JP2010225268A - 磁気記録媒体用磁性粉末およびその製造方法ならびにこれを用いた磁気記録媒体 - Google Patents

磁気記録媒体用磁性粉末およびその製造方法ならびにこれを用いた磁気記録媒体 Download PDF

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【課題】磁気特性と酸化安定性の両立が可能な優れた磁気記録媒体用磁性粉末とその粉末を用いた磁気記録媒体の提供。
【解決手段】酸素により酸化膜形成処理を行った後に、活性を持った気体中、例えば還元能力を持ったCOやH2などにより緩やかな気相活性化処理を行い、次いで再度酸化処理を行うことによって酸化膜の状態を変化させる磁性粉末の製造法および主にその方法で作成されるESCAにより観測される酸素の結合状態が低エネルギー側にシフトした耐酸化性酸化物皮膜を有する磁性粉末ならびにその粉末を用いることで保存安定性を改善させた磁気記録媒体を提供する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、磁気記録媒体に使用する耐酸化性に優れた磁性粉末に関するものである。
家庭用AV機器用テープおよびデータバックアップ用ストレージテープといった磁気記録媒体は近年高密度化、高画質化を向上させる目的から広く検討が行われるようになっている。
具体的には、現在精力的に検討されている用途として、コンピューター用途のデータストレージテープがあげられる。データストレージ用途は高容量化、すなわち小さな記録領域に出来るだけ多くの情報を書き込むことが絶えず試みられている。高密度化が進行していくにつれて、情報の仲立ちとなる磁性粉末に対しても出来るだけ小さいもの、すなわち微粒子が望まれるようになっている。
しかし、磁性粒子の微粒子化には大きな問題があることが指摘されている。その中の最たるものが粒子自体の酸化安定性である。酸化安定性の悪い粒子を磁気記録媒体に使用すると、従来公知の情報にも多く示されているように保持がうまくいかず、情報の保存安定性に著しい悪影響を及ぼすことが知られている。そのため、磁性粒子の酸化安定性改善の試みは様々な観点から行われている。
たとえば、弱酸化性ガスや酸素ガスを不活性ガス中に投入して粒子表面を酸化させる方法(例えば特許文献1参照)、還元後に酸化処理、不活性雰囲気下でのアニール処理を行う方法(例えば特許文献2参照)、不活性ガス中での100〜500℃の加熱処理(例えば特許文献3参照)、酸化処理を施した後に不活性ガス下で80〜600℃の温度で0.5〜24時間アニール処理して再酸化する方法(例えば特許文献4参照)、また、流動床を用いて徐酸化処理を行った後に不活性ガス雰囲気下で150〜600℃の温度で0.2〜24時間加熱処理した後に再酸化処理を行う方法(例えば特許文献5参照)が示されている。
また、粒子の表面に関する検討としては、ESCAによる組成を規定したもの(例えば特許文献6参照)があげられ、耐酸化性の向上のためには表面における組成が重要な役割を果たしうることが公知の条件のものとして広く知られているところである。
しかしながら、微粒子化に伴う耐酸化性の改善については現在でも広く検討がなされていることからも明らかなとおり、未だ技術として確立し切れていない。
特開平04−230004号公報 特開平10−017901号公報 特開昭61−154112号公報 特公平02−046642号公報 特開平03−169001号公報 特開平06−213560号公報 特開2004−035939号公報
上記に述べたとおり、従来公知の発明では耐酸化性に関する問題が完全に解決しているわけではなく、さらなる改善が求められている。そこで、本発明が解決すべき課題は酸化安定性に優れた磁気記録媒体用磁性粉末の提供である。
先に述べた技術的な課題は次に示すような方法により解決しうる。
本発明者らは、いかにして磁気特性を維持しつつ耐酸化性の改善を図るか、という一点について種々な観点から検討を行ってきた。その際着目したのは、還元後の粉末のハンドリングもしくは処理をいかにして行うかという点である。
具体的には、本発明者らは還元後に酸素により酸化膜形成処理を行った後に、活性を持った気体中、例えば還元能力を持ったCOやH2などにより緩やかな気相活性化処理を行うことによって酸化膜の状態を変化させた。
このときのESCAにより測定される結合エネルギーのピークの発現位置は処理を行わなかったものと比較してピークが低エネルギー側にシフトしており、通常公知の方法で得られる酸化膜の構造とは異なっているものが得られていることがわかった。得られた酸化膜の構造は一概には同定できないが、難酸化性の物質に変化しているものと推測できる。
本方法では、従来公知の技術で示されていたような異種金属の添加など磁気特性に必ずしも好影響を及ぼさない要因を排除できるため好適な磁性粉末の提供を行うことが出来る。
すなわち本発明は第1に、ESCAにより測定される結合エネルギーピークを525〜532eVに有することを特徴とする磁気記録媒体用磁性粉末;第2に、温度60℃、相対湿度90%の恒温恒湿下に一週間保持したときの飽和磁化量の低下率Δσsが15%未満である、第1記載の磁気記録媒体用磁性粉末(Δσsは、該恒温恒湿下に保持する前の飽和磁化量をσs(i)、一週間保持後の飽和磁化量をσs(ii)としたとき、Δσs=100×〔σs(i)−σs(ii)〕/σs(i)で表される。);第3に、CoをCo/Fe原子%比で50%以下の範囲で含有する、第1または2に記載の磁気記録媒体用磁性粉末;第4に、表面に鉄系酸化物が存在する、第1〜3のいずれかに記載の磁気記録媒体用磁性粉末;第5に、還元処理により得られた金属鉄粉末を酸化処理し、次いで還元性を有する気体により該粉末表面を還元した後、再度酸化処理することにより得られる磁気記録媒体用磁性粉末;第6に、還元処理により得られた金属鉄粉末を酸化処理し、次いで還元性を有する気体により該粉末表面を還元した後、再度酸化処理することにより得られる、第1〜4のいずれかに記載の磁気記録媒体用磁性粉末;第7に、還元処理により得られた金属鉄粉末を酸化処理し、次いで還元性を有する気体により該粉末表面を還元した後、再度酸化処理することを特徴とする磁気記録媒体用磁性粉末の製造方法;第8に、前記還元処理される被還元物質がオキシ水酸化鉄である、第7記載の磁気記録媒体用磁性粉末の製造方法;第9に、前記還元処理される被還元物質がα−酸化鉄である、第7記載の磁気記録媒体用磁性粉末の製造方法;第10に、磁性層を構成する磁性粉末として第1〜6のいずれかに記載の磁性粉末を用いた磁気記録媒体である。
本発明に係る磁気記録媒体用磁性粉末はΔσsが15%未満と小さいものであって、顕著に改善された耐酸化性特性を有する。
ESCAにより測定した結合エネルギーピークを示す説明図である(実施例1および比較例1)。
本発明の構成についてさらに詳述する。
本発明に係る磁性粉末は、酸化膜の構成としてESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis:X線光電子分光法)にて測定した結合エネルギーのピーク(極大点)の発現位置がより低エネルギーの範囲、具体的には、525〜532eV(電子ボルト)、より好ましくは525〜531eVの範囲にあることである。従来の酸化安定性の悪い酸化膜の発現位置は533eV程度にピークの発現を有するため、酸素の結合状態の異なる粒子となっている。
かような磁性粉末について、形状、形態についての制限はないが、通常磁性粉末として使用される形状のものが使用できうる。例えば、針状、紡錘状、平針状、粒状、棒状、楕円状などが主なものである。
本発明に係る磁性粉末の作成方法として例示できるのは、オキシ水酸化鉄粒子を還元して金属鉄磁性粒子を生成させる方法や溶液中に存在する金属イオンを還元剤を用いて還元し金属鉄粒子を得る方法等が例示できるが、現在最も広く行われている金属磁性粒子の製造方法の一例である、オキシ水酸化鉄粒子からの金属鉄磁性粒子の製造方法を例として示す。
まず、前駆物質としてオキシ水酸化鉄を生成させる。オキシ水酸化鉄の製法としては炭酸塩水溶液に第一鉄塩水溶液を添加して炭酸鉄を生成させ、(適宜苛性アルカリを添加しても良い。)酸素含有ガスを添加して核晶を発生させた後、粒子を成長させオキシ水酸化鉄を形成させる方法や、第一鉄塩水溶液に対して苛性アルカリを単独で添加して、オキシ水酸化鉄を形成する反応などが例示できるが、本発明はオキシ水酸化鉄粒子の形状、製造方法には特に制約を受けない。
本発明に係る粒子は後の還元による酸化膜の構造変化を論じるものであるため、磁性粒子の前駆体としては、コバルトを組成中に含むもの、またはコバルト化合物で粒子最表面が被覆されたもののいずれでも構わない。具体的には、コバルトをオキシ水酸化鉄の組成として含ませる場合であれば、炭酸塩の添加前に混合する方法や酸化反応途中に適宜添加するような場合のいずれでも構わないし、コバルト化合物で被覆する際にはいったん反応を完結させた後でコバルトを錯体の形[アンモニウムイオン、EDTA(Ethylene Diamine Tetraacetic Acid;エチレンジアミン四酢酸)との錯体等]で添加する方法や反応液のpHを適当に調整した上で水和イオンの形でコバルトを添加して、表面に被着する方法などが例示できる。
このときのCo添加量の目安としては全体として、Co/Fe(原子%比)が0〜50%、好ましくは0〜40%、より好ましくは0〜35%である。この添加割合は保磁力や飽和磁化、酸化安定性などの要因から、最も好ましい割合を適宜選択して添加する。特に、Co/Feが50%を超える場合には単位体積当たりの飽和磁化量および耐酸化性の観点からみた特性のバランスが悪化してしまい好ましくない。
本発明に係る磁性粒子はアルミニウムを、耐摩耗性改善、適当な硬度の付与、焼結防止効果、バインダーへの分散性改善などを目的として添加することが望ましい。その際の添加量はAl/(Fe+Co)(原子%比)で0〜50%、好ましくは1〜30%、より好ましくは2〜15%である。50%を超えてアルミニウムを添加すると、粒子の有する硬度は高くなり研磨力は増加するものの、磁気特性なかでも飽和磁化の著しい低下を引き起こすため好ましくない。アルミニウムは核晶の生成段階初期には添加しない。これを怠った場合には、粒子の針状性が保持されないため、形状磁気異方性に由来する磁気特性が十分に得られなくなる。そのため、適当な添加時期としては、ある程度粒子の形状が整いつつある成長段階中から酸化終了直前にかけて添加することが適当である。
本発明に係る磁性粒子には希土類元素の添加については妨げない。希土類元素の添加効果としては、磁性粒子の形状保持効果、焼結防止効果および粒度分布改善効果があげられる。希土類元素(Yを含む。)Rの望ましい添加範囲としては、R/(Fe+Co)原子%比で0〜25%、好ましくは1〜20%、より好ましくは2〜15%である。Rが25%を超える場合は、磁気特性の著しい低下を引き起こすため好ましくない。添加時期としては、オキシ水酸化鉄の成長段階での添加でもいいし、成長終了後添加のいずれの場合であっても構わない。
本発明に係る磁性粒子には、製造工程上不可避な成分の他、磁気特性もしくはバインダーに対するなじみの向上、すなわちバインダーに対する分散性の向上のために好適になる成分の添加を妨げない。
以上の工程を経て、コバルト含有のオキシ水酸化鉄を得た。こうして得られたオキシ水酸化鉄について、常法により濾過、水洗、乾燥を施す。乾燥温度としては80〜300℃、好ましくは100〜250℃、より好ましくは120〜220℃の範囲で行う。300℃を超える場合には乾燥は行えるがヘマタイト化が不均一に進んでしまうため好ましくなく、80℃未満の場合では水分が十分に抜けずに不均一な還元の原因になりうる。
得られたオキシ水酸化鉄絶乾物を常法によりα−ヘマタイト等の酸化鉄に変換して実施することも可能である。このときの粒子の保持条件としては、ガス通気可能なバケットの中に静置してN2ガスを通気させつつ変化させる方法や粒子を回転可能な炉内に導入した上、回転させながら粒子を変化させる方法などがあげられるが、いずれの方法であっても構わない。このときの焼成温度としては250〜750℃、好ましくは300〜600℃、より好ましくは350〜550℃である。焼成時における雰囲気には水蒸気、炭酸ガスといったガスの存在があることを妨げない。焼成温度が250℃未満の場合には、オキシ水酸化鉄からα−酸化鉄(ヘマタイト)への形態変換が不均一となる可能性があり適当でない。また750℃を超える温度での焼成も可能ではあるが、粒子の焼結が進んでしまうため好ましくない。
そうして得られたオキシ水酸化鉄もしくは酸化鉄系粒子を気相還元する。還元性のガスの種類としては一酸化炭素、水素、アセチレンなどがあげられる。こうした還元は一段目の温度と二段目の温度を変化させる、いわゆる多段還元の方法を用いてもよい。ここで言う多段還元とは、一段目の還元を比較的低温を維持して還元した上で昇温工程を経て、比較的高温を維持して還元を行うものである。低温還元温度は300〜600℃、好ましくは300〜550℃とし、高温還元温度は350〜700℃、好ましくは350〜650℃とする。
得られた磁性金属粒子は活性が非常に高いことから、表面に安定化酸化膜を形成させる必要がある。このとき本発明では酸素含有ガス雰囲気中で200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは150℃以下の温度で酸化膜形成処理を行う。200℃を超えた温度での酸化膜形成処理も可能であるが、酸化膜が厚くなりすぎるため好ましくない。
次いで、炉内雰囲気を切り替え、活性を持った気体を導入、例えば還元能力を持ったCOやH2などにより緩やかな気相活性化処理を行うことによって酸化膜の状態を変化させた。その後再び酸素含有ガスを導入して酸化膜をさらに形成させた。このときの気相活性化処理温度(アニール処理温度)としては100℃未満の場合ではアニール処理によってもたらされる酸化膜の改善効果が低下し、Δσsの改善効果が低下してしまうため好ましくない。一方、500℃を超える場合にもアニール処理の効果が薄れてしまい、Δσsの改善効果が低下してしまうため好ましくない。従って、アニール処理の好ましい温度範囲としては、100〜500℃、好ましくは150〜450℃、より好ましくは200〜400℃で行うことが望ましい。
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明の技術的範囲はこれらの記載に制限されるものではないことはいうまでもない。
本発明で得られる物質の組成、磁気特性は以下のようにして分析した。
[組成分析]
表面分析は、X線光電子分光法(ESCA)、オージエ電子分光法(AES;Auger Electron Spectroscopy)を用いることが広く行われている。本発明ではESCAを用いて測定した結果について示す。測定条件としては、アルバック・ファイ株式会社製の5800を使用し、取り出し角は45°に設定し、試料はホルダに設置する形でセッティングした。Scanning Speedは5eV/分でありエッチングは2nm/cycleの割合で行い、10cycle(20nm)の値で粒子表面の組成として算出した。また測定範囲は、酸素O(1S)の出現個所に該当する525〜545eVの範囲で測定している。
全体組成分析については、Co、Al、Yの定量は日本ジャーレルアッシュ株式会社製の高周波プラズマ発光分析装置(IRIS/AP)、Feの定量は平沼産業株式会社製の平沼自動滴定装置(COMTIME−980)を用いて行った。これらの定量結果は重量%(wt%と表す。)として与えられるため、算出時には原子%(at%と表す。)に変換させた。
[粒子の長軸長及び短軸長]
平均長軸長並びに短軸長は透過型電子顕微鏡にて観察された視野を174000倍に拡大した写真を使用して、500個の粒子を測定し平均で示した。測定は粒子の重なりなどの写真の写り方によって境界のはっきりしないもの、写真の端で粒子の端が不正確になっているものに関しては測定を避け、分散のよい単独粒子のみを選択して計測している。
[磁気特性および耐酸化性評価]
磁気特性は東栄工業株式会社製のVSM装置(VSM−7P)を使用して外部磁場10kOe(125.6kA/m)で測定した。
耐酸化性評価は設定温度60℃、相対湿度90%の恒温恒湿の環境下に一週間保持して、該恒温恒湿下に保持する前の飽和磁化量σs(i)、一週間保持後の飽和磁化量σs(ii)を測定し、保存前後の飽和磁化量の低下率Δσs
Δσs=100×〔σs(i)−σs(ii)〕/σs(i)
の算出式により評価した。
また、媒体の保存安定性評価として、保存前後のテープ化した小片を設定温度60℃、相対湿度90%の恒温恒湿の環境下に一週間保持して、該恒温恒湿下に保持した前後の最大磁束密度Bmの値を測定し、その低下の状態を上記の粉末の飽和磁化σsに係るΔσsと同様にして、テープに係るΔBmの算出を行い評価した。すなわち媒体(テープ)を設定温度60℃、相対湿度90%の恒温恒湿の環境下に一週間保持して、該恒温恒湿下に保持する前のBm(i)、一週間保持後のBm(ii)を測定し、保存前後のBmの低下率ΔBm(%)
ΔBm=100×〔Bm(i)−Bm(ii)〕/Bm(i)
の算出式により評価した。
[テープ評価]
テープ評価としては、強磁性鉄合金粉末100重量部に対し以下の材料を下記組成となるような割合で配合して遠心ボールミルで1時間分散させて磁性塗料を作製し、この磁性塗料をポリエチレンテレフタレートからなるベースフイルム上にアプリケーターを用いて塗布することにより、磁気テープを作製し、その保磁力Hcxを測定し、またそのヒステリシスループから媒体のSFDx(Switching Fieid Distribution;反転磁界分布)値を算出した。
強磁性鉄合金粉末 100重量部
ポリウレタン樹脂(東洋紡製UR8200) 30重量部
メチルエチルケトン 190重量部
シクロヘキサノン 80重量部
トルエン 110重量部
ステアリン酸 1重量部
アセチルアセトン 1重量部
アルミナ 3重量部
カーボンブラック 2重量部
[比表面積]
湯浅イオニクス製の4ソープUSを用い、BET法を用いて算出した。
[Dx(結晶子サイズ)測定]
X線回折装置(理学電気株式会社製のRAD−2C)で得られる、Fe(110)面の回折ピークの半価幅、2θ式から、D(110)=Kλ/βcosθ〈式中、K:シェラー定数0.9、λ:照射X線波長、β:回折ピークの半価幅(ラジアン径に補正して用いる)、θ:回折角。〉に従って求める。
[実施例1] 第一鉄塩とコバルト塩の混合溶液から炭酸塩を経由して生成させたオキシ水酸化鉄を主成分とするケーキ(含まれる粒子の物性:長軸長0.062μm、軸比8.5、BET値129.7m2/g、Co/Feのat%比20.3%、Al/(Fe+Co)のat%比8.7%、Y/(Fe+Co)のat%比6.0%。表1中に示す。)を130℃にて乾燥して、オキシ水酸化鉄乾燥固形物を得た。その固形物7.6gをバケットに装入し、水蒸気を全体のガス流量の10vol%(1.13L/min・cm2)に相当する量の導入速度で添加しながら大気中にて350℃で焼成することで、α−ヘマタイトを主成分とする鉄系酸化物を得た。
Figure 2010225268
そうして得られたα−ヘマタイトを主成分とする鉄酸化物を通気可能なバケット内に装入し、該バケットを貫通型還元炉内に装入し、水素ガス(11.32L/min・cm2)を通気しつつ、水蒸気を全体のガス流量の10vol%(1.13L/min・cm2)に相当する量の速度で添加しながら、400℃で5分間還元処理を施した。還元時間終了後、水蒸気の供給を停止し、水素雰囲気下600℃まで10℃/分の昇温速度にて昇温させた。その後再度、水蒸気を全体のガス流量の10vol%(1.13L/min・cm2)に相当する量の速度で添加しながら10分間高温還元処理を行い、還元鉄合金粉末を得た。
その後、炉内雰囲気を水素から窒素に変換し、19.66L/min・cm2の流速で炉内温度を降温レート20℃/分で90℃まで低下させた。そのあと、酸化膜形成初期段階は窒素16.90L/min・cm2と空気0.08L/min・cm2の混合割合にて混合したガスを炉内に添加し、かつ水蒸気を全体のガス流量の10vol%(1.70L/min・cm2)に相当する量の速度で添加しながら、水蒸気・大気・窒素の混合雰囲気中にて酸化膜を形成させ、表面の酸化による発熱が抑制された段階で徐々に空気の供給量を増すことによって、雰囲気中における酸素濃度を上昇させた。最終的な空気の流量は0.78L/min・cm2の添加量とした。その際には、炉内に導入される大気の総量調整は適宜窒素の流量を調整することで炉内の通気ガスの総量を一定にする。
そのあと、窒素雰囲気下において10℃/分で350℃まで温度を上昇させた。引き続き、水素ガス(11.32L/min・cm2)を用い、水蒸気を全体のガス流量の10vol%(1.13L/min・cm2)に相当する量の速度で添加しながら30分間還元した(アニール処理またはアニール工程という)。
その後、再度水素を窒素に切り替え、水蒸気の供給を停止した後に、降温操作に入り炉内温度を80℃まで低下させた。窒素16.90L/min・cm2と空気0.08L/min・cm2の混合割合にて混合したガスを、炉内に添加し、かつ水蒸気を全体のガス流量の10vol%(1.70L/min・cm2)に相当する量の速度で添加しながら、水蒸気・大気・窒素の混合雰囲気中にて酸化膜を形成させ、開始より10分を経過した段階で空気の添加量を0.16L/min・cm2にあげ、20分を経過した段階で0.78L/min・cm2の添加量とした。その後、10分間そのままの状態を維持して、金属磁性粉末を得た。その際には、炉内に導入される大気の総量は適宜窒素の流量を調整することで酸化膜改良型磁性粉末を得た。
得られた磁性粉末の磁気特性、テープ評価値並びに物性値について表2に示し、結合エネルギーピークを図1に示す。
これによれば、粉体の結合エネルギーピーク(極大点)は531.0eVにあって、Δσsは8.2%と低く、これを前記のとおりテープ化したもののΔBmも2.4%と低く、粉体およびこれを用いたテープともに耐酸化性に優れたものであった。
Figure 2010225268
[実施例2〜4] 核粒子の組成を表1中の組成および物性値を有するものに変更した以外は実施例1と同様に行って磁性粉末を得た。磁性粉末特性値、テープ評価値を表2に示す。
粉体の結合エネルギーピークは実施例2では531.3eV、実施例3では531.9eV、実施例4では528.9eVであった。
また、実施例2〜4においては、表2の記載のとおり、粉体のΔσsは5.3〜10.2%と低く、これを前記のとおりテープ化したもののΔBmも1.7〜3.2%と低く、粉体およびこれを用いたテープともに耐酸化性に優れたものであった。
[実施例5〜8] α−酸化鉄への転換を行わなかった以外は実施例1〜4と同様に行った実施例5〜8によって磁性粉末を得た。磁性粉末特性値、テープ評価値を表2に示す。粉体の結合エネルギーピークは実施例5では529.2eV、実施例6では527.3eV、実施例7では525.4eV、実施例8では526.9eVであった。
また、実施例5〜8においては、表2の記載のとおり、粉体のΔσsは4.7〜7.0%と低く、これを前記のとおりテープ化したもののΔBmも1.8〜2.5%と低く、粉体およびこれを用いたテープともに耐酸化性に優れたものであった。
[実施例9〜12] アニール処理時の温度を表2中に記載の温度へ種々変更した以外は実施例1と同様に行った実施例9〜12によって磁性粉末を得た。磁性粉末特性値、テープ評価値を表2にあわせて示す。
粉体の結合エネルギーピークは実施例9では531.5eV、実施例10では528.3eV、実施例11では531.4eV、実施例12では532.0eVであった。
また、実施例9〜12においては、表2の記載のとおり、粉体のΔσsは10.3〜14.7%とやや低く、これを前記のとおりテープ化したもののΔBmも3.2〜4.5%とやや低く、粉体およびこれを用いたテープともに耐酸化性にやや優れたものであった。
[実施例13〜16] アニール処理時の時間を表2中に記載の時間へ種々変更した以外は実施例1と同様に行った実施例13〜16によって磁性粉末を得た。磁性粉末特性値、テープ評価値を表2にあわせて示す。
粉体の結合エネルギーピークは実施例13では531.8eV、実施例14では529.4eV、実施例15では530.2eV、実施例16では527.2eVであった。
また、実施例13〜16においては、表2の記載のとおり、粉体のΔσsは5.5〜10.8%とやや低く、これを前記のとおりテープ化したもののΔBmも1.6〜7.6%とやや低く、粉体およびこれを用いたテープともに耐酸化性にやや優れたものであった。
[実施例17] アニール処理の活性ガスを一酸化炭素に変更した以外は実施例1と同様に行った実施例17によって磁性粉末を得た。磁性粉末特性値、テープ評価値を表2にあわせて示す。
この際の粉体の結合エネルギーピークは526.2eVであり、粉体のΔσsは10.4%とやや低く、これを前記のとおりテープ化したもののΔBmも6.4%とやや低く、粉体およびこれを用いたテープともに耐酸化性にやや優れたものであった。
[実施例18] アニール処理の活性ガスをアセチレンに変更した以外は実施例1と同様に行った実施例18によって磁性粉末を得た。磁性粉末特性値、テープ評価値を表2にあわせて示す。
この際の粉体の結合エネルギーピークは531.3eVであり、粉体のΔσsは12.3%とやや低く、これを前記のとおりテープ化したもののΔBmも7.4%とやや低く、粉体およびこれを用いたテープともに耐酸化性にやや優れたものであった。
[実施例19] アニール処理の活性ガスを一酸化炭素に変更した以外は実施例5と同様に行った実施例19によって磁性粉末を得た。磁性粉末特性値、テープ評価値を表2にあわせて示す。
この際の粉体の結合エネルギーピークは529.4eVであり、粉体のΔσsは11.5%とやや低く、これを前記のとおりテープ化したもののΔBmも7.9%とやや低く、粉体およびこれを用いたテープともに耐酸化性にやや優れたものであった。
[実施例20] アニール処理の活性ガスをアセチレンに変更した以外は実施例5と同様に行った実施例20によって磁性粉末を得た。磁性粉末特性値、テープ評価値を表2にあわせて示す。
この際の粉体の結合エネルギーピークは531.8eVであり、粉体のΔσsは12.8%とやや低く、これを前記のとおりテープ化したもののΔBmも7.6%とやや低く、粉体およびこれを用いたテープともに耐酸化性にやや優れたものであった。
[比較例1] アニール処理を窒素中、350℃で30分間実施した以外は実施例1と同様に行った比較例1によって磁性粉末を作成した。得られた磁性粉末の磁気特性、テープ評価値および物性値について表2に示し、結合エネルギーピークを図1に示す。
これによれば、粉体の結合エネルギーピークは532.5eVにあって、Δσsは17.3%と高く、これを前記のとおりテープ化したもののΔBmも8.9%と高く、粉体およびこれを用いたテープともに耐酸化性に劣るものであった。
[比較例2〜4] 核粒子の組成を表1、表2中の組成および物性値を有するものに変更した以外は比較例1と同様に行った比較例2〜4によって磁性粉末を得た。磁性粉末特性値、テープ評価値および物性値を表2に示す。
粉体の結合エネルギーピークは比較例2では534.5eV、比較例3では534.8eV、比較例4では533.7eVであった。
また、比較例2〜4においては、表2の記載のとおり、粉体のΔσsは15.8〜17.3%と高く、これを前記のとおりテープ化したもののΔBmも8.1〜9.3%と高く、粉体およびこれを用いたテープともに耐酸化性に劣るものであった。
[比較例5〜8] アニール工程以降を省略した以外は実施例1〜4と同様に行った比較例5〜8によって磁性粉末を得た。磁性粉末特性値、テープ評価値および物性値を表2に示す。
これによれば、粉体の結合エネルギーピークは比較例5では535.8eV、比較例6では535.4eV、比較例7では536.1eV、比較例8では535.2eVにピークを有することが分かった。また、耐酸化性Δσsは比較例5で19.3%、比較例6〜8でも16.0〜20.5%と高く、これを前記のとおりテープ化したもののΔBmも比較例5で8.7%であり、比較例6〜8でも6.2〜10.3%と高く、粉体およびこれを用いたテープともに耐酸化性に劣るものであった。
[比較例9〜12] 窒素中におけるアニール処理の温度を表2中に示したように変更した以外は比較例1と同様に行った比較例9〜12によって磁性粉末を得た。磁性粉末特性値、テープ評価値を表2にあわせて示す。
これによれば、粉体の結合エネルギーピークは比較例9では532.9eVにあって、比較例10では532.1eV、比較例11では532.7eV、比較例12では533.8eVにピークを有することが分かった。また、耐酸化性Δσsは比較例9で15.9%、比較例10〜12でも15.4〜16.2%と高く、これを前記のとおりテープ化したもののΔBmも比較例9で6.1%であり、比較例10〜12でも5.8〜7.3%とやや高く、粉体およびこれを用いたテープともに耐酸化性に若干劣るものであった。
[比較例13〜16] α酸化鉄への変換(焼成)工程を経ずにオキシ水酸化鉄から直接還元処理を実施した後に、安定化処理を行い、その後に実施する窒素中におけるアニール処理の温度を表2中に示したように変更した以外は比較例1と同様に行った比較例13〜16によって磁性粉末を得た。磁性粉末特性値、テープ評価値を表2にあわせて示す。
これによれば、粉体の結合エネルギーピークは比較例13では535.6eVにあって、比較例14では533.4eV、比較例15では534.8eV、比較例16では535.4eVにピークを有することが分かった。また、耐酸化性Δσsは比較例13で19.4%、比較例14〜16でも16.4〜18.6%と高く、これを前記のとおりテープ化したもののΔBmも比較例13で9.8%であり、比較例14〜16でも7.2〜8.1%と高く、粉体およびこれを用いたテープともに耐酸化性に劣るものであった。
[比較例17〜20] α酸化鉄への変換(焼成)工程を経ずにオキシ水酸化鉄から直接還元処理を実施した後に、安定化処理を行い、その後に実施する窒素中におけるアニール処理の温度、時間を表2中に示したように変更した以外は比較例1と同様に行った比較例17〜20によって磁性粉末を得た。磁性粉末特性値、テープ評価値を表2にあわせて示す。
これによれば、粉体の結合エネルギーピークは比較例17では534.2eVにあって、比較例18では532.9eV、比較例19では535.8eV、比較例20では535.3eVにピークを有することが分かった。また、耐酸化性Δσsは比較例17で17.8%、比較例18〜20でも15.8〜23.2%と高く、これを前記のとおりテープ化したもののΔBmも比較例17で7.6%であり、比較例18〜20でも5.7〜11.3%と高く、粉体およびこれを用いたテープともに耐酸化性に劣るものであった。
[比較例21〜24] 窒素中におけるアニール処理の温度および時間を表2中に示したように変更した以外は比較例1と同様に行った比較例21〜24によって磁性粉末を得た。磁性粉末特性値、テープ評価値を表2にあわせて示す。
これによれば、粉体の結合エネルギーピークは比較例21では535.9eVにあって、比較例22では534.8eV、比較例23では536.7eV、比較例24では537.0eVにピークを有することが分かった。また、耐酸化性Δσsは比較例21で17.4%、比較例22〜24でも15.9〜20.3%と高く、これを前記のとおりテープ化したもののΔBmも比較例21で7.4%であり、比較例22〜24でも5.9〜12.9%と高く、粉体およびこれを用いたテープともに耐酸化性に劣るものであった。
図1における実施例1と比較例1の結合エネルギーピークに明らかな相違が観察され、これは酸化膜の形態が何らかの変化をうけているものといえる。また、このときの耐酸化性を示すΔσsに関しても顕著な改善が見られた。
実施例2、比較例2、比較例6の群、実施例3、比較例3、比較例7の群、実施例4、比較例4、比較例8の群に関しては、同一群内では同じ核粒子を使用しているので、粒子中に含有されるコバルト量により、本発明の効果が失われるか否かの検討ができる。その結果、いずれの場合においても、本発明の手法を用いて行うことにより耐酸化性が改善していることが明らかとなった。
また、実施例1〜4と実施例5〜8の比較により、焼成を施したときとそうでないとき、即ち還元開始時における粒子状態による相違を知ることができる。これより、還元開始物質としては、むしろヘマタイトよりはオキシ水酸化鉄を用いた方が、本発明の処理方法を適用するにあたり特性をより改善できることが分かる。
実施例1と実施例13〜16の結果の比較により、還元雰囲気中でのアニール処理の時間による特性および耐酸化性に対する効果の相違がわかる。これより、処理時間は長ければ長いほど効果的であるとは限らず、適度な時間設定によって、より効果的に特性が改善することが分かる。
実施例1と実施例17、18の比較により、使用する還元ガスの種類による効果の確認ができるようになっている。この結果から還元性ガスの種類により磁性粉末の特性に違いが生じることがわかり、還元性ガスの中でも水素ガスが最も適していることが分かる。
実施例1と実施例9〜12の比較により、還元雰囲気下におけるアニール処理において還元を行う温度としてどの程度の温度が妥当かの検討を行うことができる。この結果から、温度はやや低めの温度で行うことが好ましく、さらには、300〜400℃の間で行うことが特に好ましいことが分かる。
比較例9〜24は、アニール処理を窒素中で実施した場合のアニール条件による磁性粉末の特性の変動を示したもので、比較例9〜12が出発原料をα―酸化鉄、比較例13〜16が出発原料をオキシ水酸化鉄とし、アニール処理の時間を一定とした上で温度をそれぞれ変化させたもの、比較例17〜20が出発原料をオキシ水酸化鉄、比較例21〜24が出発原料をα−酸化鉄とし、アニール処理の温度を一定とした上で時間をそれぞれ変化させたときの磁性粉末の特性の動きについて示したものになっている。これらと実施例1を比較すれば、アニール工程では、雰囲気は不活性ガスである窒素よりは水素を用いて弱還元する方が好ましいことが分かる。
また、実施例で示しているとおり、通常の還元・酸化安定化処理の後に再度水素を系内に導入し、再度磁性粉末に対してアニール処理を施すことによって、本明細書に示したようなX線光電子分光法での特徴のある磁性粉末が得られ、かような磁性粉末は耐酸化性に優れていることが見いだせた。また、各磁気特性においても、公知の方法を使用して得られた磁性粉末の特性よりも優れた特性を有する磁性粉末を得ることができる。
家庭用AV機器用テープ、データバックアップ用ストレージテープといった高容量化、高密度化、高画質化が求められる磁気記録媒体に適用できる。

Claims (10)

  1. ESCAにより測定される結合エネルギーピークを525〜532eVに有することを特徴とする磁気記録媒体用磁性粉末。
  2. 温度60℃、相対湿度90%の恒温恒湿下に一週間保持したときの飽和磁化量の低下率Δσsが15%未満である、請求項1記載の磁気記録媒体用磁性粉末。ただし、該恒温恒湿下に保持する前の飽和磁化量をσs(i)、一週間保持後の飽和磁化量をσs(ii)としたとき、Δσs=100×〔σs(i)−σs(ii)〕/σs(i)で表される。
  3. CoをCo/Fe原子%比で50%以下の範囲で含有する、請求項1または2に記載の磁気記録媒体用磁性粉末。
  4. 表面に鉄系酸化物が存在する、請求項1〜3のいずれかに記載の磁気記録媒体用磁性粉末。
  5. 還元処理により得られた金属鉄粉末を酸化処理し、次いで還元性を有する気体により該粉末表面を還元した後、再度酸化処理することにより得られる磁気記録媒体用磁性粉末。
  6. 還元処理により得られた金属鉄粉末を酸化処理し、次いで還元性を有する気体により該粉末表面を還元した後、再度酸化処理することにより得られる、請求項1〜4のいずれかに記載の磁気記録媒体用磁性粉末。
  7. 還元処理により得られた金属鉄粉末を酸化処理し、次いで還元性を有する気体により該粉末表面を還元した後、再度酸化処理することを特徴とする磁気記録媒体用磁性粉末の製造方法。
  8. 前記還元処理される被還元物質がオキシ水酸化鉄である、請求項7記載の磁気記録媒体用磁性粉末の製造方法。
  9. 前記還元処理される被還元物質がα−酸化鉄である、請求項7記載の磁気記録媒体用磁性粉末の製造方法。
  10. 磁性層を構成する磁性粉末として請求項1〜6のいずれかに記載の磁性粉末を用いた磁気記録媒体。
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