JP4596583B2 - 重縮合・重付加反応が可能な末端1,4−ブタンジオール官能基を有する新規なブテンオリゴマー誘導体 - Google Patents
重縮合・重付加反応が可能な末端1,4−ブタンジオール官能基を有する新規なブテンオリゴマー誘導体 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、重縮合・重付加反応が可能なマクロモノマーとしての末端1,4−ブタンジオール官能基を有する新規なブテンオリゴマー誘導体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
マクロモノマーとは、片末端に重合性官能基を有する高分子量(通常、分子量が数百〜1万程度)モノマーと見なし得る化合物のことを指し、1972年に米国のMilkovichらによって提唱されたのが最初である。(USP3786116(1976)あるいはACS Polym.Prepr.,21,40(1980)等に記載)
従来の連鎖移動法によるグラフト共重合では、幹ポリマーの存在下で枝となるモノマーが重合されるために、得られるグラフト共重合は枝の長さや分布が不均一である。しかしながら、新しく提案されたマクロモノマー法は、予め分子量やその分布、立体規則性、疎水性、親水性等の物性を考慮しながら制御して製造するマクロモノマーを、重縮合・重付加反応によりグラフト高分子を生成させることができ、構造の制御されたグラフト高分子の分子設計法として優れている。
このマクロモノマー法を利用した新規材料の創出例については、『マクロモノマーの化学と工業』(山下雄也 編著、アイピーシー発行(1989))の文献にも触れられているように、多種多様なマクロモノマーの提案がなされている。
【0003】
一方、ブテンオリゴマー誘導体をマクロモノマーとして利用する試みは行われてきたが、殆どが主鎖成分がイソブチレン骨格で構成され、かつ、そのα、ω−両末端に官能基を有する両末端ブテンオリゴマーである。それらの一例として、J.P.KennedyらがJournal of Polymer Science:Polymer Chemical Edition,Vol.20,p2809−2817(1982)の論文において、両末端にエポキシ官能基を有し、主鎖がイソブチレン骨格で両末端にエポキシ官能基を有するブテンオリゴマー誘導体の製造について開示している。
しかしながら、このような両末端官能基を有するブテンオリゴマー誘導体は、本質的に本発明の片末端官能基を有するブテンオリゴマー誘導体と分子構造が異なることは明白である。
【0004】
では、ブテンオリゴマー誘導体を開発するために基本樹脂となり得るブテンオリゴマーについては、従来は塩化アルミニウム等の触媒で、所謂、「低反応性ブテンオリゴマー」が製造されていたが、最近においては種々の触媒の使用によりその構造、とりわけオレフィンの結合形式を変えた末端ビニリデンオレフィン構造の含有量が多い、所謂、「高反応性ブテンオリゴマー」が製造されるようになってきた。
例えば、アメリカ特許第4,152,499号公報に代表されるように、高反応性ブテンオリゴマーの製造が開示されており、更には、無水マレイン酸と反応させて、コハク酸末端基を有するブテンオリゴマー誘導体(以下、コハク酸誘導体と略記する)を高収率で製造できることを開示している。
【0005】
また、この高反応性ブテンオリゴマーの化学反応性を利用する新規誘導体の開示には、上記コハク酸誘導体以外には、以下のように報告例がある。
例えば、日本特許第2,908,557号におけるカルボニル誘導体、特開平8−291,183号公報におけるシリル誘導体、日本特許第2,696,076号におけるオキソ誘導体およびそれを更に化学変換させたモノアミン誘導体等がある。
【0006】
つまり、これまでに片末端に重縮合・重付加反応が可能なマクロモノマーとしてのブテンオリゴマー誘導体については開示されていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、重縮合・重付加反応が可能なマクロモノマーとしての末端1,4−ブタンジオール官能基を有する新規なブテンオリゴマー誘導体を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の第1は、次の(1)から(3)の構造を有するブテンオリゴマー誘導体に関する。(以下、この誘導体を飽和ジオール誘導体と略記する)
(1)一方の末端基がtert−ブチル基であり、
(2)炭化水素主鎖の繰り返し構成単位の数の80モル%以上が下記式(1)で表され、
(3)他の一方の末端基が、下記式(2)で表される飽和1,4−ブタンジオールタイプの官能基を60モル%以上含有する。
【化5】
【化6】
【0009】
本発明の第2は、次の(1)から(3)の構造を有するブテンオリゴマー誘導体に関する。(以下、この誘導体を不飽和ジオール誘導体と略記する)
(1)一方の末端基がtert−ブチル基であり、
(2)炭化水素主鎖の繰り返し構成単位の数の80モル%以上が下記式(1)で表され、
(3)他の一方の末端基が、下記式(3)または(4)で表される不飽和オレフィンを有する1,4−ブタンジオールタイプの官能基を60モル%以上含有する。
【化7】
【化8】
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の飽和あるいは不飽和1,4−ブタンジオール誘導体は、次の通り特定構造のブテンオリゴマーからコハク酸誘導体を経て、段階的に製造することができる。
【0011】
まず、コハク酸誘導体を製造するには、出発原料には次の特定構造の高反応性ブテンオリゴマーを用いる。
(1)一方の末端基がtert−ブチル基であり、
(2)炭化水素主鎖の80モル%以上が前記式(1)で表される繰り返し構成単位からなり、
(3)かつ、もう一方の末端基として、60モル%以上の式(5)で表される末端ビニリデンオリゴマー末端基を含有する。
【化9】
【0012】
上記特定構造の高反応性ブテンオリゴマーは、イソブチレン単独を重合する、またはイソブチレンと適宜にブテン−1、ブテン−2またはこれらの混合物などのオレフィンとカチオン重合することによって製造することができる。この製造法としては、前記アメリカ特許第4152499号公報記載の実施例のようにBF3触媒によるか、あるいは本発明者らが開発した特開平10−306128号公報による方法を参考にすることができる。
【0013】
次に、この高反応性ブテンオリゴマーからコハク酸誘導体を製造する方法としては、前記アメリカ特許第4,152,499号公報記載の方法に代表されるように、高反応性ブテンオリゴマーに対して、無触媒の加熱のみで無水マレイン酸を熱付加反応させることによって製造することができる。
【0014】
この無水マレイン酸の付加反応は、Ene反応機構で進行することがM.TessierらのEur.Polymer Journal:Vol.20,No.3,p269−280(1984)の論文において明らかにしており、さらには、その生成物の構造についても以下のように特定している。
前記式(5)のビニリデン末端基のオレフィンに対して無水マレイン酸がEne反応付加して、この末端基は下記式(6)あるいは式(7)で表わされる不飽和オレフィンを有するコハク酸末端基に変換される。
【化10】
つまり、生成してくるこの両者の違いは、オレフィンの置換様式の違いであり、式(6)はビニリデンタイプであり、式(7)は3置換タイプである。この式(6)と式(7)のコハク酸誘導体の生成比は、製造条件によって異なるが、一般的には式(6)の方が優勢して生成してくる。
【0015】
なお、このようにして製造できる構造特定のコハク酸誘導体は、本発明の飽和あるいは不飽和ジオール誘導体の出発原料となり得る。
【0016】
以下に、本発明の前記式(2)で表わされる飽和ジオール誘導体、および前記式(3)あるいは式(4)で表わされる不飽和ジオール誘導体の製造方法について説明する。なお、本発明のこれらの化合物群は、いずれの場合も既往の文献に記載の無い新規な化合物群である。
【0017】
(不飽和ジオール誘導体の製造)
不飽和ジオール誘導体の製造は、前記記載のコハク酸誘導体を原料に対して、水酸化リチウムアルデハイド(LiAlH4)の金属還元試薬で、コハク酸末端基のカルボニル位をメチレン基に還元することで合成される。
【0018】
このLiAlH4による還元方法は、有機、高分子化学において広く知られた方法であり、理論的には1モルのLiAlH4が4モルのカルボニル基を還元する能力を有する。つまり、前記コハク酸誘導体1モル中にはカルボニル基が最低2つ含まれるために、1モルのコハク酸誘導体から不飽和ジオール誘導体を製造するためには、LiAlH4が0.5モル以上必要となる。実際的には、1モルのコハク酸誘導体に対してLiAlH4が5モル以上の大過剰量で反応させた方が、反応時間の短縮に繋がるため好ましい。
また、LiAlH4による還元反応は、カルボニル基およびオレフィン二重結合が1分子中に共存する場合には、カルボニル基のみが選択的に還元を受けることも公知である。
【0019】
本発明の具体的なコハク酸誘導体のLiAlH4による還元方法は、反応溶媒で希釈溶解させた所定量のLiAlH4溶液中に対して、同じく反応溶媒で希釈溶解させたコハク酸誘導体を滴下させ、下記のような反応温度および反応時間で攪拌、反応させることによって達成できる。
反応温度、時間等の反応条件としては特に限定されないが、例えば、反応温度は0〜200℃の範囲で、好ましくは使用される反応溶媒の還流温度で行い、反応時間は5分以上あれば問題が無い。
【0020】
還元反応に際して使用できる反応溶媒は、LiAlH4に不活性な溶媒、つまりカルボニル基を含有しない化合物、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、イソオクタン等の脂肪族炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒などを用いることができる。さらに好ましくは、反応基質自体を溶媒として無溶媒下で還元反応を行わせる。
【0021】
但し、高分子量のコハク酸誘導体を原料に使用する場合には、反応中の界面でのLiAlH4との接触効率が液粘度に左右されることと、還元されて生成する不飽和ジオール誘導体群も原料と同様の粘度を有するために、反応原料およびLiAlH4自体を前記記載の溶媒等で希釈することが好ましい。
【0022】
この還元反応の終了後には、常法の後処理を施せばよいが、反応に未使用なLiAlH4残さ物を失活除去する必要がある。失活方法としては、水あるいはカルボニル基を含有する化合物、例えばアセトン等の化合物をゆっくりと添加し、LiAlH4を失活させる。次に、この失活処理によって遊離する無機性の残さ物を除去するために、水あるいは飽和食塩水等で中和水洗を行う。さらに、この中和水洗後に得られる有機層を無水硫酸ナトリウム等の乾燥剤で乾燥させた後に、この溶液を蒸留等の操作で濃縮させることで、目的物を得ることができる。
【0023】
以上のようにして得られた生成物においては、前記式(6)あるいは(7)のコハク酸末端基のカルボニル基が還元され、この末端基は式(6)からは式(3)に変換され、式(7)からは式(4)の不飽和ジオール体に変換される。つまり、前記式(6)あるいは式(7)のコハク酸末端基に存在するオレフィン二重結合が、異性化等を受けずに、そのままの結合様式を保持した式(3)あるいは式(4)の其々の不飽和ジオール末端基に変換される。
【0024】
なお、このようにして製造される不飽和ジオール誘導体は、常温常圧下で安定に存在する物質である。従って、製造された不飽和ジオール誘導体をさらに高純度で得るためには、常法の分離手段、たとえばシリカゲルクロマトグラフィーを分離手段として容易に単離・回収することが可能である。
【0025】
(飽和ジオール誘導体の製造)
飽和ジオール誘導体の製造は、上記のようにして得られる不飽和ジオール誘導体を、適当な水素化触媒によって不飽和ジオール誘導体中に存在するオレフィンを接触還元させることで合成される。
【0026】
オレフィンの接触還元反応は化学工業においても幅広く実施されているが、本発明の具体的な方法においては、水素圧は常圧〜10MPa、好ましくは2MPa以下、反応温度は0〜200℃の範囲で、好ましくは100℃以下に設定し、適当な溶剤で希釈した不飽和ジオール誘導体群を水素化触媒で接触還元させることによって、各不飽和ジオール誘導体中に存在するオレフィンが還元されて、飽和ジオール誘導体を高収率でもって変換することが可能である。反応時間は特に限定されないが通常は1〜3時間程度である。
【0027】
使用される水素化触媒は、均一系、不均一系触媒のどちらでもよく、触媒の種類も特に限定はされないが、本発明のようなオレフィンの還元には、生成物の分離を考慮すると不均一系貴金属触媒が好まれて使用される。本発明の場合においても、Pd,Pt,Ru等の貴金属系の触媒が使用でき、これらの該貴金属類は、アルミナ、シリカ、活性炭等の不活性担体に担持されたものでも構わない。これらの触媒は少量でも触媒的作用をするためその使用量は少なく、たとえば用いる不飽和ジオール誘導体に対して0.01〜50モル%の量で十分である。
【0028】
この反応に使用できる反応溶媒は、原料の不飽和ジオール誘導体が可溶で反応に不活性な溶媒、例えば、ヘキサン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒などを用いることができる。さらに好ましくは、反応基質自体を溶媒として無溶媒下で還元反応を行わせる。
【0029】
但し、高分子量の不飽和ジオール誘導体を原料に使用する場合には、反応中の界面での触媒との接触効率が液粘度に左右されることと、還元されて生成する飽和ジオール誘導体群も原料と同様の粘度を有するために、反応原料自体を前記記載の溶媒等で希釈することが好ましい。
【0030】
この接触還元反応後は、触媒残さをろ過等の常法手段で除去する。また、反応溶媒を使用した場合においては、触媒を除去させた反応溶液を濃縮、乾燥等の適宜の分離・回収手段によって、目的物である飽和ジオール誘導体を得ることができる。
【0031】
以上のようにして得られた生成物においては、前記式(3)あるいは(4)で表わされる不飽和ジオール体中のオレフィンが還元され、この両方の末端基から式(2)で表わされる飽和ジオール誘導体に変換される。
【0032】
なお、このようにして製造される飽和ジオール誘導体は、常温常圧下で安定に存在する物質である。従って、製造された飽和ジオール誘導体をさらに高純度で得るためには、常法の分離手段、たとえばシリカゲルクロマトグラフィーを分離手段として容易に単離・回収することが可能である。
【0033】
以上のようにして製造できる本発明の飽和あるいは不飽和ジオール誘導体は、反応性に富む1級ジオール官能基を分子末端に有する1,4−ブタンジオールタイプのマクロモノマーとなる。一般的に、1,4−ブタンジオール官能基は化学反応性が高いことが知られており、カルボキシル基、イソシネート基、アクリル基等の官能基との間で化学反応が容易に進行する。
本発明の1,4−ブタンジオールタイプの末端基を有するブテンオリゴマー誘導体も、前述の1,4−ブタンジオールと遜色の無い化学反応性を有することが判明しており、前述のようにカルボキシル基、イソシネート基、アクリル基等の官能基との間で化学反応が容易に進行する。
【0034】
ところで、近年エンジニアリングプラスチィク用途として需要を急速に伸ばしているポリブチレンテレフタレート(PBT)は1,4−ブタンジオールモノマーを用いたポリエステル重縮合物であるが、本発明のブテンオリゴマー誘導体を用いた場合においても、1,4−ブタンジオールと遜色の無い化学反応性を有するために、その結果、1,4−ブタンジオールモノマー単独からは発揮することがない物性を有する新規なポリエステル重縮合物を得ることが可能である。また、本発明のブテンオリゴマー誘導体は重付加反応も可能であり、新規なポリウレタン重付加物をも得ることが可能である。
すなわち、本発明の飽和あるいは不飽和ジオール誘導体は、ジカルボキシルあるいはジエステル官能基を持つ有機分子との間では重縮合反応によりポリエステルを、ジイソシアネート官能基を持つ有機分子との間では重付加反応によりポリウレタンを、さらにはジオール誘導体をアクリル変成させてアクリル誘導体に変換した場合には他のエチレン性モノマーとの間で共重合反応が可能となる。
【0035】
また、本発明の飽和あるいは不飽和ジオール誘導体を使用することで、各種の可塑化剤、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド等の各種プラスチックに対して可塑剤として使用することも可能である。これらのプラスチック等に本発明の誘導体と反応可能な官能基、例えばカルボキシル、イソシネート基等が存在する場合には、本発明の誘導体中のジオール官能基と反応することで反応性可塑化剤となり得る。
【0036】
さらには、本発明の不飽和ジオール誘導体においては末端置換基内にオレフィンを有するために、このオレフィンを利用して、硫黄硬化性のゴムとの間で硬化可能な第三成分となりうる。たとえば、硫黄硬化性のゴムにはジエン類、好ましくはブタジエン、イソプレン等の炭素原子数4〜8個の1,3−鎖状共役ジエンのゴム状物質が例示される。具体的なゴムには、天然ゴム、ポリブタジエン−1,3、ポリイソプレン、ポリ−2,3−ジメチル−ブタジエン−1,3、ポリ−2−クロロブタジエン−1,3等である。その他の有用なゴムは、1,3−ジエンの重合、またはこれらジエンと少なくとも1種の共重合可能のモノマー、例えばイソブチレン、スチレン、アクリロニトリル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、4−ビニルピリジン等とのコポリマーまたはターポリマー等のゴムが挙げられる。
【0037】
以上のように本発明のブテンオリゴマー誘導体は、上記のような重縮合・重付加反応には新規ポリマー合成のためのマクロモノマーとして、各種プラスチックに対しては可塑剤として、あるいは硫黄硬化性ゴムとの間では硬化可能な第三成分として利用することによって、高反応性ブテンオリゴマー単独あるいは1,4−ブタンジオール単独からは発揮できない物性を有する機能性材料を創出することを可能とする。
【0038】
以上の本発明の誘導体の利用にあたって、この効果を十分発揮させるためには、出発原料として用いるブテンオリゴマーの一定した分子量および前記式(1)の繰り返し構造、即ちブテンオリゴマーの分子骨格の規則性が肝要となってくる。
【0039】
まず、ブテンオリゴマー中の分子量は、質量分析(MS)測定あるいはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって決定する。さらに、本発明のブテンオリゴマー誘導体が高分子量の場合にはGPC測定によるが、その分散度(Mw/Mn)の測定値が1.0〜2.5の範囲にあり、このように分子量分布が狭いことにより、一定した物性を有するマクロモノマーとして利用することが可能である。
【0040】
次に、ブテンオリゴマーの分子骨格についてであるが、本発明者らの先の出願(特開平10−306128号公報)に述べた方法に準拠して決定した。つまり、具体的な分子骨格の決定には核磁気共鳴(NMR)測定における、炭素−水素間の連結および炭素−炭素間の連結を調べるHSQC法やINADEQUATE法の測定結果に基づいている。
【0041】
HSQC法では、横軸に1H−NMRを、縦軸に13C−NMRをとり、1H−NMRのピークと13C−NMRのピークが交差している点がその対応する炭素と水素が連結していることになり、これにより分子中の炭素−水素間の連結を知ることができる。また、INADEQUATE法では、横軸に13C−NMRをとり、そのピークから縦軸に炭素の存在位置を測定する。その炭素の存在位置から同位置の横方向にシフトさせると、そのとき同位置にある炭素のピークが連結した炭素となる。同様にその炭素から順序よく配列させていくと、1分子中の炭素−炭素間の連結、すなわち炭素骨格を知ることができる。
【0042】
このようなHSQC法およびINADEQUATE法の測定から、本発明のブテンオリゴマー誘導体を構成している下式(1)に示すイソブチレン骨格を特定することができる。この特定された繰り返し構造が、全体の繰り返し成長連鎖中に80%以上から構成されていることが判った。なお、通常末端基の一方はtert−ブチル基である。
【化11】
【0043】
上記のように、本発明により得られるブテンオリゴマー誘導体分子は、式(1)に示す繰り返し構造単位の数nは0以上、好ましくは5以上、さらに好ましくは16以上であり、上限値は200である。また、イソブチレン骨格の繰り返し構造単位が全体の繰り返し成長連鎖中の80%以上で構成されている、完全な直線状態を有する分子構造で形成されているために、上述のようなマクロモノマーとしての利用を考えた場合に特定の物性を発揮させることが可能である。
【0044】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
【0045】
(参考製造例)
<高反応性ブテンオリゴマーの製造>
本発明者らが開示した特開平10−306128号公報の製造方法によって、下記表1に示すようにMn=112(平均繰り返し数n=0)、Mn=560(平均繰り返し数n=9)およびMn=2300(平均繰り返し数n=40)のブテンオリゴマーをそれぞれ製造した。それらの化学組成については、下記表1の通りであった。
【0046】
*1:例1はMS測定値であり、例2、3はGPC測定によるポリスチレン換算値を示す。
*2:13C−NMR測定によるオレフィン帰属ピークの積分定量値(詳細は特開平10−306128号公報を参照)を示す。
【0047】
<コハク酸誘導体の製造>
次に、アメリカ特許第4,152,499号公報の実施例記載の方法を参考にして、上記のように製造された3種のブテンオリゴマー(参考製造例1、2及び3)と無水マレイン酸とを無触媒下で反応させてコハク酸誘導体を合成した。
反応終了後には、未反応として存在するブテンオリゴマー、無水マレイン酸および副生成物を一旦、蒸留およびシリカクロマトグラフ処理によって除去することで、下記式(6)あるいは式(7)で表わされる不飽和オレフィンを有するコハク酸誘導体を得ることができた。コハク酸誘導体の性状は、下記表2に示す通りであった。
【0048】
【化12】
【0049】
*3:例1はMS測定値であり、例2、3はGPC測定によるポリスチレン換算値を示す。
*4:13C−NMR測定により、上式(6)および(7)の構造中のオレフィンに帰属されるピークに対して、それらのピーク積分定量値の比率を示す。
【0050】
<高反応性ブテンオリゴマーとコハク酸誘導体の構造決定>
上記のように製造された高反応性ブテンオリゴマー(化学構造式(A))とコハク酸誘導体(化学構造式(B)および(C))の其々の化学構造を特定するために、以下の化学分析を実施した。
末端基構造の特定に対しては赤外分光(IR)、1次元及び2次元の核磁気共鳴(NMR)により、また、誘導体分子内のイソブテン骨格の規則性に対しては本文記載のNMRにおけるHSQC法およびINADEQUATE法により確認した。各種測定におけるスペクトルは以下の通りであるが、各スペクトルからの帰属ピークは各化学構造式中の構成炭素に附記してある記号と一致しており、より明確にするために、ブテンオリゴマー中の末端、開始基構造及びポリブテン主鎖構造にも大別した。
また、ここに示したスペクトル値は、高反応性ブテンオリゴマーを代表して参考製造例2、また、コハク酸誘導体を代表して参考製造例5についてである。
【化13】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
旋光度(Na−D(589.3nm))
(B)および(C):0.000deg
【0055】
(実施例1〜3)
<不飽和ジオール誘導体の製造>
製造装置は、窒素導入管、可変式の撹拌機、反応温度指示計、反応滴下口および還流器を備えた1L内容積の4つ口フラスコを、恒温調節が可能な熱媒浴内に設置した。
まずは、フラスコ内に所定量のLiAlH4(表3)を無水THF中に分散溶解させた。次いで、その分散液中に、予め反応溶媒の無水THFで希釈させた所定量のコハク酸誘導体(表3)を、反応滴下口からTHF還流温度を維持しながら滴下添加した。
滴下後、THF還流温度を維持しながら反応を2時間行い、反応終了後に反応液を0℃まで氷冷させた後に、反応液中に存在する未使用のLiAlH4を失活するために、発熱に注意しながら純水をゆっくりと滴下した。LiAlH4が完全に失活されているのを確認した後に、反応有機層を大量のn−ヘキサンで希釈させ、飽和食塩水および水による中和水洗を行った。
この中和水洗後に得られる有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後に、この溶液を蒸留によって濃縮させることで、いずれの実施例においても目的の飽和ジオール体をほぼ定量的に得ることができた。(表4)
【0056】
*上記実施例1〜3ともに、反応温度はTHF還流温度、反応時間は2時間とした。
【0057】
*5:仕込みコハク酸誘導体原料に対する収率を示す。
*6:例1はMS測定値であり、例2、3はGPC測定によるポリスチレン換算値を示す。
*7:下記記載の13C−NMR測定から帰属される不飽和ジオール誘導体(D)および(E)構造中のオレフィンピークに対して、それらのピーク積分定量値の比率を示す。
【0058】
<不飽和ジオール誘導体の構造決定>
不飽和ジオール誘導体(化学構造式(D)および(E))の其々の化学構造を特定するために、前記のコハク酸誘導体の構造決定の手法と同様にして実施した。
【0059】
【化14】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
旋光度(Na−D(589.3nm))
(D)および(E):0.000deg
【0064】
上記データから、原料のコハク酸誘導体におけるIRおよびNMRでのコハク酸末端基の消失、新たに不飽和ジオール末端基の出現が確認され、また、NMRから式(1)のイソブチレン骨格がオリゴマー成長連鎖中の80%以上で構成されていることから、本発明の式(3)または(4)で表される不飽和ジオール誘導体の化学構造を特定することができた。
【0065】
また、この不飽和ジオール誘導体の化学構造から理解できるように、7位の炭素が不斉炭素となり得るが、本実施例で製造された誘導体は光学不活性でラセミ混合物であることが確認できた。
【0066】
(実施例4〜6)
<飽和1,4−ブタンジオール誘導体の製造>
製造装置は、窒素および水素ガス導入口、サンプル採取口、圧力指示計、反応温度指示計、可変式の撹拌機、および還流器を備えた100mL内容積のオートクレーブを、恒温調節が可能な熱媒浴内に設置した。
まずは、オートクレーブ内に、所定量の前記実施例1〜3で製造した不飽和ジオール誘導体(表5)をn−ヘキサンに溶解させ、仕込んだ。次いで、その溶液中に、所定量(表5)の10%Pd−Cの水素化触媒を予備還元させずにそのまま添加した。
その後、窒素置換を充分行った後に、オートクレーブ内に水素ガスを水素圧が1.0MPaになるようにして封入し、次いで、反応溶液温度が60℃に設定してから反応を3時間行った。反応終了後に反応液を取り出して、固体粉末の水素化触媒を減圧ろ過させ、ろ液部の反応有機層を蒸留によって濃縮させることで、飽和ジオール体をほぼ定量的に得ることができた。(表6)
【0067】
*上記実施例4〜6ともに、水素圧1.0MPa、反応温度は60℃、反応時間は3時間とした。
*8:触媒量は不飽和ジオール誘導体原料に対する重量部を示す。
【0068】
*9:仕込みコハク酸誘導体原料に対する収率を示す。
*10:例4はMS測定値であり、例5、6はGPC測定によるポリスチレン換算値を示す。
【0069】
<飽和ジオール誘導体の構造決定>
飽和ジオール誘導体(化学構造式(F))の其々の化学構造を特定するために、前記のコハク酸誘導体の構造決定の手法と同様にして実施した。
【化15】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
旋光度(Na−D(589.3nm))
(F):0.000deg
【0074】
上記データから、原料の不飽和ジオール誘導体におけるIR及びNMRでのジオール基の保持と二重結合オレヒィンの消失が確認され、また、NMRから式(1)のイソブチレン骨格がオリゴマー成長連鎖中の80%以上で構成されていることから、本発明の式(1)で表される飽和ジオール誘導体の化学構造を特定することができた。
【0075】
また、この不飽和ジオール誘導体の化学構造から理解できるように、4、7位の炭素が不斉炭素となり得るが、本実施例で製造された誘導体は光学不活性であることからラセミ混合物であることが確認できた。但し、13CNMRの結果からも判るように、この誘導体は4種類((R,R)、(R,S)、(S,R)、(S,S))の4種類の光学異性体から構成されるラセミ混合物であることが判明した。
【0076】
【発明の効果】
本発明によって、飽和あるいは不飽和オレフィンを有し、かつ1,4−ブタンジオール官能基を有するブテンオリゴマー誘導体等を提供することが可能である。さらに、本発明のブテンオリゴマー誘導体は、重縮合・重付加反応による新規ポリマー合成のためのマクロモノマー、各種プラスチックに対して可塑剤として、あるいは硫黄硬化性のゴムとの間で硬化可能な第三成分として利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】下記構成の1H−NMRの測定結果である。
上段:不飽和ジオール誘導体(実施例2)の測定チャート
中段:不飽和ジオール誘導体(実施例1)の測定チャート
下段:高反応性ブテンオリゴマー(参考製造例2)の測定チャート
【図2】下記構成の13C−NMRの測定結果である。
上段:不飽和ジオール誘導体(実施例2)の測定チャート
中段:不飽和ジオール誘導体(実施例1)の測定チャート
下段:高反応性ブテンオリゴマー(参考製造例2)の測定チャート
【図3】下記構成の1H−NMRの測定結果である。
上段:飽和ジオール誘導体(実施例5)の測定チャート
中段:飽和ジオール誘導体(実施例4)の測定チャート
下段:高反応性ブテンオリゴマー(参考製造例2)の測定チャート
【図4】下記構成の13C−NMRの測定結果である。
上段:飽和ジオール誘導体(実施例5)の測定チャート
中段:飽和ジオール誘導体(実施例4)の測定チャート
下段:高反応性ブテンオリゴマー(参考製造例2)の測定チャート
【図5】下記構成のFT−IRの測定結果である。
上段:不飽和ジオール誘導体(実施例2)の測定チャート
中段:不飽和ジオール誘導体(実施例1)の測定チャート
下段:高反応性ブテンオリゴマー(参考製造例2)の測定チャート
【図6】下記構成のFT−IRの測定結果である。
上段:飽和ジオール誘導体(実施例5)の測定チャート
中段:飽和ジオール誘導体(実施例4)の測定チャート
下段:高反応性ブテンオリゴマー(参考製造例2)の測定チャート
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