JP4596341B2 - 液体状創傷被覆材 - Google Patents

液体状創傷被覆材 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体状創傷被覆材に関する。詳しくは、コラーゲンの希薄酸性水を含有する液体状創傷被覆材に関する。より詳しくは、接着性、閉鎖性、塗布性、充填性、生体親和性および生分解性を有する液体状創傷被覆材であって、その液体状創傷被覆材自体が体液に接触することによりすみやかに硬化するため操作性に優れる、滅菌可能な液体状創傷被覆材に関する。
【0002】
【従来の技術】
液体状創傷被覆材は、使用前は液体状であり、使用に際し傷等の患部に直接塗布する等して硬化させ、組織間接着、組織補填、組織修復、癒着防止、止血、創傷面保護、創傷面閉鎖等を図るものである。
液体状創傷被覆材は、適用前に液体状であるため患部に適用しやすいという利点を有し、そのため種々の研究が行われており、以前より、液体状創傷被覆材として用いられる医療用材料として、シアノアクリレート系接着剤、フィブリン糊、ゼラチン系接着剤等が提案されている。
【0003】
シアノアクリレート系接着剤は、体液に接触することによりすみやかに硬化するため操作性に優れ、閉鎖性に優れ、接着力が非常に強固であるという特徴を有する。
しかし、シアノアクリレート系接着剤は、硬化後の生成物が硬いため接着部位およびその周囲の軟組織を損傷させる場合が多く、また、分解に長い時間を要するので、生体内において異物と認識され、損傷部の自然な治癒を妨げるという問題を有する。
【0004】
フィブリン糊は、ヒト血液由来の材料を使用しているため、硬化後の生成物が生体親和性と生分解性に優れ、また、柔軟なため、損傷部の自然な治癒を妨げないという特徴を有する。さらには、接着性、閉鎖性、塗布性、充填性にも優れる。
しかし、フィブリン糊は、フィブリノーゲンをフィブリンに変化させ硬化させるために、フィブリノーゲン粉末とトロンビン粉末をそれぞれ別々に溶解した後、フィブリノーゲン溶液とトロンビン溶液を重層しまたは混合して用いる必要があり、操作が煩雑であるという問題を有する。また、ヒト血液由来の材料を使用しているがゆえに、HIVやHBs等のウィルスによる汚染の可能性が否定できないという問題がある。
【0005】
ゼラチン系接着剤は、硬化後の生成物がシアノアクリレート系接着剤より生体親和性および生分解性に優れ、また、柔軟なため、損傷部の自然な治癒をシアノアクリレート系接着剤よりは妨げず、さらに、接着強度がフィブリン糊よりも強いという特徴を有する。
しかし、ゼラチン系接着剤は、▲1▼塗布面をあらかじめ乾燥させておかなければならない、▲2▼ゼラチンとレゾルシンとを主成分とする水溶液と、ホルムアルデヒドとグルタルアルデヒドとを主成分とする水溶液とを混合すると、ごく短時間で重合し、使用前に硬化してしまうため、ゼラチンとレゾルシンとを主成分とする水溶液を塗布した上にホルムアルデヒドとグルタルアルデヒドとを主成分とする水溶液を滴下しなければならない等操作が煩雑であるという問題を有する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の公知技術の問題点を鑑みて、適用前には液体状であるためあらゆる形状の患部に適用しやすく、適用直後、体液に接触するとすみやかに硬化する等の操作性に優れ、また、硬化後の生成物が生体親和性および生分解性に優れかつ柔軟なため損傷部の自然な治癒を妨げず、組織間接着、組織補填、組織修復、癒着防止、止血、創傷面保護、創傷面閉鎖等の作用を奏する液体状創傷被覆材を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、1〜100g/Lのコラーゲンおよび0.1〜100mmol/Lの酸を含有する液体状創傷被覆材を提供する。
【0008】
前記酸が、塩酸、酢酸、クエン酸、システイン塩酸塩、アスコルビン酸、リン酸、コハク酸、乳酸およびリンゴ酸からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0009】
さらに、10〜10000μmol/Lの金属イオンおよび10〜10000μmol/Lの酸化還元剤を含有することが好ましい。
【0010】
さらに、0.001〜1vol%のグルタルアルデヒドおよび/または0.001〜1vol%のホルムアルデヒドを含有することが好ましい。
【0011】
さらに、0.1〜100g/Lのゼラチンおよび/または熱変性コラーゲンを含むことが好ましい。
【0012】
さらに、フィブリノーゲン、フィブリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ファクターXIII、トロンビンおよびヒアルロン酸からなる群より選ばれる少なくとも1つを含有することが好ましい。
【0013】
前記液体状創傷被覆材は、pH2.0〜5.5であるのが好ましい。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の液体状創傷被覆材に用いられるコラーゲンは、特に限定されず、例えば、ヒト、ウシ、ブタ、ニワトリ等の動物の真皮、腱、骨、筋膜等のコラーゲンが豊富に含まれる組織を原料とし、pH2〜9の水溶液で抽出したものを好適に用いることができる。コラーゲンは、異種動物由来のものでもその分子構造上免疫原となり難く、異物として認識され難いために、他の材料に比べて生体親和性に優れるという特徴を有する。従って、コラーゲンを用いる本発明の液体状創傷被覆材は、生体親和性に優れるという長所がある。
また、本発明に用いられるコラーゲンは、アテロコラーゲンであることが好ましい。アテロコラーゲンは、上述した原料をペプシン、トリプシン、プロクターゼ等のタンパク質分解酵素により処理して分子末端のテロペプチド領域を除去し、アテロ化したものである。コラーゲンは、アテロ化により生体親和性がさらに高まるので、好適に用いられる。
なお、加熱処理、酵素処理、アルカリ処理、酸処理、サクシニル化、コハク化、エステル化等の親水化処理をされている場合には、後述する体液等との接触による硬化が起こらないときがあるので、硬化が起こる程度の軽度の処理であるものを用いる。
【0015】
本発明の液体状創傷被覆材は、上記コラーゲンを緩衝能の低いpH2.0〜5.5の水溶液に溶解して得られるコラーゲン水溶液からなる。
コラーゲンは、pH2.0〜5.5の水溶液に溶解することができ、これによりコラーゲン水溶液が得られる。得られるコラーゲン水溶液のpHは特に限定されないが、pH2.0〜5.5であるのが好ましい。
【0016】
本発明の液体状創傷被覆材におけるコラーゲンの濃度は、1〜100g/Lであることが好ましく、5〜50g/Lであることがより好ましい。上記範囲であると、患部に適用しやすく、適用後にすみやかに硬化する液体状創傷被覆材が得られる。
【0017】
本発明の液体状創傷被覆材における酸の濃度は、0.1〜100mmol/Lであることが好ましく、1〜10mmol/Lであることがより好ましい。上記範囲であると、適用後にすみやかに硬化する液体状創傷被覆材が得られる。
本発明に用いられる酸は、生体への毒性が少ないものが好ましく、例えば、塩酸、酢酸、クエン酸、システイン塩酸塩、アスコルビン酸、リン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸が挙げられる。中でも、塩酸が好ましい。
【0018】
本発明の液体状創傷被覆材は、上記成分に加えて、金属イオンおよび酸化還元剤を含有することもできるし、0.001〜1vol%のグルタルアルデヒドおよび/または0.001〜1vol%のホルムアルデヒドを含有することもできる。また、金属イオンおよび酸化還元剤の一方または両方と、グルタルアルデヒドおよびホルムアルデヒドの一方または両方とを、同時に含有することもできる。これらを含有すると、硬化後の生成物の強度が向上する。
本発明の液体状創傷被覆材における金属イオンの濃度は、10〜10000μmol/Lであることが好ましく、100〜1000μmol/Lであることがより好ましい。本発明の液体状創傷被覆材における酸化還元剤の濃度は、10〜10000μmol/Lであることが好ましく、100〜1000μmol/Lであることがより好ましい。
金属イオンは、特に限定されないが、銅イオンまたは鉄イオンであることが好ましい。酸化還元剤は、前記の酸化還元電位をもつ金属イオンに作用してアルコキシルラジカルまたはヒドロキシラジカルを発生し、ラジカル反応によりコラーゲン分子間に架橋を導入させる物質のことをいい、特に限定されないが、アスコルビン酸、トコフェロール類または過酸化水素であることが好ましい。
本発明の液体状創傷被覆材におけるグルタルアルデヒドの濃度は、0.001〜1vol%であることが好ましく、0.01〜0.1vol%であることがより好ましい。本発明の液体状創傷被覆材におけるホルムアルデヒドの濃度は、0.001〜1vol%であることが好ましく、0.01〜0.1vol%であることがより好ましい。
【0019】
本発明の液体状創傷被覆材は、上記成分に加えて、ゼラチンおよび/または熱変性コラーゲンを含有することもできる。これらを含有すると、硬化後の生成物の強度が向上する。
本発明の液体状創傷被覆材におけるゼラチンおよび/または熱変性コラーゲンの濃度は、0.1〜100g/Lであることが好ましく、0.5〜10g/Lであることがより好ましい。
ゼラチンは、特に限定されないが、例えば、ヒト、ウシ、ブタ、ニワトリ等の動物の真皮、腱、骨、筋膜等のコラーゲンが豊富に含まれる組織を原料とし、酸処理、アルカリ処理、酵素処理等により得られるものが挙げられる。
また、熱変性コラーゲンは、特に限定されないが、例えば、上述したコラーゲン(上述したアテロコラーゲンを含む。)をpH2〜9の水溶液に溶解し、40〜90℃、特に60〜80℃で、1分〜72時間、特に10分〜1時間加温し、コラーゲンの一部または全体を変性させたものが挙げられる。
【0020】
本発明の液体状創傷被覆材は、上記成分に加えて、フィブリノーゲン、フィブリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ファクターXIII、トロンビンおよびヒアルロン酸からなる群より選ばれる少なくとも1つを含有することができる。
これらを含有すると、硬化後の生成物の強度が向上する。
【0021】
本発明の液体状創傷被覆材を噴霧器、注射器またはチューブ状のソフトバッグ等に入れておくと、生体への適用が容易となるので好ましい。
噴霧器は、特に限定されず、1〜50mLの容量を持ち、上部プッシュボタンを1回押す毎に0.01〜1mLが噴霧されるようなガラス製、プラスチック製等の容器を好適に用いることができる。本発明の液体状創傷被覆材を噴霧器から噴霧すると、比較的広範囲にほぼ均一に低濃度で散布することができるという特長がある。
注射器は、特に限定されず、1〜50mLの容量を持つものを好適に用いることができる。本発明の液体状創傷被覆材を注射器から注射すると、比較的狭い範囲に正確に高濃度で塗布することができるという特長がある。
チューブ状のソフトバッグは、特に限定されず、10〜100mLの容量を持つものを好適に用いることができる。本発明の液体状創傷被覆材をチューブ状のソフトバッグから塗布すると、広範囲から狭い範囲までの範囲に、低濃度から高濃度で塗布することができるという特長がある。
また、本発明の液体状創傷被覆材を入れた噴霧器、注射器またはチューブ状のソフトバッグ等も本発明の一態様である。
【0022】
本発明の液体状創傷被覆材および/またはその成分、その容器(上述した噴霧器、注射器およびチューブ状のソフトバッグを含む。)、包材等は、生体に適用したときの安全性を向上させるために滅菌されていることが好ましい。
滅菌の方法は、特に限定されないが、例えば、濾過滅菌、オートクレーブ滅菌、乾熱滅菌、EOG滅菌、放射線滅菌(例えば、γ線、電子線、紫外線、X線による滅菌)が挙げられる。これらの滅菌方法の1種類または数種類の組み合わせにより、本発明の液体状創傷被覆材および/またはその成分、その容器、包材等の各々を滅菌することができ、また、それらを組み合わせた状態で滅菌することができる。さらには、本発明の液体状創傷被覆材等は、その製造過程で滅菌することもできる。
【0023】
本発明の液体状創傷被覆材は、緩衝能の低いpH2.0〜5.5の水溶液にコラーゲンを溶解して得られるコラーゲン水溶液からなり、使用前は液体状であるが、体液に接触させると、すみやかに硬化する。
即ち、本発明の液体状創傷被覆材は、液体状であるために塗布性に優れ、また、適用直後、体液に接触するとすみやかに硬化するため操作性および接着性に優れる。
また、本発明の液体状創傷被覆材は、損傷部の閉鎖性および欠落部、陥没部、死腔等の充填性に優れる。
さらに、硬化後の生成物が生体親和性および生分解性に優れる。
さらに、柔軟性に優れるため、損傷部の自然な治癒を妨げない。
さらに、コラーゲンの有する血小板凝集能・放出能のために止血性に優れる。
【0024】
本発明の液体状創傷被覆材の用途は、特に限定されないが、上記特性を有するので、生体接着剤、癒着防止材、止血材、創傷保護材、充填材として好適に用いることができる。
【0025】
【実施例】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
2mmol/L塩酸(pH2.7)に、終濃度が20g/Lになるようにアテロコラーゲン粉末(高研社製)を加え、低温下で3日間攪拌し、アテロコラーゲンを溶解させ、20g/Lアテロコラーゲン水溶液(pH3.1)を調製した。
【0026】
(実施例2)
2mmol/L塩酸に、終濃度が10g/Lになるようにアテロコラーゲン粉末(高研社製)を加え、低温下で3日間攪拌し、アテロコラーゲンを溶解させ、10g/Lアテロコラーゲン水溶液を調製した。
次いで、得られた10g/Lアテロコラーゲン水溶液に、1、2/3、3/7、1/4または1/9量(体積比)の2mmol/L塩酸を加えて、5、6、7、8、9g/Lのアテロコラーゲン濃度の各アテロコラーゲン水溶液(いずれもpH3.1)を調製した。
【0027】
(実施例3)
実施例2で得られた5g/Lアテロコラーゲン水溶液に、塩化銅(II)およびアスコルビン酸を、塩化銅(II)の濃度が10μmol/L、アスコルビン酸の濃度が10、100および1000μmol/Lとなるように添加し、溶解させた(それぞれpH2.99、pH2.96およびpH2.92)。
【0028】
(実施例4)
実施例2で得られた5g/Lアテロコラーゲン水溶液に、塩化銅(II)およびアスコルビン酸を、塩化銅(II)の濃度が100μmol/L、アスコルビン酸の濃度が10、100および1000μmol/Lとなるように添加し、溶解させた(それぞれpH2.98、pH2.95およびpH2.92)。
【0029】
(実施例5)
実施例2で得られた5g/Lアテロコラーゲン水溶液に、塩化銅(II)およびアスコルビン酸を、塩化銅(II)の濃度が1000μmol/L、アスコルビン酸の濃度が10、100および1000μmol/Lとなるように添加し、溶解させた(それぞれpH2.97、pH2.95およびpH2.93)。
【0030】
(比較例1)
実施例2で得られた5g/Lアテロコラーゲン水溶液を60℃で30分間加熱処理した(pH3.2)。
【0031】
(比較例2)
低温下で、大過剰の2mmol/L塩酸中で、アルカリ処理コラーゲン(1%アルカリ処理コラーゲンin0.1%クエン酸、川研ファインケミカル社製)を24時間透析し、終濃度が5g/Lになるように2mmol/L塩酸で調整し、5g/Lアルカリ処理コラーゲン水溶液(pH3.0)を調製した。
【0032】
(試験例1)
本発明の液体状創傷被覆材である実施例1〜5で得られたコラーゲン水溶液を0.01mol/Lリン酸緩衝生理的食塩水(pH7.4)中に滴下した。
その結果、各コラーゲン水溶液は、すみやかに硬化してビーズ状の生成物が得られた。
【0033】
また、実施例1〜5で得られたコラーゲン水溶液を充填した注射器に25ゲージの針をつけ、押し出すことにより、コラーゲン水溶液を0.01mol/Lリン酸緩衝生理的食塩水(pH7.4)中に射出した。
その結果、各コラーゲン水溶液は、すみやかに硬化して糸状の生成物が得られた。
【0034】
さらに、実施例1〜5で得られたコラーゲン水溶液を、充填した注射器の出口を0.01mol/Lリン酸緩衝生理的食塩水(pH7.4)の水面上につけて内容物を静かに押し出すことにより重層した。
その結果、各コラーゲン水溶液は、すみやかに硬化して膜状の生成物が得られた。
【0035】
これに対し、比較例1および2で得られたコラーゲン水溶液を0.01mol/Lリン酸緩衝生理的食塩水(pH7.4)に滴下、射出または重層しても、材料は硬化せず、溶解した。
【0036】
(試験例2)
実施例2で得られた5、6、7、8、9および10g/Lアテロコラーゲン水溶液をそれぞれ噴霧器に充填し、0.01mol/Lリン酸緩衝生理的食塩水(pH7.4)で湿らせた濾紙に吹き付けた。
その結果、全ての濃度のコラーゲン水溶液において、濾紙上に薄く広がったコラーゲン水溶液がすみやかに硬化し、硬化後の生成物は濾紙に貼り付いた。
【0037】
(試験例3)
実施例3〜5で得られたコラーゲン水溶液をそれぞれφ12.5×100mmのガラス製試験管に0.5mL入れ、その上に0.01mol/Lリン酸緩衝生理的食塩水(pH7.4)0.1mLを管壁を伝わらせて静かに重層し、10秒ごとに試験管を水平に傾け、各コラーゲン水溶液が硬化するまでの時間を調べた。
その結果、各コラーゲン水溶液はリン酸緩衝生理的食塩水との界面から硬化し始め、実施例3で得られたコラーゲン水溶液は約3分で、実施例4で得られたコラーゲン水溶液は10秒〜3分で、実施例5で得られたコラーゲン水溶液は約10〜60秒で硬化が終了した。
【0038】
(試験例4)
実施例1〜5ならびに比較例1および2で得られた液体状の材料を3kgf/cm2 の圧力で孔径0.45μmのフィルターに送った。
その結果、各コラーゲン水溶液は、容易に濾過滅菌することができた。
【0039】
(試験例5)
Sprague−Dawley系ラットの腹部正中線にそって開腹し、盲腸を取り出し、しょう膜の一部を点状出血が認められる深さまで切除し、臓器欠損創を作製した。
この臓器欠損創および周囲組織に、孔径0.45μmのフィルターを用いて濾過滅菌した後、25ゲージの針をつけた注射器に充填した実施例2で得られた0.5g/Lアテロコラーゲン水溶液と、実施例4で得られた100μmol/L塩化銅(II)および100μmol/Lのアスコルビン酸を含有するアテロコラーゲン水溶液とを、それぞれ1〜2mL塗布した。塗布は、容易にすることができた。
塗布されたコラーゲン水溶液は、それぞれ塗布後30秒以内に硬化し、出血は止まり、硬化後の生成物は臓器欠損創および周囲組織に接着し、臓器欠損創は閉鎖された。
【0040】
実施例2で得られた0.5g/Lアテロコラーゲン水溶液と、実施例4で得られた100μmol/L塩化銅(II)および100μmol/Lのアスコルビン酸を含有するアテロコラーゲン水溶液を適用した臓器欠損創を有する盲腸を腹腔に戻し、開腹部をテプラーにより閉鎖した。
閉鎖3日後に開腹すると、臓器欠損創は周囲組織と癒着していなかった。また、その欠損創部を組織学的に観察すると、欠損創上に適用物の残存が認められ、その残存物中に線維芽細胞等の侵入が認められた。7日後には適用物はほぼ周囲組織と同化し、上皮系細胞が回復したことにより臓器欠損創が修復され、癒着が防止された。
これに対し、生理的食塩水で洗浄した臓器欠損創を有する盲腸を腹腔に戻し、開腹部をテプラーにより閉鎖した場合には、閉鎖3日後に開腹すると、臓器欠損創が周囲組織と癒着していた。
【0041】
(試験例6)
実施例1〜5で得られたコラーゲン水溶液に、システイン塩酸塩一水和物を濃度が0.5g/Lとなるように加え、密閉容器に充填した後、10kGyのγ線を照射した。
その結果、各コラーゲン水溶液は、γ線照射により硬化することなく、放射線滅菌することができた。
【0042】
(実施例6)
粒径0.5mm以下のアテロコラーゲン粉末100mg(水分含有率20%以下)をPET/PE製の包材に封入した後、25kGyのγ線を照射した。濾過滅菌しまたは1vol%のエタノールとともに25kGyのγ線を照射した下記の溶解液に、終濃度が20〜50g/Lになるように前記γ線照射アテロコラーゲン粉末を加えると、γ線照射アテロコラーゲン粉末はすみやかに溶解し、粘稠なコラーゲン水溶液(pH2〜5)となった。
溶解液:
▲1▼5mmol/L塩酸
▲2▼5mmol/L塩酸−100μmol/L塩化銅(II)−1000μmol/Lアスコルビン酸
▲3▼5mmol/L塩酸−0.05vol%グルタルアルデヒド
▲4▼5mmol/L塩酸−0.1vol%グルタルアルデヒド
【0043】
同様に、5〜25mg/cm3 のアテロコラーゲン密度を有する1〜5mm厚のアテロコラーゲンシート100mg(水分含有率20%以下)をPET/PE製の包材に封入した後、25kGyのγ線を照射した。濾過滅菌しまたは1vol%のエタノールとともに25kGyのγ線を照射した上記の溶解液に、終濃度が20〜50g/Lになるように前記γ線照射アテロコラーゲンシートを加えると、γ線照射アテロコラーゲンシートはすみやかに溶解し、粘稠なコラーゲン水溶液(pH2〜5)となった。
【0044】
(実施例7)
粒径0.5mm以下のアテロコラーゲン粉末100mg(水分含有率20%以下)を10〜50μLのエタノールとともにPET/PE製の包材に封入した後、25kGyのγ線を照射した。濾過滅菌しまたは1vol%のエタノールとともに25kGyのγ線を照射した下記の溶解液に、終濃度が20〜50g/Lになるように前記γ線照射アテロコラーゲン粉末を加えると、γ線照射アテロコラーゲン粉末はすみやかに溶解し、粘稠なコラーゲン水溶液(pH2〜5)となった。
溶解液:実施例6に用いたものと同様
【0045】
同様に、5〜25mg/cm3 のアテロコラーゲン密度を有する1〜5mm厚のアテロコラーゲンシート100mg(水分含有率20%以下)を10〜50μLのエタノールとともにPET/PE製の包材に封入した後、25kGyのγ線を照射した。濾過滅菌しまたは1vol%のエタノールとともに25kGyのγ線を照射した上記の溶解液に、終濃度が20〜50g/Lになるように前記γ線照射アテロコラーゲンシートを加えると、γ線照射アテロコラーゲンシートはすみやかに溶解し、粘稠なコラーゲン水溶液(pH2〜5)となった。
【0046】
(実施例8)
5〜25mg/cm3 のアテロコラーゲン密度および0.5〜10mg/cm3 のゼラチン密度を有する1〜5mm厚のアテロコラーゲン−ゼラチンシート100mg(水分含有率20%以下)をアテロコラーゲン100mg当たり10〜50μLのエタノールとともにPET/PE製の包材に封入した後、25kGyのγ線を照射した。濾過滅菌しまたは1vol%のエタノールとともに25kGyのγ線を照射した下記の溶解液に、アテロコラーゲンの終濃度が20〜50g/Lになるように、前記γ線照射アテロコラーゲン−ゼラチンシートを加えると、γ線照射アテロコラーゲン−ゼラチンシートはすみやかに溶解し、粘稠なコラーゲン水溶液(pH2〜5)となった。
溶解液:実施例6に用いたものと同様
【0047】
(試験例7)
本発明の液体状創傷被覆材である実施例6〜8で得られたコラーゲン水溶液をそれぞれφ12.5×100mmのガラス製試験管に1mL入れ、その上に0.01mol/Lリン酸緩衝生理的食塩水(pH7.4)またはウシ血清(pH7.2)0.2mLを管壁を伝わらせて重層し、30秒ごとにスパーテルを突き刺して、各コラーゲン水溶液が硬化するまでの時間と硬化後の生成物の強度を調べた。
【0048】
その結果、各コラーゲン水溶液は0.01mol/Lリン酸緩衝生理的食塩水またはウシ血清との界面から硬化し始め、実施例6〜8で得られたコラーゲン水溶液は全て10分以内に硬化した。
実施例6および7の場合は、硬化後の生成物の強度は、同アテロコラーゲン濃度で比較すると、溶解液が5mmol/L塩酸、5mmol/L塩酸−100μmol/L塩化銅(II)−1000μmol/Lアスコルビン酸、5mmol/L塩酸−0.05vol%グルタルアルデヒド、5mmol/L塩酸−0.1vol%グルタルアルデヒドの順に強くなり、また、硬化するまでの時間も、同じ順で短くなった。
また、同じ溶解液で比較すると、アテロコラーゲン濃度が高いほど硬化後の生成物の強度は強くなった。
さらに、実施例8で得られた水溶液は、溶解液が5mmol/L塩酸−0.05vol%グルタルアルデヒドまたは5mmol/L塩酸−0.1vol%グルタルアルデヒドのときには、同アテロコラーゲン濃度の実施例7と比較すると、硬化後の生成物の強度が高かった。
【0049】
(試験例8)
アテロコラーゲンシート等は、シートのままでも止血材、被覆材等として広範囲で損傷に使うことができるが、添付の溶解液に溶解すると液状またはゲル状材料として狭く深い損傷に容易に充填することができる材料として使うことができることを確認するために、以下の試験を行った。
実施例6〜8で得られたγ線照射アテロコラーゲンシートおよびγ線照射アテロコラーゲン−ゼラチンシート(水分含有率20%以下)を、直接、過剰量の0.01mol/Lリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)またはウシ血清(pH7.2)中に浸漬した。
その結果、実施例6で得られたγ線照射アテロコラーゲンシートは0.01mol/Lリン酸緩衝生理食塩水またはウシ血清中でシート構造が破壊されたが、実施例7で得られたγ線照射アテロコラーゲンシートおよび実施例8で得られたγ線照射アテロコラーゲン−ゼラチンシートは0.01mol/Lリン酸緩衝生理食塩水またはウシ血清中でシート構造が保たれ、広範囲で浅い患部にはシートのままで容易に貼付できることが明らかになった。また、実施例7で得られたγ線照射アテロコラーゲンシートおよび実施例8で得られたγ線照射アテロコラーゲン−ゼラチンシートは、5mmol/L塩酸−100μmol/L塩化銅(II)−1000μmol/Lアスコルビン酸、5mmol/L塩酸−0.05vol%グルタルアルデヒド、5mmol/L塩酸−0.1vol%グルタルアルデヒド等にすみやかに溶解して粘稠な水溶液となり、狭い範囲の深い患部に容易に充填することもでき、2通りの使い方が可能であり、極めて有用である。
【0050】
以上の各試験例より、本発明の液体状創傷被覆材は、使用前は液体状であるが、pH5.6〜9.0の液体と接触するとすみやかに硬化することが分かる(試験例1〜3および7)。
また、本発明の液体状創傷被覆材は、実際に生体に適用する場合に、塗布が容易であり、塗布後すみやかに硬化するため操作性および接着性に優れ、止血性を有し、損傷部の閉鎖性に優れ、組織の癒着を防止し、生体親和性および生分解性を有することが分かる(試験例5)。
さらに、本発明の液体状創傷被覆材は、製造後または製造過程において、濾過滅菌、放射線滅菌等により滅菌することができることが分かる(試験例4、6および実施例6〜8)。
さらに、アテロコラーゲンシート等は、シートのままでも使うことができるが、使用時に上述したような溶解液に溶解すれば、液状またはゲル状の材料として使うことができる(試験例8)。
【0051】
【発明の効果】
本発明の液体状創傷被覆材は、体液と接触するとすみやかに硬化し、損傷部の閉鎖性および欠落部、陥没部、死腔等の充填性に優れ、硬化後の生成物が生体親和性および生分解性に優れ、柔軟性に優れ、止血性に優れるので、生体接着剤、癒着防止材、止血材、創傷保護材、充填材等として極めて有用である。

Claims (6)

  1. 5〜50g/Lのアテロコラーゲンおよび2〜5mmol/Lの酸を含有し、かつpH2.0〜5.5である液体状創傷被覆材。
  2. さらに、酢酸、クエン酸、システイン塩酸塩、アスコルビン酸、リン酸、コハク酸、乳酸およびリンゴ酸からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸を含有する請求項1に記載の液体状創傷被覆材。
  3. さらに、10〜10000μmol/Lの金属イオンおよび10〜10000μmol/Lの酸化還元剤を含有する請求項1または2に記載の液体状創傷被覆材。
  4. さらに、0.001〜1vol%のグルタルアルデヒドおよび/または0.001〜1vol%のホルムアルデヒドを含有する請求項1〜3のいずれかに記載の液体状創傷被覆材。
  5. さらに、0.1〜100g/Lのゼラチンおよび/または熱変性コラーゲンを含む請求項1〜4のいずれかに記載の液体状創傷被覆材。
  6. さらに、フィブリノーゲン、フィブリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ファクターXIII、トロンビンおよびヒアルロン酸からなる群より選ばれる少なくとも1つを含有する請求項1〜5のいずれかに記載の液体状創傷被覆材。
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