この発明は、船外機の操舵装置に関する。
従来、船体に配置されたステアリングホイールを船外機の操舵機構にプッシュプルケーブルなどを介して接続し、ステアリングホイールの回転を操舵機構に伝達することによって船外機の操舵を行うようにしているが、ステアリングホイールと操舵機構が機械的に接続されていることから、船体や船外機の大きさ、あるいは船速などの走行状態によってステアリングホイールの操作荷重が変動し、常に良好な操作フィーリングを得ることができるとは限らなかった。機械的な接続に代え、油圧式の機構を用いた場合も同様である。
そのような不具合を解決する技術として、近年、ステアリングホイールと操舵機構の機械的な接続を断つようにした操舵装置(電子ステアリング機構)も提案されている。その操舵装置にあっては、船外機の操舵軸にアクチュエータを接続すると共に、その付近に回動角センサを配置して操舵軸の回動角を検出する。他方、ステアリングホイールの付近にはその回転角(操舵角)を検出する回転角(操舵角)センサを設け、検出された回動角と回転角の偏差が零になるようにアクチュエータの駆動を制御している(例えば特許文献1参照)。
特開2004−249790号公報(段落0036など)
ところで、上記のように操舵軸をアクチュエータで駆動する場合、駆動源(例えば、内燃機関)が動作されない状態でステアリングホイールを回転させると、ステアリングホイールの回転角と操舵軸の回動角において位相差が生じるため、駆動源が始動されたときなどに、例えば船外機側の操舵軸の角度を電子制御ユニットなどで補正し、その位相差を解消する必要がある。従って、駆動源が動作されないときはステアリングホイールを固定し、そもそも位相差が生じないようにすることが望ましい。
そこで、ステアリングホイールに機械的な固定機構(ディテント機構)、例えばステアリングホイールのステアリングシャフトに歯車状を呈したプレートを配置する一方、ステアリングホイールの回転によって変位しない部位に爪部を形成し、駆動源が動作されないとき、そのプレートと爪部を係合させてステアリングホイールを固定する機構などを取り付けることが考えられる。しかしながら、その場合、部品点数が増加してその構成が複雑になると共に、取り付けスペースも増加するという不都合が生じる。
従って、この発明の目的は上記した課題を解決し、簡素な構成でありながら、駆動源が動作していないとき、取り付けスペースを増加させることなく、ステアリングホイールを固定するようにした船外機の操舵装置を提供することにある。
上記の目的を解決するために、請求項1にあっては、船体に配置されたステアリングホイールの回転に応じて船外機の操舵軸に接続されたアクチュエータを駆動して前記船外機を操舵する船外機の操舵装置において、前記ステアリングホイールに接続された可動部位を変位させて作動油を流動させることで前記ステアリングホイールの回転にフリクションを与える油圧ダンパ機構と、前記油圧ダンパ機構の前記可動部位によって複数個に区画される油室同士を連通して前記作動油を流動させる油路と、および前記作動油の流動を遮断して前記可動部位を固定し、よって前記ステアリングホイールを固定するステアリングホイール固定手段と、前記船外機に配置された駆動源を始動させるスイッチとを備えると共に、前記ステアリングホイール固定手段は、前記スイッチの操作に連動して前記作動油の流動を遮断するように構成した。
請求項1に係る船外機の操舵装置にあっては、ステアリングホイールの回転に応じて変位する可動部位を備え、その可動部位を変位させて作動油を流動させることでステアリングホイールの回転にフリクションを与える油圧ダンパ機構と、油圧ダンパ機構の可動部位によって区画される油室同士を連通して作動油を流動させる油路と、および作動油の流動を遮断することで可動部位を変位させないようにして固定し、よってステアリングホイールを固定するステアリングホイール固定手段とを備えるように構成したので、簡素な構成でありながら、駆動源が動作していないとき、ステアリングホイール固定手段を操作するだけでステアリングホイールを固定することができ、よって前述したような位相差が生じることがない。また、ステアリングホイール固定手段は、作動油の流動を遮断するだけの構成であれば足りるため、取り付けスペースを増加させることがないと共に、ステアリングホイールがどのような回転角にある場合であっても、ステアリングホイールを固定、即ち、無段階にステアリングホイールを固定することができる。
また、船外機に配置された駆動源を始動させるスイッチを備えると共に、ステアリングホイール固定手段は、スイッチの操作に連動して作動油の流動を遮断するように構成したので、上記した効果に加え、駆動源の始動および停止という作業と、ステアリングホイールの固定解除および固定という作業を、スイッチを操作するだけで同時に行うことができ、船外機の操舵装置の操作性が向上する。また、スイッチの操作に連動してステアリングホイールを固定することから、操船者は、駆動源を停止させたときにステアリングホイールを固定する作業を忘れることがないと共に、さらには盗難防止の一助ともなる。
以下、添付図面に即してこの発明に係る船外機の操舵装置を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、この発明の第1実施例に係る船外機の操舵装置を全体的に示す概略図であり、図2は、図1の部分説明側面図である。
図1および図2において、符合10は、内燃機関、プロペラシャフト、プロペラなどが一体化された船外機を示す。船外機10は、図2に示す如く、マウントフレームのシャフト部(操舵軸。後述)が回動自在に収容されるスイベルケース12と、スイベルケース12が接続されるスターンブラケット14を介し、船体(艇体)16の後尾(トランサム)に重力軸回りおよび水平軸回りに転舵自在に取り付けられる。
船外機10の上部には、内燃機関(駆動源。以下「エンジン」という)18が配置される。エンジン18は火花点火式の直列4気筒で2200ccの排気量を備える4サイクルガソリンエンジンからなる。エンジン18は水面上に位置し、エンジンカバー20で覆われて船外機10の内部に配置される。エンジンカバー20で被覆されたエンジン18の付近には、マイクロコンピュータからなるECU(Electronic Control Unit。電子制御ユニット)22が配置される。
また、船外機10の下部には、プロペラ24と、その付近に設けられたラダー26を備える。プロペラ24は、図示しないクランクシャフト、ドライブシャフト、ギヤ機構およびシフト機構を介してエンジン18に接続され、その動力(エンジン出力)が伝達されて回転し、船体16を前進あるいは後進させる。
図1に示す如く、船体16の操縦席30の付近には、操船者によって回転操作自在なステアリングホイール32が配置される。ステアリングホイール32の付近には回転角センサ34が配置される。回転角センサ34は、具体的にはロータリエンコーダからなり、操船者によって入力されたステアリングホイール32の回転角あるいは回転量に応じた信号を出力する。
また、操縦席30の右側にはスロットルレバー36およびシフトレバー38が配置され、それらの操作は図示しないプッシュプルケーブルを介してエンジン18のスロットルバルブおよびシフト機構(共に図示せず)に伝達される。
さらに、操縦席30の付近には、船外機10のチルト角度の調整指示を入力するパワーチルトスイッチ40と、トリム角度の調整指示を入力するパワートリムスイッチ42が配置される。各スイッチ40,42は、操船者によって入力された船外機10のチルトアップ・ダウンおよびトリムアップ・ダウンの指示に応じた信号を出力する。上記した回転角センサ34、パワーチルトスイッチ40およびパワートリムスイッチ42の出力は、信号線34L,40L,42Lを介してECU22に送られる。
また、図2に示すように、前記したスイベルケース12とスターンブラケット14の付近には、操舵用のアクチュエータ、具体的には油圧シリンダ(以下「操舵用油圧シリンダ」という)44と、船外機10のチルト角度およびトリム角度を調整するための公知のパワーチルトトリムユニット46が配置され、それぞれ信号線44Lおよび46Lを介してECU22に接続される。
また、操舵用油圧シリンダ44の付近には、回動角センサ48が配置され、スイベルケース12の内部に収容されたマウントフレームのシャフト部(後述)の回動角に応じた信号を出力する。回動角センサ48の出力は、信号線48Lを介してECU22に送られる。
ECU22は、上記した各センサおよびスイッチの出力に基づき、操舵用油圧シリンダ44を駆動して船外機10を転舵させると共に、パワーチルトトリムユニット46を動作させて船外機10のチルト角度およびトリム角度を調整する。
図3は、図2に示すスイベルケース12付近の拡大部分断面図である。
スイベルケース12は、チルティングシャフト50を介し、チルティングシャフト50を中心として相対角度変位自在にスターンブラケット14と接続される。
また、パワーチルトトリムユニット46は、1本のチルト角度調整用の油圧シリンダ(以下「チルト用油圧シリンダ」という)46aと、2本の(図3で1本のみ示す)トリム角度調整用の油圧シリンダ(以下「トリム用油圧シリンダ」という)46bとを一体的に備える。
チルト用油圧シリンダ46aは、そのシリンダボトムがスターンブラケット14に固定されて船体16に取り付けられると共に、ピストンロッドのロッドヘッドがスイベルケース12に当接させられる。また、トリム用油圧シリンダ46bも、そのシリンダボトムがスターンブラケット14に固定されて船体16に取り付けられると共に、ピストンロッドのロッドヘッドがスイベルケース12に当接させられる。これにより、チルト用油圧シリンダ46aあるいはトリム用油圧シリンダ46bを駆動する(伸縮させる)ことで、チルティングシャフト50を回転軸としてスイベルケース12が回動され、よって船外機10がチルトアップ・ダウンあるいはトリムアップ・ダウンされる。
またスイベルケース12は、前述したように、その内部にマウントフレーム54のシャフト部56が回動自在に収容される。シャフト部56は重力方向に軸方向を有し、その上端がマウントフレーム54に固定されると共に、下端がロアマウントセンターハウジング(図示せず)に固定される。マウントフレーム54とロアマウントセンターハウジングは、それぞれエンジン18やプロペラ24などが配置されるフレームに固定される。
図4は、スイベルケース12付近を上方から見た平面図である。
図3および図4に示すように、スイベルケース12の上部には、断面視において凹状(コ字状)を呈する凹部58が形成され、その内部空間には、前記した操舵用油圧シリンダ44が配置される。操舵用油圧シリンダ44は復動シリンダからなり、2本の油路(図示せず)を介して図示しない油圧ポンプに接続されて油圧を供給される。
操舵用油圧シリンダ44は、そのロッドヘッド44aがステー60に支持されてマウントフレーム54(船体16の長軸線に対して水平方向の角度(操舵角)変位を生じる部位)に取り付けられると共に、シリンダボトム44bが船外機本体側のステー62(図3に示す)に支持されてスイベルケース12(船体16の長軸線に対して水平方向の角度(操舵角)変位を生じない部位)に取り付けられつつ、凹部58の内部空間に配置される。
また、凹部58の内部空間には、図4に示す如く、前記した回動角センサ48が配置される。回動角センサ48は、センサロッド64を介してステー60に接続される。即ち、シャフト部56の回動角は、マウントフレーム54、ステー60およびセンサロッド64を介して回動角センサ48に伝達され、回動角センサ48によって検出される。
次いで、上記に基づいて船外機10の転舵について概説する。操船者がステアリングホイール32を操舵すると、その操舵角は回転角センサ34を介してECU22に入力される。ECU22は、回転角センサ34によって検出されたステアリングホイール32の回転角と回動角センサ48によって検出されたシャフト部56の回動角の偏差が操舵角(船体16に対する船外機10の角度)において零になるように、油圧ポンプを駆動して操舵用油圧シリンダ44を駆動(伸縮)し、シャフト部56を回動させて船外機10を転舵させる。
このように、操舵用油圧シリンダ44が駆動されることにより、シャフト部56を転舵軸として船外機10の水平方向の転舵がパワーアシストされ、よってプロペラ24およびラダー26が揺動されて船体16が操舵される。具体的には、操舵用油圧シリンダ44が伸び方向に駆動されることにより、図4に示すように、シャフト部56およびマウントフレーム54が船体16に対して右回り(上面視において右回り)に回動し、船外機10が右回りに転舵され、よって船体16が左回り(上面視において左回り)に操舵(左旋回)される。
一方、操舵用油圧シリンダ44が縮み方向に駆動されることにより、図5に示すように、シャフト部56およびマウントフレーム54が船体16に対して左回りに回動し、船外機10が左回りに転舵され、よって船体16が右回りに操舵(右旋回)される。
尚、図4および図5において、符号66は上面視における船外機10の外形線(垂直投影面)を示す。図4は、具体的には船外機10を右回りに最大転舵角(30度)まで回動させたときのスイベルケース12付近を上方から見た平面図であり、図5は、船外機10を左回りに最大転舵角(30度)まで回動させたときのスイベルケース12付近を上方から見た平面図である。また、図4および図5において、操舵用油圧シリンダ44の動きが良く示されるように、一部の構成について図示を簡略化した。
次いで、ステアリングホイール32付近の構造について説明する。
図6は、そのステアリングホイール32のコラム部32aの縦断面図である。また、図7は、図6のVII―VII線拡大断面図であり、図8は、図6のVIII―VIII線拡大断面図である。
図示の如く、ステアリングホイール32に固定されたステアリングシャフト32bはコラム部32aを貫通して延びる。コラム部32aのステアリングホイール32に近い付近にはキーユニット部(スイッチ)66が設けられ、そこに操船者によってイグニション・キー68が差し込まれて操作されるとき、通電回路(図示せず)を介してバッテリ(図示せず)からエンジン18に電源が供給されてエンジン18が始動される。
ステアリングシャフト32bには、キーユニット部66の配置位置の下流において、プラネタリギヤ機構とストッパ機構とからなる減速機構70が設けられる。尚、ステアリングホイール32の最大回転量(ロック・トゥ・ロック)は、3回転(即ち、ステアリングホイール32の中立位置から左回りに1.5回転、右回りに1.5回転)である。
図7も参照しつつ説明すると、減速機構70においてプラネタラリギヤ機構は、ステアリングシャフト32bに固定されたサンギヤ70aと、コラム部32aに固定されたインターナルギヤ70bと、サンギヤ70aとインターナルギヤ70bに噛合しつつ、サンギヤ70aを中心として回転する3個のプラネタリ・ピニオン70cと、3個のプラネタリ・ピニオン70cを固定するキャリア70dからなる。
キャリア70dは、図6および図7に示す如く、大略ディスク状を呈する。また、キャリア70dの円周には1個のストッパ(突起)70d1が突設されると共に、コラム部32aには1個の突起部70eが突設され、これらによってストッパ機構が構成される。
上記のように構成された減速機構70にあっては、ステアリングホイール32、より具体的にはステアリングシャフト32bはサンギヤ70aとインターナルギヤ70bとプラネタリ・ピニオン70cからなるプラネタリギヤ機構に接続され、操船者によるステアリングホイール32の回転はそのプラネタリギヤ機構を介して1/4程度の回転数に減速され、プラネタリギヤ機構に接続されたキャリア70dに伝えられる。その結果、例えばステアリングホイール32が左右いずれかの操舵限界から他方に向けて3回転させられるとき、キャリア70dは3/4回転(正確には290度回転)し、ストッパ70d1が突起部70eの端部70e1に当接し、ステアリングホイール32のそれ以上の回転をロック(阻止)する。
図6の説明に戻ると、ステアリングシャフト32bにおいて、減速機構70の先端(図において下端)側には油圧ダンパ機構72が設けられる。
油圧ダンパ機構72は、図6および図8に示す如く、コラム部32aの内部においてステアリングシャフト32bの周囲に形成された平面視(ステアリングシャフト32bの軸方向から見て)略円形状の油室72aと、ステアリングシャフト32b(より正確にはその外周に嵌められたジャケット32b1)に半径方向に突出するように取り付けられ、油室72aを複数個(具体的には2個)に区画する1枚のベーン(可動部位)72bと、油室72aに充填された作動油(潤滑油。図示せず)とを備える。以下、ベーン72bによって区画された油室72aのうち、図8で上側(図6で紙面奥側)の油室を「第1の油室」と呼び、符号72a1で示す。同様に、図8で下側の油室(図6で紙面手前側)を「第2の油室」と呼び、符合72a2で示す。
第1の油室72a1および第2の油室72a2であって、図6で上方の適宜位置には、油路74の端部がそれぞれ接続され、第1の油室72a1と第2の油室72a2同士を連通させる。即ち、第1の油室72a1と第2の油室72a2は、逆U字状を呈した油路74を介して接続される。
かかる構成により、油圧ダンパ機構72にあっては、ステアリングホイール32(ステアリングシャフト32b)が回転されてベーン72bが回転すると、作動油が、第1の油室72a1から第2の油室72a2に、あるいは第2の油室72a2から第1の油室72a1に油路74を介して流動する。このとき、ベーン72bは、油室72aに充填された作動油内を変位(移動)するため、ステアリングホイール32(正確には、ステアリングシャフト32b)は、油室72aの作動油の粘度や充填量、即ち、油圧に応じたフリクションを受ける。従って、ステアリングホイール32の回転に適度なフリクションを与えることができ、よって操作フィーリングを向上させることができる。
油路74の途中には、油路遮断バルブ(ステアリングホイール固定手段)76が配置される。油路遮断バルブ76は、油路74を開閉させる弁体76aと、弁体76aに回転軸76bを介して接続される操作部(ツマミ)76cからなる。
操作部76cは、図6によく示すように、コラム部32aの外部であって、操船者の操作自在な位置に配置される。従って、操作部76cが、操船者によって操作される(回転させられる)と、回転軸76bおよび弁体76a(具体的には、弁体76aに形成され、油路74に接続される油路76a1)はそれに伴って回転させられ、よって油路74は連通あるいは閉鎖(開閉)される。尚、図6および図8は、油路74が閉鎖された状態を示す。
これにより、操船者がエンジン18を停止させた後、油路遮断バルブ76の操作部76cを油路74が閉鎖される方向に操作する(回転させる)と、油路74の作動油の流動が遮断され、ベーン72bは油室72aにおいて変位(移動)することができなくなる。よって、ベーン72bに接続されたステアリングシャフト32bおよびステアリングホイール32を回転させることができず、ステアリングホイール32が固定される。
その後、操船者はエンジン18を始動させる際などに、油路遮断バルブ76の操作部76cを油路74が連通する方向に操作する(回転させる)と、油路74において作動油が流動することとなり、ベーン72bは油室72aにおいて変位することができるため、ステアリングシャフト32bおよびステアリングホイール32も回転させることができる、即ち、ステアリングホイール32の固定が解除される。
ステアリングホイール32の付近の構造の説明を続けると、ステアリングシャフト32bの、油圧タンパ部72の配置位置の先の末端側(下方側)の付近には、図6に示す如く、前記したロータリエンコーダからなる回転角センサ34が配置される。ステアリングシャフト32bの回転はウォームギヤ(図示せず)を介して回転角センサ34に伝えられ、回転角センサ34はステアリングシャフト32b、換言すればステアリングホイール32の回転量に応じた出力を生じる。前に述べた如く、回転角センサ34の出力は、ECU22に送られる。
このように、この実施例にあっては、ステアリングホイール32の回転に応じて変位するベーン72bを備え、ベーン72bを変位させて作動油を流動させることでステアリングホイール32の回転にフリクションを与える油圧ダンパ機構72と、油圧ダンパ機構72のベーン72bによって区画される油室72a(具体的には、第1の油室72a1および第2の油室72a2)同士を連通して作動油を流動させる油路74と、および作動油の流動を遮断することでベーン72bを変位(移動)させないようにして固定し、よってステアリングホイール32を固定する油路遮断バルブ76とを備えるように構成したので、簡素な構成でありながら、エンジン18が動作していないとき、油路遮断バルブ76を操作するだけでステアリングホイール32を固定することができ、よってステアリングホイール32の回転角とシャフト部56の回動角において位相差が生じることがない。
また、油路遮断バルブ76は、作動油の流動を遮断するだけの構成であれば足りるため、取り付けスペースを増加させることがないと共に、ステアリングホイール32がどのような回転角にある場合であっても、ステアリングホイール32を固定、即ち、無段階にステアリングホイール32を固定することができる。
また、ステアリングホイール32の固定を、操船者の操作自在な油路遮断バルブ76によって行うように構成したので、操作者は容易にステアリングホイール32を固定することができる。
次いで、この発明の第2実施例に係る船外機の操舵装置について説明する。
図9は、第2実施例に係る船外機の操舵装置の構成を備えたステアリングホイール32のコラム部32aを示す、図6と同様な部分縦断面図であり、図10は、図9のX―X線拡大断面図である。尚、以下の説明において、第1実施例と共通の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
第2実施例に係る船外機の操舵装置にあっては、ステアリングホイール32の回転に与えられるフリクションを調整するための油圧ダンパユニット78の油路の途中に、前記した油路遮断バルブ76を配置するように構成した。
この明細書において、油圧ダンパユニット78とは、第1実施例の油圧ダンパ機構72の近傍に、油路を流動する作動油の流量を調整する可変オリフィス(可変流量調整弁)や、油路の圧力を調整する圧力調整弁(リリーフバルブ)(共に後述)などを配置し、一体的にユニット化したものを意味する。
図11は、その油圧ダンパユニット78を模式的に示す説明図である。
図9から図11、特に図11を参照して具体的に説明すると、油圧ダンパ機構72の第1の油室72a1の下方には油路80a(図9で図示せず)が、第2の油室72a2の下方には油路80bがそれぞれ接続される。油路80aの途中には第1の行き側逆止弁(ワンウェイバルブ)82a(図9で図示せず)が設けられると共に、油路80bの途中には第2の行き側逆止弁82bが設けられる。
油路80aおよび油路80bの端部(正確には、油路80aにおいて第1の油室72a1に接続される端部の反対側の端部と、油路80bにおいて第2の油室72a2に接続される端部の反対側の端部)は合流して油路80cに接続される。
油路80cの途中には、前記した可変オリフィス84が設けられると共に、油路80cは、油路80dと油路80eに分岐される。油路80dの途中には圧力調整弁86が設けられる。また、油路80dにおいて油路80cに接続される端部の反対側の端部は、油路80a(具体的には、油路80aにおける第1の行き側逆止弁80aと油路80bの合流点との間)に接続される。
尚、上記した可変オリフィス84は図示しないニードル弁および励磁コイルを備えると共に、ニードル弁は励磁コイルの励磁電流の大きさに応じて移動(開閉)させられる。これにより、可変オリフィス84の開度は自由に調整(設定)される。また、圧力調整弁86は、所定値以上の油圧が加わると、油路80dを開放(連通)するように構成される。
油路80eの途中には、図10および図11によく示すように、油路遮断バルブ76が設けられる。従って、油路80eは、油路遮断バルブ76によって開閉自在とされる。また油路80eは、油路80fと油路80gに分岐されると共に、油路80fは、油路80hと油路80iに再度分岐される。
油路80hは、アキュムレータ(蓄圧器)88が接続される一方、油路80iの途中には、第1の戻り側逆止弁90a(図9で共に図示せず)が設けられる。油路80iの端部(正確には、油路80iにおいて油路80fおよび油路80hに接続される端部の反対側の端部)は、第1の油室72a1であって、図9で上方に接続される。
油路80gの途中には、第2の戻り側逆止弁90bが設けられる。油路80gの端部(正確には、油路80gにおいて油路80eおよび油路80fに接続される端部の反対側の端部)は、第2の油室72a2であって、図9で上方に接続される。
次いで、上記の如く構成された油圧ダンパユニット78の動作について説明する。
ステアリングホイール32が、右回り(図6、図10および図11で実線の矢印Aの示す方向)に操舵される(回転する)と、それに伴ってステアリングシャフト32bおよびベーン72bも右回りに回転する。これにより油圧ダンパ機構72は、図11に実線の矢印で示す如く、第1の油室72a1に充填された作動油を油路80a方向に吐出する。
油圧ダンパ機構72から吐出された作動油は、油路80a、第1の行き側逆止弁82a、油路80c、可変オリフィス84、油路80e、油路遮断バルブ76、油路80g、第2の戻り側逆止弁90bを介して油圧ダンパ機構72の第2の油室72a2に供給される。このことから分かるように、第2実施例における油圧ダンパ機構72は、油圧ポンプと同様の役割も有する。
尚、第1の戻り側逆止弁90aには、上流側(具体的には、第1の油室72a1に接続される側)と下流側(具体的には、油路80fに接続される側)の両方から油圧がかかることとなるが、下流側からの油圧、即ち、可変オリフィス84を通過した油圧は、上流側の油圧に比して低下するため、作動油は、油路80f,80iを逆流することがなく、前述の如く流動する。
一方、ステアリングホイール32が左回り(図6、図10および図11で破線の矢印Bの示す方向)に操舵される(回転する)と、それに伴ってステアリングシャフト32bおよびベーン72bも左回りに回転する。これにより油圧ダンパ機構72は、図11に破線の矢印で示す如く、第2の油室72a2に充填された作動油を油路80b方向に吐出する。
油圧ダンパ機構72から吐出された作動油は、油路80b、第2の行き側逆止弁82b、油路80c、可変オリフィス84、油路80e、油路遮断バルブ76、油路80f,80i、第1の戻り側逆止弁90aを介して油圧ダンパ機構72の第1の油室72a1に供給される。
尚、第2の戻り側逆止弁90bには、上流側(具体的には、第2の油室72a2に接続される側)と下流側(具体的には、油路80eに接続される側)の両方から油圧がかかることとなるが、前記したように下流側からの油圧、即ち、可変オリフィス84を通過した油圧は、上流側の油圧に比して低下するため、作動油は、油路80gを逆流することがない。
このように、第2実施例にあっては、可変オリフィス84の開度を調整することで、油路80cを流動する作動油の流量を調整してステアリングホイール32の回転に与えられるフリクションを自由に調整することができる油圧ダンパユニット78を備える船外機の操舵装置において、油圧ダンパユニット78を構成する油路の途中、具体的には油路80eの途中に油路遮断バルブ76を備えるように構成したので、第1実施例と同様、簡素な構成でありながら、エンジン18が動作していないとき、油路遮断バルブ76を操作するだけで油路80eを閉鎖してベーン72bを固定し、よってステアリングホイール32を固定することができる。これにより、ステアリングホイール32の回転角とシャフト部56の回動角において、そもそも位相差が生じることがない。尚、図9および図10は、油路80eが閉鎖された状態を示す。
また、油路80eにあっては、ステアリングホイール32の回転に与えられるフリクションを調整する油圧ダンパユニット78と、ステアリングホイール32を固定するステアリングホイール固定手段(油路遮断バルブ76)とで共用されることとなり、よって部品点数を少なくすることができ、取り付けスペースを低減させることができる。
また、油圧ダンパユニット78は、所定値以上の油圧が加わると、油路80dを開放する圧力調整弁86を備えるように構成したので、いずれかの油路に供給される油圧が急激に上昇した場合であっても、油路80dを開放することで作動油の流量を増加させ、よってその油圧の上昇を緩和(低減)させることができる。
また、油圧ダンパユニット78は、アキュムレータ88を備えるように構成したので、ステアリングホイール32を固定した状態において、アキュムレータ88は、油圧源として各油路に油圧を供給し続けることができるため、ステアリングホイール32を固定した状態を長時間保持することができる。
尚、残余の効果は第1実施例と同様であるので、説明を省略する。
次いで、この発明の第3実施例に係る船外機の操舵装置について説明する。
図12は、第3実施例に係る船外機の操舵装置の構成を備えたステアリングホイール32のコラム部32aを示す、図6と同様な部分縦断面図であり、図13は、図12のXIII―XIII 線拡大断面図である。尚、以下において、第1および第2実施例と共通の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
第3実施例に係る船外機の操舵装置にあっては、キーユニット部66の配置場所を、第1実施例に比して下方に移動させると共に、図13によく示す如く、油路遮断バルブ76の回転軸76bを、第2実施例の操作部76cに代えてキーユニット部66に接続するように構成した。
具体的に説明すると、キーユニット部66は、油圧遮断バルブ76の付近に配置される。油路遮断バルブ76の回転軸76bは、キーユニット部66の内部に配置された係止機構(図示せず)を介してイグニション・キー68に係止される。これにより、回転軸76bおよびそれに接続される弁体76aは、イグニション・キー68の回転に応じて回転される。尚、油路遮断バルブ76(正確には、油路遮断バルブ76の弁体76a)は、イグニション・キー68がOFFポジションにあるとき、油路80eを閉鎖するように構成される一方、イグニション・キー68がOFFポジション以外にあるとき、油路80eを連通させるように構成される。
かかる構成により、キーユニット部66に差し込まれたイグニション・キー68が操船者によってOFFポジションまで回転させられる(操作する)と、エンジン18は、バッテリからの電源が供給されなくなり、エンジン18への燃料の供給や点火が終了して運転が停止すると共に、油圧ダンパユニット78の油路80eは、回転軸76bが回転して弁体76aによって遮断(閉鎖)される。即ち、キーユニット部66の操作に連動して油路遮断バルブ76が動作し、よって作動油の流動が遮断される。尚、図12および図13は、油路80eが閉鎖された状態を示す。
油路80eの作動油の流動が遮断されると、前述の如く、ベーン72bは油室72aにおいて変位(移動)することができなくなり、よってベーン72bに接続されたステアリングシャフト32bおよびステアリングホイール32が固定される。
その後、エンジン18を始動させる際などに、イグニション・キー68が操船者によってOFFポジション以外の位置まで回転させられると、エンジン18の始動などが実行されると共に、油圧ダンパユニット78の油路80eは、回転軸76bが回転して弁体76aによって連通されて作動油が流動する。従って、ベーン72bは油室72aにおいて変位することができ、よってステアリングホイール32の固定が解除される。
このように、第3実施例にあっては、油路遮断バルブ76は、キーユニット部66の操作に連動して作動油の流動を遮断するように構成したので、エンジン18の始動および停止という作業と、ステアリングホイール32の固定解除および固定という作業を、キーユニット部66を操作するだけで同時に行うことができ、船外機の操舵装置の操作性が向上する。
また、キーユニット部66の操作に連動してステアリングホイール32が固定されることから、操船者は、エンジン18を停止させたときにステアリングホイール32を固定する作業を忘れることがないと共に、さらには盗難防止の一助ともなる。
尚、残余の効果は第1および第2実施例と同様であるので、説明を省略する。
以上の如く、この発明の第1から第3実施例にあっては、船体(16)に配置されたステアリングホイール(32)の回転に応じて船外機(10)の操舵軸(シャフト部56)に接続されたアクチュエータ(操舵用油圧シリンダ44)を駆動して前記船外機を操舵する船外機の操舵装置において、前記ステアリングホイールに接続された可動部位(ベーン72b)を変位させて作動油を流動させることで前記ステアリングホイールの回転にフリクションを与える油圧ダンパ機構(72。第2、第3実施例では、油圧ダンパユニット78)と、前記油圧ダンパ機構の前記可動部位によって複数個に区画される油室(72a。具体的には第1の油室72a1、第2の油室72a2)同士を連通して前記作動油を流動させる油路(74。第2、第3実施例では、油路80a〜80i)と、および前記作動油の流動を遮断して前記可動部位を固定し、よって前記ステアリングホイールを固定するステアリングホイール固定手段(油路閉鎖バルブ76)とを備えるように構成した。
具体的には、船体16に配置されたステアリングホイール32の回転角を検出する回転角センサ34と、船外機10の操舵軸(シャフト部56)の回動角を検出する回動角センサ48とを備え、検出されたステアリングホイール32の回転角とシャフト部56の回動角の偏差が操舵角(船体16に対する船外機10の角度)において零になるように、船外機10の操舵軸に接続されたアクチュエータ(操舵用油圧シリンダ44)を駆動して船外機10を操舵する船外機の操舵装置において、ステアリングホイール32に接続された可動部位(ベーン72b)を変位させて作動油を流動させることでステアリングホイール32の回転にフリクションを与える油圧ダンパ機構72(第2、第3実施例では、油圧ダンパユニット78)と、油圧ダンパ機構72の可動部位によって2個に区画される油室72a同士、より具体的には第1の油室72a1と第2の油室72a2を連通して作動油を流動させる油路74(第2、第3実施例では、油路80a〜80i)と、および油路74(第2、第3実施例では、油路80e)を閉鎖することで作動油の流動を遮断して可動部位を固定し、よってステアリングホイール32を固定するステアリングホイール固定手段(油路閉鎖バルブ76)とを備えるように構成した。
また、この発明の第1および第2実施例にあっては、前記ステアリングホイール固定手段は、操船者の操作自在な油路遮断バルブ(76)からなるように構成した。
また、この発明の第3実施例にあっては、前記船外機(10)に配置された駆動源(エンジン18)を始動させるスイッチ(キーユニット部66)を備えると共に、前記ステアリングホイール固定手段(76)は、前記スイッチの操作に連動して前記作動油の流動を遮断するように構成した。
尚、上記において、電子ステアリング機構を備える操舵装置として船外機を例にとって説明したが、それに限られるものではなく、電子ステアリング機構を備えていればどのようなものでもよい。
また、油圧ダンパ機構72として、ベーン式のものを用いるように構成したが、ピストン式などの油圧ダンパ機構であってもよい。
また、プロペラ24の駆動源としてエンジン18を備える如く構成したが、エンジンと電動モータを備えたハイブリッド型の船外機であってもよい。
この発明の第1実施例に係る船外機の操舵装置を全体的に示す概略図である。
図1に示す操舵装置の部分説明側面図である。
図2に示すスイベルケース付近の拡大部分断面図である。
図1に示す船外機を右回りに最大転舵角まで転舵させたときのスイベルケース付近を上方から見た平面図である。
同様に、図1に示す船外機を左回りに最大転舵角まで転舵させたときのスイベルケース付近を上方から見た、図4と同様な平面図である。
図1に示すステアリングホイールのコラム部の構造を詳細に示す縦断面図である。
図6のVII―VII線拡大断面図である。
図6のVIII―VIII線拡大断面図である。
この発明の第2実施例に係る船外機の操舵装置の構成を備えたステアリングホイールのコラム部の構造を詳細に示す、図6と同様な部分縦断面図である。
図9のX―X線拡大断面図である。
図9に示す油圧ダンパユニットを模式的に示す説明図である。
この発明の第3実施例に係る船外機の操舵装置の構成を備えたステアリングホイールのコラム部の構造を詳細に示す、図6と同様な部分縦断面図である。
図12のXIII―XIII 線拡大断面図である。
符号の説明
10 船外機、16 船体、18 エンジン(駆動源。内燃機関)、32 ステアリングホイール、44 操舵用油圧シリンダ(アクチュエータ)、56 シャフト部(操舵軸)、66 キーユニット部(スイッチ)、72 油圧ダンパ機構、72a 油室、72a1 第1の油室(油室)、72a2 第2の油室(油室)、72b ベーン(可動部位)、74 油路、76 油路閉鎖バルブ(ステアリングホイール固定手段)、78 油圧ダンパユニット、80a〜80i 油路