JP4594637B2 - 絹フィブロイン粉末の製造方法 - Google Patents

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この発明は絹蛋白を原料とする粉状フィブロインの製造方法に関する。
一般に、カイコの繭の単繊維(粗繊維)は、2本の繊維状蛋白であるフィブロインがセリシンで包まれて接着固定された状態であり、絹織物に用いる絹繊維は、生糸の20〜30%を占めるセリシンを精練工程で熱水に溶かして除去し、精練されたフィブロインのみを用い、一方、セリシンが溶けた精練液から、セリシンを分離回収して再利用する技術が良く知られている。
セリシンを除去して精練されたフィブロインは、乾式機械的な粉砕手段その他ボールミル、ジェットミルなどを採用して3〜20μm程度に微粉砕し、得られた微粉末を繊維製品材料として用いる他、粉状フィブロインとして飲食物や口紅やファンデーションなど化粧品用、インク用、塗料用などの添加剤その他に広い用途があり、例えば繊維の結晶領域を酸またはアルカリ溶液で劣化させてから微粉砕するようにしている。
その他のフィブロイン微粉末の製造方法としては、絹物質を濃厚な中性塩を含む水溶液に溶解させた後、その中性塩を除去してフィブロイン水溶液を作り、この水溶液に沈殿剤を添加して絹フィブロインの沈殿を形成した後、沈殿を分離し、乾燥するか、または前記水溶液を凍結乾燥する化学的な方法が知られている。
工業的に有利なフィブロイン微粉末の製造方法としては、絹物質をアルカリ性水溶液に100〜150℃、1〜5気圧の加圧下で接触させて強度劣化させた後、得られた絹物質を脱アルカリ処理および乾燥処理し、得られた乾燥絹物質を物理的に粉砕する方法が知られている(特許文献1参照。)。
また、絹フィブロインを151℃以上の過熱水蒸気によって10分以上加熱し、かつ4kg/cm2G以上に加圧し、その後、急激に低圧下において膨化させ、これを乾燥し粉砕する絹フィブロイン粉末の製造方法も知られている(特許文献2参照。)。
特許第3362778号公報(請求項1) 特開昭58−46097号公報(特許請求の範囲第1項および第2項)
しかし、上記した濃厚な中性塩を使用する従来の絹フィブロイン微粉末の製造方法では、フィブロインの脱塩処理に約10〜14時間という長時間を要し、また多量の置換用水が必要であり、それでも完全に脱塩できない場合もあり、安定した品質でフィブロイン微粉末の製品化が容易でない。
特に、製品の絹フィブロイン微粉末にアルカリ塩が残留するということは、食品用として適したものでない問題もある。
また、100〜150℃のアルカリ水溶液中に絹を浸漬して高温処理する方法では、絹フィブロインがアルカリ水溶液中に溶解してしまうため、収率が低下する不利益を免れなかった。
また、絹を151℃以上の過熱水蒸気によって10分以上加熱加圧すると、絹は褐変して白色の粉末は得られない不利もある。
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、透析などの脱塩処理の必要がなく幅広い分子量のフィブロインを取得可能であり、製造工程が比較的簡単で工業上有利であり、かつアルカリ塩などの残留がなく食品用途にも使用可能に精製された白色の絹フィブロイン微粉末の製造方法とすることである。
上記の課題を解決するために、この発明においては、絹蛋白から分取された繊維状フィブロインを、100〜150℃の過熱水蒸気に曝して強度劣化させた後、粉末状に粉砕することからなる絹フィブロイン粉末の製造方法としたのである。
上記したように構成されるこの発明の絹フィブロイン粉末の製造方法では、絹蛋白から分取されたフィブロインに比較的低温である所定範囲100〜150℃の過熱水蒸気に長時間曝して充分に強度劣化させることができる。
しかもフィブロインは、熱による変性が少なく、褐変せずに絹本来の白色の微粉末を製造できる。
また、この方法では、絹フィブロインは、過熱水蒸気に溶けないので、水溶液中へのフィブロインが溶解せず、強度低下したフィブロインを粉砕して微粉末が高収率で得られる。そして、過熱水蒸気のみの無薬剤で強度劣化処理を行なうと、その後に水洗工程を設定する必要がなく、製造効率が良くなる。
そして、過熱水蒸気の温度をできるだけ低く、また加熱時間を短縮しようとする場合には、絹蛋白から分取された繊維状フィブロインにアルカリ水溶液を含浸させた後、100〜150℃の過熱水蒸気に曝して強度劣化させ、次いで粉末状に粉砕することからなる絹フィブロイン粉末の製造方法とする手段を採用することが好ましい。
さらに、フィブロインに、アルカリ水溶液を含浸させることにより、フィブロインは過熱水蒸気の温度設定を低くでき、かつ短時間の過熱水蒸気処理で、効率的にフィブロインの強度を低下させることができる。
また、前記同様の課題を解決するために、絹蛋白から分取された繊維状フィブロインを、100〜150℃の加圧雰囲気下で過酸化水素水溶液に接触させ、次いで脱過酸化水素処理および乾燥後に、粉末状に粉砕することからなる絹フィブロイン粉末の製造方法を採用することもできる。
本願の発明者らは、絹フィブロインが、過酸化水素と接触した際に所定の条件で溶解または強度劣化することを発見して、この発明を完成させた。
すなわち、絹蛋白から分取された繊維状フィブロインを、100〜150℃の加圧雰囲気下で過酸化水素水溶液に接触させ、次いで脱過酸化水素処理および乾燥後に、粉末状に粉砕することからなる絹フィブロイン粉末の製造方法としたのである。
この方法によれば、絹フィブロインの可溶化のために無機塩を使用することなく、また酸やアルカリによる反応を行わないので、脱塩工程を設ける必要がなく、乾燥後に、粉末状に粉砕することができ、製造効率が向上する。
前記同様の課題を解決する方法としては、絹蛋白から分取された繊維状フィブロインに過酸化水素水溶液を含浸して凍結し、次いで脱過酸化水素処理および乾燥処理した後、粉末状に粉砕することからなる絹フィブロイン粉末の製造方法を採用することができる。
この方法によれば、絹繊維の可溶化のために無機塩を使用する必要はなく、酸またはアルカリ反応による反応を行なわないので、脱塩工程を行なう必要はない。
そのため、この発明では、従来法に比較して工業的に有利な手段で安価にフィブロイン粉末を製造可能にする。
この発明は、以上説明したように、繊維状フィブロインを所定温度の過熱水蒸気に曝して劣化させてから粉砕するか、または、過酸化水素処理により劣化させてから粉末状に粉砕するので、透析などの脱塩処理の必要がなく、幅広い分子量のフィブロインを取得可能であり、製造工程が比較的簡単で工業上有利であり、かつアルカリ塩などの残留がなくなり、食品用途にも使用可能な精製絹フィブロイン微粉末を製造できるという利点がある。
また、アルカリ水溶液を含浸させた後、繊維状フィブロインを所定温度の過熱水蒸気に曝して劣化させてから粉砕する方法では、従来の手法より低温度、短時間の過熱水蒸気処理で、効率的にフィブロインの強度を低下させ、微粉末の製造を容易にすることのできる利点がある。
この発明の実施形態に用いる絹蛋白は、限定して採用したものでなくてもよく、カイコの繭、生糸、絹織物及びそれらの屑などを限定なく使用することができる。
このような絹蛋白から繊維状フィブロインを分取するには、絹蛋白原料を、洗浄した後に、水と共に加熱して熱水に溶解したセリシンを抽出して除去し、繊維状のフィブロインを分取する。この工程は、慣用されている従来の繭の粗繊維からの精練工程と同様に行なえばよい。
具体的には、絹蛋白原料を耐圧容器に入れ、水を浴比1:15〜1:40となるように加えて高圧蒸気処理装置で無薬剤にて高圧で精練する。精練時の水温は、加圧および加熱の調整によって100〜140℃程度にすればよい。
第1実施形態は、図1に製造工程(アルカリ水溶液等の含浸工程を除く。)を示したように、精練された繊維状フィブロインを強度劣化させる場合に、100〜150℃の過熱水蒸気に曝している。
この方法で100〜150℃という所定範囲の温度の過熱水蒸気を用いる理由は、100℃未満の低温では、長時間作用させても充分な強度劣化が起こり難く、150℃を超える高温で作用させると、熱による繊維蛋白の変性が起こり、微粉末に粉砕できてもその後に褐変しやすい粉末になるからである。
次いで、水洗した後に、粉末状に粉砕するには、乾燥させてから周知の乾式機械的粉砕手段で粗粉砕後に粉砕することができる。すなわち、乾式機械的粉砕手段として、回転式衝撃粉砕機などのボールミル、ジェットミルなどを採用して3〜20μm程度の絹(フィブロイン)微粉末に粉砕することができる。
また、第1実施形態の製造効率をさらに向上させるために、繊維状フィブロインを強度劣化させる場合、前処理としてアルカリ水溶液を含浸、脱水、乾燥させた後、100〜150℃の過熱水蒸気に曝して強度劣化させて、所要時間の短縮を図ってもよい。
この場合に用いるアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどが好ましく、濃度は0.1N以下にして作用させる。なぜなら、0.1Nを超えるアルカリ水溶液では、絹フィブロインがアルカリ水溶液中に溶解して収率が低下する不利益が大きくなるからである。
また、必要に応じてアルカリ水溶液と共に、またはそれ以外の薬剤を用いた前処理であってもよく、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、蓚酸、クエン酸などの有機酸、または過酸化水素水などの酸化剤を使用することもできる。
図2に示すように、この発明の第2実施形態としては、繊維状フィブロインを強度劣化する方法として、過酸化水素を使用し、繊維状フィブロインを100〜150℃の高温高圧の条件で過酸化水素水溶液に浸漬し、次いで水洗して脱過酸化水素処理し、乾燥後に、粉末状になるまで粗粉砕および微粉砕する。
強度劣化処理に用いる過酸化水素水溶液の濃度は、所期した程度に強度劣化させるために10〜150%owfとすることが好ましく、より好ましくは15〜30%owfの処理条件である。
過酸化水素水溶液に浸漬処理時の温度を100〜150℃とする理由は、100℃未満の低温では、過酸化水素水が有利に作用せず、繊維強度が充分に劣化しないからであり、150℃を超える高温では、熱による繊維蛋白の変性が起こり、微粉末に粉砕できてもその後に褐変しやすい粉末になるからである。このような傾向から、より好ましい処理温度は120〜140℃である。上記同様の理由から浸漬時間は5分以上が好ましく、より好ましくは30〜120分である。
また、過酸化水素水溶液を含浸して凍結し、次いで脱過酸化水素処理および乾燥処理した後、粉末状に粉砕することもできる。
このように絹フィブロインを強度劣化させてから周知の乾式機械的粉砕手段で粉砕すると、製造工程が比較的簡単で工業上有利であり、かつアルカリ塩などの残留がなく、しかもアルミナ製ボールミルを用いた場合には、アルミナを摩耗損傷する割合が低くなり、フィブロイン粉末中に異物として混入するアルミニウム濃度は、顕著に少なくなる。
繭(セリシンを除去したもの)50gを0.025N−NaOH500ml中に一夜浸漬して充分浸透させた後に脱水し、40℃で風乾した。これを140℃で60分間過熱蒸気処理し、水洗した後、脱水し乾燥した。この強度劣化処理後の収率は95%であった。
この強度劣化処理後の絹(フィブロイン)をサンプルミルで粗粉砕した後、回転式衝撃粉砕機(遊星回転ボールミル、粉砕容器及びボールはアルミナ製である。)を用いて、270rpmで5時間粉砕して、顕微鏡で観察して繊維状の絹が略球状の粉末になったものを得た。
得られた粉砕後の収率は、約80%であり、この粉末のアルミニウム濃度は35ppmであった。
繭(セリシンを除去したもの)50gを0.05N−NaOH500ml中に2.5時間浸漬して充分浸透させた後に脱水し、105℃で乾燥した。これを120℃で30分間過熱蒸気処理し、水洗した後、脱水し、乾燥した。この強度劣化処理後の収率は、96%であった。
この強度劣化処理後の絹(フィブロイン)をサンプルミルで粗粉砕した後、回転式衝撃粉砕機(遊星回転ボールミル、粉砕容器及びボールはアルミナ製である。)を用いて、280rpmで4時間粉砕した。
得られた微粉末を顕微鏡で観察すると繊維状の絹が略球状の粉末になっていた。得られた粉砕後の収率は、約80%であり、この粉末のアルミニウム濃度は80ppmであった。
繭(セリシンを除去したもの)50gに対し、140℃で3時間の過熱蒸気処理をして乾燥した。この強度劣化処理後の収率は約100%であった。
この強度劣化処理した絹(フィブロイン)をサンプルミルで粗粉砕した後、回転式衝撃粉砕機(遊星回転ボールミル、粉砕容器及びボールはアルミナ製である。)を用いて、280rpmで6時間粉砕した。
得られた微粉末を顕微鏡で観察すると、繊維状の絹が略球状の粉末になっていた。得られた粉砕後の収率は、約80%であり、この粉末のアルミニウム濃度は90ppmであった。
比較例1
繭(セリシンを除去したもの)50gをサンプルミルで粗粉砕した後、回転式衝撃粉砕機(遊星回転ボールミル、粉砕容器及びボールはアルミナ製である。)を用いて、350rpmで合計6時間粉砕した。
得られた微粉末を顕微鏡で観察すると、繊維状の絹が略球状の粉末になっていた。ここで得られた粉砕後の収率は、約80%であり、この粉末のアルミニウム濃度は1180ppmであった。
繭(セリシンを除去したもの)36kgを1%過酸化水素水溶液に浸漬し、120℃で2時間処理し、その後、水洗、脱水、乾燥した。この強度劣化処理後の収率は、91%であった。
この強度劣化処理後の絹(フィブロイン)をオリエントミルで粗粉砕した後、回転式衝撃粉砕機(アルミナ製ボールミル)を用い15〜16時間粉砕し、次いで気流式粉砕機(ジェットミル)で粉砕して、絹微粉末を得た。
ここで得られた粉砕後の収率は、約87%であり、この粉末のアルミニウム濃度は16ppmであった。
第1実施形態の製造工程を説明する流れ図 第2実施形態の製造工程を説明する流れ図

Claims (1)

  1. 絹蛋白から分取された繊維状フィブロインを、100〜150℃の加圧下で過酸化水素水溶液に接触させ、次いで脱過酸化水素処理および乾燥後に、粉末状に粉砕することからなる絹フィブロイン粉末の製造方法。
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