、例えばJIS Z8803に記載の共軸二重円筒形等の粘度測定装置により測定した粘度で概ね1×10−5〜100N・s/m2 の範囲内となるように、更に好ましくは、概ね1×10−4〜10N・s/m2 の範囲内となるように、調整することが望ましい。
半導体電極形成用塗布液の塗工は、電界ジェット法、インクジェット、ダイコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、ロールコート、リバースロールコート、バーコート、ブレードコート、ナイフコート、エアナイフコート、スロットダイコート、スライドダイコート、ディップコート、マイクロバーコート、マイクロバーリバースコート、スクリーン印刷(ロータリー方式)、スプレーコート等、種々の方法により行うことができる。できるだけ必要箇所にのみ半導体電極形成用塗布液の塗膜を形成するという観点からは、電界ジェット法やインクジェット法によって半導体電極形成用塗布液を塗工することが好ましい。
濡れ性変化層5の表面のうちで多孔質半導体電極7を形成しようとする領域は、前述したように選択的に露光されて相対的に濡れ性の高い領域(親水性領域)となっている。したがって、半導体電極形成用塗布液を上記の方法によって濡れ性変化層5上に塗布したときには、概ね、多孔質半導体電極7を形成しようとする領域(親水性領域)上にのみ塗膜が形成される。半導体電極形成用塗布液の粘度を上述の範囲内とすることにより、所望領域上に更に正確に塗膜を形成することができ、かつ、形状保持能力が比較的高い塗膜を形成することができる。
この後、塗膜を乾燥することにより、多孔質半導体電極7を得ることができる。塗膜の乾燥は、透明基材1の耐熱温度以下で行う必要がある。具体的には、概ね100℃以上、透明基材1の耐熱温度以下の温度範囲内で加熱乾燥することが好ましい。
なお、透明基材1の耐熱性が比較的高い場合には、塗膜を概ね400〜600℃で焼成又は焼結することによって多孔質半導体電極7を得ることもできる。この場合、濡れ性変化層5のうち選択的露光工程で露光されなかった箇所(露光されなかった表面及びその下部)は、焼成又は焼結の際に熱分解し、除去される。
(5)色素
色素9は、多孔質半導体電極7を増感させるためのものである。この色素9としては、(A)その吸収波長域が多孔質半導体電極7の吸収波長域よりも長波長側にまで及んでいるもの、(B)多孔質半導体電極7がN型半導体である場合には、光励起されたときの電子のエネルギー準位が多孔質半導体電極7の伝導帯端の位置よりも高いもの、(C)多孔質半導体電極7がN型半導体である場合には、多孔質半導体電極7へキャリア(電子)を注入するのに要する時間が多孔質半導体電極7からキャリア(電子)を再捕獲するのに要する時間に比べて短いもの、が好ましい。
例えば多孔質半導体電極7がアナターゼ型の酸化チタンによって形成されている場合、色素9としては、下式(I)によって表されるルテニウム錯体を用いることが好ましい。
電極基板20を用いて光電変換効率の高い色素増感型太陽電池を得るという観点からは、上記の式(I)で示されるルテニウム錯体の中でも、XがNCS(チオシアネート)である(シス−ジ(チオシアネート)−N、N’−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)を用いることが特に好ましい。
勿論、上述したルテニウム錯体以外の金属錯体色素や、有機色素を使用することもできる。有機色素の具体例としては、例えば、アクリジン系、アゾ系、インジゴ系、キノン系、クマリン系、メロシアニン系、フェニルキサンテン系の色素が挙げられる。これらの有機色素の中でも、クマリン系の色素が好ましい。
電極基板20を製造するにあたっては、前述した多孔質半導体電極形成工程に引き続いて、多孔質半導体電極7を形成している半導体微粒子7aの表面に上述の色素9を担持させる色素担持工程を行う。光電変換効率の高い色素増感型太陽電池を得るという観点からは、できるだけ多くの半導体微粒子7aに色素9を担持させることが好ましく、特に、多孔質半導体電極7を形成している半導体微粒子7aそれぞれの表面に色素9を担持させることが好ましい。
そのためには、多孔質半導体電極7の細孔内表面にまで色素9を吸着させることが可能な方法によって、多孔質半導体電極7に色素9を担持させることが好ましい。例えば、(A)色素の溶液(以下、「色素担持用塗工液」という。)を調製し、この色素担持用塗工液に各多孔質半導体電極7まで形成した透明基材1を浸漬し、その後に乾燥するという方法、あるいは、(B)色素担持用塗工液を塗布、噴射、又は噴霧等の方法によって各多孔質半導体電極7に接触、浸透させ、その後に乾燥するという方法、等によれば、各多孔質半導体電極7の細孔内表面にまで色素9を吸着させることができ、半導体微粒子7aそれぞれの表面に色素9を担持させることも可能である。
色素担持用塗工液は、用いる色素の種類に応じて水系溶媒及び有機系溶媒のいずれかを適宜選択して、調製する。必要に応じて、各多孔質半導体電極7まで形成した透明基材1の色素担持用塗工液への浸漬、又は、各多孔質半導体電極7への色素担持用塗工液の塗布、噴射、もしくは噴霧等を複数回に分けて行うことができる。前記の浸漬、塗布、噴射、又は噴霧を複数回に分けて行う場合、各多孔質半導体電極7に付着、浸透した塗布液の乾燥は、必要回数の浸漬、塗布、噴射、又は噴霧が終了するまで行わずに、最後に行うことが好ましい。また、前記の浸漬、塗布、噴射、又は噴霧を複数回に分けて行う場合には、色素担持用塗工液での色素濃度や塗布液の液温等を途中で適宜変更することができる。
光電変換効率の高い色素増感型太陽電池を得るうえからは、色素9を単分子膜の状態で半導体微粒子7aに担持させることが好ましく、そのためには、半導体微粒子7aに担持された余分な色素9を、色素担持用塗工液の調製に使用し得る溶媒によって洗浄除去することが好ましい。前記の浸漬、塗布、噴射、又は噴霧を複数回に分けて行う場合には、所望の時期に余分な色素9の洗浄除去を行うことができるが、毎回行うことが好ましい。
各多孔質半導体電極7に予め表面処理を施しておくことにより、色素9から多孔質半導体電極7へのキャリア(電子)の移動速度を高めることが可能である。各多孔質半導体電極7に色素9を担持させた後にこれら多孔質半導体電極7及び色素9に所定の処理、例えば、多孔質半導体電極7が酸化チタンによって形成され、色素9が前述したルテニウム錯体である場合には、t−ブチルピリジン等の塩基による処理を施すことにより、電極基板20を用いた色素増感型太陽電池の光電変換効率を向上させることが可能である。
(6)リード線及び保護層
リード線11は、多孔質半導体電極7から透明電極3に移動した電子を集電して電気的に並列に出力するためのものであり、1つの多孔質半導体電極7に1つずつ対応するようにして、対応する多孔質半導体電極7の近傍に配置されている。個々のリード線11は、対応する多孔質半導体電極7の延在方向とほぼ平行な方向に延在している。
これらのリード線11は、透明電極3よりも導電性の高い単体金属又は合金、例えば銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、金(Au)、銀(Ag)、ステンレス、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)等によって形成することができ、これらの金属又は合金の中でも、導電性が高い材料である銅、ニッケル、ステンレス、チタン等を用いて形成することが好ましい。電極基板20の製造コストを抑えるという観点からは、安価な導電性材料である銅、ニッケル、ステンレスを用いることが好ましい。
各リード線11は、例えば、大形の蒸着膜(物理気相成長法又は化学気相成長法(CVD法)によって形成された膜を意味する。以下同じ。)を透明電極3上に形成し、この蒸着膜を例えばフォトリソグラフィー法で形成したエッチングマスクを用いて所望形状にエッチングすることにより、あるいは、所定形状のマスクを用いた物理気相成長法もしくは化学気相成長法で蒸着膜を成膜することにより、形成することができる。各リード線11の形成は、前述した濡れ性変化層形成工程の前及び後のいずれの時期に行うことも可能であるが、濡れ性変化層形成工程の前に行った方が所望のリード線11を形成し易い。
一方、保護層13は、電極基板20を用いて色素増感型太陽電池を作製したときに、電解質からリード線11を保護するためのものである。このため、保護層13は、例えば(i)窒化ケイ素や窒化アルミニウム等の窒化物、(ii)ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、金(Au)、白金(Pt)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、カドミウム(Cd)、タングステン(W)、スズ(Sn)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)等の単体金属、(iii) 前記の単体金属の2種又は3種以上からなる合金、等のように、電解質に対して耐食性を有する材料によって形成される。
保護層13の形成は、例えば、各リード線11を覆うようにして大形の蒸着膜を等方的に形成し、この蒸着膜を例えばフォトリソグラフィー法で形成したエッチングマスクを用いて異方的にエッチングすることにより、あるいは、所定形状のマスクを用いた物理気相成長法もしくは化学気相成長法で所望材料の蒸着膜を各リード線11の外表面(上面及び各側面)に成膜することにより、形成することができる。更には、電気めっき、無電界めっき、又は化成処理によっても形成することができる。必要に応じて、保護層13にはクロメート処理等の表面処理を施すことができる。なお、無電界めっきによって保護層13を形成する場合には、リード線11の外表面以外の場所にもめっき層が形成されるので、エッチング、リフトオフ等の方法によって、不要箇所に形成されためっき層を除去する。
色素増感型太陽電池の電解質からリード線11を保護するうえからは、保護層13をできるだけ緻密な層にすることが好ましい。透明基材1の耐熱性が比較的低い場合でも、電気めっき、無電界めっき、又は化成処理によって保護層13を形成することにより、比較的緻密な保護層13を得ることができる。
保護層13の形成は、前述した濡れ性変化層形成工程の前及び後のいずれの時期に行うことも可能であるが、濡れ性変化層形成工程の前に行った方が所望の保護層13を形成し易い。
(7)任意部材
必要に応じて、電極基板20にはガスバリア層や補助電極等を形成することができる。以下、これらの任意部材について説明する。
(a)ガスバリア層
ガスバリア層は、電極基板20を用いて色素増感型太陽電池を作製したときに、電極基板20を通して酸素や水分が色素増感型太陽電池内に侵入すること、及び、色素増感型太陽電池で使用される電解質が電極基板20を通して外部に揮散すること、を防止するためのものであり、透明基材1と透明電極3との間又は透明基材1の背面(透明電極3が形成されている面とは反対側の面を意味する。)に設けることができる。
このガスバリア層の酸素透過率は概ね1cc/m2 /day・atm(約10ml/m2 /day/MPa)以下であることが好ましく、その水蒸気透過率は概ね1g/m2 /day以下であることが好ましい。このようなガスバリア層は、所望の有機材料の蒸着膜又はフィルムによって、あるいは、所望の無機材料の蒸着膜によって、形成することができる。
色素増感型太陽電池内への酸素の侵入を防止することにより、色素9や電解質の劣化が抑制されるので、色素増感型太陽電池の性能の経時的低下を抑制することができる。また、水分の侵入を抑制することにより、例えば透明電極3をITOのように比較的水分によって劣化し易い材料によって形成した場合でもその性能の経時的低下が抑制されるので、色素増感型太陽電池の性能の経時的低下を抑制することができる。
(b)補助電極
補助電極は、電極基板20の導電性を高めるためのものであり、透明電極3と接するようにして、透明基材1と透明電極3との間に設けられる。補助電極の材料としては、透明電極3よりも導電性の高い種々の金属又は合金を用いることができる。補助電極の平面視上の形状は、色素9への入射光量の低下をできるだけ抑制するという観点から、格子状、網目状、平行ストライプ状等、多数の細線が組み合わされた形状とすることが好ましい。
このような補助電極は、例えば大形の蒸着膜を透明基材1上又は上記のガスバリア層上に設け、この蒸着膜を例えばフォトリソグラフィー法で形成したエッチングマスクを用いつつ所望形状にエッチングすることにより、あるいは、所定形状のマスクを用いた物理気相成長法もしくは化学気相成長法で所望材料の蒸着膜を透明基材1上又は上記のガスバリア層上に成膜することにより、形成することができる。さらには、所望の金属箔を透明基材1上又は上記のガスバリア層上に接着剤を用いて接合し、この金属箔を例えばフォトリソグラフィー法で形成したエッチングマスクを用いつつ所望形状にエッチングすることによっても、形成することができる。
(c)腐食防止層
腐食防止層は、上述の補助電極を設けたときに、この補助電極が色素増感型太陽電池の電解質によって腐食されるのを防止するためのものであり、前述した保護層13と同様にして、少なくとも補助電極の外表面を覆うように形成される。必要に応じて、補助電極の下地となっている層の表面のうちで補助電極によって覆われていない領域上にも、腐食防止層を形成することができる。
以上説明した電極基板20は、既に説明した本発明の色素増感型太陽電池用電極基板の1種であるので、本発明の色素増感型太陽電池用電極基板についての説明の中で述べた技術的効果を奏する。
<色素増感型太陽電池用電極基板及びその製造方法(第2形態)>
図2は、本発明の色素増感型太陽電池用電極基板の他の基本的な断面構造を示す概略図である。図示の色素増感型太陽電池用電極基板30(以下、「電極基板30」と称する。)は、複数のセルが電気的に直列に接続された色素増感型太陽電池を得るために用いることができるものである。
この電極基板30は、(1)透明基材21の片面に複数の透明電極23が形成されている点、(2)1つの透明電極23上に1つずつ濡れ性変化層25が形成され、かつ、各透明電極23の上面のうちの所定の縁部に、濡れ性変化層25が形成されていない領域23aが存在する点、及び、(3)リード線11及び保護層13が形成されていない点で、上述した第1形態の電極基板20と異なる。
上記(1)〜(3)の相違点を除いた他の構成は電極基板20の構成と同様であるので、図2に示した各部材のうちで図1に示した部材と機能上共通するものについては、図1で用いた参照符号の数値に20を加えた参照符号を付してその説明を省略する。
この電極基板30は、透明基材21上に複数の透明電極23を形成し、かつ、リード線11及び保護層13を形成しない以外は、電極基板20と同様にして製造することができる。
複数の透明電極23は、例えば、透明基材21の片面に所望材料によって大形の蒸着膜を形成し、この蒸着膜を例えばフォトリソグラフィー法で形成したエッチングマスクを用いて所望形状にエッチングすることにより、あるいは、所定形状のマスクを用いた物理気相成長法もしくは化学気相成長法によって透明基材21の片面に所望材料の蒸着膜を成膜することにより、形成することができる。
複数のセルが電気的に直列に接続された色素増感型太陽電池を得るためには、隣り合うセル同士を配線により電気的に接続することが必要であるので、各透明電極23には濡れ性変化層25が形成されていない領域23aが存在している。
領域23aは、濡れ性変化層25をこの領域23a上に初めから形成しないことにより、あるいは、領域23aを覆う大形の濡れ性変化層を一旦形成した後、この濡れ性変化層のうちで領域23a上に位置する領域を除去することにより、設けることができる。
大形の濡れ性変化層を一旦形成した後にその不要部分を除去することで領域23aを設ける場合には、第1形態の色素増感型太陽電池用電極基板20についての説明の中で述べた多孔質半導体電極形成工程まで行った後に、多孔質半導体電極27の平面視上の形成領域の外側に位置する濡れ性変化層、すなわち、濡れ性変化層のうち選択露光工程で露光されなかった部分を除去する非露光部除去工程を行うことが好ましい。
濡れ性変化層の不要部分の除去方法は、濡れ性変化層の材料に応じて適宜選択可能である。例えば、濡れ性変化層の材料がシリコーンである場合には、アルカリ性の現像液等を用いて不要部分を選択的にエッチング除去する。濡れ性変化層の不要部分を除去することにより、所望形状の濡れ性変化層25が得られると共に、透明電極23に領域23aを設けることができる。
以上説明した電極基板30も、上述した第1形態の電極基板20と同様に本発明の色素増感型太陽電池用電極基板の1種であるので、本発明の色素増感型太陽電池用電極基板についての説明の中で述べた技術的効果を奏する。
なお、上述した第1形態の電極基板20及び第2形態の電極基板30では、1つの濡れ性変化層5、25上に多孔質半導体電極7、27が1つのみ形成されているが、1つの濡れ性変化層上に複数の多孔質半導体電極を形成して色素増感型太陽電池用電極基板を得ることも可能である。
<色素増感型太陽電池(第1形態)>
図3は、本発明の色素増感型太陽電池の基本原理を示す概略図である。図示の色素増感型太陽電池100では、前述した第1形態の電極基板20が第1の電極基板として用いられ、透明基材42の片面に1つの第1導電膜44と複数の第2導電各46とが形成された色素増感型太陽電池用電極基板50(以下、「電極基板50」と称する。)が第2の電極基板として用いられる。
電極基板20の構成については既に説明したので、ここでは省略する。また、電極基板50における透明基材42及び第1導電膜44としては、それぞれ、前述した電極基板20での透明基材1又は透明電極3と同様のものを用いることができるので、これら透明基材42及び第1導電膜44についても、ここではその説明を省略する。
第1導電膜44上に形成される各第2導電膜46は、電極基板50の導電性を向上させるためのものであり、電極基板20における1つの多孔質半導体電極7に1つの第2導電膜46が対応するようにして、第1導電膜44上に並列に配置される。1つの多孔質半導体電極7と、この多孔質半導体電極7に対応する第2導電膜46とは、平面視上、ほぼ重なる。
第2導電膜46は、電極基板50を用いた色素増感型太陽電池で使用される電解質の種類に応じて、この電解質に対して耐食性を有する導電性材料を適宜選択して形成される。第2導電膜46の材料としては白金(Pt)が最も好ましいが、カーボン、導電性高分子等によって第2導電膜46を形成することもできる。電極基板50を用いて光電変換効率の高い色素増感型太陽電池を得るという観点からは、色素増感型太陽電池の電解質においてレドックス対を構成する一方のイオン種が光照射時にキャリアと反応して他方のイオン種を生成する際に触媒として機能し得る金属(例えば白金(Pt))によって、各第2導電膜46を形成することが好ましい。
個々の第2導電膜46は、例えば大形の蒸着膜を第1導電膜44上に設け、この蒸着膜を例えばフォトリソグラフィー法で形成したエッチングマスクを用いつつ所望形状にエッチングすることにより、あるいは、所望形状のマスクを用いた物理気相成長法もしくは化学気相成長法により所望材料の蒸着膜を第1導電膜44上に成膜することにより、形成することができる。第2導電膜46の膜厚は概ね1〜500nmの範囲内で適宜選定可能である。電極基板50の製造コストを抑えるという観点からは、所望形状のマスクを用いたスパッタリング法によって各第2導電膜46を形成することが好ましい。
電極基板20と電極基板50とは、電極基板20中の多孔質半導体電極7と電極基板50中の第2導電膜46とが互いに対向するようにして配置され、これらの電極基板20、50の間には、隣り合う多孔質半導体電極7同士の間及び隣り合う第2導電膜46の間に位置するようにして、複数のスペーサ48が配置される。リード線11及び保護層11は、スペーサ48によって覆われる。また、個々の多孔質半導体電極7とこの多孔質半導体電極7に対応する第2導電膜46との間には、電解質層90が介在する。なお、図示を省略しているが、色素増感型太陽電池100では、電解質層90を形成している電解質が漏出するのを防止するために、電極基板20、50の周囲が封止剤により封止される。
各スペーサ48は、例えばガラスや樹脂等、電解質に対して耐食性を有する材料によって形成されて電極基板20、50の間隔を所定の間隔に保ち、短絡を防止する。個々のスペーサ48は、電極基板20、50の一方に予め形成しておくこともできるし、色素増感型太陽電池100を組み立てる際に電極基板20、50の少なくとも一方に固着させて使用することもできる。また、スペーサ48が封止剤を兼ねることもできる。
電解質層90は、電極基板10と電極基板20との間に位置し、光励起された色素9によって還元される一方で、電極基板20を介して供給されるキャリア(電子)によって酸化されて、電極基板10と電極基板20とを含む閉回路の形成を可能にする。
この電解質層90の材料としては、キャリアの輸送に寄与するレドックス対を少なくとも含有した、色素増感型太陽電池に用いられる種々の電解質を用いることができ、その形態は液体状、固体状、及びゲル状のいずれでもよい。色素増感型太陽電池100の耐久性及び安定性の向上を図るという観点からは、常温溶融塩電解液又はゲル状の電解質を用いることが好ましい。
上記のレドックス対は、電解質に用いられるものであれば特に限定はされるものではなく、その原料の組合わせとしては、例えばヨウ素とヨウ化物との組合せ、又は、臭素と臭化物との組合せが挙げられる。例えば、ヨウ素とヨウ化物との組合せの具体例としては、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化カルシウム(CaI2 )等の金属ヨウ化物とヨウ素(I2 )との組合せを挙げることができる。また、臭素と臭化物との組合せの具体例としては、臭化リチウム(LiBr)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、臭化カルシウム(CaBr2 )等の金属臭化物と臭素(Br2 )との組合せを挙げることができる。
電解質層90の材料としてゲル状の電解質を用いる場合、この電解質は物理ゲル及び化学ゲルのいずれであってもよい。物理ゲルは物理的な相互作用により室温付近でゲル化しているものであり、化学ゲルは架橋反応等の化学結合でゲルを形成しているものである。物理ゲルは、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリレート等のゲル化剤を用いて作製することができ、化学ゲルとしては、アクリル酸エステル系、メタクリル酸エステル系のもの等を用いることができる。
また、電解質層90の材料として固体状の電解質を用いる場合、この電解質としては、ヨウ化銅(CuI)や、ポリピロール、ポリチオフェン等の正孔輸送性の高い導電性高分子を用いることが好ましい。
電解質層90の厚さは適宜選定可能であるが、電解質層90とこの電解質層90に対応する多孔質半導体電極7との厚さの合計が概ね2μm〜100μmの範囲内、その中でも、概ね2μm〜50μmの範囲内になるように、電解質層90の厚さを選定することが好ましい。上記の範囲よりも電解質層90の厚さが薄いと、多孔質半導体電極7と第2導電膜46とが接触し易くなるため、短絡の原因となる。また、電解質層90の厚さが上記の範囲よりも厚いと、色素増感型太陽電池100の内部抵抗が大きくなり、色素増感型太陽電池100の性能が低下する。
上述した電解質層90は、その材料に応じて、種々の方法により形成することができる。電解質層90の形成方法の具体例としては、多孔質半導体電極7を覆うようにして電解質層形成用塗工液を塗布し、乾燥させることで電解質層90を形成する方法(以下、「塗布法」と記載する場合がある。)、又は、多孔質半導体電極7と第2導電膜46とが所定の間隔を有するように電極基板20、50を配置し、電極基板20と電極基板50との間隙に電解質層形成用塗工液を注入することで電解質層90を形成する方法(以下、「注入法」と記載する場合がある。)等を挙げることができる。以下、これらの「塗布法」及び「注入法」について説明する。
(I)塗布法
塗布法は、主に固体状の電解質層90を形成するために用いられる方法であり、この塗布法で用いる電解質層形成用塗工液としては、少なくともレドックス対とこのレドックス対を保持する高分子とを含有したものが好ましい。また、電解質層形成用塗工液には、架橋剤、光重合開始剤等が添加されていることが好ましい。
電解質層形成用塗工液の塗布は、ダイコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、ロールコート、リバースロールコート、バーコート、ブレードコート、ナイフコート、エアナイフコート、スロットダイコート、スライドダイコート、ディップコート、マイクロバーコート、マイクロバーリバースコートや、スクリーン印刷(ロータリー方式)等、種々の方法によって行うことができる。
電解質層形成用塗工液に上述の光重合開始剤が含有されている場合には、この電解質層形成用工液を塗布した後に光重合開始剤を感光させることにより、電解質層90を形成することができる。
(II)注入法
注入法は、液体状、ゲル状、又は固体状の電解質層を形成するために用いられる方法であり、この方法で電解質層90を形成する際には、前述したスペーサ48を利用して、電極基板20と電極基板50とを予め所望の間隔に保持しておくことが好ましい。電解質層形成用塗工液の注入は、例えば毛細管現象を利用して行うことができる。ゲル状又は固体状の電解質層90を形成する場合には、電解質層形成用塗工液を注入した後に例えば温度調整、紫外線照射、電子線照射等を行って、二次元又は三次元の架橋反応を生じさせる。
上述した構成を有する色素増感型太陽電池100では、1つの多孔質半導体電極7と、この多孔質半導体電極7に対応する色素9、電解質層90、及び第2導電膜46とが、1つのセルを構成する。透明電極3及び第1導電膜44は、全てのセルに対応する。
図3においては図示を省略しているが、各リード線11は互いに並列接続された状態で負荷(外部負荷)に直列接続され、各第2導電膜46も互いに並列接続された状態で前記の負荷に直列接続される。光電変換によって各セルに生じたキャリア(電子)は、透明電極3によって集電された後、各リード線11によって電気的に並列に透明電極3から取り出される。
以上説明した色素増感型太陽電池100は、既に説明した本発明の色素増感型太陽電池の1種であるので、本発明の色素増感型太陽電池についての説明の中で述べた技術的効果を奏する。
<色素増感型太陽電池(第2形態)>
図4は、本発明の色素増感型太陽電池の他の基本原理を示す概略図である。図示の色素増感型太陽電池110は、(1)第2の電極基板として色素増感型太陽電池用電極基板60(以下、「電極基板60」と称する。)が用いられる点、及び、(2)電解質層90が複数のスペーサ48によって区分されることなく電極基板20と電極基板60との間に介在する点で、上述した第1形態の色素増感型太陽電池100と大きく異なる。他の構成は色素増感型太陽電池100の構成と同様であるので、共通する構成についての説明は、ここでは省略する。
第2の電極基板として用いられる電極基板60では、透明基材52の片面に1つの第1導電膜54と複数の第2導電膜56と複数のリード線58とが形成され、各リード線58は保護層59によって覆われる。
透明基材52及び第1導電膜54は、それぞれ、第1形態の色素増感型太陽電池100での透明基材42又は透明電極44と同様にして形成することができる。各第2導電膜56も、第1形態の色素増感型太陽電池100での第2導電膜46と同様の材料を用いて形成することができるが、これらの第2導電膜56は、隣り合う2つの多孔質半導体電極7に1つずつ対応するにようにして、第1導電膜54上に並列に配置される。個々の第2導電膜56は、この第2導電膜56に対応する2つの多孔質半導体電極7同士の間隙を平面視上覆い、かつ、対応する2つの多孔質半導体電極7それぞれと、平面視上、部分的に重なる。
各リード線58は、キャリア(電子)を第1導電膜54に供給するためのものであり、1つの第2導電膜56に1つずつ対応するようにして、対応する第2導電膜56の近傍に配置される。個々のリード線58は、対応する第2導電膜56の延在方向とほぼ平行な方向に延在する。これらのリード線58は、第1形態の色素増感型太陽電池100でのリード線11と同様にして形成することができる。
リード線58を覆っている保護層59は、電解質からリード線58を保護するためのものであり、第1形態の色素増感型太陽電池100での保護層11と同様にして形成することができる。
上述した構成を有する色素増感型太陽電池110では、1つの第2導電膜56と、この第2導電膜56に対応する2つの多孔質半導体電極7と、これら2つの多孔質半導体電極7それぞれの表面に担持された色素9とが、1つのセルを構成する。透明電極3、第1導電膜54、及び電解質層90は、全てのセルに対応する。
図4においては図示を省略しているが、各リード線11は互いに並列接続された状態で負荷(外部負荷)に直列接続され、各リード線58も互いに並列接続された状態で前記の負荷に直列接続される。光電変換によって各セルに生じたキャリア(電子)は、透明電極3によって集電された後、各リード線11によって電気的に並列に透明電極3から取り出される。
以上説明した色素増感型太陽電池110は、前述した第1形態の色素増感型太陽電池100と同様に本発明の色素増感型太陽電池の1種であるので、本発明の色素増感型太陽電池についての説明の中で述べた技術的効果を奏する。
<色素増感型太陽電池(第3形態)>
図5は、本発明の色素増感型太陽電池の更に他の基本原理を示す概略図である。図示の色素増感型太陽電池120では、前述した第2形態の電極基板30が第1の電極基板として用いられ、透明基材62の片面に複数の第1導電膜64と複数の第2導電各66とが形成された色素増感型太陽電池用電極基板70(以下、「電極基板70」と称する。)が第2の電極基板として用いられる。
電極基板30の構成については既に説明したので、ここでは省略する。また、電極基板70における透明基材62、第1導電膜64、及び第2導電膜66としては、それぞれ、前述した第1形態の色素増感型太陽電池100での透明基材42、第1導電膜44、又は第2導電膜46と同様のものを用いることができる。ただし、透明基材62の片面には複数の第1導電膜64が並列に形成され、個々の第1導電膜64上に1つずつ第2導電膜66が形成される。
複数の第1導電膜64は、例えば大形の蒸着膜を透明基材62に設け、この蒸着膜を例えばフォトリソグラフィー法で形成したエッチングマスクを用いつつ所望形状にエッチングすることにより、あるいは、所定形状のマスクを用いた物理気相成長法もしくは化学気相成長法によって所望材料の蒸着膜を透明基材62上に成膜することにより、形成することができる。複数の第2導電膜66も、同様にして形成することができる。
電極基板30と電極基板70とは、電極基板30中の多孔質半導体電極27と電極基板70中の第2導電膜66とが互いに対向するようにして配置され、これらの電極基板30、70の間には、1つの透明電極23に1つずつ対応するようにして、スペーサ68と配線69とが配置される。また、個々の多孔質半導体電極27とこの多孔質半導体電極27に対応する第2導電膜66との間には、電解質層90が介在する。
個々のスペーサ68における一端(色素増感型太陽電池120の厚さ方向の一端)は、対応する透明電極23における領域23a(図2参照)に接合され、個々のスペーサ68における他端(色素増感型太陽電池120の厚さ方向の他端)は、対応する第2導電膜66とその隣の第2導電膜66との間から露出している透明基材62の表面に接合される。
また、各配線69は、対応する透明電極23における領域23a(図2参照)に一端(色素増感型太陽電池120の厚さ方向の一端)が接続し、対応する第2導電膜66の隣の第2導電膜66に他端(色素増感型太陽電池120の厚さ方向の一端)が接続するようにして、対応するスペーサ68の一面(多孔質半導体電極と接している面とは反対側の面)に形成される。
なお、図示を省略しているが、色素増感型太陽電池120では、電解質層90を形成している電解質が漏出するのを防止するために、電極基板30、70の周囲が封止剤により封止される。
上述した各スペーサ68は、例えば前述した第1形態の色素増感型太陽電池100でのスペーサ48(図3参照)と同様にして形成することができる。また、各配線69は、電解質に対して耐食性を有する導電性材料によって形成される。前述したスペーサ48と同様に、スペーサ68は封止剤を兼ねることもできる。
電解質層90は、前述した第1形態の色素増感型太陽電池100での電解質層90と同様の材料を用いて同様の方法により形成することができるので、ここでは図3で用いた参照符号と同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
上述した構成を有する色素増感型太陽電池120では、1つの透明電極23と、この透明電極23に対応する多孔質半導体電極27、色素29、電解質層90、第2導電膜66、及び第1導電膜64とが、1つのセルを構成する。隣り合うセルは、配線69によって電気的に直列に接続される。
図5においては図示を省略しているが、電気的に直列に接続された各セルのうちで直列接続の端に位置している1つのセルでの透明電極23が負荷(外部負荷)に直列に接続され、この負荷は、電気的に直列に接続された各セルのうちで直列接続の端に位置している1つのセルでの第1導電膜64に直列に接続される。光電変換によって各セルに生じたキャリア(電子)は、各セルから電気的に直列に取り出される。
以上説明した色素増感型太陽電池120は、既に説明した本発明の色素増感型太陽電池の1種であるので、本発明の色素増感型太陽電池についての説明の中で述べた技術的効果を奏する。
<色素増感型太陽電池(第4形態)>
図6は、本発明の色素増感型太陽電池の更に他の基本原理を示す概略図である。図示の色素増感型太陽電池130は、(1)第2の電極基板として色素増感型太陽電池用電極基板80(以下、「電極基板80」と称する。)が用いられる点、及び、(2)配線69が2つのスペーサ68a、68bによって挟持された構造を有する点で、上述した第3形態の色素増感型太陽電池120と大きく異なる。他の構成は色素増感型太陽電池120の構成と同様であるので、共通する構成についての説明は、ここでは省略する。
上記の電極基板80では、図示のように、透明基材72の片面に複数の第1導電膜74が形成され、個々の第1導電膜74上に1つずつ、この第1導電膜74よりも小形の第2導電膜76が形成される。透明基材72、第1導電膜74、及び第2導電膜76としては、それぞれ、前述した第3形態の色素増感型太陽電池120での透明基材62、第1導電膜64、又は第2導電膜66と同様のものを用いることができる。
各スペーサ68aは、対応する透明電極23における領域23a(図2参照)に一端(色素増感型太陽電池130の厚さ方向の一端)が接合し、隣り合う第1導電膜74同士の間から露出している透明基材72の表面に他端(色素増感型太陽電池130の厚さ方向の他端)が接合するようにして、かつ、1つの多孔質半導体電極27に1つずつ対応して、配置される。
各配線69は、対応するスペーサ68aにおいて多孔質半導体電極27と接している面とは反対側の面に形成される。個々の配線69の一端(色素増感型太陽電池130の厚さ方向の一端)は、対応する透明電極23における領域23a(図2参照)に接続され、他端(色素増感型太陽電池130の厚さ方向の他端)は、対応する第1導電膜74の隣の第1導電膜74に接続される。
各スペーサ68bは、対応する配線69においてスペーサ68aと接している面とは反対側の面に形成される。個々のスペーサ68bの一端(色素増感型太陽電池130の厚さ方向の一端)は、対応する透明電極23とその隣の透明電極23との間から露出している透明基材21の表面に接合され、他端(色素増感型太陽電池130の厚さ方向の他端)は、対応する第1導電膜74の隣の第1導電膜74に接合される。
上述した構成を有する色素増感型太陽電池130では、第3形態の色素増感型太陽電池120と同様に、1つの透明電極23と、この透明電極23に対応する多孔質半導体電極27、色素29、電解質層90、第2導電膜76、及び第1導電膜74とによって、1つのセルが構成される。隣り合うセルは、配線69によって電気的に直列に接続される。
図6においては図示を省略しているが、電気的に直列に接続された各セルのうちで直列接続の端に位置している1つのセルでの透明電極23が負荷(外部負荷)に直列に接続され、この負荷は、電気的に直列に接続された各セルのうちで直列接続の端に位置している1つのセルでの第1導電膜74に直列に接続される。光電変換によって各セルに生じたキャリア(電子)は、各セルから電気的に直列に取り出される。
以上説明した色素増感型太陽電池130は、前述した第3形態の色素増感型太陽電池120と同様に本発明の色素増感型太陽電池の1種であるので、本発明の色素増感型太陽電池についての説明の中で述べた技術的効果を奏する。
なお、図5に示したスペーサ68とこれに対応する配線69に代えて、あるいは、図6に示したスペーサ68aとこれに対応する配線69、スペーサ68bに代えて、電解質に対して耐食性を有する1つの導電材料層を用いることも可能である。