JP4599573B2 - 磁性粉末の製法 - Google Patents

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Description

本発明は,磁気テープや磁気ディスク等の塗布型磁気記録媒体の磁性層を構成するのに好適な粒子からなる磁性粉末に係り,特に微粒子であっても触媒作用が抑制された磁性粉
末に関する。
近年の磁気記録媒体では,記録容量の向上に加えて信頼性・耐久性を一層向上させることが望まれている。記録容量に関しては,次世代磁気記録媒体として,さらに高記録密度を達成するために,使用する信号の短波長化が強力に進められている。それに対応するため,より微粒子で高特性な磁性粉末が求められる。粒子の大きさは,短波長側の信号を記録する領域の長さよりも極めて小さくなければ,明瞭な磁化遷移状態を作り出すことができず,実用的に記録不可能となる。よって,磁性粉末としては,その粒子の大きさが充分
に小さいことが要求される。
また,高密度化を進めるためには,記録信号の分解能を上げる必要もあり,そのため磁気記録媒体のノイズを低減することが重要となる。ノイズは,粒子の大きさやそのテープの表面性からくるところが多く,微粒子であればあるほど,またテープの表面が滑らかであればあるほどノイズの低減が進む。よって高記録密度用の磁性粉末としては,この点か
らも粒子の大きさが充分に小さいことが要求されている。
他方,磁気記録媒体の高容量化が進めば進むほど,保存データの損傷が回避されねばならず,データ保存用テープ等では一層高い信頼性が要求され,その為にはテープの保存安
定性の向上が望まれている。
このようなことから,磁気記録媒体用のFeを主成分とする針状の磁性粉末において,
平均長軸径が70nm以下のものが開発されている(例えば特許文献1)
特開2002−289415号公報
磁性粉末の平均粒径が小さくなるほど,これを塗料化したときに塗料安定性や保存性の低下が発生したり,テープの表面性にバラツキを生じたりして,その磁気テープを使用していると磁気ヘッドに付着生成物を誘発するような現象が起きる。このようなテープ悪化の原因は粒径が小さくなるほど強くなることに加え,Feを主成分とする針状の磁性粉末において焼結防止や酸化防止その他の理由で添加される添加元素例えばAl,Si,Ra(RaはYを含む希土類元素の少なくとも1種を表す)等を含有している場合に特に強く
現れる傾向がある。
すなわち,磁気記録媒体の高容量化のために磁性粉末の微粒子化とその品質改善を進めれば進めるほど,磁気テープの品質を悪化させる場合があるという新たな問題が浮上する
ことを本発明者らは経験した。本発明はこの問題の解決を目的とするものである。
前記の課題を解決した磁性粉末として,本発明によれば, Al,Si,Ra(RaはYを含む希土類元素の少なくとも1 種を表す)の少なくとも1種の酸化物を表層部に有するFeを主成分とする粒子からなる磁性粉末であって,平均粒径が70nm未満,塩基性点が0.85個/nm2以下で且つ酸性点が0.75個/nm2以下の磁性粉末を提供す
る。
本発明に従う前記の磁性粉末を得るには,Al,Si,Ra(RaはYを含む希土類元素の少なくとも1 種を表す)の少なくとも1種の酸化物を表層部に有するFeを主成分とする粒子からなる磁性粉末であって,平均粒径が70nm未満の磁性粉末を,(1) 180℃以上の温度で熱処理したあと徐酸化処理する方法,(2) シランカップリング剤で表面処理する方法,或いは(3) アルコールおよび/または多価アルコールで表面処理する方法に
よるのが有利である。
塩基性点が0.85個/nm2以下で且つ酸性点が0.75個/nm2以下であると,たとえAl,Si,Raの少なくとも1種の酸化物を表層部に有するFeを主成分とする粒子からなる平均粒径70nm未満の磁性粉末であっても,前記の問題が解決され,後記の実施例に示すように,良好な磁気特性を保持しながら優れたテープ平滑性および耐久性
を具備できる。
前記の問題,すなわち磁性粉末の平均粒径が小さくなるほど,またAl,Si,Ra等の添加元素を含有するほど,テープの平滑性や耐久性が劣化し磁気ヘッドの汚れが発生する問題の解決を図るにはその原因を知ることが必要である。本発明者らは種々の試験研究の結果,磁性粉末の平均粒径が小さくなるほど,またAl,Si,Ra等の添加元素を含有する磁性粉末ほど,触媒化学の分野で研究が進んでいる酸性点と塩基性点の数が多くなることが,その主因となることを突き止めることができた。粒径が小さく且つ該添加元素の酸化物が表面層に存在するほど,通常のままでは(従来技術の状態では)磁性層を構成する樹脂成分等の有機化合物に対して化学反応を誘発する触媒活性の強い磁性粉末の状態
にある。
本発明は,このような微粒子磁性粉末の触媒活性の現象を,磁気記録媒体にとって好ましい状態にまで抑制することを内容とするものである。化学反応を促進する触媒は,アルカリ触媒と酸触媒がある。粒子の表面層にAl,Si,Raの少なくとも一種の酸化物を
有したFeを主成分とする微粒子磁性粉末はアルカリ触媒にも,酸触媒にもなり得る。
例えばアルミナを表面層に有する微粒子磁性粉末はアルカリ触媒にも,酸触媒にもなり得る。アルミナ表面を有すると,図1にモデル的に示したように,表面に存在する不飽和結合部分において,OH基の脱離によるルイス酸性点や解離による塩基性点の発生が起きる。図1において,左側の状態で水分が吸着するとルイス酸性点はブレンステッド酸性点に変化する。ルイス酸性点は電子を受け入れる活性点,ブレンステッド酸性点はプロトンを放出する活性点となり,塩基性点は電子を放出する活性点となる。アルミナのみならず
SiO2やRa酸化物が表面に存在する場合でも原則的に同様である。
粒子表面に存在する塩基性点の数は,これに吸着する酸性物質の分子の数によって評価することができる。一つの塩基性点に1個の酸性物質が吸着すれば,吸着した酸性物質の分子の数が塩基性点の数に相当することになる。しかし,実際には一つの塩基性点に2個の酸性物質が吸着したり,二つの塩基性点に1個の酸性物質が跨って吸着するといった現象も起きるかも知れない。しかし,本発明者らの試験によると,CO2ガスを吸着物質として使用する場合には,CO2の吸着量をもって磁性粉末の塩基性点の数をほぼ正当に評価することができることがわかった。同様に,磁性粉末の粒子表面に存在する酸性点の数も塩基性の吸着物質としてNH3ガスを使用した場合に,そのNH3ガスの吸着量をもっ
て磁性粉末の酸性点の数をほぼ正当に評価することができることがわかった。
すなわち,磁性粉末の塩基性点の数は磁性粉末に対するCO2吸着量(μL/g)とよい相関を有し,また酸性点の数は磁性粉末に対するNH3吸着量(μL/g)とよい相関を有することから,本明細書ではこの相関を用いて磁性粉末の塩基性点および酸性点の数
を評価するが,実際の測定は次のようにして行うことができる。
〔塩基性点の評価試験〕
カンタクロム株式会社製の物理・化学吸着量測定装置「商品名ケムベット‐3000」に測定用粉末を装填し,吸着ガスとして高純度のCO2を使用して,試料粉末1gあたりのCO2吸着量(マイクロリットル・μL)を測定する。測定に際しては,この測定装置の操作手順に従って,試料粉末に付着している水分をN2ガスやアルゴンガス等の不活性ガス中で過熱脱水し,また測定経路中に存在する空気を不活性ガスにてパージする。その
後CO2ガスを試料粉末に注入し,CO2吸着量の測定を開始する。
〔酸性点の評価試験〕
カンタクロム株式会社製の物理・化学吸着量測定装置「商品名ケムベット‐3000」に測定用粉末を装填し,吸着ガスとして高純度のNH3を使用して,試料粉末1gあたりのNH3吸着量(マイクロリットル・μL)を測定する。測定に際しては,この測定装置の操作手順に従って,試料粉末に付着している水分をN2ガスやヘリウムガス等の不活性ガス中で過熱脱水し,また測定経路中に存在する空気を不活性ガスにてパージする。その
後NH3ガスを試料粉末に注入し,NH3吸着量の測定を開始する。
本発明によれば,この測定法に従って測定した塩基性点が0.85個/nm2以下で且つ酸性点が0.75個/nm2以下の磁性粉末であれば,Al,Si,Raの少なくとも1種の酸化物を表層部に有するFeを主成分とする磁性粒子であっても,また平均粒径が70nm未満の微粉末であっても,この磁性粉末を用いて磁性層を構成した場合に,その表面平滑性および耐久性が従来のように劣化することが抑制でき,良好な磁気特性を保持しながら優れたテープ平滑性および耐久性を具備できることが明らかとなった。具体的には,磁性層を構成する樹脂や溶剤その他の有機化合物に対してこの磁性粉末が触媒作用を供して化学反応を誘発することが抑制され,その結果,テープ塗料安定性,保存性および生産効率,テープ表面性を保持することができ,また磁性層の劣化・変性もしくは磁性層からの分解生成物の発生等が実用上問題がない程度に充分に回避できることがわかった。
塩基性点・酸性点の個数は,CO2吸着量・NH3吸着量から次の基準で算出できる。例えば,或る磁性粉末を該法で測定したCO2吸着量がQ(μL/g)であり,該粉末の比表面積がP(m2/g ),吸着気体の密度(25℃:25℃は気体の吸着量を測定したときの室温)がG(g/L)であると,Nをアボガドロ定数(6.02×1023個/mol)
として,塩基性点の数(個/nm2)は次式で算出することができる。
塩基性点の数(個/nm2
=〔N・Q(μL/g)・G(g/L)・10-24〕/〔P(m2/g )・(CO2の分
子量:44)〕
同様に酸性点の数(個/nm2)は,NH3の吸着量がR(μL/g)であれば,
酸性点の数(個/nm2
=〔N・R(μL/g)・G(g/L)・10-24〕/〔P(m2/g )・(NH3の分
子量:17)〕
なお,各吸着気体の密度G(g/L)については,標準状態(0℃,1atm.) の気体密度をρ(CO2=1.9796g/L,NH3=0.7710g/Lの値を使用)とした
とき,次式で算出できる。
G(g/L)=ρ×(273.15/298.15)
次に本発明者らが行った試験について,その概要を説明する。
一般に,磁気記録媒体の磁性層を構成するための塗料(磁性粉末を分散させた塗料)には溶剤としてケトン類が使用されている。このため,磁性粉末の塩基性点・酸性点が有機化合物に及ぼす影響(触媒活性)を評価する検体として,ケトン類を用いるのが実際的である。本発明者らは,磁性粉末の触媒活性を評価する検体として,ケトン類の中でも代表的なシクロヘキサノンを用いて試験を行った。ただし,シクロヘキサノン以外のケトン類
においても,同様の触媒活性を示すことを確認した。
磁性粉末の触媒作用による有機化合物(シクロヘキサノン)への影響は,一つには該磁性粉末と有機化合物を混合した時の温度上昇(ΔT)によって評価することができる。触媒活性が高いほど,該磁性粉末と有機化合物を混合した時の温度上昇ΔTつまり磁性粉末
と有機化合物との浸漬熱と有機化合物の縮合反応熱が高いことを意味している。
さらには,磁性粉末の触媒作用による有機化合物(シクロヘキサノン)への影響は,シクロヘキサノンの縮合反応によって生成するオリゴマー(2〜3量体)由来のC/Feの原子百分率の増加量(ΔC)によっても評価することができる。シクロヘキサノンは縮合反応によって,数種類の2量体,および3量体が生成することが知られている。磁性粉末表面で生成されたこれら縮合物は,乾燥操作により揮発性の非縮合物から分離されて磁性粉末表面に残留し,オリゴマー由来のC/Feの原子百分率の増加量ΔCとして検出され
る。
〔ΔTの評価試験〕
実際のΔTの評価試験の手順は次のとおりである。25℃の環境下において磁性粉末20gを断熱密閉容器に入れ,ここに,25℃に調整したシクロヘキサノン20gを投入する。その後,スラリー(磁性粉末+シクロヘキサノン)の温度を測定する。スラリーの温度は徐々に上昇し一定値に到達する。このときの温度と初期温度25℃の温度差をΔTと
した。
〔ΔCの評価試験〕
実際のΔCの評価試験の手順は次のとおりである。磁性粉末20gを容器に入れ,そこにシクロヘキサノン20gを投入し,60℃で5時間保持する。その後,ろ過により固液分離し,大気中で十分予備乾燥させた後,25℃で真空乾燥して揮発分を完全に除去する。この反応前後のCおよびFeの含有量を分析し,C含有率を,C/Fe(at.%)で表し
た場合の,C含有率の増加量(at.%)をΔCとする。
ΔC(at.%)=〔反応後のC/Fe(at.%)〕−〔反応前のC/Fe(at.%)〕
塩基性点が0.85個/nm2以下で且つ酸性点が0.75個/nm2以下に調整された本発明に従う磁性粉末〔表面にAl,Si,Raの少なくとも1種の酸化物を有し且つ平均粒径(実際には平均長軸長)が70nm未満のFeを主成分とする針状の磁性粉末〕
においては,ΔTの値は8.0℃未満であり,またΔCの値は120at.%未満である。
以下さらに,本発明で特定する事項について説明する。
本発明に従う磁性粉末の平均粒径は70nm未満とするが,これは,平均粒径が70nm未満のように微細になると触媒活性の問題が浮上し,この問題を解決しなければ実用上の使用に問題が生ずるからである。すなわち,平均粒径70nm未満の磁性粒子に付随する触媒活性の問題を解決課題とするところに本発明の一つの特徴がある。磁性粉末の粒子の大きさについては,透過型電子顕微鏡(TEM)写真から算出できる。粒子の大きさを粒子体積で言えば1000〜10000nm3のものであるのがよい。粒子体積が1000nm3より小さすぎると,熱揺らぎによるスーパーパラ化(超常磁性発現)が発生したり,分散が困難となる。また10000nm3より大きくても電磁変換特性的に低ノイズ
媒体として不適当となる。
平均粒径とは,磁性粉末が針状粒子からなる場合には,針状粒子の平均長軸長を言う。磁性粉末の粒子形状としては、針状(紡錘状、平針状も含む),楕円状、粒状、球状など特に形状に規定されるものではないので、あらゆる形状のものでもよいが、針状(紡錘状や平針状も含む)のものを用いたときには,Al,Si,Ra等のようにその酸化物が触
媒活性に影響を与える元素が添加されている場合が多いので,本発明の効果が大きい。
本発明はFeを主成分とする磁性粉末を対象とする。Feの一部はCoで置換することができる。Coの含有量としては,Co:Co/Feの原子百分率で50at.%以下であることができ,好ましくは20〜50at.%である。そのほか,本発明が対象とするFeを主成分とする磁性粉末としては,α−Fe,Fe−Ni,Fe−Co,Fe−Co−Ni,Fe−Pt等の合金粉末,合金以外の鉄系化合物たとえば炭化鉄,窒化鉄,酸化鉄などで
あることもできる。
BET法に従う比表面積は55m2/g以上であることが好ましい。これより比表面積が小さくなると,粒子が大きくなりすぎて電磁変換特性的に低ノイズ媒体として不適当と
なる。
Al含有量はAl/Feの原子百分率で5〜35at.%,好ましくは10〜30at.%であり,Si含有量はSi/Feの原子百分率で0.1〜10at.%,好ましくは1〜6at.%であり,Yを含む希土類元素(Ra)の含有量はRa/Feの原子百分率で4〜20at%,好ましくは5〜10at.%であるのがよい。とくにRaの含有量については,あまり過剰に添加すると,Raの酸化物が強い触媒活性を示すようになり,塩基性点・酸性点の数が
非常に高くなるので注意を要する。
一般に磁性粉末を微粒子化するにしたがって,これら添加元素による焼結防止効果や形状保持効果が低下する傾向にあり,そのために,希土類元素(Ra)の被着量を増大させることが有利となる。しかし,Raの被着量を増大させていくと焼結防止効果や形状保持効果はよくなるが,反面,触媒活性が高くなる傾向を示すことがわかった。本発明者の試験によると,針状の磁性粉末でRa/Feの原子含有量を10at.%未満にしたものにあっては,塩基性点が0.85個/nm2以下で且つ酸性点が0.75個/nm2以下に調整されていると,ΔTを8.0℃未満とすることができ,またΔCを120at.%未満とする
ことができる。
粒子形状が針状(紡錘状、平針状)鉄を主成分とする磁性粉末においては,常法により得られた含水酸化鉄を200〜600℃の温度で加熱脱水し、得られた針状酸化鉄粒子を出発原料とし、この出発原料を、水素ガスで常法のように300〜700℃で加熱還元する。このFeを主成分とする磁性粉末には、諸特性向上のために通常用いられるAl、Si、Ra,Coなど、異種元素を粒子内部に含有させるか粒子表面に存在させることができる。とくに、Al,Si,Raをこの範囲で含有する場合には粒子表層部にそれらの酸化物が存在し、粒子間の焼結を防止し粒子の形状保持や磁気特性向上に寄与するが,前述のように塩基性点・酸性点が分布しやすくなる。このようなAl、Si、Raの酸化物に由来する問題を解決課題とするところに,本発明の他の一つの特徴がある。なお、磁性粉
体中の酸素の含有量は、粒子全体に対して26wt%以下であるのがよい。
本発明によれば,平均粒径が70nm未満で且つAl,Si,Raの酸化物を表層部に有するFeを主成分とする磁性粉末であっても,塩基性点が0.85個/nm2以下で且つ酸性点が0.75個/nm2以下の磁性粉末を提供するが,このような磁性粉末を得るには,Al,Si,Raの酸化物を表層部に有するFeを主成分とする粒子からなる平均粒径70nm未満の磁性粉末を最終の加熱還元処理で得たあと,180℃以上の温度でいったん熱処理したうえで徐酸化処理するのがよい。この還元後の熱処理は,還元もしくは不活性ガス雰囲気中で行い,必要によっては水蒸気を添加した湿水素雰囲気下で実施するのがよい。例えば水蒸気含有量が2〜20vol.%の水素ガス雰囲気下で180〜400℃の温度範囲で5〜60分間の熱処理を行ない,次いで,徐酸化処理するのがよい。徐酸化処理は,酸素濃度が0.01〜1vol.%の窒素ガス雰囲気下で温度40〜200℃,好ましくは50〜180℃未満,さらに好ましくは60〜100℃で10〜120分程度保持する処理を行えばよい。そのさい,温度は一定にしながら窒素ガス雰囲気中での酸素濃度を徐酸化処理の開始時には低くし,徐々に高めて終了するのが好ましい。例えば温度は70〜100℃の或る温度に保持しながら,酸素濃度0.01〜0.2vol.%程度で除酸化を開始し,徐々に濃度を高めて酸素濃度0.5〜1.0vol.%で除酸化処理を終了するのがよい。実施例では80℃で初期の0.1vol.%から終期の1.0vol.%まで変化させた
このように180℃以上の温度で熱処理したあと徐酸化処理することによって,塩基性点を0.85個/nm2以下で且つ酸性点を0.75個/nm2以下に調整することができ,前掲のΔTの値を8.0℃未満とすることができ,また,前掲のΔCを120at.%未満とすることができる。他の要因により,1回の処理で目的とする塩基性点・酸性点の個
数に達しないときは,この処理を複数回実施すればよい。
なお,磁性粉末製造の最終還元工程での水素ガス中で加熱還元する場合,その加熱を2段階に分けて実施し,第1段目は350℃〜500℃の温度範囲,第2段目は500℃〜700℃の範囲として,後段ほど高温にして還元すると,塩基性点・酸性点の数が多くなるのを抑制することができるので(2段目の高温での還元による粒子密度が高くなり,粒子の焼き締めがおきるからであると考えられる),加熱還元工程はこのような2段還元を
実施するのが好ましい。
180℃以上の温度での熱処理および徐酸化処理の方法に代えて,磁性粉末粒子を表面処理する方法によって塩基性点・酸性点の数を調節することもできる。その一つの方法は,該磁性粉末の表面をアルコールおよび/または多価アルコールを用いて表面処理することである。他の一つの方法は,該磁性粉末をカップリング剤例えばシランカップリング剤
を用いて表面処理することである。
以下にシランカップリング剤で表面処理する方法について説明する。磁性粉末をシランカップリング剤で表面処理するには,(1) 磁性粉末とカップリング剤とを気相中で接触させて粒子表面での重合反応を生起させる方法,(2) 磁性粉末を希薄溶液でスラリー化し,これにカップリング剤を添加し,粒子表面で重合反応を生起させる方法,またはカップリング剤含有の溶液に磁性粉末を添加して粒子表面で重合反応を生起させる方法,(3) カップリング剤を水および/またはアルコールで希釈してカップリング溶液を作成し,他方磁性粉末はヘンシェルミキサー等で撹拌しておき,ここに前記のカップリング溶液を滴下もしくはスプレー噴霧することで,粒子表面で重合反応を生起させる方法等を採用すること
ができる。
本発明が対象とする磁性粉末は平均粒径が70nm未満であり,非常に微細な粉末であることから,前記の(3) の方法によるのかよい。この場合,個々の粒子を液中で単分散させ且つ各粒子の表面を全体的に表面処理するために,磁性粉末を有機溶媒に分散度βが10以下となるように分散させる手段を講じ,表面処理する前の磁性粉末の表面全体が親水性を示すような対策を施すのがよい。分散度βとは,Dfloc(動的光散乱法による溶媒中での粒子の平均体積)と,DTEM(透過型電子顕微鏡写真より求められる粒子の平均体積)の比,すなわちDfloc/DTEMの値とすると,この値は,実際の1次粒子に対して,液中で複数粒子が凝集している2次粒子が,どれだけの大きさとなっているか
の割合を表わすことになる。
本発明で使用できるシランカップリング剤は下記の一般式で示すことができる。
R’Si(Y)3
R’はビニル基,エポキシ基,スチリル基,メタクリル基,アミノ基,メルカプト基,クロロプロピル基等の有機官能グループを表し,YはSiに結合している加水分解性のアルコキシ基もしくはアルキル基を示す。シランカップリング剤の作用としては,親水性の磁性粉末の表面とY側が強固に結び付き,有機官能基が塗料の樹脂と結び付き,磁性粉末−シランカップリング剤−樹脂の強固な結び付きができる。R’は,上記いずれでもよいが,好ましくは,エポキシ基,アミノ基,メタクリル基であり,さらに好ましくは,アミノ基,メタクリル基があげられ,メタクリル基が最も望ましい。ただしR’については,磁性層を形成するのに使用される樹脂の種類に応じて選択するのが実際的である。Y基としては,メトキシ基,エトキシ基などのいずれでもよく,好ましくは,メトキシ基があげられる。またその反応性を制御するためには,Y基部分をアルキル基に変更し,反応性を低下した使い方をすることができる。シランカップリング剤の量は,適用する磁性粉末の比
表面積(BET値)に応じて決めるのがよい。
磁性粉末をシランカップリング剤で表面処理するさいに使用する分散媒としては,ポリオール類を含んだアルコール類,ケトン類などの使用が可能であるが,使用するカップリング剤との相溶性に合わせて使用する有機溶媒を選択する。アルコールを用いる場合は,メタノール,エタノール,2−プロパノール,1−ブタノール好ましくは,メタノール,エタノール,2−プロパノールを用いることができる。なお処理系に,触媒的な作用を示すアンモニア,酢酸,塩酸などを微量添加することによって加水分解反応速度を制御することができる。分散処理の時間については,個々の分散装置により異なるが分散度βが所定の値以下になる条件に設定すればよい。このようにして,シランカップリング剤で表面処理すると,塩基性点を0.85個/nm2以下で且つ酸性点を0.75個/nm2以下の本発明に従う磁性粉末を得ることができ,この磁性粉末は前掲のΔTが8.0℃未満で
且つ前掲のΔCは120at.%未満となる。
このようなカップリング剤による表面処理に代えて,単に磁性粉末をアルコールおよび/または多価アルコールを用いて表面処理することによっても,磁性粉末の塩基性点・酸性点の数を調節することができる。この場合には,磁性粉末をアルコールまたは/および多価アルコールに添加して分散させた後,還流方式もしくは,オートクレーブで加熱を行うのがよい。磁性粉末が酸化しやすものの場合は,使用するアルコールは,加熱前に不活性ガスを吹き込むことにより溶存酸素を十分下げておき,且つ不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。本発明者らの試験によると,表面にAl,Si,Raの少なくとも1種の酸化物を有する磁性粒子からなる平均粒径(実際には平均長軸長)が70nm未満のFeを主成分とする針状の磁性粉末をアルコールおよび/または多価アルコールで表面処理したものにあっては,塩基性点が0.85個/nm2以下で且つ酸性点が0.75個/n
2以下に調整されていると,前掲のΔCは120at.%未満になる。
以下,実施例によって本発明をさらに説明するが,本発明に従う磁性粉末を用いて磁性層を構成した場合に,その磁性層の磁気特性,表面平滑性および耐久性などの評価試験と
しては,下記に示した方法によった。
〔テープ特性の評価試験〕
(1)磁性塗料の作成
磁性粉末0.500gを秤量し,ポット(内径45mm,深さ13mm)へ入れる。蓋を開けた状態で10分間放置する。次に,ビヒクル〔塩ビ系樹脂MR−110(22wt%),シクロヘキサノン(38.7wt%),アセチルアセトン(0.3wt%),ステアリン酸nブチル(0.3wt%),メチルエチルケトン(MEK)(38.7wt%)の混合溶液〕をマイクロピペットで0.700mL採取し,これを前記のポットに添加する。すぐにスチールボール(2φ)30g,ナイロンボール(8φ)10個をポットへ加え,蓋を閉じ10分間静置する。その後,このポットを遠心ボールミル(FRITSCH P−6)にセットし,ゆっくりと回転数を上げ600rpmにあわせ,60分間分散を行う。遠心式ボールミルが停止した後,ポットを取り出し,マイクロピペットを使用し,あらかじめMEKとトルエンを1:1で混合しておいた調整液を1.8mL添加する。再度,遠心式ボールミルにポットをセットし,600rpmで5分間分散し,分散を終了する。これで
磁性塗料が作成される。
(2)磁気テープの作成
前記の分散を終了したあと,ポットの蓋を開けナイロンボールを取り除き,塗料をスチールボールごとアプリケータ(55μm)へ入れ,支持フィルム(東レ株式会社製のポリエチレンフィルム:商品名15C−B500:膜厚15μm)に対して塗布を行う。塗布後,5.5kGの配向器のコイル中心にすばやく置き,磁場配向させその後乾燥させる。
これにより磁気テープが作成される。
(3)テープ特性の評価試験
・磁気特性の測定:得られたテープについて日商岩井株式会社製のVSM(振動試料型磁
力測定器Model1660)を用いて,その保磁力Hcx,SFD等の測定を行う。
・テープの表面平滑性(光沢度)の測定:日本電色工業株式会社製の光沢度計(グロスメータ)を用いて,テープ表面の光沢度を測定する。測定条件として入射角を60度とし,また屈折率が可視波長範囲全域にわたって一定値1.567のガラス表面において,規定
された入射角θでの光沢度を基準(100%)として測定する。
(4)耐久性評価のための基板の作成
前記の分散を終了したあと,ポットの蓋を開けナイロンボールを取り除き,塗料をスチールボールごとアプリケータ(55μm)へ入れ,ガラス板(縦:4cm,横:15cm,厚さ:1mm)上に塗布を行う。塗布後5.5kGの配向器のコイル中心にすばやく置
き磁場配向させ,その後乾燥させて耐久性評価のための測定用基板を作成する。
・耐久性の評価試験(鋼球摺動試験)
試料を塗布させたガラス基板を新東科学株式会社製の鋼球摺動測定機(HEIDON−14DR)に固定し,10mmφの鋼球に荷重5gを加えて摺動させる。その際,移動速度を2,320mm/min(38.7mm/sec)として580回走行させた後,鋼球の摺動面の様子(ガラス基板まで貫通しているかどうか)を観察し,100倍の光学電
子顕微鏡で傷の幅を測定する。
〔実施例1〕
オキシ水酸化鉄を出発材料として脱水,焼成し,これを水素雰囲気下で加熱還元して得られた平均長軸長が61nm,Al含有量がAl/Feの原子百分率で11.6at.%,Y(イットリウム)含有量がY/Fe(表1ではRa/Feと記す)の原子百分率で9.6at.%,Co(コバルト)含有量がCo/Feの原子百分率で24.1at.%,Si(ケイ素)含有量がSi/Feの原子百分率で0.1at.%以下の針状金属強磁性粉末を供試材として,以下の処理を実施した。ただし,前記の水素雰囲気下での加熱還元は,加熱温度440℃で1段目の還元を行ない,その後,550℃で2段目の還元を行うという2段還元方
式を採用した。
前記の還元後,その磁性粉末を酸化雰囲気下で80℃で徐酸化処理し,次いでN2雰囲気中において180℃で30分間の熱処理を行った後,再び80℃で徐酸化処理した。その後さらに,H2Oが10vol.%の水素雰囲気下で350℃で30分間の熱処理を行った上で80℃で徐酸化処理した。ここで,いずれの80℃での徐酸化処理も,N2雰囲気中での酸素濃度を初期の0.1vol.%から終期の1.0vol.%にまで漸次増加させる方法で
行った。
得られた磁性粉末について,本文に詳述した方法でCO2吸着量およびNH3 吸着量を測定して塩基性点および酸性点を求めたところ,塩基性点は0.46個/nm2,酸性点は0.69個/nm2であった。また,この磁性粉末の諸特性を測定し,それらの結果を
表1に示した。
〔実施例2〕
平均長軸径が45nm,Al/Feが12.2at.%,Y/Feが9.5at.%,Co/Feが23.8at.%である以外は実施例1と同じ針状金属強磁性粉末について,実施例1と同じ条件で,二段還元−徐酸化処理−不活性雰囲気下での低温熱処理−徐酸化処理−湿水
素雰囲気下での高温熱処理−徐酸化処理を施した。
得られた磁性粉末の塩基性点は0.71個/nm2,酸性点は0.63個/nm2であった。さらに,この磁性粉末の諸特性を実施例1と同様に測定し,それらの結果を表1に
示した。
〔実施例3〕
オキシ水酸化鉄を出発材料として脱水,焼成し,これを水素雰囲気下で加熱還元して得られた平均長軸長が45nm,Al/Feが11.3at.%,Y/Feが9.6at.%,Co/Feが23.7at.%の針状金属強磁性粉末を供試材として以下の処理を実施した。ただし,前記の水素雰囲気下での加熱還元は,加熱温度440℃で1段目の還元を,次に55
0℃で2段目の還元を行う2段還元方式とした。
還元されたままの磁性粉末を窒素雰囲気下でアルコール中に分散させ,その分散液に対してカップリング剤(γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)を,処理後の磁性粉末のSi量を測定したときにSi/Feで2.2at.%となる量で投入して攪拌したあと,純水を添加して加水分解反応を行わせたあと熟成するシランカップリング処理を行っ
た。
得られた磁性粉末の塩基性点は0.00個/nm2,酸性点は0.42個/nm2であった。さらに,この磁性粉末の諸特性を実施例1と同様に測定し,それらの結果を表1に
示した。
〔実施例4〕
平均長軸径が33nm,Al/Feが26at.%,Y/Feが16.1at.%,Co/Feが23.7at.%である以外は実施例3と同じ針状金属強磁性粉末について,実施例3と同じ条件で,二段還元−シランカップリング処理を実施した。ただし,カップリング剤の投入量は,処理後の磁性粉末のSi量を測定したときにSi/Feで4.6at.%となる量と
した。
得られた磁性粉末の塩基性点は0.00個/nm2,酸性点は0.39個/nm2であった。さらに,この磁性粉末の諸特性を実施例1と同様に測定し,それらの結果を表1に
示した。
〔比較例1〕
Y/Feを9.5から19.1at.%に変更した以外は(その他の成分について再現上若干のバラツキはあるが許容範囲である),実施例2を繰り返した。得られた針状金属強磁性粉末の塩基性点は1.09個/nm2,酸性点は0.57個/nm2であった。また,
この磁性粉末の諸特性を実施例1と同様に測定し,それらの結果を表1に示した。
〔比較例2〕
シランカップリング処理を行わなかった以外は,実施例4を繰り返した。ただし,二段還元のあと,その針状金属強磁性粉末を酸化雰囲気下で80℃で徐酸化処理し,次いでN2雰囲気中において180℃で30分間の熱処理を行った後,再び80℃で徐酸化して,
表面酸化を防止した。
得られた磁性粉末の塩基性点は0.62個/nm2,酸性点は0.87個/nm2であった。さらに,この磁性粉末の諸特性を実施例1と同様に測定し,それらの結果を表1に
示した。
〔比較例3〕
還元工程を450℃の1段で実施した以外は,実施例1と同様にして針状金属強磁性粉末を得た。この磁性粉末を酸化雰囲気下で80℃で徐酸化処理し,次いでN2雰囲気中において180℃で30分間の熱処理を行った後,再び80℃で徐酸化して,表面酸化を防止した。ただし,実施例1のように高温での湿水素雰囲気下での熱処理は行わなかった。
得られた磁性粉末の塩基性点は0.53個/nm2,酸性点は0.87個/nm2であった。さらに,この磁性粉末の諸特性を実施例1と同様に測定し,それらの結果を表1に
示した。
Figure 0004599573
表1の結果から明らかなように,塩基性点が0.85個/nm2以下で且つ酸性点が0.
75個/nm2以下である実施例1〜4の磁性粉末は,いずれもΔTが8.0℃以下でΔ
Cが120at.%以下となり,テープの表面平滑性と耐久性が共に非常に良好である。
これに対して,酸性点は0.75個/nm2よりも少ない0.57個/nm2であるが,
塩基性点が1.05個/nm2と多い比較例1の磁性粉末は,ΔCが150at.%と高くな
り,テープの表面平滑性が劣り且つ耐久性が悪い。
同様に,塩基性点は0.85個/nm2よりも少ない0.62個/nm2(比較例2),
0.53個/nm2(比較例3)ではあるが,酸性点がいずれも0.87個/nm2と高い比較例2と3の磁性粉末は,ΔTおよびΔCとも高くなって,表面平滑性が劣り且つ耐
久性が劣る。
また,これらの試験結果から次のことがわかる。
(1) 実施例1のように還元処理後の磁性粉末を熱処理(実施例1では350℃×30分)すると,塩基性点・酸性点を本発明で規定する値にまで少なくすることができるが,この
熱処理を省略した比較例3のものでは酸性点が多くなっている。
(2) 比較例1ではYの含有量がY/Fe=19.1at.%と高く,この点だけが実施例2のものと条件が異なるのであるが,比較例1のようにRaの含有量が多くなると,粒子表面のRaの酸化物が多くなり,その結果,塩基性点・酸性点の数も多くなり,本発明で規定
する要件を満たさなくなることがある。
(3) 実施例3のようにシランカップリング処理を行うと,行わない比較例3のものに比べ
て塩基性点・酸性点の数を少なくできる。
固体表面にアルミナが存在する場合の塩基性点と酸性点を図解して示した図である。

Claims (1)

  1. Ra(RaはYを含む希土類元素の少なくとも1種を表す)の酸化物をRa/Feの原子百分率で10at.%未満含有するとともに、Al、Siの少なくとも1種の酸化物を表層部に有するFeを主成分とする粒子からなる磁性粉末であって、平均粒径が70nm未満、塩基性点が0.85個/nm2以下で且つ酸性点が0.75個/nm2以下の磁性粉末の製法であって、Raの酸化物をRa/Feの原子百分率で10at.%未満含有するとともに、Al、Siの少なくとも1種の酸化物を表層部に有するFeを主成分とする粒子からなる磁性粉末であって平均粒径が70nm未満の磁性粉末を、少なくとも水素と水蒸気の存在下にて180〜400℃の温度で熱処理したあと徐酸化処理することからなる製法
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